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3.5 実証実験と想定訓練 - 国際レスキューシステム研究機構

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3.5 実証実験と想定訓練 - 国際レスキューシステム研究機構
3.5
実証実験と想定訓練
神戸大学
大須賀公一
電気通信大学
松野文俊
東京大学
東北大学
北海道大学
京都大学
淺間 一
田所諭
小野里雅彦
横小路泰義,中西弘明
大阪府立工業高等専門学校
筑波大学
NPO 国際レスキューシステム研究機構
土井智晴
坪内孝司(文責)
村田美香, 鏑木祐子
谷村育子,上田尚子
IRS-U 真壁賢一
岡山大学
千葉工業大学
鈴森康一
小柳栄次,吉田智章
情報通信研究機構
滝澤 修
NPO 国際レスキューシステム研究機構
高森 年
理化学研究所
羽田靖史
(1) 背景と目的
本研究プロジェクトの目的は,大規模な地震により被害を受けた様々な場所において,
被災者の人命救助活動を行なうにあたり必要な情報を迅速に収集することのできる資機材
を開発することである.開発に当っては,それがさまざまな地震災害の現場で現実的,か
つ効果的に使用できる資機材であることが求められる.そのために必要な要素技術を集積
し,それぞれの機材として作り上げ,それが目的に沿った形で情報収集として効果をあげ
ることができる機材となっていることを示すことが必要である.本研究プロジェクトは,
まさにそのような実用になり得る高度な情報収集資機材が現実に実現可能であることを示
すことがミッションである(図 3-5-1).その実現可能性を示すことができれば,今後の実
用化,すなわち実際に繰り返し使用できる耐久性を有する資機材を製作して関係諸機関に
実際に配備することが実現できる.
図 3-5-1 災害現場における高度情報収集資機材の開発ミッション
448
本プロジェクトで開発したさまざまな資機材が,現場で有効に活用できるかどうかの評
価を行うには,開発した資機材を使用する豊富な実践運用経験がなくてはならない.しか
し,我々研究・開発をおこなっている者が,直接災害現場に資機材を持ち込んでテスト的
な運用することは,真に緊急を要する実際の現場では不可能である.また,このような資
機材が実践配備されたあかつきに,実際にこれらを使用するのは消防・救急等関係諸機関
の隊員たちである.したがって,実際の現場経験のある隊員に,実際の現場にできる限り
類似した環境や状況の想定やその想定に基づく機材の使用シナリオを作ってもらい,開発
した資機材をその想定に従って運用してみて評価を行なう,という方法論をとることが必
要である.また,資機材の運用操作も研究・開発者自身が行なうのではなく隊員がおこな
い,その性能や使い勝手(操作性),システムなどの評価を行ない,また真に必要な情報が
収集できるかどうかを確認する必要がある.そのようにして得られた評価を開発側にフィ
ードバックしてさらに改良を加え,より実用性を高めるというサイクルを確立しなければ
ならない.こうして,これら最先端の技術と全国の救助救急活動に関わる隊員とが融合し
一つのシステムとして構築する必要があると考えられる.
国際レスキューシステム研究機構では,このような方法論による評価の必要性から,消
防関係者をはじめ自治体などの協力の上に実証実験及び訓練を重ねてきた.特に,当機構
とこのような訓練におけるディスカッションから,H18 年 3 月に,
「インターナショナル・
レスキュー・システム・ユニット」(IRS-U)の発足をみた.この IRS-U は,現職の消防官
(消防・救助・救急隊員)の有志により組織されるレスキューチームであり,
(a) 本プロジェクトで開発した資機材を想定環境とシナリオの元に運用し,その評価を
行ない開発者側にフィードバックすること,
(b) 開発された資機材が効果的に使用できる環境や現場を特定し,その現場・資機材の
操法を規定すること,
(c) 全国の救助救急活動に関わる隊員への,本プロジェクトで開発された資機材の実用
可能性や能力を周知すること,
などをミッションとしている.
大大特による研究開発期間の最終年度である H18 年度は,この IRS-U 中心に,東京消防
庁,川崎市消防局,川崎市,JICA,兵庫県広域防災センター,神戸市消防局,神戸市など
の協力を得て,実証実験と想定訓練をおこなってきた.この実証実験と想定訓練の目的は
主として上記(a)に集約される.しかしそれぞれの想定訓練ではこれを公開し,上記(c)を
達成できるようにした.また,一般に対してもこの活動が周知できるよう報道各社にも訓
練を周知し公開した.
本項は,国際レスキューシステム研究機構と IRS-U が合同で行なった想定訓練の様子を
報告し,訓練を通して判明した知見を述べる.
(2) 実施した実証実験と想定訓練
H18 年度に実施した IRS-U との協力による実証実験・想定訓練は次のとおりである.
(a)H18 年 4 月 22,23 日
東京消防庁
第八消防方面本部
449
立川訓練場屋外フィールド
想定:直下型地震により倒壊した家屋に残された要救助者が発生.IRS-U が出動,
当該家屋において要救助者の有無の確認,救助通路の確保,要救助者の救助.
使用機材: BENKEI, BENKEI II, R コミュニケーター, ジャッキアップロボット, ア
ドバンストカッターロボット,マルチセンサヘッド,IRS 蒼龍,レスキュー
ダミー「だみこ」,IC タグ
(b) H18 年 6 月 24 日
東京消防庁
第八消防方面本部
立川訓練場訓練棟
想定:地下街において原因不明の異臭の通報.吐き気や苦痛を訴える要救助者が発
生,NBC 災害の恐れ.要救助者の有無の確認,危険物質の発生場所の確認
を行なうために IRS-U が先行検索部隊として行動.
使用機材:ACROS, TP03, R コミュニケーター,IC タグ
(c) H18 年 10 月 3,4 日 兵庫県広域防災センター
屋外フィールド
想定:ほぼ(a)に同じ
使用機材:IRS 蒼龍,ジャッキアップロボット,アドバンストカッターロボット,
レスキューダミー「だみこ」,くるくる,IC タグ
(d) H18 年 11 月 5 日 JR 川崎駅地下街アゼリア
想定:直下型地震が発生し,地下街で負傷者が取り残された.IRS-U と川崎消防署
が出動.IRS-U はレスキューロボット資機材を使って地下街入り口から救助
者の有無と状態を先行検索.検索結果をもとに川崎消防署特別救助隊員が要
救助者を救出.
