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ベトナムの WTO 加盟準備の現状と課題

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ベトナムの WTO 加盟準備の現状と課題
WTO/FTA
Vol. 021
2003/12/22
Column
ベトナムの WTO 加盟準備の現状と課題
<目次>
1.WTO 新規加盟交渉手続きとその特徴
2.ベトナムの WTO 加盟交渉の現状
3.2005 年の加盟実現に向けたベトナム関係者の見方
4.ベトナム WTO 加盟に対する日本および米国の見解
<要旨>
・ 目標とする 2005 年 1 月の WTO 加盟について,交渉を担当するベトナム商業省は米越
通商協定の成功,2003 年 11 月の日越投資協定の締結から自信を深めている様子であ
る。ベトナム司法省は,ベトナム国会の法案審理の遅さから必要な国内法改正を 2005
年までに実施することは厳しいと判断し,法改正完了を 2007 年と設定して加盟達成後
も法整備を並行して進めていく考えだ。関税率を担当するベトナム財務省は,2003 年
夏までは ASEAN 自由貿易地域(AFTA)に基づく特恵関税制度の調整に注力してお
り,WTO 加盟のための二国間関税譲許交渉は遅れていたが,12 月の第7回 WTO 加
盟作業部会で平均関税率を 4.5%引き下げるなどの行動計画を発表した。
・ 国内販売型の日系企業は高関税で非関税障壁の多い現状でベトナムに進出しており,
WTO 加盟によって輸入障壁が逓減すると,ベトナムでの製造・販売のメリットは小さ
くなる。しかし,実際には加盟が 2005 年に達成されるかは不透明な上,政府は何らか
の形で,特に中国からの輸入品大量流入を防ぐ保護措置を維持すると日系企業の多く
はみており,今のところ撤退などの大幅な戦略転換は考えていない。
・ 2004 年末の交渉妥結のためには,2004 年に3回の加盟作業部会の開催が必要である。
農業補助金の撤廃など難航が予想される交渉分野もあるほか,二国間交渉も妥結した
加盟国はまだなく,状況は厳しい。しかし,社会主義国家という特殊な事情もあり,
トップの決断で加盟作業が急速に早まる可能性はある。
1
©JETRO 2003
ベトナムの WTO 加盟準備の現状と課題
はじめに
ベトナムでは,2003 年 11 月に日越投資協定が発効するなど貿易・投資のアクセス改善
が進んでいる。現在,2005 年1月の WTO 新規加盟を目標に交渉中である。
日本はベトナムにとって輸出入総額で最大の貿易相手国であり,累積実行投資額も最大
である。ベトナム進出の日系企業は 2002 年末時点でベトナム日本商工会 128 社(ハノイ),
ホーチミン日本商工会 234 社あり,東南アジアでは ASEAN5に次ぐ進出規模である。最
近ではキヤノンやデンソー等大手の進出をはじめ労働集約型産業でのベトナムの優位性,
将来性に注目が集まっている。そのため,ベトナムの WTO 加盟が日本企業にもたらす利
益は関税引下げのみならず,非関税障壁の撤廃,サービス分野の開放,政策・手続きの透
明性の向上等,大きいと考えられる。以下では,ベトナム政府関係者,現地日系企業の見
解を中心に,ベトナムが目指す 2005 年の WTO 加盟の実現可能性や課題をまとめた。
1.WTO新規加盟交渉手続きとその特徴
(1)WTO 加盟手続き
WTO発足前の 1994 年末時点でのGATT加盟国は 128 カ国であったが,その後新規加盟
により 2003 年8月末現在のWTO加盟国は 146 となり,現在も 25 カ国1が加盟申請中であ
る(カンボジア,ネパールは 2003 年9月のカンクン第5回閣僚会議で加盟が承認された)。
新規加盟について,WTO設立協定(第 12 条)には具体的な手続きは規定されていないが,
実際には多国間および二国間の交渉が並行して進められる。作業部会で加盟条件を定めた
加盟議定書がまとめられ,二国間交渉が終了した後,一般理事会または閣僚会議での承認
を得たのちに,加盟議定書を国内の立法機関で批准し,批准から 30 日後に加盟が正式に
認められる。
多国間では既加盟国と加盟申請国が作業部会(WP)を設置し,申請国の経済・貿易
制度を審査して,加盟条件を定めた加盟議定書を作成する。作業部会への既加盟国の参加
は任意であるが,全ての加盟国が参加することができる。つまり,当該国に対して自由化
要求のある加盟国が参加する。作業部会の進行度合いは加盟申請国により異なる。例えば
既に作業部会の手続きを完了しているカンボジアの場合,作業部会は5回,実質2年で終
了した。最後の作業部会への参加加盟国は 15 カ国だった。ベトナムの場合,1998 年から
5年間で7回の作業部会が開催されたが合意の見通しは立っていない。2003 年 12 月の第
7回 WP への参加は 40 カ国に達した。そのほか,ロシアは 1995 年7月以降 20 回程度作
業部会での交渉を繰り返しているが,エネルギー,農業,金融,通信など多くの分野で交
渉が難航している。
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ラオス,ブータン,イエメン,タジキスタン,ボスニア・ヘルツェゴビナ,セルビア・モン
