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「学習評価と指導の改善」に関する研究

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「学習評価と指導の改善」に関する研究
-Bプロジェクト-
Bプロジェクト
研究主題「学習評価と指導の改善」に関する研究
算数科・数学科
主幹兼室長 中野 洋一
指導主事
岡村 誠也
研究協力員
研究協力員
研究協力校
研究協力校
研究協力校
苓北町立志岐小学校
宇城市立不知火中学校
山鹿市立山鹿小学校
山鹿市立山鹿中学校
熊本県立鹿本高等学校
教諭 口脇 大作
教諭 岡村 尚
教諭 佐方 俊文
生活科
◎指導主事
根本 まり子
研究協力員
研究協力校
甲佐町立白旗小学校
山鹿市立山鹿小学校
音楽科
指導主事
中村 理恵
研究協力員
研究協力校
南小国町立南小国中学校 教諭 山部 由美
山鹿市立山鹿小学校
柴田 信孝
研究協力員
津奈木町立津奈木中学校 教諭 犬童 昭久
河野 満理
中島 誠
研究協力校
研究協力校
玉名市立有明中学校
熊本県立宇土高等学校
岡部 昌道
松﨑 聡一郎
井 正成
研究協力員
研究協力校
熊本県立松橋西支援学校 教諭 小川 俊郎
熊本県立御船高等学校
美術科
指導主事
道徳教育
指導主事
指導主事
特別支援教育
主幹兼室長
指導主事
指導主事
※◎はプロジェクトリーダー
本研究は,評価の観点「思考・判断・表現」の学習評価において,知識・技能を活用する
学習活動とパフォーマンス評価等を位置付けた授業を設計し,検証授業を通してその有効
性を明らかにし,学校現場で活用できる単元モデル,授業モデルを示すものである。
各教科においては,1単元,あるいは1単位時間に,知識・技能を活用する学習活動の
場面を設定し,そこにパフォーマンス課題を位置付け,ルーブリックにより見取りを行い,
指導の改善につなげた。
特別支援教育では,パフォーマンス課題を解決していく過程において,
「分かりやすい
授業づくり」と「生徒の実態や特性に配慮した指導の工夫」の視点に立った授業設計を,ま
た,道徳教育においては,総合単元的な道徳学習計画にパフォーマンス課題を位置付け,
また,道徳の時間の学習活動において,主体的な言語活動,自己評価,ポートフォリオ評
価を設定し,生徒の変容の見取りを行い,指導の改善につなげた。
その結果,本研究の授業設計は,児童生徒の思考・判断の結果だけではなく,思考の過
程を見取ることができ,また,児童生徒の学ぶ意欲の向上にも効果があることが明らかに
なった。
「思考・判断・表現」
活用を図る学習活動
- 51 -
パフォーマンス課題
ルーブリック
-Bプロジェクト-
1 研究の目的
92
(1) 「思考・判断・表現」
Bプロジェクト1年次の研究においては,新たに設
0%
20%
定された評価の観点「思考・判断・表現」と,他の観
点と密接に関係する「関心・意欲・態度」の観点の評
40%
知らない
8
60%
80%
知っている
100%
図2 パフォーマンス評価の認知度調査
価の在り方をもとに,各教科・領域の特質に応じた学
実際,この観点をどのような方法で評価を行ってい
習評価を指導の改善に生かす授業を設計し,検証授業
るのか研究協力員(校)(N=75)に意識調査を行った結
を通してその有効性を明らかにすることができた。
果が表1のとおりである。なお,調査項目に関しては,
そこで今年度は,他プロジェクトとも関連の深い
「学習指導と学習評価に対する意識調査報告書」を参
「思考・判断・表現」の1観点に絞り,この評価の在
考にアンケートを作成した。
り方についてBプロジェクトの理論を構築し,それに
表1「思考・判断・表現」の評価方法に対する意識調査
評価方法(当てはまるものを3つまで選択)
単元の区切りなどで実施する,業者作成のワーク
シート(又はそれに相当する実技課題)
単元の区切りなどで実施する,教員の自作テスト
やワークシート(又はそれに相当する実技課題)
中間や期末などに実施する定期テスト(又はそれ
に相当する実技課題)
基づいて共通実践を図ることが必要であると考えた。
(2) パフォーマンス評価
評価の観点「思考・判断・表現」を評価する方法と
して,パフォーマンス評価に焦点を当てた。
「児童生徒
の学習評価の在り方について(報告)
」1)には,
「思考
力・判断力・表現力等を評価するに当たって,
『パフォ
児童生徒が,自分で課題を選択し,調べたことや
考えたことに基づいて,レポートを書いたり発表
したりする課題
ーマンス評価』に取り組んでいる例も見られる。
」と述
べられている。
松下2)は「学力を,パフォーマンス(ふるまい)の
授業における教員の発問に対する反応等の観察
(又は授業において課されている実技課題への
取組状況等の観察)
児童生徒が記述したノート
児童生徒が記述した振り返りシートや児童生徒
に対するアンケート
挙手や発言の回数,宿題提出,忘れ物の頻度など
ワークシートや集めた資料などを長期的に蓄積
した学習ファイル(ポートフォリオ)
教師自らの経験や見識に基づく総合的な判断
その他の方法
形にして見えるようにすることを『可視化』
,パフォー
マンスからその背後にある学力を推論することを『解
釈』と呼ぶことにすれば,パフォーマンス評価とは,
『パフォーマンス課題』によって学力をパフォーマン
スへと可視化し,ルーブリックなどを使うことによっ
てパフォーマンスから学力を解釈する評価方法だとい
うことができる。
」と言っている(図1)
。
人
18
38
47
14
24
22
9
16
7
7
0
多様な評価方法で,児童生徒の「思考・判断・表現」
の評価を行っていることがうかがえるが,単元の区切
りなどで実施するワークシートや,各学期の中間や期
末などに実施する定期テストで評価している教師が多
く,また,挙手や発言の回数などで評価している教師
も見られる。
図1 パフォーマンス評価の構図
そこで,この評価方法について研究を推進し,学校
しかし,Bプロジェクトの研究協力員(校)
(N=75)
現場で活用できる単元モデル,授業モデルを示してい
において,この評価を知っていると答えたのはわずか
くことは,本教育センターの役割であると考えた。
8%で,
そのうち活用したことがあると答えた研究協力
(3) 活用を図る学習活動
員(校)は,3人であった(図2)
。
平成 20 年1月,中央教育審議会答申において,
「習
つまり,この評価については,先進的な研究を進め
得・活用・探究」という考え方が示された。学力の重
ている学校もあるが,学校現場で十分活用できている
要な要素の一つである,思考力・判断力・表現力等を
とは言えない。
育成するために,各教科等の指導の中で知識・技能を
- 52 -
-Bプロジェクト-
活用する学習活動を充実させることが重視されている。
しかし,昨年度の熊本県学力調査の結果から,依然と
実践単元(主題)の選定(教材の選択)
して児童生徒の活用する力に課題が見られる。また,
目標の明確化,目標の分析
評価規準(評価内容)作成
知識・技能の活用を図る学習活動について「授業内容
や指導方法が具体的にイメージできるか」という問い
児童生徒の実態把握
に対して,研究協力員(校)(N=75)の 44%が,
「どちら
かというとできない」
「できない」
と答えている
(図3)
。
13.3
0%
42.7
20%
40%
できる
どちらかというとできない
40
60%
80%
単元構成,指導方法の検討
4
100%
どちらかというとできる
できない
単元の指導計画
単元の評価計画
※知識・技能を活用す
る学習活動の位置付け
※パフォーマンス評価
等の位置付け
図3 活用を図る学習活動について授業内容や
指導方法のイメージに関する意識調査
学習指導案の作成
このことは,授業設計において活用を図る学習活動
図4 授業設計の手順
を十分位置付けられていないか,あるいは,その指導
2 研究の視点と方法
の改善が十分に図られていないものと考えられる。
(1) 研究の視点
「児童生徒の学習評価の在り方について
(報告)
」
には,
○知識・技能を活用する学習活動とパフォーマンス評
パフォーマンス評価とは,
「一定の課題の中で身に付け
価等を位置付けた授業設計
た力を用いて活動することを通してその力を評価する
(2) 研究の方法
方法であり,課題解決の場面において身に付けた力を
①各教科・領域ごとに,知識・技能を活用する学習活
複合的に活用する姿を見取る評価である。
」
(※下線は
動とパフォーマンス評価等を位置付けた単元モデ
筆者)と述べられている。この下線の活動は,知識・
ル,授業モデルを作成する。
技能を活用する学習活動であると言える。この活動の
②各教科・領域ごとに,研究協力員(校)による検証授
中で用いられるのがパフォーマンス課題である。熊本
業を行い,授業における客観的資料の分析や意識調
県学力調査や全国学力学習状況調査B問題もパフォー
査等による検証結果の分析,考察を行う。
マンス課題であるととらえる。
③昨年度の熊本県学力学習状況調査で課題が見られた
これらのことから,1 単元あるいは 1 単位時間の中
項目について研究協力員(校)の児童生徒の意識の
に活用を図る学習活動を位置付け,そこにパフォーマ
変容を分析し,本研究との関連を考察する。
ンス課題を設定することで,児童生徒の「思考・判断・
④研究協力員(校)における教師の学習評価と指導の改
表現」を連続的に見取り,指導の改善につなげること
善に関する意識の変容を分析し,本研究が学校現場
ができるのではないかと考えた。
に活用できるものであるかを考察する。
(4) 授業設計
そこで,図4に示すとおり,昨年度Bプロジェクト
で作成した授業設計の手順に,本年度はパフォーマン
ス評価等と活用を図る学習活動を位置付け,指導の改
善を図り,この研究成果を提供していくこととする。
なお,
パフォーマンス課題を解釈するに当たっては,
ルーブリックを作成することとする。
また,Bプロジェクトにおける質問紙(教師用・児
童生徒用)を作成し意識の変容を考察することで,学
びの効果を検証していく。
≪引用・参考文献≫
1)中央教育審議会(2010,3)『児童生徒の学習評価の在り方に
ついて(報告)
』p.33
2)松下佳代(2007)『パフォーマンス評価-子どもの思考と表現
を評価する-』p.10 日本標準
・財団法人日本システム開発研究所(2010)平成 21 年度文部科学
省委託調査報告書『学習指導と学習評価に対する意識調査報告
書』p.16
・中央教育審議会(2008,1)
『幼稚園,小学校,中学校,高等学
校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について(答申)
』
・熊本県教育委員会(2011)『熊本県学力調査結果』
・西岡加名恵(2008)『逆向き設計で確かな学力を保障する』明治
図書
- 53 -
-Bプロジェクト算数科,数学科-
3
研究の実際
うな単元の指導計画を作成した。
(1) 算数科・数学科における研究の実際
表1「単位量あたりの大きさ」単元指導計画
学習活動
時
検証1
(小学校第5学年)
単元名
「単位量あたりの大きさ」
①
単元の目標
異種の二量の割合としてとらえられる数量につ
いて,比べることの意味や比べ方,表し方を理解
しそれを用いることができる。
②
評価規準の設定
評価規準の設定にあたっては,「評価規準の作
成,評価方法等の工夫改善のための参考資料」を
参考にし,設定した。思考力・表現力等にかかわ
・異種の二量で表される
「混み具合」のイメージ
化を図り本時の学習で求
める量(割合)について
共通理解を図る。また,
同時に二量のうち一方の
大きさをそろえると比較
できることを確認する。
※図,式,言葉,数直線
などを結び付けながら,
二量のうち一方をそろえ
るイメージを持たせる。
関心・意欲・態度
(発言・観察・ノー
ト)
図や式などをかきな
がら面積か人数のど
ちらかの量をそろえ
て,それぞれの部屋
の混み具合を自分な
りに比べようとして
いる。
○面積をそろえて
1㎡あたりの人数
で比べたり,人数
をそろえて1人あ
2 たりの面積で比べ
たりすればよいこ
とを理解する。
・前時から出されている
解決方法を,実際に比べ
させることで,単位量あ
たりの大きさで表すこと
の有用性,特に面積あた
りで比べるのが分かりや
すいことをおさえる。
※パフォーマンス評価に
より思考力・表現力等を
評価し,次の指導に生か
す。
知識・理解,考え方
(発言・ノート)
混み具合を単位量あ
たりの大きさで表すこと
ができ,どちらが混んで
いるかを説明することが
できている。
※パフォーマンス
課題に取り組む。
思考力・表現力等にかかわる学習活動の評価規準
中
異種の二つの量の割合としてとらえられる数
○「たしかめよう」
に取り組む。
※パフォーマンス
課題に取り組む。
量について,その比べ方や表し方を考えている。
2
8
異種の二つの量の割合でとらえられる数量を
比べたり表したりすることができる。
③
評価基準B
(評価方法)
○身の回りの事象
から「混み具合」
について話し合う。
○面積か人数のど
ちらかがそろって
いると,「混み具
1 合」は比べられる
ことを理解する。
○二つの部屋の比
較を通して,人数
か面積のどちらか
をそろえればよい
ことを考える。
る学習活動の評価規準は,以下のとおりである。
1
指導上の留意点
※プロジェクトの視点から
数学的な考え方に関する児童の実態(N=28)
略
・基本的な学習内容をし
っかりとおさえ直す。
※パフォーマンス評価に
より,身に付けた思考力
・表現力等を評価し,指
導の改善に生かす。
知識・理解,技能,
考え方
問を正しく解いてい
る。学習内容を身
に付けている。
※パフォーマンス
評価 (テスト)
授業で伝えたいことや扱いたいことが沢山あっ
算数科の学習に対して全員まじめに学習に取り
ても,授業時間は決まっている。児童の理解力に
組むが,答えを早急に求めがちで試行錯誤して問
も限りがあるので,教師がやらなくてはならない
題に取り組む姿勢が全体的に不足している。また,
ことを詰め込んでも,学級の児童全員に学習内容
自信を持ってノートに考えを書くことができる児
が定着する可能性は極めて低い。そのため,時間
童が少なく,全体的に発表意欲が低い状態にある。
を有効に使うための工夫が必要となり,授業を設
平成23年度の熊本県学力調査結果においても「数
計する意識が大切となってくる。
学的な考え方」の観点は,県平均を大きく下回る
そこで,授業を「授業の目標」
「授業の方法」及
結果であった。そのため,考える手だてとして問
び「授業の評価」の3点から設計することにした。
題の全体像をイメージできる力を育てること,知
本実践においては,授業の目標(授業後の児童
識・技能の活用の意識付けをすることが大切であ
の姿)を明らかにし,その目標を達成するために
る。また,同時にどのように問題解決を図るかの
はどのような授業展開が必要であるかを考え,知
指導を行っていく必要がある。
識・技能を活用する学習活動を設定した。そして,
④
授業中に行う形成的評価に加え,パフォーマンス
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマ
ンス評価を位置付けた授業設計
ア
評価を取り入れていくことで,基礎的・基本的な
知識・技能を活用する学習活動
知識・技能が獲得されているか,知識・技能を活
始めに,単元の指導計画を作成し,主に知識・
用する力が身に付いているか,達成状況を把握し
技能を定着させる指導とその評価を行う時間,ま
ながら学習を進めていくことにした。
た知識・技能を活用し,思考したことを表現させ
イ
パフォーマンス課題の設定
る指導とその評価を行う時間を位置付けた。そし
見えにくい学力と言われる,思考力・表現力等
て,単元の終末時を,本単元の学習で身に付けた
を可視化するために,今回は,パフォーマンス課
思考力・表現力等を評価する時間とし,表1のよ
題(図1,図2)をゆうチャレンジ問題や単元別
- 54 -
-Bプロジェクト算数科,数学科-
評価問題を参考にして作成した。児童の問題解決
への思考過程をできるだけかかせるように,解答
欄を広くした。
問題作成をしながら,この問題を児童が解くこ
とができるために,どのような授業設計をすべき
であるか考えた。
単位量あたりの大きさ【ためしの問題】
名前(
)
みんなで来年の修学旅行の部屋割りを話し合い、20㎡の
部屋を4人部屋にしようと決まりました。しかし20㎡の部
屋がたりなかったので30㎡の部屋も用意してもらうことに
しました。こみぐあいが不平等にならない(こみぐあいが
同じ)ようにするには、30㎡の部屋は何人部屋にすればよ
いでしょうか。
20m2
30m 2
○
○
○
○
平
等
満足」「B:満足」「C:満足に達しない」という
ように3段階で評価することにした。児童の解答
状況を様々な観点を持って評価することにより,
児童の思考力・表現力等に関する課題を明らかに
することにした。そのことによってどのような児
童の姿を目指し,そのためにどのような授業を設
計していかなくてはならないのかが明確となった。
このパフォーマンス評価により,児童の目標達
成状況を把握しながら,次の指導の在り方を考え
ていくようにした。
表2 導入時のパフォーマンス課題ルーブリック
問題理解
問題の中の数量
的関係が正しく
理解できている
か 。
図1
単元途中に位置付けたパフォーマンス課題
単位量あたりの大きさ【まとめ】
名前(
)
今、学校の西の花だんには16本、東の花だんには23本
花の苗が植えてあります。
西
東
2m
・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・
3m
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
4m
12本を分ける
3m
先生が12本花の苗をもらってこられました。そして、「西
の花だんと東の花だんの花のこみぐあいが同じになるように、
花の苗を分けて植えてください。」と言われました。
あなたなら、花の苗をどのように分けてそれぞれの花だん
に植えますか?
図2
単元終末時のパフォーマンス課題
本単元では導入段階で思考・表現する場面を設
定していたため,2時間目の最後に,パフォーマ
ンス課題を位置付け,児童の達成状況を見取るこ
とにした。また,単元終了時にも,学習内容を身
に付けた望ましい児童の姿を想定し,目標に向か
って児童が力を付けることができたかを見取るた
めにパフォーマンス課題を位置付けた。
ウ ルーブリックの作成
技
能
表
現
考え方をきちん
と説明・表現で
きているか。
狭い部屋と広い
部屋の面積人数
が分かり面積と
人数が違う混み
A 具合を比べるこ
とに気付き,そ
れぞれを正しく
関連付けている。
混み具合を揃え
る必要性に気付
き,適切な数式
が順序よく立て
られ,答えにい
たっている。
混み具合や面
積を求めるた
めに必要な計
算の全てが正
しくできてい
る。
図,表,式及び
言葉などを使っ
て自分の考えや
その理由を分か
りやすく表現し
ている。
狭い部屋と広い
部屋の面積人数
が分かり面積と
人数が違う混み
B 具合を比べるこ
とに気付き,そ
れぞれを正しく
関連付けている
が一部に誤りが
ある。
面積も人数も違
う場合は,単位
量当たりの大き
さで比べればよ
いことに気付き
比べようとして
いるが立式の一
部に誤りが見ら
れる。
混み具合や面
積を求めるた
めに必要な計
算を行ってい
るが,小さな
計算ミスがあ
る。
言葉,図,表及
び式などを使って
自分の考えを表
現しているが,
その説明がほと
んどないか誤っ
ている。
混み具合を比べ
ることやならし
て考える必要性
C に気付いておら
ず,必要な情報
も取り出せてい
ない。
数のみで比べた
りするなど明ら
かに間違ってい
る。または無答。
混み具合を求
める計算が正
しくできてい
ない。
計算もしくは図
をかこうとして
いるが,自分の
考えが伝わるよ
うにかくことが
できない。
?
30m2の部屋を□人とおいて、こみぐあい
を求める式を書いてみよう!
