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基礎物理実験テキスト - 研究内容
平成 28 年度 秋田大学 基礎物理学実験担当者会議 基礎物理学実験 自然科学(物理学,化学,生物学,· · · )における実験や観察などでは,それぞれの分野で特有 の手法や考え方がある。 物理学は,自然科学の中でも「総論の学問」といわれるように,どちらかというと多くの対象 のなかに共通なものを探し出し,その中から,法則性(規則性)を見つけようとするものである。 もちろん偉大な物理学者の深い洞察力によって新しい法則がポンと見つかったようにみえるケー スもある。ただし,物理学における法則や原理は単なる仮定(仮説)ではなく,自然界に確かに 存在しているという事が実証されなくてはならない。物理では,この実証という事を優先するの で,法則等の理論的根拠が数学ほど厳密かつ明確でない場合がある。我々は,理論的に考察され た法則(仮説の場合もある)などの実証や,自然界の未知の分野の探求の一つの手段として, 「観 察」や「実験」などを「物理量」(例えば,長さ,質量など)を用いて行う。つまり, 「物理量」を 用いて自然界を表現するのである。 この時,もし必要ならば,今まで用いられてきた「物理量」以外に,適当な「物理量」を我々自 身が作り出すこともあるし,また今まで使っていた「物理量」でも不適当なものは姿を消す。そ れゆえに, 「観察」や「実験」においても自分の必要な「物理量」をきちんと認識しなければなら ない。そうしたことを踏まえて, 「実験」をもう少しきちんと定義するならば,次のように言える であろう。 「実験」とは,研究対象物の環境条件を研究者自身が意識的に作りかつ制御し,その環境の下 で「物理量」を測定し,研究対象物のありさまを調べることである。それゆえ,自然環境の中で の単なる観察とは少々趣を異にする。一般に基礎的な実験では,特に 2 つの物理量 A と B にだけ 注目して,A と B との関係を調べる事が多い。これは,一度に多くの変化量を取り扱うと環境の 制御が非常に難しくなるからである。 つまり,物理学実験では,自分は今どのような「物理量」を測定しているのか,その「物理量」 を測ることによってどういう知見が得られるのか,その測定結果がどういう現象を示しているの か,などを考えながら行うことが重要である。 1 基礎物理学実験における目的 I. 1. 物理学における基本的な法則や現象を,実験によって体験し,理解を深める。 2. 器具や測定装置を実際に操作し,基本的な「物理量」の測定方法を体験する。 3. 測定データの整理,グラフの作成,データ処理などの基本的手法を身につける。 4. 実験報告書(レポート)の作成に慣れる。 II. 実験における注意事項 1. 基礎物理学実験指導書(本テキスト),実験ノート及びグラフ用紙(A4 判),定規(30 cm 程度が望ましい),関数電卓を必ず用意すること。ノートは必ず一冊に綴じたものをつかう こと。また,追加の配布物(プリントなど)があれば,必ずファイルに綴じ,あるいはノー トに貼り付け,必要に応じて読み返すこと。 2. あらかじめテキストをよく読み,実験の目的,原理,方法を十分に理解し,予習レポートと してこれらの項目を A4 判レポート用紙にまとめておくこと(実験開始時にチェックします)。 なお,予習レポートは後日提出するレポートの一部として提出することになる。 3. しゃがんだり台に上がったりする動作等があるので,支障のない服装,実験にふさわしい服 装をする。サンダル・クロックス等,足が十分に保護されず,脱げやすい履物は禁止。アク セサリーやチェーン等,実験器具を傷つけたり,引っかけたりする恐れのあるものは身につ けない。実験中は,私語を慎み,無断で席を離れてはならない。 4. 実験装置類の使用においては,指導担当者の指示に従い,実験中の安全管理には十分に注意 すること。また,装置類には,担当者の許可なく無意味に手を触れぬこと(装置の破壊,事 故の元である)。 5. 本実験に入る前に大まかな予備実験を行うとよい。 i) 装置の稼働範囲,あるいは測定範囲はどこからどこまでか。 ii) 全てが順調に働くか(メータは正しく動作するか,校正されているか,など)。 iii) 装置の配置や手順等は実験のしやすいようになっているか。 6. 測定データ,引用したデータ,計算,その他気付いた事など全てを実験ノートに記入するこ と。測定前にデータ表の枠を作っておく,など記入においてはわかりやすい工夫をすること。 なお,記入ミスは横線や × 印で消し,消しゴムは使わない方がよい。 7. 測定デ−タは実験(測定)と並行しながら処理すること。グラフを併用したり,簡単な計算 はすぐ行うこと。これによって,測定ミス等はその場で発見できる(全ての実験が終ってか らの訂正は大変である)。なお,作成したグラフもノートに貼っておくこと。 8. 結果については, 「理科年表」や「定数表」などで公称値を調べ,比較してみよう。また,そ れらとの違いについて考えてみること(実験結果に対して考察を加える)。 9. 実験が終了したら,指導担当者の確認を受け,全ての使用器具,装置等を元の状態に整頓 する。 10. 実験の開始時刻は 12 時 50 分である。 2 III. 実験報告書の書き方 実験報告書(レポート)は以下の要領に従って,明瞭かつ清楚に完全を期して作成する。5W1H (When, Where, Who, What, Why, How)をきちんと書き表すこと。 (1) 用紙は A4 判のレポート用紙とし,左上一カ所をホッチキスで綴じる。 (2) 自筆,手書きを原則とする。 (3) 表紙は所定の用紙を用いる。 1 第 ⃝ 週実験分( 月 日提出) 2 組,班,報告者氏名 ⃝ 3 実験番号(No.),実験題目 ⃝ 4 実験日時 ⃝ 5 天候,気温 ⃝ 6 実験共同者名 ⃝ 7 概要 : 実験報告のまとめを書く。文字数は 150∼250 字が望ましい。 ⃝ どういう実験を,どういう方法で行い,どういう結果(結果の値,現象,など)が得ら れたのか。その結果,何がわかったのか。これらを簡潔にまとめる。 (4) 報告書の記載項目は以下とする。 1. 目的 : 「何を測定してどのような関係を調べるか。」 を明確にする。 2. 原理 : 目的・実験内容に沿った原理をまとめる。 3. 実験方法 : 実験の手順,使用した実験装置などをまとめる。 ••• 上記 1, 2, 3 の項目については実験前に作成すること ••• 4. 結果 : 測定データ,計算結果など実験によって得られた全ての結果を,表や図(グラ フ)などを用いてわかりやすくまとめる。 ※ 結果の整理では,表やグラフをただ並べるのではなく,説明を加えること。 ※ 計算結果については,どの値がどこから出てきたのか分かるように計算過程もはっ きりと示すこと。また,実験の精度に応じた数値を求めるべきであり,必要以上の桁数 は無意味である(有効数字に従うこと)。計算過程で引用した物理定数などは,出典を 明記すること。 ※ 報告書として提出する図表については,定規等を用いて清書すること(実験中に描 いたグラフをそのまま報告書に使用しないこと)。 5. 考察 : 実験結果についての考察を各自の言葉で書く。 データの信頼性,即ち実験の精度はどのくらいか ? 定数表等の値と比較して,どうなのか ? 自分の得た結果は,理論値や物理 得られた結果からどういう結論が導かれるの か ? など,この実験からわかること(この実験の解釈)をまとめる。その他,実験方 法や装置へのアイデアなどがあれば,これも考察として含める。 3 ※ 専門書などから理論値,物理定数などを引用したときは,その出典を明記すること。 実験を行っての反省や感想は考察ではない! 6. 検討課題:課題に対する各自の解答,考えを書く。 (5) 目的,原理,実験方法については,丸写しをせずに,よく理解した上で要領よくまとめて, 各自の言葉で書くこと。なお,実験装置類は実験時に確認し,実験後に書き加える方がよい。 (6) 「事実」と「意見」の区別について 「測定値はいくらになった」とか「フックの法則は次式で示される」など, 「事実」は断定し てよい。一方, 「測定途中で装置を揺らしてしまったことが誤差を大きくした原因と思われ る」, 「実験中に室温が変化したために二度目の測定値の方が大きくなったと思う」など,自 分が考えたり推測したりしたこと(「意見」) は,断定せずに,それが「意見」だとわかるよ うに, 「・ ・ ・と(私は)考える」, 「・ ・ ・と(私は)思う」などと書く。 (7) 参考書などの文章を引用したときは 参考書(専門書など),学術論文などの文献から文章を引用する場合は,著作権法の規定によ り,公正な慣行に従うことが求められる。引用箇所がわかるようにし,その出所,出典(著 者:“書名”,ページ,出版社,出版年,など)を下記の例のように明記すること。インター ネット上の情報については,出典が明らかなものを参考にすること。 例1:[1] 秋田大郎,物理 学:“基礎物理学実験指導書”,pp.4-8,秋大出版 (2010). 例2:[2] 光 電子:“物理学に関する実験的研究”,秋大論文誌,Vol.1,No.4,pp.101-106 (2010). 例3:[3] “物理学実験について”,秋田大学 物実研究室(http://buturi-jikken.akita-u.ac.jp/). (8) 必要とされる記載事項(表紙を含む)に欠落がある報告書や,考察,課題などの内容が他の 報告書と同一と認められる報告書は受け付けない。 IV. 測定値の取扱い方 1. 有効数字 測定値(観測値)は人間が求めたものであるから必ず誤差を含んだ値になっている(と考える べきものであろう)。実験の目的の 1 つは,この測定値を用い,実験対象について最も真に近い値 を捜し出すことである。そのためにこの測定値がどの程度信頼できるのか,数字のどの桁まで確 実なのかを知っておかねばならない。物理的に意味のない(信用のできない)数字は必要ないの である。そして,測定値や実験値のうち我々が信用でき,かつ有効と認める事のできる値(数字 の列)を有効数字という。 (ex.1) W4 = 5.627 g : 5.62 の桁までは信用できるが,最後の桁の 7 の数字には誤差が含まれて いる(もう 1 つ下位の桁の値を 4 捨 5 入した結果が 7)という主張(有効数字 4 桁) 4 W5 = 5.6270 g : 5.627 の桁までは信用できるが,最後の桁の 0 の数字には誤差が含まれて いる(もう 1 つ下位の桁の値を 4 捨 5 入した結果が 0)という主張(有効数字 5 桁) ※ W4 と W5 は,同じではない。2 つをくらべたとき,W5 の方が精度のよい実験を行ったこ とになる(“0” を無意味に削除してはならない)。 (ex.2) 5.5 cm と 55.0 mm の違い : 測定値が 5.5 cm とは,1 cm の精度の物指しで測定して 5.5 cm を得たという意味である。一方,55.0 mm とは,1 mm の精度の物指しで測定して 55.0 mm を得たという意味である。したがって,後者が精度の高い測定をしたことになる(有効数字 2 桁と 3 桁の違い)。 実験の測定値など,物理量のオーダー(桁数)を一目でわかりやすく伝えることが重要な場合 には,SI 接頭語 (m(ミリ),k(キロ)など) を利用しながら 3 桁か 4 桁以内の数値で 200 GPa や 29.5 mm などと表記するのが一般的である。但し,200 GPa のように 0 の桁が続くと有効桁が不明 確になるので,特に物理量の有効数字を明確に示したい場合は,2.00 × 102 GPa や 2.95 × 10−3 m のように □.□□□ × 10□□ の形で表すこともある。一方,□.□□□ × 10□□ のような表記は、直感 的な大きさの感覚と結びつきにくいので,29.5 mm と測定した長さを 1 桁間違って 2.95 × 10−3 m のように書いてしまっても,一目で間違いに気づきにくいという難点もある。実験の測定値にど ちらの表記を用いるのが適切かは,各実験の担当者の指示に従いながら各自で判断すること。 四則演算が入ったときの有効数字は次の例で考えてみよう。 積 (商) の有効数字: 有効数字の桁数が小さい方の桁数になる。 2 桁 × 3 桁 → 2 桁, 3 桁 ÷ 4 桁 → 3 桁 (ex.3) S = a × b で a = 1.9 × 10,b = 6.5 × 10 の場合 S = 1.9 × 10 × 6.5 × 10 = 1.9 × 6.5 × 102 (= 1.2 × 103 ) 上の計算の 1.9 × 6.5 の部分を右の例のように行う。a の 9,b の 5 は誤差を含んだ数字である。それ故○印のついた数字も誤差の 含まれている数字と考えてよい。その結果,12.35 のうち信用で きる数字は 1 だけであり,大目に見ても 1 と 2 までである。つま り,有効数字はたかだか 2 桁である。したがって,S = 1.2 × 103 とすべきである。 × 1⃝ 1 ⃝ 1 2. 1. 6. ⃝ 9 ⃝ 4 ⃝ 3 ⃝ 9 ⃝ 5 ⃝ 5 ⃝ 5 (ex.4) 円柱の直径を 2 回測定して d1 = 24.5 mm,d2 = 24.2 mm だったときの平均直径 d¯ d1 + d2 24.5 + 24.2 48.7 d¯ = = = = 24./34 /5 = 2.44 × 10 mm 2 2 2 ※平均を求めるときに割った 2 は有効数字 1 桁ではない。計算の過程で必要となる個数や測定回 √ 数,定数(2, 2, π など)は誤差を含まず有効数字が無限桁であると考えて計算する。 和 (差) の有効数字: 桁数を揃え,有効数字として最も適当な部分を選ぶ。 5 (ex.5) 9.6⃝ 3 + 11.⃝ 2 9. 6 ⃝ 3 +11. ⃝ 2 20. ⃝ 8⃝ 3 → 2.08 × 10 有効数字の桁落ち: 2 つ(以上)の測定値の差をとる時は,有効桁数が測定値の有効桁数より小 さくなる場合があるので注意が必要である。 (ex.6) 32.19 − 30.06 = 2.13 32.19 と 30.06 は有効数字 4 桁であるが,差の 2.13 は 3 桁であり,1 桁小さくなっている。 (ex.7) 32.19 − 32.16 = 0.03 この場合は 4 桁 → 1 桁になっている。 途中の計算における有効数字の扱い (ex.8) ある物体の体積を 3 回測定した結果,2.01 cm3 , 1.99 cm3 , 1.98 cm3 となった。体積の平 均値は,V =1.99333 · · · となるので,有効数字を 3 桁として V =1.99 cm3 である。この物体 の密度が 3.00 g/cm3 であるとき,この物体の質量は m = 1.99 × 3.00 = 5.97 g と計算され る。しかし,3 回の測定値の平均を求める式を含めて,一つの式で計算すれば, m= 2.01 + 1.99 + 1.98 × 3.00 = 5.98 g 3 である。つまり,複数の測定値からある物理量を計算するときに,その計算途中で現れる別 の物理量を最小の有効桁数にそろえてしまうと,精度が落ちてしまうことになる。 物理量としては,上記例の体積 V =1.99 cm3 のように,有効桁までを書く。しかし,この物理 量を用いて他の値(物理量)を計算するときは,有効桁よりも 1 桁以上多い値,上記例であれば 1.993,あるいは使えるすべての桁 1.99333333(電卓やコンピュータで計算する場合),を使って 計算する。そして,最終的な計算結果において,有効桁数に合わせる。 したがって,実験ノートや報告書には,その物理量を使って他の物理量を計算するための有効 桁よりも 1 桁以上多い値と,4 捨 5 入して有効桁にした物理量の値を併記しておくこと。 2. 実験誤差と実験精度 実験には常に誤差がつきまとう。この誤差を処理しないで結果を論ずることはできない。そこ で,それらについての簡単な取扱いを見ておこう。 絶対誤差 · · · 誤差の値そのものを考える必要のある時に使われる。 絶対誤差 Ei = 測定値 (xi ) − 公称値 (X) 相対誤差 · · · 公称値に対する絶対誤差の比 相対誤差 = |測定値 − 公称値| |Ei | |xi − X| = = 公称値 X X 6 (100 をかけて%で表示してもよい) ∆x 1 1 また,測定値(xi )につきまとう誤差の最大値を ∆x とするとき,比 , 100 (一般に, 10 X などで表示する)で実測値の「精度をあらわす目安」とする場合が多い。この相対誤差を用いて, 自分たちの実験精度を考えたり,自分たちの測定値の妥当性を論じたり,誤差の原因等について 論ずればよい。ただし,真値はほとんどの場合わからないので,数表の値や他人の求めた値に対 する相対誤差で自分達の結果を評価してもよい。 (ex.9) 長さが 15.00 cm と測定された時の測定に於ける精度 : 15.00 cm というのは,一般に四捨五入の考え方を使うので 14.995 cm 以上 15.005 cm 未満 の値を示していると考えてよい(真の値がこの間に含まれていると考えてよい)。これから, 誤差の最大値は 0.01 cm と考えてよいだろう。 0.01 = 1 = 0.00066̇ ≃ 0.0007 = 0.07 % と考えてよい。 したがって,精度は 15.00 1500 (ex.10) 我々の測定値が例えば g = 9.823 m/s2 であり,一方,他のもっと精度のよい測定方法 による値(または理論値)が g = 9.80176 m/s2[秋田における g ]であると分かっていると き,この値に対する我々の実験値の相対誤差は,次のように求められる。 相対誤差 = |9.823 − 9.80176| 0.021∗ = = 0.0021∗∗ = 0.21 % 9.80176 9.80176 3. 偶然誤差と平均値の確度 測定においては,どのような方法,器具を使用しても毎回測定するたびに少しずつ異なる値が 得られる。測定値の真値からのずれを誤差と呼ぶが,この誤差はさらに原因によって系統誤差と 偶然誤差に分類される。系統誤差には, (A) 理論誤差:使用する理論の近似による誤差 (B) 器械誤差:測定器の目盛の狂いなどによる誤差 (C) 個人誤差:個人の読み取りのクセなどに起因する誤差 などがある。例えば,測定器の目盛の間隔が正しい長さよりも長い場合には,測定値がいつも小 さくなってしまう誤差を与える。系統誤差は,真値から偏ってずれた測定値を与えるため多数回 測定して平均しても取り除くことはできないが,実験の方法などを注意深く見直すことで小さく, あるいは取り除くことができるものである。これらの他に,実験をする者が支配できない誤差が 現れるが,これを偶然誤差と呼び,通常誤差としては偶然誤差のことを指す。この誤差には,次 のような性質があるものとする(誤差の公理)。 • 絶対値が等しく,符号の異なる誤差は起こる確率が等しい • 絶対値の小さな誤差の起こる確率は,大きな誤差の起こる確率より大きい • 非常に大きな値の誤差は事実上起きない ∗ 9.823 と 9.80176 の桁数をそろえると小数点以下 3 位の値まで有効である。したがって,9.80176 → 9.802 と考え ると,9.823 − 9.802 = 0.021。 ∗∗ 商は 0.00214· · · であるが,0.021 の有効数字は 2 桁,9.80176 は 6 桁であり,2 桁を 6 桁で割ったときの有効数字 は 2 桁であるから 0.0021(= 2.1 × 10−3 )となる。 7 ある物理量を多数回測定すると,ある範囲内に散らばった測定値が得られる。この測定値を適 当に a1 ∼ a2 ,a2 ∼ a3 ,· · · の各区間に分類し,各区間を横軸に,1 つの区間内に現れる測定値の 頻度を縦軸にとってグラフにすると図 1(a) が得られる。このような図を度数分布図,あるいはヒ ストグラムと呼ぶ。誤差の公理からわかるように,このグラフはほぼ左右対称で,中央から十分 離れた所の頻度は 0 になっている。測定回数を増やして,区間の幅を狭めていくとグラフは次第に 滑らかになり,図 1(b) のような曲線に近づいていく。真値 X を知ることは不可能であるが,後に 示すように,測定回数が十分に大きければ,この曲線の最大値に対する横軸の値,つまり平均値 が,真値 X のもっとも確からしい値と考えてよい。曲線と横軸が囲む全面積が 1 になるように縦 ∫ x+dx f (x)dx は測定値 軸を定数倍した量を f (x) ととると(規格化という),図中の灰色の面積 x が x と x + dx の間にある確率を表すので,f (x) は確率密度と呼ばれる量になる。この曲線 f (x) は,正規分布あるいはガウス分布と呼ばれ,具体的には次のように表される。 { 1 (x − µ)2 f (x) = √ exp − 2σ 2 2πσ } ここで,µ は平均値,σ 2 は分散である。統計学において,σ は標準偏差と呼ばれる量に対応する。 また,µ ± σ は変曲点の x 座標を表しているので,σ が小さいと曲線は幅の狭いとがった形になり, ばらつきが小さく信頼性の高い測定に対応する。逆に,σ が大きいと幅が広くて低い形となり,ば らつきが大きく信頼性の低い測定に対応する。この関数を µ − σ から µ + σ まで積分すると約 0.68 となる。これは 1 回測定したときに,その値 xi が平均値 µ ± σ の範囲内に入る確率が約 68%であ るということを意味している。逆に考えると,1 回測定したある測定値 xi ± σ の範囲に真値 X が 存在する確率が約 68%とも言える。ちなみに,µ ± 2σ の範囲内に入る確率は約 95%,µ ± 3σ の範 囲内に入る確率は 99.7%以上であるため,平均値から 3σ 以上ずれた値に真値があることはほとん どないと考えてよい。 いま,n 回の測定を行い,測定値 xi(i = 1, 2, · · · , n)を得たとする。それぞれの誤差 Ei は,真 値を X として,Ei = xi − X(i = 1, 2, · · · , n)である。