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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討

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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
第5章
多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
74
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.1
本章の目的
第 3 章において,開発した多視点型太陽系 VR 教材を授業実践で活用し,授業者や
生徒から評価を得た.その結果,VR 教材を用いることで生徒の興味や理解の向上を促
した.また,教材を活用した教員からも高い評価を得ることができた.
第 4 章において,教員や児童・生徒を対象にスクリーンサイズついて検討した.そ
の結果,大型スクリーンは児童・生徒の興味を向上させ,天文の学習において適した
スクリーンサイズであると教員は感じた.
以上の結果から,本研究で開発した多視点型太陽系 VR 教材は,教育現場で使用可
能な教材であることが示唆された.
一方,VR 教材による視覚的な提示のみでは概念の定着は困難である.従来から教育
現場で用いられてきた黒板を用いた授業には「すぐに書ける,消せる」,
「臨機応変に
利用できる」等の VR 教材にはない利便性がある[56].このような黒板を用いた板書
授業による概念の説明に VR 教材を取り入れることで学習効果が向上するのではない
かと考えられる.
瀬戸崎らは VR 教材を用いた授業と板書授業を比較し,VR 教材の有用性を示唆した
[57]
.しかしながら,これまでに板書授業に VR 教材をどのように利用すれば効果的
に学習効果が得られるか検討されていない.
本章は,教材の活用場面と学習者の発達段階,習熟度の観点から多視点型太陽系 VR
教材の効果的な活用方法を明らかにすることを目的とする.
小学生,高校生を対象に,板書による授業に VR 教材を取り入れ,
「導入」,
「まとめ」
での活用場面の違いによる学習効果を理解度テストとアンケート調査によって評価
する.さらに,高校生に対して VR 教材の有用な学習効果について,考察を深めるべ
く半年後に同様の授業を実践し,効果的な活用場面を検証する.
5.2
小学生・高校生を対象とした効果的な活用場面の検討
5.2.1 被験者の選定
本研究で使用した多視点型太陽系 VR 教材は小学生以上を対象に開発した教材であ
る.ピアジェは年齢発達に伴って,認知・思考能力が表 5-1 に示すように 4 つの段階
を経て発達していくと説明している[58].ピアジェが用いた「3 つ山問題」において,
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
就学前の子どもには,自分自身に見えているとおりの配置を答えてしまう自己中心的
誤答がみられる[59].また,論理的思考力の発達段階の違いによって,視点移動能力
に違いが生じ[60]
,小学生,中学生,高校生と年齢に応じて空間認知が向上する[61].
したがって,児童・生徒の発達段階に応じた活用方法を検討することは,多視点型太
陽系 VR 教材を教育現場へ導入するにあたって重要であると考えられる.
本節は,
「具体的操作期(7,8~11,12 歳)」,
「形式的操作期(11,12 歳~)
」から,
それぞれ小学 4 年生(9 歳~10 歳)と高校 1 年生(15 歳~16 歳)を評価の対象とし
て VR 教材の活用場面を検討する.
表 5-1 認知・思考力の発達段階
発達段階
感覚運動期
前操作期
年齢
0歳~2歳
2歳~7,8歳
具体的操作期
7,8歳~11,12歳
形式的操作期
11,12歳~
5.2.2 授業実践
福岡県の学習塾英進館にて,2007 年 7 月 20 日に小学 4 年生(43 名)の児童を対象
に多視点型太陽系 VR 教材を用いた授業実践を行った.また,福岡県私立自由ヶ丘高
等学校にて,2008 年 5 月 24 日に高校 1 年生(44 名)の生徒を対象に多視点型 VR 教
材を用いた授業実践を行った.なお,小学生と高校生の授業実践において,筆者が多
視点型太陽系 VR 教材を操作し,同様の授業を行った.
学校では,年間のカリキュラムを決定し,計画的に授業を進めているため,学校の
カリキュラムに VR 授業を組み込むことが困難であった.そこで,小学 4 年生を対象
とした授業実践は,学習塾において実施し,高校 1 年生は,カリキュラム外の特別授
業として実施した.
小学 4 年生の児童,高校 1 年生の生徒に対して同じ手順で授業を行った.児童・生
徒をそれぞれ 2 クラスに分類し,一方のクラスは VR 教材を導入として使用し,もう
一方のクラスはまとめとして使用した.授業を受けた児童,生徒に理解度テストとア
ンケートを実施することで VR 教材が及ぼす学習効果を検討した.
VR 教材を導入として用いた後に板書による授業・まとめを受けた児童・生徒を「VR
導入群」
,板書による導入・授業の後に,VR 教材をまとめとして用いた授業を受けた
児童・生徒を「VR まとめ群」とした.図 5-1 に示すように,各群は筆者が考案した手
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
順で授業実践を行った.
図 5-2 に授業の環境を示す.教室に U 字に湾曲したスクリーン提示システムを設置
し,授業者はタッチペンを用いることで天体コンテンツをインタラクティブに操作し
ながら授業を進行した.コンテンツは偏光眼鏡をかけることにより 3 次元立体視でき
る.板書による授業では,可動式のホワイトボードを使用し,用いる際にのみ学習者
の前に移動して授業を行なった.授業時間は導入からまとめまで含めて 40 分間であ
った.小学生,高校生の授業における学習目的は,「月の満ち欠けを通して天体運動
を理解する」
,
「視点の移動を行いながら空間認知のトレーニングを行い,発展的な問
題を考察できるようにする」の 2 点であった.
