Comments
Description
Transcript
消防防災の科学技術の研究・開発
第 6章 消防防災の科学技術の研究・開発 研究・開発の推進 また、 「科学技術イノベーション総合戦略」(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) 、 「世界最先端 IT 国家創造 一昨年発生した東日本大震災や、その後も相次い 宣言」 (平成 25 年 6 月 14 日閣議決定) 、 「日本再興 だ集中豪雨、台風等の自然災害は人的・物的にも広 戦略」 (平成 25 年 6 月 14 日閣議決定)等の政府方 範囲若しくは局所的に甚大かつ深刻な被害をもたら 針を踏まえ、ICT やロボット技術等の先端技術を活 し、多くの課題を浮き彫りにした。また、今後発生 用した新たな装備・資機材の開発・改良や消防法令 が予測されている南海トラフ地震や首都直下地震を 上の技術基準等の確立に資する当面の重点研究開発 はじめとする地震災害等自然災害がもたらす被害を 目標(第 6 − 1 表)について、成果達成に向けた研 軽減するための対応策の検討は急務となっている。 究開発を推進することとしている。 さらに、高齢化・人口減少に代表される社会構造の 大きな変化や、福島第一原子力発電所事故を契機と したエネルギー事情等消防を取り巻く環境の変化や 2 消防研究センター 課題に科学技術の側面から的確に対応するため、関 消防庁における消防の科学技術の研究・開発は、 連する研究・開発の一層の推進が必要となってきて 我が国唯一の消防防災に関する国立研究機関である いる。 消防研究センターが中心となって実施している。消 防研究センターの前身である消防研究所は、昭和 1 消防庁における当面の 重点研究開発目標 23 年(1948 年)に国家消防庁の内局として設立さ れたが、平成 13 年 4 月 1 日、中央省庁等改革の一 環として、独立行政法人消防研究所となった。その 消防庁では、これら顕在化した課題解決のため、 後、危機管理機能の強化及び行政の効率的実施の観 産学官における消防防災分野の研究に携わる関係者 点から、消防庁に統合・吸収する方針が決定(平成 の共通認識・目標として策定している「消防防災科 16 年 12 月 24 日閣議決定)され、 「独立行政法人消 学技術高度化戦略プラン」(平成 13 年策定、同 19 防研究所の解散に関する法律」 (平成 18 年法律第 年改定)を改定し、新たに「消防防災科学技術高度 22 号)に基づき、平成 18 年 4 月 1 日に廃止、消防 化戦略プラン(2012)」を取りまとめた。本プラン 研究センターとして消防庁に戻り、現在に至ってい では、特に、安心・安全な社会の実現に向けて、実 る。この間一貫して、消防行政及び消防職団員の活 用化を目的とした研究開発を一層推進することによ 動を科学技術の面から支えることを目的とした研 り、その成果が消防防災分野における社会システム 究・開発を行っている。 の高度化に大きく貢献することを基本方針とし、消 防研究センターを中心に関係者の一層の連携を図る こととした。さらに、本プランにおいては、 「地 3 消防防災科学技術研究推進制度 震・津波・風水害等から住民を守る」、「複雑化、多 消防防災に関する課題解決のため、産学官の研究 様化する火災から住民を守る」など国民にわかりや 機関等を対象に革新的かつ実用的な技術の育成・利 すい視点で設定した五つの重点的研究領域及び、 活用を目的とした「消防防災科学技術研究推進制 「火災予防・防火」、「大規模災害における防災情報」 、 度」 (競争的研究資金制度)により、火災等災害時 「消火」、「救助」、「救急」など九つの各消防防災分 において消防防災活動を行う消防本部等のニーズ等 野における個別具体的に取り組むべき研究課題を掲 が反映された研究開発課題や、東日本大震災により げ、関連する研究開発を戦略的・効率的に推進する 浮き彫りになった課題に重点を置き、消防本部が参 こととしている。 画した産学官連携による研究開発を推進している。 243 4 消防機関における研究開発 消防防災の科学技術に関する研究開発について 状況変化を見据えた課題も盛り込んでいる。ここで は、各研究課題の背景・目的と、平成 24 年度 1 年 間に得られた主な研究開発成果について述べる。 は、消防機関の研究部門等においても、消防防災活 (1) 消防活動の安全確保のための研究開発 動や防火安全対策等を実施する上で生じた課題や東 日本大震災において明らかになった課題を解決する ア 背景・目的 本研究課題では、消防活動により一人でも多くの ため、積極的に実施されている。 命を救うことができるよう、安全かつ効果的な消防 消防研究センターにおける 研究開発等 活動を実現する上での技術的課題の解決を目指し て、次の四つのサブテーマを設け、5 年間の計画で 研究開発を行っている。 消防研究センターでは、消防の科学技術に関する (ア) サブテーマ「消防ヘルメット等の装備及び 様々な研究開発のほか、消防法の規定に基づく消防 個人防護技術の研究」 原因調査も行っている。また、これらの研究開発及 職員の受傷等の状況をみると、平均して一年間に び調査により蓄積してきた知見を活用して、消防本 約 2 名が殉職し、約 300 名が負傷しており、消火 部に対する技術的助言や緊急時の消防活動支援にも 活動には依然として高い危険が伴うことを示して 積極的に取り組んでいる。 いる。また、近年の省エネルギー指向の建物は、 1 消防防災に関する研究 と及び高い気密性を有していることから消火活動 中に急激に火勢が拡大することがあり、このよう 消防研究センターでは、平成 23 年度からの 5 年 な建物の増加により、今後、消火活動における危 間を一つの研究期間として、第 6 − 2 表に掲げる四 険性はさらに高まるおそれがある。このサブテー つの課題について研究開発を行っている。これらの マでは、これまでの消防防護服に関する研究開発 研究内容には、東日本大震災で浮き彫りとなった消 成果を踏まえて、消防隊員が消防ヘルメット等を 防防災の科学技術上の課題や、原子力発電所の事故 含めた防護装備を着用した状況の下で、その防護 の影響によるエネルギー事情の変化など、震災後の 装備全体に求められる安全性能を明らかにすると 第 6 − 1 表 消防庁における当面の重点研究開発目標 (1) ICT やロボット技術等の先端技術を活用した新たな装備・資機材の開発・改良 ◆日本再興戦略 (平成 25 年 6 月 14 日閣議決定) ・緊急消防援助隊にエネルギー・産業基盤災害即応部隊を創設し、大規模・特殊災害対応車両・資機材等を研究開発・導入(2014~) ① ICT を活用した災害対応のための消防ロボット技術 ◆科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) ・災害対応のための消防ロボット技術の導入(~2015) ◆世界最先端 IT 国家創造宣言(平成 25 年 6 月 14 日閣議決定) ・無線中継システム等を活用したロボットの開発・導入(~2015) ②地理空間情報 (G 空間情報)を活用した避難誘導や消火活動のためのシミュレーション技術 ◆世界最先端 IT 国家創造宣言(平成 25 年 6 月 14 日閣議決定) ・地理空間情報(G 空間情報)を活用した避難誘導や消火活動について、導入を検証(~2016) ・被害シミュレーション技術の開発(~2018) ③災害現場からの迅速で確実な人命救助技術 ◆科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) ・無人ヘリ等による偵察技術、監視技術の実用化(~2018) ・消防車両による水やガレキが滞留している領域の踏破技術、救助技術の実用化(~2018) ④産業施設における火災等の消火技術 ◆科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) ・堆積物火災の消火技術の実用化(~2018) (2) 消防法令上の技術基準等の確立 ①水素ステーションに係る安全性評価技術 ◆科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) ・水素ステーションに係る安全性評価技術の開発(~2015) ②産業施設による火災等の二次災害の発生防止機能の強化技術 ◆科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) ・石油タンクの地震・津波時の安全性向上技術の実用化(~2018) ・多様化する火災に対する安全確保技術の実用化(~2018) 244 消防防災の科学技術の研究・開発 可燃性のプラスチック断熱材等を使用しているこ 6 章 平成 9 年(1997 年)以降の消火活動中の消防 第 庁長官による火災原因調査及び危険物流出等の事故 第 6 − 2 表 1 消防研究センターにおける平成 23 年度からの研究開発課題 消防活動の安全確保のための研究開発 消防隊員が消火、救急、救助活動を安全かつ的確に行えるようにするため、消防用個人装備の技術基準の作成を目的とした研究、土砂災害時の救助活動 の際に二次災害の危険性を的確に予測する機器の研究開発及び救急活動中の AED 不具合の発生要因分析と改善策の検討を行う。