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中間答申書 - 日本建築学会
中間答申書 グローバル時代を生きぬくことができる建築人の育成特別委員会 2016 年 3 月 1 日 中間答申書 グローバル時代を生きぬくことができる建築人の育成特別委員会 委員長 西谷 章 (早稲田大学) 幹事 倉田 真宏(京都大学) 委員 荒木 慶一(京都大学)伊藤 一秀(九州大学)小林 恵吾(早稲田大学) 小林 知広(大阪市立大学)坂井 文 (東京都市大学)中野 淳太(東海大学) 樋山 恭助(山口大学)松田 雄二(東京大学)丸山 一平(名古屋大学) 2016 年 3 月 1 日 目 次 1.はじめに・・・・・・1 2.グローバル化を取り巻く背景・・・・・・1 3.諸外国のグローバル対応の現状・・・・・・3 4.グローバル化に対応できる人材と提言・・・・・・6 5.学会論文集のあり方について・・・・・・9 6.まとめ・・・・・・13 現状分析データ集 1.はじめに 本特別委員会は、急速に進むグローバル時代を生き抜くための建築人をいかに養成すべ きかについて議論を重ねている。まずこの第一段階として、建築アカデミック分野を対象 とした答申書を提出する。 本答申書は、 「1.はじめに」 「2.グローバル化を取り巻く背景」「3.諸外国のグロー バル対応の現状」「4.グローバル化に対応できる人材と提言」「5.学会論文集のあり方 について」 「6.まとめ」と「現状分析データ集」よりなる。 2.グローバル化を取り巻く背景 建築学分野における日本の研究開発力および人材育成力は一定の水準を保っているもの の、近隣諸国の台頭や EU 圏での各国の密な連携を背景に、相対的な地位は低下しつつあ る。 日本は高水準の研究・教育レベルを有する一流国として、またアジア圏からの留学生の 受け入れ先としても、1960 年代より高いプレゼンスを保ってきた。しかしながら、世界的 な大学の人材獲得競争のなか、英語教育に後れを取っていること、日本の大学や教員が国 際学術誌への研究論文発表に必ずしも積極的でないことなどもあって、アジア各国のわが 国に対する関心は薄れており、優秀な留学生や研究者が集まる環境ではなくなってきてい る。 留学生受け入れの問題の一方で、日本から留学生を送り出すという点でも問題を抱えて いる。海外大学の建築関連学部・学科においても、学位取得を目指す日本人学生や若手研 究者の数は年々減少する傾向にある。この内向き志向は、世界中から留学生を確保するこ とで地理的・文化的に多様性を確保している国外有力大学のあり様に触発される機会を失 っているとも言えるし、若い時の国際的な人脈づくりの点でも好ましいことではない。こ のような状況は、存在感を急速に失いつつある日本の、またわが国の建築アカデミアの地 盤低下の現状をさらに加速させかねない。 これと連動するように、建築系分野の主要な国際学術誌における日本のプレゼンスも同 時に薄れており、数で圧倒されるだけでなく、研究の多様性という質の面でも正当な評価 を得にくくなってきている。 このように日本のプレゼンスが低下するなか、近隣諸国は、有力大学の国際的評価向上 を最重点課題に据え、戦略的に、積極的に対応しようとしている。 たとえば、しばしばマスコミでも話題となる世界の大学のランキングへの対応である。 このうちのひとつ、英国の Times Higher Education (THE) によるランキングは、毎年日 本の多くの新聞でも取り上げられ、わが国の大学の順位に関心が集まる。英国に本拠のあ る THE の評価基準は当然のように英国大学に有利に設定されている。それでも、アジア近 隣諸国の、それぞれの国を代表するような大学は比較的上位を安定的に維持している。こ れに対して、日本の大学の多くは、残念ながら、年ごとに順位を下げるような傾向にある。 1 インターネットの劇的な普及は、この種の情報を瞬時に全世界に拡散させる。 このような、大学ランキングにおける現状は、日本の大学が質を低下させているという より、評価基準に十分に対応できずに、グローバル時代にあって存在感を上手にアピール できていないためと捉えることもできる。 しかし、評価基準が日本の大学に不利だ、と叫んでも言い訳にしかならず、結果はそれ なりの意味をもってしまう。少なくとも表面的には何事にも平等・公平を建前としてきた 日本が、ランキングそのものに慣れている欧米社会の在り方を押しつけられている結果だ とも言えるし、グローバル時代はまた共通の価値観を押し付けられてしまう時代であるこ とも物語っている。 やや横道にそれるが、このような「グローバル化」にかかわる価値観の統一化、評価基 準の統一化は、日本の大学学部における学科間の、大学研究所における研究分野間の、教 員定員流動化にともなう人事枠の「取り合い」にも関係してくる。これまでは、<建築の 特異性>の名のもと、建築独自の教員採用基準や昇進基準に理解のあった工学系他研究分 野も、教員枠の獲得競争が発生する事態となれば、学内における採用基準の「グローバル 化」を主張してくる。事実、大学によってはすでにこのような事態となっていて、国際有 力学術誌への掲載論文でなければ、重要な業績としてカウントされないというようなルー ルが確立されつつある。 建築ではこれまで、一部の研究分野・研究者を除けば、主要な研究成果は「黄表紙」を 中心とする国内学術誌に日本語で発表するのが一般的であった。しかし、研究論文発表の グローバル化は急速に進み、データベースが整備されたことで論文引用回数も論文の質、 研究の質を表す指標として重要視されるようになってきている。 また一方で、国際的な学術誌自体にも評価は及ぶ。それが、掲載論文の引用回数実績と 連動する Impact Factor (IF) である。この IF は毎年更新され、当該分野におけるその学術 誌の影響力を表す指標となっている。 以上のような観点から、わが国の建築アカデミアのあり様を眺めると、グローバル化に おけるライバルともなりうる、台頭著しいアジアの国々(たとえば、中国・韓国・台湾・ シンガポールなど)と比べて、わが方の動きはのろい、と言わざるを得ない(蛇足を加え れば、将来の学科間の教員獲得競争へ備える意味でも、建築の動きはにぶい)。 答申書の後半に、具体的なデータとして、近隣諸国の大学がグローバル時代にいかに対 応していて、それらに比してわが建築がどう位置付けられるかを示す「現状分析データ集」 をつけた。わが国の現状を客観的に認識するための具体的なデータ群である。中国・韓国 のトップ大学の積極的な対応、国際的なプレゼンスや評価の向上にむけた意識的・戦略的 な取り組みを見ると、日本の大学建築系学科でここまでの積極性を見せているところはほ とんどないであろう。 もちろん、そもそもグローバル化への対応が本当に必要なのか、日本は独自のふさわし いあり方を探ればよいのではないか、という意見もあるかもしれない。しかしながら、そ 2 のような「そもそも論」に関する議論は、本特別委員会の守備範囲ではない。この特別委 員会のミッションは、「グローバル時代を生きぬくことができる建築人」を育成するには、 どのような現状認識のもと、どのような人材の輩出を目標として、そしてどのような施策 を採るべきか、について議論し、答申をまとめることにある。 本答申書は、第一段階として、すでに述べたように建築アカデミアを対象としたもので あり、建築業のグローバル化対応に向けた答申は含まれていない(こちらについては、今 後、1 年間の議論を経て、答申書を作成予定である)。 「科研費二段審査」における分類を踏襲すれば、 「計画」 「構造」 「環境」を統合した教育 研究を行う建築学は、同じ建築系学科に属していても、3 系列それぞれに、グローバル化対 応の意味も、グローバル化対応のための施策も相応に異なることも少なくない。このため、 答申書も具体的な提言については、必要に応じて、 「計画系」 「構造材料系」 「環境系」を明 記した構成をとった箇所もある。 3. 諸外国のグローバル対応の現状 後半の「現状分析データ集」に近隣諸国の現状をまとめてある。ここで、この内容をダ イジェスト的に報告しておく。 日本の建築系学科は、 「計画」 「構造材料」 「環境」と多様な分野から構成されるが、韓国・ 台湾の一部で同様な仕組みをとる大学があるものの、欧米や中国を含む世界の多くの国で は 、 構 造 材 料 の 分野 は建 築 ・ 土 木 の 区 別な く Civil Engineering で 扱わ れ 、 計 画は Architecture、City Planning、Urban Design、環境は Environmental Design として独立 していることが多い。 まず、第 1 の項目として、日本の大学の国際化に関する視点を 5 つの視点から議論して いる。 第 1 の視点として英国の企業 THE、QS 及び中国の企業“Shanghai Ranking”による大 学のランキングを使用して、日本の大学の位置付けを世界的な視点から把握することを試 みた。QS の 2015 年ランキングにおいて日本の大学は 10 位以内に入っていない。が、シン ガポール・中国は年々順位を上げている。どのランキングにおいても、10 位以内には MIT をはじめとする有力欧米大学の名が挙がり、アジアで 100 位以内の常連校となるのは、中 国の清華大学・同済大学・北京大学・浙江大学、韓国の KAIST・ソウル国立大学、台湾の 国立台湾大学・成功大学であり、日本の東京大学・京都大学・東京工業大学・東北大学で ある。2015 年度では、どのランキングにおいても、中国の大学のトップ(清華大学)の方 が日本の大学のトップ(東京大学)より順位が高い。過去 5 年の土木系学科のランキング で言えば、日本の大学の順位に大きな変化はないが、韓国、中国、台湾の大学が大きく順 位を上げている。これらのランキングに拠れば、の前提ではあるが、日本の大学がアジア でトップと評価された時代は、すでに過去のものになりつつある。 3 第 2 の視点として、日本及び米国の建築、土木系学科における外国人教員(外国で教育 を受けた教員を含む)の傾向を調べた。アジアの国々の Civil Engineering 系教員の傾向と 日本を比べると、自国以外の大学の博士取得者である教員の割合は、日本が圧倒的に小さ い。一方で、中国、韓国、台湾の大学教員は博士学位を米国、英国そして日本で取得して いるものも多い。日本の教員の博士学位取得先が多様性に欠けるという事実は、海外との 研究ネットワーク構築の点で不利となりそうである。加えて、学生の海外動向への興味を 刺激するという意味でも、また学生を送り出そうとする際の海外大学・海外大学教員との 接点・パイプという意味でも、マイナスの効果となろう。 第 3 の視点として、研究の観点から国際展開の度合いを計る方策として、英語論文投稿 状況を報告した。研究成果の国際的なアピールという視点から、他の日本の工学系学会の 英語論文集発行状況(IF の有無も含む)と英語論文投稿状況についても触れている。英語 論文集発行という点では、五大工学系学会(建築・土木・化学・電気電子・機械)の中で、 化学がもっとも古くからの実績を持つ。すでに 1920 年代には英語論文集を創刊し、いまで は多くの化学系論文集が 1.0 を超える IF を持つ。電気学会は 3 つの IF つき英語論文集(翻 訳版 2 誌含む)がある。機械学会も英語論文集を複数編発行するが、IF を持つのは 2 誌で ある。土木にも英語論文集が 1 誌あるが IF はない。建築には JAABE があるが、残念なが ら IF は 0.53 にとどまり、自誌引用を除くと 0.165 である。 これとの比較の意味で、 “Web of Science”に登録されている中国、韓国の学会、大学が 発行する土木系の英語学術誌を調査した。中国は 3 つの英語学術誌を発行している。清華 大学が発行する“Building Simulation”は、IF が 1.0 を超えていて、自誌引用を差し引い ても 0.824 ある。韓国は 5 つの英語土木系学術誌を発行している。最も IF が高いものは、 “Smart Structures and Systems” (1.368)である。わが国の建築、土木学科が、英語学 術誌の発行、そしてそれらの IF という点において、遅れをとっているは明らかである。 次に、日本の研究者の英語論文投稿動向を紹介している。 構造系教員・土木系教員の投稿状況として、American Society of Civil Engineers (ASCE) Journal of Structural Engineering(2014 年の IF は 1.504 と高い)への投稿状況を紹介し ている。この学術誌には世界中からの投稿がある。毎年度 150 編以上の投稿のある米国を 別格として、中国からの投稿数は 2010 年の 74 編から 2015 年の 188 編まで年々増加して いる。日本は 2010 年の 7 編から 2015 年の 19 編へと増えているものの、中国に比べると 圧倒的に少ない。中国は投稿数が多いわりに現実の論文掲載率は 10%と高くないが、積極 的な投稿意欲は注目に値するし、国あるいは大学としての認知度向上を意識した戦略的な 狙いもあるのかもしれない。他の構造系の有力雑誌でも同じ傾向が報告されている。 環境系に関しては、“Building and Environment”(IF=3.341)、“Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics”(IF=1.4.14)には、2013~2015 年の間にそれ ぞれ計 30 編、48 編採用されていることがわかった。一方で、計画系に関しては、調査した 学術誌のなかで 2013~2015 年度の日本人による論文の総採用数が最も多いものは 4 “Landscape and Urban Planning”(IF=3.307) )で、採用数は 7 編であった。計画系の 教員は、構造・環境系の教員よりも英語論文の執筆に対して一層消極的であることがうか がえる。また、構造、環境、計画系の 3 分野において、調査した学術誌において一部を除 いて、中国人研究者が日本人研究者と比べてより積極的に英語論文を執筆している状況が みられた。 第 4 の視点として、日本の建築、土木系学科の国際度の変化を、外国人研究者の受け入 れという視点から調査した。日本に渡航した海外研究者として JSPS 制度を利用した外国人 研究者の数を調べた結果、 建築専攻の海外研究者の割合が 2006 年度は 14 人であったのが、 2015 年度は 1 人と減少していっている一方で他の 4 学科(土木、化学、電気電子、機械) は安定した割合(10%程度)を示していることがわかった。 第 5 の視点として、工学部系学科の科学研究費の獲得状況を報告した。この調査の動機 は THE、QS において、大学、学科の評価の項目の一つとして獲得した研究費の金額があ るためである。学術振興会が公開している 2007~2015 年度の科研費(基盤研究 S)の専攻 別獲得状況を調査した。全体の採用数は 2007 年度を除き(76 人)、約 90 人で安定してい る。化学が毎年 6 人以上の採用数があり、建築以外の他の分野は各年度 3 人程度の採用が ある。建築は、2007 年度は 2 人採用されているが、それ以降の採用数は 0 もしくは 1 人で ある。建築学科が他の工学系学科と比較しても競争力を落としている状況を突きつけられ た。 留学に焦点を当てた調査は、次のような結果となっている。 日本学術振興会の日本人海外特別研究員制度を見ると、採用数は近年大きく増えて 2014 年は 36 人に増加しているのに、建築では 1 名の採用である。調査した分野のなかでは、過 去 10 年で数が減り続けているのは、建築のみであった。建築系、土木系学科の海外博士号 取得者の年代別(1960~2000 年代)の割合を調べた。現役世代が多い 70 年代以降では、 70、80 年代が 20%以上と高い割合が見られたものの、90 年代、00 年代と世代が若くなる につれ割合が徐々に減少している。今後、70 年代、80 年代の教員が定年を迎えることを考 えると、海外博士号取得の教員数は一気に低下する。建築分野に限らないが、教員の海外 学位取得状況に比例するかのように、学生の海外留学も 2000 年代半ばからはっきりと減少 している(今後の日本のグローバル対応を担うであろう学生の海外留学支援に対する大 学・財団・企業等のより積極的な対応や仕組みが必要であろう) 。 以上に加え、中国、韓国、台湾の有力大学の教員にコンタクトして、それぞれの国際化 への取り組みをアンケートした結果も載せている。有力大学の Civil Engineering 系学科で は、25%以上の教員が日本を含む海外で博士学位を取得していること、雇用・昇進に関し ては多くが SCI(Science Citation Index)採録誌での論文発表数を条件としていること、 英語での授業の割合、卒業論文・修士論文・博士学位論文の英語による執筆状況をデータ として挙げた。 研究及び教育の観点からの大学の国際化に関して、日本とアジア近隣諸国(中国、韓国、 5 台湾)と比較して、アジアの大学がより積極的かつ多様な取り組みを行っている。さらに 調査したアジアの大学での留学生の比率は、学部生は全学生の 5%程度、修士学生は全体の 10%弱である一方で、日本の大学の海外留学生の割合は全学生数の約 2.2%(2012 年度、 学部、修士学生合わせて)である。 アジアの大学の国際化の現状との比較を目的として、ドイツの建築・土木系学科の国際 化の取り組みを調査している。ドイツの大学の特徴として、次の 2 点が明らかになった。 第 1 に、大学、学科によって状況は異なるものの、基本的にドイツの大学教員は極めて国 際的である。例えばドルトムント工科大学建築系学科では教員の 60%が外国人で占められ ている。大学教員採用では外国人とドイツ人には同様のチャンスが与えられているが、ド イツ語に堪能であることが条件になっている。第 2 に、日本を含む東アジアの大学と比較 して、留学生の割合が高い。シュツットガルト大学建築系学科の留学生(学部・修士学生) は、学生全数約 1,500 人のうち約 25%、またカールスルーエ工科大学建築系学科でも留学 生(学部・修士学生)は学生全数約 800 人のうち約 25%である。中国、インド、中東から の留学生が多い。留学生がドイツを選ぶ理由として、安い学費(多くの場合、国籍を問わ ず無料)と何よりも卒業後にドイツで職に就ける高い可能性が挙げられる。 以上に挙げた結果はいずれも、日本がグローバル化に対して積極的、戦略的に対応でき ていないことを示すものばかりであり、現時点でなんらかの手段を講じないと、中国・韓 国をはじめとする国々の遥か後方に取り残される可能性は極めて大きい。経済的にも、技 術的にも、注目度でも、以前とはおかれている状況が違ってきていることを認識し、グロ ーバル化への対応を早急に行っていく必要があろう。 4. グローバル化に対応できる人材と提言 委員会では、グローバル時代を生き抜ける人材、グローバル化に対応できる人材をどう 捉えるか、つまりどんな人材の輩出を目標にすべきか、という議論をまず行った。 多くの委員に共通するのは、輩出すべき人材は、単に海外の事情に明るいだけではない という認識である。委員の意見を総合すれば、次のようになる: わが国のあり様・文化を十分に理解しながら、国内外の事情に通じ、異文化適応力を あわせ持ち、自国の立場および研究をアピールできる人材、さらに加えれば海外の研究 者と上手に交流のできる人材。 アカデミック分野に限って、もう少し具体的な要件として挙げられたのは、 ・ 日本の研究領域にとらわれず、世界の動向に目を配りながら研究のできる人材 ・ 国際学術誌に載るにふさわしい英語論文が書ける人材(単に英語表現のうまさのみ ではなく、論理展開、論文構成など総合的な意味での、「国際論文誌にふさわしい 6 論文」が書ける) ・ 国際学術誌の論文 Reviewer として、適切な Review を書ける人材(世界の研究情 勢を踏まえた、論文の質に対する的確な Review を書けないと、次の offer はない。 はじめの 1、2 編の Review で、Reviewer として不適格とされてしまうことも少な くない) ・ 学術誌の論文掲載採否の決定権をもつ Editor あるいは Associate Editor となりう る人材(すぐ上の点とも関係するが、Reviewer としての高い評価が定着すれば、 Editor 陣の一角を占める段階から、Associate Editor さらに Editor に進むかもし れない。論文掲載の決定権をもつことで、見えてくる世界は大きく違ってくる) ・ 高いレベルになるが、国際的な学会の賞・メダルの有力な候補者として認知される 人材、あるいはさらに進んで受賞者となる人材 である。 将来的に上のようなアカデミックな人材を輩出するために、学会としてどのような施策 をとるべきか。このような議論の性格上、学会論文集のあり方、学会表彰のあり方をはじ めとして、学会のこれまでの活動の根幹に触れるような事項にも議論は及んだ。 <計画系><構造材料系><環境系>からの、グローバル化に対応できる人材育成、学 術研究の在り方に関する提言は次のようになる。 <計画系からの提言> 計画系は、一般に意匠・計画・歴史・都市計画分野から構成される。 意匠分野は、欧米的な「建築」分野と親和性が高く、海外との大学との交流や学生の留 学が比較的盛んに行われているが、学会として組織的・戦略的にバックアップするような 状況では無い。他の分野においても、英語論文誌への採用数の低迷が示すとおり、海外に 積極的に発信を行っているとは言えない状況である。 他方で、計画系は強く日本の地域性・文化性と結びついた分野であり、人口減少・少子 化・高齢化・自然災害対応など、社会問題と密接に関わりながら発展してきた。これらの 問題は、国際社会、特に発展著しい東アジア地域にて高い有用性を持つことが予想され、 日本の国際社会におけるプレゼンス向上に高く寄与することが期待される。 これらの認識を踏まえ、計画系として以下の提言を行う。 ・ グローバルな文脈における計画系の発信の場の開拓:計画系に完全に対応する学会 誌等はおそらく存在しないが、それでも学会として積極的に発信の場を開拓し、会 員に認知を促す必要がある。 ・ 日本から世界に向けて議論を行う環境の整備:日本の優位性・特異性を認識し、戦 7 略的に日本から議論を行う場を構築する必要がある。 ・ 研究者・実務者個人の国際的ネットワークの共有(特に若手研究者・実務者に対し て):すでに個々人が構築した国際的ネットワークを、特に若手人材が共有できる よう、学会としてなんらかの「場」づくりを行うことが必要である。 <構造材料系からの提言> 人材育成では、国際競争力をもつ若手・中堅を養成する土壌づくりが必要となる。この ため、若手教員と博士院生を対象に、国際的な競争環境に身を置くための「準備教育プロ グラム」を提供する。たとえば、世界の研究動向に精通し、国際学術誌での多くの論文執 筆や Review 実績をもつ研究者を講師陣として、有力国際学術誌に自立して論文投稿できる 能力を身に付けさせるようなプログラムを整備する。このようなプログラムがあれば、海 外学術誌における日本人研究者の投稿数・採択数の向上に結び付き、ひいては、将来的に Editor となりうる人材の輩出につながろう。また、海外大学への学位留学の希望者に対し ては、さきの講師陣が受け入れ先の紹介や仲介、留学先での教育・研究アシスタント奨学 金等に関する戦略的な助言を行う。 構造系に限ったことではないが、国際共同研究の推進も多くの波及効果を生み出すであ ろう。安全・自然災害などの世界的な課題に対する具体的な解の提示や学術基盤の確立に は、国際的な視点をもった研究展開が本来必要である。しかし、わが国の現状は十分とは 言い難い。共同研究推進に向けて、学会は、日本と海外研究者の共同研究を公募し、スポ ンサーを獲得し、応募者及び審査員のサポート機能を担う。そして国際的な審査員団によ る審査を行う。申請者は、応募段階での海外研究者との議論や申請書類準備を通して、テ ーマ選定から具体的な研究計画への落し込みのプロセスを経験できる。さらに、国内外の 審査員から詳細な申請書評価レポートが提供されれば、不採択の場合にも今後の研究計画 の改良への指針が得られる。このような制度設計も望まれる。 <環境系からの提言> 環境系は、音・光・熱・空気といった基礎的な環境物理から建築設備や衛生工学を含む 応用分野までを包含する学際的な分野である。 一方で、建築はその土地の気候風土や文化に深く根ざしたものであるため、応用分野た る環境系の分野にはドメスティックな側面が強く存在する。