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児童福祉の方法原理 : 子どもの権利条約及びパーマネンシープラ
ンニングの意義と特質
野澤, 正子
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
社會問題研究. 2000, 49(2), p.59-81
2000-03-17
http://hdl.handle.net/10466/6832
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
児童福祉の方法原理
一子どもの権利条約及びパーマネンシー
プランニングの意義と特質-
野津正子
はじめに
I 子どもの権利条約の意義と援助原則
1.子どもの権利条約の意義
2
. 子どもの権利条約が示す援助原則
3
. 子どもと家族に関する認識
E パーマネンシープランニングの原理と方法
1.パーマネンシープランニングとは何か
2
. パーマネンシープランニングの価値と理論
3
. パーマネンシープランニングのプログラムと方法
4
. パーマネンシープランニングの今後の展望
E 児童処遇の基本的視点と課題
1.英国、フランスのパーマネンシープランニング
2
. パーマネンシープランニングの意義と特徴
3
. 日本における児童虐待対策の問題点
おわりに
はじめに
1
9
9
7年児童福祉法が改正され(以下改正児童福祉法)、児童福祉の方法原
理に関わるいくつかの改正が行われた。①保育制度における措置制度から利
用制度への転換、②子育て支援対策の創設、③児童養護施設の自立支援機能
の設定、それには④施設における長期処遇から短期処遇化への転換、⑤家庭
nHU
社会問題研究・第 4
9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
環境調整の強化が含まれる O ⑥援助における諸機関連携、⑦措置における子
ども本人の意見聴取、⑧虐待対策の強化等がそれである O これらの転換は、
消費者としての利用者の創出、サービスとしての福祉、行政と住民の関係構
造の変化等を内在させるものであるばかりでなく、子育て支援策の創出にみ
るように公的サービスの対象を専業主婦の子育てにまで広げ、保護者主体の
養育を側面から援助するという福祉の補完性を児童福祉の場ではじめて具体
化した。
こうした児童福祉の変化は、福祉全般の変化の潮流に沿うものであるばか
りでなく児童の権利に関する条約(以下子どもの権利条約)の批准という要
因の影響も大きいはずである O それゆえこうした施策はその中に、対象者観、
問題の分析視点、援助体制、援助方法に関わる革新性を内在させている。
しかしながら、諸施策は、これまでのところ施策の革新性を裏付けるため
の方法についての原理的吟味を欠いており、いわば従来どおりの施設入所、
親子分離等を超える新しい展望を示し得ないままに実施に移されている O 援
助方法はこれまで通りで多くはワーカーの主観的判断に任されているのが実
状である O
施策に原理的考察を欠くことは、施策全体を中途半端にしてしまう結果を
招きかねないであろう O 例えば、専業主婦の子育て家庭支援は画期的である
が、付加事業的色彩が濃く、保育園においての保育実施児の保育事業と園庭
開放等の地域子育て家庭支援事業は本来原理的に同じであるはずのものが、
別のものとして捉えられていることが多く見られる。また児童家庭養育支援
センターの創設は地域の家庭支援として改正児童福祉法では極めて重要な事
項と思われるが、その方法は必ずしも具体化されておらず、実効性のない従
来の児童福祉の「家庭調整」と同様のものにしか位置づけられていないといって
もよい状況にある O こうして家庭支援が児童福祉の中心におかれない原因は、
子どもと家庭の関係の重要性が充分に捉えられていなし、からではなかろうか。
本論は、子どもの権利条約及び欧米の方法原理となっているパーマネンシー
プランニングを方法論的に考察し、日本における児童福祉の方法原理確立の
課題を明らかにすることを目的としている O
-60-
児童福祉の方法原理(野津)
I 子どもの権利条約の意義と援助原則
1.子どもの権利条約の意義
子どもの権利条約は、さまざまな影響を世界に与え続けている。その意義
は、まず第 lに、子どもの権利という概念、を子ども自身の権利行使を含む概
念として再構成したことである O 児童権利宣言の子どもの権利は親や社会が
子ども代わって子どもの権利を行使するという概念で用いられてきた 1)。その
ため法制度内では子どもは隠された存在であって制度上権利主体者として登
場することはなかった。子どもの権利条約は、子どもの権利概念、を大人の権
利とは異なるものとして設定し且つ子と、もを権利行使主体として捉え直すこ
とによって子どもを社会的に大人に対峠する存在として浮上させる契機を創
り出したのである O
第 2に、親権を制限しその代わりに国家が法制度化によって子どもを守ろ
うとした児童権利宣言に対し、子どもの権利条約では子どもと親・家族の関
係の重要性の再確認がなされていることである O それは、親機能の子どもに
とっての格別の福祉的意味を表明するもので、子どもが家庭環境で育つこと
の重要性(前文)、父母を知り、父・母によって養育される権利(第 7条)、
アイデンティティに関する権利(第 7
,8
,2
9条)、親子分離の原則禁止(第 9条
)
、
親子分離した場合の定期的な接触の権利(同前)、父母の養育責任(第 1
8,2
7
条)等に表現されている O
これら親子関係の重要性の認識は、
J
.ボウルビーの 1
9
5
2年の著作及びその
9
7
0年代、 8
0年代の家庭崩壊や虐待家庭と
後の愛着理論等を基礎にしつつ、 1
それに伴う要保護児童の著しい増加の中でソーシャルワーカーやケアワーカー
の実践の過程で改めて提起されてきたものであることが欧米での実践レヴユー
や諸論を通じて明らかである o この点は後にパーマネンシープランニングに
ついて述べる節で触れる O
第 3に、子どもの権利条約は大人が子どもの権利を守るためのものであり、
