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世界都市・東京のクリエイティブ経済下での課題
慶應義塾大学経済学部研究プロジェクト論文(2007 年度) 世界都市・東京のクリエイティブ経済下での課題 ~アジア各都市との比較を通じて~ 経済学部 4 年 瓜生全克 (指導教員:長田進) 2008 年 2 月 28 日 要旨 本論文が目指すべきところは、近年注目を集める創造都市の考え方を調査しながら、世 界都市・東京の再活性化の方策を探ることにある。東京は 1980 年代以降、世界都市として 経済的に大きな影響力を誇る都市であった。現在でも東京は世界の経済・文化の拠点とし ての存在感を維持しながらも、その発展に限界を感じ始めていた。現在世界中のあらゆる 都市においても、優れた人材を集め、彼らが持つ創造性によって地域産業・文化のイノベ ーションを起こすことが経済発展への必要不可欠な条件になっている。そして、このよう な人々は、自らが心地よく暮らせて、その能力を如何なく発揮できる都市を求めて簡単に 移動する時代になった。東京は、優れた人材が能力発揮できる環境・設備を十分に整えて いながら、外国人に対する寛容性の低さから、彼らを惹き付けられないでいる。今、東京 に求められるのは、ビジネス・文化的インフラの整備ではなく、多様な人材を受け入れる 姿勢への変革である。 目次 ■序論 ■第 1 章 世界都市論 第1節 世界都市とは何か 第2節 世界都市・東京 ■第 2 章 創造都市の時代 第1節 世界都市論の限界 第2節 クリエイティブ経済 第3節 創造都市論の東京への応用 ■第 3 章 東京のクリエイティビティ ・各表 ・引用資料 ■結論 ■参考文献 1 序論 これまで経済・文化面において圧倒的な影響力を誇っていたのは、ニューヨークやロン ドン・東京といった人口が数百万人に及ぶ世界的大都市である。こうした都市は、1960 年 台以降のグローバル化の進展の中で国際金融センター・国際ビジネス拠点として成長し、 1980 年代になるころには 世界都市 と呼ばれるようになった。世界中のヒト・モノ・カ ネが集まる中で経済に加えて文化も発達し、ハイカルチャーからサブカルチャー至るまで 多様な娯楽に触れることができる都市となった。現在でもニューヨークやロンドンは経 済・文化の中心地として、揺るぎ無い存在感を持っている。 では現在の東京はどうか。日本のみならずアジアの金融・ビジネス都市として重要な役 割を果たしていることに変わりはない。文化面においても東京発のアニメーションや現代 アートが人気を博している。しかし、アジア都市の急速な発展によって、東京の圧倒的な 優位性は失われつつあるように思える。実際にシンガポールや香港などは金融センターと して外国法人が集積し、アジアの中心都市と呼ぶにふさわしいまちへと変貌を遂げている。 このようにアジアにも世界都市と言われる大規模都市が複数存在し、各都市がそれぞれに 独特な産業や文化も抱えており、これら都市からだけでも多様な商品・サービス・娯楽が 提供・発信されている。欧米でも同様で、サンフランシスコやシカゴ、ベルリンやミラノ といった世界都市も経済・文化の拠点として一定の影響力を持っており、1 つの大陸(地域) を見ても複数の大都市によって多様性を保っている。世界都市間における競争が激しさを 増しつつあるものの、世界はこれら大都市を中心に動いているのは以前と変わっていない。 ところが、 創造都市 と呼ばれるまちが近年になって注目を集めてはじめている。ニュ ージーランドのウェリントンや日本の金沢市など、これまで経済・文化面において一地方 でしかなかったこれら都市が、大規模映画の製作拠点化や伝統工芸商品のブランド化を成 功させたことで、世界的な知名度や存在感を向上させた。数多くの大都市から多様な商品・ サービス・文化が発信されているにもかかわらず、金沢のような中小都市が注目を集めて いるのはなぜか。同じことは他の地域においても言える。シドニーやオークランドといっ た、より規模の大きい都市があるのに、なぜウェリントンが映画製作の拠点となるのか。 ヨーロッパでも、ボローニャといった中小都市が注目されている。これらの都市は人口も 数十万人規模で、同じような規模を持つ中小都市は世界中にたくさん存在する。これら中 小都市の大多数は、産業衰退や大都市への人口流出に苦しんでいる。そうしたなかで、ウ ェリントンや金沢が成功を手にすることができたのはなぜであろうか、またどうして創造 都市と呼ばれるのであろうか。 先ほど、東京の相対的な地位が低下傾向にあり、アジアにおいて世界都市間競争が繰り 広げられていると述べた。このような状況の下で、東京はいかに発展していかなければな らないのであろうか。そのヒントは創造都市から得られるであろうと推測できる。なぜな ら、創造都市に注目が集まり独自の発展を遂げているのは、世界都市に足りない要素を創 2 造都市が持っていると考えられるからだ。 以上の考えのもと、本稿では1)世界都市が発生するに至った経緯と、世界都市が持つ 特徴を調査する。同時に東京の世界都市としての独自性についても調べる。次に、2)世 界都市と同様に、創造都市についても、発生の経緯とその特徴を調査する。その過程で現 在の世界都市が持っていない、創造都市独特の要素が明らかにされることが予想される。 そして、3)創造都市をヒントに、アジア都市間競争下で、東京が勝ち残っていく為に必 要な要素を解き明かしていきたい。その際にはアジア主要都市と東京を様々な観点から比 較して、東京の課題を明らかにすることが明らかにすることが求められる。 3 第1章 世界都市論 第1節 世界都市とはなにか 世界都市という言葉は昔から使われているが、現在までのあいだに意味が変化してきて いる。ゲーテが「イタリア紀行」の中で Weltstadt 1と表現した古代ローマなど、中世ヴ ェネツィア、近世パリ、アムステルダムの様に歴史的に隆盛を極めた様々な都市に対して 用いられた。このような場合の 世界都市 は「文人や一部の都市批評家たちの関心や情 景の対象であり、言葉は文学的、哲学的な用語であって、一般にはそれほどポピュラーな 概念とはいえなかった」 2とされ、世界都市の定義は曖昧であったと推測される。また近代 の世界都市では「ロンドンやパリのように都市規模が大きく、国家の政治活動の中心とな り、かつ貿易活動を通して植民地を支配・統括する都市」 3を指していた。しかし、都市の 影響力が国内と自国植民地にしか及んでいない限り では現在使用されている 市を指す言葉ならば 世界都市 大都市 を示しているものとしては 国際的 な都市とはいえない。 はどのようなものであろうか。単に人口の多い都 という表現で十分である。また大都市化のひとつ先の段階 メガロポリス や メトロポリス などが挙げられる。こう した言葉で世界都市が持つ性格を説明することはできないのか。メガロポリスは巨帯都市 と訳され、 「大都市圏が重複し多角的な都市化地域」4である。つまり各都市は独立していな がらも、隣接する大都市間の市街地が連続して連なっていて一部の大都市機能を相互に補 完し合っていることから、全体を 1 つの巨大都市と見ることのできる地域のことである。 メトロポリスは広域中心都市と訳される。これは、「都市的機能が広い地域を支配し、その 下部に多くの中小都市を従属させているような都市」 5をいい、外縁地域に多数の衛星都市 やベッドタウンを抱える都市のことを指す。またメトロポリスは「国家都市、世界都市な どとも呼ばれる」 6とあることから、メトロポリスと世界都市は同じ意味であると考えるこ ともできる。しかしながら、それは単に世界的な規模を有する都市であるという意味であ ると考えられる。1980 年代以降になって頻繁に使われるようになった 世界都市 という 言葉は、それまで用いられてきた世界都市から、明確に区別できるものである。 事典を参照してみると、世界都市とは「人口の大小よりも国際的機能によって判断され るべき都市」 7となっている。つまり現在の 世界都市 は国際的な機能を持ち合わせてい ることが条件で、この点でメトロポリスと世界都市が同じであると考えることはできない。 この条件を照らし合わせることで、これまでと比べて明確な意味を持つようになった。近 1 2 3 4 5 6 7 世界的大都市・コスモポリス(独語)「小学館独和大辞典」小学館 1985 年 加茂利夫「世界都市−都市再生の時代の中で−」有斐閣 2005 年 47p 水岡富士夫・編「経済・社会の地理学」有斐閣 2002 年 320p 「大百科事典 14」平凡社 1985 年 注4前掲書 注4前掲書 「ブリタニカ国際大百科事典 13」TBS ブリタニカ 1995 年 4 年の都市政策などで目指すべきとされた世界都市も、メトロポリタニゼーションを進行さ せた大都市ではなく、国際的影響力をもった都市を指していることからも明白である。 