...

幼児期における手指の巧緻性の アセスメントに関する

by user

on
Category: Documents
36

views

Report

Comments

Transcript

幼児期における手指の巧緻性の アセスメントに関する
幼児期における手指の巧緻性の
アセスメントに関する予備的検討
尾 崎 康 子
相模女子大学紀要 VOL.79(2015)
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
幼児期における手指の巧緻性の
アセスメントに関する予備的検討
尾 崎 康 子
A preliminary study on the assessment of
manual dexterity in early childhood
Yasuko OZAKI
This study examined the relationship between the drawing behavior and hand movements to develop an
assessment of manual dexterity in early childhood. The subjects who were 315 toddlers of 71 months
from 24 months performed to paint a circle and draw a line. In addition, we examined the upper limb
movements of the toddlers to determine the relationship between the movement and the drawing stage,.
As a result, it was shown that the drawing stages generally was related the status of the upper limb
motion. Therefore, it has been suggested that an index of these drawing stages was usefulness of the
assessment of the manual dexterity.
Key Words:assessment of manual dexterity, drawing stage, upper limb motion, early childhood
問題及び目的
幼児期における手指の巧緻性については,これま
で家庭におけるしつけや幼児教育の面から関心が寄
せられてきた。これには現代社会では幼児の手先が
不器用になっているという警鐘も含まれていた(谷
田貝,1986)。また,脳科学からも大きな注目がな
されてきた。久保田(1982)に代表されるように,
手を動かすことが脳を活性化するという知見が提出
され,幼児期において手を使うことの重要性が叫ば
れることになった。しかし,幼児期の上肢運動の発
達を正確に計測した先行研究は少なく,幼児の手を
直接観察してその形状や動きを報告するに留まって
いた。そこで,尾崎(1996,2000a,2008)は,幼
児の上肢運動の発達を調べるために,30ヵ月から
69ヵ月の幼児214名に対して3cm の円を塗る円塗課
題を実施し,その筆記具操作を VTR で記録して分
析するとともに円塗状態をコンピューターに取り込
んで塗り残しと塗りすぎの面積を求めた。これによ
り,描画時における幼児の上肢運動発達について系
統的に実証することができ,さらに描画時の上肢運
動とその描画結果の関係も明らかになった。
一方で,以前より発達障害児が手先の不器用さを
持っていることが指摘されてきた。特に,学習障害
では診断特性に手先の不器用さがあげられていた時
期もあった。しかし,手先の不器用さは,注意欠
如・多動性障害や自閉症スペクトラム障害にも認め
られる特性であるため,学習障害児だけに特化でき
ないということから現在では学習障害の診断特性か
らは外されている。とはいえ,実際に学習障害児や
( )
1
Sagami Womenʼs University
他の発達障害児に手先の不器用さが認められること
われている(池田・佐藤,1991;松原,2012)。本
は事実であるため,以前より,手先の不器用さにつ
研究で提案するアセスメントとしては,子どもの描
いてのアセスメントと支援が求められていた。近年, 画結果の段階をチェックすることによって,その子
アメリカ精神医学会の診断マニュアルである DSM
どもの発達状況を特定できるものを想定している。
においてに発達性協調運動障害(Developmental
Coordination Disorder)が設定され,発達障害の手
方 法
先の不器用さに対して関心が寄せられるようになっ
たが,手先の不器用さを持つ子どもに対するアセス
1.被験児
メントとそれに基づく発達支援はまだ体系化されて
被験児は,生後24ヵ月から71ヵ月の幼児計315名
おらず,今後の課題となっている。
( 男149名, 女166名 ) で あ る。 そ の 年 齢 構 成 を
前述した幼児期における描画時の上肢運動と描画
Table 1 に 示 す。 母 親 に KIDS 幼 児 発 達 ス ケ ー ル
結果の発達変化(尾崎,1996,2000a,2008)に基
(三宅,1989)を記入してもらったところ,被験児
づいてアセスメントを作成することができるが,そ
の発達指数は,最小値が81,平均値が113.8,標準
れらの評価には,VTR の記録分析やコンピューター
偏差が15.7であった。
による塗りつぶし面積の算出が必要であるため,多
くの人が使えるアセスメントとしては実用的でない。 2.描画課題 の測定
そこで,本研究では,それらの機器がなくても,幼
1)描画課題
児を対象にして家庭や保育現場で簡便に使用ができ, 円塗課題と6種の線引き課題の合計7種の描画課
結果が支援に直接結びつくようなアセスメントの開
題を実施した(Figure1)。すなわち,①直径3cm
発を行うことを目的として予備的検討を行う。実際
の円塗課題,②10cm の横線の線引き課題(以下,
には,描画課題として円塗課題に加えて,2本の線
