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NetroSphere構想の実現に向けた取り組み

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NetroSphere構想の実現に向けた取り組み
キャリアネットワークのあり方を変革する新R&DコンセプトNetroSphere構想の実現に向けた取り組み
NetroSphere
ネットワークアーキテクチャ
オペレーション
NetroSphere構想の実現に向けた取り組み
お
の
かんいちろう † 1
小野敢一郎
こんどう
さとし † 1
も り や
たかあき † 1
こ が
じゅんいち† 1
つちかわ
き み お†3
よしおか
ひろたか † 1
/吉岡弘高
まさひろ † 1
みやさか
近藤 悟 /宮坂昌宏
森谷高明
古賀淳一
NTTは,ネットワークを利用するお客さまやサービス事
業者に,今まで以上に多様なサービスを迅速,低コストで
ありながら高信頼に提供していくことを目指し,2015年 2
月に新R&Dコンセプト「NetroSphere構想」を発表しました.
NTT情報ネットワーク総合研究所ではNetroSphere構想の実
現に向けて,ネットワークアーキテクチャから仮想化,ハー
ドウェア,オペレーションなど幅広い研究開発を行ってい
ます.本稿では,その取り組み状況について紹介します.
土川公雄
か に し ま
か ね こ
ま さ し†1
/金子雅志
そえじま
ゆ う じ†1
ま す だ
あ け お†1
やました
のぶひこ † 2
/副島裕司
けん †1
/可児島建 /増田暁生
つ ち や
としあき † 2
や ま だ
た か し†4
/土屋利明
/山下暢彦
/山田崇史
NTTネットワークサービスシステム研究所
†2
NTTネットワーク基盤技術研究所
†3
NTTアクセスサービスシステム研究所
†4
NTT情報ネットワーク総合研究所
†1
た.このことは,新たなサービスを開
ます(図 ₁ )
.MAGONIAを活用した
発,展開するうえでの阻害要因にも
ネットワーク機能の開発においては,
な っ て い ま し た.MAGONIAで は,
従来,開発コストを膨らませる要因で
ネットワーク機能をハードウェアから
あったスケーラビリティや高信頼性の
ワークサービスの早期創出や,システ
分離したソフトウェアとして構成し,
確保が容易になります.特にスケーラ
ムの開発 ・ 運用コストの大幅な削減に
それらをアプリケーションとして効率
ビリティの確保は,サービスのスモー
向けた新たなサーバアーキテクチャと
的に開発可能な共通基盤を提供してい
ルスタートを可能とするため,新サー
新サーバアークテクチャ技術
(MAGONIA)
NetroSphere構想において,ネット
してNTTネットワークサービスシス
テム研究所ではMAGONIA* 1 を開発
ネットワーク機能のソフトウェア化
しています.従来,ネットワークシス
テムの開発においては,機能ごとに最
適化されたハードウェアやソフトウェ
アを使用し,キャリアとしての信頼性
【専用アプライアンスアーキテクチャ】
CPE
ファイアウォール
よるシステムでは,装置の数や種類が
増加し,運用者も個別に配置する必要
があるため,オペレーションコストが
増加し,システム全体の維持管理コス
トが高止まりする原因となっていまし
*1 MAGONIA:フランスの神話に登場する空
中大陸を語源とし,クラウドと融合し進化
を続けるプラットフォームを空の大陸に見
立て命名しました.
14
NTT技術ジャーナル 2015.8
ファイア
ロード
DPI … CPE ウォール バランサ
共通プラットフォーム
【従来型サーバアーキテクチャ】
システムごとに個別最適化(サイロ型)
アプリケーション,ミドル,ハード
一体でベンダロックイン
IMS
A社
高可用
ミドル
ウェア
IMS
A社
高可用
ミドル
ウェア
高信頼
ハードウェア
ACT
SBY
DPI
B社
高可用
ミドル
ウェア
DPI
B社
高可用
ミドル
ウェア
高信頼
ハードウェア
ACT
…
…
基盤共通化
別最適化によるサイロ型の装置構成に
IMS DPI
ロードバランサ
や性能などに関する厳しい要件にこた
えてきました.しかし,そういった個
IMS
機能ごとに専用ハードウェアに実装
ハードに影響する機能開発は長期化
分散処理技術
…
仮想化技術
…
汎用ハードウェア活用
ハード部品
(将来)
【MAGONIA】
すべてのシステムがソフトウェア化・
仮想化され全体最適化された世界
…
SBY
図 ₁ MAGONIAのアーキテクチャ
特
集
ビスの早期創出の期待にもこたえるこ
とができます.