では、現在用いられる新たな 世界都市 が生まれてきた背景をみていきたい。 世界都市という概念が広まりはじめたのは 1980 年代からであるが、それ以前の 1960∼ 70 年代から都市経済に大きな影響を及ぼす世界経済の構造的変化が始まっていた。それは 「新国際分業に象徴されるような産業のグローバルな空間的再編が進んだ」 8ことである。 高速道路などインフラの充実により都心にあった工場が郊外へ移転し、それに伴い研究所 やオフィスが郊外へ移転するようになった。そして通信技術の発展によって外国の工場を 運営することも可能となり、最適な立地を求めて工場が世界中へ展開しはじめた。こうし た状況に連動して、都心から郊外へ人口のみならず一部都市機能までもが移動した結果、 エッジシティ なるものが誕生した。エッジシティとは「巨大都市の既存都市域の外側 ないし外周部に、近年わずかの間に興隆してきた、業務、商業、居住などの複合的都市機 能を備えた巨大な振興開発地域」 9のことを指す。その一方で既存都市内では空洞化・衰退 傾向がみられるようになった。ニューヨークでは大企業本社が減少して深刻な財政危機に 陥り、ロンドンでもインナーシティ問題を抱えることとなった。こうして世界中の大都市 は再生にむけた戦略を策定する必要にせまられた。 さらに同時期において「情報通信技術が急速な発展をとげ、それに支えられた資金・金 融のグローバリゼーションが大幅に進展した」10ことも重要である。世界中の金融市場が連 携し 24 時間いつでも容易に金融取引を行うことが可能になり、巨大な資金が世界中を移動 しはじめる。また多様な金融商品の開発が行われて企業に提供されるなど、企業における 金融サービスの重要性は増大する傾向にあった。こうして金融サービス産業は大きく発展 してゆくのであった。情報通信技術の発達は、金融業をいかなる都市においても立地・成 長させることが出来るようになったとも考えられるが、結果として金融業は特定の都市に 集中することとなった。これは企業が必要とする金融サービスが「個々の金融取引だけで はなく、総合的な金融サービスであるために、金融サービス機能は、集積することによる 外部経済効果を得ることができるような少数の金融センターに集中して立地する」11ためで ある。そして金融サービス機能の集積が少しずつ見られたのがニューヨークやロンドンで あった。減少傾向にあるとはいえ企業本社機能がかなり集積していたことに加えて、情報 通信技術環境が整備されていて、また金融サービスに従事できる人材も多く抱えていたこ となどが理由として挙げられる。 このようにニューヨークでは製造業の流出が見られる一方で、金融などのサービス産業 8 町村敬志「 世界都市 東京の構造転換」東京大学出版会 杉浦章介「都市経済論」岩波書店 2003 年 131p 10 注8前掲書 3p 11 注9前掲書 137p 1994 年 3p 9 5 は集積しはじめる状況になった。これを受けてニューヨーク市では、 「1975 年の財政危機以 降、ニューヨークは大規模なリストラ、とくに公共部門の縮小、すなわち市職員のレイオ フを断行しながら、金融・企業サービス部門には公的助成をおこなった」12のである。この 政策によって、世界中の金融機関がニューヨークに支店を設け、金融等サービス産業はす さまじく成長すると供に世界的影響力を持つようになり、人口も増加傾向を示しはじめた。 世界の金融センターとしての地位を確立したニューヨークは、空洞・衰退化が進行してい た既存大都市の再生において先駆け的な存在となったのである。そして、同様の動きが「イ ンナーシティ問題に悩むロンドンでも採用され、シティの改革やドックランズ再開発とし て具現化していった」13ように、世界各地でサービス産業集積による都市再生が計られるよ うになったのである。 以上のような状況を受けて、「80 年代にはいる頃から、グローバル・パラダイム 14を採用 した都市研究が次第に増加してきた」15という。国際化が進行するなかで、ニューヨークや ロンドンのように、政治経済に於いて一国の範囲を超える影響力を持つ都市が現れたこと に関心が集まった。またこれらの大都市は、移民の増加や市民の経済格差の拡大など様々 な問題を抱えており、その解決にも興味が寄せられることとなった。これら新しい都市現 象を 世界都市 という言葉を用いて研究・議論されるようになったのが世界都市論のは じまりである。 では具体的に世界都市論とはどのようなものか。特に有名なものとして、 「世界都市仮説」 を提唱したジョン・フリードマン 16と、サスキア・サッセン 17を挙げることができる。 まず、フリードマンによって発表された 世界都市仮説 であるが、「その後の世界都市 論の展開の端緒となった」18とされる様に、極めて重要なものである。フリードマンはこの 論文の中で、以下に示す、世界都市仮説に関する 7 つの命題 19を紹介している。 ①一都市の世界経済における統合の様態とその程度、および新空間分業形態においてその 12 伊藤章「ポストモダン都市ニューヨーク−グローバリゼーション・情報化・世界都市−」 松柏社 2001 年 10p 13 注8前掲書 3~4p 14 (1) ものの見方, (2) 問題の立て方,(3) 問題の解き方,の総体。 「世界大百科事典」平凡社 2007 年 15 注8前掲書 1994 年 4p 16 Friedmann,J (1986)”The World City Hypothesis” Friedmann,J. and Wolff, G.(1982)”World City Formation” 17 Sassen,S (1988)The Mobility of Labor and Capital :A Study in International Investment and Labor Flow (1991)The Global City :New York, London, Tokyo, Princeton, New Jersey (1994)Cities in a World Economy, Thousand Oaks, California 18 松原宏「経済地理学−立地・地域・都市の理論−」東京大学出版会 2006 年 228p 19 ①∼⑦ 藤田直治訳「世界都市の論理」鹿島出版会 1997 年 192∼198p(付録、ジョ ン・フリードマン「世界都市仮説」より) 6 都市に付与された機能の実態は、当該都市内部で生起する様々な構造的変化に対し決定 的な影響を与える。 ②世界における各都市群は、世界資本によってその空間組織や生産と市場の文節のうえで の「拠点」として使用される。その結果生じた結合関係を通じて、世界都市は一つの複 雑な空間上の階層構造として編成される。 ③個々の世界都市が備える世界的中枢管理機能は、それぞれが抱える生産および雇用部門 の構造とその動態に直接的な影響を受ける。 ④世界都市とは、国際的な資本の空間的な集中とその蓄積が実現される中心的舞台である。 ⑤世界都市は、大多数の国内および国際的移民によって到達すべき目的地である。 ⑥世界都市形成を通じて、産業資本主義の主要な矛盾点、なかでもとりわけ空間および階 級上の分極化に焦点が当てられることになる。 ⑦世界都市の成長には、国家の財政能力を凌駕しがちな額の社会的費用が必要となること が少なくない。 この中で注目すべきは①∼④の命題である。多国籍企業のグローバルな生産・サービス 活動の頂点として機能する本社を有する都市は、世界の都市システムの中で拠点として位 置づけられる。多国籍企業本社が集中する拠点(都市)を世界都市と呼び、特に集積して いる都市としてニューヨーク・ロンドン・パリ・東京を挙げた。また、多国籍企業の本社 機能を支えるには専門的知識に長けた人材が必要であり、世界都市には専門職人口が集積 し、彼らが快適に活動できるオフィスビル・ホテル・住宅も大量に供給されるのである。 このように、世界経済と密接な関わりのある多国籍企業が集中する都市における、内部地 域での労働市場や建築形態などあらゆる変化は、世界経済への対応と見ることができるの である 以上からも、世界中を舞台に活動する多国籍企業は、世界都市にとって非常に重要な存 在であると考えられる。実際に世界都市と呼ぶことのできる都市には多国籍企業の本社が 多数集積している。また、この理論はニューヨークが世界都市として再生を果たしてから 作られたものであるから、それ以前の「法人本部の存在そのものよりも、法人本部の資金 運用、情報収集、企画などといった、管理中枢機能をバックアップする金融その他法人サ ービスの集積を重視」20していた本社流出期に見られるニューヨークの都市政策に比べると、 「多国籍企業の本社部門の所在それ自体を重く見る世界都市論」21であると考えることがで きる。 一方で、サッセンは「本社部門は 1960 年台、70 年代に比べて(都市の)経済力を測定 する尺度としては十分なものではなくなっている」と述べ、フリードマンとは異なる視点 20 21 注2前掲書 注2前掲書 17p 17p 7 から世界都市を論じている。