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国連平和維持活動について

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国連平和維持活動について
衆憲資第 9 号
国連平和維持活動について
平 成 1 4 年 2 月
衆議院憲法調査会事務局
この資料は、衆議院憲法調査会国際社会における日本のあり方に関する調査
小委員会における調査を進めるに当たって、委員の便宜に供するため、国連平
和維持活動に関する基本的な事項等について、衆議院憲法調査会事務局が簡潔
に解説を加えたものである。
― 目 次 ―
1. PKO の創設の経緯等…………………………………………
1
2. PKO の憲章上の位置付けと法的根拠………………………
2
3. 活動に当たっての諸原則………………………………………
3
4. PKO の変遷及びその改革……………………………………
4
5. 各国における PKO への取組み………………………………
6
参考資料―①
国連平和維持活動の主な事例………………………………… 11
参考資料―②
ブラヒミ報告に関する資料…………………………………… 17
※原文省略
参考資料―③
冷戦後の国連平和維持活動(PKO)の特徴(『レファレンス』596 号
(2000 年 9 月)国立国会図書館調査立法考査局)…………………… 101
※省略
1. PKO の創設の経緯等
国連平和維持活動(peace−keeping operation=PKO)は、東西冷戦構造
を背景とした憲章 7 章に定める「集団安全保障」の機能不全を受け、憲章 6
章に定める「紛争の平和的解決手段」では対処できない地域紛争等に対し、実
質的な紛争解決の素地を提供する手段として、国連がその慣行の中で編み出し
たものであると一般に言われている。このため、PKO の公式な定義は存在し
ないが、一般に、「国際的な平和と安全を脅かす地域的な紛争又は事態に対し
て、国連が関係国の要請又は同意の下に、国連の権威を象徴する一定の軍事的
組織等を現地に駐留せしめ、これらの軍事的組織等による第三者的かつ中立的
役割を通じて、当該地域的な紛争又は事態を平和的に収拾することを目的とし
た活動i」をいうものとされている。
PKO の起源は、第一次中東戦争後の 1948 年に設立された国連休戦監視機
構(UNTSO)に遡るとされている。ただし、実際に、国連の活動として加盟
国の間で強く意識され、“PKO”の名称が定着するようになったのは、スエズ
危機後の 1956 年に設立された国連緊急軍(UNEF)以降のことである。そし
て、2000 年 9 月現在までに、54 件の PKO が展開されてきた。
<現在展開中の PKO(2000 年 9 月現在)>
名 称
国連休戦監視機構(UNTSO)
国連印・パ軍事監視団(UNMOGIP)
キプロス平和維持隊(UNFICYP)
国連兵力切離し監視隊(UNDOF)
国連レバノン暫定隊(UNIFIL)
イラク・クウェート監視団(UNIKOM)
西サハラ投票監視団(MINURSO)
国連グルジア監視団(UNOMIG)
国連ボスニア・ミッション(UNMIBF)
国連プレヴラカ監視団(UNMOP)
コソヴォ暫定行政ミッション(UNMIK)
シオラレオネ・ミッション(UNAMSIL)
東チモール暫定行政機構(UNTAET)
国連コンゴ・ミッション(MONUC)
エチオピア・エリトリア・ミッション(UNMEE)
i
派
遣
先
エジプト、イスラエル等
インド・パキスタン国境
キプロス
ゴラン高原
南部レバノン
イラク及びクウェート
西サハラ
グルジア
ボスニア
ブレヴラカ(クロアチア)
コソヴォ自治州
シオラレオネ
東チモール
コンゴ
エチオピア、エリトリア
開始時期
主要な任務又は活動
1948.6∼
1949.1∼
1964.3∼
1974.6∼
1978.3∼
1991.4∼
1991.9∼
1993.8∼
1995.12∼
1996.1∼
1999.6∼
1999.10∼
1999.10∼
1999.11∼
2000.7∼
停戦監視
停戦監視
衝突防止、治安維持・回復