全測定について誤差 Ei の総和をとると, n ∑ Ei = i=1 n ∑ n ∑ i=1 i=1 (xi − X) = xi − n ∑ i=1 確率密度 f (x) 頻度 図1 n ∑ xi − nX i=1 平均値 = µ 分散 = σ2 真の値 X dx x 0 a1 a2 a3 ・・・ 測定値 (a) 度数分布図 X= µ−σ µ µ+σ 測定値 (b) 正規分布図 測定値の度数分布図 (a) と正規分布 (b) 8 と求められる。ここで,Ei は誤差の公理から正・負をとる確率が互いに等しいので,測定回数 n の数が大きくなると n ∑ Ei → 0 と考えてよい。よって, i=1 n ∑ xi − nX = ∑ ∑ xi n xi − nX = 0 より X = i=1 ∑ xi n と等しい。つまり,直接測定においては何回 も測定を繰り返すと,その測定値の平均値 X が真値 X に対して最も確からしい値になることを示 と求まる。これは n 個の測定値の平均値 X = n ∑ している。以後の説明では,上記のように, を省略した形,単に ∑ で表すこととする。 i=1 さて,測定値がこの平均からどの程度ばらついているかを表すにはどうしたらよいであろうか。 誤差は全体を平均すれば零になるので,平均的な意味での誤差の大きさの目安とはしにくい。そ こで,誤差の 2 乗平均平方根をとってばらつきの大きさの目安とする。これは測定値の平均 2 乗 誤差と呼ばれ,次式で定義される。 √∑ Ei2 = n 平均 2 乗誤差: σn = √∑ (xi − X)2 n これは,測定回数が十分に大きければ,さきほどの正規分布の σ と一致する量である。通常の実 験では,n の値はせいぜい 10 程度であり,実際には真値を知ることは不可能であるので,この式 は使えない。そこで,真値の代わりに平均値を用いて,測定値との差をとった次式で定義される 偏差を求める。 偏差: εi = xi − X この偏差を用いると,測定値の平均 2 乗偏差(不偏平均 2 乗偏差)は次式のように定義される∗ 。 √∑ 平均 2 乗偏差:sn = ε2i = n−1 √∑ (xi − X)2 n−1 各 1 回の測定値のばらつきの目安は平均 2 乗偏差 sn であるが,平均値のばらつきの目安はどう 表せるだろうか。いま,図 1 のような分布をもつ測定値の集団があったとし,その中から任意の 4 個の測定値を取り出してその平均値を計算したとする。これは,同じ測定を 4 回行って測定値の 平均を求めたことに対応する。この操作を繰り返して行えば,異なった「4 測定平均値」がいくつ もでてくる。これは当然もとの測定値の集団よりもばらつきが小さくなり,標準偏差はもとの集 √ 団の標準偏差の 1/ 4,すなわち 1/2 になるという法則がある。つまり,n 回の測定の平均値の分 √ 布は,σ/ n を標準偏差とする分布となる。そこで,n 個の測定値の平均値の標準誤差として,次 式で定義する量(不偏標準誤差)を用いる。 √ sn 平均値の標準誤差: σ ′ = √ = n ∑ ε2i = n(n − 1) √∑ (xi − X)2 n(n − 1) 通常,測定結果は平均値と標準誤差を使って,次式で表される。 測定結果 = 平均値 ± 標準誤差 = X ± σ ′ ∗ 2 sn は不偏分散とも呼ばれる。測定回数 n が大きくなると,sn は標準偏差 σ と等しくなる。 9 これは,測定をして平均値を求めたときに,その平均値 X が真値 X ± σ ′ の範囲内に入る,ある いは平均値 X ± σ ′ の範囲に真値 X が存在する確率が約 68%ということを意味している。 4. 実験デ−タを取るときの注意 1) 測定データはあとで見易いようにノートに記入する。あらかじめ表を作っておき,そこに記 入していくとよいだろう。 2) 誤差を少なくするように工夫しながら実験を行うこと。 • 測定器の尺度は適正か · · · 1 cm の値を求めるのに 1 m 単位のものさしは不適である。 • 視差による誤差 · · · 常に目の高さで読む。 3) 測定装置の感度や精度以上の数値は無意味である(最小目盛の 1/10 まで読み取る)。 • 有効数字に注意する。必要以上の数字の羅列は意味がないので注意すること。また,測定 値の最後の “0” を省略しないこと。例えば,25.10 mm など。 4) 変化が大きい個所は,できるだけ多くのデータを取ること。 • 図 2 は同じ実験を行った結果をグラフに表した例である。(a) は粗い間隔で測定した例で あり,(b) は (a) より細かい間隔で測定した例である。このように,実験精度によって誤った 結果を導く危険があるので注意すること(明らかに (a) は測定データの不足である)。この ようなことを避ける一つの方法は,グラフを描きながら測定することであろう。 (a) 図2 (b) 粗い間隔で測定した結果 (a) と細かい間隔で測定した結果 (b) の例 5) 誤差がいくらであるかを検討する(考察の一つになる)。 5. グラフを描くときの注意 1) 実験目的や解析に適したグラフ用紙を用いる(図 3 を参照)。測定データができるだけ直線 的にプロットされるグラフを用いると見やすい。 2) タイトルをつける(何と何の関係を表したグラフであるかがわかるようにつける)。レポー ト(報告書)を作成するときには,キャプション(図の説明)を図の下に書く。 10 y=alogx+b logy=alogx+logb y=bx a x y y y y=ax+b x (b) 片対数(Semi-log) (a) 方眼目盛 図3 x (c) 両対数(log-log) グラフ用紙とその使用例 3) できるだけ用紙全体を使うようにする。グラフ用紙の隅を必ずしも使う必要は無い。見やす い位置に見やすいように描くことが重要である。 目盛は,読みやすい目盛をふること。目盛の間隔を 3 cm でとるのは非常に読み難いので, やらないこと! 4) 一般にグラフは計画的に変化させる量(独立変数)を横軸に,測定される量(従属変数)を 縦軸にとる。 5) 縦軸,横軸それぞれに軸の名称(物理量の名前)と単位を付ける。例えば,電圧 [V],など。 6) 変化が大きく重要と思われる部分では, 「4. 実験デ−タを取るときの注意」で述べたように, 測定点を多くしてプロットする点を多くするとよい。グラフを描き終ったら,そのグラフか ら何がわかるのかを検討する。 7) 測定点をグラフにプロットし,それらを線で結ぶとき,以下の点に注意すること。 図 4 の (a) では測定点を折れ線で結んでいるが,いつでも折れ線で結べば良いというもので はない。本来,滑らかに変化すべき量であれば,(b) の曲線で示すように滑らかに結ぶべき である。また,誤差のためにばらつきがみられるのであれば,それを考慮し,誤差範囲がわ かっているときは,誤差棒としてグラフ上に示すべきである。 (a) 作成例1 (b) 作成例2 図4 グラフの作成例 参考文献 [1] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [2] J.R. Taylor(林茂雄,馬場凉訳) :“計測における誤差解析入門”,東京化学同人 (2000). [3] N.C. Barford(酒井英行訳) :“実験精度と誤差 —測定の確からしさとは何か”,丸善 (1997). 11 実験レポート例 バラバラにならないようにレポートの 毎回,すべて記入 左上隅をホッチキスでとめること。 すること。特に実 験事項を忘れない こと。再提出では F 最初に出した日で 00 物理 太郎 7510000 1 10 はなく再提出した 日付を書くこと。 18 0 第何週かは実験スケ 考察に必要となる 重力加速度の測定 ジュール表の上の欄 小物体を落下させて落下時間から重力加速度を求める ことがあるので, の回の数字を確認し 10 実験室の温度計と て書くこと。 11 12:50 曇 実験 一郎 15:30 気圧計を毎回小数 22.4°C 1022.1 hPa 第1位まで読み取 ること。 実験目的と 実験方法の 要約。 実験結果の要約。 実験室における重力加速度 g を求める目的で,小 物体を高さ h の位置より落下させ,地面に着くまで の時間 t を測定する実験を行った。 高さ h = 1.700 m よりボールを落とし,落下時間 t を 10 回計測したところ,平均 0.61 s であった。こ こから重力加速度 g を求めると,g = 9.0 ± 0.2 m/s2 で,秋田の重力加速度の公称値との相対誤差は 8% であった。この誤差の原因としては,落下時間の測 定誤差が主であると考えられ,落下時間を精度よく 測定する工夫が必要であることが分かった。 概要は 300 文字程度でレポートの内容(目的,実験方法, 結果,考察)すべてを過不足なく要領よくまとめて書く。 長い文章でだらだら書いたものは概要とは言えない。 重要 な 測定 結果 は数 値 で単 位と 誤差 も 含め て必 ず概要中に書く。 考察の要約。 レポートの綴じ方 ・表紙 ・ (古い表紙) 1.目的 かといって,短くしすぎて結論となる重要な測定結果が抜 2.原理 けてはならない。 3.実験方法 4.結果 再提出時にはホッチキスを外して,書きなおした部分を入れ 5.考察 ・参考文献 替え,古いレポート用紙は一番後ろに移動して綴じ直すこと。 ・別紙となるグラフ用紙 表紙は新しい表紙を古い表紙の上に追加して綴じること。 ・ (古いレポート用紙) 0-1 の順番で綴じること。[( )は再提出時] 実験テーマのタイトルを 番号とともに必ず書く。 目的は, 実験 項目ごとに番号 で何をす るの をつけて見出し かが分か るよ を書く。 うに簡潔 に書 く。 実験に用いる 原理的な説明 を必要最小限 数式には式 書く。テキスト 番号をふっ の丸写しをす ておくと本 るのではなく, 文で参照し 予習としてテ やすい。 キストや参考 文献を読んで 原理を勉強し つつ,自分なり にまとめて書 わかりやすくするために くこと。 適宜,図などを挿入して もいい。 実験方法には実験で 図は図番号とともに図の説明文 用いる装置について (キャプションという)を入れる。 も書く。 実験方法は手 順に番号をふ ここまでは実験を始めるまで に予習として書いておくこと。 って箇条書き にすると見や すい。 ページ番号をふっておく。 0-2 測定結果は ただ数値を 羅列するの 結果は書きなおすことが多い ので予習で書いた分とは必ず ページを変えて書くこと。 ではなく, 測定結果は表などでまとめて 分かりやすくなるように工夫 する。 文章で説明 をしながら 数 値 を 書 表も表番号を く。 図番号とは独 立にふって説 明文をいれる。 測定値を使 って結果を 出すときに 使用した式 など計算の 過程も書く。 結果を整理し グラフにした てグラフにし 結果を参照し た場合はそれ ながら,デー を説明する。 タについて説 グラフ中に直 明する。 線を引いたり した場合はそ れが何を表し ているのか説 明する。 この例ではグラ フをレポート本 文中に入れてい るが, 実際は 実験中にグラフ 用紙で作成した グラフを別紙と してレポートの グラフには横軸,縦軸を線で書き,軸の名前と 最後に綴じる。 単位を入れる。また,軸には目盛りをうち,測 ただし,グラフ 定点は点ではなく×印や+印などで表す。測定 用紙にも図番号 値がなるべくグラフいっぱいに分布するよう と説明文を書い に軸の値の範囲を調整する。 0-3 ておくこと。 考察は書きなおすことが多い ので必ず結果とページを変え て書くこと。 考察では実験で得た数値について吟味し,誤差の要因や, 実験結果から何が言えるかを客観的に述べる。 考察はレポートで最も重要な項目である。ここに示した ものは一例であり,実験項目によって当然書くべきこと は異なるので無批判に形式だけを真似ないこと。 公称値がわか っているなら 実験結果と比 べて誤差を評 価する。また, 実験値に生じ 誤差の要因に た誤差が妥当 ついて,例え なのかどうか ば偶然誤差と について考察 系統誤差に切 する。 り分けて考え る。このとき 数値で(定量 誤差の要因に 的に)議論す ついて考えら る。 れることを可 能な限り全て 検討する。 このとき,根 拠のない推量 を述べるので 結果をまとめ はなく科学的 る時だけに表 に考えて定量 や図等を作る 的に記述す のではなく,考 る。 察の過程で必 要となれば適 宜,表や図など を入れて分か りやすくし,定 量的に根拠を 実験原理として使用している理論には多くの場合, 示す。 単純化するために近似が使われている。その近似が 結果に与える影響も検討してみるとよい。 0-4 検討した原因による誤差がどの程度になるのか,実際に 行った実験条件を使って具体的に計算して見積もる。 文献から引用 した場合は,最 後の参考文献 の項目で文献 の詳細を番号 付して列記し, その文献番号 を [2] の よ う 実験結果を検 に引用した箇 討した結果, 所に示す。 結論として何 が言えるかを 必ず述べる。 必要であれば, 考察で最も重 文献を調べて, 要な部分であ 理論的に根拠 る。 を示しながら 実験結果を議 論する。 考察において はテキストの 参考文献に列 記した図書の 実験を改善 他,高校物理の する(より正 教科書も大い 確に測定す に参考となる る方法)ため ので調べてみ のアイディ るとよい。 アや,他の方 法などを調 べて述べて もよい。 インターネット上の情報は誤ったものが多く,初学者はそ 考察を書くのに参考にした文献についての 情報を著者,本のタイトル,ページ番号,出 版社(出版年)という形式を守って書く。 の真偽を判断できないので,参考文献にインターネット上 の web ページの URL を書くことは認めない。 調べものをする時のとっかかりにインターネットを使用 するのは構わないが,最終的には必ず文献をあたること。 0-5 目 次 1 物質の密度 2 ヤング率の測定 3 音速の測定 4 等電位線 5 電球の抵抗 6 水の比熱 7 オシロスコープ I 8 オシロスコープ II 9 光のスペクトル分析 付録 1 物質の密度 1. 目的 ドーナツ盤状の金属板の外径,内径,厚さ,質量を測定し,金属板の密度を求める。また,実 験を通してノギスとマイクロメータの使用法および副尺の原理,測定精度とデータの有効数字に ついて学ぶ。 2. 原理 物質の特徴はいろいろな物理量を用いて表される。それらの物理量には物質固有の性質を示す ものとそうでないものがある。例えば,ある物質の質量だけがわかったとしてもその物質が何で あるか推定できない。しかし,単位体積当たりの質量(これを密度という)であるならば推定す るための物理量として用いることができる。質量 M [kg],体積 V [m3 ] の均質な物質の密度 ρ は ρ= M V (1) で求められ,単位は kg/m3 である。同一物質では,温度や圧力など,物質の置かれている条件が 同じなら体積が異なっても密度はすべて同じ値になる。質量は物質固有の特徴を表さないが,密 度は物質固有の特徴を示すのである。したがって,ある試料が何でできているかを推定する場合 に,密度は重要な情報の一つであることがわかるであろう。例えば, 「アルミニウム合金」の密度 は 2.79 × 103 kg/m3 , 「銅」は 8.89 × 103 kg/m3 , 「黄銅」は 8.43 × 103 kg/m3 である。 ただし,密度には単位体積当たりの質量(体積密度)で表す他に,単位長さ当たりの質量(線 密度)や単位面積当たりの質量(面密度)のような表し方もある。 2.1 ドーナツ盤状金属板の密度 図 1 のような物質の形がドーナツ盤状の場合を考えてみよう。外径を d1 ,内径を d2 ,厚さを h とすると,体積 V は ( V ) ( ) d2 2 1 d1 2 = π h−π h = πh(d21 − d22 ) 2 2 4 1 = πh(d1 + d2 )(d1 − d2 ) 4 外径:d1 質量:M 内径:d2 図1 ドーナツ盤状金属板 1−1 厚さ:h (2) である。したがって,質量を M とすると,密度 ρ は式 (1) から求められる。ここで,ρ の有効数 字がいくつになるかは,M ,h,(d1 + d2 ),(d1 − d2 ) を測定する際の有効数字によって決定され る。次節で述べるように,ρ の有効数字を出来るだけ大きく求めたい場合には,M ,h,(d1 + d2 ), (d1 − d2 ) の測定における有効数字が等しいことが望ましい。つまり,それぞれの測定にふさわし い器具を用いることが重要である。 2.2 有効数字について 例えば, x=a×b×c のような場合,x の有効数字は a,b,c の有効数字の最も小さい有効数字と同じになる。したがっ て,x の有効数字をできるだけ大きくとり,かつ測定を効率よく行おうとすれば a,b,c の有効数 字を等しくするとよい。さらに, x = a × (b ± c) × d の場合は少々,注意を要する。( ) 内の有効数字は,計算した後の有効数字になるからである。具 体例として x = 1.012 × (1.00 ± 0.99) × 2.000 について考えてみよう。まず,( ) 内が + の場合は,(1.00 + 0.99) = 1.99 であるから,この有効 数字は “3 桁” である。1.012 は “4 桁”,2.000 は “4 桁” であるから,x の有効数字は “3 桁” とな る。一方,( ) 内が − の場合は,(1.00 − 0.99) = 0.01 となるので,この有効数字は “1 桁” になる。 したがって,この場合の x の有効数字は “1 桁” となる。 有効数字の取り扱いについては, 「IV. 測定値の取り扱い方(p.4)」を参照のこと。 2.3 アナログ目盛について 実験において用いるいろいろな測定器具や装置には値を読み取るための目盛(尺度)がついて いる。デジタル目盛では表示値をそのまま読めば良いが,アナログ目盛では目盛の上手な読み取 りが実験のよしあしを決めることが多い。したがって,アナログ目盛の読み取りは重要な作業の ひとつになる。例えば,物体の長さをものさし(物差し)で測定する場合,物体の長さがものさ しの目盛ときっちり一致することは珍しい。ほとんどの場合,図 2(b) のように目盛と目盛の間に くるはずである。図 2(a) のようにして測ってもよいが,端は欠けたり,減ったりしている場合が あるので,図 2(b) のようにして測った方がよい。もちろん,目盛の間隔を小さくすれば読み取り は正確になるが,今度は目盛が気になってかえって読みにくいし,また,小さく目盛ることにも 技術的限界がある(目盛り線の太さは 0.2 mm 程度ある)。そのため,1 目盛よりも小さい部分は “目測” で 1 目盛の 1/10 程度の値まで読み取ることが一般的である。 一方,測定器具や装置には精度を上げて値を読み取るために,副尺(バーニア)がついている ものがある。ノギスやマイクロメータがその例である。したがって,副尺の原理を知っておくこ とも必要である。 1−2 0 5 10 15 (a) q p (b) 図2 ものさしで物体の長さを測定するときの模式図 (1) ノギス ノギスは,副尺を用いて測定精度をあげる測定器具の一つである(図 3)。ノギスによる測定は, 「干渉現象」の一つである「うなり」に似た状態を作り出した測定方法である。主尺と副尺の目盛 線が一致した位置から遠ざかっていくと,主尺の目盛間と副尺の目盛のズレの間隔は大きくなっ ていく。そして,主尺や副尺が無限に長いならば,主尺と副尺の目盛線は一致したりずれたりする 現象が繰り返される。このような「干渉現象」は,精密測定の手段として活用されることがある。 一般に,副尺には前読式と後読式がある。前読式は,主尺の最小目盛の n − 1 目盛をとって n 等分した副尺を付けたものである。主尺の最小目盛の長さを ε とすると,副尺の 1 目盛の長さは D C A B 図3 アナログ式ノギスの模式図 1−3 ε n−1 であるので,その差 δ は n δ =ε−ε n−1 1 =ε n n (3) となる。したがって,主尺の最小目盛の 1/n まで読み取ることができることになる。 なお,後読式は,主尺の最小目盛の n + 1 目盛をとって n 等分した副尺を付け,同様に主尺の最 小目盛の 1/n まで読み取ることができるようにしたものである。 本実験では,1/20 mm の精度のアナログ式ノギスを使用する。このノギスは,主尺の最小目 盛(間隔)は 1 mm ,副尺は主尺の 39 目盛を 20 等分するように作られている。よって,このノ ギスの測定精度は 1/20=0.05 mm である。また,副尺には目盛の 1 つおきに読み取り用として 0, 1, 2, 3, · · · , 10 の数字がつけられている。したがって,測定では主尺の目盛線と副尺の目盛線 の一致した副尺の数字をそのまま読みとればよい。なお,ノギスは,何も挟まない場合,主尺の ゼロと副尺のゼロは一致するように作られている。 (2) マイクロメータ マイクロメータの模式図を図 4 に示す。D の回転部分には 1 周を 50 等分した目盛が付いており, これを 1 周すると C の部分の目盛りが 0.5 mm 移動する。この心棒の目盛の読みと,回転部分の 目盛の読み(アナログ式の場合,目分量で目盛の 1/10 まで読む)から値を読み取る。測定精度は ( 1 最小目盛 2 ) × 1 1 1 × = 50 10 1000 であることから,0.001 mm の精度で測定できることになる。なお,実験ではディジタル式のマイ クロメータを使用する。 A B C OO 14+)+0 D ラチェット *1.& <'41#$5 図4 マイクロメータの模式図 1−4 2.4 長さ測定の具体例 以下に,測定値の読み取りの具体例を示す。 (1) ものさしを使用する場合 1 まで読み取る。 10 2) 図 2(a) では, 物体の長さは 8 目盛に端数部分を加算したものである。端数部分は目分量 1) 目盛りの端数は目分量で尺度目盛の で 0.6 と読んだとすると, 読み取り値は 8.6 である。 3) ものさしの端 (はし) は減ったり, 変形したりしている可能性もあるので,図 2(a) より (b) のような読み取り方法を用い,値を p − q とするのがよい。 (2) アナログ式ノギスを使用する場合 1) 図 3 のように物体を挟まないで,ノギスの A 部分と B 部分を接触させると,主尺の 0 目 盛と副尺の 0 目盛,及び主尺の 39 目盛(39mm)と副尺の 20 目盛(10 の数字が表示されて いる)が一致する∗ 。