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特集「ITで変わる製薬業界」 - Nomura Research Institute

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特集「ITで変わる製薬業界」 - Nomura Research Institute
特集「IT で変わる製薬業界」
04
2009 Vol.26 No.4
(通巻 304 号)
04/2009
視 点
特 集 「ITで変わる製薬業界」
トピックス
海外便り
NRI Web Site
原価の“見える化”による経営の“足元改革”
此本臣吾
4
畠山紳一郎
6
製薬企業の業務を効率化するIT活用
―研究開発業務における共同型システムの可能性―
─────────────────────────────────────────────
医薬品業界のコンピュータ規制動向
―電子記録・電子署名対応で大きく変化―
荻原健一
10
─────────────────────────────────────────────
営業活動を効率化する“eディテール”
―医薬品情報提供の新しい潮流―
蝋山敬之
14
グループ経営企業のITマネジメントを確立するには
松本健吾
18
南 博通
20
注目されるブラジルのIT産業
―北米からの“ニアショア”開発に最適―
NRIグループと関連団体のWebサイト
22
視 点
原価の“見える化”による経営の“足元改革”
世界経済は底なし沼の様相を呈している。
がいや応なく増大しているなど、このあたり
オバマ新政権誕生に沸いた米国民も、熱狂か
で業務の本来のあり方を見直しておくことは
らさめて再び現実を冷静に見つめれば、危機
たしかに必要かもしれない。
の深刻さにあらためて驚いているところだろ
ただし、単純に削れるものから削るという
う。欧州には、不況と不良債権問題がスパイ
のではなく、コア業務とノンコア業務(競争
ラルとなって金融危機への懸念がいつまでも
力に直接結び付く業務とそうでない業務)と
拭えないという不気味さがある。頼みの中国
いう業務の棚卸しをすることが必要である。
も、華南地域の輸出企業の大量倒産と大量失
その結果、ノンコア業務は思い切ってアウト
業が治安問題に発展しかねないなど、不穏な
ソーシングしてコストダウンするというケー
空気も漂いはじめている。
スもあるだろう。好況時であれば、現場の責
需要の未曾有の大縮退によって世界中で在
任者は適正なコストであるかどうかを考えず
庫が溢れかえっている。製品によっては在庫
「あれも必要、これも必要」と業務改革に抵
が 1 年分近くになり、生産をしばらく停止せ
抗するかもしれないが、未曾有の経済危機は、
ざるを得ないものまで出てきている。ここ数
ゼロベースで業務の見直しをするのによい機
年の好景気に支えられて設備、人員を増強し
会とも言えよう。
てきた企業はひとたまりもなく不況の波に飲
み込まれ、過剰に膨れ上がった固定費を一刻
業務の見直しというと、経理業務を単純に
も早く削減しなければ企業全体が転覆してし
ノンコアと考えてアウトソーシングしようと
まいかねない事態になっている。
することがある。しかし、経理や人事のよう
なコストセンターが無条件でノンコア業務と
「このような時こそ“足元改革”」という経
4
いうわけではない。
営者も多く、赤字対策としての応急処置が済
たとえば、経理部門にはその企業の強みや
んだ後も、好況時に体のあちこちに付いてし
弱みについての情報が集約されているはずで
まったぜい肉をそぎ落としたいと考えてい
ある。すなわち、経理部門は“足元改革”で
る。そこで販売管理費については削れるもの
は中核的な役割を果たしてよいはずの部署で
は削り、また本社機構や間接部門の思い切っ
ある。ところが、ともすると原価計算と予算
たリストラを行っている企業も多い。
管理を目的とした管理会計が形骸(けいがい)
営業や生産の現場では、変動費であるはず
化して、単に数字を合計するだけになってし
の外部委託費が実質的に固定費化し、あるい
まう。そのために、集まった数字を見てもど
は内部統制や日本版SOX法対応などの業務
こに問題があるのかがわからないという状況
2009年4月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
野村総合研究所
執行役員
コンサルティング事業本部
副本部長
此本臣吾(このもとしんご)
に陥るのである。
たとえば、工場では工程ごとに電気やガス
といった原価を把握しているのに、現場の原
そうなると、管理会計上で単に集計された
原価を見てもそこからは問題は何も見えてこ
ない。
価担当者と本社の経理担当者とのコミュニケ
ーションが不十分なため、管理会計では工場
現場はデータの宝庫である。本来の経理部
全体の数字を間接費として単純に製品へ配分
門の仕事には、単にデータを集計・整理する
する。そうすると、原価が実態とかけ離れた
だけではなく、そこから問題点を見出して経
ものになってしまうことになる。せっかくの
営に対策を提案することまでが含まれるので
現場の有益なデータが、宝の持ち腐れになっ
はないだろうか。
ているのである。
そうだとすれば、経営の判断にはどのよう
なデータが必要かを考えて、そのデータを現
まずは管理されるべき現場の問題点に着目
場で探さなくてはならない。また、それを現
し、それをどのように数値として“見える化”
場で入力してもらうための情報システムを含
して原価を集計するかを考えなくてはならな
めた仕組みづくりにも取り組む必要があるだ
い。たとえば、工程内にある仕掛り不良在庫
ろう。
という問題を考えてみよう。
このようにして“意味のある原価”が作ら
本来、製造プロセス内で出た仕掛り不良の
れていれば、予定原価と実際原価の差異分析
半製品は、前工程に戻して再び材料として利
を通じて問題を発見し、対策を検討して原価
用されれば問題はない。ところが、実際はラ
目標を設定しなおし、また予定と実際の差異
インの隅などに積み上げられてそのままにさ
分析を行うというPDCAサイクルを機能させ
れ、やがていつの間にか廃棄されていること
ることができるようになる。意味のある情報
がある。その半製品を作るまでにどれだけの
としての原価、問題が“見える化”された原
原材料や光熱費が使われたか、廃棄された仕
価を作るために、いま一度、管理会計のあり
掛り不良在庫は最終製品の良品率(歩留まり)
方を考える必要がある。
の計算にカウントされているのか、最終製品
“足元改革”をしたいのであれば、その基
の良品率を上げること以上に仕掛り不良在庫
本となる管理会計が問題の“見える化”に対
を減らすことの方が重要なのではないか、こ
応しているかどうかを確認することから始め
うしたことは現場ではきちんと把握している
るべきではないだろうか。この基本ができて
はずである。しかし、それが管理会計には反
いなければ改革の目標を立てることすらでき
映されない。
ないはずだからである。
■