板書授業において,図 5-3 を用いて太陽と地球,月の位置関係を示した.さらに,
月に影を板書しながら地球からの視点を考察させ,児童・生徒に発問を促しながら月
の満ち欠けのしくみを教授した.なお,小学生と高校生に対して同様の板書を行った.
VR 授業において,板書した内容を立体的に提示し,インタラクティブに操作するこ
とで様々な視点から太陽光によって生じる月の満ち欠けの様子を観察させた.さらに,
図 5-4 に示すサブウィンドウに地球からの視点の映像を提示し,全体を俯瞰する映像
と同時に提示することで児童・生徒の理解を促した.
小学生,高校生の授業実践の様子を図 5-5,図 5-6 に示す.
VR導入群
VRまとめ群
事前テスト
事前テスト
VR教材による導入
ホワイトボードによる
導入・授業
ホワイトボードによる
授業・まとめ
比較
VR教材によるまとめ
事後テスト
アンケート調査
事後テスト
アンケート調査
図 5-1 授業実践の手順
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
図 5-2 授業環境
図 5-3 板書による記述
サブウィンドウ
図 5-4 多視点型太陽系 VR 教材におけるサブウィンドウ
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
図 5-5 小学生を対象とした授業風景
図 5-6 高校生を対象とした授業風景
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.2.3 評価方法
(1)小学生・高校生の理解度
「VR 導入群」
,
「VR まとめ群」はそれぞれの授業による理解度を評価するために,
「事
前テスト」
,
「事後テスト」について解答した.事前テストと事後テストは同一の問題
とし,児童・生徒はそれぞれ 10 分間で解答した.表 5-2 に小学生の理解度テストの
実施についての詳細,表 5-3 に高校生の理解度テストの実施についての詳細を示す.
表 5-2 理解度テストについての詳細(小学生)
対象:小学 4 年生(学習塾英進館)
実施日:2007 年 7 月 20 日
回答時間:10 分
調査方法:事前テスト:学習塾英進館にて授業実践前に実施
事後テスト:授業後半終了後に実施および,回収
調査用紙作成:筆者が作成(高校生と同一の問題)
註 調査用紙を付録 2(調査用紙 14)に掲載
表 5-3 理解度テストについての詳細(高校生)
対象:高校 1 年生(福岡県私立自由ヶ丘高等学校)
実施日:2008 年 5 月 24 日
回答時間:10 分
調査方法:事前テスト:自由ヶ丘高等学校にて授業実践前に実施
事後テスト:授業後半終了後に実施および,回収
調査用紙作成:筆者が作成(小学生と同一の問題)
註
調査用紙を付録 2(調査用紙 14)に掲載
テストの内容は「知識問題(4 問)」
,
「月の満ち欠け問題(6 問)」
「空間認知問題(4
問)
」
,
「応用(惑星の満ち欠け)問題(6 問)
」の 4 項目(20 問)であり,各 1 点 20
点満点とし,筆者が採点をした.
「知識問題」は授業中に発問した内容から抜粋し,
児童・生徒がどれだけ記憶していたかを問う問題であった.問題の内容は,地軸の傾
き,自転,公転,月の満ち欠けの周期についてであった.「月の満ち欠け問題」,「空
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
間認知問題」は子どもの空間認識の実態調査の際に用いた図[62]を参考に作成した.
授業で直接的に教授する内容ではなく,視点移動に伴う空間認知が必要となる問題で
あった.月の満ち欠け問題では,図 5-7 を使用し,観測者からボールに映る影につい
て問う問題であった.空間認知問題は図 5-8 を使用し,視点を移動した際に太陽光に
よって生じた影と●印が観測者からどのように見えるかを問う問題であった.「応用
問題」は月の満ち欠けのしくみの発展問題として授業では全く取り上げていない金星
の満ち欠けや空間的に惑星の位置関係を考察する問題であった.なお,「知識問題」
を除いて授業中にテストの解答となる発問は行わなかった.
日光
図 5-7 月の満ち欠け問題で用いた図
太
陽
の
光
太
陽
の
光
図 5-8 空間認知問題で用いた図
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
(2)小学生・高校生による主観評価
VR 教材による実践授業を受けた児童・生徒を対象に,主観評価を行った.表 5-4
に調査の実施についての詳細を示す.
授業についての主観評価として「興味(2 問)」,
「理解度(5 問)」
,「態度(2 問)」
,
の 3 項目(9 問)に対して 4 件法による回答を得た.調査内容を表 5-2 に示す.調査
用紙は,筆者が作成した.
「とてもそう思う」を 4 点,「ややそう思う」を 3 点,「あ
まりそう思わない」を 2 点,
「まったくそう思わない」を 1 点として平均値を算出し,
分散分析を行った.なお,小学 4 年生の児童に対して,未習の漢字には読み仮名を記
載し,机間巡視を行うことで設問項目に対する質問に対応した.