したがって,副尺の 1 目盛は主尺の 2 目盛に対応し,主尺の 2 目盛より わずかに小さい。この微小な差 δ(= 主尺の 2 目盛の長さ − 副尺の 1 目盛の長さ)が 1/20, すなわち 0.05 mm である。 2) 物体を A,B で挟んで,長さを測定する(図 5)。副尺の 0 目盛が示す主尺の位置が測定 値である。図 5 の場合,副尺の 0 目盛は主尺の 31 mm と 32 mm の間にあるので,物体の長 さは 物体の長さ = 主尺の読み(31 mm)+ 31 mm からの端数部分(∆とする) である。 この端数部分 ∆ の測定に副尺を利用する。図では,主尺の 51 目盛と副尺の 10 目盛(数字 では 5 の位置)と一致している。したがって, ∆ = 主尺の (51 − 31) 目盛の長さ − 副尺の 10 目盛の長さ = 10 × (主尺の 2 目盛の長さ − 副尺の 1 目盛の長さ) = 10 × 0.05 mm = 0.50 mm より,求める物体の長さは 物体の長さ = 31 mm + 0.50 mm = 31.50 mm と読み取れることになる。このときの有効数字は 4 桁となる。 3) ギャップなどの間隔や内径などを測る場合は,C と D の部分(刃)を用いる。内径などの ように,刃を当てた物体の箇所が平らでない場合は,刃の厚さが測定誤差の要因になる。本 実験では,内径が刃の厚さに対して十分に大きいので,その影響は無視できるものとする。 ∗ 一致しない場合,このノギスは不良品である。 1−5 C D A B 図5 アナログ式ノギスによる物体の測定の模式図 (3) ディジタル式マイクロメータを使用する場合 1) 使用前にゼロ点の補正を行う。物体を挟まないでラチェットを回し,A と B の部分を合わ せる。ゆっくりと「カチッ,カチッ」と空回りする音(カチカチではない)を確認し,目盛 り表示が 0 となっていることを確認する。0 でない場合は,“ZERO/ABS” のスイッチを押 す。表示が,“0.000 mm” になる。 2) 図 4 に示すように,A と B の間に測定物を挟む。この時も,ラチェットが空回りする「カ チッ,カチッ」という音を確認すること。ただし,勢いをつけて回さないこと(締め過ぎに 注意)。 3) 表示の値を読み取る。図 4 では,物体の厚さが 6.148 mm であることを示している。この 場合の有効数字は 4 桁である。 4) 測定終了後は,A と B の間にわずかに隙間をあけてケースに格納する(電源スイッチは ない)。 ※ ラチェットは, 「親指」と「人差指」でつまみ,勢いをつけず,ゆっくり回すこと。 3. 実験装置・使用機器 ドーナツ盤状金属板,ものさし,ノギス,マイクロメータ,電子天秤 4. 実験方法 ドーナツ盤状の金属板の外径,内径,厚さ,質量を測定し,金属板の密度を求める。金属板の 1−6 外径,内径,厚さを測定する道具として,ものさし,ノギス,マイクロメータを用い,それぞれ の場合での測定精度について比較する。以下の手順で行う。 (1) 測定する試料(ドーナツ盤状金属板)一つを選ぶ。 (2) 試料の質量 M を電子天秤で 3 回測定し,平均値を求める。 (3) 試料の外径,内径,厚さをものさしで 5 回測定する。表 1 のように測定結果をまとめると分 かりやすい(他の測定項目についても同様にするとよい)。 それぞれの平均値を求め,式 (2) から密度を求める。 表1 測定結果をまとめる表の例 回 外径 d1 [mm] 内径 d2 [mm] 厚さ h [mm] 1 2 3 4 5 平均 ○○○.○ △△△.△ ×.× : : : (4) 試料の外径,内径,厚さをノギスで 5 回測定する。それぞれの平均値を求め,式 (2) から密 度を求める。 (5) 試料の厚さをマイクロメータで 5 回測定する。平均値を求め,(4) でノギスで測定した外径 と内径を用いて,式 (1),(2) から密度を求める。 ※ (3)∼(5) で測定値に大きなばらつきがある場合(例えば,ものさしなら ±1 mm 以上のばら つき),有効数字の精度で値を記録していない場合,あるいは全て同じ値の場合は,再測定 すること。また,密度の計算において,有効数字に注意すること。 (6) 実験により求めた密度と公称値の相対誤差を算出する。 ※ 実験で使用する金属の密度は, 「アルミニウム合金」が 2.79 × 103 kg/m3 , 「銅」が 8.89 × 103 kg/m3 , 「黄銅」が 8.43 × 103 kg/m3 である。 ※ 測定前後に室温を測定しておくこと。 1−7 5. 考察 ・ 各測定器具(ものさし,ノギス,マイクロメータ)で得られた結果について,ばらつき∗ の 範囲を求め,測定精度の違いについて考察する。 ・ 自分の測定結果の公称値からのずれ(誤差)が何によって生じたかを検討する。また,誤差 を定量的に求めて,結果の妥当性を考察する。 6. 検討課題 1 ( = 0.05 mm)であることを説明する。そして,主尺の 19 20 目盛と副尺の 20 目盛を一致させたノギスの精度を求め,比較してみよう。 (1) 今回使用したノギスの精度が (2) 熱膨張率∗ について調べ,与えられた試料の密度の温度変化を考え,実験結果と比較してみ よう。 7. 参考文献 [1] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [2] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [3] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [4] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). ∗ 測定値が平均値の前後に不規則に分布すること。また,そのふぞろいの程度を指す。ばらつきの範囲は,測定値の 最大値と最小値,あるいは標準偏差(または分散)を用いて表されることが多い。 ∗ 温度の上昇によって物体の長さ・体積が膨張する割合を,1 K(◦ C)当たりで示したもので,単位は K−1 である。 1−8 2 ヤング率の測定 1. 目的 物質の弾性定数(弾性率ともいう)の1つであるヤング(Young)率を,ユーイング(Ewing)の 装置を用いて測定する。また,実験を通して物理量の測定および測定結果のまとめ方に習熟する。 2. 原理 2.1 フックの法則 図 1 のような長さ L の細長い棒の両端を P の力で引っ張ったとき,棒が ∆L だけ伸びたとする。 棒のバネ定数を k とすると,フックの法則からこの関係は, P = k∆L (1) と表される。この式は,長さ 1 m の棒を 1 kN の力で引っ張って 1 mm 伸びた場合も,長さ 1 cm の棒を 1 kN の力で引っ張って 1 mm 伸びた場合も同じになる。しかし,長さ 1 cm の棒が 1 mm 伸びる方が,長さ 1 m の棒が 1 mm 伸びるよりも大きく変形しているはずであるし,断面積の異 なる同じ材料であれば,内部に発生している力も大きいはずである。こうした変形の大きさや内 部の力の大きさがわかりやすくなるように,式 (1) を P kL ∆L = A A L (2) と書き換える。ここで,A は棒の断面積である。 十分に細長い棒の両端を P の力で引っ張ってい るとき,図 2 のように棒を任意の断面で切って二つの部分に分けると,その断面には単位面積当 たり σ= P A (3) P P L ∆L 図1 棒の伸び A A σ P 図2 σ 棒の内部断面に作用する応力 2−1 P で表される抵抗力が発生して,それぞれの部分がつりあうことになる。この σ のことを「応力」と いい,外力が作用した物体内部の抵抗力の大きさを表す。定義から応力は圧力と同じ次元を持つ。 一方,棒が十分に細長くて一様に伸びたと考えられる場合は,元の長さに対してどれだけ伸びた かの比率 ε= ∆L L を「ひずみ」といい,次元は無次元である。さて,E = (4) kL とおくと,応力 σ とひずみ ε を A σ = Eε (5) のように比例定数 E で結びつけることができる。この比例定数 E を「ヤング率」といい,応力と 同様に圧力と同じ次元を持つ。式 (5) は,応力とひずみの関係で表した 1 次元のフックの法則で, 1 軸方向の応力とひずみが卓越し,その応力とひずみが一様に発生していると見なせるような場合 に成り立つ。 2.2 曲げられる棒の変形 棒の両端を P の力で引っ張って伸ばしたり,圧縮して縮めたりする場合,前節のフックの法則 から P = EA ∆L L (6) EA L (7) が成り立つ。つまり,棒のバネ定数は k= で表される。ヤング率 E の大きい(つまり固い)材料を用いる,あるいは断面積 A を大きく(つ まり太く)すればバネ定数は大きくなる。一方,L を大きく(つまり長く)すればバネ定数は小さ くなる。EA は,棒を引っ張ったり圧縮したりしたときの伸びにくさや縮みにくさを表し,伸び剛 性という。ものを設計する場合,同じ材料でも形によって変わってしまうバネ定数 k のような量 は,材料の固さを表す代表値としては扱いにくい。ヤング率 E は,形には関係なく同じ材料なら 同じ値となるので,材料の固さを表す代表値としてより便利である。 物体のヤング率は,その物体を細長い棒状にして引っ張り,応力とひずみを測定することで, 式 (5) の関係から簡単に求めることができる。実際に,金属材料のヤング率などはそのようにして 測定される。しかし,ある程度の太さの金属の棒に測定可能な大きなひずみを発生させるには,大 掛かりな装置で引っ張る必要があり,机上実験での手軽な測定には向かない。大きなひずみを発 生させるためには大きな力が必要であるが,小さい力でも棒を曲げることで大きなモーメントを 発生させることができれば,机上実験でも十分に測定できるひずみを発生させることができ,そ のひずみによる変形をたわみ変位として間接的に測定することができる。 では,図 3 のように両端で支えられている棒が,中央におもりをつるされ,P の荷重を受けて 曲げられる場合,その中央のたわみ(下方変位)e は,ヤング率を使ってどのように表されるだろ うか。実はこの曲げられる棒の荷重とたわみの関係は,フックの法則だけでは求まらず,力のつ 2−2 e L/2 L/2 P 図3 曲げられる棒のたわみ りあいや幾何学を駆使しなければならない難しい話になるので,その導出方法については付録に 詳述することとするが,結果だけを記すと図 3 の棒の中央のたわみ e は次式で表される。 e= P L3 48EI (8) ここで,I は断面 2 次モーメントと呼ばれる定数で,幅 b× 高さ a の長方形断面の棒が高さ方向に ba3 たわむ場合には I = で与えられる。おもりの質量を m, 重力加速度を g とすれば,P = mg と 12 なるから,これらを式 (8) に代入すると,棒の中央のたわみは,次式で与えられる。 mgL3 4ba3 E (9) L3 mg · 4a3 b e (10) e= したがって,棒のヤング率は,式 (9) より, E= と求められる。つまり,今回の実験に用いる金属棒の高さ a,幅 b,支点間距離 L,おもりの質量 m,中央のたわみ e を測定することによってヤング率を求めることができる。本実験では,中央の たわみ e を鏡と望遠鏡とスケールを用いた測定方法で測定する。 2.3 鏡と望遠鏡とスケールを用いた測定方法(光のてこ) 本実験で測定を行う金属棒の中央のたわみ e は極めて小さい値であるため, 「光のてこ」の原理 を用いて測定する。 「光のてこ」は,鏡とスケール,望遠鏡などを用いてスケールの移動距離を測 定する方法の総称であり,特に平面鏡,スケールおよび望遠鏡を用いて測定する方法を「光のて こ」の方法という。本実験で用いる装置の写真を図 4 に示す。左側がユーイングの装置であり,右 側が望遠鏡とスケールである。ここでは,平面鏡に図 5 に示す三脚付き平面鏡を用い,図 6 に示 すように平面鏡を金属棒(補助棒上の A と試験棒上の B)に置き,望遠鏡およびスケールを配置 する。測定に用いる金属棒(試験棒)におもりをつるさないときは,望遠鏡から鏡の点 P を介し てスケール上の点 O の目盛りを読むことができる。次に,試験棒におもりをつるすと,試験棒が たわみ,鏡の支点 B は点 B’ に移動する。この点 B から点 B’ までの移動距離が中央のたわみ e と なる。このとき,鏡は点 M から点 M’ まで角度 θ だけ傾くので,望遠鏡からは鏡(点 P’)を介し てスケール上の点 Q を読むことができる。ここで,̸ PAP’ = ̸ BAB’ = θ,̸ OP’Q = 2θ である。 また,θ は微小であるので,QP’ = OP = x とみなすことができる。 2−3 スケール 補助棒 試験棒 鏡 おもり 望遠鏡 図4 ユーイングの装置,鏡,望遠鏡,スケール 鏡 z A 図5 B 平面鏡 M M’ スケール x O 鏡 P 望遠鏡 P’ 2θ θ θ B A ∆y e B’ 金属棒 (補助棒) Q 金属棒 (試験棒) 図6 望遠鏡とスケール 中央のたわみ e は,図 5 に示すように鏡自体の支点間の垂直距離を z とすると,z に比べて非常 に小さい値であるため, e = zθ (11) と近似できる。また,スケールから鏡までの距離(QP’ 間の距離)を x,スケールの平均移動(お もりによるスケールの読みの平均移動:OQ 間の距離)を ∆y とすると,∆y は x に比べて非常に 小さな値なので, ∆y = x · 2θ 2−4 (12) と近似できる。よって,中央のたわみ e は,式 (11) に式 (12) を代入することにより, e= z∆y 2x (13) と求められる。つまり,x,z ,∆y を測定することにより,中央のたわみ e が求められる。 3. 実験装置・使用機器 ユーイングの装置,望遠鏡,スケール,ものさし,メジャー,ノギス,マイクロメータ 4. 実験方法 ユーイングの装置を用い,光のてこの原理を利用して金属棒(黄銅あるいは鋼鉄棒)の中央の たわみを測定し,その棒のヤング率を求める。以下の手順で行う。 (1) ユーイングの装置に試験棒と補助棒を平行に置き,支点間の中点におもりをつるす。 (2) 望遠鏡と鏡の角度を調整し,スケール(尺度)を望遠鏡の視野に入れる。 (3) 試験棒におもりをつるしたときのスケールの変化量 ∆y を測定する。 i) 補助おもりとして 200 g のおもりを 1 個乗せたときのスケールの読み y0(これを原点と する)と,さらに 200 g のおもりを 6 個追加したときの読み y6 を,予備的に測定する。 ii) その y0 と y6 を基にして,グラフの縦軸(スケールの読み)の目盛を決定する。読みや すい(描き易い)目盛をとること。 iii) 200 g のおもり 1 個を載せた状態から,1400 g(おもりが 7 個)になるまでおもりを 1 個ずつ載せ,そのときのスケールを読む。 iv) おもりが 1400 g(おもりが 7 個)の状態から,200 g(おもりが 1 個)になるまでおも りを 1 個ずつ減少させ,スケールを読む。 表 1 のように測定結果をまとめると分かりやすい。 表1 おもり [g] 200 400 600 800 1000 1200 1400 荷重 [N] 測定結果をまとめる表の例 1 増重のとき [mm] 減重のとき [mm] 平均値 [mm] ○○○.○ △△△.△ ȳ0 = ×××.× ȳ1 = ȳ2 = ȳ3 = ȳ4 = ȳ5 = 2−5 ※ 測定を行いながら, 「荷重」とスケールの「読み」の関係をグラフに描くこと。なお, 一般にグラフは計画的に変化させる量(独立変数)を横軸に,測定される量(従属変 数)を縦軸にとるので,本実験の場合は,荷重を横軸に,スケールの読みを縦軸にとる こと∗ 。 v) おもりの変化量 600 g(200 g×3 個ぶん)に対するスケールの平均移動 ∆y を求める。 測定で得られた ȳ0 ,ȳ1 ,ȳ2 ,ȳ3 ,ȳ4 ,ȳ5 を用いて,おもりの変化量 600 g に対するス ケールの移動を計算する。ここで, ∆y0 = ȳ0 − ȳ3 ∆y1 = ȳ1 − ȳ4 ∆y2 = ȳ2 − ȳ5 (14) とすると,平均移動 ∆y は次式で求められる。 ∆y = ∆y0 + ∆y1 + ∆y2 3 (15) [平均を求めるときの注意] おもり 1 個ぶんの変化量 200 g に対するスケールの平均移動を計算するのは望ましくな い。例えば,200 g に対するスケールの移動として ∆y0 = ȳ0 − ȳ1 ∆y1 = ȳ1 − ȳ2 .. . ∆y4 = ȳ4 − ȳ5 とすると,平均移動 ∆y は ∆y = ȳ0 − ȳ5 ∆y0 + ∆y1 + · · · + ∆y4 = 5 5 となり,ȳ1 ,ȳ2 ,ȳ3 ,ȳ4 のデータを使わないことになるからである。 もっとも,v) のおもりの変化量を 600 g とした平均移動においても,測定データがさ らに,ȳ6 , ȳ7 , ȳ8 , · · ·, ȳn+1 と増えた場合,平均移動 ∆y は ∆y = ∆y0 + ∆y1 + · · · + ∆yn ȳ0 + ȳ1 + ȳ2 − ȳn+1 − ȳn+2 − ȳn+3 = n+1 n+1 となり,ȳ3 から ȳn までのデータは使わないことになってしまう。このようにデータ数 が多い場合,ばらつきのある測定データすべてに対する誤差が小さくなるように測定 データの分布を近似式で表す方法としては,最小二乗法がよく使われる。最小二乗法 については,参考文献 [7] などを参照すること。 ∗ 構造や材料の分野では,荷重と変形量のグラフの傾きが剛性と対応するように,縦軸に荷重(外力や応力),横軸 に変形量(変位やひずみ)をとる描き方が一般的である。 2−6 (4) 実験パラメータ(x,a,b,z ,L)を測定する。測定に使用するものさし,ノギス,マイク ロメータの使用法などについては, 「1. 物質の密度」の該当頁,および付録を参照すること。 i) スケールと鏡の距離 x を,メジャーで 5 回測定する。なお,メジャーがたるまないよ うに測定を工夫すること。 ii) 試験棒の厚さ a を,マイクロメータで 5 回測定する。 iii) 試験棒の幅 b を,ノギスで 5 回測定する。 iv) 鏡の支点間の垂直距離 z を,ノギスで 5 回測定する。 鏡の支点を強くノートなどに押しつけ,頂点から他の 2 点を結ぶ直線に下ろした垂線 の長さを測定するとよい。 v) 試験棒の 2 支点間の距離 L を,ものさしで 5 回測定する。 表 2 のように測定結果をまとめると分かりやすい。 表2 回 測定結果をまとめる表の例 2 x [m] a [m] b [m] z [m] L [m] 1 2 3 4 5 平均 ※ a,b,z ,L の測定については,実験方法 (1) の前に行ってもよい。 (5) 測定結果から中央のたわみを求め,ヤング率を算出する。計算では有効数字に注意すること。 i) 600 g に対する中央のたわみ e を求める。 中央のたわみを求める式 (13) で用いられる以下の物理量の値を確認する。 鏡の支点間の垂直距離 スケールと鏡の距離 600 g に対するスケールの平均移動 z x ∆y [m] [m] [m] これらの値を式 (13) に代入して中央のたわみ e の値を計算する。 e= z∆y 2x ii) ヤング率を求める式 (10) で用いられる次の物理量の値を確認する。 2−7 試験棒の 2 支点間の距離 試験棒の厚さ 試験棒の幅 中央のたわみ おもりの質量 重力加速度の大きさ ∗ ∗∗ L a b e m = 600 × 10−3 g = 9.801758 [m] [m] [m] [m] kg ∗ m/s2 ∗∗ e の値として 600 g に対する中央のたわみを用いているので m は 600 g である。 秋田市における重力加速度の値(文献 [4] より)。 iii) ii) で確認した値を式 (10) に代入し,ヤング率 E の値を計算する。 E= L3 mg · 4a3 b e (6) 実験で求めたヤング率と公称値の相対誤差を算出する。 [ヤング率の単位について] ヤング率の単位は SI 単位系(国際単位系,フランス語の Système International d’Unités の 略称)では N/m2 または Pa を用いる。1 Pa=1 N/m2 である† 。 5. 考察 • 自分の測定結果の公称値からのずれ(誤差)が何によって生じたかを検討する。また,測定 結果のばらつき‡ の範囲,誤差を定量的に求め,結果の妥当性を考察する。 • この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 6. 検討課題 (1) 金属,コンクリート,木材など,各種の材料のヤング率を測定する一般的な方法について調 べ,それぞれの方法が,それらの材料のヤング率の測定に適している理由を考察してみよう。 (2) 同じ材料,同じ長さ,同じ断面積の棒で,できるだけたわみが小さくなるようにするには,断 面をどのような形にするのがよいか考察せよ。 —— より一層の検討として(興味があればトライしてみよう) —— ∫ y 2 dA の式から長方形の断面 2 次モーメント I = (3) 付録にある I = A † 6 ba3 を導いてみよう。 12 M(メガ)= 10 や G(ギガ)= 109 といった SI 接頭語は,単位の頭に一つだけつけて,分母にはつけないこと が推奨されている。一般に,ヤング率の単位には,MN/m2 や GN/m2 などが用いられる。ただし,土木工学などの分 野では,慣習的に N/mm2 のように分母に m(ミリ)= 10−3 の接頭語をつけた単位が使われることがある。 ‡ 測定値が平均値の前後に不規則に分布すること。また,そのふぞろいの程度を指す。ばらつきの範囲は,測定値の 最大値と最小値,あるいは標準偏差(または分散)を用いて表されることが多い。 2−8 7. 