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PDF 0.34MB - IATSS 公益財団法人国際交通安全学会
2 8 8 田中一雄 ● トランスポーテーション・デザイン最前線/解説 特集 PPP事業による都市交通施設整備とデザインの役割 田中一雄* 本論においては、広告収益を活用したPPP (Pub l i cPr i va t ePa r t ne r sh i p)事業による都市 交通施設の整備を対象とし、その可能性と問題点を考える。具体的な事例としては、広告 板付バスストップを中心とし、その特性と役割を検証する。さらに、このようなPPP事業 が成功している欧州のビジネスモデルの特性を示し、その日本導入の課題と留意点を探る。 また事業実施に際して重要なデザインについて、その役割を示し、向かうべき方向性を明 らかにしている。 * ような状況において、安全、快適かつ美しい都市づ 1.都市交通施設整備の背景問題 くりの推進に是非とも必要とされるものである。そ 自動車は2 0世紀最大の発明といわれ、都市交通に の背景には、地球環境、都市交通、中心市街地活性 おいても重要な役割を果たしてきた。しかし、今日 化、高齢社会、景観形成、社会資本整備におけるコ さまざまな社会的課題が顕在化し、自動車中心の社 スト縮減など今日の多様な課題がある。 会からの脱皮が求められている。特に都市部の抱え 1−1 地球温暖化 る問題は多岐にわたり、総合的観点から包括的に解 地球温暖化が進行する中、二酸化炭素の排出量削 決することが必須となっている。当面の対策として 減は世界共通の課題となっている。その対策として は、自動車の個人使用を抑制し、LRTやバスなど は、ハイブリッドカーや水素エンジンなどの自動車 の公共交通機関への移行が急がれている。ここで取 単体対策とともに、複数のユーザーが一台の車を使 り上げるPPPを活用したバスストップ整備は、この 用するカーシェアリングや道路の通行料を徴収する ロードプライシングなどの制度的対策、そして公共 * ㈱GK設計取締役・道具環境設計部長 Exe c t i veD i r e c t o r,Env i r onmen t a l& Pr oduc tDe s i gnDep t. , GKSekke i 原稿受理 2 00 4年4月2 6日 国際交通安全学会誌 Vo l. 2 9,No. 4 交通機関への利用転換を図る代替交通対策が必要と されている。特に都市部においては、バスやLRT への利用転換が当面の現実的対策として重要視され ( ) 48 平成17年3月 PPP事業による都市交通施設整備とデザインの役割 28 9 ている。これを推進するためには利用者の利便性を るものも多く、利用者にとって使いやすく快適な公 極力自動車に近づけるとともに、魅力ある交通機関 共交通機関が充実したものとなっている。さらに、 として開発していくことが必要である。1990年代以 バスストップなどの都市施設の整備は、民間資金を 降の欧州のLRT事業は、デザインを重視した都市 活用したPPP事業によって全て無償で設置、維持管 環境整備と一体となった展開により、利用者を惹き 理が行われている。このことが、都市環境の高い質 つけ大きな成功を収めている。 を保証する大きな力となっているのである。日本で 1−2 都市問題 も2 00 2年以降、欧州型のPPP事業が実施可能となり、 自家用車利用を前提とした生活形態は、都市のス 横浜市などで整備が進行しつつある。 プロール化現象を助長する反面、都心部の駐車場不 足などにより、都心での行動を敬遠し都市空洞化を 2.新バスストップ整備・ベルリン市の取り組み 進行させるものとなっている。こうした問題に対し 上記のような、今日の都市が抱えるさまざまな課 て、欧州では中心市街地から自動車を締め出し、歩 題に対する一つの答えとして、大規模な都市整備が 行者とバスやLRTのみを通行させるトランジット 進行するベルリン市のバスストップの事例を紹介す モールが盛んに実施され大きな成功を収めている。 