表 5-4 小学生・高校生による主観評価についての詳細
対象:小学 4 年生(学習塾英進館)高校 1 年生(自由ヶ丘高等学校)
実施日:2007 年 7 月 20 日
回答時間:5 分
調査方法:授業実践後に配布および,回収
調査用紙作成:筆者
註
調査用紙を付録 2(調査用紙 15)に掲載
表 5-2 アンケート設問項目
興味
・天体の授業は楽しかった
・天体の授業を受けてわくわくした
自己理解度
・立体映像を見て理解できた
・月の満ち欠けの仕組みについてよく理解できた
・授業で学んだことについて他の人に説明することができる
・天体についての疑問が解決した
・天体について自分の考えに自信が持てるようになった
態度
・開始から終了まで集中して授業を受けることができた
・天体についてよく考えた
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.2.4 結果
(1) 小学生における学習効果
有効回答した被験者は, VR 導入群 22 名,VR まとめ群 21 名であった.事前テスト
の平均値は「知識問題」2.1 点,
「月の満ち欠け問題」1.9 点,
「空間認知問題」1.1
点,
「応用問題」1.9 点であった.詳細な分析結果を得るために,それぞれの平均値を
基準として上位群と下位群に分類し,「習熟度」の要因を加えて分散分析により評価
した.VR 教材の活用法を第一要因(被験者間比較)
,習熟度を第二要因(被験者間比
較)
,テストの得点を第三要因(被験者内比較)として三要因分散分析を行った.表
5-5 にテスト項目別に VR 導入群と VR まとめ群を習熟度で分類した人数分布を示す.
表 5-5 習熟度によるテスト項目別の人数分布(小学生)
知識問題
満ち欠け問題 空間認知問題
応用問題
導入上位群
10
14
10
12
導入下位群
12
8
12
10
まとめ上位群
10
9
9
11
まとめ下位群
11
12
12
10
図 5-9 に小学生の理解度テストの結果を示す.
「知識問題」の結果について,「習熟度」と「得点」の交互作用が有意であった
(F(1,39)=16.65 ,p<.01)
.そこで,
「習熟度」の単純主効果を分析した結果,事前テ
スト(F(1,39)=109.66,p<.01),事後テスト(:F(1,39) = 12.46,p<.01)において上
位群が有意に高かった.また,「得点」の単純主効果を分析した結果,上位群
(F(1,39)=20.05,p<.01)
,下位群(F(1,39)=105.03,
p<.01)は事前テストと事後テ
ストの得点に有意な差があった.結果から,VR 教材の活用法に関わらず,上位群と下
位群は授業後にテストの得点が向上した.
「月の満ち欠け問題」の結果について,
「習熟度」の主効果(F(1,39)= 44.74, p<.01)
および,
「活用法」と「得点」の交互作用(F(1,39)= 5.28, p<.05)が有意であった.
そこで,
「活用法」の単純主効果を分析した結果,事前テストに有意な差はなく,事
後 テ ス ト に お い て , VR 導 入 群 の 平 均 値 が 有 意 に 高 い 傾 向 が あ っ た (F(1,39)=
3.24, .05<p<.10).また,
「得点」の単純主効果を分析した結果,VR まとめ群の事前
テストと事後テストの得点に有意な差はなく,VR 導入群の事前テストと事後テストに
有意な差があった(F(1,39)= 22.15 ,p<.01)
.結果から,習熟度に関わらず,VR 教材
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
を導入として用いた場合に事後テストの得点は向上したが,VR 教材をまとめとして用
いた場合には事後テストの得点は向上しなかった.
「空間認知問題」の結果について,「習熟度」と「得点」の交互作用が有意であっ
た(F(1,39)=10.71,p<.01)
.そこで,
「
「習熟度」の単純主効果を分析した結果,事前
テストは上位群が有意に高く(F(1,39)=205.99, p<.01),事後テストは上位群が有意
に高い傾向があった( F(1,39)=2.90, .05<p<.10).また,「得点」の単純主効果を分
析した結果,上位群の事前テストと事後テストの得点に有意な差はなく,下位群の事
前テストと事後テストに有意な差があった(F(1,39)=16.81,
p<.01).結果から,VR
教材の活用法に関わらず,下位群は授業後にテストの得点が向上したが,上位群は向
上しなかった.
「応用問題」の結果について,「習熟度」と「得点」の交互作用が有意であった
(F(1,39)=8.81,p<.01)
.そこで,
「習熟度」の単純主効果を分析した結果,事前テス
ト(F(1,39)=96.62,p<.01),事後テスト(F(1,39)= 4.58,p<.05)において上位群が
有意に高かった.また,「得点」の単純主効果を分析した結果,上位群の事前テスト
と事後テストの得点に有意な差はなく,下位群の事前テストと事後テストに有意な差
があった( F(1,39)=11.30,p<.01).結果から,VR 教材の活用法に関わらず,下位群は
授業後にテストの得点が向上したが,上位群は向上しなかった.
図 5-10 に小学生による主観評価の結果を示す.「VR 導入群」と「VR まとめ群」に
おいて設問項目別に被験者間比較による分散分析を行った.その結果,「興味」,「態
度」の各設問項目において VR 導入群と VR まとめ群に有意な差はなかった.また,理
解度において「他人に説明できる」の項目で VR まとめ群の平均値が有意に高い傾向
があった(F(1,41)= 2.99.05<P<.10).その他の理解度に関する設問項目については
有意な差はなかった.結果から,VR 教材は活用法に関わらず,小学生の興味や態度に
おいて,高い評価を得たことが明らかになった.