サッセンが考える世界都市には次のような特徴 22があるとさ れている。 ①世界経済システムのなかで、TNC 23の本社に典型的にみられるような非常に集中した、決 定と指令の機能をもっている。 ②中枢管理機能を支える、金融と専門的サービス業、集中的に集積されているような場所 である。 ③先端産業のイノベーションが行われる知識産業の集中するところである。 ④情報や知識のイノベーションを需要し、活用する巨大な市場である。 サッセンはもちろん、多国籍企業本社の存在は無視できないものとしているが、それよ りも、企業本社機能をバックアップするような金融や専門的サービス産業の集積を重視し ている。特に、 「グローバル金融市場は、過去 10 年間にわたるほかのいかなる制度よりも、 歴史的に国民国家と結びついてきた権力以上のものを有するようになった」24と述べるよう に、金融産業が世界都市形成に重要な要素であることを強調している。企業の国際化・大 規模化は資金調達・運営に関する業務を膨大化・複雑化させた。それと同時期に進行した、 情報通信技術の発展によって多様な金融商品も開発可能となり、金融業務は専門的知識な しでは行えなくなったため専門家に業務の外注化がなされるようになった。背景には、金 融業務は企業間・産業間において業務内容を異にすることが少ないため、専門金融サービ ス業が発達しやすいという事情もあった。産業横断的である金融業は、情報通信技術の発 展によって遠隔地からも業務をこなせるようになり、より効率的に仕事・優秀な人材が得 られる都市に集積するようになった。それが国際金融センターとして台頭したニューヨー ク・ロンドン・東京であり、サッセンが世界都市と呼ぶまちである。またこうした業務の 効率化が図れる都市には、広告・コンサルティング・法律業などの法人向け専門的サービ ス業も集積したのである。 代表的な世界都市論を 2 つ紹介したが、他にもさまざまな概念・理論 25が提唱された。 いずれも、どこかの世界都市の現象を説明しうる理論であると考えられる。 ①∼④ 注9前掲書 135p トランスナショナル企業(Transnational Corporations)の略。多国籍企業のこと。 24 サスキア・サッセン著、伊豫谷登士翁訳「グローバリゼーションの時代−国家主権のゆく え−」平凡社 1999 年 99p 25 Edited by Allen J. Scott 「Global city-regions : trends, theory, policy」Oxford University Press (2000) など。 22 23 8 第2節 世界都市・東京 世界都市の概念・理論に照らし合わせた場合、東京の位置づけはどのようなものか。フ リードマンは多国籍企業本社が集積し、地域拠点なども集積する世界都市システムの頂点 に位置づけられる都市であるとしている。そしてサッセンは、東京をアジア地域における 国際金融センターとして、こちらも世界都市であると指摘している。実際に東京は国内で 圧倒的な企業本社の集積する都市で、世界的に見てもかなりの集積の厚みがある。金融市 場においても、ニューヨーク・ロンドンに次ぐ第3の規模を有している。人口も都市圏で 3000 万人 26以上を抱えており、国内外からヒトのみならず、モノ・カネ・情報が集まる都 市となっている。 ニューヨークが都市再生によって世界都市化を推進させ再びの繁栄を得たことに影響を 受けて、世界中の都市でも多国籍企業、またそれに付随する金融・法人向けサービス業の 集積によって活性化を図る動きが見られた。東京でも、国家レベルにおいては首都改造計 画や第四次全国総合開発計画において、自治体レベルでも「第二次東京都長期計画」27など で世界都市としての地位を確固たるものにすべく、世界都市の考え方を取り入れた都市づ くりが提案されたのであった。 ただ、ニューヨークとロンドンは「どちらの都市でも、雇用、住宅、交通および環境問 題が主な論議の対象とされている。これに対して日本での世界都市東京に関する論議は、 いかにトップクラスのビジネス施設を提供するかに集中していた」 28とされているように、 東京は解決すべき問題が他の世界都市とは異なっていた。これは、特に経済界から東京は 「−十分なオフィススペース、適正に配置された情報施設、文化施設、外国のビジネスエ グゼクティブのためのハイクラスな住宅環境−を欠いている」29と指摘されたことから、こ うした要望に応えなければならないと行政が考えた結果である。こうした状況になった背 景を探っていく上で、東京が持つ都市性格を明らかにすることは重要である。 東京はロンドンやニューヨークと比べて、その産業構造が大きく異なっている。東京 は「金融やサービスはいうに及ばず、ハイテク、卸売業から都市型工業にいたるまでが集 積した、フルセット型の産業構造であり、いわばオールマイティな経済機能を持つ都市」30 であり、国際金融センター機能に特化したロンドンやニューヨークとは別な形の世界都市 化を成したのである。東京は多様な産業を抱えたまま世界都市化したので、過去のニュー ヨークに見られるような衰退を経験することは無かった。幅の広い産業に支えられ、都市 経済が安定している東京は、他都市よりも優れた世界都市であるように見えるかもしれな い。しかし、多数の産業が集まって世界都市としての存在感を得た東京は、一方で特定の 26 27 28 29 30 平成12年国勢調査。京浜葉大都市圏として 3449 万 3466 人。 東京都企画審議室計画部 1986 年 「世界都市東京の創造」総合研究開発機構 1991 年 1p 注28前掲書 1∼2p 注2前掲書 99∼100p 9 一産業が世界経済に与える影響力が弱く、金融業など特定の産業で圧倒的な影響力を持つ ニューヨークやロンドンとは全く異なった世界都市なのである。東京に集積する企業は国 内企業ばかりで、世界経済に大きな影響力を持つ産業があるニューヨークやロンドンには 周辺諸国も含めて統括するような外国法人の地域支社が立地したのに対して、東京に立地 する外国法人の支社は日本国内のみを統括する企業が多かった点に顕著に見られる。 では、なぜ東京はニューヨークやロンドンと並ぶ世界都市と呼ばれるのであろうか。そ れは日本経済の規模の大きさにある。日本の経済規模はアメリカに次いで世界第二位であ り、一国だけでも世界経済において大きな存在感があったのである。さらに、その首都で ある東京には産業が一極集中し、ニューヨークやロンドンほど世界や周辺諸国経済への影 響力がなくても、他の世界都市を凌ぐ規模を有する都市になっていたからである。 もちろん東京も世界中で経済的影響力が非常に強い都市の一つであることは間違いない。 ただ、他の世界都市とは性格が異なっている。東京が持つ世界都市としての性格を説明す るときに、東京を マネーサプライヤー型世界都市 と呼ぶことができる。マネーサプラ イヤー型世界都市(東京)とは、 「ここにやってくる外国法人やビジネスマンは、−(中略) −産業大国日本からマネーを集め、優秀な工業製品や産業ノウハウを集めて外に出す活 動」31が行われる都市である。反対にニューヨークは マネーアブソーバー型世界都市 と 呼ぶことができ、「その質の高い金融・サービス機能によってグローバル・マネーをコント ロールし、対外的な金融・サービス利得によって繁栄するという経済パターンをつくりだ した」32都市のことを指す。つまり東京は、世界で存在感ある日本経済の規模の大きさや産 業技術力の高さを背景に、それを海外へ輸出する中継地点として世界都市化した点で非常 に独特であった。けれども、こうしたカネやモノはマネーアブソーバー型世界都市を通じ て世界に供給されることから、東京とニューヨークは相互依存的な関係であるとも考えら れる。 このように東京は他の世界都市とは異なる性格を持っており、ニューヨークやロンドン と抱える都市問題が異なるのも当然である。マネーアブソーバー型世界都市は、資本・資 金の供給源を地域外に求めるがゆえに都市経済が不安定化し、都市内の雇用問題などがク ローズアップされるようになる。東京はマネーサプライヤー型世界都市であるがゆえに、 金融・サービスの中枢管理機能が弱く、必然と経済界からビジネス機能強化への要望が大 きい。また、多くの産業が一極集中するかたちで世界都市化した東京は、「極端に高い地価 や住宅コスト、過度の密集そして深刻な交通問題などを必然的にともなった」33とあり、生 活環境の悪化が特にひどく、都市の重大な問題として浮上することとなった。 また東京は人種の多様性の面において他の世界都市と比べて劣る。東京に流入する人口 はそのほとんどが国内からの移動であり、外国からの移民は極めて少ない。もちろん外国 31 32 33 注2前掲書 注2前掲書 注2前掲書 70p 69p 88p 10 人労働者は 80 年代を通じて増加傾向にある。