横線課題)
,③10cm の縦線の線引き課題(以下,縦
間に線を引く線引き課題を行い,それらの描画結果
線課題),④一辺10cm の四角の線引き課題(以下,
から円塗段階及び線引き段階に分類する。線引き課
四角課題),⑤直径10cm の円の線引き課題(以下,
題は,フロスティッグの視知覚発達検査(Frostig,
円課題),⑥縦横3cm の矩形の連続で横幅15cm の
1963)でもおなじみであるが,神経心理学的観点か
線引き課題(以下,矩形課題),⑦直径3cm の半円
ら運動発達を評価するMovement Assessment Battery
の連続で横幅15cm の線引き課題(以下,半円課題)
for Children(MABC)
(Henderson & Sugden, 1992) である。②から⑦の線引き課題は,1cm の幅の2本
の手先の器用さ(manual dexterity)領域でも採用
線が書かれており,その線間をはみ出さずに線を引
されている。また,我が国でも手指の巧緻性を測定
く課題である。また,②,③,⑥,⑦の課題では,
す る た め に 用 い ら れ て い る( 戸 次,2014; 増 田,
左(あるいは上)に車が,右(あるいは下)には家
2008;増田,2007;坂本・中嶋・世良,2012)。ま
が書かれており,車から家まで線を引くことが求め
た,描画結果との関係を調べるための上肢運動とし
られる。④と⑤では,右下あるいは下に車が書かれ
て,円塗課題における上肢運動を測定するとともに
ており,車から始めて,軌道を一周して車に戻るま
随意運動発達検査(田中,1989)を実施した。随意
で線を引くことが求められる。
運動発達検査は,元来,高次神経活動の障害の有無
筆記具には青の水性カラーペン(直径9mm,長
を調べることを目的とした検査であるが,随意運動
さ16.4cm)を,描画用紙には B4版のケント紙を用
発達の障害と運動機能の遅れを調べる指標として使
いた。
Table 1 月齢段階における被験児の人数と性別
2歳
3歳
4歳
5歳
24~29
ヵ月
30~35
ヵ月
36~41
ヵ月
42~47
ヵ月
48~53
ヵ月
54~59
ヵ月
60~65
ヵ月
66~71
ヵ月
合計
男
8
32
35
18
24
11
11
10
149
女
13
38
35
26
21
8
8
17
166
合計
21
70
70
44
45
19
19
27
315
( )
2
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
②横線課題
②横線課題
③縦線課題
③縦線課題
④四角課題
④四角課題
⑤円課題
⑤円課題 ⑥矩形課題
⑥矩形課題
⑦半円課題
⑦半円課題
Figure 1 線引き課題に使用した図形
Figure1 線引き課題に使用した図形
2)手続き
積がともに大変少ない状態を表しているため,塗り
被験児は,机上に固定された描画用紙の前に座る。 残しと塗りすぎの面積が円面積のどの位の割合にあ
正面に座っている実験者が被験児に手本を見せて教
たるかで評価した。塗り残しと塗りすぎの面積の算
示する。円塗課題では,ペンで塗りつぶされた3cm
出にあたっては,子どもが塗りつぶした3cm の円
の円の手本を見せながら「丸の中をこのようにきれ
をスキャナーによってコンピュータに取り込んで画
いに塗ってください」と言う。また線引き課題では, 素数を求め,それを面積に換算した。
実験者が実際にペンで図形に線を引くのを見せなが
線引き課題では,2本線の間に線を引くことがで
ら「このように自動車が道路からはみ出さないよう
きる場合に,2本線からはみ出さずに線を引けるか
に,道路の中に線を引いてください。」と言う。そ
どうかで評価した。はみ出しがある場合には,はみ
れぞれの教示後,描画用紙の右横に予め置かれたペ
出しが1cm 未満を1点,
1~2cm を2点,
2~3cm
ンを自分の手で取って描くように求めた。いずれも
を3点というように,はみ出した長さを得点化し,
描画時間を制限せず,子どもが終了の意思表示を行
課題ごとにはみ出した回数の全得点を合計し,はみ
うまで描かせた。
出し得点とした。
3)描画状態の評価
円塗課題において円の中を塗りつぶすことができ
3.手指運動の測定
る場合に,塗り残しと塗りすぎを基準に評価する。
手指運動を測定するために,以下の2通りの方法
円をきれいに塗ることは,塗り残しと塗りすぎの面
を用いた。
( )
3
Sagami Womenʼs University
1)円塗課題の筆記具操作における上肢運動
円塗課題における筆記具操作時の上肢運動を測定
した。上肢運動については,関節可動域表示ならび
に 測 定 法( 日 本 整 形 外 科 学 会 身 体 障 害 委 員 会 ,
1975)に基づいて,肩,肘,手関節は動かさず指関
節(指節間関節あるいは中手指節関節)を屈伸させ
てペンを動かしているもの(以下,
「指動」),肩,
肘関節を動かさず,主に手関節を背屈掌屈あるいは
回転させつつ指関節を屈伸させてペンを動かしてい
るもの(以下,
「指手動」
),手関節を背屈掌屈ある
いは回転させてペンを動かすもの(以下,
「手動」),
その他の肘関節,肩関節の動き(以下,
「肘動 ・ 肩
動」)の4つに分類した。
なお,円を塗りつぶしている経過は子どもの正面,
右方,左方,上方の位置に配置された4台のビデオ
カメラ(CCD-V800)により同時撮影し,それらを
4分割ユニット(SQ-C120)で4分割画面に合成し
て収録したビデオテープを再生して,上肢運動を評
価した。
2)随意運動発達検査における手指の随意運動
手指の運動パターンを幼児に模倣させる随意運動
発達検査の A:手指の随意運動(田中,1989)を実
施した。A:手指の随意運動には,手を握らせてか
ら(グーの形)行うaテスト4項目,手を開かせて
から(パーの形)行うbテスト6項目,両手で行う
cテスト3項目の計13項目がある(Figure 2)。描
画実験後,幼児はそのまま椅子に座った状態で,正
面に座っている実験者が,自分の手指で手本を示し
ながら「これと同じ形にしてください」と教示する。
これらの通過率を求めるとともに,検査手引には採
用されていない手指の随意運動得点を求めた。これ