我が国の環境系が扱う特殊な 課題に対する解を普遍的な知に昇華させ、国際的な評価軸に沿ってアウトプットする態度 が、特に若手研究者に課せられている。世界的な共通言語である英語への転換と国際ルー ルに則った競争への参戦が必須であり、国際的な地位向上のための制度として、(1) 国際的 ルールに準拠した研究者評価システム(インデックス)の決定・公開と評価結果の開示;(2) 国 際的な学会、アカデミー等への主体的参加;(3) 国際会議の主催、が望まれる。また、国内 最大の建築学研究プラットフォームである日本建築学会として、以下の方策が考えられる: 8 (1) 業績評価基準の改定 (2) 国際社会に向けた委員会活動・成果報告の発信 (3) 国際基準の制定プロセスへの組織的関与 (4) 建築分野の留学・求人情報の集約 (5) 英語論文に対するサポート体制、そのメリットの明確な提示、前例の紹介や査読者の 国際的背景の紹介等を整備して、学会員に発信 以上が、<計画><構造><環境>の各系から出された提言である。 系によって、グローバル化に対応するために提案された方策は微妙に異なる面もあるが、 共通するのは<現状に対する強い危機意識>である。すぐに対応可能なものと、かなりの 準備を要するものに分かれるとは思うが、実行を検討してほしい。 5. 学会論文集のあり方について これからの研究者は、「テーマの上でも、発信の手段においても、国際的に認知される研 究を行い、論文発表を行う」という認識をもって、<世界的な研究競争への参加>を意識 した成果発信を目指さない限り、グローバル時代を牽引することはできない。当然、国際 的に影響力を持つ、有力学術誌を通じた成果の発信は推奨されなければならない。しかし、 現在の日本の建築アカデミアは、 「3. 諸外国のグローバル化対応の現状」にもあるように、 一足飛びに有力学術誌に多数の論文が掲載されるような状況にはないし、不慣れな研究者 が有力誌に掲載されるような英語論文を投稿し、査読結果に応えるのは簡単ではない。 国際学術誌においては、国際的な研究動向を十分に把握したうえで、査読基準の違いを 理解して、それなりの論理展開を行わないと論文掲載までたどり着くのは難しい。有力誌 であればあるほど論文採択率は厳しいものがあり、日常的に、論文はできうる限り英語で 書くという姿勢をもっていないと苦しい(そうでないと、英語表現の点でもハードルは高 い)。 これまで「黄表紙」を中心に質の高い論文を送り出してきた日本建築学会には、グロー バル時代を生き抜く建築人の育成への貢献という意味からも、まずは建築学会内に<世界 への発信を強く意識した論文>を送り出せるような「場」をしつらえることが求められよ う。 このような「場」として、委員会では、<「黄表紙」の英語化>と<あらたな英語論文 集の刊行>に関する議論を行った。以下にそれらの議論を示す。 まず、 「黄表紙」の英語化あるいは「黄表紙」における英語論文推奨である。 繰り返しになるが、この背景には、論文の「引用」回数も、国際的認知度や論文の「質」 を表す重要な指標となっている現代において、いまの「黄表紙」のままでは、国際的な学 9 術誌での引用は期待できず、先行研究としても認知されにくいという事実がある。このよ うな「負」の要素の解消は時代の趨勢であるが、<計画系>からは、わが国の建築計画学 は世界的にみると極めてユニークな発展を遂げてきており、英語論文が多数出版されれば、 日本を起点とした新たな学際的分野の成立もありうる、といった派生効果を期待する指摘も あった。 「黄表紙」の英語化に対して、一部の<構造材料系>からは、 建築工学は、日本における建築領域の学問と実務の発展に貢献すべきであるという観 点からも、国際的な知見への貢献を目的とした情報発信が強く求められる。自分たち からの発信なしに、時宜を得た情報に触れることはできない。そのため、建築学会の 構造系論文集については、IF の獲得を目指して英語化を基本とする。関連して、技術 報告集は<査読無>として、英文のみを登録可能とする。技術報告集については、 Review、Construction、Proposal、Experimental Data、Report、Letter、など細分 化してさまざまな英文情報を タイムリーに発信できるようにする。また、日本建築学 会大会の梗概集は、論文二重投稿問題なども生じさせる懸念もあることから、要約集 に変更し、梗概の内容は英文で技術報告集に投稿を促す。 という全面的な英語化を行うべきとの革新的な意見も出された。しかし、委員会全体とし ては、この方向には否定的な意見が大勢であった。その理由として、 ・ 論文執筆に十分な経験のない若手の研究者(博士課程院生を含む)にとって、これ まで以上にハードルがあがり、論文の執筆自体が滞ってしまう可能性もある<計画 系> ・ <日本人が投稿し、日本人が読むための英語論文集>となる危惧もあり、これなら 現状の日本語中心の黄表紙の方がはるかによい<構造材料系> ・ 学会の主な対象は国内の建築界。産業界や技術指針との関連が深い研究成果の、日 本語による論文発表は必要である<構造材料系> ・ 大多数の技術者は日本語での情報伝達を望んでいる。日本語による論文集は必要で ある<構造材料系> ・ 文献調査から始まる研究のプロセスを学ぶという教育の一環として、日本語論文執 筆は重要な役割を果たしている<環境系> ・ 必ずしも全研究者がグローバル化に対応する必要はない。全面的英語化は、その必要性 を感じていない研究者に成果発信場所を失わせ、①論文投稿数の激減、②理解でき ないレベルの拙い英語論文が数多く掲載される結果となると、世界に向けて格の低 い学術誌であるとアピールしかねない<環境系> ・ 自国語で発信できる論文集をもつことは、国際化の議論とは切り離して、自国語で 10 の研究・議論ができることであり、建築界全体のためには一定の価値がある。これ は、他のアジア諸国に対するアドバンテージである<環境系> ・ 海外学術誌において、日本人研究者の投稿数は少ないものの、採択率は他のアジア 諸国よりずっと高いという事実は、粗悪な論文投稿が少ないということであり、自 国語での論文作成による基礎固めが要因のひとつとなっている<環境系> が挙がった。 このような理由に配慮した考え方として、 「黄表紙」への英語論文推奨策がある。現状の .. <英語でも投稿もできる>という位置づけから、より積極的に、英語論文が望ましいとい う論文集への転換を目指すものである。推奨の「掛け声」だけでは思うような方向に向か うのは難しい。当然、「英語論文推奨」にともなうインセンティブが必要となろう。この候 補としては、 ・ 英語論文掲載料の値下げと、日本語論文掲載料の値上げ ・ 学生、PDなどの若手研究者の英語論文掲載料の大幅なディスカウントあるいは無 料化 ・ 英語論文投稿資格の制限撤廃あるいは大幅な簡素化(非会員でもよい、あるいは著 者のひとりが会員であればよい、など) ・ 「黄表紙」の電子化、英語論文の完全(即時)オープンアクセス化を行い、学会員 でない外国人も閲覧可能とする ・ 年に何本かの「優秀論文」 、あるいは世界が注目しそうな論文を選び、 「この日本語 論文の英訳版である」ことを明記して、 「黄表紙」にその英語版を掲載する などが考えられる。 ただし、 「黄表紙」の英語論文推奨に懐疑的な見方もあり、 ・ 学会としての国際化戦略を持たない限り、「黄表紙」の英語化は意味が無い。ジャ ーナルの質の向上には多様な国の研究者からの投稿は不可欠であり、日本人が日本 人のために英語で書いた論文にそれほど価値はない。特に査読者が日本人であると このようになりがちである<環境系> ・ 国際的に認知される業績を追い求める研究者が必然的に「黄表紙」から離れていく のは、学会としては損失かもしれないが、学会として国際的なプレゼンスを発揮さ せるという戦略がなければそれも仕方が無い<環境系> ・ 国際的な認知度は、研究者個人の問題だけでなく日本の学術界全体の問題であり、 建築学会の成果を、学会員の成果を世界にアピールする事は重要であり、国際的に 共通する課題に関する論文の、認知度の高い有力学術誌への投稿はむしろ推奨され 11 るべきである<構造材料系・環境系> という意見も出ている。 また、「黄表紙」における英語論文の推奨は「両刃の剣」となろう。上に挙げたようなイ ンセンティブを付与して、かりに「黄表紙」に英語論文が多く載るようになったとして、 せっかく日本語中心の論文集として長い歴史と高いスティタスを維持してきた「黄表紙」 に質的な変化をもたらさないか、という危惧である。以下のような懸念も議論の過程で出 された。 質の高い英語論文の掲載には、適切、的確な査読が不可欠である。査読する側に、国際 基準に沿った英語論文かどうかを審議する体制が必要である。外国人も含めた英語論文査 読体制が実現できないと、<中途半端な英語論文>と<質の高い日本語論文>が併存する 「黄表紙」となって、この歴史ある論文集の三流化を招くおそれはないのか。 さらには、<成果が国際的に認知される、引用される>という観点からは、学会員でな い外国人の論文集へのアクセス権の問題が解消されたとして、外国人にとって「黄表紙」 が研究動向・成果の情報入手先として、魅力的な「場」となりうるだろうか、という懸念 もなくはないし、英語論文を書きなれた日本人や外国人が、良質な英語論文を日本語論文 も掲載される「黄表紙」に積極的に投稿するか、という心配もある。 以上のような懸念が払拭されずに、 「黄表紙」が日本語論文も英語論文も載るという中途 半端な存在になってしまうと、質の高い英語論文の投稿が期待できないばかりか、日本語 論文の「黄表紙」への投稿意欲さえも萎えさせる可能性もあり、そうなるとすべてを失う こととなる。さらに、細部の問題ではあるが、英語論文査読者団と、現在の、学会員のみ による論文集委員会のあり方との整合も必要となる。 以上のような負の側面を考えると、危険を冒して英語論文を推奨するのではなく、 「黄表 紙」は現状通り国内向けの情報発信を中心とした論文集として、現在の高いスティタスを 維持し、国際的認知度の向上という国策に貢献するための受け皿としては、学会監修の英 文ジャーナルの新規刊行を検討するのが現実的な方策とも考えられる。 英文学術誌で重要なのは、Editor あるいは Editor 陣と適切な査読者の選定である。これ が、新規刊行の英文誌の死命を制すると言ってもよい。多くの国際学術誌がそうであるよ うに Editor 制(数年間の任期)を敷き、国内向けのそれとはかなり異なる国際基準での評 価軸・査読基準を理解する人材を集めた Editorial 体制・査読体制(外国人を含めた体制) をつくる必要があろう。 もしそうした国際基準による査読活動の場に、若手を積極的に関わらせるような仕組み を作れれば、彼ら彼女らが、国際的に認知される論文を執筆できる、査読者になれる、将 来的な Editor 候補となりうる(新たなこの英文誌ばかりでなく、すでにある有力学術誌の Editor 候補) 、グローバル社会に対応した建築人(研究者)に育っていく場、訓練の場とも なるかもしれない。これは長い目で見れば、日本の大学および建築学界に多様性および国 12 際性を担保するもので、国際的な評価向上につながろう。 もちろん、新たに刊行する英文論文集をただちに一流の国際学術誌に育てるのには無理 はあるが、わが国の建築としてのアイデンティティのアピールや人材育成を考えると、学 会が自前の英文誌を出しそれを一流に育ててゆく努力も必要かもしれない。 ただし、このような新規刊行に対して、一朝一夕に国際的に評価の高い論文集をつくる のは簡単ではなく、グローバル化に突入してしまっているいま、そのような時間的余裕が 残されているのか、すでに手遅れではないか、新規刊行の論文集に投稿される論文が多数 あるのか、という意見も一部出ている。事実、機械学会の英文論文集の刊行の変遷を見る と、当初の目論見のような方向には進まず、試行錯誤を重ねている状況がわかる。新規刊 行を選択する場合、学会には、かなりの覚悟と、これまでの「黄表紙」論文集委員会とは 異なった Editorial 体制を確立することが求められよう。 6.まとめ 以上が、建築のアカデミアに限定して議論した答申内容である。 世界を強く意識した研究活動を展開している方々に委員をお願いしたこともあって、委 員会では、現在のわが国の建築アカデミアに対する危機意識を背景にした熱心な議論が行 われた。自身のアイデンティティを的確に海外にアピールしながら、同時に世界標準(好 むと好まらずにかかわらず)を意識した活動、情報発信を行いながら、将来的に世界を牽 引する研究者を輩出できる体制を整える必要があろう。そうでないと、日本の建築アカデ ミアはかたくなに自国にしか目を向けていない、という誤ったメッセージを発する可能性 もあり、ガラパゴス化するおそれは小さくない。 13 現状分析データ集:その 1 「わが国建築教育・研究の実情と国際比較」 グローバル時代を生きぬくことができる建築人の育成特別委員会 2016 年 3 月 1 日 目 次 1 はじめに................................................................................................................................. 1 2 調査方針................................................................................................................................. 1 3 日本の大学の国際化に関する現状 .......................................................................................... 2 3.1 海外の企業による日本の大学の建築学と土木工学のランキング .............................................. 2 3.1.1 Times Higher Education によるランキング ....................................................................... 2 3.1.2 QS によるランキング ........................................................................................................... 3 3.1.3 Shanghai Ranking によるランキング................................................................................. 6 3.2 日本と米国における建築、土木系学科の教員構成 .................................................................... 9 3.2.1 日本の建築系、土木系学科の教員構成................................................................................ 9 3.2.2 米国大学の土木系学科における外国出身教員................................................................... 10 3.3 日本の建築、土木系学科教員の英語論文執筆状況 .................................................................. 11 3.3.1 日本の 5 大工学系学会(日本建築学会、土木学会、日本化学会、電気学会、日本機械学会) の英語学術誌発刊状況 ................................................................................................................. 11 3.3.2 日本の建築系・土木系学科構造系教員の英語論文投稿状況............................................. 13 3.3.3 日本の建築環境系学科教員の英語論文投稿状況 ............................................................... 15 3.3.4 日本の建築計画系学科教員の英語論文投稿状況 ............................................................... 16 3.4 日本で研究する外国人研究者 ................................................................................................... 17 3.5 日本の工学系学科の研究予算獲得状況 .................................................................................... 19 4 日本人の海外留学の現状 ...................................................................................................... 20 4.1 日本人の海外留学者数.............................................................................................................. 20 4.2 日本の産業界が大学に期待する国際化への取り組み .............................................................. 22 4.3 日本政府所管の奨学金制度....................................................................................................... 24 4.4 日本の個人財団による奨学金制度............................................................................................ 25 4.5 日本の大学を通じて応募する奨学金制度................................................................................. 26 4.6 まとめ ....................................................................................................................................... 27 5 アジアの大学の国際化の現状と展望..................................................................................... 27 5.1 教員の国際化に対する取り組み ............................................................................................... 28 5.2 教育に関する国際化の取り組み ............................................................................................... 30 5.3 国際化戦略に関する取り組み ................................................................................................... 31 5.4 中国、韓国の大学、研究機関が発行する英語学術誌 .............................................................. 32 6 欧州の大学の国際化の現状と展望 ........................................................................................ 34 6.1 ドイツの大学教育の紹介 .......................................................................................................... 34 6.2 教育に関する国際化の現状....................................................................................................... 35 6.3 教員国際化の現状 ..................................................................................................................... 36 6.4 国際化戦略に関する取り組み ................................................................................................... 36 6.5 日本の大学に対するドイツの認識............................................................................................ 37 7 まとめ .................................................................................................................................. 37 7.1 日本の大学の国際化に関わる現状............................................................................................ 38 7.2 日本の大学の国際化の可能性 ................................................................................................... 40 7.3 アジアの大学の国際化の動き ................................................................................................... 40 7.4 欧州の大学の国際化の動き....................................................................................................... 42 8 参考文献............................................................................................................................... 43 付録.......................................................................................................................................... 45 A.1 アジアの大学に対して実施したアンケート ............................................................................ 45 1 はじめに 本報告は、日本建築学会が設けた「グローバル時代を生きぬける建築人の育成」に関する特別委員会に おける、 「現状分析データ集:その 1」の草案である。 「多様なジャンル」 「実社会との連携」 「学際性の豊 かさ」という建築の特質を体現できる建築人の育成は、わが国の建築学の持続的発展にとって欠かせない。 