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第 20 講 ルネサンス

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第 20 講 ルネサンス
基礎からわかる倫理
第 20 講 ルネサンス ルネサンス 西洋の近代はRenaissance(ルネサンス)・Reformation(宗教改革)という「2つのR」
から始まるといわれている。 ●Renaissance(ルネサンス)・・・再生・復活という意味で、「文芸復興」と訳される。 14世紀のイタリアから始まった、ギリシア・ローマの古典文化を復興させる精神的運動。 中世の神(教会)中心の文化から個人を解放し、豊かな人間性に満ちた「人間中心主義」の 文化を生み出した。 *ルネサンスの三大発明 1・火 薬 → 戦術・戦争の変化 → 従来の騎士が没落 2・羅針盤 → 地理上の発見 → 貿易・商業の発達 → 市民の台頭 3・活版印刷 → 聖書の普及 → 教会・聖職者の価値低下(権威低下) *フィレンツェ・ジェノヴァ・ヴェネツィアなど北イタリアの商工業都市が発達 →経済力をつけた市民の台頭・自治都市の誕生(封建領主の弱体化) (ドイツではのちに「都市の空気は自由にする」といわれるようになる) *十字軍(聖地エルサレムの奪還)の失敗 →ローマ=カトリック教会の権威没落 人々はそれまでの教会中心の学問・思想・芸術などから解き放たれ、新たな価値を探求。 ●自由意志
ルネサンス期には、中世の宗教的束縛から解放され、自由意志によって何事でも成し遂
げ、自己を高めて完成させる万能人が理想とされた。ピコ=デラ=ミランドラは、人間は
自由意志によって自己の形成者となれると主張して自由意志を肯定した。エラスムスは
『自由意志論』を書いて、神の恩寵と人間の自由は両立すると説いた。これに対してル
ターは『意志非自由論』を書いて、罪を持つ無力な人間には、自らの意志で善や悪に向
かう自由はなく、すべては神の摂理によって必然的に定められていると説き、自由意志
論争が展開された。
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第 20 講 ルネサンス
ヒューマニズム(人文主義)
古典研究を通じ人間性を再評価し回復・人間中心主義
●先駆者
ダンテ(人文主義の先駆者)『神曲』(イタリア語の口語体で書かれた長編の叙事詩)
ペトラルカ(人文主義の父)『カンツォニエーレ』(人妻への恋を官能的にうたう)
ボッカチオ 『デカメロン(十日物語)』(物欲や情欲に翻弄される人間の姿)
●万能人(普遍人)
ルネサンス期の理想的な人間像
芸術・思想・科学などで才能を発揮する人
レオナルド=ダ=ヴィンチ「最後の晩餐」
「モナ=リザ」
・建築・土木・物理・医学・音楽など
ミケランジェロ「最後の審判」「ピエタ像」「ダヴィデ像」
ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」「春(プリマヴェラ)」
ラファエロ「アテネの学堂」
●人文主義者 ピコ=デラ=ミランドラ(15c・イタリア)『人間の尊厳について』
→人間の尊厳を自由意志に求める(人間は自由意思によって獣にも退化し、神的にもなる)
人間は神によって、自由意志を与えられた存在であり、自らの考えで自らを作れる。
「アダムよ。私はお前に一定の住所も、固定した容貌も、特別な使命も与えなかった。
・・・お前自身の考えの通りにそれらを持つようにというためである。・・・お前自身の自由
意志によって、お前は自分の本性を形づくってかまわない。」(『人間の尊厳について』)
エラスムス(16c・オランダ・人文主義者の王)『愚神礼賛』(ローマ教皇・聖職者を風刺)
→伝統的権威にしがみつき腐敗するカトリック教会を批判
(のちルターの宗教改革に影響・「エラスムスが生んだ卵をルターが孵化させた」)
→『新約聖書』をラテン語以外で初めて出版(宗教改革に影響)
トマス=モア(16c・イギリス)『ユートピア』(私有財産制度のない理想の社会)
→ジェントリ(在地貴族)によるエンクロージャー(囲い込み)を批判(羊が人間を食い殺す)
マキャヴェリ(16c・イタリア)『君主論』
→イタリア統一のためキリスト教道徳に縛られない現実的な政治手法(支配者)を探求
(イタリアを統一して強国を建設するためには何ものからも独立した権力が必要である)
→狐の知恵(謀略・策略)とライオンの獰猛さ(力)=権謀術数主義(マキャヴェリズム)
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基礎からわかる倫理
以下に示す文章の 1 2 に当てはまるものをそれぞれ選びなさい。 [2011・センター・本試験] 寛容が一定の意味内容をもつようになる端緒は、教会の権威に囚(とら)われずにギリシ
ア・ローマの古典的文芸を研究する 1 が生まれたルネサンスにある。例えば、ボッカチ
オは『デカメロン』の「三つの指輪」の物語で諸宗教間の寛容を説いた。また、聖書研究に
基づいてキリスト教本来の精神をとらえようとした 2 は、『愚神礼賛』で、戦争や蓄財
に熱中する教会の不寛容と堕落を批判した。 1 ①合理主義 ②福音主義 ③啓蒙主義 ④人文主義 2 ①トマス=モア ②エラスムス ③グロティウス ④ウィクリフ ルネサンスの時代に活躍した人物の説明として最も適当なものを、次の①∼④のうちから
一つ選べ。[2010・センター・追試験] ① ボッカチオは、『デカメロン』において、聖俗を問わず、当時のほぼすべての階級・職 業の人々が、人間的な欲望に動かされながら生きる姿を大胆かつ滑稽に描き出した。 ② マキャヴェリは、『君主論』において、君主は、偉大さと悲惨さとの間を揺れ動く中間 的存在である人間の自主性を尊重しつつ、統治しなければならないと主張した。 ③ ミケランジェロは、『最後の審判』において、裏切りによる死を予告する劇的な瞬間の
