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婚姻時の夫婦別姓選択をめぐる葛藤と振る舞い
Nara Women's University Digital Information Repository Title 婚姻時の夫婦別姓選択をめぐる葛藤と振る舞い Author(s) 菊池, 慶子 Citation 菊池慶子: 奈良女子大学社会学論集 (奈良女子大学社会学研究会 ) , 第16号, pp.145-163 Issue Date 2009-03-01 Description 八木秀夫教授定年退職記念号 URL http://hdl.handle.net/10935/2565 Textversion publisher This document is downloaded at: 2017-03-29T05:23:54Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 婚姻 時 の夫 婦別 姓 選択 を め ぐる葛 藤 と振 る舞 い 菊池 慶子 1 問題所在 と研 究課題 ウーマ ン リブ全盛期 や 1 990年 前後 の夫婦別 姓 の盛 り上 が りに比べ ,現在 ,婚姻 時改姓 が 特別 に取 り上 げ られ るこ とは ほ とん どない.そ の よ うな現状 において, いま別 姓 を してい る人々の実態 は どの よ うな ものなのだ ろ うか. 家族 の多様化 が言 われ ,一般 的な家族 の他 に事実婚 や ステ ップ ファ ミ リー ,一人親 家族 , 人工授精や代理母 で子 どもを持 っ こ と, 同性 婚 な ど, さま ざまな形態 が挙 げ られ る ( 浅野 1 995;岡 田 2000). ここに挙 げた ものか らも分 か る よ うに家族 とい うの は非 常 に定義 しに くい もので あ り,一般 レベル にお いてその定義 は人 に よって大 き く異 な る ( 原 2001). また,確 実 に進 んで きてい る女性 の社会進 出に,人 口減少 に よる労働力確保 の必 要性 も 加 わ り,最近 では 日常 レベル で も ワー クライ フバ ラ ンス とい う言葉 が よ く言 われ る.年 功 序列 の終身雇用 時代 が終蔦 し,男性 だ けが稼 ぎ手 で あ り続 けるこ とが難 しくな って い る こ とか ら,今後 さらに結婚後 も働 き続 ける女性 の増加 が予想 され る.他方 ,非婚 ・晩婚化 も 言 われ てい る現状 を見 る と,結婚 に消極 的 にな る理 由には さま ざまな ものが考 え られ るが, その多 くは結婚 に よってそれ まで の生活 を変 えた くない とい う共通 点が あ り ( 国立社 会保 障 ・人 口問題研 究所 2005),生活 の変化 に よる不利 益や マイナスイ メー ジが少 しで も軽減 され ることが必要だ ろ う.以上 の関心か ら本稿 で は,現在 ,既存 の制度や価値観 と実 態 と しての家族や人 々の生 き方 にお け るギャ ップ, そ の なかで も,婚姻 に よる生活上 の大 きな 変化 のひ とつ とも言 える婚姻 時改姓 を取 り上 げ る. 日本 では民法750条 の規定 に よ り,法律 的 に結婚 す るた めには婚姻届 を 出す必要 が あ り, その際 に夫 か妻 の どち らかが相 手 の姓 を選 んで 自分 の姓 として届 け出な けれ ばな らない ( 夫婦 同姓).福 島瑞穂 や井 戸 田博 史 は,婚姻 時改姓 を した くない とい う声 を例 に,夫婦 同 姓 の問題点 を挙 げて い る.福 島は, 「 アイデ ンテ ィテ ィー を侵 害す る」 ( 原文 まま)・「 姓を 変 えるこ とが不便 ・不利 益」・「 男女不平等 を助長 し,また,「 家制度 」 を温存す る こ とに役 立ってい る」 とい う3点 を挙 げてい る ( 福島 1 992:1 41 58)。アイデ ンテ ィテ ィの根 拠 にな ってい るのは,名 前 は重 要 な人格権 のひ とっ で あ る とい う点で ある.不便 ・不利益 は,主 に仕事上 にお けるものを指 してい る.女性 の社会進 出に よ り,初婚年齢 の上昇 に よ り結婚 前 に働 く期 間は長 くな り, また結婚後 も働 き続 け る女性 は増 えてい るこ とが根拠 とな って い る.そ して,男女 不平等 の根 拠 となってい るのは,婚姻届 を出す カ ップル の約97% が夫 の姓 を選択 してい る とい う現実 で ある.井戸 田も, 「 氏 の人格権性 」・「 氏の呼称秩序性 」・「 氏 の長年使用性 」・「自己決 定権 」 とい う4点か ら同様 の こ とを指摘 してい る ( 井戸 田 L 2004: 1 5 96 3),この よ うに,結婚 時 に改姓す るこ とに,仕 事 の都 合上 あるいは アイデ ンテ ィテ ィ ー1 45- の面か ら抵抗感 を覚 える人た ちがい る.その よ うな人たちは婚姻 時改姓 を望 まず ,夫婦別 姓 を希望す るこ とが多い.現在 ,夫婦別姓 を行 うには 「 事実婚 」 と 「 通称使用 」 の 2つの 方法がある ( 福島 1 992:1 58).事実婚 は,婚姻届 を出 さず に実態 として は夫婦 ・家族 とし て生活 してい く方法,通称使用 は,婚姻届 を出 した上で通称 として 旧姓 を使 い続 ける とい う方法である. この ことか ら,夫婦別姓 には事 実婚 が密接 に関連 してい るこ とがわか る. 二宮周平 は,法学的見地か ら事実婚 を取 り上げてい る.二宮 は, これ まで法的 に内縁 を 保護 してきた意義 と限界 を指摘 し,また,実際 に事実婚 の人た ちに調査 を行 った うえで ( 以 下,二宮調査),法的 には内縁 として扱 われ る現代 の事実婚 に も対応 で き る新 たな理論 の構 築 の必要性 を説 いてい る ( 二宮 1 990).社会学 においては,野 々 山久也 を代表 とす る研究 で,「 非法律婚カ ップル」を対象 に大規模 な量的調査お よび質的調査 を行 い ( 以下,野々山 995).そ こでは 「 非法律婚 」 と 調査),その実態や意識 について分析 され てい る ( 野 々山 1 \人 々はそ い う大 きな くく りではあるものの,善積京子 に よる類型 ( 図 1) にある とお り, れぞれ の価値観 に よって多様 なカ ップル形態 の選択 を してい る こ とが 明 らか に され てい る. なお,本稿 では図 1の類型 に依拠 して用語 を使 い分 けるもの とす る.二宮調査や野 々 山調 査 の結果 では,事実婚 あるいは非 法律婚 を選択 した二大理 由 として夫婦別姓 が挙 げ られ て お り,実態面で も夫婦別姓 と事実婚 が密接 に関連 してい ることがわか る. 同性 カ ップル 一一一 特定 の同性 と継 続 的性 関係 が あ る 法律婚 - 一 婚 姻 届 を出 し、法的 に結 婚 と して絡 め られ てい る / 異性 カ ップ′ \ . / 非 法律婚 カ ップル \ 事実婚 1- 誓警 号 霊宝 h L s 三宝 ない が 、 当事 者 には細 / 非婚 カ ップル \ 非婚 協棲 。 ミュー タ してい る 同居 し生 活 の協 同性 は あ るが 、 当事 者 に結 婚 し て い る とい う意 識 が ない 特 定の人 と継 練 的性 関係 は あ るが、同居 せず 、 結婚 してい る とい う意 織 もな い 図 1 善積 に よる分類 ( 善積 1 995: 1 1 5, 図 Ⅱ -3 -1) しか し,事実婚で夫婦別姓 を行 うこ とは簡単 ではない.夫婦別姓 を望んで事実婚 を選択 した場合 ,夫婦 あるいは家族 として与 え られ る法的保護 を受 けるこ とはで きない.また, 一般 的 に,結婚 して も婚姻届 を出 さない こ とに対す る周 囲の反応 は否定 的で ある. この よ うな背景か ら,「 で きちゃった結婚 」が代表例 であるよ うに,未 婚 女性 に妊娠 が発 覚す る と 慌 てて婚姻届 を出 して結婚す るな ど,夫婦や家族 として社会的承認 を受 けるべ き とい う社 会的規範 がまだまだ強 く働 いてい る と言 える. そんななかで,夫婦別姓 を理 由に婚姻届 を 出 さない とい う選択 をす る人 々には どの よ うな困難 があるのだ ろ うか. 