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
まとめ上位
まとめ下位
平均値
導入上位
導入下位
4.0
6
3.1
3.5
3.0
5
3.0
2.6
4
平均値
4
3
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
4.6
3.6
3.2
3
2
1.3
1
1
0
0
事前テスト
事後テスト
2.1
0.7
0.6
事前テスト
【知識問題の結果】
平均値
2.7
2
1.2
2.5
事後テスト
【月の満ち欠け問題の結果】
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
平均値
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
6
4
5
3
4
2.2
2.1
2.3
2
3
1.6
1.3
1
2
1
0.3
0
0.1
事前テスト
0
3.0
2.6
1.8
1.6
2.8
0.7
0.6
事前テスト
事後テスト
【空間認知問題の結果】
2.7
事後テスト
【応用問題の結果】
図 5-9 理解度テストの結果(小学生)
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
VRまとめ群
VR導入群
平均値
1
2
3
4
3.9
授業は楽しかった
3.8 3.8
授業を受けてわくわくした
3.7
3.4
3.6
集中して授業を受けた
3.6
3.5
3.8
天体についてよく考えた
立体映像を見て理解できた
3.6
満ち欠けのしくみが理解できた
3.6
3.5
3.4
3.2
疑問が解決した
3.6
3.4
自信がもてるようになった
他人に説明できる
2.9
3.3
図 5-10 主観評価の結果(小学生)
(2)高校生における学習効果
有効回答した被験者は, VR 導入群 21 名,VR まとめ群 23 名であった.事前テスト
の平均値は「知識問題」2.2 点,
「月の満ち欠け問題」1.4 点,
「空間認知問題」0.8
点,
「応用問題」1.0 点であった.詳細な分析結果を得るために,それぞれの平均値を
基準として上位群と下位群に分類し,「習熟度」の要因を加えて分散分析により評価
した.VR 教材の活用法を第一要因(被験者間比較)
,習熟度を第二要因(被験者間比
較)
,テストの得点を第三要因(被験者内比較)として三要因分散分析を行った.表
5-6 にテスト項目別に VR 導入群と VR まとめ群を習熟度で分類した人数分布を示す.
表 5-6 習熟度によるテスト項目別の人数分布(高校生)
知識問題
満ち欠け問題 空間認知問題
応用問題
導入上位群
7
8
10
13
導入下位群
14
13
11
8
まとめ上位群
10
7
5
8
まとめ下位群
13
16
18
15
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第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
図 5-11 に高校生の理解度テストの結果を示す.
「 知 識 問 題 」 の 結 果 に つ い て ,「 活 用 法 」 の 主 効 果 が 有 意 傾 向 で あ り
(F(1,40)=3.45 , .05p<.10),「習熟度」と「得点」の交互作用が有意であった
(F(1,40)=14.03, p<.01)
.そこで,
「習熟度」の単純主効果を分析した結果,事前テ
スト(F(1,40)=60.14,p<.01),事後テスト(F(1,40) = 14.58,p<.01)において上位
群 が 有 意 に 高 か っ た . ま た ,「 得 点 」 の 単 純 主 効 果 を 分 析 し た 結 果 , 上 位 群
(F(1,40)=10.48,p<.01)
,下位群(F(1,40)=72.84,
p<.01)は事前テストと事後テ
ストの得点に有意な差があった.結果から,VR 教材の活用法に関わらず,上位群と下
位群は授業後にテストの得点が向上した.
「月の満ち欠け問題」の結果について,交互作用は有意ではなく,
「習熟度」と「得
点」 の主効果 が有意であっ た(習熟 度: F(1,40)=49.01 ,p<.01 得点:F(1,40)=
6.56 ,p<.05)
.結果から,VR 教材の活用法に関わらず,上位群と下位群は授業後にテ
ストの得点が向上した.
「空間認知問題」の結果について,交互作用は有意ではなく,
「習熟度」と「得点」
の 主 効 果 が 有 意 で あ っ た ( 習 熟 度 : F(1,40)=68.51 ,p<.01 得 点 : F(1,40)=
12.06 ,p<.05)
.結果から,VR 教材の活用法に関わらず,上位群と下位群は授業後に
テストの得点が向上した.
「応用問題」の結果について,「習熟度」と「得点」の交互作用が有意であった
(F(1,40)=11.31,p<.01)
.そこで,「習熟度」の単純主効果を分析した結果,事前テ
ストに有意な差があったが(F(1,40)=77.98,p<.01),事後テストに有意な差はなかっ
た.また,
「得点」の単純主効果を分析した結果,上位群の事前テストと事後テスト
の得点に有意な差はなく,下位群の事前テストと事後テストに有意な差があった
(F(1,40)=34.33, p<.01).結果から,VR 教材の活用法に関わらず,下位群は授業後に
テストの得点が向上したが,上位群は向上しなかった.
図 5-12 に高校生による主観評価の結果を示す.「VR 導入群」と「VR まとめ群」に
おいて設問項目別に被験者間比較による分散分析を行った.その結果,「興味」,「態
度」の各設問項目においてそれぞれ VR まとめ群の平均値が有意に高かった(授業は
楽しかった:F(1,42)=10.17 p<.01, 授業を受けてわくわくした:F(1,42)=6.97 p<.05,
集中して授業を受けた:F(1,42)=4.40 p<.05,天体についてよく考えた:F(1,42)=7.58
p<.01)
.また,理解度において「立体映像を見て理解できた」の項目で VR まとめ群
の平均値が有意に高かった(F(1,42)=5.61 p<.05).その他の理解度に関する設問項
目については有意な差はなかった.
