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p405~p428 - 千葉県教育振興財団
中国製 古銭 の分析 研 究 月 反 音Б 樫子 貝」 次 目 ・407 1.は じめ に… … … …… ………… …… … …… …… …… ……… … ……… ……… …………… …・ 2.日 本 にお け る青銅器 の分 析研 究 …… ………… …… ………… …… …… …… ……・…… ……・407 3.分 1 ) ・409 析 ……… …… ……… …… … … … ……… …… ………… …… ………… …… ……… …・ 試 料 … …… ……… …… …… …… …… …… ………… …… ………… ……・… …・… …409 i)試 料 の選 定 ……… …… … … … … …… …… ………… …… ………… ……・…・…… …409 五)試 料 の紹 介 … …… … … ………… … … …… ……・…… ………… …… ……・……・… …410 面 )標 準試料 …… …… ……… ……… ……… …・…… ……… …… … … ……… … …・… …411 ・ ・ ・ ・ ・ ・…・ ・ ・ ・… … ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・… ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・… … ・ ・412 ・… ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・… … … … … ・ ・…・ 分 析 法・ 1)螢 光 X線 分析 …… ……… ……… …… …… ………… …… …… …… ……・……・… …412 五)原 子 吸光 分析 …… …… ………… …… …… …… …… …… …… …… ……・… ………・412 結 果 …… …… …… ……… ……… …… …… …… …… …… … … …… ……・…・…… …413 4.分 析結果 の解析 と考察 ………………………………………………………………・…………・416 1)2次 X線 の強度比 ……………………………………………………………………………416 2)螢 光 X線 による定量化 ………………………………………………………………・…・…418 i)定 ・… … … ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・418 ・ ・ ・ ・… … … ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・… … … … ・¨ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 量 化・ ii)分 布状態 ……………………………………・……………… ……………… …・………421 ・ ……………………………………………………。 面)金 属組織 か らの検討 … ………・ 423 f・ 6。 註釈 及 び参考 文献 … … ……・…… …… …… …… ……・… … ………・………… ……・……・…… 426 服 1.は 部 哲 則 じめ に 日本の歴史 をふ りか えつてみるに、青銅器 の果た した役割 りは、実用性 とい う意味 では、鉄 器 ほどではなかったか も知れな い。 しか しなが ら、今 日までの考古学 の研 究史 をみる と、青銅 器 に関す る研究 の方がはるかに多 い。これは青銅器 が鉄器 よ りも埋蔵遺物 として残存率が高 い、 とい う理由の他 に、青銅器 その ものの工芸品 としての芸術性の高 さ、 そしてその中 に内在す る 政治的、宗教的意味合 いな どが、多 くの研究者 を魅了 したのではなかろうか。 しか し、 その芸術性の高 さ、 また稀少価値 によって、今 日青銅器の材料、材質 の研 究 はその 錆す ら取 り除 くことを許 されな くなって しまって いる。 近年、螢光 X線 を利用 した非破壊分析の研究が進 め られ、青銅鏡な どの主要組成 につ いての 考察 が発表 されて い るが、 これ も錆の上か らの測定 で あ り、化学分析 としては良 い条件下 とは (註 1) 言 えない。 開発事業 の促進 に伴 う考古学調査 による発掘 の増加 で、年 々青銅製遺物 の量 も増 えてお り、 青銅器鋳造技法 の考古学研究 が進 め られてい るが、 まだ未開拓の分野 がかな り残 されてい る。 近年青鋼製遺物 の古銭 の発 掘件数 も増加 してお り、考古資料 としての古銭の重要性が論 ぜ ら れ始 めている。古銭 はそれ 自身 に年 代 が記載 されてい るため、遺構の年代決定 に大 きな役割 を 果す他、 当時の経済、流通 を研究す るために も、か かせな い存在 で ある。 また、古代青銅器鋳 造の技法解明 に も重要な資料 である。 古銭 には多 くの コレクターが存在 し、中には稀少価値 が高 く、高額 の値 が付 いてい るもの も あるが、同種 の ものが他 の青銅器 に上ヒベ て数 多 く存在 し、例 えば破壊 を伴 う化学分析 や、表面 の研磨 によって、小数 の遺物 を損 つて も、その文化的損失 は小 さい と言 える。 本研究 では、 この青銅製古銭 を取 り上 げ、螢光 X線 による非破壊分析 を中心 とした、化学分 析 を行ない、 それ ら分析結果 を総合的 に考察 して、当時 の青銅鋳造技法 の解明 を試みた。 本研究 にお いては、沢田氏が試みた方式 により、螢光 X線 の 2次 X線 強度比 の比較 を行な っ た他 に、標準試料 を用 いて主要組成の定量比 も試みた。 2.日 本 に お け る 青 銅 器 の 分 析 研 究 本章では古銭だけでな く、東洋青銅器全般 に関 し、 日本 において行なわれた自然料学的手法 による分析研究 について、 その研究史を簡単 にふ りかえつてみたい。 表 いわゆる考古遺物 としての青銅器を対象 として、分析研究をしたもの として、明治33年 に発 「青銅器」 された佐藤伝蔵氏の研究が上げ られる。氏はその目的 として、それ まで確証なしに -407- 中国製古銭の分析研究 と呼 ばれていた ものを、材料の面 か ら確認する こ とを第一 に上 げ、また、青銅器の化学分析 は、 「今後 日本製 、中国製、朝鮮製 の青銅器 を比較 して、 その来歴 を考 えて行 く上 に も、欠 くべ か らざる事 で ある」 とも述 べ ている。 その後 、 旧帝室博物館長、高橋健 自氏の協力 によって行 なわれた、近重真澄氏の中国製青銅 器 を中心 とした、古代銅器の化学分析 に関する研究がある。 