また、東日本大震災を 受け、 津波被災地域など不整地への進入が可能な消防車両に関する研究及び無線ヘリ等を用いた偵察技術の開発を行う。 2 危険性物質と危険物施設の安全性向上に関する研究 巨大地震発生時の大規模危険物施設の被害を予防・軽減するために、石油タンクの津波による損傷の発生メカニズム及び防止策の研究と石油コンビ ナート地域の揺れをより高い精度でよりきめ細かく予測する方法の研究を行う。また、再生資源燃料の火災を予防するため、再生資源燃料等の火災危険 性を評価する方法の研究を行うとともに、タンク火災や再生資源燃料等の火災に最適な消火技術を開発する。 3 大規模災害時の消防力強化のための情報技術の研究開発 大規模地震や大津波の発生時における応急対応を迅速かつ適切に実施するために、発災直後に被害の状況を予測・把握する技術の研究開発を行う。 また、頻繁に起こるとはいえない大規模災害発生時において、防災担当者が適切な対応を行えるようにするため、過去の災害に基づいて意思決定の要件 を整理し、 災害時対応方法を理解・習得できる模擬訓練技術を開発する。 4 多様化する火災に対する安全確保に関する研究 火災による人的・物的被害の低減のために、火災調査の事例等から火災の実態分析、様々な可燃物の燃焼性状の把握、火災警術、消防隊員による消火活 動時に現場情報を把握する技術の研究を行う。また、地震や津波の後に発生する火災の出火原因や延焼要因の把握、今後普及が見込まれる再生可能エネ ルギー発電装置等の火災危険性に関する研究を行う。 ともに、より安全かつ効果的に消火活動を実施で きるようにするための活動基準を考案することを 目指している。 (イ) サブテーマ「津波浸水域における消防活動 用車両等の研究」 (エ) サブテーマ「AED の不具合の原因調査と対 策検討」 救急活動において使用中の AED に不具合と疑 われるような動作が生じる事例が相次いで発生し ている。平成 21 年度に行われた全国メディカル 東日本大震災では、津波で浸水した地域に消防 コントロール協議会連絡会の調査の結果による 隊員が進入することが極めて困難であったことな と、平成 19 年から 21 年までの 3 年間に 328 件の どから、津波浸水域における消火・救助活動が難 不具合が報告されており、その後も同様の事例が 航した。このため、今後我が国に起こり得る大震 発生している。このサブテーマでは、救急活動を 災への備えとして、津波浸水域にも進入できる消 確実に行い、救える命を救えるようにするため、 防用車両等や津波浸水域における要救助者を速や AED の動作の不具合の要因を調査分析し、対応策 かに発見する技術などが必要と考えられる。この の考案を目指している。 サブテーマでは、〔1〕津波で浸水し、がれきが 堆積しているような地域においても、消火・救助 活動を安全かつ円滑に実施することを可能とする サブテーマ「消防ヘルメット等の装備及び個人防 消防用車両等が有すべき機能・性能を具体的に示 護技術の研究」では、消火活動を行う前の活動服及 すこと、〔2〕要救助者を速やかに発見するため、 び下着が共に乾燥している状態と、消防活動中に消 無人ヘリコプター等により周囲の状況を把握する 火水を浴びて活動服が含水している状態と比べて、 技術を開発することを目指している。 活動服が含水している状態のほうが、火炎による消 (ウ) サブテーマ「がけ崩れでの活動における二 次災害防止機器の研究」 245 イ 平成 24 年度の主な研究開発成果 防隊員の皮膚の温度上昇が約 1.5 倍になることが判 明した。 豪雨や地震を契機としたがけ崩れは、我が国で サブテーマ「津波浸水域における消防活動用車両 は避けることのできない災害であり、万一の生き 等の研究」では、現場運用を考慮した時間及び人手 埋め者の発生に備えることは重要である。がけ崩 で飛ばせる機体の性能及びデータ解析方法について れによる生き埋め者の救助活動では、更なるがけ の技術調査を行い、無人ヘリコプターの試作機の仕 崩れが起きて救助活動を行う者に二次災害が生じ 様を策定した。また、東日本大震災における津波に るおそれの有無に注意する必要がある。現在、が よる被災状況や実際に救助を行った消防隊員などか け崩れの前兆があるかどうかを素早くかつ広い範 らのニーズに基づき、がれきを走破するための装置 囲にわたって監視する方法はない。このため、こ を試作、走破実験を行い、がれきの上を走破するた のサブテーマでは、無人ヘリコプター等を活用し めに必要な技術的課題を明らかにした。さらに、平 てがけの変形を素早く広範囲に監視するシステム 成 25 年度の実証実験に向けて消防車、救助工作車、 の開発を目指している。 救急車のプロトタイプ車両の製作を行った(第 6 − 1 図)。 ことである。また、危険物の大量流出や火災には (2) 危険性物質と危険物施設の安全性向上 に関する研究 至らなかったものの、地震動の影響で石油タンク が損傷する被害も発生した。 地震・津波発生時の危険物施設の健全性の確保 は、被害拡大の視点からのみならず、被災地にお ア 背景・目的 本研究課題では、東日本大震災において石油類等 ける災害救助活動、避難生活に必要となる石油類 の危険物の貯蔵・取扱いを行う危険物施設が津波や 等エネルギーの供給維持にも不可欠であること 地震動で多数被災したこと、我が国では今後もなお が、東日本大震災でも示された。石油タンク等危 大地震の発生が危惧されていること、環境保護への 険物施設の津波・地震動被害の予防・軽減対策の 取組が進められる中で、火災危険性がよくわからな 確立は、南海トラフ地震や首都直下地震等の発生 い物質やいったん火災が発生すると消火が困難な物 が危惧されている状況の中で、なお一層その重要 質が普及するなど防火安全上の課題が生じているこ 性を増している。 とを踏まえ、危険性物質と危険物施設の安全性の向 このようなことから、サブテーマ「石油タンク 上を目指して、次の四つのサブテーマを設け、5 年 の津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研 間の計画で研究開発を行っている。 究」では、津波による石油タンクの被害発生メカ の考案及び対策による効果の評価を目指してい テーマ「巨大地震による石油コンビナート地 る。また、サブテーマ「巨大地震による石油コン 域における強震動予測及び石油タンク被害予 ビナート地域における強震動予測及び石油タンク 測の研究」 被害予測の研究」では、石油タンクの揺れによる 東日本大震災では、数多くの石油タンクや配管 被害を予防・軽減するためのより的確な対策案を が津波で押し流されたり、損傷したりする甚大な 立てられるよう、石油コンビナート地域等におけ 被害が発生した。このような石油タンク等危険物 る強震動の予測をより精度よく、きめ細かに行え 施設の大規模な津波被害は、我が国では初めての るようにすることを目指している。 第 6 − 1 図 消防車、 救助工作車、 救急車のプロトタイプ車両 消防車 消防車(放水状況) 救助工作車 救急車 246 6 消防防災の科学技術の研究・開発 メカニズム及び発生防止策の研究」及びサブ 章 ニズムの解明、それに基づく被害予防・軽減対策 第 (ア) サブテーマ「石油タンクの津波による損傷 世界的な環境保護に向けた取組として、残留性 (イ) サブテーマ「再生資源物質の火災危険性評 有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づ 価方法及び消火技術の開発」 環境保護に向けた取組がますます盛んになる いて、フッ素化合物のうち PFOS(ペルフルオロ 中、資源再利用の取組の一環として、廃木材や再 オクタンスルホン酸)と呼ばれる物質の使用禁止 生資源燃料等の再生資源物質の利用が進められて が取り決められ、我が国でも原則として製造・使 いるが、これらの再生資源物質に関係する火災が 用ができなくなった。