その意味で子どもに対する大人の援助原則を提示したという性格をもつこと
である。いわば世界の児童福祉原則のモデルを示したのであり、 2
1世紀の世
'
-61-
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9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
界の児童福祉原理・万法を規定していくことと思われる O ではどのような援
助原則が示されているかを見てみよう。
2
. 子どもの権利条約が示す援助原則
子どもの権利条約は、子どもの権利に立脚して、児童福祉の領域では次の
ような援助原則を提示している。
<援助の基本原則>
①
援助・措置に当たっては「子どもの最善の利益Jが第 l次的に考慮されねばなら
ない(第 3条 1)
②
ついで親の養育、指導の責任、権利及び義務が尊重されねばならない(第 3条 2)
③
家庭の保護および父母の養育への援助を第 1原則とする(前文、第 7条 第1
8
条2
)
④
国籍、名前および家族関係を含むアイデンティティの保全(第 7条)
⑤
子どものプライパシーの尊重、家族、住居、または通信の不干渉(第 1
6条)
⑥
3条、第 3
4条、第 3
5条、第 3
6条)
虐待、搾取等からの児童の保護(第四条、第 3
<援助方法>
⑦
出生前後の、法的保護および特別の保護と世話の確保(前文)
⑧
親が養育責任を果たすための援助、子どものケアのための機関、サービスの発展
の確保(第 1
8
条 2,3)
<親子分離に関する原則および方法>
⑨
親子分離の原則禁止(第 9条)
⑩
分離は権限ある機関が司法審査に服することを条件とする(第 9条)
⑪
親子分離は、すべての利害関係者が当該手続きに参加し、自己の見解を周知させ
る機会が与えられる(第 9条 2)。その際子どもの意見が十分間かれ、年齢に応じて正
当に重視されなければならない(第 1
2条 1
,2
)
⑫
分離されている子どもは定期的に親双方との個人的関係および‘直接の接触を保つ
)
権利が確保されねばならない(第 9条 3
⑬
当局によって分離された子どもには親や家族の情報が提供される(第 7条)
<家庭環境を奪われた子どもへの特別のケア>
⑭
家庭環境を奪われた子どもへの国による特別な保護(代替的養護の確保/里親託
-62-
児童福祉の方法原理(野津)
置、養子縁組/施設養護措置を含む)の確保(第 2
0条 1
,2
,3
)
⑬
家庭環境を奪われた子どもの養育の継続性の確保(第 2
0条 3)
⑬
子どもの民族的、宗教的、文化的、言語的背景を考慮したケアの確保(第 2
0
条3
)
⑪ 措置された子どもが自己の措置について定期的審査を受ける権利の保障(第2
5
条)
⑬
法律に従って自由を奪われた子どもは年齢に基づくニーズを考慮した方法で取り
扱われ、成人から分離され、通信および面会によって家族との接触を保つ権利を有する
(
第3
7条C)
⑮
犠牲になった子どもの心身の回復と社会復帰促進の措置(第 3
9
条)
3
. 子どもと家族に関する認識
以上が子どもの権利条約が提示する援助措置に関わる原理と方法である o
こうした原則や方法の多くは、すでに欧米ではパーマネンシープランニング
の考え方や英国の 1
9
8
9年
C
h
i
l
d
r
e
nA
c
tに 実 現 さ れ て い る と い っ て も よ い で あ
ろう。日本の児童福祉ではこうした援助原則自体が欠如しているといってよ
い。とくに子どもが家庭環境で成長する権利への認識、親の養育権の尊重、
家庭養育援助、親が養育責任を果たすための援助の必要性等はまだ充分に認
知・実現されているとは言えず、それらを具体化する援助システムの確立は、
今後の課題でしかない現状である O そ し て 、 何 よ り も 方 法 原 理 の 根 幹 を な す
子どもと家族の関係についての認識において子どもの権利条約との聞に大き
な落差があるといえるのではなかろうか。
子どもの権利条約は、子どもと家族について 3つの認識を提示している。
1つは、家庭環境が子どもが人として育つ最適で、必要な「自然な環境」と捉
えていることである O 家 庭 環 境 は 物 理 的 な 意 味 だ け で な く 、 夫 婦 、 親 子 の 関
係を基本に性愛という最も情緒的な幹で結ばれている家族集団が持つ養育機
能への深い認識があるといえる o 2つ に は 、 子 ど も の 、 実 親 に よ る 養 育 の 意
味が捉えられている O 子 ど も の 人 格 形 成 に は 養 育 者 で あ る 特 定 の 人 間 と の 聞
に、信頼関係、アタッチメントの形成が不可欠とされるが、その特定の大人
は親それも実親であることが最も自然であり、他人の養育力と比べて親の養
育力の比較にならない大きさを捉えていると言ってよい。一方親も養育する
ι63-
社会問題研究・第 4
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0
0
0
.3
.1
7
)
責任、権利、義務がありそれは社会的に尊重されねばならなし」こうして親
も子も相互に相手を必要とする対の存在である o 子どもを捉えるとき、親な
くして存在せず、親もまた同様である o
3つには、子どもにとって名前、国籍を持つことと同様に実親を知ること
がアイデンティティの確保に不可欠であるとの認識がなされている。それは
文化的、宗教的、言語的背景の尊重とも重なるのだが、親子の不可分な生理
的心理的関係のもつ意味とアイデンティティ形成との関係への深い認識があ
るといえよう O
以下の節で、子どもの権利条約を先取りして具体化しているパーマネンシー
プランニングについて主として A
.N.Maluccioらの著作 2) により考察する o
E パーマネンシープランニングの原理と方法
1
. パーマネンシープランニングとは{可か。
1)パーマネンシープランニング運動発生の背景
A.N.Maluccioら3) によれば、米国でパーマネンシープランニング運動が生
まれてきた背景には、①里親ケア児童が、
1
9
7
8年には 1
9
6
1年の 1
7
7,
0
0
0を約 2
.