停戦及び兵力引離しの監視等
軍の撤退監視、主権回復援助
停戦監視、国境侵犯の抑止
住民投票監視、治安維持等
停戦違反の監視及び調停
裁判の監視、人道援助等
非武装化の監視
三権の行使
停戦監視、人道・経済援助等
三権の行使
停戦監視、人道援助等
軍事調整委員会の設立準備等
香西茂『国連の平和維持活動』有斐閣(1991 年)2−3 頁参照。なお、国連事務局によ
り編纂された『ブルー・ヘルメット[第 2 版]』
(1990 年)では、PKO とは、
「軍事要員を
含むが強制力を持たず、紛争地域において国際の平和と安全の維持及び回復のために国連
により行われる活動」と定義されている。
1
2. PKO の憲章上の位置付けと法的根拠
平和維持活動は、当事者間の紛争の最終決着を目指すものではなく、平和
を脅かす地域的事態が悪化して国際的に拡大するのを防止し、事態の沈静化を
通じて紛争の平和的解決の素地を創り出すことにより、間接的に紛争解決の道
を開こうとするものである。このような活動の性質から、平和維持活動は、憲
章 7 章(集団安全保障)の“peace−enforcement”と憲章 6 章(紛争の平和
的解決)の“peace−making”との間に位置する第三の機能(憲章 6 章半)と
位置付けることができると一般に解されている。
しかし、国連憲章に平和維持軍の編成及び派遣に関する明文上の規定は存
在しないため、その活動の合法性(特に、総会が決定する場合)については、
国連加盟国間における見解の対立を惹起させた。この点について、国際司法裁
判所(International Court of Justice=ICJ)は、①総会が平和維持軍を組織
する旨決定する場合であっても、それは、安保理の主要な責任に属する強制措
置に係る権限を侵害するものではなく、国際の平和及び安全の維持に関連する
勧告を具体化するための措置であり、②「推論された権能(implied power)」
にその法的基礎を求めることができる旨の勧告的意見を出しているii。
<集団安全保障・平和維持・平和的紛争解決の概念図 iii>
予 防 外 交
(preventive
diplomacy)
平 和 創 造
憲章 6 章
(peace-making)
平 和 構 築
(peace-building)
文民部門
PKO
軍 事監視団
憲章 6 章半
PKO(peace-keeping)
平和 維持 隊
拡大
軍
平和執行部隊
連
多 国 籍 軍
国
憲章 7 章(peace-enforcement)
<紛争解決のメカニズム>
予防外交
緊張状態の発生
平
紛 争 の 勃 発
停戦合意の締結
ii
状
態
平和構築
◆憲章7章下の措置
◆平和創造(紛争の平和的解決)
和
平和維持
特定経費事件(1962 年)
。UNEF 及び ONUC(1960 年のコンゴ内戦の際に派遣された
平和維持軍)の設置に係る経費分担要求にソ連、フランス等が応ぜず、国連が財政危機に
陥ったことを受けて、総会が、PKO の経費が国連の経費(憲章 17 条)に当たるか否かに
ついて、国際司法裁判所に勧告的意見を求めた事件。
iii
神余隆博『国際平和協力入門』
(1995 年)有斐閣 3 頁参照。
2
3. 活動に当たっての諸原則
1958 年 10 月、ハマーショルド元国連事務総長は、
「UNEF の設置及び活動
に基づく経験の研究摘要(Summary Study of the experience derived from
the establishment and operation of the force)」の中で、以下の PKO の基本
原則を示したiv。ここにおいて示された諸原則は、基本的に、その後の PKO
における行動準則として引き継がれていると考えられている。
<PKO の諸原則のイメージ図>
同
意
原
則
主権尊重の観点から導かれる原則
公 平 ・ 中 立 原 則
自衛目的に限った武器使用原則
任務遂行の観点から導かれる原則
(1)同意原則
PKO は、関係当事者(受入国、要員提供国等)の同意を前提とする。こ
の原則は、中立・非強制という PKO の本質に根差す基本原則であり、他の
諸原則に優位するものであると考えられている。したがって、任務遂行の観