この研究では、各種古鏡 を始め と し、武器類、像、貨幣、家具に至 るまで、幅広 く分析 されてお り、その後の化学分析の研 究 に 大 きな影響 を与 え、現在 において もなお、その分析の結果 は貴重なデー タを提供 して くれてい る。 近重氏 は分析 その ものに も配慮する一 方、合金の組織 が例 え同 じ配合比 であって も、冷 却状 態等で異なることを指適 し、青銅器製作技法 を解明 しようとする後学 へ の注意 を与 えて い る。 また、亜鉛の多量の混入が され始める時期、言 い換 えれば青銅か ら真鍮 へ の技法的転換期 につ いて も、分析面か ら究明 を試みてい る。 これ と相前後 して、浜田耕作氏の近重氏の化学分析 に基 づいた武器類 を対象 とした研究 ま 『 た甲賀宣政氏の古銭の分析 に関する研究がある。 甲賀氏はすでに、鉛及 びアンチモンの含有量 の差 に着 目し、古代 日本銭、中国銭相互、 また個々の時代的特長 について述 べ ている。 前記 の近重真澄氏の研 究 を、受 け継 いだ形で行 なわれたのが、梅原末治氏 を考古学側の主幹 とし、小松茂氏、山内淑人 氏 らが化学分析 を行 なった一連の共同研究であるΓ この研究 では、 主に古鏡がその対象 とされ、中国や朝鮮 で発掘 された49面 と、 日本国内で発 掘 された 8面 がそ の内訳 けである。 梅原末治氏 はこの研究の考察の 中で、舶載鏡 と妨製鏡 とが、成分 の上で殆 ん ど差異がない と 述 べ てお り、 この こ とは現在行 なわれている非破壊分析法 による古鏡の成分の研 究 の結果 と矛 盾す るところで あ り、 三 角縁神獣鏡の生産地 の問題 も含めて、今後 さらに検討 してゆ く必要が ある。 戦後 になって、発掘報告書等 に、青銅製の出土遺物の化学組成分析 データが載 せ られた りし たが一遺跡の範囲を越 えるものではない。 しか し、近年 分析機器の発達 、特 に螢光 X線 分析装 置 による非破壊分析法の開発 によって、再 び青銅器の分析 。研究が大 き く取 り上 げられ るよう になった。 螢光 X線 による非破壊分析法の研究では、 まず、沢田正昭氏の一連 の研究が上 げられる∬沢 田氏 は、青銅器の主成分で ある銅、鉛、錫の量 を、X線 強度の上し、PbLγ /CuKβ 、SnKα /CuKβ で とらえている。氏 の実験 によれば、青銅の錆 も、地金 と等 しい強度比 を示す とされ、 これに よって、青銅器の錆 を落 とす ことな くその成分を測定で きるとしている。 この方法で、氏 は京都大学の保有する青銅鏡 を多数分析 し、形態的 に舶載、妨製 に けられ 分 -408- 服 部 哲 則 た鏡 を、成分的な差違 か ら裏付 けて い る。 三辻利 一氏の古銭 の分析 があるが、現在発 その他、螢光 X線 での青銅器 の分析研究 としては、 表 されている限 りでは、 まだ定性のみであ り、沢田の ような X線 強度比 へ の置 き換 えとい うよ うな、数量化 には至 っていない。『メス リ山古墳』の銅鏃の化学分析 では、 ピーク比 をとって数 量化 してい るので、今後の研究成果 の発表 が待 たれるところで あ る。 螢光 X線 以外の、 自然科学的手法 による青銅器分析 の例 として、原子吸光分析ギ ICP分 光 分析、 また、成分分析ではないが、青銅器 に含 まれ る鉛の産地同定 をしようとす る、鉛同体比 測定な どがある。 前 3者 は、定量性 にす ぐれているが、 いずれ も破壊分析なので、青銅鏡な どの貴重な文化財 には適 さない。仮 りにその一部 を取 ることがで きた として も、青銅器 の ように鉛の偏析 な どを するもの では、全体 の成分比 を正確 に得 ることはで きないで あ ろう。 鉛同位体比測定 による、青銅器 の産地同定は、現在研究中であるが、鉛 それ 自体 の産地同定 では、かな りの成果 を得て い るようである。しか しなが ら、青銅器製作時 において、純粋 な銅、 鉛、錫 ばか りを混 ぜ合わせ ることは考 えに くく、 かな りの量 の屑地金 を混入するのが通例 であ る。 そのため、鉛同位体比 で得 られた数値 も、何種類 もの産地 の異なる鉛が混ぜ合わ された青 銅器 の場合 には、各産地 の鉛の混合率や同位体 の特長 が明確 にな らない限 り、青銅器 の産地同 定 は不正確 になるであろう。 また、金属組織 とい う面 か らの青銅器の研究 としては、小 口八郎、新山栄両氏の X線 マ イク ロアナライザ ー を用 い た研究が上げ られる。 両氏 は、古鏡等 の青鏡器 を分析 して得 られた配合比 か らレプ リカを作 り、試料 として青銅遺 物 と比較 して い る。 レプ リカの鋳造 に当たっては、真土型鋳造法 を用 い るな ど、古代技法 に近 (註 13) い形 をとって いる。 この研究 によって、従来光学顕微 鏡 で しか観察 されて いなか った青銅器の金属組織、組織内 の鉛の偏析状態 な どが明確 にされた。 3.分 析 1)試 料 i)試 料 の選 定 当初発 掘 され た古銭 を試 料 とす るつ も りで あ つた。 しか し、 その ほ とん どが、土 に直接触 れ て埋 め られ て い たた め に、 錆化 が激 し く、 中 には地 金 を残 さな い もの もあ る。 また、螢光 X線 にか けた り、金属組織 を顕微 鏡 で観 察 した りす るには、 その 一 部 を研磨 し、 金属面 を出 さね ば -409- 中国製古銭の分析研究 ならないが、埋蔵文化財の現状 を著 しく損 う恐れが あったため、分析試料 には不適当 となった ので、原子吸光な どの破壊分析 も行なえるように と、古銭商か ら購入 した中国古銭 を試料 に す ることにした。 時代的 には、最 も多 くの種類 が 日本で発掘 されてい る宋 銭 を中心 とし、比較のために、唐の 開通元宝 と、明の洪武通宝 、永楽通宝 を取 り上 げた。 五)試 料 の紹介 今 回試料 とした古銭 は、全部で91枚 で、その うち分 けは、唐銭 (開 通元宝 )5枚 、宋銭71枚 、 明銭 (洪 武通宝、永楽通宝 )15枚 で ある。 以下の古銭の分類 は『東亜銭志』 に よる:4) ① 開通元宝 (初 鋳年621年 )NQ l∼ NQ 5 ヽ 1、 2、 4は 小頭元「九」のタイプ、No ② 太平通宝 NQ 6、 (初 鋳年976年 )NQ 6∼ No 3、 5は 左挑元「元」のタイプである。 7 7と も背は無文のタイプ。 ③ 至道元宝 (初 鋳年995年 )No 8∼ 9 No 8は 真書体 タイプ、No 9は 行書体タイプ。 ④ 咸平元宝 NQ10、 (初 鋳年998年 )N010∼ Noll 11と も、 縁 が比 較 的細 い タイ プの もの。 ⑤ 景徳元宝 (初 鋳年1004年 )NQ12∼ ヽ15 この銭 は、1タ ィプ しか存在せず、 4枚 とも同タイプ。 ⑥ 祥符元宝 0通 宝 (初 鋳年 1008年 )No16∼ No19 No16∼ 18は 元宝、No19は 通宝、それぞれ 1タ ィプしか存在 しない。 ⑦ 天福通宝 (初 鋳年1017年 )NQ20∼ No21 これ も、1タ イ プ しか存在 しな い。 ③ 天聖通宝 NQ22、 23、 (初 鋳年1023年 )NQ22∼ No26 24は 真書体のタイプ。No25は 蒙書体のタイプ。No26は 真書であるが 、直径が他 が 2511ullに 対 し、 2211ullと /1ヽ さい。 ◎ 景祐元宝 (初 鋳年1034年 )No27∼ No28 2枚 と も蒙 書 体 の タ イ プ。 他 に 真 書 体 の タ イ プ もあ る。 ⑩ 皇宋通宝 No29、 30、 (初 鋳年1039年 )NQ29∼ No33 31、 32は 真書体のタイプ。No33は 蒙書体のタイプ。 -410- 服 部 哲 則 (初 鋳年1064年 )NQ34∼ NQ35 ⑪ 治平元宝 2枚 とも、真書体タイプ。他 に蒙書体 タイプもある。 (初 鋳年1067年 )No36∼ No40 ⑫ 熙寧元宝 ヽ36、 38は 家書体 タイプ。ヽ39、 40は 真書体タイプ。No37は 蒙書体 であるが、東亜銭志 に 図 として載 っているもの と、熙寧の字体が異なっている。 (初 鋳年1078年 )NQ41∼ NQ45 ⑬ 元豊通宝 44は 行書体タイプ。No43、 45は 家書体 タイプ。尚、NQ44、 45は 直径が、他 は約 NQ41、 42、 2411ullな のに対 し、約22111111と 小 さい。またNo41の 方孔は、45° ずれて穿たれている。No41は 縁 の 巾が広 く、 またNo 4は 背 に星文があるため、折二銭を削 つて小平銭 にした疑 い もある。 ⑭ 元祐通宝 (初 鋳年1086年 )ヽ 46∼ No59 No42∼ NQ50は 行書体タイプ。No51∼ NQ55は 蒙書体 タイプ。 ⑮ 紹聖元宝 (初 鋳年1094年 )NQ60∼ NQ63 4枚 とも行書体 タイプ。No62は 縁が巾広 で文字 もやや小さい。No62、 63は 方孔が45° ずれて 穿たれている。 ⑮ 聖宋元宝 NQ64、 (初 鋳年1101年 )No64∼ No68 65は 行書体 タイプ。NQ66∼ 68は 蒙書体タイプ。尚、No65の 字 は、No64に 比べ、やや 稚拙 である。 ⑭ 大観通宝 (初 鋳年1107年 )NQ69∼ No71 この古銭は、小平∼当十銭 まで 5種 の額 の異なる、それぞれ直径の違 うものがあるが、字 体 はすべて同一で、 この 3枚 とも、小平銭で同一タイプ。 ⑬ 政和通宝 (初 鋳年1111年 )No72∼ NQ76 No72は 分楷書体タイプ。NQ73は 、東亜銭志の図には見 られないが、楷書体タイプ。NQ74、 75、 76は 家書体 タイプ。 ⑩ 洪武通宝 (初 鋳年1368年 ) No77∼ NQ86 No77∼ NQ81は 背が無文のタイプ。No82∼ No86は 背 に「浙」 の字を持 つ。 ⑩ 永楽通宝 (初 鋳年1408年 )No87∼ No91 この古銭は 1タ イプのみ。 よつて 5枚 とも同一タイプ。 Ш)標 準試料 螢光 X線 分析 による定量のための、標準試料を原子吸光法 によって定量 した。全部で12コ で、 鉛が一定 (約 7%)で 、錫の合有量が約2.5%ず つ変わるもの 6コ 。錫が一定 (約 7%)で 、鉛 の含有量が約2.5%ず つ変わるもの 6コ である。 この試料 は前出の小口・新山両氏の研究で、金 -411- 中国製古銭の分析研究 型鋳造 によって作成 した小型標本 を使用 した。 2)分 析 法 i)螢 光 X線 分析 試料 の古銭 は、まった く手 を加 えな い表面 に錆の出て い る状態 を顕微鏡 で写真 を撮 ったのち、 簡便 な方法 (試 料 の空 中及 び水 中の重量 を鋭敏 な スプ リングを用 い て測定 し、試料の比重 を求 める。)で 比重 を淑lり 、 その上で比 較的凹凸 の少な い裏面の一部 を研磨 し、腐食 させて、金属組 織 の顕微鏡写真 を撮 った。 この後、 この面 にX線 が当たるようにして螢光 X線 分析装置 リップス社製 TW-1410)に 測定 した元素 は、Cu、 22° )、 Pb、 (フ ィ かけた。 Sn、 Znで 、 ピー ク角度 はそれぞれ、Cukβ i(40.43° )、 PbLβ i(28. SnKα l(14.00° )、 ZnKα l(41.74° )で ある。 その他浪1定 条件 は、 X線 管 :タ ングステン , X線 強度 ;45 KV-2mA,結 晶 :LiF,検 出器 ;シ ンチ レーションカ ウンター,で ある。また、 測定時試料室 は真空 にし、 X線 が一定 に当た るよう回転 させた。 X線 は平均的デー タを得 るた め試料全体 に当てている。 デー タは、それぞれの元素の 10秒 間 のカウン ト数 を 5回 くりかえして数 え、その平均 を取 った。 五)原 子吸光分析 試料 とする古銭 の錆 を lNの HN03で 、 で きる限 り洗 い落 した後、水・ アセ トンで洗浄 し、 乾燥後、 これを粋量 して、 ビーカーに入れ、 100mι の王水で、一枚全部 (約 3∼ た。ホッ トプ レー ト上で10m2に なるまで濃縮 したのち、0.5Nの 4g)を 溶 か し HN03で 500m2に 希釈 し、それ をさらに1000倍 に希釈 して原子吸光 の試料 とした。 螢光 X線 で標準試料 とした小型標本 も、同様 にして原子吸光 で元素量 を測定 したが、採取量 が少ないために、濃縮後、 100配 に希釈 し、 これ をさらに50倍 に希釈 した。 測定は、第 二精 工舎 の SAS 721型 原子吸光分光光度計 を用 い、条件 は表 1の とお りである。 元 波 素 ガ ス 容 量 (0/min) (■ A) 8 表 気 16 16 16 16 ガ -412- 空 3 3 10 10 10 アセチ レ ン 3 324 217 225 213 管球電流 3 Cu Pb Sn Zn 長 (nm) ス 圧 アセ チ レ ン 0.8kg/cぽ 空 2.Okg/cr 気 服 部 哲 則 3)結 果 螢光 X線 分析 による、それぞれの成分の 2次 X線 のカウン ト数 か ら、PbLβ /CuKβ ,SnKα / CuKβ ,ZnKα /CuKβ の強度比 を取 ったのが、表 2で ある。カウン ト数 は試料 の表面積の違 い か ら補正 してある。 また亜鉛での、 カウン ト数 の 1000未 満 の ものは、バ ックグラ ウン ドとの差 が明確でなか ったため、強度比 は 0と みな した。 表 3は 、螢光 X線 分析 による定量 のための標準試料 (小 型標本 )を 原子吸光分析 で定量分析 した値で、螢光 X線 のカウン ト数 も付 してお く。 