3
倍以上超える 5
0
3,
0
0
0に増大し、②それらの子どもたちの代替ケアの不確実で
非永続的な養育環境がもたらす子どもの苦しみへの人々の関心の高まり、③
子どもの権利擁護への意識の高まり、④子どもの最善の利益に関する多くの
著作の出版等があった。
2)概念の展開
ーマネンシープランニングの概念、は、
ノf
1
9
7
0年代後半里親ケア児の家庭復
帰や永続的処遇化をめざす連邦基金による実験プロジェクト=オレゴン・プ
ロジェクトに関する出版物で提唱された概念、で、以来、児童福祉実践の多様
な側面に適用されてきた。多様な実践によりその概念は訂正や再定義が繰り
返されていく
o
しかし当初から子どもの養育環境として家族の優位性の知見
に立ち、里親ケア児数を減ずるプログラム、ケースマネージメント等を含む
幅のある概念として提唱されてきた。
-64-
児童福祉の方法原理(野津)
当初は、パーマネンシープランニングは、すでに家庭外で措置されている
子どもに焦点が当てられ、子どもたちをタイミングを計って実家庭に戻すこ
とまたはそれが不可能な場合養子家庭に措置することがパーマネンシープラ
ンニングと見なされてきた。
だが、米国では、こうしたパーマネンシープラ
ンニングの考え方は次第に変化していく
O
対象を、里親ケア児のみでなく代
替ケアを受ける危険性にある子どもちにも広げ、「予防や家庭復帰の両方を包
摂し、すべての子どもの福祉サービス、すべての子どもの精神保健にとって
4
1概念に発展する O
の指導理念として機能する J
その発展のとくに推進力となったのが P
u
b
l
i
cLaw9
6
2
7
2すなわち「養子援
doptionA
s
s
i
s
t
a
n
c
eandC
h
i
l
dWelfareActo
f1
9
8
0
J
助および児童福祉法 A
(以下 1
9
8
0法と略)の制定であった。パーマネンシープランニング運動がその
制定誘因となったとされるこの法律は、パーマネンシープランニングの考え
方を制度化し、それを推進することを求め、それまでの児童福祉の方法を根
本的に改革することがめざされた。かくしてパーマネンシープランニングの
概念は
f
P
u
b
l
i
cLaw9
6
2
7
2に含まれる児童福祉の定義に一致する J5) のであ
る
。
3) 1
9
8
0年法に制度化されたノ fーマネンシイープランニング
9
8
0年法は、まず児童福祉サービスを次のように規定した 06)
この 1
A.障害児、家のない子、養護児童、放任された子を含むすべての子どもを保護し
その福祉を増進すること
B
. 子どもの放任、虐待、搾取
怠慢をもたらす問題の解決において、予防し、治
療し、援助すること
C
. 家族問題を確認することにより、家族からの子どもの不必要な分離を予防する
こと、問題解決にあたる家族を支援すること、子どもを動かすことを防止する
ことが望ましくかっ可能で、ある家族の崩壊を防止すること
D. 子どもと家族へのサービス提供によって家庭外に移された子どもたちを彼らの
家庭に復帰させること
E
. 実親家庭への復帰が不可能又は不適切なケースでは、適切な養子家庭へ子ども
を措置すること
F
. 子どもが家庭に戻れずあるいは養子縁組できないケースでは、家庭から離れた
~65-
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2
0
0
0
.3
.1
7
)
子どもの適切なケアを確保すること
この児童福祉の定義に加え、
1
9
8
0年法は、次のような方向でパーマネンシー
プランニングの導入を国庫補助金によって奨励した 7〕O
(
1
) 不必要又は不適切な家庭外措置の防止
(
2
) 子どもと家族に提供されるケアとサービスの質の改善
(
3
) 家族と分離しなければならない子どもに対する両親との再結合、養子縁組、又は
他の適切な手段によるパーマネンシー(永続的人間関係)の達成
こうした方向性や具体策は、そのための多様なアプローチとその方法の開
拓を伴う
。
8)
*子どもが自分の家族の中にいるための、又はできるだけ速やかに家族と再結合する
ための事前予防サービスおよび措置後の支持的サービスの供給
*ケースプラン、定期的点検、情報システム、の要求、及び必要なときのみケアに入っ
てくる子どもが適切に措置され、ある時間を経て永続家族に移っていくことを確保
することをめざした保護
ホ不適切な家庭外措置から離れ養子縁組のような永続的な選択肢に方向づけられた連
邦基金
*年長児や障害児、少数派の子ども、のように特別なニーズ‘持つ子どもの養子への連
邦助成金を含む、養子援助計画の確立
しかも、法に一体化しているアプローチはサービスデリパリーの優先順序
を次のように示し、援助過程の順序性を明らかにしている 9)。
(
1
) 家庭から子どもを分離するのを防ぐために家族支援をおこなうこと
(
2
) 分離が必要なところでは、子どもたちが彼らの家庭に再結合されうるための永続
的計画を展開させること、及び援助サービスを供給すること
(
3
) これらの選択肢が不適切であるところでは子どもたちが養子になるような積極的
サービスを供給すること。あるいはそれが選択した計画であるところでは永続的
里親家庭に措置されるようサービスを供給すること
-66-
児童福祉の方法原理(野津)
1
9
8
0年法による児童福祉の定義、政策推進の方向性、アプローチは、パー
マネンシープランニングの具体化であり、同時に、パーマネンシープランニ
ングを予防、目的性、時間性、展開過程を包摂した包括的な概念として形成
していく契機となった。
A
.N
.M
a
l
u
c
c
i
oらは、パーマネンシイープランニングを次のように定義
している o
「パーマネンシープランニングとは短い限定された時間内で子どもが家族と生活するこ
とを援助するための計画された一連の目標志向活動を遂行する組織的なプロセスである。
家族との生活は、実父母あるいはケアを行っている者との関係の継続および人生を通し
ての関係確立の機会を提供するものである。」 ω
A
.N
.M
a
l
u
c
c
i
oらは、この定義がパーマネンシイープランニング運動で
強調してきた、子どもの成長・発達における家族の優位性、組織的計画、時