点から導かれる自衛の原理は、上位原則である同意原則の範囲内でのみ認め
られる副次的な要素であると考えられている。
(2)公平・中立原則
イ 構成における公平・中立原則
PKO の主体となる平和維持軍(peace-keeping force = PKF)及び軍事監
視団(military observer mission)の選定に当たっては、①安全保障理事
会常任理事国を含まないこと、②特別の利害関係を有する国を除外するこ
と、③公平な地理的配分を配慮すること等の基準が勘案される。平和維持
軍及び軍事監視団は、国連の一機関と位置付けられ、国連の直接統括の下
に置かれる。このため、特定国家の政策から真に独立したものとして、そ
iv
「研究摘要」に示された PKO の基本原則については、必ずしも体系的に整理されてい
るとは言えない部分もあり、その整理の方法には諸説ある。例えば、香西茂教授は、①非
強制の原則(同意原則+自衛目的に限った武器使用+内政への不干渉)
、②中立性の原則、
③国際性の原則という整理をされている。ここでは、
「ブラヒミ報告」
(後述)に示された
PKO の基本原則の整理に基づき、説明するものとする。
3
の構成員には国際公務員に類する地位が与えられ、また、平和維持軍の司
令官は、直接国連によって任命される。
ロ 活動に当たっての公平・中立原則
平和維持軍は、国内紛争の当事者となってはならず、また、当面の紛争
において一定の政治的解決を強制し、又は政治的解決に決定的となる政治
的均衡に影響力を行使してはならない。
(3)自衛の目的に限った武器使用
軍事監視員は、武器の保持及び携行が、原則として、認められていない。
他方、平和維持軍については、武力行使のイニシアティブをとってはならな
いが、武力攻撃を受けた場合には、自衛目的で武力をもってこれに応える権
利を有するものとされていることから、一定の武器携行が認められているv。
ここにいう「自衛」とは、①自己、他の国連要員又はそれらの保護下にある
者若しくは地域を防護すること、②部隊の任務遂行に対する実力を伴う妨害
を排除することを意味するものとされている。
<PKO における武器使用基準(例)>
□ 武器使用は敵対行為に対応する最終手段であること。
□ 武器使用前に敵対行為を抑止するあらゆる手段を尽くすこと。
□ 武器使用に当たっては目標達成に必要な限度と期間に応じること。
□ 武器使用は敵対行為のレベルと同等であること。
□ 武器使用に当たっては致命的でない部分を狙って発射しなければならないこと。
□ 自動射撃は最終手段であること。
□ 武器使用基準違反は調査の対象となること。
4. PKO の変遷及びその改革
(1)伝統的 PKO から多機能型(複合型)PKO へ
冷戦構造下におけるいわゆる「伝統的」PKO においては、紛争当事者間
の停戦合意を前提として、平和維持軍及び軍事監視員による停戦監視、兵力
引離し等を通じて、敵対行為の再発を防止することが目的とされていた。そ
こでは、PKO は、直接的に紛争を解決するものではなく、紛争解決に至る
空間的・時間的余裕を創り出す機能を有するに過ぎなかった。
v
武器は PKO の活動目的遂行上必要不可欠な手段ではなく、自衛行為の必要上やむを得
ず所持することが認められているものであるから、その装備については、通常、軽火器等
の所持が認められるに過ぎない。
4
しかし、冷戦構造の崩壊が決定的になると、国際の平和及び安全の維持に
関する国連の役割と加盟国からの期待が高まり、多数の PKO が設立される
ようになったvi。また、国際の平和及び安全を脅かす紛争の態様が国家間の
紛争から一国内における紛争へと変容した。これに伴い PKO の任務も多様
化し、「伝統的」な PKO の任務である停戦、軍の撤退等の監視に加え、選挙
監視、文民警察、人権擁護、難民帰還支援、行政事務、復興開発等の多くの
分野での活動がその任務に加えられるようになるとともに、その実施主体と
して、文民部門の重要性が認識されるようになってきた。
(2)「平和への課題」(1992 年)と「平和への課題・追補」(1995 年)
他方で、PKO に強制行動に係る権限を認める試みがなされた。1992 年 6