考え方
数学的に筋道立 解法の手続き
てた考え方をし を正しく実行
ているか 。
できているか。
⑤
指導と評価の実際
単元に入る前に,混み具合の状況をまず体験さ
せ(図3,図4),児童の興味・関心を引きつけ
るようにした。体感したことを基に,単元の導入
では,単元の目標に児童が近づくことができるよ
うに,異種の二量の割合としてとらえられる数量
について,比べることの意味や比べ方を自ら考え
ていく場面を設定した。
パフォーマンスから見取る学力の解釈が,でき
るだけ恣意的・独断的にならないよう,ルーブリ
ックを併せて作成し活用することが大切となる。そ
こで,今回は表2に示すルーブリックを作成した。
診断的評価,形成的評価及び総括的評価に合わ
せて,パフォーマンス評価において,ルーブリッ
ク(表2)を「問題理解」「考え方」
「技能」「表現」
の4観点で設定し,それぞれにおいて「A:十分
- 55 -
図3
人を増やす
図4
面積を狭く
-Bプロジェクト算数科,数学科-
その結果,授業においてもパフォーマンス課題
に取り組む時にも,様々な方法で比べようとする
児童の姿が見られた。授業中は,単元に入る前に
体験した混み具合の状況と結び付けながら,計算
で導き出された数値の意味を試行錯誤しながら考
える姿(図5)や,友達と考えを出し合い,真剣
に話し合う児童が多く見られた(図6)。
自己評価単元表をチェックすることで,児童一
人一人の思いを受け止めることができ,次の授業
づくりへと役立てることができた。コメントを返
すことで(図8),一人一人の児童にアドバイス
ができ,コミュニケーションを図ることもできた。
また,友達を評価・賞賛する言葉があれば,その
言葉を一覧表にまとめ,授業の中でも児童に紹介
した(表3)。そのことで児童が自信を付けたり,
次の授業への意欲を高めたりした。
表3
自由記述欄の一部抜粋
・考えは図や式が書けたけど,答えが求められな
かった。でも,みんなの考えで,求められたので
よかったです。
図5 自力解決
図6 協同解決
また,昨年度に引き続き自己評価単元表(図7)
を作成し,1単位時間の目標を,児童の言葉に置
き換えて示すことで,教師と児童が目標を共有し,
・単位量あたりの大きさがだんだん分かるように
同じ方向に学習が向かうようにした。記入は授業
・ぼくは考えが書けなかったけど,○○君の式が
が終わってから,その日の学習を振り返らせ,自
分かりやすかったです。○○君がいっぱい発表で
己評価させるようにした。自由記述の欄(図8)
きていたのですごいと思いました。
を設け感想を書かせることで,児童の教科に対す
・○○さんや○○くんの数直線で意味がよく分か
る関心・意欲・態度を評価する手だての一つとし
りました。今度自分も数直線でしてみたいです。
なってきました。速く計算できてよかったです。
・まだ,混み具合の判断ができるときとできない
ときがあるから気をつけたいです。
て活用した。
パフォーマンス評価についての実践は,単元導
入時に,パフォーマンス課題に取り組ませ,その
結果を分析した。その結果(図9),問題理解が
不十分で,思考にうまくつながらないという状況
が見られた。また,問題の意味理解が伴っていな
いため,表現が十分できていない児童が多かった。
3 図7
自己評価単元表自己評価欄
2.5 2.77 2.54 2.08 2 1.73 1.65 1.69 1.54 1.5 1 まとめ
0.38 0.5 0 問題理解
図8
自己評価単元表自由記述欄
図9
- 56 -
導入時
考え方
技能
表現
各観点を3点満点で評価 -Bプロジェクト算数科,数学科-
そのため,異種の二量の割合としてとらえられ
を導き出している。
る数量の意味について再確認するとともに,その
この児童のように,解答状況が大きく変容した
数量を求める方法についても,なぜそのような方
と認められる児童が10人,変容が認められる児童
法で求めるのか,その計算で出された数字の意味
は12人を数えた。パフォーマンス評価を活用し,
は何なのかをしっかり考えさせ,きちんと押さえ
知識・技能を活用する学習活動とゴールを意識し
る授業を毎回行っていくようにした。
た授業設計を行うことにより,児童の算数に関す
⑥
検証結果と考察
る思考力・表現力等の向上がうかがえる。
ア
パフォーマンス評価結果
単元終了時に単元の目標が達成された児童像を
意識したパフォーマンス課題を実施した。単元導入
時と同じく,異種の二量の割合としてとらえられ
る数量の意味が理解できているかを中心に据えた
課題を設定した。その結果,問題の意味理解のポイ
ントが上がった(図9)。 表現に関しては,さらに
大きくポイントが上がった(図9)。
イ
児童の解答状況
児童のパフォーマンス課題の解答用紙の解答状
況にも,変容を見ることができた。図10は,単元
導入時の児童の解答例である。単元導入時は,あ
まり計算の意図が感じられず,試行錯誤の後は見
られるものの,何とか混み具合を同じにすればよ
いと気付き,答えを導き出している。
図11
ウ
単元末終了時の解答状況
授業設計について
児童の実態を把握し,その実態から単元の目標
を踏まえながら単元終了時の児童の姿(ゴール)
を設定した。そのゴールに向かって,途中にもパ
フォーマンス課題を挟みながら授業設計を行った。
そのことによって,授業者はどこに力を入れどの
ような授業展開を行っていくべきかが明確な状況
で毎回授業に臨むことができた。また,授業設計
をすることにより,内容の軽重,時間配分等をよ
り児童の実態に合わせて考えていくことができた。
結果として,パフォーマンス課題の結果等にも表
れてきたように,児童は思考力・表現力等を身に
図10
単元導入時の解答状況
付けることができつつある。
図11は,図10と同じ児童の単元終了時でのパフ
課題として,パフォーマンス評価を全ての単元
ォーマンス課題の解答である。問題の意味理解が
で行うのは現実的には難しい部分もある。また,
きちんとでき,筋道立てて考えている様子がうか
児童の解答状況の分析を一人で行うと主観に頼っ
がえる。図や表を駆使し,問題構造を把握し,論
てしまうことも否めない。どの単元でパフォーマ
理的に思考を進めて問題解決を図っている。また,
ンス評価を行い,複数の教師で解答状況を分析す
言葉で説明を付け加えながら,計算を進め,答え
るにはどのようにすべきか等の課題が残された。
- 57 -
-Bプロジェクト算数科,数学科-
考え方をかく問題はどちらが好きか。
検証2
(中学校第1学年)
単元名
「比例と反比例」
①
79 0% 単元の目標
20% 40% 答えだけかく
具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,
21 60% 80% 100% 解き方や考え方をかく
それらの変化や対応を調べることを通して,比例
アンケート結果から,考え方をかくことの重要
反比例の関係についての理解を深めるとともに,
性は認識しているものの,答えを求めるまでの思
関数関係を見いだし表現し考察する能力を培う。
考過程を記述したり,筋道立てて説明したりする
②
ことはあまりできていないことがうかがえる。数
評価規準の設定
本単元は,第1学年「C関数」の内容である。
学の問題に関しては,思考過程を記述するより,
思考力・表現力等については,次の六つの評価規
答えだけを書く問題を好む傾向がうかがえる。思
準を設定した。
考したことを表現することに関して,苦手意識が
あることが感じられる結果となった。
1
具体的な事象の中にある二つの数量の関係を表した表やグラフ
などを基にして,変化や対応の様子をとらえることができる。
2
具体的な事象の中にある二つの数量の関係を,変化や対応の
様子に着目して調べ,比例,反比例の関係としてとらえられる
二つの数量を見いだすことができる。
④
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマ
ンス評価を位置付けた授業設計
ア
知識・技能を活用する学習活動
始めに,単元の指導計画を作成し,主に知識・
3
比例,反比例の関係を表,式,グラフなどを用いて調べ,そ
の特徴を見いだすことができる。
4
具体的な事象の中にある二つの数量の関係が比例,反比例で
あるかどうかを判断し,その変化や対応の特徴をとらえ,自分
なりに説明することができる。
た知識・技能を活用し,思考したことを表現させ
5
具体的な事象の中にある二つの数量の関係を,理想化したり
単純化したりして比例,反比例とみなし変化や対応の様子を調
べたり,予測したりすることができる。
て,単元の終末時を,本単元の学習で身に付けた
6
比例,反比例を用いて調べたり,予測した結果が適切である
かどうか振り返って考えることができる。 ③
技能を定着させる指導とその評価を行う時間,ま
る指導とその評価を行う時間を位置付けた。そし
思考力・表現力等を評価する時間とし,表4のよ
うな単元の指導計画を作成した。
表4
数学的な見方・考え方に関する生徒の実態(N=33)
指導上の留意点
※プロジェクトの視点
から
関数関係にある具
矢印とことばを用
1 1 体的な事象を見いだ いて対応の規則を明
す。
確にとらえさせる。
※対応の規則がある
関
身の周りの事象を記述
数
させる。
次時
5月に数学の学習に関するアンケートを実施し
たところ,以下のような結果であった。
問1
解き方や考え方をノート等にかいているか。
18 0% 問2
39 36 7 事象の中から比例
の関係にある二つの
2 3 量を見いだし,その
間の関係を式で表
す。
問題解決の途中の考え方をかくことは大事
比
例
だと思いますか。
0% 問3
20% とても思う
学習活動
比例の関係はχと
yの関係がy=aχ
で表せるかどうかで
判断することをおさ
える。
※比例と判断した理由
を記述させる。
変数や比例定数が
正の数の場合と同
4 負の数の,比例につ じ性質が成り立つこ
いて調べている。
とに気付かせる。
49 評価基準B
(評価方法)
見方や考え方 (ワーク
シート)
関数の関係にある具
体的な事象を見いだす
ことができている。
ともなって変わる 二つの数量の表の特 技能 (ノート)
二つの数量を表や式 徴に気 づか せると と
ともなって変わる二
2 で表し,それぞれの もに, 関数 でない も つの数量を表や式で表
特徴を説明する。
のと対比させる。
すことができている。
20% 40% 60% 80% 100% いつもかく 時々かく あまりかかない かいていない
30 「比例と反比例」単元指導計画
15 6 中
イ
問題で,答えだけをかく問題と,解き方や
- 58 -
知識・理解(ワークシー
ト,ノート)
変数や比例定数が負
の数の,比例の特徴を
説明できている。
略
まとめと復習
※パフォーマンス課
5 18 ※パフォーマンス課題 題に取り組ませる。
40% 60% 80% 100% 思う あまり思わない 全く思わない 見方や考え方(ワーク
シート,ノート)
事象の中から比例の
関係にある二つの量を
見いだし,その間の関
係を式で表すことがで
きている。
見方や考え方, 技能
知識・理解
パフォーマンス課題の設定
今回は,単元末のパフォーマンス課題(図12) -Bプロジェクト算数科,数学科-
をゆうチャレンジ問題,単元別評価問題及び全国
⑤
指導と評価の実際
単元導入時は,「二つの数量の関係を表した図
学力学習状況調査問題を参考にして作成した。
☆学習のたしかめ(
組
関数②
号
をつくり,それと結び付く具体的な事象をあげて
)☆
氏名
いる」ことを評価基準Bとして,次のような授業
縦の長さがχcm,面積がycm2 の長方形について,
かず子さんは「yはχの関数です。」と言った。
かず子さんの言ったことは正しいか,正しくないか
また、その理由を説明してください。
を行った。
まず,単語を書いたカードを入れると,ある決
まりに従って変形させて出す箱(ブラックボック
ス)の働きを考えさせることで,関数関係に対す
図12
ウ
る生徒の興味・関心を高めた(図14)。授業中の
単元末のパフォーマンス課題
生徒の思考過程を,ワークシートに記入させ,形
ルーブリックの作成
パフォーマンスから見取る学力の解釈が,でき
成的評価を行いながら,図や具体的な事象が思い
るだけ恣意的・独断的にならないよう,ルーブリ
つかない生徒にはヒントカードを配布し支援する
ックを併せて作成し活用することが大切である。そ
等の個に応じた指導を行った(図15)。
こで,今回は表5のようなルーブリックを作成し
た。
表5
パフォーマンス課題のルーブリック
問題理解
問題が正しく
理解できてい
るか。
考え方
数学的に筋道
立てた考え方
をしているか。
技 能
解法の手続き
を正しく実行
できているか。
表 現
考え方をきちん
と説明・表現で
きているか。
二つの数量の関
係が比例してい
るか否か,また
A 反比例している
か否かを表・式
・グラフを使っ
て的確に判断で
きている。
問題を,比例,
反比例の見方や
考え方を活用し
て考察し,その
過程を分かりや
すく論理的に書
き記すことがで
きている。
比例,または反
比例する二つの
数量の関係を表
・式・グラフを
使って的確に処
理することがで
きている。
表・式・グラフ
及び言葉などを
使って自分の考
えを分かりやす
く,論理的に表
現することがで
きている。
二つの数量の関
係が比例してい
るか否か,また
B 反比例している
か否かを表・式
・グラフを使い
判断できている。
問題を,比例,
反比例の見方や
考え方を活用し
て考察し,その
過程を書き記す
ことができてい
る。
比例,または反
比例する二つの
数量の関係を表
・式・グラフを
使って処理する
ことができてい
る。
言葉,図,表・
式・グラフを使
って自分の考え
を表現すること
ができている。
二つの数量の関
係が比例してい
C るか否か,また
反比例している
か否かの判断が
できていない。
問題を,比例,
反比例の見方や
考え方を活用し
て考察ができて
いない。
比例,または反
比例する二つの
数量の関係を表
・式・グラフを
使って処理する
ことができて
いない。
表・式・グラフ
及び言葉などを
使って自分の考
えを表現するこ
とができていな
い。
図14
導入時の板書
図15ワークシート記入
授業の終末には,自己評価単元表に自己評価を
させた(表6)。
表6
自己評価単元表
自己評価単元表「比例と反比例」
時
1年
組
具体的な評価基準
名前
自己
観 点
数 A よくできた
B できた
C 頑張ろう
2つの数量を表
した図を作り、
それと結びつく
1 身の周りのこと
がらを二つ以上
あげることがで
きる。
2つの数量を
表した図を作
り、れと結び
つく身の周り
のことがらを
あげることが
できる。
2つの数量を
表した図を作
り、れと結び 見方や
つく身の周り 考え方
のことがらを
あげることが
難しい。
ともなって変わ
る2つの数量を
表や式で表しど
2 のように考えた
か説明できる。
ともなって変
わる2つの数
量を表や式で
表すことがで
きる。
ともなって変
わる2つの数
量を表や式で 技 能
表すことが難
しい。
今日の学習の感想
評価
今回の実践では,パフォーマンス課題を毎時間
自己評価単元表には,自己評価A,B,Cの例
作成することは難しいので,ワークシートに問題
解決の思考過程をできるだけかかせる等の工夫を
として,以下のような記述があった。
行い(図13),生徒の目標達成状況を把握しなが
ら,次の指導の在り方を考えていくようにした。
☆ 関数① ☆
組
号
しいものをつくってみたい。(自己評価A)
氏名
[例]を参考に自分で図をつくり,それと結びつく身のまわりのこ
とがらをかきなさい。
そして「 決まる と 決まる 」ものをあげ,「~は ・・・ の関数で
ある。」とまとめなさい
身のまわりのことがら
図
χ
・身の周りの事柄を二つ以上あげることができた。もっと難
・私は身の周りのことを一つしかつくれなくて残念でした。
○○君の問題を見てすごいなと思いました。(自己評価B)
・図しかかけなくて身の周りのことがかけず結構,難しいと
y
思いました。(自己評価C)
図13
授業後,自己評価をCとした生徒,感想に「分
思考したことをかかせるワークシート
- 59 -
-Bプロジェクト算数科,数学科-
からなかった。」と記述した生徒には,個別指導
り,生徒の変容が以下のとおり判明した。
を行い(図16),学習内容の定着を図った。また,
○図20のように,答えだけ書く問題より,思考過
ワークシートや評価問題の解答状況及び自己評価
程をかく問題を好む生徒の割合が増加した。
単元表の記入内容を吟味することで,本時の目標
が達成できたか,知識・技能を活用した授業展開
授業前
7 9 2 1 ができたか等を振り返った。その振り返りを基に
授業後
して,次時以降のワークシートや評価問題の吟味,
修正及び授業進度の調整等の授業設計を行った。
4 5 0 % 2 0 % 単元末には,前述したパフォーマンス課題に取
4 0 % 答えだけ
り組ませ(図17),ルーブリックに基づき評価を
行った。
5 5 図20
6 0 % 8 0 % 1 0 0 % 解 き 方 考 え 方 数学の問題でどちらが好きか
○図21のように,ノートや学習シートに思考過程
等を以前よりかくことができるようになっている
と認識している生徒が増加した。
24 0% 図16
⑥
個別指導風景
図17
20% とても思う
課題解決する生徒
検証結果と考察
42 図21
24 0 40% 60% 80% 100% 思う あまり思わない 全く思わない 思考過程をかけるようになったか
ルーブリックの各観点について,「A:十分満足」
○図22のように,問題解決の際に途中の思考過程
を3点,
「B:満足」を2点,
「C:満足に達しない」
をかくことの重要性を認識している生徒の割合が
を1点とし,採点結果の平均を算出したところ,
増加した。
図18のような各観点の結果となった。図19は,数
授業前
学を苦手と感じている生徒の解答である。根拠を
3 0 4 9 1 5 6 きちんと記述している。
授業後
3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 5 5 3 4 1 5 0 2.45 2.03 0 % 1.95 1.82 2 0 % とて も思 う
図22
思う
4 0 % 6 0 % あまり思わない
8 0 % 1 0 0 % 全 く思 わ な い
思考過程をかくことは大切か
授業を行った教師の感想は以下のとおりであり,
指導と評価の一体化を図る取組が指導の改善に効
問題理 解
図18
考え
技能
表現
果があったことがうかがえる。
パフォーマンス評価の観点別結果
○評価問題を意識することにより,指導すべきポ
イントが明確になり,見通しを持った授業設計が
できた。
○自己評価単元表により,生徒一人一人の疑問点
等が的確に把握できるようになり,事後指導や個
別指導を充実させることができた。
課題として,パフォーマンス評価を継続的に実
践し,思考力・表現力等の見取りを行う必要があ
図19
生徒の解答用紙
る。また,評価の精度をより高めるための評価問
習熟度別標準コース29人へのアンケート結果よ 題とルーブリックの改善が必要である。 - 60 -
-Bプロジェクト算数科,数学科-
④
検証3
(高等学校第2学年)
単元名
「微分法と積分法」
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
ス評価を位置付けた授業設計
ア
知識・技能を活用する学習活動
小・中学校の研究と同様に,「授業の目標」「授
①
単元の目標
業の方法」及び「授業の評価」の3点から授業の設
具体的な事象の考察を通して微分・積分の考えを
計を行うため,授業を通して生徒に身に付けさせた
理解し,それを用いて関数の値の変化を調べること
い力及びその評価基準や評価方法を明確化し,授業
や面積を求めることができる能力を培う。
を改善するために単元指導計画(表7)及び自己評
②
価単元表(表8)を作成した。
評価規準の設定
思考力・表現力等にかかわる学習活動の評価規準
表7
を以下のとおり設定した。
単元指導計画
次 時
学 習 活 動
指導上の留意点
※プロジェクトの視
点から
評価基準B
(評価方法)
・接線は直線である
ことを確認する。
・直線の方程式は,
”傾き”と”通る点”
が分かれば求めるこ
とができることを思
