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報告書2 - 内閣府経済社会総合研究所

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報告書2 - 内閣府経済社会総合研究所
第2章
第 2 章第 1 節
スウェーデン概況
スウェーデンの政治経済一般事情
スウェーデン王国(以下、スウェーデン)は面積約 45 万 km2(日本の約 1.2 倍)、人口約
894 万人(日本の約7%)の北欧に位置する国である。1 人種は北方ゲルマン民族、言語は
スウェーデン語で、宗教は福音ルーテル教である。通貨はクローナで、2005 年 2 月末時点
で 1 クローナ 15.71 円である。主要産業は機械工業(自動車を含む)
、化学工業、林業、そ
して IT 関連産業で、ボルボ(自動車)やエリクソン(通信機器)など国際的な大企業も存
在する。人口 900 万人弱の小国スウェーデンの経済・社会情勢は、これまで多くの人々の
関心を集めてきた。
スウェーデンは第 2 次世界大戦後、1950 年から 1970 年の間の実質 GDP 成長率年平均が
4%と、比較的高い経済成長を遂げた。スウェーデンの高経済成長率を説明する要因として
は、一般的に、開かれた自由な経済であったこと、人的資源やインフラストラクチャーへ
の投資が大きかったことなどが挙げられている。
スウェーデンでは、1960 年代中頃から 1970 代前半以降、「スウェーデン・モデル」とも
呼ばれる大規模な社会・雇用政策がとられるようになった。この時期に、「ゆりかごから墓
場まで(cradle to grave)
」といわれる手厚い福祉政策や、「同一労働同一賃金(equal pay for
equal work)」から「全労働同一賃金(equal pay for all work)」へと後に移行する賃金格差解
消政策などが打ち出され、政府支出、租税が劇的に増加し、規制も強化された。これら政
策を支える公共部門の規模は、2003 年時点で、中央・地方政府合わせて約 132 万 9 千人、
就業人口の 29.9%に達している。2
一方、経済成長は 1970 年以降低迷し、OECD 内における経済的地位も低下していった。
OECD(25 カ国)における一人あたり GDP(名目)のスウェーデンの順位は 1970 年に 4 位
だったのに対し、1990 年には 9 位、そして 1995 年には 16 位に低下した。3 このような経
済停滞と大規模社会政策との関係については多くの議論があるが、例えば、Lindbeck (1997)
は、経済停滞の原因は高福祉政策だけでなく、高齢化、技術変化、経済のグローバル化な
ど様々な要因が重なった結果であると指摘している。
スウェーデン経済は、1990 年代初頭のバブル崩壊後、金融危機により実質 GDP 成長率
1
2
3
以下、データ等については外務省ホームページ「各国・地域情報」および Lindbeck (1997)を参照した。
Statistical Year Book of Sweden 2005 による。
Lindbeck (1997)、Table2 による。いずれも、購買力平価表示値。
10
が 1991 年から 3 年連続のマイナス成長を記録するなど深刻な経済危機を経て、それを契機
とした構造改革もあり、90 年代半ば以降には回復軌道に戻った。2000 年から 2001 年にか
け、主な輸出先である欧州大陸諸国等の景気低迷によって輸出が減少し、経済成長率は 4.4%
から 1.2%と大きく落ち込んだが、その後は個人消費や設備投資など内需に支えられる形で
回復し、以降、比較的安定的に推移している。2002 年の実質 GDP 成長率は 2.0%、2003 年
は 1.7%、2004 年は EU 諸国でも景気回復が見られ始めたことから 3.3%となった(図 1)。
一人あたり GDP(名目)は 2003 年時点で OECD(30 カ国)中 9 位である。4
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図 1a 実質 GDP 成長率(北欧 4 カ国)
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データ:OECD Economic Outlook No.76
図 1b 実質 GDP 成長率(EU、米国、日本、スウェーデン)
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ドル表示値。OECD National Accounts 2004 による。
11
また、スウェーデンは 1990 年代前半に他の先進諸国と比べて非常に高い物価上昇率を経
験したが、欧州通貨危機を契機に 1993 年に金融政策の枠組を変え、インフレ・ターゲティ
ングを導入したこともあり、その後低下し、2002 年 2.2%、2003 年 1.9%、そして 2004 年 0.4%
と比較的安定的に推移している(図 2)。
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図 2a 消費者物価指数伸び率(北欧 4 カ国)
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図 2b 消費者物価指数伸び率(EU、米国、日本、スウェーデン)
失業率は 1993 年以降低下傾向にあったが、2002 年以降上昇に転じ、2002 年 4.0%、2003
年 4.9%、そして 2004 年 5.6%となった。しかし、2000 年以降 8%台で推移している EU 全体
の失業率に比べれば低水準である(図 3)。
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図 3a 失業率(北欧 4 カ国)
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データ:OECD Economic Outlook No.76
図 3b 失業率(EU、米国、日本、スウェーデン)
以上のような好調な経済を背景に、2002 年、政権与党であった社会民主労働党が総選挙
に勝利し、高福祉政策が維持されることとなった。なお、スウェーデンでは 1932 年以降、
1976∼82 年、1991∼94 年を除き、高福祉政策を掲げる社会民主労働党が政権与党である。
参考文献
Lindbeck, Assar (1997) “The Swedish Experiment.” Journal of Economic Literature, Vol. 35, pp.
1273-1319.