87
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
平均値
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
4
2
1
4
2.7
2
1.5
1
0
0
導入下位
4.0
3.6
3.4
2.6
1.6
0.6
0.5
1.2
事前テスト
事後テスト
事後テスト
【月の満ち欠け問題の結果】
【知識問題の結果】
平均値
導入上位
3
1.6
事前テスト
まとめ下位
5
3.3
3.0
3.0
まとめ上位
6
3.9
3.2
3
平均値
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
平均値
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
6
4
5
3
2
2.7
2.2
3
2
1.2
1
0
4
2.6
0.8
1
0.0
事前テスト
0
2.5
2.4
2.2
1.8
1.6
1.6
0.0
事前テスト
事後テスト
事後テスト
【応用問題の結果】
【空間認知問題の結果】
図 5-11 理解度テストの結果(高校生)
88
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
(2)高校生による主観評価
VRまとめ群
VR導入群
平均値
1
2
3
授業は楽しかった
4
3.5
3.0
授業を受けてわくわくした
3.0
2.4
集中して授業を受けた
3.2
2.8
天体についてよく考えた
3.0
2.3
立体映像を見て理解できた
2.9
3.3
3.3
3.1
満ち欠けのしくみが理解できた
疑問が解決した
2.4
2.7
2.6
2.4
自信がもてるようになった
他人に説明できる
2.1
2.4
図 5-12 主観評価の結果(高校生)
5.2.5 考察
(1)小学生の学習効果に関する考察
「知識問題」において VR 教材の活用法に関わらず,同様に授業後のテストの得点
が向上した.児童は,授業中に発問された課題について学習するこができ,集中して
授業に取り組むことができたと推察される.
「月の満ち欠け問題」において習熟度に関わらず,VR 教材を「導入」として用いる
ことで授業後のテストの得点が向上した.一方,VR 教材を「まとめ」として用いた場
合には授業後のテストの得点は向上しなかった.ピアジェが提唱する認知・思考能力
の発達段階において小学 4 年生は,
「具体的操作期」にあたり,具体的な物について
は論理的に操作できるが,抽象的な概念はうまく扱うことができない.板書による授
業を行う前に,VR 教材を用いて様々な視点から観察することにより,児童の空間的な
89
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
理解を促したことが学習効果を高めた要因であったと推察できる.
「空間認知問題」
,「応用問題」において VR 教材の活用法に関わらず,上位群の児
童に対して,VR 教材による学習効果は得られなかった.空間認知問題および,応用問
題は小学 4 年生を対象とした問題としては難易度が高く,40 分程度の授業では上位群
の得点向上には至らなかったことが示唆される.一方,下位群は活用法に関わらず授
業後の得点が向上した.その結果, VR 教材は空間認知が苦手な児童に対して効果的
な教材であり,発展的な考察を促すことが示唆された.
また,VR 教材の活用法に関わらず,主観評価の各項目において高校生と比較して高
い評価を得た.VR 教材は児童の興味を引き,態度や意欲を向上させたといえる.その
結果,導入として VR 教材を用いることにより,児童がその後の授業に積極的に取り
組み,集中力を継続したため,
「月の満ち欠け問題」の理解度を向上させる一要因に
成り得たと推察される.
(2) 高校生の学習効果に関する考察
テストによる理解度の評価によると,「知識問題」,「月の満ち欠け問題」,「空間認
知問題」
,
「応用問題」に対して高校生は VR 教材の活用法に関わらず同様の学習効果
を得た.
「応用問題」において VR 教材の活用法に関わらず,授業後に下位群の得点が
向上した.小学生と同様,VR 教材を用いることで習熟度が下位層の生徒に対して発展
的な学習を促すことが示唆された.また,上位群は授業後に得点が向上しておらず,
40 分程度の授業では上位群の得点向上には至らなかったことが示唆される.
一方,主観評価の結果から,
「VR まとめ群」は「VR 導入群」と比較して授業に対す
る興味が高かった.また,天体についてよく考え,集中して授業を受けており,立体
映像を見て理解できたと回答した.VR 教材の活用法によるテストの得点に有意な差は
なかったが,VR 教材をまとめとして用いることで生徒の情意面を向上させることが明
らかになった.高校生は,小学生と比較して論理的に思考することができるとされて
いる.したがって,板書による授業の後に,VR 教材をまとめとして用い,様々な視点
から観察することによって,学習した内容を確認することができる.そのため,高校
生は興味や態度を向上させ,理解が深まったと感じたと推察される.
高校生を対象とした授業実践の結果から,VR 教材をまとめとして用いることで生徒
の情意面が向上したが,理解度による活用法の違いは明らかにできなかった.そこで,
次節において高校生に対する効果的な活用場面について考察を深めるべく,半年後に
同様の授業実践を行い評価した.
90
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.3
高校生を対象とした効果的な活用場面の検証
5.3.1 効果的な活用場面の検証方法
本節では,前節で明らかにすることができなかった高校生に対する VR 教材の有用
な活用場面を明らかにすることを目的とする.なお,小学生に対しては,理解度テス
トの結果から,VR 教材を導入で用いることの有用性を明らかにできたため,高校 1
年生のみを対象とした.
