...

(GIS)利用技術

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

(GIS)利用技術
平成15年度
特許出願技術動向調査報告書
電子地図(GIS)利用技術
(要約版)
<目次>
第1章
第2章
第3章
第4章
はじめに ............................. 1
特許動向 ............................. 6
研究開発動向と市場動向 ............... 23
GIS利用技術の技術開発の将来展望 ... 27
平成16年3月
特
許
庁
問い合わせ先
特許庁総務部技術調査課 技術動向班
電話:03−3581−1101(内線2155)
第1章
第1節
はじめに
GIS 利用技術の概要
GIS(Geographic Information System;地理情報システム)とは、基礎となる電子地図に
地理的位置情報を持つデータを重ね合わせて解析を行い、必要な出力結果を視覚的に有効な
方法で得るシステムである。従来は、都市計画や防災の分野で研究者や自治体の関係者によ
る利用が中心であった。特に、日本では、阪神・淡路大震災を契機に GIS 利用の有効性が認
められ、研究開発が活発になった。
現在では、IT 政策の下に、周辺基盤整備を含めた研究開発が進められているところである。
店舗の出店計画等に代表されるエリアマーケティングや歩行者向けのナビゲーションシステ
ム等に利用用途が拡大してきており、GIS は、21 世紀の高度情報通信社会の重要なツールと
して位置付けられている。また、ハードウェア、ソフトウェアの廉価化に伴い、誰でも気軽
に GIS を利用することが可能な状況となってきており、利用用途のさらなる拡大が期待され
ている。
GIS 産業においては、パッケージソフトウェアのみでなく、ユーザーの用途に応じたシス
テムインテグレーションの伸びがみられることや、また、伸長の期待されるデジタルコンテ
ンツ産業においても、位置情報、地理情報の果す役割は大きいものと認識されていることな
どから、GIS に関連する産業や新規産業の育成が期待されている。
このようなことから、GIS 利用技術は今後、さらに重要なものとなっていくことが予測さ
れる。このため、GIS 利用技術の今後の研究開発の方向を示すことを目的として、経済活動
の状況、政策と技術発展の相関性、研究開発の動向、国際競争力についての特許動向を中心
とした調査を行う。
― 1 ―
GIS 利用技術の技術俯瞰図を第 1-1 図に示す。
GIS は、基礎となる空間データ、データの共有化を可能とするデータ交換標準、測位シス
テム等の GIS 基盤の上に成立っており、これらの整備状況が GIS 利用の実用化に与える影響
は大きい。
GIS 産業としては、航空写真等から地図データを、統計資料等から属性データ等を作成す
るデータベース産業、主にインターネット上に公開するデータを加工するコンテンツ産業、
GIS ソフトウェア産業、顧客のニーズに応じて GIS のシステム構築を行う産業などが考えら
れる。
GIS は、データ収集、データ処理、データ管理、データ解析、データ出力のそれぞれの機
能を持つ。これらの機能に関して、それぞれ特徴となる技術的な要素(以下、要素技術と記
す)がある。
第 1-1 図
GIS 利用技術の技術俯瞰図
ユーザー
行政、研究者、企業、NPO、個人
利用するシステム・技術
Web-GIS
測位技術
通信技術
利用用途
公共
サービス
(福祉、観光、
医療)
より楽しく、
より便利に、
より安心・安全に
自治体
行政
防災
危機管理
社会資本の
管理・活用
(施設管理
計画)
都市
計画
マーケ
ティング
(出店計画
顧客管理)
カーナビゲー
ション
教育
ヒューマン
ナビゲーション
(地域情報の
提供)
学術
環境
自然環境の
解析・保全
GIS
収集
処理
管理
解析
出力
GIS産業
データベース産業
GIS基盤整備
コンテンツ産業
空間データ整備
GISソフトウェア産業
データ交換標準整備
― 2 ―
GISシステム構築産業
測位システム
また、GIS の利用技術には、その利用用途、ユーザー属性等の違いによる特性がある利用
方法に関して特徴を持つものもある。近年は、ビジネスの方法に関する特許出願も活発であ
るため、利用用途、ユーザー属性等に関して、GIS の利用方法をモデル化することも、重要
な技術開発の一つとして位置付けられる。GIS の具体的な利用用途は、地籍の管理等の自治
体行政での利用、観光、福祉等の公共サービスでの利用、また現在位置情報を利用する交通
関連の利用では、カーナビゲーションでの利用とともに、近年は、ヒューマンナビゲーショ
ンでの利用も増加している。GIS は、国民生活をより楽しく、より便利に、より安心・安全
にしていく目的で、様々の分野で利用されており、今後も利用の拡大が期待される。
また、GIS 利用技術は、周辺の情報通信関連技術やシステムを利用し、開発が進められて
いく側面も大きく、なかでも、インターネットを用いて、GIS のシステム構成に変化をもた
らした Web-GIS に関する技術の注目度も高い。
GIS 利用技術は、大きくは、利用方法に特徴があるもの、要素技術に特徴があるものに分
けられる。また、これに GIS 利用のシステム構成に特徴があるものを加えて調査における分
類項目とする。
技術俯瞰図に示したキーワードを技術テーマと定義し、特許動向、論文にみる研究開発動
向、ユーザー会議にみる市場動向の分析軸として用いる。技術テーマの概要を第 1-2 表に示
す。
利用方法については、誰が(ユーザー属性)、どのような情報(データの構成要素)を用い
て、何を(利用の目的)行い、どのような効果を狙ったものかといった観点から整理する。
また、要素技術については、GIS の機能であるデータの収集・処理・管理・解析・出力機能
ごとの整理を行う。システムの構成としては、ホストコンピュータと情報処理端末との組合
せから、近年は、インターネットを用いた Web-GIS への変化が予測され、特に Web-GIS に関
する動向を中心として整理する。
利用方法
要素技術
GISのシステムの構成
第 1-2 表
技術テーマ
利用用途
GIS 利用技術の技術テーマ
技術テーマ項目
自治体行政、公共サービス、防災、環境、都市計画、
施設計画、施設管理、マーケティング、交通、農林・
水産、学術、教育
利用用途の効果
安全性、健康性、利便性、快適性
利用用途の目的
企画・計画、予防・予知、プレゼンテーション等
データの構成要素 自然環境情報、気象情報、交通状況等
ユーザー属性
行政、企業、研究者、個人
GISの機能
データの収集
データの処理
データの管理
データの解析
データの出力
収集時の形態、収集のタイミング
データ変換、データ補正、データ転送等
データ形式、データ構成、データ更新
空間計測、ネットワーク解析等
出力媒体、出力表示等
ホスト−端末
スタンドアローン
Web−GIS
― 3 ―
第2節
GIS 発展の概要
GIS 発展の概要を時系列で第 1-3 表に示す。
GIS は、1960 年代前半に、自治体業務を中心に実用的に用いられ始めた。1970 年代になる
とランドサットをはじめとした、衛星の打上げが開始され、自然環境の解析等の研究分野に
GIS が用いられるようになった。
学際的である GIS、GIS 利用技術を有効に取り扱うために、1980 年代末から、米欧で研究
機関の設立が続いた。
1982 年には、GIS の商用ソフトウェアが発売され、これにより GIS 産業が本格的に始動し
た。
1989 年に冷戦の終結が宣言されるとそれまで比較的、軍事利用目的で進められた GIS の技
術開発の指向に変化がみられるようになった。
一つは、インターネットと GIS とを組合わせた Web−GIS を用いたサービスが現れ、データ
共有の有用性が認識され、データ共有、データ交換のための標準化などの国際的な動きが活
発になった。
また、同時に IT における GIS、デジタルコンテンツにおける地図情報が国土管理に対して
有用であることが認識されてきた。米国では、ロマプリエータ地震(1989 年)、ノースリッ
ジ地震での対応を通じて、国土の危機管理への GIS の有用性が認識され始めた。