13
第 2 章第 2 節
スウェーデン人口の長期的推移と政策的対応
スウェーデンの人口は1870年には約417万人であった。当時、貧しい農業国であったスウ
ェーデンではその後経済危機と食料不足により、19世紀後半から20世紀初頭にかけて約100
万人が移民としてアメリカに渡った(詳しくは、第2章10節を参照)。一方、19世紀末か
ら急速な工業化が進展し1、人口は500万人を超えた(図表2-2-1)。
図表2-2-1 スウェーデン人口の時系列推移
(資料)スウェーデン統計局(http://www.scb.se/templates/Product_25799.asp)より作成。
スウェーデンの合計特殊出生率の状況を見ると、今世紀の初めは4.0を超えていたが、そ
の後急速に下がり、1928年に2.07となった。1930年代の世界大恐慌と大量失業の後、出生
率はさらに大きく低下し、1930年代半ばには1.70まで下がった。このような状況の下で、
1935年には政府に人口問題審議会がつくられるなど、人口政策が論議されるようになった。
その結果、1939年には12週間の出産休暇制度が導入された。人口問題審議会は1947年にす
べての児童を対象とした児童手当の支給を答申し、翌48年には児童手当法が施行された。
それ以来、スウェーデンでは「人口問題の解決は政府に責任がある」という考えが主流
となるとともに、子どもがいる家族向けの社会的な手当は常に優先事項として扱われて
1
人口転換理論によると、「工業化が始まる前の伝統的農業社会では、飢饉、疫病、戦争等のために死亡
率が高い状態にある。その一方で、農業が主体である社会であるために、労働力確保の観点から高い出生
率が維持されている。このほかに、宗教や社会制度などによって高出生率が維持されることもある。その
結果、近代化前の社会では死亡率と出生率が高く(多産多死)、大きな変動を保ちつつ、平均的には人口
増加率は低い状態にある。
次に、工業化・都市化が進むと、人口増加の状況は変化する。所得水準の上昇、医学や公衆衛生の発達
により、乳児死亡率などが低下することで、社会全体の死亡率が低下する。しかし、出生率は依然として
高水準にある。その結果、高い出生率と低い死亡率の社会(多産少死)が実現し、人口は増加する。
」
(内
閣府『平成 16 年版 少子化社会白書』P113。
14
きた2。
その後、合計特殊出生率は回復に向かい、1960年代にはベビーブームが到来し、1969年
には1.93まで上昇した。しかしながら、その後再び合計特殊出生率は低下し始め、1978年
には1.60まで低下した。このため、1970年代には再び家族政策が議論された。
1970年代以降、「経済的に負担が最も重いのは子供を扶養している家庭である」という
考えの下で、子どもを持つ家庭と持たない家庭の負担を等しくするための社会政策の一部
分として、家族政策は大幅に拡充された。1970年代末に行なわれた家族・育児に対する諸
制度の整備と、良好な経済状況により、スウェーデンの合計特殊出生率は1980年代の初め
に急速に上昇し、1990年には2.13となった。
しかし1990年代に入ると、スウェーデンの景気が悪化した。失業率は他のヨーロッパ諸
国並の約10%まで高まり、失業は1990年代の半ばには、深刻な社会問題となった3。女性の
雇用の多い公共部門も財政難から不況の打撃を受けた4。
経済問題と失業問題は、特に若い世代に深刻な打撃を与え、出生率も下がった。スウェ
ーデン統計局の Britta Hoem は、スウェーデンでの出生率と経済変動の関連性を調査し、
出生が労働市場の状況に大きく関連しているという結論を出した。その理由として、Hoem
はスウェーデンの家族政策、特に両親保険給付が両親の収入をベースに換算されるため、
労働市場の変化による収入の増減が直接的に出生率に影響を及ぼすとしている。つまり、
経済状況が両親、特に母親に大きな影響を与えていると指摘している5。
1990年代後半には財政再建のため、家族政策における様々な給付が削減されることにな
った。両親が育児休業を取得する場合には、休業直前の所得の9割が両親保険で補償され
ていたが、1995年には一時期75%に削減された。児童手当も削減され、第3子以降の増額分
は減額され、1996年には増額分は一時期廃止された。両親が学校での参観日、行事に参加
するために年に数日認められていた「ふれあいの日」も1996年には廃止された。先述の
Britta Hoemは、「児童手当は、削減後も国際水準より比較的高額だったものの、子どもを
持っている家族は生活水準が落ちるのを実感していた」と述べている6。同論文によると、
1990年代に第3子、第4子を産む率は、80年代の水準の3分の1まで下がった。同時に第1子
を産む時期を遅らせる女性も増加した。経済問題や失業により所得が伸び悩む局面では、
多くの女性が第1子をもうける時期を遅らせ、第2子、第3子も産まないようにする人が増え
2
Columbia University(2003)The clearinghouse on international developments in child, youth and
family policies, http://www.childpolicyintl.org/countries/sweden.html#intro
3 1990 年から 1993 年の間、失業率は 2%から 8%へと、4 倍に上昇した。これは 1930 年以来、最高とな
る高い失業率であった。
4 Palme J. (2002), The Welfare Commission Report,
http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/01/74/80/9b69f34c.pdf
5 Hoem B. (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the
rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,
http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf
6 Hoem B. (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the
rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,
http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf
15
たことになる。その後、経済状況の好転とともに、家族・育児に対する諸制度も再び整備
され、出生率は急速に回復基調にあり、2004年は1.76となる見込みである。スウェーデン
統計局では、2004年以降も合計特殊出生率は緩やかに回復を続け、2019年に1.85となった
後、2050年までその水準を維持すると予測している(図表2-2-2)。
図表2-2-2 合計特殊出生率
(注)将来予測の部分は、スウェーデン統計局(http://www.ssd.scb.se)のデータベースに基づく。
(資料)スウェーデン統計局
1990年代から2000年代初頭にかけて、わずか10数年間の間に起こった出生率の大幅な減
少、そしてその後の回復は、スウェーデン研究者に「経済状況や子どもを持つ親に対する
政府からの手当が出生率の変動に大きな影響を与える」という知見を与えた。例えば、こ
の時期に30歳以下の女性で初めて出生率は急激に低下した理由について、Britta Hoem7は、
国民は今後の経済情勢が厳しくなることを予測すれば、若者は厳しい経済状況の下では子
どもを持つことを懸念するため、就職が有利になるよう、子育てよりも学業を選んだ結果
であると考えている8。
また、ストックホルム大学のEva Bernhardt教授は、労働市場の厳しさが若者の出生率に
大きく影響しているのではないかと考えている。スウェーデンでは、出産前に母親が収入
を得ていない場合は、最低限の両親手当を受けることが保障されている。しかしながら、
最低保証額は1日あたり180クローネ(約2,700円))に過ぎない(詳しくは、第2章4節を参
7
8
Hoem B.(2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the
rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,
http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf
Hoem B. and Bernhardt, E., (2000), Välfärdsbulletinen, Number 1, ,“Barn? Ja kanske” ”(Children?
Yes, maybe)”, Statistics Sweden, http://www.scb.se/Grupp/allmant/_dokument/A05ST0001_08.pdf
16
照)。Bernhardtは、このため失業中である場合や、高等教育を受けていない場合等には、
若者は子どもを持つことに抵抗を感じ、2000年以降晩産化が進行している、と指摘してい
る9。
Britta Hoemは、2000年以降の好景気を背景にスウェーデン政府は年々、両親手当の基準
となる金額を引き上げるなど育児支援の面で寛大な社会保障政策を採っているために、出
生率が再び上昇したと指摘している10。ただし、ストックホルム大学のLiva Sz. Oláhは、
現在のスウェーデン経済は順調に推移しているが、これから先の経済情勢を懸念する声も
少なくなく、今後の経済情勢や両親保険をはじめとする家族政策の動向が直接的、間接的
に出生率を影響する可能性があると指摘している11。
参考文献
経済企画庁(1992)『平成4年版
国民生活白書』
Bernhardt,E. (2000) “Sweden – Low fertility”, Gateway to the European Union,
European Observatory on Family Matters, (2000),
http://europa.eu.int/comm/employment_social/eoss/downloads/sweden_2000_fertil_en.p
df
Hoem, B. (2000). "Entry into Motherhood in Sweden: The Influence of Economic Factors
on the Rise and Fall in Fertility, 1986-1997." Paper presented at the Conference on
Lowest Low Fertility. Rostock, Germany: Max Planck Institute for Demographic
Research.
http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf
Hoem B. and Bernhardt, E., (2000), Välfärdsbulletinen, Number 1, ,“Barn?