草柳千早は,「 社会問題 」 としての夫婦別姓 問題 の経験 を 「 違和感 をめ ぐる過程 」 として 記述 してい る ( 草柳 2000)・草柳 は,改姓 による数 々の煩 わ しさを抱 えていた折 りに,メ デ ィアな どを通 して さま ざまな言説 に触れ るこ とで夫婦別姓 に 「 問題 」 として 「 遭遇 」 し 6 23)・ そ こには 「 問題 」 の 「 個人化 」 か ら来 る 「 語れ な さ」 「 理解 さ た としてい る ( 同:1 -1 46- れ な さ」が あ り,「 一方 の 自分 の違 和感 を軽減 しよ うとす る振 る舞 いが,一方 を違和感 の な かに留 め置 く」 こ とが示 唆 され て い る ( 同:1 6 4 7 2). この よ うに, これ まで の研 究 で は,マ クロ レベル で の法的 な問題や社会 的 に夫婦別 姓 が どう扱 われ てい るのか とい った点 が クローズア ップ され てお り,個 人 が どの よ うに周 囲 と 折 り合 い をつ けて別 姓 を実践 してい るのか とい う点 について言及 してい るのは,野 々 山調 査が唯一 と言 って もよ く,それ も 1 5年近 く前 の もの とな ってい る.当時,事 実婚や別 姓 カ ップル は,国会 にお け る別姓 法案 の論争 の盛 り上が りも手伝 って,新 しい ライ フス タイル として メデ ィアで も頻繁 に取 り上 げ られ た.それ が最近 で は全 く話題 にな らない.そ の理 由 として,新 しい ライ フス タイル が もはや珍 しい ものではな くな り,逸脱 の ノーマル化 と も言 える現象が起 こって きた とも考 え られ る.しか し,今 も事 実婚や別 姓実践者 は存在 し, 社会 の要請 として今 後 もその よ うな希望 を持つ人 々は一定数存在 し続 け る と考 え られ る. む しろ,珍 しい もので な くな った カ ップル形態 を取 り上 げ,そ こにあ る課題 を浮 かび 上 が らせ るこ とは,男女共 同参画 を今後 も進 めてい く うえで必 要 な こ となのではないだ ろ うか. ここに,いま夫婦別 姓 を取 り上 げ る理 由が ある. 本稿 では,多 くの人 々 に とって身近 な問題 とな りうる,婚姻 時改姓 の問題 ,す なわ ち夫 婦別姓 につ いて取 り上 げ,個 人 に焦点 をあて,別姓 を実践す る過程 にお け る彼 らの葛 藤 や 振 る舞 いのなかか ら,別姓 実践者 の現在 を明 らか に したい.草柳 ( 20 0 0)の言 う,違 和感 が違和感 を生み 出す 状況 で,人 々が ど う折 り合 い をつ け るのか を見たい .方 法 として ,夫 婦別姓 を選択 した 1 4名 (3カ ップル を含 む 1 1事例 ) にイ ンタ ビュー調査 を行 い,別 姓 を す るこ とで どの よ うな葛藤 が あ り,その葛藤 を どの よ うに緩 和 ・解 消 しなが ら別姓 を実践 してい るのかに関す る語 りを分析 した.なお,別姓 の現状 を明 らか にす る とはい え,若 い 世代 のみ を取 り上げ るだ けではそ の特徴 は見 えに くい と考 え,調査対象者 は世代 の制約 を 設 けず幅広 く募集 し,世代 に よる違 い も考慮 した. なお ,本稿 にお いて姓 ・名字 ・苗 字 ・ 氏 とい った類似 の表 記 につ いて は,基本 的 に姓 とい う表記 を使 用す るが,法的 には氏 とい う表記 が使用 され た り,人 に よっては姓以外 の表現 を した りす る場合 が あ る.その場 合 に は,そ ち らを尊重す る もの とす る. 2 調査概 要 2 . 1 属性 2 0 0 6年 1 0月 1 9日∼20 06年 1 1月 21日の 間 に筆者 が実施 した 分析対象 とす るデー タは , 半構造化 面接 に よる もので あ る. 調査対象者 ( 以下,対象者 )の属性 は,イ ンタ ビュー を行 った 2 0 06年 当時 の もので あ る ( 表 1).事例 7, 9, 1 0 は, カ ップル の両方 か らイ ン タ ビュー協力 の 申 し出をいた だい たため,パー トナー には 「 ' 」 を付 けてカ ップル 関係 で あ る こ とを示 した. -1 4 7- 表 1 対 象者 属性 代 職業 パ ー トナ ー の プル 形 態 r の数 現在 のカ ツ 年 パナ 数 ー-lト_ ) 子 とも 例 辛 前 名 別 哩 年 3 C 女 40. 会社員 会社員 . 4 D 女 40 求職 中 会社員 法律 婚 1 2 5 E 男 30 会社貞 会社員 法律 婚 7 6 F 女 30 常勤講 師 アノ レバ イ ト 非 法律 婚 7 G 女 G p 男 30 p 30 会社貞 会社早 会社員 会産員 非 法律 婚 . 非法律婚 7 7 8 白..女 30 学 生 ,主婦 会社員 ・9 Ⅰ 女 Ⅰ ' 男 30 30 学生 会社員 会社員 学生 女 30 非学 常勤 生講 ,師 会 社員 J'- 男 30 会社員 非学 常動議 生,師 7 ' 1 0 ∫ 職業 ■ 非 法葎 婚 . 12 3 0 0 1 1 1 5 1 8 ■ 8 0 0 法律 婚 4 1 法律婚 4 - 法律 婚 非 法律 婚 . 非 法律婚 1 こ こで ,性 別 ・年 代 ・学歴 の偏 りに言及 してお く必 要 が あ る.本調 査 で は男性 対 象 者 の 数 が少 ない. そ の理 由 と して ,別 姓 の 問題 は女性 側 か ら提案 され る こ とが ほ とん どで あ る とい う野 々 山調査 の結 果 か ら見 て も,別 姓 実 践者 の男性 の うち積 極 的 に別 姓 に関す る情 報 発信 や情 報 交換 をす る者 は少 な く,男性 対 象 者 - の ア クセ ス方 法 がパ ー トナ ー か らの紹 介 な ど非 常 に限 られ る とい うこ とが挙 げ られ る. この こ とか ら,パ ー トナ ー が別 姓 実 践 者 で あ って もそ の こ とに特 に関心 を持 た ない よ うな人 は対 象 外 とな ってい る こ とを留意 す る必 要 が あ る.年 代 は 3 0代 が 中心 とな って い る 2). ま た ,年 代 の違 い に よ る, そ の時代 背 景 の影 響 に も 目を 向 け る必 要 が あ る. そ して,表 に は記 載 して い な いが ,全 員 が大 学 あ るい は大 学 院卒 と高 学歴 で あ る.特 に現在 50代 で大 卒 の女性 は, 当時 の全 体 の大学進 学 率 が 2割 程 度 で あ った こ と, そ して女性 に限れ ば進 学 率 は更 に低 か った こ とか ら考 え る と, ご く一部 の限 られ た環 境 に あ った 人 た ちで あ る とい うこ とを忘 れ て はな らな い . 2. 2 調 査方 法 対 象者 は,調査 依 頼 方 法 に よって a . 夫 婦別 姓 や 事 実 婚 の実 践者 と して HPを運 営 して い -1 48- る個人ネ ッ トユーザー (5名 )- の筆者 に よる直接 依頼 ,b. 筆者 の直接 の知 人 (1名 )a. お よび b. ) に よって紹介 を受 けた の筆者 に よる直接依頼 , C.筆者 が直接依頼 した対象 者 ( 知人 (8名 ), と分類 で きる.C.の 8名 の うち 4名 は調査 当時,夫婦別 姓 関連 の会 に入 って 何 らかの形 で活動 を行 っていた .a. b. で会 には入 ってい る者 はい ない .この よ うに,対象者 の多 くが HP運営や何 らかの会 に参加 す る とい った積極 的 な姿勢 を もってお り,今 回 の対 象者 には 自らの希望 を表 明す らで きない よ うな, よ り抑圧 され た状況 にい る人 々は含 まれ ていない点 を考慮す る必要が あ る 3)。 イ ンタ ビュー場所 は, 対象者 が話 しやす い静 か な場所 を指定 して も らい , 対象者 の 自宅, 喫茶店 ,ホテル の ラ ウンジ等 で行 った .時間は約 1時 間 ∼ 2時 間半で あ る.イ ンタ ビュー は,対象者 の了承 を得 た上で録 音 を行 った 4). 調査項 目は, 1 )属性 ,2) 自分 た ちの とってい るカ ップル形態 5) に対す る呼び方 ,3) 現在 のカ ップル形態 を とるよ うにな った きっか け ,4)周 囲の反応 ,5)子 どもに関 して ,6) 励み になった こ と ・壁 にな った こ と, 7) 「 選択 的夫婦別 氏制度 」 の法制化 に関 して, の以 上 7項 目で ある.半構造化 面接 を採 用 したた め,以 上 の 7項 目を話 の流れ に よって適 宜質 問す る順番 を組 み替 えて調査 を行 った . 2. 