一方、日本では、阪神・淡路大震災を受け、1995 年に「地理情報システム(GIS)関係省
庁連絡会議」が設置され、GIS の利用を支える地理情報(地図データ、統計情報等)の整備
と相互利用の環境づくり等への取組みが行われ、一定の成果が現れている。2002 年には、
「GIS アクションプログラム 2002-2005」が決定された。これには、2002 年度から 2005 年度
までの4年間に、日本の GIS の整備・普及をより確かなものとするための行動計画が定めら
れている。この中で GIS は、「e-Japan 重点計画」を具体化し、行政の公共サービスの質の向
上や新しいビジネスモデルの創造等に対して、重要な役割を担うものとされている。
― 4 ―
時期
1962
1964
1969
1972
1974
1982
1985
1986
1988
1989
1991
1993
1994
1995
1998
2000/5/2
2002
2003/11/21
第 1-3 表 GIS に関連することがら
ことがら
カナダ、R.Tomlinsonのコンピュータマッピング,ベクターの農業復興
開発計画のため地図情報システム
米、URISA(都市地域情報システム学会)設立。GIS利用方法の検討
米 、 LCGS (Laboratory of Computer Graphics and Spatial
Analysis;ハーバード大学コンピュータグラフィックス空間分析研究
所)設立。GISの本格的な研究スタート。翌年GISソフト、ODYSSEYを
発表
第2回ICA(International Cartographic Association;国際地図学会
議)において、地図データの編集を電子化したオックスフォードシス
テムが展示された。
(日、大阪ガス爆発事故により、敷設情報のGISによる管理が進めら
れる)
ランドサット打上げ→RS(リモートセンシング)との関連により研究
への利用
日、UIS (Urban Information System;都市情報システム)。旧建設
省が作成したベクター型データによる地理情報システム。UIS IIのも
とになった。
日、国土庁 国土数値情報整備開始。
米、ESRI(Environment Systems Research Institute)により商用GIS
ソフトウェアが発売された。
日、東京ガスすべての供給先ルートを自社GISシステム(TUMSY)に登
録。
仏、SPOT打上げ
米、NCGIA(National Center for Graphic Information and Analysis;
国際地理情報解析センター)
英 RRL地域研究所が設立
(冷戦終結)
日、GIS学会設立。
日、国土地理院は数値地図10,000の販売を開始。
米、情報スーパーハイウェイ構想
米、ゼロックス社がインターネットを用いた地図配信サービスを行
う。
(米、ノースリッジ地震の際に、FEMA(米連邦危機管理局)等がGIS
を、被害状況の把握、対応計画の立案、救援活動等に活用)
米、オープンGISコンソーシアム(OGC)設立
ISO(国際標準化機構:)/TC211設立
(日、阪神淡路大震災を契機にGISの有用性が注目される)
日、GIS関係省庁連絡会議設置。
日、NSDIPA(国土空間データ基盤推進協議会)設立。
米、ゴア副大統領が提唱、「デジタルアース構想」
日、東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)設立
米、GPSのSA(Selective Availability,意図的にに測位精度を低下さ
せるもの)の解除→20m前後の精度→DGPS基地局を持たない途上国で
特に有効。
日、GISアクションプログラム2002-2005
欧、欧州宇宙機関(ESA)が日本において、
「ガリレオ計画」を紹介。
― 5 ―
備考
黎明期
横断的な組織
設立
Web-GISへ
標準化組織設
立
第2章
特許動向
第1節 特許出願動向
1.特許出願件数
1992 年から 2001 年に出願された GIS 利用技術の特許動向について示す。ただし、2001 年
に出願された特許については、検索実行時点(2003 年8月)のデータベースに全ての出願情
報が収録されてはいない。
ほぼ 10 年間の出願について、出願先特許庁の国及び地域別(以下出願先地域別と記す)に
比率を示したものが、第 2-1 図である。
各地域への出願件数の合計は、10 年間で 21,000 件を超える。
GIS 利用技術の出願のうち、日本特許庁への出願が 56%、米国特許庁への出願が 22%、EPC1
加盟国の特許庁2及び EPO3(以下、欧州と記す)への出願が 14%、日本以外の東アジアの各
国の特許庁4(以下、東アジアと記す)へ出願が 8%であった。東アジアの内訳については、
韓国への出願が最も多かった。米国特許庁への出願件数については、特許制度上の理由によ
り、2000 年以降に出願された特許の一部が公開されているのみであり、原則として、登録公
報発行数のみしか把握できない。このため、数値の比較には注意が必要である。また欧州及
び東アジアへの出願は、それぞれの地域内の複数の特許庁への出願をパテントファミリー5と
して持つ場合は1件とし、経年推移については、優先権の基礎となる特許出願の出願年を用
いて整理した。
第 2-1 図
GIS 利用技術の出願先地域別出願比率
(総件数:21,148 件)
東アジアへ
の出願
欧州への 8%
出願
14%
日本への
出願
56%
米国への
出願
22%
1
EPC:欧州特許条約
EPC 加盟国のうち、キプロス、トルコ、ギリシア、リヒテンシュタイン、モナコに関しては、DWPI のデータ
収録対象外であるため、調査対象となっていない。
3
EPO:欧州特許庁
4
対象国と DWPI のデータ収録期間は以下のとおりである。台湾(1993 年以降の公開データ)
、中国(調査範囲
期間全般)
、韓国(調査範囲期間全般の登録データ及び 1997 年以降の公開データ)
5
パテントファミリーとは、優先権データ等によって、同一の発明であると考えられる特許群をいう。
2
― 6 ―
出願件数の比率を出願人の国籍別に示した値を第 2-2 図に示す。出願人の国籍は、基本的
には、優先権の基礎となった特許出願の出願先地域とした。また、複数地域に出願された同
一技術は1件として数えた。10 年間に出願された特許の技術の数は、16,000 件余りである。
日本国籍の出願人によるものが 66%と高く、米国の 22%がこれに次いでいる。欧州国籍の
出願人による出願は、7%と多くはない。韓国を主とした東アジア国籍の出願人による出願
が5%であった。
第 2-2 図
GIS 利用技術の出願人国籍別出願比率
(総件数:16,007 件)
欧州国籍
出願人
7%
東アジア国
籍出願人
5%
米国国籍
出願人
22%
日本国籍
出願人
66%
― 7 ―
2.三極相互出願及び登録状況
以上に示した出願について、出願先地域別、出願人国籍別の出願及び登録状況の相互関連
を示す。
第 2-3 図に日米欧等の地域間の GIS 利用技術に関する相互出願の状況を示す。
図は、日本への出願のうち、88%が日本国籍の出願人であり、8%が米国国籍の出願人の
出願、欧州地域の国籍の出願人の出願が3%を占めることを意味している。1992 年から 2001
年の間の日本特許庁へのすべての特許出願のうち、外国からの出願比率は、10.3%であるこ
とと比較して、GIS 利用技術の外国からの出願比率は、ほぼ平均的な状況である。
図中の矢印上の数字は、それぞれの出願件数を示す。例えば、日本国籍の出願人が米国特
許庁へ出願した件数が 1,057 件、米国国籍の出願人が日本特許庁へ出願した件数が 954 件で
あることを意味する。日米間では、日本から米国への出願が 100 件程度多い。日欧間では、
欧州から日本への出願が 306 件に対し、
日本から欧州への出願が約2倍程度の 655 件と多い。
米欧間では、欧州から米国への出願が 344 件に対し、米国から欧州への出願が約3倍の 1,134
件と多い。欧州への出願においては、欧州国籍の出願人よる出願が 37%のみとなっている。
第 2-3 図
GIS 利用技術の地域間相互出願状況