Ja kanske” ”(Children? Yes, maybe)”, Statistics Sweden,
http://www.scb.se/Grupp/allmant/_dokument/A05ST0001_08.pdf
Palme J. (2002), The Welfare Commission Report,
http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/01/74/80/9b69f34c.pdf
コロンビア大学(2003)The clearinghouse on international developments in child, youth
and family policies, http://www.childpolicyintl.org/countries/sweden.html#intro
Bernhardt,E. (2000) “Sweden – Low fertility”, Gateway to the European Union, European
Observatory on Family Matters, (2000),
http://europa.eu.int/comm/employment_social/eoss/downloads/sweden_2000_fertil_en.pdf
10 Hoem Britta, (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors
on the rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,
<http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf>
11現地でのヒアリング(2005 年 2 月)
9
17
第 2 章第 3 節
スウェーデンの就業構造の変化
1965 年 か ら 2004 年 の 30 年 間 に お け る 就 業 人 口 の 推 移 を み る と 、民 間 部 門 は 30 万 人 減
少 し た 一 方 で 、 公 共 部 門 は 70 万 人 増 加 し た 。 そ れ ぞ れ の 全 就 業 人 口 に 占 め る 割 合 を み る
と 、公 共 部 門 は 15% か ら 32% へ と 大 き く 上 昇 し た (図 表 2-3-1)。同 じ 時 期 に 労 働 力 率 は 、
男 性 は 90% か ら 79.7% へ 低 下 し 、 女 性 は 55% か ら 75.7% へ と 上 昇 し た 1 。
図 表 2-3-1
スウェーデンにおける就業構造の変化
(各部門の就業者の全就業者に占める割合)
( 注 ) 国 有 企 業 は 、「 公 共 部 門 」 の 中 に 含 ま な い 。「 製 造 業 等 」 は 、 鉱 業 、 製 造 業 の ほ か 、 電 力 、 ガ ス
事 業 、 地 域 暖 房 、 水 道 事 業 等 を 含 む 。「 民 間 サ ー ビ ス 業 等 」 と は 、 建 設 業 、 商 業 、 宿 泊 業 、 飲 食
業、輸送、通信、郵便、金融等をいう。
( 資 料 ) Swedish Institute (1994 & 2001)‘Swedish Labor Market Policy’
県・市町村における公務員の部門別比率に関しては、医療・介護、児童福祉、教育が全
体 の 73% を 占 め て お り 、 そ の 8 割 が 女 性 で あ る ( 図 表 2-3-2)。
1
ス ウ ェ ー デ ン 統 計 局 ( 2005) Labour Force, by sex 2000-2004
http://www.scb.se/templates/tableOrChart____23369.asp
18
図 表 2-3-2
県 ・ 市 町 村 に お け る 公 務 員 の 部 門 別 比 率 ( 1998 年 )
技術サー
ビス
15.5%
行政
9.3%
医療・介
護
34.0%
児童福祉
18.6%
教育
22.7%
( 資 料 ) ス ウ ェ ー デ ン 統 計 局 ‘Labour Force Survey
2003’
雇用政策では、衰退産業から生じる離職者を訓練し、成長産業にシフトさせることを重
視 し て お り 、職 業 訓 練 の 質 も 高 く 、訓 練 期 間 、失 業 給 付 期 間 も 長 い 。こ の 背 景 に は 、1990
年 代 に 急 激 に 高 ま っ た 若 年 失 業 率 の 問 題 が あ る 。ス ウ ェ ー デ ン で は 、16∼ 24 歳 の 若 年 層 失
業 率 は 、 1990 年 に は 4.5% で あ っ た が 、 93 年 に は 22.7% に ま で 達 し た 。 そ の 後 、 若 年 者
に 対 す る「 積 極 的 労 働 市 場 政 策 2 」が 講 じ ら れ た こ と に よ り 若 年 失 業 率 は 低 下 傾 向 に あ る も
の の 、 日 本 よ り も 高 い 水 準 に あ る ( 図 表 2-3-3)。 な お 、「 積 極 的 労 働 市 場 政 策 」 に 係 る 費
用 は 、 社 会 保 障 給 付 費 の 1.96% を 占 め て い る ( 日 本 は 0.25% )。
図 表 2-3-3
若年失業率の推移
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15
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日本
5
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1990
1995
2000
(年)
( 注 ) ス ウ ェ ー デ ン は 16∼ 24 歳 、 ド イ ツ 、 日 本 は 15∼ 24 歳 が 対 象 。
( 資 料 ) OECD「 Labour Force Statistics 1982-2002」 か ら 作 成 。
2
職 業 訓 練 な ど 、労 働 者 の 能 力 向 上 に 比 重 を 置 い た 労 働 市 場 政 策 。こ れ に 対 し 、「 消 極 的 労 働 市 場 政 策 」
とは主に失業手当等の給付のこと。
19
ス ウ ェ ー デ ン の「 積 極 的 労 働 市 場 政 策 」に は 、大 き く 分 け て( イ )20 歳 未 満 を 対 象 と し
た地方自治体若者プログラム、
( ロ )20∼ 24 歳 を 対 象 と し た 若 者 保 証 プ ロ グ ラ ム 3 が あ る 4 。
こ れ ら の プ ロ グ ラ ム は 、25 歳 未 満 の 若 者 が 適 切 な 教 育 、実 務 体 験 、雇 用 創 出 措 置 等 を 提 供
さ れ な い ま ま 100 日 以 上 失 業 し て い る べ き で は な い と い う 考 え 方 に 基 づ き 、( イ )は 1995
年 に 、( ロ ) は 1998 年 に 導 入 さ れ た 。
いずれのプログラムでも、対象者は失業から一定期間以内に地方自治体が提供する企業
実 習 中 心 の フ ル タ イ ム の 個 人 プ ロ グ ラ ム に 参 加 し 、地 方 自 治 体 か ら 参 加 給 付 金 を 受 給 す る 。
また、地方自治体の責任を重視しているのが特徴であり、全ての地方自治体は国との間で
協定を結び、その実施の対価として国から財政援助を受ける。さらに、参加者本人の意思
を尊重しつつ個別プログラムを作成することとしており、プログラムの作成には対象とな
る若者自身が参加する。いずれのプログラムも地方自治体と地域の職業紹介センター、地
方 企 業 の パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 下 に 実 施 さ れ て い る 。2002 年 の 参 加 者 数 は 両 プ ロ グ ラ ム 合 計
で 約 8,600 人 で あ り 、 同 年 の 若 年 失 業 者 数 4 万 2,000 人 の 約 20% を 占 め る 。
このようなスウェーデンの若年者に対するプログラムに関しては、地域の実需や現状を
把握せず、形式的にプログラムを実施することの問題点も指摘されている。給付を受ける
ことを目的とした形式的な参加が多くなり、結果的に求職活動につながらず、また求職活
動を行なった者についても就職する場合が少なく効果があまりない、という指摘もなされ
て い る 5。
参考文献:
日 本 労 働 研 究 機 構 ( 2003a)『 諸 外 国 の 若 者 就 業 支 援 政 策 の 展 開 ―イ ギ リ ス と ス ウ ェ ー デ ン
を 中 心 に ―』
経 済 産 業 省 ( 2004)『 平 成 16 年 版
通商白書』
Ackum Agell, S., A. Forslund, M. Hemstrom, O. Nordstrom Skans, C. Runeson
and B. Ockert ( 2002),“Follow-up of EU’s recommendations on labour market policies”,
IFAU Report, 2002.3.
Calfors, L., A. Forslund and M. Hemstrom ( 2002), “Does Active Labour Market Policy
Work? Lessons from the Swedish experiences”, IFAU Working Paper, 2002:4.
Larsson, L. ( 2000 ) , “Evaluation of Swedish youth labour market programmes”,
Uppsala University & Office of Labour Market Policy Evaluation, April 11, 2000.
3
4
5
英 語 で The Youth Guarantee Program と い い 、失 業 中 の 若 者 に 対 し 、政 府 が 就 労 可 能 と さ せ る た め
の 職 業 訓 練 プ ロ グ ラ ム と そ の た め の 費 用 、 日 額 150 ク ロ ー ナ ( 2475 円 ) を 保 障 す る も の で あ る 。 1
グ ル ー プ 10− 15 人 程 度 で プ ロ グ ラ ム が 実 践 さ れ る 。
日 本 労 働 研 究 機 構 ( 2003a)『 諸 外 国 の 若 者 就 業 支 援 政 策 の 展 開 ― イ ギ リ ス と ス ウ ェ ー デ ン を 中 心 に
―』
Larsson, L. (2000), Ackum Agell, S. , A. Forslund, M. Hemstrom, O. Nordstrom Skans, C. Runeson
and B. Ockert (2002), Calfors, L., Forslund, A. and Hemstrom, M. (2002).