い出させる。
※円外の点から円に
引いた接線の方程式
も思い出させる。
表現・処理(ノー
ト)
・接線の方程式を
求めることができ
ている。
見方や考え方(発
言・振り返りカー
ド・確認テスト)
・定点Cから曲線
に接線を引くとき
接点Aにおける接
線が点Cを通ると
読み替えることが
できている。
○関数の増減と導関
数の符号の関係につ
いて考察し,増減表
6 をつくる。
※パフォーマンス課
題に取り組む。
※接線の傾きと導関
数の符号の関係を考
えさせる。
・導関数の符号から
導ける関数の増減の
関係を表に示したも
のが増減表であるこ
とをおさえる。
見方や考え方(振
り返りカード)
・接線の傾きが,
グラフの増減を表
していることを考
察することができ
ている。
※パフォーマンス
評価 (テスト)
○増減表を基にして
7 グラフをかく。
○極値を理解する。
・極値以外にもy軸
との交点などを求め
てかく。増減だけの
いい加減なものにし
ないようにさせる。
表現・処理(ノー
ト)導関数を利用
して,関数の増減
およびグラフをか
くことができてい
る。
1 平均変化率や微分係数の図形的な意味を理解すること
ができる。
○曲線上の点におけ
る接線の方程式を求
める。
○曲線上にない点か
5 ら曲線に引いた接線
第
の方程式を求める。
2
※確認テストに取り
節
組む。
2 定点Cから曲線に接線を引くとき,接点Aにおける接
線が点Cを通ると読み替えることができる。
3 接線の傾きが,グラフの増減を表していることを考察
することができる。
導
関
数
の
応
用
4 方程式の解の個数や不等式の証明を,グラフとx軸と
の位置関係に読み替えて考察することができる。
5 定積分と図形の面積の関連について考察することがで
きる。
③
数学的な見方・考え方に関する生徒の実態(N=42)
授業中の反応や発表意欲は全体的に高いが,数学
という教科に対して,「公式や解法等を覚えて数値
をあてはめる教科」と感じている生徒が多い。
今回の研究にあたり,中学校と同様に数学に関す
るアンケートを実施したところ,以下のような結果
が得られた。
イ
パフォーマンス課題の設定
数学的な見方・考え方を評価する授業においては
1
数学の問題を解くとき,途中の考え方をかくことは大事だと思う。
ア とても思う
イ 思う
8人(20%)
2
ウ あまり
24人(60%)
「パフォーマンス課題」(図23)に取り組ませ,問
エ ぜんぜん
8人(20%)
題解決の過程では見えにくい学力を可視化し評価す
0人(0%)
るようにした。
数学の問題で答えだけをかく問題と,解き方や考え方をかく問題は
どちらが好きですか。
ア
答えだけをかく問題
27人(69.2%)
3
イ
解き方や考え方をかく問題
12人(30.8%)
答えだけでなく解き方や考え方が分かるように,ノートやプリント
にかいていますか。
ア いつも
17人(42.5%)
イ 時々
19人(47.5%)
ウ あまり
エ ぜんぜん
2人(5.0%)
2人(5.0%)
考え方をかくことの重要性を認識し,ノート等に
かいている生徒が8割を超えているものの,表現す
る場においては,答えだけをかくほうを求めている
実態があった。
図23
- 61 -
パフォーマンス課題(第2校時)
-Bプロジェクト算数科,数学科-
表8 自己評価単元表
⑤
指導と評価の実際
次の授業の指導の改善に活用した。また,自由記述
アンケート結果を受け,これまでの「問題演習の
欄の感想(表9)を関心・意欲・態度を評価する手
量と時間を確保」することにより知識・技能を身に
だての一つとして活用した。
付けさせることに重点を置いた指導から,「生徒自
表9
自由記述欄
身が自分の考えをもち,他者の考えとの共通点や相
違点を意識しながら考えを深める」ことで,数学的
な見方・考え方を育成することに重点を置いた指導
を行うとともに,それらの評価を効果的に授業改善
に生かすため,次のように授業を行った(図24)。
さらに,前述のとおり,数学的な見方・考え方を
評価すると位置付けた授業においては,特に考えを
出し合い,話し合う場面と,その時間の確保に努め,
「パフォーマンス課題」に取り組ませた。その他の
「知識・理解」や「表現・処理」を評価すると位置
図24
授業風景
付けた授業に関しては,評価問題を事前に作成し,
まず,単元に入る際,自己評価単元表(表8)を
それを解決できるようになることを目的に授業を行
生徒に配付し,この単元においては毎時間,自己評
った。生徒は真剣にペアで話合い等をしながら,授
価を行ってもらうことと,今までの答えを求めると
業に取り組んでいた(図25)。
いうような課題とは別に,数学的な見方や考え方を
問う課題を出題していくことを説明・周知した。
実際の授業では,最初に本時のめあてを板書し,
生徒が見通しを持って学習しやすいように工夫し,
また各学習活動の具体的な評価基準の確認を随時行
い,自己評価単元表の自己評価がしやすいように工
夫した。生徒の自己評価単元表への記入は,授業終
了後に行い,生徒個人個人の理解度の確認を行い,
- 62 -
図25
ペアでの話合い
-Bプロジェクト算数科,数学科-
⑥
検証結果と考察
まだ,1単元の実践であるため,生徒の意識の変
評価基準や評価方法を明確にした単元の指導・評
化や解答の具体的変容を示すまでには至らないが,
価の計画及び自己評価単元表を事前に配付したこと
自己評価単元表やパフォーマンス課題を活用して,
で,生徒自身がその時間に身に付ける具体的な内容
理解度や定着度を把握し,次時の指導に生かすとと
が分かり,自分の学習状況を把握でき,学習しやす
もに,ゴールを意識した授業の組み立て及び実践を
くなった(図26)。併せて,授業者もその時間の評
行うことによって,生徒の変化を感じている。
価問題を事前に作成することにより,授業設計が明
知識・技能を活用する学習活動を行う課題として
確になり,予想以上に授業をスムーズに進めること
基礎的・基本的な学習内容の定着が必要である。平
ができた。
成20年1月の中央教育審議会の答申では,計算など
の基礎的・基本的な知識・技能は発達の段階に応じ
て徹底して習得させ,学習の基盤を構築していくこ
とが大切であり,この基盤の上に思考力・判断力・
表現力等をはぐくむ必要があると提言がなされた。
生徒の思考力・表現力等を高めるためには,パフォ
ーマンス課題に取り組むことは有効であると同時に
必要であると思われる。しかし,学習効果をあげる
ためには,体験的な理解や繰り返し学習も重視し,
基礎的・基本的な知識・技能を徹底して習得させる
図26
課題に取り組む生徒
といった授業とのバランスが大切である。
またパフォーマンス課題については,最初はどの
《引用・参考文献》
ように記述するのか分からず戸惑いを見せていた生
・国立教育政策研究所(2011,2012)『評価規準の作成,評価方法等
徒たちが,課題を理解するにつれて, 定理や公式等
の工夫改善のための参考資料 』 (小学校算数)(中学校数学)(高
を導く過程や考え方を重視するようになり,課題に
等学校数学)
対して集中して取り組む姿が見られるようになった。
・中央教育審議会答申(平成20年1月)
実際,課題に取り組む生徒の姿勢や解答(図27)は,
・鈴木克明(2001)『授業設計マニュアル-独学を支援するために』
授業者の期待をはるかに超えたものとなった。
北大路書房
・稲垣
忠,鈴木克明(2011)『授業設計マニュアル-教師のための
インストラクショナルデザイン』(著) 北大路書房
・文部科学省『初等教育資料』(2010年5,6月号,2011年1月号)
・文部科学省『中等教育資料』(2010全号,2011年全号)
・日本教育研究会(2010)『指導と評価』
・高浦勝義・松尾知明・山森光陽
編著(2006)『ルーブリックを活
用した授業づくりと評価①小学校編』
教育開発研究所
・香川県教育センター『平成22年度研究成果報告書調査研究』
・福岡県教育センター(2010)『「思考力・判断力・表現力」の評価
と授業づくりガイドブック』
・編集代表田中孝一(2011)『新評価規準を生かす授業づくり
図27
パフォーマンス課題(第6校時)
小学
校編』ぎょうせい
また,パフォーマンス課題に対しての評価を,教
・小島宏(2008)『算数科の思考力・表現力・活用力』文渓堂
師の主観だけに頼らず,解答の質を多面的,段階的
・梶田叡一(2001)『教育評価』有斐閣
に評価するためのルーブリックを作成し,活用する
・松下佳代(2007)『パフォーマンス評価
ことが大切であると実感した。
価する』日本標準
- 63 -
子どもの思考と表現を評
-Bプロジェクト・生活科-
(2) 生活科における研究の実際
検証1
(小学校第1学年)
単元名
「がっこうだいすき
①
パフォーマンス課題を設定した。
グループで学校探検に行きましょう。
そして○○先生になって小学校の秘密
そして○○先生になって白旗小学校の
秘密を紹介しましょう。
を紹介しましょう。
パート2」
単元の目標
学校の施設の様子及び先生など学校生活を支えて
「○○先生になって」と課題を提示することで,
いる人々のことが分かり,楽しく安心して生活がで
自分とのかかわりの中で学校生活を支えている人々
きるようにする。
の存在に目を向け,学校探検をさせたいと考えた。
②
イ
評価規準の設定
ルーブリックの作成
本単元は,生活科の内容(1)「学校と生活」の 1
単元を通してパフォーマンス課題に対する児童
内容によって構成した。評価規準の設定にあたって
の思考の見取りができるようなルーブリックを以下
は,
「評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のため
のとおり作成し,どのようなパフォーマンスが見ら
の参考資料」を参考にし,設定した。
「活動や体験に
れるか予想した。
ついての思考・表現」(以下「思考・表現」と表す)
の評価規準は,以下のとおりである。
「
思
考
・
表
現
」
③
単元の
評価規準
学校の施設の利用,学校生活を支えてい
る人々や友達とのかかわりについて自分
なりに考えたり,工夫したり,振り返っ
たりして,それをすなおに表現している。
学習活動
における
評価規準
①学校探検で行ってみたい場所や,やっ
てみたいことを選んでいる。
②学校の施設の利用の仕方や先生や友達
とのかかわり方について考えている。
③学校の施設の利用や先生や友達とのか
かわりについて振り返り,自分なりの
方法で表している。
A
B
ウ
「思考・表現」に関する児童の実態(N=19)
ルーブリック
学校 探検 をし て 気付
いた こと を自 分 なり
の言葉で言ったり,友
達の 質問 に自 分 なり
の言 葉で 返し た りし
ている。
学校 探検 をし て 見つ
けた ○○ 先生 の 仕事
の秘密を,自分なりに
絵や 文で 表し た もの
を使 って 紹介 し てい
る。
予想されるパフォーマンス
・職員室に入る時には,きま
りがあります。それは~
・私(保健室の先生)は,み
んな が安 全 に生 活で き るよ
うに,危ない場所がないか調
べています。 など
・校長室には,みんなが頑張
ったトロフィーがあります。
・保健室の冷蔵庫には,みん
なが 怪我 や 病気 をし た 時に
使うものが入っています。
・理科室では,3年生から理
科の勉強をします。 など
知識・技能を活用する学習活動
習得と活用の関係,また探究との関係において生
生活科の勉強は,ほとんどの児童がとても楽しい,
楽しいと答えているが,あまり楽しくない,楽しく
活科は他の教科と異なるとらえ方がある。田村1)は,
ないと答えた2人の児童はその理由を「うまくでき
「知識・技能の習得と活用,探究する学習とが,常
ないことがある」
「じょうずにできない」と答えてい
に一体的に行われることが重要である。」と述べ,生
る。絵や文をかくことがあまり好きではない,好き
活科の特性から「習慣や技能だけを取り出して指導
ではないと答えた児童は,表現することが「むずか
するのではなく,対象とかかわる探究的な学習活動
しい」と答え,苦手意識を持っている。作品の見映
の過程において指導していかなければならない。」
えや出来映えではなく,学校探検を通して得られた
(※下線は筆者による)と述べている。
気付きを自分なりの表現方法で表し,それをもとに
そこで,本研究においては,嶋野2)が示す「生活
交流することの楽しさを味わわせることで,自信へ
科学習の基本過程」
(出会い→イメージ化・試しの体
とつなげていく必要がある。
験→情報加工(情報収集)→本格的な体験→体験や
④
成長の振り返り→新たな学びへの発展)を活用し,
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
次頁(表1)のとおり,本単元における探究的な学
ス評価を位置付けた授業設計
ア
習活動の過程を作成した。
パフォーマンス課題の設定
学校探検で行ってみたい場所や,やってみたいこ
また,「グループごとの学校探検」という本格的
とを決める場面,グループごとに学校探検をし,秘
な体験を2回繰り返し,1回目の学校探検と2回目
密を見つける場面,見つけた秘密や気付いたことを
の学校探検の間に「秘密の交換会」で情報を整理さ
自分なりの表現方法で表す場面,それぞれの過程の
せる場面を設定することにより,思考の高まりや深
児童の思考を連続的に見取っていくために,以下の
まりを見取ろうと考えた。
- 64 -
-Bプロジェクト・生活科-
表1
て考えたり,気付いたりしたことを表現しようとし
探究的な学習活動の過程
ている姿を評価できると考えたからである。
学習活動
過程
○1学期の学校探検を振り返る。
○小学校マップを作る。
エ
児童の姿を見取る際には,嶋野が言う「能動的な
評価」
(問いかけや対話)を「思考・表現」の評価方
出
会
い
法に位置付け,効果的に活用していくことで,児童
の思考の見取りができると考えた(図1)
。
グループで
試
体
し
験
の
評価方法
○行動観察
・表情・動作・行動
・態度・挨拶・話し方
○発言分析
・つぶやき・発言・発表
・質問・意見
○作品分析
・絵・作文・作品
○カード分析
・学習カード
・振り返りカード
全体で
○小学校クイズをする。
流しの所に石鹸がなくなった
ら,すぐにつけてくださる先生
は誰でしょう。
(
情
報
収
集
)
情
◇パフォーマンス課題の提示◇
報
加 ○マップを見て,探検したい場所や話を聞きたい先生
工
を決め,グループごとに学校探検の計画を立てる。
図1
○グループごとに学校探検に行く。
本
格
的
な
体
験
①
へ
の
発
展
「能動的な評価」の
工夫が有効であると
いわれています。
「思考・表現」の評価方法
法を用いた言葉かけを積極的に活用していくことで,
パフォーマンス課題に対する作品や実演の背後にあ
るその児童の考えや気付きを明らかにできるのでは
校長室グループ
ないかと考える。表2は,パフォーマンス課題の見
取りの場面における教師の言葉かけの例である。
表2
振
り
返
り
対話
問いかけや対話においては,カウンセリングの手
机の上のパソコ
ンでは,どんな
お仕事をするん
ですか。
○グループで秘密の交換会をして,もう一度探検に行
く計画を立てる。
本
格
的
な
体
験
②
問いかけ
カウンセリングの手法を用いた言葉かけの例
言語的技法
繰り返し
どんなことをインタビューするか考えよう。
言い換え
○もう一度グループで学校探検に行く。
○学校探検で見つけた秘密や気付いたことを出し合っ
て,自分なりの表現方法で表す。
体
験
◆パフォーマンス課題の見取り◆
や
成
長 ○学校探検で見つけた秘密をグループごとに紹介し合
の
う。
※検証授業
○ありがとうカードを書く。
○自分たちの学校生活を支
新
えてくれている人に感謝
た
な
の手紙を書く。
学 ○学校生活における日記を
び
書いていく。
支持
質問
I(私)
メッセージ
教師の言葉かけの例
・校長室には,トロフィーがかざってあった
んだね。
・校長先生のお仕事は,
・・・だったんだね。
・○○さんは,◇◇くんの話を聞いて,自分
もやってみたいなあと思ったんだね。
・お友達の発表を聞いて,感想や質問をたく
さん出すことができましたね。
・お友達の話を聞いて,いろんなことに気付
くことができましたね。
・グループの他のお友達もソファーに座った
のかな。どんな気持ちでしたか。
・保健室や職員室に一人で入ったことがある
人は,どんなふうにして入っているか,み
んなに教えてくれるかな。
・お友達は,どんな秘密を見つけたのかな。
先生も皆さんの発表が楽しみです。
・探検でお世話になった先生方がとても喜ん
でくださっていて,先生も嬉しいです。
また,本単元においては表 1 に示すとおり,情報
また,学習活動の中で把握した児童のよさを,全
加工(情報収集)の過程でパフォーマンス課題を提
体に紹介する時間を設けたり,科学的思考を促す問
示した。本格的な体験に入る前にゴールを示すこと
いかけをしたりすることで,児童が自分自身のよさ
で,目的意識が生まれ,パフォーマンス課題につい
に気付いていくこともねらった。
- 65 -
-Bプロジェクト・生活科-
⑤
指導と評価の実際(検証授業より)
ウ
具体的な児童の姿と教師の言葉かけ
ア
本時の目標
○
気付きを深める言葉かけの例(C:児童,T:教師)
C1:これは校長室のソファーです。ふわふわして気持ち
よかったです。
T:気持ちよかったんだね。(繰り返し)
C1:校長先生は,このソファーに座って1日に2~3人
とお話をします。今日は,おじいちゃんが卒業アルバ
ムを見に来ました。
T:お尋ねがある人?
C2:ソファーはふわふわして
気持ちよかったですか。
C1:はい。
T:校長室のソファーに座ったことがある人?
T:こんなにたくさんいるんだね。校長室のソファーはど
んな感じなんですか。
C3:ふわふわして気持ちいい。
T:何でふわふわして気持ちいいソファーが校長室におい
てあるのかな。(質問)
C4:お客さんが来たら,気持ちよく座るといいから。
T:よく知っているね。(支持)
先生もそう思うんです。(Iメッセージ)
校長先生のお仕事のひとつに,学校に来たお客さんと
お話をするというとても大事なお仕事があります。お
客さんが気持ちよく過ごしていただけるように,教室
の椅子とは違って,ふわふわした大きいソファーがあ
るんですね。(言い換え)
学校探検をして見つけた秘密や気付いたことを紹
介する活動を通して,先生と仲良くなれた自分やも
っと学校のことを知りたいという自分に気付き,あ
りがとうカードを書くことができる。
イ
本時の学習活動(体験や成長の振り返りの過程)
過
程
導
入
主な学習活動と具体的な手立て
1
前時までの学習を振り返る。
これまでの学習活動で
提示した写真や,前時に
発表した児童の作品や
具体物を見せながら,こ
れまでの活動を振り返
らせた。
環境構成の工夫
2
本時のめあてを知る。
がっこうたんけんひみつはっぴょうかいをしよう。そして,○○
せんせいになって,しょうがっこうのひみつをしょうかいしよう。
パフォーマンス課題の確認
○
評価場面
展
開
3
学校の秘密を自分たちの考えた方法で紹介する。
クイズ
4
実物を使って
絵
先生たちからのビデオレターを見る。
1回目のインタビューの時にはみ
なさんが黙っていたので校長先生
は戸惑ってしまいました。しかし,
2回目の時には上手になっていま
したね。順番にいろんなことを質
問してくれました。
1 回目の探検と 2 回目の探検の児童の変容を話して
いただくことで自分自身への気付きにつなげた。
整
理
5
6
教えてくれてありがとうカードを書く。
教師の気付きを聞く。
先生の知らない秘密を皆さんがたくさん
見つけてくれて,先生はとても嬉しかっ
たです。これからも秘密を見つけたら先
生に教えて
くださいね。 I(私)メッセージで
- 66 -
気付きを広げる言葉かけの例
C5:今から5班の発表を始めます。私は作文を書きまし
た。保健室の先生に「熱中症は多いですか。」と聞いて
みたら,「とっても多いです。」と聞きました。特に3
年生の教室が多いと聞きました。何で3年生の教室が
多いのかというと,太陽が一番よく当たるから多いと
聞きました。
C6:私はクイズを出します。問題です。学校の怪我で一
番多いのは何ですか。
C7:ハチ刺されです。
C8:熱中症ですか。
C9:転んで怪我をするです。
C6:答えは,膝の擦り傷です。
T:もっと秘密を聞きたい人?