テネグロ,スーダン,カボベルデ,バハマ,エチオピア,セーシェル,レバノン,アゼルバイ
ジャン,ウズベキスタン,ベトナム,ウクライナ,ベラルーシ,カザフスタン,アンドラ,ト
ンガ,サモア,アルジェリア,サウジアラビア,ロシア,バヌアツの 25 カ国。
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©JETRO 2003
二国間では,加盟申請国との交渉を希望する既加盟国と申請国が関税引き下げ,非関税
措置の削減,サービス分野の自由化について,リクエスト&オファーを繰り返して交渉す
る。ここでいうリクエスト&オファーとは,既加盟国が関税引き下げや自由化を求める品
目・分野を提出し,申請国が譲許可能な品目・分野を提示する方式である。二国間で合意
された内容は最恵国待遇原則に基づき,全ての加盟国に適用される。
交渉の進行には様々な要因が絡む。加盟申請国の準備状況はもちろんであるが,WTO
事務局の加盟担当は全ての加盟交渉を担当しているため,作業部会間には申請国との経済
関係に対する既加盟国の関心の程度に対応してプライオリティがついてしまう。また,外
交的な考慮も強く働く。例えばロシアについては,以前に経済産業省の公正貿易推進室長
として,中国や台湾の新規加盟交渉に携わった名古屋大学鈴木将文教授は「ロシアの加盟
交渉は同時テロ後,米 EU がロシアを反テロにとりこむことがモメンタムとなって加速し
た」として,加盟の意思を示すことは外交上極めて有効であると述べている。スパチャイ
WTO 事務局長もロシアの早期加盟について後押しする発言を行っている。
(2)新規加盟の傾向分析−複雑化する加盟交渉−
新規加盟交渉は長期化する傾向にある。大阪市立大学平覚教授は,加盟交渉に是正の困
難な「欠陥」が存在することが交渉複雑化の背景にあるという。以下,同教授の見解を基
に加盟交渉の問題点をまとめる。
第一に,多国間作業部会では,既加盟国が,申請国国内法の WTO ルール適合性に対し
「裁判官」の役割を果たす。作業部会では,既加盟国は,申請国の法律をピックアップし
て交渉材料にする。申請国は,国内法が明らかに WTO 協定に抵触する場合に,交渉段階
での解消を求められるだけでなく,明確でない場合であっても,既加盟国に改善要求を申
し渡される。この要求は一方的であるため,既加盟国が法令審査権をもった「裁判官」に
なっているといわれる。
第二に二国間交渉も一方的である。つまり,既加盟国が申請国に譲許(関税引き下げや
自由化の約束)を求めるのに対し,申請国には加盟国に譲許を要求する機会はない。
このため,申請国は WTO 協定以上(WTO プラス)を約束させられる一方,WTO 協定
上認められる途上国の特別かつ異なる待遇(S&D)などの権利を否定される(WTO マイ
ナス)という現象が起きる。特にサービス分野で最近の加盟国には WTO プラスを求めら
れる傾向が強い。例えば,カンボジアは WTO による 155 のサービス分類中,60 を超える
幅広い分野で開放を約束した。これに対し,GATT 時代からの WTO 加盟国のうち 23 カ
国では,開放しているサービス分野が 10 に満たない。ベトナムも国内流通をはじめ既加
盟国が高い水準の開放を要求しており,第7回の加盟作業部会では 92 分野の自由化を予
定していることを明らかにした。
(3)なぜ WTO 加盟を目指すか
高いハードル,自国が呑まなければならない多様な条件にも関わらず加盟を目指す国が
多いのは,一般的には自由貿易体制への編入,最恵国待遇の享受,海外市場の拡大,国際
的地位の向上などを求めているためである。
ベトナムの場合も,
「WTO の国際貿易ルールを遵守することは国際的な流れ」
(商業省)
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©JETRO 2003
であるという意識が強い。米越通商協定の発効によりベトナムの対米輸出が倍増したこと
も,WTO 体制による自由貿易の恩恵を享受することへの動機付けとなっているようであ
る。またベトナムの場合,同じく計画経済から市場経済への移行国であり,主力輸出製品
(衣類,履物,電子部品など)でベトナムと競合する中国が加盟したことも,早期加盟を
求める要因となっているようである。
2.ベトナムのWTO加盟交渉の現状
これまでの WTO における加盟交渉は以下のように進められてきた。
1995.1 WTO 加盟申請,作業部会(WP)設置
1996.8 ベトナムの外国貿易体制に関するメモランダム提出
1998.7 第1回 WP
1998.12 第2回 WP
1999.7 第3回 WP
2000.11 第4回 WP
2002.4 第5回 WP および第1回二国間市場アクセス交渉
2003.5 第6回 WP および二国間市場アクセス交渉
2003.12 第7回 WP および二国間市場アクセス交渉
本年の作業部会での成果について,ベトナムの通商政策を担当する商業省の Luong Van
Tu 副大臣は以下のように述べている。
・ 市場アクセスの改善オファー(譲許提案 2002 年 11 月,サービス自由化 2003 年3月