5.3.2 授業実践
前節で授業実践を受けた生徒,35 名を含む 43 名を対象に,半年後(2008 年 11 月
29 日)に同様の授業実践を行った.前章の授業実践と同様に,生徒を「VR 導入群」
と「VR まとめ群」の 2 クラスに分類した.前章で授業実践を受けた生徒に対して,同
様の活用場面による授業を実践し,理解度テストとアンケートを実施することで生徒
に及ぼす学習効果を検証した.前節の調査を含む全体の授業実践の手順を図 5-13 に
示す.
VR導入群
VRまとめ群
事前テスト
事前テスト
VR教材による導入
比較
ホワイトボードによる
導入・授業
ホワイトボードによる
授業・まとめ
VR教材によるまとめ
事後テスト・アンケート
事後テスト・アンケート
半年後テスト
半年後の授業実践
半年後テスト
ホワイトボードによる
導入・授業
VR教材による導入
ホワイトボードによる
授業・まとめ
VR教材によるまとめ
半年後事後テスト
アンケート
半年後事後テスト
アンケート調査
図 5-13 2 度の授業実践による調査の手順
91
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.3.3 評価方法
(1)高校生の理解度
「VR 導入群」
,
「VR まとめ群」に対して,前章と同様に事前テストと事後テスト(以
下半年後事前テスト,半年後事後テスト)を 2008 年 11 月 29 日に実施した.テスト
の実施に関する詳細を表 5-7 に示す.前節で検討した事前テストと事後テストに半年
後テスト,半年後事後テストのデータを加え,有用な活用場面を検証した.なお,理
解度テストの内容は,半年前に実施したものと同一のテストを使用し,生徒は 10 分
間で回答した.
前節で実施した事前テストの平均値は「知識問題」2.1 点,
「月の満ち欠け問題」1.5
点,
「空間認知問題」0.5 点,
「応用問題」0.9 点であった.さらに詳細な分析結果を
得るために,それぞれの平均値を基準として上位群と下位群に分類し,「習熟度」の
要因を加えて分散分析により評価した.
表 5-8 にテスト項目別に,VR まとめ群と VR 導入群を習熟度で分類した人数分布を
示す.
「空間認知問題」において,まとめ上位群が 2 名であり,習熟度による分析が
できなかったため,活用法とテストの得点の二要因で分散分析を行った.
表 5-7 理解度テストについての詳細
対象:高校 1 年生(福岡県私立自由ヶ丘高等学校)
実施日:2008 年 11 月 29 日
回答時間:10 分
調査方法:事前テスト:自由ヶ丘高等学校にて授業実践前に実施
事後テスト:授業後半終了後に実施および,回収
調査用紙作成:筆者が作成(半年前と同一問題)
註
調査用紙を付録 2(調査用紙 14)に掲載
表 5-8 テスト項目別の人数分布
知識問題
満ち欠け問題 空間認知問題
応用問題
導入上位群
6
7
9
8
導入下位群
10
9
7
8
まとめ上位群
7
5
2
6
まとめ下位群
12
14
17
13
92
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
(2)VR 教材の提示順序に関する主観評価
VR 教材の活用場面についての主観評価を得るために,VR 教材による授業実践を受
けた生徒を対象に,「提示順序によって理解しやすかった」,「提示順序によって集中
できた」
,
「提示順序を入れ替えたほうがよい」の 3 つの質問に対して,「とてもそう
思う」
,
「ややそう思う」
,
「あまりそう思わない」,
「まったくそう思わない」の 4 件法
による回答を得た後,直接確率計算によって評価した.調査に関する詳細を表 5-9 に
示す.
表 5-9 高校生による主観評価についての詳細
対象:高校 1 年生(自由ヶ丘高等学校)
実施日:2008 年 11 月 29 日
回答時間:5 分
調査方法:授業実践後に配布および,回収
調査用紙作成:筆者
註
調査用紙を付録 2(調査用紙 16)に掲載
5.3.4 結果
(1)高校生の理解度
有効回答した被験者は,2 回の授業実践に参加した VR 導入群 16 名,VR まとめ群 19
名であった. VR 教材の活用法を第一要因(被験者間比較),習熟度を第二要因(被験
者間比較)
,テストの得点を第三要因(被験者内比較)として三要因分散分析を行っ
た.
図 5-14 に「知識問題」の結果を示す.分析の結果,
「習熟度」と「得点」の交互作
用が有意であった(F(3,93)= 3.63 ,p<.05)
.そこで,「習熟度」と「得点」の交互作
用を分析した結果,
「習熟度」の単純主効果は事前テスト(F(1,31)= 48.17 ,p<.01)
,
事後テスト(F(1,31)= 11.80 ,p<.01),半年後事前テスト(F(1,31)= 8.05 ,p<.01)
において上位群が有意に高く,半年事後テストにおいて上位群が有意に高い傾向があ
93
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
った(F(1,31)= 2.99 , .05<p<.10)
.また,上位群はテストの得点に有意な差がなく,
下位群はテストの得点に有意な差があった(F(3,93)= 16.09,p<.01)
.LSD 法によって
多重比較した結果,下位群は「事前テスト<事後テスト>半年後事前テスト<半年後
事後テスト(事前テスト<半年後事後テスト,事後テスト=半年後事後テスト)」と
得点が変容した(MSe=.43,p<.05). 結果から,VR 教材の活用法に関わらず,下位群は
授業後にテストの得点が向上した.