間制限、目的志向活動、人間の家族所属への持続的要求、といった観点が反
映されているとする o それは、家族援助を第 1原則とする順序性、段階性を
もったプロセスであるが、代替ケアを受けている子どものみを対象にする概
念ではもはやなく、短期間の内に危機的状況の予防や家庭援助を行うことを
含む児童福祉の根本原則であるとともにその原則が導く親と子どもの参加に
よるケアプランの決定等、多様旦つ必然、的な方法を具体化しうる方法原理を
示すものであり、またプロセスとしての意味合いを持つ原則であることがわ
かる。
2
. パーマネンシープランニングの価値と理論
A
.N
.M
a
l
u
c
c
i
oらは、こうしたパーマネンシープランニングには、いく
つかの価値・理論的前提を持つこと、とくに家族環境で子どもを養育するこ
との価値、親子の愛着関係、人間関係における生物学的家族の意義を最重要
価値として前提していることを指摘している O その内容は次のように要約さ
れる u
'
-67-
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2
0
0
0
.3
.1
7
)
1)親子の愛着関係
親子の愛着関係は、パーマネンシープランニングの根拠になっている。愛
着関係の形成はすべての子どもの身体的、社会的、情緒的、知的、道徳的な
発展に必要であり、その形成には養育者との安定的で継続的な関係を必要と
している O
fーマネンシープランニングは、愛着関係の形成要因を親または養育者と
子どもとの関係の継続と共同の生活の安定性に求めるのである O
2)生物学的親の意義
愛着関係理論は、実親と暮らせない子どもに対し、心理学的な親、専門的
親あるいは心理学的に機能する親、永続的な専門的親という概念を生みだし、
それらを具体化するものとして里親や養親の永続性の確保が強調されてきた。
しかし同時に、こうした考えに対する批判も出される。 L
a
i
r
dは、心理学的に
機能する親というのは、複雑な人間状況を単純化しすぎている概念だと主張
し、人間のもつ血縁の血肉共存の感覚で、ある生物学的紳の重要性を強調する o
児童福祉実践において、親子分離が必要なとき、家族の粋を保持して実家族
と里親とが養育を分かち合うことを、そして家族と再結合する方向へ努力す
ることを主張した。
3) 分離と措置が与える衝撃
以上のような実家族の重要性の認識は親子分離や措置のネガテフな衝撃に
人々の関心を向けてし、く
o
Germainは、親子分離が、アイデンティの生物学
的文脈から子どもを引き裂くことだとし、「代替ケアをどんな風に受けたとし
ても子どもがやろうとすることは常に彼自身を全体として再構築するための、
アイデンティティの編目に粉々になった切れ端を編み込んでいくことなので
ある」とのべている O
また分離は、子どもにトラウマになるだけでなく、親にとっても喪失感、
悲しみ、空虚、抑穆の感情があることを指摘している O
4) エコロジカルな視点
エコロジカルアプローチは生物と環境の相互作用の研究から導かれたソー
シャルワーク実践のアプローチの方法であるが、パーマネンシープランニン
-68-
児童福祉の方法原理(野津)
グの理論的支柱をなしている。子どもと親が遭遇する諸問題を生みだしてい
る多くの要因への実践者の意識や認識を深め、家族がおかれている環境にお
ける基礎的サービスと援助の重要性、サービス供給の継続性、学際的共同の
必要性についての理論的背景をなす。そして家庭復帰サービスと同様に予防
への道を提供するのである O
3
. パーマネンシープランニングのプログラムと方法
1)プログラム
以上の価値と理論は、短時間内での組織的で目標志向的なサービスプログ
ラムを生み出す。パーマネンシープログラムを構成する主要内容は次の通り
である ω。
*子ども自身の家庭で子どもたちが暮らせるための総合的で強力な努力
*家族と暮らすことができずまたそれが適切でない場合、早い時期での介入と子ども
のための長期計画の考慮、それは子どもが代替ケアに実際に措置される以前ですら
始められる。
*当座の里親ケアから子どもを移動させるための異なる選択肢の確認、活用できる選
択肢の中での優先順位の確立
*適切な永続的措置に到達するための制限時間内でのサービスプランの輪郭を描くこ
と。プランは、含まれる当事者すべての目標、役割、仕事、責任を詳細に示すこと。
とくに親子訪問の積極的奨励を取り入れること。
ホ必要があれば、計画の法的証言をする団体を含む、法的裁判手続きの断固たる活用
(例えば親権の終了)
*定期的なケース再検討の実施
*子どもの実家族とりわけ両親への総合的サービスの提供。そうした一連のサービス
は、人々と環境の相互作用が有効に働くようにまた両親が子どもの養育に奮闘する
ことを促進するように、エコロジカルな視点で計画されなければならない。
以上のプログラムは、パーマネンシープログラムの鍵になる計画である。
その実行に当たっては、ソーシャルワーカーの直接的なサービスの他に、制
度、政策、法律、施設、そしてエイジェンシーのマネージメントを含む重層
ι69-
社会問題研究・第 4
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0
0
0
.3
.1
7
)
的で組織的な取り組みが必要になる O
2) 方 法
fーマネンシープランニングに内在する方法は、親との契約又はサービス
への同意、親とソーシャルワーカーによる時間を区切った目標志向活動、意
思形成手続きを構造化し強化するための記録保持、といった実践戦略を強調
するテクニックやケースマネージメントである。これらの方法を駆使するに
はワーカーは多様な役割、とくにケースプランニングや、ケースマネージメ
ント、セラフィ、クライエント擁護、裁判の承認などの役割を果たすことに
なる。
ーマネンシープランニングのこれらの枠組みには、個人、学問領域、組
ノf
織聞の協働が必要である o 計画の効果的な実行には、子どもや親と共に働く
児童福祉職員、弁護士、判事、その他の人間の問の、相互の尊敬と積極的な
協働精神が求められる o
4
. パーマネンシープランニングの今後の展望
ーマネンシープランニングの概念は、これまでも変化してきたことを述