No 1 銭 Cu 名 開通 元宝 1 65184 3 Pb 12378 5 Sn 13678 5 Zn 803 3 Pb/Cu Sn/cu Zn/cu 0 19 021 0.01 0.03 2 2 78205.0 9009 8 13510 8 2141 4 0 12 0 17 3 3 72493.4 14893 8 13653.4 822 0 0 21 0 19 001 4 4 71249 6 16657 8 10288 0 853 6 0.23 0 14 0.01 5 5 94797 0 3982.2 10590 0 982 6 0.32 0 38 0 01 1 64820 2 18538.6 12429 4 1777 8 0 29 0.19 0 03 2 67896 0 8662 6 16415 4 938 4 0 13 0 24 0 01 1 80960 6 12843 0 12011 0 958 2 0.16 0 15 0.01 2 68535.0 22946 4 7021 2 833.0 0 33 0.10 001 1 59983.8 21404.6 10179 8 3600 2 0 36 0 17 0 06 2 49160 0 35130 6 2930 4 666.2 0 71 0 06 0.01 0 14 0 19 6 太 平通 宝 7 8 至通 元宝 9 10 咸 平 元宝 11 1 68435.8 14288 6 9860.0 12735 0 0.21 13 2 39870 4 13608 8 8075 4 664 8 0 32 0 20 0 02 14 3 51195.8 27842 6 9371 6 666.2 0 54 0 18 0 01 15 4 75554 0 11447.0 10326 4 22570 2 0 15 0 14 0 30 1 75458.8 19832 0 9743 2 4411.2 0 26 0.13 0 06 2 59901.4 21461.2 8750 2 1792.4 0 36 0 15 0.03 1 70688 0 17568 2 10097.4 906 0 0 25 0 14 001 2 62296 8 13884.8 10962 6 7753 0 0 22 0 18 0 12 1 72811.2 16074 8 8997 8 3092 4 0 22 0 12 0 04 0 16 001 12 16 景徳 元宝 祥 符 元宝 17 18 祥 符通 宝 19 20 天 槽通宝 2 66939.8 18212 2 10857 8 848.4 0 27 1 50975 6 27077 4 7706 4 643.6 0 53 0 15 0 01 23 2 68780 2 17415 6 9333.2 790 0 0 25 0.14 0.01 24 3 66775.4 16812 8 11431 4 1078 8 0 25 0 17 0 07 25 4 71426 8 18516 0 7892.8 4454.4 0 26 0 11 0.06 26 5 48486.2 23405 0 4167 0 3740 0 0.48 o 09 0.08 21 22 天 聖通宝 表 2-1 -413- 中国製古銭の分析研究 No 銭 名 Cu Sn Pb Zn Pb/Cu Sn/cu Zn/Cu 1 72399 0 16458 2 10571 0 851 8 0 23 0 15 0.01 2 55277.8 24210.0 12252 4 794 2 0.44 0 22 0.01 1 73027.8 14395 8 8831 8 967.8 0.20 0 12 0.01 30 2 78894.4 13705 8 10718 0 972.0 0 17 0 14 0 01 31 3 74257 4 14480 8 8878.6 9898.6 0 20 0 12 0.01 32 4 68464 4 17659 6 10368.6 809 0 0.26 0 15 0 01 33 5 74064 2 16216 0 6824 4 885 8 0.22 0 09 0 01 1 92971 2 14071 6 11500 2 19513 8 0.15 0 12 0.21 2 65039 8 21505 4 8385.0 1054 8 0.33 0 13 0 02 1 58998 8 20200 4 10429 4 1099 4 0 34 0 18 0 02 37 2 51244 4 16360 6 9415.0 915 4 0.32 0 18 0.02 38 3 70583.0 11295.0 12209.4 1033 4 0.16 0 17 0 01 39 4 62020.6 18669.6 10838 2 751 6 0 30 0 17 0 01 40 5 73436 4 11961.2 10323 6 861 2 0 16 0 14 0 01 1 71121.0 17413 8 9907 2 842 2 0.24 014 0.01 42 2 81402.0 3306 6 12282 4 10117 6 0 04 0 15 012 43 3 61259 8 26204 6 7946.6 760 2 0 43 0 13 0 01 44 4 60389 8 18668 4 7033.2 832.0 0.31 0 12 0 01 45 5 68042.0 7415 0 12658.8 2492 0 0 11 0 19 0 04 1 62833.3 9296 3 15827.3 761 3 0.15 0.25 0 01 47 2 63705.8 18687 6 9784 4 1164.8 0 29 0 15 0 02 48 3 61503.8 20295.0 6116 0 34639.8 0 33 0 10 0 56 49 4 61540 2 17545.8 11303 4 949 4 0 28 0 18 0 02 50 5 68695 0 10640 8 12877.3 869.3 0 15 0 19 0.01 51 6 70118 5 13906 3 9276.3 7188 8 0 20 013 0 10 52 7 70964 2 12911 6 9963 8 943 8 0.18 0 14 0 01 53 27 景 祐元宝 28 29 34 皇 宋 通宝 治 平元 宝 35 36 41 46 熙寧 元 宝 元豊通 宝 元 祐通 宝 8 66044.6 24690 2 7075 0 829.0 0.37 0.11 0.01 54 9 76405.2 22040.2 7980.8 1153.2 0.29 0 10 0.02 55 10 64892 6 19023 2 9793 6 825 4 0 29 0_15 0 01 56 11 54136 4 21977 8 10197 6 812 0 041 0 19 0 01 57 12 69513.2 