参考文献 [1] 多田編:“物理学概説 上巻”,学術図書出版社 (1974). [2] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [3] 崎元:“構造力学[上][下]”,森北出版 (1991). [4] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [5] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [6] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). [7] N.C. Barford(酒井英行訳) :“実験精度と誤差”,丸善 (1997) その他,材料力学,構造力学関連の図書 2−9 3 音速の測定 1. 目的 オンサの振動を気柱に共鳴させ,共鳴点(位置)を測定することにより,音の波長を求め,伝 搬速度(音速)を求める。また,音の伝わり方,共鳴現象など音のしくみについて理解を深める。 2. 原理 2.1 音とその伝わり方 我々は,日常生活においていろいろな種類の音に囲まれており,たくさんの音を無意識に聞い ている。音は,気体,液体,固体などの物質(媒質)を伝わる振動である。図 1 に示す太鼓を例 にとってみよう。太鼓をたたくと皮が振動し,空気の疎密を繰り返す。この振動(空気の粗密の繰 り返し)が四方八方に広がる。そして,それが人間の鼓膜を振動させ,音として伝わる。このと き,音を伝える物質(媒質)は空気である。音の伝搬速度(音速)は媒質によって異なる。また, 温度などの環境条件によって媒質の密度などが変化し,同じ媒質でも(例えば,空気中でも)温 度が異なると,音速が異なる。なお,真空では「媒質」が無いので音は伝わらない。 ࠼ࡦ ࠼ࡦ ᄥ㥏 ߫ߜ (a)ᄥ㥏ࠍߚߚߊ ⓨ᳇ ߇⇹ ᄥ㥏 (b)ᄥ㥏ߩ㕟߇ߐࠇࠆߣ 図1 ᄥ㥏 ⓨ᳇ ߇ኒ (c)ᄥ㥏ߩ㕟߇ߞᒛࠆߣ 太鼓をたたいたときの音の発生 音は,波の進行方向と同じ方向に媒質が振動する縦波(疎密波とも呼ばれる)である。音の高 低は,疎密の単位時間当たりの繰り返し回数によって決まる。一般に,1 秒当たりの繰り返しの 回数を「周波数(振動数)∗ 」といい,単位は Hz(ヘルツ)が用いられる。また,周波数の逆数 T = 1/f を周期といい,1 回の振動に要する時間(秒)である。高い音は周波数が大きく,低い音 は周波数が小さい。一般に,人間の可聴周波数は約 20∼20,000 Hz といわれている。 2.2 音速とその理論値 一般に,流体中を伝わる縦波の速さ v [m/s] は,媒質の体積弾性率∗∗ を K [N/m2 ],その密度を ρ [kg/m3 ] とすると, √ v= K ρ ∗ (1) 振動現象の説明には「振動数」が用いられる。 物体の性質を表す弾性定数の一つ。物体が一様な圧力 P を受けて,体積が V から V + ∆V になったときの応力 (圧力)変化 ∆P と体積のひずみ e = −(∆V /V ) の比であり,K = ∆P/e = −∆P V /∆V で表される。 ∗∗ 3−1 で表される。空気の体積弾性率は,比熱比 γ ,圧力 P [Pa]∗ を用いて,K = γP と求められている。 気温 0 ◦ C,1 気圧における空気中の音速(音が伝わる速さ)v0 は,γ=1.402,P0 =1.01325×105 Pa, ρ0 =1.293 kg/m3 を代入して,v0 ≃ 331.5 m/s と求められる。 温度などの環境条件によって媒質の体積弾性率と密度は変化するため,同じ媒質でも(例えば, 空気中でも)温度が異なると,音速が異なる。気温 t [◦ C] のときの空気中の音速は, v = v0 (1 + 0.00183 t) (2) と理論的に導出されている。気温 20 ◦ C のときの音速は約 343.6 m/s と計算される。 また,空気中には水蒸気が存在する。水蒸気を考慮した(湿度を考慮した)場合の音速につい ても導出されている。気温 t [◦ C],気圧 P [Pa],水蒸気の分圧 e [Pa] における音速は, ( v = v0 (1 + 0.00183 t) e 1 + 0.19 × P ) (3) で求められる。式 (2) および (3) の導出については付録を参照のこと。 2.3 音の共鳴 固有振動数∗∗ の同じオンサを 2 つ並べておき,一方のオンサを振動させると他方のオンサも振動 を始める。このような現象を「共鳴」という† 。また,一端が開き,他端が閉じたガラス管の,開 端部に振動しているオンサをおき,ガラス管の長さを変えることによって,管中の空気を共鳴さ せることができる。この現象を「気柱の共鳴」という。このときの気柱の長さを測定することに よって,音の波長を知ることができるので,オンサの振動数(周波数)が既知である場合は,空 気中の音速を求めることができる。 y y λ λ y y a 図2 管内に現れる定常波 一端を閉じた管内に音波が進入した場合,音波の振動数と管内の空気柱の固有振動数が一致す ると,気柱は共鳴し,大きな音が発生する。このとき管内には,図 2 に示すように,進入波と反射 波との干渉によって,定常波‡ が形成されている。定常波の共鳴の場合は,その振幅が最大となる ので,節や腹の位置の測定が容易になる。この定常波の波長を λ [m],周波数(振動数)を f [Hz], 音速を v [m/s] とすると v = fλ ∗ (4) 1 Pa(パスカル)= 1 N/m であり,1 気圧は 1.01325 × 10 hPa である(1 hPa = 10 Pa)。 その物体がもっとも振動し易い振動数(周波数)を表す。その値は,材質や形状によって異なる。 † 一般的にはこのような現象を「共振」といい,音が聞こえる場合を「共鳴」という。 ‡ 定常波は,互いに対向きに進む波の干渉によって生ずる。定常波の節や腹の位置は,時間によらず一定である。 2 3 ∗∗ 3−2 2 の関係がある。したがって,そのいずれか 2 つが与えられると,残りの 1 つを求めることができる。 実験では,式 (4) から音速 v を求めるために,周波数 f がわかっているオンサを用いて気柱を共 鳴させて,波長 λ を求める。図 2 に示すように,開放端に現れる定常波の腹の位置は,開放端より も少し外側にずれる。そのため,y1 だけからは,正確な波長を測定することができない。そこで, 水面の位置を変えていき,共鳴する位置 y2 ∼y4 も測定する。波長 λ は,y3 − y1 または y4 − y2 か ら求められる。 2.4 開口端補正 前節で述べたように,管の開口部と定常波の腹の位置は一致しない。図 2 では,a だけずれてい る。このずれの長さ a を「開口端補正」と呼ぶ。a は次式で求められる。 a= また,開口端補正と管の内半径 r の比 λ − y1 4 (5) a は,実験的に 0.55 ∼ 0.85 程度であることが知られて r いる。 なお,実験では,波長 λ は,図 2 の共鳴点 y1 ,y2 ,y3 ,y4 を測定することによって求めるので, ずれの長さ a を気にする必要はない。 3. 実験装置・使用機器 気柱共鳴用実験装置,オンサ(振動数 850 Hz,880 Hz),ゴム頭付たたき棒,温度計,気圧計 4. 実験方法 気柱共鳴用実験装置とオンサを用いて,音の共鳴点を測定し,音速を求める。そして,理論値 と比較する。以下の手順で実験しなさい。 (1) 室温と気圧を実験の開始時と終了時に測定し,それぞれ平均した値を室温 t,および気圧 P とする。 (2) 気柱共鳴用実験装置に水を入れる。水を入れ過ぎないように注意すること。 (3) 定常波の波長を求める。 i) オンサをたたき棒で軽くたたいた後,気柱(ガラス管)の開口部に近付ける。このと き,オンサがガラス管の開口部に触らないように注意すること。 ii) 水面を開口端付近から徐々に下げていき,共鳴音の聞こえる位置を捜す。 iii) 最初の共鳴点(図 2 の y1 )の近くで,水面を上下させながら,共鳴音が最大に聞こえ る位置を 10 回読みとる。ただし,読みとったデータのばらつきが 10 mm 以上ある時 は,その部分の測定をやり直すこと。 iv) さらに水面を下げ,iii) と同じ方法で y2 ,y3 ,y4 を 10 回づつ読みとる。表 1 のように 測定結果をまとめると分かりやすい。 3−3 表1 回 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均 y1 [mm] ○○.○ : 測定結果をまとめる表の例 y2 [mm] △△△.△ : y3 [mm] ×××.× : y4 [mm] □□□.□ : v) y1 ,y2 ,y3 ,y4 の平均値 ȳ1 ,ȳ2 ,ȳ3 ,ȳ4 を求める。 vi) 次の計算より,波長 λ を求める。 { ȳ3 − ȳ1 = λ1 ȳ4 − ȳ2 = λ2 λ= λ1 + λ2 2 (6) (7) ただし, λ1 と λ2 の差が 10 mm 以上あるときは,共鳴点を再測定すること。 vii) 測定が終了したら,水を捨て,片付ける。このとき,ガラス管の内側の直径 2r を,も のさしまたはノギスで 3 回以上測定し,半径 r を求めておく。 (4) 振動数(周波数)f と波長 λ を式 (4) に代入することにより,音速 vE を計算する。振動数が 850 Hz であれば,次式となる。計算では有効数字に注意すること。 vE = f λ = 850 × λ (8) (5) 測定時の室温 t [◦ C] における音速(理論値)vC を,式 (2) を用いて計算する(次式)。 vC = v0 (1 + 0.00183 t) = 331.5 × (1 + 0.00183 t) (9) (6) 式 (9) を用いて「温度と音速の関係」のグラフを作成する。このとき,横軸を温度(0 ∼ 36 ◦ C), 縦軸を音速とすること。 作成したグラフ上に,(4) と (5) で求めた vE と vC をプロット(plot)し,両者を比較する。 なお,vC は式 (9) を用いて描いた直線上の点である。 3−4 (7) 音速の理論値に対する実験値の相対誤差を算出する。 (8) 開口端補正 a,および a を求める。 r (9) 結果の報告会(ミニ発表会)を 15:15∼15:45 に行う(予定)。 どのような結果が得られたか,それについてどう考えたか(考察),などを各班 5 分程度で 発表する。実験(計算を含む)を全て終了していない場合は,できたところまで発表する。 そして,発表内容について全員で議論する。 5. 考察 ・ 自分の測定結果の公称値(理論値)からのずれ(誤差)が何によって生じたかを検討する。 また,結果のばらつき∗ の範囲,誤差を定量的に求めて,結果の妥当性を考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 ・ 報告会を行った組は,その内容についても考察を加える。 6. 検討課題 (1) 湿度を考慮した音速(理論値)vH を求め,実験方法 (6) で作成した「温度と音速の関係」の グラフに書き加える。また,測定値 vE と理論値 vH の誤差について考えてみよう。なお,vH は式 (3) から求められる(次式)。 ( vH = v0 (1 + 0.00183 t) e 1 + 0.19 × P ( ) = vC e 1 + 0.19 × P ) (10) ここで,水蒸気の分圧(水の蒸気圧)e [hPa] については,文献 [4] を参考にするとよい(表 2)。水の蒸気圧は 1 ◦ C 間隔で与えられているので,その間の値は線形補間(比例計算)して 求める。例えば,室温が 21.6 ◦ C であれば,蒸気圧は 21 ◦ C で 24.87 hPa,22 ◦ C で 26.44 hPa と与えられるので, e = 24.87 + (26.44 − 24.87) × 6 hPa = 25.812 hPa ≃ 25.81 hPa 10 と求められる。 表2 温度 [◦ C] 10 20 30 0 12.27 23.38 42.45 1 13.12 24.87 44.95 水の蒸気圧 [hPa](文献 [4] より) 2 14.02 26.44 47.57 3 14.97 28.10 50.33 4 15.98 29.84 53.22 ∗ 5 17.05 31.68 56.26 6 18.18 33.62 59.45 7 19.37 35.66 62.79 8 20.64 37.81 66.30 9 21.97 40.07 69.97 測定値が平均値の前後に不規則に分布すること。また,そのふぞろいの程度を指す。ばらつきの範囲は,測定値の 最大値と最小値,あるいは標準偏差(または分散)を用いて表されることが多い。 3−5 (2) 空気以外の気体(例えば,ヘリウムガス),液体(例えば,水),あるいは固体(金属など) を伝わる音速について調べ,空気中の場合と比較してみよう。 7. 参考文献 [1] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [2] 多田編:“物理学概説 上巻”,学術図書出版社 (1974). [3] 中村:“図解雑学 音のしくみ”,ナツメ社 (1999). [4] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [5] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [6] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). 3−6 4 等電位線 1. 目的 カーボン紙に電流を流すと,カーボンの抵抗によって電位差(電圧)が発生する。カーボン紙 の上に等電位線を描き,電気力線を求めて電流の流れ方について考える。 2. 原理 2.1 導体の抵抗について 一般に,金属などの導体中を電流 I [A] が流れているとき,電流 I と導体の両端の電圧 V [V] の 間には V = RI (1) の比例関係が成り立つ。この関係はオームの法則と呼ばれており,比例定数 R を電気抵抗(また は抵抗)という。抵抗は,物体中を電流が流れる時の流れにくさの目安であり,単位は Ω (オー ム)で表す。 2.2 等電位線について 等電位線は,電位の等しい点を結んで形成される曲線であり,電荷に対するポテンシャルエネ ルギー∗ が等しい位置を示す線である。金属箔やカーボン紙などの導体の両端に電位差を与えると 電流が発生する。このとき,電界(電場)が生じる。正電荷と負電荷がある場合の電位の様子を 図 1 に示す。川の流れが標高の高いところから低いところに流れるのと同じように,電流は電位 㟁 ㈇㟁Ⲵ ۑ 㸩 㸫 ۑ ṇ㟁Ⲵ 図1 ∗ 正電荷と負電荷がある場合の電位の様子 位置エネルギーのこと。 4−1 ⨨ の高いところから低いところに向かって流れる。電流に垂直な方向には電位差が無く,このよう な点を連ねた面が等電位面である。金属箔などのように非常に薄い場合には,等電位線と呼ばれ る。したがって,等電位線は電流に対して常に直交する。地形にたとえると,電位は標高,電位 差は標高差,等電位線は等高線に相当する。 ⃗ と電流ベクトル ⃗i の関係は,導電率を σ とすると 導体中における,電界ベクトル∗ E ⃗ ⃗i = σ E (2) ⃗ の向き)と電流の方向(⃗i の向き)が一致する。 である。つまり,電気力線の向き(E 電気力線とは,電界中に仮想した線で,その向きと電界の向きが一致するように描いた線であ る。また,電気力線の密度はその点の電界の大きさに比例する。したがって,電気力線によって 電界の方向と大きさを同時に表現でき,電気力線が密の部分は電界の強さ(大きさ)が大きく,疎 の部分は電界が小さいことが視覚的に理解できる。電気力線が電位の高い点から低い点に向かう ことは理解できよう。 等電位線と電気力線は常に直交することから,等電位線を詳しく測定することによって,電気 力線の状態をほぼ推定することができ,電流の流れ方について考えることができる。等電位線と 電気力線の例を図 2 に示す。 電気力線 + 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1V 等電位線 図2 等電位線の測定結果と電気力線の作図例 3. 実験装置・使用機器 等電位実験器,直流電源,検流計,テスタ(デジタルマルチメータ),カーボン紙(A4 サイズ) 4. 実験方法 2 つの班がペアとなり,次の課題 A, B のうちのどちらかを担当し,測定結果を共有する(課題 A の班は B の班に,B の班は A の班に,結果を提供する)。そして,A と B それぞれの場合につ いての等電位線および電気力線を描く。 ∗ ベクトル(vector):大きさと向きを表現できる量。直交座標系では x,y ,z 軸方向の成分で表される。例えば, ⃗ = (Ex , Ey , Ez )。大学の教科書ではベクトルを矢印記号ではなく,E のように単に太字で表すことが多い。 E 4−2 課題 A 図 2 のように,カーボン紙をそのまま用いて測定する。 課題 B 図 3 のように,カーボン紙に穴をあけた場合について測定する。 5 4 6 7 3 8 9 2 10 - 切り抜いた穴 + 2 10 11 V 1V 3 9 4 8 5 7 6 等電位線 図3 穴をあけた場合の等電位線の例 4.1 測定の準備と抵抗の測定 (1) 装置および使用器具を確認する。不足がある場合は担当者に連絡すること。 (2) カーボン紙に中心線(長手方向)を描き,実験台にのせる。電極 P と Q が中心線上になるよ うにし,親指などでカーボン紙の上から電極に押し当て,電極の位置を決める。ゴムマット 上で,電極の位置(押し当てた箇所)にベルトポンチで電極を固定するための穴を開ける。 (3) 図 4 のように実験台にカーボン紙を取り付け,電極 P,Q がカーボン紙にしっかり接触する ようにする。テスタ(デジタルマルチメータ)で電極 P,Q 間の抵抗を 3 回測定する。 ※ テスタの使用法については付録を参照のこと。 (4) 課題 B のみ: カーボン紙を実験台から取りはずして,電極位置 P と Q の間に適当な大きさ の閉曲線を描き,カッターナイフ等で丁寧に切りぬく(穴をあける)。(3) と同様に,実験台 にカーボン紙を取り付けて電極 P,Q 間の抵抗を 3 回測定する。 P Q カーボン紙 実験台 図4 実験台とカーボン紙の配置 4−3 4.2 等電位線の測定 等電位線を描くために,図 5 のように,検流計 G を用いて等電位の点を探す。具体的には以下 の手順で行う。 電源 + P - Q カーボン紙 実験台 検流計G 図5 測定系の概略図 (1) 電極 P,Q と直流電源を図 5 のように配線する。 (2) 直流電源のスイッチを入れて,電源電圧を 12 V に設定する。P–Q 間の電圧をテスタで測定 する。 (3) 電極 P から中心線に添って,1 V 毎に目印を付ける。 電圧は,黒いテストリードの先端(プローブチップ)を電極 Q にあて,赤いテストリードの 先端をカーボン紙にあてて測定する。 ※ カーボン紙や電極に手が触れないように注意すること。 (4) 課題 B のみ: 閉曲線で切りぬいた部分(穴)の周辺にも目印を付ける。 (5) 検流計のゼロ点を確認する。不適当なときは申し出ること。 (6) 検流計を用いて,目印と同じ電位の位置を探す。検流計の針のふれ幅は測定点間の電圧に比 例するので, i)針の振れない点の間は等電位である, ii)針のふれが一定目盛となる 2ヶ所の間は一定の電位差となっている ことを用いて,等電位点を決定する。このとき,基点(目印)を動かさないように注意する こと。 ※ 検流計に過度の電流を流さないこと(電極などに触れないこと)。また,検流計は静かに 扱うこと。衝撃を与えると,針の振動で測定が困難になったり,破損の原因になったりする ので注意すること。 4−4 (7) 等電位点は,等電位線を描きやすいように多くの点を測定する。中心線に対して上下 5 点以 上が望ましい。特に,カーボン紙の端や切口の周辺は,きめ細かく測定すること。 等電位点をサインペンなどで結べば,等電位線が描ける。作図については次節「4.3 等電位 線と電気力線の作図」に従うこと。 4.3 等電位線と電気力線の作図 (1) コピー用紙 4 枚(ペアとなった班を含めた人数分)に,測定したカーボン紙を乗せる。 (2) ゴムマット上で,測定点を錐で無地 A4 用紙に転写する。また,電極の位置,切り抜いた穴 の形,各点の電圧値を書き写す。 (3) ペアとなった班と (2) で転写した結果を交換し,転写された測定点を × 印でマーキングする。 (4) 鉛筆で,同一の電位点を滑らかに結んだ電位線(等電位線)を描く。 ※ 等電位線はカーボン紙の端および切り口に,必ず直交する。 (5) 等電位線に直交する電気力線を中心線に対して上下 3 本ずつ描く。 [電気力線を描くときの注意] i) 製図の心掛け,基本を考えて丁寧に描くこと。 ii) 電気力線が等電位線と直交するように細心の注意を払うこと。特に,穴を開けた場合におい ては注意すること。 iii) 電気力線の密度,すなわち本数とその位置についてはあらかじめ十分検討してから描き入れ ること。 iv) 電気力線が等電位線と直交していない場合や,電気力線が部分的にかたよるような不適切な 場合は,データチェック時において書き直しを指示するので注意すること。 5. 考察 ・ 課題 A,B の実験結果について,電極付近,電極間,カーボン紙の端や穴の付近,などでの 等電位線のでき方,電界(電場)の形状などについて考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 4−5 6. 検討課題 (1) 課題 A の実験結果について,点 Q から点 P までの直線上の電位と位置の関係をグラフ用紙 に描き,検討しよう。 (2) カーボン紙に穴をあけた場合とあけない場合の抵抗値を比較する。違いがあれば,なぜその ようになったのか考えてみよう。 7. 参考文献 [1] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [2] 永田:“基礎物理学シリーズ 電磁気学”,東京教学社 (1993). [3] 後藤:“なっとくする電磁気学”,講談社 (1993). [4] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [5] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). 4−6 5 電球の抵抗 1. 