20
第 2 章第 4 節
スウェーデンの育児支援制度
ス ウ ェ ー デ ン に お け る 育 児 支 援 で は 、幼 い 子 供 を 持 つ 親 が 仕 事 と 家 庭 を 両 立 で き る よ う 、
育児休業を取得するか、普段の勤務時間を短縮する可能性を与えることに力点が置かれて
いる。また、働いている女性が経済情勢に関係なく平等に扱われることや、男女が性別を
問わず平等に扱われることも重視されている。
1995 年 に ス ウ ェ ー デ ン 政 府 が 定 め た 育 児 休 業 法( Parental Leave Act)は 、産 前 休 暇・産
後休暇を除き基本的に男女平等に与えられ、5 種類の育児に関連する休業についての規定
が記されている。スウェーデン国内の従業員の権利を保障し、雇用者に対する拘束力を持
つものである(詳細については、巻末資料を参照のこと)
(イ)産前休暇・産後休暇
( ロ ) 終 日 休 業 。 最 高 期 間 は 通 常 子 供 が 18 ヶ 月 に な る ま で
( ハ )通 常 の 勤 務 時 間 の 25%以 上 75%未 満 の 範 囲 で の 短 縮 。こ の 場 合 、育 児 休 業 手 当 を
受領する権利が与えられる
( ニ )通 常 の 勤 務 時 間 25%の 短 縮 。こ の 場 合 、育 児 休 業 手 当 を 受 領 す る 権 利 は 与 え ら れ
ず 、 そ の 代 わ り 子 供 が 8 歳 に な る ま で 25%の 勤 務 時 間 短 縮 が 許 さ れ る
( ホ ) 育 児 を 理 由 と し た 勤 務 時 間 短 縮 。 不 定 期 に 手 当 を 受 領 す る 権 利 を 、 子 供 が 12 歳
になるまで与えられる。
こ の ほ か 、こ の 議 定 書 は 、育 児 休 業 制 度 の 対 象 と な る 職 員 の 職 務 認 定 期 間 、休 暇 の 計 画 、
仕事への復帰、職務保護、女性の妊娠中又は出産直後の配置転換の禁止などについて言及
している。
(1)育児休業制度
ス ウ ェ ー デ ン の 育 児 休 業 制 度 に は 2 つ の 法 律 が 関 連 し て い る 。労 働 法 の 一 種 で あ り 休 業
の要件・効果を定める「育児休業法」と、社会保険法の一種であり休業期間中の所得補償
について規定する「両親保険法」である。
ス ウ ェ ー デ ン で は 、日 本 と 比 較 し て 早 い 段 階 か ら 出 産 、育 児 に 関 す る 保 障 を 充 実 さ せ て
き て お り 、1939 年 に は 、妊 娠 、出 産 に よ る 女 性 の 解 雇 を 禁 止 す る 法 律 が 制 定 さ れ た 。1974
年には、出産、育児休業の収入補填制度であり、世界で初めて男女ともに取得できる両親
保険制度が導入された。それ以前には、子どもが生まれた場合の休暇は、母親のみに与え
ら れ て い た 。 1979 年 に は 育 児 の た め の 勤 務 時 間 短 縮 の 権 利 が 認 め ら れ た 。
出 産 に 際 し 、 産 前 ・ 産 後 の 休 暇 も 認 め ら れ て い る 。妊 婦 は 出 産 予 定 日 の 7 週 間 前 か ら 産
前 休 暇 を 取 得 で き る 。通 常 の 勤 務 を 継 続 で き な い 妊 婦 に 対 し て は 、出 産 前 の 最 後 の 2 ヶ 月
21
の う ち 最 大 50 日 ま で 給 料 の 80% が 両 親 保 険 か ら 支 給 さ れ る 。 ま た 、 7 週 間 の 産 後 休 暇 も
認 め ら れ て い る 。育 児 休 業 時 に は 両 親 保 険 に よ り 、休 業 直 前 の 収 入 の 80% が 補 償 さ れ て い
る 。 他 方 で 、 父 親 に は 10 日 間 の 出 生 休 暇 手 当 が 補 償 さ れ て い る 。
両親保険法は、
( イ )育 児 休 業 中 、
( ロ )子 ど も が 病 気 の と き の 一 時 看 護 休 暇 中( 毎 年 120
日 ま で )、( ハ ) 子 ど も が 1 歳 半 か ら 8 歳 に 達 す る ま で の 勤 務 時 間 短 縮 時 の 収 入 補 填 を 受 け
る権利を保障している。
育 児 休 業 の 対 象 は 、休 業 開 始 前 に 一 定 期 間 雇 用 さ れ て い た 全 て の 働 く 親 で あ り 、男 女 が
共に子育てをするという観点から、男女とも取得できる。ただし、同時に取得することは
できない。育児休業は勤務日として扱われ、有給休暇の日数は影響を受けず、休業中は保
険 料 の 負 担 も 実 質 的 に な い 1 。ま た 取 得 後 、同 程 度 の 職 務 に 復 帰 で き る こ と も 保 障 さ れ て い
る 。 共 働 き 家 庭 の 一 般 的 な 子 育 て は 、保 育 園 に 入 る ま で は 父 母 ど ち ら か が 交 代 、あ る い は
母親が多く育児休業を取って家で子どもの世話をする。その後保育所に入るようになった
後で、母親もパートタイマーとして仕事に復帰し、子どもがある程度大きくなり、手がか
からなくなったらフルタイムの仕事に復帰するというものになっている。
子 ど も が 満 8 歳 に な る ま で は 、男 女 と も に 勤 務 時 間 の 短 縮 を 雇 用 主 に 請 求 す る 権 利 が あ
る。また、子どもが急な病気などの時に休暇を取る権利が法律で定められている。この休
暇は男女に平等に定められているが、現在は女性の方が男性よりも利用率が高い。また、
子どもの病気が長引くときなどには、仕事のある両親に代わって福祉局に看護婦の派遣を
要請でき、食事の用意や投薬その他一切を行ってくれるなど、他にも数多くの制度が整え
られ、実際に利用されている。
(イ)育児休業中の所得補償
A .収 入 の 補 填
収 入 補 填 率 は 、 1974 年 の 導 入 当 初 は 休 業 直 前 の 収 入 の 90% で あ っ た 。 そ の 後 い っ た ん
75% に 削 減 さ れ た も の の 、 1998 年 か ら 現 在 の 80% と な っ た 。 収 入 が な い 者 に 対 し て は 、
最 低 保 証 額( 無 職 の 者 が 390 日 ま で 受 け 取 る こ と が で き る 最 低 保 証 額 は 1 日 あ た り 180 ク
ロ ー ネ = 約 2,700 円 ) を 給 付 し て い る 。
スウェーデンでは、次の子どもがその前の子どもの出産後一定期間内に生まれた場合、
前 の 子 ど も の 休 業 中 の 場 合 と 同 額 の 給 付 が 出 る と い う「 ス ピ ー ド・プ レ ミ ア ム 2 」と 呼 ば れ
1両 親 保 険 で は 「 所 得 の 8 割 + 社 会 保 険 料 の 従 業 員 負 担 分 」 が 支 払 わ れ 、 結 果 と し て 従 業 員 は 所 得 の 8
割を受け取れる。
2 「 ス ピ ー ド ・ プ レ ミ ア ム 」 は 、 民 間 の 研 究 所 で あ る AI の ア ニ ー タ ・ ニ ー ベ ル 教 授 の 造 語 で あ る が 、
スウェーデン国内では必ずしも普及している用語ではない。
22
る制度がある。すなわち、休業中やパートで復職中であっても、その前の子供を産む前に
