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平成 23 年度第 2 学期入学式(H23.8.29) 新入生の皆さん、筑波大学へ
平成 23 年度第 2 学期入学式(H23.8.29) 新入生の皆さん、筑波大学へ入学おめでとうございます。教職員一同、皆さんを心より歓 迎し、お祝い申し上げます。また、ご両親をはじめとするご家族の皆さん、関係者の方々 にも心よりお祝いを申し上げます。 筑波大学の特徴、伝統は、大きく 7 つあると考えています。第1は、新構想大学として日 本の大学改革を先導するあらゆる意味で開かれた大学であるということを誇りに感じてい ます。従来の講座制の大学と異なり、学生の視点に立ちながら、質の高い教育・研究を通 じて先端的・独創的な知を創出し、視野の広い個性豊かな人材を育成することを使命とし ています。第 2 は、社会のニーズに対応して、新しい学問領域の創生を積極的に進めよう と務め、数々の研究成果を挙げるとともに国際的研究・教育拠点としての高い評価を得て います。ノーベル賞受賞者の朝永振一郎博士、江崎玲於奈博士、白川英樹博士の 3 氏が本 学関係者です。第 3 は多様な学問領域を持つことです。体育、芸術、社会人大学院を含み、 多様な価値観を尊重し、多様な領域を学習しやすい構造になっています。第4は、多数の 研究機関が集積する研究学園都市に位置していることです。つくばの膨大な知の集積は、 国際的にもよく知られており、本学は研究諸機関との連携を通じて、質の高い人材育成や 研究を実現しています。第 5 は、前身校である東京高等師範学校、東京教育大学以来、伝 統的に国際性を重視してきました。世界各国から多様な学生が集い、本学はグローバル 30 の拠点校として、国際色豊かな大学として国際性の日常化を推進しています。第 6 は、11 の附属学校を持っていることに象徴されるように、前身校以来、教員養成のみならず教育 機能はあらゆる分野で本学の伝統的強みとなっています。最後に、何よりも、美しい自然 に囲まれていることです。この 40 年の間に育った緑深いキャンパスはわが国の大学ではと りわけ美しく、自然にあふれています。私たちは未来の環境都市をめざしています。 さて、本年は特別な年になりました。ご承知のように、私たちは 3 月 11 日に東日本大震災 という未曾有の災害に見舞われ、地震、津波、原発などの被害の大きさは、まさに戦争被 害に匹敵する国難、非常時という状況です。被災地では多くの人が犠牲となりました。最 後まで職務を遂行する努力を続けて,生命を失った人たちが大勢いらっしゃることを私た ちは忘れることはできません。残念ながら、被災地の復興も迅速に進んでいる状況ではあ りませんが、この間、日本人の素晴らしい国民性を世界と共有することはできました。こ れは皆さんも誇りに感じていることと思います。一方で日本の弱点も見え始めています。 この弱点を克服する道を、今だからはっきりさせ、解決しなければならない私たちの目標 の一つとして、皆さんにはしっかりと認識してもらいたいと思います。皆さんの若い力と 大学の叡智を持って、より風通しの良い、多様な価値観を真に尊重するフラットな市民社 会、平和な活力ある成熟社会を形成する責任があるからです。私たちはこれから新しい復 興の時代、戦後復興に続く 2 度目の国家規模の復興を主体的に成し遂げなければなりませ ん。何年後かに奇跡の復興と呼ばれるような未来を創造するために、筑波大生は人一倍学 び、国難に立ち向かう準備をする必要があります。未来志向や挑戦は筑波大学の伝統です。 多くの negative な条件が私たちの行く手をふさぐことになるかもしれませんが、くじけず、 挑戦しながら前に進むべきです。時には前例のない柔軟な判断、リスクテークも必要にな りますが、それも必ず新たな発展への大事な挑戦や経験になります。1 人 1 人がお互いに助 け合い、支えながら、対応力、チームワークを発揮して、この難局をともに克服したいと 思います。私たちは各々の役割を着実に果たすことにより、被災地の復興を応援し、本学 は日本再生のフロントランナーを務めることができるように精一杯国難に立ち向かいたい と思います。私たちは逆境に強い日本人、心優しい日本人として困難を克服し、被災され た人々を支援し、社会と連帯して、美しい日本、活力のある日本の再生という大きな目標 を実現したいと思います。震災後の新しい時代では、迅速で柔軟な意思決定に際して、前 向きに挑戦し、リスクテークすることがしばしば必要になります。新しい社会作りには、 皆さんがリスクテークしやすい環境整備も大変に重要ですし、その為に、リスクをとるの みならず、リスクテーカーを前向きに支援することも私たちは心掛けなければなりません。 本学は挑戦者、リスクテーカーを育成し、リスクテーカーのみならずリスクテーカーを支 援するフラットで開かれた拠点でありたいと思っています。