使用機材:IRS 蒼龍,Hibiscus,KOHGA2,IC タグ
(e) H18 年 11 月 23 日
国際レスキューシステム研究機構神戸ラボ
倒壊家屋実験施設
想定:ほぼ(a)に同じ.
使用機材:UMRS-NBCT,IRS 蒼龍,R コミュニケーター,能動スコープカメラ,
IC タグ
(3)それぞれの実証試験・想定訓練の状況と総括
(a)H18 年 4 月 22,23 日
東京消防庁
第八消防方面本部
立川訓練場屋外フィールド
における倒壊家屋内の被災者救助想定訓練
1)訓練の流れ
この想定訓練は,瓦礫内移動体を用いた情報収集ミッションユニットおよび広域災
害情報収集のためのインフラミッションユニットで開発されたロボットおよび資機材
を使用するものであった.
この想定訓練の流れを,現場写真を使いながら示す.
450
1. IRS-U 現場到着
2. 到着した BENKEIⅡから資機材を下ろし
レスキュー活動準備
3.現場の状況を確認し共有する.
4. ジャッキアップロボットで空間確保
活動についての意思疎通をはかる.
5. 閉鎖物体を持ち上げた空間にマルチ
6. マルチセンサヘッドのモニターで内部
センサヘッドを設定
状況を確認
451
7. 隊長の指示でさらに閉鎖物体を持ち
8. IRS 蒼龍の進入経路を確認
上げ除去
9. IRS 蒼龍進入
10. IRS 蒼龍前方カメラからの映像により
蒼龍を操縦,双方向マイクで被災者に呼
びかけを行なう.要救助者を確認
11. 要救助者(レスキューダミー)に隊員 12. ほふく搬送で要救助者を救助
が接触
452
13. 要救助者を救助
14. 救助者に IC タグを設定
15. IC タグを救助者家族に説明
16. 想定家屋入り口に IC タグを設定
2)当該訓練における総括
現職消防官の有志である IRS-U と資機材の開発をおこなった研究・開発スタッフが
協力する形式での初めての試みであった.そのため最初は戸惑いもあった.4 月 23 日
の午後に設定されたこの想定訓練の「本番」がスムーズに進行するよう,前日と当日
に 2 回の予行演習も行なった.
BENKEI II により実際に資機材を現場に運び込むことから開始する想定であった
が,走行距離は短いといえども,BENKEI や BENKEI II で資機材を運搬するのは初め
ての試みであった.BENKEI は小型 4 輪 ATV の周りに資機材を運搬する箱を取り付
けたものである.BENKEI II はバギー車を改造し,車両後部に資機材を収納する整理
箱を取り付けてあり,また発動発電機を装備するレスキュー資機材運搬用小型車両の
コンセプトモデルである.BENKEI および,BENKEI II の運転者からのコメントは次
のとおりであった.
BENKEI について
・ 装備の固定をさらに確実にする必要がある.
・ 装備(MOIRA)を収納する箱があるため,万が一転倒したときに運転者逃げに
くい.ホイールハウス沿いに曲げた設置が望まれる.
・運転の際には頭部側面も保護できるヘルメットを着用するべきである.転倒した
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際には側頭部を強打する可能性が高い.
・ オフロードあるいは崩れた舗装道路も,ホイルリフトやドリフトを使いながらあ
る程度は走行できそうである.
BENKEI II について
・現状では,すべての装備を搭載すると重量バランスが極めて悪くなってしまって
いる.
・運転席上には屋根または金網を設置し,落下物から運転者を保護してほしい.
・実際に運転してみると,運転者はセンサ情報のディスプレイは運転中ほとんど見
ることができない.助手席に乗る人へディスプレイを集中し,運転者に口頭で助
言するような協業が望ましいと考えられる.
・傾斜計が必要である.
このほか,予行演習では稼動していたアドバンストカッターロボットは,本想定訓
練本番ではスイッチの接触不良のために稼動できず,シナリオからはずすこととなっ
た.ジャッキアップロボット,マルチセンサヘッドや IRS 蒼龍は所期の目的どおり稼
動した.ただし本番では雨模様であったため,防滴対策をしていない機材の使用につ
いての懸念があった.実際には本番中に雨は降らなかったため,問題は生じなかった
が,開発中の資機材の現場における使用耐久性には大きな課題が存在することが改め
て認識された.扱う側にとってもロボットシステムは点検を欠かさず,常に実践的,
効果的に活用できるよう操作など訓練を重ね課題を抽出し改善をしていくことも,更
なる向上を目指すうえで重要であることが再認識された.
(b) H18 年 6 月 24 日
東京消防庁
第八消防方面本部
立川訓練場訓練棟における地
下街 NBC テロ時の危険物発見先行検索 想定訓練
1)訓練の流れ
この想定訓練は,瓦礫上移動体を用いた情報収集ミッションユニットおよび広域災
害情報収集のためのインフラミッションユニットで開発されたロボットおよび資機材
を使用するものであった.
この想定訓練の流れを,現場写真を使いながら示す.
454
1. 出動前の待機状態
2. 通報により現場到着.地下街から
出てきた通行人を介助しながら内部
状況をヒアリング.
3. ロボットを使った先行検索を決定
4. 地下街各店舗に設置されていた
R-コミュニケーターを使い呼びかけ
ロボットを展開,発進準備
455
5. サイレント実施,呼びかけに対する
6. ロボットによる検索開始.
ホットゾーンに進入(写真は ACROS)
に応答を待つ
7. 地下街廊下ホットゾーン内を検索
8. 地下街各店舗内を検索
(右:TP03, 左:ACROS)
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9. ACROS が NBC テロ疑いのボンベ 1 発見
10. ACROS の操作画面(NBC テロ疑い
のボンべ 2 発見時)
位置特定
11. TP03 も NBC テロ疑いのボンベ 1 発見
(TP03 の操作画面)
12. ロボットは嫌疑物体を監視した
まま先行検索終了.IC タグ設定.後
着部隊に引継ぐ
11. ホットゾーン入口に設定した IC タグ
2)当該訓練における総括
今回の想定訓練は,地下街において異臭が漂うという NBC テロを想定したもので
ある.したがって,当初は 2 台のロボットのうちの 1 台にマニピュレータ付のものと
し,そのロボットが疑いのある物体をマニピュレータで取り上げ回収し,その一部始
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終をもう 1 台のロボットに搭載したカメラによって中継する,という連携を訓練する
想定を描いていた.しかし,そのマニピュレータ搭載可能なロボットが不具合だった
ため,探査専用ロボット 2 台での訓練となった.