2009年4月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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特 集 [ITで変わる製薬業界]
製薬企業の業務を効率化するIT活用
―研究開発業務における共同型システムの可能性―
製薬企業はいま、高齢化の進展を背景とした医療費抑制に伴う医薬市場の成長鈍化と、2010
年問題とも言われる新薬の相次ぐ特許切れからくる価格競争に直面し、創薬から販売に至る業
務全体の効率化に取り組むことを求めらている。本稿では、業務効率化のためにどのようにIT
を活用すべきかという課題に対し、いくつかの方向性を提示する。
IT活用が期待される営業業務と研究開発
提供も始まっており、また医師不足で忙しい
製薬企業のコアコンピタンスは知的資産で
医療現場では面会時間も年々短くなっている
ある。製薬企業には医薬品の製造に関する特
が、eディテールがMRによる訪宣活動を代替
許や標準手順書、関連する特許、さまざまな
するまでには至っていない。より一層の効率
研究・臨床データ、学術論文、販売ノウハウ
化には、さらに工夫が必要であると思われる。
といった知的資産が、データや文書という形
この問題については、今号の14∼17ページを
態で蓄積されている。製薬企業の業務は、こ
参照していただきたい。
れらの知的資産を創造する研究開発業務と、
それに基づいて医薬品を製造する生産業務、
医薬品を販売する営業業務、品質保証や申請
関連の薬事などから成る。
製薬企業が他の製造業と大きく異なる点は、
膨大な文書化を伴う研究開発業務
次に、研究開発にかかるコストであるが、
新薬の研究・開発にかかる年数は10∼15年と
言われる。研究業務というのは化合物を探し
営業と研究開発という 2 つの業務の費用が全
て、その効果や安全性などを動物実験で確認
体の業務費用に対して大きな割合を占めてい
するところまでを指す。開発業務は、ヒトに
ることである。一説では費用の50%∼70%が
対する効果や安全性を確かめることである。
この 2 つの業務に費やされているという。し
最終的な生産物は薬ということになるが、研
たがってこの部分の効率化を図ることが最も
究開発の業務は、当局に申請して認可を受け
効果が大きい。
るために、膨大な実験結果(臨床データ)や、
まず、製薬企業の営業業務の中心となるの
は、医師や薬剤師に薬の処方や副作用の情報
6
ィテールと呼ばれるセルフサービス型の情報
製法や特許を記した知的資産を文書化する業
務であると言っても過言ではない。
を正しく伝える訪宣活動である。しかしその
文書と事実の整合性に関しては当局の厳し
ほとんどはMR(Medical Representative:医
い管理下にある。ITを使った電子的な文書の
薬情報担当者)による医師などへの面会であ
作成・保管方法についても、1990年代の終わ
る。昨今では、インターネットを利用したeデ
りから始まった電子政府実現を目指す流れの
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野村総合研究所
ヘルスケアソリューション事業本部
ヘルスケア事業戦略研究室長
畠山紳一郎(はたけやましんいちろう)
専門はヘルスケア業界研究および調査コンサル
ティング、システム事業企画など
図1 電子文書活用による業務効率化の可能性
研究
(創薬)
10.0%
合成および抽出
24.2%
生物学的スクリーニング
および薬理学試験
14.2%
4.5%
毒性および安全性試験
開発
薬理学的投与量、処方
および安定性試験
治験:フェーズⅠ,Ⅱ,Ⅲ
29.1%
法規制:NDA(新薬申請)
申請
商業生産および品質管理
製造
市販後評価 用の製造工程開発
臨床評価:フェーズⅣ
管理
その他(管理など)
出所)PhRMA Annual Surveyおよび
厚生労働省のHPよりNRI作成
40.9%
7.3%
0.0%
4.1%
政府目標=治験1.5年、審査1年短縮
(2007年度実績は治験5.1年、審査1.8年)
約36%の期間短縮=12%の投資削減
=50∼100億円の節約+販売期間増
24.1%
8.3%
11.7%
10.8%
20.0%
40.0%
60.0%
80.0%
医薬品研究開発における各業務のコスト比率
100.0%
なかで、当局の指導に基づくことが義務化さ
るを得ない。これはすなわち共同利用型のIT
れている。当局のITに関する規制の最新動向
活用が効率的だということであり、金融業界
については、今号の10∼13ページを参照して
がまさにその代表例である。
いただきたい。
製薬業界も規制業界であることはすでに述
このように製薬企業では文書化業務の割合
べたとおりだが、いまのところ共同利用型シ
が大きい。最も効率化が求められる部分であ
ステムの普及は金融業界のようには進んでい
り、IT活用の余地が大きい分野である(図 1
ない。知的資産である文書やデータを他人に
参照)
。また、紙で管理していた文書を電子化
預けることに対して違和感があることなどが
するにあたっては、その文書が本物かどうか
主な理由と思われるが、数十年もの長い期間、
(真正性)を証明しなくてはならず、それには
電子媒体の文書・データをそれぞれの企業で
何らかの工夫が必要になる。しかし、文書化
維持することは、媒体の進化などを考えれば
業務における本格的なIT活用はこれからとい
難しくなっていくと考えられる。業界共通の
うのが現状である。
規制対応業務であればまとめて行った方が労
規制対応業務で効果的なITの共同利用
力や費用の点で合理的だという意見も徐々に
聞かれるようになってきた。
厳しい規制のもとにある業界では、規制に
また、文書の電子化における規制のみなら
よって業務の内容が決まるという側面が強い
ず、製薬業界にはコンピュータシステムに関
ため、各社の業務は同じようなものにならざ
するCSV(Computer System Validation)と
2009年4月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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特 集
いう独特の品質管理規制があり、これへの対
じめから製薬企業向けに絞り込み、費用を低
応も共同利用型システムによって効率化され
く抑えた仕組みとしている。製薬企業と臨床
る。CSV規制に関しては、ITベンダーの品質
試験の委託業者、委託製造先などの間の文書
管理の結果を活用して、実際に利用している
のやりとりも共同利用型の特徴を利用して円
製薬企業側の確認試験を軽減しようとする動
滑に行うことが可能である。また新薬申請文
きがあるが、これは、システムの共同利用と
書の作成を請け負うベンダーとのやりとりに
同様の考えに立ったものと言えよう。
利用している製薬企業もある。グローバル規
共同利用型文書管理サービスの事例
野村総合研究所(以下、NRI)では、2008
年 6 月に、製薬企業向け共同利用型システム
月には英語対応を完了する予定である。
共同利用型臨床試験システムの可能性
として、ASP(アプリケーションサービスプ