PFOS は石油タンク等の火 発生するなど、防火安全上の課題も生じている。 災の消火に用いられる泡消火薬剤に、消火性能を 今後安全を確保しつつ再生資源物質の利用を促進 向上させるために添加されてきており、今後、泡 する上で、このような火災を予防するための知 消火薬剤を新たに配置したり、古くなった泡消火 見・方策を研究開発することが必要不可欠なもの 薬剤を新しいものに交換したりするような場合に になってくると考えられる。 は、これまでの PFOS を含む泡消火薬剤が使用で 再生資源物質は、山積みの状態で貯蔵されてい きなくなることが懸念される。一方、泡消火薬剤 る場合が多く、そこでの火災は蓄熱発火で発生す の消火性能については、法令で基準が定められて るものが多い。東日本大震災の後には、震災で発 おり、泡消火薬剤に PFOS を使えなくなったこと 生した山積みのがれきから火災が発生しており による影響の評価と今後の対応策が必要になって くるものと考えられる。 (第 6 − 2 図)、これらの火災もまた蓄熱発火によ るものと考えられる。再生資源物質が蓄熱発火す このようなことから、このサブテーマでは、 る危険性をどの程度有しているかを適正に評価す PFOS を含まない泡消火薬剤のより効果的な使用 ることは、火災予防上重要であるが、その評価手 方法とその消火性能をより適切に評価する方法の 法は確立されていない。 考案を目指している。 また、山積み状態の再生資源物質の火災(第 6 − 3 図)は、一般的に消火が困難であり、とくに イ 平成 24 年度の主な研究開発成果 サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニ 金属スクラップの火災については、消火方法が確 ズム及び発生防止策の研究」では、東日本大震災の 立されていない。 247 このようなことから、このサブテーマでは、再 際の津波による石油タンクの移動被害(流された 生資源物質の蓄熱発火の危険性の評価手法と火災 り、元の場所からずれてしまったりする被害)につ になった場合の消火方法の開発を目指している。 いて、津波浸水深から石油タンクの移動被害発生の (ウ) サブテーマ「フッ素化合物の使用禁止が泡 おそれの有無を予測するためのものとして消防庁が 消火薬剤の消火性能に与える影響評価と対応 提案している簡易予測式の精度を検証したところ、 策に関する研究」 的中率は 78%であるが、実際に移動被害を受けた 第6−2図 東日本大震災で生じたがれきか ら発生した火災 (宮城県名取市) 第6−3図 再生資源物質の消火の例(金属ス クラップ火災) タンクを移動しないと予測した「見逃し」は 0.5% 報のみからでは、正確な推定ができなかった。そ だけであり、津波浸水深が想定されれば、石油タン こでこのサブテーマでは、震度情報などを活用す クの移動被害の予測が可能であることを示した。 ることにより、巨大地震に対しても確度の高い地 サブテーマ「再生資源物質の火災危険性評価方法 及び消火技術の開発」では、固体の再生資源物質に ついて、発熱開始温度、発熱量、可燃範囲及びガス 濃度から計算される値を危険性を評価するための指 震・津波被害推定結果が得られるようなシステム の開発を目指している。 (イ) サブテーマ「水害時の応急対応支援システ ムの開発」 標とする蓄熱発火の危険性評価手法を提案した。ま 大規模水害時においては、地方公共団体の災害 た、再生資源物質の蓄熱発火試験装置の検討を行 対策本部が行う応急対策の項目は非常に多い。さ い、温度及び圧力を同時に測定できる試験装置を試 らに、対策実施の判断条件、優先順位、対応力の 作し、昇温試験及び等温試験を実施し、測定方法に 限界などが複雑に絡み合うこと、災害の様相は ついて検討した。 時々刻々と変化し得るものであることなどから、 剤の消火性能に与える影響評価と対応策に関する研 を迅速かつ的確に判断することは極めて困難であ 究」では、試作した PFOS を含まない泡消火薬剤と り、場合によっては避難勧告発出に遅れが生じる 泡性状コントロールノズルを使用し、発泡倍率や保 ことも懸念される。加えて、大規模水害は頻繁に 水性を調整した泡を生成させるための種々の条件を 発生するものではないため、災害対策本部で応急 明らかにして、泡性状のデータベースを作成した。 対応にあたる担当者全員が必ずしも経験豊富では ア 背景・目的 ら、災害対策本部における水害時の応急対応を支 援するための情報を提供するシステムの必要性は 極めて高いといえる。 本研究課題では、消防職員が、大地震や大雨によ このようなことから、このサブテーマでは、 る洪水などの未経験かつ未曾有の大規模災害に直面 〔1〕水害時に住民が適切に避難行動をとれるよ することとなった場合でも、適切な意思決定とそれ う、河川水位等の防災・気象情報に基づいてわか に基づく迅速・的確な応急対応を可能とすることを りやすい防災広報文を作成し、緊迫感のある音声 目指して、被害推定シミュレーションなどを活用し で広報する「避難広報支援システム」を研究開発 た情報技術を、次の三つのサブテーマを設け、5 年 すること、 〔2〕災害時に災害対策本部が行うべ 間の計画で研究開発を行っている。 き応急対策項目を時系列で管理することが可能な (ア) サブテーマ「広域版地震被害想定システム の研究開発」 東日本大震災における災害対応の初期段階で は、広範囲にわたる被害と通信の途絶などによっ て、甚大な被害を受けた地域及び全体的な被害規 模の把握ができず、緊急消防援助隊の活動に係る 「応急対応支援システム」と「避難広報支援シス テム」とが連携し、避難勧告の発令等の意思決定 を支援可能な「水害時の応急対応支援システム」 を開発することを目指している。 (ウ) サブテーマ「同時多発火災への対応を訓練 するためのシミュレーターの開発」 意思決定が容易でなかった。地震発生後に被害の 首都直下地震など大都市等で大地震が発生した 様相がなかなか把握できない状況下では、被害の 場合は、多数の火災がほぼ同時に発生することが 規模や分布を推定する仕組みが応急対応に係る意 危惧される。このような場合には、消防本部の指 思決定を支援するものとなり得る。このような仕 揮指令担当者には、限られた消防隊を被害が最少 組みの一つとして、震源に関する情報に基づいて になるように火災現場へ出動させることが求めら 被害分布や被害量を推定するシステムを開発し、 れる。しかし、消防職員であっても、同時多発火 消防庁において実運用してきた。しかし、2011 災に対応した経験を有する者は少ないことから、 年東北地方太平洋沖地震のような巨大地震では、 判断・指示を的確に行うことは必ずしも容易では 気象庁から地震直後に発表される震源に関する情 ないと考えられ、地震時の同時多発火災への消防 248 消防防災の科学技術の研究・開発 (3) 大規模災害時の消防力強化のための 情報技術の研究開発 ないということも考えられる。こうしたことか 6 章 どのような対策を、いつ、どのように実施するか 第 サブテーマ「フッ素化合物の使用禁止が泡消火薬 の対応力を強化するためには、そのような火災を や避難勧告などの対応状況を調査した。 想定した図上訓練が重要である。そこで、本サブ サブテーマ「同時多発火災への対応を訓練するた テーマでは、〔1〕東日本大震災における火災発 めのシミュレーターの開発」では、火災延焼シミュ 生事例に基づく地震直後の火災発生件数の予測式 レーション用計算モジュール(第 6 − 5 図)を作成 の検討、〔2〕複数の出火点の延焼予測を高速で するとともに、震災初動期の同時多発火災発生時の 実行可能なシステムの開発、〔3〕同時多発火災 消防力の投入効果を、家屋データ、道路、消防水 対応のための効果的な消防戦術の検討を行い、こ 利、署所配置データ等に基づき、この計算モジュー れらの結果を活用して、同時多発火災対応訓練シ ルを用いて評価することが可能なソフトウエアを開 ミュレーターを開発することを目指している。 発した。 (4) 多様化する火災に対する安全確保に 関する研究 イ 平成 24 年度の主な研究開発成果 サブテーマ「広域版地震被害想定システムの研究 開発」では、気象庁以外の震源情報の活用方法の一 ア 背景・目的 つとして、米国地質調査所(USGS)や気象予報会 本研究課題では、東日本大震災で発生したような 社が発信する震源と震度情報に基づき、日本を含む 地震・津波火災、社会環境の変化などにより多様化 全世界の地震被害が、これまでの 1km メッシュ単 している火災、住宅用火災警報器、再燃火災などに 位から 250m メッシュ単位で推定可能な広域版地震 関係する様々な防火安全上の技術的課題を解決する 被害想定システム(第 6 − 4 図)の開発を行い、試 ことを目指して、次の五つのサブテーマを設け、5 験運用を開始した。 