それぞれのロボットの操作卓にオペレータが 2 名ずつ付き,それぞれのロボットの
オペレータの遠隔操縦により,あらかじめ決められた想定箇所を巡回した.巡回は問
題なく行なうことができた.当初懸念された無線 LAN の通信途絶によるロボットの
暴走などはなく,概ね安定した無線通信が確保されていた.
この想定訓練において判明したことは次のとおりである.
・遠隔操作は操作卓に表示される映像をもとに行なわれ,オペレータがロボットを直
接目視することができない.このような状況下にあっても,遠隔操作によって訓練
環境内の廊下だけでなく,廊下に面して設置された模擬店舗の中も検索できたこと
は,2 台のロボットとも操作系の基本的な部分については,この種の用途に耐えう
る能力があることがわかった.
・今回使用したロボットはそれぞれ独立に開発され,独立に使用する仕様となってい
る.しかし,同じ空間内であるときは独立に,あるときはひとつのロボットが他方
のロボットからの情報を観察して,というようなオペレーションがありうる.この
とき,ひとつのロボットのオペレータが別のロボットの操作卓のカメラ画面を参照
したくなる場合があった.このようなオペレータとロボット表示画面の相互参照を
便利にするインターフェースのとり方に課題があると認められた.
・この想定状況では,現場到着後,速やかな設定と検索開始が求められている.した
がって,ロボットや操作卓の電源を入れてから,ロボットが稼動できる状態になる
までに要する時間や設定の手間はできる限り低減したい.その観点からは,ACROS
の設定の煩雑さにはまだまだ改良の余地がある.
・現場への搬入の機動性や運搬の容易さを考慮すれば,ロボットは軽量であるほどよ
いと考えられる.今回使用したロボットは,IRS-U 隊員の評価によれば,TP03 は軽
くて運搬しやすい,ACROS は重すぎはしない,という評価であった.
・ロボットの動きの指示は,2 台のロボットともゲーム用のジョイパッドを使用して
行なっていた.救助隊員は指手先保護のために厚い手袋を着用しているケースが多
く,ジョイスティックや押しボタンが小さいと操作しにくい,という指摘があった.
操作卓表示画面にタッチパネルを使用する場合も,操作ボタンが小さすぎてはいけ
ない,という指摘でもある.今後の改良課題である.
・2 台のロボットとも,操作自体はそれほど難しくなく,しばらくの練習で操作がで
きるようになる点は評価された.
・遠隔操作用の映像は,一般的なテレビカメラ,またはディジタルビデオカメラを使
用している.今回の環境では,カメラの撮像に必要な最低限の照度は確保されてい
たが,これがもっと暗い環境でも操作可能かどうか,その限界がどこにあるかは今
後確認する必要があることがわかった.
・この訓練環境では,無線 LAN による通信は可能であったが,もっと広域な環境で
はどうなるかは未知である.今回の訓練ではロボットが稼動して所期の動きは達成
できたとしても,実際の現場ではこのような通信が確保できるかどうかはわからな
458
い.この通信における頑健性の確保は,今後も継続して考慮する必要がある.
(c)
H18 年 10 月 3,4 日 兵庫県広域防災センター
屋外フィールド における倒壊家
屋内の被災者救助想定訓練
1)訓練の流れ
この想定訓練は,瓦礫内移動体を用いた情報収集ミッションユニットおよび広域災
害情報収集のためのインフラミッションユニットで開発されたロボットおよび資機材
を使用するものであった.またこの訓練は,JICA が主催する,国際緊急援助隊救助チ
ームの総合訓練のプログラムのなかのデモンストレーションとして行なわれた
この想定訓練の流れを,現場写真を使いながら示す.なお,この現場写真は想定訓
練本番前の予行時のものを使用した.
1. 現場到着.ジャッキアップロボット
2. ジャッキアップロボットで入口を
設定
3. 障害物を持ち上げた空隙から,「くる
閉鎖している障害物を持ち上げる.
4. 「くるくる」のモニターで内部を検索
くる」を進入させる.
459
5. 内部に要救助者らしき人発見.さらに
内部奥を検索のために蒼龍を設定
6. 蒼龍のモニターで蒼龍を操作,内部
を検索
7. 検索中の奏龍
8. 要救助者を発見.レスキュー隊員進入.
ほふく搬送でレスキューダミーを運搬
救助.その様子を蒼龍のモニターで監視
460
9. 要救助者を救助,この後被災者にはトリ
アージタグを,模擬被災家屋には IC タグ
を設定.
2) IRS-U 側からの当該訓練における総括
以下は想定訓練のシナリオ作成者であり,当該訓練の実施リーダーである IRS-U の真
壁による訓練実施後の総括である.
【訓練に使用したロボットや機材について】
ジャッキアップロボットおよびアドバンストカッターロボット
ジャッキアップロボットについては最大許容荷重が知りたい.救助資機材には必ず正
式な許容荷重が記されており,災害現場ではそれ以上の荷重はかけない.是非次回の訓
練時,最大許容荷重と限界荷重を知った上で想定を考えたい.
アドバンストカッターロボットについては,前回の立川での訓練で故障した不安を解
消できたので良かった.しかし,対象物を切断したとき,切片が跳ねるという不安がま
だ残っている.シールドを付ける,カッターの下で跳ね防止の押さえを作るなどの処置
が必要であると思われる.また,切断場所が目視できない現場が大半なので,切断場所
を撮影するカメラがあるとよい.
消防の資機材にスプレッターという機材があり,スプレッターロボットもあればよい
と思った.
くるくる
本想定訓練の本番では使用できなかったのが非常に残念であった.「くるくる」はや
はり動力供給を手腕で行うという意味で非常に使い勝手が良いと改めて確認した.
走破性については,やはり,接地面との食いつきの悪さが気になる.今回フィールド
にはベニヤがひいてあったが,ベニヤの段差でボディが干渉し,タイヤが空転していた.
モデルカーのような脱着可能なゴムタイヤをはかせて接地面との食いつきを良くして
みてはどうだろうか?また,縦坑などの救助事案を想定した訓練を今後実施し,そこで
このくるくるを使用してみたい.
