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平面展開による金属樹の保存と イオン化傾向の理解

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平面展開による金属樹の保存と イオン化傾向の理解
高
校
化
学
平面展開による金属樹の保存と
イオン化傾向の理解
東京都立葛西工業高等学校 土 屋 徹
目 的
金属樹は普通試験管でつくるが、非常に壊れやす
い。金属樹をろ紙上で平面的につくり、フィルム化す
ると、生徒は自ら作った金属樹の美しい造形をそのま
まの形で持ち帰ることができ、理科への興味・関心を
引き出すことができる。本作品は、生徒へ美的な感動
を与え、イオン化傾向、電池、電気分解の酸化還元反
応の関係を分かりやすく学習させることを目的とした。
概 要
『ろ紙上の金属樹の研究』1)を応用し、美しい金属樹
を平面的につくる教材研究2)を進めた。さらに、短時
間で金属樹を平面的につくる方法やイオン化傾向の理
解を深めさせる 1~5 の実験を工夫して実践した。
1.スズ、銀、鉛、銅の金属樹を平面的につくる実験
2.金属樹が成長したろ紙をフィルム化する実験
3.3 種類の金属と金属イオンの比較実験
4.スズ樹電池によって電子移動を見る実験
5.平面的に電気分解してスズ樹をつくる実験
・ろ紙(5.5cm、以下ろ紙と表示)
・黒染ろ紙
[作り方]
① 墨汁をいれた容器にろ紙を入れ、墨汁をろ紙の
裏表になじませる。
② 黒くなったろ紙を 1 回水にくぐらせる。
③ 墨汁がしたたるろ紙をザルに並べて、4~5 時
間自然乾燥させる。
④ 乾いたろ紙を新聞紙に挟んでアイロンをかける。
・0.2M 硝酸銀溶液
0.2M 硝酸銀溶液 50mL に濃硫酸 1mL を加えて調製
する。白色結晶が析出するが、上澄み液を用いる。
・0.2M 塩化スズⅡ溶液および 0.1M 溶液
(スズ樹電池用)
高濃度の 5M 塩化スズⅡ溶液を調製し、必要に応じ
てこれを希釈して低濃度の溶液を調製する。希釈し
た時に生じた白濁は濃塩酸を少量加えると消える。
*
・1.0M 塩化銅Ⅱ溶液
1.0M 塩化銅Ⅱ溶液 10mL に生成した銅樹の酸化防
止剤として、ビタミン C0.1g を加えて調製する。
・透析チューブ
透明チューブを 10cm の長さに切り、チューブの径
より少し小さいゴム栓を輪ゴムでチューブの底に固
定する。輪ゴムがずれないようにゴム栓には刻みを
入れておく。
・コルク板
10cm 角の厚さ 4mm のコルクシートをベニヤに貼
り、ビニールを巻く。
学習指導方法(実験操作と結果)
Ⅰ.スズ、銀、鉛、銅の金属樹を平面的につくる
実験
1.スズ樹を平面的につくる。
切った
ビニール袋
SnCl2 溶液
Zn
教材・教具の製作方法
*
ろ紙
SnCl2 溶液を
しみ込ませた
ろ紙
図 1 スズ樹を平面的につくる
⑴ 10cm 角のビニール袋を開いてろ紙をのせ、この
中心に亜鉛板をのせる。
⑵ 0.2M 塩化スズⅡ溶液 1.2mL を図 1 のように亜鉛
板の上からかけてろ紙に染みこませる。空気が入ら
ないようにビニールでろ紙をはさんで観察する。
つちや とおる 東京都立葛西工業高等学校 主任教諭 〒 132-0024 東京都江戸川区一之江 7-68-1
☎(03)3653-4111 E-mail [email protected]
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写真 1 平面的に成長したスズ樹
写真 3 平面的に成長した鉛樹
15 分後には、長さ 1cm 程のスズ樹が成長している。
30 分後、2cm に成長したスズ樹は、銀~灰白色の直
線的な結晶となる(写真 1)。
4.1M 塩化銅Ⅱ溶液と亜鉛板を使って 1 の操作で金
属樹を平面的につくる。
2.0.2M 硝酸銀溶液、黒染ろ紙と銅板を使って、1
の操作で銀樹を平面的につくる。
写真 4 平面的に成長した銅樹
写真 2 平面的に成長した銀樹
1 分後に長さ 1cm 程の銀樹が成長している。30 分
後、2cm 程度に成長した銀樹は、銀白色の樹木状・
針状の結晶となる(写真 2)。
3.0.2M 酢酸鉛Ⅱ溶液と亜鉛板を使って 1 の操作で
鉛樹を平面的につくる。
10 分後、黒光りする鉛樹が 5mm に成長している。
30 分後、8mm に成長した鉛樹は、銀〜暗灰色の結晶
となる(写真 3)。
15 分後には、5mm 程の銅樹が成長している。30 分
後、1cm 程に成長した銅樹は、赤銅色樹木状の結晶
となる(写真 4)
。
Ⅱ.平面的に成長した金属樹をフィルム固定する
実験
1.金属樹が平面的に成長したろ紙をブフナロートに
移し、吸引ろ過し、残っている溶液を除く。更に
水洗し、アセトンで洗って吸引する。
2.ろ紙をロートから移して乾燥後、ラミネートフィ