一方で、グローバル化が加速するこの時代において、わが建築のグローバル化への適合と、そこでの協調 と競争は早急に対応すべき課題である。先達の努力をもってさまざまな国際展開に励んできたわが国の建 築であるが、多様性を旨とする建築においては、グローバル化への適合を単一の尺度で測ることが難しい。 この事実を十分認識しつつ、建築ならではのグローバル化対応を集中的に議論し、できることから実行し てゆかねばならないときがやってきた。 特別委員会は、0)そもそも前段で記した認識(グローバル化への適合や対応の必要性)を本会会員が どれほど共有しているかも含め、1)わが建築、あるいはわが国の建築学が、グローバル化が加速する世 界において現在どこに位置しているのか、2)台頭著しいアジア諸国におけるグローバル化状況と比して どこにいるのか、3)グローバル化に適合する建築人の育成状況はいかなるものであるのか、4)グローバ ル化を生きぬくことができる建築人育成のための仕掛けはどうあるべきか、を議論し、その結果として、 わが国の建築人のグローバル対応に関する現状の評価と、建築人のグローバル化に向けての本会奨励事業 の策定、を目標としている。 本草案は、「現状分析データ集:その 1」として、わが国の建築のグローバル化に関する実態調査を、 わが国の建築学分野の海外留学・研修(学部生の海外研修、海外修士号・博士号取得のための留学、教員 の海外研修等を含む)とその変遷、アジア諸国における海外留学・研修の現状との比較、わが国の工学系 他分野の留学・研修状況等、わが建築の現状という視点から調査することを目的とする。これらを達成す るために、本草案は 3 つの項目、第 1 にわが国の建築分野を含む大学の国際化に関する現状、第 2 にわが 国の学生、研究者の留学状況及び留学を支援する奨学金制度の現状、第 3 にわが国の建築、土木系学科と の比較として東アジアの建築、土木系学科の国際化の現状、を概観する。 2 調査方針 本草案では、日本の建築系学科の特徴を考慮した。多くの日本の建築系学科には、意匠、計画、構造(材 料を含む)、環境と多様な分野が含まれている。韓国や、台湾の一部の建築系学科も同じような状況にあ る。他方、米国や中国を含む多くの国では、構造材料の分野は建築、土木の区別なく Civil Engineering で扱われ、計画は Architecture、City Planning、Urban Design、環境は Environmental Design として 独立していることが多い。なお構造・材料・環境は同じ department を形成していることは少なくないが、 ここでの環境は、わが国の建築系学科に含まれる建築設備・環境とは異なり、いわゆる土木系の衛生工 学”Sanitary Engineering”を指すことが多い。このような世界の大学の状況を考慮して、本草案では、 建築系学科のみでなく、特に構造・材料において親和性が高い土木系学科も調査対象としている。 本草案において、3 章、5 章においては本草案作成のために独自に調査・情報収集したものを分析して おり、4 章では文部科学省を含む複数の機関から与えられた資料をまとめている。 1 3 日本の大学の国際化に関する現状 3.1 海外の企業による日本の大学の建築学と土木工学のランキング わが国の大学への評価を数値的に把握する手段として海外の企業が発表するランキングを調べた。大学 のランキングは多数存在し、“Shanghai Ranking”内で一覧が紹介されている(Academic Ranking of World Universities)。ここでは、そのなかでも世界的に引用頻度が高く、また信頼度が高いとされる大学 ランキングとして、“Times Higher Education” (THE)と “Quacquarelli Symonds(QS)World University Rankings”を取り上げる。また、世界的に認知されているアジア発信の世界の大学ランキン グである“Shanghai Ranking”も比較対象として紹介する。 3.1.1 Times Higher Education によるランキング 英国の教育会社である“Times Higher Education”(THE)は 2004 年から、英国の教育、留学支援 会社 “Quacquarelli Symonds(QS)World University Rankings”と協力して、 “THE-QS World University Rankings”と称する世界の大学のランキングを発表していた。2009 年以降は THE(Times Higher Education)と QS(QS World University Rankings)は分裂し、その後はそれぞれが独自のラン キングを発表している。 はじめに THE(Times Higher Education)による工学部4大学科(化学、電気電子、機械、土木)を 対象とした世界の工学部ランキングを紹介する。このランキングには建築系学科は含まれていない。THE の 評 価 方 法 は Table 1 に 示 す よ う に 、 教 育 ( teaching=30% )、 研 究 ( research=30% )、 論 文 引 用 (citation=27.5%)、国際評価(international outlook=7.5%)、大学の外部資金収入(industry income=5%) の 5 つの項目から構成される。留意すべき点として、「論文引用」の評価元を 2015 年度より国際報道機 関“Thomson Reuters”の所有する文献データベースから、オランダの学術出版社“Elsevier”のデータ ベースに変えている。このような変更も大学の順位に大きな影響を与えることがあるとされている。 2015 年度のランキングを Table 2 に示すが、10 位以内にはアジアの大学は入っていない。2011 年度の ランキングにおいて“51‐100”という表記は、50 位以下から 100 位以内をまとめて記載したものであ る。2005 年度の“100‐”表記は 100 位以下という意味である。2015 年度では、100 位以内に中国の大 学は 2 校、台湾の大学は 1 校、韓国の大学は 4 校、日本の大学は 4 校入っている。2005、2011、2015 年 度を比較すると、全体的に日本と中国の大学の順位が下がっているのに対して、韓国の大学が順位を上げ ている。また 2005 年のアジアの大学 1 位は東京大学であったが、2015 年は清華大学である(清華大学は 2005 年の 17 位から 23 位まで順位を下げたが、東京大学の順位は 2015 年に 2005 年度の 8 位から 25 位 にまで下がっている) 。 2 Table 1 – THE による世界の工学部評価比率 Ratio (%) Criterion Content Teaching Learning environment 30 Research Volume, income and reputation 30 Citations Research influence 27.5 International outlook Staff, students and research 7.5 Industry income Innovation 5 Table 2 – THE による 2015、2011、2005 年度世界の工学部の 100 位以内ランキング Ranking 2011 2005 Institute 1 2 1 Massachusetts Institute of Technology (MIT) 2 3 4 Stanford University 3 1 7 California Institute of Technology 4 4 38 Princeton University 5 6 6 University of Cambridge 6 9 5 Imperial College London 7 8 13 University of Oxford 8 7 12 ETH Zurich - Swiss Federal Institute of Technology 9 51-100 36 University of California, Los Angeles 10 5 2 University of California, Berkeley (UCB) (2015) … … 23 20 17 Tsinghua University、中国 25 22 8 東京大学 26 51-100 42 KAIST、韓国 35 51-100 65 Seoul National University、韓国 41 51-100 19 京都大学 43 25 10 Peking University、中国 46 28 100- 59 51-100 11 東京工業大学 65 46 57 National Taiwan University、台湾 70 51-100 81 東北大学 96 51-100 100- Pohang University of Science and Technology、韓国 Gwangju Institute of Science and Technology、韓国 3.1.2 QS によるランキング QS は毎年、世界の大学の建築学と土木工学の上位 100 位ランキングを発表している。大学の評価は 6 つの項目からなっている(Table 3)。まず大学評価に関する世界規模のアンケート(Academic reputation from global survey)に 40%の比重が与えられている。続いて大学の全生徒数に対する対象学部の生徒の 割合(Faculty student ratio)と“Scopus”による教員の執筆した論文の引用数(Citation faculty from 3 Scopus)に 20%の比重が与えられている。“Scopus”は、オランダの学術出版社“Elsevier”が所有す る文献データベースであり、世界で最も頻繁に用いられる文献データベースと位置づいている。その他、 10%以下の比重が与えられている項目として、世界規模調査に基づく雇用主の評価(Employer reputation from global survey )、留学生の 割合( Proportion of international students )、外国人教員 の割合 (Proportion of international faculty)がある。 Table 3 – QS による世界の学部の評価方法 Ratio (%) Criterion Academic reputation from global survey 40 Faculty student ratio 20 Citations per faculty from Scopus 20 Employer reputation from global survey 10 Proportion of international students 5 Proportion of international faculty 5 Table 4 に 2015 年度の建築系学科と 2011 年度及び 2015 年度の土木系学科の 10 位までのランキング、 さらに 100 位に入っている中国、韓国、日本の大学を示す。建築系学科のランキングは今年から発表され たため、過去のランキングは記載していない。建築系学科には 100 位以内に中国の大学は 6 校、韓国の 大学は 3 校、台湾の大学は 1 校、日本の大学は 3 校入っている(Table 4a)。土木工学では 100 位以内に 中国の大学は 5 校、韓国の大学は 5 校、台湾の大学は 2 校、日本の大学は 4 校入っている(Table 4b)。 土木系学科のランキング発表は 2011 年度と本年度(2015)の比較が可能である。日本の大学が順位を落 とす一方で他のアジアの大学(韓国、中国、台湾)が順位を上げている。2011、2015 年度において、土 木の分野で日本の大学の 1 位は、東京大学である(2011 年度は、8 位、2015 年度は 10 位)。京都大学の 土木は 2011 年度から 2015 年度の間に順位を 2 つ上げている。2015 年度の建築に関しても、日本の大学 では東京大学が 1 位である(10 位) 。 4 Table 4 – QS による 2015 年度 100 位以内の一部:(a)建築系学科と(b)土木系学科 (a) Ranking Institute 1 Massachusetts Institute of Technology (MIT) 2 UCL (University College London) 3 Delft University of Technology 4 University of California, Berkeley (UCB) 5 Harvard University 6 National University of Singapore (NUS) 7 ETH Zurich - Swiss Federal Institute of Technology 8 Tsinghua University,中国 9 University of Cambridge 10 東京大学 … … 16 Tongji University、 中国 19 Seoul National University、 韓国 32 京都大学 41 Shanghai Jiao Tong University、中国 … … 51-100 Hanyang University、 韓国 Nanjing University、中国 National Cheng Kung university、台湾 SungKyunkwan University、韓国 Tianjin University、中国 東北大学 Zhejiang University、中国 5 (b) Ranking 2011 Institute (2015) 1 1 Massachusetts Institute of Technology (MIT) 2 13 3 7 National University of Singapore (NUS) 4 5 Imperial College London 5 3 University of Cambridge 6 4 University of California, Berkeley (UCB) 7 17 8 2 9 25 10 8 … Delft University of Technology Tsinghua University、中国 Stanford University The University of Hong Kong 東京大学 … 20 22 京都大学 22 48 KAIST、韓国 24 51-100 Seoul National University、韓国 28 51-100 National Taiwan University、台湾 29 51-100 Shanghai Jiao Tong University、中国 32 51-100 Tongji University、中国 41 50 東京工業大学 … 51-100 100- Hanyang University、韓国 100- Harbin Institute of Technology、中国 100- Korea University、韓国 100- National Cheng Kung University、台湾 34 100- Peking University、中国 Sungkyunkwan University (SKKU)、韓国 51-100 東北大学 51-100 Yonsei University、韓国 52-200 Zhejiang University、中国 3.1.3 Shanghai Ranking によるランキング 前節までに示したランキングは英国の企業によるものであるが、アジア発の世界大学ランキングも複数 ある。そのなかで世界的に知名度が高い中国のサイト“Shanghai Ranking”(Academic Ranking of World Universities)を取り上げてみる。本サイトは 2003 年にランキングの発表を始めた。中国政府に 資金援助を受けており、世界トップレベルの大学と中国の大学の差を測ることを目的として始められたも のである。当初は“Shanghai Jiao Tong University”により管理されていたが、現在は中国のコンサル 6 タント会社“Shanghai Ranking Consultancy”により運営されている。 “Shanghai Ranking”は 4 つの項目により大学を評価している。それらは高頻度に引用される研究者の 数、“Science Citation Index(SCI)”に登録されている論文の数、すべての工学系の雑誌のうちトップ 20%の雑誌(“トップ”の評価基準は明記されていない)に掲載されている論文の数、工学研究に係わる 研究予算額である。ここで SCI は、国際報道機関“Thomson Reuters”が所有する引用索引表である。 これらの 4 項目には等しい重み(25%)が置かれている。Table 5 に世界の工学部(建築もしくは土木で はなく工学部全体)ランキングを記載する。 “51‐75”、 “76‐100”という表記になっているのは、正確 な順位が表記されていないためである。中国の大学は 7 校、韓国の大学は 3 校、日本の大学は 4 校が 100 位以内に入っている。 台湾の大学は 100 位以内に入っていない。 アジアの大学の 1 位は清華大学 (Tsinghua University)(12 位)である。一方で日本の大学の 1 位は東北大学の 39 位である。そして、76 位~100 位に京都大学、大阪大学、東京大学が入っている。 7 Table 5 – “Shanghai Ranking”による 2015 年度世界の工学部の 100 位以内の一部 ranking Institute 1 Massachusetts Institute of Technology (MIT) 2 Stanford University 3 University of California, Berkeley 4 The University of Texas at Austin 5 University of Cambridge 6 Imperial College of Science, Technology and Medicine 7 Georgia Institute of Technology 8 University of Michigan-Ann Arbor 9 Carnegie Mellon University 10 Texas A&M University … … 12 Tsinghua University、中国 23 Harbin Institute of Technology、中国 39 東北大学 43 University of Science and Technology of China、中国 50 Xian Jiao Tong University、中国 51-75 Korea University、韓国 51-75 Seoul National University、韓国 51-75 Zhejiang University、中国 76-100 Central South University、 中国 76-100 Huazhong University of Science and Technology、中国 76-100 KAIST、韓国 76-100 京都大学 76-100 大阪大学 76-100 東京大学 本節では、英国の 2 つのランキング及びアジアの 1 つのサイトの大学ランキングを比較した。工学部の ランキングに関しては THE には中国、日本、韓国の大学が等しく入っているが、QS には韓国の大学が 比較的多く、“Shanghai Ranking”には中国の大学が多く入っている。複数のランキングにおいて、多 少の順位の違いはあるけれども、同じ大学の名前が 100 位以内に繰り返し見られる。日本では、東京大学、 京都大学、東京工業大学、東北大学、中国では、清華大学、同済大学、北京大学、浙江大学、韓国では、 KAIST(韓国科学技術院:“Korea Advanced Institute of Science and Technology”)、ソウル大学校、 台湾の大学では国立台湾大学、国立成功大学である。また、同様にどのランキングにおいても、多少の順 位の違いはあるが、10 位内の大学(例えば、MIT、“Imperial College London”、“ETH Zurich”) 8 にはほぼ動きがない。 日本と東アジアの国別の大学のランキングを比較すると、本報告で調査したどのランキングにおいても、 中国の大学のトップ(清華大学)が日本の大学のトップ(東京大学、“Shanghai Ranking”では東北大 学)より順位が高い。2005、2011、2015 年度の THE の工学部のランキングを参照すると、日本の大学 (東京大学、京都大学、東京工業大学)の順位が下がっていく一方で、韓国、中国の大学は一定の順位を 保っている。2011、2015 年度の QS の土木系学科のランキングによると、日本の大学の順位に大きな変 化はないが、韓国、中国、台湾の大学が大きく順位を上げている。これらは日本の大学が、国際的なプレ ゼンスという意味で、徐々に他の東アジアの大学に抜かれつつある現状を示唆するものである。 QS の建築系・土木系学科 のランキングを比較すると、上位 100 位に入る日本の大学の順位(東京大 学、京都大学、東北大学)は全て土木系の方が高い。東京工業大学の建築系学科は上位 100 位に入ってい ない。これは日本の大学の土木系学科の国際認知度が、建築系学科と比較して高いということを暗示する 材料である。日本の建築系・土木系学科 の比較に関して他のランキングも探索してみたが、信頼できる ソースで学科ランキングを紹介しているものは QS だけであった。 本項目では 3 つの異なるランキングを比較した。ランキングごとに大学の順位が入れ替わるのは各々の 評価項目の組み合わせの違いによる。THE は、教育、研究、論文引用にそれぞれ 30%近い比率を与える 一方で、QS は大学評価に関する世界規模のアンケートに 40%の比率を与える。これら 2 つの 2015 年度 工学部のランキングの比較から、QS では“National University of Singapore” (NUS)が 4 位と 10 位以 内に入っているのに対して、THE では 10 位以内に入っていない(13 位)という事例が浮かび上がる。 “Shanghai Ranking”には、研究に関連する項目しかなく、教育に関しては考慮されていない。このラ ンキングによれば、東北大学(39 位)が東京大学(76~100 位)、京都大学(76~100 位)よりはるかに 高い順位に位置づく。さらに、ここで取り上げた世界ランキングを上げるために積極的な取り組みに励む 海外機関があることを考慮しなくてはいけない(Holden 2014)。例えば、シンガポールの大学では、世 界的に知名度がある教員をスカウトする、留学生の比率を増やすなど、ランキングの評価項目を意識した 積極的な取り組みが見られる(Matthews 2015) 。また、上述の Holden(2014)によると、マレーシア の大学は、大学の方針に「2020 年までに QS のランキングで上位 200 位以内に入る」ことを明記してい る。 3.2 日本と米国における建築、土木系学科の教員構成 3.2.1 日本の建築系、土木系学科の教員構成 項目 3.1 で報告した THE、QS において、外国人教員の多さが、国際化の度合いを示す指標として評価 の対象になっている。しかし日本特有の地理、言語などの条件から、日本の大学の外国人教員の数は非常 に少なく、参考にしづらい。そこで本節では、海外の大学で博士号を取得した教員を、外国で高等教育を 受けたことをもって外国人教員の代替の指標とみなして下記を考察する。 日本の建築系学科と土木系学科の海外で博士号を取得した教員数は下記の通りである。資料として日本 建築学会教員名簿(建築学会 2014) 、土木学会教員名簿(土木学会 2015)を利用した。工学部に所属す 9 る他学科(機械、電気電子、化学)についても調査を試みたが、個人情報保護の観点から教員名簿が公表 されていないという壁に阻まれた。海外博士号取得者は、建築系学科で計 51 人、土木系学科で計 81 人で ある。上述の名簿に記載されている全教員数は、両学科ともほぼ等しい(約 2,000 人)ことを考慮すると、 海外博士号取得者の割合は建築系学科で約 2.5%、土木系学科で 4%と、土木系学科の割合が高い。 