3 デー タの取 り扱 い まず ,イ ンタ ビュー の録音デー タをテープ起 こ しし,一次資料 とした. トランス ク リプ トは対象者 1名 につ き A4で 9- 23頁 (1頁 あた り約 1 400字) で あった. 一次資料 は,読みやす くす るた め に結果や 考察 に影 響 のない程度 で修 正 を行 い 6),プ ラ イベー トな内容 を取 り扱 ってい るた め個人 が特 定 され うる情報 につ いて は伏せ る, あ るい は仮名 で代替す る とい った配慮 を した.本稿 で は,一次資料 に これ らの手 を加 えた もの ( 二 次資料) を掲載 した.また,本研 究 で は会話分析 は用 いていない. しか し,対象者 の生 の 声 を大事 に したい とい う理 由か ら, 筆者 の問題 関心 に主 眼 を置 いて彼 らの語 りを整理 した. なお,録音等含 めた本調査 にて得 た全 てのデー タは,筆者 がテー プ起 こ しや デー タ管理 を行 い,第三者 が関与 しない よ うプ ライバ シー の保護 に努 めた. 得 られ たデー タの整理 は, まず ,各対象者 の語 りの 内容 に沿 って,筆者 が適 当で ある と 考 える見出 しを付 けてい った.次 に,全対象者 の見 出 しに共通 した ものが あれ ば,それ を 取 り上 げた 7) .その結果 ,全体 を不公 平感 ,結婚意識 ,葛藤 の 3つ に大別 す る こ とが で き た.それ ぞれ の項 目は, さ らにい くつ か に類別 され る.詳 しくは次 で述 べ る. 3 結果 全体 の流れ は,対象者 の不公 平感 か ら始 まった別姓願 望では あ りなが ら,そ こには結婚 意識 が あ り,そ の こ とに よって対象者 は別姓 実現 まで の過程や別姓 実現後 にお いて さま ぎ ー1 49- まな葛藤 を抱 えてい る, と整理す るこ とがで き る.彼 らは,そ の葛藤 を緩和 ・解 消す るた めに さま ざまな振 る舞 い をす る.そ の主な もの として,何 らか の儀 式 に よって周 囲-結婚 意思 を示す こ とや名 の りが挙 げ られ る.ここか らは,以上 の流れ に沿 って詳 しく見 てい く・ 3. 1 不公 平感 と情報 の結 びつ きか ら別姓 とい う選 択本調査対象者 が別姓 とい う選択肢 を意識す るきっか け とな る要 因は,性 別 に よって大 き く異 な る.女性 の場合 は不公 平感 で あ り,男性 の場合 はパー トナー か らの 申 し出で あ る. これ は野 々 山調査 とも共通す る結果 で ある. まず ,女性対象者 にお ける不公 平感 は,家庭 にお い て男女不平等 に扱 われ不満 が生 じた 経験 ( G ・H ・K8) ), あるいは家庭や 学校 で男女 平等 に扱 われ て きた ・男女平等意識 に触 れ た こ とに よって社会 で男女平等 に扱 われ ない こ と- の不満 が生 じた経験 ( A ・D ・F・G ・ Ⅰ・J ) ,そ して痴漢 な どの性 的被 害や 前パー トナー との結婚 ・婚約 とい った個別 的経 験 に よ って不満 が生 じた経 験 ( B ・F・H), とい う 3つ の経験 か ら来 る ものに大別 され ,それ らが 1つ ない しは複数組 み合 わ さって生 じている. ここでは,家庭 と学校 の経験が組 み合 わ さ ってい る G さん と,家庭 と結婚経験 ( 離婚)が組 み合 わ さってい る H さんの事例 を取 り上 げ る.なお,対象者 の語 りにお け る括弧 内は筆者 に よる補足 で ある ( 以 下, 同様 ). うちの親 も女 の子 は ど う頑 張 って も中学 くらい にな る と男 の子 に勉 強 も何 も勝 て な くな るか らってい う風 に言 われ ていて, そんな もん かな- つて思 ってた け ど,頑 張 っ た ら頑 張 ったな りに成果 で 出 る し,ダメなのは男が ,なん じゃな くて, 自分 が ダ メな んや って思 った ら,( 女 だか らダメ ってい うのは)あー ,- ツタ リや な とか思 って ・ -そ の辺 がや っぱ りす ごい反抗心 とい うか疑 問が あって,嫌 だな- って. ( G) 私 は両親 が典型 的 な 「 女 らしく」みたい に育 て る家庭 だ ったので, どち らか とい う と 「 なんで女だか らなの ?」 ってい うの を抱 えなが ら生 きて きたんです が,知識 と し て周 りを知 らな けれ ばそれ が 当た り前だ と思 って生 きてい るので-・ ・ ・ ・ 一番 本 当に違和 感 を覚 えたのは婚姻届 を書 いた ときだったんです よね.書 いた ときに彼 ( 前パ ー トナ ー)が 「 いい ?」 って聞か ないで 当た り前 の よ うに夫 の姓 の欄 にチ ェ ック した ときに 「え え, ど うして ?」 ってい うのか らち ょっ とした不満 が溜 まって .で も,そ れが 結 婚 しない とかい う風 にはな らな くて,「 ま あそ うだ よな 」 って感 じで.--役 所 に入 る お めで と うご ざい ます 」 ときは ( 生来 の姓 で あ る) H さん で入 って婚姻届 を 出 して 「 な り言 われ て役所 か ら出て きた瞬 間にす っ ごい嫌 な気持 ちになって 「 私 --・ 今 ,誰 ?」 み たいな.-・ -別姓 とか抜 きに違和感 だ ったんです よ.で,そのあ とに生活 を してい くと,免許証 とか全部変 えて,お まけに周 りか らは 「 何 とか さんなんで しょ ?」 なん て言 われ た りとか. --- ( H) -1 5 0- G さんは,家庭 において親 か ら 「 女 はダ メだ」 と言 われ続 けていた ものの,学校 で 自 ら の力で男子生徒 に負 けない成績 を残す こ とに よって,女 で あ るこ とを根 拠 に した親 の言葉 に対 して疑 問 を持 つ よ うにな る.H さん も G さん と同様 に,女で あるこ とを理 由に した親 の言動 に疑 問 を持 ってい る. この よ うな,女で あ るこ とを根拠 とした親 ・学校 ・社会 で の 待遇 に対す る不公 平感 は,全対象者 に多 かれ少 なかれ共通す るもので あ る. G さんや H さんが感 じた不公 平感 は,一度 は見過 ご され る ( 下線部).そ の後 ,何 度 も 同 じよ うな思い を経 験す るこ とに よって,不公 平感 は少 しずつ積み重 な り,強化 され てい く様子がわか る.Gさん の場合 であれ ば,継続 した親 の言動 と自分 の勉 強 の成果 を着 々 と 挙 げてい くこ との矛 盾 が生 じれ ば生 じるほ ど不公 平感 は増 してい く,H さん の場合 で あれ ば,婚姻届提 出直後 に感 じた,パー トナー の姓 を使 うこ とを強 い られ 自分 の生来 の姓 を否 定 され るこ と- の不満 が,不公 平感 とな って積 み重 な ってい く.なお,H さんが言 ってい る 「 別姓 とか抜 きに違和感 だ った 」 とい う発言 は,Ⅰさんの発 言 に も見 られ た. この よ う に,不公平感 を抜 きに して も,ただ姓 が変 わ る こ とが違和感 で ある とい う事例 も見 られ る. 一方 で,男性対象者 は,パー トナー の女性 か らの要 望 9) を受 けて初 めて別 姓 を意識 して いる ( Ⅰ '・G'・E). まあ,彼 女 と,や っぱ り今み たい に考 える以前 てい うのは,全然考 えなか ったん で す よ.だか ら,選択肢 として別 姓 とい う選択 が あ る こ と自体 が,なか った選択肢 なの で.そ うい う意 味では あ り得 なか った.私 自身 のなかか らは出て こなか った発墾 なの で. ( G' ) 基本 的 に男性 の場合 には,パー トナー か らの提案 が あるまでは,婚姻 時改姓 は基本 的 に女 性 がす るもので あ り,別姓 とい う選択肢 はなか った とい う事例 が ほ とん どで あ る.下線 部 にあるよ うに, 別 姓 とい う選択 が思 って も見ない こ とで ある こ とや驚 きが表現 され て い る. 事例 4, 1 1で も, 自分 の夫 が D さんや K さんの別 姓希望 を聞 くまで別 姓 を意識 して い な か った よ うだ との認 識 が見 られ た. これ は,野 々 山調査 で も同様 の結果 が 出てい る.