東京都の外国人登録者数 34を見てみると、 1980 年に 11 万 4 千人だったものが、1990 年には 21 万 3 千人に増加している。これを、 東京都の対全国比重で見ても、80 年から 90 年の間に 14.6%から 19.8%に増加しており、 東京に集中して外国人が流入していたことは明らかである。しかし、1000 万人を越える東 京都の人口を踏まえれば、外国人労働者の数はまだまだ少数であると言わざるを得ない。 過密問題など、さまざまな課題を抱えながらも、東京は 1980 年代以降、ニューヨークや ロンドンとともに世界都市化を進行させ、国際金融センターとしても一定の地位を獲得す ることができた。しかし、マネーサプライヤー型世界都市と呼ばれるように、東京の世界 都市としての高い評価はグローバル・マネーとコントロールする能力に拠るものではなく、 日本の経済規模・技術力等に支えられたものであった。 ところが、近年アジアの経済成長が急速に進み、技術力の向上も見られるなど、日本の 経済規模や技術力は世界でかつての存在感を失い始めている。こうした動きの中で、シン ガポールや香港が金融センターとしての重要性が増し、上海は急成長する中国経済と世界 経済との結節点として台頭するなど、アジア主要都市の世界都市化が進行している。これ らの都市では空港の 24 時間化・ハブ化して外国都市とのアクセスを向上させ、大規模な港 湾施設を整え物流拠点を目指すなど、ビジネス都市としてのインフラストラクチャーの強 化に積極的に取り組んでいる。 アジア都市間競争 35とも言われる、アジアのビジネス拠 点をめぐる激しい争いが各国で繰り広げられている間にも、東京は目立った施策を実行で きずにいただけではなく、バブル経済の後遺症に苦しんでいた。その結果として東京は 1990 年代を通じて、国際的なビジネス都市としての魅力を失っていくこととなった。スイスの 調査機関が行った調査 36によると、東京の都市競争力は 1992 年に 1 位だったものが、1998 年には 18 位まで低下してしまった。 34 法務大臣官房司法法制調査部「出入国管理統計年報」各年版 アジア都市間競争を扱ったものとして、小森正彦「アジアの都市間競争−東京は生き残れ るか−」日本評論社 2008 年 などが挙げられる。 36 「The World Competitiveness Yearbook」International Institute for Management Development 1999 年 35 11 第2章 創造都市の時代 第 1 節世界都市論の限界 世界の都市システムの中で頂点に位置するとされ、産業・企業が集積した世界都市は、 再活性化に取り組む多くの都市の目標であった。しかし、経済の不安定性や過度の集積に よる生活環境の悪化、専門的な職業に携わる者との大きな賃金格差など、世界都市が持つ 負の面も明らかになった。さらに、世界都市はニューヨーク、ロンドン、東京など人口が 1000 万人クラスの巨大都市でなければ成立しなかったことから、中・小規模の都市には実 現不可能であった。こうしたなか、新たな都市システムの模索が行われるようになった。 例えば、「地価や家賃の適正さ、環境の良さ、都市としての歴史的・文化的魅力、安全さな どの住みよさを指標に都市を見る 住みよさ都市(livable city)、資源浪費・環境高負荷 型ではなく自然との共生的性質を重視した 持続可能都市(sustainable city)、特色ある 文化や技術・人材の集積によって世界をリードする 創造都市(creative city)」37など様々 な都市概念が提唱されるようになったのである。これら新しい都市概念の中でも、「言葉の 広がりと多数の都市への影響力という点で、傑出したのは 創造都市 」38であった。既に、 「100 あまりの都市が自ら 創造都市 を標榜したり、政策目標に掲げたりして、欧米を始 め、日本やアジアにおいても急速にその数が増えつつある」 39とされている。 では具体的に創造都市とはどのようなものであるか。その特徴として、まず、 「芸術創造 のエネルギーが過去から現在まで脈々と続いている都市である」40ことが挙げられる。ここ で云う芸術とは、美術から建築、音楽、演劇、科学など幅広い分野を指し、豊かな都市文 化を持っていることが創造都市として発展する基盤となるのである。これは、「文化遺産は、 われわれの過去の創造性の総体であり、創造性は結果として、社会を前方に進ませる」 41か らである。こうした都市には、美術館や博物館、劇場、図書館、大学など、文化活動を支 える施設が整っており、多くの市民が利用し交流する場所となっているし、都市で活動す る芸術家たちの発表の場所でもある。また、歴史を感じさせる町並みや有名な建築物が存 在し、独特の景観や雰囲気を持っていることも創造都市にとって重要な条件である。アメ リカの都市学者、ジェーン・ジェイコブスも「Old ideas can sometimes use new buildings. New ideas must use old buildings.」 42と言い、新しいアイデアをひらめくには古い建物が 欠かせないことを強調しているのである。そして、ここに挙げたような「芸術文化の創造 注2前掲書 160∼161p 佐々木雅幸+総合研究開発機構「創造都市への展望−都市の文化政策とまちづくり−」 学芸出版社 2007 年 20p 39 注38前掲書 20p 40 注38前掲書 32p 41 チャールズ・ランドリー「創造的都市−都市再生のための道具箱−」日本評論社 2003 年 7p 42 Jane Jacobs「The death and life of great American cities」 Random House 1961 年 188p 37 38 12 性を産業に活かした創造産業群の発展が都市経済のエンジンになり、雇用と富を生み出し ている」43都市のことを創造都市と呼ぶのである。これは、芸術家や科学者が企業と共同し てビジネスを行う、という意味だけではない。芸術家たちが絶え間なく創造活動を行うの と同じように、労働者や職人達が自分の能力や受け継がれてきた技術を応用して、柔軟に 生産活動が行われている都市も創造都市である。 なぜ、都市政策の目標として創造都市がこれほど注目されるのであろうか。それは、「全 世紀末から引き続くグローバル化の大きな流れの中で、多くの都市が産業の空洞化を経験 し、企業倒産や失業者の増大、犯罪や自殺者の増加など社会不安が広がる一方で、都市自 治体の税収不足から財政危機が生じて有効な対応策が取れず、 都市危機 に墜ち込んでい る」44からとされる。既存の世界都市もこうした危機は経験したものの、巨大都市であるた めに国家の支援を受けながら都市再生を図る道があった。実際にロンドンでは、 「世界都市 機能の強化におけるサッチャー政権の強い指導性が発揮され、逆に地方政府の役割は極め て限定的であった。イギリスの中央政府は、大ロンドン議会の廃止にみられるような強力 な介入を行い、地方政府の抵抗を排除して世界都市ロンドンの強化をはかった」45とまで言 われる。東京においても世界都市化の過程において、自治体と供に中央政府の支援があっ た。しかし、中・小規模の都市の都市再生にロンドンや東京に見られるような強力な国家 の支援は期待することができない。ロンドンや東京が世界都市として更なる成長が進んだ 時期においても、多くの都市は 都市危機 の問題に苦しみ続けていた。日本においても、 東京一極集中が進行する中で、他の都市の人口は流出し続けている。そして、バブル経済 の崩壊によって地域産業も打撃を受け、中央政府の財政難から公共事業による地域振興も 期待できなくなってしまった。こうした背景の下に登場した創造都市論は、限られた都市 のみが繁栄を手にすることができるこれまでの世界都市論とは異なり、より多くの都市が 希望を抱くことができ、説得力もある概念であったために大きな広がりを見せることとな ったのである。 例えば、イタリアのボローニャは典型的な創造都市として挙げることができる。ボロー ニャでは機械、繊維、食品などの小企業が多数存在しており、各企業が自由なアイデアで 生産活動を行っている。一方で、同一業種などでは連合体を組織し、原料を購入や技術者 の育成、展示会への出展などを共同で展開していた。このように、一部業務では企業が共 同することで規模の経済を追及していながら、多くの小企業が独自にイノベーションに取 り組むことで多様なアイデアが生まれ、地域産業が活性化したのである。ボローニャも含 めたイタリア中部地域は、 「1970 年代のオイルショック以降、北部、南部の経済が停滞する なかで、その自立的経済発展が注目を集めてきた」46とされ、他都市とは異なり産業の衰退 43 44 45 46 注38前掲書 32p 注38前掲書 31p 注2前掲書 84p 財団法人 C&C 振興財団監修「クリエイティブ・シティ」NTT 出版株式会社 2007 年 130p 13 を経験することはなかった。