欧州
3%
日本への出願
(11,899 件)
東アジア
1%
その他
0.4%
米国
8%
日本
88%
東アジア
その他
2%
1%
東アジア
2%
その他
2%
欧州
7%
日本
22%
日本
23%
欧州
37%
米国
37%
米国
67%
欧州への出願 (3,025 件)
米国への出願 (4,672 件)
第 2-4 図に日米欧等の地域間の相互登録状況を示す。日本国籍の出願人の特許 658 件が米
国において登録されており、この件数は、日本国籍の出願人の日本における登録件数の約
62%である。米国国籍の出願人の特許 280 件が欧州で登録され、欧州国籍の出願人の特許 223
件が米国で登録されているように、米欧間の往来が比較的活発であるが、各地域間ともに、
活発な相互登録状況が窺える。
― 8 ―
第 2-4 図
GIS 利用技術の地域間相互登録状況
日本での登録 (1,294 件)
欧州
2%
東アジア
1%
米国
9%
その他
0.1%
日本
88%
その他
東アジア 1%
1%
欧州
45%
東アジア
2%
欧州
7%
日本
19%
米国
34%
その他
1%
日本
21%
米国
69%
米国での登録 (3,476 件)
欧州での登録(909 件)
3.出願件数の経年推移
日米欧における出願先地域別の GIS 利用技術の特許の出願件数の経年推移を第 2-5 図に示
す。図に示す全体の件数は、パテントファミリー1グループを1件とした件数であり、優先
権の基礎となる特許出願の出願年によって整理した。
GIS 利用技術の出願は、1995 年から漸増し、2000 年に大きな伸びを示した。これは、出願
件数比率の高い日本への出願の影響が大きいためである。
GIS 利用技術の日本への出願は、同様に、1995 年から漸増し、2000 年に大きな伸びを示し
た。1995 年の漸増の要因は、1995 年 1 月に起った阪神・淡路大震災により GIS の有用性が認
められ、開発が活発になったためと考えられる。2000 年の大きな伸びの要因は、ビジネス方
法の特許出願が増加したことに加えて、カーナビゲーションの利用を中心に進められてきた
GPS を用いた測位技術の精度が高くなったこと、通信環境の整備が拡充してきたことから、
GIS 利用技術がより現実的なものとなり、開発が活発化したことなどが考えられる。
米国においては、日本より1年早く 1994 年以降 1997 年まで漸増し、2000 年に若干の伸び
が認められる。これは、1994 年に起ったノースリッジ地震が、日本の阪神・淡路大震災と同
様の影響を与えているものと考えられる。また、1994 年着手されたデータ交換、データ共有
の標準化の協同開発の前に、各社独自の技術についての特許出願が行われたことによる影響
も考えられる。2000 年の伸びが大きくない点については、米国国籍出願人の米国のみへの出
願については、原則として公開されておらず、また、検索実行時に、登録に至っていないた
め、出願件数が把握できていないことも理由のひとつとして考えられる。
欧州においては、1995 年以降漸増傾向にある。これは、第 2-3 図に示した地域間の相互出
願状況を加味して考えると日米からの出願の影響が現れているものと考えられる。
― 9 ―
なお、2001 年の出願については、各地域とも、全ての出願情報が含まれてはいない点に注
意が必要である。
第 2-5 図
GIS 利用技術の出願経年推移(出願先地域別)
4,000
3,500
全体
日本への出願
米国への出願
欧州への出願
3,000
出
2,500
願
件 2,000
数 1,500
1,000
500
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
出願年
4.出願人の状況
10 年間の出願総件数と出願人の数を比較すると、日本への出願では、出願人一人あたり 3.5
件程度、米国への出願では、2.1 件程度、欧州への出願では、1.7 件程度であった。
各年ごとの日米欧それぞれに出願された特許の出願件数と出願人の人数の関係を第 2-6 図
に示す。また、各年ごとの出願人一人あたりの出願件数の平均値は、日本への出願が、2.4
件、米国への出願が 1.5 件、欧州への出願が 1.3 件程度であった。2001 年のデータ収集が完
全でないため注意が必要であるが、日米欧への出願とも、データ不足分を考慮にいれても、
2000 年の出願人数がピークを示し、2001 年の出願人数は、減少に転じているものと考えられ
る。
第 2-6 図
出願人数と出願件数の関係(出願先地域別)
1000
2750
日本
米国
欧州
2500
2001
1998
1997
2000
1996
2250
750
1995
1992
2000
2000
1994
1993
2001
1997
1998
1996
1750
出 1500
願
件
数 1250
500
1999
1998
1996 1997
1992 1995
2000
1000
750
1993
0
250
0
500
日本
米国
欧州
0
1994
0
1999
1995
1992
1993
1994
250
2001
2000
1999
2001
500
250
1993
1995
1992 2001
1998
1999
2000
750
1000
出願人数
1250
1500
― 10 ―
250
500
750
特に、日本においては、ビジネス方法の特許出願が増加した 2000 年に多くの出願人の参入が
あったものと考えられる。
日本への出願における出願人を 1992 年以降継続して出願している出願人か、その年に新規
に参入した出願人かによって区分した人数の推移を第 2-7 図に示す。新規参入の出願人は、
毎年 60%前後おり、出願人の数は、1995 年以降、漸増しており、2000 年には、出願人数の
77%と多くの新規参入がみられる。調査範囲の期間中を通じて、毎年継続的に出願を行った
出願人は、すべて民間企業で、42 の出願人に留まっている。そのうち、39 の出願人は、出願
件数が上位 50 位以内に入っている出願件数も多い企業である。
第 2-7 図
新規参入出願人(日本への出願)
1400
新規参入出願人
継続出願人
1200
1000
出
願
人
数
800
600
400
200
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
出願年
1998
1999
2000
2001
同様に、米国、欧州それぞれへの出願における出願人の新規、継続の別を第 2-8 図、第 2-9
図に示す。米欧とも新規参入の度合が高く、ともに、毎年 70%前後が新規参入の出願人であ
る。
米国で 10 年間通じで出願を行っているのは、日本企業 9 社を含む、14 社のみである。こ
れらの企業は、10 年間の出願件数の上位に位置する企業ばかりであり、電気通信メーカーが
中心である。
欧州で 10 年間通じで出願を行っているのは、日本企業 5 社、米国企業 4 社を含む 10 社の
みで、欧州地域内で継続して出願を行っているのは、SIEMENS AG(独)のみである。
第 2-8 図
新規参入出願人(米国への出願)
600
新規参入出願人
継続出願人
500
出
願
人
数
400
300
200
100
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
出願年
― 11 ―
1998
1999
2000
2001
第 2-9 図
新規参入出願人(欧州への出願)
500
新規参入出願人
継続出願人
400
出
願
人
数
300
200
100
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
出願年
1998
1999
2000
2001
民間企業の業種による出願比率を第 2-10 図に示す。出願件数が 10 件以下で、業種が特定
できない企業については、対象外とした。日米欧とも、電気通信メーカーの出願比率が高い。
米欧では、ソフトウエア、情報サービス業が次いでいる。欧州で多いサービス業の中心は、
BRITISH TELECOM 、FRANCE TELECOM などの通信サービス業である。日本では、カーナビゲー