ト削減も期待できます.
(VNFM: Virtual Network Function
Manager)で構成されます(図 3 )
.
MAGONIAの 具 現 化 に 向 け て は,
さまざまな企業が参加できるような
MAGONIAは,N-ACT型クラスタ
これらの基盤機能により,MAGONIA
を実現する分散処理基盤と,リソース
を適用したシステムでは,従来システ
プールを実現するための仮想化基盤と
ムと比較して大幅に設備の利用効率を
分散処理基盤に関しては,ミドルウェ
いう 2 つの基盤機能によって構成さ
高められることはもとより,サーバ故
アとしての提供を想定しています.2015
れています(図 2 )
.
障が発生したとしてもリソースプール
分散処理基盤では,現用系(処理中)
オープンな活動を目指しています.
から代替のVMをN-ACT型クラスタ
のサーバが同時に他のサーバのデータ
へ組み込むことで,保守者の駆けつけ
を冗長化して持つ予備系も兼ねること
作業などを要さずとも自律的な復旧が
で,従来のネットワークシステムが採用
可能となるため,システムの運用コス
*2 ETSI NFV ISG:欧州電気通信標準化機構
(ETSI)の中に設立された組織で,ネット
ワークの仮想化に求められる機能や機能間
インタフェースの仕様,それらを含む全体
アーキテクチャフレームワークの標準化を
リードしています.
してきたACT-SBY型のように予備系
専用のサーバを必要とせず,すべての
サーバが稼動する効率的なN-ACTクラ
アプリケーション
スタを構築できます.
このクラスタでは,
分散処理基盤
コンシステントハッシュ法と呼ばれる
OS
振り分けアルゴリズムに基づいてサー
負荷に応じて
サーバを増減
バに冗長化データを持たせているため,
サービスを継続しながらクラスタを構
サービスB用
N-ACT型クラスタ
サービスA用
N-ACT型クラスタ
成するサーバ台数を増減させることが
可能となります.これにより,常に需
のシステム運用を実現できます.
リソースプールとは,物理的なサー
予備機はすべての
システムが共有
仮想サーバ
仮想サーバ
バが持つCPUの処理能力やメモリ ・
リソースプール
ストレージの記憶容量などのリソース
仮想化基盤
を,複数システムに対して共用的に提
仮想サーバ要求
仮想サーバ要求
要に応じた必要最低限のサーバ台数で
故障時は他のサーバが
処理継続
図 2 分散処理基盤によるN-ACT型クラスタと仮想化基盤によるリソースプール
供するものです.MAGONIAでの仮
想化基盤によるリソースプールでは,
各システムを構成するアプリケーショ
ンの要求に応じてVM(仮想マシン)
Oss-Nfvo
OSS
としてリソースが割り当てられます.
この仮想化基盤は,標準化が進めら
れ て い るETSI NFV ISG(European
Teleco m m u nica t io n s St a nd a r d s
Institute Network Functions
Nfvo-Vnfm
EM
EM
EM
VNF
VNF
VNF
VNFM
分散処理基盤
分散処理基盤
分散処理基盤
ライフサイクル管理
Virtualization Industry Specification
Group)* 2 のアーキテクチャフレーム
ワ ー ク に 沿 っ て お り, 主 にVMに
よ る 仮 想 イン フラ(NFVI: Network
Function Virtualization Infrastructure)
NFVO
VeNf-Vnfm
Nfvo-Vi
Vi-Vnfm
NFVI
Nf-Vi
VIM
仮想化基盤
図 3 仮想化基盤のNFVアーキテクチャとの対応
とそれらを自律制御する管理機構
NTT技術ジャーナル 2015.8
15
キャリアネットワークのあり方を変革する新R&DコンセプトNetroSphere構想の実現に向けた取り組み
年 2 月には,
分散処理基盤のAPI(Appli­
提供するサービスがあらかじめ分かっ
を求める従来手法に加え,物理空間上
cation Programming Interface)仕様を
ており,それに見合った設備を適切に
の人流分析により,トラフィックの発
公開しており,API仕様に準拠したミド
は配備する,という従来の設備設計 ・
生源である人や端末のモビリティを反
ルウェアやアプリケーションを誰でも設
運用の考え方とは異なり,すでにある
映させて予測精度を向上させます.
計することが可能となっています.
リソースを有効に利用する技術が必要
一方,仮想化基盤に関しては,近年
になります.