C10:保健室の先生の秘密が一つしかなかったのでもっと
知りたいです。
T:実は,5班のみんなは,もっと秘密を知っているんで
すよ。
C5:小学校には四つの「あ」があります。一つめは「あ
んぜん」,ニつめは「あいさつ」,三つめは「あとしま
つ」四つめは「あいず」です。これは,みんなが安全
に過ごすためにあります。
T:四つの「あ」知っていた人?1回目の探検の時,保健
室の先生は,お部屋にいらっしゃらなかったんだよね。
何をされていましたか。(質問)
C11:危ないところがないか周りを見ていた。
T:そうなんです。危ないところがないか周りを見ていた
んですね。さっきC5さんの言葉の中に,
「安全に過ご
すために」という言葉が出てきましたね。保健室の先
生は,みんなの怪我の治療のお仕事だけではなくて,
みんなが安全に暮らすために見て回るという大切なお
仕事もされていたんですね。(言い換え)
T:C10 さん分かったかな?よく発見できましたね。(支持)
-Bプロジェクト・生活科-
この二つの例のように,児童は,活動や体験した
のソファーの秘密を紙芝居(図3)にして表し,み
ことを自分なりの表現方法によって振り返る。また,
んなの前で発表した。教師は単元を通して「よかっ
教師はそのことに問いかけたり対話をしたりする。
たね。いろんなことを聞くことができて調べたこと
これらのことが,
「校長室のふわふわしたソファーが, もよく書くことができていますね。」「大きな椅子に
お客様に気持ちよく過ごしていただくもの」であっ
も座ったね。椅子に座った感想はどうだったかな。」
たり,保健室の先生の仕事が「安全に過ごす」こと
「調べたときのことをよく覚えていますね。しっか
に繋がっているものであったりといった,無自覚だ
り絵がかけています。発表が楽しみです。
」と言葉か
った気付きを明確にしたり,それぞれの気付きを個
け(朱書き)を行った。
から全体へ共有させたりすることに有効であること
発表後ありがとうカー
が分かった。
ド(図4)には,自分自
エ
ルーブリックでAと見取った児童(D児)の例
身への気付き(お話が
D児は,小学校のマップを作ったり,クイズをし
できるようになった自
たりする中で,保健室やそこで仕事をされている先
分)が表れており,授
生の秘密を見つけたいと考えた。そして,1回目の
業後のアンケートには,
探検では,怪我をした時に手当をしてくれる他に,
学校や生活科の勉強は
健康観察の集計をしたり,安全点検をしたりされて
「とても楽しい」と答えていた。
いることを知る。2回目の探検では,どんな怪我が
イ
多いのか,熱中症は多いのかを保健室の先生に友達
と協力してインタビューすることができた。
図4 E児が書いた
ありがとうカード
授業前と授業後の意識の変容
授業前(7月)と授業後(9月)に 11 項目につい
て質問紙(4件法)調査を行った結果,以下の2項
これらのことを,D児は文と紙芝居風に表した。
目の平均値に顕著な上昇が見られた(N=19)。
質問項目
(前頁C5がこのD児である。
)そして,ありがとう
カード(図2)には,
また保健室に行ってそ
授業前
授業後
絵をかくことは好きですか。
3.37
3.68↗
友達や先生とお話することは好き
ですか。
3.11
3.63↗
こにある道具の秘密を
これは,学校探検をして見つけた小学校の秘密を
調べたいという今後や
多くの児童が絵で表し,それを使って友達と交流し
ってみたいことにも触
たり,教師が問いかけたり対話をしたりすることに
れている。このような
よって,児童が自分の思いや気付きを十分に表すこ
D児の姿をルーブリッ
図2 D児が書いた
ありがとうカード
とができ,そのことが,交流することの楽しさや自
クに照らし合わせ,Aと見取った。
⑥
検証結果と考察
ア
抽出児童(E児)の考察
信につながったと言える。
他の項目も平均値の上昇が多く見られたが,その
中で下に示す項目の平均値に下降が見られた(N=19)。
E児は,授業前のアンケー
トで「学校はあまり楽しくな
質問項目
授業前
授業後
学校のきまりを守っていますか。
3.37
3.30↘
い」「生活科の勉強はあまり楽
これは,学校探検を繰り返す中で,「職員室の入
しくない」と答えた。その理
り方」などのきまりを知ったり,他のグループの発
由を「なんとなく」「上手くで 図3 E児が表した紙芝居
きないことがある」と答えている。本単元において
表を聞いて,自分にはまだ知らない学校のきまりが
は,校長先生の仕事の秘密を調べたいという思いを
まりを守れていない自分」に気付いた児童が増えた
持ち,校長室探検に行って,見つけた秘密を学習シ
ものと思われる。このことから,本単元の授業設計
ートに丁寧にメモをしたり,2回目の探検では,
「校
は,生活科の内容(1)でねらう,
「学校にはみんなで
長室にはどうしてソファーや大きい椅子があるんで
気持ちよく生活するためのきまりやマナーがあるこ
すか。
」とインタビューしたりした。そして,校長室
と」に気付かせるためにも有効であったと言える。
あることに気付いたりしたことから,
「まだ学校のき
- 67 -
-Bプロジェクト・生活科-
検証2
(小学校第1学年)
単元名
「いっしょがいいね」
④
パフォーマンス課題を位置付けた単元モデル
小単元
過程
い
え
の
な
か
で
出
会
い
検証2においては,検証1で明らかになったこと
をもとに,授業設計を行い,パフォーマンス事例を
収集し,パフォーマンス評価の在り方について示す。
①
単元の目標
家庭生活やそれを支える家族について関心を持ち,
ことについて考え,家族への感謝の気持ちを持つと
ともに,家族の一員として意欲的に生活することが
②
情
報
収
集
○調べたことを友達と伝え合う。
情
報
加
工
)
できるようにする。
試 ◆家庭の中で,誰がどんな仕事をしているのか
体
し
験
を調べ,カードに書く。
の
(
さ
が
し
て
み
よ
う
調べたり尋ねたりする活動を通して,自分でできる
評価規準の設定
本単元は,生活科の内容(2)「家庭と生活」の 1
内容によって構成した。
「思考・表現」の評価規準は,
以下のとおりである。
単元の
評価規準
「
思
考
・
表 学習活動
現 における
」 評価規準
③
家庭生活やそれを支えている家族のこと,
自分でできることなどについて,自分なり
に考えたり,工夫したり,振り返ったりし
て,それをすなおに表現している。
①家庭生活を振り返り,家族のことや自分
のこと,自分でできることについて考え
ている。
②自分でできることや家族が喜ぶことを見
つけ,家庭生活が楽しくなるように工夫
している。
③家庭生活をよりよくするために取り組ん
できたことを振り返ったり,交流したり
している。
ち
ょ
う
せ
ん
し
よ
う
い
え
の
し
ご
と
に
か
ぞ
く
に
こ
に
こ
パフォーマンス課題とルーブリック
家族がにこにこすることを考え,工夫してやって
みたことを自分なりの表現方法で表すという児童の
「思考・表現」を連続的に見取ることができるよう
に,以下のパフォーマンス課題を設定した。
だ
い
さ
く
せ
ん
「かぞくにこにこだいさくせん」をしま
しょう。そして,家族がにこにこする秘
密を友達に教えましょう。
また,作成したルーブリックは以下のとおりである。
家族の思いや願いを考えながら「かぞくにこ
にこだいさくせん」をして,感じたことや気
A 付いたことなどを絵や文を用いたり,教師や
友達の問いかけに答えたりしながら十分に表
している。
自分ができることや家族が喜ぶことを見つけ
「かぞくにこにこだいさくせん」をしたこと
B を,家族がにこにこする秘密として,自分な
りに表現したものを使って,友達に紹介して
いる。
お
じは
かな
んし
の
- 68 -
学習活動と予想される児童の意識
◆家庭での時間外活動
○自分の手を観察し,自分ができるようになっ
たことを振り返る。
○自分の家族のことや家族と一緒にいて楽し
かったことを話し合う。
本
格
的
な
体
験
①
本
格
的
な
体
験
②
体
験
や
成
長
の
振
り
返
り
新
た
な
学
び
へ
の
発
展
おうちの仕事は,とてもたくさんあるんだ
な。ぼくにもできることはないかな。お手
伝いに挑戦してみたいな。
○家庭の中で自分のできそうなこと,やってみ
たい仕事を考える。
◆家族と一緒に家の仕事をやってみる。
◇自分一人でできることをさがしてやってみ
る。
○家庭でやってみた仕事について気付いたこ
とをカードに書き,伝え合う。
おうちの仕事は難しかったけど,お母さん
が喜んでくれたよ。もっとおうちの人がに
こにこになるように,わたしができること
はないかな。
◆パフォーマンス課題の提示◆
「かぞくにこにこだいさくせん」をしまし
ょう。そして,家族がにこにこする秘密を
友達に教えましょう。
○家族がにこにこしている時はどんな時か話
し合い,「かぞくにこにこだいさくせん」の
計画を立てる。
◆「かぞくにこにこだいさくせん」を家庭の中
でやってみる。
○「かぞくにこにこだいさくせん」で行ったこ
とや分かったことを自分なりの表現方法で
表す。
◆パフォーマンス課題の見取り◆
「かぞくにこにこだいさくせん」をしまし
ょう。そして,家族がにこにこする秘密を
友達に教えましょう。
○家族がにこにこする秘密を紹介し合う。
家族のみんながにこにこしてくれて,とっ
ても嬉しかったよ。これからもみんながに
こにこすることを続けたいな。
○家族みんなの気持ちや家族の願いを考える。
○ありがとうカードを書き,これから自分が取
り組んでいくことを考える。
お母さん,ぼくが病気の時,心配してくれ
てありがとう。毎日作ってくれるご飯は,
とってもおいしいよ。これからも,家族が
にこにこして過ごせるよう,頑張ります。
-Bプロジェクト・生活科-
⑤
ルーブリックでAと見取ったパフォーマンス事例
表現方法
○絵と文
「洗濯物たたみ」
発表内容と児童同士の交流,教師の問いかけ・対話
F児:洗濯物たたみをして,最初はあまりにも多すぎて終わるの
かなあと思いました。でも,そう思っていたら全部終わりそ
うになりました。片付けをしている時も大変でした。でも,
お母さんが喜んでくれてよかったです。
C1:どんな気持ちでやりましたか。
F児:洗濯物がきれいになるように,です。
C2:やり方はどうだったんですか。
F児:前にもやったことがあるので,自分で分かりました。
C3:最後までお仕事は終わったんですか。
F児:はい。
T:一番大変だったお仕事は何ですか。(問いかけ)
F児:バスタオルです。
C4:あ~。一番大きいもんね。
G児:最初は肩をもんであげました。「気持ちいい。」と言ってく
れました。次は足をもんであげました。最初はどんな気持ち
か分からなくて,お母さんが「痛い。」と言いました。でもだ
んだんうまくなって「気持ちいい。」と言ってくれました。
C5:どうして足をもんであげたんですか。
G児:お母さんがいつもお仕事で足が痛いと言っているからです。
T:お仕事で足が痛い痛いと言っていたんですね。(繰り返し)
C6:どんな気持ちでやったんですか。
G児:いい気持ち,楽しい気持ちでやりました。
C7:肩と足以外にはマッサージはしたんですか。
G児:はい。背中です。
C8:背中はどうやってやったんですか。
G児:肩と同じようにやりました。(友達の背中で実演)
T:いつもやっているのが分かりますね。(支持)
F
児
○絵と実演
「マッサージ」
G
児
⑥
パフォーマンス事例の考察
教師の見取り
F児は,おうちの人から
もらった手紙の記述には
なかった,自分がやって
みたい仕事をにこにこ大
作戦に選んだが,やって
みたことを振り返りなが
ら黙々と絵と文に表し
た。表現した中には,洗
濯物たたみの中での作業
に関する気付きや感想が
表れており,友達の問い
かけにも自分の言葉で返
すことができていた。
G児は,初めおうちの仕
事のイメージをつかむこ
とができなかったが,お
うちの仕事をやってみる
中で,家族が分担しなが
ら仕事をしていることに
気付いていく。にこにこ
大作戦では,仕事で疲れ
ているお母さんを喜ばせ
たいという思いで,マッ
サージをやってみた。紙
芝居には,やったことの
感想や気付きがよく表れ
ていた。
っていくことを大切にした。ここでは,やってみた
パフォーマンス課題に取り組むに当たっては,ま
時の音やにおい,触った感じなど諸感覚について,
ず,
「かぞくにこにこだいさくせん」の計画を立てる
児童同士の交流が活発に行われたことにより,児童
時間を大切にした。ここでは,おうちの人からの手
の思いや気付きが多く引き出された。
紙(図5)を活用し,自分の考えと家族の思いにず
また,生活科の学習においては,一人一人の気付
れはないかを考えさせたことで,
「家族がにこにこす
きを全員で共有し,みんなで高めていくことが重要
る秘密」に迫らせることができ,家庭での活動にス
である。パフォーマンス課題の見取りの終末の場面
ムーズにつなげることができた。
では,
「かぞくにこにこだいさくせん」で児童が取り
あなたはいつもお母さんが頼んだ
ことをよく聞いてお手伝いができ
ていますね。ありがとう。
それで,もう少しお手伝いしてほ
しいことがあります。それは,…
図5
パフォーマンス課題を見取るに当たっては,児童
が自分なりの表現方法(絵,絵と文,なぞなぞ,紙
芝居,劇など)で表したものを基に,児童同士が交
けたり(図6)すること
で,作品の背後にある児
童の思いや気付きを明ら
かにし,そのことを見取
図6
の仕事を手伝うこと。そのために,コツを覚えるこ
と。そして真似してやっ
てみること。)を教師が
板書して整理をしたこと
手紙を読む児童の姿
流したり,教師が問いか
組み発表した内容(家族と仲良くすること。おうち
で(図7)気付きの共有
化を図る場面になること 図7 児童の気付きを共有
させる教師の姿
も分かった。
≪参考文献≫
1)田村学(2007)
『知識や技能を習得し,活用,探究する生
活科学習指導の工夫』p.49 初等教育資料 12 月号
2)嶋野道弘・寺尾慎一(2003)『生活科の授業方法 新しい
評価を生かす構想と展開』p.32 ぎょうせい
・文部科学省(2008)『小学校学習指導要領解説生活編』
・国立教育政策研究所(2011)『評価規準の作成,評価方法等
児童に問いかける教師の姿
の工夫改善のための参考資料(小学校生活)』
- 69 -
-Bプロジェクト・音楽科-
(3) 音楽科における研究の実際
とを「していない,どちらかといえばしていない」
検証
と答えていた。さらに,鑑賞分野のみに着目すると,
(中学校第1学年)
題材名
①
音楽のよさや美しさを感じながら聴くこと(平均値
「歌唱表現の楽しさ」
3.24)よりも,音楽を聴いて,その音楽のよさや演
題材の目標
音楽と曲想とのかかわりを感じ取って聴き,よさ
楽器の音色の特徴を聴き取ること(平均値 2.67)
や美しさを味わう。
歌詞の内容や曲想を感じ取り,曲に合うよう表現
音楽表現の創意工夫,鑑賞の能力に関する調
査結果
評価規準の設定
本題材は,A表現(1)ア「歌詞の内容や曲想を感じ
取り,表現を工夫して歌うこと」及び,B鑑賞(1)
ア「音楽を形づくっている要素や構造と曲想とのか
かわりを感じ取って聴き,言葉で説明するなどして,
音楽のよさや美しさを味わうこと」に関する学習内
容によって構成した。音に耳を傾け,知覚・感受し
たことを外に表す力,すなわち,
「思考・判断・表現」
する学習内容を柱とした内容である。評価規準の設
定にあたっては「評価規準の作成,評価方法等の工夫
改善のための参考資料」を参考にし,設定した。「音
楽表現の創意工夫」
「鑑賞の能力」の評価規準は,以
下のとおりである。
「
思
考
・
判
断
・
表
現
」
に対しての意識が低いことが分かった。
表1
を工夫する。
②
奏のよさを言葉で表すこと(平均値 2.58)や声や
質問内容
歌う時,曲の雰囲気と結び付
けて,声の音色や強弱などの
歌い方を工夫していますか。
音楽のよさや美しさを感じ
ながら,音楽を聴いています
か。
音楽を聴いて,その音楽のよ
さや演奏のよさを言葉で表
そうとしていますか。
声や楽器の音色の特徴を聴
き取っていますか。
平均値
4
3
2
1
3.09
11
15
6
1
3.24
17
8
7
1
2.58
3
15
13
2
2.67
3
19
8
3
4:している 3:どちらかといえばしている
2:どちらかといえばしていない 1:していない (人)
④
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
ス評価を位置付けた授業設計
歌詞に込められたメッセージや心情,声部
音楽表現
の役割や全体の響きを感じ取って音楽表
の
現を工夫し,どのように合わせて歌うかに
創意工夫
ついて思いや意図をもっている。
「魔王」の音楽を形づくっている音色,旋律,
鑑賞の
強弱と曲想とのかかわりについて,自分な
能力
りに解釈したり価値を考えたりし,この曲
のもつ魅力を味わって聴いている。
③ 「思考・判断・表現」に関する生徒の実態(N=33 )
音楽の学習について,好きと答えた生徒が 27 人,
ア
知識・技能を活用する学習活動
昨年度の研究から継続し,小島の「J.デューイ
の教育理論」を基にした学習過程「経験」
「分析」
「再
経験」
「評価」の四つの段階で構成した。本研究では
そのことを基に生徒が「経験」や「分析」の過程で
体験的に習得した知識・技能を,
「再経験」の過程で
活用し,知覚・感受する力,すなわち,
「思考・判断・
好きでないと答えた生徒が6人で,その理由を,
「声
表現」する力を高めたいと考えた。最後に,それら
がうまく出ない」
「うまく歌えない」「よく分からな
の力が育ったかを評価するためのアセスメントシー
い」
「苦手」と答えていた。そのことから,好きでな
トを用い,生徒が学習したことを振り返る「評価」
いと答えた生徒は,技能習得や学習内容の理解がで
の過程を設定した。
本題材の「思考・判断・表現」に対応する知識・
きていないことから音楽を好んでいないことが分か
技能については,以下のとおりである。
った。
また,音楽科の四つの観点及び指導と評価に関す
る内容 19 項目の質問紙調査を,4件法により授業前
に実施した。表1は,表現及び鑑賞分野における「思
考・判断・表現」
(音楽表現の創意工夫,鑑賞の能力)
知識:音色,リズム,旋律,テクスチュア,強弱
などの音楽を形づくっている要素
技能:発声,音高,言葉の発音・呼吸法・姿勢や
身体の使い方
また,髙須1) は,音楽科における習得・活用・探
に関する結果である。表現においては 7 人(21.2%),
鑑賞においては 15 人(45.5%)の生徒が,表現を工
究について,
「表現活動は,知識習得の段階で終わる
夫したり,感じ取ったことを言葉で表したりするこ
わけではない。子どもたちは,知的に理解し,情意
- 70 -
-Bプロジェクト・音楽科-
的に感じ取った知識やその働きを活用して,自己の
4
表現意図を実現するような表現活動を行うのであ
る。
」と述べている。このことからも,知識・技能は,
雰囲気や美しさといった感性を働かせて感じ取った
こととかかわりながら音楽を表現したり,鑑賞した
りすることにより意味を持つものであると考える。
本題材では,道徳の授業とも関連させることで情
えて表現者の内面を感受させた。資料は,DVD「JESSYE
NORMAN a portrait」のジェシー・ノーマンの語りの
部分を日本語訳したものとし,道徳的価値(理想の
実現)を音楽科の活動(思いを伝えること,表現す
や意図を持った表現活動につなげるための手だてと
した。
イ
パフォーマンス評価
5
検
証
Ⅰ
授業の内容としては,「音楽表現の創意工夫」「鑑
○自分が選んだ歌い手
の DVD を視聴し,その
人の歌唱表現のすばら
しさやの魅力をみんな
に分かりやすく伝える
ための原稿を作る。
鑑賞の能力①
(アセスメントシート,発
表)
○鑑賞で感じ取ったこ
とをどのように合唱に
生かせばよいか,他の
人の考えを知る。
○「Forever」の作詞作
曲者のアドバイスを読
み,この曲にふさわし
い表現を工夫する。
○「COSMOS」の作詞作
曲者ミマス氏のメッセ
ージを聞き,この曲に
ふさわしい表現を工夫
する。
音楽表現の創意工夫①
(話合いの観察,発言,練習
の観察) 歌詞に込められた
メッセージや心情を感じ取
り,それにふさわしい音楽表
現を創意工夫している。
○これまで工夫してき
たことや身に付けた技
能を生かして,自分た
ちの思いが伝わるよう
な合唱表現にする。
音楽表現の技能②
(練習の観察)
創意工夫した音楽表現を,実
際の演奏に生かすための技能
が身に付いている。
賞の能力」に視点をあて,表現と鑑賞を一体化させ
た題材で授業を構成した。その中で,
「知識・技能を
6
活用して,課題を解決するために必要な思考力,判
断力,表現力等を評価する」ために,パフォーマン
ス評価を用いた。本題材では,題材を通したパフォ
ーマンス課題と検証授業におけるパフォーマンス課
題を設定し,
「思考・判断・表現」にかかわる力をル
ーブリックにより評価した。
⑤
指導と評価の計画
本題材は表現と鑑賞を一体化した題材構成に加
7
検
証
Ⅱ
え道徳との関連を図り,以下のように計画した。
時
学習活動
評価基準B(評価方法)
1
○曲に込められてい
る思いを感じ取り,そ
の思いをどのように
表現するかについて
考える。
音楽への関心・意欲・態度
①(ワークシート)
歌詞に込められたメッセー
ジや心情を感じ取り,自分
の考えを書き表している。
8
「題材を通したパフォーマンス課題」
校内合唱コンクールにおいて,聴く人が涙を流し感動するような合
唱を届けましょう。そのために,曲を聴いてイメージを抱いたり,