る。 また、欧州の都市景観の美しさは定評のあるところ この計画は、1998年より進められたドイツ/ベル であるが、バスストップなどのストリートファニチ リン市における21世紀型の新標準バスストップとし ュアのデザインに、超一流のデザイナーが起用され て開発されたものであり、屋外広告収入に基づくP ており、都市の魅力づくりに役立っている。こうし PP方式により整備されている。事業主体はベルリ l l た取り組みは安全で快適な都市を形成するとともに、 ン市と30年間の独占契約をもつウォール社(Wa 利用者を自家用車から公共交通へ呼び込む要因とも Co rpo r a t i on)である。このバスストップは、新しい なっている。 都市景観を目指した高精度なデザインとともに、半 1−3 コスト縮減 透明ソーラーパネル、LED文字情報サービス、屋 公共交通事業者の多くが赤字運営となっているこ 外公衆型インターネット端末の設置など「環境と情 とは、日欧共通の問題である。しかし欧州において は、都心部のバスやLRTを公的な水平エレベータ 報」という今日の社会的テーマに取り組んでいる (Fig.1)。 ーと認識し、街路照明などと共通の基本的な公共サ また、この「インテリジェントバスストップ」は、 ービスと位置づけられていることが大きな違いであ トータルなデザインシリーズの第一歩として実施さ る。そのため赤字部分は公的資金によって補填され れたものであり、今後トイレやキオスクなどのデザ デザイン:GK設計。ベルリン市の再開発地区から設置が進む 新標準バスストップ。太陽電池、インターネット端末などを 備え、広告費の収益により無償設置、維持管理が行われる。 Fig. 1 Wa l l社インテリジェントバスストップ IATSS Rev i ew Vo l. 29,No. 4 49 ( ) March, 2005 2 9 0 田中一雄 市内では専門のメンテナンス要員が常に巡回 しており、毎週の清掃メンテナンスのほか、 バンダリズムやグラフィズムによって破損し た部位は直ちに交換される。 Fig. 3 ベルリン市内のメンテナンス 計画が進められるため、ベルリン市では一切の費用 負担なく、常に優れたデザインのバスストップが設 置されることとなる。その開発プロセスにおいては、 終始デザインを重視した計画として進められている。 この「インテリジェントバスストップ」のデザイン コンセプトは「ネオモダニズム:Ne oMode rn i sm」 であり、「今日の社会における問題解決」を基本姿 勢としながら、近代主義の持つ精緻な美的価値を追 従来のストリートファニチュア機能に、太陽電池、文字情報 装置などを組み合わせて、統一したシステムデザインとして いる。eインフォ・オートマチックトイレ・バスストップサイ ン。デザイン:GK設計。 求している。その形態は、透明性の高いきわめてシ ンプルなデザインとなっているため、景観構成上の 脇役として多様な設置環境に調和することができる。 2−3 多様な情報サービス Fig. 2 Wa l l社インテリジェントファミリー 「インテリジェントバスストップ」の大きな特徴と インファミリー (Fig.2) を形成するものとなってい して、「情報との連携性」がある。これは、旅行者 る。その、主な特徴は以下のとおりである。 や市民など多様な乗客のために各種の情報サービス 2−1 快適性 をバスストップにおいて行うものであり世界初の試 欧州でガラスの風防を有するバスストップは、60 みとなったものである。 年代より整備されてきており、今日のスタンダード 大きな特徴の一つが「eインフォ」と呼ばれる、 となっている。ベルリン市においても冬季は厳しい 公衆型インターネット端末である。これは、子ども 気候条件となり、日差しを通し、風を遮る快適なバ や車椅子使用者でも利用可能な情報端末であり、現 スストップが必須である。