キリストと弟子たちの姿を、写実的ながら全体の調和を失うことなく表現した。 ④ エラスムスは、
『愚神礼賛(痴愚神礼賛)』において、私有財産制度のない理想的な平等 社会における人々の生活ぶりを具体的に示し、反語的(アイロニカル)に当時の社会を
批判した。 133
第 20 講 ルネサンス
以下に示す文章の 1 2 に当てはまるものをそれぞれ選びなさい。 [2005・センター・本試験] 私たちは社会の中で一人の自由な人間として生きている。人間がそうした自由を手に入れ
るようになったのは西洋近代においてだった。それまで人間の生活を支配してきた身分制的
秩序がゆらぎ,そうした秩序に縛られない自由な人間が登場してきたのである。 マキャヴェリの『 1 』を見てみよう。マキャヴェリはそこで, 2 と権力者に忠告
しているが,その背景にそうした自由な人間の登場が予感される。彼は,いったん自由に目
覚めた人間は,いかなる支配も拒否し,権力者にどこまでも抵抗するものであると指摘して
いる。 1 ① 国 家 ② 政治学 ③ 君主論 ④ ユートピア 2 ① 権力者に可能なのはつねに民衆の要求に従った政治のみである ② 権力者は深い信仰をもち,宗教的権威により支配を正当化すべきである ③ 権力者はいかなるときにも厳格に道徳的にふるまわなければならない ④ 権力者は権力の維持・強化のためにはいかなる手段も用いるべきである ルネサンスの思想家ピコ=デラ=ミランドラは哲学を通じて現実世界の対立を融和させよ
うとした。彼の主張として最も適当なものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 [2003・センター・本試験] ① 宇宙は何も知らない。人間の尊厳のすべては,考えることの中にあるので,人間は努め
てよく考えるべきである。 ② 人間は自由なものとして生まれる。人間の自由は各人のものであり,他人にはその自由
を処分する権利はない。 ③ 人間は,何らかの行いによるのではなく,信仰によって万物から自由であり,すべての
ものの上に立つことができる。 134
基礎からわかる倫理
④ 人間は自分の価値を自ら選ぶことができる名誉ある存在であり,自由意志によって創造
的に生きることができる。 人間の尊厳を自由意思の観点から説いた思想家としてピコ=デラ=ミランドラが挙げられ
る。次の文章は、神の言葉を借りてピコが自らの思想を述べたものである。これを読んで、
ピコの考えを説明した記述として最も適当なものを、次の①∼④のうちから一つ選べ。
[2009・センター・追試験] アダムよ、・・・私は、おまえを天上的なものとしても、地上的なものとしても、死すべき
ものとしても、不死なるものとしても造らなかったが、それは、おまえ自身が、いわば「自
由意志を具(そな)えた名誉ある造形者」として、おまえの選び取る形をおまえ自身が造り
出すようにするためである。おまえは、下位のものどもである獣へと退化することも、また
決心しだいでは、上位のものどもでもある神的なものへと生まれ変わることもできるだろう。 (ピコ=デラ=ミランドラ『人間の尊厳について』) ① 人間の尊厳は、人間がおかれた宇宙の中での位置によって決定されており、人間が被造
物として神の栄光に奉仕することによって示される。 ② 人間の尊厳は、自由医師によって、宇宙のなかでの位置を決定できることにあり、どの
ような生き方を選び取るかは人間の決断にかかっている。 ③ 人間の尊厳は、前世やこの世での善行や罪業に関わりなく、信仰によって、来世には必
ず自らの欲する姿や形で生まれ変わることに存する。 ④ 人間の尊厳は、自らの置かれた環境を受け入れつつ、より快適な生活様式や社会関係を
積極的に創り上げていく姿勢に見出される。 135
第 20 講 ルネサンス
以下の記述は、ルネサンス期の思想家についての説明である。 1 2 に当てはま
る人物はそれぞれ誰か。最も適当な組み合わせを①∼④のうちから一つ選べ。 [2009・センター・追試験] 1 は、イタリアの分裂抗争の主な原因を、外国の干渉と国内における人間と社会の腐
敗堕落のうちに認めた。このような認識から、政治は宗教や道徳に依拠することなく、現実
の社会の状況を直視して行われなくてはならないことを主張した。 2 は、当時のイギリス社会の富の偏在と腐敗の原因を、私有財産制のうちに認めた。 そして彼は、人々が自由で平等に暮らせる公平な社会を「どこにもない理想的な国」として
描いた。 ① 1 マキャヴェリ 2 ヒューム ② 1 ペトラルカ 2 トマス=モア ③ 1 マキャヴェリ 2 トマス=モア ④ 1 ペトラルカ 2 ヒューム 以下に示す文章の に当てはまるのは①∼④のうちどれか。 [1999・センター・追試験] ルネサンスにおいて「ヒューマニズム」の思想が成立して,人間と世界との関係が問い直
される。芸術と学問が融合して確立された遠近法という絵画技法は,その一例と考えること
ができる。ルネサンス以前では,絵画空間は宗教的秩序に基づいて構成された聖なる空間で
あり,美とは神の恩寵の光が反映したものであった。これに対して,遠近法はそうした絵画
空間を主体としての人間の視点から再構成するものである。そこには が含まれている
といえよう。 ① 人間が自然を支配しようとする意志 ② 人間が自然の秩序を模倣しようとする態度 ③ 人間が自然と戯れようとする態度 ④ 人間が自然にしたがって生きようとする意志 136
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