年間の計画で研究開発を行っている。 (ア) サブテーマ「東日本大震災における火災分 サブテーマ「水害時の応急対応支援システムの開 析と防火対策」 発」では、兵庫県豊岡市において洪水時の防災広報 a 東日本大震災において発生した火災の発 文章に関するアンケート調査を実施した。避難の必 要性の切迫感を高める情報として、気象や河川情報 生原因や延焼要因の究明 以外では、避難所となる学校の状況や他の住民の避 東日本大震災では、市街地広域火災に拡大し 難状況が重要であるというアンケート調査の結果か た火災や避難所に延焼した火災など、地震・津 ら、住民の避難状況や学校休校の情報を入力可能な 波火災として重大な問題を含むものが発生して 機能を「避難広報支援システム」に追加した。ま いるが、これらの火災の中には、実態がよくわ た、災害対策本部が行うべき応急対策項目を災害発 からないものがある。また、津波で浸水した自 生の前からの時間軸上で明らかにするために、平成 動車から出火する事例が多数あったことが、目 23 年の台風 12 号での水害で被害を受けた新宮市と 撃談やビデオ映像などからわかっているが、そ 田辺市において、119 番通報などの災害の発生状況 の出火メカニズムは明らかでない。このような 249 第6−4図 広域版地震被害想定システムの 表示例 第6−5図 延焼シミュレーション用計算モ ジュールの表示例 ことから、このサブテーマでは、今後の地震・ 材などの新しい材料・素材の中には、火災時の 津波火災を防いだり、延焼・拡大を抑えたりす 燃焼性状や燃焼中・消火中の危険性など、正確 るための技術的方策を見出すため、東日本大震 な火災感知・消火、安全な避難、効果的な消防 災において発生した火災の発生原因や延焼要因 活動にとって必要不可欠な情報が得られていな を究明することを目指している。 いものがある。このサブテーマでは、こうした b 再生可能エネルギー関連設備・装置の火 可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及び燃焼に伴 災危険性把握 う諸現象を主として実験的に把握することを目 環境指向の高まりとともに、太陽光など再生 指している。 可能エネルギーを利用した家庭内発電装置やメ b 火災に伴って発生する旋風の発生メカニ 大規模市街地火災、林野火災などでは、「火 は、東日本大震災における原子力発電所の事故 災旋風」と呼ばれる竜巻状の渦が発生して、多 の影響による電力不足や被災地復興のための需 くの被害が引き起こされることがあり、首都直 要などの要因から今後ますます増えていく可能 下地震においてもその発生が危惧されている。 性がある。しかしながら、太陽光発電装置が設 これまでの研究により、火災域の風下に発生す 置された住宅における火災の消火活動中に消防 る旋風の発生メカニズムや構造が徐々に明らか 隊員が感電するという事案が報告されており、 になってきたが、依然不明な点が多い。そのた このような太陽光発電装置は消火活動中の危険 めこのサブテーマでは、火災域の風下に発生す 要因となり得る。そこでこのサブテーマでは、 る旋風の発生メカニズム・発生条件の解明に加 太陽光発電装置などの再生可能エネルギー関連 えて、無風下で発生する火災旋風の発生条件の 設備・装置の火災予防上の安全な使用方法と、 解明を目指している。 そのような設備・装置が設置されている火災現 c コンピュータシミュレーションによる火災 場において、安全に消火活動を行えるようにす 再現技術の研究開発 るための方策を見出すため、〔1〕設備・装置 火災の調査や消防用設備の設置の効果の検討 自体が有する火災危険性と、〔2〕設備・装置 を行う目的で、火災実験が行われる場合がある が火災に巻き込まれた時に発生する危険性を評 が、そのような実験には大規模な設備が必要で 価することを目指している。 ある。また、実験の準備・実施には多くの時 (イ) サブテーマ「火災の実態把握と課題抽出」 間、費用が必要であることから、実験条件を変 近年、個室ビデオ店のように消防法令上想定さ えたいくつものケースについて実験を行うこと れていなかった新しい業態や建物の使い方の出 は困難である。このような火災実験の代わりと 現、新しい素材や物質などの普及、高齢化の進 な り、 か つ よ り 効 率 的 な 手 段 と し て、 コ ン 展、一人暮らし世帯の増加などにより、火災の原 ピュータシミュレーションによる火災再現技術 因や現象、被害の生じ方も変化している。 が期待されており、その有効性も示されつつあ このサブテーマでは、火災予防のための施策と る。しかし、そのようなシミュレーションを行 啓発活動への反映や、実施すべき新たな研究課題 うには高価で高性能なコンピュータが必要であ の提起などを通じて、火災による人的・物的被害 るため、消防本部等においては導入しにくい状 の軽減につなげられるよう、年々変化する火災の 況にある。このようなことから、このサブテー 実態を分析し、その傾向・要因を把握することを マでは、パソコンでも火災再現のコンピュータ 目指している。 シミュレーションを実施可能にするような高速 (ウ) サブテーマ「火災の促進要因と燃焼性状の 実験と数値計算による分析」 a 様々な可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及 び燃焼に伴う諸現象の把握 低反発素材、金属混合樹脂、建物内外の断熱 な計算手法の研究開発を目指している。 (エ) サブテーマ「生活に密着した建物等での警 報伝達手段に関する研究」 住宅用火災警報器や自動火災報知設備が設置さ れていない小規模店舗が多いアーケード街や市場 250 6 消防防災の科学技術の研究・開発 このような再生可能エネルギー関連設備・装置 章 ズム・発生条件の解明 第 ガソーラーなどの発電所の数が増加している。 では、ひとたび出火すると延焼拡大する事例があ へ「太陽光発電システムを設置した一般住宅の火災 る。このような火災における安全確実な避難を可 における消防活動上の留意点等について(消防・救 能にする方法として、火災警報を火災が発生した 急課、消防研究センター) 」を通知した。 建物の中にいる人のみではなく、その周辺の建物 サブテーマ「火災の実態把握と課題抽出」では、 の中にいる人にも伝達することが考えられる。こ たばこを発火源とする住宅火災や就寝を伴う小規模 のようなことから、このサブテーマでは、小規模 な施設の火災の発生と被害について、施策検討用の 建物群において、住宅用火災警報器により近隣建 資料を提供した。 物に警報を伝達する技術の開発を目指している。 サブテーマ「火災の促進要因と燃焼性状の実験と (オ) サブテーマ「熱画像を活用した再燃火災の 数値計算による分析」では、金属鋼板サンドイッチ 発生防止に関する研究」 パネル(SWP)の火災時における燃焼及び崩壊メ 火災がいったん鎮火した後に再び燃える再燃火 カニズムの解明を実施した。SWP を構成する鋼板 災は、二次的な被害を生じるだけでなく、市民の と芯材との剝離原因を明らかにするため、両者の接 消防に対する信頼を損なうおそれのある問題であ 着力の加熱依存性について材料実験にて検証した。 るが、現状では、再燃火災を完全に防止する手法 芯材の難燃性の違いにかかわらず、SWP は、高い はない。鎮圧後の火災現場において、再燃火災の 加熱や加熱時間が長くなると芯材と鋼板との接着力 原因となる壁や天井裏などの構造内の残火を探し は失われ、剝離、崩壊、大規模燃焼へつながること 出すための手法は、今のところは、目で見て、手 が明らかになった。 で触って温度を確認するなど、消防隊員の感覚や 「火災旋風」の研究では、火災域の風下に発生す 経験に依存している。そこでこのサブテーマで る旋風の発生条件を解明するために、火災域を模擬 は、再燃火災防止のための技術として赤外線カメ した熱源を風洞内の床面に設置し、横風をあてる実 ラを利用するなどして、消火後の火災現場の温度 験を行った。熱源の形状と横風の向きとの関係が、 管理が行えるよう、温度場を定量的に監視・記録 火災旋風の源の一つと考えられている渦対の位置 できる手法を開発することを目指している。 と、熱源周辺の強風域の形成位置に影響を与えてい ることがわかった。 