このような状況において,
(2) 将来需要への可用性を考慮し
たリソース割当技術
クラウド関連の市中技術が急速に発展
ネットワーク上に偏在するソフト ・
将来発生するであろう新規サービス
しているほか,ネットワークシステム
ハード機能の最適な組合せを求め,統
需要に対してのリソースの割当も考慮
向けの仮想化アーキテクチャとして標
合コントロール機能を介して物理ネッ
しながら,現在の需要に対する適切な
準化が進んでいるNFVをターゲット
トワーク上に実現するのがリソース最
リソース割当を実施します.将来の需
とした製品も続々と市場投入されてい
適化技術です(図 4 )
.
要を完璧に予測することは不可能です
る状況です.NFV対応製品は,今後
具体的には,SDN(Software Defined
さまざまなベンダによって開発競争が
Network)/NFVに代表される仮想化
CPU,メモリなど)の総量やロケー
進むことが期待されます.私たちは,
技術の導入により,物理網の具体的な
ションの選択肢を数多く残すことで,
分散処理基盤を広く普及させつつ,そ
構成とは独立に論理網上でサービスを
リソース可用性を高めます(2).
れらを仮想化基盤と併用することで,
定義 ・ 構築することが可能になりま
(3) 予測はずれを考慮した制御技術
MAGONIAを実用化し,NetroSphere
す.これを利用し,個々のサービスを
変動に応じてトラフィックの経路を
構想の早期実現を目指します.
以下の技術を用いて物理網に柔軟に
動的に制御するトラフィックエンジニ
マッピングします.
アリングにおいては,予測誤りによる
リソース最適化技術 ・ プロアク
ティブ制御技術
4K/8Kといった高精細トラフィッ
(1) 生成メカニズムを考慮したト
が, 割 当 可 能 な リ ソ ー ス( 帯 域,
過制御や経路長変更による遅延時間変
動による通信品質の低下リスクが懸念
ラフィック予測技術
観測トラフィックに基づきトレンド
されます.そこでモデル予測制御技術
クの増加や光卸しによるお客さまとの
共創サービス実現により,通信トラ
フィックの多様化 ・ 予測不能性はます
ます増大していくと考えられます.ま
従来
観測トラフィック量を用いた予測
た,NetroSphere構想に基づく網機能
の部品化と組合せが進むにつれ,個々
目指す世界
発生した課題(輻輳,障害等)への個別対処
・モビリティや動画等,将来トラフィックに適応した予測
・予測したうえで,外れることも考慮した事前の対処
プロアクティブ制御
のサービスに紐付くトラフィックが
ネットワークのどこを実際に流通して
いくかも複雑さを増します.NTTネッ
トワーク基盤技術研究所では,このよ
ネットワークのリソース利用状況を最適化
生成メカニズムを
考慮した
トラフィック予測
将来需要への可用性を
考慮したリソース割当
予測はずれを
考慮した制御技術
うなネットワークとトラフィック ・ 品
質の複雑性に対する取り組みとして,
サイバー空間のユーザ
通信行動モデル化
異分野の技術を積極的に活用したネッ
トワーク科学(1)の研究を推進していま
す.ここでは,プロアクティブ制御を
利用したリソース最適化技術について
SNS
動画 1
実空間の人流予測
動画 2
コンテンツ配置最適化
動画 1
動画 1
仮想ネット
キャッシュ
ワーク
経路制御
リソース割当
サイバー空間
ネットワーク
紹介します.
NetroSphere構想では,共通部品の
組合せによる低コストなネットワーク
の実現が期待されています.つまり,
16
NTT技術ジャーナル 2015.8
イベントなど
実空間
図 4 プロアクティブ制御に基づくネットワークリソース最適化
特
集
を利用して逐次的 ・ 段階的制御を行う
ルータの機能に限らず,ネットワーク
Fabric」と命名しました.
ことで,予測外れが生じたときの影響
この技術を,高信頼性 ・ 高スケール
ワイドな転送 ・ 伝送連携など,新たな
を最小化する,ロバストな制御を実現
性といった特殊な要件があるキャリア
観点でのネットワークの高機能 ・ 高信
ネットワークにも適用を可能とし,運
頼化を実現する必要があります.
(3)
します .