ノf
べたが、今後とも時代や家族の変化により発展していくことが予想される O
1
9
8
0年法の改革が論議され、パーマネンシープランニングに代わる新しいパ
ラダイムが
f
a
m
i
l
yc
o
n
t
i
n
u
i
t
yという 13) ことばで出されてきたりしている O パー
マネンシープランニングの原則は、さまざまな方法の開拓を導くのであり、
それをめぐって検討が行われるは当然である。
1
9
9
7年に成立した新連邦法 T
h
eA
d
o
p
t
i
o
na
n
dS
a
f
eF
a
m
i
l
yA
c
tは、「さ
らに敏速に子どもの家庭復帰あるいは永久の新しい家庭の一貫になるため」 ω
の法であるが、従来の一連の順序性をもった段階的サービスの連続的計画か
ら段階的サービスの同時進行計画への変更を定めたものである O さまざまの
方法的批判を吸収したものといえるであろう O
-70-
児童福祉の方法原理(野津)
E 児童処遇の基本的視点と課題
1.英国、フランスのパーマネンシープランニング
パーマネンシープランニングの英国およびフランスでの展開に触れる o
まず英国に見ると、「パーマネンスとパーマネンス政策」ということばが
1
9
7
5年から 1
9
8
0年の聞に USAから輸入され拡がるが、その背景には、米国と
同じく里親ケアで生活している子どもの生活の不安定性が在り、また実親の
子ども引き取りをめぐるもめ事や里親措置から戻されて死んだマリアコルウェ
ル 事 件 な ど が 、 代 替 ケ ア の 永 続 性 を 求 め る 動 き に 拍 車 を か け て い く ωo
P
.H
a
r
d
k
e
rは、パーマネンシープランニングが輸入された 1
9
7
5年児童法のこ
ろの状況を次のように語っている o
1
1
9
7
5年児童法は、養子縁組の錯綜した問
題、子どもの権利あるいは福祉原則の法的強調の欠如、ワーカーの家族関係
を創り出すための試みにおける養子の誤った活用、養子か家庭復帰かについ
ての混乱した態度といったパーマネンシープランニング戦略の欠落に関わる
問題を追求しているが、主に代替ケアの転々と代わることの予防について議
論が重ねられていた。」 ω という状況の中でパーマネンシーが具体化されてい
くo そこでは永続性は、それまでの予防や家庭復帰に代わるものとして、ま
た代替ケアの安定化のために、親権を制限し、親の同意なしの養子縁組や、
親との接触を断ちきる等の動きとして捉えられている。
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nは、 1
9
8
0
年代を通じてパーマネンシーは、「保護を受けている子どものために代替的家
庭を探すこと」の問題として長く受け止められてきたと語っている 17)O
これらを見るとき、
1
9
7
5年から 1
9
8
0年にかけて米国から輸入されたノ fーマ
ネンシープランニングは、米国の包括的な概念とは若干異なるように思われ
るo
J
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nは現在においてもパーマネンシーの対象を代替ケア児に限定
して用いており、そのケアの永続性、安定性の確保の意味で使っている o し
かし援助過程では、アイデンティティ確保のために実家族との関係の重要性
を認識し、また家庭復帰に向けて実家庭とのコンタクトを取り入れている ωo
また親と子とワーカーとの協働のための方法と技術の発展にも触れている o
したがって家庭外ケアの必要な子どもへの援助プランの全体像は、この永
-'-71-
社会問題研究・第 4
9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
続性の追求とアイデンティティ保障のための実親との関係性維持の 2側面を
含む総合的な援助活動として捉えられているといってよい。
ーマネンシーと実親との関係、予防とパーマネンシーは当初対立的に捉
ノf
えられていたが、実親との関係の重要性の認識が拡がるにつれ、その関係維
持を導入し、それぞれ統合的に捉えられている。特に、
1
9
8
9年児童法は、パー
トナーシップや親とのコンタクトなどを含め米国のパーマネンシイープラン
ニングの各要素がほとんど取り込まれているといってよい 19) 。その具体的な
表現は、英国保健福祉省から 1
9
9
0年に出された児童ケア原則(資料
1)20) とし
て示されている o
フランスにおいても、伝統的な手法に代わる新しい考え方が児童の措置過
程で追求されているヘ現在、児童福祉局の児童処遇の基本方針として、①予
防的措置をとること、②先ず家庭で子どもが生活できることを追求すること、
③教育的で促進的なサービスの継続性、一貫性を確保すること、④家族との
協働、家族が子どものために社会サービスの真の当事者になるような社会的
地位と育成を受け入れセンターの家族に保障すること、⑤子どもを家庭に戻
すことを常に追求すること、⑥分離に際しては、親との関係を重視し、完全
な分離を避け、親と養育を分かち合うこと
等が掲げられている。これらは、
フランスにおけるパーマネンシープランニングの具体的表現である o フラン
スにおいても、
パーマネンシープランニングは、まさに児童福祉の普遍的処
遇原則として認められているといってよい。
2
. パーマネンシープランニングの意義と特徴
ではこれらのパーマネンシープランニングの特徴を日本の児童福祉との対
比において明らかにしておこう O
第 1は、クライエントである児童がサービス提供過程において主人公であ
る点である。児童福祉が一人のクライエントのニーズから出発しクライエン
トの主体性を尊重しつつニーズに応じた必要なサービスを組立て、提供して
いく過程として存在していることである。従って児童福祉はクライエントの
ニーズの個別性を起点としそれの充足に向けての対応を、親や子どもの参加
i
門
nL
児童福祉の方法原理(野津)
によってとくに意思決定過程への参加によって、行っていくプロセスである。
日本の場合、クライエントの個々のニーズを吟味してそれに応じた個々のサー
ビスを提供するというよりも大枠で施設入所か否かを決定し、施設入所後は