失敗や変化を恐れずに新しい 世界に挑戦し、挑戦する中から学び、感謝し、問題を解決し、未来を開拓してください。 社会はグローバル化し、皆さんにはグローバルに活躍することが期待されています。IT の 普及や交通の発達によるグローバル化は猛烈なスピードで進行していることも、時代の大 きな特徴です。スピード感を強く認識して、対応力を発揮することも求められています。 しかし、世界中で多くの場面で変革が求められている時代にもかかわらず、変革は思うよ うに進まない現状に直面しています。多くの課題が、残念ながら個別の利害調整のために 身動きが取れないという人間社会の限界を示しています。少なくともリスクテークをしな いことによる停滞を避けなければなりません。是非、大局を俯瞰して、本質を洞察し、進 んで局面の打開、解決に果敢に挑戦してください。変化を求められている成熟社会は、従 前に比較すると、見通しの利かない社会であり、わかりやすい用意された解答はありませ ん。解答はすぐには見つかりませんが、自らを見つめなおすこと、自らの殻を大胆に破る ことにより、自ら変化を示し、一歩踏み出すべきです。そこから、予想以上に必ず新しい 展開、より大きな考え方や創造的な展開が芽生える可能性があります。そして、周囲の共 感やサポートも大きくなり、視野が拡がり、将来のシナリオが見え始め、変化への対応力 が発揮されることがしばしばあります。これからの成熟社会では利害、対立を超えた多様 な価値観や異論、反論の尊重、内発的な自律性の強化、柔軟な意思決定や合意形成ととも に、説明責任と情報公開が新しい付加価値の創造につながります。そして私たちがチャレ ンジする課題は変化のめまぐるしい時代の地球レベルの問題ですから、世界の人たちの考 え方やスタンダード、生活、文化を知ること、世界の人たちと国境を越えて情報や想いを 共有し、連携することが、世界的な課題を解決する基本であることを強調したいと思いま す。私は留学で多くのことを学びましたが、失敗を恐れることなく、前向きに新たな気持 ちで創造することを尊重している自律的環境や、若者を応援する環境や仕組みを体験でき ました。皆さんも必ず海外へ出てみてください。 世界史的に大学の歴史を振り返りますと、人類の創造的活動の発展には、何よりも社会全 般のゆとりが必要でした。農業、牧畜に始まる人類社会の生産活動の進歩は、徐々に社会 のゆとりをもたらし、若者たちはその若いエネルギーを知的探求に向けることができるよ うになりました。そして約900年前頃から、若者の知的創造力が発揮される場である大 学が、学生の自治組織として中世のヨーロッパ各地で次々と創設され、ボローニャ、パリ、 ケンブリッジ、オクスフォードなどが歴史を刻み始めました。その後の大学の発展により、 社会の近代化は格段と加速し、大学は社会の活力や国造りの源泉、社会の心としての機能 を発揮するようになりました。今日の知的社会や科学技術の進歩の基礎が大学を中心に形 成され、産業革命や IT 革命、生産性の向上、市民社会の成熟やグローバル化につながりま す。皆さんは多くの可能性を秘めて、大学でこれからの人生を準備することになります。 私は筑波大学の校風は自由で、のびのびとしていて、権威主義的ではないと感じています。 新しいことに関心を持ち、開拓していくフロンティア精神に富んでいるともいえます。元 来、大学では教員と学生の対話が重視されてきたという長い歴史があります。大学生活の 中で皆さんが抱いた関心や疑問を躊躇せずに自主性を発揮して、先生や先輩にぶつけてく ださい。私たちは IMAGINE THE FUTURE をスローガンとしていますが、教員や友達と 対話し、議論することが皆さんの考える力や表現力、想像力を育てることになるでしょう。 表現力や想像力が育てば、学び、考えていることを十分に発信し、リーダーシップを発揮 しながら、質の高い交流やフラットな良いチームワークも可能になります。自主性やフラ ットなチームワークの尊重は、多様な困難な課題を抱えるこれからの成熟社会を成長させ る大事な基盤となります。物事の本質を見極め、じっくりと考えながら、筑波大生として の個性を確立してください。そのためにも、自分の目指す領域のみならず、幅広い領域に も是非、関心を持って教養を深めてください。幅広い教養は知識を広げるのみならず、健 全な意欲や柔軟な思考、思いやりに富む、品格のある社会人の基本になります。このよう に大学は、皆さんの知的好奇心を刺激し、皆さんが自ら未来を切り拓く能力を養います。3 月 11 日以後の歴史においても大学こそ、皆さんの未来を切り拓き、イノベーションを推進 して社会に活力を吹き込み、新しい時代の日本らしい国造りの原動力になります。 皆さんの未来への夢を、筑波大学キャンパスを起点として、是非実現してもらいたいと思 っています。皆さんがこれから着実に実力を蓄えて、飛躍し、筑波らしさをのびのびと表 現することを心から期待して、私の式辞とします。 平成23年8月 29 日 筑波大学長 山田信博