近年,データセンタ用途を中心に,
上記の技術はいずれも,ネットワーク
用の柔軟性や抜本的なコスト低減につ
に何らかの課題(輻輳,品質劣化など)
ながる新たなネットワークの実現を目
汎用製品の高速化,大容量化,高性能
が発生した時点でリアクティブに対処を
指しています.また,NetroSphere構
化やNFV,SDNといったダイナミッ
行う従来の制御技術とは本質的に異な
想につながる装置の部品化,機能のシ
ク制御技術の研究開発や機能間インタ
り,課題が発生するリスクをあらかじめ
ンプル化,仕様統一などにより,多く
フェースの標準化などが進展していま
回避することを意図したプロアクティ
のベンダの参入,コモディティ化を促
す.このように技術が進展している
ブ制御技術として位置付けられます.
進します.
データセンタでのネットワーク技術を
リソース最適化により,ネットワーク
従来のネットワークは機能ごとに開
キャリアグレードに引き上げ,汎用製
全体でのソフト・ ハード機能の効率的利
発された専用的な装置によって構成さ
品を最大限に活用可能とする新たな
用を推し進めることで,より安価なサー
れてきました.それらの装置は,単体
ネットワーク技術が必要となります.
ビス提供が可能となります.また,プロ
として高信頼 ・ 大容量を達成するため
MSFのアーキテクチャを図 ₅ に示
アクティブ制御により,ネットワーク機
に高度化,大規模化する傾向にあり,
します.MSFは,従来の専用装置で
能の不具合が発生するリスクを抑えるこ
ビジネス要件に即応した機能や容量の
構成するネットワークをよりシンプル
とでお客さまにとっての使いやすさの向
追加 ・ 変更が困難で柔軟性に欠ける部
化するため,①転送機能部,②サービ
上も期待できます.さらに被災回避や
分や,ある装置で使用率の低い部分が
ス機能部,③制御機能部(コントロー
QoE(Quality of Experience)技 術な
あっても別の装置では利用できないた
ラ)の 3 つに分離します.①転送機能
ども含めたネットワーク科学全般の研究
めコスト増につながってしまうといっ
部は,シンプルな汎用装置などで構成
推進により,使いやすく,お客さま ・ 事
た課題があります.
します(汎用SWクラスタ)
.②サー
業者のニーズに寄り添うNetroSphere
構想の実現を推進します.
さらに,ネットワークサービスの多
様な要件を満足するためには,従来の
ビス機能部は,
転送機能部と切り離し,
クラウド上で実現します.③コント
マルチサービスファブリック
(MSF)
NetroSphere構想における転送 ・ 伝
迅速にサービス提供
コスト削減
持続的なサービス機能拡充性
設備コスト・
消費電力の低減
他事業者網
送レイヤとして,NTT ネットワーク
サービスシステム研究所ではMultiService Fabric(MSF)の研究開発
③制御機能部
②サービス
機能部
を進めています.MSFは,従来の専
用装置で構築していたネットワーク
を,転送機能,サービス機能,それら
の制御機能(コントローラ)に分割し,
1
2
(MSFコントローラ)
サービス
ネットワーク
3
1
光トランスポート
3
2
用途に応じたネットワークスライス
サーバプール
要求条件に応じた
スケールイン・アウト
汎用装置を組み合わせたクラスタを構
成することで柔軟なネットワークを構
成する技術です.本技術により柔軟な
機能を面的に提供することから,
「織
物(Fabric)
」
(繊維の織り方や切り
方によって,さまざまな用途に適用で
柔軟なネットワーク
リソース配置
スイッチプール
ユーザVLANなど
光トランスポート
マス
移動
法人
①転送機能部(汎用SWクラスタ)
メンテナンスしやすい
保守運用性・堅牢性の向上
図 5 MSFのアーキテクチャ
き る ) に ち な ん で「Multi-Service
NTT技術ジャーナル 2015.8
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キャリアネットワークのあり方を変革する新R&DコンセプトNetroSphere構想の実現に向けた取り組み
ローラは,汎用SWクラスタなどを制
構成する装置数が増えても詳細な構成
① サービスを構成する部品をエン
御します(MSFコントローラ)
.
が把握可能であるとともに,一装置と
ド ・ ツー ・ エンドで管理 ・ 制御す
して管理可能とする抽象化により,容
る統合コントロール
MSFでは,大幅なコスト低減を図
りつつ,持続的な拡充性の担保,保守
易な運用を実現します.
② オペレーション機能をサービス
事業者へ提供するOaaS
(Operation
性 ・ 堅牢性の向上の実現し,迅速かつ
これらの効能により,MSFを適用
安価なサービスを提供することを目指
したネットワークでは,設備コストや
しています.MSF技術でモデル化し
消費電力の削減,保守性 ・ 運用性の向
従来のネットワークサービス群はい
たネットワークを適用することで,以
上,迅速かつ継続的なサービス提供を
わゆるサイロ型の構造になっており,
下のような効果を目指します.