一人当たりの措置費の枠内で平均的に処遇するやり方が基本である O クライ
エントが主体なのか、限定された既存の資源にクライエントを適用させるの
かの相違が、両者の児童福祉を本質的に規定している O 個別のニーズ、への対
応は、諸機関、弁護士、ワーカーなどの協働等が不可決になるが、施設入所
か否かの判定のみの場合、それは児童相談所の専決事項で済んでしまう O
第 2は、子どもという存在形式、人間とはなにかに関する知見に基づいて
サービスが組み立てられていることである D 子どもと家族をユニットとして
捉えること、親子の生物学的関係が持つ単純で、ない心的身体的構造や人間性、
アイデンティティへの、注目、親や特定の養育者との間の愛着関係を前提的に
固執すること、それらは子どもの人格形成の基礎的内実を構成するのだが、
それらを最重要視し保障することが児童福祉サービスの基本になっているこ
とである O 親・養育者と子どもとの関係の安定性、継続性といったパーマネ
ンシー運動が最初に求めたものの背景に日本ではほとんど受け入れられてい
ない母子関係理論、愛着理論があり、それに基づくこうした子どもや家族へ
の知見、人間観があることを知るのである。里親、養親など社会的な親との
愛着関係形成への関心とともに、人間存在がもっ血縁に抱く抜きがたい身体
的、心的、文化的意味を捉えて、社会的な親との関係によって切り取られる
血のつながりを救い上げるため、里親や養親といった社会的親の養育におい
て子どもと実親の関係保持を図っている O 親子分離した場合の親子訪問、オー
プン・アダプション ω や、オープン・フォースターとして実親との関係維持
の実現を図る等は、人間の存在様式を深く捉えたものといわざるをえない。
第 3に、子どもの問題の把握の仕方である o 子どもと親がセットで捉えら
れているだけでなく、エコロジカルアプローチにより、家族がおかれている
環境とのさまざまな関係性の中で子どもの問題が捉えられる O したがって子
どもだけを環境から切り離して実体的に捉え病気扱いをして投薬や病院に送
り込むなどのことは避けられる。子どもの問題は親・大人に依存して生活す
ι73-
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9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
るしかない子どもの社会的存在形式から家族や大人との関係を中心とした環
境に根ざして生み出されるものであり、問題の発生は、一つの成長段階での
行動的な表現として捉えられるのである D それゆえ大人はたとえば家庭内暴
力の子どもを病名を付けて施設入れるのではなく子どもがその行動によって
何を求めているのかを先ず子どもにより添って虚心坦'懐に聞き取り感知する
ことが必要であろう o
第 4に、子どもの援助とともに家族援助とくに実親への援助が重視されて
いることである。家族崩壊の危険性の大きな家庭への予防的介入はもちろん
のこと、分離した場合も、そしてたとえ再統合の可能性がゼロである場合で
すら親への援助を行うとするのである O これについて Thoburnは、「親が幸せ
であることが子どもの生活に影響をもち続ける」として分離された親への援
助の必要を根拠付けているヘ子どもへのサービスと親へのサービスという 2
側面をともに重要で必要なサービスとして統一的に位置づけているのである O
日本では、子どもへの施設入所はあっても、入所児の親への援助的アプロー
チは無といってよし」わずかに児童養護施設の施設最低基準で家庭調整が、
また主任児童委員の職務の中に、「児童福祉施設入所中の児童と保護者との間
の連絡調整」や「児童福祉施設を退所した児童とその保護者の事後指導」が
みられる(主任児童委員の設置について平成 5厚生省児童家庭・社会・援護
局長連名通知)が、いづれも連絡調整・指導のレベルにとどまり、親への援
助過程として確立したものではな ~)o 今後は、入所中の児童の親援助に本格
的な位置づけがなされなければならないであろう O
以上の 4点で、パーマネンシープランニングの持つ意義とその方法の特徴
は明らかで、あろう o
3
. 日本の児童虐待対策の問題点と課題
1)子どもの意見聴取と意見尊重
平成 9年の改正児童福祉法は、児度相談所の都道府県知事への措置報告に
保護者のみでなく子どもの意向を記述することが義務づけられた。このこと
は措置過程における子どもの意見聴取が実質的に義務づけられたと見てよい
l
ヴ
4斗ゐ
児童福祉の方法原理(野津)
であろう O 保護者の意向と同意だけで措置されてきたこれまでの方法から見
れば格段の進歩である。 だが子どもの意向を聴くのみでなく、もう一歩踏み
込んで、子どもの意見が年齢に応じて十分尊重されることが必要である O そ
してもし保護者と子どもの意向が異なるとき、子どもの最善の利益を守る立
場に立って保護者を説得したり、援助したりすることが必要になるであろう。
2) 子どもと親への説明責任と親への援助過程を位置づける
児童虐待対策では、「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」
(平成 9・6・2
0厚生省児童家庭局通知)が出され、 6点において新しい進展
が見られた。①虐待概念が出され、「身体的暴力や性的虐待のほか、衣食住や
生活環境の清潔さに関し児童の健康状態を損なうほどの保護の拒否や怠慢、
児童の日常生活に支障をきたす精神症状が現れる心理的外傷を与える言動や
行為」としたこと、②通告義務について守秘義務との関係を明確にしたこと、
③立入検査について警察との連携について述べたこと、④緊急時の一時保護
について保護者の同意がなくてもできるようにしたこと、⑤施設入所措置に
ついて保護者の同意が得られない場合、家庭裁判所の承認等を得て行うが、
その場合、施設長の監護権は保護者のそれに優先すること、⑥「入所中の児
童の処遇に当たって児童の心身両面にわたる適切な処遇とその家庭環境の調
整に努めることが重要である」としたことである O
問題点は、第 1に、虐待概念が「生活環境の清潔さに関し」保護の拒否や
怠慢とあり、拒否や怠慢が清潔さにその基準が求められていることが拡大解
