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3兆円の地球温暖化対策予算の費用対効果を問う

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3兆円の地球温暖化対策予算の費用対効果を問う
(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー(SERC Discussion Paper):
SERC10012
3兆円の地球温暖化対策予算の費用対効果を問う
朝野賢司 *, 杉山大志
(財) 電力中央研究所 社会経済研究所
要約:
現在、政府は地球温暖化対策税を導入するとしている。しかし、地方自治体も含めると、
すでに日本の地球温暖化対策予算は3兆円に上るとされる。本来ならば、これだけ巨額の
予算があれば、大規模な CO2 削減が実現していなければおかしい。政府は、さらなる増税
の前に、既存の政策の費用対効果を厳しく評価すべきであろう。
免責事項
本ディスカッションペーパー中,意見にかかる部分は筆者のものであり,
(財)電力中央研究所又はその他機関の見解を示すものではない。
Disclaimer
The views expressed in this paper are solely those of the author(s), and do not necessarily
reflect the views of CRIEPI or other organizations.
*
Corresponding author. [e-mail: [email protected]]
■この論文は、http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/index.html
からダウンロードできます。
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民主党政権のもとで地球温暖化対策税の導入機運が高まっている。政府の税制調査会に
提出された環境省による地球温暖化対策税の提案によれば、既存の石油石炭税に加えて、
全化石燃料への上流段階での課税を実施することで、確保した税収を地球温暖化対策に用
いるとしている 1。
しかし、それで本当に CO2は減るのだろうか。すでに、日本における地球温暖化対策の
予算総額は約3兆円に上り、その内訳は、国の予算が1兆1284億円(表1、図1)、地方公共
団体のそれは1兆6400億円(表2)に達するという。問題は、これでどの程度 CO2を削減でき
るのか、という費用対効果だ。
もし本当に既に3兆円もの予算があるならば、莫大な CO2削減がなされるはずであり、
これ以上の財源は全く不要のはずだ。
表3は、3兆円によるCO2削減量を簡単な算数で示したものだ。仮に、2010年の排出権価
格の相場(約1500円/トンCO2) 2の2倍である3000円/トンCO2と削減単価を高めに見積もって
も、日本の総CO2排出量(2008年12.1億トン) 3の8割に匹敵する莫大な削減が可能なはずだ。
鳩山前首相が掲げた「2020年25%削減目標」ですら、削減費用を現状の市場価格からは想
像を絶する程高い1万円/トンCO2という単価で考えても、3兆円あれば達成できる計算に
なる。3兆円という予算額が、いかに温暖化対策としては巨額であるかがわかる。
1
内閣府税制調査会 HP(http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zentai22.html )の第8回(平成22年11月9日開催)、および第12回
(平成22年11月19日開催)資料を参照のこと。
2
日本政策金融公庫と国際協力銀行(JBIC)の調査を参照。ちなみに同調査の関係者に対するアンケートによれば、2011
年末にかけても、1500~2000円/CO2トンと予想されている。http://www.joi.or.jp/carbon/report/pdf/201010_01.pdf
3
環境省発表による2008年度の CO2総排出量。メタンなどを含む温室効果ガス総排出量は12.8億 CO2トン。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2008gaiyo.pdf
-1-
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表 1 国の地球温暖化対策予算(平成 22 年度)
平成22年度
1
2
3
4
予算総額 1兆1284億円
府省庁別
(A)に対す
温暖化対策分 分類別予 管轄官庁 (
項目別予算
予算額
主要な予算項目名(F)
る比率(E)
類(A)
算額(B) C)
額(億円)(G)
(億円)(D)
電源立地地域対策交付金
1097
住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金
407
経産省
2881
57%
新エネルギー等導入加速化支援対策費補助金
345
エネルギー使用合理化事業者支援補助金
270
森林環境保全整備事業
812
京都議定書
農水省
1359
27% 水源林造成事業
244
6%削減約束
治山事業費(森林整備)
108
5029億円
に直接の効果
環境・リフォーム推進事業
330
があるもの
47
国交省
402
8% 森林環境保全整備事業
低公害車普及促進対策費補助
10
京都メカニズムクレジット取得事業費
214
環境省
363
7%
バイオ燃料導入促進関連事業
30
その他省庁
24
0.5%
24
新エネルギー技術研究開発
136
経産省
1587
47% 省エネルギー設備等導入促進リース事業
80
省エネルギー革新技術開発
70
温室効果ガス
高速増殖炉サイクルの推進
451
の削減に中長
文科省
1526
45%
3405億円
電源開発促進関連事業
317
期的に効果が
森林・林業・木材産業づくり交付金
71
あるもの
農水省
221
6%
緑の雇用担い手対策事業費
29
環境省
58