は,1項目ができた場合を1点として全項目を合計
した。したがって最高点は13点になる。
Figure 2 随意運動発達検査の A 手指の随意運動
*田中(1989)を改変
( )
4
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
結 果
1.円塗段階の分類と月齢
24ヵ月から71ヵ月の幼児の円塗課題では,紙全体
を殴り描きする状態から円を大変きれいに塗りつぶ
すまで幅広い円塗状態が展開された。そこで円塗段
階を,紙全体を殴り描きする(スクリブル)1段階,
円の中に点や小さな丸などの印をつける(マーキン
グ)2段階,円の上に集中して殴り描きする3段階,
円の中に多重丸やギザギザ線などを描く4段階,円
塗りができる5段階の5つに分けた。また,円塗り
ができても,塗り残し塗りすぎが大変多い状態から
大変少 な く き れ い に 塗 れ る 状 態 ま で 幅 広 か っ た
(Figure 3)。そこで,塗り残し塗りすぎがともに
円 面 積 の 1/8(88.51mm2) 以 上 の 5-1 段 階,1/16
(44.26mm2)以上1/8(88.51mm2)未満である5-2段
階,1/16(44.26mm2)未満である5-3段階の3段階
に分けた。
その結果,円塗課題は7段階に分類された。これ
ら7段階の平均月齢を Table 3に示す。1要因分散
分析では0.1% 水準で有意であった(F=99.257)。さ
らに多重比較をすると1段階,2段階,3段階の間に
は有意な違いはなかったが,1段階<4段階<5-1段
階<5-2段階<5-3段階,2段階<4段階<5-1段階<
5-2段階<5-3段階,3段階<5-1段階<5-2段階で5%
水準の有意な違いが認められた。
2.線引き段階の分類と月齢
線引き課題では,車の始点と家の終点とする1cm
幅の2本線の間をはみ出さずに線を引くことが求め
られるが,24ヵ月から71ヵ月の幼児では,紙全体の
殴り描きからはみ出さずに線を引くことまで幅広い
状態であった。そこで,線引き段階を,紙全体を殴
り描きする1段階,車,家,線の上にマーキングす
る2段階,線間を無視して車から家へと線を引いた
り,車の始点と家の終点が無視されて線が引かれた
り,線間に何本かの線を引いたりする不正確な線引
きをする3段階,線間に線を引く4段階に分けた。
さらに,線間に線を引いた4段階でも途中ではみ出
すことも多く見られた。そこで,②横線課題と③縦
線課題では,はみ出しがあった4-1段階とはみ出し
が全くなかった4-2段階に分けた(Table 2)。また,
④四角課題,⑤円課題,⑥矩形課題,⑦半円課題に
おけるはみ出し得点を調べると(Table2),いずれ
の課題でもはみ出し得点の最大値は刺激図形の全長
よりも小さかった。そこで,はみ出し得点が刺激図
形の全長の1/3以上を4-1段階,1/3未満を4-2段階,
全くはみ出しがない場合を4-3段階として3つに分
けた。例えば,④四角課題の四角の全長は38cm で
あるため,はみ出し得点が12点以上を4-1段階,1~
11点を4-2段階,全くはみ出しがない場合を4-3段階
とした。
各課題における段階ごとの人数と平均月齢を
Table 3に示す。②から⑦の何れの課題でも段階が
上がるにつれて平均月齢が高くなった。一要因分散
分析をしたところ,全ての課題において0.1%で有
意 で あ っ た( ②:F=44.272, ③:F=55.098, ④:
F=59.722, ⑤:F=54.045, ⑥:F=91.438, ⑦:
F=65.144)。さらに,多重比較をすると,②横線課
題では,1段階<2段階<4-1段階<4-2段階そして
(mm2)
500
400
塗
り
す 300
ぎ
面 200
積
100
0
0
50
100
150
200
250
塗り残し面積
300
(mm2)
Figure 3 円塗5段階における塗り残しと塗りすぎの面積の散布図
Figure3 円塗5段階における塗り残しと塗りすぎの面積の散布図
*図中の点は,一人の子どもの塗り残しと塗りすぎを表している。左下の小さな四角内が5-3段階,
*図中の点は,一人の子どもの塗り残しと塗りすぎを表している。左下の小さな四角内が5-3段
その外側の四角内が5-2段階,一番外側の四角内が5-1段階である。
階,その外側の四角内が5-2段階,一番外側の四角内が5-3段階である。
( )
5
Sagami Womenʼs University
Table 2 線引き課題4段階のはみ出し得点
人数
②横線課題
③縦線課題
④四角課題
⑤円課題
⑥矩形課題
⑦半円課題
最大値
1
9
0
0
1
9
0
0
100
3.01
4-2段階
162
0
4-1段階
123
4-2段階
127
0
4-1段階
73
17.01
(4.12)
12
29
4-2段階
141
5.16
(2.71)
1
11
4-3段階
37
0
0
0
4-1段階
91
13.75
(3.94)
9
26
4-2段階
113
4.14 (2.16)
1
8
4-3段階
40
0
0
4-1段階
69
9.80 (3.02)
7
21
4-2段階
99
3.40
1
6
4-3段階
47
0
0
0
4-1段階
70
10.20 (2.75)
7
19
4-2段階
121
3.17 (1.75)
1
6
4-3段階
30
0
0
<4-2段階<4-3段階,2段階<4-1段階<4-2段階<4-3
段階そして3段階<4-1段階<4-2段階<4-3段階で
5% の有意な違いがあった。⑦半円軌道課題では,
1段階<3段階<4-1段階<4-2段階<4-3段階そして
2段階<3段階<4-1段階<4-2段階<4-3段階で5%
の有意な違いがあった。
3.円塗段階及び線引き段階と上肢運動との関係
円塗段階と手指運動との関係をみるために,まず,
円塗段階と筆記具操作の上肢運動との関係を調べた
(Table 4)。1・2・3段階では肘動・肩動が最も
多かったが,4段階と5-1段階では手動,5-2段階では
指動が最も多かった。特に指動は1~4段階では出
現せず,5段階から出現するようになったが,5-1段
階では指動の割合は少なく,5-2段階,5-3段階と進
(2.07)
最小値
4-1段階
3段階<4-1段階<4-2段階で5% の有意な違いが