このバスストップは精度 地の都市観光案内、イベント情報、ニュース情報、 の高いアルミ押し出し材を主構造とし、太陽電池入 インターネット端末、eメール端末、公衆電話等の りガラスルーフとガラススクリーンにより構成され、 機能を持ち、情報のプリントアウトも可能である。 快適なベンチでバスを待つことができる。しかも、 操作方式はタッチセンサー式としており複数の言語 そのガラス面は定期的に完璧に清掃され、常に美し (独、仏、英、スペイン)の選択も可能である。今後 く保たれた心地よい場が提供されている(Fig.3)。 は、システムの充実を進行させ、バスチケット発売 2−2 ネオ・モダンデザイン も計画されている。また、より一般的な情報サービ 良好な景観の形成はバスストップ整備事業にとっ スとして、LED文字情報装置がある。これは、バ て重要な要素である。この事業は、PPP方式により スストップ上屋の梁部分にリアルタイムの情報表示 国際交通安全学会誌 Vo l. 2 9,No. 4 ( ) 50 平成17年3月 29 1 PPP事業による都市交通施設整備とデザインの役割 バスの交通案内、地理情報などのほか、一般のインターネット、公衆電話等の機能を持ち、プリントアウトも可能。 Fig. 4 eインフォの情報コンテンツ 装置の設置を行い、バスロケーション情報(接近表 示、行き先表示)、現在時間、気温等の情報提供を行 うものである (Fig4)。 2−4 環境問題対策 今日の社会資本整備において、環境問題への取り 組みは必須の課題となっている。この「インテリジ ェントバスストップ」においてもさまざまな先端的 取り組みが実施されている。まずその本体構造とし ては、リサイクルアルミを用いた大断面の三角形型 押出材とし、その内部には電力と情報の通線、照明、 太陽電池の発電力を活用し、電動レンタルスクーターの貸し 出しステーションが計画されている。 Fig. 5 シティサーファー 液晶文字情報装置などを内蔵している。屋根材には 透過性太陽電池セルを封印した自動調光透明ガラス トップ」整備は、ベルリン市の特徴あるストリート を用い、適度な日照の確保と発電機能を併せ持って ファニチュアとなっているが、その整備手法は決し いる。ソーラ発電の電力 (30 0Wp) は、インターネ て特殊なものではない。 ット端末、バスストップ内照明、広告板の照明電力 次に、こうした事業を成立させているPPP事業に に用いており、余剰電力は公共電力へ送電されてい ついて述べることとする。 る。 さらに今後の計画として、このバスストップを都 3.広告収入を活用したバスストップ整備 市内のレンタル電動スクータの充電貸出ステーショ 欧州をはじめとする諸外国においては、バススト ンとする計画も進行している。これは「インテリジ ップ等のストリートファニチュア整備において、そ ェントバスストップ」のソーラー電力を「シティサ の計画、設計、施行、維持管理までを広告収入によ ーファー」と名付けられた電気スクーターの充電に って賄い、自治体などの道路管理者には一切の財政 用いるものであり、ネットワークが完成すれば、バ 的負担をかけないという料金徴収型のPPP方式が広 スとレンタルスクーターが連動したエコロジカルな く実施されている。これは今日業界最大手となって 交通システムが完成することになる。なお、この計 いるJ. C. De c aux社の創業者であるジャン・クロード・ 画はwwf (世界自然保護基金) の援助を受けて進め ドゥコーによって196 4年にフランスで始められたも られている (Fig.5)。この「インテリジェントバスス のであり、今日、日本以外の先進諸国では一般化さ IATSS Rev i ew Vo l. 29,No. 4 51 ( ) March, 2005 2 9 2 田中一雄 従来の日本の制度では実現することがで デザイナー きないものであった。 