フルタイムであった人はその時のフルタイムの給与から給付額が決められる。育児休業制
度が導入された当初は、
「 1 年 以 内 」と い う 短 い 期 間 で あ っ た た め に 出 生 率 上 昇 に 対 す る 効
果 が 見 ら れ な か っ た が 、1980 年 に は「 2 年 以 内 」、1986 年 に は「 2 年 6 ヶ 月 以 内 」に 延 長
さ れ た 。 こ の 結 果 、 子 ど も を 産 む 間 隔 を 短 縮 す る 家 庭 が 増 加 し 、「 ス ピ ー ド ・ プ レ ミ ア ム 」
は 1980 年 代 後 半 以 降 出 生 率 が 高 ま っ た 理 由 の 一 つ と な っ た と 考 え ら れ る 。
所 得 を 保 障 す る た め の 両 親 保 険 の 財 源 は 、事 業 主 が 支 払 う 社 会 保 険 拠 出 で あ り 、両 親 保
険 料 率 は 2003 年 で 支 払 い 給 与 の 2.20%で あ る 。
B.期間
3
現 在 は 出 産 10 日 前 か ら 8 歳 の 誕 生 日 ま で に 、 両 親 合 わ せ て 最 大 で 480 日 取 得 で き る 。
た だ し 、給 与 の 80% が 支 払 わ れ る の は 390 日 の み で あ り 、残 り の 90 日 は 最 低 保 障 額( 無
職 の 者 も 含 め て 90 日 の 最 低 保 証 額 は 1 日 あ た り 60 ク ロ ー ナ (約 900 円 ))し か 支 給 さ れ な
い。
390 日 の 内 訳 は 、 パ パ ク ォ ー タ ー 、 マ マ ク ォ ー タ ー ( 配 偶 者 に 譲 る こ と が で き な い 休 業
日 数 ) は そ れ ぞ れ 60 日 ず つ 、 両 親 が 譲 り 合 え る ( 多 く は 父 親 の 分 を 母 親 が 使 う ) 日 数 は
そ れ ぞ れ 135 日 ず つ あ る 。
連続してとる必要はなく、また、全日でとる必要もない。親の事情にあわせて、出勤時
間 を 全 日 、4 分 の 3 日 、2 分 の 1 日 、4 分 の 1 日 で 組 み 合 わ せ て 出 勤 で き る( 例:30 日 全
休 = 60 日 2 分 の 1 出 勤 )。 ひ と り 親 家 庭 で は 480 日 分 を ひ と り で 取 得 で き る 。 双 子 以 上 の
場 合 、 子 ど も ひ と り に つ き 、 180 日 が 追 加 さ れ る 。
通常、同じ期間内には父親か母親のどちらかしか休めない。ただし、子どもの出産後、
29 日 間 は 母 親 に 無 条 件 の 受 給 権 が あ る の で 、 こ の 29 日 間 は 、 父 親 も 母 親 と 同 時 に 休 む こ
とが可能である。さらに、出産前の両親教室に参加する場合にも、この両親保険受給権を
行使することができる。
(2)一時看護休暇
子 ど も や 両 親 の 病 気 、子 ど も の 予 防 接 種 、健 康 診 断 な ど の た め に 給 付 を 受 け な が ら 休 暇
をとることができる。
(3)父親出生休暇
3
内 閣 府 経 済 社 会 総 合 研 究 所 編 「 ス ウ ェ ー デ ン 家 庭 生 活 調 査 」( 2004 年 )
23
父 親 が 出 産 に 立 ち 会 っ た り 、家 事 や 他 の 子 ど も の 世 話 を す る た め の 制 度 で 、出 生 休 暇 手
当 が 10 日 分 補 償 さ れ 、 利 用 者 は 多 い 。 ま た 、 子 ど も の 世 話 を す る 両 親 以 外 の 者 で あ っ て
も 、 子 ど も の 誕 生 直 後 も し く は 、 養 子 縁 組 直 後 の 60 日 間 に 、 特 別 の 事 情 の 下 で は 、 最 高
10 日 間 ま で の 育 児 休 業 給 付 金 付 き の 休 暇 を 取 得 で き る 。
(4)その他の休暇制度・勤務時間短縮制度
両 親 以 外 の 者( 祖 父 母 な ど )が 、あ る 子 ど も の 世 話 を す る た め に 正 規 の 仕 事 を 休 む 場 合 、
特別の事情の下では育児休業臨時給付金を得ることができる。
6 歳 か ら 11 歳 の 子 ど も の 親 は 、 学 校 で 行 な わ れ る い わ ゆ る 「 ふ れ あ い の 日 」 の た め に 、
子ども 1 人につき 1 年に 1 日の育児休業給付金を受給することができる。
ま た 、 1 歳 半 か ら 8 歳 ま で 、 も し く は 小 学 校 1 年 終 了 ま で 、勤 務 時 間 を 4 分 の 1 短 縮 で
き る 権 利 な ど も 認 め ら れ て い る 。ま た 、勤 務 時 間 を 短 縮 す る 日 は 連 続 し て い な く て も よ い 。
(5)児童手当
児 童 手 当 ( 非 課 税 ) は 16 歳 未 満 の 子 を 持 つ す べ て の 親 に 第 1 子 か ら 支 給 さ れ る 。 た だ
し 、 16 歳 以 降 も 学 業 を 続 け る 場 合 は 、 20 歳 に な る ま で 支 給 が 延 長 さ れ る 。 さ ら に 、 精 神
に ハ ン デ ィ キ ャ ッ プ が あ り 通 学 し て い る 場 合 は 、 23 歳 に な る ま で 延 長 さ れ る 。
金 額 は 、 第 1 子 、 第 2 子 は そ れ ぞ れ 月 額 950 ク ロ ー ネ ( 約 1 万 4 千 円 )、 第 3 子 1,204
ク ロ ー ネ ( 約 1 万 8 千 円 )、 第 4 子 1,710 ク ロ ー ネ ( 約 2 万 6 千 円 ) で あ る 。
(6)保育サービス
保 育 サ ー ビ ス に つ い て は 、 1970 年 代 以 降 、 両 親 が 働 い て い る 間 子 ど も の 世 話 を す る サ
ー ビ ス と し て 、就 学 前 の 子 供 の た め の 全 日 利 用 で き る 保 育 所( 就 学 前 学 校 )、時 間 制 保 育 の
幼稚園を整備してきた。しかし、その後、子どもを持って働く女性が増加し、保育所不足
が 深 刻 と な っ た こ と か ら 、1985 年 に 1 歳 半 か ら 就 学 年 齢 ま で の す べ て の 児 童 は 、保 育 所 な
ど に 通 う 権 利 を 持 つ こ と を 法 律 で 明 示 し た 。 さ ら に 、 実 効 性 を も た せ る た め に 1995 年 に
は 、 コ ミ ュ ー ン (市 町 村 )に 対 し て 1 歳 以 上 の 子 ど も の 保 育 ニ ー ズ が あ る 場 合 、 速 や か に サ
ービスを提供する義務があることを法律で明示した。また、保育所の実施責任を持つのは
コ ミ ュ ー ン (市 町 村 )で あ り 、 コ ミ ュ ー ン は 、 両 親 が 働 く た め に 子 供 を 託 児 所 に 預 け た い 場
24
合 、 こ れ を 預 か る こ と を 法 律 で 義 務 付 け て い る 3。
また、一般の家庭で 1 歳
4か ら
12 歳 ま で の 子 供 を 自 分 の 子 ど も を 含 め 4 人 ま で 日 中 預
かる「家庭的保育」と言われる制度も整備されている。また、就学後の低学年の子どもに