可能とします.
個々のサービスやネットワークに紐付
as a Service)
研究段階ではあるものの,技術の
き特化した装置や,関連業務を自動化
転送面において,キャリアの多様な
フィージビリティの向上のため,2015
したオペレーションシステムが存在し
要件を実現する手段として,汎用SW
年にプロトタイプを作製し,NTTグ
てきました.そのため,装置故障時の
クラスタの構成を最適化することで,
ループ内での利用実験を計画していま
装置切替方法 ・ 復旧方法が明確な反
ネットワーク機能を低コストで構成し
す.これを踏まえ,まずは複数ベンダ
面,近年のサービス多様化に伴い構成
柔軟に制御可能とします.
の汎用SWをクラスタリングし大規模
や作業が複雑化し,CAPEX(Capital
ルータの代替となる技術を実用化しま
Expenditure)/OPEX(Operating
す.続いて,伝送装置やその他周辺装
Expense)軽減が課題となっています.
置とのネットワークワイドなマルチレ
それに対しNetroSphere構想では前
(1) コストと柔軟性の同時適正化
(2) ハードウェアのAny Vendor化
による保守柔軟性
ハードウェア機能のシンプル化,仕
様統一により,幅広いベンダの参入を
イヤ連携技術を確立します.
述のようにネットワークをシンプル化
実現することで,さなざまなベンダの
MSF関連技術の開発促進 ・ 普及に
するために「機能と装置の分離」
「資
ハードウェアでSWクラスタが構成可
向け,コントローラ,汎用SW,仮想
源と装置の分離」をねらっており,オ
能となります(Any Vendor化)
.故障
化技術などの分野において国内外ベン
ペレーションを含めると図 6 のよう
時等でも異なるベンダのハードへの交
ダとも連携し検討を進めており,海外
なアーキテクチャを想定しています.
換を可能にするなどの柔軟な保守を実
キャリアとの技術議論にも取り組んで
すなわちインフラ(①)の上にネット
現します.
います.
ワーク(②)やサーバ(③)を仮想的
(3) 境界のない柔軟スケール
また,オープン技術(SW,コント
に構築し,
それらの上でサービス(④)
あらゆるネットワークを,極力,共
ローラ製品など)を用いたMSFの効果
を構成します.統合コントロールは
通のアーキテクチャで実現します.
的な技術普及のため,2015年内にベ
①〜④を一括でエンド ・ ツー ・ エンド
個々のネットワーク,ロケーションに
ンダとPOC(Proof Of Concept)を
で管理します.例えば図 6(a)のよう
必要なスペックを小規模〜大規模まで
実施する予定です.POCを有効活用
にネットワークを一括設定することで
柔軟な構成で無駄なく提供します.ま
して各国ベンダ,キャリアへのMSF
サービス提供のリードタイムを短縮し
た,汎用技術の進展に応じて,境界,
技術の普及促進を図ります.
たり,図 6(b)のように装置故障を自
限界のないスケール性を実現します.
(4) 転送装置の容易な運用
統合コントロール ・ OaaS
動検知しネットワークやサーバを自律
的に再設定することでサービス継続性
を向上させたりします.
装置の部品化,
シンプル化,
共通アー
オペレーション業務はサービス受
キテクチャ化により,従来の大型転送
付 ・ 設備建設 ・ 保全など多岐にわたり
統合コントロールを検討するにあ
装置(ブラックボックス)から,装置
ますが,NetroSphere構想の下,ワン
たっては,装置構成 ・ 品質条件 ・ 運用
内部構造が明確な装置(ホワイトボッ
ストップでサービス運営 ・ 保守するオ
業務フローなどを仮定し,具体的な
(4)
クス)の移行を促進します.シンプル
ペレーションの提供 が重要となりま
ユースケースを基にして実現方式を詳
なハードウェアのみで構成することで
す.これを支える技術として,
NTTネッ
細化する必要があります.例えばイン
故障時等の運用状況の見える化を実現
トワークサービスシステム研究所では,
フラ層で物理的に装置が故障し,ネッ
します.さらに,汎用SWクラスタを
以下の研究開発に取り組んでいます.