目的 固体抵抗に電池をつないで電流,電圧を測定し,オームの法則を用いて抵抗を求める。次に,豆 電球の電圧–電流特性を調べて非線形抵抗について学ぶ。 2. 原理 一般に,金属中などの導体中を電流が流れている場合,流れて いる電流 I[A] と金属の両端の電圧 V [V] との間には V =RI の比 例関係が成り立っている (図参照)。この関係はオームの法則と呼 ばれており,定数 R を抵抗という。抵抗は,物体中を電流が流れ 図1 オームの法則の説明図 る時の流れにくさの目安であり,単位は Ω(オーム) を用いる。 ところで,金属中に電流を流す場合,オームの法則の式中の抵抗 R が変化する場合がある。電 球のフィラメントに電流を流し,点灯させる場合などがその例である。今回は豆電球を用いてこ のことを確認し検討する。 3. 装置 • 直流電源 (電池) • 電流計 • 電圧計 (「テスタ」を電圧計として使用) • 豆電球 (規格: 6V 3W) • 固体抵抗器 ※電流計・テスタの使い方については付録を参照のこと。 4. 手順 · 方法 (1) 電池の電圧を測定する。 テスタのファンクションスイッチを DCV にして,自分が測定 (使用) する予定の電池 (5 個) の電圧を全て測定する。 (2) 固体抵抗器に電圧 V をかけ,固体抵抗器を流れる電流 I を測定する。 i) テスタのファンクションスイッチを Ω の位置に合わせ,固体抵抗器の抵抗値を読みとる。 ii) 図 2 のように,乾電池 (1 個),電流計,固体抵抗器を直列に接続する。 iii) 「電流計」によって, 「固体抵抗器」に流れる電流 I [A] を測定する。 5−1 iv) 「テスタ」を用い, 「固体抵抗器」の両端の電圧 V [V] を測定する。(テスタのファンク ションスイッチを DCV にする。) v) 固体抵抗器の抵抗値を計算する。 vi) 乾電池を 2 個直列にして,(2) の iii)∼ v) を行う。 vii) 乾電池を 3 個直列にして,(2) の iii)∼ v) を行う。 viii) 乾電池を 4 個直列にして,(2) の iii)∼ v) を行う。 ix) 乾電池を 5 個直列にして,(2) の iii)∼ v) を行う。 図2 測定系の概略図 (3) 「豆電球」に電圧 V をかけ, 「豆電球」のフィラメントを流れる電流 I を測定する。 i) テスタによってフィラメントの抵抗を測定する。 ii) 手順 · 方法 (2)− ii) において, 「固体抵抗器」を「豆電球」に交換し,(2) の iii)∼ v) の 手順にしたがって測定する。「豆電球」の「フィラメントの色」, 「光の強さ」を観察し, データ表に記入する。 iii) (2)− vi)∼ ix) のように電池を交換し (3)− ii) の手順で I, V を測定し,データ表に記入 する。 iv) データ表の I, V の値を用いて抵抗 R の電力 P を計算し,データ表に記入する。 ≪ データの記録 ≫ 測定データは,所定のデータ表に記入し,実験終了後は,それをノートに貼っておくこと。 (4) グラフの作成 データ表をもとに次の i)∼ iii) のグラフを作成する。 i) 固体抵抗器の I−V グラフを作成する。 5−2 ii) 豆電球の I−V グラフを作成する。 iii) 豆電球の R−P グラフを作成する。 iv) i)∼ iii) のグラフを見ながら「I と V 」, 「R と P 」がどのような関係になっているか考 え,線をひく。 ≪ グラフの描き方 ≫ • I−V グラフでは,横軸に電圧 V [V],一方の縦軸に電流 I[A] をとる。また R−P グラフ では横軸に電力 P [W],縦軸に抵抗 R[Ω] をとる。 • グラフを描く場合,すべての測定が終ってから描くのではなく,測定しながら,同時に 描くこと。 • 「豆電球のデータ」と「固体抵抗器のデータ」は,違いがわかるようにして (色または プロットする点の形を変える),同じグラフ上にプロットする。 0.6 14 : 豆電球 : 固体抵抗器 0.5 : 豆電球 12 10 抵抗 [Ω] 電流 [A] 0.4 0.3 0.2 6 4 0.1 0 8 2 1 図3 2 3 4 電圧 [V] 5 6 0 1 図4 電圧と電流の関係 2 電力 [W] 3 電力と抵抗の関係 (5) データ表のデータをパソコンに入力する。データにミスがなければ,パソコンはグラフを作 成するので,プリンタで出力し自分の手書きのグラフと比較せよ。 5. 考察 ・ 固体抵抗器の平均抵抗 R の誤差を定量的に求める。また,固体抵抗器の I−V グラフ中にひ いた直線の傾きの逆数,すなわち抵抗 R を求めて,データ表の平均抵抗 R と比較し,結果 の妥当性を考察する。 ・ この実験 (得られた結果) からわかること,導かれる結論についてまとめる。 5−3 6. 検討課題 (1) 豆電球は「熱放射」によって発光している。 「熱放射」について調べ,豆電球のデータ表に書 き込んだフィラメントの色をもとに,フィラメントの色と電力の関係について考えてみよう。 (2) 「R−P 」グラフにおける豆電球の抵抗変化に着目し,なぜこのような変化が起こるのか考 えよう(フィラメントの色と抵抗 R,電力 P ,温度 T の関係について考察すること。フィラ メントの色からフィラメントの温度を推定し,温度と抵抗の関係を示す「R−T 」グラフを作 成し,考察するのも良い)。 ——より一層の考察として—— (3) 同じ豆電球を二個並列につないだ場合,加える電圧と流れる全電流との関係がどうなるかに ついて考えてみよう。 (4) 上記と同じく同じ豆電球を二個並列につないだ場合,豆電球一個あたりの電力とその電球の 抵抗との関係がどうなるかについて考えてみよう。 7. 参考文献 [1] 桑原,三木:“図解雑学 電気・電子のしくみ”,ナツメ社 (2001). [2] 福田,田中:“図解雑学 電子回路”,ナツメ社 (1999). [3] 兵藤申一:“身のまわりの物理”,裳華房 (1994). [4] Sybil P.Parker 編,物理学大辞典編集委員会編:“物理学大辞典”,丸善 (1999). [5] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). [6] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). 5−4 6 水の比熱 1. 目的 電気エネルギーを用いて水を加熱し,それによる温度上昇を測定して,水の比熱を求める。ま た,電流計および電圧計の使用法を習得する。 2. 原理 2.1 温度と比熱 我々は,物質の「熱さ」や「冷たさ」を表す尺度として温度という物理量を用いている。生活 に密着した温度として,セルシウス温度(略してセ氏)がある。単位は ◦ C(度)である。セルシ ウス温度は 1 気圧における水の凝固点を 0 ◦ C,沸点を 100 ◦ C として温度を定義したものである。 物質は原子や分子によって構成されており,原子や分子は通常,不規則な運動を行っている。こ の不規則な運動を熱運動という。そして,熱運動の平均的なエネルギーの大きさを通して温度が 定められる。すなわち,熱運動が激しくなれば物質温度は上昇する。また,すべての原子や分子 の熱運動がない状態における温度を絶対零度と定義している。このように熱運動をもとに決めた 温度を絶対温度といい,単位を K(ケルビン)で表す。セ氏 0 ◦ C は 273 K であり,絶対温度 1 K の温度差はセ氏 1 ◦ C の温度差に等しい。 物質の温度を 1 K 上昇させるために必要なエネルギーの値を熱容量,また単位質量あたりの熱 容量を比熱という。それぞれの単位は,J/K,および J/(kg·K) である。 液体から気体のように相変化をする場合,物質の温度は変化しないが,熱エネルギーの出入り がある。液体から気体へ変化する場合に必要な熱エネルギーを気化熱,固体から液体へ変化する 場合に必要な熱エネルギーを融解熱という。 2.2 電気エネルギーを用いた比熱の求め方 図 1 のような測定系で考えてみよう。水 m [kg] を入れた水熱量計内の電熱線に時間 t [s] の間だ け電流を流し,熱エネルギーを発生させ水熱量計全体の温度を上昇させる。電熱線に流れる電流 を I [A],電熱線の両端の電位差(電圧)を V [V] に設定し,電流を t [s] 間だけ流すと,電熱線で 発生する熱エネルギー E1 [J] は E1 = V It (1) である。 電熱線で発生した熱エネルギーによって,水を含めた水熱量計の温度が上昇する。加熱による 温度上昇の測定結果の例を図 2 に示す。このとき,温度が θ1 [◦ C] から θ2 [◦ C] まで上昇するなら ば,水の比熱を C [J/(kg·K)],水熱量計と温度計を合わせた熱容量を w [J/K] とすれば,水,水 熱量計および温度計に加えられた熱エネルギー E2 [J] は E2 = (θ2 − θ1 )(Cm + w) 6−1 (2) 可変抵抗器 A 直流電源 V 水熱量計 ヒータ 図1 測定系の構成 24 22 電源 off 水温 [℃] 20 18 16 室温 14 12 電源 on 10 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 時間 [min] 図2 測定結果の例(加熱時間と水温の関係) である。 電流によってのみ熱エネルギーが水熱量計に与えられたとすると,熱エネルギー E1 と E2 は等 しいので, V It = (θ2 − θ1 )(Cm + w) (3) である。これより,水の比熱 C [J/(kg·K)] は C= 1 m ( V It −w θ2 − θ1 と求められる。 6−2 ) (4) 3. 実験装置・使用機器 水熱量計(銅製容器, 取手付き銅製撹拌棒),デジタル温度計,メスシリンダー,電子天秤,電 流計,電圧計,可変抵抗器,直流電源,ストップウォッチ,手付きビーカー 4. 実験方法 4.1 実験の準備 (1) 銅製容器と撹拌棒の質量を,電子天秤でそれぞれ測定する。 撹拌棒については,取手を取り外して,質量を測定すること。なお,0.1 g 単位まで測定す ること。 (2) 銅製容器に約 200 ml(0.2 kg)の水を入れる。 水は実験室北側に設置してある水道ろか装置を通したものを用い,メスシリンダーで測る。 (3) 水熱量計(銅製容器, 取手付き銅製撹拌棒),電流計,電圧計,可変抵抗器,および直流電 源を用意し,図 1 のように配線する。 (4) 電圧計,および電流計のゼロ点を測定する(または針をゼロに合わせる)。電源装置(直流 電源)の電源を入れ(On にする),電力(電圧 V と電流 I の積)が 10.5∼11 W となるよ うに,電圧計,および電流計の値を見ながら電源装置の出力電圧と可変抵抗器を調節する∗ 。 調整した後,電源装置の電源を切る(Off にする)。 ※ 電圧 V ,および電流 I の値は,メータの最小目盛の 1/10 まで読むこと。 ※ 電圧計・電流計の使い方,値の読み方については付録を参照のこと。 (5) 室温を測定する。 (6) 銅製容器の水を捨てる。ビーカ, 氷などを利用して室温より 6 ◦ C 以上低い水を作り,200 ml を銅製容器に入れ,水温を測定する。 実験開始時の水温を,室温より 6 ◦ C 以上低くすること。銅製容器が室温近くの温度である ことから,ビーカに氷を使って室温より 7∼8 ◦ C 低い水をつくり,容器に入れるとよい。な お,氷は実験室北側の自動製氷機にある。 (7) 水と銅製容器を合わせた質量を,電子天秤を使って 0.1 g 単位まで測定する。 (8) (3) と同じように装置を再構成する。 (9) 温度計の検出棒を支持台に固定する。 検出棒の先端から 4 cm までが水中に入るようにし,検出棒の先端が電熱線に近すぎないよ うにすること。 ∗ 本実験装置を用いた予備実験により,200 ml 程度の水の温度を約 20 分間で 10 ◦ C 程度上昇させるためには,約 11 W の電力を加えればよいことが確認されている。 6−3 4.2 水温の測定 注意事項!! ・ 装置の設定が終了後,直ちに温度測定を始めること。 ・ (1) から (4) が終了するまで,水を飛び散らせることがないようにゆっくりと, また休むことなく,撹拌すること。 ・ 測定値はすべて最小目盛の 1/10 まで読むこと。 ・ 測定データや実験中の情報はすべて実験ノートに記入すること。 (1) 電熱線に電流を流さない状態で,30 秒毎に 3 分間,撹拌をしながら水温を測定する。 加熱時間と水温の関係のグラフを描くのは,測定後でもよいが,測定と同時に行うのが望ま しい。その方が,測定値がおかしいときなどに,直ぐに対応ができるからである。 (2) 電源を入れ,電流を流すと同時に電流と電圧を測定する。 電流を流し始めてからも,休むことなくゆっくり撹拌を行いながら,30 秒毎に水温を測定 する。 水温の測定範囲は,室温をはさんで −6◦ C から +6◦ C をカバーするようにし,室温をはさん で対称になるようにする。図 2(測定結果の例)を参考にするとよい。 (3) 水温が室温より +6◦ C 以上になったら,すばやく電流と電圧を測定した後,時間的に区切り のいい所で水温を測定するとともに電源を切る。 電圧 V ,および電流 I の値はすばやく読み取ること。ゆっくりしていると,電力を加えた時 間が正確なものでなくなるので注意すること。 (4) 電流を切ってからもさらに,30 秒毎に 3 分間,水温の測定を行う。 (5) 水の温度測定終了後,室温をもう一度測定する。 (6) 銅製容器と水の質量を再度測定する。 撹拌棒を蓋ごとはずし,水滴をすべて銅製容器に落して,銅製容器と水を合わせた質量を電 子天秤で 0.1 g 単位まで測定すること。 (7) 上ぶたから検出棒(温度計)の下端までの長さ a,水熱量計の上端から容器内の水面までの 長さ b を測定する。検出棒の水没部分の長さ ℓ は ℓ = a − b となる。 6−4 4.3 比熱の算出 (1) 原理に示した式 (4) を用いて,水の比熱 C を求める。 1 C= m ( V It −w θ2 − θ1 ) [J/(kg·K)] 式中の物理量を以下のようにそれぞれ求める。 m 水の質量 [kg] 実験 4.1(1),(7) で測定した結果から求める。 w 銅製容器,撹拌棒の金属部分,温度計の熱容量の総和 [J/K] 熱容量は(質量)×(比熱)で与えられる。銅製容器,撹拌棒の熱容量については, 4.1(1) で求めた質量と銅の比熱 0.380 × 103 J/(kg·K) を用いて求める。また,温 度計の熱容量については,4.2(7) で求めた水没部分の長さ ℓ を用いる。ℓ に対応 する熱容量を, 「デジタル温度計の熱容量」のグラフから読み取り,その値を wtm とする。(温度計の水没部分以外の部分の熱容量も考慮に入れなければならない が,本実験では水没部分より上部への熱の伝導の影響は小さいものとする。) したがって,銅製容器,撹拌棒の質量を mV [kg],mB [kg] とすると,装置の熱 容量は, w = (mV + mB ) × 0.380 × 103 + wtm で求められる。なお,検出棒の熱容量は計算でも求められ,これについては「参 考: 温度計の熱容量について」に示す。 V 加熱の最初と最後の電圧の平均値 [V] I 加熱の最初と最後の電流の平均値 [A] t 電流を流して加熱した時間 θ1 , θ2 加熱の最初と最後の水温 [s] [◦ C] (2) 実験により求めた比熱と公称値の相対誤差を算出する。 5. 考察 ・ 自分の測定結果の公称値からのずれ(誤差)が何によって生じたかを検討する。また,誤差 を定量的に求めて,結果の妥当性を考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 6−5 6. 検討課題 (1) 測定結果(加熱時間と水温の関係)のグラフを見て,水温の温度変化は電熱だけによる温度 上昇といえるかどうかを検討しよう。温度上昇が電熱だけによるものでないとすれば,より 正確な水の比熱を求めるためにはどのようにしたらよいかも考えてみよう。 (2) 原理で示した式 (4) は次のように変形することができる。 C= 1 VI − w θ2 − θ1 m t (5) ここで,分母に現れる (θ2 − θ1 )/t は熱エネルギーを加えている最中の温度上昇率(単位時 間当たりの温度の上昇)であり,グラフ(加熱時間と水温の関係)の直線部分の傾きに対応 する。傾きを α として,式 (5) を書き直すと 1 C= m ( VI −w α ) (6) となる。したがって,傾き α を用いて, 水の比熱を求めることができる。傾き α は,グラフ 上に多数の測定点を通るように直線を引き,その直線の傾きを求めればよい。式 (4) と式 (6) で求めた値を比較し,検討しよう。 7. 参考文献 [1] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [2] 多田編:“物理学概説 上巻”,学術図書出版社 (1974). [3] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [4] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [5] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). 参考: 温度計の熱容量について 温度計の熱容量については,次の計算からも求められる。実験 4.2(6) で求めた水没部分の長さ ℓ,与えられた温度計の直径 d を用いて水没部分の体積を求める。この値に温度計の材質と考えて よいステンレス(Stainless Steel)の密度 7.9 × 103 kg/m3 をかければ質量が求まる。よって,こ こで求めた質量とステンレスの比熱 0.463 × 103 J/(kg·K) を用いることにより,熱容量は ( )2 wtm = π d 2 ℓ × 7.9 × 103 × 0.463 × 103 で求められる。 6−6 7 オシロスコープ I 1. 目的 オシロスコープ(Oscilloscope)の使用法についての基本的な知識を習得する。また,オシロス コープを用いて基本的な回路素子(ダイオード,コンデンサ,など)の働きを調べる。 2. 原理 オシロスコープは, 電気信号(電圧)の時間的変化を観測できる装置であり,物理現象の観測に はもちろんのこと,工学や医学の分野で広く使用されている。図 1 は実験で使用するオシロスコー プの外観である。 図1 実験で使用するオシロスコープ 2.1 電気信号について 物理量(例えば,電圧や電流,温度など)が時間的に変化するものが伝えられるとき,それを 信号と呼ぶ。それらを電圧,あるいは電流で表したものが電気信号である。なお,連続な時間軸 上で定義される信号を連続時間信号(アナログ信号)といい,v(t) のように連続時間変数 t の関数 で表される。 電気抵抗器に直流電流(DC)を流した場合を例に考えてみよう。電流を I ,抵抗値 R の抵抗器 の両端の電位差(電圧)を V とすると,オームの法則 V = RI (1) が成り立つ。この関係は,交流電流(AC)∗ を流した場合も成立する。なお,電圧の単位は V(ボ ルト),電流は A(アンペア),抵抗は Ω(オーム)である。 次に,交流電流の場合について考えてみよう。いま,時間 t [s] の関数として正弦波で表される 交流電流を流すものとして,電流および電圧をそれぞれ i(t) および v(t) と表すことにする。交流 の角周波数を ω [rad/s],周波数を f [Hz] とすると ω = 2πf ∗ 電流の向きが時間的に交互に変化する電流を交流と言う。 7−1 (2) である。電流の最大値を I0 として,角周波数を用いて交流電流 i(t) を表すと i(t) = I0 sin(ωt + θ) (3) と書ける。ただし, θ [rad] は任意の定数であり,位相と呼ばれる。オームの法則により,電圧は v(t) = RI0 sin(ωt + θ) (4) V0 = RI0 (5) v(t) = V0 sin(ωt + θ) (6) と表される。ここで, とおくと,式 (4) は と表すことができる。また,交流信号の周期を T とすると, f= 1 T (7) である。従って,オシロスコープで周期 T [s] を測定することによって,信号の周波数 f を求める ことができる。また,あらかじめテスターで抵抗 R の値を測定しておき,オシロスコープで電圧 V0 を測定することによって,式 (5) から電流 I0 を求めることができる。これにより,電流の時間 変化の様子も知ることができる。この方法は,回路の電流測定などに一般的に用いられる方法で ある。 2.2 ディジタル・オシロスコープ オシロスコープには,アナログ・オシロスコープとディジタル・オシロスコープがある。近年 では,電気信号をディジタル信号(時間,振幅が離散的な信号)に変換して内部処理するディジ タル・オシロスコープが広く使われるようになってきている。ここでは,実験で使用するディジ タル・オシロスコープについて概説する。 ディジタル・オシロスコープの主な構成を図 2 に示す。入力信号は,電圧感度(Volt/Div)の 設定に対応して増幅(減衰)され,A/D 変換器(Analog to Digital Converter)でディジタル信 号に変換される。A/D 変換器では,標本化(Sampling)と量子化(Quantization)が行われる。 A/D 変換器から出力されたデータは,メモリに蓄えられる。メモリに書き込むタイミング(波形 信号 増幅器 A/D 変換器 メモリ トリガ回路 外部トリガ 図2 ディジタル・オシロスコ−プの構成 7−2 LCD の開始点)は,時間基準信号発生回路とトリガ回路で決まる。そして,データは,メモリからビ デオ再生回路に送られ,LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)に表示される。ディ ジタル・オシロスコープでは,メモリにデータを記録するため,観測できない時間間隔が発生す る。しかし,単発の現象が観測できるという利点がある。 (1) 標本化(サンプリング) 時間的に連続に変化するアナログ信号を適当な時間間隔で取り出す。