ついても、始業前、放課後や休日のために「学童保育所」があるほか様々な制度が整備さ
れている。
さらに、母親が出産や病気のときに母親の代わりをするサービスや、子供が軽い病気で学
校 に 行 け な い と き に 親 に 代 わ っ て 世 話 を す る 制 度 も 作 ら れ て い る 。な お 、1980 年 代 に 入 っ
て、一時介護両親保険が充実し、所得を補償されるようになったため、これらの利用は減
少傾向にある5 。
保 育 サ ー ビ ス は 12 歳 ま で コ ス ト の 約 8 割 が 公 費 負 担 で あ り 、利 用 者 負 担 は 2 割 に 過 ぎ
な い 。以 下 で は 、ス ウ ェ ー デ ン の コ ミ ュ ー ン が 提 供 す る 主 な 児 童 福 祉 サ ー ビ ス を 紹 介 す る 。
(イ)就学前学校
6
就学前学校は日本の保育所にあたり、子どもの親が就労や就学に従事している場合や子
ど も が 特 別 の サ ポ ー ト を 必 要 と し て い る 場 合 に 提 供 さ れ 、1∼ 5 歳 児 ま で の 子 ど も が 対 象 で
ある。就学前学校は一年中開かれており、開校時間は親の就業時間によって各学校で異な
っている。入学する子どもは登録され、保護者の所得と子どもの学校への出席率に応じて
利 用 料 金 を 支 払 う 。 2003 年 時 点 で 、 2∼ 5 歳 児 ま で の 子 ど も の う ち 8 割 前 後 が 就 学 前 学 校
へ 通 っ て い る ( 図 表 2-4-1)。
3
4
5
6
た だ し 、実 質 的 な 待 機 児 童 は わ ず か な が ら 存 在 す る 。保 育 に 対 す る 考 え 方 、思 想 お よ び 保 育 の 質 へ の
懸念などから、近隣の保育所への入所を拒否して、遠方の保育所への入所を希望した場合、実質的に
は待機することになる、という。
ただし、0 歳児の場合でも、何らかの事情で面倒をみてくれる人が不足している(例えば、母親の産
後の回復が悪く、父親はその世話をしているなど)という条件を満たせば預けることができる。
ス ウ ェ ー デ ン 社 会 保 険 庁 の 担 当 者 ヒ ア リ ン グ 調 査 。 2005 年 2 月 。
ス ウ ェ ー デ ン で は 1998 年 に 保 育 所 と 日 本 の 幼 稚 園 に 当 た る 就 学 前 教 育 の 統 合 が 図 ら れ 、法 律 上 は「 就
学前保育施設」と呼ばれている。保育サービスの所管が社会省から教育省に移管されたが、日本の幼
保一元化と異なり、元々保育サービスが普遍的に提供されていたため、サービスの内容に大きな変化
は 見 ら れ な い と の こ と で あ る 。( 2004 年 9 月 の 参 議 院 議 員 団 に よ る 、 社 会 保 障 に 関 す る 海 外 派 遣 報 告
書 http://www.sangiin.go.jp/japanese/koryu/2houkoku.htm)。
25
図 表 2-4-1
スウェーデンの子どもの保育
(単位:%)
学童保育
家庭的保育
0歳
0
0
.
0
.
1歳
40
5
.
45
.
2歳
78
8
.
87
.
3歳
83
8
.
91
.
4歳
88
8
.
96
.
5歳
89
7
1
97
1
6歳
2
2
79
83
94
7歳
0
1
81
82
1
8歳
.
1
76
78
.
9歳
.
1
62
63
.
10 歳
.
0
20
21
.
11 歳
.
0
7
8
.
12 歳 以 上
.
0
3
3
.
施設
合計
参考:
就学前学校
就 学 前 クラス
(出 所 )ス ウ ェ ー デ ン 統 計 局 『 Barn och deras familjer ( 子 ど も と 家 族 ) 』 2003年 。
( ロ ) 4∼ 5歳 児 就 学 前 学 校
政 府 は 2003年 1月 1日 か ら 4∼ 5歳 児 の た め の 就 学 前 学 校 制 度 を 導 入 す る こ と を コ ミ ュ ー ン
に 義 務 付 け 、ス ウ ェ ー デ ン の す べ て の 4∼ 5歳 児 に 無 料 で 年 間 最 低 525時 間( 週 15時 間 )の 保
育教育活動を保障するとした。子どもにグループ内の協調性を学ばせることによって、義
務教育学校入学後の学習と能力開発の可能性をより高めることを目的としている。
(ハ)就学前クラス
1998年 1月 よ り 、 コ ミ ュ ー ン は 義 務 教 育 学 校 に 就 学 す る 前 の 6歳 児 を 対 象 に 集 団 生 活 を 学
ぶ こ と を 目 的 と し て 、 就 学 前 ク ラ ス (半 日 制 )を 提 供 す る こ と が 義 務 付 け ら れ た 。 公 立 義 務
教 育 学 校 内 に 付 設 さ れ た ク ラ ス で 、6歳 児 で あ れ ば 参 加 で き 、出 席 の 義 務 化 は さ れ て い な い 。
授 業 時 間 は 年 間 525時 間 ( 1週 間 当 た り 約 15時 間 ま で ) と 定 め ら れ て お り 、 無 料 で 提 供 さ れ
ている。
(ニ)家庭的保育
26
家 庭 的 保 育 と は 、子 ど も( 1∼ 12歳 )の 親 が 就 労 や 就 学 し て い る 場 合 に 、保 育 マ マ( コ ミ
ュ ー ン に 登 録 し 、有 料 で 子 ど も を 自 宅 で 預 か り 世 話 を す る 人 )が 自 宅 で 4人 ま で の 子 ど も を
預かって世話を行うタイプの児童福祉サービスである。子どもを預かる時間等は親の就労
や就業状態に応じて決められ、親の所得や預けた時間数に応じて利用料金を支払う。家庭
的保育は、最寄りの就学前学校が家から遠い場合や、子どもにとってより少人数グループ
で保育された方が好ましい場合等に利用されており、就学前学校の補完サービスとなって
いる。
(ホ) 公開児童センター
公開児童センターは、親が日中自宅にいる場合でも通常の就学前学校と同様のサービス
を 提 供 す る 学 校 で 、 子 ど も ( 1∼ 5歳 ) は 親 や 保 育 マ マ と と も に 教 育 的 な グ ル ー プ 活 動 に 参
加する。シングル・マザーに他のシングル・マザーと出会う機会を提供するなど、共通の
問題を持つ家族に対する支援策の一部として位置付けられており、子どもだけではなく保
護 者 も 共 に 参 加 す る 点 が 特 徴 で あ る 。 公 開 児 童 セ ン タ ー の 大 半 は 無 料 で あ り 、 1999年 時 点
で 全 国 に 約 900校 あ る 。
(ヘ)学童保育施設
学 童 保 育 施 設 は 、親 が 就 業 中 で あ る 就 学 中 の 子 ど も( 6∼ 12歳 )に 対 し て 、学 校 が 子 ど も
を対象としたサービスを提供していない時間帯及び期間(例えば朝の登校前、下校後の夕
刻 、学 校 の 休 み 期 間 )に 児 童 福 祉 サ ー ビ ス を 提 供 す る 施 設 で あ る 。1年 中 開 い て お り 、保 護
者は所得や利用時間に応じて利用料金を支払う。学童保育施設は学校を補完する場所であ
り、また子どもに適切なレクリエーション活動を体験させ、健やかな発達を促進すること
を目的とするものである。
(7) 失業中もしくは育児休業中の両親の子ども
両 親 が 失 業 中 ま た は 育 児 休 業 中 の 1∼ 5歳 児 は 、1日 3時 間 ま で 、1週 間 に 15時 間 ま で 、就 学