・ 次期 WP までに実行関税率表(ベトナムが現在賦課している輸入税の一覧を公表)
・ 農業分野での国内支持と輸出補助金政策の報告
・ 以下の最新の国内法制定目標,非関税貿易障壁に関する情報,WTO 協定実施のための
行動計画などを提出。
外国人に対する二重価格制度の 2005 年までの撤廃(電力,国内航空運賃)
ローカル・コンテント要求の削減,2006 年までの撤廃
知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)協定実施の取組み
WTO 協定に基づく関税評価導入の取組み
衛生植物検疫措置(SPS)協定実施のための行動計画
国営企業の構造改革促進の取組み
投資規制の緩和(例えば 2003 年3月からベトナム企業の資本を 30%まで外資が保有
することを認めた)
国内法令の発布方法の透明性向上
外国人に対して差別的な付加価値税の撤廃
WP の議論の中では加盟国は 2005 年末までの WTO 加盟を目指すベトナムの意向を支
持しているが,いくつかの WP 参加国はベトナムの国内法調整が遅れているばかりか,逆
に保護的な政策をとる場合さえあると述べた。
二国間交渉では 2002 年末の段階で 25 カ国以上がベトナムとの交渉をリクエストしたと
される。二国間交渉は通常 10~30 の加盟国との間で行われるため,この数は比較的多いと
いえ,ベトナムのWTO加盟に関心を持つ加盟国が多いことが分かる。(中国に二国間交渉
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©JETRO 2003
を要請した加盟国は 37 だった。)ベトナム政府関係者の中にはこの加盟国の関心の高さを,
自国の「多国間貿易体制における重要性」が評価されたととらえて喜ぶ向きがあった。し
かし,ドイツGTZのシュミット博士は,実際には二国間交渉相手国が増加することは加盟
交渉自体の複雑化を意味するのであり,ベトナムに経験豊かな交渉担当者が少ないことか
らも,二国間交渉の複雑化は早期加盟を目指すベトナムにとってむしろ問題でさえあると
述べている2。二国間交渉の進捗については明らかになっていないが,通商筋によると 2003
年 12 月の第7回加盟作業部会では日本,米国,EU,カナダ,オーストラリア,ブラジル,
インドなどと交渉が行われ,完了した交渉はないもののカナダとの間では合意に近づいて
いるなど,進展も報告されている。
ベトナムでは国内で相当量の生産が行われている産品については,150%までの高関税を
賦課し,残りの約半数の関税品目については 0~5%に抑えることにより,全体の平均関税
率を抑えている。WTO 加盟国から見るとこのアプローチは不十分であり,WTO 加盟の二
国間交渉においては,ベトナムは AFTA の CEPT レジーム並みの大幅な関税引き下げの圧
力を,既加盟国からかけられることになる。自動車,二輪車,化学品,電気機器,家電な
どベトナムにとってもセンシティブな鉱工業品の関税引き下げには,EC,日本,カナダ,
オーストラリアなどの有力国がとりわけ意欲的であるとされる。その他,個別では韓国の
造船業開放要求,NZ の酪農製品と羊肉,チリ,EU,豪州のワインなどでの開放要求が予
想される。第7回の加盟作業部会で,商業省副大臣 Luong Van Tu 氏は,加盟に際してベ
トナムが平均関税率を 4.5%引き下げ,全体で約 22%の水準にするとのオファーを行った。
多くの途上国と同様に,関税収入はベトナムにとって国家税収の大きな割合を占める。
最近の財務省の統計によれば,ベトナムの国庫収入に占める輸入関税の割合は,1995 年の
25.6%を近年のピークに,98 年で 21.0%,2000 年が 15.1%と減少傾向にあるが,2001
年には 17.8%に増加しており削減は容易ではないことが分かる。WTO 加盟による関税引
き下げに伴う国庫収入の調整が急務になる。
関税引き下げ以外の物品貿易に伴う非関税障壁に関しても,ベトナムに求められる国内
改革は相当なものである。例えば農業輸出補助金の是正がある。一人あたりGDPが 1,000
ドルに満たない場合でも最近の新規WTO加盟国のほとんどは,加盟時に輸出補助金の撤廃
を約束させられている。農業分野に限定した場合,エクアドル,モンゴル,キルギス,ラ
トビア,ヨルダン,台湾,リトアニア,モルドバ,中国が加盟時点でいかなる農業輸出補
助金も維持あるいは導入しないことを約束した。ベトナムでは 1998 年に現在の農業輸出
補助金制度ERF(現ESF – Export Support Fund)が設立された。ベトナム政府関係者に
よれば,ESF制度はWTO協定の諸制度に完全に一致するというが疑わしい。ケアンズグル
ープなどの農産品輸出国が輸出補助金の撤廃を求めているが,ベトナムは制度の維持を主
張している。なお,2000 年にESF制度によって支給された補助金の総額は 920 万ドルに
のぼる3。
2
Dr. Uwe Schmidt, Roadmap for Vietnam’s WTO Accession (2002), p.33.
3
Dr. Uwe Schmidt, Roadmap for Vietnam’s WTO Accession (2002), p.11.