研究開発業務における最終段階は、実際の
ロバイダ)方式の文書管理サービス「Perma
患者に対する臨床試験(治験)である。NRIは、
Document(パーマドキュメント)
」を開始し
製薬業界向けの共同利用型システムの次の展
た。現在、製薬企業を中心に10社以上の企業
開として治験データの共有化を検討している。
が「Perma Document」を利用している。
8
模での文書管理も可能にするため、2009年 4
治験では、1 つの新薬について 2 ∼10年の
「Perma Document」は製薬向けシステムの
期間と数十億∼数百億円の費用がかかると言
品質管理基準であるCSVに基づいて開発保守
われる。対象疾患領域の治験にふさわしい施
され、米国食品医薬品局(FDA)の「21 CFR
設、医師、患者を探し、治験の手順を定め、
Part11(米国連邦規則第21条第11章)
」および
当局の許可を得て行う。申請書類の数は多く、
日本の厚生労働省の「ER/ES(電子保存・電
投与の記録(症例)も数十から数百例が収集
子署名)指針」
(いずれも文書の電子保存に関
される。薬効については偽薬との比較などを
する規制)
、EUの「EU GMP Annex11」
(医
含めた詳細な統計解析が必要である。医師が
薬品等の品質管理基準のCSVガイドライン)
作成する症例は患者のカルテと照合し、正し
などに対応している。
いことを確認しなくてはならない。
製薬企業の文書管理業務では、これまでは
このように治験は非常に手間と時間のかか
「Documentum」
(EMC社)のような比較的高
る作業であり、研究開発業務のなかでも最も
額な汎用のパッケージシステムを製薬企業用
費用がかかるので、効率化が必要と言われる。
にカスタマイズして行うことが多かった。こ
しかし、一般の診療と同じ施設(病院)で行
れに対して「Perma Document」は機能をは
われる日本の治験では、IT活用による効率化
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図2 「施設システム」による業務効率化
製
薬
会
社
治験責任者
(またはCRA)
プロトコル登録
ユーザー登録
CRF確認
被検者割付
(薬、スケジュール)
クエリー
登録
進捗確認
治験責任者
(またはCRA)
CRF確定
CRF固定
進捗確認
クエリー確認
基準値登録
(薬効、安全性)
治
験
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
治験責任者
(またはCRA)
治験責任者
(またはCRA)
SDV登録
責任医師
担当医師
(またはCRC)
進捗確認
被検者登録
CRF登録
画面での操作
システム機能
ユーザー登録/
削除
症状記録
担当医師
(またはCRC)
有
害
事
象
登
録
施設側治験
データベース
「施設システム」対象範囲
クエリー回答
SMO
医療機関
グループ長
CRF署名
進捗確認
データ提供
プロトコル
完了登録
製薬会社提供EDCシステム
データ連携
に関してほとんど手付かずと思われる。
治験業務においてIT活用が進みにくい最も
大きな理由は、関連施設が分散し、関係者も
*CRF:症例報告書
*SDV:原資料との照合・検証
*SMO:治験支援機関
*CRA:治験モニター
*CRC:治験コーディネーター
ばれるシステムが開発されている。しかし、
EDCは製薬企業側にはメリットがあっても、
施設の業務効率化には結び付いていない。
多いことである。参加者には、患者、医師、施
こうした問題意識に立って、NRIでは施設
設(病院)
、製薬会社に加え、施設側の治験支援
も含めた治験全体の効率化が可能なソリュー
機関(SMO:Site Management Organization)
ションとしての「施設システム」の研究を行
や製薬会社側の医薬品開発受託機関(CRO:
っている(図 2 参照)
。このソリューションを
Contract Research Organization)などがあ
「Perma Document」と組み合わせることに
り、複雑な構造を成している。そのなかで治
より、業務効率化とペーパーレス化による情
験データが適正であることを保証するために
報共有の効率化がさらに進むと期待される。
は、煩雑な確認作業を繰り返す必要がある。
また、現在は日本の治験現場の業務に関す
治験データの電子化に関しては、10年程前
る効率化をテーマとしているが、将来的には
から、インターネットを利用してデータを登
国際的な臨床開発にも応用できるソリューシ
録するEDC(Electronic Data Capture)と呼
ョンとしていきたいと考えている。
■
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特 集 [ITで変わる製薬業界]
医薬品業界のコンピュータ規制動向
―電子記録・電子署名対応で大きく変化―
医薬品は人の生命にかかわる製品である。このため医薬品の開発・製造は安全性や有効性を
保証するための多くの規制に基づいて行われる。コンピュータシステムに関しても同様に規制
があり、その適合性を保証することが求められている。本稿では、コンピュータシステムの規
制の動向および規制対応の課題について考察する。
コンピュータシステム・バリデーションの
重要性が増す
いて活動の方針や内容を決めるというもので
ある。これは、必ずしも科学的根拠に基づく
とは言えない従来の肥大化した取り組みから、
医薬品の研究開発、臨床試験、製造などに
用いられるコンピュータシステムは、
「正しく
リスクに応じた科学的な取り組みへの移行を
求めたものであった。
開発され、意図されたとおりに動作し、その
「FDAイニシアチブ」と呼ばれるこの宣言
状態が維持されていること」を検証し保証す
は、GMP(Good Manufacturing Practice:
ることが必要とされている。この取り組みは
実践製造規範)への適合性調査や新薬審査に
「コンピュータシステム・バリデーション」
際してのFDA自身のリソース不足に対応する
(以下、CSV)と呼ばれる。
(図 1 参照)
意味合いが含まれてはいるものの、製薬企業
近年、コンピュータシステムの信頼性がま
に対して明確にリスクベースの活動を求める
すます重要視され、各国の規制当局はコンピ
ものであった。FDA自身の活動も、品質への
ュータシステムに関する査察を強化している
取り組みの優れた企業には査察頻度を減らし
こともあり、製薬企業にとってCSVは重要な
たり、リスクの大きな新薬申請の査察は強化
取り組みになっている。
このCSVのあり方に少なからず
図1 CSV活動の流れ
開発計画/要求仕様
影響を与えているものに、米国食
品医薬品局(FDA)の動向がある。
機能設計/詳細設計
FDAは2002年 8 月21日付の「FDA
開発(コーディング)
News」のなかで、21世紀に向けた
FDAの取り組みをリスクベースア
検証(バリデーション)
プローチとすることを宣言した。
リスクベースアプローチとは、品
質に影響を与えるリスクを特定
バリデーション状態の維持