Table 6 に両学科の海外博士号取得者の留学先(国別)を記す。この表から、両学科とも約 75%が米国 で博士号を取得していることがわかる。ついで約 10%が英国を留学先として選んでいる。残りはフランス、 ドイツなどであり、両学科とも行き先に関しては似かよった分布を示す。一方で、建築系学科のみにスイ スを選んでいるものが 2 人、土木系学科にはカナダを行き先として選んでいるものが 5 人いる。 Table 6 – 土木系学科、建築系学科の教員の海外博士号取得国 (人) 米国 英国 フランス スイス ドイツ カナダ その他 計 土木系学科 58 10 2 0 1 5 5 81 建築系学科 39 5 3 2 1 0 1 51 3.2.2 米国大学の土木系学科における外国出身教員 前項 3.2.1 では、海外で博士号を取得した日本の教員数を調べた。本項では、それとの比較として、米 国の大学の土木系学科で勤務する外国出身教員数を調査する。米国の 6 つの大学、“Columbia University” (Columbia Univ.)、“Georgia Institute of Technology”(Georgia Tech.)、“Massachusetts Institute of Technology”(MIT)、“University of Michigan”(Univ. Michigan)、“University of Texas at Austin” (Univ. Texas Austin)、“University of Washington”(Univ. Washington)の外国出身教員の分布を 示す。対象とした大学は、3.1 節で述べた大学ランキングを参考に、世界的に名前の知られた大学である こと、及び各大学のサイト上で教員の教育歴を調べることができることを条件にした。本項目では、国籍 ではなく出身大学(学部)の国籍で出身地を判別している。 Table 7a 国別の分布を示す。いずれの大学も全教員のうち 10%以上は在留外国人が占めている。 “Columbia Univ.”に関しては、42%が該当するが。外国出身教員の数が比較的多い(8 人)こと、全教 員数が少ない(19 人)ことが特徴である。 Table 7b に東アジア内での分布を示す。中国出身の教員は、いずれの教育機関にも存在するが、日本、 韓国、台湾出身の教員の数はごく一部に限られている。中国出身者が 12 人と格段に多く、次いで韓国出 身者と台湾出身者が 3 人である。日本出身者は 2 人(うち日本国籍は 1 人)にとどまる。 米国の土木系学科の多くは世界中から幅広く教員を集めている。前項では、日本の建築系学科に関して 外国で博士号を取得した割合は約 2.5%、土木学科では約 4%であり、それら教員の博士号の取得先とし て米国もしくは英国が多いことを指摘した。一方で、本項で調査した米国の土木系学科の外国出身教員の 割合は平均 30%である。つまり日本の建築、土木系学科は米国の土木系学科と比べて、教員の国際性が 極めて限られている。 10 Table 7 – 米国の主要大学、土木系学科の外人教員の分布:(a)世界(b) 東アジア (a) 全教員数 外人教員数 東アジア インド 中東 欧州 南米 中米 その他 Columbia Univ. 19 8 3 0 0 4 0 1 0 Georgia Tech. 74 23 9 1 4 6 2 0 1 MIT 56 16 2 1 4 5 3 0 1 Univ. Michigan 37 11 2 1 1 6 0 0 1 Univ. Texas Austin 63 16 2 3 2 5 4 0 0 Univ. Washington 50 5 2 1 1 1 0 0 0 (b) 中国 韓国 台湾 日本 Columbia Univ. 1 0 0 2 Georgia Tech. 5 2 2 0 MIT 1 0 1 0 Univ. Michigan 1 1 0 0 Univ. Texas Austin 2 0 0 0 Univ. Washington 2 0 0 0 3.3 日本の建築、土木系学科教員の英語論文執筆状況 3.1 節で報告した大学のランキングにおいて、 (英語)論文の引用数が重要な評価事項となっている。こ れに基づいて、建築系学科を含むわが国の工学研究という観点から国際展開の度合いを計る指標の一つと して、英語論文の投稿状況を報告する。 3.3.1 日本の 5 大工学系学会(日本建築学会、土木学会、日本化学会、電気学会、日本機械学会)の英語 学術誌発刊状況 日本の 5 大工学系学会(日本建築学会、土木学会、日本化学会、電気学会、日本機械学会)の英語学術 誌の発行状況を調査した。以下ではそれぞれの学会を、建築、土木、化学、電気電子、機械学会と略称す る。Table 8 にまとめるように、これらの学会はすべて自前の英語学術誌を発行している。なかでも化学 が比較的早くから国際展開を図っている。建築、土木、電気電子、機械学会は日本語論文も発行している が、化学学会は 2013 年に日本語学術誌を廃止した。また化学学会の雑誌は、“The Chemical Records” を除いて比較的高いインパクトファクター(IF)(1.0 以上)を示している。IF とは、国際報道機関 “Thomson Reuters”が発表している学術誌の尺度である。各雑誌に掲載されている論文の平均引用数を 11 尺度の基準としている。建築学会は“Journal of Asian Architecture and Building Engineering”という 英語学術誌を発行している。この学術誌は 0.53 の IF を示す。機械学会は 7 誌を発行しているが、IF を 持っているのは”Journal of Thermal Science and Technology”(IF=0.54)と”Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing” (IF=0.279)のみである。土木学会は現在(2015 年 11 月)、英語学術誌(Journal of JSCE)を 1 誌発行しているが、この学術誌は IF を持っていない。 電気電子学会は、4 誌を発行しており、うち 3 誌(翻訳版 2 誌含む)に IF がある。化学および電気電子 学会は、オンライン及び紙媒体で雑誌を発行しているが、その他の学会(建築、土木、機械)はオンライ ンのみの発行である。 英語学術誌の発行状況に関しては、工学系 5 大学会は全て英語学術誌を発表しているが、IF の高さと いう点においては、化学学会のみが健闘している状況である。 Table 8 – 5 大工学系学会(建築、機械、土木、電気電子、化学)の英語論文状況 オンライン紙 発刊開始年 IF 媒体の別 2014 年の 発行論文数 建築 Journal of Asian Architecture and オンライン 2002 0.53 86 オンライン 2007 0.279 83 オンライン 2006 - 25 オンライン 2006 0.54 14 Journal of Fluid Science and Technology オンライン 2006 - 76 Mechanical Engineering Reviews オンライン 2014 - 15 Mechanical Engineering Journal オンライン 2014 - 65 Mechanical Engineering Letters オンライン 2015 - - オンライン 2013 - 28 オンライン 2002-2012 オンライン 2012 - 69 両方 2006 0.213 105 両方 1972 0.174 100 Building Engineering 機械 Journal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturing Journal of Biomechanical Science and Engineering Journal of Thermal Science and Technology 土木 Journal of JSCE Structural Engineering / Earthquake Engineering - (2012) 5 (2012) 電気電子 IEEJ Journal of Industry Applications IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering Electrical Engineering in Japan 12 Electronics and Communications in Japan 両方 2008 0.125 100 Chemistry Letters 両方 1972 1.23 447 Bulletin of Chemical Society of Japan 両方 1926 2.21 159 The Chemical Records 両方 2001 - 57 Chemistry-An Asian Journal 両方 2006 4.59 433 Asian Journal of Organic Chemistry 両方 2012 3.32 169 化学 3.3.2 日本の建築系・土木系学科構造系教員の英語論文投稿状況 ここでは 2 番目の視点として、日本の建築系学科教員(一部、土木系学科教員を含む)の英語論文投稿 状況を報告する。まず構造工学を対象にする。第一に“American Society of Civil Engineers”(ASCE) のうち構造系雑誌(Journal of Structural Engineering)を調査対象とする。この学術雑誌は、構造系雑 誌のなかで IF(2014 年度は 1.504)は必ずしも一番高いわけではないが、構造系分野では全世界から投 稿があり、また購読数も圧倒的に多いことから、世界の動向を知るに最適な雑誌と考え本調査の対象とし た。Figure 1 に米国、欧州諸国(イタリア、ギリシャ)、東アジア主要国の 2010~2015 年の投稿数を記 載する。ここに記されているのは、各年度の採用数ではなく投稿数である。“Journal of Structural Engineering”には、年間平均約 900 編の投稿があり、年間平均採用数は 300 編である。投稿数について は、米国が 150 編以上と全ての年度で最も多い。また、アジア諸国(日本、中国、台湾)の投稿数が増加 しているが、なかでも中国からの投稿数は 74 編(2010 年度)から 188 編(2015 年度)と増加数が著し い。日本の場合も 7 編(2010 年度)から 19 編(2015 年度)と増加はしているものの、中国の投稿数と 比較すると各年度において約 1/10 に留まっている。ちなみに、香港の投稿数に大きな変化はない。また 欧州で投稿数の多いイタリアやギリシャに関しては、アジアの場合のような過去 5 年での急速な右肩上が り傾向は見られない。Table 9 には日本、中国、台湾の 2011~2014 年度の採用数と投稿数の比較を示す。 Table 9 において“()”内は投稿数である。2011~2014 年度の間に、日本の場合は採用率が約 40~80% であるが、中国の場合は最も高い年度でも、25%を上回ることはない。一方採用数においては各年度にお いて中国が日本の 2~5 倍ある。台湾の場合は採用率にばらつきがあるものの、2012 年には 4 編中、3 編 が採用されている。日本、中国、台湾の比較から、中国が必ずしも高い確率で採用掲載されてはいないも のの、積極的に論文を投稿する姿勢を持って取り組んでいることがうかがえる。 13 米国 日本 中国 2010 台湾 2011 香港 2013 2012 2014 2015 イタリア ギリシャ 0 50 (編) 100 150 200 250 Figure 1 – ASCE Journal of Structural Engineering への 米国、欧州一部の国、東アジア主要国の 2010~2015 年の投稿数 Table 9 –“ASCE Journal of Structural Engineering”への 日本、中国、台湾の 2011~2014 年の採用及び投稿数 (編) 日本 中国 台湾 2011 7(9) 22(91) 0(3) 2012 6(16) 20(100) 3(4) 2013 9(11) 19(137) 2(5) 2014 5(10) 32(171) 3(14) 第 2 に、耐震工学系で最も高い IF(2.305)を示す“Earthquake Engineering and Strucutral Dynamics (EESD)”を報告する。2015 年及び、2005 年から 2015 年の国別採用論文の割合を示す(Figure 2) 。 2005 年から 2015 年の間に、1,068 編の論文が採用されており、 2015 年度に関しては 2015 年 9 月末時 点で 75 編が採用されている。過去 10 年に発表された論文のうち、米国が最も高い割合を示すが(25%) 、 日本、台湾、中国の割合も決して低くはない(5%以上) 。EESD においては、日本人エディターがいると いうこともあり、わが国の建築学科を含む構造系は、比較的積極的に投稿していることが見受けられる。 14 カナダ ギリシャ イタリア 韓国 香港 2005 2015-2005 台湾 中国 日本 米国 0 5 10 15 20 25 30 (%) Figure 2 – EESD へのアジア及び欧米諸国の論文投稿状況 第 3 に、耐震工学系の雑誌のなかで比較的高い IF(1.321)を示す“Earthquake Spectra”の 2009、 2011、2014 年度の国別採用状況を調査した。調査した各年度とも 5 割以上の論文が米国のものである。 Table 10 に記載した国では、米国を除いて大きな違いはない。ASCE や EESD と違い、“Earthquake Spectra”に関しては米国内で読まれる学術雑誌と考えられている傾向があるとみられ、そのためか東ア ジアの貢献度は上述の 2 雑誌と比べて、きわめて低いことがわかった。 Table 10 – 2009、2011、2014 年度の“Earthquake Spectra”の国別採用状況 全体 ギリシャ イタリア 台湾 中国 日本 米国 2014 77 0 1 1 1 2 53 2011 106 2 4 5 1 6 53 2009 76 2 1 3 0 0 44 3.3.3 日本の建築環境系学科教員の英語論文投稿状況 3.3.2 項では、建築系・土木系教員による構造工学に関連した英語論文執筆状況を紹介した。本項目で は、それとの比較として、建築系学科に属する環境系教員の英語論文投稿状況を調査した。英語学術誌国 際報道機関“Thomson Reuters”の所有する文献データベース“Web of Science”に登録されている英 語学術誌のなかで、建築の環境系に関連する学術誌として Table 11 に示す 6 論文誌を調査した。“()” 外の数字は、日本人による論文数であり、“()”内の数字は全論文数である。本項において、「日本人 15 による論文」とは、日本の研究機関に所属している日本人著者が 1 人以上いることを条件としている。 “Building Simulation”(IF=1.029)、“Indoor Air”(IF=4.904)、“Indoor and Built Environment” (IF=1.225)、“Journal of Building Performance Simulation”(IF=1.623)には 2013~2015 年の間 にそれぞれ計 2 編、5 編、9 編、1 編が採用されている。 一方で、 “Building and Environment” (IF=3.341)、 “Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics”(IF=1.414)には 2013~2015 年の間にそ れぞれ計 30 編、48 編と上述の 4 学術誌と比較して多く採用されている。ただ “Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics”に関しては、環境系だけではなく、日本人構造系教員による 論文の数も少なくないことを付記しておく。また、日本人の論文執筆状況との比較として、環境系におけ る東アジアの論文執筆状況を調査した。上述の 6 論文誌のうち、中国人がエディターではない学術誌のな かで最も IF が高い“Journal of Building Performance Simulation”を見ると、2013~2015 年度におい て中国人による論文は各年度約 20 編が採用されていることがわかった。 Table 11 – 環境に関連する英語学術誌への 日本人による論文の掲載状況と 3 年間の総掲載数(2013~2015 年度) IF 2013 2014 2015 計 Building and Environment 3.341 13(307) 5(325) 12(418) 30(1050) Building Simulation 1.029 1(33) 0(58) 1(60) 2(151) Indoor Air 4.904 2(45) 2(58) 1(46) 5(149) Indoor and Built Environment 1.225 6(83) 3(86) 0(83) 9(252) Journal of Building Performance Simulation 1.623 1(29) 0(28) 0(30) 1(87) Journal of Wind Engineering and Industrial 1.414 19(148) 16(154) 13(199) 48(501) Aerodynamics 3.3.4 日本の建築計画系学科教員の英語論文投稿状況 本項では、建築系学科に属する計画系教員の英語論文投稿状況を調査した。英語学術誌国際報道機関 “Thomson Reuters”の所有する文献データベース“Web of Science”に登録されている英語学術誌の なかで、建築の計画系に関連する学術誌として、Table 12 に示す 8 論文誌を調査した。 “Environment and Planning B – Planning & Design”(IF=0.983)、“Environment and Planning D – Society & Space”(IF=1.515)、“Journal of Enviromental Phycology”(IF=2.604)“Landscape and Urban Planning”(IF=3.307)の 4 論文誌に関しては、2013~2015 年の間に日本人教員が執筆した論文の数 は最も多い年度でも、3 編である。なおここでも、日本の研究機関に所属している日本人著者が 1 人以上 い れ ば 日 本 人 執 筆 論 文 と勘 定 し て い る 。 ま た 、 “Environment and Behaviour” ( IF= 2.612 )、 “International Journal of Urban and Regional Research”(IF=1.672)、“Journal of Architectural and Planning Research”(IF=0.50)、“Journal of Urban Planning and Development”(IF=0.809) には、2013~2015 年度の間に日本人による論文はない。また、日本人の論文執筆状況との比較として、 3.3.3 項で紹介した環境系と同様に、計画系における東アジアの論文執筆状況を一部調査した。上述の 8 16 論文誌のうち、最も IF が高い“Landscape and Urban Planning”について、2013~2015 年度の中国人 の論文発表数を調べた。 各年度約 25 編の論文が採用されており、これは日本人に比べて 10 倍以上である。 3.3.2 項で紹介した構造系論文に関しては、その集計において“Correspoonding Author”の国籍に応 じて論文数を勘定した。一方 3.3.3(環境系論文) 、3.3.4 項(計画系論文)では、日本人が 1 人でも著者 に含まれている場合には日本人による論文と勘定した。構造系を環境系、計画系と同様の基準で勘定する なら、2013~2015 年における日本人による論文採用数は、ASCE、EESD ともに年平均約 10 編であった。 一方で、中国人による英語論文の数は、年平均 25 編(ASCE)、5 編(EESD)であった。以上のことか ら本節で調査した範囲では、計画系の教員は、構造・環境系の教員よりも英語論文の執筆に対して一層消 極的であることがうかがえる。また、構造、環境、計画系の 3 分野ともに、一部の学術誌を除いて、中国 人研究者が日本人研究者と比べてより積極的に英語論文を執筆している状況がみられた。 Table 12 – 計画系に関連しうる英語学術誌への 日本人による論文の掲載状況と全掲載数(2013~2015 年度) IF 2013 2014 2015 計 Environment and Behavior 2.612 0(42) 0(40) 0(50) 0(132) Environment and Planning B-Planning & Design 0.983 0(58) 1(55) 1(60) 2(173) Environment and Planning D-Society & Space 1.515 0(63) 0(66) 1(63) 1(192) International Journal of Urban and Regional Research 1.672 0(95) 0(100) 0(49) 0(244) 0.50 0(20) 0(20) 0(15) 0(55) Journal of Environmental Psychology 2.604 1(71) 2(96) 0(77) 3(244) Journal of Urban Planning and Development 0.809 0(33) 0(32) 0(80) 0(145) Landscape and Urban Planning 3.307 2(150) 2(177) 3(199) 7(526) Journal of Architectural and Planning Research 3.4 日本で研究する外国人研究者 本節では日本の建築系学科の国際度の変化の指標として、日本に渡航した外国人研究者の数の変遷を報 告する。日本学術振興会の外国人研究者招へい事業(外国人特別研究員)は、諸外国の若手研究者を対象 とし、日本の大学等において受入研究者と共同して研究に従事する機会を提供するものである(日本学術 振興会) 。月額 362,000 円及び往復国際航空券が支給され、支給期間は 1~2 年間である。Table 13 に、 2006 年度から 2015 年度に JSPS 制度を利用して日本に渡航した外国人研究者の全体数及び工学部の数を 示す。Table 13a において、2006 年度から 2015 年度の 10 年間にわたって、全体数が大幅に減少(154 人から 48 人)している。各年度の外国人特別研究員採用者数は約 240 名と一定しているため、工学部以 外での採用が増えたと推測できる。 Figure 3 に、2006、2010、2015 年度に JSPS 制度を利用し、日本に渡航した外国人研究者における工 学部各分野の人数の割合を示す。Figure 3 において、これらの年度を選んだのは過去 10 年の変遷をみや すく表示するためである。上述したように各年度の総採用数に大きな違いがあるため、Figure 3 は人数で はなく割合(%)を示している。建築の割合が、年とともに減少していっている一方で、他の 4 学科(土 17 木、化学、電気電子、機械)は安定した割合を保っている。また、過去十年で採用数が減り続けているの も建築分野のみである。 