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輸入許可制度は対象製品が少なくなり改善されているとはいえ,依然多くの輸入原料等
について残っている。さらに制度の運用方法が WTO 加盟国から見て透明とは言いがたい
ため,加盟作業部会で米国や EU からの攻撃の対象となっている。WTO の輸入許可手続
に関する協定の実施に関するアクションプランの作業部会への迅速な提出が求められる。
それ以外にも,ベトナムに課せられた物品貿易に関する課題は関税評価協定の遵守,輸
入製品のミニマムプライス(最低価格)制度の撤廃,アンチダンピング等通商ルールの協
定適合性確保,原産地ルールの整備など数多い。例えば,関税評価協定についてベトナム
は一定期間の猶予を求めている。しかし,米国や ASEAN に対しては,同協定を既に適用
しているため,オーストラリアなどが最恵国待遇原則の観点から他の既加盟国への適用除
外に反対している。
「貿易に関連する投資措置に関する協定」
(TRIM 協定)に従ったローカル・コンテント
要求などパフォーマンス規定の撤廃については,加盟時に即撤廃することを表明している。
サービス分野では,第7回加盟作業部会で,ベトナムは 92 のサービス区分について開
放を約束したが,どの分野で外資の参入が認められるかの詳細は明らかにされていない。
流通,運輸,電気通信,金融などの各サービス分野では,ベトナム企業の競争力は弱く,
WTO 加盟によって開放されると相当な影響を受けると考えられる。一方,観光,建設,
医療,海運などの各サービスではベトナム企業は比較的競争力を有するといわれている。
知的財産権も加盟申請国は加盟以前に TRIPS 協定実施のための効果的な国内措置実施
が不可欠な分野である。近年の加盟議定書によれば,ほとんどの新規加盟国は経過期間な
しに加盟時の TRIPS 協定の完全な実施を約束している。唯一経過期間を認められたエク
アドルでさえその期間は半年しかなかった。
ベトナムにとって現実的なアプローチは米越通商協定の知的財産権保護規定に準ずる
措置を最恵国待遇ベースで実施することである。同協定では商標権と特許権については 12
ヶ月,著作権とトレードシークレットについては 18 ヶ月,レコード(phonogram)の権利保
護については 30 ヶ月,実施のための経過期間がそれぞれ認められている。
法令の整備だけでなく知的財産権保護の運用強化のために,知財行政手続の簡素化,執
行に必要なシステムの電子化促進,担当者のキャパシティ・ビルディング,メディアやセ
ミナーなどを通じた一般への知的財産権保護の必要性アピールなどが必要である。日本,
スイス,US エイド STAR プロジェクトなどがこの役割を期待されている。
WTOの紛争解決制度の活用もベトナムにとっては調整を伴う問題である。三権分立の不
徹底および司法の独立が不十分であり,法曹の質量も乏しいため,WTOでの国際紛争処理
に適応できない。米国への冷凍なまず等の輸出に対し米国がアンチダンピング措置を発動
4した際には,ベトナム商業省は対応に大きな戸惑いを見せた。
3.2005 年の加盟実現に向けたベトナム関係者の見方
加盟準備状況について,商業省はじめベトナムの主要省庁関係者および有識者に聞いた。
全体の傾向として,対外的な交渉を担当する商業省は米越通商協定による貿易額の急増
4
Antidumping Duty Investigation of Certain Frozen Fish Fillets from Vietnam, filed on June 28, 2002
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©JETRO 2003
(2002 年の対米輸出前年比 127%増),また日越投資協定締結の目途が立ったことから
2005 年の加盟に自信を深めている様子だ。一方,他省庁は国内で必要な改革が多いことか
ら概ね早期加盟には慎重だ。司法省関係者は,ベトナム国会が 1 年に採択できる法律が現
行の手続きでは限られている(年に 10 程度ともいわれる)ことから,必要な国内法改正
を 2005 年までに実施することは厳しいとみている。関税率を担当する財務省は 2003 年上
期までは AFTA に基づく特恵関税への対応に人員を集中しており,WTO 二国間交渉での
関税譲許は遅れている。また,工業省,計画投資省が WTO 交渉の中で有する権限は諮問
など限定的である。有識者では 2005 年の加盟について時期尚早であるとして反対するも
のもいる。実際には,共産党の決定権が強いベトナムでは,トップダウンによる決定もあ
るため加盟時期については正確な予測は難しい。(ヒアリングは 2003 年6月末に実施)
(1)商業省
商業省副大臣 Tu 氏は,2007 年までに法律の調整(整備すべき法は数十程度)を行う行
動計画を関係者に明らかにした。この点,司法省によれば年 30 程度法案の起草が可能で
あるため,国内法の調整は 2005 年までに可能であるようにも見えるが,同省国際法務部
Le Thanh Long 氏によれば国会での法案審議が年に 10 程度を限度にしか行えないため,
2005 年の法改革達成は困難なようだ。ベトナムは,最近の中国の加盟を例に,新規加盟国
が加盟承認を得るためには加盟時点に必要な改革を完了させる必要は必ずしもないとの認
識だ。Tu 副大臣は「WTO 加盟後は,未改正の現行法が WTO 協定に適合しない場合は,
政府は協定に従う」と述べている。国内経済の構造改革の道筋を立てることができれば
WTO 加盟に近づくことは確かであるが,新規加盟国は加盟までに必要な法改正を求めら
れるのが通常であり,中国のように加盟後の段階的調整が認められるかは未定である。
多国間貿易政策局 Tran Phuong Lan 課長は,2005 年までの加盟は確かに日程的に厳し