CSV
(Computer System Validation)
文書化と承認
し、その影響度合いの評価に基づ
10
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野村総合研究所
ヘルスケアソリューション事業本部
ヘルスケア事業戦略研究室
シニアコンサルタント
荻原健一(おぎはらけんいち)
専門は医薬品関連コンピュータシステムの
規制適合支援、システム化構築支援など
したりするなど、リスクベースのものへと変
テムの操作履歴を自動的に保存することなど、
更されることになった。
数十項目の要件が定められている。
「FDAイニシアチブ」は、医薬品の品質向
「Part11」は新たな規制ではなく、ER/ES
上に関する取り組みの大転換を示すものとし
の選択を認めた規制緩和と考えるべきである。
て多くの国や医薬品分野に影響を与えること
電子化は時代の流れであり、
「Part11」の取り
になったが、CSVも例外ではなかった。近年
組みはその後、EUをはじめ米国以外の国にも
では、米国をはじめEU諸国や製薬団体などか
広がっている。日本においても2005年 4 月に
らも新たなCSVガイドが発表されている。
厚生労働省の「ER/ES(電子保存・電子署名)
進む電子化の流れ
少しさかのぼるが、1990年代の初めから、
指針」が出されている。
CSVをめぐる新たな動き
FDAでは製薬業界からの要請を受け、電子記
FDAは上記の活動を推進するために、世界
録・電子署名(以下、ER/ES)を従来の紙の記
最大の国際標準化・規格設定機関である
録や手書き署名と同等と認めるための検討を
ASTM(米国材料試験協会)との関係を深め
行ってきた。この結果、1997年 8 月に「21CFR
てきた。もともとASTMは1898年に米国内の
Part11(米国連邦規則第21条第11章)
」
(以下、
工業の標準化と研究業務を目的として設立さ
「Part11」)が施行された。それまでは新薬申
れたもので、今日では120カ国以上の 3 万を超
請や製造記録書などの多くがコンピュータに
える製造業者、消費者、政府、学会代表者な
より電子的に作成されても、それをあらため
どが会員となり、多くの国際的工業規格のガ
て紙に印刷し手書きで署名した上で提出・保
イドラインを公開している。
存していた。
FDAがASTMに協力を求めた背景の 1 つに
「Part11」はこのような紙の書類や手書き署
は、医薬品業界の「バリデーション(検証)」
名を電子に置き換えることを認める画期的な
を他の産業のそれとは異なるものとしてきた
ものであったが、ER/ESを無条件で認めたわ
ことへの反省があった。製薬業界の「バリデ
けではなく、その記録や署名が正しい(改ざ
ーション」は「検証した状態を維持すること」
んされていない)ことを保証するための一定
を含んでいる。ところが、これが行き過ぎた
の条件を定めている。これが規制と言われる
結果、バリデーション後の柔軟な取り組みや
ゆえんである。たとえば、ER/ESを行うシス
改善ができず、新技術の導入が遅れることに
テムはその前提としてCSVが行われているこ
なったという反省である。FDA査察官が「医
と、十分なセキュリティを有すること、シス
薬品製造プロセスはポテトチップス製造プロ
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11
特 集
図2 「ASTM E2500」の基本概念
Quality by Design
(QbD:設計段階での品質の作り込み)
リスクベースアプローチ
サイエンスベース
Subject Matter Expert
(SME:特定分野の専門家)
Good Engineering Practice
(GEP:実践エンジニアリング規範)
ASTM
E2500
製造システムの
重大な側面
継続的なプロセスの改善
ベンダー文書の活用
出所)ISPE「GAMP5」を元にNRI作成
セスより遅れている」と言ったという話も伝
理的と言える提案が盛り込まれている。図 2
わっている。
に「ASTM E2500」の基本概念を示す。
ASTMではFDAの意向を受けて、医薬品産
業に向けた新たな検討を進めるための委員会
コンピュータ関連規制への適合と業務の効
率化
を立ち上げ、2007年 7 月には「ASTM E2500
12
(医薬品・バイオ医薬品を製造するシステム・
ITを活用した業務の電子化は業務効率化に
機器の利用、設計および実証のための標準ガ
とって不可決であり、これを支えるCSVやER/
イド)」を発表した。この中でASTMは従来
ESについても、日本国内だけでなく欧米の規
の「バリデーション」を見直し、より柔軟な
制も見据えたグローバルな対応が求められて
新しい提案を行っている。
きている。
CSVに関しても、国際的に広く利用されて
CSVやER/ESへ適合することは、コンピュ
いる国際製薬技術協会(ISPE)の「GAMP
ータシステムの開発や運営を専門としない製
(Good Automated Manufacturing Practice)
薬企業にとっては簡単な作業ではない。2007
ガイド」が、
「ASTM E2500」を受けて改定版
年10月に日本製薬団体連合会品質委員会が実
「GAMP5」として2008年 2 月に発行された。
施したアンケート調査でも、製薬企業がCSV
「GAMP5」は、システムのリスクアセスメン
の取り組みに関してさまざまな課題を抱えて
トを通じて品質へのリスクの影響を評価する
いることがうかがえる(図 3 参照)。まずは、
ところから始まっている。また、コンピュー
最新の規制動向を正しく把握し、取り組みの
タシステムベンダーのCSVを活用して、製薬
前提として社内規定を整備するところから始
企業のCSVの重複作業をなくすことなど、合
めなくてはならない。
2009年4月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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図3 製薬企業におけるCSV取り組みの課題
140
194社回答(複数回答あり)
118
120
107
100
97
89
回 80
答
数 60
65
63
86
58
37
40
18
20
0
取
り
組
め
る
人
︵
体
制
︶
が
い
な
い
社
内
規
程
が
な
い
い難
いし
かそ
わう
かで
ら、
など
いう
や
っ
た
ら
必
要
な
書
類
が
わ
か
ら
な
い
取
り
組
む
時
間
が
な
い
い国
る内
た、
め海
大外
変の
双
方
に
対
応
し
て
費
用
が
か
か
る
工
数
が
か
か
る
必
要
と
考
え
て
い
な
い
15
な何
いを
ど
こ
ま
で
や
る
の
か
わ
か
ら
そ
の
他
出所)日本製薬団体連合会品質委員会アンケート調査よりNRI作成
野村総合研究所(NRI)では、製薬企業に
それぞれ独自に法制度を整備してきた関係も
向けたシステム開発に基づくコンピュータ関
あり、これまで各地域の規制要件を満たすた
