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全球雲解像大気モデルの 熱帯気象予測への実利用化に関する研究
研究課題名: 全球雲解像大気モデルの 熱帯気象予測への実利用化に関する研究 応募研究領域: マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション 佐藤正樹 独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 2005年10月15日 CREST KickOff ミーティング 日本科学未来館 概要 • 研究の背景 • 研究目的、体制、計画 • 将来展望、今後の進め方 研究の背景 • 大気モデルの分解能ジャンプ – 1980年代: 温帯低気圧 250km – 現在の課題: 積雲対流 5km • 従来の気象・気候モデルの問題 – 分解能 数10km ⇒ 積雲対流が解像 できない • 全球雲解像モデル – 分解能 5km 以下で全球を覆う – 非静力学正20面体大気モデルの開発 Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model (NICAM) • 「ESのサイズは全球雲解像モデルが実 行可能たるべく設計された。」 (松野太郎元センター長) – 当初予想ではせいぜい分解能10km – 計算技法の検討により、3.5kmまで実 行可能になった 全球雲解像モデル 非静力学正20面体格子大気モデル (Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model: NICAM) 気候計算に適した高分解能大気大循環モデル • 全球で雲を解像する大気モデル:格子間隔5km以下 • 水平に準一様な正二十面体格子 • 保存系を意識した新しい非静力学スキーム:長時間計算可能 正20面体 icosahdron 3回分割 5回分割 9回: Δx=14km、 10回: Δx=7km、 11回分割: Δx=3.5km 正20面体格子 Hexagonal/pentagonal control volumes glevel-4 (~dx=480km) glevel-5 (~dx=240km) glevel-6 (~dx=120km) glevel-7 (~dx=60km) glevel-8 (~dx=30km) glevel-9 (~dx=14km) glevel-10 (~dx=7km) glevel-11 (~dx=3.5km) 正20面体格子 Spring dynamics 計算精度 計算効率の向上 開発スケジュール 2002−2003 2000−2001 全球浅水波モデル 領域非静力学モデル 全球非静力学モデル 力学コア z初期値問題(LCE) z長期積分 (Held&Suarez) 物理過程を導入した 長期積分 (放射対流平衡実験) 開発フェーズ 実用化 2004 フェーズ 2005− 全球雲解像 モデル 水惑星実験 3.5kmメッ シュ全球 保存則を満た す新スキーム 地球シミュレータ Stretch grid 長期積分 稼動開始 マルチフィジックス 全球雲解像モ デル 現実条件実験 気象・気候予 測への実利用 化 マルチフィジックス マルチスケール •数値精度の検討、計算パフォーマンスの改善、並列化効率の向上 •既存のモデルとの比較(AFES, JMA-NHM,CCSR/NIES/FRCGC AGCM) 標準実験:浅水波モデル、非静力学モデル、力学コア、水惑星 •高解像度モデルの物理過程の検討 雲物理、浅い積雲・混合層、放射過程、エアロゾル Spring grid グリッドノイズを軽減するため にバネを格子間に結ぶ Standard grid Spring grid ⇒ 計算精度が向上 コントロール領域の面積分布 Stretch grid • シュミット変換により領域に集中化 • 領域モデルとして利用可能 – 水平スケール1km以下の現象を解像 – 多数の感度実験が実行可能 局所集中格子による計算例 水惑星実験 • 雲の生成・変動を直接表現した世界初の全球 雲解像実験 (雲のパラメタライズなし) • 水惑星国際比較実験(国際的なモデル相互比 較プロジェクト)に基づく設定 実験の進め方 day 60 day 0 14km 格子 解析期間 day 90 慣らし計算 60日間 7km 格子 30日間 3.5km 格子 10日間 初期条件: 既存の気候モデル(240km格子、雲のパラメタライズあり)で予備計算 3.5年間 (CCSR/NIES/FRCGC AGCM) ひまわり6号画像(MTSAT) 200 km NICAM3.5kmの雲画像 1000 km スパークラウドクラスター周辺部の雲頂高度 スーパクラスターの東進 クラウドクラスターの西進 10N 5N EQ EQ 