い上,短期的には淘汰される国内企業もあることは間違いないが,加盟による国際ルール
の遵守は国家の発展段階の一つであり必然的な流れだと述べた。Lan 氏の属する ASEAN
課では ASEAN 自由貿易地域(AFTA)に基づく関税引き下げの完全実施に向けた調整を
進めているが,同氏は,「WTO 加盟と AFTA の履行は並行して進行可能である」と述べ,
WTO 加盟は AFTA への完全な加盟の後になるのではとの憶測を否定した。WTO 外の対
日関係についてもコメントを得た。まず,11 月に締結された日越投資協定について,「一
部米越通商協定よりも高度な自由化の内容を含んでおり,日本からの直接投資の増加が見
込まれる」と評価した。また,日−ASEAN の自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)
締結に向けた取組みが,中国−ASEAN に比べ遅れていると指摘し,「懸念」を表明した。
多国間貿易政策局局次長 Luong Hoang Thai 氏は,交渉の前線に立つ厳しい立場から,
「WTO はベトナムに機会を与えるに過ぎない。それを利用するのはベトナム企業の問題
だ」という現実的な見方を示した。加盟の時期については,将来の世代に困難を与えない
ために交渉は慎重に行う必要がある」とし,加盟手続きをあせってはならないことを強調
した。ただし,「2004 年末を過ぎると,法的により高度な水準の約束を課せられるおそれ
がある」と述べ,2005 年の加盟を目指す商業省の交渉方針を強調した。交渉の進行が遅れ
ている理由は,
「WTO 既加盟国が自国の義務以上の複雑な約束を新規加盟国に課す傾向が
ある」ためとし,既加盟国にもさらなる貿易自由化と規制緩和を求めた。
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©JETRO 2003
(2)財務省
財務省国際関係局 ASEAN 課長 Vu Chi Long 氏は,目標としてきた 2005 年を目標の加
盟実現は難しいと語った。関税率を担当する同省では,2003 年上期まで AFTA の共通効
果特恵関税(CEPT)に基づく関税表の完成に力を注いでおり,WTO の二国間関税引き下
げ交渉は,日本,米国,EU,中国など主要な国のほとんどから要求がきているものの一
部の国としか進んでいないと述べた。(2003 年6月末現在)
ベトナムとほぼ同じ時期に加盟を申請したカンボジアの加盟が承認されたことについ
ては,
「カンボジアは国内産業もあまりなく,貿易は再輸出が主なため,加盟は比較的簡単
である。多くの国内産業,国営企業を抱えるベトナムとは状況が違う。ベトナムの国内産
業はまだ引き下げの準備はできていないという声もかなり強い。」と両国の違いを強調した。
また同氏によれば,
「一部のベトナム進出日系企業からも(投資効果を高めるために)関税
を引き下げないでほしいとの要望も出ている」という。しかし,
「加盟は政府が対外的にコ
ミットしたものであり,経済を効率化して,競争力を高めていくためにも必要な措置」と
述べ,加盟を推進する意向を改めて明確にした。
(3)工業省
国際協力部 Senior Official, Le Huu Phuc 氏は,
「工業省の WTO 交渉における役割は商
業省にコメントするに過ぎず,権限は小さい」ことを前提に,2005 年の加盟には懸念事項
が多いと指摘した。現在までの交渉はインド,キューバなど途上国に留まっているが,米
国から貿易・通関手続きの円滑化,ローカル・コンテント要求の撤廃,電気通信などサー
ビス分野の規制撤廃など,EU から完成車輸入の関税率 10%への引き下げなど,EU・米
国・日本の主要国からビール,酒類,タバコの関税引き下げの要求が来ているがこれらの
達成には困難を伴うと述べた。加盟交渉は大変複雑な作業であり,ある米国政府関係者は,
最近の交渉状況について「後退している」とさえ述べているようだ。
一方で,WTO 加盟のメリットとして,ベトナムの繊維,農産品,水産品のマーケット
の拡大に期待していると述べた。特に繊維については「米越貿易協定によって輸出が急増
しており,現在の年間約 17 億ドルの輸出枠でも足りない状況」であり,WTO 加盟によっ
て一層の輸出拡大を期待している。
(4)司法省
副大臣 Hoang The Lien 博士は,WTO 加盟に向けたベトナム政府にとっての課題は,
中長期的な目標を発表し達成に向け努力すること,内外無差別の競争環境をつくることで
あり,司法省には短期間で多数の法律を改正するためのスピード,数だけでなく法律の質
の向上が求められていると述べた。
副大臣によれば,司法省は米越通商協定と WTO 協定に国内法を適合させるために 145
の法律をスクリーニング(見直し)している。新たに必要とされる法律に関しては,物理
的に司法省が立案できる法案は 2010 年までで 200 ほどであると言い,早期加盟の実現は
国会審理の進行次第のようだ。基本的な法律のなかでは民法,刑法は整備が進んでいるが,
民刑訴訟法,税法,土地法などの整備はこれからと述べた。
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法整備以前の問題として,依然として計画経済から市場経済に移行するにあたっての一
般市民の法認識が薄いことを指摘した。そのため,法が改正されても,実施面が追いつい
ていないのが現状という。
国際協力部 Nguyen Khanh Ngoc 氏は,2005 年の加盟を達成するためには立法作業自
体を改正することで立法過程の迅速化を図ることが必要だが,これ自体も非常に困難な作
業であると述べた。また,立法作業において WTO 協定適との整合性が十分審査されなか
ったために,5月の第6回 WP では WTO 協定に抵触する法律が指摘されたといい,加盟
までの間,これ以上 WTO 協定に違反するような法律を作らないことが重要だと語った。