このボローニャの発展を支えたのは大学の存在である。ヨー ロッパで一番長い歴史を持つボローニャ大学からは優秀な人材が輩出されるとともに、産 学連携が活発に行われている。そして、ボローニャは住みよい街としても有名である。人 口は 45 万で生活するには程好い規模があり、さらに歴史的市街地も保存され美しい景観を 持った街である。こうした生活環境に優れている点が人材と企業を呼び寄せ、またそれら の流出を防いでいるだけではなく、新しいアイデアを生み出す土壌にもなっているのであ る。 金沢でも、伝統工芸品産業が京都に次ぐ集積を誇っており、職人達や中小規模の地元資 本が活躍していた。一方で、協会設立や工業(工房)団地造成など企業間連携も図ること で、消費者の嗜好の多様化・コストの削減に対応しながら高付加価値生産を可能にしたの である。ボローニャと似て、金沢経済も「地域内発型中堅中小企業群の持つフレキシビテ ィ、緊密な地域内産業関連構造、零細企業をネットワーク化し利潤を地域内に確保する産 地システムの優位性ゆえに、グローバルリストラクチャリングの荒波の中でフレキシブル に転換することに成功した」47のである。さらに金沢美術工芸大学・金沢大学・金沢工業大 学など学術文化施設が充実していること、古くからの美しい町並みが保存されている点な どもボローニャと共通しており、創造都市として欠かすことのできない要素であることが 改めてわかる。 第2節 クリエイティブ経済 しかしなぜ、都市が持つ創造性というものが経済成長のエンジンになるのだろうか。こ の問いに答えるためには、経済社会システムがどのように変化したかを考えなければなら ない。 現代は「画一化された大量生産システムよりはむしろ、創造性あふれる感性をもち、先 端的なアイデアを生み出す人々が主体になって、知識と情報をベースにした経済社会に移 ろうとしている」 48時代であると言われ、このような経済のことを クリエイティブ経済 と呼ぶ。もちろん、昔の経済社会においても、新しい商品を開発するには創造性が欠かせ なかったが、大量生産システムである以上、ごく限られた人が創造的でありさえすればよ かった。しかし現代は多様な商品・サービスが求められる経済社会に変化し、そうした商 品・サービスを開発できる人材が大量に求められるようになった、ということである。ク リエイティブ経済の研究者として有名なアメリカの都市学者、リチャード・フロリダによ ると、クリエイティブ経済下での主役は クリエイティブクラス と呼ばれる人たちであ る。クリエイティブクラスとは、「新しいアイデアや技術、コンテンツの創造によって、経 済を成長させる機能を担う人々で、その中心は、科学者やエンジニア、建築家、デザイナ ー、教育者、アーティスト、ミュージシャン、エンターテイナーであり、ビジネス、金融、 47 48 佐々木雅幸「創造都市の経済学」勁草書房 注38前掲書 32p 1997 年 207p 14 法律、医療などの分野で、独自の判断に基づいて複雑な問題解決に取り組む知識労働者も これに含まれる」49とされる。こうしたホワイトカラー職全般に加えて、クリエイティブク ラスには一部のブルーカラー職の人たちも加わる。例えば、トヨタの自動車工場で働く労 働者は、個人の判断でラインを停止して問題点の カイゼン 活動を行っており、こうし た人達も独自の判断に基づいて複雑な問題解決に取り組む知識労働者と考えることができ るからだ。 そして、彼ら「クリエイティブクラスが多い地域では、イノベーションも活発で、高い 経済成長と所得水準を得られる」50という研究結果が提出されている。イノベーション(革 新)とは、「アイディアの実践的な理解であり、通常、創造的な思考から発展する」 51とい う。創造的な思考を持って働くクリエイティブクラスは、イノベーションに欠かせない存 在なのである。機械がイノベーションを行うことはできず、人間の創意工夫によってのみ、 生産性や利便性を改善することができるのだ。クリエイティブクラスからは多くの創意工 夫が生まれる。アメリカの全労働者のうち、クリエイティブクラスの比率は 30% 52である。 ところが彼らの所得は全労働者の 47%も占めており、クリエイティブクラスは付加価値の 高い生産活動を行っていることがわかる。そして、クリエイティブクラスが集まる都市こ そが創造都市(クリエイティブシティ)なのである。先のボローニャの例を見ても、独自 の判断に基づいて生産活動を展開している多くの小企業労働者たちはクリエイティブクラ スと定義することができ、現実に周辺地域よりも高い経済成長も経験している。だからこ そ、彼らを都市に引き寄せ、そして活発に働いてもらうためにも、政策面において都市の 創造性が重要視されるのである。 クリエイティブクラスについて、その定義を補足する必要がある。先程、クリエイティ ブクラスの大半はホワイトカラーと呼ばれる人達であると述べた。ホワイトカラーという 言葉は「白色の背広服を着て事務所で働く人のことをいう。サラリーマン。」 53とあり、以 前から使われてきたものである。しかしクリエイティブクラスとは、昔から言われている ようなホワイトカラー職に一部のブルーカラー職を足したものとして説明するには異なる 点もある。ホワイトカラーという言葉には、一般企業に勤めている会社員が強調されてい る。しかし、クリエイティブクラスでは、芸術家や科学者などの存在がホワイトカラーの 時よりも強調してイメージされる。そして、クリエイティブクラスは職業による分類では なく、「グローバルなレベルで価値観を共有し、金銭的な報酬よりも、内発的な報酬が動機 Business Review 2007 年 5 月号 “Where the Creative Class Comes from, and Flies?”」ダイヤモンド社 2007 年 39p 50 注49前掲書 41p 51 注41前掲書 17p 52 リチャード・フロリダ「クリエイティブ・クラスの世紀−新時代の国、都市、人材の条件−」 ダイヤモンド社 2007 年 38p 53 広辞苑 岩波書店 1991 年 49 「Harvard 15 付けに欠かせない、旧態依然の人材管理技術では手に負えない人々」 54として定義される。 つまり彼らは、自分がやりたいと感じていることを仕事として選択する傾向が非常に強い のである。さらに彼らは働く場所をとても重視するため、非常に流動性が高く、よりよい 居住・労働環境を持つ都市を求めて世界中を移動する。このように、クリエイティブクラ スは仕事と場所の両方を考慮しながら自分が住む都市を選ぶのである。 ここで、仕事と場所の満足が両方得られるなら良いけれど、最終的にクリエイティブク ラスは仕事と場所のどちらを重視するのか、という疑問が生じる。また、創造都市はクリ エイティブクラスが集うことで経済成長した都市を指すが、この考え方に対して、好調な 経済(豊富な仕事)が高い文化や独特の雰囲気やクリエイティブクラスなどを引き付けて いるだけではないか、という反論も存在する。これに対してフロリダは、「私の調査や最近 のほかの研究では、場所こそが重要であることを明らかにしている。多くの人々は最初に 地域を選び、それからその土地で仕事を探す。」 55と述べ、創造都市論の有効性とともにク リエイティブクラスにとって場所が最も重要であることを主張している。 創造都市として、クリエイティブクラスを惹きつけ成長する都市になるには、美術館な ど文化施設や美しい景観を備えて創造性も高めておくことは非常に重要である。しかし、 都市に欠かせない重要な要素はまだあるとフロリダは言う。彼は、都市の経済成長に必要 なものとして、 3 つのT 56を挙げている。それは技術(Technology) 、才能(Talent)、寛 容性(Tolerance)の 3 つである。1 つ目の 技術 は、その地域に受け継がれ、現在の都 市経済・産業を支えているものであり、その重要性は言うまでもない。2 つ目の 才能 は、 技術を改善したり、技術を応用して新しい技術を産み出したりするのに欠かせない。才能 とは、クリエイティブクラスが仕事をすること、と解釈できる。3 つ目の 寛容性 は、都 市がどれだけ多様な人材を受け入れ、それを経済成長の原動力にするかということだ。ク リエイティブクラスは、豊富な文化施設や美しい景観だけの都市にはあまり住もうとしな い。彼らは、自分達の存在・考え方を認めてくれ、自由に活動できる環境が整っている都 市で働きたいと願っている。 第3節 創造都市論の東京への応用 創造都市論は、世界都市論が都市再活性化の方法として限界が感じられ始めたなかで 登場してきた。このため、創造都市論は世界都市論とはまったく反対の性格を持ったもの であるという印象を受ける。実際に世界都市の代表例として、ニューヨーク・ロンドン・ 東京・パリなど、世界の超巨大都市が挙げられている。