サブテーマ「生活に密着した建物等での警報伝達 イ 平成 24 年度の主な研究開発成果 サブテーマ「東日本大震災における火災分析と防 手段に関する研究」では、北九州市内の木造市場の 火対策」では、再生可能エネルギーのひとつである 各店舗に無線連動式住宅用火災警報器を設置し、火 太陽光発電装置について、火炎スペクトルの計測と 災警報を近隣複数世帯間で共有する地域警報ネット 太陽電池モジュールの発電特性と、消防隊員の感電 や二次的な出火の防止のために発電を抑える方法と してブルーシート等の遮光効果を確認した(第 6 − 第6−7図 赤外線カメラを用いた模擬実験 の様子 6 図)。これらの実験の成果を踏まえ、各消防本部 第6−6図 遮光効果の確認実験(左から、テフロン防火 フィルム、ポリエステル防火フィルム、普通モ ジュール、ブルーシート1枚、ブルーシート2枚) 下方から 赤外線 カメラで 撮影 素手で触っても、 温度の高い場所は わからなかった。 赤外線カメラで 撮影した熱画像 では、周囲より 温度の高い 場所があるのが わかった。 251 ワーク構築のモデル実験を開始した。 サブテーマ「熱画像を活用した再燃火災の発生防 止に関する研究」では、赤外線カメラが残火を探す 作業の効率化にどのように寄与できるか調べるため に、天井裏を想定した空間を作り、その中に残火を 模擬して、電気ヒーターを設置し、天井裏にある残 火を探す作業を模擬した実験を行った。電気ヒー ター(出力 100W)で加熱を開始してから 21 分後 2 火災原因調査等及び 災害・事故への対応 (1) 火災原因調査及び危険物流出等の事故 原因調査等 ア 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査 等の実施 に、断熱板の下面の温度は 17℃から 33℃に上昇し 消防防災の科学技術に関する専門的知見及び試験 た状態では、素手で断熱板の下面に触っても温度の 研究施設を有する消防研究センターは、消防庁長官 高い場所は容易にとらえられなかったが、赤外線カ の火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査 メラで撮影した熱画像では、周囲より温度の高い場 ( 消 防 法 第 35 条 の 3 の 2 及 び 第 16 条 の 3 の 2) を 所が視覚的にとらえられるのがわかった(第 6 − 7 実施することとされており、大規模あるいは特殊な 図)。 火災・危険物流出等の事故を中心に、全国各地にお いてその原因調査を実施している。また、消防本部 鑑定* 2、現地調査を消防本部の依頼を受け共同で実 第 への技術支援として、原因究明のための鑑識* 1、 章 6 施している。 第 6 − 3 表のとおりである。また、平成 24 年度に 第 6 − 3 表 No. 調査区分 出火日 (発災日) 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の現地調査実施事案一覧(平成24年4月以降に調査を実施したもの) 場所 施設名称等 概 要 現地 出向者数 1 依頼 H24.4.19 大阪府堺市 金属精錬工場 現場見分に係る技術支援(火災) 金属精錬中に発生したヒュームが何らかの火源により爆発したと推 定されるもの。 2 長官調査 (依頼) H24.4.22 山口県和木町 三井化学(株)岩国工場 消防庁長官による火災原因調査 緊急シャットダウン中に何らかの原因により反応釜が爆発し、周辺 プラントの火災、飛散物や爆風により周辺にも多大な被害が生じた もの。死者 1 名、負傷者 22 名。 26 人 3 長官調査 (自主) H24.5.13 広島県福山市 ホテルプリンス 消防庁長官による火災原因調査 RC 造一部木造の 4 階建てのホテルで火災が発生したもの。死者 7 名、 負傷者 3 名。 26 人 4 依頼 H24.5.24 新潟県南魚沼市 トンネル内爆発 現場見分に係る技術支援(火災) 休坑中のトンネル工事現場内で何らかの原因で爆発が発生したも の。死者 4 名、負傷者 3 名。 5人 5 依頼 H24.7.21 大阪府堺市 製油所 危険物流出等事故調査 重油送油ポンプのシール部から油が漏洩したもの。 6人 6 長官調査 (依頼) H24.9.29 兵庫県姫路市 7 自主 H24.11.7 沖縄県うるま市 8 長官調査 (自主) H25.2.8 9 長官調査 (自主) H25.8.15 10 4人 消防庁長官による火災原因調査 アクリル酸混じりの廃液を一時貯蔵するタンクの異常な温度上昇に より爆発炎上したもの。死者 1 名、負傷者 36 名。 16 人 屋外タンク貯蔵所 危険物流出等事故調査 容量 10 万 kL の原油タンクの浮き屋根が沈没し、油が漏洩したもの。 1人 長崎県長崎市 グループホーム ベルハウス東山手 消防庁長官による火災原因調査 鉄骨造一部木造の 4 階建てのグループホームで火災が発生したもの。 死者 5 名、負傷者 7 名。 8人 京都府福知山市 花火大会火災 消防庁長官による火災原因調査 露天商店舗が発電機に使用していたガソリンの火災により、死傷者 が発生したもの。死者 3 名、負傷者 56 名。 診療所火災 消防庁長官による火災原因調査 鉄筋コンクリート造地上 4 階・地下 1 階の診療所の 1 階から出火し、多 数の死者が発生したもの。死者 10 名、負傷者 5 名。 長官調査 H25.10.11 福岡県福岡市 (自主) (株)日本触媒姫路製造所 16 人 5人 (備考) 依頼:消防本部等から消防研究センター所長への依頼に基づく調査 自主:消防研究センターの自主的調査 長官調査 (依頼) :消防本部等から消防庁長官への依頼に基づく調査 長官調査 (自主) :消防庁長官の主体的判断による調査 * 1 鑑識:火災の原因判定のため具体的な事実関係を明らかにすること * 2 鑑定:科学的手法により、必要な試験及び実験を行い、火災の原因判定のための資料を得ること 252 消防防災の科学技術の研究・開発 平成 24 年 4 月以降に実施した火災原因調査等は 行った鑑識は 79 件、鑑定は 28 件である。 を保有し、観察する試料や状況に応じて使用する機 主な原因調査は次のとおりである。 器を選択し、火災や危険物流出等事故の原因調査を 平成 24 年 4 月に山口県内の石油コンビナートで 行っている。 発生した化学工場の反応釜の爆発火災(死者 1 名、 これらの高度な分析機器を用いることにより、火 負傷者 22 名)においては、消防本部から消防庁長 災の原因調査では、現場から収去した残渣物や粉塵 官への依頼に基づく火災原因調査を行った。 について、成分分析、熱分析、粒度分布測定などを 平成 24 年 5 月に広島県内のホテルで発生し宿泊 実施し、総合的に発火源の推定を行っている。ま 客等が死傷した火災(死者 7 名、負傷者 3 名)にお た、危険物流出等の事故原因調査では、危険物施設 いては、消防庁長官の自らの判断による火災原因調 の破損箇所の金属組織や腐食生成物(錆) 、漏洩し 査を行った。 た油、腐食環境となる地下水の成分などの分析を行 平成 24 年 9 月に兵庫県内の化学工場で発生した い、原因の推定を行っている。 アクリル酸製造施設の爆発火災(死者 1 名、負傷者 さらに、消防研究センターでは、高度な分析機器 36 名)においては、消防活動に関する技術的支援 を積載した機動鑑識車を整備し、火災や危険物流出 を行うとともに、消防本部から消防庁長官への依頼 等事故の現場で迅速に高度な調査活動が行えるよう に基づく火災原因調査を行った。 な体制をとっている。 平成 25 年 2 月に長崎県内のグループホームで発 また、消防法改正により、平成 25 年 4 月から、 生し入居者等が死傷した火災(死者 5 名、負傷者 7 消防本部は火災の原因調査のため火災の原因である 名)においては、消防庁長官の自らの判断による火 と疑われる製品の製造業者等に対して資料提出等を 災原因調査を行った。 命ずることができることとなった。消防本部の依頼 平成 24 年 11 月に沖縄県内の原油タンクで発生し を受け消防研究センターで実施する鑑識・鑑定で た原油流出事故と引き続いて発生した浮き屋根沈没 は、電気用品、燃焼機器、自動車などの製品に関す 事故(原油流出量約 4.5kL)においては、消防活動 るものも多く、これらの火災原因調査に関する消防 に関する技術的支援を行うとともに、事故原因調査 本部からの問い合わせにも随時対応しており、消防 を行った。 本部の火災原因調査の支援のため、設備や体制の整 備を図っていくこととしている。 