この時間間隔をサンプリ ング間隔などと呼ぶ。サンプリング間隔を大きく取ると,速い現象を見逃してしまう恐れがある。 サンプリング間隔を Ts とすると,次の条件(標本化定理)が満たされなければならない。 Ts ≤ 1 2fM (8) ここで,fM は信号が持つ最大周波数である。なお,fs = 1/Ts はサンプリング周波数と呼ばれ る。実験で使用するオシロスコープでは,サンプルレートという表現が使用されており,5 S/s∼ 1 GS/s となっている(1 GS/s は 1 秒間に 109 点取り込む,という意味)。なお,サンプリング間 隔(サンプルレート)は,掃引時間(Sec/Div)の設定によって決まる。 (2) 量子化 標本化された信号は,最も近い 2 進数のコード(値)に割り当てられる。量子化の精度(分解 能)は,何桁の 2 進数で表現するかによって決まる。2 進数の桁数の単位を bit(ビット)という。 実験で使用するオシロスコープの分解能は 8 bit である。この場合,28 =256 通りの値に割り振ら れる。つまり,測定値は 256 段階の値となる。 ディジタル・オシロスコープで測定した値は離散時間かつ離散振幅値のディジタル信号として 観測される(階段状に表示される)が,実際の測定信号は連続時間かつ連続振幅値のアナログ信 号であることに注意すること。 2.3 電圧波形の測定 波形をオシロスコープで測定するときは,一般的に,図 3 のように接続して,測定対象 V の両 端にかかる電圧を測定する。このとき,被測定回路の動作に影響を与えないこと,およびノイズ の重畳を防ぐことが必要である。そのため,測定対象に適したプローブを使用する。実験では,一 般的に使用される 10:1 プローブ(電圧プローブ)を用いる。この他に,アクティブプローブ,高 Oscilloscope (信号側) + - V Oscilloscope (アース側) 図3 オシロスコ−プでの測定方法 7−3 トリマ コンデンサ 1:1と10:1の 切替スイッチ BNC コネクタ アース・クリップ 同軸ケーブル ×1 ×10 測定用クリップ 図4 (a) 適正補償 図5 プローブの概形 (b) 過補償 (c) 補償不足 プローブの位相調整 電圧プローブなどがある。また,測定対象に同軸ケーブルなどで直接接続する場合もある。以下 では,実験で使用するプローブについて概説する。 プローブの概形は,主に図 4 のようになっている。プローブの先端には接触子(尖端)があり, その部分は一般にねじ込み式か脱着式となっている。このプローブでは,信号線などに引っ掛け ることができる測定用クリップが取り付けられている。接触子の部分には余計な力がかからない ように配慮し,クリップが外れていないか確認すること。また,側面(脇)にはアース・クリップ (通常は,わに口クリップが付いたもの)が接続されている。測定時には,アース・クリップをゼ ロ電位(基準電位,一般には 0 V)の箇所に接続する。アースを高電圧が印加されている場所に接 続すると,オシロスコープ全体が高電圧となり,非常に危険であるので注意すること。 実験で使用する 10:1 プローブでは,測定対象の電圧信号が 10 分の 1 に減衰される。電圧信号 がそのまま観測される 1:1 プローブもある(図 4 のように,スイッチで 1:1 と 10:1 の切替がで きるプローブもある)。被測定回路へのプローブの影響を小さくするためには,大きい入力抵抗が 望まれる。また,測定時の波形ひずみはできるだけ小さい方がよい。そのため,10:1 プローブな どのように,入力抵抗が大きく, 「位相調整」ができるプローブを用いることが多い。 「プローブの 位相調整」では,オシロスコープの前面にある方形波出力端子(無い場合は発振器を利用する)の 電圧波形を観測し,図 5(a) のように調整する。実験で使用するオシロスコープには,振幅 5 V,周 波数 1 kHz の方形波を出力する端子(PROBE COMP)が用意されている。位相調整の原理,お よび入力抵抗については,付録を参照のこと。なお,10:1 プローブを使用するときは,オシロス コープの電圧感度(Volt/Div)の数値を 10 倍にして読み替える必要がある。例えば,0.1 V/Div であれば 1 V/Div と読み替えなければならない。実験で使用するオシロスコープでは,この読み 替えを設定することができる。 方形波(振幅 5 V,周波数 1 kHz)をオシロスコープで測定したときの例を図 6 に示す。画面の 格子状の目盛り(大きな目盛り)の単位が Division(Div)である。垂直方向は電圧を,水平方向は 7−4 MENU ᤨ㑆䈱ၮḰ⟎ CH1 䈱 0 V 䈱⟎ 䊃䊥䉧䊧䊔䊦 1 Division 㔚ᗵᐲ䋨Volt/Div䋩 ᒁᤨ㑆䋨Sec/Div䋩 図6 䊃䊥䉧䈮㑐䈜䉎ᖱႎ 測定時の画面の例 時間を表している。オシロスコープの電圧感度(Volt/Div)と掃引時間(Sec/Div)は,画面下に 「CH1 2.00V M 250µs」などと表示されている。 「CH1 2.00V」とは,CH1 の電圧軸の 1 Div が 2.00 V であることを示している。 「M 250µs」とは,時間軸の 1 Div が 250 µs (250 × 10−6 s) であることを示している。この他に,グランドレベル(0 V)やトリガレベルなどの情報も表示さ れている。なお,波形表示部の右側には,各操作キーに対応したメニューが表示される。 3. 実験装置・使用機器 ディジタル・オシロスコープ(Tektronix TDS1002B),発振器(TEXIO FG-274), プローブ,実験キット(回路ボックス,接続用ケーブル,抵抗など) 4. 実験方法 4.1 簡単な波形観測 I 以下の手順に従い,オシロスコープの方形波出力端子(PROBE COMP)出力の波形を観測し てみよう。 (1) オシロスコープの電源を入れる(On にする)。起動には数 10 秒かかる。 (2) プローブの BNC コネクタをチャネル 1 の入力端子(CH1)に接続し,プローブのクリップ 部分を「PROBE COMP」端子に接続する。アース線は接続しなくてもよい。 (3) 「CH1 MENU」ボタンを押し,垂直入力(Coupling)を「DC」とする。メニュー横のボタ ンを押すと, 「DC」, 「AC」, 「Ground」と順に切替る。 DC : 直接接続され,入力信号は直流成分も含めてそのまま表示される(DC 結合)。 AC : コンデンサを通じて接続される(AC 結合)。入力信号の直流成分はカットされ,交 流成分のみが表示される。 Ground : 垂直軸増幅器の入力が接地される。 7−5 (4) 「PROBE CHECK」ボタンを押す。 使用するプローブの倍率などを自動でチェックする。 ・設定が正しい場合は, 「Probe check on CH1 PASSED」と表示される。 ・設定が異なる場合,例えば 1:1 から 10:1 プローブに取り替えたときは, 「Probe attenuation factor for CH1 should be 10X」と表示される。正しければ, 「Yes」のボタンを押す。 ・ 「CH1 MENU」で確認できる。「Probe」に「10X」と「Voltage」と表示される。 (5) 「AUTOSET」ボタンを押す。 この操作で,オシロスコープが入力信号を判断し,適当な電圧感度(VOLTS/DIV)と掃引 時間(SEC/DIV)に設定して,波形を画面(LCD)に表示してくれる。 ※ 観測信号の情報として,1 周期内のピークとピークの間の電圧(Pk-Pk),周期(Period), 周波数(Frequency)なども自動計測して表示してくれる。 ※ 測定者が希望する設定,情報が得られるとは限らない。 (6) 波形が 2∼3 周期,大きく表示されるように調整する。図 6 を参考にするとよい。 ※ 垂直方向(電圧感度)のレンジの切替は「VOLTS/DIV」ダイアルで,水平方向(掃引時 間)のレンジの切替は「SEC/DIV」ダイアルで行う。 ※ 波形の掃引開始位置を調整するときは, 「TRIGGER LEVEL」のダイアルを回す。 (7) 方形波の波形が図 5(a) のように観測されることを確認する。 ※ 図 5(b) または (c) のように観測されるときは,指導担当者に知らせること。 ※ 指導担当者は,(a) の波形になるようにプローブの調整孔の中に見えるトリマ・コンデン サ(図 4 を参照)をプラスチック製の小型ドライバで調整する。 (8) 波形の振幅と周期を読み取る。 「CURSOR(カーソル)」ボタンを押すと画面にメニューが表示される。振幅を求めるとき は「TYPE」を「Amplitude」に,周期のときは「Time」にする。そして, 「Cursor1」また は「Cursor2」のボタンを押し,ランプが付いているダイアルをまわす。∆V (振幅),∆t (周期)などの値を読み取る。終了するときは「TYPE」を「OFF」にする。 (9) 観測された波形をグラフ用紙(1 mm 方眼紙)にスケッチし,周波数,振幅,その他の測定 条件(電圧感度,掃引時間,など)を記録する。 ※ グランドレベル(0 V)の位置も忘れずに! 「POSITION」のつまみを回すと,グランドレベルの位置を変えることができる。 ※ 測定波形は,デジタル化されているので階段状に表示されるが,スケッチにおいては,滑 らかに描くこと。 7−6 ※ 波形を連続して取り込むのを開始/停止するとき, 「RUN/STOP」ボタンを押す。 (10) 垂直入力(CH1 MENU の Coupling)を「AC」に切替えると,波形がどのように表示され るかを確認しよう。 ※ 波形が停止しない場合は, 「TRIGGER LEVEL」のダイアルを回して調整する。 4.2 簡単な波形観測 II 人体に誘導されている交流雑音を測定してみよう。人間の指先には,周期が数 10 ms で,電圧 が数 10 m V∼数 10 V 程度の交流電圧が誘導発生している。商用電源などの電界によって誘導さ れていることが多く,観測波形の周期から確認できる(東日本の商用電源周波数は 50 Hz)。以下 の手順で測定しなさい。オシロスコープの基本的な操作方法は実験 4.1 と同じである。 (1) プローブをオシロスコープのチャネル 1 に接続する。 (2) 「CH1 MENU」ボタンを押し,垂直入力(Coupling)を「AC」にする。 (3) プローブの測定用クリップ部分を指先にあてる。アース線は接続しない。 (4) 「AUTOSET」ボタンを押す。 (5) 波形が 2∼3 周期,大きく表示されるように調整する。 ※ 垂直方向(電圧感度)のレンジの切替は「VOLTS/DIV」ダイアルで,水平方向(掃引時 間)のレンジの切替は「SEC/DIV」ダイアルで行う。 ※ 「TRIGGER LEVEL」のダイアルを回して,波形の掃引開始位置を調整する。 (6) カーソルを利用し,波形の振幅と周期(周波数)の値を読み取る。 ※ 振幅の電圧は,波の山の頂点から谷の底のまでの振幅で表現することが多く,○○ Vpp (○○ボルト・ピーク・トゥ・ピークと読む)のように表す。また,周期は,波の山の頂点か ら次の波の山の頂点までの時間を測定することによって求められる。0 V の位置,谷の底で 測定してもよい。 (7) 観測された波形をグラフ用紙(1 mm 方眼紙)にスケッチし,信号の振幅と周期(周波数), その他の測定条件(電圧感度,掃引時間,など)を記録する。 ※ グランドレベル(0 V)の位置も忘れずに! ※ 測定波形は,デジタル化されているので階段状に表示されるが,スケッチにおいては,滑 らかなに描くこと。 7−7 4.3 簡単な波形観測 III 図 7 の実験用回路ボックスに抵抗,ダイオード,コンデンサを接続し,正弦波(交流電圧)を印 加したときの出力波形を測定する。以下の手順で測定しなさい。オシロスコープの基本的な操作 は実験 4.1,2 と同じである。 B A GND 図7 実験用回路ボックス (1) 図 8 となるように,回路ボックスに抵抗 R(100 kΩ)を接続する。次に,発振器の出力端子 MAIN(50Ω)と回路ボックスをケーブルで接続する。発振器の外観を図 9 に示す。接続時 は,発振器の電源を切り(Off にし),振幅調整つまみ(AMPL)を左いっぱいに(MIN ま で)まわして(出力を 0 V にして)おくこと。 ※ 出力端子(MAIN)接続時の内部抵抗は 50 Ω である。 B A R0 R GND GND 回路ボックス 発振器 図8 図9 発振器と回路の接続 実験で使用する発振器 (2) プローブをオシロスコープのチャネル 1 に接続し,抵抗 R にかかる電圧を測定する。このと き,プローブのクリップ部分を端子 B に,アースを GND 端子に接続する(どちらも抵抗の 導線部分にクリップするとよい)。 (3) オシロスコープの垂直入力を DC にする。 7−8 (4) 発振器の電源を入れ,以下のように設定する。 ・波形を「正弦波」に設定する:WAVE ボタンを押し, 「∼」を選択する。 ・周波数を「1 kHz」に設定する:テンキーの 1 を押した後, 「kHz」ボタンを押す。 ※ 発振器の分解能は 0.1 Hz である(カタログ値)。 ・出力電圧を「6 Vpp 」に設定する。設定は (5) で行う。ここでは,振幅(AMPL)つまみ を少しだけ回しておく(出力を数 V にする)。 ※ 上記以外のボタンやつまみには触れないこと(発振器の設定が変わる可能性があるので 注意すること)。 (5) 「AUTOSET」ボタンを押し,波形を表示させる。 ・電圧感度(VOLTS/DIV)を 1 V/Div に設定する。 ・正弦波の振幅が 6 Vpp となるように,振幅つまみを回して調整する。 ・掃引時間(SEC/DIV)を適当に切り替え,波形を 2∼3 周期表示させる。 ・波形をスケッチし,信号の振幅と周期(周波数),その他の測定条件を記録する。 (6) 次に,図 10(a) となるように,回路ボックスにダイオード(シリコンダイオード 1S1588)を 接続する。 ・抵抗 R にかかる電圧を測定し,ダイオードの役割を観測する。 ・観測された波形をスケッチし,振幅,周期(周波数),その他測定条件を記録する。 B A B A D D R C GND R GND (a) 整流回路 (b) 平滑回路 図 10 測定回路 (7) さらに,図 10(b) となるように,回路ボックスにコンデンサ(0.01 µF)を追加する。(6) と 同様に,抵抗 R にかかる電圧を測定し,コンデンサの役割を観察する。 ・観測された波形をスケッチし,振幅,周期(周波数),その他測定条件を記録する。 ※ (6) と同じレンジで測定すること。 ※ 波形が止まらないときは,TRIG LEVEL を調整してみよう。 (8) レポート作成時に,(6) と (7) の結果(波形)を重ねて描き,1 つの図とする。 7−9 (9) 時間に余裕があれば,(6) と (7) について,2 現象で波形観察してみよう(はじめから 2 現象 で観察してもよい)。 チャネル 1(CH1)に入力信号(A 端子に接続),チャネル 2(CH2)に出力信号(B 端子に 接続)とする。なお,トリガソースを CH1 にする。トリガソースを切替えるときは, 「TRIG MENU」の「Source」を押し,選択する。 5. 考察 ・ プローブの位相調整を行わないで,実験 4.2 や 4.3 の波形を測定したら,どのようにな結果 になるかを考える。 ・ 実験 4.3(6)(7) において,垂直入力切替スイッチを AC で測定したとき,観測される波形の 概略を図示し,なぜそのような結果になるかを考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 6. 検討課題 (1) 図 10(a) の回路では,ダイオードによって正の電圧のみを出力しており,半波整流と呼ばれ る。全波整流について調べ,それを実現するためにはどのような回路であればよいか,また その動作を考えてみよう。 (2) 図 10(b) のようなダイオードとコンデンサを用いた回路は,家庭用交流電圧を直流電圧に変 換する電源回路(AC アダプタなど),通信機器(ラジオ,テレビ,無線機など)の検波器, など多くの電子・電気機器に応用されている。ダイオードとコンデンサの特性について調べ, 実験 4.3 の結果,およびこの回路における役割について考えてよう。 7. 参考文献 [1] 大浦,関根:“電気・電子計測”,昭晃堂 (1992). [2] 岩崎:“電子計測”,森北出版 (2002). [3] オシロスコ−プの取扱い説明書 [4] 福田,田中:“図解雑学 電子回路”,ナツメ社 (1999). [5] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [6] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). 7 − 10 8 オシロスコープ II 1. 目的 オシロスコープ(Oscilloscope)の使用法についての基本的な知識を習得する。また,オシロス コープを用いて基本的な回路素子(ダイオード,コンデンサ,など)の働きを調べる。 2. 原理 オシロスコープは, 電気信号(電圧)の時間的変化を観測できる装置であり,物理現象の観測に はもちろんのこと,工学や医学の分野で広く使用されている。図 1 は実験で使用するオシロスコー プの外観である。 図1 実験で使用するオシロスコープ 2.1 電気信号について 物理量(例えば,電圧や電流,温度など)が時間的に変化するものが伝えられるとき,それを 信号と呼ぶ。それらを電圧,あるいは電流で表したものが電気信号である。なお,連続な時間軸 上で定義される信号を連続時間信号(アナログ信号)といい,v(t) のように連続時間変数 t の関数 で表される。 電気抵抗器に直流電流(DC)を流した場合を例に考えてみよう。電流を I ,抵抗値 R の抵抗器 の両端の電位差(電圧)を V とすると,オームの法則 V = RI (1) が成り立つ。この関係は,交流電流(AC)∗ を流した場合も成立する。なお,電圧の単位は V(ボ ルト),電流は A(アンペア),抵抗は Ω(オーム)である。 次に,交流電流の場合について考えてみよう。いま,時間 t [s] の関数として正弦波で表される 交流電流を流すものとして,電流および電圧をそれぞれ i(t) および v(t) と表すことにする。交流 の角周波数を ω [rad/s],周波数を f [Hz] とすると ω = 2πf ∗ 電流の向きが時間的に交互に変化する電流を交流と言う。 8−1 (2) である。電流の最大値を I0 として,角周波数を用いて交流電流 i(t) を表すと i(t) = I0 sin(ωt + θ) (3) と書ける。ただし, θ [rad] は任意の定数であり,位相と呼ばれる。オームの法則により,電圧は v(t) = RI0 sin(ωt + θ) (4) V0 = RI0 (5) v(t) = V0 sin(ωt + θ) (6) と表される。ここで, とおくと,式 (4) は と表すことができる。また,交流信号の周期を T とすると, f= 1 T (7) である。従って,オシロスコープで周期 T [s] を測定することによって,信号の周波数 f を求める ことができる。また,あらかじめテスターで抵抗 R の値を測定しておき,オシロスコープで電圧 V0 を測定することによって,式 (5) から電流 I0 を求めることができる。これにより,電流の時間 変化の様子も知ることができる。この方法は,回路の電流測定などに一般的に用いられる方法で ある。 2.2 ディジタル・オシロスコープ オシロスコープには,アナログ・オシロスコープとディジタル・オシロスコープがある。近年 では,電気信号をディジタル信号(時間,振幅が離散的な信号)に変換して内部処理するディジ タル・オシロスコープが広く使われるようになってきている。ここでは,実験で使用するディジ タル・オシロスコープについて概説する。 ディジタル・オシロスコープの主な構成を図 2 に示す。入力信号は,電圧感度(Volt/Div)の 設定に対応して増幅(減衰)され,A/D 変換器(Analog to Digital Converter)でディジタル信 号に変換される。A/D 変換器では,標本化(Sampling)と量子化(Quantization)が行われる。 A/D 変換器から出力されたデータは,メモリに蓄えられる。メモリに書き込むタイミング(波形 信号 増幅器 A/D 変換器 メモリ トリガ回路 外部トリガ 図2 ディジタル・オシロスコ−プの構成 8−2 LCD の開始点)は,時間基準信号発生回路とトリガ回路で決まる。そして,データは,メモリからビ デオ再生回路に送られ,LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)に表示される。ディ ジタル・オシロスコープでは,メモリにデータを記録するため,観測できない時間間隔が発生す る。しかし,単発の現象が観測できるという利点がある。 (1) 標本化(サンプリング) 時間的に連続に変化するアナログ信号を適当な時間間隔で取り出す。この時間間隔をサンプリ ング間隔などと呼ぶ。サンプリング間隔を大きく取ると,速い現象を見逃してしまう恐れがある。 サンプリング間隔を Ts とすると,次の条件(標本化定理)が満たされなければならない。 Ts ≤ 1 2fM (8) ここで,fM は信号が持つ最大周波数である。なお,fs = 1/Ts はサンプリング周波数と呼ばれ る。実験で使用するオシロスコープでは,サンプルレートという表現が使用されており,5 S/s∼ 1 GS/s となっている(1 GS/s は 1 秒間に 109 点取り込む,という意味)。なお,サンプリング間 隔(サンプルレート)は,時間軸(Sec/Div)の設定によって決まる。 (2) 量子化 標本化された信号は,最も近い 2 進数のコード(値)に割り当てられる。量子化の精度(分解 能)は,何桁の 2 進数で表現するかによって決まる。2 進数の桁数の単位を bit(ビット)という。 実験で使用するオシロスコープの分解能は 8 bit である。この場合,28 =256 通りの値に割り振ら れる。