豊かな歌唱表現を鑑賞し,自分たちの表現に生かしたりする学習を
進めます。この曲に込められた思いを伝えるためにはどんな歌い方
にしていくとよいか考えながら,みんなで一つの音楽を作り上げて
いきましょう。
2
・
3
○リズムや音程を正
しく歌うためのパー
ト練習を,各リーダー
及びピアノ担当の生
徒を中心に行う。
音楽への関心・意欲・態度②
(ワークシート,発言)
「魔王」を聴いて,音楽を形
づくっている要素「音色」
「旋
律」「強弱」と曲想とのかか
わりについて,自分の考えを
書き表している。
知覚・感受力を高めるための視聴覚教材
「魔王」の演奏者(声域)
○ペーター・ケーヴェス(バス)
○本岩孝之(バリトン,テノール,カウンターテ
ナー)
○ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
※DVD で視聴させた。声域,表現が違っているが,
どの歌い手も個性のある表現である。
意面に迫り,表現及び鑑賞の学習の知識・技能に加
ること,思いを受け止めること)に結び付け,思い
○「魔王」を CD で鑑賞
し,4人の登場人物の
歌い方の違いを感じ取
り,この曲の特徴をつ
かむ。
○三人の歌い手による
演奏を聴き,好きな演
奏を選ぶ。
①ルーブリックによる評価
(鑑賞)
※具体は,検証Ⅰの実際
音楽表現の創意工夫②
(練習の観察,発表,アセス
メントシート)
①ルーブリックによる評価
(音楽表現の創意工夫)
※具体は,検証Ⅱの実際
《道徳》理想の実現1-(4)
○資料を読んで,ソプラノ歌手ジェシー・ノーマンが,歌
い手としての人生を切り拓いて行けた理由を考え,自らも
音楽表現の技能①(パート
練習の観察)
合唱を行うにあたっての基
礎的な技能を身に付けて歌
っている。
夢と理想の実現のためによりよく生きようとする意志を
持つ。
- 71 -
-Bプロジェクト・音楽科-
⑥
検証授業の実際(検証Ⅰ)
ア
目標
音楽と曲想のかかわりを感じ取って聴き,よさや美しさを味わう。
過程と学習活動
授業の様子◎教師の発問,指示
○生徒の反応や様子
1 経験
◎前時に3人の歌唱を鑑賞し,一人を選んでもらいました。その理由を
・3人それぞれの「魔王」を好んだ理 いくつか紹介します。
由を知る。更に演奏の特徴を再確認す ○表情がすごかった。
るために,演奏場面の一部を視聴す ○声がすごかった。
る。
○いくつもの声を持っていておもしろかった。
【全体】 ◎今日はもっと深く探ってみよう。
審査員になって歌い手の歌唱表現の魅力に迫ろう。
あなたは,独唱コンクールの審査員です。○○さんの「魔王」をどのように評価しますか。このクラスのみん
なにわかりやすく伝えるための原稿を作りましょう。
2 分析
・選んだ歌い手ごとの場所に分か
れ,DVD を視聴する。そして,評価
する内容をアセスメントシート(前
半)に記入する。
【個人】
3 再経験
・班で考えを出し合う。
・グループでまとめたことを発表
する。
【グループ】
4 評価
・班で話し合ったことを生かし,自
分の考えを再び原稿(アセスメントシ
ート後半)にまとめなおす。
【 個人】
・自分たちの合唱につなげたいこと
を考える。
【個人】
イ
○何度も DVD を視聴し,「音色・表情・強弱」等に着目しながら,批評
文を書いている。
○どの場所も,聴くことに集中し,全ての生徒が感じたことや演奏のよ
さを箇条書きで書いている。
◎アセスメントシートに記入した考えを基に意見を出し合い,班で新た
な魅力を見いだし,グループシートにまとめましょう。
○「~だから優勝です」とまとめ,選んだ演奏者の表現の素晴らしさを
三つのグループが発表した。
◎自分の意見として評価する内容を原稿にまとめましょう。
★ルーブリック
A:それぞれの役に応じた声の表情,表現の変化を,「音色・強弱・旋律」
等に着目して聴き取り,自分が素晴らしいと評価した理由が,明確でし
かも具体的に書き表せている。
B:登場人物の声の表情や表現の変化を,「音色・強弱・旋律」等に着
目して聴き取り,さらに,素晴らしいと評価した理由が書けている。
C:聴き取ったり,良いと解釈したりしたことが,表現者の特徴と関連
していない。
授業の考察
審査員という視点に立って評価するというパフォ
ーマンス課題により,本時は自分が良いと評価した
歌い手の表現を深く聴き取ることに鑑賞の視点が絞
られた。分析の過程では,クラスのみんなに分かり
やすく伝えるための原稿作成に向けて,選んだ演奏
者の表現の素晴らしさを DVD の視聴で確かめながら,
評価できる内容を箇条書きなどの短い文章にまとめ
ていった。再経験の過程では,個人で聴き取ったこ
とをグループ内での意見交換により,自分の考えを
深めたり確かめたりしていた。その結果,表現者の
特徴と関連した記述が書けないなど,支援が必要な
生徒はいなかった。
図1はルーブリックによりAと評価した生徒二
人のアセスメントシート(一部)である。それぞれ
の役の声の表情や音色,表現の変化を明確に表し,
評価した理由を具体的に述べている。
図1
- 72 -
Aと評価したアセスメントシートの一部
-Bプロジェクト・音楽科-
⑦
検証授業の実際(検証Ⅱ)
ア
目標
歌詞の内容や曲想を感じ取り,曲に合うよう表現を工夫する。
過程と学習活動
授業の様子◎教師の発問,指示
○生徒の反応や様子
1 経験
・
「COSMOS」の一番のみを合唱した
後,ミマスさんのメッセージを聞
く。
【全体】
○電子黒板に映された自然や宇宙の様子を背景にした作者のメッセー
ジに見入っていた。
◎宇宙をイメージする壮大なスケールの歌,その中にいろいろな思い
がちりばめられているようです。どのように歌っていきましょうか。
この曲のもつ感動が,聴く人たちに伝わるように歌い方を工夫しよう。
前半部分は,この曲のキーワードになる歌詞を選ぼう。そして,本岩さん,ペーターさん,ジェシーさんのよう
にその言葉をかみしめて歌おう。後半部分はこの曲の山です。どのような声や表情,強さで歌えばよいか考えて
練習し,発表しよう。
2 分析
・キーワードとなる歌詞を選んだ
後,後半部分の歌い方について考え
る。
【個人】
・パートごとに工夫点を出し合い,
練習を行う。
【パート】
3 再経験
・前半のキーワードとなる歌詞,後
半部分の工夫点を伝えてパート毎
に発表する。
・他のパートの発表を聴いて,感じ
たことを伝える。
4 評価
・自分たちで工夫した表現を意識
しながら,伴奏に合わせて合唱す
る。
【全体】
・アセスメントシートに記入する。
【個人】
イ
◎皆さんはどの言葉に思いを込めたいですか。また,後半の曲の山を
どのように表現しますか。まずは一人で考えましょう。
○楽譜の歌詞を囲み,学習シートに記入していた。
○後半部分は力強く,声が広がるように。高らかに,優しくなど,パ
ートリーダーがまとめ,そのことを生かすための練習が行われていた。
◎各パートとも発表してもらいます。工夫した点を述べ,歌い始める
ようにして下さい。また聴く人は安心して歌えるような場づくりをし
ましょう。
○工夫したところを具体的に説明し,その成果を生かして発表してい
た。
○楽譜ばかり見て,前を向いて歌っていない人がいたので,前を見て
歌った方がよいと思う。(男声パートに対しての意見)
○一つ一つの歌詞に思いが込められよかった。口の開いていない人が
いたので,そこを意識して歌うともっと良くなると思った。(アルト
パートに対しての意見)
○とっても美しい声で歌っていたので,アルトもまねしたい。高いと
ころはこのままだと,アルトや男声に負けてしまうので,もう少し頑
張って欲しい。(ソプラノパートに対しての意見)
◎最後に,全てのパートの力を結集し,感動的な合唱になるよう今日
の学習を生かして歌いましょう。
★ルーブリック
A:音色,表情,強弱など,音楽の諸要素と強くかかわった音楽表現が工夫さ
れ,聴く人に伝わったと自らも実感している。更に高い課題をアセスメントシ
ートに記入していたり,パートごとの発表に適切な助言を述べたりしている。
B:工夫しようと考えたことを,具体的な表現に生かしている。さらに,本時の
反省と課題がアセスメントシートに記入できている。
C:工夫しようと考えたことを,表現に生かすことができない。アセスメントシ
ートにも自分の課題が記入できていない。
授業の考察
作者の曲に込めた思いを知識として,音楽表現
を工夫した。図2は,ルーブリックによりAと評価
した生徒のアセスメントシート(一部)である。こ
の生徒は自己評価をBとしているが,発表では,抱
いた思いを強弱や音色といった歌声に表しており,
他パートの発表にも積極的に意見を述べていた。自
ら実感するまでは至っていないが,次時の学習活動
に対する高い課題も持っていたので,Aと評価した。
- 73 -
図2
Aと評価したアセスメントシート
-Bプロジェクト・音楽科-
⑧
検証結果と考察
生かしていますか。
」に対してのみ,授業後の意識が
対象校の1年生 33 人を対象に,音楽科の四つの
若干であるが,低下した。授業後の感想では,
「自分
観点及び指導と評価に関する質問項目を 19 項目設
も役になりきって楽しく歌いたいと思った。」と鑑賞
定し,4段階で自己評価させた。以下は授業前後の
で学んだことを生かそうとしている内容が多かった
平均値で,三つのカテゴリに分けて結果を分析した。
が,中には「パート練習ではできていても合唱にな
4:できている
3:どちらかといえばできている
2:どちらかといえばできていない 1:できていない
るとできなくなったりした。」と,技能の定着不足に
6
7
13
には,
「ジェシー・ノーマンが全身で歌っている姿に
声や楽器の音色の特徴を聴き取っていますか。
音楽のリズムや旋律の特徴を聴き取っていますか。
音楽を聴いて,その音楽のよさや演奏のよさを言葉
で表そうとしていますか。
19 音楽のよさや美しさを感じながら,音楽を聴いてい
ますか。
よる表現力に課題が残った。しかし,授業後の感想
衝撃を受けた。素敵だなと思った。道徳でジェシー・
ノーマンの生き方や考え方を知り,その理由が分か
ったような気がした。そして全身で歌ってみると気
持ちよかったし,今まで以上に歌うことが楽しくな
2.67
6
った。」等と答えていることから,道徳で得た情意的
3.12
な知識は音楽表現に有効であったと考える。また技
2.91
3.09
7
2.58
13
3.24
19
1
2
授業前
図3
能の習得については,このような授業の積み重ねに
3.15
より身に付いてくると考える。
16
18
3.52
3
4
毎時間の目標が達成できていますか。
先生のアドバイス(指導や評価)を次の授業に生か
そうとしていますか。
授業後
鑑賞の能力に関する生徒の意識
3.18
3.33
16
図3は,鑑賞の能力に関する生徒の意識の変容であ
る。どの項目についても,平均値は上がっているが,
特に,授業前に最も意識の低かった音楽のよさや演
3.11
18
3.55
1
2
授業前
奏のよさを言葉で表すことについては顕著な伸びが
みられた。この結果から,鑑賞活動において,思考・
図5
3
4
授業後
指導と評価,目標達成に関する意識
判断したことを言葉で表現するための活動内容を示
図5は,指導と評価,目標達成に関する生徒の意
したパフォーマンス課題や,視聴覚教材等の学習活
識の変容である。目標の達成感と教師の指導や評価
動への手だてが有効であったと考える。
の有用感は,授業後更に高まった。特に,質問 18
9
音楽を聴いたことを表現する勉強に生かしています
か。
14 歌う時に歌詞の内容を考え,気持ちを込めて歌うよ
うにしていますか。
15 歌う時,曲の雰囲気と結び付けて,声の音色や強弱
などの歌い方を工夫していますか。
は質問項目の中で最も高い平均値であった。見通し
を持った題材構成及び,図2のように次時につなが
るアセスメントシートは特に有効だったと考える。
以上のことから,知識・技能を活用する学習活動
とパフォーマンス評価を位置付けた授業設計が,生
9
14
3.00
2.94
3.06
3.18
3.09
3.18
徒の思考・判断・表現する過程や学習活動を明確に
し,目標達成に向けた生徒の積極的な学びにつなが
っていることが分かった。
≪引用・参考文献≫
1)高須一(2007)『知識や技能を習得し,活用,探究す
1
2
3
4
る音楽科の学習指導の工夫』初等教育資料 9 月号p.48
授業前
授業後
・ 国立教育政策研究所(2011)『評価規準の作成,評価方
法等の工夫改善のための参考資料(中学校 音楽)』
図4 音楽表現の創意工夫に関する意識
・ 小島律子田村学(2008)『日本伝統音楽の授業をデザイ
ンする』暁教育図書
図4は,音楽表現の創意工夫に関する生徒の意識
・ 大熊信彦(2012)『音楽教育における学力をどう捉える
の変容である。
「音楽を聴いたことを表現する学習に
か』
- 74 - 中等教育資料 12 月号
15
-Bプロジェクト・美術-
(4) 美術科における研究の実際
検証
生徒は72.4%,「美術の時間以外でも,身の回りの
(中学校第3学年)
題材名
ものを見てよさや美しさなどをよく感じる。」と考
「地域への発信
えている生徒は75.8%であった。
~地域のロゴ・マークをデザインする~」
④
本題材は,地域の自然や特産物等からテーマを選
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
択し,それを効果的に表すロゴ・マークをデザイン
ス評価を位置付けた授業設計
ア
し,鑑賞する学習である。
①
知識・技能を活用する学習活動
美術科においては,教科の特性として知識・技
題材の目標
能の習得と活用は区別してとらえるのではなく,
地域のよさを効果的に伝えるために,豊かに発想
双方の行き来の活性化を図る授業づくりを行う必
し工夫して表現するとともに,表現の意図や工夫等
要があるが,今回は活用を特に意識して取り組む
を感じ取り,自分の見方を深める。
ことにした。
②
評価規準の設定
まず,本題材にかかわる知識・技能を検討し,次
評価規準の設定にあたっては「評価規準の作成,
のように設定した。
評価方法等の工夫改善のための参考資料」を参考
に,表1のように設定した。
表1
本題材で新たに身に付けさせる知識・技能
本題材の評価規準
・ロゴ・マークの表現の意義
ロゴ・マークの表現に関心を持ち,イ
関 心・ メージを効果的に伝えるために表現方法
意 欲・
を工夫して制作し,そのよさを鑑賞しよ
態 度
うとしている。
・単純化,強調,組合せ等,イメージを効果的
発想・
単純化や強調,組合せ等を工夫して豊
構想の
かに発想し,美しい表現の構想を練って
能力
いる。
既習の知識・技能
に伝えるための表現方法の工夫
○第1学年
・色の性質や感情
・色の組合せ
伝えたいイメージを効果的に表すため
創造的
に,材料や用具の特性を生かし,工夫し
な技能
て表現している。
・配色の工夫 等
○第1学年
③
文字を生かしたデザイン
・文字(書体)の特徴
作者の意図や表現の工夫,生活におけ
鑑賞の
能力
色との出会い
るデザインの働き等を感じ取り,自分の
・内容を伝えたり,印象付けたりするデザイン
見方を深めている。
○第2学年
「思考・判断・表現」に関する生徒の実態
イメージを届けるデザイン
・受け取る人のことを考えた内容
(N=29)
・目的に合ったデザインの工夫
検証授業は,男子15人,女子14人,計29人の学級
で実施した。事前に実施した意識調査では ,「作品
本題材では,第1次でロゴ・マークの表現の意義
をどのように表現しようかと考えるのは楽しい。」
や単純化,強調,組合せ等の,イメージを効果的に
と考えている生徒は60.0%,「作品をこんな風にし
伝えるための表現方法等についての知識や技能を,
ようとしっかりイメージして取りかかることができ
主に鑑賞活動を通して習得させ,それらを第2次以
ている 。」と考えている生徒は83.3% ,「自分が表
降の表現や鑑賞の各活動で繰り返し活用させて確
したいイメージを表現するために,形や配色,表現
実に身に付けさせようと考えた。併せて,色の性
技法などを具体的に考えて制作できている 。」と考
質や感情,文字(書体)の特徴等の既習の知識や
えている生徒は66.7%であった。
技能についても,表現や鑑賞の活動の中で意識さ
また,「友だちの作品や美術作品を見ると,よさ
や美しさなどがすぐに思い浮かぶ。」と考えている
せて活用を図り,確実に身に付けさせることを目
指した(図1)。
- 75 -
-Bプロジェクト・美術-
表3
本題材のルーブリック
A
伝えたいイメージ
B
伝えたいイメージ
思
が明確であり,その を表すために,形の
考
イメージを表すため 工夫(単純化や強調,
・
に,形の工夫(単純 ロゴ・タイプと図案
判
化や強調,ロゴ・タ の組合せ方等)や色
断
イプと図案の組合せ 彩の工夫(色の感情
・
方等)や色彩の工夫 等)をして表現して
表
(色の感情等)によ いる。
現
り,分かりやすさや
美しさを考えて表現
している。
このルーブリックを用いて,第4次の授業におい
て個々の生徒の作品やプレゼンテーションから「思
考・判断・表現」の評価を行うこととした。
図2は,これらパフォーマンス課題やルーブリッ
クによる評価等の位置付けを示したものである。
図1
イ
知識・技能を活用する学習活動
パフォーマンス評価
松下の考え方を基に,生徒に知識や技能を総合し
て使いこなすことを求める「パフォーマンス課題」
を提示して作品制作等のパフォーマンスを促し,そ
れらをルーブリックによって評価する「パフォーマ
ンス評価」に取り組んだ。
まず,本題材全体を通したパフォーマンス課題を
次のように設定し,第1次の授業で生徒に提示した。
表2
本題材のパフォーマンス課題
私たちの住む地域には自然や特産物,その他実
に多くのよさがあります。これらのよさを県内だ
けでなく,広く全国や世界にアピールしたいと思
います。
そこで,地域の様々なよさの中からあなたがア
ピールしたいものを一つ選び,それを効果的に表
すロゴ・マークをデザインしてください。
図2
パフォーマンス課題等の位置付け
出来上がった作品は,町や商工会等,多くの団
⑤
指導と評価の実際
体に,実際に使用してもらうよう働きかけます。
ア
授業展開
使用に耐えうる,また,多くの人に愛されるロ
第1次
ゴ・マークを期待します。
また,評価に用いるルーブリックは表3のように
設定し,こちらも第1次の授業で生徒に提示した。
- 76 -
プロに学ぶ(1時間)
-Bプロジェクト・美術-
・グラフィックデザイナーの作品を鑑賞する
本題材で身に付けさせるべき基礎的・基本的事項
・ロゴ・マークの表現の意義,造形要素等を理解
の活用を図る手だてとして,段階的に思考を深めて
する
いくワークシート(図4)を準備し活用した。
また,生徒同士でアドバイスし合う場を設定し,
その中で,受け取る人のことを考えた内容や効果的
に伝えるデザインの魅力や意義等についても確認さ
せるようにした。
第3次
作品に表す(1時間)
・材料や用具の特性を生かし,工夫して表す
自分が伝えたいことや主張したい内容を効果的に
伝えるために,使用する材料や用具を考えさせ,試
したりしながら作品制作に取り組ませた。
図3
第1次の生徒の感想の一部
第4次
近隣の美術館にて個展開催中のグラフィックデザ
作品を鑑賞する(1時間)
イナーに講師を依頼し,会場にて授業を行った。本
ル ーブリ ックに よる評 価
( パフォ ーマン ス課題 の見取 り)
題材に対する生徒の興味や関心を高めるとともに,学習
の見通しを持たせることができた(図3)
。
第2次
作品のプレゼンテーションを行い,互いの
・発想のよさや表現の工夫を感じ取り,自分の見方
を深める
アイデアを練る(2時間)
・町の特産物等をテーマに構想を練る
・グラフィックデザイナーの講評を聞く
・友人とアドバイスし合う
完成した自分の作品を提示しながら,テーマや表
現の工夫等を説明する場を設定した。その際,友達
の作品を鑑賞して,発想や表現の工夫を感じ取った
り見方を深めたりすることができるようにワークシ
ートを準備し活用させた。また,グラフィックデザ
イナーを再度招き,
個々の作品への講評をもらった。
生徒がワークシートに記述した感想を見ると,友
達の発想や工夫のよさなどを感じ取り,以後の表現
に生かしていきたいというものが多く見られた。ま
た,グラフィックデザイナーの講評を聞いて,自分
の取組に自信を持ったり,デザインへの興味が一層
高まったりしたという感想も多く見られた(図5)。
図4
段階的に思考を深めるワークシート(一部)
- 77 -
図5 第4次のワークシートの記述の一部
本時において,先に示したルーブリックによる評
-Bプロジェクト・美術-
価(パフォーマンス課題の見取り)を行った。
評価の対象としたのは,生徒の作品と作品につい
私たちの住む地域は,自然が豊かで,特産物も
ての発表(テーマや表現の工夫等)の内容である。
さまざまなものがあります。でも地域のよいところ
また生徒にも,授業の終末で本題材のまとめとし
は,私たちしか分からないと思いました。だから,
生徒Cの思い
てルーブリックで自己評価を行わせた。
自然や特産物を多くの人に知ってもらえるよう思い
イ
を込めました。工夫した点は,ローマ字の「T 」と パフォーマンス事例
ルーブリック
A
ひらがなの「つ」をイメージし,人が覚えやすい形
伝えたいイメージが明確であり,そのイメージを
にしました。この色にした理由は,町は緑がいっぱ
表すために,形の工夫(単純化や強調,ロゴ・タイ
いなのでそれを表す意味で緑色を使いました。
プと図案の組合せ方等)や色彩の工夫(色の感情等)
地域の特産物をアルファ