Table 13 – JSPS 制度を利用して日本に渡航した外国人研究者: (a)各年度の総数及び比較対象専攻分野の数(b)建築系学科内の各専攻の人数 (a) 建築学 化学 土木 機械 電気電子 材料 ナノ・マイクロ 環境保全 情報 全体 2006 14 11 13 12 21 24 10 0 0 154 2007 10 10 14 13 14 15 10 3 21 137 2008 5 5 14 9 14 13 4 1 14 99 2009 7 9 12 7 12 13 8 2 4 101 2010 5 7 13 5 5 10 6 0 17 83 2011 5 9 9 8 5 10 7 0 8 78 2012 6 7 9 5 8 10 2 1 12 76 2013 4 2 10 6 6 12 4 3 7 72 2014 4 0 13 7 5 5 3 0 0 51 2015 1 5 5 3 10 8 0 2 0 48 (b) 構造 材料 環境 計画 建築史 意匠 2006 8 1 1 4 0 0 2007 4 1 2 1 2 0 2008 1 0 2 0 1 1 2009 2 0 1 3 1 0 2010 2 0 1 0 2 0 2011 1 0 1 1 2 0 2012 5 0 0 0 1 0 2013 2 0 1 1 0 0 2014 1 1 0 0 2 0 2015 0 0 1 0 0 0 18 情報 環境保全 ナノ・マイクロ 材料 電気電子 機械 2006 2010 2015 土木 化学 建築学 0 5 10 (%) 15 20 25 (a) 30 建築学 25 化学 土木 (%) 20 機械 電気電子 15 10 5 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (年度) (b) Figure 3 – JSPS 制度を利用し日本に渡航した外国人研究者の工学部における受け入れ状況: (a)2006、2010、2015 年度の比較(b)2006~2015 年度の建築、土木、電気電子、化学、機械の比較 3.5 日本の工学系学科の研究予算獲得状況 日本の工学系学科の研究予算獲得状況として、学術振興会が公開している 2007~2015 年度の科研費(S) の専攻別獲得状況を調査した。その動機は、THE・QS において、大学、学科の評価の項目の一つとして 獲得した研究費の金額があることによる。科研費にもさまざまな分類があるが、分野を越えての獲得競争 があり、かつ分野別の採用状況が顕著に現れる科研費(S)を対象とした。Table 14 に、全採用数と工学 に関係した専攻の採用数を記載する。全体の採用数(研究代表者数)は、2007 年度は 76 人であるが、そ 19 れ以降は約 90 人で安定している。化学では毎年 6 人以上の採用数があり、建築を除く分野では各年度 3 人程度の採用がある。建築に関しては、2007 年度は 2 人採用されているものの、それ以降の採用数は 0 もしくは 1 人である。またこの調査で対象とした分野のうち、2007~2015 年度の総採用数が一桁である のも建築のみである。これらのことから、建築学科がわが国の他の工学系学科と比較して、科研費の獲得 という観点から相当低位にあることがわかる。 Table 14 – 2007~2015 年度学術振興会の科研費(S)の専攻分野別獲得状況 建築 化学 土木 機械 電気電子 材料 ナノ・マイクロ 情報 全体 2007 2 7 3 2 3 3 3 4 76 2008 1 6 1 3 4 4 4 4 86 2009 1 7 3 3 5 3 2 5 89 2010 0 5 2 3 3 3 2 3 89 2011 1 6 3 3 3 2 2 6 90 2012 1 6 1 3 4 6 2 6 87 2013 1 7 1 2 5 3 3 1 87 2014 0 8 1 1 4 4 3 4 87 2015 0 8 4 3 3 3 1 6 87 計 7 60 19 23 34 31 22 39 778 4 日本人の海外留学の現状 3 章では、わが国の建築、土木系学科の国際化の現状を、日本を含むアジアの大学と世界の大学のラン キングや、日本及び米国の建築、土木系学科及び海外の工学部の教員の傾向などを対象として報告した。 複数の大学ランキングの比較のなかで、日本の大学は一部高順位を保っているものの、東アジアの大学に 追い抜かれつつある状況が示された。本章では、このような現状を考慮したうえで、日本の建築、土木系 学科の今後の国際化の発展可能性を探るために、わが国の将来を担う学生、若手研究者の海外留学の現状 を検討する。まず直近の日本人の留学者数と、日本の産業界が国際化に関して大学に期待する取り組みを 報告したうえで、わが国の留学支援の現状の報告として、政府所管や個人団体等による奨学金制度を紹介 する。 4.1 日本人の海外留学者数 2015 年に発表された、2012 年度までのユネスコ統計局、OECD、 “Institute of International Education”(IIE) 、中国大使館教育部、台湾教育部等の発表による統計を利用して調査した日本人の海 外留学者数の推移を報告する(日本学生支援機構)。各機関の留学生の定義は以下の通りである。ユネス コ統計局では、高等教育機関に在籍する、「受入国に永住・定住していない」学生が対象となる。OECD は、高等教育機関に在籍する「受入国に永住・定住していない」又は「受入国の国籍を有しない」学生で 正規課程に属する者を留学生としている。IIE では、アメリカ合衆国の高等教育機関に在籍している、ア メリカ市民(永住権を有する者を含む)以外の者を対象としている。中国大使館教育部の発表では、学生 20 ビザ(X ビザ「留学期間が 180 日以上」 )又は訪問ビザ(滞在 180 日未満)等で中国の大学に在学してい る者を集計している。台湾教育部は、台湾の高等教育機関に在籍している者(短期留学生を含む)を対象 としている。1986 年から増加していたが 2000 年半ばより、日本人の海外留学生数は減少の傾向にある (Figure 4)。2012 年度の総留学者(60,138 人)のうち約 1/3 は中国(21,126 人)もしくは米国(19,568 人)を行き先として選択している(Table 15)。また、2012 年度の日本全国の学部生は 2,560,909 人、大 学院生は 168,903 人である(政府統計の総合窓口)。つまり、2012 年度の日本の全大学生に対する海外留 学生の割合は約 2.2%である。なお 5 章では、アジアの大学の留学経験者数を紹介し、ここで述べた日本 の留学者数と比較する。 Figure 4 – 日本から海外への留学者数の推移(日本学生支援機構) Table 15 – 2012 年の主な留学先・留学者数(日本学生支援機構) 国・地域 中 留学者数 (前年数) 21,126 (17,961) 3,165 人 17.6% 19,568 (19,966) △398 人 △2.0% ス 3,633 (3,705) △72 人 △1.9% 湾 3,097 (2,861) 236 人 8.2% ツ 1,955 (1,867) 88 人 4.7% 1,855 (2,117) △262 人 △12.4% ス 1,661 (1,685) △24 人 △1.4% ダ 1,626 (1,851) △225 人 △12.2% 国 1,107 (1,190) △83 人 △7.0% 1,052 (1,061) △9 人 △0.8% 3,458 (3,237) 221 人 6.8% 60,138 (57,501) 2,637 人 国 ア メ リ カ 合 衆 国 イ ギ リ 台 ド イ オ ー ス ト ラ リ ア フ カ ラ ン ナ 韓 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド そ の 計 他 21 対前年比 4.6% 3.2.1 項で紹介した建築、土木系学科の全国の教員の資料を利用して、年代別の海外での博士号取得者 数を検討する。これは、当時(1960 年代から 2000 年代)の留学生数を推測することが狙いである。Figure 5 は、海外博士号取得した教員の年代別学士号取得年の割合の比較である。Figure 5 では、人数ではなく 割合(%)で示している。建築系学科と土木系学科で、年代別の分布に大差はない。現役世代が多い 70 年代以降では、70、80 年代が 20%以上と高い割合を示す一方で、90 年代、2000 年代と世代が下るにつ れその割合が徐々に減少している。建築系学科と土木系学科ではともに、若い世代で教員の海外博士号取 得者の割合が低下している傾向にあり、近い将来に 70 年代、80 年代の教員が定年を迎えることを考慮す れば、海外博士号取得者の数は一気に低下すると考えられる。2014 年度の建築、土木学科を合わせた入 学者数は約 14,000 人である(政府統計の総合窓口) 。1970 年代から現在まで学生数に大きな変化はない と想定すると、建築・土木学科において各年代とも当時の学生数に対して非常に限られた数の学生が博士 号取得を目的として留学をしたことがうかがえる。 00 土木 建築 ( 90 ) 年 80 代 70 60 0 10 20 (%) 30 40 Figure 5 – 土木系学科、建築系学科の海外博士号取得教員比率の年代別の比較 4.2 日本の産業界が大学に期待する国際化への取り組み わが国の大学の国際化に対する国内企業からの期待について、日本経済団体連合会がアンケートを取っ た結果を紹介する(日本経済団体連合会 2015)。ここでは、経団連が2014年度に行った経団連会員企 業及び地方別経済団体加盟企業に対する「グローバル人材の育成・活用に向けて求められる取り組みに関 するアンケート」の結果の一部を示す。Figure 6aが示すように、国内企業が大学に期待する取り組みの1 位は「日本人学生の海外留学の奨励」、2位が「大学入試改革」、3位が「外国人留学生の受入れ拡大に向 けた取り組み」で、企業が、学生の海外体験を重視していることもあり、双方向の留学生交流推進を期待 していることがわかる。Figure 6bが示すように、大学カリキュラム改革では、「学生の主体的能動的学 びを促す双方向型の授業」や、「企業の経営幹部・実務者からグローバル・ビジネスの実態を学ぶ講義」 などを求めている。ただし、本アンケートは一般的な内容にとどまっているため、わが国の大学の国際化 22 に対する期待を明らかにするには、より具体的な質問項目が求められる。 (a) (b) Figure 6 – (a) グローバル人材育成に向けて大学に期待する取り組み (b) 大学に取り組んでほしい教育・カリキュラム改革(日本経済団体連合会 23 2015) 4.3 日本政府所管の奨学金制度 本節では、政府所管の団体による奨学金制度の一部を紹介する。日本学術振興会(JSPS)の海外特別 研究員制度は、日本の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若 手研究者を海外に派遣し、研究に専念できるよう支援する制度である(日本学術振興会)。滞在費・研究 活動費として、年額約 380 万円~520 万円及び往復航空運賃が支給され、支給期間は最長 2 年間である。 2009 年から 2012 年及び 2014 年の日本学術振興会日本人海外特別研究員の動向を Figure 7a に示す。2009 年と 2014 年の全採用数を比較すると 6 倍(6 人から 36 人)に増加している。Figure 7b は工学部関連の 採用者を示す。数に多少のばらつきはあるが、採用者の所属分野にそれほど偏りはない。建築分野では建 築の構造の研究員が 1 名採用されており、2014 年度の採用数(36 人)と比較すると、建築分野での採用 割合は全体の 3%程度を占める。 2009 2010 2011 2012 2014 0 10 20 30 40 (人) (a) 情報 環境保全 ナノマイクロ科学 材料 電機電子 機械 土木 化学 建築学 0 2 4 (人) (b) 6 8 Figure 7 – JSPS 日本人海外特別研究員の動向(a)2009 年~2012 年及び 2014 年の採用人数 (b)2014 年の工学部関連の採用人数 24 文部科学省は、意欲と能力ある日本の若年層が、海外留学に踏み出す気運を醸成することを目的として、 2013 年 10 月より留学促進キャンペーン「トビタテ!留学 JAPAN」を開始した(トビタテ!留学 JAPAN) 。 本キャンペーンは政府及び社会が共同して取り組むことを特徴としており、各分野で活躍する民間企業及 び個人からの支援により、官民協働で「グローバル人材育成コミュティ」を形成し、将来世界で活躍でき るグローバル人材を育成することを意図している。大学、高等専門学校生を対象とした 28 日以上 2 年以 内(3 か月以上推奨)の留学計画を支援している。 「トビタテ!留学 JAPAN」では、5 つのコースに分けて人材を申請する。第 1 に理系分野、複合・融 合系分野を対象とした理系、複合・融合系人材コースが挙げられる。第 2 に人文・社会科学系分野を対象 とした新興国派遣コースがある。今後、経済成長が期待される新興国において現地語の習得、異文化理解 等の学修、研究やインターンシップ、フィールドワーク、ボランティア等の実践活動の支援を意図してい る。第 3 は世界トップレベル大学等派遣コースであり、世界大学ランキングで上位 100 位以内に位置す るなど、諸外国におけるトップレベルの大学や研究所等に留学し、学修、研究やインターンシップ、フィ ールドワーク等の実践活動の支援を意図している。第 4 は多様性人材コースであり、スポーツ、芸術、日 本文化等の多様な分野で活躍が期待される学生の留学の支援を、第 5 の地域人材コースでは、地域の活性 化に貢献し地域に定着する意欲のある学生を対象に、地域内でのインターンシップを組み合わせた留学の 支援を意図している。 2013 年度の大学生採用者は 323 人、2014 年度は 256 人、2015 年度は 404 人が採用されている。2015 年度の採用のうち、工学部の学生は 45 人であるが、そのなかで建築系学科の学生は 36 人である。工学部 の採用のうち、8 割が建築の学生であり、占める割合は極めて高い。この背景には、一部の大学の建築系 学科がこの留学制度を活用することを学生に組織的に勧めている事実もある。 4.4 日本の個人財団による奨学金制度 次に海外に留学した工学部、特に建築の分野の奨学生について、個人財団による奨学金制度を利用した 事例を一部紹介する。船井情報科学振興財団は、情報科学及び情報技術に関する履修または研究を行う日 本人海外留学生に対する奨学金の支給を目的としている(船井情報科学振興財団) 。採用者に授業料全額、 医療保険費全額、月額生活費 2,500USD、支度金 50 万円及び往復航空運賃が支給され、支給期間は最長 2 年間である。Figure 8 に奨学金取得者のうち、海外で修士または博士号を取得した者の専攻分野と人数 を示す。本奨学金の目的が情報科学及び情報技術の発展であるため、情報学専攻者の占める割合が高い。 25 情報学 理学 宇宙工学 ナノ・マイクロ科学 電気電子工学 機械工学 修士 土木工学 博士 建築構造 0 2 4 6 8 10 (人) Figure 8 – 船井奨学金取得者の海外で修士及び博士号を取得した者の専攻分野と人数 村田海外奨会は日本人学生・研究者を対象とした「海外留学奨学金」を支給している(村田海外奨会) 。 基礎学問専攻者を中心に毎年 100 名を超える応募者のなかから、2 名から 4 名を選び、本人の希望する海 外の大学に 1 年間または 2 年間留学させる奨学金制度である。奨学生に対して学費、生活費、往復旅費な ど留学に要する経費を支給する。2003 年から 2015 年までの間に 26 人が奨学金を取得している。大部分 が奨学金申請時点ですでに日本の大学で教職についており、彼らは海外で 1 年間の研究活動のためにこの 奨学金を取得している。一方で、米国での宇宙工学専攻の修士号(1 名) 、及び土木工学の博士号(1 名) を取得のためにこの奨学金を獲得した学生がいる。 4.5 日本の大学を通じて応募する奨学金制度 その他の奨学金として大学を通じて応募する奨学金制度の一部を紹介する。業務スーパージャパンドリ ーム財団は大学二年生以上の学生の派遣留学を支援している(業務スーパージャパンドリーム財団)。月 額 15 万円で一年以内の支給である。毎年度 170 名程度募集している。佐藤陽国際奨学財団はアジアの特 定の国への留学を支援している(佐藤陽国際奨学財団)。奨学金給付期間は 6~12 ヶ月であり、月額 8 万 円、海外渡航費 25 万円そして海外留学準備費用 10 万円が支給される。アジア国際交流奨学財団の川口靜 記念奨学金はアジアの国への留学を支援する(アジア国際交流奨学財団)。学部、修士、博士の学生対象 で、博士学生には月 70,000 円、 修士・学部生には月 60,000 円が支給される。支給期間は 1 年間である。 竹中育英会は自然科学系の科目で海外での学位取得を目的とした学生のための奨学金である(竹中育英 会)。授業料、滞在費・渡航費等として最高 450 万円が支給される。2015 年度は 3 名が採用される予定で ある。KDDI 財団奨学金は日本の大学に在籍する後期博士課程学生を対象にした海外での研究を支援する 奨学金である(KDDI 財団)。通常 300 万円が支給される。2015 年度は 2 名採用されている。人文系の科 目の研究を行う大学院生が採用されることが多く、2015 年度の内の一人は建築史の学生が採用されてい る。経団連は産業リーダー人材育成と日本人大学院生という 2 種類の奨学金プログラムを提供している (経団連国際教育交流財団)。前者は日本企業就職希望者を対象としたもので、後者は研究者志望者を対 26 象としている。経団連日本人大学院生奨学金は毎年、財団が指定する日本の大学院に在籍する 2 名を採用 し、支給期間は 1 年もしくは 2 年である。年間 350 万円が支給される。上述のようにこれらの奨学金は 手厚い支援を提供する一方で、申請の際に日本の大学に在籍しているという条件があるため、申請できる 人間は限られる。 日本学生支援機構は毎年、海外奨学金パンフレット(日本学生支援機構)を発行している。このパンフ レットは日本学生支援機構奨学金、地方自治体奨学金、外国政府等奨学金の 3 項目から成り立っており、 学部、修士、学位留学に適用可能な、奨学金を紹介している。学生にとって自身の目的、留学先に適合し た奨学金を探すのに有用である。また、日本国際教育支援協会は冠奨学金事業(日本国際教育支援協会) を展開している。企業、個人に寄付を募り、彼らの名称を冠した冠奨学金を設立し、日本人学生及び外国 人留学生を支援する奨学金を給付する制度である。2013 年度には 28 の団体が協力しており、344 人の学 生がこの奨学金を利用した。 4.6 まとめ 本章では、日本の学生の留学の現状及び奨学金制度を報告した。例えば、JSPS 日本人海外特別研究員 における全採用数は 2009 年と 2014 年を比較すると、6 倍(6 人から 36 人)に増加している。2014 年度 はナノマイクロ科学、電気電子の分野での採用が比較的多かった。次いで、政府所管及び個人財団による 奨学金の紹介をした。政府所管の奨学金では、2013 年に始まった「トビタテ!留学 JAPAN」を一例とし て取り上げた。短期から長期の留学の支援をしており年平均 300 人程度が採用されている。個人財団によ る奨学金に関しては、採用数は限られている、申請するのには日本の大学に移籍している必要があるなど の条件があるものの、複数の個人財団が海外での博士号の取得を経済的に支援していることが明らかにな った。 5 アジアの大学の国際化の現状と展望 わが国の建築、土木系学科の建築分野のグローバル化の実態調査を 3、4 章において報告した。本章で はわが国の現状との比較として、近隣アジア諸国(中国、台湾、韓国)の建築、土木系学科の取り組みに 関して、独自にアンケートを実施した結果を報告する。3.1 節で紹介したランキングに基づき、上位 100 位以内に入っていることを 1 つの目安として選択した。中国の大学として同済大学、清華大学、台湾の大 学は国立台湾大学、国立成功大学、韓国の大学 KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)、ソウル大学校を調べた。さらに中国の大学に関しては、上記の大学との比較として、上位 100 位以下の大学として大連工科大学、天津大学にアンケートを依頼した。本章では 2 章で紹介したよう な、米国を含む多くの国の大学と似た仕組みを持った中国、韓国(KAIST)、台湾(国立台湾大学)の土 木系学科と、日本の大学と似たシステムを持った韓国(ソウル大学校)、台湾(国立成功大学)の建築系 学科を個別に報告する。実際に使用したアンケートは、本草案の付録として掲載する。 27 5.1 教員の国際化に対する取り組み 第一に、中国、韓国の土木系学科における、全教員数に対する海外で博士号を取得した教員の数を取り 上げる(Table 16)。表内の“-”は、回答が得られなかった項目である。いずれの大学の土木系学科も、 25%以上の教員が海外で博士号を取得している。国立台湾大学においては 100%である。国立成功大学も 50%以上の教員が海外で博士号を取得していることから、台湾の大学における教員の海外博士号取得率の 高さが際立っている。天津大学においては、100%の増加である。一方で外国人の教員の数は限られてお り、各大学にせいぜい 1~2 名である。外国人の教員の国籍として米国人、オーストラリア人、欧州人な どが挙げられた。KAIST は、21 人中 16 人が国外で博士号を取得している。いずれの大学においても、 KAIST を除いて、日本もしくは米国で博士号を取得していることが多い。KAIST の場合は、教員の多く は米国で博士号を取得している。また、いずれの大学も海外での博士号取得者が過去 10 年で増加したと 答えている。3.2 節で報告した、日本の建築系学科教員のなかで海外の大学で博士号を取得したものは約 2.5%、土木系学科では約 4%であった。したがって、中国、台湾の土木系学科、建築系学科の教員の海外 博士号取得者の割合は日本の割合よりもはるかに高い。 Table 16 – 各大学における全教員数に対する海外で博士号を取得した教員の数 (人) 同済 清華 大連 天津 KAIST 国立台湾 土木系学科 24/108 30/60 - 12/67 16/21 50/50 工学部 - - 23/209 20/150 - - いずれの大学も、教員が海外で研究を行う機会を授けている。短期では 1 ヶ月から 3 ヶ月、長期は 1 年 である。その頻度は大学により異なり、最も少ない国立台湾大学では 7 年に一度である。行き先は日本も しくは米国が多い。 雇用、昇進基準についてのアンケート結果を Table 17 に示す。清華大学、天津大学、同済大学、KAIST における、助教、准教授、教授への雇用もしくは昇進する際に必要な論文数を記したものである。SCI は 3.1.3 項で紹介した通りである。清華大学では、助教になるための論文数が、准教授、教授の場合よりも 多く要求されている。天津大学では、助教になるためには 2 編、准教授には 5 編の SCI 論文が要求され る。なお教授昇進に関しては回答が得られなかった。同済大学に関しても清華大学と同様に、助教になる ための論文数が、准教授、教授の場合よりも多く要求されている。大連工科大学では昇進、雇用に必要な 論文数は明記されていないが、通例では教授になるためには 5~10 編の SCI 論文が要求されるという回 答であった。国立台湾大学では、5~10 編の査読付国際論文が各職(助教、准教授、教授)での雇用、昇 進に要求される。KAIST は、調査した他の大学と比べてかなり多くの SCI 論文の数を指定している。調 査対象とした全ての大学において、現時点では雇用、昇進基準に利用される論文の評価基準に、IF の高 低は陽には考慮されていない。しかし、同済大学は IF の高さを審査基準への導入を検討中との返答があ った。 28 Table 17 – 各大学における助教、准教授、教授に昇進/採用されるために必要な SCI 論文数 (編) 清華 天津 同済 KAIST 助教 10 SCI 2 SCI 8 SCI 10 SCI 准教授 8 SCI 3-5 SCI 5 SCI 25 SCI 教授 3 SCI - 5 SCI 60 SCI また国際論文を書くことで賞与が与えられる制度が、各大学(清華大学を除く)に見られる(Table 18)。 (なお清華大学もこの制度の導入を検討中とのことである。)Table18 での賞与は“US dollars”(USD) で記載している。基本的に賞与対象の基準は SCI の雑誌への掲載のみであるが、一部の大学では、雑誌に より異なる賞与を設定している。天津大学は賞与制度が細分化されており、それぞれ 775~1,570USD (SCI)、15,700USD(IF で 10 以上)、31,500USD(“Nature”、“Science” 、“Cell”に掲載)が与え られる。これらに加えて、天津大学はさらに IF の値により、より細かく賞与に変化をつける方式を検討 している。