つまり,測定値は 256 段階の値となる。 ディジタル・オシロスコープで測定した値は離散時間かつ離散振幅値のディジタル信号として 観測される(階段状に表示される)が,実際の測定信号は連続時間かつ連続振幅値のアナログ信 号であることに注意すること。 2.3 電圧波形の測定 波形をオシロスコープで測定するときは,一般的に,図 3 のように接続して,測定対象 V の両 端にかかる電圧を測定する。このとき,被測定回路の動作に影響を与えないこと,およびノイズ の重畳を防ぐことが必要である。そのため,測定対象に適したプローブを使用する。プローブに ついては, 「オシロスコープ I」や「付録」の説明を参考のこと。また,測定対象に同軸ケーブルな Oscilloscope (信号側) + - V Oscilloscope (アース側) 図3 オシロスコ−プでの測定方法 8−3 MENU ᤨ㑆䈱ၮḰ⟎ CH1 䈱 0 V 䈱⟎ 䊃䊥䉧䊧䊔䊦 1 Division 㔚ᗵᐲ䋨Volt/Div䋩 ᒁᤨ㑆䋨Sec/Div䋩 図4 䊃䊥䉧䈮㑐䈜䉎ᖱႎ 測定時の画面の例 どで直接接続する場合もある。これは,電圧信号がそのまま観測される 1:1 プローブを使用する のと等価である。本実験では,測定対象に同軸ケーブルを直接接続して測定する。 方形波(振幅 5 V,周波数 1 kHz)をオシロスコープで測定したときの例を図 4 に示す。画面の 格子状の目盛り(大きな目盛り)の単位が Division(Div)である。垂直方向は電圧を,水平方向は 時間を表している。オシロスコープの電圧感度(Volt/Div)と掃引時間(Sec/Div)は,画面下に 「CH1 2.00V M 250µs」などと表示されている。 「CH1 2.00V」とは,CH1 の電圧軸の 1 Div が 2.00 V であることを示している。 「M 250µs」とは,時間軸の 1 Div が 250 µs (250 × 10−6 s) であることを示している。この他に,グランドレベル(0 V)やトリガレベルなどの情報も表示さ れている。なお,波形表示部の右側には,各操作キーに対応したメニューが表示される。 3. 実験装置・使用機器 ディジタル・オシロスコープ(Tektronix TDS1002B),発振器(TEXIO FG-274), 実験キット(回路ボックス 1,2,接続用ケーブル,抵抗など) 4. 実験方法 実験 4.1 では発振器出力の正弦波を,実験 4.2 では電源回路において交流が直流に変換されてい く過程を観測する。 D A B AC 100 V C GND D 図5 実験用回路ボックス 1 図6 8−4 実験用回路ボックス 2 R 4.1 簡単な波形観測 I 以下の手順に従い,発振器出力の正弦波の波形を観測してみよう。発振器の外観を図 7 に示す。 図7 実験で使用する発振器 (1) オシロスコープの準備 i) オシロスコープの電源を入れる(On にする)。起動には数 10 秒かかる。 ii) 「CH1 MENU」ボタンを押し,メニューを開く。 iii) 垂直入力(Coupling)を「DC」とする。メニュー横のボタンを押すと, 「DC」, 「AC」, 「Ground」と順に切替る。 DC : 直接接続され,入力信号は直流成分も含めてそのまま表示される(DC 結合)。 AC : コンデンサを通じて接続される(AC 結合)。入力信号の直流成分はカットされ, 交流成分のみが表示される。 Ground : 垂直軸増幅器の入力が接地される。 iv) 「Probe」の項目が「1X」, 「Voltage」となっていることを確認する。 「10X」などと表 示されている場合は, 「Probe」のボタンを押し, 「Attenuation」のボタンを複数回押し て「1X」とする。 (2) 実験装置の配線 図 8 のように結線する。図 5 の回路ボックス 1 に抵抗 R を接続する。次に,発振器の出力端 子 MAIN(50Ω)と回路ボックスの A 端子をケーブルで接続する。また,回路ボックスの B 端子とオシロスコープのチャネル 1(CH1)を接続する。 (3) 発振器の準備 i) 発振器の電源を入れる。 ii) 波形を「正弦波」に設定する:WAVE ボタンを押し, 「∼」を選択する。 iii) 周波数を「4 kHz」に設定する:テンキーの 4 を押した後, 「kHz」ボタンを押す。 ※ 発振器の分解能は 0.1 Hz である(カタログ値)。 8−5 r B A CH1 R CH2 GND 回路ボックス1 オシロスコープ 発振器 図8 測定系の構成図 iv) 振幅(AMPL)つまみを 12 時方向にする。 ※ 上記以外のボタンやつまみには触れないこと(発振器の設定が変わる可能性がある ので注意すること)。 (4) 波形の観測 i) 「AUTOSET」ボタンを押す。 この操作で,オシロスコープが入力信号を判断し,適当な電圧感度(VOLTS/DIV)と 掃引時間(SEC/DIV)に設定して,波形を画面(LCD)に表示してくれる。 ※ 観測信号の情報として,1 周期内のピークとピークの間の電圧(Pk-Pk),周期(Pe- riod),周波数(Frequency)なども自動計測して表示してくれる。 ※ 測定者が希望する設定,情報が得られるとは限らない。 ii) 波形が 2∼3 周期,大きく表示されるように調整する。画面の見方については,図 4 を 参考にするとよい。 ・電圧感度(VOLTS/DIV)を適当に切り替え,波形の上下端が納まるようにする。 ・掃引時間(SEC/DIV)を適当に切り替え,波形を 2∼3 周期表示させる。 ※ 垂直方向(電圧感度)のレンジの切替は「VOLTS/DIV」ダイアルで,水平方向(掃 引時間)のレンジの切替は「SEC/DIV」ダイアルで行う。 ※ 波形の掃引開始位置を調整するときは, 「TRIGGER LEVEL」のダイアルを回す。 iii) 波形の振幅と周期(周波数)を読み取る。 「CURSOR(カーソル)」ボタンを押すと画面にメニューが表示される。振幅を求める ときは「TYPE」を「Amplitude」に,周期のときは「Time」にする。次に, 「Cursor1」 または「Cursor2」のボタンを押し,ランプが付いているダイアルをまわす。∆V (振 幅),∆t(周期)などの値を読み取る。終了するときは「TYPE」を「OFF」にする。 iv) 観測された波形をグラフ用紙(1 mm 方眼紙)にスケッチし,周波数,振幅,その他の 測定条件(電圧感度,掃引時間,など)を記録する。 ※ グランドレベル(0 V)の位置も忘れずに! 「POSITION」のつまみを回すと,グランドレベルの位置を変えることができる。 8−6 ※ 測定波形は,デジタル化されているので階段状に表示されるが,スケッチにおいて は,滑らかに描くこと。 ※ 波形を連続して取り込むのを開始/停止するとき, 「RUN/STOP」ボタンを押す。 v) 発振器の周波数や振幅,波形を変えて,観測してみよう。 4.2 簡単な波形観測 II テレビゲームなどの電源(AC アダプタ),携帯電話の充電装置などの内部には,実効値 100 V (振幅は約 141 V)の交流から数 V 程度の直流を作る「電源回路(AC/DC 変換回路)」が組み込 まれている。本実験で用いる電源回路では,実効値 100 V の交流をトランス(変圧器)で,振幅 が約 6 V の交流に変換する。次いで,ダイオードにより一方向(実験では正方向)にのみ流れる 電流に変換する(整流)。さらに,コンデンサを用いて時間的な変動を小さくし(平滑化),直流 電圧に近い状態になるようにしている。実際に利用されている電源回路には,定電圧直流電源を 得るためにもっと複雑な回路が追加されている。以下の手順で,交流が直流に変換されていく過 程を観測しよう。 (1) オシロスコープの準備 i) 「CH1 MENU」ボタンを押し,垂直入力(Coupling)を「DC」とする。 ii) 「TRIG MENU」の「Source」を押し, 「CH1」を「AC LINE」に変える。 iii) 電圧感度(VOLTS/DIV)を 2 V/div 程度,掃引時間(SEC/DIV)を 5 ms/div 程度に しておく。 ※ 波形観測時には,これらを適当に設定し,波形を 2∼3 周期表示させる。 (2) 実験装置の準備 図 6 の実験用回路ボックス 2 の電源を接続する。抵抗 R の両端と,オシロスコープの CH1 を同軸ケーブルで接続する。 ※ 回路を組むとき(結線するとき)は,回路ボックス 2 の電源スイッチを OFF にすること。 (3) 波形観測 次の (i)∼(vi) の指示に従って,図 6 の実験用回路ボックス 2 の端子間を結線して,図 9 に示 された回路を作り,抵抗 R の両端の電圧をオシロスコープで測定する。オシロスコープの基 本的な操作方法は実験 4.1 と同じである。 ※ 波形をスケッチするときは,グラフ用紙に,正確かつ滑らかに描くこと。また,スケッチ したグラフ用紙に電圧感度(VOLTS/DIV),掃引時間(SEC/DIV),振幅,周期などの情 報も記録しておくこと。 8−7 (i) トランスを通過した交流の波形 (基本回路 1) 図 9(a) の回路を作り,抵抗 R の両端の電圧をオシロスコープで測定する。そして, 波形をスケッチする。 (ii) 半波整流回路 図 9(b) の半波整流回路を組み立て,波形を測定し,スケッチする。このとき,(i) の 波形と (ii) の波形を,同一のグラフ用紙に色などを変えて重ね描きしてみよう。ダイ オードを流れる電流の向きを確認でき,ダイオードの働きを理解しやすい。 (iii) 平滑回路 コンデンサを図 9(c) のように接続して,波形を測定し,スケッチする。この場合も, (ii) のグラフに色などを変えて重ね描きしてみよう。コンデンサの働きを理解しやすい。 (iv) トランスの 2 次側巻き数が少ないときの交流の波形 (基本回路 2) 図 9(d) の回路を組み,波形をスケッチする。(i) の回路との電圧の違いがなぜ起きる のかを考えよう。 (v) 全波整流回路 1 図 9(e) の回路を組み,波形をスケッチする。(iv) と (v) の波形を,同一のグラフ用紙 に色などを変えて重ね描きしてみよう。 電流がどのような道筋を通って流れているかを考えよう。 (vi) 全波整流回路 2 図 9(f) の回路を組み,波形をスケッチする。 (v) と違いを考えてみよう。 R R (a) ᇶᮏᅇ㊰ (b) ༙Ἴᩚὶᅇ㊰ R R (c) ᖹᅇ㊰ (d) ᇶᮏᅇ㊰ R R (e) Ἴᩚὶᅇ㊰ (f) Ἴᩚὶᅇ㊰ 図9 測定回路 8−8 5. 考察 ・ 交流が直流に変換されていく過程の観察結果を整理し,各素子の働き(役割)を考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 6. 検討課題 (1) 図 9(f) では,4 個のダイオードを用いたブリッジ回路が使われている。ダイオードがどのよ うに組み合わされているかを調べ,どのように動作するのか考えよう。 (2) 実験 4.2 (ii),(iii) において,垂直入力切り替えスイッチを AC で測定したとき,結果がどの ようになるか考えよう。このとき,波形の概略を図示してみよう。 7. 参考文献 [1] 大浦,関根:“電気・電子計測”,昭晃堂 (1992). [2] 岩崎:“電子計測”,森北出版 (2002). [3] オシロスコ−プの取扱い説明書 [4] 福田,田中:“図解雑学 電子回路”,ナツメ社 (1999). [5] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [6] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). 8−9 9 光のスペクトル分析 1. 目的 プリズム分光器を用いて各種放電ランプから発せられる輝線スペクトルを観測する。スペクト ル分析の原理を学び,蛍光灯から発せられる輝線スペクトルの波長を測定して蛍光灯内の元素を 推定する。 2. 原理 2.1 プリズムによる分光 通常,光といっているものは可視光線のことであり,電磁波の一種である。電磁波はその波長 (あるいは振動数∗ )の違いにより,電波,可視光線,X 線,γ 線などに分けられる。物質(媒質) の誘電率を ε,透磁率を µ とすると,光が物質内を伝わる速さ(光の速さ)v は 1 v=√ εµ (1) で求められる。真空中での光の速さ c は,c = 2.99792458 × 108 m/s である。一方,物質中での光 の速さは振動数によって異なる。光の振動数を f [Hz],波長を λ [m] とすると,光の速さ v [m/s] と v = fλ (2) の関係がある。可視光線の波長領域は概ね 350∼700 nm である。ただし,1 nm=10−9 m である。 光が物質中を通過する際,光の速さは真空中のそれに比べて小さくなる。真空からある媒質に 光が入射する場合を考えてみよう。屈折率 n は,真空中の光の速さ c と媒質中の光の速さ v の比 であり, n= c √ = εr µr v (3) で表される。ただし,εr は比誘電率,µr は比透磁率である∗ 。物質(ガラスなど)の εr および µr は振動数(周波数)によって異なるという特性がある(周波数分散性を持つ)。つまり,屈折率は 振動数によって異なる。言い換えると,屈折率の異なる媒質が平面で接している場合,媒質中で の光の速さの違いから光の屈折,全反射などがおこる。なお,屈折率は,式 (2) の関係から,光の 波長の違いによっても異なる。一方,屈折率 n は,入射角を θ1 ,屈折角を θ2 とすると, n= sin(θ1 ) sin(θ2 ) (4) と表せる。したがって,光の波長が異なると屈折率が異なり,屈折角が異なることがわかる。 ∗ 単位時間当たりの振動の回数。周波数ともいう。 真空中の誘電率と透磁率をそれぞれ ε0 ,µ0 とすると,媒質の誘電率と透磁率はそれぞれ ε = ε0 εr ,µ = µ0 µr で ある。 ∗ 9−1 ග䠄ⓑⰍ䠅 ㉥ ⥳ 㟷 䝥䝸䝈䝮 図1 プリズムによる分光の模式図 ガラスで作られたプリズムを太陽光が通過すると,虹のような七色に分かれる。これは,太陽 光にはいろいろな波長の光が含まれており,ガラスではそれらの波長の光に対する屈折率が異な るためである。図 1 は,3 つの異なる波長の光が含まれている光が,プリズムによって分光される 様子を示したモデル図(模式図)である。 2.2 原子の発光スペクトル 一般に,スペクトルとは,波を周波数(振動数)ごとに分けたときの周波数に対する強度分布 のことをいう。ここでは,光の波長に対する光の強度分布のことをスペクトルと呼んでいる。現 在では強度分布のことを広くスペクトルということも多い。光のスペクトルは大きく二つに分け られる。 (1) 連続スペクトル 高温の物体からは,連続した波長の光が発生する。光の波長による分布(スペクトル)の強 度は特定の波長で強く, そこから離れるにしたがって弱くなる。最大の強度の波長はその物 体の温度で決定される。温度の低い物体は, 赤っぽく見え(赤熱), 温度の高い物体では, 黄 色から白っぽく見える。星にもさまざまな色があることは, 連続スペクトルの強度分布によっ て説明される。連続スペクトルをプリズムなどに通すと虹のような色に分かれて見える。 (2) 線スペクトル 原子や分子からの発光では,その原子,分子特有の波長の光が出て来る。この光をスリット に通した後,プリズムなどに通すと,光は波長毎に分離され,図 2 のように線状に観測され る。原子や分子から出る線スペクトルは,その原子や分子に固有のものであるので,光の波 長を測定することで,原子の存在を確認することができる。 図2 分光器の目盛と線スペクトルの例 9−2 2.3 分光器の目盛の校正 実験では,プリズム分光器を使用する。一般に,分光器にはスペクトルの波長を読み取るための 目盛がついている。分光器の目盛に対して,線スペクトルは図 2 のように見える。しかし,その目 盛は波長の値を直接示すものとなっていない。つまり,この分光器を用いて波長を知るためには, 既知の波長を用いて波長と目盛の対応関係を求めておく(校正∗ する)必要がある。分光器の尺度 目盛と入射光のスペクトルの波長の関係を表すグラフが校正曲線∗∗ である。校正曲線の作成例を 図 3 に示す。図では,波長が既知の光を得るための光源として Hg, Cd, Na ランプを用いている。 Hg, Cd, Na ランプから発せられる光の代表的な輝線スペクトルの波長を表 1 に示す。Na の黄 線は波長 589.6 nm の D1 といわれるスペクトル線と,波長 589.0 nm の D2 といわれるスペクトル 線が分離できず重なって見える。そのため,表中の波長 589.3 nm は D1 と D2 の平均値である。 波長 [nm] 700 Hgランプ Cdランプ Naランプ 600 500 400 0 1 2 3 4 5 目盛 図3 表1 色 黄 黄 緑 青緑 青 紫 紫 Hg 波長 [nm] 579.1 577.0 546.1 491.6 435.8 407.8 404.7 校正曲線の例 Hg, Cd, Na の代表的な発光スペクトル 強度 色 強 強 強 微弱 強 微弱 弱 赤 緑 青緑 青 青 紫 Cd 波長 [nm] 643.8 515.5 508.6 480.0 467.8 441.5 強度 色 強 微弱 強 強 強 弱 赤 橙 黄緑 Na 波長 [nm] 616.1 589.3 568.8 強度 微弱 強 微弱 ※ 文献 [4] を参考に作成したものである。 ∗ ∗∗ 「較正」とも書く。 正確には, 「尺度目盛の波長による校正曲線」という。 9−3 使用する分光器と作成した校正曲線を組み合わせると,波長計として機能するようになる。な お,波長計を装備した分光器もある。 3. 実験装置・使用機器 プリズム分光器,波長既知の光源(Hg, Cd, Na ランプ各 1 本)とその起動装置,電球(電気ス タンド),蛍光灯 4. 実験方法 分光器の目盛りと波長の関係(校正曲線)を求め,その関係をもとに蛍光灯中の元素を推定す る。プリズム分光器∗ による測定系の模式図を図 4 に示す。以下の手順で行いなさい。 尺度目盛 スリット 接眼レンズ プリズム 光源 図4 プリズム分光器を用いた測定系 (1) ピントを合わせる 水銀ランプを用い,分光器で見える尺度目盛と,線スペクトルが同時にピントがあった状態 になるように,接眼レンズ部分を抜き差しする。 ※ ピンボケは誤差の元です。なお,ピン トが合わせにくい,各色の線スペクトルの視認が難しい場合には,指導員に連絡すること。 (2) 校正曲線の作成 i) 可視光線がすべて観察できる状態になっているかを確認するために,電球の連続スペ クトルを分光器で観察する。 分光器の望遠鏡可動ハンドルを調節し,紫から赤までの 連続スペクトルの範囲(可視領域)の概略値を尺度目盛で読みとる。グラフ用紙の縦軸 に波長をとり,横軸には尺度目盛を読みとった範囲程度に目盛る。 ii) 光源を Hg ランプに取り替える。 ∗ 実験で使用する分光器は調整済であるので,コリメータ等の調整は不要である。 9−4 iii) 表 1 を参照しながら,輝線スペクトルの見える位置を分光器の尺度目盛で読みとる。こ のとき接眼レンズ微動用ねじを調節し,読み取りたいスペクトルを中心に移動してお く。測定結果を表 2 のようにまとめると分かりやすい。 表2 測定結果をまとめる表の例(Hg ランプの場合) 色 波長 [nm] 黄 黄 緑 青緑 青 紫 紫 579.1 577.0 546.1 491.6 435.8 407.8 404.7 尺度目盛の読み 1 回目 2 回目 平均 ○.○○ : △.△△ : 備考 ×.×× : 表 1 以外の 輝線スペクトル iv) 光源を Cd ランプに取り替え,iii) と同様に,輝線スペクトルの見える位置を分光器の 尺度目盛で読みとる。 v) 光源を Na ランプに取り替え,iii) と同様に,輝線スペクトルの見える位置を分光器の 尺度目盛で読みとる。 ※ 表 1 に示した以外の輝線スペクトルが見える場合がある。この場合については,尺 度目盛りの読みを記録しておく。そして,校正曲線を作成した後,それから波長を求め て,理科年表で確認する。 vi) 測定した尺度目盛の値と,それに対応する波長の値を用いて,測定点をグラフにプロッ トする。測定点には,× 印や + 印を用いて区別すること。 vii) グラフ上に,できるだけ多くの測定点(あるいはその近く)を通るように滑らかな曲線 (校正曲線)を 1 本描く(図 3 を参考にするとよい)。 ※ 校正曲線を滑らかに描けない場合や,校正曲線から大きく外れる測定点がある場合 は,測定に誤りがある可能性があるので,再測定を行うこと。 (3) 蛍光灯中の元素の推定 i) 蛍光灯から出る輝線スペクトルの見える位置を分光器の尺度目盛で読みとる。共同実 験者とは独立に,各自作成した校正曲線からこのスペクトルの波長を求める(校正曲 線の作成方法にもよるが,読みとれる波長の有効数字は,3 桁程度であろう)。 ii) 理科年表などを参考にして,蛍光灯中の元素を推定する。 iii) 推定した元素の波長と測定から得た波長の誤差を求める。 9−5 5. 考察 ・ 自分の測定結果の公称値からのずれ(誤差)が何によって生じたかを検討する。また,誤差 を定量的に求めて,結果の妥当性を考察する。 ・ この実験(得られた結果)からわかること,導かれる結論についてまとめる。 6. 検討課題 (1) 蛍光灯を分光器で見たとき,連続スペクトルが見える。なぜかを調べよう。 (2) プリズムとその分解能∗ について調べよう。また,Na のスペクトル D1 線と D2 線を分離し て観測するためには,プリズムの分解能がどの程度であればよいか? 検討しよう。 7. 参考文献 [1] 吉田,武居,橘,武居:“六訂 物理学実験”,三省堂 (1979). [2] 多田編:“物理学概説 上巻”,学術図書出版社 (1974). [3] 二間瀬,麻生:“図解雑学 電磁波”,ナツメ社 (1999). [4] 国立天文台編:“理科年表”,丸善 (2006). [5] 兵藤申一:“身のまわりの物理”,裳華房 (1994). [6] S.P. Parker 編(物理学大辞典編集委員会編) :“物理学大辞典”,丸善 (1999). [7] 物理学辞典編集委員会編:“物理学辞典”,培風館 (2005). ∗ 一般に,接近した同種の対象を測定・観測するとき,異なるものとして識別できる装置の能力を表す量。 