高枝切バサミのスティックは,くるくるを脱着した後コードも離脱できるとさらに良
461
い.「くるくる」が活躍するような災害現象は,おそらく閉所や侠所が多いと想定され
る.本体離脱後のスティックは不要で災害現場では邪魔になる可能性があるためコード
の離脱が望ましいと考えられる.
IRS 蒼龍
いつもながら高い走破性と安定したコンディションであった.訓練時は目視ができて
しまう想定となっているが,実災害ではほぼモニター画面上に表示された映像のみでの
操作となると思われる.蒼龍を後退させる際の操作は難易度が高いのでバックモニター
があればなお良い.
また,現状の操作器はモニターとプロポが独立した形になっているが,モニターと操
作盤を複合させたジョイスティックのような操作盤であれば,相互を接続しているコー
ドを減らすこともでき,設定・撤収が容易になると考えられる.救助資機材の開発テー
マとしては収納という問題も重要である.モニターと操作盤が一体化すれば,立位での
操作も可能となり,決まった操作スペースを確保する必要がなくなると思われる.
IC タグとトリアージタグ
トリアージタグについてはとくに言及するべき問題はないが,一目で要救助者のレベ
ルが分かるようにカラーの部分が表示出来れば良い.ICタグは,バリエーションを増
やすとよい.例えば「要救助者救出済み」→ブルーのライトが点灯.
「要救助者死亡遺体
収容求む」→赤などなど・・・.要救助者が不幸にして亡くなっている場合は,レスキ
ュー隊は生存可能性がある現場に行く可能性が高いので,先行検索結果を表示している
タグの視認性がよいと,後着で実際に救助活動を行なうレスキュー隊には便利となるこ
とが想像される.
レスキューダミー「だみこ」
もし,次回に想定訓練を行なうことができるならば,バックボードによる全脊柱固定
の検証を行ってみたい.現在の消防・救急の現場における「救助」に対する考え方・方
向性は救助された人の完全社会復帰を目指している.このとき全脊柱固定は欠かせない.
その際にかかる要救助者のストレスを「だみこ」を使って検証することは重要であり,
この検証ができるとよい.
【全体の評価】
どの機材やロボットにも言えるが,災害現場の悪状況を考え,粉塵・防水対策は切に
望まれる.特に,震災による救助事案は粉塵が多く,海外ではアスベストのように細か
い粒子もある.
普段の日常点検で使用できても,実災害に使用できなくては意味が無く,ユーザーか
らするとリスクが多いので今後の改善に期待したい.
IRS-U の方で不慣れな操作をしてしまったため,一部機材が想定訓練の本番時に性能
を十分に発揮できなかったのは遺憾に思っている.今後さらなる訓練を行うとともに,
ロボットのバージョンアップのさいに対応できるよう,情報の収集と提供も合わせて行
いたい.
462
被災地想定を考え,次回から野営訓練も行いたい.想定訓練前日に出来れば隊員にも
プラスになると思われる.また,これまでの想定訓練がメディア対応の見せる訓練とな
っているが,今後の訓練としては,あらかじめロボットを指定して,色々な角度での訓
練を行ってみたい.平面救助だけでなく立体的な訓練と,隊員とロボットのための訓練
も行いたい.今後メディア対応だけの訓練を行うとIRS-Uの隊員から不満が出るか
もしれないので,見せる訓練でなく,検証的な訓練をもっと行ってゆく必要があると思
われる.
③ 開発研究者側からの当該訓練における総括
上記,IRS-U の真壁からのコメントは,開発者に対して有意義なフィードバックであ
る.国際レスキューシステム研究機構と IRS-U とで協働して行なう想定訓練は今回で 3
度目となるが,開発者にとって作ったものがどのように使われるのか,それに対する期
待がどこにあり,問題や制約条件がどこにあるのか,何をやらなければならないか,ど
こまでできそうで,限界はどこにあるのか,を知る上で,非常に重要なステップを踏ん
でいると感じられた.
なお,この想定訓練は,JICA が主催する,国際緊急援助隊救助チームの総合訓練のプ
ログラムのなかのデモンストレーションとして行なわれたものである.この総合訓練の
プログラムにおいて 10 月 5 日に東京消防庁のハイパーレスキュー隊長である石川氏の
講演があった.そのなかで,「国際レスキューシステム研究機構の活動は非常に熱心で
あり,レスキューロボットに大きな期待をしています.是非,皆さんも協力してあげて
欲しい.」との談話があった.国際緊急援助隊隊員 160 名に対する講演であり,レスキ
ューロボットを開発する研究者としては大いに勇気づけられるアピールであった.
(d)
H18 年 11 月 5 日 JR 川崎駅地下街アゼリアにおける 震災発生による負傷者の救助
訓練
1) 訓練の流れ
この想定訓練は,瓦礫上移動体を用いた情報収集ミッションユニットおよび広域災害
情報収集のためのインフラミッションユニットで開発されたロボットおよび資機材を使
用するものであった.また,川崎駅地下街アゼリアの管理会社,および川崎市,神奈川
県,川崎市消防局の協力を得て,実際の地下街を使用する初めての訓練であった.実際
の地下街を利用した想定訓練は画期的である.さらに,今回は川崎消防署の特別救助隊
の協力も得て,IRS-U のロボットを用いた先行検索の後,その情報を川崎消防署特別救
助隊と共有し,特別救助隊が救助活動を行なう間は IRS-U とロボットがその後方支援に
まわる,という連携シナリオをとった点に大きな特徴がある.
この想定訓練の流れを,現場写真を使いながら示す.
大規模な震災が発生.たまたま IRS 川崎ラボにて自主訓練を行っていた IRS-U は自発
的に出動した.アゼリア直近である川崎消防署は他の場所で多数災害が発生していると
ころから,川崎消防署は他の災害現場から転戦するため現場到着に時間を要し IRS-U が
先行部隊として災害現場に最先着した.防御困難であると考えられるアゼリア地下街の
463
検索活動を先行部隊として行なう.外観目視により倒壊危険性大と判断,ロボットを開
口部より進入させ内部検索を開始した.