12885.2 14555.4 797.8 0 19 021 0 01 58 13 54284 4 15496 8 12406 0 1212_2 0 29 0 23 0 02 59 14 54088.0 9396 6 29199.2 923 2 0 17 0 54 0 02 表 2-2 -414- 服 部 哲 則 Pb/Cu Sn/cu 1448.0 0 23 0 19 0 02 8668 0 3573 6 0 59 0 17 0 07 26760 4 9957 0 45636 4 0 54 0.20 0 09 47861 8 20222 8 12675 4 5536 2 0.42 0 26 0 12 1 52107.6 20968 8 12528 2 653 0 0 40 0.24 0 01 65 2 67947 6 17133.4 6936 4 1310 0 0 25 018 0 02 66 3 59621.6 21176 0 10220 2 774 4 0 36 0 17 0.01 67 4 66955 2 21536 2 8299 2 1106 4 0 32 0.12 0 02 68 5 68923 4 14875 8 7439 0 29757 4 0.22 0 11 0 43 1 57521 0 25751 2 7055 2 933 4 0.45 0.12 0.02 70 2 48669 8 30163 6 5399 0 841 2 0 62 0 11 0 02 71 2 53611 2 22286 2 9716 2 686 6 0.42 0 18 0 01 1 64457 0 26839 6 2999 0 929 4 0 42 0 05 0 01 73 2 60123.4 21022 8 6860 2 1255 0 0.35 0 11 0 02 74 3 75341 4 18903.4 5893 8 858 4 0 25 0 08 0 01 75 4 65354 4 26455 6 3679.6 825 6 0 40 0 06 0 01 76 5 60768 4 22396 2 8244 2 8387 8 0.37 0.14 0 14 1 61824 4 16485 8 10281 6 15583 4 0 27 0 17 0 25 78 2 69924 6 11590 6 988 8 9347 6 0 17 0 14 0 13 79 3 84412 2 5844 8 4476.2 50197 4 0 07 0 05 0 59 80 4 86842.0 8512 2 7924.0 2339 0 0 10 0.09 0.03 81 5 90556 8 2141 4 1627 0 157098.8 0.02 0 02 1 73 82 6 60471 8 26942.8 8329 0 5470 6 0 45 0 14 0 13 83 7 67827 8 13349 2 10830 6 7968 4 0 25 0.16 0 12 84 8 73208 8 16818 4 11742 6 3040 4 0 23 0.16 0 04 85 9 55544 4 20404 6 9073 6 5657.6 0.36 0 16 0 10 10 71321 6 20452 6 8458 0 10339 2 0 28 0 12 0 14 1 83683.4 16097 4 8049 6 17922 2 0.19 0.10 0 21 88 2 83520 4 14298 2 9335.2 2355 4 0 17 0 11 0 03 89 3 77670 0 15763 2 7202 0 4183 6 0 20 0 09 0 05 90 4 75006 8 19200 6 10350 0 21455 8 0 25 0.14 0 29 91 5 82519.8 19084 4 5382 8 2869 0 0 23 0.07 0 03 Cu Pb 1 59590 2 135646 8 11227 4 61 2 50163 8 29626 4 62 3 49638 8 63 4 No 60 64 69 72 77 銭 名 紹 聖元 宝 聖 宋 元宝 大 観通 宝 政 和 通宝 洪 武通 宝 86 87 永楽通 宝 Sn 表 2-3 -415- Zn Zn/Cu 中国製古銭 の分析研究 Pu Cu Pb < S Cu % n sample n u n oS c No 1 1-4 120690.2 6652.6 1520.2 83.0 7.1 3.0 2 2-4 118668 8 5335.6 1472.6 95.3 7.6 2.8 3 3-4 115522 8 5812.6 2345.6 86.5 7.1 3.2 4 6-4 103527.4 5780 8 9548.8 91.0 7.5 5.4 5 7-4 92072.0 6769.4 15655.4 77.6 6.9 10.5 6 8-4 84545.0 6465.0 19513.4 77.9 7.2 15.4 7 5-0 114236.6 556.8 11491.2 90.7 0.0 5.8 8 5-1 117886.6 1172.4 5003.6 96.7 1.5 2.3 9 5-2 112381.8 2240.8 9391.4 97.6 2.9 5.8 10 5-3 100253.4 3365.2 7739.6 91.2 5.1 5.3 11 5-4 104462.6 5686 8 7797.2 92.8 7.2 2.6 12 5-5 94093.6 9686.4 7408.2 82.7 10.4 3.0 表 4.分 析結果 の解析 と考察 1)2次 X線 の 強度比 表 2の デ ー タか ら、各種 類 の 古銭 を年 代順 にな らべ 、鉛、錫 、亜鉛 それ ぞれ の量 の変化 を見 たのが 、 図 1∼ 3で あ る。縦 の 直線 で 示 して い るの は、各種 類 ご との、 強度比 の ば らつ き範 囲 で あ る。 この ば らつ きの幅 の平 均 は、鉛 で約 0.22、 錫 で009、 亜鉛 で約 0.24で あ る。 図 1を 見 る と、成 平 元宝 、天聖通 宝、紹 聖元 宝、大 観通 宝 で 、鉛 の量 が 増加 し、 ば らつ き も 大 き くな って い るのが わ か る。 また、景徳元 宝、 元豊通 宝、元 祐通 宝、洪武通 宝 で は、前 3者 に比 べ 、鉛 の量 は少 な い ものの、他 よ りば らつ きが大 き くな ってい る。 (註 16) これ を宋銭 に限 って、文献で述 べ られている貨幣鋳造数や、 日本 における輸入古鋳の発掘量 などと考 え合わせてみると、図 4で 示す とお り、 ばらつ きの大 きい古銭の鋳造 された年号 と、 前の時代 よりも急激 にその鋳造量 を増や した年号 とがほぼ一致する。