あった。③縦線課題では,1段階<4-1段階<4-2段階,
2段階<4-1段階<4-2段階そして3段階<4-1段階<
4-2で5% の有意な違いがあった。④四角課題,⑤
円課題,⑥矩形課題では,何れも1段階<4-1段階
( )
6
平均値(SD)
2.98 (1.99)
0
0
(1.68)
むにつれて増加していき,5-3段階において指動の
割合は78.4% に達した。このように,円塗段階が低
いほど低次の上肢運動が多いが円塗段階が上がるに
ともない高次の上肢運動が多くなり,最終の5-3段
階では最も高次である指動が多くなった。逆に円塗
段階の低い1段階,2段階,3段階では全く指動が出
現しなかった。これらのことから,円塗段階が上肢
運動の出現を反映していることが示された。
線引き課題においても円塗課題の筆記具操作の上
肢運動との関係を調べた(Table 4)。線を引く時
の上肢運動には限りがあり,指動や指手動が出現す
ることが少ないため,それらが出現し易い円塗課題
の上肢運動を用いた。すると,線引き課題において
も円塗課題と同様に,線引き段階が低いほど低次の
上肢運動が多く,線引き段階が高くなると高次の上
肢運動が多くなった。特に,②~⑦の課題のいずれ
でも最も高い段階で指動が最も多く,逆に低い段階
では指動が全くなかった。これらのことから,円塗
課題だけでなく線引き課題においても,線引き段階
が概ね上肢運動を反映していることが示唆された。
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
Table 3 円塗段階及び線引き段階の人数と平均月齢(SD)
①円塗課題
円塗段階
人数
平均月齢(SD)
1段階(紙全体をスクリブル)
9
30.11 (3.37)
2段階(円の中に点などでマーキング)
12
30.25 (4.18)
3段階(円の上をスクリブル)
38
33.71 (6.41)
4段階(円の中にに多重円やジグザク線など)
66
36.11 (5.52)
5-1段階(円塗り―塗り残し・塗りすぎ1/8以上)
93
41.26 (7.10)
5-2段階(円塗り―塗り残し・塗りすぎ1/8未満)
46
52.02 (9.54)
5-3段階(円塗り―塗り残し・塗りすぎ1/16未満)
51
60.96 (8.02)
線引き段階
②横線課題
人数
③縦線課題
平均月齢(SD)
人数
平均月齢(SD)
1段階(スクリブル)
16
28.06
(3.36)
15
28.60
(3.66)
2段階(車,家,線にマーキング)
24
31.25
(2.63)
23
30.48
(2.91)
3段階(不正確な線引き)
10
31.80
(3.22)
7
31.29
(3.82)
4-1段階(線引き―はみ出しあり)
100
38.35
(6.87)
123
40.60
(7.85)
4-2段階(線引き―はみ出しなし)
162
50.61
(11.32)
127
52.20
(11.56)
線引き段階
④四角課題
人数
⑤円課題
平均月齢(SD)
人数
平均月齢(SD)
1段階(スクリブル)
12
31.67
(2.35)
14
31.64
(2.24)
2段階(車,家,線にマーキング)
21
31.38
(3.93)
12
30.58
(4.36)
3段階(不正確な線引き)
19
33.00
(3.32)
19
32.26
(3.05)
4-1段階(線引き―はみ出し1/3以上)
73
37.56
(5.48)
91
39.08
(6.95)
4-2段階(線引き―はみ出し1/3未満)
141
47.60
(10.04)
113
48.80
(10.55)
4-3段階(線引き―はみ出しなし)
37
59.51
(10.88)
40
58.50
(9.85)
線引き段階
⑥矩形課題
人数
⑦半円課題
平均月齢(SD)
人数
平均月齢(SD)
1段階(スクリブル)
25
31.76
(2.74)
24
31.42
(2.67)
2段階(車,家,線にマーキング)
25
32.20
(2.84)
19
31.42
(2.57)
3段階(不正確な線引き)
37
33.78
(3.21)
38
34.26
(2.91)
4-1段階(線引き―はみ出し1/3以上)
69
40.64
(6.39)
70
40.24
(6.14)
4-2段階(線引き―はみ出し1/3未満)
99
48.97
(9.41)
121
50.31
(10.67)
4-3段階(線引き―はみ出しなし)
47
59.45
(9.70)
30
57.93
(10.46)
( )
7
Sagami Womenʼs University
Table 4 円塗段階及び線引き段階と上肢運動との関係(上段:人数,下段:%)
上 肢 運 動
①円塗課題
1・2・3段階 4段階 5-1段階 5-2段階 5-3段階
0
0
15
18
40
指 動
0%
0%
16.3%
39.1%
78.4%
12
12
18
14
10
指手動
23% 18.2%
19.6%
30.4%
19.6%
19
35
48
13
1
手 動
35.8%
53.0%
52.2%
28.3%
2.0%
22
19
11
1
0
肘動・肩動
41.5%
28.8%
12.0%
2.2%
0.0%
53
66
92
46
51
合 計
100%
100%
100%
100%
100%
1・2段階
0
指 動
0.0%
4
指手動
12.9%
14
手 動
45.2%
13
肘動・肩動
41.9%
31
合 計
100%
④四角課題
3段階 4-1段階 4-2段階 4-3段階 1・2段階
0
7
41
25
0
0.0%
9.7%
29.3% 67.6%
0.0%
5
18
29
9
2
26.3%
25.0%
20.7% 24.3%
8.3%
7
36
54
2
11
36.8%
50.0%
38.6%
5.4%
45.8%
7
11
16
1
11
36.8%
15.3%
11.4%
2.7%
45.8%
19
72
140
37
24
100%
100%
100%
100%
100%
⑤円課題
3段階 41段階 4-2段階 4-3段階
0
9
37
26
0.0% 10.0%
33.0%
65.0%
5
17
24
10
26.3% 18.9%
21.4%
25.0%
7