1. IRS-U 現場到着,ロボット設定開始
2. ロボット 3 台を検索のために地下街
へ進入させる.ロボットは,左側手前
から右側にむかって IRS 蒼龍,KOHGA 2
階段柵の向こう側に Hibiscus
3. 地下街に降着.内部損壊状況及び要救
4. 地下街廊下を検索する KOHGA 2(手前)
と Hibiscus(後方)
助者の検索開始
5. Hibiscus を操縦する IRS-U 隊員
6. KOHGA 2 が負傷した要救助者発見
464
7. IRS-U 隊員が負傷者を救助.救助の
8. 3 台のロボットが協力して検索.後方
様子を KOHGA 2 のテレビカメラを
(写真右側)の KOHGA 2 のカメラ視
介して地上本部がモニターしている.
野には前方を走行中の 2 台のロボット
がはいっており,検索状態が地上本部
でモニターできている.
9. IRS 蒼龍が瓦礫の下敷きになった要救
10. 川崎消防署の特別救助隊員が救助活
助者を発見.蒼龍の双方向マイクによ
動開始.要救助者の状態を確認.IRS-
り呼びかけを行い意識状態確認.意識
U はロボットを現場方向に向け,救
があれば要救助者に励まし・指示など
助活動を地上本部に中継,後方支援と.
ボイスコンタクトを行なう.蒼龍のセ
安全管理を行なう.救助隊員は蒼龍の
ンサにより温度や CO2 濃度確認.他の
双方向マイクを活用し,状況を地上本
現場の救助活動を終えて遅れて到着し
部に報告.
た川崎消防署特別救助隊にこれらの情
報を提供・共有.
465
11. Hibiscus の操作卓表示画面.写真 10.の
12. 救助中の全景を中継する KOHGA 2.
左下に写っている Hibiscus のカメラの
映像の様子.救助隊員の動きをモニター
できている.地上本部がこのように
映像でモニターできるのは画期的
13. 要救助者を救助.空気式ジャッキで瓦礫
を持ち上げた.脊柱全身固定器具により要救
助者を固定後救出.
2)IRS-U 側からの当該訓練における総括
以下は,想定訓練のシナリオ作成者であり,当該訓練の実施リーダーである IRS-U の
真壁による訓練実施後の総括である.
【訓練に使用したロボットや機材について】
IRS 蒼龍
前回の兵庫県広域防災センターにおける訓練で要望したバックモニターカメラが,今
回の訓練で使用した IRS 蒼龍に取り付けられたことに隊員から大きな反響があった.前
回の訓練では後退動作がバックモニターの無い事で困難であった点が今回改善された.
466
このバックモニターを利用できたため,後退操作が非常やりやすくなったという感想が
IRS-U 隊員から得られた.今回操作した隊員は,この IRS 蒼龍の操作はほとんど初めて
であったにも関わらず,実際に遠隔操作ができた.このロボットの操作性及び走破性に
関し高い評価が隊員から得られた.
また,IRS 蒼龍に搭載した双方向マイクが非常に有効性の高いことが実証された.今
回の川崎消防署特別救助隊との連携訓練では,このメリットを生かすことができた.救
助活動中に要救助者のバイタル(生の兆候)は刻々と変化するので,常に救助隊からの
要救助者の状態が本部に報告されるのが実際である.ただし,実際の現場では,救助隊
長はその報告の度に携帯無線器のプレストークスイッチを押し活動を一旦止めなけれ
ばならないのであるが,今回の訓練では IRS 蒼龍の双方向マイクを使うことにより要救
助者の状態及び活動状況報告をリアルタイムで活動の手を休める事なく行う事ができ
た.被災者の声を拾う事もでき,また活動中の隊員に対しての呼びかけにも使えるので,
二次災害の予兆を活動中の隊員に伝える事もできるのが大きな評価だと考えられる.
可搬性がよいことに関しても隊員から大きな評価があった.
KOHGA 2
前後の左右にあるクローラの支持筐体と本体との相対角度を独立に変化させること
ができること,さらにクローラが太いことなどから,走破性や階段の登坂能力に関して
隊員から高い評価があった.ロボット上のビデオカメラからの画像を表示している操作
卓のモニター上での画像の動きが,ロボットへの動作指示よりもワンテンポ遅れるため,
モニターでの確認動作に若干のズレが生じた,という報告を隊員から受けている.
この点に関して,今回の想定訓練では,KOHGA 2 のミッションには,他のロボット
と違い,地下街内の崩壊状況を確認するという重要な目的を与えていた.これは救助活
動中の安全管理を行う上で非常に重要なミッションである,この任務を与えられたロボ
ットからの情報により安全が確認されなければ隊員の進入も救助活動も行うことがで
きない.そのゆえ,内部状況を把握するための情報や,ビデオカメラ画像の視認性や視
野範囲などが十分よいことが必要である.またカメラにズーム機能があるとよい.
KOHGA 2 もプロトタイプという事でもあるので,今後の改良に大きく期待したい.
Hibiscus
隊員からの報告によれば,横浜セーフティーフェアで試用した時よりもさらに操作性
が 向 上 し , 操 作 が 簡 単 で 扱 い 易 く な っ た と の 事 で あ っ た . し か し , Hibiscus の 能 力 を
100%引き出すには,同機の前後の左右にあるフリッパーアームをそれぞれ独立に動か
す操作のための訓練が必要と感じた.操作卓のモニターにはタッチパネルがついて扱い
やすくなり,画面もきれいで非常に見やすかった点は評価できる.ロボット本体のクロ
ーラも,本体全体を包むようになっていてこれが回転するので,階段などの昇降能力を
高めるのに貢献していたと考えられる.
ほぼ実用に近いと感じられたが,今後は災害種別を絞り,防水加工や防塵対策を施し
てゆくことが主要な課題になってゆくと思われる.
467
【全体の評価】
今回の想定訓練は初となる事が多かった.実際の地下街を使用しての訓練も初めてで
あり,想定としても複数の負傷者がいるとしたことも初めてであった.また,他機関と
の協力活動も初めてであった.今回の訓練は IRS-U にとっても国際レスキューシステム
研究機構にとっても今後の方向性や,活動の幅,限界を知る上で大きな成果をあげるこ
とができたと考えられる.以下,いくつかの項目について総括する.
地下街という想定
地下街で発生した災害では,その環境特性として非常に活動困難な区域であるという
ことがあり,危険度が通常の災害より高い.地下街環境の特徴としては,濃煙熱気,多
数傷病者,進入困難ということがあげられる.川崎駅地下街をみると,内部は広くまた
開口部(階段やバス乗り場連絡通路)が多いため,実災害が発生した場合の対処の難し
さが想定される.レスキューロボット機材を考えると,いかに無線状況を良くするかと
いうことが課題になると思われる.