本調 査対象者 は,事例 1と 2以外 は野 々 山調査後 にパ ー トナー 関係 とな ってお り,それ で も特 に若 い世代 で野 々 山調査 と同様 の結果 が得 られ た こ とは, あ る程度事実婚や夫婦別姓 が世 間に認知 され て もなお ,その選択 をす る こ とはまだ まだ身近 な ものでは ない こ とを示 して い る と考 え られ る. さて, この よ うなき っか け,す な わち不公 平感 やパ ー トナー か らの提案 だ けでは別 姓 に つ なが りは しない. きっか けが時代背景や それ が もた らす情報 と結 びつ いた ときに,初 め て別姓 とい う選択肢 が 出現す る.時代背景 は,男女雇 用機 会均等法以前 ・以 降 に社会 に 出 たか否 か とい う 2つ の世代 に分 け られ , ここに本研 究 にお け る新 たな知 見が見 られ る.男 女雇用機 会均等 法以前 に社会 に出た対象者 の特 徴 は,一部高学歴者 に限 られ た こ とで あ る 可能性 はあ るものの, ウーマ ン リブ運動 をは じめ とした, 旧来 の価値観 すべ て に疑 問 を呈 -1 51- す とい う時代背景 が非 常 に大 き く影 響 してい る とい うこ とで あ る ( A・B・C) .一方 で, 男女雇用機 会均等 法以 降に社会 に出た対象者 の特徴 は,1 990年 前後 の別 姓 の法制化 の盛 り 上が りに よる影 響 が大 きい こ とで あ る ( E ・G ・H ・Ⅰ ).均等法 は,今 日では 日常風景 とな った女子大生が就職 活動 を経 て就職 す るな ど女性 の生 き方 を徐 々 に変 え,均等法以前 には 一部 の者 に限 られ たで あろ う別 姓 とい う選択肢 を女性 に とって身近 な問題 とな りうる もの に した と言 えるだ ろ う. また,時代背 景 はメデ ィアか らの情報取得 の しやす さに も影響 を与 えてい る.本調査 対 象者 が別姓 を希望 した 当時 は,そ の多 くの場合 がまだ現在 ほ どイ ンター ネ ッ トが発 達 して いない状況 で あ り 10),現在 非 常 に有効 な手段 とな ってい る と言 えるイ ン ターネ ッ ト上 の当 事者 同士の交流や情報取得 の機 会 を持つ きっか けが非 常 に持 ちに くか った こ とが わか る. 現在 イ ンターネ ッ ト上 では,個 人 HPや掲示板 な どで 当事者 同士が別 姓 にまつ わ る多 くの 情報交換 を行 ってお り,実 際周 囲 に別姓 を実践 してい る人がいな くて も,簡単 に最 良 の手 段 を知 るこ とがで き,かつ,他 に も 自分 の よ うな希 望 を持つ人 間がい る と知 る こ とが で き る.つま り,現在 の よ うに世 間で大 き く夫婦別 姓 が取 り上 げ られ な くて も情報 を得 る こ と がで きるのであ る. そ して,情報 は単 に知識 としての効果 だ けを もた らす ものではない. 両親 は 「 あなたがおか しい」 って---誰 も味方 はい なか ったです ね ,その 当時 は. で, まだ別姓 の会 とか も私 は存在 もまだ知 らな くてひたす ら 「 誰 か助 けて,助 けて」 ってい ろんな とこを求 めていた ときに, 一度 ,福 島瑞穂 さん に何 か でア クシ ョン を起 こ した ら, あち らか ら連絡 を 1回下 さった こ とが あ って. ---そ の ときは ち ょっ と嬉 しか ったです ね.一人 で も分 か って くれ る人がい るって.1 0年 前 ,イ ンターネ ッ トは 私 はまだその とき始 めてなか ったので-- ・ 情報 として入 って くるの は本 か,た また ま マス コ ミや テ レビで取 り上 げ られ て. ( H) 女性 対象者 は情報 を得 るこ とで,周 囲に理解 され ないまま不公 平感 を抱 える 自分 はお か し いのではないだ ろ うか, とい う初期 の葛藤 が緩 和 され る ( H ・K). っ ま り,理解 して くれ る人や 自分 と同 じよ うな悩み を持 った人 がい る こ とを知 るこ とで孤独感 が緩 和 され 自己肯 定 しやす くな る, とい う効果 が あ る. さ らに,情報 は対象者やパ ー トナ ー ,周 囲の人 間 に とって,婚姻届 を出 さない こ とで法的 に保護 され ないのではないか とい う不安 を緩和 す る 大 きな助 けに もな る ( C・G・Ⅰ ). 以上,述べ てきた よ うに,女性 対 象者 の場合 には個 々人 の経験 が もた らす不公 平感 が , 男性 の場合 には女性 パー トナー か らの提案 が, 時代 背景 の もた らす情報 と結 びつ いて初 め て別 姓 とい う選択肢 が現れ る. この とき,男女 問わず本 調査 の どの対 象者 に とって も,「 改姓 は仕 事 上不便 で あ る」 とい う文 言 は,周 囲- の説得 に使 用 され るこ とが主 で あ り, きっか け とはな っていない. しか -1 5 2- し,次で述べ る,結婚 の意 思 を示す こ ととともに,仕事 上 の不便 さは周 囲- の説 明 と して 非 常に有効 な文言 とな ってい る.別姓- の きっか け として仕 事 上 の不便 さは主た る理 由 と な らないが,周 囲- の説 明におい ては不便 さに訴 えるこ とが分 か りやす い と対象者 は 自覚 してい る ( E・F・Ⅰ・J). これ には,後述す る,対象者 の 「 波風 を立てた くない」 とい う思 い も影 響 してい る と考 え られ る. 3. 2 結婚意識 か ら生 じる葛藤解 消 のた めの結婚 意 思 の呈示 本調査 の対象者 の特徴 として,男女 問わず結婚 して い る とい う意識 ( 結 婚意識 ) が挙 げ 結婚」 に位 置 づ け られ る. この こ とは,対 象選 定 の時点で,既 出の図 1の善積 の分類 で 「 られ る人 々を対象 としていた こ とか ら, 当然 の結 果 とも言 える. ここで重要 な こ とは ,彼 らの結婚意識 が,周 囲の 「 別姓 カ ップル は結婚 ・夫婦 ・家族 ではない」 とい う意識 との あ いだで葛藤 とな る とい うこ とで あ る.また,そ の葛藤 を緩 和 ・解消す るた めに,彼 らは結 婚意思 を示す た めの さま ざまな振 る舞 い をす る.そ の主 な もの として,何 らかの儀 式 に よ って周 囲-結婚意思 を示す こ とが挙 げ られ る.更 に,そ の よ うな振 る舞 いの重 要 な もの と して,名 の りの問題 が挙 げ られ る. これ について は次節 で言及す るもの とし,本節 で は儀 式 による周 囲- の結 婚意 思 の提示 についてのみ触れ る. 結婚意識 は,別姓 が非婚 とい う枠 のなかで捉 え られ た場合 には一見矛盾す る よ うに も見 える. しか し,野 々 山調査 で も婚姻届 を出 さない二大理 由の 1つが夫婦別姓 とな って いた よ うに, 婚姻届 を出 さない こ とが必ず しも結婚 の否 定 とい うこ とにはな らない.なか には, 別姓 さえ認 め られ るので あれ ば法律婚 を したい とい う声 もある.結婚意識 は,彼 らが 自分 た ちの形態 を ど う捉 えてい るか とい う点 に表れ る.そ の一つ に,本調査 の非 法律 婚者 で 自 分 たちの形態 を非婚 とした者 はい なか った とい うこ とが ある.そ もそ も本調査 の対 象者 は, 非婚 とい う言葉 につ いて 「 結婚 で はない」 とい う印象 を持 っていた とい うこ とを挙 げてお C・F・G ・ ・K). かねばな らない ( Ⅰ --・ ま あ結婚 てい うのは, この人 と生活を 共 に します ってい う実態 とまわ りにそれ が認 め られ て る こ とかな.そ うす る と,そ こまで満 た しちゃってた ら---それ で役 所 に届 け るってい うこ とは割 りと付 随的 な こ とかな ってい う風 な印象 を持 ってい て , し な くて も何 も困 って な くて, け ど,結婚 して るってい うのは割 りと認 めて も らえて, C) そ うい う状況 では,非婚 です とは ち ょっ と言 えな い かな ってい う- ( ここで C さんは, 自分 に とっての結婚 の条件 を,生活 実態 だ けではな く周 囲 にそれ が認 め られてい る こ とで あ る, としてい る ( 下線部).彼 らの結婚意識 は,自分 た ちの なか で結婚 意識 を持 っ ため以外 に,周 囲 に認 め られ るた めのステ ップ として何 らか の儀 式 を行 わせ る こ とにな る.何 を儀 式 とす るかは,カ ップル に よって異 な る.