により,分かりやすさや美しさを考えて表現してい
ベットの形に図案化し,そ
る。
れをつなげて文字として表
生徒Aの思い
地域の人々の笑顔と心の
現している。統一感を出す
つながりをテーマとし文字
ために黒で彩色し,ワンポ
を図案化した笑顔の表現や
イントとして水色を効果的
アルファベットの文字をつ
生徒Dの思い
なげたデザイン,それに合
工夫した点は,ローマ字と,魚,木を組合せた
う配色の工夫をしている。
ところです。T の横線は特産品の太刀魚をイメージ に使用している。
地域の一人一人が心をつなぎ笑顔にという思い
し,GI の I は木にして,町がこの木のように発展 でこのデザインを考えました。心の字の2つの黒点
していくようにという意味を込めています。また文
は目,丸い線は口を表しています。下のアルファベ
字をつなげているのは,人のつながりを表していま
ットは,絵がやさしい感じだったので,ふわふわと
す。また,それぞれの文字には意味があり「T 」は した中でも心を引きしめる感じでアルファベットと
地域,「A」は all, 「G」は Great で,この「地域は
し,文字と文字をつないで,地域の一人一人の心を
全てすばらしい」という意味です。
つなげてという意味をかけてみました。
地域から新しい風を巻き
自然豊かな町をテーマと
起こそうというテーマで,
し,地域の特産物であるデ
「つ」を基にした形やその
コポンと山,海を単純化し
配置の仕方の工夫により,
て組合せて,一つのマーク
勢いや広がりを表現してい
にまとめている。
生徒Eの思い
生徒Bの思い
る。
熊本百景の一つである地域の岩山から吹き下ろ
地域にはたくさんの自然があるので,それを多
す風をイメージしました。また「つ」という文字
くの人に伝えたいという思いで描きました。工夫し
を風が吹いているように配置し,それらを地域の
た点は組み合せで,デコポン,山,海をシンプルな
山々に見られるいろいろな「緑」で彩色しました。
形でまとめました。また配色も単純さを考えて,デ
地域の特産物を象徴する
コポンを黄色,山は緑色,海は青色にしました。
ものとしてのデコポンの形
地域の特産物等に共通し
をベースに,複数の意味を
て使用するマークを考えて
持つ形や色を考え,組合せ
いる 。「T」と「つ」を組
方を工夫してデザインして
合せて印象的なデザインを
生徒Fの思い
考え,地域の自然を象徴す
る緑でまとめている。
いる。
この作品に込めた意味は4つあります。1つ目は
円と小さい点で特産物のデコポンを表し,また,円
- 78 -
-Bプロジェクト・美術-
は地域の和を表しています。2つ目は中の黒い部分
で T を表しています。T の横線は地平線を,縦の線 は下の部分を広くして遠近感を出し,地平線に続く
道のようにこの町がずっと栄え続けてほしいという
ことを表しています。3つ目で,配色は青は海,緑
は山,赤は夕陽やデコポンを表しています。最後に
デコポンの形にしたのは,デコポンの中に実がつま
っているように,この町もいいところや特産品が
図9
たくさんつまっていることを伝えたかったから
美術の時間以外でも,身の回りのものを見てよ
さや美しさ等をよく感じる
図6~図9は ,「思考・判断・表現」に関わる項
です。
⑥
検証結果と考察
目で,数値の上昇が見られたものである。このよう
ア
授業前後の生徒の意識調査結果
に ,「形や配色,表現技法等を考えること」や「よ
検証授業実施前の6月と検証授業実施直後の10月
さや美しさ等を感じること」等の項目で数値が上昇
に,美術科の授業に対する意識調査を実施した(N
したことは,本題材での「知識・技能」を活用する
=29)。これは,美術科で育成すべき四つの資質や
学習活動が「思考・判断・表現」の育成に一定の効
能力(関心・意欲・態度,発想・構想の能力,創造
果があったこと,また,生徒も自分の身に付いたこ
的な技能,鑑賞の能力)の観点から質問項目を設定
とを自覚していることを示しているものと考える。
したものである。調査の結果を比較すると,数値の
イ
上昇が見られたのは22項目中17項目,変化が無かっ
たのは5項目であった。
考察
今回,身に付けさせたい「知識・技能」を設定し
て授業を行った。美術科では,
「発想・構想の能力」
や「創造的な技能」等で学力をとらえることが主で
あるため,今回のような「知識・技能」の設定の仕
方が適切であるかどうかは,継続して検討していく
必要がある。また,その活用の在り方についても,
実践を蓄積して検討していく必要がある。
図6
「パフォーマンス評価」についての一連の取組を
自分が表したいイメージを表現するために,形
行い,見えにくい学力の見取りに取り組んだ。今回
や配色,表現技法等を考えることは楽しい
の実践では,パフォーマンス課題の提示,ルーブリ
ックの設定,それによる評価等に取り組むことで,
見通しを持って指導と評価を行うことができた。
本来,美術科での学習評価は「パフォーマンス評
価」であると考える。今後も「パフォーマンス評価」
を意識した授業づくりの取組を重ねて,より具体的
図7
色をつくり出したり,表現技法を工夫したりし
で活用しやすい授業モデルを求めていきたい。
て表現できた
≪引用・参考文献≫
・国立教育政策研究所(2011)『評価規準の作成,評価方法
等の工夫改善のための参考資料(中学校 美術)』
・松下佳代(2007)『パフォーマンス評価』日本標準ブック レット No.7 図8
友だちの作品や美術作品を見ると,よさや美し
・田中耕治(2011)『パフォーマンス評価
さ等がすぐに思い浮かぶ
・表現力を育む授業づくり』ぎょうせい
- 79 -
思考力・判断力
―Bプロジェクト・道徳教育―
(5) 道徳教育における研究の実際
検証1 (中学校第1学年)
テーマ 「大切にしたい,私たちのふるさと」
①
何が有効であり何が足りなかったのか分析し,今後
の指導に生かすことができると考えた。以上のこと
を踏まえ,図1のように総合単元的道徳学習計画モ
道徳教育における評価
デルを設計した。
中学校の道徳教育における評価は,生徒自身によ
る自己評価を生かして新たな目標への努力を支援す
るとともに,生徒の道徳的なよさや道徳的成長に対
する共感的な理解に基づいて指導計画や指導方法を
評価し,その結果を指導の改善に生かしていくこと
が求められる。道徳の時間においても,それぞれの
時間のねらいとのかかわりにおいて,生徒の心の変
容やよさを様々な方法でとらえたり,生徒自身の自
己評価を効果的に行ったりして,指導の改善に生か
していくことが必要である。
本研究は,中・長期的な評価と1時間の道徳の時
間の評価の視点から,道徳教育の指導の改善につい
て一つの方向性を示すことを目的とする。
②
図1
イ
評価の視点からの授業設計
○
学習活動における評価内容の設定
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
ス評価を位置付けた授業設計
ア
パフォーマンス評価を位置付けた総合単元的な
道徳学習計画
道徳教育での知識・技能を活用した学習活動とは,
各教科等の中で習得した知識や技能,今までの日常
体験や様々な体験活動で得た知識や技能を総合的に
活用して,道徳的価値の自覚を深めるための学習展
開を構想することにつながっていく。
そこで,道徳の時間の指導を中核として,その前
後に道徳的価値を含む学習を配置した大単元構想の
総合単元的な道徳学習計画
道徳的価値の自覚については,学習指導要領解説
道徳編に押さえたい事項が3点明記されている。
・道徳的価値についての理解と人間理解や他者理解
を深めること。
・自分とのかかわりで道徳的価値をとらえ,自己理
解を深めること。
・道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの
思いや課題が培われること。
この押さえたい事項を三つの視点とし,1時間の
授業の中で期待する生徒の学びの姿を想定した評価
内容を設定し(図2),意図的・計画的に学習活動に
評価場面・方法を位置付けた。
中で,習得した知識・技能を活用した生徒の主体的
な学習を促す総合単元的な道徳学習が有効であると
考えた。その学習を実践する中で,生徒の意識の流
道徳の時間の目標:道徳的実践力の育成
生徒に道徳的実践力が育成されたかどうか評価するこ
とは困難であり,~心情は育ったか~態度は養われたか
などの評価は容易ではない
1時間の指導を行った以上
はその評価は必要不可欠
れを大切にし,自分の成長を振り返り,成長に気付
く場を意図して確保していく。また,目指す生徒像
をはっきりさせることで,授業者も広い視野の中で
道徳教育を行うことができると考えた。
総合単元的な道徳学習計画の最初にパフォーマ
ンス課題に取り組ませ,単元の最終段階でもう一度
道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深める学習
ができたか否かを評価する【三つの視点】
・道徳的価値について理解する(道徳的価値の理解)
・自分とのかかわりで道徳的価値をとらえる(自分とのかかわり)
・道徳的価値を自分なりに発展させることへの思いや課題を培う
(自己実現への意志)
同じ課題でレポートにまとめ,生徒一人一人の変容
道徳的価値の自覚を深める
ための学習展開を構想する
を見取り,返していくようにした。事前の課題は,
生徒の実態把握につながり,目指す生徒像へ向けて,
どのような授業設計をしていくべきか方向性も見え
てくる。また,事後の課題で,生徒の実態を把握し,
- 80 -
指導により期待する生徒の具体的な学習(生徒の学びの姿)
を想定する
↓
三つの視点からの評価内容
図2
三つの視点からの評価内容設定
―Bプロジェクト・道徳教育―
○
学習活動における評価場面・方法の設定
求めて努力する意欲が生まれると考えた。
主体的な言語活動
ポートフォリオ評価
知識や技能を活用して自己表現し,自己主張する
自己評価の傾向に一定の変化が見られたり,ワー
などの力が,道徳の時間にも必要である。そこで,
クシートの内容に深まりが見られたりするような変
生徒が既習知識や体験等を活用して自分の考えを持
容を肯定的に見取っていくために,毎時間のワーク
ち,それを伝え合い,多様な考えの中で学び合う言
シートや自己評価をファイルに積み重ねていった。
語活動を取り入れた授業設計を行った。
このことにより,生徒の思考の流れを中・長期的に
生徒が思考・判断したことを自信を持って表現す
評価していくことが可能になると考えた。
る話合い活動の場や,生徒の心の動きや考えなど見
また,総合単元的な道徳学習計画終了時に,生徒
えないものを可視化するためのワークシートを活用
自身がファイルを読み返したり,教室に掲示してあ
した書く活動などを評価につなげていった。教師は
る授業で使った挿絵やキーワードを見たりすること
個々の生徒にかかわりながら生徒のよさに気付き,
で,その時の自分と今の自分を比べ,自分の成長に
変容を見取ることで,肯定的評価ができると考えた。
気付く場を意図的に設定した。
言語活動としては以下のものを取り入れて充実
③
を図った。
道徳の時間に関する生徒の実態(N=29)
授業を行った学級で,事前に道徳の時間について
○書くことで自分を見つめ自己理解につなげる
・ワークシートを活用した書く活動
○多様な考えを聞くことで人間理解・他者理解
を行い自己理解につなげる
・ペアによる対話
・少人数によるグループでの話合い活動
・コの字型での全体の話合い活動
自己評価
の意識調査を行った。表1はその結果である。
表1
道徳の時間の意識調査結果(単位:人)
質問内容
道徳の時間に積
極的に参加して
いる。
生徒の自己評価を生かして新たな目標への努力
理 由
を支援するとともに,指導の改善に生かしていくた
めに,毎時間のワークシートに自己評価項目の欄を
設け,授業の最後に自分自身を振り返る時間を確保
道徳の時間に自
分自身をじっくり
見つめている。
した。生徒自身が自己を深く見つめ,自らの道徳性
理 由
をはぐくんでいこうとする力を高めることが大切で
あると考え,図3のような自己評価項目を作成した。
〔今日の学習を振り返りましょう。〕
○今日の道徳の時間の学習は
2あまり 3だいたい 4よくできた
項
目
評
①自分の考えを伝えることができましたか。
1 2
②友達の考えを聞いて,自分の考えを深めること 1 2
ができましたか。
③自分のこととして考える場面がありましたか。 1 2
④これからの生活や生き方への目標や課題が持 1 2
てましたか。
道徳の時間で考
えたことが日常生
活で役立つ。
1できなかった
価
3 4
3 4
理 由
3 4
3 4
思う
どちらかと
いうと思う
どちらかとい
うと思わない
思わない
10
9
8
2
・自分の意見を発表でき
・自分の考えを発表している。
ない。
・自分の考えを書いている。
・発表が苦手。
・みんなの話を聞いている。
・発表する機会がない。
7
15
・自分のことを振り返るこ
とができている。
・自分はどうなのか考えな
がら参加している。
16
9
5
2
・自分自身のことを見つ
めるのは苦手。
・あまり自分自身のこと
を考えたことはない。
3
1
・道徳で学んだことを実行
・日常生活で道徳のこと
して役にたっているから。
を考えたことはない。
・いじめのこととか意識が
・その時だけ考えて後で
高まった。
は考えない。
・人のこととか考えること
・そんなことを考えたこ
ができるようになった。
とはない。
このような結果から,自分の考えを表現すること
自己評価項目
が苦手な生徒に対し,まず,自分の考えを持ち,自
①,②は言語活動の充実がどうだったか,③,④は
信を持って伝え合い,多様な考えにふれながら更に
三つの評価の視点からの授業設計がどうであったか
自分の考えを深め合う学習を展開する必要がある。
反省し,次の授業設計へとつなげることができる。
また,資料で高まった価値から,自分自身につい
図3
また,ワークシートや自己評価項目欄に赤ペンで, てしっかり振り返り,見つめる時間を確保し,これ
からの自己実現への意志を持てるような終末の工夫
生徒のよさや気付き,励ましの言葉を書き添えて返
すことで,生徒は成長を実感し,更によい生き方を
をする必要があると考える。
- 81 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
④
指導と評価の実際
ア
総合単元的な道徳学習計画
干拓工事にはご先祖様の大
変な苦労と努力があったか
らこそ,今のこの町がある
んだなあと思った。ご先祖
様の思いを大切に受け継い
でいきたい。
総合単元的な道徳学習計画のモデルに沿って,
「大切にしたい,私たちのふるさと」というテーマ
で計画を立てた。目指す生徒像を「国際的な視野に
立ち故郷を愛し,地域の発展に貢献しようとする生
図4
徒」とはっきりさせ,それに向けて,道徳の時間を
○パフォーマンス課題
要に,各教科・総合的な学習の時間の郷土学習,特
郷土学習での地域の方の話
あなたのふるさとのよさは何だと思いますか。
また,あなたがふるさとのためにできることは
どんなことだと思いますか。
別養護老人ホームとの交流,校区のクリーン作戦等
の体験と関連させながら進めていった。特に,総合
的な学習の時間との関連で,郷土学習(図4)の中
9月にこの課題でレポートを書かせ,11 月の単元
で得た知識や思いを総合的に活用しながら,本時の
終了時に学習したことを振り返り,もう一度同じ課
資料理解,価値理解へとつなげていった。また,保
題でレポートを書かせた。教師はその二つのレポー
護者のアンケートを活用したり,事後の情報を得た
トの内容を比べ,一人一人の変容を見取り,生徒が
りと,家庭と連携を図りながら行った。
自分の考えの変化や成長に気付く場を確保した。
総合単元的な道徳学習計画
第1学年
第2期
テーマ
「大切にしたい,私たちのふるさと」
【テーマ設定の理由】
【中心項目】
中学生の時期は自己理解が深まり,自分なりの生き方についての関心が高まってくる。これからの国 4 - ( 8 ) 郷 土 愛
際社会の中で主体性を持って生きていくためには,広い国際的視野に立ちながらも自己がよって立つ基 【 関 連 項 目 】
盤にしっかりと根を下ろすことが必要である。そこで,自分の生まれ育ったふるさとを知り,ふるさと 4 - ( 7 ) 愛 校 心
に誇りを持つことで,他の地域や異文化への理解や尊敬の心を育て,世界平和を目指す生き方へとつな 4 - ( 9 ) 愛 国 心
げたいと考え,本テーマを設定した。
時期
9
月
各教科
英語
「お祭り大好き」
祭りを通して日本の
文化や伝統に触れ
る。
音楽
「パフ」
外国の合唱曲を自分
のパートの役割を意
識しながら歌う。
10
月
家庭科
「地域の食材と
食文化」
地域の食材や郷土料
理を学び,日本や世
界の食糧事情にも目
を向ける。
美術
「自然と向き合
う日本の美」
自然や季節の美しさ
を取り入れた日本の
美術に関心を持つ。
11
月
国語
「今に生きる言
葉」
中国の古典に由来す
る言葉が今も生活の
中に生きている 続け
ていることを知る。
地理
「アフリカ州」
アフリカの自然・文
化・産業などの学習
を通して,国際協力
や日本の役割につい
て考える。
道徳の時間
総合的な学習・特別活動等 生徒の心の動き
みんなのために
4-(7)愛校心
「合唱コンクール」
学級や学校を愛し,そこでの生活の中
で自分の役割を果たして,よりよい学
校生活の実現に努 めようとする意欲を
高める。
心のノート
P18,P19
学校行事
「新ALT歓迎式」
新ALTに歓迎の気持ちを込めて
全て英語で歓迎式を行う。
よりよい学級や学校
をつくるために,私
たち一人一人が責任
を果たさなければな
らないんだな あ 。
総合的な学習の時間
「 郷 土 学 習( 地 域 調 べ )
」
校区内にある飛行場について調べ
学習を行う。
ふるさとに生きる
4-(8)郷土愛
「ぼくのふるさと」
郷土に尽くした様々な人々へ感謝の気
持ちを持ち,郷土の発展に尽くそうと
する心情を育てる。
私たちはふるさとの
人たちに支えられ育
ってきたんだなあ。
自分のふるさとを大
切にしよう。
心のノート
P20,P21
郷土の誇り
4-(8)郷土愛
「ご先祖様がつくった土地」
自分の郷土を愛し,郷土の発展に尽くして
きた先人に感謝の念を深め,自ら地域社
会の発展に努めようとする態度を育てる。
伝統や文化の継承
4-(9)愛国心
「古都の雅,菓子の心」
日本の伝統や文化に関心を持ち,それ
を守り発展させようとする心情を育て
る。
心のノート
P26, P27
学校行事
「合唱コンクール」
学級みんなで心をひとつにして,
合唱に取り組む。
学校行事
「文化祭」
郷土学習で調べたことや郷土芸能
を発表する。
委員会活動
「車椅子贈呈式」
1年間で回収したアルミ缶の収益
金で地域の老人ホームに車椅子を
贈呈する。
私たちのふるさとは
みんなの努力によっ
て発展したんだなあ。
私もふるさとのため
にできることをしよ
う。
日本の伝統や文化は
すばらしいなあ。大
切に残し,自分たち
も継承していきたい
なあ。
生徒会活動
「レッツクリーン作戦」
校区の清掃活動や堤防の草刈りを
し,地域に貢献する。
国際的な視野に立ち故郷を愛し,地域の発展に貢献しようとする生徒
- 82 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
イ
検証授業の実施と考察
主題名
郷土の誇り 4-(8)郷土愛
資料名
ご先祖様がつくった土地 (出典 熊本の心 熊本県教育委員会)
2 ねらい
学級やグループで考えを交流し多様な考えを出し合うことで,郷土に尽くした人々への
感謝の気持ちを持ち,郷土の発展に貢献しようとする態度を育てる。
3 展開
(C:生徒 T:教師)
過程
学習活動
主な発問と生徒の学習の様子
評価内容・方法
1
き
づ
く
地域の発展ってどういうことでしょう。
1 地域の発展と
は何かについて C:農業が発展する。
考える。
C:のり作りが発展する。
C:地域の行事が盛んになる。
保護者の
T:地域が発展するためには,どんなことが必要だと思いますか?
アンケート
家の人にとったアンケートの結果を見てみましょう。
活用
C:ぼくたちの親は,地域のために考えて行動しているんだな。
T:今日は,
「ご先祖様がつくった土地」のお話を通して,
「地域の発展」につい
て考えていきましょう。
堤防はもうその役目を終えているのに,じいちゃんは
と
2 資料「ご先祖様
なぜ草刈りをしているのでしょう。
がつくった土地」
。
を聞いて考える。 C:役目が終わっても伝統として守って受け継いでいきたい。
ら
C:ご先祖様が苦労して作ったので,大切にしたい。
C:努力の結晶。後の世代に伝えたい。
・草刈りをするじい C:どんなに役割を終えても受け継いでほしい。
ちゃんの気持ち C:ふるさとのために恩返し。ありがたい。土地を守ってくれたことに対して。
を考える。
C:家族の命や人々の生活を守ってくれたことに感謝。
え
言語活動
ペアでの対話
る
評価①
道徳的価値
の理解
郷土をつくってき
た先人への感謝の
気持ちを持ち,郷
土の発展のために
行動している人の
思いについて考え
ている。
話合いの様子
の観察
【ペア】
↓
【全体】
人間理解
他者理解
言語活動
コの字型での全体の話合い
み
つ
め
る
3 地域の発展の
地域の発展のため,自分にできることはどんなことでしょう。
ために自分がで
きることは何か T:アンケートを見てみましょう。地域の発展のために行動している人もいます
考える。
ね。 (5人・・あいさつ,ごみ拾い)
生徒の
アンケート
活用
T:あいさつやごみ拾いは,なぜ地域の発展につながるのですか?