デザイン料 募集 デザイン設計 広告 バス・ストップ 良質なストリートファニチュアを市民に 事 業 者 運用 広告 可を与えるだけで、一切の費用負担なく 広告主 占用料金(契約内容により異なる) ●事業費カット ●景観の向上 ●市民サービスの向上 公共側はバスストップ等の道路使用許 料 事業募集、道路使用許可 自 治 体 3−1 無償整備 広告主 提供できる。そのため税収がなくとも都 広告主 市環境の整備が民間資金活用で実施でき 無償設置 る。また、契約条件によっては、自治体 無償維持監理 は道路占用料等の費用を広告事業者から 広告主 資金の流れ 契約関係 行為・価値 納入施工 製作費 徴収することも可能である。ただし、こ 製作 メーカー のハイグレードなバスストップの無償設 置 (バス停1基あたり500万∼1, 0 00万円) 、 Fig. 6 事業概念図 無償維持管理を成立させるためには、一 れているものである。 つの自治体単位で20 0基から3 00基の広告板 (1. 2m× このビジネス形態は、屋外広告事業者による都市 1. 8m×2面)の運用が必要と言われており、スケー 環境整備の実施システムであり、各都市ごとに全域 ルの大きな契約が条件となる。さらに、欧州で設置 の長期独占契約 (1 5∼3 0年) を結び、バスストップ等 されている全自動トイレなどの設置には、より多く に設置された広告板の収入によってストリートファ の広告板の運用が必要とされる。また、この事業は ニチュア整備に充当している。その対象物はバスス 膨大な初期投資を長い時間をかけて回収するため、 トップ、キオスク、自動トイレ、都市サイン、街路 自治体は事業者と長期間の独占的契約を結ぶ必要が 照明、ベンチ、ゴミ箱などであり、各国の整備事情 ある。このバスストップの設計、施工、維持管理ま によって異なっているが、中心となるものはバスス でを無償で行うためには、最低でも10年程度の契約 トップである。 期間必要と言われている。一般には、15∼2 0年の契 この事業は、以下のような三つの特徴をもつが、 約となっており、しかも一都市一事業者の独占長期 ▲ ▲ 7−2 7−1 ▲ 7−3 7−1 ハイテク建築の巨匠ノーマン・フォスターによりデザ インされた大ヒットモデル。鉄とガラスを巧みに用いて、シ ンプルで軽快なデザインとしている。基本的には、一都市に つき一つのオリジナルデザインを前提とするが、汎用モデル となり、各都市に広まることで地域性を喪失させるという問 題もある。 7−2 工業デザインの大御所マリオ・ベリーニによるミラノ 市向け提案モデル。各国の大都市では、事業提案コンペの中 にオリジナルデザインが含まれるが。成約しない場合はデザ インのみに終わる場合もある。 7−3 関西新空港やポンピドーセンターなどを手がけた著 名建築家レンゾピアノによる提案モデル。 Fig. 7 いろいろなバスストップの設計 国際交通安全学会誌 Vo l. 2 9,No. 4 資料)7−2、7−3の資料提供はJ. C. De c aux。 ( ) 52 平成17年3月 PPP事業による都市交通施設整備とデザインの役割 29 3 契約が基本である。たとえば、ベルリン市は30年間 の一括契約をWa l l社と結んでいる。そのため、PPP 事業者は余裕をもって質の高いストリートファニチ ュアの整備が進められる状況にある(Fig.6)。 3−2 徹底したメンテナンス バスストップは、週一回ないし二回の徹底した清 掃メンテナンスが行われ、破損した場合には直ちに 完璧に修理される。このことは、景観的に常に良好 な状態が保たれるばかりでなく、利用者にとって常 に清潔で快適なバスストップが提供されることにな り、公共交通利用の誘引を生むこととなる。日本の 場合は数年に一度の塗装補修すら満足に行われず、 横浜市が日本の公共交通としてはじめて広告付きバスストッ プの運用を始める。これは、事業募集用の計画イメージ図。 デザイン:GK設計。 Fig. 8 日本ではじめての広告付き公共交通のバスストップ 清掃に至っては皆無に等しい状況を考えると、決定 的な違いである。