ション技術を強みとした自動車及び自動車部品メーカーを始めとして、製造メーカーからの
出願も少なくはなく、情報通信産業の出願が中心となっている米欧と異なった出願人の業種
構成となっている。
第 2-10 図
0%
出
願
人
国
籍
日本
10%
20%
30%
出願人の企業の属性
40%
49%
出願比率
50%
60%
6%
70%
11%
80%
16%
90%
6%
100%
8%
2%
3%
米国
欧州
70%
43%
19%
23%
7%
6% 3%
1% 2%
5%
21%
1%
電気通信メーカー
GISベンダー、地図、印刷業
サービス業
ソフトウエア、情報サービス
その他の製造業
公益
自動車及び自動車部品
建設、建設コンサル、測量業
日米欧それぞれに出願した特許の出願件数の多い出願人について示す。日米欧それぞれに
ついて、上位出願人とその出願件数を第 2-11 表から第 2-13 表に示す。出願人の表記は、日
本国籍の出願人については、漢字かな表記、外国国籍の出願人については、アルファベット
表記とし、地域外からの出願人について、国籍の国、地域等を付記した。
日本への出願では、上位5社の出願件数が全体の約 20%を占め、上位 20 社の出願が全体
の約 40%を占めている。
同様に米国への出願では、出願件数1位の IBM の出願が全体の約8%
を占め、上位5社の出願件数が全体の約 15%、上位 20 社の出願が全体の約 30%、欧州では、
上位5社の出願件数が全体の約 12%、上位 10 社の出願件数が約 20%、上位 20 社の出願件数
が全体の約 27%となっている。
― 12 ―
日本への出願については、国内企業が上位をほぼ占めている。これに対し、米国への出願
では、日本企業が目立ち、欧州の KONINK PHILIPS ELECTRONICS、韓国の SAMSUNG ELECTRONICS
なども上位に現れている。
上位出願人の業種は、日米欧とも総合電気メーカー、コンピューターメーカー等の情報通
信業が中心である。日本企業では、日本電装、アルパイン、アイシンエイダブリュなどのカ
ーナビゲーション技術を強みとした企業の出願も目立っている。
第 2-11 表 日本への出願の
上位出願人
順位 出願人
件数
1 日立製作所
630
2 松下電器産業
577
3 東芝
515
4 日本電気
497
5 日本電信電話
405
6 富士通
375
7 ソニー
336
7 キヤノン
336
9 三菱電機
295
10 カシオ計算機
209
11 IBM CORP(米)
177
12 シヤープ
165
13 リコー
150
14 日本電装
140
15 大日本印刷
114
16 三洋電機
101
16 富 士 ゼ ロ ツ ク
101
ス
18 アルパイン
100
19 セ イ コ ー エ プ
95
ソン
20 アイシン エイ
94
ダブリユ
第 2-12 表 米国への出願の
上位出願人
順位 出願人
件数
1 IBM CORP
412
2 キヤノン
108
3 MICROSOFT CORP
102
4 富士通
100
5 ソニー
6 HEWLETT-PACKARD CO
7 SUN
MICROSYSTEMS
INC
8 日立製作所
9 松下電器産業
10 日本電気
11 KONINK
PHILIPS
ELECTRONICS NV(欧)
12 XEROX CORP
13 東芝
14 INTEL CORP
15 三菱電機
16 シヤープ
17 セイコーエプソン
18 SAMSUNG ELECTRONICS
CO LTD(韓)
19 LUCENT TECHNOLOGIES
INC
19 MOTOROLA INC
19 ORACLE CORP
19 パイオニア
98
97
91
81
79
76
62
57
56
55
50
37
34
32
29
29
29
29
第 2-13 表 欧州への出願の
上位出願人
順位 出願人
件数
1 IBM CORP (米)
143
2 HEWLETT-PACKARD
91
CO (米)
3 KONINK
PHILIPS
74
ELECTRONICS NV
4 キヤノン
74
5 松下電器産業
66
6 SIEMENS AG
58
7 SUN MICROSYSTEMS
54
INC (米)
8 ソニー
53
9 三菱電機
46
10 日本電気
40
― 13 ―
11 XEROX CORP(米)
12 富士通
13 東芝
14 パイオニア
15 EASTMAN KODAK CO
(米)
16 LUCENT
TECHNOLOGIES INC
(米)
17 SAMSUNG
ELECTRONICS
CO
LTD (韓)
17 シヤープ
17 TELEFONAKTIEBOLA
GET ERICSSON L M
20 BOSCH GMBH ROBERT
20 NCR CORP (米)
38
36
32
30
28
27
26
26
26
25
25
5.技術テーマの出願状況
調査対象とする出願された特許を技術テーマに分類した結果を解析する。
技術テーマは大きく次の2つに分けられる。一つは、GIS の機能について特徴がある要素技
術に関するテーマと利用用途、ユーザー属性等に特徴がある利用方法に関するテーマである。
発明の名称に「方法」、
「装置・システム」が含まれるものと、要素技術、利用方法に関す
る技術テーマが付与されたものの相関を第 2-14 図に示す。出願総件数が比較的同規模になる
点と、2000 年以降は件数増加が大きく出願の内容にも変化が現れることが予測される点など
を考慮し、調査対象範囲の 10 年間を前半の5年間(前半)、1997 年から 1999 年の3年間(中
期)、2000 年、2001 年の2年間(後期)の出願に分けて相関を示す。
調査範囲前半では、「装置・システム」−「要素技術」の組合せの出願が最も多く、
「方法」
−「利用方法」に関する出願の 3.5 倍程度の出願ある。調査範囲中期では、「方法」−「利用
方法」に関する出願の伸びがみられ、「装置・システム」−「要素技術」は、件数規模は大き
いが、相対的には伸びがみられない。調査範囲後期では、「方法」−「利用方法」の伸びが大
きく、また、発明の名称に「装置・システム」が含まれるものについても、利用方法に関す
る出願が多くなっている。
これらのことから、ハード技術は、調査範囲前半に、技術開発、特許出願が先行し、現在
でも一定の特許出願規模が保たれており、利用方法等のソフト技術が、ハード技術に追随し
て用途開発、特許出願が進められていることが推察できる。
第 2-14 図
発明の名称と技術テーマの種類の関係
出願時期
調査範囲前半
調査範囲中期
(1992∼1996年出願)
調査範囲後期
(1997年∼1999年出願)
(2000年∼2001年出願)
3
3
3
利用方法
2
1854
761
マ
要素技術
1
2658
1160
装置・
システム
方法
2
1831
1209
2
3369
2754
1
2188
1381
1
3212
2432
装置・
システム
方法
ー
技
術
テ
0
0
1
2
0
0
3
0
1
発明の名称
― 14 ―
2
3
0
装置・
システム
1
方法
2
3
(1)利用方法による分類解析
技術テーマの利用方法のうち、いずれかの分類が付与されたものの件数の比率を出願人
国籍別に第 2-15 図に示す。
全体として増加傾向にあり、特に日本出願人による出願における伸びが大きく、2000 年、
2001 年の出願では、出願件数の 80%以上が、何らかの利用方法について特徴を持つ出願と
なっている。
第 2-15 図
利用方法に関する出願比率の経年推移(出願人国籍別)
100%
日本国籍出願人
米国国籍出願人
欧州国籍出願人
90%
80%
70%
出
願
比
率
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
出願年
利用用途に関する分類結果の出願比率を出願人国籍別に第 2-16 図に示す。
付加価値のある自動車の航行に適用される技術、ヒューマンナビゲーションに関する技
術を含む交通に関する出願が、各出願人国籍で最も比率が高い。次いで、物流、観光、福
祉、医療・診療、防犯等を含む公共サービスに関する出願の比率が高い。3番目に比率が