貨幣の鋳造量の増加 は、 その時代 がイ ンフレーシ ョンで、銅 に対する鉛の合有量の多 い悪銭の増カロを推測 させ る一方、 鋳造 工房の増力日や、原料入手元の拡大な どで、成分の不均一 を生 じたのではないか とい う推論 も成 り立 つ。 図 2を 見 ると、多少の上下 はある ものの、錫の量がほ とん ど一定 して い る。 また、元祐通宝 で比較的大 きくなっている ものの、ば らつ きも、鉛 に比 べ小 さ く、唐 ∼明代 にかけて、青銅製 -416- /yng/zyug : H IIHflqEJ$1 図 lu:rrhRtll N 1叫 ∝遣 R側 1賀 絆 IR‖ 1田 製 RIH 服 部 哲 則 寸図 H " 1蒋 絆ぱ側 H ― lxmrHu lKt*ttr$i 1壮 セIRtH・ 興lH H " 1叫 き RIH ¨ ― ― = 興 半 く 憫 興 難 く 側 興 電 ヽ 暦足興lH = 側 興 理 贅 黒 ヽ 軽 K騒 興lH = 興 暉 K 腱副 R‖ 則《 R側 駆剛lRl14 lR劇 興側 騒掛lR憫 昌 K副 lRlll “ 綱 R側 嚇l醤 ‖ K副 lR側 K灌 興‖ #セ IRl14・ 興‖ 引 ば 眸 饉 К絆興‖ 田製 IRlll 饉叶IROH 嘔遭 lRIH 壮ヤIR04・ 腰lH IR壇 興側 咲耀lR側 硼K理 ‖ 迎 眸 lRI14 ‖ R割 興I14 IR繹 甲lH !4nX/oyu7 : lR耀 興側 図 {tt1nI ヽ望コOヽヽコ0﹂ ― 側 憫 ば 興 壇 絆 田 K dync/dtqa : - 中国製古銭の分析研究 貨 幣 の錫 の配合比 が一 定 して い た こ とを示 して い る。 これ に関 して は、後 で もう一 度取 り上 げ る。 図 3を 見 る と、 すで に景 徳元 宝 の ころか ら、 亜鉛 が混入 され て い る形 跡 が あ る。 また、宋 銭 で は元 祐通 宝 、聖宋 元 宝 な どが多 く亜鉛 を含 んで い る よ うで あ る。だ が 、 これが 人 為 的 なの か、 不純 物 なのか は不 明 で あ る。 亜鉛 の 強度比 が鉛 、 錫 と同 じ くらい の値 を示 して い るの は螢光 X 線 分析装 置 が 、亜鉛 の 2次 X線 を獲 えや す い た めで、数値 的 に高 め にで て し まって い るの で あ る。 人 為 的 に亜 鉛 を混 入 した と、 は っ き り認 め られ るの は、明代 に入 って、洪武通 宝 か らで あ ろ う。 と SnKα /Culり をそれぞれ、 X軸 、 y軸 にとって、銭銘 また、図 4で は、 PbLβ /C赫 ごとの平均を表わ している。 “ これによっても、銭銘 によって他 とはっきり異な った配合比 を示すものは、見 いだせなかっ た。 (図 4の 各 プロ ットに付 けられた番号 は、 3-1)― 五)で 銭銘 に付けられている番号、① 開通元宝∼④永楽通宝である。 ) 2)螢 光 X線 定量 i)定 量 化 前 に述 べ た ように、螢光 X線 分析 は分析 され る元素 によって、特性 X線 が測定 しやす い もの と、 しに くい ものがある。特 に青銅器の主成分で もある鉛 は、 X線 を吸収 して しまう性質 があ り、実際 に含有 されている割合 よりも相対的 に少 なめのカウン ト数 になる。 また、結晶や フ ィ ラメン トを変 える と測定 時 の元素 に対する特性 も変わって くる。 これでは、複数の青銅器の、成分別の量的な関係 は、 X線 強度比 か ら相対的 に得 られるが、 個 々の青銅器の量的な関係 はわか らない。 そこで今回 は、前記 の銅、鉛、錫 を少 しずつ変 えて鋳造 した青銅製小型標本 を標準試料 とし て、古銭 の定量 を試みた。 小型標本の鋳造時の配合比 はわかっていたが、正確 を期すために、その一部 を取 って、原子 吸光分析で、定量 した。 図 3よ り、銅、鉛、錫それぞれの螢光 X線 のカウン ト数 と、実際 の配合比 との相関 々係 を求 めた。鋼 に関 しては、規則的 に配合比 を変 えた試料 が得 られなかったために、配合比 に偏 りが 生 じてしまい、あ まり高 い相関 々係 は得 られなか った。 これ らの図か ら求め られ る検量線 の式は、下記の とお りである。ただ し、 y接 片 aは バ ック グラウン ドを考慮 し、 ほぼ無視で きるカウン ト数 として、 0と した。 -418- 服 Cu(%)=7.3× 10 4y.… Pb(%)=1.2× 10 3y.… Sn(%)=6.9× 10 4y.… .。 部 哲 則 (1) ..(2) …(3) (lX(2X(31式 のそれぞれの yに 、螢光 X線 分析 で得 られたカウ ン ト数 を代入 し、古銭の定量 値 を出 したのが、表 4で ある。 これによれば、試料ヽ 1(開 通元宝 1)の ように、 X線 強度比 では Pb/Cuが o.19、 Sn/Cuが 0.21と 、錫の含有量が多 い ように見 える もので も (表 1参 照 )14.8%、 10.5%と 鉛の方が多 い ことがわかる。 この定量法での値 と、原子吸光分析 による定量値 との誤差 は、銅 で -16.9%∼ 7.8%、 鉛で 一 18.1%∼ 8.8%で 、測定誤差 は、ほぼ±20%以 内 になる。非破壊 による螢光 X線 分析法によって、 青鋼製遺物の主要組成 を、 この程度 の誤差 で測定で きる こ とは、考古学 の研究分野 によっては ある程度利用 で きるもの と考 えられ る。しか し、 上記の定量化 は標準試料 も少 ないので、標準試 料 の含有量の範囲 を広げ、 また試料数 を増や し、 さらに青銅合金の特性 X線 強度 に及ぼす、 マ トリックス効果 による誤差等の補正 を検討 して、 より精密な定量化 を研究する必要がある。 No 銭 名 (%) Cu Pb Sn ヽ 銭 Cu 名 Pb (%) Sn 1 開通元 宝 1 61.2 14.8 10.5 16 1 68.7 23.2 7.8 2 2 70.7 10.8 10.4 17 2 57.3 25.6 7.1 3 3 66.6 17.8 10.5 18 祥符通宝 1 65.2 21.0 8.0 4 4 65.6 19.9 10.5 19 2 59.1 16.6 8.6 5 82.9 4.8 8.4 20 天 槽通 宝 1 66.8 19.2 7.3 1 60.9 13.6 9.6 21 2 62.5 21.8 8.6 5 6 太 平通 宝 祥符元宝 7 2 63.2 10.4 22 天聖通宝 1 8 至道元宝 1 72.7 15.4 9.4 23 2 50.8 63.8 32.3 20.8 6.4 7.5 9 2 63.7 27.4 5.9 24 3 62.4 20.1 9.0 12.2 1 57 4 25.6 8.1 25 4 65.8 22.1 6.5 11 2 49.5 5 景 徳元 宝 1 63.6 3.1 7.7 