また、メンテナンスのための人材 も必要となり、新たな雇用の創出を生むものともな 広告物の添加に係る道路占用の取扱いについて」を る。 通達を出すに至った。これによって、世界各地で実 3−3 良好な景観の形成 施されているバス停広告を用いたPPP事業が、日本 国によって程度差はあるが、一般に欧州の都市景 でも実施可能となった。これを受けて、3月31日、 観は広告規制が厳しい。その中で例外的にバススト 岡山市で日本ではじめて欧州型の公告付バスストッ ップ広告は許可されており、適度な広告の量的バラ プが設置された。これは、ドゥコーグループのMC ンスが保たれている。また広告のデザインは質がよ ドゥコー社によって設置運用され、岡山市は一切の く吟味されており、風景のアクセントともなってい 費用負担なく良質なバスストップを設置することが る。さらにバスストップの設計には、ノーマン・フ できた。そのオリジナルデザインは、ノーマン・フ ォスターをはじめ、J. M.ヴィルモット、フィリッ ォスターによるものであり、従来の日本のバス停と プ・スタルクなど超一流の建築家やデザイナーが起 は全く異なった良質なものとなっている。また、そ 用され、魅力的な都市景観を生み出している (Fig. こに設置される広告も質の高いものが吟味され、新 7)。そのデザイン的な充実は目覚しく、従来の日 しい都市景観が形成されつつある。さらに横浜市も、 本では考えられないような高いクォリティを持った 200 4年2月、市営バス停留所の整備管理に、欧州型 バスストップが登場してきている。こうした状況は、 の屋外広告収益を活用した「バス停留所上屋整備及 収益効率の高いビジネス展開により、成熟した事業 び維持管理業務」を募集すると発表し、同年11月よ 展開がなされている結果である。 り試行運用に入っている。岡山市では民間交通事業 また、広告物は、一定期間の広域大量展開を基本 者であったが、横浜市は国内の公営交通では初の大 としているため、必然的に広告物のクライアントは 規模な試みとなった(Fig.8) 。 大手企業が中心となる。その結果、広告のデザイン また、東京都は「東京都屋外広告審議会」の答申 も優れたグラフィックデザイナーの手によるものが において、観光案内標識、避難誘導標識、バス停、 多くなり、結果的に良質な景観を生み出すものとも エレベーター公衆トイレ、変圧器など、公益上必要 なっている。 な施設に広告物の設置を進めていくこととしている。 この改正の具体的な結果はまだ少ないが、避難誘導 4.今後の日本の変化 表示などの設置に広告収入を用いた計画が進みつつ 上記のように、屋外広告の収益を用いた都市整備 ある。東京都の場合は横浜などと異なり、広告収入 は、さまざまな優れた特徴をもつ事業形態であるが、 を主として設置費の捻出に用い、質の高いストリー 屋外広告物法の規制と単年度契約を基本とする日本 トファニチュアを常に美しくメンテナンスしようと の公共事業の原則に阻まれ、これまで日本に導入さ するものではないようである。ここではその評価は れることはなかった。しかし、200 3年1月31日、国 あえて避けるが、景観や都市美を重視し、広告の質 土交通省は「バス停留所に設置される上屋に対する に対する的確な判断をしていかなくては、煩雑な都 IATSS Rev i ew Vo l. 29,No. 4 53 ( ) March, 2005 2 9 4 田中一雄 街路整備事業と一体となって開発されたナント市のバススト ップ。照明など他のストリートファニチュアとトータルデザ インされており美しく個性的な景観を作っている。 Fig. 9 景観デザイン ハイグレードなクライアントの美しいポスターは街の点景と なる。 Fig. 11 グラフィックデザイン この、広告収益を活用したPFI事業は、単なる交 通事業者の赤字補填策ではない。これは長期的な都 市整備予算を縮減しつつ、より良質な景観整備と交 通環境の改善を進める事業である。