月、ガリ前国連事務総長は、「平和への課題(an Agenda for Peace)」を発
表し、平和執行部隊の創設、予防展開の実施、事務総長への大幅な財政権限
の移譲等を提唱した。しかし、この報告書の提案に即した形で展開されたマ
ケドニア国連予防展開隊(UNPREDEP)は一定の成果を上げたものの、平
和執行部隊構想の具体化措置として設立されたと言われている第二次ソマ
リア国連活動(UNOSOMⅡ)はその目的を達成できずに撤退した。
<「平和への課題」概要図>
予防外交(preventive diplomacy)
平和創造(peace-making)
紛争前の国連の介入(予防展開を含む)
vii
紛争解決(平和執行部隊の創設)
平和維持(peace-keeping)
従来型 PKO の拡充(待機制度viii の創設)
平和構築(peace-building)
選挙管理等を通じた国内政治への介入
これらの実践を踏まえ、1995 年 1 月、「平和への課題・追補(Supplement)」
が発表された。そこでは、内戦が多発していることを受けて PKO の任務が
vi
2000 年 9 月 1 日現在までに、合計 54 件の PKO が設立されているが、そのうち 41 件
が冷戦終結直前の 1988 年以降に設立されものである。
vii
ここにいう「平和創造(peace-making)
」は、紛争解決に係る強制手段等に言及するも
のであり、p.2 に掲げる図表中の「平和創造」とは異なる意味で使用されていることに注
意願いたい。
viii
1994 年に創設された国連待機制度は、PKO に機動的に対応するため、加盟国が提供可
能な要員の種類及び数を国連との間であらかじめ定めておき、実際に展開が必要となった
場合にこれに基づき各国が要員を早急に派遣することを目的とするものである。
5
多様化・複雑化しているという現状認識の下に、①紛争終結の環境整備のた
めに同意原則等の諸原則を踏まえた PKO を派遣すること、②PKO の実効
を上げるための環境を整備すること、③紛争後の復興に対し国連の役割が増
大していること、④平和執行について慎重に検討すること等が指摘された。
<「平和への課題」と「平和への課題・追補」との比較>
予 防 外 交
平 和 創 造
平 和 維 持
平 和 構 築
「平和への課題」(1992 年)
・ 信頼醸成、事実調査、早期警報等予防
外交の重要性の指摘
・ 予防展開の実施
憲章 40 条の暫定措置として、より重装備
な平和執行部隊の創設
・ PKO の基本条件として、任務の明確
性、当事者の協力等の指摘
・ 待機制度の創設
・ 日常回復に係る地雷除去の重要性
・ 国内改革への支援
・ 民主主義制度強化への支援
「平和への課題・追補」(1995 年)
・ 国連の仲介を受け入れる環境の醸成
・ 予防外交を実効的に実施するための
経費及び人材の確保
平和執行活動に対する限界の認識
PKO 活動の原則尊重の必要性
PKO と強制措置との区別の認識
緊急展開部隊設置の提唱
PKO から平和構築に移行する段階に
おける PKO 撤収の時期及び方法
・ 平和構築主体等の検討
・
・
・
・
(3)「ブラヒミ報告」(2000 年)
2000 年 3 月、アナン国連事務総長の指示の下、国連の平和活動に関する
あらゆる問題を検討するための国際的な有識者パネル(国連平和活動検討パ
ネル)が設置され、同年 8 月、その報告書(Report of the Panel on Peace
Operation)ix が提出された。同報告書においては、①強制行動については
国連の能力を超えるものであること、②国際の平和と安全を維持するために
は、平和維持(peace−keeping)と平和構築(peace−building)とを有機
的に一体化させることを通じて紛争の解決を図る必要があることという認
識の下に、紛争予防、平和維持及び平和構築活動から構成される一連の平和
活動を国連がより効率的かつ実効的に展開できるようにするための提言が
なされた。
なお、この提言を受けて、同年 10 月、アナン事務総長は、同報告書を具
体化するための第一次計画を発表した。