広大な地下街空間での活動として,ロボット 3 台にそれぞれの役割を持たせた監視活
動とすることで,多方面からの活動状況の把握ができた.ロボットをうまく配置して,
検索部隊は救出部隊の一部始終を確認することができ,安全管理を行う事ができたこと
は収穫であった.
救助活動の連携について
今回初めて川崎消防署の特別救助隊との連携活動が実現したが,このような現場での
検索にロボットを導入しようとすると,まだまだ難しさは感じられる.例えば,各市町
村の消防隊員にもロボット導入に関する温度差はあり,「ロボット=二足歩行=オモチ
ャ= 使えない」という発想をもつ隊員もまだまだ存在する.
それぞれの救助隊の考え方で,現場到着後の救助活動の考え方は変わるので,現在の
レスキューロボットの使い方として想定されている,救助活動に先だつ検索活動という
ことも歓迎されるかどうかはまだわからない.その意味でも,このプロジェクトで開発
されたロボットがもっと認知されていく必要があると思われるし,IRS-U の活動も想定
を行う上で必要になると考えられる.また,大きな実績も積み重ねていく必要があると
考えられる.
今後の活動について
今後は撤収作業も視野に入れた想定を行いたい.各ロボットの完成度が非常に高くな
ってきたので,時間はかかるかもしれないが,各ロボット単体の使用想定を汲んだ活動
状況を記録に残したいと思った.今回の川崎での訓練は今後参考にできることが非常に
多かった.
3)開発研究者側からの当該訓練における総括
真壁からの総括もあるように,本想定訓練は,実際の地下街において訓練を行った点
において非常に貴重で有意義な経験となった.実際の地下街は,早朝から深夜まで公共
468
の用に供されているところであり,店舗はいうにおよばず,通路といえども商業空間の
一部となっている.したがって,短時間であってもそこを占有使用するためには基本的
には費用が発生する.また,通過歩行者の便宜や店舗営業活動を阻害するものであって
はならない.したがって,実際の地下街における訓練を実現するためには,関係各位の
協力がなければ実現し得ないものである.今回の訓練は,地下街管理会社の理解と協力,
さらに,神奈川県および川崎市が安全・安心に関する周知活動を行なうさまざまな催し
物を行なう月間であったことが,本訓練実現の大きな要素であった.
また国際レスキューシステム研究機構と IRS-U の協力関係,および,同機構のひとつ
の拠点ラボラトリーが川崎にあることから同機構の公開実験などを通じて川崎消防署
とのコンタクトもあったこと,さらに IRS-U メンバーと川崎消防署員との交流もあった
ことが,今回の合同想定訓練を可能にしたともいえる.ロボット開発は,それが使われ
る現場で起こりうる可能性のある事象をどれだけ経験し,それに対処することができる
能力を備えているかが重要であり,実地で使用してみることがきわめて重要である.こ
のことを開発研究者は十分理解しているところであるが,実地において実験を実現する
ことはなかなか難しい.これが今回実現できたことは極めて有意義であったが,その実
現のために諸機関との継続的なコンタクトと理解のための相互交流が必要であること
が改めて認識された.またこの相互交流の実現には,このための連絡や調整,周知を職
務として分掌する同機構の広報スタッフの存在が大きい.ロボットのモノとしての研究
開発だけならば,大学・研究機関の研究者集団のみでも可能であろうが,関係諸機関と
の連絡調整までを含めたソフト面での充実は,研究者集団だけでは困難であったかもし
れない.
地下街におけるロボットの遠隔操作における技術的な課題として一番大きなも のは,
やはり,地上に置かれた操作卓とロボットをつなぐ通信の確保であろう.高品位で時間
遅れや通信途絶がほとんどなく,かつ帯域の広い通信路の確保が必要である.今回の実
験では,IRS 蒼龍は有線での通信,他の 2 つのロボットは無線 LAN を使用した.今回の
実験では,ロボットの進入口(階段)と訓練を行なう地下街通路の両方から見通せる位
置に無線 LAN エアステーションを設置したロボットもある.したがって,実験室で実
現できる比較的品質のよい通信を確保した上での実験であったともいえる.このような
通信が確保されれば,この想定訓練で行なったようなロボットの行動が実現できる,と
いうデモンストレーションとなっている.どのような地下街でも,同様な行動ができる
ためには,この問題をいかに解決するかが急務となる.
今回の想定訓練から感じられることは,階段の昇降や,遠隔操作についての技術的な
課題はクリアされつつあることである.したがって,ロボットの耐久性や防水・防塵性,
実地展開と撤収の利便性などの確保など,開発としては次のステップに移りうる段階に
きている感を強くする想定訓練であった.
(e) H18 年 11 月 23 日
国際レスキューシステム研究機構 神戸ラボラトリー
倒壊家屋実
験施設における倒壊家屋内の被災者救助想定訓練
1)訓練の流れ
この想定訓練は,瓦礫内移動体を用いた情報収集ミッションユニットおよび広域災害情
469
報収集のためのインフラミッションユニットで開発されたロボットおよび資機材を使用す
るものであった.関西地方に突発的な直下型大地震(M8 クラス=南海地震を想定)が起
こり,都市圏に大規模震災が発生する.震災を自己覚知した IRS-U は自主的に出場し被災
者を救助するためにパトロールを開始した,というのが想定である.
この想定訓練の流れを,現場写真を使いながら示す.
1. 地震災害発生後,IRS-U が被災地を巡回
2. 隊長は活動方針を隊員に伝達.
中に被災者家族と接触.要救助者情報と
倒壊家屋情報を確認.
3. R コミュニケーターで要救助者の情報を
聞き取る.IRS 蒼龍(写真左)で要救助
者および環境把握検索を行なう.
470
4. UMRS-NBCT(写真左上)は要救助者
検索と倒壊状況を検索する.
5. 余震等を考え,倒壊建物の外からロボッ
6. 同左.IRS 蒼龍の操作卓(黄色い箱)
トを使って内部状況把握.白いディスプ
のモニターを見ながら隊員が操作.
レイは UMRS-NBCT の操作卓.
被災者の一部らしいもの発見.双方
向マイクで呼びかけ.
能動スコープカメラ
7. 呼びかけるも被災者と断定できない
8. 能動スコープカメラにて内部を
ため,能動スコープカメラ使用
検索.