46
42
3
36.8% 51.1%
37.5%
7.5%
7
18
9
1
36.8%
20.0%
8.0%
2.5%
19
90
112
40
100%
100%
100%
100%
1・2段階
3
指 動
6.1%
10
指手動
20.4%
20
手 動
40.8%
16
肘動・肩動
32.7%
49
合 計
100%
⑥矩形課題
3段階 4-1段階 4-2段階 4-3段階 1・2段階
1
8
30
31
0
2.8%
11.8%
30.3% 66.0%
0.0%
7
12
26
10
10
19.4%
17.6%
26.3% 21.3%
23.8%
20
32
35
6
19
55.6%
47.1%
35.4% 12.8%
45.2%
8
16
8
0
13
22.2%
23.5%
8.1%
0.0%
31.0%
36
68
99
47
42
100%
100%
100%
100%
100%
⑦半円課題
3段階 41段階 4-2段階 4-3段階
3
5
47
18
8.1%
7.1%
39.2%
60.0%
7
8
31
9
18.9% 11.4%
25.8%
30.0%
18
38
35
3
48.6% 54.3%
29.2%
10.0%
9
19
7
0
24.3%
27.1%
5.8%
0.0%
37
70
120
30
100%
100%
100%
100%
上 肢 運 動
1段階
0
0.0%
2
18.2%
4
36.4%
5
45.5%
11
100%
③縦線課題
2段階
3段階 4-1段階 4-2段階
0
0
16
56
0.0%
0.0%
13.1%
44.4%
2
3
21
30
9.1%
42.9%
17.2%
23.8%
9
4
61
32
40.9%
57.1%
50.0%
25.4%
11
0
24
8
50.0%
0.0%
19.7%
6.3%
22
7
122
126
100%
100%
100%
100%
指 動
指手動
手 動
肘動・肩動
合 計
1段階
0
0.0%
2
18.2%
3
27.3%
6
54.5%
11
100%
上 肢 運 動
上 肢 運 動
( )
8
②横線課題
2段階
3段階 4-1段階 4-2段階
0
0
12
61
0.0%
0.0%
12.2% 37.7%
2
4
23
34
8.3%
40.0%
23.5% 21.0%
11
5
45
51
45.8%
50.0%
45.9% 31.5%
11
1
18
16
45.8%
10.0%
18.4%
9.9%
24
10
98
162
100%
100%
100%
100%
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
4.円塗段階及び線引き段階と手指の随意運動との
関係
随意運動発達検査 A:手指の随意運動について円
塗段階及び線引き段階との関係を検討するために,
各段階における手指の随意運動項目の通過率を調べ
た(Table 5)。いずれの課題においても大半の随
意運動項目で円塗段階や線引き段階があがるにとも
なって通過率が上昇していた。また,随意運動発達
検査では出来る目安を通過率90% で設定しているが,
円塗段階との関係を広くみるために80% の通過率を
目安にしてみると,円塗段階や線引き段階が高いほ
ど通過率80% を超える項目が増えていった。これら
のことから円塗段階は手指の随意運動と関連してい
ることが示された。
次に,円塗段階及び線引き段階における手指の随
意運動得点について調べた(Table 6)
。①から⑦の
何れの課題でも段階が上がるにつれて随意運動得点
の平均値は高くなった。一要因分散分析をしたとこ
ろ,全ての課題において0.1% で有意であった(①:
F=90.225,②:F=33.490,③:F=27.549,④:F=55.582,
⑤:F=48.919,⑥:F=84.843,⑦:F=68.038)
。さらに,
多重比較をすると,①円塗課題では1・2・3段階
<5-1段階<5-2段階<5-3段階,4段階<5-1段階<5-2
段階<5-3段階,②横線課題では1段階<4-1段階<
4-2段階,2段階<4-1段階<4-2段階,3段階<4-2段
階,③縦線課題では2段階<4-1段階<4-2段階,3段
階<4-2段階,④四角課題では1・2段階<4-1段階
<4-2段階<4-3段階,3段階<4-2段階<4-3段階,そ
して⑤円課題と⑥矩形課題と⑦半円課題では何れも
1・2段階<4-1段階<4-2段階<4-3段階,3段階<
4-1段階<4-2段階<4-3段階で5% の有意な違いが
あった。随意運動得点からも円塗段階と線引き段階
が手指の随意運動と関係していることが示された。
考 察
1.円塗段階及び線引き段階の発達変化
円塗課題については,すでに尾崎(1996, 2000a,
2008)が塗り残しと塗りすぎの面積を指標にして,
幼児期における円塗りつぶしの発達変化を明らかに
しているが,本研究では,それを発達順に段階づけ
る こ と を 試 み た。 そ の 際, 尾 崎・ 佐 藤・ 河 村
(1994)が2歳児の円塗状態を調べたところ,2歳児
ではスクリブルやマーキングなどが多く円の中を塗
りつぶすことができない子どもが多かったため,尾
崎(1996,2000a,2008)は,円の中が塗れるよう
になる30ヵ月から調べた。しかし,筆者の臨床経験
から,発達障害児では幼児期後半になっても円の中
を塗りつぶせないことが多く,低い年齢に相当する
円塗状態から段階づけすることが求められる。また
一方で,アセスメントとしては幼児期後半の指標を
立てる必要あるため,本研究では,対象月齢を24ヵ
月から71ヵ月とした。その結果,円塗段階を7段階
に分類したが,その内1段階,2段階,3段階は,ま
だ円の中を塗ることができない段階で2歳児に多く
見られた状態である(尾崎・佐藤・河村,1994)。
これら3つの段階の平均月齢に有意な違いはなかっ
たが,3つの段階の平均月齢はいずれも4段階や5
段階の月齢より有意に低かったことから,本研究で
分類した円塗段階は,発達順に段階づけられている
ことが示された。
6種の線引き課題は,アセスメントのために本研
究で新たに採用した課題であるが,これらの課題で
も段階づけを行った。いずれの課題でも線引き段階