5. 各国における PKO への取組み
(1)諸外国における取組み
イ 北欧諸国
ix
スウェーデン、デンマーク、ノルウェー及びフィンランドは、国連と密
同報告書の詳細については、参考資料―②参照。
6
接な連絡を保ちつつ、緊密な各国間協力の下に「北欧待機軍(Nordic UN
Stand-by Force)」という合同部隊を設けている。各国の待機軍は、PKO
に備える特別の組織として法律に基づき設置され、志願制による隊員から
構成されるx。各国政府は、国連事務総長からの派遣要請があった場合、諸
般の事情を考慮した上で態度を決定し、待機軍を派遣することになる。
これらの北欧諸国は、基本的に、中立的政策を掲げており、待機軍の設
置は、大国依存の地域同盟機構よりも国連の諸活動を通じて世界の緊張を
緩和していくことが自国の安全につながるという信念に基づいている。
ロ カナダ
カナダは、これまでに設置されたすべての PKO に参加しており、また、
最初に国連待機軍の制度を採用した国家である。このような PKO への積
極貢献は、自らをミドル・パワーと位置付けるカナダが国際社会において
自らの発言権を確保するための外交・安保政策の一環であると考えられる。
カナダ待機軍の特徴は、①国内法上の特別の措置を講ぜず、慣行上採用
していること、②部隊の融通性及び機動性を重視し、国防軍の正規部隊の
一部を国連用に指定し、特別の訓練を施す方式をとっていること等にある。
ハ オーストリア
オーストリアは、永世中立国としての地位を保ちながら、PKO に積極貢
献する政策を維持している。そして、この政策に基づき、コンゴ紛争、キ
プロス紛争等に要員を派遣したが、部隊編成の兵員を国外に派遣するに当
たっての法的根拠が問題となったことから、1965 年、憲法的規範性を有す
る法律(憲法的法律)が制定された。
オーストリア待機軍は、特別の組織として志願制による隊員から構成さ
れ、国連からの派遣の要請があった場合、永世中立国としての地位その他
諸般の事情を考慮した上で態度を決定する。また、近年の紛争では、民族
間、宗教間の対立、国内政治体制の民主化等が問題となっていることを背
景に、軍事力中心の組織とは別に、人権擁護、選挙監視、民主的行政機構
の創設等を職務とする民生専門家部隊の創設が構想されている。
国際機関の要請に基づく海外援助のための部隊派遣に関する憲法的法律
第 1 条 連邦政府は、議会の最高委員会と協議し、かつ、オーストリアの永世中立の地位
に反しないよう留意した上で、国際機関からの援助の要請に応えて、志願制に基づき、
次に掲げる者で構成する部隊の海外派遣を行う権限を有する。
x
志願制が採用される理由は、国防軍の使用目的について国内法上の制約があること及び
PKO という特殊な任務に備えるためには国民各層に広く志願者を求め、高度の資質を有
する者で構成しなければならないことにある。
7
(a) 連邦軍の隊員
(b) 連邦警察隊の隊員
(c) 契約により当該目的のために勤務する義務を負う者
2 連邦政府は、援助目的の必要上、数個の部隊を派遣することができる。
ニ イギリス
イギリスでは、安全保障理事会常任理事国として国際社会に対する特別
な責任を負っており、PKO に対しても相応の貢献をしなければならないと
いう認識に基づき、UNFICYP や UNPROFOR に多数の要員を派遣してい
る。また、PKO の公平・中立原則にかんがみ、PKO の中核をなす歩兵部
隊に対する兵力の提供を差し控える一方で、兵站及び補給面での協力を行
うための待機軍計画が立てられている。
ホ ニュージーランド
ニュージーランドでは、コンゴ紛争やキプロス紛争に警察官を派遣し、
成果を上げたという実績を背景に、PKO のために警察官で編成する部隊を
派遣するための待機軍計画が 1960 年代から提唱されていた。現在では、
UNTAET をはじめとする PKO に多数の要員を派遣しており、また、地雷
除去活動について高い評価を得ている。
(2)日本における取組み
イ PKO 協力法の成立の背景及び経緯
1990 年の湾岸危機を契機に、日本の人的貢献の側面における国際協力の
在り方及び国内体制の未整備が厳しく問われた。そして、
「国際連合平和協