26 12 41.9 17.1 27 景祐元宝 1 13 2 42.7 15.6 6 6 28 2 49.0 66.5 54.0 28.0 19.7 28.9 3 9 8.4 9.5 14 3 51.0 33.2 7.5 15 4 68.8 13.7 8.2 10 咸 平元宝 表 4-1 -419- 中国製古銭 の分析研究 No 銭 名 (%) Cu Pb Sn No 66.9 17.2 7 2 60 銭 (%) Cu Pb Sn 1 57.1 16.3 8.8 名 29 皇宋通宝 1 30 2 71.2 16.4 8 5 61 2 50.2 35.4 7.0 31 3 67.8 17.3 7.2 62 3 49.8 32.0 7.9 32 4 63.6 21 1 8 2 63 4 48.5 24.2 9.8 紹聖元豊 5 67 7 19.4 5.8 64 聖宋 元宝 1 51.6 25.1 9.7 1 81.5 16.8 9.0 65 2 2 61.1 25 7 6.9 66 3 63.2 57.1 20.5 25.3 5.8 8.1 1 56.7 24.6 8.3 67 4 62.4 25,7 6.8 37 2 51.0 24.1 8.3 68 5 63.9 17.8 6.2 38 3 65 2 13.5 9.5 69 大観通宝 1 39 4 58.9 22.3 8.6 70 2 55.6 49.1 30.8 36.0 5.9 4.8 40 5 67 2 14.3 8.2 71 3 52.7 26.6 7.8 1 65.5 20.8 7.9 72 1 60.7 32.1 3.1 42 2 73 1 4.0 9.5 73 2 57.5 25.1 5.8 43 3 58 3 3.2 6.6 74 3 68.6 22.6 5.1 44 4 57.7 22.3 5 9 75 4 61.3 31.6 3.6 45 5 63.3 8.9 9.8 76 5 58.0 26.8 6.8 46 元祐通 宝 1 59.5 11.2 12.0 77 洪武通宝 1 58.7 19.7 8.2 47 2 60 1 22.3 7.8 78 2 64.7 13.9 7.9 48 3 58.5 24.3 5.3 79 3 75.3 7.1 4.2 49 4 58 5 21.0 8.9 80 4 77.0 10.2 6.5 50 5 63.8 12.8 9.9 81 5 79.8 2.6 2.2 51 6 64.8 16.7 7.5 82 6 57.8 32.2 6.8 52 7 65.4 15 5 7 4 83 7 63.1 16.0 8.6 53 8 61.8 29 5 5.9 84 8 67.1 20.1 9.2 54 9 69.4 26 3 6 6 85 9 54.2 24.4 7 3 55 10 61.0 22 7 7 8 86 10 65.7 24.4 6.9 56 11 53.1 26.3 8.1 87 1 74.4 19.3 6.6 57 12 64 4 15.4 11.1 88 2 74.7 17.1 7.5 58 13 53 2 18.5 9.6 89 3 70 3 18.9 6 0 59 14 53 1 11 3 21.2 90 4 68.4 23.0 8.2 91 5 73.9 22.8 4.8 33 34 治平元宝 35 36 41 熙寧元宝 元豊通宝 表 4-2 -420- 政和 通宝 永楽通 宝 服 部 哲 則 il)分 布状 態 表 4で 示 され てい る、銅 、鉛 、錫 の 3主 成 分 の 配合比 の 分布 を、 図 5の 3成 分 の含有比 を示 すの に適 した三 角相 関 図 に示 した。 この 図 は、 図 の 中 に示 され るプ ロ ッ トが 、各頂 点 に近 いほ どその頂 点 に記 され て い る金 属 の割 合 い が 多 い こ とを意味 す る もので あ る。 この図 か ら、Cuで 61.3∼ 77.5%、 Pbで 15.0∼ 28.8%、 Snで 5∼ 12.5%で 囲 まれ る範囲 に プ ロ ッ トが集 中 してい るのが認 められ る。この範囲 の 3成 分の平均 を求めると、Cu≒ 69.4、 Pb≒ 21.9、 Sn≒ 8.8で 、時代的 に同時代の古銭 を対象 としてい る、水上正勝氏の研究で得 られた、Cu= )唐 67.5、 Pb=25、 Sn=7.5に 近 い数字 で ある。 ∼ 明代 において、青銅銭鋳造時、銅、鉛、錫の比 を、 この あた りに意識 して いた と推瀬lさ れる。 ▲ 開通元宝 0太 平通宝 ◆ 至道元宝 ● 咸平元宝 ● 景徳元宝 ▲ 祥符元宝 。 通宝 0天 棺通宝 ■ 天聖元宝 ☆ 景祐元宝 拿 皇宋通宝 0治 平元宝 口 熙寧元宝 。 元豊通宝 0元 祐通宝 0紹 聖元宝 ・ ● ・ ● 聖宋元宝 ☆ 大規通宝 O政 和通宝 ● 洪武通宝 o永 楽通宝 0 5 n% S P b % 図 5 -421- 中国製 古銭の分析研究 図 6抗 張 力 (tons/sq in) Cu 100% b⑮ P 図 図 7 伸 張 率 (%) 6, 7共 ,WT CHASE.T O ZEBOLD両 -422- 氏 の論 文 に よる 服 部 哲 則 面)金 属組織 か らの検討 まず、錫 の配合比がほ とん ど 5∼ 12.5%、 銅、錫だけの百分率 で見 る と、5.4∼ 16.8%の とこ ろに集中 して い ることに注 目した い。銅、錫だけの合金 を考 えた場合、錫の配合比が、 4∼ 5 %で 伸張率が最大 とな り、 17∼ 20%で 抗張力が最大 となる と言われて い る。 これ を図 6(抗 張 力)、 図 7(伸 張率 )の ように、 3元 素の場合 で表わ して も、本研究の古銭試料 の錫の配合比 が、 両者 のバ ランスを取 りなが ら得 られた比 率 であることがわかる。 また、 この配合比 は、図 5か らもわか るように青銅器 を堅 くしようとする ものではない。 これ らの ことか ら、貨幣鋳造のた めの青銅 が、堅 くもろい もの よ りも、軟 くて も強 い もの として要求 されて いた ことがわかる。 また、本研究 の古銭試料 の 3主 成分の配合比の平均 で ある Cu:Pb:Sn=69.4:21.9:8.8と 、 水上正勝 の研究 による Cu:Pbi Sn=67.5:2.5:7.5の 両者が、W.T.CHASEの 示す、分離 限界線 (図 8太 く黒 い曲線 )の 上 にのっている。 この分離限界線 とい うのは、図 9の Cu― Pb の平衡状態図 で示 して い る、銅 と鉛 とが液体状態 においてすでに分離 して しまう鉛の濃度の限 界点 Aの 、錫 の各濃度 ごとによる変化 を曲線 に表わ した ものであ り、 この 限界線 よ り下 (Pb 50 %、 Sn 50%の 頂点 を結ぶ線 に近 い方)の 配合比 の青銅 は銅が晶出す る前 に、銅 と鉛が分離 して しまい、鉛の大 きな偏析 を生 じ、青銅器全体 の材質 を均 一な状態 にで きな くなって しまう。 