連規制への適合経験を踏まえ、CSVやER/ES
めに時間とコストのかかる重複した作業を行
に関する社内規定のひな形モデルを提供して
う必要があった。
おり、すでに多くの企業で導入されている。
現在では、ICH(日米EU医薬品規制調和国
また、CSVやER/ESの規制適合支援コンサル
際会議)において国際調和の検討が進められ、
ティングを通して、規制の変化にも効率的に
すでに電子化に関連するものとしては新薬申
適応できるようになる。
請の電子化仕様が合意され、運用が開始され
国際化のなかでの課題として
ている。
ITを活用した業務効率化を推進すること、
規制はつねに変化している。特に国際的な
これに求められる規制適合に合理的に取り組
規模で再編が進む製薬業界においては、FDA
むことは、特に国際化が進む製薬業界にとっ
をはじめとする欧米の規制への迅速な対応が
て必須の取り組みであり、また課題でもある
重要な課題と言われている。しかし、各国が
と言えよう。
■
2009年4月号
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特 集 [ITで変わる製薬業界]
営業活動を効率化する“eディテール”
―医薬品情報提供の新しい潮流―
製薬会社には多数のMR(医薬情報担当者)が在籍し、医師や薬剤師などへの情報提供活動
(ディテール活動)を行っている。近年、インターネットを利用してこのディテール活動を効率
化する“eディテール”と呼ばれる方法が注目されるようになってきた。本稿では、米国の動向
を含め、ディテール活動の現状や新たな潮流について解説する。
効率化が求められる医薬品の営業
ない比較的単純な薬剤が多く、各社とも製品
製薬会社にとって、MRは医療従事者に医
にわずかな違いしかない。そのため、営業活
薬品の処方に関する重要な情報を伝え、同時
動としては競合製品とのわずかな差異をアピ
に自社製品を宣伝する役目を持つきわめて重
ールすればよい製品が多かったと言える。
要な存在である。MRは、日々、病院や診療
このような製品では、当該製品の宣伝量が、
所を訪問し、医師や薬剤師などに自社製品の
同一カテゴリーの商品の宣伝全体のなかでど
説明を行っている。この活動は医薬業界では
れだけの割合を占めるかという、SOV(Share
ディテール(Detail)活動と呼ばれている。
of Voice)と呼ばれるマーケティングの考え
ディテール活動は、きわめて労働集約的な
方が重視される。すなわち、宣伝回数や情報
形で行われてきた。病院の廊下には大勢のMR
伝達量を他社より多くすることによって自社
がずらりと並び、医師が診療や手術を行う間
製品の採用が決まるという考え方である。そ
のわずかな合間を利用してディテール活動を
のため、医薬品はどうしてもメッセージ連呼
行っている。廊下を歩きながら数十秒か数分
の宣伝合戦になりやすいという事情がある。
の説明をするのがやっとの場合もあるし、と
この傾向は、製品数が多く競争が激しい高血
きには何時間か待った後で、医師の都合で会
圧や高脂血症のような領域で特に顕著である。
えなかったということもある。まるで“夜討
営業の活動量を減らすことはSOVの低下を意
ち朝駆け”といった営業活動は、他業界では
味するため、いわば訪問数勝負の営業活動が
あまり見られなくなった昔ながらのスタイル
行われてきたのである。
とも言える。
このような方法が普通に行われてきた背景
14
かの領域では、そこまでの専門性を必要とし
第1世代eディテールの課題
には、MRが取り扱う医薬品という製品の性
それでは、製薬会社はこれまで医療従事者
質がある。近年でこそ、がんなどの腫瘍や中
への情報提供を高度化し、ディテール活動を
枢神経疾患では、処方に高度な専門性を要す
効率化していく努力を怠ってきたのかといえ
る薬剤の製品化が進んできているが、そのほ
ば、決してそんなことはない。
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野村総合研究所
ヘルスケアソリューション事業本部
ヘルスケア事業戦略研究室
主任システムコンサルタント
蝋山敬之(ろうやまたかゆき)
専門は製薬業向けシステムの企画・設計
およびマーケティング分析
図1 製薬会社のMRによるディテール活動およびeディテールとその課題
MRによるディテール活動
eディテール
病院
医師
医師
医師
病院
医師
eディテールサイト閲覧
ディテール活動
薬剤情報
診療情報
その他関連情報など
MR
労働集約的な情報提供活動
(数時間待ち、数分だけの話になることも多い)
情報提供・ヒアリングの密度は濃いが、活動に必要な
コストは多大。(近年は訪問規制を設ける病院もある)
活動に必要なコストは少なくて済むが、情報提供の
密度が薄く、ヒアリングが難しい。
いまでは、インターネットの一般的な普及
情報を容易に手に入れられることから、一見
により、当然のことながら医療従事者も大多
すると効果的なように思われる。しかしなが
数がインターネットを利用するようになって
ら、eディテールが広く医師に利用されて大き
いる。この状況に合わせて、ここ数年、多く
な効果を上げているかというと、必ずしもそ
の製薬会社ではインターネットを使ったeディ
うは言えないようである。
テールと呼ばれる情報提供活動を行ってきた。
その最大の理由として、必要な医薬品につ
最近では、製薬会社を対象としてeディテール
いての情報は個々のケースによって異なるこ
のポータルサービスを提供したり、あるいは
と、そうしたきめの細かい情報提供が eディテ
各社のeディテールでの情報提供を代行したり
ールではまだ十分でないことがあげられる。
する企業も現れてきている。
薬剤の処方に必要な情報は個々の患者によっ
eディテールは、製品資料など自社製品に関
て異なり、医師は患者・症例に合わせた情報
する基本的な情報はもちろんのこと、疾患治
を欲する。また、学会などで発表される最新
療、診断や処方に関する情報を取りそろえた
の論文についてタイムリーに情報を提供して
eディテールサイトを設け、医師に対して情報
ほしいというニーズも大きい。そもそも医薬
提供と自社製品の宣伝を行うものである。eデ
品情報の専門要員であるMRは、これらの高
ィテールサイトには、こうした情報がPDFフ
度な情報提供を行えることがその存在理由で
ァイルや画像・動画などの形式で用意されて
もある。
いる。
(図 1 参照)
eディテールは、医師が必要なときに必要な
もちろん、eディテールサイトの作り込み次
第で、ある程度はこれらのニーズに対応する
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特 集
図2 第1世代 e ディテールと第2世代 e ディテールの違い
第1世代 e ディテール
サイトアクセスとコンテンツ閲覧
Webサイト
医師
専門スタッフ
医師
MR
eディテールサイト
eディテールサイト
事前に作り込んだ情報の閲覧
あらかじめ決められた情報提供ロジック
限られた範囲の情報提供
専門スタッフの人手による応答
各医師のケースに合わせた情報提供
柔軟な説明資料選択