例 えば,結婚式 ,披 露 パ ー 妻 ( 未届 )」 の記載 ,住 宅 の テ ィ, 「 結婚 しま した- ガ キ」,住 民票- の 「 夫 ( 未 届)」 や 「 -1 5 3- 購入 , とい った ものがそれ ぞれ に挙 げ られ た . 結婚 の際 の儀 式以外 に も,彼 らは 日常的 に さま ざまな方法で,周 囲か ら結婚 ・夫婦 ・家 族 と見 られ るた めの振 る舞 い を してい る.それ は,親戚付 き合 いの場 に積極 的 に夫婦 で顔 を出す ,別 姓 で ある こ とを こ とさ らに強調 しない, とい うこ とが挙 げ られ る, この よ うな 彼 らの振 る舞 い は,周 囲の 「 別 姓 カ ップル は結婚 ・夫婦 ・家族 ではない」 とい う意識 と, 「自分 た ちは結婚 してい る」 とい う意識 のあいだの葛藤 を解 消す るた め,意識 的 に行 われ る場合 もあ る.また,彼 らのなか で,別 姓 あ るいは非法律婚 で ある こ とは周 囲か ら,扶養 義務や家族 ・親族 関係 を持 ちた くない, と見 られ る とい うこ とが意識 され てい る. 別 に扶養 した くない とか,親 の面倒 見 た くない とか,そ うい うつ も りで言 って るん じゃないんだ け ど,そ うい う風 に とられ ちゃ うかな,年配 の人 か ら見れ ばね,そ うな の.で もそ うい う意 味で言 って るん じゃ な くて,実質そ うい う関係 は,引 き受 けなき やい けない ものだ と思 って るんだ け ど,で も,そ うい う風 に誤解 され る. ( B) 自分達 は改姓 を望 まなか っただ けで,非 婚 とは思 っていない ので,「 籍 が違 うか ら家 族 ではない」 とか 「 夫 ( 妻) の家族 は家 族 ではない」 とは思 えなか った.む しろ互い の家族や 出身 を大事 に したい と考 えていたので,親 戚行事 には夫婦 そ ろって顔 を出 し, 「 娘婿 です 」 とか 「 嫁 です 」 と紹介 して もら うこ とを心が けた. ( Ⅰ ) 対象者 のなか には当初 か ら現在 まで一切親族 関係 を持 っていない者 もい る ものの ( A・ K), 多 くの対象者 は結婚 当初 か ら互 い の家族や親 族 との交流が ある. さて, ここまで家族 や親族 にまつ わ る葛藤 を主 に見 て きた. も う-つ触 れ てお かなけれ ばな らない葛藤 としては,婚外子 で ある こ とに よって法的 に不利 にな る こ とや差別 の不安 が挙 げ られ る.そ こには周 囲か らの圧 力 は もち ろん の こ と,対象者 自身 に も別 姓 に よる非 法律婚 の選択 に子 どもを 「 巻 き込みた くない」とい う意識 が見 える ( B・G・G'・H・J・J' ). 子 どもにまでは何 か影 響 を与 えた くない ってい うか,親 の都 合や ん か,別 姓 に した い ってい うのは,や か ら,子 どもも し産 まれ た ら,例 え籍入れ て な くて も子 どもが出 来 て産 む ときは ちゃん と籍入 れ よ うね ってい う話 は---私 は 自由で そ うい うのに した いだ けで, この子 は関係 ないか ら. ( ∫ ) ただ し,婚 外子 にまつ わ る法的 問題や 差別 の問題 は,ペーパー結婚 ・離婚 Il) をは じめ と したい くつか の方 法 で ク リアで き る こ とが既 に知 られ てい るた め,対象 者 に とっては一時 的に懸案事項 とな る ものの,継続 的かつ大 きな困難 とはなっていない, この よ うに,彼 らは別姓願 望 の一方 で結婚意識 を持 ってお り,自分 た ちは 「 普通 の夫婦」 であ り家族 で あ る, とい う思いが あ る.そ の こ とは,そ う見 られ るた めの振 る舞 いへ とっ -1 5 4- なが る.そ こでは, まず結婚 が前 面 に押 し出 され ,別姓 で あ るこ とが強調 され るこ とはむ しろ少 ない.例 えば,結婚式 で今後別姓 でい くこ とをはっき りと宣言 した とい う対象 者 は いなか った こ とが挙 げ られ る.そ こには, 目立つ こ とに よって波風 を立て る こ とを避 け る とい う意識 が見 える. しか し,別 姓 を してい く以上 , 日常 レベル にお いて何 らかの形 で 自 分 の姓 が何で あるか を主 張す る場 面 が往 々に して現れ る.次節 では,そ の よ うな名 の りの 問題 について述べ る. 3. 3 名の り 社会 の多 くの場面 にお いて,基本 的 には家族や親 子 で あるな らば姓 が 同 じで あろ うとい う前提 が何か しら付 いてまわ る.結婚意識 を持 つ対象者 た ちには,常 に, どこまで 自分 の 名 の りたい姓 を使用す るか とい う問題 が付 きま と う 12).それ は主 に子 どもの学校 関係 や 近 所づ きあい において顕著 に現れ る.子 どもと姓 の違 う対象者 は,保 育 園 ・幼稚 園 ・学校 と い った子 どもの関係 にお いて,子 ども と異 な る姓 で ある 自分 の姓 を使用 す るか,子 どもの 姓 を使用す るか, とい う問題 に直面す る. 同様 に,近 隣住 民 との付 き合 い において も,夫 婦 で使用 してい る姓 が異 な る と, どち らの姓 を使用す るのかが 問題 とな る. こ うして , 自 分 の姓 を名 の りたい思い と,親子 ・夫婦 ・家族 で あ る と見 られ たい思い の狭 間で葛藤 が生 じる. この よ うな名 の りの問題 にお ける葛藤 は,対 象者 に よって異 な る 13) 名 の りの行動 に関す る語 りで不満 が強調 され が ちな対象者 は,法律婚 で,特 に子 どもが 小 さい, あるいは働 いていない場合 で ある.彼 らは,戸籍名 しか使 用 で きない場 面 が圧 倒 的 に多 く 14),生来 の姓 を使用 で きる場面がほ とん どない と言 っていい.その こ とか ら,坐 来 の姓 を名 の りたい とい う願 望や 戸籍名 - の抵 抗感 が強 く,名 の りたい姓 ( 生来 の姓 ) を 主張す る傾 向があ る.そ の一方 で,自分 はパー トナ ー に 「 養 って も らってい る」身 で あ り, 法律婚 のメ リッ トを享受 しなが ら自分 の名 の りたい姓 を主張す るこ とは 「 わがままで あ る」, あるいは法律 で認 め られ てい ない姓 を主張す る こ とは 「 心 も とない」,とい う葛藤 を抱 える D ・H ・J).以下 に示 した D さんの語 りには,イ ンタ ビュー直前 に携 帯 会社 こ ともある ( との契約 で店員 に話 が通 じず 苦労 した とい うエ ピソー ドや ,以前 に周 囲 の人た ちに言 われ た言葉 ,税金や扶養 に絡 めて,法律婚 で生来 の姓 を主張す る上 での葛藤 が表れ てい る. 私た ちの場合 だ と戸籍 が一応 一緒 にな ってて,だ け ど,契約す る名 前 は別 々 に した い よってい うわが ままな話 を しよ うとす る と, ち ょっ と話 が ぐる ぐるす る じゃない . ・ --見方 に よって は 自分勝手 なんで しょ うけ どね.意外 とそ う言 われ るこ とあ ります よ一.-- 「 それ って 自分勝 手 って言 われ て も しょ うが ない」みた いな.---私 た ち の場合 は大 きか った わね ,税 金 が.ず るい と言 われれ ばず るいんだ け どね.・ -- ( パ ー トナー が改姓す る とい う選択肢 はない ? との質 問 に対 して)選択肢 にない とい うか, 現実問題 として,私 が養 って も らって る,夫 に養 って も らって るので,てい うのが あ D) るんです ね. ( -1 55- 彼 らの語 りには,姓 の持 つ個人 としての側 面 が表れ る.一方 で,比較 的名 の りを柔軟 に行 ってい る対象者 は,個 人 としての側 面 について既 にあ る程度欲 求 が満 た され て い るこ とか ら,敢 えて 自分 が名 の りたい姓 を主張す る必 要 もな く,む しろそ の語 りには姓 の持 つ家族 としての側 面が表れ る. 比較 的名 の りを柔軟 に行 ってい る対象者 は,非 法律婚 で あれ ば法的 に認 め られ た姓 を使 用 してい る とい う 「自信 」や ,非 法律婚 で も法律婚 で も 日常生活 の主 た る部分 で 自分 の使 用 したい姓 を使 うこ とがで きてい る とい うあ る程度 の 「 満足感 」 か ら,名 の りの行動 に関 す る語 りで不満 を強調す るこ とは少 な く,そ の場 に応 じて姓 の使 い分 けを柔軟 に行 ってい る ( C・E・F・G). 