を決定.設定後,家屋の開口部から
挿入.
471
9. 被災者の手を確認.(左下の隊員のか
10. 被災者(レスキューダミー)の救出
かえているディスプレイに手が写
活動
ている.)
11. 被災者を倒壊家屋の外に搬出
12. 被災者に救急応急処置.トリアージ
タグを設定
13. 倒壊家屋に IC タグ設定.
472
2) IRS-U 側からの当該訓練における総括
以下は,想定訓練のシナリオ作成者であり,当該訓練の実施リーダーである IRS-U の
真壁による訓練実施後の総括である.
【訓練に使用したロボットや機材について】
IRS 蒼龍
IRS 蒼龍は完成度が高いので,あとは耐久度,持続度,防塵・防水性の補強を行い,
各災害想定の検証を行えればよいと思われる.また,遠隔操作のための操作卓について,
長時間の操作に対応するには,モニターと操縦桿(ジョイスティック)が一体化して,
首から下げられるような構造になっており,それに鉄人 28 号のような操縦桿がついて
いるような形態になっていると,隊員の疲労度が軽減されるように思われる.
今回の訓練で発見した蒼龍の弱点は,3 区画以上の角があるとコードが引っかかって
しまい,走行,動作が不能になることである.走行路面に段差があるだけのようなフィ
ールドではなく,倒壊現場的な鉄筋や迷路のような模擬フィールドにおける走行実験と
検証が必要と思われる.
UMRS-NBCT
UMRS-NBCT はやはり NBC 災害,テロ災害のような現場での活躍が考えられると思
われるし,逆にそれ一本に絞ったほうがよいと考えられる.ただ,NBC 災害の特殊性か
ら,NBC 災害で実際に隊員が何を行うのか?というところから,はじめる必要性がある.
たとえば,消防と警察では活動が違い,消防では検体を採取するというのはあまり考え
られない.したがって,必要な機能を絞り,開発の方向性を定めること必要だと思われ
る.また,セットアップの時間がかかるというのが大きな問題である.まず背景として,
NBC 災害が起きたとき,現場に到着した消防隊は,すぐに災害現場に直行できず,次の
ようなステップを踏む.すなわち現場指揮本部の設営,除染所の設営,現場の広報,隊
員のスーツ(ホットゾーン=レベルA装備(陽圧式化学防護服、空気呼吸器等)ウォー
ムゾーン=レベルB装備(簡易防護服、防毒マスク等皮膚の露出がないもの))の着装,
というように時間がかかるという事実がある.その間に UMRS を現場に行かせることを
考えれば効率がよく,ロボットによる先行検索ということに意味が出てくると考えられ
る.そのゆえ,ロボットのセットアップ時間が短縮されることの意義はきわめて高いも
のであることを考慮したい.操作卓とロボットの間の無線通信状況もよくなる事が必要
である.また,隊員は汚染された区域に測定器を自ら持ち込み、ゾーン設定(ゾーニン
グ=危険度のエリア分け)を行うので,汚染物質が判明しない場合は受傷危険が高い.
ゾーニングや検地機能をロボットに持たせ,先行検索が行えるとよい.今後の開発に期
待したい.
能動スコープカメラ
非常に面白く画期的なアイデアだと思わる.照明の検証や倒壊家屋で発生する釘など
の障害物についても,どれだけ実用的に使用できるか実験してみたい.簡単な迷路のよ
うなフィールドでなく実災害のようなモデルでテストしたい.
473
この能動スコープカメラは,最も現場での使用可能性が高いとの評価が隊員からあっ
た.能動スコープカメラの繊毛の色を,例えば 1 メートルおきに変えるなどの工夫をす
ると挿入(進入)距離もわかって便利との感想も隊員からあった.簡単なフィールドで
なく,より複雑な構造のフィールドで検証が行えたらよい.能動スコープカメラを実災
害で使用するとすれば,おそらく,スコープを入れては出してその際に瓦礫を除去し,
また再度入れての繰り返しになると思われる.
この繊毛の耐久度,ウィークポイントや禁忌行為を知りたい.
【総括的なコメント】
当該想定訓練に関して
全体的にロボット本体の性能は向上しているのが確かに感じられる.しかしロボット
本体の性能の向上に対して,それを遠隔操作する操作卓の操作フィーリングの向上の間
に格差が感じられる.ロボットがどんなに優れていても,オペレータが疲労困憊してし
まったり,ロボット自体の性能についていけなかったりすれば,その性能を生かしきる
ことができない.操作卓の操作感に,さらなる向上を期待したい.また,操作卓を含め
たロボットの可搬性や,現場到着後,稼動できる状態になるまでのセットアップ時間,
検索終了後撤収のための収納時間についても,今一度消防隊の隊員と意見交換をすると
よく,それにより次の技術開発課題が見えてくるように思う.時をあらためて,パネル
ディスカッションか,それに類する事ができるのであれば,是非行いたい.
また,ある大学で,DMAT(災害時医療派遣チーム)で活動を行なっている医学博士
がこの想定訓練を見学されていた.この方からは,DMAT と合同訓練をやってみては?
との意見も頂いた.災害医療のプロからも,狭所での災害活動でのロボットの活用性に
関しては高い評価を得られたと思われる.
私的に見学されていた,スーパーイーグル神戸(神戸市消防局特別高度救助機動部隊)
の隊長からも関心のあるコメントがあった.
今後想定訓練を行なうに際して
今年度行なった想定訓練では毎回,マスコミ対応ということがあり,広報のため見せ
る訓練となってしまう側面があった.そのため,当該訓練を視察した消防関係者からは
必ずしも評価されない面があったかもしれない.ロボットをより実践配備にむけること
を考慮するならば,もっとリアルな想定をするのがよいと思われる.しかし,IRS-U は
ボランティア組織であり,実際の消防隊の一部隊のような資機材は持ち合わせておらず,
また,隊員の数にも限りがある.そのためリアルな想定をするとしても限りがあるが,
行える範囲で実践的な訓練を行いたいと考えた.
3) 開発研究者側からの当該訓練における総括
本年度に開催した 5 回の想定訓練の最終回を飾る訓練であった.立川で 4 月に行なっ
た想定訓練では,訓練そのものの実施方法やロボットの稼働状況にも不安や戸惑いがあ
り,想定シナリオどおりに訓練を進行させることで精一杯の感が大きかった.しかし,
回を経るごとに,訓練に余裕が出てきたことが筆者にも感じられた.