は4段階に分類したが,そのうち線引き課題のスク
リブルの1段階と車,家,線の上にマーキングをす
る2段階は,まだ線を引くことができない状態であ
り,3段階は,車と家の間に線を引くことは理解し
たが2本線の間に線を引きことができない段階であ
る。これらの3つの段階については,②横線課題で
1段階と2段階の平均月齢に有意な違いがあったが,
他の③から⑦の線引き課題では1段階,2段階,3段
階の平均月齢に有意な違いはなかった。しかし,そ
れら3つの段階は4段階の下位段階の平均月齢と有
意な違いがあり,線引き段階も概ね発達順に段階づ
けられていることが示された。
また,全くはみ出しがない段階の平均月齢を課題
ごとに比較すると,②横線課題と③縦線課題の4-2
段階の平均月齢が50~52ヵ月であるに対して,④か
ら⑦の線引き課題の4-3段階の平均月齢は57~59ヵ
月と高かった。②と③の課題に比べて,④から⑦の
課題はかなり年長になって手の巧緻性が高まらない
と,はみ出さずに線引きすることが難しいことが示
された。
2.円塗段階及び線引き段階と手指運動との関係
これまで多くの先行研究において,幼児の筆記具
操作が加齢に伴い変化していくことが報告されてき
た(例えば,Erhardt, 1982; Rosenbloom & Horton,
1971)。中でも,Rosenbloom & Horton(1971)は,
幼児が描画している際の筆記具操作を系統的に調べ,
筆記具を三面把握で把持し,指を動かせて描く「動
( )
9
Sagami Womenʼs University
Table 5 円塗段階及び線引き段階における手指の随意運動項目の通過率(%)
*表中の灰色部分は通過率80%以上を示す。
A 手指の
随意運動
①円塗段階
1・2・3
段階
4段階
5-1
段階
5-2
段階
5-3
段階
a - ①
78.6
86.0
94.5
95.7
100
a - ②
54.8
75.4
91.2
100
100
a - ③
52.4
70.2
92.3
97.8
100
a - ④
31.0
59.6
70.3
84.8
98.0
98.0
b - ①
59.5
68.4
86.8
93.5
b - ②
31.0
43.9
69.2
82.6
100
b - ③
11.9
26.3
45.6
54.3
98.0
b - ④
4.8
10.5
33.3
58.7
88.2
b - ⑤
7.1
7.0
18.9
45.7
70.6
b - ⑥
4.8
5.3
21.1
45.7
76.5
c - ①
14.3
15.8
28.9
71.7
96.1
c - ②
0
3.5
14.4
54.3
80.4
c - ③
7.1
8.8
17.8
47.8
74.5
4-1
段階
4-2
段階
A 手指の
随意運動
②横線課題
1段階
2段階
3段階
③縦線課題
1段階
2段階
3段階
④四角課題
4-1
段階
4-2
段階
1・2
段階
3段階
4-1
段階
4-2
段階
4-3
段階
a - ①
50.0
82.4
88.9
87.1
98.1
66.7
81.3
85.7
89.0
96.8
57.1
81.3
89.7
97.9
100
a - ②
33.3
52.9
55.6
82.8
95.0
66.7
43.8
71.4
83.9
95.2
42.9
68.8
77.9
95.7
100
a - ③
16.7
52.9
77.8
79.6
93.8
33.3
43.8
71.4
81.4
96.0
38.1
68.8
76.5
93.6
100
a - ④
16.7
29.4
22.2
60.2
85.0
33.3
18.8
28.6
64.4
86.4
33.3
78.6
48.5
82.9
97.3
b - ①
50.0
58.8
66.7
80.6
88.1
33.3
62.5
57.1
80.5
91.2
57.1
68.8
76.5
87.1
97.3
b - ②
0
23.5
55.6
57.0
80.0
0
12.5
42.9
61.0
84.8
28.6
31.3
47.1
79.3
97.3
b - ③
0
5.9
0
37.0
63.1
0
6.7
0
41.5
64.8
9.5
6.3
30.9
59.0
81.1
b - ④
0
0
11.1
20.7
56.3
0
0
0
24.6
62.4
0
12.5
19.1
48.9
73.0
b - ⑤
0
5.9
11.1
10.9
43.1
0
6.7
14.3
18.6
44.8
4.8
0.0
8.8
33.8
73.0
b - ⑥
0
0
0
13.0
45.0
0
0
0
19.5
46.4
0
6.3
10.3
33.8
78.4
c - ①
0
5.9
0
25.0
61.9
0
0
0
34.7
64.0
0
12.5
22.1
50.4
97.3
c - ②
0
0
0
10.9
44.4
0
0
0
16.9
48.8
0
0
5.9
35.3
75.7
c - ③
0
0
0
15.2
43.8
0
0
0
18.6
48.8
4.8
6.3
11.8
33.8
73.0
4-2
段階
4-3
段階
1・2
段階
4-2
段階
4-3
段階
1・2
段階
4-2
段階
4-3
段階
A 手指の
随意運動
⑤円課題
1・2
段階
3段階
4-1
段階
⑥矩形課題
3段階
4-1
段階
⑦半円課題
3段階
4-1
段階
a - ①
50.0
75.0
91.9
97.3
97.5
75.8
79.4
92.8
98.0
100
71.4
85.3
91.3
97.5
100
a - ②
42.9
62.5
82.6
93.8
100
57.6
58.8
89.9
97.0
100
53.6
55.9
91.3
96.7
100
a - ③
28.6
62.5
77.9
95.5
100
45.5
58.8
85.5
99.0
100
46.4
52.9
88.4
96.7
100
a - ④
35.7
31.3
57.0
83.0
92.5
33.3
29.4
69.6
86.9
93.6
32.1
78.6
63.8
88.4
93.3
93.3
b - ①
50.0
68.8
79.1
88.4
95.0
54.5
61.8
82.6
92.9
95.7
53.6
61.8