力法案」の廃案等の紆余曲折を経て、1992 年 6 月、「国際連合平和維持活
動等に対する協力に関する法律」(PKO 協力法)が成立した。同法は、1998
年改正(①国際的な選挙監視活動への参加、②停戦合意がない場合におけ
る物資協力、③部隊単位での武器使用等を内容とする改正)及び 2001 年
改正(①本隊業務凍結の解除、②武器使用による防衛対象の拡大、③武器
等の防護に当たっての武器使用を内容とする改正)を経て、今日に至って
いる。
ロ PKO 協力法の概要
(イ)総 論
PKO 等に要員を参加させるに当たっては、①停戦合意の成立、②紛争
当事者による日本の参加に対する合意、③中立的な活動、④前述の条件
が満たされない場合の撤収、⑤隊員の生命又は身体等の防衛のための必
要最小限の武器使用という「参加 5 原則」が定められている。
8
<PKO 協力法に規定する平和協力活動の概要図>
自衛隊 本体業務
PKO 業務
参加凍結解除
・紛争停止、武装解除等の監視
・緩衝地帯での駐留等
・武器の搬入及び搬出の検査
・放棄された武器の収集、管理等
・停戦ラインの設定の援助等
・捕虜交換の支援等
その他の業務
自衛隊以外
・選挙監視
・警察業務
・行政事務に係る支援等
・医療活動
・輸送、通信、建設活動等
人道援助
・被災民の捜索、救助等の援助及び生活関連物資・施設の設置等
・自然環境の復旧等
国際的な選挙監視活動
民主的手段による統治機構の確立を目的とする選挙等の公正な執行の
確保(PKO の枠外で行われるもの)
(ロ)武器使用に係る憲法上の論点
政府見解によると、9 条 1 項の「武力の行使」とは、「我が国の物的・
人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」をいい、他
方、「武器の使用」とは、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、
又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装
置をその物の本来の用法に従って用いること」をいうとされている。
すなわち、前者は後者を含む概念であるが、後者のすべてが前者に包
含されるのではなく、自己の生命又は身体を防護するため必要最小限の
「武器の使用」は、いわば自己保存のための自然権的権利であり、同項で
禁止されている「武力の行使」に当たらないxi。
また、武器等の防護のための「武器の使用」は、自衛隊の武器等とい
う我が国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊し、又は奪取しようと
する行為からこれらを防護するための受動的かつ必要最小限のものであ
り、たとえそれが領域外で行われたとしても、同項で禁止されている「武
力の行使」に当たらない。なお、その行使の要件として、①武器の使用は、
xi
1991 年 11 月 18 日の衆議院国際平和協力特別委員会における宮下国務大臣の答弁。
9
職務上武器等の警護に当たる自衛官に限られること、②他に手段のないや
むを得ない場合であること、③警察比例の原則に基づき、事態に応じて合
理的に必要と判断される限度に限られること、④防護対象である武器等が
破壊された場合又は相手方が攻撃を中止し、若しくは逃走した場合には、
武器の使用ができないこと、⑤正当防衛又は緊急避難の要件を満たす場合
でなければ、人に危害を加えてはならないこと、以上の 5 点が挙げられて
いるxii。
ただし、上述の解釈から、PKO の「自衛」要件の一つである任務遂行
に対する実力を伴う妨害を排除する場合における武器使用は、同項で禁止
されている「武力の行使」に該当するものであり、その場合における自衛
隊による武器使用は、認められないとされている。
<武力行使と武器使用との関係図>
武力の行使
・自己保存のための自然権的権利
・武器等の防護
武器の使用
ハ 日本による PKO の実績
日本は、PKO 協力法に基づき、これまでに 6 件の PKO 活動、3 件の人
道的援助活動及び 3 件の国際的な選挙監視活動に参加している。
<日本の PKO 参加実績>
名 称
●
●