474
その余裕は,例えばシナリオ作りにも現れており,最終回の訓練では,想定と流れだ
けを作り,具体的な隊員の台詞や一挙一動をシナリオに書き込むことはしなかった.初
回と 2 回目までは,これらを事細かに書いたシナリオを作り,隊員も台詞まで覚えてい
たことを考えると対照的である.その分,訓練とともに,実際に起こりうる事象に対し
て臨機応変に対処することができるようになった.ロボットや機材について想定外のこ
とがおきたときにどのように対処するかも,より実際に近い状況で訓練できるようにな
ってきたことが収穫であった.
またこの訓練では,倒壊家屋内の要救助者(レスキューダミー)の置き場所も隊員に
は知らせず,実際に検索して場所を特定するということも行なっていた.筆者はこの訓
練の進行中,能動スコープカメラの操作者の近くにたまたまおり,操作者が「あ,手だ」
とつぶやいたのが印象に残っている.実際に開発した機材がこのような形で使えるのだ,
という実感を得た瞬間であった.
前記の真壁による総括にもあるように,開発研究者が開発したロボットをはじめとす
る機材がどのように使えるのか,使えないのか,使えないとしたら何が問題なのかを特
定してゆくためにも,このような実践的な方法論による検証は欠かせないものである.
そのためには,現場経験のある現職の消防官に協力を仰ぐ方法は必要不可欠であり,こ
の検証方法が 5 回にわたる訓練という形で実現できたことはかけがえのないことである.
これまでに培った関係方面との協力関係の上で実現できた想定訓練とその成果を,今
後の研究開発に生かしてゆくことが必要であるとともに,今後もこの協力関係を生かし,
発展させてゆきたい.
(想定訓練現場写真撮影:滝澤 修,村田美香,坪内孝司)
(4) これらの想定訓練に関する報道等
a)4 月 22,23 日
東京消防庁
時事通信社(WEB)
第八消防方面本部立川訓練場屋外フィールドでの想定訓練
JIJI PRESS
(4 月 24 日(月))
「レスキューロボット使って震災救助訓練」
IMPRESS Watch PC Watch(WEB) (4 月 24 日(月))
「IRS,ロボット装備レスキュー部隊「IRS-U」の想定訓練を公開」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0424/irs.htm
朝日新聞 (4 月 25 日(火))
「人間に代わって災害救助活動~ロボット 16 種で実験」
日刊工業新聞
(4 月 25 日(火)) 「ロボットで災害救助の想定訓練」
ロボコンマガジン(WEB)
b)6 月 24 日
東京消防庁
(4 月 26 日(水))
第八消防方面本部
共同通信による配信(6月24日(土))
475
「レスキューロボット想定訓練」
立川訓練場訓練棟での想定訓練
「テロ災害備えロボット訓練
遠隔操作で「地下街」捜索」
この配信による同内容の新聞記事掲載は,
東京新聞,熊本日日新聞,山陰中央新聞,山陽新聞,四国新聞,神戸新聞,河北新聞,
岩手日報,徳島新聞,西日本新聞,東奥日報,日刊県民福井
この配信によるWEBニュース掲載
ITmedia:
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0606/27/news043.html
Impress:
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/06/27/60.html
日本経済新聞
6 月 25 日(日))コラム「窓」
朝日新聞(6 月 25 日(日))
「レスキューロボ登場
地下街で負傷者を探せ」
c)10 月 3,4 日 兵庫県広域防災センター
10 月 3,4 日
屋外フィールドでの想定訓練
テレビジョン報道
・NHK(全国ネット) ・サンテレビジョン
神戸新聞
(10 月 5 日(木))
日本経済新聞
「精鋭
(10 月 5 日(木))
兵庫で初訓練」
「ロボチーム,救助に挑戦」
d)11 月 5 日 JR 川崎駅地下街アゼリアでの想定訓練
日本経済新聞 (11 月 3 日(金))
「川崎地下街イベント告知」
時事通信<web>(11 月 5 日(日))「レスキューロボットで救助訓練―川崎 」
時事ニュース<JR 山手線内>(11 月 6 日(月))「レスキューロボットで救助訓練―川崎 」
東京新聞 (11 月 6 日(月)) 「ヘビ型など性能披露
レスキューロボ15台展示」
神奈川新聞 (11 月 6 日(月))「川崎地下街で NPO 法人
レスキューロボット実演」
朝日新聞(夕刊)(11 月 6 日(月)) 救命ロボ発進」
Nikkeibp Tech-On! (11 月 6 日(月))
「IRS、川崎駅の地下街でレスキューロボットを用いた実証実験」
e)11 月 23 日
国際レスキューシステム研究機構神戸ラボ倒壊家屋実験施設での想定訓練
テレビジョン報道
・よみうりテレビ
ニュース(お昼)11 月 23 日(木)
「兵庫:レスキューロボが一堂に
・よみうりテレビ
神戸で国際シンポ」
ニュース&ウェザー(web)11 月 23 日(木)
「兵庫:レスキューロボが一堂に
神戸で国際シンポ」
476
http://www.ytv.co.jp/press/kansai/D2131.html
・日本テレビ NEWS24
「神戸市
11 月 23 日(木)
レスキューロボットを一堂に展示」
http://www.news24.jp/71811.html
12 月 9 日(土)10:00~
・サンテレビ
「好き!神戸」
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/15/020/movie/
WEB ニュース掲載
11 月 24 日(木)
・SankeiWeb
「最新鋭レスキューロボ,50 体お披露目」
http://www.sankei.co.jp/local/hyogo/061124/hyg002.htm
・asahi.com 11 月 24 日(木)
「災害用救助ロボットの展示会開催
神戸国際展示場」
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200611230017.html
・神戸新聞(web)
11 月 24 日(木)
「救助ロボ 40 台集結
NPO 法人が研究成果披露
神戸」
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000175191.shtml
新聞掲載
・日刊工業新聞
・産経新聞
11 月 21 日(月)
11 月 24 日(木)
「災害時人命救助最新鋭ロボ 50 体
・朝日新聞
「レスキューロボのイベント(告知)」
神戸国際展示場でお披露目」
11 月 24 日(木)
「レスキューロボ腕前比べだ」
・神戸新聞
11 月 24 日(木)
「救助ロボ 40 台集結
NPO 法人 5 年の研究成果披露
477
神戸」
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