人間的な関係 で言 えば多分普通 のお姑 さん と嫁 の関係 よ りいいん じゃないかな って くらい.何 かね,不思議 なんだ けれ ども名 前 を,私 とダ ンナ は名字 が違 うけれ ども手 紙 を書 くときは も う私 もフ ァース トネー ム しか書か ない し, 向 こ うもフ ァー ス トネー ム しか書 かない.・ ・ --本 当は名 前違 うんだ けれ ども,親 との関係 とか にお いては 同 じ 名 前 に して るみ たい な--・ 一応 向 こ うの気持 ちは尊重 して, (自分 た ちは夫 婦 として) 一体 的 にな って るん です よって こ とを示 した くて. F ( 生来 の姓 ) って名 前 を出 さな い.( F) 私 の場合 は普段ず っ と自分 の名 前 で 自分 としてや ってい るので, 保 育 園 に行 った ら, 私 は この子 のお母 さん ってい う立場 で この場 にいます って思 うので,全然 息子 ( 息子 は夫 の姓 で ある.)とか夫 の名字 で呼ばれ て も抵抗 ない し,保 育 園関係名 の る ときは息 子 の名 字名 の るのが 当然 だ と思 うんで, そ う名 の って るんで,そ こに抵抗感 はないで す ね. ( G) また,姓 の使 い分 けをす る ・しない に関わ らず ,対象者 の語 りか らは,姓 が異 な る こ と で家族 の一体感 が損 なわれ るので はないか,外 か ら見 た ときに家族 としてわか りに くいの ではないか , とい う家族 意識 と別 姓 のあいだ での葛藤 が見 えて くる ( B ・F・G ・G'・H). 多 くの場合 ,その よ うな不安 は実 際 に子 どもが産 まれ て生活 してい くなかで緩 和 され てい くよ うで ある. しか し,成長 した子 どもか ら 「 なぜ 家族 で姓 が違 うの ?」 とい う問いか け が あるこ ともある.B さんの子 どもは, き ょ うだいで姓 が異 な る. 子 どもだ って,娘 は この ごろなんか,そ うい うこ と興 味が あって, い ろい ろ質 問 し た りす るけ ど,男 の子 のほ うは,や っぱ嫌 だ って言 った りす る.なんで 自分 とは, ど うして名 字 が違 うの とかね. 同 じ小学校 行 ってん の に, 同 じき ょ うだい なの に, 両親 も同 じなのにって. ( B) -1 56- 他 の対象者 も,子 ども- の影 響 について完 全 な る 自信 を持 ってい るはい ない こ とを述 べ て お り,成長 してい く過程 で子 どもか らどの よ うな反 応 が あるのか, とい う点で は再び葛藤 を抱 える可能性 が あ る.本調査対象者 の多 くは子 どもの年齢 が低 い こ ともあ り,子 どもの 成長過程 での別 姓 に対す る反発や受容 について詳細 を把握 で きていない . これ は今後 の課 題 とす る. 本調査 において,B さん の よ うにき ょ うだいで姓 が異 な る事例 は他 に見 られ なか った . 他 の対象者 は,親 子 で姓 が異 な る こ とは良 しとして も, き ょ うだいで姓 が異 な る こ とには 抵抗 が ある とい うこ とで, き ょ うだいで の姓 は統一 していた. また,父親 で あ るパ ー トナ ーか らの 「自分 とのつ なが りを形 として見たい」 とい った 申 し出, あるいは対象者 自身 の パー トナー に父親 の 自覚 を持 たせ たい とい う意 図,親族 に よる希望等 に よ り,子 どもの姓 はパー トナー の姓 に してい る事例 が ほ とん どで あった ( A ・C・G ・G'・ H) . 以上,名 の りを通 した語 りか らは次 の こ とが明 らか になった.対象者 は,結婚意識 を示 す ために場や 状況 に応 じて ど う名 の り自分 の立場 を表 明す るか を操作 してい る. そ して, そ の操作か ら彼 らが ,姓 に対 して個人 としての側 面 と家族 としての側 面 とい う視 点で捉 え てい るこ とが わか る.また ,姓 の使 い分 けをす る ・しない に関わ らず対象者 の語 りか らは, 一時的な関係 の相 手 に 自分 が ど う呼ばれ るか につい ては問わない こ とにす る とい う姿勢 が 見 られ る. もっ とも, この一時的 な関係 の相手 を どの程度 の関係 として扱 うのかは,対象 者 に よって異 な る.いずれ にせ よ,対象者 は 自分 の生活 に関わ る相手 で あれ ばあ るほ ど, その相手 に対 して 自 らの希 望す る呼び方 を求 め る傾 向にある ( D ・E ・J). 4 考察 本研究では,次 の こ とが 明 らか になった. 1 .彼 らには一般 的 な結婚意識 が あるのに も関わ らず ,周 囲の人 々に夫 婦や家族 と見 られ に くい状況 に不安や葛藤 を抱 いてい る. 2.彼 らはそ うした不安や葛藤 を緩和 あるい は解 消 す るた め振 る舞 い を行 ってい る. 3.その振 る舞 い には主 に 3つ あ り,周 囲の人 々- の結婚意思 の呈示 を行 う,別 姓 で あ る こ とを強調 しない,場 や状況 に応 じて名 の り方 を変 え る, とい うもので あ る. 4. 1 形態 にお ける多様性 と意識 ・実態 にお け る不変性 別姓 とい う選択肢- と導 く情報 は,単 な る問題解 決 の道具 とい う役 割 だ けで はない.別 姓 で結婚 をす る とい う選択 は,身近 な ところにそのモデル とな る人 々が い ない こ とが多 い. 情報がない とい う状 態 は,不安 を抱 える とい うだ けでな く,別 姓 で結婚 をす る青写真 を描 けない こ とを意 味 し,孤独感 が生 じるこ ともあ る.情報 を求 めて,本 ,イ ンターネ ッ ト, その他 メデ ィアな どを通 じて 自分 と同 じ問題 に直面す る人 々 とつ なが りを持 っ こ とは, 同 一1 5 7- 時に別姓 を選択 して の結婚 につ い て の青写真 を思 い描 き, 自分 な りの夫 婦観 ・家族観 を作 り上げ る一助 に もな る. 善積 は,野 々 山調査 の考察 にお いて,特 に疑 問や 問題 もな く婚姻届 を出す カ ップル の あ いだで は,暗黙 の うちにカ ップル の あいだで結婚観 の合意 が為 され てい る と捉 える こ とが できるのではないか, と示唆す る ( 善積 1 995:11 1 ).本調査 で は,別 姓 を選択 ・実現 し, 現状 は ど うで あるか を聞 き取 るなかで次 の よ うなプ ロセ スが見 られ た. まず ,別姓 とい う 希望が表 明 され たカ ップル のあい だでは,まず ,暗黙 の うちに合意 され るはず の結婚観 が 揺 らぐこ とにな る.次 に,具体 的 に ど う生活 してい くのか とい う話 し合 いのなかで 自分 た ちな りの結婚観 を作 り上 げて合意 形成 が為 され ,最 終的 には, 自分 た ちが普通 の夫婦 ・家 族 で ある とい うところに行 き着 く.そ こには,一度 は 「 人 とは違 う」 とい う意識 を持 つ も のの,再び 「 人 と同 じなのだ 」 とい う結論 に至 る対象者 の姿 が見 える. ただ し, リブ運動 で既 に互い に別姓 とい う合意形成 が され ていた事例 につ いては,これ に限 らない .男女 15) 雇用機 会均等法以前 ・以後 の 2つ の世代 では,時代 背景が異 な り,それ に よって合意形成 の点で も違 いが見 られ た. 本調査 では子 どもの人数 の違 い に よる特有 の何 かは見 られ なか った. だが,子 どもの有 無 に よる違 いは見 られ た.子 どものいない対象者 は子 ども- の影 響 に不安や葛藤 が あ り, 子 どものい る対象者 は,家族 として生活 してい る とい う実態 が全 てで あ り,別姓特有 の何 かは見 られ なか った. もちろん,対象者 が筆者 に対 して意識 的 に 自分 た ちを普通 の夫婦 ・ 家族 に見せ よ うとした結果 で ある可能性 はあ る. あ るいは 「 3結果 」 で見 て きた よ うに, そ もそ も結婚意識 が あ る とい う特 徴 を持つ こ とか ら,特別 な何 かが見 られ なか った こ とは 当然 なのか も しれ ない.