高いのは、各地域とも商圏把握、出店管理、顧客管理等を含むマーケティングに関する出
願である。このほか日本では、上下水道等のインフラストラクチャや建築物の施設管理を
用途とする出願が比較的多いことが特徴であり、米国では、農林水産や環境に関する用途
についての出願が比較的多いことが特徴である。
公共サービスに関する出願について、出願地域別にみると、日本では物流、米国では医
療・診療、欧州では観光に関する出願がそれぞれ多くなっている。
第 2-16 図
利用用途の出願比率
出願比率
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
日本国籍出願人
米国国籍出願人
欧州国籍出願人
自治体行政
公共サービス
防災
環境
都市計画
施設管理
マーケティング
交通
農林水産
学術
― 15 ―
施設計画
100%
利用用途に関する分類結果の日本における出願経年推移を第 2-17 図に示す。用途の分類
項目が多く、件数の少ない項目が複数あるため、グラフが煩雑になるのを避けるために、
(a)
、(b)の2つのグラフに分けて記載した。
伸びが大きい利用用途は、交通、公共サービス、マーケティングである。また、件数規
模は大きくはないが、防災、環境、学術を利用用途とする出願の増加もみられる。
第 2-17 図 利用用途に関する出願経年推移(日本への出願)
(a)自治体行政∼施設計画
(b)施設管理∼学術
2001
2000
1999
1998
1997
1996
出願年
出願年
自治体行政
防災
都市計画
1995
1994
1993
1992
600
500
400
300
200
100
0
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
出
願
件
数
1992
出
願
件
数
600
500
400
300
200
100
0
公共サービス
環境
施設計画
施設管理
交通
学術
マーケティング
農林水産
データ構成要素の分類結果の経年推移を出願先地域別に第 2-18 図に示す。
日本への出願では、全体の出願件数の伸びがあった 1995 年に設備・施設情報を用いる内
容の出願の増加がみられる。全体での出願比率が高い商情報を用いる内容の出願は、1996
年から徐々に増加し、2000 年に大きく増加した。2000 年の増加率が高いものは、商情報、
現在位置情報、地域複合情報(身の回りのエリア情報、タウン情報等からなる)である。
現在位置情報と地域複合情報は組合せて用いられることも少なくない。
米国への出願では、1995 年に商情報、統計・属性データに関する出願が増加し、現在に
至っている。
第 2-18 図 データ構成要素に関する出願経年推移(1/2)
日本への出願
米国への出願
250
1600
1400
200
1200
出
願
件
数
1000
出 150
願
件
数
100
800
600
道路情報
現在位置情報
地域複合情報
交通情報
イベント情報
商情報
設備・施設情報
不動産情報
土地利用情報
統計・属性データ
気象情報
自然環境
400
50
200
0
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
出願年
出願年
― 16 ―
第 2-18 図 データ構成要素に関する出願経年推移(2/2)
欧州への出願
東アジアへの出願
150
道路情報
現在位置情報
地域複合情報
交通情報
イベント情報
商情報
設備・施設情報
不動産情報
土地利用情報
統計・属性データ
気象情報
自然環境
150
100
出
願
件
数
出
願
件
数
50
100
50
0
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
出願年
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
出願年
(2)要素技術による分類解析
技術テーマの要素技術のうちいずれかの分類が付与されたものの件数の比率を、出願人
国籍別に第 2-19 図に示す。
全体として大きな変化はないが、日本国籍出願人の出願について、2000 年に出願比率が
減少していることについては、利用方法による出願件数が大きく伸びため、相対的に要素
技術に関する出願比率が減少したものと考えられる。
第 2-19 図
要素技術に関する出願比率の経年推移(出願人国籍別)
100%
日本国籍出願人
米国国籍出願人
欧州国籍出願人
90%
80%
70%
出 60%
願
50%
比
率 40%
30%
20%
10%
0%
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
出願年
GIS の機能による分類結果を、出願先地域別に、第 2-20 図に示す。
各地域ともデータの出力に関する出願の比率が最も高い。日本における出願では、デー
タ収集がこれに次いでいる。米欧における出願では、データ処理に関する出願がデータ出
力に関する出願に次いでいる。米欧においては、データ処理、データ管理の GIS の内部機
能に関する出願比率が、日本と比較して高いことが特徴である。
日本と米欧との特徴の違いは、第 2-10 図に示した出願人の業種別出願比率において、米
欧では、情報通信産業が出願の中心であること、第 2-15 図に示した利用方法に関する出願
― 17 ―
比率が日本において高いこと、などと合せて考察すると、日本における出願が、データ収
集とデータ出力のよりユーザーに近い機能に関する出願の内容が多いことが考えられる。
第 2-20 図
要素技術の出願比率
出願比率
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
日本への出願
米国への出願
欧州への出願
データ収集
データ処理
データ管理
データ解析
データ出力
データ出力機能に関する出願のなかでは、近年、移動体への出力に関する出願が各地域
で増加している。移動体への出力をさらに詳細に分けて分類結果の日本への出願と米国へ
の出願の経年推移を第 2-21 図、第 2-22 図に示す。
出力先の移動体としては、人間が所持することが中心である携帯電話、PHS 等の携帯端
末と自動車車両に取りつけられるカーナビゲーションとが考えられる。日米とも、携帯端
末、カーナビゲーションのどちらも増加傾向にある。日本での出願件数は、1999 年までは
カーナビゲーションへの出力に関するものが最も多かったが、2000 年の出願において交代
し、2000 年以降は、携帯端末への出力に関するものが最も多くなっている。
第 2-21 図
出
願
件
数
700
600
500
400
300
200
100
0
移動体への出力の分類(日本への出願)
携帯端末
カーナビゲーション
1992 1993
1994 1995 1996 1997 1998 1999
出願年
第 2-22 図
2000 2001
移動体への出力の分類(米国への出願)
80
携帯端末
カーナビゲーション
出 60
願
40
件
数 20
0
1992
1993
1994
1995
1996 1997
出願年
― 18 ―
1998
1999
2000
2001
GIS のシステム構成のうち、特にインターネットを用いた Web-GIS に関する出願の件数推
移を第 2-23 図に示す。
Web-GIS に関する出願は、1992 年には、全地域において認められなかった。1993 年に各地
域における出願が認められるが、これは、米欧国籍の出願人によるものである。日本国籍の
出願人による出願は、1995 年に初めて認められる。東アジア国籍の出願人による出願は、1996
年に初めて認められた。
各地域とも 1995 年以降、漸増していおり、特に日本への出願における 2000 年の伸びは大
きい。
第 2-23 図
Web-GIS に関する出願比率の経年推移(出願先地域別)
700
600
日本への出願
米国への出願
欧州への出願
東アジアへの出願
500
出
願
件
数
400
300
200
100
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
出願年
1998
1999
2000
2001
6.大学の出願動向