C:地域の人が笑顔で元気になる。協力できる。仲良くなれる。
C:地域がきれいになると気持ちがいい。よそから来た人が,また来ようと思う。
T:みんなが日頃何気なくやっていることが,地域の役に立っていることがある
のですね。他にもいろいろあるのではないですか。
C:堤防の草刈りなどのボランティア活動に積極的に参加する。ご先祖様が苦労
して開いた土地をきれいにしていきたい。
C:行事に積極的に参加をする。地域の人と交流すると心が豊かになる。
C:トマト農家を受け継いでいく。農業を発展させ地域の特産物を大切にする。
C:今やっている剣道を頑張って,将来教えていきたい。
C:神楽を続けて,将来小学生に教えて伝統を伝えていきたい。
C:学習した地域のすばらしさや昔の人の苦労や努力を若い世代に伝えていく。
- 83 -
評価②
自分との
かかわり
郷土の発展のため
に自分にできるこ
とは何なのかにつ
いて考えている。
ワークシート
話合いの様子
の観察
―Bプロジェクト・道徳教育―
言語活動
ワークシートに自分の考えをまとめる
【個人】
↓
【4 人グループ】
↓
【全体】
言語活動
4 人グループでの話合い活動
他者理解
言語活動
全体での話合い活動
あ
た
自己理解
4 ゲストティー T:資料の中の「じいちゃん」のモデルになった方に来ていただ
チャーの話を聞 いています。お話を聞きましょう。
く。
この堤防の中には,干拓の歴史が刻ま
れています。今まで大切に守ってきて,
文化庁指定となり,保存する価値があり
ますよと認められたことになります。地
域の人みんなが大切にしていきたいとい
う願いを持っています。皆さんの先輩た
ちもこの堤防の草刈りをしてくれて,も
う,この地域の発展は間違いないと,と
てもうれしかったです。また,熊本の心
の地元の教材も,これも文化財の一つ。
大切にしていってほしいですね。
た
め
る
5 自分の考えを
まとめる。
評価③
自己実現への
意志
自己発見・希望
今までの自分を振り返り,地域の発展についてどんなことを
考えましたか。
郷土の発展に尽く
す喜びややりがい
を感じ取り,自分
の郷土のために貢
献したいという意
欲を持っている。
C:今までは,地域の草刈り等「めんどうくさい。
」と思っていたけど,この勉
強をして,ご先祖様が命をかけて作ってくれた土地だから,しっかり頑張り 発言
たいと思った。
ワークシート
C:今まで自分の地域は田舎で何もないからどうでもいいやと思っていたけど,
自分が町を発展させていくべきだと思った。町のために役に立ちたい。
C:今まで,地域の発展について全然考えたことがなかったけど, 今日勉強をし
自己評価
て, 自分にも地域のためにできることがあると思った。これからは, 地域の
伝統文化を受け継いだり地域のためにできることを進んでしたりしたい。
T:地域の発展に貢献するって, みんなにもいろいろできそうですね。
【授業後の考察】
評価①<道徳的価値の理解>
○資料を事前に読ませ,主人公の気持ちについて自分の考えをあらかじめ考えさせておいた。そのことで,
全員が自分の意見を持って授業に臨み,積極的に発言する姿が見られた。
○二人組で意見の交流を図り,自分の考えとの相違点に気を付けながら聞いたり,感想を伝え合ったりした後
に全体での発表を行ったので,いつもより挙手の数も増え,自信を持って自分の考えを伝えることができた。
また,座席をコの字型にすることで全員の顔が見えやすく,話合い活動も積極的に行うことができた。
評価②<自分とのかかわり>
○アンケートの結果を紹介した後に,地域のために自分がしていること,これからできることを各自でワーク
シートに書く活動を取り入れたことで,今までの自分とのかかわりからじっくり考える時間を確保できた。
また,机間指導をすることで,生徒の多様な考えや価値の深まりを把握することができ,教師の意図的指名
や板書の工夫につなげることができた。
○グループによる少人数での話合い活動を取り入れたことで,活発な意見の交換ができた。その中で,日頃の
何気ない行動が実は地域の発展に役立っていることに気付いたり,自分たちの役割や責任についても考えた
りすることができていた。
評価③<自己実現への意志>
○終末に,資料の「じいちゃん」のモデルになった方の話を実際に聞くことができ,郷土の発展に尽くすやり
がいや喜びを直接感じ取ることができた。ワークシートに,これから自分はどうしていきたいのか,実践へ
の意欲が表れた文章がたくさん見られた。
- 84 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
⑤
検証結果と考察
信等で紹介し,保護者からの情報も得たことで,生
ア
パフォーマンス評価を位置付けた総合単元的な
徒の学習後の家庭や地域での実態を把握することが
道徳学習計画
できた。
パフォーマンス課題として最初と最後に同じ課
イ
評価の視点からの授業設計
題のレポート作成を位置付け,生徒の思考・判断を
○三つの視点を基に,1時間の授業の中で期待する
可視化したことで,一人一人の生徒の変容やよさを
生徒の学びの姿を想定した評価内容を設定し,その
見取ることができた。生徒も以前より,広く深く考
手だてを考えたことで,道徳的価値の自覚が深まる
えることができる自分の成長に気付くことができた。
学習活動を目指すことができた。
最初は,ふるさとのよさについて,「いちごやト
○評価の視点から言語活動を充実させたことで,生
マトなどがおいしい」
「自然がいっぱい」など限られ
徒が積極的に授業に参加し,自分自身のことをじっ
た内容が多く,「分からない」と答えた生徒もいた。
くり見つめようとする意識が高まったことが,表2
しかし,学習後は以下の学習後のレポート~ふるさ
の授業後の意識調査から分かる。大きな変化は見ら
とのよさ~に示すとおり,広い視野の中で,たくさ
れないが,このような授業を継続していくことが大
んの地域のよさに気付くことができた。
切であると考える。
【学習後のレポートより抜粋 ~ふるさとのよさ~】
表2
・農業,漁業がさかんでたくさんの特産物がある
・素晴らしい自然や伝統文化が残っている
・歴史的建造物がある
・地域の人と交流ができる行事がたくさんある
・何かあると地域で協力して行っている
・地域の人が明るく優しいし,挨拶が上手
道徳の時間の意識調査(N=29
質問内容
また,自分ができることについて最初は「分から
ない」「何もない」と答えた生徒が 10 人もいた。地
単位:人)
思う
どちらかと
いうと思う
どちらかという
と思わない
思わない
道徳の時間に積
極的に参加してい
る。
事前
10
9
8
2
事後
13
11
5
0
道徳の時間に自
分自身をじっくり
見つめている。
事前
7
15
5
2
事後
7
19
3
0
域のためになることがどんなことかイメージを持て
○毎時間のワークシートや自己評価をファイルに積
なかったと思われる。しかし,下のレポートの記述
み重ねたことで,記述の中に以前より内容の深まり
のように,学習後は,
全員が今の自分にできることや,
があったり,自己評価の数値が上がっていたりと,1
将来していきたいこと等の考えを具体的に持ち,実
時間だけでは気付かなかった生徒のよさや変化に気
践意欲を持つことができた。
付くことができた。そのことに対して丁寧に赤ペン
【学習後のレポートより抜粋 ~ふるさとのためにできること~】
で返しを入れることで,教師と生徒の心の交流がで
・今までは地域の発展のためにできることはないと思っていたが,地域
の人が明るく元気になるようなあいさつや,地域の草刈りやごみ拾い
などのボランティア活動などに感謝の気持ちを持って参加したい。
・地域の行事や祭りに積極的に参加をして自分たちが受け継いで後
に伝えていく。
・今やっている神楽の練習を続けて大切に受け継いで,将来は教え
てつなげていく。
・お年寄りに優しくして,手伝いをたくさんする。お年寄りが明るく
安心して過ごせる環境にする。
・今,勉強や運動をしっかり頑張って,将来地域のために貢献できる
ようにする。
・家族とたくさん話して,将来のことをしっかり考える。
き,生徒も自分自身の成長に気付くことができた。
これは,総合的な学習の時間の郷土学習や,文化
○文章に表現することで,生徒の思考を可視化する
祭での発表等の様々な体験活動等で習得した知識や
ことができたが,書かれた内容だけで評価するので
技能を活用した道徳の時間の取組が,地域のよさに
なく,行間に込められた思いを共感的に理解する姿
気付く目を持ち,自分はこれからどうしていきたい
勢が大切である。日頃の生徒の観察や会話,保護者
のか深く考え,自己実現の意志を持つことへとつな
からの情報など,様々な方法で継続的に実態を把握
がったと考察する。その生徒の成長やよさを学級通
し,指導の改善に生かしていくことが必要である。
【ワークシートのコメントより抜粋 ~自分の成長~】
・先生のアドバイスで自分はどんなところが成長したかがよく分かっ
た。特に自分の考えを持ち,発表するだけでなく,人の考えを聞いて自
分の考えとどう違うか比べたり,自分を理解したりする心が成長した。
・最初は学習したことから目標を立てることができていなかったが,だ
んだん自分には何が必要なのか考えることができるようになった。
○ファイルや教室の掲示は,何を学んだか生徒の意
識の持続化にも効果があり,学校行事や地域行事等
の実践意欲につながった。
- 85 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
検証2
(高等学校第2学年)
単元名
国語科「詩歌・永訣の朝」
①
イ
評価の視点からの授業設計
◯
評価の内容設定
本単元の実践にあたって国語科の指導目標と評価
高等学校の道徳教育における評価
高等学校学習指導要領1)に,高等学校における道
徳教育は,
「人間としての在り方生き方に関する教育
であり,公民科やホームルーム活動を中心に各教
科・科目等の特質に応じ学校の教育活動全体を通じ
て,生徒が人間としての在り方生き方を主体的に探
規準とは別に,道徳教育のねらいに迫るため,中学
校で実施した三つの視点からの授業設計を行った。
その際,期待する生徒の学びの姿を,1時間に一つ
重点化し設定することにした。第2時に「自分との
かかわり」, 第5時には「自己実現への意志」から,
ように道徳教育を行っていくか,中学校の評価の視
具体的な評価内容と学習活動を位置付けた。
視 点
生徒の学びの姿
作者の心情を深く考えた上で自分の意見や
考えを整理し,その記述に基づいて自己の立
自分とのか
場を表明している。詩のテーマを自己の体験
かわり
や日常に照らして考えている。
詩のテーマを考えることで自他の生命尊重
自己実現へ
や利他的精神という道徳的価値を導き,自己
の意志
の在り方生き方に照らして考えている。
点を参考にした授業設計を行った。
◯
②
主体的な言語活動
求し豊かな自己形成ができるよう,適切な指導を行
うもの」と示されている。つまり,高等学校では,
道徳の時間がないため,
「何を」
「どのように」
「どこ
で」行うか,明確にすることが大切である。
そこで,
本研究では,昨年度に引き続き,各教科の中でどの
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
評価場面と方法の設定
高等学校においても,発達段階に応じた言語活動
ス評価を位置付けた授業設計
ア
道徳教育の視点を取り入れ,パフォーマンス評
を取り入れ,自分の思いを伝え合い,多様な考えに
価を位置付けた単元構成
触れ,更に自分の考えを深めていく授業展開を目指
第2学年国語科の単元「詩歌・永訣の朝」(全5時
していった。そのために生徒の実態に即した,ワー
間)で,中学校の道徳の内容3-(1)生命尊重との関
クシートを工夫した書く活動や,グループや全体で
連で実践を行った。単元のどこで,どのように道徳
の話合い活動の工夫を行い,言語活動の充実を図り
教育的視点を取り入れた授業を行うと効果的か考え, 評価へとつなげていった。
自己評価
今回は第2時と第5時に行うことにした。
その際,詩のテーマが読者に伝わるような本の帯
中学校と同じ内容で,毎時間授業の最後に自分を
(キャッチフレーズ)を作成するパフォーマンス課題
振り返り,自己評価を行う時間を確保した。ワーク
に取り組ませ,国語科で習得した知識や技能,今ま
シートと同様に5時間分の変容が見取れるような単
での日常体験や様々な体験活動で得た知識や技能を
元を通したシートを作成し,評価につなげていった。
総合的に活用して,自分の考えを深めていった。
➂
表3は,事前の意識調査の結果である。
生徒一人一人の思考・判断について,可視化され
た本の帯から,その変容やよさを見取ることができ
生徒の実態
表3
授業学級の生徒の意識調査(N=43
質問内容
るような単元(図5)を構成した。
思う
単位:人)
どちらかとい
うと思う
どちらかとい
うと思わない
思わない
授業で学習したことが日常の生
活で役に立っていると思う。
4
15
19
5
授業の中で自分自身をじっくり見
つめ,考えることができている。
2
11
19
11
質問に対して肯定的にとらえている生徒が学級
の過半数に達していない。そのため, 授業で学習し
たことを自分の生活と結び付け,自分自身のことと
してとらえ,自ら考え,自覚を深めて自己実現に資
するよう,指導計画や方法を工夫することが必要で
図5
単元指導計画
あると考える。
- 86 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
④ 検証授業の実施と考察
【第2時の目標】
詩の中に表された言葉や情景から作者の心情を読
み取り,詩に流れているテーマは何かを考える。
過程
学
習
の
流
れ(※工夫・支援)
導
入 1 前時の内容を振り返り,本時の課題を確認す
る。
【第5時の目標】
他者との対話を通して新たな視点を得ることで,テーマにつ
いて更に深く考え,現在の自己の在り方生き方を考える。
過程
学
導
入
2 初発の感想を発表する。
流
れ(※工夫・支援)
1 前時の内容を振り返り,本時の課題を確認す
る。
2 詩を音読する。
3 詩を音読する。
4 作者の心情とこの詩に込められたテーマに
展 ついて考える。
開 (1)自分なりの考えを持つ。
【個人】
展
開
3 第2時で想定した詩のテーマを確認する。
4 この詩に流れているテーマについて再考す
る。
(1)自分なりの考えを持つ。【個人】
ワークシートの工夫
(2)グループで自分の意見や考えを発表する。
【グループ】
ワークシートの工夫
※テーマに対して自己の体験が重なる点やエピ
ソードを書く欄を設け記入させる。
自分とのかかわり
グループの話合いの工夫
(2)グループで意見交換をする。
【グループ】
グループの話合いの工夫
※司会の生徒は,話合いの
マニュアルを基に進めて
いく。
※司会の生徒は,話合いの
マニュアルを基に進めて
いく。
(3)全体で意見の交流をする。【全体】
ワークシートの工夫
※他の人の発表内容を記録して,多様な考えや
感じ方があることに気付くようにする。
全体での話合いの工夫
※第2時で考えたテーマと
比較し意見を交流する。
(3)全体で意見交換をする【全体】
全体での話合いの工夫
※各班で話し合ったテーマ
を書いた用紙を板書し,
相違点を意識しながら意
見交換をする。
5 他のグループの発表を聞き
自分のとらえ方を照応する。
6 詩のテーマを日常に照らし,今の自分を見つ
め,今後の生き方について考える。
資料・ワークシートの工夫
※身近な新聞記事・コラムの資料を活用する。
5 他のグループの意見を聞き,自己のとらえ方
を見直す。
終 6 本時の学習のまとめをする。
末
道徳教育の視点②
自己実現への意志
終 7 本時の学習のまとめをする。
自己評価
末
〔授業後の考察〕
○
○
の
本の帯(キャッチコピー)を作ろう。
詩に流れているテーマについて考えよう。
道徳教育の視点①
習
道徳教育の視点①【自分とのかかわり】
自己評価
道徳教育の視点②【自己実現への意志】
学習したことを振り返り,詩のテーマを更に深く
詩のテーマを表現し,そのテーマについての自己
考え,本の帯を作成した。2時間目に作成したテー
の体験が重なる点やエピソードを書く欄を設けたこ
マと本時のテーマを比べることで,自分や他の友達
とで,全員が自分自身のこととして考えることがで
の変化やよさに気付くことができた。その後,身近
きた。また,それをグループや全体で伝え合うこと
な新聞記事・コラムを活用したことで,自分自身の
で,多様な考えに触れることができた。
【自分とのかかわり】 第2時の生徒のワークシートより
私は, 祖父を亡くし,この詩のように「死」を受け入れるこ
とはすぐにできなかったけれど,今ではちゃんと受け入れるこ
とができていると思う。でも,この詩のようにずっとそばにつ
いてあげたり,会話をしてあげたりできなかったことを後悔し
ている。だからこそ,今は祖母についていてあげようとか詩の
ように支えてあげたいと思っている。
これからの生き方について考えることができた。
【自己実現への意志】 第5時の生徒のワークシートより
今回の授業で,命の尊重, 尊さなどを学習して,今まで当た
り前のように周りにいた家族や友人などが,かけがえのないも
のだと改めて気づかされたような気がした。命はいつか消えて
しまうもの。これからは,家族や周りの人々を大切にしながら,
学習したことを日々の生活に生かしていきたい。
- 87 -
―Bプロジェクト・道徳教育―
⑤
検証結果と考察
ア
道徳教育の視点を取り入れ,パフォーマンス評
自己評価シートより(第5時)
・今日は,新聞の記事を読んだりして,今まで以上に深く命に
ついて考えた。みんなの意見を聞いてやはり,いろいろなとら
え方があるのだなあと感じた。まさに「答えのない問題」のよ
うに感じ,こういう思考をすることが,これから世間に出た時
必要な力になるように思った。
・命の大切さや死を通してわかる人の思いやりや気持ち,これ
からの人生の生き方についてじっくり考えることができた。
価を位置付けた単元構成
詩のテーマを,最初は,
「妹とし子が亡くなってし
まう物語」
「作者が妹の死を悲しむ物語」等,ただ単
に死を悲しむ物語ととらえていた生徒が多かったが,
後では,
「作者が読者に自分の生き方について考える
機会を与える物語」や,
「作者が読者に命の大切さに
ついて考えさせる物語」
「賢治が妹の死を経験し,他
の人に尽くし,生きようとする物語」等,生命やこ
れからの生き方について自分の中に落とし込んで深
く考えることができていた。本の帯を作成するとい
うパフォーマンス課題に取り組ませることで,生徒
一人一人の思考・判断を可視化することができ, 具
体的な変容を確認できた。このことにより,的確な
言葉かけやアドバイスをすることが可能となった。
生徒個人の思考や成長を見極める手段として有効で
あったと考える。
イ
○単元を通して,ワークシートや自己評価カードを
工夫したことで,生徒のよさや,思考の変化をとら
えることができた。また,それに毎時間赤ペンで返
しを丁寧に入れることで,生徒のこれからの生き方
について考えるきっかけや意欲へとつながった。
◯第2時と第5時に少人数のグループでの話合い活
動を充実させ,その後全体での話合い活動を行った。
そのことが,自分の考えを伝え,多様な考えを聞き,
更に自分の考えを深めることにつながったというこ
とが,発言の様子やワークシートの記述, 生徒の自
己評価の結果(図7)から分かる。
4.00
評価の視点からの授業設計
○「自分とのかかわり」
「自己実現への意志」の道徳
自分の考え
を伝える
自分の考え
を深める
3.00
的視点を意識した授業設計を行ったことで,ワーク
シートの記述や生徒の発言から,詩の読み取りだけ
2.00
でなく,自分のこととしてより深く命について考え
ることができたことが分かった。図6の生徒の自己
1.00
評価からも,第2時は自分とのかかわりで考えた,
第5時は自己実現への意志を持つことができたと振
図7
り返る生徒が増えている。ワークシートに自己の体
N=43
第1時 第2時 第3時 第4時 第5時
生徒による自己評価②(4件法平均値)
中で習得した知識・技能を活用するだけでなく, 自
自己評価シートより(第2時)
・班の人の考えや,他の班の意見などを聞いて,今まで自分
が思いつかなかった考えを知って,
より自分の考えを深める
ことができた。
・他の班のテーマを聞いて,
こんな見方もあるのかと驚いた。
様々な視点から考えることで命に対する自分の考えが深ま
った。
分とのかかわりの中で深く考え,これからの自己実
○生徒自ら考え,自分の考えを伝え合い,多様な考
現の意志へとつながったと推察する。
えに触れることで,更に自分の考えを深めていくこ
験が重なる点やエピソードと重ねながらテーマに対
する考えを書く欄を加えたり,テーマに関連した身
近な新聞やコラムを活用したりしたことで,教科の
4.00
とが,最終的には人間としての在り方生き方につな
がっていくと考える。安心して本音が出せる支持的
3.00
自分との
かかわり
自己実現
への意志
2.00
1.00
風土を土台として,生徒の実態にあった言語活動の
充実を更に図っていくことが必要である。
≪引用・参考文献≫
1)文部科学省(2009)『高等学校学習指導要領解説総則』p18
・永田繁雄(2007)『習得,活用,探求の考え方を生かし
た道徳の時間の指導の工夫』初等教育資料 10 月号
・赤堀博行(2011)『道徳の時間における学習評価の改善
と指導の工夫』初等教育資料 3 月号
N=43
第1時 第2時 第3時 第4時 第5時
図6
生徒による自己評価①(4件法平均値)
- 88 -
-Bプロジェクト・特別支援教育-
(6) 特別支援教育における研究の実際