10S 5S 20E 80E 140E 30E 100E 140E 180 03Z 06Z 09Z 100E スーパークラウドクラスター NICAM (dx~7km) 観測 (Takayabu et al. 1999) 時間 May 1998 東方伝播 ~15m/s ~convectively coupled Kelvin wave 既存の大気大循環モデルとの比較 熱帯の降水のホフメラー図 NICAM (dx~7km) 時間 東方伝播 西方伝播 Produced by Dr. Williamson •温度、水蒸気 量はほぼ収束 •降水量は 3.5kmでも収束 せず •浅い雲のモデ ルなどが課題 (分解能数 100m必要) 現実海陸分布実験(低解像度) 降水量 ( NICAM 240km vs ERA40 ) Satoh,M.: Atmospheric circulation dynamics and general circulation models. Springer-Verlag and PRAXIS, ISBN: 3-540-42638-8, 643pp, 2004. 球面上の偏微分方程式に関する 2004年国際ワークショップ – 大気海洋の数値計算に関す る権威あるワークショップ – 北米以外で初の開催 – 佐藤がコンビーナをつとめる 研究の目的 • 「全球雲解像モデル」を気候・気象予測へ実利用化するため の諸課題を解決する • 熱帯のマルチスケールな積雲の階層構造の現実的なシミュ レーション 熱帯の数100kmスケールの積雲クラスターの組織化・運動 のシミュレーション • 手法「熱帯気象予測」 – 台風の発生・発達予測 – 季節内変動:日本の夏季の天候予測 – アジア・モンスーン域、梅雨前線帯のゲリラ豪雨 • 究極的には、全球的な大気大循環の数値予測精度の向上を 目的とする。 研究の構想 全球雲解像実験 (水平格子間隔 3.5km) 大循環モデル実験 観測データによる雲解 (水平格子間隔 像モデルの比較検証:衛 100km 以上)長時間 星データ、ゾンデ・レー 積分による降水特性 ダなどの現地観測 領域雲解像実験 ( 水平 格子間隔数 km 以下) 短時間気象予測にお ける熱帯・モンスーン 域での降水システム の再現 全球雲解像モデルによる熱帯気象予測 積雲の日変化、積雲クラスターの組織化、台風の発生、ゲリラ豪雨の予測、 季節内変動、降水の極端現象の再現・予測、気候感度の改善 ボルネオの日変化 (吉兼・原) TRMM 2A25 PR MRIGCMTL959 (20km-mesh) MM5 (Oct. 2003) TRMM 2A25 PR MRIGCMTL959 (20km-mesh) 5-year averaged, 44-hourly near surface rain (mm/hour) MM5 (Oct. 2003) 1-month averaged, 44-hourly precipitation (mm/hour) 1010-year averaged diurnal cycle of precipitation (mm/hour) 衛星データの高度利用 熱帯の積雲対流の初期値同化 数km解像度、3時間間隔 降雨の3次元構造 熱帯降雨衛星(TRMM) 全球降雨観測衛星(GPM) 2010年打ち上げ予定 研究体制 A: 地球環境フロンティア研究センター地球環境モデリング研究プログラム 佐藤 正樹、 富田 浩文、 三浦 裕亮、 那須野 智江、 伊賀 晋一 +研究員1 役割: 全球雲解像モデリングおよび実験の実施 B: 地球環境フロンティア研究センター水循環変動予測研究プログラム 吉兼 隆生、原 政之、福富慶樹、斉藤和之 役割: 寿命が数時間から数日の雲降水システムのモデリング 熱帯・モンスーン領域における短時間降水予測精度の向上 C: 地球環境フロンティア研究センター地球温暖化予測研究プログラム 對馬 洋子、鈴木恒明、田中博 役割:シミュレーションデータの解析 D: 地球環境観測センター 水循環観測研究プログラム: 森 修一、山中大学、伍 培明、一柳 錦平、濱田純一、佐々木 太一、荻野慎也 役割: 衛星および現地観測データとシミュレーションデータの比較解析による熱帯・モンスーン領 域の降水システムの検証 E: 東京大学気候システム研究センター 中島 映至、 高薮 縁 +研究員1 役割: 高解像度全球気候モデリング: 熱帯・モンスーン領域の降水システムの気候的なふるまいの改良 衛星観測データの解析による熱帯・モンスーン領域の降水システムの検証 F: 気象庁気象研究所 中澤 哲夫 役割: 衛星データとシミュレーションデータの比較解析による熱帯・モンスーン領域の降水システ ムの検証 研究計画 項目 平成17年度 (6ヶ月) 平成18年 度 平成19年 度 平成20年 度 平成21年 度 全球・領域雲解像 モデル比較実験の 準備 