イ 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査 の高度化に向けた取組 (2) 災害・事故への対応 近年の火災・爆発事故は、グループホームや個室 消防研究センターでは、火災原因調査及び危険物 ビデオ店のような新しい使用形態の施設での火災や 流出等の事故原因調査に加え、災害・事故における ごみをリサイクルして燃料を製造する施設での火 消防活動において専門的知識が必要となった場合に 災、あるいは、リチウムイオン電池やナトリウム硫 は、職員を現地に派遣し、必要に応じて助言を行う 黄電池などの蓄電池の火災、燃焼機器、自動車など など消防活動に対する技術的支援も行っている。ま の製品の火災など、複雑・多様化している。また、 た、消防防災の施策や研究開発の実施・推進にとっ 石油類などを貯蔵し、取り扱う危険物施設での危険 て重要な災害・事故が発生した際にも、現地に職員 物流出等の事故や火災発生件数は増加傾向にあり、 を派遣するなどして、被害調査や情報収集等を行っ 危険物施設の安全対策上問題となっている。 ている。 このような火災・事故を詳細に調査し、原因を究 明することは、火災・事故の予防対策を考える上で 必要不可欠であり、そのためには、調査用資機材の 高度化や科学技術の高度利用が必要である。 災害・事故における消防活動に対する技術的支援 としては次のようなものを実施している。 平成 24 年 5 月に新潟県南魚沼市内のトンネル工 事現場において可燃性ガスが関係して発生した爆発 このため消防研究センターでは、走査型電子顕微 事故(死者 4 名、負傷者 3 名)では、現場での救助 鏡、デジタルマイクロスコープ、X 線透過装置、ガ 活動を支援するため、直ちに職員を現地に派遣し、 スクロマトグラフ質量分析計、フーリエ変換型赤外 技術的助言を行うなどしている。その後、爆発事故 分光光度計、X 線回折装置などの調査用の分析機器 の現場見分について消防本部へ技術的支援を行って 253 いる。 る調査研究、技術開発等の成果を発表するととも 平成 24 年 11 月に沖縄県うるま市にて発生した石 に、参加する他の発表者や聴講者と討論を行う場と 油タンク浮き屋根沈没事故においては、危険物保安 して昭和 28 年(1953 年)から「全国消防技術者 室及び特殊災害室と連携し、現場での安全な事故対 会議」を毎年開催している。この会議では、消防機 応を支援するため、一ヶ月以上にわたり職員を現地 関等における研究成果、消防機器の開発・改良、火 に派遣し、技術的助言を行うなどしている。事故発 災原因調査事例に関する発表に加えて、 「消防防災 生時には、原油が 51,100kL 貯蔵されており、油面 機器等の開発・改良、消防防災科学論文及び原因調 が露出する危険な状態となった。貯蔵中の原油の排 査事例報告に関する表彰」の受賞作品の発表や消防 出や万が一の火災を想定した警防活動を支援するた 防災科学技術研究推進制度による研究成果の発表が め、石油タンク構造や危険物に関する専門家を派遣 行われている。60回目となる平成24年度の会議は、 し、タンクの損傷防止、可燃性ガスの着火防止など 10 月 25 日及び 26 日の 2 日間、都内で開催した。 に関する助言を行った。 研究開発に係る災害・事故の調査としては次のよ うなものを実施している。 (3) 消防防災研究講演会 消防研究センターの研究成果の発表及び消防関係 者や消防防災分野の技術者や研究者との意見交換を ている。平成 24 年度には津波警報時の消防活動、 行うため、平成 9 年度(1997 年度)から「消防防 市街地火災に関する現地調査を行った。 災研究講演会」を開催している。この講演会では毎 第 東日本大震災に関して、継続的に現地調査を行っ 時の事故については、燃え拡がりの状況、事故に至 24 年度の講演会は「東日本大震災を受けての消防 る経過等についての現地調査を行った。 防災研究」をテーマとして、平成 25 年 2 月 1 日に 平成 24 年 7 月に発生した九州北部豪雨被害につ いては、熊本県阿蘇市及び熊本市における被災状況 等についての現地調査を行った。 消防研究センターで開催した。 (4) 調査技術会議 消防研究センターでは、消防本部が行った火災及 3 研究成果を より広く役立てるために び危険物流出等事故に関する事故事例や最新の調査 技術を互いに発表する「調査技術会議」を開催して いる。この会議は、調査技術や行政反映方策に関す 消防研究センターでは、研究開発によって得られ る情報を共有して消防本部の火災調査及び危険物流 た成果を、全国の消防職団員をはじめとする消防関 出等事故調査に関する実務能力を全国的に向上させ 係者はもとより、より広く利活用されるよう次の活 ることを目的としており、会議で発表された調査事 動を行っている。 例は、年度末に取りまとめてすべての消防本部に配 (1) 一般公開 付し、情報共有を図っている。この会議は、年間 5 回程度開催している。平成 24 年度は、東京、名古 毎年 4 月の「科学技術週間」にあわせて、消防研 屋、仙台、大阪、熊本の 5 都市で開催し、火災事例 究センターの一般公開を実施している。平成 25 年 発表が計 34 件、危険物等事故事例発表が計 9 件行 度は 4 月 19 日に実施した。 われた。 一般公開では、実験施設などの公開、展示や実演 による消防研究センターにおける研究開発等の紹介 を行っている。平成 25 年度は、平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災の課題を踏まえて取り組んでいる 研究開発をはじめ合計 12 の公開項目を設けた。 (2) 全国消防技術者会議 全国の消防の技術者が消防防災の科学技術に関す (5) 消防防災機器等の開発・改良、消防 防災科学論文及び原因調査事例報告に 関する表彰 消防防災科学技術の高度化と消防防災活動の活性 化に寄与することを目的として、消防職団員や一般 の方による消防防災機器等の開発・改良及び消防防 災に関する研究成果のうち特に優れたものを消防庁 254 消防防災の科学技術の研究・開発 年特定のテーマを設けており、16 回目となる平成 章 平成 24 年 4 月に熊本県阿蘇市で発生した野焼き 6 長官が表彰する制度を平成 9 年(1997 年)度から 費を助成し、産学官の連携を推進するため、革新的 実施している。応募の資格に制限はないため、多く かつ実用的な技術を育成する「消防防災科学技術研 の人に開かれた発表の機会となっている。平成 21 究推進制度」 (競争的研究資金制度)を平成 15 年度 年度から、従来の募集に加えて、優秀な原因調査事 に創設し、制度の充実を着実に図ってきた。特に、 例についても表彰の対象として募集を行っている。 平 成 18 年 度 か ら は、PD( プ ロ グ ラ ム デ ィ レ ク 平成 24 年度は 56 作品の応募があり、選考委員会 ター) 、PO(プログラムオフィサー)を選任し、類 による選考の結果、23 の受賞作品(優秀賞 20 編、 似の研究開発の有無等を含め、研究内容についての 奨励賞 3 編)が決定され、10 月 26 日に表彰式及び 審査を行うなど、実施体制を充実・強化するように 全国消防技術者会議の中で表彰者による受賞作品の 努めた。また、研究成果報告として、毎年開催され 発表が行われた。 る全国消防技術者会議において研究成果の公表を行 い、消防・防災技術の向上、消防機関との連携・交 (6) 施設見学 流を図るとともに、消防防災科学技術研究開発事例 消防研究センターでは、消防職団員や市町村の防 集による成果報告やフォローアップの実施など、当 災担当者に限らず、近隣の小中学校や自治会、防火 該制度により進められた研究開発がより有効に活用 協議会など、多くの方に実験施設や研究成果を見学 されるよう努めている。 してもらっている。平成 24 年度は合計で 50 件 999 名の見学があった。 