トワーク層でアラームが発生したとす
18
NTT技術ジャーナル 2015.8
特
集
サービス
ネットワーク
スライス
ユーザ
サービス事業者
オペレーション
システム
統合コント
ロール
ネットワーク
スライス
ユーザ
統合コント
ロール
サービス継続
サービス開通
R/SW
R/SW
②ネットワーク層
R/SW
アプリ
サーバ サーバ サーバ
R/SW
R/SW
設定
アプリ
③サーバ・アプリ
サーバ サーバ サーバ
ケーション層
設定
ネットワーク
一括設定
①インフラ層
R/SW
サーバ サーバ サーバ
R/SW
R/SW
②ネットワーク層
R/SW
R/SW
OaaS
④サービス層
アプリ
③サーバ・アプリ
サーバ サーバ サーバ
ケーション層
オペレーション
システム
サービス
OaaS
設定
④サービス層
サービス事業者
サービス構築依頼
R/SW
R/SW
R/SW
R/SW
切替
切替
自動切替
ネットワーク
( )
再設定
故障通知
①インフラ層
(a) サービス提供のリードタイム短縮(即時開通)
(b) サービス継続性のさらなる向上(自動復旧)
図 6 統合コントロール・OaaS
ると,
「どの物理サーバ上でアプリケー
して外部インタフェースとして公開す
OaaSの研究開発を通じ,従来にはな
ションが稼動しサービスを提供してい
るOaaSの研究開発も行っています.
かった “迅速 ・ 低コストでかつ付加価
るか」という関係をたどったうえで,
OaaS APIで提供するオペレーション
値を生み出すオペレーション” の実現
り障範囲を瞬時に把握し,障害要因の
機能は,新たなサービス創出を促進す
を目指しています.
判別と回復処理を行う必要がありま
るため,IoT(Internet of Things) ・
す. 提 供 サ ー ビ ス のSLA(Service
クラウド ・ 仮想化関連技術(NFVや
Level Agreement)にも依存しますが,
SDNなど) ・ ビッグデータなど,進
NTTアクセスサービスシステム研
具備すべき機能として具体的な実現技
展する各分野の技術やサービスと柔軟
究所ではオペレータの操作支援による
術の確立を目指しています.
かつ容易に組合せ可能なことが前提と
業務効率化に取り組んでいます.高度
な り ま す.TMF(TeleManagement
な判断を要する操作を簡易化,作業量
ETSI NFV ISGのMANO(Manage­
*3
ナビゲージョン技術
ment and Orchestration) Working
Forum) でも,卸売り形態のサービ
を削減するナビゲーション技術につい
Groupでは,Phase 1 にてハイレベル
ス要件を踏まえてアーキテクチャを検
て紹介します.
(6)
アーキテクチャや機能要件の検討を
討しています .このようなインタ
ナビゲーション技術は,高度な判断
2014年12月に完了し,2015年 1 月か
フェースは一般的にユーザビリティ ・
を要する操作を簡易化,作業量を削減
らPhase 2 が始まっています .統合
生産性 ・ 柔軟性 ・ 情報粒度などさまざ
することによるOPEX削減をねらい
コントロールの研究開発では,NFV
まな観点から設計 ・ 評価を行う必要が
としています.NetroSphere構想にお
などの標準化動向との親和性を考慮に
あり,多種多様なサービス事業者の
いても多様なネットワークの構築 ・ 設
しながら検討を進めています.
ニーズに合わせて提供することが重要
定を効率的に行い,迅速かつ確実に
キャリアサービスの短期間での提供
となります.そのため,共通的なAPI
ネットワークサービスを提供するため
とOPEX削減を目指し,迅速なサービ
を規定するだけでなく,APIを組み合
ス構築,
柔軟なスケール変更,
オペレー
わせたり,あるいはオプションを削っ
ション業務の遠隔操作化を行う統合コ
て単純化したりする基盤技術の確立を
ントロールに加え,さらに,そのオペ
目指しています.
(5)
レーション機能をサービス事業者に対
以上のように,統合コントロールと
*3 TMF:テレコム ・ オペレーションに関する
世界的な業界団体で,テレコム ・ オペレー
ションの汎用的なソリューションの提供を
目指し,ビジネスプロセスやデータ ・ 情報
についてのフレームワークの検討,標準化
を行っています.
NTT技術ジャーナル 2015.8
19
キャリアネットワークのあり方を変革する新R&DコンセプトNetroSphere構想の実現に向けた取り組み
術(7)は,業務システムを改造すること
必要です.サステナブルな社会に向け
なく,業務システム画面の任意の場所
て,通信インフラ全体の環境負荷低減
め,さまざまな業務の支援のために多
に情報を表示できる技術です(図 7 )
.