日米欧の大学による出願の地域間の相互出願状況を第 2-24 表に示す。
大学による出願の件数規模は、GIS 利用技術全体の出願に対して大きくはない。特に日本、
欧州の大学の出願件数は少なく、米国の大学の出願が他地域と比較すると多い。
また、米国の大学は、日本、欧州の他地域への出願を積極的に行っている状況が窺える。
第 2-24 表
日本の大学
米国の大学
欧州の大学
大学による出願の地域間相互出願件数
日 本 へ 米 国 へ 欧 州 へ 計
の出願
の出願
の出願
9
0
0
18
46
19
0
1
10
9
47
10
また、各地域の大学の要素技術に関する出願と利用方法に関する出願の比率を第 2-25 図に
示す。これは、出願された特許が、要素技術に関する分類が付与されたもの、利用方法に関
する分類が付与されたものそれぞれの調査対象件数に対する比率である。
ここでは、日米欧の大学のほかに、自国への出願のみではあるが、中国の大学の出願が8
件と比較的多いため、対象とした。大学全体の出願における比率は、出願件数の多い、米国
の比率に類似した値となっている。要素技術に関する出願比率が高いのは、欧州、米国、中
国、日本の順番で、利用方法に関する出願比率が高いのは、日本、中国、米国、欧州の順番
である。
― 19 ―
第 2-25 図
0%
20%
各地域の大学の出願の技術テーマ
出願比率
40%
60%
80%
100%
大学全体
出
願
人
日本の大学
要素技術比
利用方法比
米国の大学
欧州の大学
中国の大学
各地域の大学の出願の要素技術の構成比を第 2-26 図に示した。全体の出願比率と比較して、
米欧の大学では、データ解析に関する出願比率が高い。また、米国でデータ管理に関する出
願、欧州でデータ処理に関する出願が比較的多い。日本及び中国の大学では、データ収集、
データ処理に関する出願が目立つ。
第 2-26 図
0%
20%
大学の出願の要素技術構成比
出願比率
40%
60%
80%
100%
全体
出
願
人
データ収集
データ処理
データ管理
データ解析
データ出力
大学全体
日本の大学
米国の大学
欧州の大学
中国の大学
― 20 ―
7.まとめ
日本では、利用方法に関する出願が多く、GIS の機能についてもユーザーに近いデータ収
集やデータ出力に関する出願比率が高い。これは、自動車の航行の利用用途に注力して開発
が進められたカーナビゲーションの出願が日本で突出していること、特許出願が多い日本企
業の業種が情報通信産業に限られず、GIS を利用している業種に及んでいることなどが理由
として考えられる。
GIS 利用技術に関する出願について、周辺技術、システムとの融合状況及び利用方法の多
様化の概念図を第 2-27 図に示す。数字は、それぞれの技術、システム、利用方法に関する
1992 年と 2001 年の出願件数である。
インターネット、GPS、携帯電話などの GIS 利用を支える周辺システム、技術との融合が進
み、GIS 利用技術の出願が活発になったことが窺える。また、無線 LAN、RFID(Radio Frequency
Identification)などの ID タグ、双方向通信、準天頂衛星などのシステム、周辺技術を取り
込んだ GIS 利用技術に関する出願が萌芽的に起っていることが分る。
GIS 利用方法としては、商圏把握等のマーケティングへの利用に関する出願が、大きく伸
びており、利用方法に関する出願の伸びの要因であることが分る。歩行者への経路案内や地
域情報等を携帯電話等に出力し歩行者へ情報提供を行うヒューマンナビについては、1992 年
には、関連する出願が認められなかったが、2001 年には、30 件の出願がみられた。今後さら
に伸びが期待される。また、観光、医療、防災、農林水産などへの利用に関する出願も伸び
を示している。また、GIS ユーザーとして、消費者、歩行者といった個人ユーザーに対する
内容の出願も増加しており、利用方法の多様化の一要因となっている。
GIS 利用技術の特許出願動向は、調査範囲の期間中に周辺技術との融合が進み、利用方法
の多様化が進んだことが推察される。
第 2-27 図
GIS 利用技術の発展概念図
GIS利用技術
1992年
凡例 出願件数
2001年
出願件数
総数
3446
総数
972
消費者 6
43
歩行者 1
38
個人ユーザーの増加
周辺技術との融合
649
250
0
インター
ネット
19
GPS
GIS
32
携帯電話
4
0
無線LAN
8
0
IDタグ
28
2
双方向通信
1
0
準天頂衛星
644
― 21 ―
商圏把握
出店管理
顧客管理
26
観光
5
ヒューマン
0
ナビ
279
85
30
医療
1
57
防災
2
48
農林水産
0
9
GIS利用方法の多様化
第2節 特許権利の活用事例
国内新聞データベースによって、GIS 利用技術及び GIS 利用を支える周辺技術に関連する
特許ライセンスの活用状況に関する記事の検索を行った。概要を第 2-28 表に示す。
GIS 利用を支える周辺技術のうち、測位技術関係の基本特許についてのライセンシングに
よる権利活用が行われていることが窺える。
現在位置を表示する場合、位置の測定に GPS 測位技術が有効である。このような技術は、
米国企業が所有しており、日本企業もライセンス供与を受けている。
近年では、日本の大学の特許を企業利用する事例や日本のベンチャー企業の特許が米国企
業に利用される事例もみられる。
第 2-28 表 GIS 関連の特許ライセンス
ライセンシー
ライセンス対象技術
(利用者)
記事
ライセンサー
掲 載 (権利者)
年
衛星測位技術の基本特
1993
米、トリンブル・ パイオニア
1
許
ナビゲーション
(CA)
US 4,754,465他
1998
米、スナップトラ NTT 移 動 通 信 網 GPSを活用した携帯端末
向け位置情報確認シス
ック(CA、ベンチ (NTTドコモ)
テム
ャー企業)2
US 5,781,156他
1999
米、スナップトラ 日本電気(NEC)
GPSを活用した携帯端末
ック(CA、ベンチ
向け位置情報確認シス
ャー企業)
テム
US 5,781,156他
1999
フジタ
米、DMJM(、コロ 非接触メモリー(IDタ
ラド州、建設エン グ)を用いた道路管理シ
ジニアリング)
ステム
2001
先端科学技術イン インフォコム(日 「 グ ル ー バ ル ベ ー ス 」
キュベーションセ 商岩井系情報サー (XML対応機能、データ
ンター(東京大学 ビス会社)
共有機能)
TLO)
2002
ローカス(大阪市) 米、大手通信事業 携帯電話の電波強度か
3
者
ら端末の位置確定
1
2
3
活用方法等
車載用、レジャーボー
ト用の民生利用のナビ
ゲーションシステム
携帯電話を活用したト
ラックの運行管理、歩
行中の位置確認
携帯電話を活用したト
ラックの運行管理、歩
行中の位置確認
ITS事業
自社のネット検索技術
と連携させ、システム
提案を行う
米国の新法(E-911法)
に対応
トリンブル・ナビゲーション(Trimble Navigation)
、創立 1978 年、1984 年より GPS 製品の販売。
スナップトラック(Snaptrack),1999 年に日本法人設立。
1997 年設立のベンチャー企業。
― 22 ―
第3章
研究開発動向と市場動向
第1節 論文にみる研究開発動向
GIS 利用技術に関する論文にみる研究開発動向について示す。
1993 年から 2002 年の 10 年間の GIS 利用技術に関する論文を対象とした、著者の所属地域
別にみた論文数の比率を第 3-1 図に示す。その他に含まれる主な地域は、カナダ、オースト
ラリアである。なお、データベースの特質上、日本で発行された論文誌の収録対象件数が多
めになるため、日本所属の著者の比率が高めとなっている。
また、著者の所属地域別の論文数の経年推移を第 3-2 図に示す。米国、欧州は、増加傾向
ではあるが、大きな変動がみられないのに対し、日本は、1993 年以降、堅調に伸びを示して
いる。これは、1991 年に GIS 学会が設立され、GIS 利用技術についての日本の研究者の報告
の場が広がったことが一つの要因であると考えられる。
第 3-1 図
著者所属地域別論文比率
(1993−2002)
その他