ことは可能であろう。しかし現状ではなかな
組みは図 2 に示したとおりである。数名の専
かそこまでできていない。そのため、あくま
門MRがコンタクトセンターに常駐し、あら
でもMRが現場の状況や患者の症例の詳細な
かじめ医師から指定された時間帯に、PCのネ
情報を聞き取った上で、それに適した情報を
ットミーティング機能を利用してWebカンフ
タイムリーに提供できるかどうかが重要とな
ァレンスを行うもので、近年普及が進んでき
ってくるのである。こうした点が、医師が手
たインターネット会議に似た仕組みである。
放しでeディテールを評価しない理由であり、
音声はPCのマイクでも、通常の電話を使って
“できる”MRがいまだに重宝されている理由
でもあろう。
したがって、インターネット上にeディテー
ルサイトを構築するだけではeディテールは完
もよい。医師は自分が指定した時間にPCの前
に座り、説明を受ける。MRは相手の反応を
見ながら、臨機応変に画像や動画などを送る
ことができる。
成しない。MRが備えている対話性、そして
この仕組みによって得られるメリットをま
必要なときに情報提供が受けられる即時性と
とめると図 3 のようになる。第 2 世代のeディ
いった要素がなければ、eディテールも医師に
テールは、これまでMRが訪問して行ってい
は受け入れられないと考えられる。
たディテール活動における非効率性や、第 1
第2世代eディテールの出現
16
第2世代 e ディテール
会話とニーズ引き出し
提供する情報の選択
世代のeディテールの問題点であった対話性の
欠如を大きく改善する。
以上のeディテールを第 1 世代と呼ぶとすれ
米国では医薬品製造・販売における大手メ
ば、米国では第 2 世代のeディテールとして
ーカーであるメルク社が第 2 世代のeディテー
“e-MR”や“Videoディテール”のように呼ば
ルとして「Merck OnCall」をすでに提供し
れるサービスの提供が始まっている。この仕
ている。米国でも、こうした取り組みは一部
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図3 第2世代 e ディテールのメリット
第1世代 e ディテールと比べ、相手の反応を見な
がら説明を行うことができる。
図4 将来の e ディテールの姿
在宅勤務MR
医師
自宅からディテール
MRにとって、医師への訪問にかかる時間が必要
なくなる。
資料をめくりながら、また指し示しながら説明で
き、対面型の説明に近い。
MRと医師、専門説明員の三者間での議論も可能
になる。
ディテールの
振り分け
情報の要望
専門スタッフ
在宅勤務MR
自宅からディテール
医師
医師の都合の良い時間に説明を受けられる。
産などで現場を離れた女性MRの数は多く、そ
の企業で始まったばかりの段階である。しか
うした人材を活用する目的にもこのような仕
し、米国Publicis Selling Solutions社のレポ
組みはふさわしいと考えられる。
ート『What Physicians Want !』によると、
eディテールは、製薬会社に限らず他の業界
60%の医師が専門知識を持ったMRを求めて
での営業や販売促進にも応用できる。特に専
おり、72%の医師がメーカーの支援によるイ
門性の高い製品を企業向けに提供しているよ
ンターネットを通じた教育およびコンサルテ
うな業種では利用価値が高いと考えられる。
ィングを求めているという。この結果からも、
営業担当者の訪問コスト低減という企業側の
第 2 世代のeディテールが医療従事者のニーズ
メリットだけでなく、説明を受ける側も都合
に合致していることは明らかである。
の良い時間に専門の説明員から説明を受けら
総合的なソリューションへの期待
れるメリットは大きい。一例としては、SI企
業が顧客への提案を行う際に、システムパッ
第 2 世代のeディテールは、いまのところ専
ケージベンダーが自社製品の技術資料などを
門のMRがコンタクトセンターに常駐し、一
示しながら遠隔でサポートするといったケー
般のMRのディテール活動をサポートする形
スなどがあげられる。
式が主である。今後は、MR自身が“e-MR”
これらの仕組みが有効に機能し、ディテー
や“Videoディテール”を行う形式も増えて
ル活動を効率化するためには、Web会議ソリ
くると考えられる。また、すでに一部のコン
ューション、コンタクトセンターソリューシ
タクトセンターの応対業務などでは実現され
ョンの導入だけでなく、そうした機能をサー
ているように、MRの経験者が自宅からネッ
ビス化して提供する仕組みやシステム基盤な
ト越しに説明を行う“在宅ディテール”とい
ど、総合的なソリューションを構築すること
った方法も考えられる(図 4 参照)
。結婚・出
が必要である。
■
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トピックス
グループ経営企業のITマネジメントを
確立するには
近年、企業の統合や提携などにより、グループ経営の強化が課題となるケースが多い。その
ためには、各グループ会社の事業収益や在庫状況などをより速く正確に把握し、経営の迅速な
意思決定を可能にする仕組み、すなわち“グループ情報化”が必要である。本稿では、
“グルー
プ情報化”のための“グループITマネジメント”を確立するアプローチついて考察する。
れには、①グループ横断の課題が十分に共有
“グループ情報化”の課題
されていないこと、②誰が何をどこまで決め
金融危機に始まる急激な環境変化に直面し
られるか権限と責任が不明確なこと、③イン
て、グループ会社を横断して各地市況や各事
フラやアプリケーションおよびデータに関す
業収益、在庫状況などの実態をより速く、細
る標準が明確化されていないこと、④グルー
かく把握し、経営の意思決定を迅速にしたい
プ会社がIT要員を十分に配置できず、本社側
と考えている企業は少なくないだろう。
にもこれをカバーするだけの人材を確保でき
そのためには、グループ会社を横断して情
報を連携させ、その情報を活かす仕組みが必
要である。そのほかにも、連結会計制度や金
ないこと―が背景としてあると考えられる。
3段階のアプローチ
融商品取引法などの法制度への対応、グロー
“グループ情報化”のための“グループIT
バル競争に対応したグループ横断の業務効率
マネジメント”の実現は、以下のように 3 つ
化、相乗効果を引き出すためのサプライチェ
の段階に分けて考え、順を追って要件を満た
ーンの再構築など、グループ全体で取り組む
していくことが有効と思われる(図 2 参照)
。
べき情報化の課題は尽きない。こ
の状況は特に2000年以降に顕著に
なっている。
しかし、グループ会社は、それ
ぞれ異なった沿革をもち、規模や
資本関係も多種多様なことが少な
くない。そのためグループ全体で
図1 進まないグループ情報化の実態
グループ本社IT部門の声
グループ会社IT部門の声
自社のシステムで手いっぱいで、
グループ会社まで手が回らない。
現場の実態を無視した一方的な
押し付けはしてほしくない。
インフラ共有以上で、グループ会
社と何が共有できるのか?