釈の余地を残している点である O 第 2に、一時保護を親の同意なしに行う強
制措置の前段階での指導・援助が位置づけられていないことである O これま
ではどんな場合も親の同意が必要であったために一時保護ができず子どもを
救えなかったという事態からみれば今回の通知は虐待対策の前進と評価され
ている。しかし緊急性という事態も範囲が広いこと、虐待概念に「清潔さ」
などが基準になった概念が含まれ、怠慢等までが緊急性の中に含まれること
等から見て強制措置の及ぶ範囲が広いこと、強制措置以前の家庭支援が全く
欠如していることが、強制措置権の濫用につながる可能性を懸念せざるをえ
なし、。
!-75-
社会問題研究・第 4
9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
通告後なされる立入調査や強制措置には相当の証拠が必要であるから各種
情報収集が行われるがその過程で、児童委員や母子相談員、保育士、家庭相
談員などが親と接触し指導・援助できる機会がある筈であり、また立入調査
の結果、説得・援助する過程を持つことが可能である筈である O にもかかわ
らずそうした家庭援助の過程なしの強制措置は、親にとっても子どもにとっ
ても唐突で、親にすれば子どもを位致され剥奪されることであり、一時保護
から施設入所へ向かう子どもには子ども自身が地域や学校で作り上げてきた
諸関係を一挙に物理的に奪われることになる O こうしたあり様は親の児童相
談所や施設への不信等によりを生み、その結果親子間の関係正常化への道は
閉ざされたり、子どもの家庭復帰に支障を来すであろう。強制措置は可能な
限り避けることが原則であり、慎重さが求められるとともに親への説明や説
得活動、あるいは援助活動が強制一時保護に至る前の段階で位置づけられる
ことが必要である O
3) 親子の面接権、コミュニケーションの保障
親の同意が得られない強制措置は、施設入所は家庭裁判所の判決で行われ
るが、その際、面接権も奪われてしまう O 子どもを取り返しに来る親を拒否
して面接をさせず、子どものいる施設も知らせないなどのことが実際行われ
ている O 家庭にすぐに戻すことはできないにしても子どもに会いたい親の気
持ちを受け止めて援助指導することが必要ではなかろうか。また子どもにとっ
ても親に会う権利があるのではないか。面接権、訪問権を奪ってしまうやり
方は、虐待する親を徹底的に極悪非道の悪しき存在と見て子どもから分離す
るやり方である O しかしこれは虐待問題の構造的理解を欠いた一面的把握を
意味すると共に、子どもの実親との関係の維持形成を奪いひいては子どもの
福祉を損うもので、改善が求められる O
結 び
子どもの権利条約は、 2
1世紀の世界レベルで承認されたの子ども施策の基
本法になるべきものである。日本でもそれを批准した以上、この条約の援助
-76-
児童福祉の方法原理(野津)
方法原則を日本の児童福祉にもっと大胆に取り入れて行くべきではなかろう
か。またパーマネンシープランニングがもっ子ども観や人間観、とくに子ど
もと親・家族との関係の大切さ、そして問題のエコロジカルな把握の仕方、
そして何よりも具体的な個人の持つ生活が抱えるニーズを充足することを仕
事とする児童福祉へと児童福祉のあり方を作り替えていくこが求められる。
注
9
6
0年 1
8
1)ジャン・シャザル『子どもの権利 J(清水慶子・霧生和夫共訳)白水社 1
1
9
頁
2
)AnthonyN.Maluccio,E
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hFein,andKathleenA.Olmstead;Permanency
9
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6
.ほかに J
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Murdoch.& A
Jシュタイン T.Lザプニッキ『児童福祉インテーク J(芝野松次郎監訳 家庭養護促
進協会訳)。ミネルヴァ書房
1
9
8
3など参照
3) AnthonyN. Maluccio,E
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hFein,andKathleenA.Olmstead;
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PermanencyPlanningf
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) 栴野由美子「アメリカの子どもの権利擁護 Jr
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2頁
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7
) ソブン『児童福祉のパーマネンシー J(平田美智子・鈴木真理子訳 筒井書房) 2
1
8
) ソブン、前掲書 7
0頁
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-78-
児童福祉の方法原理(野津)
資料:英国保健省児童ケア原則:原則と実践規則・指針 4
2項目リスト
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eは相互に変化し得
るように用いられている。そしてそのいずれかまたは両方が Oから 1
8
歳全体をカヴァー
すると見なされなばならない。)
1)子どもと若者とその親たちは特別なニーズと可能性を持つ個人として見なされる
べきである。
2
)基本的なニーズは普遍的であるが、それを充たす方法は多様であり得る
3) 子どもたちはネグレクト、虐待、搾取から保護される資格を持つ
4)子どもの年齢、性別、健康、人格、人種、文化、生活経験はすべてニーズや脆弱
性の考慮に関係しておりまた援助を計画したり提供するとき考慮されなければな
らな ~'o
5)子どもたちには自分が生まれた家族の中でノーマルな家族生活の経験をすること