9−6 A 付録 A.1 ディジタル式ノギスの使い方 A.2 電圧計・電流計の使い方 A.3 テスタ(デジタルマルチメータ)の使い方 A.4 たわみの式の導出 A.5 音速の理論値 A.6 プローブの位相補償 A−1 A.1 ディジタル式ノギスの使い方 ディジタル式ノギスは,副尺の移動距離をセンサで検知して,物体の厚さなどを測定し,結果 をディジタル表示する測定器である。 0 10 20 30 100 110 120 130 31.26 mm OFF A ON/ZERO B 図 A.1 C ディジタル式ノギスの模式図 (1) 上図の “A” と “B” の部分をピッタリ合わせ,“ON/ZERO” のスイッチを押し,表示が “0.00 mm” になることを確認する。 この操作は, 「ゼロ点の補正」に相当する。 ※ アナログ式ノギスは,何も挟まないときに主尺のゼロと副尺のゼロが一致するよう作ら れている。一方,ディジタル式ノギスでは,利用者が「ゼロ点」を補正しなければならない。 (2) 測定物を “A” と “B” の部分の間に挟み,表示の値を読み取る。 ※ “A” と “B” の間に測定物を挟むとき,“C” の部分に「親指」をあて,押す,あるいは引 いて “B” を移動させる。 (3) 測定終了後は,“A” と “B” の部分を合わせ,“OFF” のスイッチを押す。 表示が,消えたことを確認すること。 A−2 A.2 電圧計・電流計の使い方 電圧計は回路に並列に,電流計は回路に直列に接続して使用する。流れる電流の大きさを測定 するという意味では同じ原理を利用しているが,電圧計と電流計では内部抵抗が異なる。測定し たい値が測定によって変化を受けないように,電圧計では内部抵抗を大きく,電流計では内部抵 抗を小さくしてある。 アナログ式(針で値を示す方式のもの)の電圧計・電流計の “−(マイナス)端子” には複数の 端子があり,それぞれレンジ(最大値)が異なる。また,メータの目盛は上下に異なる目盛が振 られている場合が多い。つまり,どのレンジの端子に接続されているかで読み方が異なる。以下 に手順を示す。基本的な値の読み方は,電圧計も電流計も同じである。 (1) 針が振れていない状態の値(ゼロ点)を読む(または針をゼロに合わせる)。 (2) 電流計は回路に直列に挿入し,電圧計は測定対象と並列に接続する(例えば,p.6-2 の図 1)。 このとき,電圧計・電流計の “+ 端子” を測定対象のプラス側に,大きいレンジの “−端子” に測定対象のマイナス側を接続する。 ※ あらかじめ,どのくらいの値になるかを予想しておくとよい。針が振りきれたときは,直 ぐにレンジを切替えること。針が振りきれたままにすると壊れるので気をつけよう! ! (3) 針が振りきれずに,大きく振れるレンジを選択する。 (4) 接続した端子に記されている数字が目盛の最大値となるように読む。最小目盛の 10 分の 1 まで読むこと。 (5) 実験状況を後に把握できるように,測定レンジも記録する。 電流計を図 A.2 のように接続し(端子に接続されている黒い部分がケーブル),針が図のように 振れたとする。この値を読んでみよう。図 A.2 の電流計では,0.3,3,30 の端子に接続したとき, 上側の目盛で読む。なお, 「A」の表示は,この電流計は直流用の電流計であり,単位が A である ことを示している。「mA」であれば,直流用で,単位が mA である。なお,交流用は単位の下が 「∼」になっている。 ......... ...... ...... ... ........... ... ..... .... .... .... ... ........... .... ...... ..... ......... ................. ..... .. ........... ... .... .... .... ... ... ........... ... ...... ..... ......... .................. ... ......... .... ..... ..... ..... .... ... ............ .. . ..... ................ ...... ....... ........ ... ............ ... ..... .... .... .... ... .......... .... ....... ...... ...... .................. ... ......... .... ..... ..... ..... .... ... ............ ... . ..... ................ .................. ... ......... .... ..... ..... ..... .... ... ............ ... . ..... ................ 0.3 1 3 10 30 + 15 10 . .. . ... . ... . ... . .. . .. . . 20 .. . .... .......................................................................................................................... ... . .. . ... .. .......... ...................... . . . . ... . . .. ............................................................. . .. . . ... ......................... .. ..25 5.. . ................................................................ . . .. . ........................ .. .. .................... . 4 6 . ........................ .. .. .. ...................... ... . ..... ....................... ... .... ............................. . . 2 8...... . .......................................... .... . . . . . . . 0 .... ......................................... .. ...................... ...30 ... . ............ ........... . . ..... . ... . ..... ... . . 0 10 . .... .. . .. ... ... ... .. .. .. . ... A .. ..... ..... .... ... .......... 図 A.2 電流計による測定の例 A−3 5 針の位置は,24.5 + 0.5(目盛の最小刻み幅)× (目分量)= 24.75 と読める。最大目盛が 30 と 10 なっているが,この場合ではレンジ(最大値)が 3 A であるので,目盛の読みを 1/10 にする(0.3 のレンジであれば 1/100)。したがって,電流値は 2.475 A である。 なお,実験で使用する電圧計・電流計は全て 1 級測定器であるので,測定値には各レンジ(最 大値)の 1%の誤差がある。 A−4 A.3 テスタ(デジタルマルチメータ)の使い方 デジタルマルチメータは,アナログ–デジタル変換回路を用いて,測定値をデジタル数字で表示 する回路計であり,デジタルテスタとも呼ばれる(ここでは,単にテスタと呼ぶ)。一般に, 「ファ ンクションスイッチ」の切り換えにより,直流電圧,交流電圧,直流電流,交流電流,抵抗などの 測定,および導通状態のチェックなどが可能である(機能は装置の性能に依る)。詳細は取扱説明 書などを参照のこと。 液晶表示部 DCV OFF VΩ COM − 図 A.3 1.5V ファンクションスイッチ mA + テスタ(デジタルマルチメータ)の前面 本実験での使用法を以下に示す。 (1) 赤いテストリード(プラス側,ここでは赤ケーブルと呼ぶ)を “+ 端子” に,黒いテストリー ド(マイナス側,黒ケーブルと呼ぶ)を “− 端子” に接続する。 (2) 電圧を測定するときは, 「ファンクションスイッチ」を “DCV” (直流電圧を測定するモード) に合わせる。 抵抗の測定時には,“Ω”(抵抗測定モード)に合わせる。 (3) 赤ケーブルの先端(プローブチップ)を測定対象のプラス側に,黒ケーブルの先端を測定対 象のマイナス側にしっかりと接触させる。 ※ 極性を間違うと,破損(故障)の原因になるので注意すること。 (4) 「液晶表示部」の表示が落ち着いてから,値を読みとる。 (5) 測定が終了したら, 「ファンクションスイッチ」を “OFF” にし,電源を切る。 なお,実験で使用するテスタの測定値には,読み値の 0.5%と一番下の桁の数値に 2 を足した大 きさの誤差がある。 A−5 A.4 たわみの式の導出 実験「ヤング率」の図 3(p.2-2)に示される棒の中央のたわみ e の導出方法について説明する。 図 3 の棒の変形は左右対称なので,図 A.4 のように右半分だけを取り出して考える。すると,長 P 2 −v(x) x P 2 e y M (x) L 2 図 A.4 図 A.5 棒の右半分 L 2 −x S(x) 任意の x 座標から右側のつりあい さ L/2 の棒の左端が固定されていて,右端に P/2 の力(図 3 の全体構造で考えた場合の地面から の反力)が上向きに作用しているのと同じ変形となる。力のつりあいは,変形前のまっすぐな棒 の状態で考えてもさしつかえない程度に棒のたわみは微小であると考えておく。今,棒の左端を 原点として右向きに x 軸を,(構造力学の慣例に従って) 下向きに y 軸を取り,図 A.5 のように棒 の任意の x 座標で断面を切って右側を取り出すと,その切断面には,S(x) = − P2 の鉛直力と次式 で表されるモーメントの内部抵抗力が生じてつりあっていることになる。 M (x) = P 2 ( −x + L 2 ) (1) このように外力を受けた棒の内部に発生する抵抗力 (内力) としてのモーメントを曲げモーメント という。 次に,この棒の x 点での y 方向のたわみ v(x) とその点の x 軸方向のひずみ ε(x, y) の関係を考え る。ひずみについては,棒の断面の高さ方向 (y) の変化も考慮する。なお,v(x) や ε(x, y) は,変 形前の棒上の点の座標 x, y の関数として表されており,変形後の棒上の点の座標の関数ではない。 つまり,変形前に x の座標で表される棒上の点が,変形後に v(x) だけたわむことを表している。 図 A.6 のように,棒の一部について,曲率半径 R と微小な角度 dϕ で囲われる微小部分を取り出 して考える。棒の断面高さの中央部は,変形前から伸び縮みしておらず,Rdϕ の長さである。こ れに対して,棒の断面高さ中央部から下方に y 下がった位置では,伸びて (R + y)dϕ の長さになっ ている。つまり,高さ方向の位置 y でのひずみは,変形前の微小部分の長さに対する変形後の伸 dϕ R y 図 A.6 ϕ Rd )dϕ y + (R 変形後の棒の微小部分 A−6 びの比率であることから,次式で表される。 ε(x, y) = (R + y)dϕ − Rdϕ y = Rdϕ R (2) さて,曲率半径 R と微小な角度 dϕ, そしてこの微小な部分の x 方向の微小長さ dx には,図 A.7 1 dϕ のように,近似的に dx = Rdϕ のような関係があるから, = と変形できる。また,棒のた R dx dv わみ v(x) が,x の正方向の増加に対して,y の負方向に増加する傾きを ϕ = − で表すと,dϕ dx は,dx 離れたところで棒がどれだけその傾きを増加させたかを表している。これらの関係を用い 1 d2 v(x) となり,ひずみは次式のように表される。 ると, = − R dx2 ε(x, y) = −y d2 v(x) dx2 (3) 1 d2 v(x) =− は,曲率を表しており,ひずみは,ある x 点の断面では高さ y 方向に対して,曲率 R dx2 に比例する線形分布をしていることがわかる。 dϕ R ϕ + dϕ dv ϕ = − dx x dx y 図 A.7 棒の変形と曲率 dA x y y σ(x, y) 図 A.8 断面の応力分布 さて,式 (1) の曲げモーメント M (x) は,内部抵抗力である応力 σ(x, y) から求めることもで きる。式 (3) にヤング率 E をかけたものが応力 σ だから,実は応力も,断面の高さ y 方向に線 形分布している。今,図 A.8 のように,断面の高さ y 方向に,断面を微小面積 dA ずつ分割する と, そのそれぞれの微小部分には,σ(x, y)dA の力が作用して階段状に分布していることになる。 この階段一段一段の σ(x, y)dA が断面の中心回りに作るモーメントを考える。断面の中心からそ れぞれの微小部分までのモーメントの腕の長さは y で表されるから,断面の中心に作用する右回 A−7 りのモーメント M (x) は,yσ(x, y)dA をすべての微小部分について面積積分により合計すれば, ∫ d2 v(x) M (x) = yσ(x, y)dA と表される。これに σ = Eε, ε = −y を代入して整理すると,以下 dx2 A のようになる。 ∫ M (x) = yσ(x, y)dA ∫A = yEε(x, y)dA A ∫ d2 v(x) dA dx2 A d2 v(x) = −EI dx2 = −E y2 (4) ∫ y 2 dA は,断面 2 次モーメントと呼ばれる定数で,幅 b, 高さ a の棒が高さ方向に ここで,I = A たわむ場合には次式で与えられる。 I= ba3 12 (5) d2 v(x) 1 = は曲率を表しており,曲率に EI をかけたものが曲げモーメントとなる。 2 dx R EI は棒の曲がりにくさを表し,曲げ剛性といわれる。 さて,式 (1) と式 (4) とから,次式の微分方程式が成り立つ。 式 (4) の − d2 v(x) P −EI = 2 dx 2 ( L −x + 2 ) (6) これを 2 回積分すると, P −EIv(x) = 2 ( ) x3 L − + x2 + C1 x + C2 6 4 (7) となる。ここで,C1 ,C2 は積分定数である。図 A.4 のように棒の左端は固定されているため,左 端でのたわみは 0 である。棒は x 軸に接するので,傾きも 0 となる。この境界条件 v(0) = 0 と v ′ (0) = 0 を考慮すると,C1 = C2 = 0 となる。よって,右半分の棒のたわみは,次式で表される。 v(x) = P (2x3 − 3Lx2 ) 24EI 上式に右端 x = L/2 を代入すれば,v(L/2) = − e は次式で表される。 e= (8) P L3 となる。よって,図 3 の棒の中央のたわみ 48EI P L3 48EI A−8 (9) A.5 音速の理論値 音速の理論値について説明する。一般に,流体中を伝わる縦波の速さ v [m/s] は,媒質の体積弾 性率を K [N/m2 ],その密度を ρ [kg/m3 ] とすると, √ v= K ρ (10) であることが知られている。ここで,可聴周波数帯域の音が空気中を伝わる場合を考えると,そ の過程は断熱変化とみなすことができる。つまり,一定質量の空気では,その圧力を P [Pa],体 積を V [m3 ],比熱比を γ とすると,ポアソン(Poisson)の法則 P V γ = 一定 (11) が成り立つ。この関係から,空気の体積弾性率は K = γP と求められる。よって,空気中の音速 v は,式 (10) から, √ γP v= (12) ρ と求められる。この式はラプラス(Laplace)の式と呼ばれる。 気温 0 ◦ C,1 気圧における音速 v0 は,γ = 1.402,P0 = 1.01325 × 105 Pa,ρ0 = 1.293 kg/m3 であるので,式 (12) から √ v0 = √ γP0 = ρ0 1.402 × 1.01325 × 105 ≃ 331.5 m/s 1.293 (13) と求められる。 温度 t [◦ C](絶対温度 T [K] = 273 + t)のときの音速について考える。一定質量の空気を考え, 温度 t の時の圧力を P [Pa],密度を ρ [kg/m3 ] とし,0 ◦ C(絶対温度 T0 )の時の圧力を P0 [Pa], 密度を ρ0 [kg/m3 ] とすると,ボイル−シャルル(Boyle-Charles)の法則より P P0 = ρT ρ0 T0 (14) が成り立つ。これを,式 (12) に代入することにより √ v = γP0 T = ρ0 T0 ( √ γP0 ρ0 ) √ T = T0 ( √ γP0 ρ0 √ 273 + t 273 t 1/2 1 t = v0 1 + ≃ v0 1 + × 273 2 273 = v0 (1 + 0.00183 t) ) (15) と求められる。 さらに,空気中には水蒸気が存在するので,湿度も考慮した場合も考えてみよう。いま,空気 の温度を T [K],気圧を P [Pa],密度を ρ1 [kg/m3 ],水蒸気の分圧を e [Pa] とすると,空気だけ の分圧は P − e であるから,ボイル−シャルルの法則より P P −e = ρ1 T ρT A−9 (16) が成り立ち, ( e ρ1 = ρ 1 − P ) (17) である。ただし,ρ は,空気の圧力を P に等温圧縮したときの密度である。また,温度 T ,圧力 e の水蒸気の密度を ρ2 [kg/m3 ],水蒸気の圧力を P に等温圧縮したときの密度を ρ′ [kg/m3 ] とする と,ボイル−シャルルの法則から e P (18) = ′ ρ2 T ρT が成り立ち, e (19) P である。また,このときの水蒸気と空気の密度の比を分子量から求めると,ρ′ /ρ ≃ 0.62 であるこ とから ( ) ( ) e e e ρ 1 + ρ2 = ρ 1 − + 0.62ρ × = ρ 1 − 0.38 × (20) P P P ρ2 = ρ′ × である。したがって,水蒸気を含む空気中の音速は,式 (12),(15),および (20) より √ v = √ γP = ρ1 + ρ2 γP0 ρ0 ( √ γP0 T ρ0 T0 t 1+ 273 ( 1 − 0.38 × )1/2 ( e P )−1/2 1 e ≃ 1 + × 0.38 × 2 P ) ( e = v0 (1 + 0.00183 t) 1 + 0.19 × P と求められる。 A − 10 ) (21) A.6 プローブの位相補償 オシロスコープで測定するときに用いられるプローブの位相補償について説明する。被測定回 路へのプローブの影響を小さくするためには,大きい入力抵抗が望まれる。また,測定時の波形 ひずみはできるだけ小さい方がよい。そこで,基本回路が図 A.9 のようなプローブが用いられる。 通常,Rp は 1 MΩ,Cp は 20 pF 程度である。 C1 オシロスコープ入力 入力信号 V0 R1 Rp 図 A.9 Vi Cp プローブの基本回路構成 プローブの入力信号電圧を V0 ,オシロスコープの入力電圧 Vi とすると, Vi = 1 1/Rp + jωCp 1 1 + 1/R1 + jωC1 1/Rp + jωCp V0 (22) と表される。ただし,ω は入力信号の角周波数である。上式は, Vi = Rp (1 + jωR1 C1 ) V0 R1 (1 + jωRp Cp ) + Rp (1 + jωR1 C1 ) (23) と書き直すことができる。ここで,プローブの R1 ,C1 とオシロスコープ入力の Rp ,Cp が R1 C1 = Rp Cp (24) の関係を満たすとき,オシロスコープの入力電圧 Vi は,入力信号の周波数に依らず, Vi = Rp V0 R1 + Rp (25) となる。プローブの位相補償では,式 (24) が成り立つように C1 を調整している。 また,プローブの入力抵抗は R1 + Rp と大きくなる。実験で使用した 10:1 プローブでは, 1 V0 であり,オシロスコープの入力電圧は入力 R1 = 9Rp である。このとき,式 (25) から,Vi = 10 信号電圧の 10 分の 1 となる。これは,大きい入力抵抗を得るために,感度を犠牲にしていること になる。このため,感度低下が小さい能動(active)プローブが用いられる場合もある。 ※ ここでは測定系を集中定数回路とみなしているが,周波数が高くなると,ケーブルを分布定数 回路として考えなければならない。測定用途に合わせて,適切なプローブを選ぶ必要がある。 A − 11 執筆者一覧 1.物質の密度 田中 元志,早坂 2.ヤング率の測定 後藤 文彦,田中 元志,徳重 英信 3.音速の測定 田中 元志,早坂 4.等電位線 田中 元志,左近 拓男 5.電球の抵抗 左近 拓男,谷口 智行,早坂 匡 6.水の比熱 田中 元志,谷口 智行,早坂 匡 7.オシロスコープⅠ 田中 元志 8.オシロスコープⅡ 田中 元志,谷口 智行 9.光のスペクトル分析 田中 元志,早坂 編集幹事 山本 良之,渡辺 一也,今井 忠男,谷口 智行 編集兼発行者 秋田大学 基礎物理学実験担当者会議 平成 19 年4 月 第 1 版発行 平成 19 年10 月 第 2 版発行 平成 20 年4 月 第 3 版発行 平成 21 年4 月 第 4 版発行 平成 22 年4 月 第 5 版発行 平成 23 年4 月 第 6 版発行 平成 24 年4 月 第7版発行 平成 25 年4 月 第 8 版発行 平成 26 年4 月 第 9 版発行 平成 27 年4 月 第 10 版発行 平成 28 年4月 第 11 版発行 匡 匡 匡