また、公募に係る研究課題については、消防防災 全般としていたものに、平成 18 年度には消火・救 助等に関しあらかじめ設定した課題( 「テーマ設定 競争的研究資金による 産学官連携の推進 型研究開発」枠)を、平成 19 年度には火災等の災 害に対する消防防災活動や予防業務等における現場 のニーズを反映した課題( 「現場ニーズ対応型研究 消防庁では、消防防災科学技術の振興を図り、安 開発」枠)を新たに設定し、また、平成 23 年度公 心・安全に暮らせる社会の実現に資する研究を、提 募時より、消防機関に所属する者の研究グループへ 案公募の形式により、産学官において研究活動に携 の参画を義務付けすることとし、消防機関のニーズ わる者等から幅広く募り、優秀な提案に対して研究 をより反映した形で火災等の災害現場に密着した課 第 6 − 4 表 採択研究テーマ名一覧 (平成 25 年度) 平成 25 年度採択の新規研究課題(5 件) ・福島第一原発での教訓を踏まえた突入撤退判断システムの開発 ・津波に対する危険物貯蔵施設の多段階防護システム ・ゲル状消火剤の高精度投下による安全かつ効果的な航空消火システムの開発 ・聴覚・言語機能障がい者のための緊急通報システムの開発 ・傷病者の体調に優しい救急車用ベッドの振動低減に関する研究開発 平成 24 年度採択の継続研究課題(10 件) ・救急患者の緊急度評価基準の確立と救急活動の質の評価 ・大規模災害、 聴覚・言語機能障がいに対応した緊急通報技術の開発 ・心肺機能停止患者の気道確保および輸液の効果に関する検討 ・聴覚・言語機能障害者のための緊急ユニバーサル・コミュニケーション・システム ・大震時火災リスクシミュレータの提供と地域消防におけるルール形成の支援研究 ・確実な気道確保と急速脳冷却が可能な声門上気道デバイスと灌流装置の開発 ・地震等災害時に救助活動を支援する障害物除去システムの開発 ・ハイブリッド通信によるロバストな双方向情報伝達システムの開発 ・情報伝達・共有型図上訓練を用いた危機管理体制強化マネジメントプログラム ・地域特性を考慮した効果的な放火火災防止対策と支援システムの研究開発 平成 23 年度採択の継続研究課題(3 件) ・救急搬送の予後向上に向けた医療機関との情報の連結に関する研究 ・消防防災用無人ヘリコプタの高精度飛行制御技術の研究開発 ・救急電話相談事業による救急業務の効率化に関する研究 255 題解決型の研究開発の促進を図っている。さらに、 度の下、これまでに 93 件の研究課題が終了し、 平成 24 年度には東日本大震災関連の研究課題に重 数々の研究成果が得られている。特に平成 17 年度 点を置くなど、鋭意、公募方針を見直し一層の実用 には「水 / 空気 2 流体混合噴霧消火システムを用い 化に向けて本制度の充実を図っている。 た放水装置」が、また、平成 19 年度には「小水量 平成 25 年度の新規研究課題については、外部の 型消火剤の開発と新たな消火戦術の構築」が、そし 学識経験者等からなる「消防防災科学技術研究推進 て平成 23 年度には「高圧水駆動カッターの研究開 評価会」の審議結果に基づき、「科学技術イノベー 発」が、それぞれ産学官連携推進会議において産学 ション総合戦略」(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定) 、 官連携功労者表彰(総務大臣賞)を受賞した。 「世界最先端 IT 国家創造宣言」(平成 25 年 6 月 14 日 閣議決定)、「日本再興戦略」(平成 25 年 6 月 14 日 消防機関の研究等 閣議決定)等の政府方針を踏まえた消防庁が重要視 消防機関の研究部門等においては、消防防災の科 する研究課題(エネルギー・産業基盤における災害 対応力の強化等)を考慮し、5 件を採択した。 学技術に関する研究開発として主に消防防災資機材 等の開発・改良、消防隊員の安全対策に関する研 についても上記評価会の評価審議結果に基づき 13 究、救急及び救助の研究、火災性状に関する研究な 件採択している(第 6 − 4 表、第 6 − 5 表)。この制 ど、災害現場に密着した技術開発や応用研究を行う 6 章 とともに、火災原因調査に係る原因究明のための研 第 また、平成 23 年度、平成 24 年度からの継続課題 究(調査、分析、試験等) 、危険物に関する研究が 消防機関の研究部門等は個々に研究を行うだけで はなく、東京消防庁をはじめ、札幌市消防局、川崎 市消防局、横浜市消防局、名古屋市消防局、京都市 消防局、大阪市消防局、神戸市消防局及び北九州市 消防局の 9 消防機関においては、毎年度「大都市消 防防災研究機関連絡会議」を開催するなど、消防防 災科学技術についての情報交換・意見交換等を行っ ている(これらの研究部門等の概要は、第 6 − 6 表 のとおり) 。 「高圧水駆動カッターの研究開発」 第 9 回産学官連携功労者表彰総務大臣賞受賞 研究機関:櫻護謨株式会社 株式会社スギノマシン高圧装置事業部 首都大学東京機械工学専攻 東京消防庁消防技術安全所 第 6 − 6 表 (平成 24 年度) 消防本部名 第 6 − 5 表 応募件数、 採択件数等の推移 (各年度) 年 度 応募件数 採択件数 継続件数 消防機関の研究部門等の概要 予 算 平成 15 年度 131 件 16 件 ― 2.0 億円 平成 16 年度 64 件 12 件 12 件 3.0 億円 平成 17 年度 75 件 11 件 18 件 3.7 億円 平成 18 年度 47 件 9件 15 件 3.5 億円 平成 19 年度 38 件 9件 17 件 3.1 億円 平成 20 年度 44 件 13 件 13 件 2.9 億円 平成 21 年度 65 件 12 件 13 件 2.8 億円 平成 22 年度 47 件 9件 19 件 2.5 億円 平成 23 年度 45 件 6件 10 件 1.6 億円 平成 24 年度 33 件 12 件 7件 2.1 億円 平成 25 年度 28 件 5件 13 件 1.8 億円 札幌市消防局 東京消防庁 定員 4 43 主な試験研究(備考) ④⑦ ①②③⑥⑦ 川崎市消防局 3 ④⑤ 横浜市消防局 5 ①②⑦ 名古屋市消防局 6 ③⑤⑥⑦ 京都市消防局 6 ④⑤⑦ 大阪市消防局 10 ⑤⑥ 神戸市消防局 3 ②⑤ 北九州市消防局 3 ① (備考) ①一般の火災研究 ②救急及び救助の研究 ③危険物に関する研究 ④消防防災資機材等の研究開発 ⑤火災原因究明及び鑑識等の調査研究 ⑥普及啓発手法に関する研究開発 ⑦消防隊員の安全対策に関する研究開発 (備考) 消防庁まとめにより作成 256 消防防災の科学技術の研究・開発 行われている。 消防防災科学技術の研究の課題 することとされ、 「世界最先端 IT 国家創造宣言」 (平 成 25 年 6 月 14 日閣議決定)においては、災害現場 東日本大震災では、多数の津波火災の発生と大規 に近付けない大規模災害・特殊災害等に際して、IT 模市街地火災への進展、危険物施設の火災・流失、 を活用してリモートで操作できる災害対応ロボット 被害全体像に関する情報の獲得困難、通信の途絶に 等を 2018 年度までに導入し、順次高度化を図ると よる消防活動阻害、津波浸水域での消防活動困難な ともに、地理空間情報(G 空間情報)を活用した避 ど、解決を要する消防の科学技術課題が多数提起さ 難誘導や消火活動について、2016 年度までに導入 れた。また、平成 23 年、24 年に相次いだ台風や集 を検証し、2020 年度までに導入を実現することと 中豪雨による甚大な被害の発生など、地震以外の災 された。 害も多発している一方、高齢化・人口減少に代表さ また、東日本大震災等を踏まえた産業施設等の火 れる社会構造の大きな変化や福島第一原子力発電所 災・事故予防対策としては、 「科学技術イノベー 事故を契機としたエネルギー事情の変化等科学技術 ション総合戦略」 (平成 25 年 6 月 7 日閣議決定)に の側面から的確に対応すべき消防防災上の課題も おいて、石油タンクの地震・津波時の安全性向上及 多い。 び堆積物火災の消火技術、多様化する火災に対する 消防庁では、こうした情勢を踏まえた新しい消防 防災科学技術高度化戦略プランを平成 24 年 10 月に 安全確保に関する研究について実用化することとさ れた。 策定した。新たな課題が大きくかつ多岐にわたり顕 さらに、昨今の社会構造、経済情勢の変化に伴い 在化してきている中、これらの課題に積極的に対応 現出した課題としては、 「規制改革実施計画」(平成 し、国民生活の安心・安全を確保していくための消 25 年 6 月 14 日閣議決定)において、液化水素スタ 防防災科学技術の研究開発を戦略的に、かつ効率的 ンドに関する高圧ガス保安法上の技術基準が定めら に推進するためには、消防防災分野の研究開発に携 れた場合は、それを踏まえて液化水素スタンドと給 わる関係者の共通の認識・目標であるこのプランの 油取扱所を併設する際の消防法上の安全対策を検討 趣旨に沿い、研究開発が進められる必要がある。 し、結論を得ることとされ、これと関連して、「科 現在、南海トラフ地震や首都直下地震等の発生が 学技術イノベーション総合戦略」 (平成 25 年 6 月 7 危惧されており、東日本大震災が提起した課題に関 日閣議決定)においては、2015 年度までに水素ス する研究成果達成の迅速化も求められており、情報 テーションに係る安全性評価技術を開発することと 通信技術など消防防災への適用が可能な他研究分野 された。 の研究成果の活用も重要である。 