に固有の利益がありすべての努力は子どもの家庭と家族の紳の保持のためになさ
れなければならない。
6
)親は親自身のニーズを持つ個人である。
7) 親とパートナーシップで働くことの発展は常に子どもたちへの補完的代替的ケア
を提供する上で最も効果的なやりかたである。
8) 強制命令による公的ケアへの受け入れはそれ自身他の方法との均衡を欠く危険に
さらされる。また地方当局による子どもの宿泊も同様である。
9) もし若者が家庭に居れないないなら親戚または友だちに措置することが他の措置
形態が考慮される前に開発されるべきである。
1
0
) もし若者が実家族から別れて生活しなければならないなら若者と親の両方がとる
べき方法を考えるためにまた最も適切なケア形態について事情に通じた選択をな
し得るために援助されなければならな ~'o
1
1)家庭外ケアが必要なとき、積極的ステップが速やかに家庭に戻ることを確保する
ためにとられなければならない。
1
2
) 子どもが、当座であれ恒久的であれ、家庭で生活できないとしても、親たちはそ
の責任を保有すること及び子どもの福祉に一致するように親密に関わり続けるこ
とが期待されまたその手段が与えられねばならな L
。
、
1
3
) ケアにおかれたときまたは任意のアレンジメントの保護下におかれたとき、これ
←
79-
社会問題研究・第 4
9巻第 2号 (
2
0
0
0
.3
.1
7
)
が子どものニーズに基づき熟慮されたプランでない限り、兄弟は分離されるべき
ではない。
1
4
) 家族の幹は訪問や他の接触形態を通して積極的に維持されなければならない。た
とえ両親のうちのひとりがもはや家庭にいないとしても、両親は重要であり、父
親は見過ごされたりのけ者にされたりするべきではない。
1
5
) 両親と同様拡大家族、とくにきょうだいや祖父母も重要である。
1
6
) 血縁関係の共同体は重要である。愛着関係は尊重され、維持され、発展されるべ
きである。
1
7
)家庭や、養育者や、ソーシャルワーカーまたは学校を変わることは、常に子ども
の成長や福祉にある種の危険をもたらす。
1
8
) 時間は児童ケアにおいて決定的要因で、年数よりもむしろ日数や月数を考慮すべ
きである。
1
9
) どの若者も確実な個人のアイデンティティの感覚の発展を求めている。養育責任
やケア責任を伴うすべてのものはこの課業の中で奨励しサポートする義務を持つ。
2
0
) すべての子どもはアイデンティティとともに自信と自己価値感覚を発達させるこ
とを求めている。同様に自己尊重が重要である。
21)あらゆる種類の差別が多くの子どもたちの日常生活の現実であるのでエイジェン
シーのサービスと実践はそのことを反映または強化しないようあらゆる努力が払
われなければならな ~)o
2
2
)一体化した養育は、それ自身十分よいものではない。
2
3
) 若者は彼のためにとられた行動によってたとえばケアや特別な施設提供を受ける
結果として不利益を受けたりスティグマを受けたりされることがあってはならな
。、
L
2
4
) 子どもたちの長期間の福祉は短長期間ケアの健康、教育への、速やかでに積極的
で予防的活動によって守られなければならない。
2
5
) 若者の願いは引き出され、まじめに取り上げられねばならない。
2
6
) 若者が成長する時、児童ケアエイジェンシーが長期ケアで若者に行っている親の
役割としても独立への準備が必要である O
エイジェンシーの責任とシステムに関する原則
2
7
) 法律と法規に基づく責任とシステムにおかれた義務と責任を遂行するに当たって
地方当局は前のセクションで着手された子どもと家族と一緒に仕事をするという
原則を実践の中に追加しなければならない。
n
u
n
o
児童福祉の方法原理(野津)
2
8
)地方当直のさまざまな部局(例えば健康、住宅、教育そして福祉サービス)は、
統合されたサービスと一連の資源の提供に協働、そのような協働が法律で特別に
求められていない場合においてすらも、しなければならない。
2
9
)記録の秘密保持と接近の二つの問題がすべての地方当局と児童ケア組織によって
問われることが必要である。
3
0
) ケア提供者は彼らの担当する子どもや若者についての適切な 情報を持つ資格があ
t
る。そしてこの秘密を守る義務を持つ。
31)両親と若者に送られる手紙と資料は彼らに十分理解される言語で書かれなければ
ならない。
3
2
) 計画は子どもたちとその家族にサービスを提供するエイゲンシーにとって重大な
責任である。
3
3
) エイジェンシーは長期の家庭外措置にあるマイノリティの子どもたちに対し特別
の養育責任を持つ。
3
4
) 選択肢が考慮されているとき、そしてあるいは決定が形成されているとき、ある
個人あるいはグループはその中に含まれることが必要である。
3
5
) 傷つきやすい子どもたちへのサービスは、両親、親族、施設ソーシャルワーカー、
または里親ケア者等、日々ケアを提供している者によって与えられねばならな~ '
0
それぞれのケースではケア提供者をサポートすることと彼らが子どもの福祉に
責任を持っていることとの聞にバランスを創り出さねばならない
3
6
) ケア提供者一両親であろうと、里親、あるいは施設職員であろうとーは、もし彼
らが彼らのベストを尽くすとしたら実践的な資源と価値付けられていると感じる
ことを必要としている。
37) 適切な訓練がケア提供者に与えられねばならな ~'o
3
8
) 考え方の違いあるいはちょっとした論争を解決するには機械的であるべきだ。例え
ばチームリーダー、里親事務局職員、あるいは他の適当な個人を加えるとか、あ
るいは署名者の何人かの要求で書かれた同意書を再調整することを通してである。
3
9
) エイジェンシーは行った措置をサポートする責任がある。
4
0
) 登録と記録は維持され継続機関まで保持されなければならない
4
1)組織、部局と個人の聞の協働は、脆弱な子どもたちの保護の提供とまた利用可
能な資源の適切な確保に決定的である O
4
2
) 児童の措置に使われる里親家庭と居住施設は定期的に適当な期間を置いて見直さ
れなければならない。それはケア者の信頼を害することを避け、あるいは子ども
たちが不安を感じた内容に注意してなされなければならない。
8
1
Fly UP