81.2
93.4
b - ②
14.3
31.3
54.7
82.1
95.0
30.3
32.4
55.1
85.9
97.9
25.0
32.4
58.0
84.3
100
b - ③
7.1
0
36.5
59.8
80.0
15.2
9.1
42.0
62.6
78.7
10.7
14.7
38.2
64.5
80.0
b - ④
0
6.3
15.3
57.1
72.5
3.0
6.1
24.6
53.5
78.7
3.6
2.9
26.5
56.2
73.3
b - ⑤
0
12.5
14.1
37.5
60.0
3.0
9.1
15.9
33.3
70.2
3.6
5.9
17.6
37.2
70.0
b - ⑥
0
0
11.8
36.6
75.0
0
3.0
15.9
40.4
68.1
0
2.9
16.2
41.3
73.3
c - ①
0
12.5
24.7
56.3
90.0
3.0
3.0
24.6
62.6
89.4
3.6
2.9
30.9
62.0
83.3
c - ②
0
0
8.2
40.2
72.5
0
0
5.8
43.4
72.3
0
0
7.4
47.1
63.3
c - ③
7.1
0
10.6
39.3
72.5
6.1
0
13.0
39.4
72.3
3.6
2.9
11.8
43.8
70.0
( )
10
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
Table 6 円塗段階及び線引き段階における手指の随意運動得点の平均(SD)
円塗段階
①円塗課題
人数
平均(SD)
1・2・3段階
42
3.57 (2.72)
4段階
57
4.81 (2.72)
5-1段階
90
6.88 (2.43)
5-2段階
46
9.33 (2.68)
5-3段階
51
11.80 (1.59)
線引き段階
②横線課題
③縦線課題
人数
平均(SD)
人数
平均(SD)
1段階
6
1.67 (1.97)
3
2.33 (2.52)
2段階
17
3.18 (1.59)
15
2.80 (1.74)
3段階
9
3.89 (2.15)
7
3.71 (2.43)
4-1段階
92
5.83 (2.78)
118
6.35 (3.22)
4-2段階
160
8.98 (3.33)
125
9.30 (3.18)
線引き段階
④四角課題
⑤円課題
⑥矩形課題
⑦半円課題
人数
平均(SD)
人数
平均(SD)
人数
平均(SD)
人数
平均(SD)
1・2段階
21
2.76 (2.07)
14
2.36 (1.86)
33
3.27 (2.17)
28
3.07 (2.04)
3段階
16
4.06 (1.95)
16
3.63 (2.13)
33
3.55 (1.94)
34
3.53 (2.08)
4-1段階
68
5.25 (2.86)
85
5.67 (2.82)
69
6.17 (2.56)
68
6.26 (2.55)
4-2段階
139
8.34 (3.00)
112
8.67 (3.11)
99
8.95 (2.74)
121
9.09 (3.00)
4-3段階
37
11.43 (1.94)
40
11.03 (2.34)
47
11.17 (2.21)
30
11.00 (1.98)
的三面把握」が,4歳以降に急速に出現し,神経生
理的成熟や微細運動機能障害の指標となりうること
を指摘した。前川・浜野・内野(1975)や Saida &
Miyashita(1979)も,日本の幼児について概ね同
じ様に加齢に伴い段階が推移していくことを示し,
筆記具操作において指が動くこと(指動)が脳機能
成熟の指標となると述べている。
尾崎(1996,2000a,2008)は,すでに円塗課題
における指動を含む上肢運動の発達変化を調べ,円
塗り状態との関係を明らかにした。本研究では,さ
らに円塗り状態を段階に分類し,円塗段階と上肢運
動との関係を調べた。その結果,円塗段階が上がる
につれて,最も多く出現する上肢運動が肘動・肩動
から指動に移行していくことが示された。同様に6
種の線引き課題において線引き状態を段階に分類し
て,線引き段階と上肢運動との関係を調べた結果,
円塗段階と概ね同じ傾向が見られた。
また,上肢運動の指動に着目すると,円塗課題の
1~4段階では指動が全く出現しないが,5段階に
なると指動の割合が増えていき,塗り残しや塗りす
ぎが大変少ない5-3段階では指動の割合は78.4% と大
変 高 く な っ た。 尾 崎(2000b) は,KIDS の 項 目,
筆記具操作,円塗状態の発達順序性を求めたところ,
塗り残し塗りすぎ面積1/8未満である5-2段階の後に
指動が出現し,指動の出現の後に塗り残し塗りすぎ
面積1/16未満である5-3段階となることが示された。
( )
11
Sagami Womenʼs University
これにより,5-2段階と5-3段階の可否によって,指
動の出現の予測ができることが示唆される。一方,
線引き課題における指動との関係をみると,④から
⑦の線引き課題の4-3段階での指動の割合は60~
68% であり,円塗課題の5-2段階よりも高く,5-3段
階よりも低かった。このように線引き課題でも円塗
課題の指動をある程度予測することができることが
示された。
円塗課題での上肢運動は,描画をしている時の筆
記具操作の動きであるのに対して,随意運動発達検
査の手指の随意運動項目は,手指自体の動きを調べ
るものである。この手指の随意運動項目と円塗段階
及び線引き段階との関係を調べたところ,いずれの
課題でも段階が上がるにともない随意運動項目がで
きるようになっていた。また,13種の随意運動項目
合計得点求めると,いずれの課題でも段階間に有意
差が認められたことから,円塗段階と線引き段階は,
手指の随意運動の状態を反映していることが示唆さ
れた。
以上,円塗段階及び線引き段階と手指運動との関
係について,描画時の上肢運動と手指の随意運動の
2つの面から調べたが,どちらの結果からも円塗段
階及び線引き段階が手指運動と関連していることが
示された。そこで,円塗段階及び線引き段階は,幼
児の手指の巧緻性のアセスメントとして有効である
と言えよう。
尾崎(1996,2000a,2008)の研究では,円塗課