さらに,副大臣と同じく,ベトナムに必要な法制度改革は多岐にわたり,WTO 加盟に必
要な法改革はその一部に過ぎないと付け加えた。
国際法務部 Deputy Director-General, Dr. Hoang Phuoc Hiep 氏は,司法省の法整備が
国会審議によって停滞している現状を明らかにした。例えば,ベトナムでは国際法と国内
法の法規範的価値(序列関係)について明確な規定がなかったため,司法省では一般に国
際法が国内の法律に優位するとした法案を提出したが,国会で可決されなかった。
WTO への加盟は国内,特に裁判での WTO 協定の効力という法的問題を生む。効力を
明確化するには,具体的には司法省が試みたように条約の国内的効力(批准した条約が国
内において別の手続きなしに裁判での準拠法となるなどの法規範性をもつこと)とその法
規範的価値を明文化するか,個別の法律によって WTO 協定を国内法化する(国内法の一
つと位置付ける)という2種類の手段がある。日本では条約の国内的効力は憲法で一般的
に認められている(一般的受容という)が,裁判において個人が WTO 協定を根拠に訴訟
を起こすこと(直接適用可能性)については,裁判所は否定している。米国や EU もほぼ
同様である。直接適用できないが,国内的効力を持つという意味は,例えば,国内立法の
際に WTO 協定適合性が要件となるほか,WTO 協定に依拠した提訴はできなくても,裁
判所が,WTO 協定に照らした法律解釈が可能ということである。ベトナムも,加盟まで
に WTO 協定および国際条約一般の法的効力について明確化する必要があろう。
そのほか Hiep 氏は,国家収入における関税収入への依存を指摘した。途上国にとって
関税には国内産業を保護する機能や,アンチダンピング税のように貿易歪曲効果を是正す
る防御機能もあるが,関税は本来税金である。先進国では今日,税収としての関税の割合
は低く,日本でも1%程度である。一方,途上国では現在もなお関税が重要な国家収入の
一部である。WTO 加盟後の関税収入減少は確実であり,ベトナムは関税への財政の依存
を引き続き減らしていく必要がある。
(5)計画投資省
シニアアドバイザーDr. Le Dang Doanh 氏は,加盟に向けた課題として次の点を挙げた。
①進出外資企業への内国民待遇付与,独占状態の是正,地域保護政策の撤廃などによる国
有企業改革の推進,②関税法をはじめとする貿易関連法,会社法倒産法など企業活動に直
結する経済法の整備と,法令の透明性確保,③電力などインフラの内外価格差の是正をふ
くむ投資奨励策の強化,④知的財産権保護(外国からの支援が必要)。この点,Phan Thanh
Ha 氏は,これらの法制改革,特に投資法や銀行法などの改革は投資誘致に必須の課題で
あり,WTO 加盟に関わらず必要だと付け加えた。また Ha 氏は,WTO 加盟交渉の二国間
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関税交渉について,現在の二国間交渉では米越通商協定やその他の二国間協定を参考に譲
許表が作成されているが,ベトナムとしては米越通商協定が最も進んだ開放条件と理解し
ているのに対し,加盟作業部会では米越通商協定をミニマムの水準と理解しているような
意見があり,問題視していると述べた。
(6)ベトナム有識者の見解
WTO の紛争解決制度と途上国問題の専門家である Dr. Vu Thi Hong Minh 名古屋大学
法学博士には,加盟のベトナム産業への影響から現在の WTO 体制の問題点まで広く見解
を聞いた。
a) 2005 年の加盟に向けた調整
・ 2005 年の加盟について有識者の中には時期尚早であるとして反対するものもいる。ベ
トナムの場合,党の決定権が強いため時期については正確な予測はできない。
・ 知的財産権の問題では,ベトナムは著作権保護に関するベルヌ条約に加入していない
ため,TRIPS 協定に適合的な法整備に時間がかかることが予想される。現在,知的財
産権侵害が認められる製品は,雑貨,食料品など低付加価値の製品が多いが,高付加
価値製品でも抗ウィルス剤や動物用などの医薬品のコピーも行われている。家電製品
のコピーは中国品の流入がほとんどだが,今後ベトナムでも技術レベルが向上すれば
模倣品の「質」も向上する可能性がある。
・ 国営企業,民営企業,外資企業を規律する法律が別々にあり統一されていないため調
整が必要である。
b) ベトナムの産業への影響
・ ベトナム政府がこれまで鉱工業の中で力をいれてきた産業はセメント業と鉄鋼業であ
る。これらの産業は政府の厚い保護のもと品質,生産効率性など競争力の向上に努め
て来なかったため,WTO 加盟後淘汰される可能性はある。
・ その他集積を生むような産業の育成は怠ってきており,国家としての発展戦略に問題
がある。特に国産の電気製品は質が悪く,淘汰は必然である。
・ 電力,ガス,水道などの基礎インフラは企業体質の古い国営企業の独占状態にある。
WTO 加盟による市場開放は国営企業の体質改善に必要な外圧と言える。
・ 農業,繊維,水産品についてはある程度競争力が見込まれ,WTO 加盟はメリットにな
る。ベトナムの繊維製品には一方的な高関税や輸入割当による数量制限が認められて
きたが,2004 年末の繊維協定失効に伴い,WTO 加盟後は最恵国(MFN)待遇による
繊維製品の輸出が可能になる。
c) 外資系企業に対して
・ ベトナムで現在生産を行っている外資企業は,WTO および AFTA による市場開放が
進めば最適生産化を進め,輸入代替としてのベトナム現地生産から今後は輸出向けが
中心になる。
・ 日本に対しても市場アクセス開放の促進を求める。例えば,衛生植物検疫措置では日
本の検査水準は高く,保護措置の疑いもある。
d) WTO 体制について
・ 自由貿易体制については,その理想と現実との乖離が問題である。現在の「自由貿易