図 5-15 に「月の満ち欠け問題」の結果を示す.分析の結果,交互作用は有意では
なく,
「習熟度」と「得点」が有意だった(習熟度:F(1,31)=38.31 ,p<.01 得点:F(3,93)=
9.24 ,p<.01)
.そこで,
「得点」の各水準の平均を LSD 法によって多重比較した結果,
「事前テスト<事後テスト>半年後事前テスト<半年後事後テスト(事前テスト=半
年後テスト,事後テスト=半年後事後テスト)
」と得点が変容した(MSe=1.62,p<.05).
結果から,VR 教材の活用法と習熟度に関わらず授業後にテストの得点が向上した.
図 5-16 に「応用問題」の結果を示す.分析の結果,
「習熟度」と「得点」の交互作
用が有意であった(F(3,93)= 4.10 ,p<.05)
.そこで,「習熟度」と「得点」の交互作
用を分析した結果,「習熟度」の単純主効果は事前テストのみに有意な差があった
(F(1,31)= 72.78 ,p<.01)
.また「得点」の単純主効果は上位群と下位群,共に有意
な差があった(上位群:F(3,93)= 4.98 ,p<.01 下位群:F(3,93)= 13.74 ,p<.01).
LSD 法によって多重比較した結果,上位群は「事前テスト=事後テスト=半年後事前
テスト<半年後事後テスト」と得点が変容し,下位群は「事前テスト<事後テスト=
半年後事前テスト<半年後事後テスト」と得点が変容した(MSe=1.63,p<.05).結果か
ら,VR 教材の活用法に関わらず下位群は授業を受ける度にテストの得点が向上し,上
位群と同様の得点になった.
図 5-17 に「空間認知問題」の結果を示す.VR 教材の活用法を第一要因(被験者間
比較)
,テストの得点を第二要因(被験者内比較)として二要因分散分析を行った.
分析の結果,交互作用は有意ではなかった(F(3,99)=.66 n.s.).そこで,第一要因
の主効果についての分析を行った結果,有意な差はなかった.次に第二要因の主効果
の分析を行った結果,有意な差があった(F(3,99)=23.13, p<.01)
.LSD 法によって多
重比較した結果,
「事前テスト<事後テスト<半年後事前テスト=半年後事後テスト」
と得点が変容した (MSe=0.78, p<.05).結果から,VR 教材の活用法に関わらず,1 度
目の授業実践の後に加え,半年後にもテストの得点が向上した.
94
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
平均値
4
3
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
3.9
3.3
3.1
3.3
2.9
3.0
3.5
3.1
2.4
2.7
2
3.4
2.9
2.8
2.1
1.6
1.3
1
0
事前テスト
事後テスト
半年後事前テスト 半年後事後テスト
図 5-14 知識問題の結果
平均値
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
6
4.6
4.8
5
4.0
4
3.9
3.9
2.7
2
1
0
2.9
3.6
3
1.8
0.4
事前テスト
1.9
0.6
0.6
1.1
0.9
事後テスト
半年後事前テスト 半年後事後テスト
図 5-15 月の満ち欠け問題の結果
平均値
6
まとめ上位
まとめ下位
導入上位
導入下位
5
3.9
4
3
2.8
2
1
0
3.0
2.4
1.7
0.0
事前テスト
2.4
2.3
2.0
1.6
事後テスト
1.8
1.4
1.2
半年後事前テスト 半年後事後テスト
図 5-16 応用問題の結果
95
2.7
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
平均値
VRまとめ群
VR導入群
4
3
2.2
2.3
1.9
1.9
1.8
2
0.9
1
1.1
0.2
0
事前テスト
事後テスト
半年後事前テスト 半年後事後テスト
図 5-17 空間認知問題の結果
(2)VR 教材の提示順序に関する主観評価
高校生を対象とした授業構成についての主観評価の結果を示す.有効回答した被験
者は,VR 導入群 19 名,VR まとめ群 22 名であった. 表 3 に授業構成についての主観
評価の結果を示す.
「提示順序によって理解しやすかった」の設問に対する結果を図 5-18 に示す.肯
定的な解答(VR まとめ群 19 名,VR 導入群 9 名)と否定的な解答(VR まとめ群 3 名,
VR 導入群 10 名)に分類し,直接確率計算を行った.結果より,VR 教材の活用法と「質
問に対する回答には有意な関連性があった(両側検定:p=.017)すなわち,VR まとめ
群は VR 導入群と比較して,提示順序によって理解しやすかったと回答をした生徒が
有意に多かった.
「提示順序によって集中できた」の設問に対する結果を図 5-19 に示す.肯定的な
解答(VR まとめ群 16 名,VR 導入群 7 名)と否定的な解答(VR まとめ群 6 名,VR 導
入群 12 名)に分類し,直接確率計算を行った.結果より,VR 教材の活用法と質問に
対する回答の関連性に有意傾向があった(両側検定:p=.030).すなわち, VR まとめ
群は VR 導入群と比較して提示順序によって集中したと回答をした生徒が有意に多い
傾向があった.
「提示順序を入れ替えたほうがよい」の設問に対する結果を図 5-20 に示す.肯定
的な解答(VR まとめ群 2 名,VR 導入群 12 名)と否定的な解答(VR まとめ群 20 名,
VR 導入群 7 名)に分類し,直接確率計算を行った.結果より,VR 教材の活用法と質
問に対する回答には有意な関連性があった(両側検定:p=.005)
.すなわち, VR まと
め群は VR 導入群と比較して提示順序を入れ替えないほうがよいと回答をした生徒が
有意に多かった.