KAIST に関しても詳細は明記されていないが、SCI 論文を書くことで賞与があるとの回答が あった。 しかしこのような英語論文の執筆に重きを置き過ぎることに懸念があることも事実である。某清華大学 教授から得た、中国国内雑誌に投稿する論文と英語論文に関するコメントを以下に記す。『中国の有名大 学は国際研究と国内産業の両方に貢献する必要がある一方で、大学は、SCI 論文の数を雇用、昇進のため に強調する傾向がある。結果として教員は多くの時間を英語論文の執筆に割くことになる。しかし上述の ように、大学は国内産業への貢献も必要であり、一方で国内産業に従事する多くの人間は英語で読む習慣 がない。さらに、知的所有権保護の観点から、国内雑誌を発展させる必要もある。これらのことから、現 在の大学は英語論文を書くことに力を入れ過ぎていると主張する年配の教授もいる。例えば、中国には “Journal of Building Structures”や “China Civil Engineering Journal”のような、研究結果を国内 産業に反映させるのに重要な役割を持つ雑誌がある。現状では、知的所有権に考慮しながら、同じ研究内 容であっても、その記述を変えて国内雑誌、英語学術誌の両方に投稿せざるを得ない状況である。 』 Table 18 – 各大学における国際論文を書くことによる賞与 (USD) 同済 大連 天津 国立台湾 - - 31,500 - IF>10 - - 15,700 - SCI 1,500 360 775-1,570 10-40% of salary Nature, Science, Cell 意匠・計画、構造・材料、環境を包含したわが国の建築系学科の枠組は、世界的に見れば圧倒的な少数 派であるが、韓国、台湾でも同様の枠組がある。その例として、台湾国立成功大学建築系学科と、ソウル 29 大学校建築系学科の事情を調査した。国立成功大学の海外博士号取得者は建築系学科の全教員 27 人中の 16 人である。米国もしくは日本で博士号を取得しているものが多い。ソウル大学校に関しては 19 人中 11 人である。そのうち、構造・材料系教員は 8 人全員が国外で博士号を取得している。それ以外の分野では 11 人中 3 人が国外で博士号を取得している。分野に関わらず多数が米国で博士号を取得しており、その 他は韓国や日本である。ソウル大学校は、過去 10 年で 5 人増えたが、国立成功大学では変化はない。い ずれにせよ、これらの大学でも 60%近くの教員が、海外で博士号を取得している。一方で、3.2 節で報告 した日本の建築系学科教員の事例では、海外で博士号を取得した教員は約 2.5%である、両大学と比較す ると、その比率は極めて低い。国立成功大学には米国人の教員が 1 人いるが、ソウル大学校には外国人教 員はいない。またどちらの大学も、サバティカル制度により教員が海外で研究を行う機会を授けている。 雇用、昇進基準については、国立成功大学では、建築系学科でも意匠系とそれ以外では異なると回答し ている。意匠系では論文数は考慮されず、建築設計や本の執筆などが代わりの評価基準となる。意匠系以 外の分野に関しては准教授、教授の採用・昇進には、それぞれ 5~6 編、10 編以上の SCI 論文が要求さ れる。ソウル大学校は、SCI 論文の数に決まったルールはないという回答であったが、その一方で、教員 は一年に 1 編の SCI 論文を書くことが義務付けられている。国際論文を発表することで、賞与が与えら れる制度が国立成功大学では存在し、“Nature”、“Science”、“Cell”に発表された論文には 6,200USD が与えられる。ソウル大学校は、賞与に関する決まったルールはないが、学科長には、教員の月給の 1/20 分を彼らの学科への貢献に応じて割り増しする権限がある、という回答があった。 5.2 教育に関する国際化の取り組み 教育に関する、国際化の取り組みを調査するため、学部と修士・博士課程に分けてアンケートをとった。 学部生に関しては、中国では 20%ほどの授業を英語で行っているが、国立台湾大学では母国語のみで行 っている。ただし、大連工科大学(中国)には国際コースがあり、そこでは英語のみで授業を行っている。 KAIST では、できる限り講義を英語で行うことを大学全体で指向している。数年前までは、英語講義を 実施することによって給料が割り増しされていたほどである。調査した中国の大学と KAIST では、学士 論文は英語または母国語で書かれている。国立台湾大学においては、学士論文は必要とされない。 調査したどの大学も留学生の数は、全学科生の 5~10%で、近隣アジア諸国からが多い。過去 10 年の 間では、アンケートに回答したほぼ全ての大学で、留学生の数が増加していたが、一部(大連工科大学) では、留学生の数が減った(50%)との回答があった。国外における留学生の勧誘活動は、大連工科大学、 KAIST が行っている。調査した大学では、平均で学部生は全学生の 5%程度、修士学生は全体の 10%弱 が海外留学を経験し、短期では 6 ヶ月、長期では 1 年にわたる。KAIST にはジョイントディグリー制度 があり、学生はこれを利用して留学する。また調査したどこの大学の場合も、留学先は日本、英国、米国 が多い。ちなみに、2012 年度の日本の全大学生に対する海外留学生の割合(4.1 節で紹介)は約 2.2%で ある。これは大学全体との比較であるので、個別の大学の建築系学科の留学者の割合とは一概に比較でき ないが、東アジアの大学では 10%弱と大きな差がある。 修士・博士課程学生に関しては、アンケートを取った大学において、平均で 20%ほどの講義が英語で 30 行なわれている。国立台湾大学に関しては、講義に 1 人でも留学生がいれば、授業を英語で行うと回答が あった。KAIST に関しては、学士課程と同様にできる限り英語での講義を心がけている。修士、博士論 文の英語執筆に関しては、各大学により対応が違う。同済大学では、修士、博士論文ともに英語での執筆 を義務付けている。清華大学、大連工科大学、天津大学では、両論文ともに母国語で書かれる。国立台湾 大学では、修士論文は母国語で執筆することになっているが、博士論文は母国語、英語での執筆を選択で きる。KAIST では修士論文は母国語、英語での執筆を選択できるが、博士論文は英語で執筆することと している。留学生の数は、調査したどの大学も全学科生の 5~10%で近隣アジア諸国からが多い。修士、 博士課程に関しても、学士課程と同じように、国外の大学や研究機関での研究を奨励している。期間とし ては、3 ヶ月から 1 年である。ただし、天津大学の場合は 2~3 年の長期留学がありうるとの返答があっ た。調査したどの大学に関しても、米国、英国、日本が主要な留学先として選ばれている。 韓国、台湾の建築系学科についても、5.1 節にならったアンケートを実施した。学部生に関しては、国 立成功大学では、母国語のみで講義を行っている。ソウル大学校では約 20%の講義を英語で行っている。 国立成功大学の全学科生に対する留学生の割合は全学科生の 5%強で、近隣アジア諸国からが多い。ソウ ル大学校には全学科生の約 25%が留学生である。大部分は中国からの留学生である。国立成功大学にお いては、学士論文の執筆は必要とされない。ソウル大学校では、学士論文は英語、母国語の執筆を学生が 選択できる。修士・博士課程学生に関しては、国立成功大学では、母国語のみで講義を行っている。ソウ ル大学校では約 30%の講義を英語で行っている。国立成功大学の留学生の割合は全学科生の約 10%で、 近隣アジア諸国からが多い。ソウル大学校の全学科生の約 40%が留学生である。大部分は中国からの留 学生である。国立成功大学では、修士、博士論文ともに母国語もしくは英語での執筆を学生が選択できる。 ソウル大学校は、修士論文の執筆を英語、母国語のいずれか学生が選択できるが、博士論文は英語で執筆 することが義務付けられている。国外における留学生の勧誘活動に関しては、国立成功大学、ソウル大学 校がともに積極的に取り組んでいる。ソウル大学校は、ベトナムなどの東南アジアの国に職員を派遣して、 留学生を勧誘しているとのことであった。 5.3 国際化戦略に関する取り組み 各大学に対して、自大学のグローバル化の現状評価と、今後の方針に関してのアンケートをとった。こ れにより、各大学が国際化に対してどのような意識を持ち対応しているかを考察する。自大学のグローバ ル化の現状の評価に関しては、QS のランキングを参考にしていることが多い。同済大学は、留学生の数、 外国人教員の数、英語で行われる講義の数で、学科の国際度を測っている。大連工科大学は、各学部の国 際度を、教員が国際会議に参加した延べ回数、外国人客員教授の数、学生が国際会議に参加した延べ回数、 SCI、EI(Engineering Index)論文の数で計っている。ここで EI は、オランダの学術出版社“Elsevier” が所有する工学系雑誌の文献データベースである。各大学のグローバル化に対する今後の方針に関しては、 各大学の独自の方針が明らかになった。同済大学においては、国際化の方針の一つとして、中国人教員よ り高い給料を払うことで、外国人教員のリクルートを図っている。中国の給料システムは複雑なため一概 には言えないが、最大で 10 倍の給料が支払われる場合もあるとのことである。天津大学でも、外国人教 31 員に対して、母国の教員より高い給料を支払う、昇進のチャンスをより多く与える、特別な研究費を支給 す る など の方 策 を採 用して い る。 清華 大 学で は、“International Chair Professor Program” や “International Summer School of Civil Engineering”のようなプログラムにより、国際化を図ってい ると回答があった。天津大学では、国際的な論文を書くことを推奨することで国際化を狙っている。例え ば、本年度(2015 年)から博士課程の学生は 1 編の SCI 論文を書くことが義務付けられた。KAIST は、 外国人教員、留学生の数、著名な国際論文での引用数により学科の国際度を計っている。これらの評価項 目は、3.1 節で紹介した THE、QS による大学ランキングのものと同様である。 本節では、韓国、台湾の建築系学科についても報告した。国立成功大学では、外国人教員、留学生、交 換留学を増やすこと、国際会議や国際ワークショップの開催及び参加、国外の大学や研究機関と協定を締 結することなどを推奨している。ソウル大学校は外国人教員の数、留学生の数、英語で行う講義の数で学 科の国際化を図っている。各大学の建築系・土木系学科とも、自大学をより国際的にすることを意識して おり、それぞれ独自の方策で対応していることが明らかになった。本章では 3.1 節で紹介した大学ランキ ングに基づき、上位 100 位以内の 6 大学と上位 100 位以下の 2 大学を選択し、調査対象とした。本章で 調査した範囲では、大学の順位による教員、教育の国際化への取り組みまた大学の国際化戦略への大きな 違いは見られなかった。 また清華大学土木系学科の若手教授 2 人に中国の大学の国際化戦略に関して、以下の質問を発した。 中国の多くの大学が国際化を掲げる動機は何であるか。また国際化に伴って起こった教員の採用・ 昇進基準の変化は学術界ではどのようにとらえられているのか。 このような大学の国際化方針は中国政府からの指導によるのか、大学の判断なのか。 1 人目の教授からは、 「中国政府は、21 世紀中に清華大学と北京大学を世界のトップクラスの大学とす ることを目標としており、そのためには大学を国際化することは不可欠であると考えられている」との回 答があった。2 人目の教授からの回答は以下である。前述の教授と同じように、中国政府からの指導の影 響が大きいということである。「清華大学では、テニュアトラック制度を教員の採用・雇用基準に取り入 れるとともに英語論文の執筆数を、教員の重要な評価項目としている。工学部の 80%の教員が、このよ うな変化は必要であり適切であると考えている」とのことであった。上記質問の回答から、中国が政府主 導による大学の国際化を進めており、それを教員が積極的に受け入れている様子がわかる。 5.4 中国、韓国の大学、研究機関が発行する英語学術誌 わが国の建築・土木学会の英語学術誌を 3.3.1 節で紹介した。2002 年に始まった建築学会の英語学術誌 “JAABE”では、2014 年度の IF は 0.526 であるが、自誌引用分を差し引くと、0.165 に過ぎない。土 木学会は英語学術誌“Journal of JSCE”を発行しているが、IF を持っていない。これらの英語学術誌と の比較として、Table 19 に“Web of Science”に登録されている中国、韓国の学会、大学が発行する土木 32 系の英語学術誌を記載する。中国は 3 つの英語学術誌を発行している。清華大学が発行する“Building Simulation”は、IF が 1.0 を超えていて、自誌引用を差し引いても 0.824 ある。韓国は 5 つの英語土木 系学術誌を発行している。最も IF が高いものは、“Smart Structures and Systems”(IF=1.368)であ る。わが国の建築、土木系学科が、英語学術誌の発行、そしてそれらの IF という点においても、中国、 韓国と比べて遅れをとっていることがわかる。 Table 19 – 中国、韓国の大学、研究機関が発行する英語学術誌 出版社 発刊開始年 IF(2014 年) IF(自誌引用 除く) 発行論文数 (2014 年) 中国 JOURNAL OF IRON JOURNAL IRON 1994 0.675 0.568 197 AND STEEL STEEL RESEARCH RESEARCH EDITORIAL BOARD SPRINGER 2005 0.729 0.664 70 TSINGHUA UNIV 2008 1.029 0.824 55 TECHNO-PRESS 1993 0.927 0.591 234 KSCE Journal of Civil KOREAN SOCIETY 1997 0.484 0.414 254 Engineering OF CIVIL TECHNO-PRESS 2001 0.964 0.619 89 TECHNO-PRESS 2005 1.368 1.06 117 International Journal KOREAN SOC 2009 0.505 0.364 76 of Steel Structures STEEL 2010 0.693 0.465 67 INTERNATIONAL Earthquake Engineering and Engineering Vibration Building Simulation PRESS 韓国 STRUCTURAL ENGINEERING AND MECHANICS ENGINEERS-KSCE STEEL AND COMPOSITE STRUCTURES Smart Structures and Systems CONSTRUCTION-K SSC Earthquakes and TECHNO-PRESS Structures 33 6 欧州の大学の国際化の現状と展望 欧州の大学の代表の一つとしてドイツの建築系学科の国際化の取り組みを調査した。この調査は、前章 で紹介した東アジアの大学の国際化の現状との比較を目的としている。ドルトムント工科大学のドイツ人 計画系教授 1 名、ドイツ留学を経験した 3 名の日本人研究者(それぞれベルリン工科大学の土木系学科で 博士号取得、ドルトムント工科大学建築系学科で博士号(計画)取得、ドルトムント工科大学建築系学科 で修士号(構造系)取得) 、1 名のドイツの設計事務所に勤務する日本人、1 名の中国人研究者(日本の大 学を卒業、シュツットガルト大学建築系学科の博士号(計画)取得)にヒアリングを実施した。前章の東 アジアに行ったアンケートにならって、教育に関する国際化の取り組み、教員の国際化に関連した取り組 み、そして国際化戦略に関する取り組みに関連した項目をヒアリング項目とした。その回答をまとめたも のを報告する。 6.1 ドイツの大学教育の紹介 大学入学までの教育 ドイツでは、中学校進学あたりから、学生たちは職業訓練コース、専門学校コース、高等教育コースと いうように振り分けられる。一度進路の方向が決まると、変更は容易ではないと言われている。この制度 のため、日本のような中高校時の過度とも思える偏差値競争はない。大学入学に関しては、主に“Abitur” と呼ばれる全国統一高校卒業テストの点数によって決められる。人気のある学科によっては、高得点をと らないと入れないことがある。全国統一高校卒業テストに加えて、建築系学科においては建築関係の仕事 の実習経験が入学の条件に含まれていることもある。 大学教育の特徴 ドイツの大学教育の特徴として、在学中のインターンシップが盛んであること、企業との共同研究・企 業による研究ファンド、計画系では実務に近い実習内容、などが挙げられる。またドイツに限らず、欧州 の学部教育には一般的に教養課程はなく、専門分野に関する複数年の教育から構成されている。 ドイツの大学では基本的にはドイツ語で講義を行う。留学生に対しては、入学の前にドイツ語試験を課 せられるので、高等のドイツ語を理解できなければそもそも入学できない。一方で博士論文の執筆は英語、 ドイツ語かを選べ、博士課程に関連した研究発表も言語を選ぶことができる。 大学教員の評価 ドイツの大学は公募制を原則としている。大学が教授を必要とした場合には公募が行われ、書類選考、 面接等を経て採用される。教授の下に就く教員もまた公募で選ばれる。助教には博士号がなくても採用さ れるが、教授になる場合には博士号が必要である。 博士号の取得には、3年程度の実務経験を必要条件と する大学もある。助教の採用期間は6年と決まっており6年毎に契約が更新される。更新されない場合は、 他の大学に移る、もしくは民間企業に転職することになる。 34 教鞭をとりながら実務にも携わるという二足のわらじが社会的、文化的に評価されている国情もあって、 実務実績が昇進にも大いに関係している。国立大学の教授が営利目的の実務事務所を経営することは、ド イツでは研究成果を社会に実際に還元する窓口という建前で正当化され、社会的にも認知されている。 大学ランキングのとらえ方 産業、経済が好調で、欧州圏での存在感が高いドイツでは、3.1節において紹介したTHEやQSのような 国際大学ランキングを気にせずとも、周辺諸国から優秀な留学生を獲得できる状況にある。逆に、他の欧 州の国において他国からの留学生が必ずしも多くないのは、その後の就職先が少ないことに起因している。 さらにドイツにおいては、ドイツNGO団体が毎年発表する“CHE University Ranking”と呼ばれる国内 大学ランキングが、THEやQSよりも重要視されている(CHE University Ranking)。このランキングに おいては、大学全体としてのランキングは掲載されておらず、学科ごと(例えば、建築系、土木系学科) の順位を発表している。このランキングの特徴として教育、大学設備、研究成果、大学の国際性、学生の 就職状況などの9項目があり、ランキングの閲覧者が自由に組み合わせて大学の順位を調べることができ る。例えば、このランキングにおける2015年度の建築系学科の就職状況のみを考慮した場合の上位3位は、 アーヘン工科大学、ブランデンブルク工科大学、ハノーバー大学の順である。土木系学科における同様の ランキングの上位3位は、アーヘン工科大学、ベルリン工科大学、ルール・ボーフム大学の順となってい る。 6.2 教育に関する国際化の現状 留学生の割合 シュツットガルト大学建築系学科の留学生(学部・修士学生)は、学生全数約 1500 人のうち約 25%、 またカールスルーエ工科大学建築系学科でも留学生(学部・修士学生)は学生全数約 800 人のうち約 25% である。中国、インド、中東からの留学生が多い。また、 “Erasmus Programme”制度を利用した欧 州人留学生も少なくない。“Erasmus Programme”とは、2007 年に始まった EU 内の学生の流動化の 促進をめざす EU 主導の留学制度である。この制度を利用する学生には、欧州内の大学に 3 ヶ月以上の留 学もしくは企業に 2 ヶ月以上のインターンシップを行うための奨学金が支給される。 学生の英語事情 上述のように、ドイツの大学では、主としてドイツ語で講義が行われている。しかし、これは彼らが英 語を苦手にしているわけではなく、英語での研究やグローバルな研究にも積極的である。また、前述のよ うに博士論文については英語で書くことが奨励されている。一例として、ドルトムント工科大学建築系学 科では、博士課程の学生のおよそ半数が外国籍であり、また提出される博士論文のおよそ半分が英語で書 かれている。 35 6.3 教員国際化の現状 大学教員の国際性 大学、学科によって状況は異なるが、基本的にドイツの大学教員は国際色豊かである。例えばドルトム ント工科大学建築系学科では教員の 60%が外国人で占められている。また、大学教員採用では、外国人 とドイツ人には同様のチャンスが与えられているが、ドイツ語に堪能であることが条件である 大学教員の実務経験の重要性 工学系の学科において、上述のように教員の実務経験はとても重要視される。多くの大学では、教員を 採用する際、実務経験のある人材に限って採用している。また教授を採用する場合は、最低でも 3 年間の 実務経験があることを条件としている。特に建築系学科の教授を採用する場合においては、教授を志願す る者が設計事務所を経営していると有利と言われている。 6.4 国際化戦略に関する取り組み 留学生がドイツを選ぶ理由の主なものとして、安い学費(多くの場合、国籍を問わず無料)、安い生活 費(学生への割引が豊富) 、そして卒業後にドイツで職に就ける高い可能性が挙げられる。またドイツは、 多くの資金を投資し、諸外国の大学と数多く提携している。さらにドイツ-ヨルダン大学、ドイツ-エジ プト大学、ドイツ-ベトナム大学など、ドイツ自身が海外で共同運営している大学もある。こういった共 同運営の大学を有することは、新興国においてドイツという国の良い宣伝効果となると考えられている。 ドイツでは国内の大学の国際競争力を高めるために、2006~2011 年に “Exzellenzinitiative” (Excellence initiative)というプロジェクトを実施した(Federal Ministry of Education and Research)。 最先端分野の研究の発展、THE や QS の大学ランキングの順位の向上を目的として始められた。11 のエ リート大学を選出して,重点的に国からの資金を投入した。選出基準は、世界最先端の研究を行っている、 若手研究者育成の環境が整っている、国際的な研究協力を行う基盤がある、ドイツの大学の国際的プレゼ ンスの向上に貢献できる、等であった。アーヘン工科大学(Integrative Production Technology for High-Wage Countries)、ミュンヘン工科大学(Origin and Structure of the Universe – The Cluster of Excellence for Fundamental Physics)、ドレスデン工科大学(From Cells to Tissues to Therapies: Engineering the Cellular Basis of Regeneration)などが選ばれている。“()”内は、各大学がプロジ ェクトへの応募の際に掲げた研究計画のタイトルである。ドイツ連邦教育・研究省の発表によると、この プロジェクトの結果として上述の目標である最先端分野の研究の発展、大学ランキングの順位の向上を達 成したとしている(Spross 2013)。一方で、このようなプロジェクトは一部の有名大学に、より研究資 金が集中する(Schiermeier and Noorden 2015)、大学が教育ではなく研究にのみに集中するなどの批 判もある(Kehm 2013)。現在、第 2 回目の“Exzellenzinitiative ”のプロジェクトが進行中である(2012 ~2017 年)。 36 6.5 日本の大学に対するドイツの認識 本ヒアリングの回答者が考える「ドイツにおける日本の大学の印象」として、下記の 3 点が挙げられる。 第 1 に、日本の大学は、建築系学科を含み世界中で人気が高く、大学ランキングに示されているよりも確 実に良い印象が持たれている。日本へ留学することに魅力を感じる学生は少なくないが、留学への障害は 低くない。さらに学術論文の多くは日本語でしか発表されていないため、国際的な大学ランキングでは評 価が低いのもうなずける。