一方で、創造都市の代表例として は、ボローニャやウェリントンや金沢など、人口数十万人の比較的小さな都市が挙げられ ることが多い。しかし、創造都市の考え方を政策に反映させている都市にはバルセロナや 54 55 56 注49前掲書 注52前掲書 注52前掲書 39p 58p 48p 16 大阪、横浜など、人口集百万人規模で多国籍企業本社が所在しているなど、一部世界都市 的な要素が見られる都市もある。 そもそも、世界都市も創造都市も、グローバル化の進展が拡大をもたらした、世界レベ ルの経済と深い関わりを持つことで発展した都市である、という点においては共通である。 金融や法人向けサービス産業にも独自の判断に基づいて複雑な問題解決に取り組む知的な 労働者は多く、彼らもクリエイティブクラスと呼ぶことができる。そして、金融・サービ ス産業に従事する彼らが、都市経済の成長を牽引していることからニューヨークやロンド ン・東京も創造都市であるといえる。ただ、一般的な創造都市は、地域に受け継がれてき た伝統技術や文化を活かした製品・サービスを世界へ輸出することで成長を図る。それに 対して世界都市とは、地域から発生するものを扱うのではなく世界中から寄せられる資金 や情報・サービスを扱っている、という点でそれら創造都市とは明確に区別できる都市で もあるのだ。 世界都市が創造都市的要素を持つ以上、創造都市論の考え方を世界都市の政策に活かす ことも充分可能である。活発な知的創造活動を行う上で都市の文化や環境が重要なのは創 造都市でも世界都市でも同じである。文化遺産は過去の創造性の総体であるし、仕事に集 中できない環境では個人の創造性も存分に発揮されないと考えるからだ。ニューヨークや ロンドンには美術館や劇場が豊富にあり、世界の文化の中心地であり、国際金融センター 機能に加えて都市のイメージを向上させる要素の1つである。仕事があるだけではなく、 こうした文化面などでの高いブランド力によってニューヨークやロンドンは世界中から優 秀な人材を集めて都市経済の活力源としている。もちろん、ニューヨークやロンドンが市 民として移民を受け入れるだけの寛容性があることも人が集まってくる要因として見逃す ことはできない。 一方で東京はアジアの国際ビジネス拠点をめぐって香港やシンガポールなどと競争関係 にあるといえる。アジア主要都市のビジネス環境整備は着々と進んで競争は激しさを増す 一方であり、東京も空港・港湾施設の拡充や金融市場の改革などに取り組まなければいけ ないのは言うまでもない。しかし、こうしたインフラ整備だけではなく、文化面や生活環 境面でのブランド力を向上させ、外国の人たちから 東京で住んで仕事がしてみたい と 思われるような街にしなければ、クリエイティブクラスの人達を東京に集め、競争力を持 ち続けるのが困難になると考えられる。なぜなら、既に述べた通り多くのクリエイティブ クラスは最初に地域を選び、それからその土地で仕事を探すのだから。 17 第3章 東京のクリエイティビティ では、東京は人材を惹き付ける都市としてどれくらいの魅力・実力があるのであろうか。 様々なデータを用いながら検証していきたい。その際に、東京と同様にアジアの世界都市・ ビジネス経済拠点として注目を集めている上海・香港・シンガポールのデータを中心に比 較していきたい。これら 3 都市を比較対象とするのは、各都市ともに世界都市として十分 な人口規模を備えていること、周辺諸国・地域の金融・ビジネスセンターとして機能して いること、そして文化・情報の発信拠点でもあるなど、東京との共通点が数多く見出され るためである。この比較によって東京が克服すべき課題は何なのかを考えていく。 (各表・引用基は章末にまとめて掲載してあります) まず、東京にはどれくらいクリエイティブクラスがいるのか。まず、クリエイティブク ラスが多くいると考えられる第三次産業に従事する人の割合を見てみる。(表1)東京は労 働者人口の 82.5%が第三次産業に従事しており、上海やシンガポールと比べても高いこと がわかる。しかし、これだけで東京にクリエイティブクラスが多いと言い切ることはでき ない。新しいアイデアや技術、コンテンツの創造者や、独自の判断に基づいて複雑な問題 解決に取り組む知識労働者の数を正確に調査している統計資料は今のところないため異な るインデックスを用いる必要がある。そこで、管理的職業や専門的・技術的職業に従事す る労働者数を加えてみることにした(表2)。こうした労働者はほぼ全員がクリエイティブ クラスであると考えることができるからだ。すると東京には労働者が 130.3 万人いること がわかった。一方、同様の労働者は香港に 110.9 万人、シンガポールには 84.5 万人存在し ていることがわかる。東京には諸都市を上回る量の知識労働者がいると考えられるが、人 口比で計算してみるとむしろ東京は低い値を示していることがわかる。これらにアーティ ストや一部ビジネスマンの数を足すと正確なクリエイティブクラスの数にかなり近くなる と考えられるが、娯楽業に携わる人は東京で約 10 万人 57とされ、アーティスト人口はそれ ほど多いとは考えられず、(表 2)で示した管理的職業や専門的・技術的職業従事者がクリ エイティブクラスの大半を占めているのではないかと考えられる。 ではここから東京の都市の魅力を探っていくことにする。 都市の魅力を測る指標として観光客数は有効なデータである(表 3)。1 年間の外国人観 光客数では、香港が 1477 万人(中国・マカオからは 822 万人)、シンガポールが 837 万人、 上海が 605 万人、東京が 429 万人となっており東京への観光客数が一番少ない。外国人観 光客の少なさには物価の高さや入国手続きの煩わしさなど、様々な理由が考えられるが、 東京の諸外国へのアピール不足の結果であるとするなら非常に問題である。世界中の都市 が人材(クリエイティブクラス)の獲得に乗り出している状況の中で、人材獲得に成功し ている都市に共通しているのは 訪れてみたい と思われるまちであることだ。クリエイ ティブクラスは働く場所を重視するため、彼らに都市の魅力をアピールする必要がある。 57 東京都統計年鑑 2005 年 18 その方法は観光客にアピールするのと同じであり、東京が観光客誘致に積極的に取り組む ことは、国際的な人材獲得の面においても非常に有効なのである。 また、「人材流動の世界的な傾向を予測するうえで、学生は重要な先行指標である。学生 を引き寄せる国や地域は、その才能を確保できるだけでなく、海外の科学者、研究者、発 明家、起業家などの才能を集めやすい」58とされており、留学生の指標も都市の魅力を測る 重要な指標である(表4)。東京の資料は得られなかったが日本の留学生数は約 9 万 3 千人 である。香港やシンガポールの統計については得ることができなかったが、欧米諸国と比 べてみるとフランス 16 万 5 千人、アメリカは 58 万 5 千人の留学生を抱えており、日本と 比べて非常に多くの学生を抱えている。日本もここ数年の間に留学生数は増加傾向にある が、さらなる留学生の誘致が望まれる。また、さまざまな地域から留学生を集められる都 市になることも多様な人材を集めるという点で重要である。 生活環境の面からみる東京はどうか。各都市の人口 10 万人当たりの犯罪率を見てみたと ころ、東京は 2090 件でトップであり、香港の 1183 件、上海の 939.2 件、シンガポールの 745 件と続いた(表5) 。犯罪統計に関しては統計の集計方法が国ごとに異なり、東京はよ り細かい統計が取られたことも予想できるが、各都市とも主要な犯罪は統計中に含まれて おり東京が特別に治安の良い都市であると考えることは難しい。人々が安心して暮らせる 都市を造っていくことは、人材獲得の為のみならず、都市に住むクリエイティブクラスが 能力を発揮して働いてもらうためにも重要である。また物価の高い都市も暮らしにくい都 市であると考えられるため、都市の魅力を弱める要因の一つである。物価が高いと、住み たいと思う人が減るだけでなく、企業が他都市へ流出してしまう恐れもある。コンサルテ ィング会社の都市別生活費に関する調査によると、ニューヨークを 100 とした時、東京は 122.1 となりアジアで一番生活費の掛かる都市であるとされた(表 6)。アジア主要都市で は、香港が 119.4、シンガポールが 100.4、上海が 92.1 であった。犯罪率、生活費の 2 つの データを見る限りにおいて東京は魅力的な都市ではない。さらに、東京はアジアでも突出 した都市圏人口を抱え、公共交通機関が発達しているものの通勤における混雑やオフィス までの所要時間の長さが問題になっている。こうした他都市以上に深刻な過密問題がさら に東京を住みにくい都市にしており、早期の対策が必要である。しかし、物価の高さにつ いては行政の直接的な対策が取りにくいため、他の分野で都市の魅力を向上させる必要が ある。 