前学校での保育活動に参加できる。保育時間や料金は各コミューンの就学前学校の条件と
同様で、失業手当や両親保険等を収入とみなして、それをもとに料金を徴収される。
(8)住宅手当7
住 宅 手 当 は 1930年 代 に 行 わ れ た 住 宅 調 査 に よ り 、 も っ と も 望 ま し く な い 住 宅 に 居 住
7
内 閣 府 経 済 社 会 総 合 研 究 所 編 「 ス ウ ェ ー デ ン 家 庭 生 活 調 査 」( 2004 年 )
27
していたのは、子どもの多い、所得の低い世帯であったため、成長期の子どもの環境
衛 生 及 び 健 康 状 態 を 改 善 す る こ と を 目 的 と し て 1948年 に 導 入 さ れ て い る( 都 村 、1999)。
現 在 の 住 宅 手 当 は 、賃 貸 住 宅 居 住 者 の 家 賃 、持 ち 家 居 住 者 の 住 宅 ロ ー ン 利 子 を 援 助 す
る制度であり、適用対象は低所得勤労者である。住宅手当の上限額は子どもの人数、
家賃額、居住面積、所得額によって規定される。限度額以下であれば補助率は住居費
の 50∼ 75% に 児 童 加 算 を 考 慮 し た 率 と な る 。 ま た 、 子 ど も が 産 ま れ る 毎 に 増 額 さ れ て
いく。住宅手当の所得制限はかなり高く、平均所得を上回る世帯にまで支給されてい
る。その結果、子どもがいる世帯の約3割が非課税の住宅手当を受給している。
「 子 ど も が 増 え れ ば 、所 得 が 増 え な く て も 住 宅 手 当 の 増 額 の お か げ で 、子 ど も が 伸 び
伸びと育ちうる広さの住宅が『原則として』手に入る状況になっている」とされてい
る ( 藤 井 、 2002) 。 さ ら に 、 「 家 賃 相 場 を あ ら か じ め 考 慮 し た 制 度 は 、 給 付 額 を 実 費
と食い違わない水準に保たせ、家庭側が思い思いに選べるようになっているが、同時
に 、住 宅 市 場 に お い て は 、大 型 住 宅 へ の 需 要 拡 大 を も た ら し た 」と い う( 竹 崎 、2002)。
参考文献
内 閣 府 経 済 社 会 総 合 研 究 所 編 ( 2004) 『 ス ウ ェ ー デ ン 家 庭 生 活 調 査 』
藤 井 威 ( 2002)『 ス ウ ェ ー デ ン ス ペ シ ャ ル 』
竹 崎 孜 ( 1999)『 ス ウ ェ ー デ ン は な ぜ 生 活 大 国 に な れ た の か 』 あ け び 書 房
竹 崎 孜 ( 2002)『 ス ウ ェ ー デ ン は な ぜ 少 子 国 家 に な ら な か っ た の か 』 あ け び 書 房
都 村 敦 子 ( 1999)「 家 族 政 策 ・ 社 会 扶 助 ・ 住 宅 手 当 な ど 」 丸 尾 直 美 ・ 塩 野 谷 祐 一 編 『
スウェーデン』
丸 尾 直 実・塩 野 谷 祐 一 編 (2002)『 先 進 諸 国 の 社 会 保 障( 5)ス ウ ェ ー デ ン 』東 京 大 学 出 版 会
国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 編 ( 2002)『 少 子 社 会 の 子 育 て 支 援 』 東 京 大 学 出 版 会
28
第 2 章第 5 節
スウェーデンの労働・職場環境
1.労働環境
(1)雇用契約
通常スウェーデンの雇用契約では、「任期付きの契約」は雇用者が一時的に臨時労働
者を雇う必要が生じた場合等特定の場合しか認められていない1。また雇用者は、仕事
が減り、労働者を解雇する必要性が生じた場合、法律に従って解雇することが定められ
ている。まず解雇されるのは、その担当部署で最も最近雇われた者である。もし、組織
内に同じような職種分野に欠員があれば、解雇の対象となっている労働者には異動する
権利がある。また、仕事の不足が原因で解雇された労働者は、通常、企業が受注する仕
事の量が回復した場合、再雇用の優先権を与えられる。
雇用者と労働者間における軋轢(労働者が病気休暇の権利を濫用していると雇用者が
みなしている場合など)を理由とした解雇の場合、雇用者には労働者に警告をする、異
動させる等、問題解決への積極的な姿勢が要求されている。雇用者が即時に労働者の契
約を終了できるのは、労働者が職務や指示を著しく怠った場合のみである。
(2)賃金設定
スウェーデンの法律は、一律に法律で最低賃金を規定していない2。これは、労働組
合や雇用者団体が職種別に最低賃金を規定しているためである。雇用者と労働組合等と
の交渉では、労働組合等は常勤労働者に対して最低賃金を通常 月額13,000クローネ(約
19万5,000円)に設定しており、大多数の団体労働協約には最低賃金に関する規定が盛
り込まれている。ちなみに、スウェーデンの平均的な月額賃金は(2002年)男性が19,150
クローネ(約28万7,250円)、女性が17,410クローネ(約26万1,150円)となっている。
(3)高い労働組合組織率
スウェーデンは労働組合の組織率が非常に高く、ブルーカラーで約85%、(事務職の)
ホワイトカラーで約75%となっている。ブルーカラーのほとんどがスウェーデン労働組
1
任期付きの契約が認められている場合は、任期が終了すれば勤務態度が勤勉であっても雇用を継続する
義務は生じない。
2 EUは、労働者の雇用条件に関する指令(96/71/EC)で最低賃金について定めている。スウェーデンで
は、法律で明示されているわけではないものの、実質的に団体労働協約で最低賃金について定めているた
め、同指令に準拠していることになる。
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合連合(LO)の中にある労働組合に属し、ホワイトカラーの多くは、スウェーデン職業
雇用者連合かスウェーデン職業団体連合の中にある労働組合に所属している。労働組合
は、2003年には一般的に、最大5パーセントから最低2.6パーセントの賃金引き上げを要
請した。2004年には、最大5パーセントから最低2パーセントの引き上げ要請となってい
る。企業レベルでの労働組合による交渉制度が主流になりつつあるが、伝統的な業界全
体の中央労働組合協約も、各産業部門への指標となっている。
(4)団体交渉
スウェーデンでは、企業と労使協定の交渉を進めるのは、企業ごとの労働組合ではな
く、業界全体の労働組合である。労使協定は基本的に賃金と就労規則のみを対象として
いる。もし、企業と労働組合が交渉で同意に達しない場合、労働組合は労働者にストラ
イキまたは工場閉鎖を呼びかけることができる。ただし実際には、ストライキや工場閉
鎖の頻度は、スウェーデンでは日本よりも少ない。企業と労使協定の交渉を進めるのは、
企業ごとの労働組合ではないため、企業レベルでの労働争議発生は非常に少ない。2002
年における労働争議による労働損失日数をみると、日本が12000日であったのに対して
スウェーデンでは1000日となっている3。
(5)社会保障制度
スウェーデンでは社会保障を通して、安全かつ安定した社会福祉を全ての人に与える
ことを目指している。スウェーデンの社会保障制度は広範囲にわたるものであり、育児
休業、保育から医療保険、障害者援助、老人介護といった日本にも存在するものの他、
子どもの医療費免除、子どもの数に応じた住宅手当など多岐にわたる。社会保障制度は、
