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金融庁『金融レポート』が語る銀行の在り方はなにか

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金融庁『金融レポート』が語る銀行の在り方はなにか
リサーチ TODAY
2016 年 9 月 30 日
金融庁『金融レポート』が語る銀行の在り方はなにか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今年7月、TODAYでは日本の銀行の課題はBSからPLの収益性にシフトしているとし、今日のような超低
金利環境での銀行経営の持続性を論じた1。これは、丁度、日銀が決定会合で「総括的な検証」のアナウン
スを行う前日だった。今月、金融庁が示した『金融レポート』2は同様の問題意識に立った特色のある議論で
あり、従来になく注目されるものだ。『金融レポート』では、金融機関の置かれた環境に様々な視点から検証
が加えられている。今日の問題は、従来の不良債権問題を中心にした「資産の質」BS(バランスシート)の
次元からPL(収支)に移っている。銀行の収支、総資金利ざやは基本的に長短金利差に連動する。今日、
極限まで長短金利差が圧縮されているが、預金金利は事実上マイナスにはならないので、金融機関収支
の圧縮が続かざるをえない。下記の図表のように、預貸金利回りは業態ごとに着実に低下を続けている。
今年1月に決定されたマイナス金利の導入は、確かにこうした低下傾向を強めるものであるが、この状況は
マイナス金利導入以前から続いており、構造的な側面をもつ。今回の『金融レポート』は、特に、貸出金利
を中心に地域銀行の抱える構造的環境を分析した点に特色がある。
下記の図表から、2000年代前半から利回り低下幅が都市銀行で0.5%(1.5%→1.0%)程度にとどまる一
方で、地域銀行では1%程度と大幅になっていることが分かる。
■図表:預貸金利回り差の推移(業態別)
3.0
(%)
2.5
2.0
一段の
利回り低下
1.5
都市銀行
1.0
08/10,12
O/N引下げ
(0.5%→0.3%→0.1%)
地方銀行
第二地方銀行
0.5
13/4
QQE
16/1
マイナス金利
0.0
90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3 10/3 12/3 14/3 16/3 (年/月)
(資料)全国銀行協会公表資料よりみずほ総合研究所作成
また、今回の『金融レポート』で特に注目すべきは、地域機関に関する分析だ。地域銀行の顧客向けサ
1
リサーチTODAY
2016 年 9 月 30 日
ービス業務の利益率を試算すると、2025年度3月期には6割を超える地域銀行でマイナスになるとの結果
が注目された。また『金融レポート』では、貸出金利回り低下幅が比較的穏やかな地域銀行30行の過去2
年間の貸出行動の変化について、平均的な地域銀行と比較・分析を行った結果、次のような特徴がみられ
たとしている。
 地域銀行全体では増加傾向にある大・中核都市貸出や大企業・地方公共団体向け貸出、シンジ
ケート・ローンを相対的に抑制する一方、県内や中小企業向け貸出は伸ばしている。また、中小
企業貸出先のメイン化も進めている。
 地元地域の主力産業を中心とした上位3業種への貸出の集中を進めているが、他方で、個々の
貸出については、小口分散化の傾向がより強くみられる。
 正常先最下位・その他要注意先への貸出を伸ばしているが、突発的な破たんは減少している。
(資料)金融庁平成 27 事務年度『金融レポート』P.25
ここで示された項目は、金融庁が地域銀行に望む一つの方向性と言ってもいいだろう。金融機関と企業
の関係がより密で情報提供を中心に、特にメインを中心とした在り方が問われる状況にある。筆者は従来か
ら地域の中核銀行の融資は「疑似エクイティ」、つまりデット(負債)ではあるが、エクイティ性を有し、さなが
らプライベートエクイティのように、金融と企業の関係上「ヒト・モノ・カネ」が一体となった密な関係にある、と
議論してきた。今回の『金融レポート』で示された方向もこうした流れに沿ったものと認識している。
下記の図表は日本の銀行のバランスシートを示したものだ。国内銀行では、資産サイドの国債・日銀預
け金の合計が、負債サイドの現金・預金の4割弱に相当する規模になっている。今日のような超低金利下
で、両建てとなったこの部分は収益確保が困難な状況にある。それだけに、金融機能を活かして、情報提
供も含めて資産を活性化させるか、預金を超えたアセットマネジメントを充実させられるかが問われることに
なる。さらに、今回の『金融レポート』には含まれないが、経費を抜本的に圧縮すべく、経営の統合も選択肢
になるだろう。
■図表:国内銀行のバランスシート
日銀預け金 168兆円
国債 95兆円
現金・預金
739兆円(71%)
貸出 532兆円
(51%)
その他の負債
271兆円
株式 16兆円
その他の資産 228兆円
株式等 29兆円
(資料)金融庁平成 27 事務年度『金融レポート』P.70
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「銀行問題は BS から PL に、超低金利で本当に持続的か」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 7 月 28 日)
http://www.fsa.go.jp/news/28/20160915-4.html
筆者の都合により、10 月 3 日(月)から 17 日(月)は休刊とさせていただきます。
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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