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体制」では,先進国は自国の競争力の弱い分野を保護している。今後も先進国の恣意
的な制度の構築を懸念している。
・ 現在の WTO 体制では,先進国と途上国という構図はある程度考慮されているが,米
国とラテンアメリカ,EC と ACP 諸国など特恵関係を含む加盟国間の権利義務のバラ
ンスが考慮されていない。
4.ベトナムWTO加盟に対する日本および米国の見解
(1)日系企業の見方
輸入代替型(国内販売型)の企業にとって高関税で非関税障壁の多い現状でベトナムに
進出しており,額面通り WTO 加盟によって市場開放が進めば,ベトナムでの製造・販売
のメリットは小さくなる。つまり,国内規制は既出の企業にとっては投資効果を高める効
果があるが,今後規制が撤廃されると ASEAN 域内での製造拠点の選択と集中が進むこと
が想定される。しかし,ジェトロが在ベトナム日系企業に対し実施したヒアリング調査に
よると,実際には加盟が 2005 年に達成されるかは不透明な上,政府は何らかの形で輸入
の大量流入(特に中国から)を防ぐ保護措置を維持するとみており,撤退を含む大幅なベ
トナム戦略の転換は考えていないと回答する企業が多かった。
個別の見解を紹介すると,まず 2005 年の WTO 加盟の展望については不透明であり,
「ビ
ジネスから見ると遠い問題であり,特に注目していない」
(自動車),
「AFTA に対する対応
もよく見えてこない状況で,WTO 加盟は時期尚早という感じがする。2005 年加盟は無理
で,2010 年頃になるのではないか」(家電)など,今のところ直接ビジネスに影響する要
因としては考慮していないという回答が目立った。一方,加盟により(完成家電製品の)
関税が下がっても,
「これまでは最低価格制度(ミニマムプライス)によってベトナム国内
での自社生産品の価格競争力が維持されてきたが,WTO 加盟後ミニマムプライスは撤廃
される(2006 年に撤廃予定)ため,安価な輸入品の流入が懸念される」(家電),「中国製
品のベトナム流入が想定される。中国製品は品質的には地場企業と競合するが,
(市場全体
への総供給量増加という意味では,)当社にとっても影響は出てくる」(セメント)など,
具体的なデメリットを懸念する声も挙がった。
現状については,ベトナム政府の省庁間の連携に問題があるとの声があった。例えば,
日系自動車メーカーは,自動車と同部品に対する関税や特別消費税の引き上げは財務省の
判断によるものだが,これは自動車産業の育成を図るべき工業省の政策と一致していない
と指摘した。また,日系家電メーカーは,ベトナム政府は競争力のない国内産業の淘汰な
ど開放によるデメリットを認識しているのか疑問だと述べた。実際,ベトナムでは米越通
商協定の発効によって対米輸出が急増したことから,WTO 加盟に対しても特に先進国へ
の市場アクセス拡大に期待している。しかし,米越通商協定の実施には経過期間があり協
定上の義務の影響が未だ表面化していないことをベトナム政府は認識しなければならない。
(2)日本政府の対越政策
日本は WTO を通じた通商政策だけでなく,FTA や二国間投資協定を活用した多層的な
通商戦略に舵を切りつつある。11 月に署名された日越投資協定もそのような戦略の一環で
あり,高いレベルの投資協定としてベトナム側の評価も高い。その内容を若干紹介すると,
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−投資許可段階及び投資許可後に関する内国民待遇及び最恵国待遇
−裁判を受ける権利等に関する内国民待遇及び最恵国待遇
−パフォーマンス要求の禁止(輸出要求,現地調達要求,会社役員の国籍要求等)
−透明性(法令等の公表)
−収用及び国有化の際の適正な補償
−送金の自由
−国家間の紛争解決手続
−国家と投資課との間の紛争解決手続
−知的財産権の保障
などがある。
ベトナム商業省担当者は,日本と通商協定もしくは FTA の締結を求めている。その意味
で,日−ASEAN 自由貿易協定の議論の中でベトナム,カンボジアなどの ASEAN 後発国
との間では 2017 年を目途とした締結が予定されていることはベトナム側の懸念材料だ。
日本政府としては,ベトナムのWTO加盟は東南アジア地域経済の発展に貢献するもので
あり,産業界からの関心も高いため,ベトナムが加盟申請を行った当初より,早期加盟実
現を支持する立場を取っている。5
(3)米国の見解
米国通商代表部(USTR)は 2003 年版年次貿易障壁報告書6のなかで,米越通商協定発
効の結果米越間貿易が増大したものの,貿易障壁は依然として多いことを指摘している。
以下は同報告書ベトナム部分の要約である。
【貿易概況】
2001 年 12 月の米越通商協定発効後,米国はベトナムに最恵国待遇を付与。ベトナムに
対する米国の平均関税率は約 40%から約3%に大幅削減され,その結果 2002 年にはベト
ナム製品が米国内に大量流入した7。米国の対越貿易赤字は 2001 年の 5.9 億ドルから 18
億ドルに3倍増した。赤字の増加は米国のベトナム向け輸出も 26%増加したものの,ベト
ナムの対米輸出が 127%伸びたことによる。
5
2000 年版「不公正貿易報告書」(通商産業省通商政策局編)
6
2003 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers
7
2002 年には通商協定の影響で米国のベトナム製衣類(HS62 類)輸入が,金額ベースで前年比
17 倍,HS61 類の輸入が 21 倍と著しく増大した。米繊維製造業者協会(ATMI)が政府に働き
かけた結果,米国とベトナムは,2003 年4月 25 日に,同年5月1日から 2004 年 12 月末まで