●
●
▲
●
★
●
▲
★
★
▲
第 2 次アンゴラ監視団(UNAVEMⅡ)
カンボジア暫定機構(UNTAC)
モザンビーク活動(ONUMOZ)
エル・サルバトル監視団(ONUSAL)
ルワンダ難民活動
兵力切離し監視団(UNDOF)
OSCE 選挙監視団
東チモール・ミッション(UNAMET)
東チモール避難民救援活動
OSCE 選挙監視団
東チモール国際平和協力隊
アフガン難民救援支援活動
期 間
‘92.9∼10
‘92.9∼’93.9
’93.5∼’95.1
’94.3∼4
’94.9∼12
’96.2∼現在
’98.8∼9
’99.7∼9
’99.2∼’00.2
’00.3∼4
’01.8∼9
’01.10
活動概要
選挙監視
停戦監視、選挙監視、治安維持等
物資輸送、選挙監視等
選挙監視
難民支援及び食糧、衣料等の空輸
物資輸送等
選挙管理及び選挙監視
文民警察官派遣による治安維持等
食糧、衣料等の空輸
選挙管理
選挙監視
食糧、衣料等の空輸
※ ●は PKO 活動を、▲は人道的援助活動を、★は国際的選挙監視活動を表す。
xii
1999 年 4 月 23 日の衆議院防衛指針特別委員会理事会提出。
10
参考資料−①
国連平和維持活動の主な事例
1. スエズ動乱(UNEF)―PKO が定着化した事例
【事実の概要】 アラブ―イスラエル関係は、1949 年に締結された四つの一般休戦協定によっ
て、国連機関の監視の下、比較的平穏に維持されてきた。しかし、1954 年以降、パレスチ
ナ難民問題に端を発するイスラエルとエジプトとの対立が表面化し、1956 年のエジプトに
よるスエズ運河の国有化措置i を契機に、本格的な武力衝突が発生した(第二次中東戦争)
。
<中東紛争の経緯>
年
出来事
1948 年
1948 年∼1949 年
1956 年∼1957 年
1967 年
1973 年∼1974 年
1975 年∼1985 年
1980 年∼1987 年
1990 年∼1991 年
イスラエル建国
第一次中東戦争…イスラエル vs エジプト・ヨルダン・レバノン・シリア
第二次中東戦争…イスラエル・イギリス・フランス vs エジプト
第三次中東戦争…イスラエル vs エジプト・シリア・ヨルダン
第四次中東戦争…イスラエル vs エジプト・シリア
レバノン内戦…イスラム教徒 vs キリスト教徒
イラン・イラク戦争…イラン vs イラク
湾岸戦争…イラク vs クウェート
【活動の概要】 国連は、「平和のための結集決議」の手続に従い、緊急特別総会を招集し、
紛争解決に必要な勧告を当事国に履行させる決議を採択した。その審議に当たって、当該
決議を実効的なものとするために国連の現地介在(UN presence)が必要であるとの議論が
生じ、この議論を受けて、停戦の確保及び監督を行う緊急国際国連軍(UNEF)が組織さ
れた。
UNEF は、①総会又は安全保障理事会の直接の統制の下に置かれること、②五大国以外
の国家が提供する軍隊等から構成されること、③派遣先国の同意を要すること、④エジプ
ト領内に駐留し、その地域の平穏を保つこと等をその職務とすること、⑤隊員の給与等に
ついては提供国が負担し、その他の一切の経費は国連が通常予算の枠外で賄うこととされ
た。1957 年 3 月に展開された UNEF は、監視及びパトロールを通じて休戦協定遵守の確
保に当たり、中東地域の安定及び平穏化に一定の貢献を行った。
2. コンゴ動乱(ONUC)―武器使用原則が問われた事例
【事実の概要】 1960 年 7 月、独立を達成したコンゴ共和国で暴動が発生し、宗主国であっ
たベルギーは、自国民保護及び現地の治安回復を図るため、コンゴに軍事介入した。
【活動の概要】 安全保障理事会は、コンゴ政府の要請を受け、必要な軍事援助を供与する権
限を事務総長に与える決議を採択した。安全保障理事会からの広範な授権に基づき、事務
総長は、平和維持軍(ONUC)をコンゴに派遣した。ONUC は、ベルギー軍隊の撤退を促
i
スエズ運河は、1888 年のコンスタンチノーブル条約において、戦時平時を問わず、すべての
国家の商船及び軍艦に対し無差別に解放され、その自由な利用が保障されていた。なお、エジ