96
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
割合
とてもそう思う
ややそう思う
あまりそう思わない
全くそう思わない
0%
20%
40%
5人
4人
VR導入群
80%
13 人
6人
VRまとめ群
60%
100%
3人
10 人
図 5-18 「提示順序によって理解しやすかった」おける調査結果
割合
とてもそう思う
ややそう思う
あまりそう思わない
全くそう思わない
0%
VRまとめ群
20%
40%
60%
80%
6人
13 人
3人
100%
1人
6人
VR導入群
12 人
図 5-19 「提示順序によって集中できた」における調査結果
とてもそう思う
ややそう思う
あまりそう思わない
全くそう思わない
割合 0%
20%
40%
60%
80%
100%
1人
VRまとめ群
13 人
7人
1人
1人
VR導入群
6人
6人
6人
図 5-20 「提示順序を入れ替えたほうがよい」における調査結果
97
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.3.5 考察
テストによる理解度の評価によると,全ての項目に対して VR 教材の活用法に関わ
らず同様の学習効果を得た.以上の結果は,前節の結果と一致し,高校生に対する有
用な活用場面について明らかにしたといえる.また,発達的観点から見たとき,具体
的・視覚的なものに依存した思考から,形式的・抽象的思考へと発達する[63]
.高
校 1 年生はピアジェが提唱する認知・思考能力の発達段階において「形式的操作期」
にあたり,抽象的考察ができるとされている.したがって小学生と比較して,板書に
よる授業においても心的な視点移動ができるため,提示する順序によって理解度に影
響を及ぼさなかったと推察される.
知識問題において,上位群はテストの得点に有意な差がなかった.上位群は事前テ
ストの得点が高く,天井効果のため得点の変容がなかったことが示唆された.
応用問題において,下位群は上位群と比較して,VR 授業によってテストの得点が向
上した.以上の結果から,VR 教材を用いることで習熟度が下位層の学習者に対して発
展的な学習を促すことが示唆された.
空間認知問題において,1 度目の授業実践の「事後テスト」の半年後に実施した「半
年後テスト」で得点が向上した.その理由として,半年後に同一の問題を使用したこ
とが示唆される.また,本研究における学習以外の要因が関連していることも予想さ
れる.高校生は空間認知についても発達段階であると考えられ,半年間の学習環境に
よって向上した可能性が示唆される.しかし,生徒の半年間の学習環境を把握するこ
とは非常に困難なことであり,本論文での考察として範疇を超える部分である.
主観評価の結果から,VR 教材の提示順序は集中力や自己理解度に影響を及ぼしてい
ることが明らかになった.また, 提示順序を入れ替えた方がよいと回答した生徒は,
VR まとめ群が 22 人中,2 人であったのに対して,VR 導入群は 19 人中,12 人であっ
た.以上の結果から,VR まとめ群は,VR 導入群と比較して提示順序に対して満足し
ており,VR 教材をまとめとして用いることを望んでいることが示唆された.
98
第 5 章 多視点型太陽系 VR 教材の効果的な活用に関する検討
5.4
まとめ
本章では,教材の活用場面と学習者の発達段階,習熟度の観点から多視点型太陽系
VR 教材の効果的な活用方法を明らかにすることを目的とした.小学 4 年生と高校 1
年生に対して授業実践を行い,評価した結果,以下の知見を得た.
・ 小学生に対して VR 教材は,興味や態度を向上させる教材であり,導入として用い
ることで「月の満ち欠け問題」において理解度を向上させた.
・ 高校生に対して VR 教材は活用場面に関わらず,理解度において同様の学習効果を
与えた.
・ VR 教材をまとめとして用いることで,高校生の興味,自己理解度を向上させた.
・ VR 教材は,習熟度が下位層の児童・生徒に有用な教材であることが示唆された.
以上の授業実践で評価した結果,小学生に対して VR 教材を導入として用いること
の有用性を明らかにした.しかし,高校生に対して,VR 教材をまとめとして用いるこ
とで興味や自己理解度が向上したが,理解度に関する有意な差はなかった.そこで,
高校生を対象に,VR 教材の有用な活用場面を検証することを目的として,半年後に同
様の授業を実践し,評価した.その結果,以下の知見を得た.
・ 理解度において,VR 教材は高校生に対して活用場面に関わらず,同様の学習効果
を与えることが明らかになった.
・ VR 教材をまとめとして用いることで,高校生は集中して授業に取り組み,理解し
やすかったと回答した.
以上の結果から,板書による授業に多視点型太陽系 VR 教材を活用する場合,小学4
年生は導入として用いることで月の満ち欠けに関する理解度が向上することが明ら
かになった.また,高校 1 年生は活用場面に関わらず,理解度に対して同様の学習効
果を得るが,VR 教材をまとめとして用いることで興味や態度,自己理解度を向上させ
ることが明らかになった.
習熟度の観点から評価すると,VR 教材は,空間認知が必要となる課題に対して理解
困難な児童・生徒に対して有用であった.そこで,VR 教材を使用する際に,児童・生
徒の習熟度による使い分けを検討し,補修用の教材として使用することも可能である
ことが示唆された.
99
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