11%
インド
2%
中国
2%
日本
39%
欧州
16%
米国
30%
第 3-2 図
日本
米国
欧州
中国
インド
その他
180
160
140
120
論
文
数
論文数の経年推移
100
80
60
40
20
0
1993
1994
1995
1996
1997
1998
発行年
― 23 ―
1999
2000
2001
2002
論文報告の技術テーマのうち、利用用途に関する報告数の比率を著者所属地域別に第 3-3 図
から第 3-5 図に示す。日米欧とも「環境」に分類される自然環境の解析等に関する利用の比
率が多く、特にその傾向は、米欧で顕著である。
第 3-3 図
論文報告の技術テーマの報告数比率(著者所属:日本)
(N=839)
学術
農林・水産・鉱業 4%
9%
自治体行政
3%
教育
4%
公共サービス
5%
防災
18%
交通(運行支援)
マーケティング 9%
1%
施設管理
4%
施設計画
3%
環境
24%
都市計画
16%
第 3-4 図
論文報告の技術テーマの報告数比率(著者所属:米国)
(N=605)
学術
0.5%
農林・水産・鉱業
交通(運行支援) 4%
13%
マーケティング
1%
施設管理
2%
施設計画
4%
第 3-5 図
教育
1%
その他
0.2%
自治体行政
1%
公共サービス
5%
防災
14%
環境
41%
都市計画
14%
論文報告の技術テーマの報告数比率(著者所属:欧州)
(N=319)
農林・水産・鉱業
11%
学術
2%
教育
2%
その他
0.3%
自治体行政
4%
公共サービス
2%
交通(運行支援)
5%
マーケティング
1%
防災
16%
施設管理
1% 施設計画
1%
都市計画
13%
環境
42%
― 24 ―
このほかの特許分析と同様の分類結果については、以下のような動向がみられた。
・データ構成要素については、日米欧とも自然環境情報、土地利用情報、統計データを用
いるものが多く、これらの利用用途は、環境に分類されたものが多かった。
・データ収集の方法では、日米欧とも衛星写真等のリモートセンシングを用いた内容のも
のが多かった。
・他地域への投稿の傾向を見ると日本から米国、欧州への投稿は少ない。また、米国、欧
州からの日本への投稿も非常に少ない。比較すると、米国から欧州、その他地域から欧
州への投稿は多い。
第2節 ユーザー会議にみる市場動向
GIS ベンダー各社は、毎年 GIS 利用方法の事例、GIS の新技術等の発表を中心としたユーザ
ー会議を行っている。中でも、1980 年から行われている米国の ESRI の主催する国際ユーザ
ー会議は、参加者数、規模等圧倒的なものである。日本でも、GIS ベンダー各社が同様の会
議を行っており、GIS ユーザーの情報交換、事例紹介の場として有用性が認められている。
ここでは、実際に用いられている利用用途の動向を示すものとして、これらの会議で報告さ
れる発表の GIS の利用用途について調査結果を示す。日本の GIS ベンダーのユーザー会議の
報告における利用用途別の比率を第 3-6 図に、同様に米国について第 3-7 図に、また参考と
してインドについて第 3-8 図に示す。
日米を比較すると、日本のユーザー会議での報告の技術テーマは、自治体行政、施設管理
に偏重の傾向がある。米国のユーザー会議では、自治体行政、防災、環境に関する報告が多
いが、幅広い技術テーマについて、議論されている様子が窺える。また、教育については、
ユーザー会議の日程に合せて、教育会議が別途設けられ、活発な議論が行われている。
インドにおけるユーザー会議では、防災、環境を利用用途とした報告が多いが、2002 年と
2003 年とを比較すると、2003 年には、各テーマそれぞれに報告がある。
第 3-6 図 日本のユーザー会議の技術テーマの報告数比率
2002 年(N=35)
2003 年(N=43)
農林水産
鉱業
11%
交通(運行
支援)
0.0%
マーケティ
ング
0.0%
学術
3%
農林水産
鉱業
交通(運行 0.0%
教育
3%
施設管理
20%
施設計画
都市計画 環境
3%
9%
6%
自治体行
政
36%
公共サービ
ス
0.0%
防災
9%
自治体行
政
35%
支援)
7%
マーケティ
ング
2%
公共サービ
ス
0.0%
施設管理
26%
施設計画
2%
― 25 ―
学術 教育
0.0% 7%
都市計画
7%
環境
5%
防災
9%
第 3-7 図 米国のユーザー会議の技術テーマの報告数比率
2002 年(N=737)
2003 年(N=662)
教育
25%
学術
1%
農林水産鉱
業
4%
交通
5%
マーケティン
グ
1%
施設管理
6%
施設計画
2%
自治体行政
16%
農林水産
鉱業
6%
公共サービ
ス
8%
公共サービ
ス
8%
交通
マーケティ 3%
ング
2%
防災
16%
都市計画
4%
学術
3%
自治体行
政
20%
教育
17%
施設管理
5%
施設計画
1%
都市計画
5%
環境
12%
防災
18%
環境
12%
第 3-8 図 インドのユーザー会議の技術テーマの報告数比率
2002 年(N=64)
2003 年(N=48)
農林水産
学術
鉱業
0.0%
15%
交通
12%
マーケティ
ング
3%
施設管理
3%
施設計画
0.0%
都市計画
14%
第3節
自治体行
政
9%
学術
農林水産
2% 自治体行
鉱業
政
13%
11%
公共サー
ビス
8%
公共サー
ビス
15%
交通
13%
マーケティ
ング
4%
施設管理
2%
施設計画
都市計画
0.0%
6%
防災
24%
環境
12%
環境
21%
防災
13%
GIS 市場予測
国土空間データ基盤推進協議会により、2000 年5月に報告された日本国内の GIS 市場規模
に関する推計データによると、1999 年に 6,800 億円であった市場が、2005 年には3兆 6,100
億円、2010 年には6兆 1,400 億円へと急速に伸びることが予測されている。特に民間業務に
おける市場の伸長が著しいものと予測されている。
第 3-9 図
日本の GIS 市場規模予測
単位:億円
国土空間データ基盤推進協議会:http://www.nsdipa.gr.jp/CONTENTS/report/research/GISmarket.htm
― 26 ―
第4章
GIS 利用技術の技術開発の将来展望
第1節 技術的将来展望
特許出願動向からは、近年、インターネット等の情報通信技術を用いて、新しい GIS の利
用方法を提示するビジネス方法的な特許出願が増加傾向にあることが分った。特に、日本で
の出願が活発である。また、GIS 利用技術は、調査対象範囲である 10 年間において、周辺技
術との融合が進み、利用方法が多様化している状況がみられる。近年は、周辺技術、システ
ムに関しては、準天頂衛星や RFID が注目され、これらを様々な利用用途に用いる内容の出願
が萌芽的にみられる。
一方、GIS を支える周辺技術のうち、衛星や GPS を用いた測位技術に関する特許は、米国
企業に保有されており、日本の幾つかの企業がライセンス提供を受けている。
また、米国は、GIS のソフトウェアの開発の着手が早く、かつ活発であったことなどから
GIS の基本的な機能に関する技術に関して先行していることが窺える。
GIS ユーザーについては、歩行者、消費者といったユーザーに関連する技術の特許出願が
増加していること、GIS 市場として、家庭での市場、民間業務における利用の伸びが予測さ
れていることなどから、
これまでの GIS を意識的に利用する行政担当者、
研究者の利用から、
GIS を意識することなく利用している一般利用者への拡大期にあり、かつ今後もその傾向は
続くものと考えられる。
一方、GIS を意識的に利用するユーザーによって、実空間の複雑なシミュレーションを、
より高精度に、より現実に則して解析可能とする技術開発が進められていることが窺える。
また、関係省庁及び自治体等の行政により、GIS 利用に必要な空間データ基盤等の整備が
進められているところであるが、これらのデータが適宜更新されることが、GIS 利用にとっ
て重要となる。これらのデータ更新業務は、行政のみでなく、民間企業、NPO、個人の参加が
有効であり、対応する NPO の活動もみられる。