また,男 女平等意識 を持 ちなが らもそれ を実現 で きない とい うと ころに葛藤 を抱 える対象者 がいた が,それ は別 姓 で あるか らこそ とは決 して言 えないだ ろ う.そ して,調査方 法 として半構 造化 面接 を採 用 したた めに,質 問項 目や質 問の仕方 に よ って この よ うな普通 の夫婦 ・家族 とい う面が強調 され た可能性 につ いて も留意す る必 要が ある. 若者 の非婚 ・晩婚化 がたびたび取 り上 げ られ るが,そ の多 くは結婚願 望 がない とい うわ けではない よ うだ ( 国立社会保 障 ・人 口問題研 究所 2005).結婚願 望が あ る とい うこ とは, そ こには必ず結婚 ・夫婦 ・家族 とい うものに対す る何 らかのイ メー ジが あるはず で あ る. 果 た してそ のイ メー ジまで もが大 き く変 わって きた と言 えるのだ ろ うか . 同様 に,少 な く とも現代 の 日本社会 にお いて家族 と して暮 らしてい く上で,形 態 として は従来 の価値観 と 異 なっていて も,家族観 まで もが従来 の ものか らか け離れ てい る人 とい うのは考 え られ て い る以上 に少 な く, それ ゆえに本稿 で見 て きた よ うな多 くの葛 藤 が あ るのではないだ ろ う か・本調査 か らは,結婚- のステ ップは従来 とは異 な るものの,家族 と しての生活 が多様 化 してい る とは言 えない実態 が明 らか になった. メデ ィアでは家族 の多様化 が言 われ てい るものの,それ は形 態 としての多様化 で あ り,そ の実態や価値観 が本 当に多様 になってい るのか ど うか につ いては大 い に疑 問の余 地が あ る.一 口に多様化 と言 って も,そ のなか に -1 58- は変化 してい るもの と変 わ らない ものが混在 してい る と考 え られ ,そ こに注 目す る必 要 が ある. 4. 2 今後 の課題 本稿 では,別姓 を実践 してい るカ ップル とい う,姓 に深 く関わ る対象 を取 り上 げた こ と で,対象者 の語 りのなか に名 の りにまつわ るものが多 く見 られ た.対象者 が場 と状況 に応 じて名 の りを変 える とい う行為 には,既知 の さま ざまな知見 との結びつ きが考 え られ る. 彼 らの名 の りには,場 に よっては別姓 を強調 しない とい う行為 ,例 えば親族 関係 で は姓 を主張せず名 前のみ で通す こ とも含 まれ てい る.それ は, ゴフマ ンのパ ッシングや 自己呈 示 に通ず るもので あ る ( Go fma n1 95 9 -1 97 4 ;1 96 3 -1 97 0 ).彼 らは, 自分 たちが 「 普通 」 の カ ップル と同様 で 自分 た ちは結婚 ・夫婦 ・家族 なので ある と強調す るこ とに よって,別 姓 で あるこ とで 「目立 っ 」 こ と,い わば逸脱祝 され る こ とを回避 してい るので あ る. また,名 の りには役 割性 が ある と言 える.子 ども と姓 の異 な る対象者 は,子 どもの学校 関係 において子 どもの姓 を名 の る こ とで親役割 を意識 していた り,その他 に も親 族 の集 ま る場,会社 な ど,状況 に応 じて今 自分 は ど うい う役 割 にあ るのか とい うこ とを意識 して い る事例が見 られ た. この こ とか ら,一人 の人 間が さま ざまな場面 に応 じて さま ざまな名 の りをす るこ とは,名 の りの もつ役 割性や その人 の個 としての多面性 を表 してい る とも言 え る.個 としての多面性 につ いては,アイデ ンテ ィテ ィ とい う言葉 を用 いて更 な る議 論 が可 能 であろ う. そ もそ も,本稿 にお いて は 「 なぜ名 前が変 わ るのが嫌 なのか ?」 とい う素朴 な疑 問が残 る1 ・実際 に現パ ー トナーや そ の家族 との交流 を通 して,イエ制度や 男女 不平等 に扱 われ る こ と-の防波堤 は必 要 な さそ うだ とい うこ とを実感 し, 「 改姓 して も何 も問題 はない のか も しれ ない」 とい った発 言 が あった ものの,や は り名 前 が変 わ るこ とが嫌 だ と言 う対象者 が いた.入院の際 に戸籍名 で呼 ばれ るこ と- の嫌 悪感 や 違和感 は ど うして もぬ ぐえない と言 う.それ は単 に慣 れ の問題 で ある可能性 はある もの の,慣れ るにせ よ慣 れ ない にせ よ, 自 分 が何者 で あるか とい う認識 を常 に変化 させ なが ら 日常生活 を送 ってい るその仕組 み を解 明す る必要 があ る.それ に関連 して,記号論や ペル ソナ,一時期盛 んで あった 固有名 論 に 対す る出 口 ( 1 9 9 5) の反論 とい った,名 前 は固有名 で あ るか否 か とい う論争 につい て も検 討課題 とした上で,それ らを用 いた さま ざまな場 面 にお ける名 の りにつ いての更 な る考 察 を今後 の課題 とす る. [ 注釈] 1 )主 には結婚年数 を指 す が,一部対象者 には非 常 に緩や か に現在 の形態 -移行 したた め, 結婚年数 はは っき りしない とい う者 もいたた め, この よ うな表記 を用い た, 2)対象や年齢 の区切 りが異 な るた め参考ではあ るが,野 々 山調査 にお ける 4 5歳 以 上 の対 -1 59 - 象者 は 8 . 1 % と圧倒 的に少 な く,若 い世代 が多 い ( 野々山 1 9 95: 31). 3) 先行研 究 では,会 に入 ってい る こ とを家族 に内緒 に してお り,周 囲 の誰 に も 自分 の希 望 は表 明 した こ とが ない, とい う事例 もある,本調査 で も,過 去 にパー トナーや家族 に全 く理解 がなか った ときには, 別姓 の話 は一切 で きなか った とい う事例 が あった. 4) ただ し,機材 の不具合 に よ り一部録音 を行 っていない ケー ス もある.録音 が 出来 なか ったケース につ いて はメモ にて代 用 した . 5) 「えー と」 「 あの-」 な どを常用 す る とい った対象者 の癖 は削除 した. 6) 本稿 で は 1つ の事例 に しか見 られ なか った見 出 しは採 用 してお らず ,それ については 紙 幅 の関係上 ,他 の機 会 に譲 る こ とを断 ってお く. 7)対象や年齢 の区切 りが異 な るた めあ くまで参考 であるが,野 々山調査 にお け る 45歳以 上 の対象者 は 8 . 1 % と圧倒 的 に少 な く,若 い世代 が多い ( 野 々山 1 9 95: 31). 8)A∼K は対 象者 の名前で あ り,表 1に対応 してい る. 9) それ は必ず しも別姓 の提案 ばか りで はない.E さんの場合 には,パ ー トナ二 か ら自分 のイエ-婿養 子 に入 って ほ しい とい う要望 を受 けて,男性 で ある E さんの側 か ら別姓 とい う選択肢 を提示 した. 1 0)総務省 情報通信統計デー タベ ー ス ht t p: 〟www. j ohot s us i nt oke i . s oumu. go. j p 伯e l d/ t s uus hi nOl . ht ml「 イ ン ターネ ッ ト普及 率 の推移 ( 出典 「 通信利用動 向調査」)」に よる と 世帯 のイ ン ターネ ッ ト普及 率 は平成 9年末 で 6 . 4%,平成 1 7年末 で 8 7. 0%で あ り,辛 2年 の 3 4. 0%か ら平成 1 3年 の 60. 5%- と急激 に普及率 が伸びてい る. 成 1 l l ) 基本 的 には非法律婚状態 で生活す るが, 出産な ど必要 に応 じて一時的 に婚 姻届 を出 し て法律婚 とな るこ とが ある.必 要 が な くなれ ば,例 えば出産 が終 わった ら,今度 は離 婚届 を出 して,非法律婚 とな る.法律婚 の場合 に も,必要 に応 じてその逆 を行 うこ と にな る.実態 としてパー トナー 関係 を解 消 してい るわ けで はな く, あ くまで書類上で とい う意 味で あ る. 1 2) 日常 にお ける名 の りの問題 とは別 に,結局 戸籍名 を使 用す る場面 の ほ うが多 い とい う ス トレス もあ る.詳 しくは吉井 ( 20 08 ) を参照 . 1 3) もちろん,そ もそ も特 に名 の りに困 るこ とはない とい う者 もい る ( B・G'・Ⅰ・Ⅰ '・J'. K).