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平成27年度 くまもと農業アカデミー 病害の基礎
平成27年度 くまもと農業アカデミー 病害の基礎 農業技術課農業技術支援室 戸田 世嗣 植物の病気 誘因 誘因 環境要因 (温湿度、pH) 主因 素因 病原体 (病原性) 植物の素質 (抵抗性) 発 病 主因 素因 病気は主因(病原体)・素因(植物の性質)・誘因(気象 その他の環境条件)が揃ってはじめて成立する 病害防除の考え方 誘因 誘因 気象・環境等 発 病 主因 素因 主因 素因 病原体 植物の素質 病害防除は、主因を取り除く作業(方法)である 病原の種類 大きく4つのグループに分けられる •ウイルス・ウイロイド ・ファイトプラズマ •細菌(=バクテリア)・放線菌 •糸状菌(かび) ウイルスの特徴 電子顕微鏡でしかウイルス自体は確認 できない 症状での判断が第一歩(モザイク、縮 葉、奇形、巻葉、わい化等) 生きた細胞内でのみ増殖する 植物が枯れるまでウイルスは死なない 感染した植物には治療薬はない 農薬での治療はできない 電子顕微鏡写真 ひも状のウイルス 球形のウイルス カボチャ モザイク症状 キュウリ緑斑モザイク病(CGMMV) トマトモザイクウイルス(ToMV) 茎のえそ症状 葉のモザイク症状 果実のえそ症状 えそ斑点病(MNSV) 大病斑 地際:コルク化 小病斑 巻きひげ:褐変 ホップわい化ウイロイド(HSVd) スモモのハニーローザにおける斑入果症と黄化症果 ○汁液によって伝搬し、接ぎ木、剪定作業等によって感染が拡大 ○大石早生やソルダムでは、病徴が現れ難く、貴陽やハニーローザでは現 れやすい。 ウイルスの伝染方法 種子伝染 栄養繁殖による伝染(株分け、挿し木、 球根等) 虫媒伝染(アブラムシ、ウンカ、ヨコバイ 、コナジラミ、アザミウマ等) 土壌伝染(菌やセンチュウが媒介するこ ともある) 汁液・接触伝染(管理作業での伝染) 虫媒伝染性ウイルスについて イネ萎縮病 キュウリモザイク病(CMV) ツマグロヨコバイ ワタアブラムシ モモアカアブラムシ 媒介害虫を防除して回避 近年問題となっている背景 ○海外から薬剤抵抗性を発達した微小害虫とともに侵入 ⇒薬剤による媒介害虫の防除が困難 ○切れ目のない栽培体系や作型の長期化 ⇒媒介害虫の顕在化や感染リスク増大 イネ縞葉枯病(RSV) 媒介虫:ヒメトビウンカ ・最高分けつ期に縞葉枯病に感染すると、 不稔となり収量が低下する。 ・梅雨時期に中国から飛来するヒメトビウン カが運んでくる。飛来数が増加傾向 ・一部、箱施薬剤に対する感受性低下個体 が飛来し、越冬増殖している可能性 イネ南方黒すじ萎縮病(SRBSDV) 萎縮株 穂の出すくみ 撮影:県農研センター病害虫研究室 媒介虫:セジロウンカ 梅雨時期に中国から飛来するセジロウンカ が運んでくる。 発病すると、株の萎縮、穂の出すくみ等に より収量減となる。 大きな被害は出ていないが、ベトナム、中 国でのウイルス及びセジロウンカの発生・ 飛来量次第では被害が懸念される。 ウリ科退緑黄化ウイルス(CCYV) メロン・キュウリ退緑黄化病・スイカ退緑えそ病 媒介虫:タバココナジラミ メロンでは、退緑小斑点が発生し、それが拡大や融合して黄化する。 黄化は、下位葉から上位葉へと進展する。 発生時期が早いほど、果重が軽く、糖度が低くなる。 トマト黄化葉巻病(TYLCV) 媒介虫:タバココナジラミ 発病すると生長点付近の葉が黄化、縮葉し、生育が止まる。 そのため、着果せずに大きな収量減となる。 生育初期に発病すると収獲皆無となる場合もある。 トマト黄化病(ToCV) 媒介虫:コナジラミ類 〇初期症状として葉の一部の葉脈間が退緑黄化し,斑状の黄化葉となる。 〇生理障害の苦土欠乏症に類似している。 〇発病株は、生育が抑制され収量が減少する。 トマト黄化えそウイルス(TSWV) 媒介虫:ミカンキイロアザミウマ アザミウマ類 葉にはえそ症状や退緑輪紋等 果実はえそ斑点や奇形 TSWVの宿主範囲 トマト茎えそ病(仮称) 茎や葉のえそ症状 果実の変形・着色不良 キク茎えそウイルス(CSNV) による感染症状 虫媒伝染性ウイルスの防除対策 入れない 無病苗の確保。 物理的防除(防虫ネット等)による媒介害虫の侵 入防止。 増やさない 薬剤による防除。 発病株の除去。 園内の除草(暖房機周辺は要注意)。 出さない 栽培終了後の密閉処理(10日以上)。 残渣の枯死、片付け。 ウイルス病防除のポイント(主に野菜) 治療薬はないため、引き抜き、ほ場外に必ず 処分 虫媒伝染性ウイルスでは「入れない」、「増や さない」、「出さない」 対策の徹底 抵抗性品種等の利用 ウイルス病防除のポイント(主に果樹) 高接ぎには注意 ・台木やほ木も感染している可能性 ・できるだけ苗木を植栽 剪定時には必ずハサミやノコギリを 樹毎に消毒 疑わしい樹は早めに更新 細菌の特徴 桿状細菌 ①平均的な大きさは、1 ~5μm程度。 ②一個の細胞からなる 単細胞微生物で、大部分 の細菌は、二分裂法によ って増殖する。 ③形状は、球状、桿状及 びらせん状。 細菌の伝染源と侵入方法 伝染源 〇被害茎葉の組織中 〇種子の内部や表面 〇土壌中 〇雑草 侵入方法 〇自力で植物の表皮組織 織を破って侵入するこ とはできない 〇気孔などからの感染 〇傷口からの感染 〇根や地際部からの感染 イネ白葉枯病 キャベツ黒腐病 トマト青枯病 萎ちょう症状 ショウガ青枯病 〇ショウガ科由来のレース4(トマトやナス由来のレースではない) 〇平成9年に高知県で国内初確認、九州では鹿児島県(H20)、長崎県、宮崎 県で発生 〇下位葉が黄化し、萎凋する。その後上位葉へ進展し、枯死する トマトかいよう病 トマトの軟腐病 キュウリ斑点細菌病 カンキツ かいよう病 細菌病の防除のポイント 予防散布 ・台風などの前には必ず ・強風を避ける対策も同時に 抵抗性台木等の使用 土壌消毒の実施(青枯病等) 糸状菌の特徴 糸状菌顕微鏡写真 ①糸状菌は、細長い糸状の 菌糸からなっている。 ②菌糸の幅は、0.5μm以上 から100μm以上のものまであ るが、一般に4~10μmのも のが多い。 ③糸状菌には、変形菌類・真 菌類(べん毛菌類、接合菌類 子のう菌類、担子菌類、不完 全菌類がある。 イネいもち病 ムギ赤かび病 うどんこ病 うどんこ病胞子 トマトうどんこ病 Oidium neolycopersici ●葉の表面にうどん粉をふりかけたような白いかび ●被害部は黄化 Oidiopsis sicula ●葉の裏側にわずかに白いかびを生じる。 ●被害葉の表面が黄化し褐変 灰色かび病 トマト萎ちょう病 スイカつる割病 イチゴ萎黄病 ピーマン炭疽病 新発生 炭そ病 病原菌 Colletotrichum scovillei 従来発生 炭そ病 Colletotrichum gloeosporioides Colletotrichum capsici 果実への 発生症状 円から楕円形に陥没し同心円状に病斑が広がる。 分生子塊 の色 オレンジ色、鮭内色 褐色から黒色 被害部位 葉、茎、果実 果実(未熟果でも発生) 葉、茎、果実 果実(主に熟果) 伝染源お よび感染 方法 〇被害残さとともに主に土壌中で越冬 〇降雨等で土壌から跳ね上がり感染 〇被害果の分生子が降雨等で飛散し感染 ダイコンの白さび病とわっか症 トマトのすすかび病と葉かび病 〇黒に近い褐色 〇盛り上がなく平面的 〇明るめの灰褐色 〇盛り上がって立体的 (0~15個の隔壁を有する鞭状) (単胞もしくは2胞の紡錘形) 糸状菌の伝染方法 風媒伝染:空中に胞子が漂って広がる。 水媒伝染:水とともに移動する。 土壌伝染:土壌中に病原菌が存在。 種子伝染:種子の内部や外部に病原菌 が存在。 糸状菌防除のポイント 初期防除の徹底 ・開口部付近 ・湿気の溜まりやすい場所 ほ場環境の整備 ・通気性の向上を図る。 ・排水対策 効果的な薬剤の使用 病害の診断 ほ場診断:ほ場での発生実態を観察し診断 〇発生状況の特徴 〇病徴や発生部位 〇ほ場環境 植物診断:被害植物自体から病原体を診 〇顕微鏡等による観察 〇培養による観察 〇血清や遺伝子レベルの解析 〇検定植物による診断 発生状況による病害の診断 ○発生場所による診断 ・全体的に発生(薬害や管理不良による障害も) ・局所的に発生(ウイルス病や土壌病害) ・開口部付近に多く発生(虫媒伝染性のウイルス 病や細菌病) 〇発生の広がり方による診断 ・畝や列に沿って(管理作業での広がっている可 能性、ウイルス病や細菌病) ○昨年の発生状況による診断 ・発生源は前年の被害残さの可能性(土壌病害) 病原体の大きさ 各病原体の診断法 病原体の 種類 ウイルス 依頼しての 診断方法 診断にかかる時間 血清による診断 (エライザ法) 遺伝子による診断 (PCR法) 生物検定 (検定植物への接種) 2日から1~2週間 長ければ1ヶ月以上 細菌 顕微鏡による観察 血清による診断 培養による観察 検鏡時から 1~2週間 糸状菌 顕微鏡による菌糸や胞 検鏡時から 子の形態観察 1~2週間 培養による観察 写真の撮り方(病害) ○全体的な発生状況がわかるもの ○株全体 ・株の上部で発生か?下部で発生か? ○病気の特徴(病徴)をアップで ・かびが見える。 ・輪紋状に広がっている。 ○内部も撮影 ・導管の褐変 サンプルの取り方(病害) ○上から下まで 地上部の変化は地下部も関係 ○重いものから軽いものまで 被害が甚から軽まで (腐れ等進んでいると雑菌が多くなるため不可) 病害の進展がわかるもの ○苗ものはポットのまま 継続観察できるように ○新鮮なもの