先ほど留学生が都市・国家の魅力を測るバロメーターとして有効性があると述べたが、 都市が抱える大学生の数も都市のクリエイティビティを図る上で重要である。大学生のよ うな高等教育を受けた学生は将来クリエイティブクラスと呼ばれる知識労働者となる可能 性が高いと推測できるからだ。東京は約 72 万人の大学生を抱えており、46 万人の上海、 14 万人のシンガポール、 13 万人の香港と比べても極めて多くの大学生が住む都市である(表 7)。これは東京が将来的にも非常に多様な人材を抱えていることを示してはいるが、少子 58 注49前掲書 58p 19 化が進行している日本においては東京の大学生数もこれから減少に向かうと予想されるた め、やはり海外から人材を引き寄せるため都市の魅力をこれまで以上に高めなければなら ない。 さらに各都市の美術館・博物館数、図書館数、図書館蔵書数・貸出数、映画館数、音楽 コンサート・演劇の公演回数・動員人数など都市のクリエイティビティに関する指標を集 めてみた(表8)。全体的に東京が高い数値を示した。東京は都市圏人口が多いため人口比 でデータを計算すると他都市との差が縮小するけれども、東京が圧倒的に多様な文化環 境・機会を提供している都市であるのは間違いないだろう。多様な文化を持つ都市は創造 性も高いとされ、それによって多様な人材を惹きつけることができる。これは東京にとっ ては大きな強みである。しかし、これだけ多くの美術館・博物館や演劇が行われていなが ら、東京を訪れる外国人観光客は少ないのか。その理由は言語に一因がある。東京で行わ れる公演や展覧会は日本語で行われることが多くて、外国人が楽しむことは難しい。一方 で香港やシンガポールでは英語や中国語が公用語として使われており、日本語以上により 多くの人が都市文化に触れることのできる環境にある。 元来香港やシンガポールは外国人に対して寛容な土地であるという見方も可能である。 東京に住む外国人の割合は 2.89%であるが、香港は公用語(広東語・英語)以外を日常的 に話す人が 6.4%存在し、外国人がより身近な存在である(表9)。シンガポールの場合は 公用語以外の言語を日常的に話す人は 0.9%に過ぎないけれど、公用語が複数ある民族国家 であり、外国人に対する寛容性の高さを窺うことができる。一方で東京はというと、東京 都が行ったアンケート調査でも在住外国人達が日本の外国に対する寛容性の低さを指摘し ている。フロリダは、「クリエイティブ時代の本当の繁栄には、すべてのT(Technology、 Talent、 Tolerance)、特に三番目のT(Tolerance)が必要不可欠なのである」 59という。 つまり、東京がいくら美術館や演劇など、都市のクリエイティビティにおいて優れていて も寛容性を欠いていては人材の多様性が損なわれて、創造性を活かした経済成長は限定さ れたものとなる。東京都は都市政策の項目に生活環境の改善を挙げている。実際に東京は 物価も高く住みやすい都市とは言えず、改善は必要である。しかし、それよりもまず、東 京をより多様な人材を受け入れる寛容性のある都市にする必要がある。日本では外国人の 留学生や労働者の受け入れ拡大には慎重論が目立ち、政策としても重要性はかなり低い。 これまでは国内の人材を東京に集めることができればそれでも良かったが、これからはそ ういかないことが以上のインデックスから読み取れる。 59 注52前掲書 48p 20 各表 (表 1) 第3次産業従事者 労働者人口比 東京 82.50% 上海 60.60% 香港 シンガポール 69.60% (表2) 専門・技術・管理職 従事者数(万人) 労働者人口比 東京 130.3 25.40% 上海 香港 110.9 32.90% シンガポール 84.5 47% (表3) 外国人観光客(万人) 訪問数 除・隣接地域 東京 429 429 上海 605.7 605.7 香港 1477.3 655 シンガポール 894.3 836.5 (表4) 留学生 在学数(人) 日本 93,804 上海 14,100 アメリカ 165,000 フランス 585,000 (表5) 犯罪 東京 上海 香港 シンガポール 認知件数(件/10万人) 2,090 939.2 1183 745 21 (表6) 生活費 東京 上海 香港 シンガポール 指数:(NY=100) 122.1 92.1 119.4 100.4 (表7) 大学生 在学数(人) 東京 719,391 上海 463,849 香港 131,600 シンガポール 141,356 (表8) 美術館(館) 博物館(館) 図書館(館) 蔵書(万冊) 貸出(万冊) 東京 79 160 394 5,178.60 8363.3 上海 32 100 28 6,049.40 1028 香港 74 1,161.70 330.2 シンガポール 808.3 2856.3 映画館(館) コンサート・演劇公開(回) コンサート・演劇動員(万人) 東京 287 50,585 1674.7 上海 193 15,322 687 香港 シンガポール 167 6,556 129 (表9) 在住外国人 東京 上海 香港 シンガポール 人口比 2.89% 0.73% 6.40% 0.90% 22 引用資料 *括弧内はデータ調査年を示す 表1 東京:東京都統計年鑑 (2004 年) 2007 年版 (2005 年) 上海:上海統計年刊 シンガポール: 2005 年 Yearbook of statistics Singapore, 2007 年 (2006 年) 表2 東京:総務省統計局・平成 17 年国勢調査 (2004 年) 香港: Census and Statistics Department, the development of Hong Kong Special Administrative Region 2006 年 (2005 年) シンガポール:Yearbook of statistics Singapore, 2007 年 (2006 年) 表3 東京:「国際観光白書 2007 年版」国際観光振興機構(JNTO) ―訪日外国人数(7334077 人)・東京都訪問率(58.5%)より算出 2007 年版 (2006 年) 上海:上海統計年鑑 香港:”Yearbook of Tourism Statistics, 2007 Edition” World Tourism Organization −Arrivals of non-resident tourists at national borders より シ ン ガ ポ ー ル : ”Yearbook of Tourism Statistics, 2007 Edition” Organization (2006 年) (2005 年) World Tourism ―Arrivals of non-resident visitors at national borders より (2005 年) 表4 日本:文部科学省 公表資料 上海:上海統計年刊 (2006 年) 2007 年版 (2006 年) アメリカ:”Trends in International Migration 2002 Edition” OECD (2001 年) フランス:”Trends in International Migration 2002 Edition” OECD (2001 年) 表5 東京:「平成 17 年度・警察白書」警察庁 上海:上海統計年刊 2005 年 (2005 年) 2007 年版 (2005 年) 香港: Census and Statistics Department, the development of Hong Kong Special Administrative Region (2006 年) シンガポール:The Singapore Department of Statistics (2005 年) 23 表6 マーサー・ジャパン株式会社 月 19 日版 プレスリリース。同様の内容が、日本経済新聞 2007 年 6 12p に掲載。 