彼 らは,子 どもがない ・子 ども と姓 が 同 じ ・パー トナー と一緒 に行動す るこ とが ない とい った こ とか ら,名 の りに迷 うよ うな場 面 に遭遇す るこ とがない. 1 4)子 どもが小 さい うちは戸籍名 で の署名 を必 要 とす る公 的書類 との関 わ りが多 く,保 険 証 の都 合 に よ り病院 な どで戸籍名 を呼 ばれ るこ とも多 い と言 う ( ∫ ). 15)本調査 対 象者 の リブ世代 で あ る A は, 「改 まって話 した こ とはない け ど, こ うや ろ う ってい うこ とでや ってきたか ら, ほん と,賛成 だ った と思い ます ね .なんか, あの と き不思議 と,そ う大議論 した り,大 きな喧 嘩 を しな くて も,お互 い に合意で きた よね. どこ も, どのカ ップル もほ とん どそ うだ った と思 うんです け ど, なんかそ うい う時代 だ った んです よね.」と,リブ世 代 で あったた めに暗黙 の うちに別 姓 の合意 がな され て -1 60- いた こ とを示唆 してい る. [ 文献] 995,『フランス家族事情浅野素女 , 1 男 と女 と子 どもの風景』岩波 新書, 995,『名 前 のアル ケオ ロジー』紀伊 国屋 書店. 出 口額 , 1 ,2006,「 名 前 と人格 の系 譜学- マ/ レセル ・モー ス再読」上野和男 ・森謙 二編 『名 名 づ けの家族史』 シ リーズ比較家 族第 Ⅱ期 3,早稲 田大学 出版部. 前 と社会- 福 島瑞穂 , 1 992,『結婚 と家族- 新 しい関係 に向 けて』岩波新 書. Gof f ma n,Er vi ng,1 959,7 hepr e s e nt at i ono fs el fi ne vefyda yl l fe, Doubl e da y& Compa l l y (-1 974, 石 黒毅訳 『行為 と演技 :日常 生活 にお け る 自己呈示』誠 信書房 . ) 1 96 3,ST I Gn4A:Not e son t hemana ge me nto fs poi l e di de nt i O/ ,Pr e nt i c e Ha ,I nc. ll Engl e woodCl i f, N. J.( -1 970,石 黒毅訳 『ステ ィグマ の社会学S 傷つ け られたアイ デ ンテ ィテ ィー』)せ りか書房 .) 原 ひ ろ子 , 2001,『家族論』財 団法 人放送 大学教育振興会 . 井 戸 田博 史 ,2004,『夫婦 の氏 を考 える』 世界思想 社. 第 1 3回 出生動 向基本調査 国立社会保 障 ・人 口問題研 究所 ,2005, 「 全 国調 査 結婚 と出産 に関す る 独身者調査 」 草柳 千早 ,2000,「 「 社会 問題 」 とい う経験 夫婦 の姓 をめ ぐって」好井裕 明 ・桜井厚編 『フ ィー ′ レドワー クの経験』せ りか書房 . 990,『事実婚 の現代 的課題 』 日本評論 社 . 二宮周平 , 1 995,『高度技術社会 にお ける家族 の ライ フス タイル につ いて の実証的研究』 野 々山久也編 ,1 平成 6年度科学研 究費補助金 重点領 域研 究 「 高度技術社会 のパー スペ クテ ィブ」研 究 成果報告 書 . 岡 田光世 , 2000,『ア メ リカの家族』岩 波新書 . 995, 「 第 Ⅰ部 善積京子 ,1 査結果 の分析 研 究 目的 と調 査結果 第 3章 第 2章 男女別集 計 の結果 」 「 第 Ⅱ部 調 非法律婚 の認識 と選択動機 」野 々 山久也編 ,『高度技術社会 に お け る家族 の ライ フス タイル につ いての実証 的研 究』平成 6年 度科学研 究費補助金重 点領 域研 究 「 高度技術社会 のパー スペ クテ ィブ」研 究成果報告書 . 女性 労働者 の職場 にお け る旧姓使用 の実態吉井美奈子 ,2008,「 企 業 向け調査 と女性 労 『家政学研 究』奈 良女子大学家政学会 ,55( 1 ) : 2333. 働者 - のイ ン タビュー調査 よ り」 [ 付記] 本稿 は,筆者 の 2006年度修 士論 文 『婚姻 時改姓 にお ける葛藤 とカ ップル 形態 の選択決 定 11 61- ∼イ ンタ ビュー分析 を手 がか りに∼ 』( 2007) のた めに収集 したデー タに新 たな分析 を加 え, 再構成 した もので あ る. ( き くち けい こ 奈 良女子大学 大学院人 間文化研 究科博 士後期 課程 ) -1 6 21 Conflict and Behavior Involving the Selection of Dual Surnames When Getting Married KIKUCHI Keiko B. Abstract In Japan, in order to get married legally, it is necessary to resister the marriage in the wife's or husband's surname. When changing the surname upon marriage, there are people who have a feeling of resistance from an aspect of inconvenience at work or their identity. Such people do not wish to change their surname, and opt for the dual-surnames. However, they cannot receive legal protection given as a couple or a family when they use dual surnames andchoose de-facto marriage. In addition, people's reaction is generally negative towards not giving the registration of a marriage even when they marry. By this research, I clarify that the practitioners of dual-surnames who have faced such legal and social restrictions have hoped for dual surnames in what process, how to over come this, held what conflict by the process, and how to behave in order to ease or to cancel the conflict. As a method, an interview was conducted to 14 people who chose dual surnames. I analyzed their narrative of what conflict arises when adopting dual surnames, and how to practise it by easing or cancelling the trouble. As a result, the following was clarified. --Uneasiness and the conflict are felt easily in being in the situation of not thought to be a married couple and a family by surrounding people though they have usual marriage consciousness. --Married couples behave in order to ease or cancel such uneasiness and conflict. --There are chiefly three points in the behavior; the marriage intention is presented to surrounding people, they do not emphasize having dual surnames, how to introduce oneself is changed according to the place and the situation. (Keywords: dual surnames, family name, behavior, marriage, changing name) - 163-