これらの消防防災科学技術の研究開発について、 今後発生が懸念される南海トラフ地震や首都直下 着実に成果を達成するとともに、研究開発の成果に 地震等の大規模地震発生時における我が国のエネル ついて、技術基準等の整備や消防車両・資機材の改 ギー・産業基盤の被災に備えた国土強靭化の観点か 良等、消防防災の現場へ適時的確に反映していくこ らは、産業施設等の火災・事故予防対策に加え、爆 とが、これまで以上に求められる。 発・火災が発生した場合の被害を最小限に食い止め 消防防災科学技術の研究開発の推進にあたって るための応急対応能力を高める必要があることか は、消防防災科学技術の必要性の増大、対象とする ら、 「日本再興戦略」 (平成 25 年 6 月 14 日閣議決定) 災害範囲の拡大を踏まえ、消防研究センターは言う においては、緊急消防援助隊にエネルギー・産業基 までもなく、消防機関の研究部門の充実強化が必要 盤災害即応部隊を創設し、大規模・特殊災害対応車 である。また、関係者の連携については、関係府 両・資機材等を研究開発・導入することとされた。 省、消防機関等行政間の緊密な連携はもとより、大 これに関連し、「科学技術イノベーション総合戦 学、研究機関、企業等との連携も更に推進していく 略」(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定)においては、 ことが必要であり、そうした連携の推進を図るため 2015 年度までに消防ロボット技術を導入し、以降、 にも、消防防災科学技術研究推進制度の、より一層 実用化や高度化を図るとともに、消防車両による水 の充実が必要である。 やガレキが滞留している領域の踏破技術・救助技 火災の原因調査や危険物流出等の事故原因調査 術、無人ヘリ等による偵察技術・監視技術を実用化 も、火災や流出事故の予防にとって重要な消防の業 257 務である。近年、製品に関連する火災をはじめ、原 研究成果を地震・津波、火災等の災害現場におけ 因調査に高度な専門知識が必要とされる事例が増加 る消防防災活動や防火安全対策等に利活用するため しており、製品の火災原因調査については、平成 には、研究成果の公表、具体的な活用事例等に関す 24 年 6 月に消防機関の調査権限の強化を図る消防 る情報共有化のより一層の推進が必要であり、特に 法が改正されたことを踏まえ、今後、科学技術を活 消防研究センターの情報発信機能を、より強化する 用した原因調査技術の高度化を図っていくことが必 ことが重要である。 要である。 第 章 6 消防防災の科学技術の研究・開発 258 ICT や G 空間情報を活用するなどの新しい研究開発 東日本大震災では、次のような消防防災分 野における科学技術上の重要課題が改めて浮 を目指すこととしている。 き彫りとなった。〔1〕極めて広域な地域が (1)エネルギー・産業基盤災害即応部隊の 被災地となるような災害が発生した場合にお 高度な車両・資機材等の研究開発 ける早期かつ的確な被害推定及び被害情報収 今後発生が懸念される南海トラフ地震や首 集並びに応急対応に関する意思決定支援のた 都直下地震等の大規模地震発生時における我 めの情報通信技術の必要性、〔2〕津波浸水 が国のエネルギー・産業基盤の被災に備えた 域で発生した火災の発生原因・延焼要因の究 国土強靭化の観点からは、産業施設等の火 明と防火対策に関する知見の必要性、 〔3〕 災・事故予防対策に加え、爆発・火災が発生 水やがれきが滞留している津波浸水域におけ した場合の被害を最小限に食い止めるための る消防活動・救助活動を高度化する技術の必 応急対応能力を高める必要があることから、 要性、〔4〕石油コンビナートにおける地震・ 「日本再興戦略」 (平成 25 年 6 月 14 日閣議決 津波対策、特に津波対策に関する知見の必要 定)においては、緊急消防援助隊にエネル 性、〔5〕震災後に発生するがれきなど堆積 ギー・産業基盤災害即応部隊を創設し、大規 物の火災予防対策に関する知見と消火技術の 模・特殊災害対応車両・資機材等を研究開・ 必要性、〔6〕原子力発電所の事故を受けて、 導入することとされ、消防庁では、エネル 今後なお一層利活用の推進が予想される再生 ギー・産業基盤災害即応部隊の応急対応に資 可能エネルギーの防火安全対策に関する知見 するリモート操作可能な災害対応ロボット等 の必要性などである。 の G 空間× ICT を活用した高度な車両・資機 消防庁においては、東日本大震災で浮き彫 材等の研究開発に取り組んでいる。これに関 りになった課題や、昨今の社会構造、経済情 連し、 「科学技術イノベーション総合戦略」 勢の変化に伴い現出した課題など、山積する (平成 25 年 6 月 7 日閣議決定)においては、 消防防災分野における様々な課題について科 259 種の調査検討事業等により、必要な成果達成 2015年度までに消防ロボット技術を導入し、 学技術の側面から解決する研究・開発を戦略 「災害の早期予測・危険度予測手法を開発」 、 的かつ効率的に推進するため、東日本大震災 以降、実用化や高度化を図るとともに、消防 後に策定された「第 4 期科学技術基本計画」 車両による水やガレキが滞留している領域の (平成 23 年 8 月 19 日閣議決定)との整合を 踏破技術・救助技術、無人ヘリ等による偵察 図りつつ、平成 24 年 10 月に「消防防災科学 技術・監視技術を実用化することとされた。 技術高度化戦略プラン(2012)」を取りまと さらに、 「世界最先端 IT 国家創造宣言」 (平成 め、関係者の共通の認識・目標として、これ 25 年 6 月 14 日閣議決定)においては、災害 からの 5 年を基本的な目標期間とした長期的 現場に近付けない大規模災害・特殊災害等に な観点からの消防防災分野における国の研 際して、IT を活用してリモートで操作でき 究・開発の方針を示したところである。消防 る災害対応ロボット等を 2018 年度までに導 防災科学技術の研究開発については、消防研 入し、順次高度化を図るとともに、地理空間 究センターを中心に国内外の研究機関と効果 情報(G 空間情報)を活用した避難誘導や消 的な連携を図り、消防防災科学技術研究推進 火活動について、2016 年度までに導入を検 制度(競争的研究資金制度)等を活用して研 証し、2020 年度までに導入を実現すること 究開発を進めるとともに、消防庁における各 とされた。 (2)G 空間情報を活用した次世代災害 シミュレーションの研究開発等 位置に関連づけられた情報である地理空間 情報(G 空間情報)については、準天頂衛星 の地震・津波時の安全性向上及び堆積物火災 の消火技術、多様化する火災に対する安全確 保に関する研究について実用化することとさ れた。 システムによる高精度な測位環境の実現に向 昨今の社会構造、経済情勢の変化に伴い現 けた取組や地理情報システムの高度利用の進 出した課題としては、 「規制改革実施計画」 展等、大きな前進が見られ、G 空間情報を (平成 25 年 6 月 14 日閣議決定)において、 ICT により高度利用することによって、防 液化水素スタンドに関する高圧ガス保安法上 災・減災対策の高度化を実現していくことが の技術基準が定められた場合は、それを踏ま 重要である。 えて液化水素スタンドと給油取扱所を併設す 得ることとされ、これと関連して、科学技術 模災害時に消防部隊の最適運用や住民の避難 イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 安全を確保するため、G 空間情報に基づく災 日閣議決定)においては、2015 年度までに 害シミュレーションの研究開発を推進すると 水素ステーションに係る安全性評価技術を開 ともに、災害時に地方自治体や緊急消防援助 発することとされた。 隊からの災害情報を G 空間プラットフォーム 消防庁では、これらの消防防災科学技術の 上で集約し、緊急消防援助隊等で共有し、よ 研究開発について、消防研究センターを中心 り的確な災害対応を可能とするシステムを開 に国内外の研究機関と効果的な連携を図り、 発することとしている。 消防防災科学技術研究推進制度(競争的研究 (3)産業施設等の火災・事故予防対策 6 消防防災の科学技術の研究・開発 「G 空間プラットフォーム」と連携し、大規 章 る際の消防法上の安全対策を検討し、結論を 第 このため、消防庁では、総務省が構築する 資金制度)等を活用して研究開発を進めると 東日本大震災等を踏まえた産業施設等の火 ともに、消防庁における各種の調査検討事業 災・事故予防対策としては、「科学技術イノ 等により、必要な成果達成を目指すこととし ベーション総合戦略」において、石油タンク ている。 260