題の評価のために,コンピューターによって塗り残
しと塗りすぎの面積を算出した。本研究では,それ
を段階に分類することによって円塗状態の発達段階
を評価することができた。また段階づけすることで
正確に面積を計算する必要がなく,円面積の1/8や
1/16がどのくらいかが分かる見本を示せば,家庭や
保育現場においても段階評価することができる。あ
るいは,円面積の1/8や1/16の状態を見極めるより
も線のはみ出しを測定することの方が容易であれば,
本研究で線引き課題が円塗課題と同様の結果が得ら
れたことから,円塗課題のかわりに線引き課題を行
うことが可能であると言えよう。実際のアセスメン
トの開発にあたっては,これらの課題を組み合わせ
ることによって,家庭や保育現場で活用可能なもの
にしていきたい。
3.幼児期における手先の器用さのアセスメントと
発達支援
手指の運動発達に関するアセスメントとしては,
( )
12
これまでに様々な対象年齢や形式のものが作成され
ているが,幼児に対して家庭や保育現場で容易に実
施できるアセスメントは見当たらない。幼児期には
発達障害や発達性協調運動障害を正確に診断できな
いことが多い。しかし,診断されてから支援を行う
のではなく,診断前から早期支援を行うことが望ま
しい。そこで,手指の巧緻性についても家庭や保育
現場で容易にできるアセスメントがあれば,それに
基づく発達支援が可能となる。その点に関して,本
研究で提案した円塗課題と線引き課題によるアセス
メントは有用であると言える。
描画課題を用いた発達支援については,フロス
ティッグの視知覚発達プログラム(Frostig, 1963)
が有名であるが,本研究で提案した描画課題による
アセスメントを,描画課題を用いた発達支援に繋げ
ることは十分可能である。今後,アセスメントと発
達支援のための描画課題のワークブックの両方を視
野に入れながら開発を進める予定である。
引用文献
戸次佳子(2014).
「迷路-線たどり」における幼児
の手指の巧緻性の発達 人間文化創成科学論叢,
16,177-185.
Erhardt, R.P.(1982)
.
Developmental hand dysfunction.
Maryland: RAMSCO Publishing Company.
(エルハーツ, R. P. 紀伊克昌(訳)
(1988).手
の発達機能障害 医歯薬出版)
Frostig, M.(1963)
.Developmental program in visual
perception. Consulting Psychologists Press.
(飯鉢和子・鈴木陽子・茂木茂八(1977).フロ
スティッグ視知覚発達検査(日本版) 日本文
化科学社)
Henderson, S.E., & Sugden, D.A.(1992)
.Movement
Assessment Battery for Children manual.
London: Psychological Corporation.
池田由紀江・佐藤朋子(1991).改訂版随意運動発
達検査の精神遅滞児への適用の試み 音声言語
医学,32,170-177.
久保田競(1982).手と脳 紀伊国屋書店
前川喜平・浜野建三・内野孝子(1975).小児にお
ける Tripod Grasp の発達について 小児科診
療,38(10), 79-83.
増田貴人(2007).MABC を用いた発達性協調運動
障害が疑われる幼児の描線動作の検討 弘前大
学教育学部紀要,98,67-73.
幼児期における手指の巧緻性のアセスメントに関する予備的検討(尾崎)
増田貴人(2008).幼児期における発達性協調運動
障害に関する質的評価の試行的検討 弘前大学
教育学部紀要,100,49-56.
松原豊(2012).知的障害児における発達性協調運
動障害の研究─運動発達チェックリストを用い
たアセスメント─ こども教育宝仙大学紀要,
3,45-54.
三宅和夫(監修)
(1989)
.KIDS(乳幼児発達スケー
ル・Kinder infant development scale) (財)
発達科学研究教育センター
日本整形外科学会身体障害委員会・日本リハビリ
テーション医学会評価基準委員会(1975).関
節可動域表示ならびに測定法 リハビリテー
ション医学,10,119-123.
尾崎康子(1996).幼児期における筆記具把持の発
達的変化 教育心理学研究,44,463-469.
尾崎康子(2000a).筆記具操作における上肢運動機
能の発達的変化 教育心理学研究,48,145153.
尾崎康子(2000b).筆記具操作の発達順序性 家
庭教育研究所紀要,22,109-114.
尾崎康子(2008).幼児の筆記具操作と描画行動の
発達 風間書房
尾崎康子・佐藤美年子・河村由紀(1994).2歳児
の描画行動に関する研究-円塗り課題の検討に
よる 家庭教育研究所紀要,16,125-134.
尾崎康子・佐藤美年子・河村由紀(1995).3, 4歳
児における筆記具の持ち方及び操作と精神発達
の関連について 家庭教育研究所紀要,17,
145-150.
Rosenbloom, L., & Horton, M.E.(1971).The
maturation of fine prehension in young children.
Developmental Medicine and Child Neurology,
13, 3-8.
Saida, Y., & Miyashita, M.(1979)
.Development of
fine motor skill in children: Manipulation of a
pencil in young children aged 2 to 6 years. Journal
of Human Movements Studies, 4, 104-113.
坂本香代子・中島そのみ・世良彰康(2012).不器
用さを示す発達障害児の線引き課題の結果と背
景要因の関連について 日本発達系作業療法学
会誌,1(1),39-45.
田中三郷(1989)
.改訂版 随意運動発達検査 発
達科学研究教育センター
谷田貝公昭(1986).現代「不器用っ子」報告 学
陽書房
( )
13
Fly UP