システムを共有化したら逆にコ
スト増となった(過剰な品質)。
IT部門間で調整しても進まない(経
営のイニシアチブが必要)。
IT部門間だけでは判断できない。
経営同士で連携してほしい。
足並みをそろえた“グループ情報
化”は簡単ではない。本社やグル
ープ会社のIT部門からは、図 1 に
①グループ横断課題が十分に共有化されていない
課 ②グループ情報化運営における権限・責任が不明確
題 ③グループ全体のIT標準がない
④グループ情報化を推進する人材が確保できない(量・質)
示すような声がよく聞かれる。こ
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野村総合研究所
システムコンサルティング事業本部
産業ITマネジメントコンサルティング部
上級システムコンサルタント
松本健吾(まつもとけんご)
専門は情報システム評価・改善、ITマネジメント
①ステージ 1
図2 グループITマネジメント確立の3つのステージ
リスク管理やIT効率の向上が実
現される段階である。ITインフラ
の集約や共有化、共同調達のため
にITインフラを標準化する段階で
ある。グループネットワークの整
ステージ3
シナジー獲得
ステージ1
リスク・IT効率向上
ステージ2
業務効率向上
連携業務標準化
共通業務標準化
共通業務標準化
IT標準化
IT標準化
IT標準化
マネジメント標準化
マネジメント標準化
マネジメント標準化
備やサーバーの集約、データセン
ターの一元化、グループID管理基盤の整備な
準化し、グループとしての相乗効果を上げる
どがこのステージの実施項目となる。たとえ
段階である。顧客の声をグループとして活用
ばある企業では、リスク管理の強化を図るた
する仕組みの整備、サプライチェーン管理、
め、ネットワークの共用化を進めると同時に、
パーツ・サービス管理、品質管理をグローバ
ネットワーク基盤と認証・セキュリティ基盤
ルに標準化することなどがこのステージの実
に関するインフラ標準とその管理方法の整備、
施項目となる。たとえばある企業では、グル
同じくその基盤に対する投資と費用分担に関
ープ会社間での受発注や生産管理などの業務
するルールの整備、そしてセキュリティ監
についてコード体系を含めて標準化し、グル
査・改善のプロセスの整備を進めている。
ープ各社横断で情報をやりとりしながら意思
②ステージ 2
決定するための標準プロセスや入出力データ
グループ各社でそれぞれ共通して行われて
いる業務を標準化し、業務効率の向上を実現
する段階である。経理や人事などのシェアー
についてルールを整備している。
IT部門が果たすべき役割
ドサービス化、受発注や生産管理業務の標準
“グループITマネジメント”には、経営層
化などがこのステージの実施項目となる。た
がトップダウンで経営目標達成のためにグル
とえばある企業では、販売・物流管理・会計
ープガバナンスを発揮することと、IT部門が
などの基幹業務を効率化するためのルールを
中心となってボトムアップの連携・協調の仕
整備している。このルールでは、共通となる
組みを作ることの両方が求められる。
基幹業務のプロセスや入出力データなどにつ
グループ各社のIT部門は、継続的に各社の
いて、全社の標準として統一するか、個社の
IT課題と対策について認識を共有する場を設
対応に任せるかがなどが決められている。
けて連携を深め、その連携に基づいてグルー
③ステージ 3
プのIT運営の成熟度を高めておくことを求め
グループ会社を横断して行われる業務を標
られている。
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海外便り
注目されるブラジルのIT産業
―北米からの“ニアショア”開発に最適―
日本とはちょうど地球の反対側にあるブラジルのIT産業が、近年にわかに注目を浴びてきて
いる。中国、インドと比べればコストは高いものの、質の高いサービスをグローバルに提供し
ている企業も多く、レガシーシステムへの対応力や日系ブラジル人SE(システムエンジニア)
の存在も日本企業には魅力である。
ブラジルIT産業の成長
ライン投票を可能にするほど全国的に整備さ
れ、ブロードバンド回線の普及率も2007年か
2008年は日本人ブラジル移住100周年だっ
ら飛躍的に伸びはじめた。通信事業者の売上
たこともあり、BRICsの一角であるブラジル
は2007年で約90億USドルで、2008年は100億
に日本から多くの企業や自治体の関係者が訪
USドルを超えたと推計される(ブラジル電
れた。約 1 億 8 千万人の人口を抱える大きな
気電子工業会のデータより)。一方、ソフト
市場であり、資源も豊富であるため、さまざ
ウェア開発・運用、情報処理サービスなどの
まな産業が視察の対象になったが、IT産業も
情報サービス業者の売上は、2007年に111億
例外ではない。筆者も2007年 8 月以降、三度
USドルに達している(図 1 参照)。同年の日
にわたりサンパウロやブラジリアのIT企業を
本の情報サービス産業の売上、約11兆1,800
訪問した。
億円(経済産業省「特定サービス産業動態統
ブラジルというと、1980年代の年率100%
を超えるハイパーインフレや、債務不履行寸
前にまで至った国の対外累積債務のイメージ
が強い。そのため、ブラジルの金融システム
計」による)に比べて規模ははるかに小さい
が、成長率は高い。
レガシー技術の厚みも魅力
に対しては「遅れている」「不安定」といっ
個別のIT企業に目を移すと、まず目立つ
た先入観を抱きがちだが、それはまったくの
のが国際的な標準を意識してレベルアップを
誤りである。むしろ、金融システムはハイパ
ーインフレを経験したことで他国よりも進ん
だものになったと言ってよい。日々、通貨の
100
価値が下がる状況であったために、キャッシ
60
40
うのである。
20
ジルのIT産業である。通信インフラはオン
単位:億USドル
80
ュレス決済や当日内振り込みが発達したとい
その金融システムを支えているのが、ブラ
20
図1 ブラジルIT産業の売上推移
120
0