2% 地球温暖化対策技術開発等事業
50
国交省
13
0.4% 先導的都市環境形成促進事業
6
治山事業費(林地保全)
559
農水省
848
39%
山林施設災害関連事業費
45
468
環境省
514
24% 循環型社会形成推進交付金
その他結果と
都市鉄道整備事業費補助
211
して温室効果
国交省
438
20%
2167億円
地方バス路線運行維持対策
68
ガスの削減に
原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事
資するもの
71
経産省
343
16% 業費補助金
核燃料サイクル交付金
41
その他省庁
24
1%
24
国際エネルギー消費効率化等技術普及協力事
102
業
経産省
339
50% 地球環境適応型・本邦技術活用型産業物流イ
16
ンフラ整備等事業
カーボンフットプリント制度構築等事業
6
全球地球観測システム構築の推進に必要な経
基盤的施策な
111
683億円 文科省
162
24% 費
ど
南極地域観測事業費
35
国交省
107
16 静止地球環境観測衛星の整備
75
気候変動影響モニタリング・評価ネットワーク構
環境省
44
6
3
築等経費
5
農水省
23
3 森林吸収源インベントリ情報整備事業
その他省庁
8
出所:環境省HP 4より筆者作成
4
環境省 HP「平成22年度京都議定書目標達成計画関係予算案について(平成22年1月29日報道発表資料)」より
(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12040 )
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表 2 地方公共団体の地球温暖化対策予算
平成22年度
予算総額 1兆6400億円
地球温暖化対策
都道府県
事業費
取組例
CO2、メタン、一酸化二窒素、
代替フロン等に関する対策
温室効果ガス吸収源対策
(都道府県:約9200億円、市町村:約7200億円)
[エネルギー起源のCO2関連]
・市バス等のサービス・利便性向上を通じた
公共交通機関の利用促進
・都市公園、街路等の緑化や官公庁の屋上等の緑化
・太陽光発電設備の導入促進
[非エネルギー起源のCO2関連]
・生ごみ処理機購入費用の助成
・家庭用廃食油の資源化の促進
[メタン、一酸化二窒素関連]
・焼却灰処理「エコセメント」化の推進
(焼却灰の有効利用)
・下水汚泥処理施設、ごみ焼却処理施設の高度化
[代替フロン等関連]
・代替製品(ノンフロン製品)の調達
・森林整備事業
・森林害虫病(松くい虫)の防除
合 計
計
約5 ,6 0 0 億円
約5 ,8 0 0 億円
約1 兆1 ,4 0 0 億円
約3 ,4 0 0 億円
約1 ,2 0 0 億円
約4 ,7 0 0 億円
約2 0 0 億円
約1 0 0 億円
約3 0 0 億円
約9 ,2 0 0 億円
約7 ,2 0 0 億円
約1 兆6 ,4 0 0 億円
[横断的施策]
・温暖化対策地域推進計画の策定
・温室効果ガス排出量の調査、公表
[その他の温暖化対策]
・地球温暖化対策アドバイザーの派遣
・エコサインガイドラインの策定
その他の対策
市町村
事業費
出所:総務省による政府税制調査会提出資料より 5
その他
0.5%
環境省
8%
国土交通省
9%
経済産業省
46%
文部科学省
15%
農林水産省
22%
図1
国の地球温暖化対策予算 1.3 兆円の省別内訳け(平成 22 年度)
環境省資料(表1)より筆者作成
5
政府税制調査会 HP より http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/22zen12kai9.pdf
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表 3 3兆円でどれだけ減らせる筈か?
政府は、温暖化対策税の導入を言う以前に、この3兆円について、個別事業でどれだけ
の費用対効果があり、全体としてどのような費用対効果があるかを明らかにする必要があ
る。これは、最近流行りの事業仕分けと言ってもよいが、そもそも行政評価における
PDCA として当然に実施されるはずのことだ。3兆円もの予算があれば、莫大な CO2削減
ができるはずだ。これ以上金額を増やすのではなく、効率よく使うべきではないか?
最近では、温暖化対策税については、そのエネルギー価格上昇による CO2削減効果(い
わゆる価格効果)はほとんど期待できないことがようやく理解されつつある。そこで税の
推進論者は、もっぱらそれを財源とした政策による CO2削減効果に期待するとしているが、
それならば、なお一層のこと、既存の予算の費用対効果を検証することこそが先決だ。
個別事業については、温暖化対策を目的に謳うことが、安易な予算取りの方法になって
いないか。温暖化対策を謳うならば、CO2削減についての費用対効果が必ず問われるとい
う重荷を負わせ、これに回答できない政策は退場させるべきだ。
もちろん、中には、本来の目的は別なのだが、経緯上、温暖化対策に分類されてしまっ
た事業もあるだろう。そのような政策は、その事業本来の目的に照らして、その是非を厳
格に問うことが第一だ。その上で、温暖化対策に寄与すると言うならば、もちろんそれに
ついての費用対効果も検証すべきだ。
今後詳しい精査が望まれるが、ざっと眺めるだけでも、ある程度の察しがつく。原子力
とエネルギー技術開発関係については、妥当な範囲かと思われる。しかし、再生可能エネ
ルギーの普及補助金、林業、公共交通関係は、温暖化対策としての効果に疑問があったり、
温暖化対策以外の目的に照らしても存続が疑問な事業が少なくないのではないか。
最悪の事態は、温暖化対策という名目によって、本来の名目においては予算がつかなく
なった劣悪な政策が寄せ集められて、それへの財源が温暖化対策税となり、さらに拡大を
続けることである。これでは経済がますます停滞するだけで、CO2削減に全くならない。
以上
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