表7 東京:「学校教育基本調査」文部科学省生涯学習政策局 2007 年 (2007 年) 2007 年版 上海:上海統計年刊 ― Year-end Population(13,680,800) 、 College and University Students Enrollment Per 10000 Persons(341)より算出 (2006 年) 香港: Census and Statistics Department, the development of Hong Kong Special Administrative Region (2006 年) シンガポール:Yearbook of statistics Singapore, 2005 年 ―Institute of Technical Education, Polytechnics, National Institute of Education, Universities, これら教育機関に在籍する学生数 (2004 年) 表8 東京:《美術館、博物館、図書館・蔵書・貸出、映画館》東京都統計年鑑 2005 年度版 (2005 年) 《コンサート&演劇公演・動員数》「エンタテイメント白書 2007」ぴあ総研 2007 年 (2006 年) 2007 年版 (2005 年) 上海:上海統計年刊 香港:Hong Kong Annual Digest of Statistics 2006 年 (2005 年) シンガポール:Yearbook of statistics Singapore, 2007 年 (2006 年) (但し、図書館蔵書・貸出数は National Library 1 館における統計) 表9 東京:東京都統計年鑑 上海:上海統計年刊 2005 年 (2004 年) 2007 年 (2005 年) 香港: Census and Statistics Department, the development of Hong Kong Special Administrative Region (2006 年) シンガポール:Yearbook of statistics Singapore, 2005 年 (2004 年) 24 結論 世界都市・東京が世界経済における影響力を回復させるためのヒントが、近年注目され ている創造都市論の中に見出すことができるのではないか。そうした考えのもと、世界都 市と創造都市の実態、東京とアジア主要都市、という 2 つの観点から調査・比較を通じて 東京が必要とすべきものを探ってきた。 ニューヨーク・ロンドン・東京といった世界的大都市は、グローバリゼーションの進展 と情報通信技術の発展という流れに乗り、世界中に散らばるヒト・カネ・モノをコントロ ールすることで世界経済に対する影響力を圧倒的なものにした。これが新しい意味での世 界都市の誕生であった。しかし、これら世界都市は経済発展のエネルギーを外部地域に依 存するあまり、都市経済が外国経済の動向に左右される不安定性の強いものであった。ま た、世界都市によってコントロールされることになった地方経済は自主性を失い、産業構 造の転換も加わり更なる衰退にあえぐ結果をもたらした。 一方で、ボローニャや金沢といった一部の地方都市でも、グローバリゼーションの進展 と情報通信技術の発展を利用して、都市の伝統的技術で生産される商品・サービスを都市 外部へ発信することに成功した。これらの都市を創造都市と呼ぶ。創造都市は、都市が持 つストックを活かした内発型の経済発展を目指すもので、全ての中小都市に応用可能な考 え方であった。 世界都市も創造都市も、グローバリゼーションの進展と情報通信技術の発展を背景にし ている点は共通しているが、都市経済が外部依存型か内部依存型かという点で相違してい る。だが、これは根本的相違であり、世界都市・東京に応用することはできない。世界都 市論にも見られながら、創造都市論でより強調された要素があった。都市の既存ストック を活用する一方で、新しい人・モノ・アイデアも積極的に取り込んでいく姿勢だ。世界都 市論においても移民や、多様な文化が混在している点は触れられているが、こうしたもの は国際金融・ビジネス機能の強化の結果としてもたらされると考えられていた。 東京とアジアの主要都市を比較する中で、東京は非常に優れたストックを持っているこ とがわかった。これを活かしていくことは非常に大切である。しかし、同時に、新しいも のを受け入れる姿勢が欠けていることも判明した。東京の衰退は国内の衰退と重なってい る。東京はこれまで、国内から人を集めることで発展を手にしてきたが、人口減少時代に おいて、その手法はもはや通用しない。外国から優れた人材や文化を集める努力がより一 層求められるのである。 25 参考文献 □辞典 ・「大百科事典 14」平凡社 ・「広辞苑」 岩波書店 1985 年 1991 年 ・「小学館独和大辞典」小学館 1985 年 ・「ブリタニカ国際大百科事典 13」TBS ブリタニカ ・「世界大百科事典」平凡社 1995 年 2007 年 □図書 ・伊藤章「ポストモダン都市ニューヨーク−グローバリゼーション・情報化・世界都市−」 松柏社 2001 年 ・加茂利夫「世界都市−都市再生の時代の中で−」有斐閣 2005 年 ・小森正彦「アジアの都市間競争−東京は生き残れるか−」日本評論社 2008 年 ・財団法人 C&C 振興財団監修「クリエイティブ・シティ」NTT 出版株式会社 2007 年 ・佐々木雅幸「創造都市の経済学」勁草書房 1997 年 ・佐々木雅幸+総合研究開発機構「創造都市への展望−都市の文化政策とまちづくり−」 学芸出版社 2007 年 ・サスキア・サッセン著、伊豫谷登士翁訳「グローバリゼーションの時代−国家主権のゆくえ −」平凡社 1999 年 ・杉浦章介「都市経済論」岩波書店 2003 年 ・チャールズ・ランドリー「創造的都市−都市再生のための道具箱−」日本評論社 2003 年 ・藤田直治訳「世界都市の論理」鹿島出版会 1997 年 ・町村敬志「 世界都市 東京の構造転換」東京大学出版会 1994 年 ・松原宏「経済地理学−立地・地域・都市の理論−」東京大学出版会 2006 年 ・リチャード・フロリダ「クリエイティブ・クラスの世紀−新時代の国、都市、人材の条件−」 ダイヤモンド社 2007 年 ・「世界都市東京の創造」総合研究開発機構 1991 年 ・Edited by Allen J. Scott「Global city-regions : trends, theory, policy」Oxford University Press (2000) ・Jane Jacobs「The death and life of great American cities」 Random House 1961 年 ・Sassen,S「The Mobility of Labor and Capital :A Study in International Investment and Labor Flow」Cambridge University Press 1988 年 ・Sassen,S「The Global City :New York, London, Tokyo」Princeton University Press, 26 1991 年 ・Sassen,S「Cities in a World Economy」Pine Forge Press 1994 年 □雑誌・論文 ・Friedmann,J. and Wolff, G.”World City Formation” 1982 年 ・Friedmann,J ”The World City Hypothesis” 1982 年 ・「Harvard Business Review 2007 年 5 月号」ダイヤモンド社 2007 年 ・「The World Competitiveness Yearbook」International Institute for Management Development 1999 年 □統計資料 ・「学校教育基本調査」文部科学省生涯学習政策局 ・「平成 17 年度・警察白書」警察庁 2005 年 ・「国際観光白書 2007 年版」国際観光振興機構(JNTO)2007 年 ・総務省統計局・平成 17 年国勢調査 ・上海統計年刊 2005 年 2007 年 ・法務大臣官房司法法制調査部「出入国管理統計年報」各年版 ・東京都統計年鑑 2005 年 ・Hong Kong Annual Digest of Statistics 2006 ・”Trends in International Migration 2002 Edition” OECD 2002 年 ・Yearbook of statistics Singapore, 2005 年 ・Yearbook of statistics Singapore, 2007 年 ・”Yearbook of Tourism Statistics, 2007 Edition” World Tourism Organization 2007 年 □ウェブサイト ・マーサー・ジャパン株式会社(http://www.mercer.co.jp/home.jhtml) ・文部科学省 公表資料(http://www.mext.go.jp/) ・ Census and Statistics Department, the development of Hong Kong Special Administrative Region(http://www.censtatd.gov.hk/home/index.jsp) ・The Singapore Department of Statistics(http://www.singstat.gov.sg/) □新聞 ・日本経済新聞 27