このような中で、
日本が目指すべき GIS 利用技術の技術開発の方向性について以下に示す。
1.要素技術開発の将来展望
GIS 機能のうち、データ収集とデータ出力に関する技術については、これまでの日本での
注力度が高く日本の技術的な優位性が窺えること、またこれらの技術は、利用方法との関連
性が高く、GIS ユーザーや利用用途の違いによって新たな開発課題の発生が考えられること、
情報通信環境技術の進展に伴い、より快適で付加価値の高いデータ収集やデータ出力の可能
性が考えられことなどから、今後も注力すべき技術分野であると考えられる。
ただし、これらの技術の実用化にあたり、測位技術や通信技術等の周辺技術の特許が、障
害になるか否かの認識が必要である。
特許出願動向のほか、主要なプレイヤーの動向等から、要素技術としては、データ収集機
能、データ出力機能に関する以下のような技術開発が必要と考えられる。
(1)データ収集に関する技術
・測位技術及びセンシング技術
― 27 ―
・3次元センシング技術
・無線 LAN 等と衛星利用のシームレスな測位技術
・プローブカーシステムに代表される双方向のデータ通信の利用技術
・利用者に負荷のかからないデータ収集技術
(2)データ出力に関する技術
・表示技術
・3次元 GIS(画像データ圧縮技術、選択技術、画像生成技術)
・4次元 GIS(業務管理データとの親和性向上等)
2.利用方法拡大の将来展望
通信技術、ネットワーク技術などの周辺技術、GIS の要素技術などの技術的な成熟を背景
に可能になった利用方法について、多様なニーズを的確に把握し、他との差別化を図った用
途開発が重要である。
日本では、当初より民生による利用が中心であった GIS 利用の経緯や、カーナビゲーショ
ンの普及率や携帯電話によるインターネット接続の普及率が高く、地図に対する親しみが高
いといわれている国民性から、一般市民のニーズによって育つ利用方法の開発が活発である
と考えられる。一般ユーザーのニーズ、ウォンツを的確に引出し、モデル化を行い、権利化
に耐え得る行政サービスを含めた業務・ビジネスの方法を構築することが、今後更に重要に
なってくるものと考えられる。
また、現状では、市場性はあまり大きくはないが、自治体の防災利用などで GIS 利用が拡
大されつつあるといわれていることなどから、環境・防災への利用(危機管理、国土安全管
理)について発想転換を行い、これまでの蓄積技術を活用する方法を考えることが望ましい
と考えられる。
廃棄物処理や地球環境保護関連の規制や環境物質の情報に関連する PRTR 法に代表される
情報公開制度に対応する GIS 利用用途や日常の安心・安全を実現する用途でのニーズは存在
するものと考えられる。
また、従来、計算機の能力や広範囲な地域のデータ取得が困難であることなどから、限ら
れた区域や地域でのケーススタディに留まっていた GIS 利用用途の広範な地域への利用の可
能性も考えられる。
さらに、地球環境問題の解決に向けた研究において、環境工学等の学問分野と融合し、GIS
を活用することにより、日本の研究開発力、技術力の高さを示すことも必要であろう。
3.まとめ(融合的な将来展望)
GIS 利用技術の技術開発は、周辺技術を的確に取り入れ、利用方法の開発を行うことやそ
れを実現する要素技術の開発を行うことが必要である。
例えば、RFID は、非接触によりデータ通信が可能な近年注目されているシステムである。
これを用いて、通信により得られる人や物に関する情報を、その位置や場所の情報に関連付
け、履歴を含めて管理することが可能となる。このようなシステムを用いた、商品管理や物
流、作業所内での安全管理や徘徊者の管理等の利用用途での GIS 利用技術の技術開発や特許
出願が活発になりつつある。このような RFID 等の周辺技術を活用し、新たな GIS の利用用途
― 28 ―
に関しての業務やサービスの方法をモデル化し、行政サービスを含めた業務・ビジネスの方
法を構築する利用方法の開発やそれを実現する要素技術の開発が考えられる。
また、行政の情報公開制度によって得られる環境物質の地理的分布情報等の新たな情報を
活用した利用方法の開発も考えられる。
第2節 技術開発を促す周辺環境整備の課題
技術開発を促す周辺環境の整備として、日本が取組みべき研究開発体制及び周辺基盤整備
について述べる。
特許出願動向からは、主要なプレイヤーとして、情報通信業のプレイヤーの存在が大きい
ことが認められた。ただし、日本では、情報通信業のプレイヤーに偏らず、幅広い業種のプ
レイヤーが存在することが示された。
論文等の研究開発動向からは、大学や公的な研究機関が、防災や環境への GIS 利用に関し
て研究開発を行っていることが窺える。
また、特許出願動向からは、共同出願等はあまり多くはなかったが、主要プレイヤーの取
組み事例からは、企業間の連携による研究開発が行われていることが窺える。
1.研究開発体制
Web-GIS やモバイル GIS の進展により、通信関連の周辺技術の強化が必要となり、GIS ベン
ダーが、情報通信業のプレイヤーと連携して研究開発を進めることが有効となる。企業は、
自社の強みを活かし、有効なパートナーを選択する必要がある。地図に対する嗜好の類似性、
国民性の類似性を考慮に入れると、アジア地域において、有効な共同研究のパートナーを視
野に入れて研究開発体制を整える可能性も考えられる。
また、学際的な研究機関の設立や GIS 学会の設立に成果がみられることからも、大学や公
的研究機関が、学際領域で連携して研究開発を進めることが GIS 利用技術にとっては重要で
あり、今後、GIS 利用方法が多様化する中でさらに重要となるものと考えられる。教育的な
面からは、現在 GIS 学会が教育プログラムの作成等を行い人材育成を担っている。
GIS 利用の有効性を広く知らしめて、ユーザーの裾野を拡大するために、行政主導の社会
実験の実施が大きな役割を果しているところである。
2.周辺基盤整備
周辺基盤整備については、データベースの強化と GIS 利用にあたってのコンセンサスの形
成等が挙げられ、具体的には以下のような内容が含まれる。
行政によって、GIS 利用に必要な空間データ基盤等の整備が進められているところである
が、これらのデータ更新業務における民間企業、NPO の参加が有効である。対応する NPO の
活動もみられ、今後もこのような活動が活発となることが期待されている。
プローブカーシステムに代表される双方向のデータ通信による情報収集やそれを用いた
GIS 利用に関する技術開発や特許出願が行われている。このような技術に基くサービス等を
行うにあたり、社会的には、収集した情報の公開、第3者への提供に対するガイドライン等
の周知を含め、サービスの享受に伴うリスクの発生に対する一般のユーザーを含めたコンセ
ンサスの形成が望まれる。併せて、情報漏洩を防止する周辺技術の開発も期待される。
― 29 ―
一般市民の利用を想定した GIS 利用方法の技術開発も活発になっており、また、GIS 利用
技術は、多岐にわたる問題解決のための技術とも考えられることなどから、利用者が、潜在
する利用方法を具現化していくことで、利用方法の方向性が現れるものと考えられる。この
ため、産官学を含めた社会全体として、地図情報、位置情報を用いて何が解決できるか新し
い発想を生みだすことができる環境や GIS を利用する能力(GIS リテラシー)の育成が必要
あるのではないだろうか。例えば、GIS に親しむための廉価な若しくは、フリーの GIS ソフ
トウェアの開発や流通も GIS リテラシーのポテンシャルアップに対して有効であると考えら
れる。
第3節 結論
現在は、従来型の GIS から、Web-GIS に代表される GIS への拡大期であることを見据え、
携帯端末によるインターネット利用技術やカーナビゲーション技術において培われた日本の
優位性を利用する必要がある。
特にカーナビゲーション技術における日本の強みには、ユーザーのニーズを満たす利用方
法のモデル化が含まれるものと考えられる。このような技術は、カーナビゲーション以外の
GIS 利用技術においても日本の強みとなっていくことが期待される。
これらの技術開発を促す周辺環境の整備も必要である。
― 30 ―
Fly UP