を必要とする生徒に対する効果的な指導についての
検証 (高等学校第3学年)
実践研究を行ってきた。その中で,教育上特別な支
単元名 地理B「近隣諸国の研究」
援を必要とする生徒に対する効果的な指導のために
①
は,実態把握を基にした分かりやすい授業づくりが
単元の目標
近隣諸国の研究について,韓国(中国,ロシア)
を取り上げ,日本との共通性や異質性,日本との交
大切であること,また,分かりやすい授業実践は,
他の生徒の指導にも効果的であることが検証できた。
そこで,今回の検証授業でも,生徒の実態を踏ま
流に着目して考察する。
②
え,特別支援教育の視点から「分かりやすい授業づ
評価規準の設定
本単元の思考・判断,技能・表現に関する評価規
くり」と「生徒の実態や特性に配慮した指導の工夫」
準は,以下のとおりである。
を大事にした授業設計を行った。
評価の観点
ア 分かりやすい授業づくり
思考・判断
技能・表現
③
評価規準
韓国(中国,ロシア)と日本の共通性・
異質性や交流に関する地理的事象から課
題を設定し,追究するとともに,近隣諸
国との交流の在り方や日本の役割を考察
している。
韓国(中国,ロシア)と日本の共通性・
異質性や交流に関する資料や情報を地理
的に追究する技能を身に付けるととも
に,結果をまとめたり発表したりしてい
る。
分かりやすい授業づくりのために,図1に示すよ
うに,授業の流れや目標等の視覚的な情報提示を行
い,作業的な学習活動を取り入れ,学習形態の工夫
を行った。
生徒の実態(N=12)
対象の生徒は,3年の中で地理Bの授業を選択し
ている 12 人である。
学習意欲に差が見られ,学び方の経験値や知識の
量にも個人差がある。また,気持ちが不安定な生徒
や自己肯定感が低い生徒もいる。しかしながら,発
言はとても活発で,興味・関心を持った課題に対し
ては,積極的に取り組む生徒も多いクラスである。
本単元は,2年次に地理A(2単位)及び3年次
前半までの地形や自然環境,農業や工業などの産業
を系統的に学んだ後に学習するため,生徒にとって
図1 分かりやすい授業づくり
○ 授業の流れ(内容と活動時間)の提示
理解しやすい内容である。また,生徒たちも自分の
授業の導入で,授業の流れと活動時間を視覚的に
生活と比較し,なぜそのような生活や文化が生まれ
提示することで,授業に対する見通しを持ちやすい
たのかを考えやすい内容でもあるので,発問や授業
ようにした。
の構成次第では,生徒の興味・関心を引き出すこと
○ 単元及び本時の目標の提示
ができ,意欲的に学ぼうとする姿勢が見られると考
えた。
授業の導入で,本時の学習のめあてを視覚的に示
すことで,本時の学習のゴールを明確にした。
なお,このクラスの中に,発達障がい等の診断を
○ 作業的な活動
受けた生徒は在籍していない。しかし,生徒の実態
ワークシートを使った調べ学習を行うことで,生
は幅広く,学力や学習意欲に課題のある生徒が在籍
徒の学習に対する関心を高め,主体的な学習活動に
していることから,特別支援教育の視点に立った授
つながるようにした。
業づくりが必要であると考えた。
○ 学習形態の工夫
④
特別支援教育の視点に立った授業設計
個別での学習とグループ学習を設定し,生徒の学
昨年度まで,高等学校における教育上特別な支援
習への主体性を高めるようにした。
- 89 -
-Bプロジェクト・特別支援教育-
イ
生徒の実態や特性に配慮した指導の工夫
生徒がこれまでの授業で培った資料や地図の活用の
生徒の実態や特性に配慮した指導の工夫としては,
能力,情報を地理的に追究する技能などの知識・技
図2に示すとおりである。このような工夫を行うこ
能を活用した学習活動が求められる。
とで,生徒が課題に対し自分自身で解決できたとい
イ パフォーマンス課題の設定
う達成感や満足感を味わい,自己肯定感を高めるこ
とにつながっていってほしいと考えた。
本時では韓国と日本との共通性と異質性について
調べ学習を行う。生徒が,教科書や地図帳,資料プ
リントの写真や図,統計などから韓国の自然や文化,
習慣についてその特徴や日本との違いなど気付きや
考えをワークシートに書き込んでいく。そして,そ
の情報を生かしながら韓国の気候について整理する
までの思考過程を見取っていくために,以下のよう
なパフォーマンス課題を設定した。
【パフォーマンス課題】
今年の 12 月に,初めて韓国旅行に行くことに
なったあなたの友達から,
「韓国はどんなところ
か教えて。」と頼まれました。そこで,韓国につ
いて丁度勉強中のあなたが,韓国と日本の自然や
文化,習慣などを比較することで,韓国の気候に
ついて説明をしてあげましょう。
図2 生徒の実態や特性に配慮した工夫
○
生徒の気持ちに配慮した言葉かけ
様々な理由から不安定な気持ちのままで授業に臨
む生徒もおり,その時々で異なる生徒の気持ちの状
態に配慮した言葉かけを心がけた。
○
ウ ルーブリックの作成
興味・関心が持てる課題設定と導入の工夫
パフォーマンス課題に対するルーブリックを以下
事前に実施した韓国に対する調査結果を示し,関
のように作成した。
連する写真を提示することで,韓国に対する興味・
関心を高めるようにした。また,設定する課題は,
生徒の生活に関連した内容にした。
○
調べ学習の手順と手掛かりの提示(ワークシー
トの工夫)
調べ学習では,その手順や前単元の学習を基にし
た記入例をワークシートの中に示した。
○
座席の配慮
グループ学習を行うことを意識した座席の配置を
行った。
⑤
知識・技能を活用する学習活動とパフォーマン
ス評価を位置付けた授業設計
ア
知識・技能を活用する学習活動
本単元では,近隣三国(韓国,中国,ロシア)の
自然地形や気候,生活・文化,産業などを地域の環
境条件と関連付けて追究し,日本との共通性や異質
性及び異文化を理解し尊重することの必要性をとら
えさせる。
従って,本単元では,近隣諸国に対する知識及び
観
点
の
説
明
思考・判断
・見通しを持って,筋道だ
った考え方をしている。
・解決に必要な知識・技能
を適切に使っている。
表現
・解決にいたる過程を
的確に表現している。
・まとめた内容を適切
な言葉を使って説明し
ている。
・韓国と日本の自然や文
化,習慣について比較し,
その違いを理解するとと
もに,なぜ違いが生まれる
のかを考察している。
A
・韓国と日本を比較するた
めに必要な情報を教科書
や資料集,資料プリントか
ら正確に選び活用してい
る。
・韓国と日本の違いに
ついて,その考察のた
めの資料や情報の根拠
を十分に説明してい
る。
・比較した内容を整理
し,韓国と日本の違い
や特徴などを適切な言
葉を使って発表してい
る。
・韓国と日本の自然や文
化,習慣について比較し,
その違いを理解している。
B ・韓国と日本を比較するた
めに必要な情報を教科書
や資料集,資料プリントか
ら選んでいる。
・韓国と日本の違いに
ついて,その考察のた
めの資料や情報の根拠
を一つ以上説明してい
る。
・比較した内容を発表
している。
- 90 -
-Bプロジェクト・特別支援教育-
⑥
指導と評価の実際
ア
単元計画
1節
節
韓国の研究
時間
3時間
2節
3節
中国の研究
ロシアの研究
4時間
2時間
イ
学習内容
韓国と日本の自然地形・気候と生活・文化について,共通性と異質性を理解
する。(本時)
韓国と日本の産業について,共通性と異質性を理解する。
韓国と日本の交流について考察する。
中国と日本との共通性と異質性,日本との交流に着目して理解する。
ロシアと日本との共通性と異質性,日本との交流に着目して理解する。
本時の目標
韓国と日本の自然や気候,生活習慣について共通性と異質性を調べ,韓国の気候についてまとめることがで
きる。
ウ
授業の実際
過程
学習活動
○主な発問・指示
導入 1 学習課題への興味・関心
10分
を持つ。
○韓国がどんな国か,事前調査の結果
(1) 事前調査の結果を知る。
を発表します。
(2) 本時の学習の流れと目
○本時は,ここに示す流れで学習を進
標について知る。
めていきます。
2 学習課題を知る。
(1) パフォーマンス課題に
ついて知る。
(2) 本時の学習のポイント
を知る。
展開
25分
○現在,韓国と日本の関係は冷え込ん
でいますが,相手のことを知ることで
少しでも互いに近づけるようにして
いきたいと考えています。
○そこで,今日はこの課題に取り組み
ます。また,今日の授業のポイントを
板書します。
○指導上の手だての工夫と評価
○事前調査の集計結果のグラフや関連する内容の
写真を大型のテレビ画面で提示することで,生徒
の興味・関心を高めることにつながった。
○本時の学習内容と学
習の流れをホワイトボ
ードで視覚的に提示し
授業への見通しが持て
るようにした。
○テレビ画面で,パフ
ォーマンス課題を提示
し,本時の学習のポイ
ントを板書することで,学習のゴールをイメージ
しやすいようにした。
※板書
「本時の
ポイント」
3 学習課題について調べ ○作業手順の説明
○資料プリントを配付
る。
①個人で調べます。
すると共に,黒板にカラ
(1) 作業1:韓国の自然や
②次に調べたことをグループで話
ーの拡大写真を掲示し,
文化・習慣についての特
し合います。
韓国と日本の比較がよ
徴や気付きを書き込む。
③まとめを行います。
り分かりやすいように
④最後に各グループから1 人
した。
発表してもらいます。
写真①:白菜,キムチ
○まず,作業1です。資料を見て気 写真②:冬の漢江と最上川
付いたこと,考えたことをワークシ 写真③:オンドルといろり
ートに記入しましょう。
○ ワ ー ク シ ー ト の記入方法については,参考資
料として前時に
学習したニュー
4 グ ル ー プ で の 意 見 交 ○次は,グループを作って,意見交換 ジーランドの例を示
換とまとめをする。
をしましょう。そして,自分で調べた した。
(1) 作 業 2 : 意 見 交 換 を こと以外に分かったことがあれば,赤 ○机間指導を行い,
し , 新 た な 気 付 き を 書 ペンでワークシートに書き込んでく 調べ方について分か
き込む。
ださい。
らない生徒や活動が
(2) 作 業 3 : 韓 国 の 気 候 ○次に,作業3の韓国の気候について 止まっている生徒に
について整理する。
それぞれにまとめてください。
は助言をした。
○話合いがしやすい
ように,少人数のグ
5 調 べ た こ と を 発 表 す ○各グループから,代表の人に発表し ループ編成にした。
る。
てもらいます。
〈生徒の発表〉
日本は大陸性寒帯気団だが,前線がなく気圧が低いためそんなに川が凍るほど寒く
ない。韓国も大陸性寒帯気団だが,寒帯前線があり気圧が高いため川が凍るほど寒い。
- 91 -
-Bプロジェクト・特別支援教育-
整理
6
学習のまとめを行う。
15分
○発表してもらった内容について,補 ○生徒の発表に対して,よかった点を賞賛した後
足説明をします。
に,まとめの補足説明を行うようにした。
〈まとめ〉
※ソウルと東京の雨温図を黒板に提示
ソウルと東京を比較したときに,緯度はあまり変わらないが,冬の気温はソウルの
方が低い。そのため,韓国では川が凍ることもあるが,日本では凍らない。
これは,日本が海洋の影響を受ける海洋性気候なのに対し,韓国は,大陸からの季
節風の影響を受けやすい大陸性気候だからである。
このような気候の違いが,食べ物や生活の違いの背景になっている。
7 学 習 し た こ と を 振 り 返 ○ 最 後 に 自 己 評 価 シ ー ト で こ の 1 ※自己評価シート
時間の授業を振り返ってみよう。
る。
○感想を発表してくれませんか。
(1) 自己評価をする。
(2) 感想を発表する。
エ
パフォーマンス評価について
資料プリントや写真から,
韓国にとってキムチが特別
な食物であること,オンド
ルの利用で床から部屋全体
が暖まることを読みとって
いると思われる。
使っている言葉は正
確ではないが,これま
での地理の学習で学
んだ知識を活用し,韓
国と日本の気候の違
いについて,自分なり
にまとめようとして
いる。
教師が板書し
た「まとめ」
の記録
図3 生徒のワークシート
作業 1 で,なかなか書き込みができない生徒に対
これまでの授業においても,評価のために,単元
しては,机間指導で助言を行った。また,記入例を
ごとに作業プリントを工夫し活用してきた。しかし,
見ながら書き込む生徒もいた。2,3行の書き込み
それは教師が指示した事柄を,生徒がどれだけ正確
で留まっている生徒が多く,グループ学習でも,意
に作業したかという結果を評価するものだった。従
見交換はあまり活発とは言えなかった。しかしなが
って,
「作業のやりやすさ」については改善できても,
ら,グループ学習では,意見を出し合うことで考え
生徒の思考過程やそこからの「気付き」を知ること
を整理したり,解決できなかった疑問を教師に質問
はできなかった。今回,パフォーマンス評価を行う
したりするなどの姿も見られた。3グループの代表
ことで,その思考過程で生徒にどのような「つまづ
が発表を行い,韓国と日本の冬の寒さの違いについ
き」があるのか,どのような形式ならば適切な「表
ては気付いたものの,その理由まで言及できたのは
現」ができるのかなどを見取るきっかけとなった。
1グループだった。
- 92 -
-Bプロジェクト・特別支援教育-
⑦
検証結果と考察
に沿って整理していくという思考・判断の過程にお
ア
考察
いて,具体的な方法の理解が十分でなく,あまり書
本研究では,図4に示すように特別支援教育の視
き込めていない生徒もいた。これは,ワークシート
点とパフォーマンス評価を位置付けた授業設計の視
を生徒の思考や判断が見取りやすいようにとシンプ
点から,高等学校における地理Bの検証授業を行っ
ルなものにしたため,手掛かりが少なすぎたからだ
た。そして,特別支援教育の視点からの評価とパフ
と思われる。今回は,机間指導で個別の対応を行っ
ォーマンス評価を授業改善に生かすことを目指した。
たが,様々な実態の生徒が在籍しており,手掛かり
の提示も一つの方法ではなく,生徒が選択できるよ
うに複数準備しておくなどの工夫が必要である。そ
のためには,記入する項目や活用する資料などにつ
いての手掛かりも含めたワークシートそのものの様
式や資料の内容,資料の提示方法,板書,声かけ,
机間指導等について改善の余地があったと考える。
特別支援教育の視点からパフォーマンス評価を行う
場合,課題解決の過程においても生徒の実態や特性
に配慮した,具体的な支援が必要となってくる。
ウ 検証結果と課題
図4 評価と授業改善
今回は,特別な支援を必要とする特定の生徒に対
検証授業後の生徒の自己評価は以下のとおりであ
る。
表1 自己評価の結果
高等学校の課題として,学力の問題,学習意欲や関
心が持てないため授業や家庭学習につながらないと
(3 とても,2 だいたい,1 あまり, N=10 単位:人)
評価項目
する事例研究を行ったわけではない。しかしながら,
いった問題が挙げられる。また,単位の取得や進学
3
2
1
興味・関心を持ち主体的に学習できたか
5
4
1
韓国と日本の違いを理解できたか
4
6
0
調べたことを説明できるか
2
6
2
今回の検証授業を通して,
「簡単な授業」と「分か
資料集等を活用できたか
5
5
0
りやすい授業」の違いについて話題になった。分か
授業は分かりやすかったか
8
2
0
りやすい授業とは,授業で取り扱う内容が簡単とい
を考えると,1時間の授業の中でどれだけの内容を
教えるかという高等学校としての課題もある。
「授業は分かりやすかったか」の項目に対する評
う意味ではない。分かりやすい授業は,全ての生徒
価は高い。これは,特別支援教育の視点から「分か
を対象としており,分かることの積み重ねが,達成
りやすい授業づくり」のための工夫(授業の流れや
感や満足感に,さらには自己肯定感の高まりへとつ
本時のめあての視覚的提示など)を行った成果と考
ながっていくと考える。どの生徒も,自分でできた,
えられる。しかしながら,「韓国と日本の自然や文
という達成感や満足感が持てるような授業設計を行
化・習慣の違いについて理解できたか」
「韓国につい
っていくことが,学習意欲の問題や学力の問題の改
て調べたことを説明できるか」の項目は,評価が低
善にもつながっていくものと考える。
い。本来,授業の目標と最も関連の強い項目であり,
今後,特別支援教育の視点から,どの生徒にとっ
パフォーマンス課題の吟味や生徒の実態や特性に配
ても分かりやすい授業づくりを目指すとともに,特
慮した指導の工夫がもっと必要だったと考える。
別な支援を必要とする生徒の思考力,判断力,表現
イ
力等を見取るために,パフォーマンス評価をどのよ
特別支援教育におけるパフォーマンス評価
パフォーマンス課題を設定するにあたり,特に今
うに活用していくか更なる検証を重ねていきたい。
回は,ワークシートの工夫が重要なポイントの一つ
《引用・参考文献》
だったと考える。生徒が作成したワークシートや自
・文部科学省(1999)
『高等学校学習指導要領解説地理歴史編』
己評価から,写真や資料から情報を読み取り,課題
・文部科学省(2009)
『高等学校学習指導要領解説地理歴史編』
- 93 -
-Bプロジェクト-
4 研究の成果と課題
ことが日常生活に役に立つと実感できるような授業設
(1) 児童生徒の意識調査から
計の工夫については,さらに検討が必要である。
Bプロジェクトで検証授業を行った児童生徒に対し
(2) 教師の意識調査から
て(N=210※小学校低学年を除く)
,平成 23 年度熊本
検証授業を行った教師(N=13)にパフォーマンス評
県学力調査(児童生徒の意識調査)において課題が見ら
価について授業後質問紙調査(4件法)を行った。その
れた項目の中から4項目選定し,授業前と授業後に質
結果と考察を以下に示す。
問紙調査(4件法)を行った。その結果と考察を以下に
問1 パフォーマンス評価は,
「思考・判断・表現」の評価方法に
おいて効果的であると思いますか。
■「とても思う」+□「まあまあ思う」
示す。
問1 あなたは,
「自分は勉強すればもっとできる」と思いますか。
■「とても思う」+□「まあまあ思う」
授業前
23.1
授業後
0
52.4
30.6
0
69.2
20
60
80
100%
問2 あなたは,授業に積極的に取り組んでいると思いますか。
■「とても思う」+□「まあまあ思う」
授業前
19.2
授業後
55.8
25.0
0
57.4
20
40
60
80
18.3
授業後
100%
69.2
0
0
56.8
20
40
60
80
100
%
問4 あなたは,授業で学習したことが日常生活で役に立っている
と思いますか。
■「とても思う」+□「まあまあ思う」
授業前
24.3
授業後
26.2
0
38.1
40
100 %
20
40
30.8
60
80
100 %
検証授業を行ったすべての教師が,パフォーマンス
45.1
20
80
【理由】
○パフォーマンス課題を設定することで,その課題解決のための
方向性を意識するとともに,児童にとってもゴールが明確になり,
意欲的な取組にもつながっていくことが期待されるから。
○パフォーマンス評価を活用することで,毎時間の授業の工夫・
創造にもつながり,生徒の興味・関心も高まると感じたから。
○生徒の考え方の変容がよくわかるから。また授業のねらいがど
の程度達成できたのか,どんなことが不足していたのかを教師自
身が振り返ることもできるから。 など
45.2
21.4
60
問2 パフォーマンス評価を今後も活用してみたいと思いますか。
■「とても思う」+□「まあまあ思う」
問3 あなたは,自分の力でじっくりと考えて問題を解くことが楽
しいと思いますか。 ■「とても思う」+□「まあまあ思う」
授業前
40
【理由】
○児童の思考の様子がパフォーマンス課題を解くことで可視化さ
れ,思考の過程まで見て取ることができたから。
○児童が表した作品だけで評価をすることなく,パフォーマンス
課題に取り組む児童の思いや気付きに,より注目しようとする教
師自身の意識が高まったから。
○従来のテストでは見ることのできなかった生徒の「思考・判断・
表現」を見ることができ,その解答を通じて,授業内容や課題に
ついて教師自らが振り返り改善につなげることができた。 など
52.4
40
20
30.8
評価は「思考・判断・表現」の評価方法において効果
60
80
100
%
的であり,今後も活用してみたいと思う,まあまあそ
4項目すべて,検証授業前よりも授業後が「とても
う思うと答えており,本プロジェクトの研究内容は,
思う」+「まあまあ思う」の割合が増加している。特
学校現場で活用できるものであると言える。また,
「思
に,問3に顕著な増加が見られた。また,問1の結果
考・判断・表現」を連続的に見取り,指導の改善につ
においては,
「とても思う」
と答えた児童生徒の割合が,
なげることができたことも,質問紙の記述から読み取
4項目のうち最も増加していたことから,本プロジェ
ることができた。
クトの研究の視点「知識・技能を活用する学習活動と
しかし,「評価することに追われない評価問題や方
パフォーマンス評価等を位置付けた授業設計」は,児
法をさらに開発していく必要がある。
」
という記述も見
童生徒の学ぶ意欲の向上に効果があったと言える。
られた。
今後も,
パフォーマンス課題の作成の仕方や,
しかし,問4の結果においては,増加はしているも
単元への位置付け方,また,それを見取るためのルー
のの,
「とても思う」+「まあまあ思う」の割合が約7
ブリック作成の仕方について研究を深め,授業改善に
割と,他の問いと比較して低い状況にある。学習した
努めていきたい。
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