このような事業 を進めていくにあたって、景観デザイン、プロダク トデザイン、そしてグラフィックデザインの三つの デザイン的観点からの検討が重要である。 まず、景観デザイン的観点から考えると、景観全 体の中で広告物を総体的にコントロールしていく必 要がある。従来、広告物は常に排除すべき対象とし Wa l l社インテリジェントバスストップの構造ディテール。大 断面アルミ押し出し材を用いた精度の高いデザインは、快適 なバスストップを作る。 Fig. 10 プロダクトデザイン て考えられてきた。しかし、都市景観において全て なくせばよいというものではなく、使い方によって は景観を引き立てる役割ともなる。そのためには、 街路景観全体の中での広告量バランスを考えていく 必要がある。すでに国土交通省では、屋外広告物規 市景観に、さらに広告が加わっただけの街となって 制の見直しの中で、広告規制を官民境界線で分ける しまうだろう。広告そのものは必ずしも景観にとっ のではなく、公道上から視認される範囲を公共圏と て悪しき存在ではないが、使い方を誤ると都市景観 して規制していく欧州型の広告規制も検討されてい をさらに悪化させかねない。欧州型の広告活用事業 たようである。もしそうなれば、景観的に広告総量 は、常に世界中で成功しているわけではない。アジ を減らしつつ、バスストップ等の広告を、風景のア ア諸国などでは広告設置のみを重視した安易な独自 クセントとして位置づけることも可能である。美し のビジネスモデルを作り、その結果、景観的な破綻 い意といわれる欧州の景観バランスを見れば、その を来たし、最終的には事業が破綻してしまうことも 効果が理解できるであろう(Fig.9)。 起きている。 次に、プロダクトデザイン的観点からは、バスス 今後、我が国では、広告収益を活用したPFI事業 トップのデザインそのものが重要である。これは、 による都市環境整備が活発化してくると考えられる。 PPP事業を展開するときに堅実な事業基盤をもった その時に、綿密に事業制度を計画するとともに、都 事業者であれば、通常の公共事業では実施できない 市景観全体に対する配慮、ストリートファニチュア 良質なデザインを導入することも可能である。そう のデザイン的質、そして広告物のデザイン的質の3 することでバス交通の魅力度を上げるとともに、景 点を慎重に検討しなくてはならないだろう。 5.望ましいあり方とは 国際交通安全学会誌 Vo l. 2 9,No. 4 観的な質の向上にも寄与することが可能となる (Fig.10) 。 最後に、広告デザインそのものの質を充分吟味す ( ) 54 平成17年3月 29 5 PPP事業による都市交通施設整備とデザインの役割 る必要がある。これは、現在すでに実施されている 視した国づくりを進めようとするならば、広告収益 ラッピングバスのデザインでもわかるように、その を用いたPPP事業による都市整備は必須である。そ 質を保てないと広告公害といった状況を招きかねな のためには、先行する諸外国の制度、システムを熟 い。これを回避するためには、現在のラッピングバ 知し、市民にとって、真に望ましいあり方を構築し ス以上の厳しい審査基準を設け、確実に実施するこ ていかなくてはならない。 とが必要である。また、欧米でバスストップ広告は ネットワーク社会に残された唯一のマスメディアと 参考文献 いわれるように、大企業広告の展開の場とすること 1)田中一雄、西澤健、入江寿彦、後藤浩介、野崎 で、結果的にデザインの質が保たれるということも 晴夫「インテリジェントバスシェルター」『デ 期待できる (Fig.11) 。 ザイン学研究 作品集』08号、日本デザイン学 このように、数々の優れた特性を持ちながら、日 会、200 2年 2)田中一雄「屋外広告は都市を救うか」『De s i gn 本で展開していくためには課題も多い。 しかし、わが国が厳しい経済状況の中、景観を重 IATSS Rev i ew Vo l. 29,No. 4 55 ( ) News』2 65、日本産業デザイン振興会 March, 2005