Cu 100% 図8 -423- 中国製古銭の分析研究 この ような ことを防 ぐためには、限界線 よ り上 にあたる配合比 にするか、鉛 の量が多 く液状 分離 を起 こす恐れがある場合 には、 その 区間 を早 く通 りす ぎ、分離があ まり進 まな い ようにす るため、急速 に900℃以 下 に冷や し、銅 を晶出 させて しまうかの どちらかである。 本研究や水上正勝氏 の研究 で示 されるように、中国製青銅古銭 の成分 の配合比 が、 この限界 線 上 にの るとするな らば、当時 の古銭 が大 きな鉛の偏析 を防 ぎなが ら、で きる限 り銅 を減 らし、 鉛 を多 く入れ ることを意図 されなが ら作 られて いた とも推測 で きる。 しか し、 この ことについ ては、鉛 の配合比 にかな りのばらつ きが認 められ る本研究の結果 か らも見て、冷却法等金属組 織 か らの鋳造技法の よ リー 層 の研究 が必要 であ り、現状では明確 に判断 はで きな い。 Oc ‖00 ′ 000 °F Alomic Percenloge Leod l ¬\ α 2000 │ 十 ι′ ヽ 玉 95J° ′ θ00 と2 9`2か 、 │ VI︱・ 900 ヽ 1600 θ00 ′ 400 700 ■ α と2 ′ 200 600 ′ 000 500 θ00 400 J27・ 1600 300 ―α 200 Cu α ′ 0 20 30 40 50 γeighr レ 厘]9 60 ZO θ0 Percen′ οge とθσd Cu‐ Pb Copper‐ Lead (∼ Ietals β= ′ By Paul A Beck拿 Handbook 1948 EditiOn -424- に よる ) 90 P0 400 服 部 哲 則 尚、 古銭 の金 属組 織 の実際 の状 態 を示 す た め、比 較 的配 合比 の分 布 簡 囲の広 い、洪 武通 宝 を 例 として 、 その 中 か らNo 3、 4、 7を 取 り上 げて、 それ ぞれ の X線 マ イ ク ロ アナ ライザ ー に よ る表 面状 態像 、各 元 素 (Cu、 Pb、 Sn)の 組 成 像 を、 図版 に載 せ た。 洪 武通 宝No 3は 、Pb=7.9、 Sn=4.9と 、 ともに配 合 比 が 少 な く、銅 が 非 常 に 多 い。 写 真 の 組成 像 を見 る と、 各元 素が均 等 に溶 け合 つてお り、鉛 もあ ま り偏 析 を見 せ て い な い。 洪 武通 宝No 4は 、Pb=10.2と 、No 3よ り若 干鉛 が 多 く、写 真 の 組 成 像 で も比 較 的 小 さ くは あ るが鉛 の偏 析 が 認 め られ る。 洪 武通 宝No 7は 、 前記 の 試料 古銭 の配合比 を示 す プ ロ ッ トが 集 中 を示 す範 囲内 (図 8参 照 ) に入 る配 合比 (Cu=63.1、 Pb=16.0、 Sn=8.6)で あ る。写 真 の 組 成 像 か ら も、比 較 的 大 き な鉛 の偏 析 が 認 め られ る。 5。 総 括 本分析研究から、わが国の和同開宝の範 もなった、唐代の開通元宝の鋳造時には、すでに青 鋼製貨幣 の配合比 は、 ほぼ確立 して いた と考 えられ る。 しか し、宋代 に入 って、錫 は変わ らな い ものの、鉛の配合比 は若干増 え、 また鋳造量の変化 に影響 を受 けて い る。 が、 その一方で、 どうい う配合比であれば、 もっ とも経済的で合金 とし て も安定 した貨幣が作 れるか、 とい う技法、知識の積 み重ねがななされて いた と想像 され る。 この ように して鋳造 された貨幣 は、 日本 に も多量に輸入 され、当時粗製化 して いた 日本の官 銭 に変わ つて、国内 に流通 してゆき、中世 日本 における貨幣経済 の発達 に貢献 した。 そして、中国にお い ては、明代 か ら清代 に変わ ると、貨幣 は青銅銭 か ら真鍮銭 へ移行 して行 くのである。 今回 は、試料入手上 の制 約 か ら、時代的 に も地理的 に も限 られた古銭 を、対象 としたが、古 銭 には私鋳銭、模鋳銭 が多 い。 これ らと官銭 との配合比や金属組成の比較 は、今後行 なってい かなければな らな い課題 である。 分析法 に関 しては、錆 による試料面 の凸凹 による。 2次 X線 強度 の補 正 をいかに してゆ くか が、螢光 X線 による非破壊分析 の今後 の問題 で ある。 また、今回 は 3元 素の配合比 を重量比 で見 るために、あえて螢光 X線 による定量化 を試みた が、検量線 は銅 に関 しては試料の制約か らの問題 はあるものの、鉛、錫 に関 しては高 い相関係 数 が得 られた。定量値 については、原子吸光法 との上ヒ較 によって、4割 ほどが20%弱 の誤差 を 出 して い る恐れがあるが、 これ も、前 に述 べ た補正の問題が解決 されるに従 つて、改善 されて ゆ くもの と考 える。 -425- 中国製古銭 の分析研究 6。 註釈及 び参考文献 1.沢 田正昭 1980年 「青銅鏡 の非破壊分析」 『考古学・ 美術史の 自然科学的研究』 2.坂 詰秀 一 1981年 3.佐 藤伝蔵 1900年 4.近 藤真澄 1918年 (月 「出土渡来銭 の諸 問題」 刊考古学 ジャーナル No187) 「本邦発見青銅器 の化学成分に就 てJ (人 類学雑誌 16) 「東洋古銅器 の化学的研究」 3-2) (史 林 1919年 「化学 よ り観 たる東洋上代 の文化」 4-2) (史 林 5.浜 田耕作 1918年 「一二の銅鐸及銅鉾の成分 に就 て」 8-6) (考 古学雑誌 6.甲 賀宣政 1919年 7.梅 原末治 1933年 「古銭分析表 J 9-7) (考 古学雑誌 「支那古銅器 の化 学的研究 に就 て」 (東 方学報 (東 方学報 京都第 8冊 ) 「支那銅利器の成 分 に関す る考古学的考察」 1940年 (東 方学報 1934年 京都第 11冊 ) 「河 合大県発見多鉦細文鏡 の化学 成分J 5) (考 古学 1987年 京都第 3冊 ) 「古 鏡の化学成 分 に関す る考古学的考察 J 1938年 「朝鮮発見 二三銅剣の化学成分」 (人 類学学雑誌 1924年 52) 「銅鐸の化学成 分 に就 て」 白鳥博士還暦記念 『東洋史論叢』 小松 茂 山内淑人 1933年 「東洋古銅器の化 学的研究」 (東 方学報 1938年 「古鏡の化学的研 究」 (東 方学報 1934年 前出 三辻利 一 1977年 9。 京都第 8冊 ) 「古代利器の化 学的研究」 (東 方学報 8.沢 田正昭 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