2004年
2005年
2006年
出所)ブラジルソフトウェア企業協会
2007年
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NRIアメリカ
社長
南 博通(みなみひろみち)
専門は金融サービスの事業戦略・IT戦
略に関する調査・コンサルティング
図っていることである。筆者が訪問したIT
は、地球の反対側にあることはメリットにな
企業でも、ソフトウェア開発能力の成熟度に
る。実際、日本の商社と提携して運用監視サ
関する国際的な指標「CMMI(能力成熟度モ
ービスの実証実験を行っている企業もあった。
デル統合)」の最高位レベルを取得していた
企業が 3 社あった。
COBOL(プログラミング言語の 1 つ)など、
米国に進出するブラジルIT企業
対面コミュニケーションの問題は、北米と
レガシー言語の技術者が多いことも、ブラジ
ブラジルの間では大きく改善される。ニュー
ルのIT企業の特徴である。要件の厳しいシス
ヨークとサンパウロの時差は、双方の夏時間
テムの開発・保守では、レガシー技術による
から大きくても 3 時間である。ニューヨーク
成熟した開発方法を用いるケースは依然とし
∼サンパウロ間の飛行時間は 9 時間半で、日
て多いので、需要は大きいようである。
本との間の半分以下である。
日系企業にとっては、言葉の面でもメリッ
米国に拠点を持つブラジル企業も多い。企
トがある。ブラジルには約150万人の日系ブ
業合併によってブラジル最大のシステム開発
ラジル人がおり、IT企業で働く人も多い。そ
会社となったCPM Braxis社はニューヨーク
のため日本語の話せる日系ブラジル人をブリ
にオフィスがある。政府や政府系企業を有力
ッジSE(海外開発で現地と発注元の橋渡し
顧客とするPOLITEC社はアトランタに自社
をするSE)に置いて言葉の壁をなくすこと
拠点を持つほか、提携会社がニューヨークに
も期待できる。
ある。アウトソーシングの分野で2006年に世
地球の反対側にあるメリットとデメリット
ブラジルに行こうとすれば、成田からニュ
界第 9 位にランクされた(ブラウン−ウィル
ソン・グループ社の調査による)Stefanini社
は、グローバルなビジネス展開に積極的で、
ーヨーク、サンパウロと乗り継いで25時間か
フロリダ、アトランタ、ニューヨークのほか
かる。アプリケーション開発ではビデオ会議
カナダにも拠点を設けている。
で打ち合わせすることも可能だが、設計段階
ブラジルでは、国内向けの開発・サービス
で委託側の意図を確実に伝えるには対面のコ
に対し、中南米の他国や北米向けの開発・サ
ミュニケーションが不可欠である。その点で、
ービスを、“オフショア”ほど離れていない
成田から 3 ∼ 4 時間で行ける北京や上海との
という意味で“ニアショア”と呼ぶ。北米に
差は大きい。日本からのオフショア開発にと
現地法人を持つ日本企業は、ブラジルでの
ってはこの点が最大の障壁になるだろう。し
“ニアショア”開発を利用しやすい環境にあ
かし24時間運用監視などのサービスにとって
ると言える。
■
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活動内容や研究開発を紹介
http://www.japandesk.com.tw
台湾経済部と共同で、日本企業の台湾進出を支援
オブジェクトワークス
http://works.nri.co.jp
MVCモデルに基づくWebアプリケーション開発のため
のJ2EE準拠開発フレームワークの紹介
BESTWAY
http://www.bestway.nri.co.jp
金融リテール投信ビジネスの“De-facto”スタンダード
システム。100社を超える金融機関が利用中
TRUE TELLER
(トゥルーテラー)
http://www.trueteller.net
コールセンターからマーケティング部門まで、様々なビ
ジネスシーンで活用可能なテキストマイニングツール
統合運用管理ソリューション
(Senju Family)
http://senjufamily.nri.co.jp
NRIが培ったノウハウを結集した統合運用管理製品群。
企業の「ITサービスマネージメント」の最適化を実現
http://www.pcls.jp
企業内のPC運用コスト削減と品質向上を同時に実現す
る、PC運用管理の再構築サービス
http://truenavi.net
NRIが戦略策定等のコンサルティングに際して独自に開
発したインターネットリサーチを企業向けに提供
ナレッジ・ポータルサービス
日本企業台湾進出支援
「ジャパンデスク」
ソリューション・サービス
PCLifecycleSuite
インターネットリサーチ
TRUENAVI
ナビゲーションサービス
携帯電話の総合ナビサービス http://www.z-an.com
(ユビークリンク)
「全力案内!」
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携帯総合ナビサービス。世界初の携帯プローブ交通情報
で道案内も。NTTドコモ、au、ソフトバンクから提供中
2009年4月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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編集長
柴山慎一
編集委員(あいうえお順)
安積隆司 尾上孝男
小野島文久
武富康人 田村 茂
垂水一徳
鳥谷部 史 中澤 栄
畠山紳一郎
平松裕之 古川昌幸 堀内達夫
三崎友雄 南本 肇 見原信博
八木晃二 吉川 明
2009年 4 月号 Vol.26 No.4(通巻304号)
2009年 3 月20日 発行
発行人
藤沼彰久
広報部
発行所
〒100−0005
東京都千代田区丸の内1−6−5
丸の内北口ビル
ホームページ http://www.nri.co.jp
ビジネスサービスグループ
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