Comments
Description
Transcript
論文紹介
論文紹介 22.2マルチチャンネル音響の枠型スピーカによるバイノーラル再生法の開発 映像情報メディア学会誌,Vol.70,No.1,pp.J37-J46 (2016) 松井健太郎,大石 諭,杉本岳大,森田雄一※1,足立修一※2 ※1 フォスター電機(株),※2 慶應義塾大学 ディスプレーに一体化される枠型スピーカーを用いた,22.2マルチチャンネル音響(以下,22.2ch音響)のバイノーラル再生法の研究を進めている。 バイノーラル再生法は,頭部伝達関数(頭がない状態での頭部中心に相当する両耳中心位置から,頭がある状態での両耳鼓膜位置までの音響伝達 関数)を利用し,音像を任意の方向に定位知覚させる技術である。この技術を援用し,スピーカーの置かれていない側方,後方のチャンネルをその 所定方向に音像として定位知覚させることにより,22.2ch音響を擬似的に再生する。試作した枠型12スピーカーを用いた測定実験により,クロストー ろう えい ク(所望されない側の耳への音響信号の漏洩)を十分に抑圧可能であることを確認した。また,主観評価実験により,22.2ch音響の擬似再生として 十分な空間印象を提示可能であることを確認した。本論文では併せて,頭部伝達関数の測定を短時間化する,多方向同時推定法を報告した。 Application Authentication System with Efficiently Updatable Signature 電子情報通信学会論文誌,Vol.E99-D,No.1,pp.69-82 (2016) 小川一人,大竹 剛 Hybridcastなどの放送通信連携サービスでは,多様な情報を通信ネットワーク経由で取得し,放送と組み合わせて提示することで,より豊かな番組 視聴が可能となる。受信機上ではアプリケーション(以下,アプリ)が動作するが,視聴者にとってより良いサービスを実現するためには,さまざまな 事業者がアプリを提供できる環境を構築することが望ましい。一方,視聴者が安心してアプリを利用するためには,アプリ提供者の確認やアプリの 改ざんを防止する仕組みも必要である。これらの目的のために,電子署名を改良して利用したアプリ認証方法を提案した。提案法では,放送局が 信頼できるアプリ提供者に署名鍵を配布し,アプリ提供者の信頼性を確保するとともに,アプリ改ざんへの耐性を保証する。また,個々の署名鍵 の失効や,署名鍵の更新も安全かつ容易に可能である。さらにユーザー端末の負荷を考慮し,検証鍵の更新は不要で,かつ検証鍵のサイズが小さ い方式とした。このアプリ認証方法により,より多くのアプリの流通が期待できる。 DC Sputtered Amorphous In–Sn–Zn–O Thin-film Transistors: Electrical Properties and Stability Solid-State Electronics,Vol.116,2016,pp.22-29 (2016) 中田 充,Chumin Zhao※1,Jerzy Kanicki※1 ※1 University of Michigan 8Kスーパーハイビジョン用の大画面シート型ディスプレーを実現するためには,各画素に配置した有機EL(Electroluminescence:電界発光)素子の 発光を電流で制御する薄膜トランジスター (TFT:Thin-film Transistor)の高速化が必要となる。当所では,これを実現するために,酸化物半導体 を用いた高移動度TFTの研究を進めている。酸化物半導体In-Sn(Tin)-Zn-O(ITZO)のDCスパッター製膜条件を変えてITZO-TFTを作製し, 電気特性および長時間駆動を想定した信頼性を評価した。スパッター製膜に用いるアルゴン/酸素混合ガスの酸素比率を最適化することで,代表的 な酸化物半導体である In-Ga-Zn-O (IGZO)を用いたTFTと比べて高い移動度(30.6cm 2/Vs)と信頼性が得られることが分かった。また,スパッター 製膜時の酸素比率依存性から,信頼性はITZO膜中の過剰酸素および水素に影響されることが示唆された。さらに,ITZOの膜厚を厚くするほどト ランジスターのスイッチング性能を示すサブスレッショホールド特性が改善できることが分かった。ITZOは,製膜条件を最適化することで高移動度 かつ高信頼性が得られるため,大画面シート型ディスプレー実現に向けて有望な酸化物半導体材料と言える。 8K Terrestrial Transmission Field Tests Using Dual-polarized MIMO and Higher-order Modulation OFDM IEEE Transactions on Broadcasting,Vol.62,No.1,pp.306-315 (2016) 齋藤 進,蔀 拓也,朝倉慎悟,佐藤明彦,岡野正寛,村山研一,土田健一 地上放送でのスーパーハイビジョンの実現を目指し,次世代地上放送方式の研究開発を進めている。複数の送信アンテナおよび受信アンテナを使用 するMIMO(Multi-Input Multi-Output)技術は,伝送容量拡大のための有力な技術であり,米国の次世代地上放送規格(ATSC3.0)にオプション として採用されている。日本の次世代地上放送方式としてMIMOを採用した場合の伝送特性を評価するために,熊本県人吉地区に偏波MIMO対応 の実験局を2局設置し,2×2MIMOシステムおよび4×2MIMOシステムの野外実験を行った。2×2MIMOシステム実験では,UHF帯1チャン ネル(帯域幅6MHz,伝送容量91Mbps)で伝送距離27kmの長距離伝送を成功させた。また,送信点が見通し外の受信点であっても,MIMO伝 搬 路 の変 動による所要受信 電 力の劣化は3dB以下であった。4×2MIMOシステム実 験 では,時空間符号を使 用する符号化SFN(Single Frequency Network)技術の所要受信電力が,従来のSFN技術の所要受信電力と比較して最大3dB改善した。 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 55