全球雲解像モデル 実験の実施 領域雲解像モデル 実験の実施 全球大気大循環モ デル実験の実施 データ解析 物理過程の改良 数値スキームの改 良 予測システム構築 まとめ 初期プロダクト 平成22年 度 (12ヶ月) 全球雲解像モデルNICAMの ES上での計算時間 • 全球3.5km実験 – 320ノード利用:1日計算に6時間 • 1セットに必要な計算時間:水惑星実験 – 14kmメッシュ: 90日間 = 5850ノード時間積 – 7kmメッシュ:30日間 = 7800ノード時間積 – 3.5kmメッシュ:10日間 = 20800ノード時間積 解析ルーチンを含めると4万ノード時間積必要 雲解像全球長期積分は本CRESTでは対象としない • 総計算時間(5年間) – 10万ノード時間/5年間 – 3.5kmメッシュによる全球実験計算3日積分を1ケース – 実験数5程度:1年間に1ケース • 領域モデル – NICAM:glevel-8 stretch 3.5km, 幅3000km:1日の計算に3時間10ノード – 1ケース 5日積分 150ノード積 ES利用計画 年度 計算時間 (node時 間積) リソース 比率(%) 17 9000 0.17 18 19 20 21 22 18000 18000 18000 18000 6000 0.34 0.34 0.34 0.34 0.1 •ESの計算時間が絶対的に不足: 10倍(3%)は必要 気候的特性を得るためには、月単位の長期積分が必要 将来展望 全球雲解像モデルの気象・気候予測への実利用化 • 気象予測: – 熱帯の雲降水システムを含む全球雲解像モデルによる数値予報 – 台風の発生・発達予測、週以上の短期予報の改善 – 初期値:GPM(全球降雨観測衛星)の利用 • 気候予測: – 雲降水システムの統計的なふるまいの改善 – 温暖化問題、IPCC 第5次報告書への貢献 • 台風の発生数の予測の改善 • 集中豪雨などの極端現象、旱魃予測 • ポストES:ペタフロップスマシーン時代への準備 – – – – – 全球雲解像モデルが標準化 400m格子全球大気モデル: 境界層の雲を解像 数km格子大気海洋結合モデル: 海洋モデルの高解像度化 物理過程の高度化:雲水エアロゾル統合ビンモデル、3次元放射 積雲対流レベルでのデータ同化 全球雲解像モデル予測システムの プロトタイプの構築 • • 熱帯における地上観測が豊富な事例実験を行い、シミュレーション データ、地上データ、衛星データの比較評価を行う。 「観測情報を援用する」ことで、実際に観測された積雲およびその 組織化を現実的にシミュレートする 予測実験のルーチン化:全球雲解像モデル予測システムを開発 適切な初期値の選定・作成 数値モデルによるシミュレーション 結果の妥当性の評価 モデルの改善 新しい手法の開発について • • • 本研究で用いる「全球雲解像モデル」は、正20面体格子など新しい数値計 算手法によって開発されたもの。 フィジックスの改良が主眼 多面体格子上の数値スキームは新しい分野であり、本研究グループでリー ドして研究分野を育成したい。 – 2004年度には、国際ワークショップ「球面上の偏微分方程式の数値解に関する 国際ワークショップ」を主催。 – 今後もワークショップを積極的に開催して関連する数値計算スキームの発展をめ ざす。 – 数値計算手法上の課題 • 多面体格子上での移流スキームの改良 • 変数の定義位置の変更による計算モードの低減 • 全球雲解像予測システムの構築: – 高解像度の衛星データ利用による全球雲解像モデル予報システムのプロトタイ プの開発を目指す。 – 適切な初期値の選定が必要:データ同化を含む適切な衛星データの利用 – 2010年打ち上げ予定の全球降水観測衛星(GPM)のデータの高度利用 Q. 新しい手法の開発という点がやや弱いとの印象 A. 多面体格子上での移流スキームの改良・変数の定義位置の変更による計算モ ードの低減が課題 速度予報にセミラグ を用いてたら計算モ ードは軽減される? default MPDATA Upwind biased PPM は ? 今後の活動 • • • • • • • 全体ミーティング、ワークショップ(国内/国際) – 年1-2回 – 第1回:10月3日実施 グループミーティング – 随時:月1回程度 雲解像モデルデータの共同利用 – データ量100TB程度 さまざまなoutreach 活動 海外研究者招聘 ポスドク2名の参加 5年後の成果物 – 予測向上のためのさまざまな知見 • 積雲クラスター力学の構築 – NICAMをコミュニティモデルとして成熟 • マニュアル、教科書(PRAXIS2) – 全球雲解像予報システム:熱帯気象予測システム – 衛星データGPMの高度利用:初期値データの選定・同化 要望 • ESの計算時間が絶対的に不足 卓越した成果をだすためには10倍(3%)は 必要