ルムに挟み込み、ラミネーターで固定する。
平面的につくった金属樹は、フィルムとして半永久
的に保存できる。
23
Ⅲ.3 種類の金属と金属イオンの反応の比較実験
1.3 種類の金属と銅Ⅱイオンの反応
Zn 板
Cu 板
CuCl2 溶液
Zn
切った
ビニール袋
Cu
NaCl
溶液
SnCl2 溶液
CuCl2 溶液を
しみ込ませた
ろ紙
ろ紙
太陽電池
モーター
図 3 スズ樹電池
Sn
図 2 3 種類の金属と塩化銅Ⅱ溶液の反応
⑴ ビニール袋を開いてろ紙をのせ、ろ紙上に銅板、
スズ板、亜鉛板を離してのせる。
⑵ 1M 塩化銅Ⅱ溶液 1.2mL を図 2 のように金属板の
上からかけ、空気が入らないようにビニールでろ紙
をはさんで観察する。
2.0.2M 塩化スズⅡ溶液を使って、1 の操作で 3 種
類の金属と反応させる。
3.0.2M 硫酸亜鉛Ⅱを使って、1 の操作で 3 種類の
金属と反応させる。
イオン化傾向の大きさの違い(Zn > Sn > Cu)通
り、表 1 のように金属樹が成長し、一目瞭然でイオン
化傾向の違いを生徒に理解させることができる。
写真 5 スズ樹が成長したスズ樹電池
表 1 3 種類の金属と金属イオンの反応の比較
Cu2+
Sn2+
Zn2+
銅板
×
×
×
スズ板
○
×
×
亜鉛板
◎
◎
×
◎金属樹が大きく成長
○金属樹が小さく成長
×金属樹ができない
Ⅳ.スズ樹電池によって電子移動を見る実験
1.1M 塩化ナトリウム溶液を入れた透析チューブを
0.1M 塩化スズⅡ溶液の入っているビーカーに立
てる。
2.正極の銅板の端をビーカーの塩化スズⅡ溶液に入
れて、ビーカーの縁に固定する。
3.負極の亜鉛板を透析チューブに入れ、亜鉛板と銅
板をリード線で接続する。銅板のスズが十分成長
したら、図 3 のように太陽電池モーターを介して
リード線を接続する。
4.モーターが回転するかどうか観察する。
スズ樹電池で正極および負極で起こる化学変化を次
式に示す。
正極:Sn2+ _ + 2e_ → Sn
負極:Zn → Zn2+ + 2e_
モーターが回転しながら、正極の銅板から羽根状の
スズ樹が成長し、負極の亜鉛板が溶ける。正極の銅板
と負極の亜鉛板の電位差は約 0.6V であった。
Ⅴ.電気分解によってスズ樹を平面的につくる実験
1.コルク板の上にろ紙をのせ、ろ紙の端に炭素棒を
洗濯ばさみで固定する。図 4 のように 5cm 角ビ
ニールをろ紙にのせ、ろ紙の中心に針を刺す。
針(陰極)
ビニールで巻く
直流電源(6V)
ろ紙(SnCl2)
ビニール
洗濯ばさみ
炭素棒(陽極)
コルク板
図 4 電気分解によりスズ樹を平面的につくる
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2.塩 化スズⅡ溶液 1.2mL を針の横からかけて、ろ
紙に染みこませる。
3.針に陰極を接続し、炭素棒を陽極として 6V の直
流電圧をかけて電気分解する。
4.陰極のスズ樹の成長を観察する。同時に陽極の臭
いを嗅ぎ、ヨウ化カリウムデンプン紙を水に濡ら
して、陽極の上に置く。
スズ樹の電気分解で陽極および陰極で起こる化学変
化を次式に示す。
陽極:2Cl-→ Cl2 + 2e-
陰極:Sn2++ 2e-→ Sn
ていることをモーターの回転によって見せることが
できた。
・電気分解によりスズ樹を平面展開する実験で、
『電
気分解とは、電気的エネルギーによって酸化還元反
応を起こすことであるという理解』を深めさせるこ
とができた。
・つくった金属樹をフィルム固定することにより、生
徒に『ものつくり』の体験をさせることができた。
同時に、生徒に自らつくった金属樹フィルムを持た
せることにより、理科への感動や興味・関心を引き
出すことができた。
陽極に塩素が発生するため、カルキ臭があり、ヨウ
化カリウムデンプン紙が紫色になる。陰極では 1 分
後、針の周囲に陽極の炭素棒の方向に銀色の羽状のス
ズ樹が成長していく様子が観察できる。10 分後、ス
ズ樹は 2~3cm 成長する。
【注意】
陰極の針から伸びたスズ樹と陽極の炭素棒が接触・
短絡しないように注意する。
実践効果
授業実践を行って得られた成果を報告する。
・平面的につくった金属結晶の形や色、成長速度が金
属によって違うことを生徒に実感させることができた。
・3 種類の金属と金属イオンの反応の比較で、イオン
化傾向の違いを生徒が一目瞭然に理解することがで
きた。
・スズ樹電池で、金属樹ができるときに電子が移動し
写真 6 平面的に金属樹をつくる実験の授業
参考文献
1)
黒杭清治:科学の実験 20 巻,
(7)
,
653〜658(1969)
;
20 巻(9)737〜741(1969)
.
2)
土屋徹:化学と教育 43 巻,12 号,786-787(1995)
.
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