国家社会保障局(Försäkringskassan)の管轄のもと、基本的に全ての在住者を対象とし
ている。社会保障の財源は、主として雇用者社会保障拠出金、年金、税金や基金の運用
利益等である。従業員自身も、給与の7%を、健康保険や年金として支払っている(雇
用者負担および従業員負担については、第2章7節で詳述している)。
(6)失業手当
失業手当は、企業拠出と国庫負担を財源とし、労働組合の管轄である4。失業手当は
個人の前年度で得た収入の80パーセントと定められており、手当の一日における上限は
3
厚生労働省『2003∼2004 年
4
スカンディナビア com の HP(http://www.scandinavica.com/culture/society/working.htm)より‘Working
海外情勢報告』(2004 年)付属統計表付 5−(2)
in Sweden ’
30
より。
680クローネ(約1万200円)(給付期間の最初の100日間は730クローネ(約1万950円)
である。補償は最大300日間であるが、57歳以上の失業者の場合には450日間補償される。
失業手当は、各従業員が所属する労働組合ごとに定められているが、スウェーデン政
府は1997年に保険基金を設立し、全ての従業員に対して最低保証を行なうようになった。
(7)賃金保証
雇用者が破産宣告を受け、資金の不足で従業員の賃金が支払えない場合、国は賃金保
証議定という法律(Wage Guarantee Act)に従って支払金を受け持っている。これらの
支払金は、破産の申請をする直前の3ヶ月前にさかのぼって要求できる。また、解雇通
知は、6ヶ月前にさかのぼって要求できる。賃金保証は企業拠出金を財源としている。
2.職場環境
(1)職場での差別に対する法律
スウェーデンでは、職場の差別を禁じる特別な法律が四つあり、それらの法律は就職
希望者や従業員に対して、男女雇用機会均等、民族差別、性的嗜好、機能的障害による
直接的、間接的な差別を禁止している。さらに、雇用方法においても差別は禁止されて
おり、昇進や昇進につながる研修の候補者選び、雇用条件や給与の調整、そして一時解
雇や契約解除についても規定されている。
(2)労働市場における男女平等
国家労働市場審議会(AMS)は、男女不平等撤廃にむけて特別プログラムと基金を設
けている。これは男女間の賃金格差の問題も対象にしている。他国と比較すると、男女
間の賃金の格差は少ないが、平均的に女性の方が収入は少ないのが現状である。EU諸
国では原則として同一の労働に対しては同一の時間当たり賃金が支払われなくてはならな
い。男女の平等も労働協約で確約されている。
スウェーデンの労働市場は約420万人の労働者から成り立っているが、その約半分は女
性が占めている。2003年における、男性の労働力率79%に対して、女性の労働力率は75%
であった5。また、仕事と育児を両立するために、約4割の女性が週35時間未満のパート
タイム労働者として働いている。
5
ILO “Yearbook of Labour Statistics”2004.
31
(3)多文化的環境
スウェーデンには多国籍企業も多く、国際的なビジネスを長年にわたって経験してい
る。ホワイトカラーの多くは英語を話し、仏語や独語も習得している者も少なくない。
およそ労働者全体の約5.2%にあたる、約22万人の外国人がスウェーデンの労働力に含
まれている。そのうち、約40パーセントが北欧諸国、約13パーセントが旧ユーゴスラビ
アからである。移住許可証を持つ外国人は、労働市場でスウェーデン人と同じ権利を持
っている。失業率は外国人の方がスウェーデン人より高いが、特に非ヨーロッパ人で著
しく高いと言われている6。
(4)労働時間
スウェーデンでは法律で、法定労働時間は週40時間と定められている。所定外労働時
間は4週間で48時間に限定し、また年間では200時間以上の所定外労働は認められていな
い。これは管理職を含め、基本的に全ての従業員に適用される。多くの労働者は所定外
労働の埋め合わせとして、数日休暇を取っている。ほとんどの職場では労働時間が柔軟
であり、フレックスタイムなどが導入されている。この背景には、パソコンの利用の定
着により、従業員がテレワーク等を活用して家で働くことが可能になったことがある。
(5)有給休暇とバカンス7
従業員の休職と休暇については、法律が定められている。スウェーデンの全ての勤続
1年以上の従業員は、年間最低5週間(25日)の有給休暇が与えられる。それ以上の有給
休暇日数は各会社の裁量にまかせられており、40日以上の有給休暇を定めている企業も
ある。任期付き契約の場合は、企業の判断によって従業員は先述の有給休暇の代わりに、
休暇手当を支給されることがある。有給休暇は5年間にわたって、年間1週間ずつ繰り越
すことができる。つまり、従業員は最大10週間の休暇をとることができる。またスウェ
ーデンでは、有給休暇を取得した際、企業から給与外の金銭をもらうことができる。こ
れは有給休暇1日あたり月の給料の0.8%と法律で定められている。
通常、従業員は4週間連続してバカンスを取得できる8。従来のバカンスの時期は7月
6
スウェーデン統計局ヒアリング調査、2005 年 2 月。
7
スウェーデンの公休日は年間で12日ある。これらのほとんどは宗教(ルター派)祭日に関連している。年
間でみた公休日の順番は;元日、主顕祭、聖金曜日、復活祭の日、復活祭の月曜日、メーデー、キリスト
昇天祭、聖霊降臨祭、ウィット・マンデー、万聖節、クリスマス、ボクシング・デーである。
8バカンスは、法定の有給休暇25日の中に含まれる。
32
であったため、7月は一部の企業を除けば、ほとんどの企業が休業していた。しかしな
がら、近年、国際ビジネスの増加によって、夏中稼業が一般的となりつつあり、従業員
はバカンス休暇の時期を他の従業員の休暇時期と重ならないようにとるようになった。
(6)傷病休暇
傷病休暇に関しては2004年に法改正がなされ、病気や怪我を理由に会社を休まなけれ
ばならなくなった場合、1日目は無給だが、2日目から21日目までは合計した所得喪失の
80%を企業が補償することとなった。22日目以降は、収入の77.6パーセントの疾病手当
を企業が従業員に支払うが、これは国が設定している疾病手当に関する基準価格の7.5
倍は上回らない(2003年では年額38,600クローネ=約57万9,000円)。
8日以上の傷病休暇取得には医師の証明書が必要になる。この他、上記の80%の補償と
は別に、企業との雇用契約によって企業から更に手当を支給される場合もある。
3.その他
(1)労働組合、産業と大学との密接なつながり
スウェーデン政府は、インターンシップ、共同研究等を通じて、企業と学生の交流を
奨励している。また伝統的に、学生と労働組合は従業員の研修や教育を通した密接なつ
ながりがある。労働組合は、大学と共同研究を行ったり、学会の研究活発表に参加した
りしている。
(2)施設内保育所・ベビーシッター費用支援
スウェーデンでは、第2章第4節で述べたとおり公立の保育サービスが充実しているため、
施設内保育所やベビーシッター費用支援はほとんど普及していない。
参考資料
スカンディナビア com の HP(http://www.scandinavica.com/culture/society/working.htm)より
‘Working in Sweden ’
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