第 2 に、米国やドイツと比べると日本の労働市場は外国人に閉ざされており、 外国人が日本で就職できる、日本の大学で教員の職を見つける機会は低いものとなっている。そのため、 日本の大学における外国人の教員の割合は低く、これによって言語、知識、経験、世界中の学者とのつな がり、国際的な学術論文誌の査読論文発表数、国際的なプロジェクトへの参加といった、グローバルに活 躍するのに重要とされる要素が欠けてしまっている。第 3 に、建築を学ぶ日本の学生に外国語が苦手な学 生が多く、海外経験が乏しい。これは彼らが海外留学や提携プログラムを利用する機会を得ることを難し くするだけでなく、海外からの留学生と日本の学生との意思疎通を困難にし、結果として彼らの日本での 留学経験を有意義なものにすることができない。 最後に、前述のドイツの計画系准教授の日本の大学に向けられたコメントを 2 点掲げる。第 1 に、大学 に優秀な学生を呼び込むために、日本は日本人海外留学生や外国人留学生をより強く支援すべきである。 ドイツにおいては国籍を問わず学費が無料である。米国でも外国人留学生のために多様な奨学金を用意し ている。第 2 に、建築系学生の海外インターンシップを必修とすべきである。ドイツでは、卒業のために 最低 100 日間(のべ 800 時間相当)のインターンシップが課せられる。インターンシップ先は国外であ る必要はないが、国外で行うことが好まれる傾向にある。 7 まとめ 本草案は、わが国の建築のグローバル化に関する実態調査をまとめたものである。3 つの項目、第 1 に わが国の建築分野を含む大学の国際化に関する現状、第 2 にわが国の学生、研究者の留学状況及び留学を 支援する奨学金制度の現状、第 3 にわが国の建築、土木系学科との比較として東アジアの建築、土木系学 科の国際化の現状を概観した。本草案では、資料収集・分析にあたって、日本の建築系学科がもつ他国に はない特徴を考慮した。多くの日本の建築系学科には、意匠、計画、構造(材料を含む)、環境と多様な 分野が含まれている。韓国や、台湾の一部の建築系学科も同じような状況にある。他方、米国や中国を含 む 多くの 国では 、構造 材料 の分野 は建築 、土木 の区 別なく Civil Engineering で扱わ れ、計 画は Architecture、City Planning、Urban Design、環境は Environmental Design として独立していること が多い。なお構造・材料・環境は同じ“Department”を形成していることは少なくないが、ここでの環 境は、わが国の建築系学科に含まれる建築設備・環境とは異なり、いわゆる土木系の衛生工学“Sanitary Engineering”を指すことが多い。このような世界の大学の状況を考慮して、本草案では、建築系学科の みでなく、特に構造・材料において親和性が高い土木系学科も調査対象としている。 37 7.1 日本の大学の国際化に関わる現状 第 1 の項目として、日本の大学の国際化に関する視点を 5 つの視点から議論した。第 1 の視点として英 国の企業 THE、QS 及び中国の企業“Shanghai Ranking”による大学のランキングを使用して、日本の 大学の位置付けを世界的な視点から把握することを試みた。ランキングの選定にあたっては世界的に高頻 度に引用されていることを考慮した。工学部のランキングに関しては、THE には中国、日本、韓国の大 学が等しく入っているが、QS には韓国の大学が比較的多く入っており、一方“Shanghai Ranking”に は中国の大学が多く入っている。また QS においては、今年度のランキングにおいて、日本の大学は 10 位以内に入っていない。一方で、シンガポールや中国の大学は年を追うごとに順位を上げているのが、確 認できる。複数のランキングにおいて、多少の順位の違いはあるが、同じ大学の名前が、100 位以内に繰 り返し見られる。日本の大学では、東京大学、京都大学、東京工業大学、東北大学、中国の大学では、清 華大学、同済大学、北京大学、浙江大学、韓国の大学では、KAIST、ソウル大学校、台湾の大学では国立 台湾大学、国立成功大学である。また、同様にどのランキングにおいても、多少の順位の違いはあるが、 10 位内に入る大学(例えば、MIT、Imperial College London、ETH Zurich)は、非常に似通っている ことがわかった。 第 2 の視点として、日本及び米国の建築、土木系学科における外国人教員(海外で教育を受けた教員を 含む)の傾向を調べた。本草稿では、海外の大学で博士号を取得した日本人教員を、海外で高等教育を受 けたことをもって外国人教員の代替の指標とみなした上で、海外で博士号を取得した日本人教員の割合と 米国の外国人教員の割合を比較した。日本の建築、土木系学科において海外で博士号を取得した教員の数 については、建築系学科では約 2.5%、土木系学科は約 4%であった。一方で、米国の土木系学科の外国 人教員の割合は平均 30%であり、日本の大学の海外博士号取得者の割合の低さが際立つ。さらに、日本 の建築、土木系学科の教員の博士号の取得先が米国もしくは英国であることが多い一方で、米国の大学で は多少の数のばらつきはあるものの、世界中から幅広く教員を集めている。また、5.1 節で述べた中国、 台湾の土木系学科、建築系学科の教員の海外博士号取得者の割合は米国のものと近いか、より高い。さら に中国、韓国、台湾の大学の教員は博士号を米国、英国に加えて日本で獲得しているものも多い。これら のことから米国のみならず、中国、韓国、台湾と比較しても、日本の大学教員の国際的多様性は低いこと がわかった。 第 3 の視点として、日本の建築系学科の国際展開度を、研究の観点から計るために、英語論文投稿状況 を報告した。初めに、工学部 5 大学会(建築、土木、化学、電気電子、機械)による、英語学術誌出版状 況を調査した。この項目に関しては、化学が最も発展していることが明らかになった。最も古い学術誌は 1926 年に発行され、また化学学会が出版する多くの学術誌が比較的高い IF(1.0 以上)を有している。 電気学会は 3 つの IF つき英語論文集(翻訳版 2 誌含む)がある。機械学会も多くの(7 誌)英語学術誌 を出しているが、IF を持っているのは 2 誌である。土木、建築学会もそれぞれ英語学術誌を 1 誌出して いる。ただし建築学会が出版する“Journal of Asian Architecture and Building Engineering” (JAABE) は、日本建築学会、大韓建築学会、中国建築学会の 3 会共同編集という体裁である。土木学会の英文学 術誌は IF を持っていないが、建築学会の JAABE は 0.53 の IF を有している。次に、日本の建築系学科 38 教員(一部、土木系学科教員を含む)の英語論文投稿状況を、3 つの英語学術誌を取り上げて調査した。 第 1 に、 構造系では世界で最もサーキュレーションの広い“American Society of Civil Engineers” (ASCE) の構造系雑誌(Journal of Structural Engineering)を調査対象とした。この学術雑誌は構造系雑誌のな かで IF(2014 年度は 1.504)が高いことに加え、世界中から論文が投稿される認知度の高さを特徴とし ている。米国、欧州の国々、東アジア主要国の 2010~2015 年の投稿数を比較した。米国が、全投稿数約 900 編のうち 150 編以上と全ての年度で最も多く投稿している。中国からの投稿数は 74 編(2010 年度) から 188 編(2015 年度)と増加数が著しい。日本の場合も 7 編(2010 年度)から 19 編(2015 年度)と 増加はしているが、中国の投稿数と比較すると各年度において約 1/10 に留まっている。論文採用数につ い て は 、 中 国 か ら の 論 文 の 採 用 数 は 10 % と 高 く な い も の の 、 ASCE の “Journal of Structural Engineering” への積極的な英語論文の投稿状況は注目に値する。 第 2 に、 耐震工学系で一番高い IF (2.305) を示す“Earthquake Engineering and Structural Dynamics”(EESD)を報告する。2005 年から 2015 年の間に、1,068 編の論文が採用されており、 2015 年度に関しては 2015 年 9 月の時点で 75 編採用さ れている。過去 10 年に発表された論文のうち、米国が最も高い割合を示すが(25%)、日本、台湾、中国 の割合も決して低くはない(5%以上)。EESD においては、日本人エディターがいるということもあり、 わが国の建築学科を含む構造系教員は、比較的積極的に投稿していることが見受けられる。第 3 に、耐震 工学系で比較的高い IF(1.321)を示す“Earthquake Spectra”の 2009、2011、2014 年度の国別採用 状況を調査した。調査した各年度とも 50%以上の論文が米国のものである。本草稿で調査したギリシャ、 イタリア、 台湾、中国、 日本の採用数に大きな違いはない。ASCE や EESD と違い、“Earthquake Spectra” に関しては米国内の学術雑誌と考えられている傾向があるためか、東アジアの貢献度はきわめて低いこと がわかった。また、環境系、計画系の日本人教員の英語論文執筆状況も調査した。環境系に関しては、 “Building and Environment” (IF=3.341)、“Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics” (IF=1.414)には、2013~2015 年の間にそれぞれ計 30 編、48 編採用されていることがわかった。 “Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics”に関しては、環境系のみではなく、日本 人構造系教員の論文の数も少なくないことを付け加えておく。一方で、計画系に関しては、調査した学術 誌のなかで 2013~2015 年度の日本人による論文の総採用数が最も多いものは“Landscape and Urban Planning”(IF=3.307)で、採用数は 7 編であった。このことから、計画系の教員は、構造・環境系の 教員よりも英語論文の執筆に対して一層消極的であることがうかがえる。また、構造、環境、計画系の 3 分野において、本草案で調査した学術誌において一部を除いて、中国人研究者が日本人研究者と比べてよ り積極的に英語論文を執筆している状況がみられた。 第 4 の視点として、日本の建築、土木系学科の国際度の変化を、外国人研究者の受け入れという視点か ら調査した。日本に渡航した海外研究者として JSPS 制度を利用した外国人研究者の数を調べた結果、建 築専攻の海外研究者の割合が 2006 年度は 14 人であったのが、2015 年度は 1 人と減少していっている一 方で他の 4 学科(土木、化学、電気電子、機械)は安定した割合(10%程度)を示していることがわかっ 39 た。また、全採用数が 2006 年度の 154 人から 2015 年度は 48 人と大きく減少していることも付け加える 必要があろう。 第 5 の視点として、工学部系学科の科学研究費の獲得状況を報告した。この調査の動機は THE、QS に おいて、大学、学科の評価の項目の一つとして獲得した研究費の金額があるためである。学術振興会が公 開している 2007~2015 年度の科研費(S)の専攻別獲得状況を調査した。全体の採用数は 2007 年度を 除き(76 人) 、約 90 人で安定している。化学が毎年 6 人以上の採用数があり、建築以外の他の分野は各 年度 3 人程度の採用がある。建築に関しては、2007 年度は 2 人採用されているが、それ以降の採用数は 0 もしくは 1 人である。建築学科がわが国の他の工学系学科と比較しても国際競争力を落としている状況 を突きつけられた。 7.2 日本の大学の国際化の可能性 第 2 の項目として、わが国の建築、土木系学科の、今後の国際化の発展可能性を探るために、わが国の 将来を担う学生、若手研究者の海外留学の現状を報告した。第 1 に、2009 年から 2012 年及び 2014 年の 日本学術振興会日本人海外特別研究員の動向を調査した。2009 年度と 2014 年度の採用数(全分野)を比 較すると、6 倍(6 人から 36 人)に増加している。2014 年度は、ナノマイクロ科学、電気電子の分野で の採用が、7 人、6 人と比較的多かった。また調査した分野のなかでは、過去 10 年で数が減り続けている のは、建築のみであり、2014 年度の採用は 1 人に留まっている。第 2 に、建築系、土木系学科の海外博 士号取得者の年代別(1960~2000 年代)の割合を調べた。現役世代が多い 70 年代以降では、70、80 年 代が 20%以上と高い割合が見られたものの、90 年代、00 年代と世代が若くなるにつれ割合が徐々に減少 していることがわかった。今後、70 年代、80 年代の教員が定年を迎えることを考慮すると、海外で博士 号を取得した教員の数は一気に低下する可能性がある。第 3 に、学生の留学を経済的に支援する奨学金に 関して政府所管及び個人財団の事例を紹介した。前者では、 「トビタテ!留学 JAPAN」を一例として取り 上げた。短期から長期の留学の支援をしており、年平均 300 人程度が採用されている。しかし、この奨学 金制度は 2013 年に始まったばかりであり、今後の動向を、見守る必要がある。複数の個人財団が海外で の博士号の取得を経済的に支援しているが、採用数は限られている(例えば各年度採用人数は 2 人程度) 、 日本の大学を通して申請しなければならないなど、申請条件に制限があることがわかった。さらに、2000 年半ばから海外に留学する日本の学生(全分野)は減少傾向にある。また 7.3 節で述べるように、大学の 国際化という点で、日本の大学はアジア諸国に比べて遅れつつある。 7.3 アジアの大学の国際化の動き 第 3 に上述の 2 項目との比較を目的として、近隣アジア諸国(中国、台湾、韓国)の大学の取り組みに 関するアンケートをとった。対象とした大学は、3.1 節で紹介したランキングに基づいて、上位 100 位以 内に入っていることを一つの目安として選択した。 中国の大学として同済大学、清華大学、台湾の大学は国立台湾大学、国立成功大学、韓国の大学 KAIST、 ソウル大学校を調べた。さらに中国の大学に関しては、上記の大学との比較として、上位 100 位以下の大 40 学として大連工科大学、天津大学にもアンケートを依頼した。これらの大学の建築系学科の教授に直接ア ンケートを送ることにより情報を集めた。本草稿では 2 章で紹介したような、米国を含む多くの国の大学 と似た仕組みを持った中国、韓国(KAIST)、台湾(国立台湾大学)の土木系学科と、日本の大学と似た システムを持った韓国(ソウル大学校)、台湾(国立成功大学)の建築系学科を個別に報告した。 調査したどこの大学の建築系・土木系学科も 25%以上の教員が国外で博士号を取得していることがわ かった。どの大学においても米国もしくは日本で博士号を取得していることが多い。雇用、昇進基準につ いてもアンケートを行った。多くの大学が論文の数を雇用、昇進基準としており、論文が SCI(Science Citation Index)に掲載されていることが条件であることが多い。IF の高低は現状では考慮されていない。 また国際論文を書くことで賞与が与えられる制度を持つ大学が少なくなく、賞与の対象になるものは SCI 論文であることが基準であるが、IF により論文の質を評価し、それによって賞与額を変動させている大 学もある。またソウル大学校は、年 1 編の SCI 論文を書くことを義務付けている。わが国の建築・土木 学会の英語学術誌を報告書内で紹介した。2002 年に始まった、建築学会の英語学術誌“JAABE”の 2014 年度の IF は 0.526 であるが、 自誌引用を除くと 0.165 である。 土木学会は英語学術誌“Journal of JSCE” を発行しているが、IF を持っていない。これらの英語学術誌との比較として、“Web of Science”に登録 されている中国、韓国の学会、大学が発行する土木系の英語学術誌を調査した。中国は 3 つの英語学術誌 を発行している。清華大学が発行する“Building Simulation”は、IF が 1.0 を超えていて、自誌引用を 差し引いても 0.824 ある。韓国は 5 つの英語土木系学術誌を発行している。 最も IF が高いものは、 “Smart Structures and Systems”(1.368)である。わが国の建築、土木学科が、英語学術誌の発行、そしてそ れらの IF という点において、遅れをとっていることがわかった。 調査した大学において学士、修士課程に在籍する留学生の数は、全学科生の 5~10%で近隣アジア諸国 からのものが多い。学士生に関しては、中国では 20%ほどの授業を英語で実施しているが、台湾では、 母国語のみで授業をしている。学士論文は中国では英語または母国語で書かれる。修士、学位学生に関し ては 20%ほどの講義が英語で実施されている。 国立台湾大学に関しては講義に 1 人でも留学生がいれば、 英語での授業を選択すると回答があった。修士、博士論文を英語で執筆することに関しては各大学により 対応が違う。調査した大学のいくつかは、英語で論文を書くことを義務付けているという回答があった。 特に学科の国際化への取り組みに関しては KAIST の動向が顕著であった。例えば、教授に採用・昇進に 際して 60 編の SCI 論文を要求する、講義はできる限り英語で行うなどが挙げられる。ただ KAIST が調 査した他の大学と比較して留学生が格別多いわけではない。5 章では 3.1 節で紹介した大学ランキングに 基づき、上位 100 位以内の 6 大学と上位 100 位以下の 2 大学を選択し、調査対象とした。本草稿で調査 した範囲では、大学の順位による教員、教育の国際化への取り組みまた大学の国際化戦略への取り組みに 違いは見られなかった。 最後に本節の総括として、日本の大学とアジアの大学について以下の二つの点から比較してみる。第 1 に、日本と調査した東アジアの国(中国、韓国、台湾)の大学の国際競争力の違いである。初めに、本年 度のランキングを比較すると、どのランキングにおいても、中国の大学のトップ(清華大学)の方が日本 41 の大学のトップ(東京大学)より順位が高い。また過去 10 年の工学部のランキングの変遷を調べた結果、 日本の大学(東京大学、京都大学、東京工業大学)の順位が下がっていく一方で、韓国、中国の大学は一 定の順位を保っている。また、過去 5 年の土木系学科のランキングの変化の調査の結果、日本の大学の順 位に大きな変化はないが、韓国、中国、台湾の大学が大きく順位を上げているのがわかった。これらは日 本の大学が 10 年前はアジアでトップであったものの、そこから徐々に他の東アジアの大学に抜かれつつ ある状況を示している。 第 2 に、研究及び教育の観点からの大学の国際化に関して、日本とアジア近隣諸国(中国、韓国、台湾) と比較して、アジアの大学がより積極的かつ多様な取り組みを行っていることが挙げられる。研究の観点 からの国際化として、英語論文の投稿状況に関しては、日本では工学系 5 大学科(建築、土木、化学、電 気電子、機械)の学会が独自の英語学術誌を発行していることを報告したが、化学学会の学術誌を除いて、 現状では国際認知度は高くない。一方で、アジアの大学では世界的に知られている英語学術誌での発表に 対して賞与を与えるなど、より国際的な情勢に適応した対応をしている。ASCE が発行する“Journal of Structural Engineering”において、中国は日本の 10 倍近い数の論文を投稿している。教育に関しては アジアの大学は、修士、学位論文を英語で書く、講義を英語で行うなどにも積極的である。さらに調査し たアジアの大学での留学生の比率は、学部生で全学生の 5%程度、修士学生で全体の 10%弱である一方で、 日本の大学の海外留学生の割合は全学生数の約 2.2%(2012 年度、学部、修士学生合わせて)である。 7.4 欧州の大学の国際化の動き 欧州の大学の代表としてドイツの建築・土木系学科の国際化の取り組みを調査した。この調査は、前章 で紹介した東アジアの大学の国際化の現状との比較を目的としている。ドルトムント工科大学のドイツ人 建築計画系教授 1 名、ドイツ留学を経験した 3 名の日本人研究者(それぞれベルリン工科大学の土木系学 科で博士号取得、ドルトムント工科大学建築系学科で博士号取得、ドルトムント工科大学建築系学科で修 士号取得) 、1 名のドイツの設計事務所に勤務する日本人、1 名の中国人研究者(日本の大学を卒業、シュ ツットガルト大学建築系学科の博士号取得)にヒアリングを実施した。前節で述べた東アジアに行ったア ンケートにならって、教育に関する国際化の取り組み、教員の国際化に関連した取り組み、そして国際化 戦略に関する取り組みに関連した項目をヒアリング対象とした。 ドイツの大学の特徴として、2 点が明らかになった。第 1 に、大学、学科によって状況は異なるものの、 基本的にドイツの大学教員は極めて国際的である。例えばドルトムント工科大学建築系学科では教員の 60%が外国人で占められている。ただし大学教員採用では外国人とドイツ人には同様のチャンスが与えら れているが、ドイツ語に堪能であることが条件になっている。第 2 に、日本を含む東アジアの大学と比較 して、留学生の割合が高いことがわかった。シュツットガルト大学建築系学科の留学生(学部・修士学生) は、学生全数約 1500 人のうち約 25%、またカールスルーエ工科大学建築系学科でも留学生(学部・修士 学生)は学生全数約 800 人のうち約 25%である。中国、インド、中東からの留学生が多い。留学生がド イツを選ぶ理由の主なものとして、安い学費(多くの場合、国籍を問わず無料)と何よりも卒業後にドイ ツで職に就ける高い可能性が挙げられる。 42 謝辞 本草案の第 4 章の作成にあたって、文部科学省高等教育局渡辺正実学生・留学生課長(当時)、文部科 学省 官民協働海外留学創出プロジェクト西川由香プロジェクトオフィサー(当時)に貴重な情報をご提 供いただきました。また本草案の第 5 章の作成にあたって、中国においては、Professor P. Pan(清華大 学)、Professor X. Ji(精華大学)、Professor Q. Xie(同済大学) 、Professor Y. Cui(大連工科大学) 、Professor Y. Shi(天津大学) 、韓国においては、Professor C. B. Yun(KAIST)、Professor S. G. Hong(国立ソウ ル大学校) 、台湾においては、Professor K. C. Tsai(国立台湾大学) 、Professor Y. L. Chung(国立成功大 学)にアンケートに協力していただきました。本草案の第 6 章の作成に当たっては、ドイツのドルトムン ト工科大学の准教授 Professor J. Polivka とドイツの設計事務所 Schlaich Bergermann & Partner の玉井 宏樹さんに協力いただきました。ここに記して感謝の意を表す次第です。 8 参考文献 アジア国際交流奨学財団 http://www.chuken.org Last access on the 9th of February 2016 業務スーパージャパンドリーム財団 http://www.kobebussan.or.jp Last access on the 9th of February 2016 KDDI 財団 http://www.kddi-foundation.or.jp/about/ Last access on the 9th of February 2016 経団連国際教育交流財団 https://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/ishizaka/index.html Last access on the 9th of February 2016 佐藤陽国際奨学財団 http://www.sisf.or.jp Last access on the 9th of February 2016 政府統計の総合窓口 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528 Last access on the 9th of February 2016 竹中育英会 http://www.takenaka-ikueikai.or.jp/index.html Last access on the 9th of February 2016 トビタテ!