が必要であり,NTT情報ネットワー
種多様な業務システムが開発 ・ 導入さ
例えば,操作順序の表示,入力項目へ
ク総合研究所では,これまで,各設備
れ,効率的な業務環境を実現してきま
の注意喚起の表示などを実現すること
を主管する研究所やグループ会社にま
した.一方,新商品や新サービスの投
ができます.これによりマニュアルの
たがった連携戦略組織を立ち上げ,情
入,キャンペーンの施策などにより業
参照,熟練作業者のサポートを必要と
報通信サービスの環境負荷低減を実現
務は日々変化していきます.業務に変
せず,正確なオペレーションを実施す
するための技術を 6 つの技術群(①
更が生じた場合,業務システムを改造
ることが可能となります.
ネットワーク装置への給電と電力自給
に重要な支援技術です.
ネットワークサービスの提供をはじ
する必要がありますが,費用と時間を
そのほかの技術として,操作ログを
率向上のための電源関連技術,②通信
要するために実現できず,業務システ
解析することで業務に有益な情報を抽
ビルのエネルギー効率を高める空調関
ムがカバーできない業務パターンが発
出するログ分析技術や,複数のシステ
連技術,③ネットワーク装置と電源 ・
生します.このような業務に対して現
ムにまたがる操作を統合するシステム
空調装置の運用連係技術,④ネット
場レベルで試行錯誤しながら運用対処
連携技術などに取り組んでいます.
ワーク全体の省エネに資するネット
しているのが実態であり,非効率な業
ナビゲーション技術は,業務に特化
ワークアーキテクチャ ・ ネットワーク
務の一因として今後も発生する大きな
せず汎用的な技術であることから,
装置での省電力化技術,⑤通信インフ
課題と考えられます.
NTTグ ル ー プ や パ ー ト ナ 企 業 で の
ラのグリーン化を図る省資源化技術,
OPEX削減に幅広く貢献することが
⑥電磁波 ・ 雷などの外乱に対応する外
期待できます.
部環境対策技術)に整理し(図 8 )
,
このような状況で業務効率化を実現
するには,業務システムを改造すること
なく,実際の業務と業務システムとの乖
今後は,ナビゲーション技術の充実
離を継続的に埋めることが求められ
を一層図り,継続的な業務改善を目指
ます.
します.
ナビゲーション技術は,オペレータ
や業務システムから有効な情報を取得
研究開発を推進してきました(8).
現在,ネットワーク装置の省電力化
や,高電圧直流(HVDC)給電システ
ム導入拡大,EMC技術への取り組み
環境推進技術(HVDC給電システム)
などを継続して推進しています.
する技術 ・ 取得した情報を解析する技
NetroSphere構想を実現するうえ
ネットワーク装置の省電力化は,ダ
術 ・ 解析した結果を業務に反映する動
で,ネットワーク装置や空調装置,電
イレクトに電力使用量の削減,つまり
作指示技術の各技術より構成されま
源装置,屋外構造物設備など,さまざ
はCO2排出量の削減につながります.
す.この一例であるアノテーション技
まな設備で構成される通信インフラが
それに加えて,ネットワーク装置へ電
1
お客さま情報を入力
注意
品名と数量に誤りがないかチェック
! 商品コード,数量は半角で入力
2 注文情報を入力
3 備考欄に入力者の氏名を記入
最後に登録
4
(a) アノテーション技術適用前の操作画面
(b) アノテーション技術適用後の操作画面
図 7 アノテーション技術の表示例
20
NTT技術ジャーナル 2015.8
特
集
③ネットワーク装置と電源・空調装置の運用連係技術
ネットワーク
①電源関連技術
④ネットワーク
アーキテクチャ・
ネットワーク
装置での省電力化
技術
高電圧直流給電システム
導入拡大に向けた取り組み
②空調関連技術
ネットワークアーキテクチャ
およびネットワーク装置に
おける省電力化の取り組み
通信ビル 通信インフラ
⑥外部環境対策技術
⑤省資源化技術
EMC技術の研究開発
EMC: Electro Magnetic Compatibility
図 8 N etroSphere構想を実現するハードウェアの構築・運用における
環境負荷低減技術および研究所における取り組み状況
力を供給する給電システムの変革によ
情報通信分野全体の省電力化を推進し
り,さらなる省電力化,低コスト化を
ていくことを宣言しています(10).