の間,米国へのベトナム製の繊維,アパレル製品輸入に数量割当を設ける繊維協定を締結した
が,ATMIは割当量が多すぎると非難している。
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【ベトナムの輸入政策】
1.関税
現在ベトナムには3種類の関税率が存在する。第1に最恵国待遇(MFN)税率が総輸入
量の 75%を占め,米国もこれに該当する。現在ベトナムは数量規制の関税化を進めており,
このため MFN ベースの単純平均関税率は 15.7%に高止まっている。第二に CEPT(AFTA
共通効果特恵税率)レジームのもとで,ASEAN からの輸入は 2002 年現在で平均 10.7%
の特恵関税が適用される。2006 年までに3%まで削減することに合意している。第三にそ
の他の国(メキシコ,ブラジルなど)に適用される一般税率は MFN 税率より 50%高い。
ベトナム政府は実行税率を譲許税率と意図的に乖離させ,自由に実行税率を上げ下げす
るため透明性を欠く。さらにガラス製品,建築用ガラス,紙,鉄鋼,セラミック製品,酒
類等ベトナムのセンシティブ品目に対しては 4-40%の課徴金が関税とは別に徴収される。
2.非関税障壁
・ 輸入禁止品目:武器弾薬など安全保障に関わるもの以外に,中古雑貨,右ハンドル乗
用車,中古自動車部品など。
・ 輸入数量制限および非自動認可制度:2003 年 1 月までに,砂糖および石油関連製品以
外の全ての製品に対する輸入数量制限を撤廃するとされていた。
・ 衛生植物検疫,健康の維持,文化的事由などによる規制
・ 外国為替制度:ベトナムは IMF のプログラムの下,2002 年末までに現行の外資企業
による外貨獲得に関する規制の撤廃を約束していた。
・ 関税評価:ベトナムは輸入品に対する最低価格制度徐々に撤廃している。1997 年には
34 の商品群に対して維持されていたが,2000 年の段階で7(飲料,ゴム・タイヤ類,
タイル・衛生陶器,工業用ガラス・魔法瓶,エンジン,扇風機,二輪車,未加工タバ
コ等)に限定されている。
・ 貿易権:ベトナムの米国企業では,米越通商協定発効から3年以内にベトナム企業と
のマイノリティ合弁貿易企業が,7以内に独資の米国貿易企業が貿易権を付与される。
【規格,審査,ラベリング,認証】
・ ラベリング:ベトナム法では,すべての輸入品に対し内容と使用法に関するベトナム
語での表示を義務付けている。
・ 認証制度:科学技術省は国による品質管理要求を求められる輸出入品のリストを発行
している。品目ごとに関係省庁の所管当局が管理している。
【政府調達】
政府調達の仕組みは複数の関係機関の手続きが絡み,しばしば不透明である。
【輸出補助金】
輸出信用の利用はごく限定的である。
【知的財産権保護】
・ 特許,商標:知財侵害を決定する行政命令や判決の実施に問題。
・ 著作権:法整備は進むが法の執行は皆無。CD 等の海賊版比率は 99%とも試算される。
【サービス貿易障壁】
米越通商協定では,以下の幅広いサービス分野について段階的な開放を約束した:
会計・監査・簿記;税査定;建築・エンジニアリング・コンピューティング;法務;広告・
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市場調査;マネージメントコンサル;電気通信;AV;建設および関連エンジニアリング;
流通;教育;保険;金融;ノンバンク金融;警備保障;健康;観光・旅行関係
米越通商協定では WTO の GATS 協定を準用しており,人の移動や電気通信など一部の
分野を除き,WTO 非加盟国であるベトナムに対しても同協定が米越間で有効となった。
【投資障壁】
投資認可制度は柔軟性を欠く。外貨規制も外資企業の投資活動に支障をきたしている。
米越通商協定では投資における MFN および内国民待遇の保証,投資紛争の解決,収用実
施における国際基準の遵守などを規定する。またベトナムには TRIM 協定の定めるパフォ
ーマンス要求の段階的な撤廃を求められている。
【非競争的行為】
国営企業による独占や,私企業による貿易の実質的な妨害が目立つ。関税引き下げは,
国営企業の製品の原料産品に対して実施される場合が多い。
【電子商取引】
電子署名の有効性承認,電子送金システムの承認など法的な改善は進んでいるが,ベト
ナム国内でのインターネット利用率の低さ等インフラの未整備から利用は進んでいない。
【汚職】
ビジネスや投資を担当する政府機関の管轄が競合・混乱,また官僚の賃金の低さが汚職
の要因となっている。
おわりに
9月のカンクン WTO 閣僚会議では主に先進国と途上国の対立から,予定された閣僚宣
言の採択なしに会議が決裂したように現在の WTO はそれ自体,問題を抱えている。WTO
における途上国のプレゼンスが高まる中,ベトナムの加盟が各国に歓迎されることは間違
いない上,国際経済の一体化に不可欠である。しかし,新規の加盟国を加えると 148 に上
る WTO 加盟国間での意思決定はますます困難になってきており,ベトナムが期待する貿
易自由化のメリットが享受できるか見通しは明確ではない。新規加盟国の負担義務が,既
加盟国よりも重くなっているという現状もベトナムにとってはマイナス材料である。
今後 WTO 加盟準備を進めるにあたり,ベトナム政府は法改正,法整備を急ピッチで進
める必要があると同時に,日系企業が指摘しているように,WTO 加盟の国内企業(競争
力のない企業の淘汰)および外資企業へのデメリット(規制撤廃による投資効果の低減,
中国産品の流入など)も考慮して,加盟後を見据えた投資環境整備などの国内政策を進め
ていく必要があるだろう。(了)
国際経済研究課
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安田
啓(やすだ
あきら)
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