留学 JAPAN http://www.tobitate.mext.go.jp Last access on the 9th of February 2016 土木学会(2015)全国土木系教員名簿[大学・高専] 土木学会 日本建築学会(2014)大学(建築関係学科)名簿 2014 年版 日本建築学会 日本学術振興会(JSPS)http://www.jsps.go.jp/index.html Last access on the 9th of February 2016 日本学生支援機構. 海外奨学金パンフレット http://ryugaku.jasso.go.jp/publication/pamphlet/ Last access on the 9th of February 2016 日本経済団体連合会(2015)「グローバル人材の育成国活用に向けて求められる取り組みに関するアンケ ート」主要結果 https://www.keidanren.or.jp/policy/2015/028_gaiyo.pdf Last access on the 9th of February 2016 日本国際教育支援協会 http://www.jees.or.jp Last access on the 9th of February 2016 船井情報科学振興財団 http://www.funaifoundation.jp Last access on the 9th of February 2016 村田海外奨会 http://www.muratec.jp/ssp/ Last access on the 9th of February 2016 CHE University Ranking. http://www.che.de/cms/?getObject=302&getLang=en Last access on the 9th of February 2016 Columbia University. http://civil.columbia.edu/people-by-type/faculty Last access on the 9th of February 2016 43 Federal Ministry of Education and Research Exzellenzinitiative (Excellence initiative) http://www.dfg.de/en/research_funding/programmes/excellence_initiative/index.html Last access on the 9th of February 2016 Georgia Institute of Technology. http://ce.gatech.edu/people/faculty Last access on the 9th of February 2016 Holden P (2014) University Rankings in Singapore: A Need for Critical Reflection. The Institute of Policy Studies, Singapore. http://www.ipscommons.sg/university-rankings-in-singapore-a-need-for-critical-reflection/ Last access on the 9th of February 2016 Kehm BM (2013) To be or not to be? The impacts of the excellence initiative on the German system of higher education Institutionalization of world-class university in global competition pp. 81-97 Springer Massachusetts Institute of Technology. https://cee.mit.edu/faculty Last access on the 9th of February 2016 Matthew D (2015) No sleep for Singapore’s universities. Times Higher Education https://www.timeshighereducation.com/features/no-sleep-for-singapores-universities/2009064 .article Last access on the 9th of February 2016 Schiermeier Q, Noorden RV (2015, September 4) Germany claims success for elite universities drive Nature International weekly journal of science Retrieved from http://www.nature.com/ Spross K (ed.) (2013) Excellence Initiative at a Glance German research foundation (Deutsche Forschungsgemeinschaft) University of Michigan. http://cee.umich.edu/research Last access on the 9th of February 2016 University of Texas at Austin. http://www.caee.utexas.edu/research/group Last access on the 9th of February 2016 University of Washington. http://www.ce.washington.edu/people/faculty/ Last access on the 9th of February 2016 44 付録 A.1 アジアの大学に対して実施したアンケート Thank you for participating in this survey! We appreciate your time. This questionnaire is composed of three parts: questions related to (1) faculty and teaching staffs, (2) education and (3) strategies for globalization. Please answer the questions the best you can. If you don’t have the answer to a question, please skip it and move on to the next one. Note) When you see the sentence “please provide the details”, we appreciate if you could provide some source for the detailed information (e.g. website link, PDF document, etc). If you do not have any source, please describe the summary of the detailed information. (1) Questions related to faculty and teaching staff 1.1 Current state of faculty and teaching staffs a. How many faculty and teaching staffs in your department have obtained PhD degrees abroad? Please provide the number and its proportion to the total number of teaching staffs of the architecture department. Please also let us know in which countries most of them earned the Ph.D degree. Did the number change during the last ten years? Increased Not changed Decreased Please provide the numerical transition of the number and the proportion. 45 b. Are there any international faculty members or teaching staffs in your department? Yes No If the answer is yes, please provide the number and their nationality. Did the number and proportion change during the last ten years? Increased Not changed Decreased Please provide the numerical transition of the number and proportion. c. Does your department encourage the faculty and teaching staffs to stay academic institutions and universities abroad for conducting research? Yes No If the answer is yes, please describe how long those staffs stay abroad in general (i.e. duration) and how often they take such opportunities in general (i.e. frequency). 1.2 Employment/promotion criteria 46 a. Number of international scientific articles (refereed journals) Does your department have any requirement in regard to the number of international articles to be employed or promoted as an assistant/associate/full professor? If the answer is yes, please make mention of the following two points. (1) How many articles are necessary to be employed as an assistant/associate/full professor? (2) Is the same rule applied to the promotion to the next level? b. Category of international scientific articles Is there any criterion for the above-mentioned international scientific articles? (e.g. The articles have to be published in a journal whose impact factor is equal to or higher than 1.) Yes No If the answer is yes, please provide the details. c. Influence of number of articles on a salary Do you receive a reward by publishing an English article? Yes No If the answer is yes, please provide the details (e.g. proportion of the reward to the monthly salary). 47 d. Existence of external evaluation Is external evaluation (i.e., referee outside your university or country) mandatory for the promotion? Yes No If the answer is yes, please provide the details (e.g. the referee has to be an overseas person?). 1.3 Recruitment of international faculty and teaching staffs Does your university conduct specific recruitment activities for international faculty and teaching staffs? Yes No If the answer is yes, please provide the details. (2) Questions related to education 48 UNDERGRADUATE COURSE 2.1 Lectures a. Does your department deliver some/all of the undergrad lectures in English? Yes No If some of the lectures are delivered in English, (1) what made you choose those lectures and (2) could you tell us the ratio of the English-taught lectures to the entire lectures of your department? b. Is the undergraduate thesis written in English or your native language? Yes No Both are possible. c. Is there any criterion of TOEFL/IELTS for the graduation? Yes No If the answer is yes, please provide the required score. 2.2 International students a. How many international undergrad students do exist in your department? Please provide the number of them and its proportion to the entire students in the department. Where possible, please provide the information according to each students’ origin (i.e. Asia, Middle East, Europe, 49 North America, Middle and South America, Oceania, Africa). If most of them are Asian, please describe from which Asian countries they are. Did the number and proportion changed during the last ten years? Increased Not changed Decreased Please provide the numerical transition of the number and proportion. b. PR recruitment Does your university send the staffs of a PR department or equivalent department to universities abroad for the recruitment of international students? Yes No If the answer is yes, please provide the details. c. Tuition fee Do you apply different tuition fee according to the students’ origin (e.g. students from Asia, Europe, etc…)? Yes 50 No If the answer is yes, please provide the details. d. Does your university offer any program in which local students are encouraged to go and study aboard? Yes No If the answer is yes, answer the three items. (1) How many students go abroad? Please provide us with the ratio of them to the entire students. (2) To which countries do they go? Please describe frequently-chosen countries by them. (3) How long do they usually stay there? POSTGRADUATE STUDENTS 2.1 Lectures a. Does your department conduct some/all of the graduate-level lectures in English? Yes No If some of the lectures are held in English, (1) please provide the reason why they are so and others not, and (2) please specify the ratio of the English-taught lectures to the entire lectures of your department. 51 b. Is the Master thesis written in English or your native language? Yes No c. Is the Ph.D. thesis written in English or your native language? Yes No c. Is there any criterion of TOEFL/IELTS to obtain the degrees? Yes No If the answer is yes, please provide the required score. 2.2 International students a. How many international graduate students do exist in your department? Please provide the number of the international students and also its proportion to the entire students in the department. Where possible, please provide the information according to each students’ origin (i.e. Asia, Middle East, Europe, North America, Middle and South America, Oceania, Africa). If most of them are Asian, please describe from which Asian countries they are. 52 Do the number and proportion changed during the last ten years? Increased Not changed Decreased Please provide the numerical transition of the number and proportion. b. PR recruitment Does your university send the staffs of a PR department to universities abroad for the recruitment of international graduate students? Yes No If the answer is yes, please provide the details. c. Tuition fee Do you apply different tuition fee accounting for which regions the students are from (e.g. students from Asia, Europe, etc)? Yes 53 No If the answer is yes, please provide the details. d. Does your university offer any program in which local students are encouraged to study aboard? Yes No If the answer is yes, provide the details. (1) How many students go abroad? Please provide us with the ratio of them to the entire students. (2) To which countries do they go? Please describe frequently-chosen countries by them. (3) How long do they usually stay there? (3) Question related to strategies for globalization 3.1 Consideration on international recognition a. Current state Does your university hold any specific measure to quantify international recognition of your department? Yes No If the answer is yes, please describe what kind of measure is employed and what the score of your department is in terms of that measure. 54 b. Future target Does your department attempt to increase the international recognition? Yes No If the answer is yes, please provide an example of programs support by your department. Thank you for your kind cooperation!! We do really appreciate it. 55