推進しています.具体的には,従来直
このように,NTT情報ネットワー
流48 Vや交流100 V ・ 200 Vをネット
ク総合研究所はNetroSphere構想の実
ワーク装置へ給電していましたが,そ
現に向けて,環境負荷低減のためのさ
れを直流380 Vとする,HVDC給電シ
まざまな取り組みを推進しています.
ステムの導入です.
HVDC給電システムの導入により,
従来の直流48 Vに対してはケーブル細
径化,電力変換効率の向上などによる
NetroSphere構想実現に向けた
協業体制
NetroSpehre構想の研究開発では,
コスト削減,交流100 V ・ 200 Vに対し
コンセプト検討や技術開発の初期段階
ては信頼性や電力変換効率の飛躍的な
から多くのプレーヤと一緒に取り組む
向上といったメリットがあります.
など,オープンな協業体制というアプ
従来と異なる新たな仕様で装置を導
ローチを進めています.私たちの提案
入するため,給電システムの開発だけ
したNetroSphere構想を押し付けるの
でなく,HVDC仕様の標準化等にも注
ではなく,方向性に共感いただけた
力し,さらにHVDC給電システムと
方々に技術をブラッシュアップしてい
ネットワーク装置などの接続点におけ
ただいたり,新たな活用方法のアイデ
る技術要件をまとめた「ICT装置等の
アを出していただいたりすることによ
高電圧直流給電インタフェースに関す
る,
今までにない,
より良いネットワー
るテクニカルリクワイヤメント」を制定
クの実現を目指します.
(9)
し公開 するなど,HVDC対応のネット
NetroSphere構 想の実 現に向けて,
ワーク装置のラインアップ拡充を図っ
技術開発だけでなく協業についてのチャ
ています.そして,
NTTグループとして,
レンジをこれからも継続していきます.
HVDC給電システムの導入戦略を策定
し,今後普及拡大すること,率先して
ナル,Vol.27, No.7, pp.6-26, 2015.
(2) 本多 ・ 松村 ・ 土屋 ・ 高橋:“仮想ネットワー
クのリソース割当手法の検討,” 信学技報,
Vol.115, No.11, CQ2015-4, pp.15-20, 2015.
(3) 高 橋 ・ 石 橋 ・ 上 山 ・ 塩 本 ・ 大 歳 ・ 大 下 ・ 村
田:“フローベースネットワーク制御のため
の マ ク ロ フ ロ ー 構 成 手 法,” 信 学 技 報,
Vol.113, No.443, IA2013-84, pp.31-36,
2014.
(4) 特集:“つくばフォーラム2014ワークショッ
プ,” NTT技 術 ジ ャ ー ナ ル, Vol.27, No.1,
pp.54-68, 2015.
(5) 高 橋 ・ 寺 内:“ETSI NFV ISGに お け る
MANO-WGの 標 準 化 動 向,” 信 学 技 報,
Vol.114, No.523, ICM2014-58, pp.25-30,
2015.
(6) https://www.tmforum.org/open-digitalecosystem- 2 /
(7) 川端 ・ 増田 ・ 土川 ・ 足立 ・ 井上:“操作画面
上に業務ノウハウを直接表示するアノテー
ション表示 ・ 編集技術,” NTT技術ジャーナ
ル, Vol.27, No.7, pp.36-39, 2015.
(8) 特集:“情報通信サービスの環境負荷低減に
向 け た 取 り 組 み,
” NTT技 術 ジ ャ ー ナ ル,
Vol.27, No.1, pp.10-43, 2015.
(9) h t t p : / / w w w . n t t . c o . j p / o n t i m e / i m g / p d f /
TR176002ed1.1_20150401J.pdf
(10)http://www.ntt.co.jp/news2014/1408/140804a.
html
■参考文献
(1) 特集:“ネットワーク科学,” NTT技術ジャー
(後列左から)
金子 雅志/ 山下 暢彦/ 山田 崇史
(前列左から)
森谷 高明/ 小野 敢一郎/ 土屋 利明/ 土川 公雄
NTT研究所は,NetroSphere構想で策定
した将来の通信ネットワークの技術開発の
コンセプトの実現,および柔軟で高信頼か
つ経済的な将来の通信ネットワークの実現
に向けて,国内外のキャリア,ベンダなど
との協調や,国際標準化への積極的な貢献
により,これまで以上にオープンに取り組
みながら,研究開発を進めていきます.
◆問い合わせ先
NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部
TEL 0422-59-3663
E-mail inlg-pr lab.ntt.co.jp
NTT技術ジャーナル 2015.8
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