プトは、翌 1957 年に、一方的宣言により、同条約の効力を承認した。
11
進するという任務のほか、内戦の勃発したコンゴの国内法秩序を維持し、及び回復すると
いう任務を担っていた。後者の任務において、内政上の問題と平和維持軍の中立・不介入
原則との関係に係る問題、国連軍による武力行使の範囲の問題等が生じ、平和維持活動を
内戦に適用することの限界が認識された。このため、ONUC は各方面からの批判に曝され、
また、平和維持活動の基本原則自体も重大な試練に立たされた。さらに、コンゴ紛争への
介入は、国連に深刻な財政危機をもたらし、加盟国による経費滞納は、憲章 19 条の制裁規
定の適用問題にまで発展した。
3. キプロス紛争(UNFICYP)―大国関与の事例
【事実の概要】 1963 年、キプロスの首都ニコシアでのギリシャ系住民とトルコ系住民との間
の武力衝突を契機として、両系住民間の対立は、キプロス全域での内戦へと発展した。こ
の事態に対し英軍を中心とした合同和平軍が介入し、その結果、両系住民間に停戦協定が
成立し、事態は一応沈静化した。しかし、その後の具体的な調停に手間取っている間に情
勢が悪化したため、英国は、国連に対し平和維持軍の派遣を要請した。
【活動の概要】 安全保障理事会は、英国からの要請を受け、平和維持軍(UNFICYP)を国
連の下部機関として国連事務総長の統括の下派遣する旨決定した。UNFICYP は、受入国
であるキプロス政府の同意を得た上で、期間を定めてキプロスに駐留し、武力衝突の再発
防止とともに、法秩序の維持・回復及び正常状態への復帰に係る活動を展開した。
その実行においては、コンゴ紛争の反省から、UNFICYP が紛争の主体とならないよう厳
格な武力行使基準が遵守され、交渉及び説得を通じて平和を回復しようとする姿勢が貫か
れた。また、平和維持軍を要請したキプロス政府自体が紛争当事者であったため、内戦に
平和維持活動を適用するに当たっての中立性の原則の維持が極めてデリケートな問題とし
て生じたが、受入国の国家主権との衝突を避け、UNFICYP が一定の制限を甘受すること
により、内戦的性格の紛争に平和維持軍を介入させても一定の成果が上げられることが証
明された。ただし、当該活動は、紛争自体を根本的解決に導くものではなかった。また、
コンゴ紛争の際表面化した経費負担に係る問題は、キプロス紛争でも解決されず、基本的
に UNFICYP への参加国が経費を負担したため、その活動基盤は極めて不安定なものであ
ったii。
4. ナミビア問題(UNTAG)―多機能型 PKO①
【事実の概要】 第一次世界大戦以降、ナミビア(旧南西アフリカ)を信託統治していた南ア
フリカは、1949 年、南西アフリカを自国領に編入する措置を講じるとともに、同地域に対
ii
国連は、加盟国から自発的拠出金を募り、後に活動経費を支出した国連軍参加国に償還する
方式を採用したが、十分な自発的拠出金は集まらなかった。
12
するアパルトヘイト政策を実施した。これに対し、国連は、度重なる非難決議を採択する
とともに、安全保障理事会において南西アフリカへの施政を即時中止するよう求める決議
を採択した。また、1950 年、国際司法裁判所は、南アフリカの行為が違法であり、同地域
に対する監督機能は国連総会に移管された旨の勧告的意見を出した。
【活動の概要】 安全保障理事会は、「ナミビア問題解決のための提案」を採択し、国連独立
支援グループ(UNTAG)を設置した。UNTAG は、民事部門及び軍事部門から構成され、
ナミビアでの自由かつ公正な選挙の実施及びナミビアの独立に至る過程の円滑な実施を確
保するために国連事務総長の命を受け派遣された特別代表を助けることをその職務とした。
そして、武装解除、治安維持等の軍事的任務を果たすとともに、自由かつ公正な選挙の実
施に向けた環境整備等に係る監督を行った。
冷戦の収束という国際環境の変化を背景としたこの平和維持活動は、平和維持活動が単独
で試みられているのではなく、政治及び軍事を含む地域紛争の包括的な解決方式の中に組
み込まれていることが特徴的である。すなわち、包括的な和平プロセスの中で、停戦、兵
力引離し等の紛争の軍事的側面の解消過程が、自由選挙やレファレンダム等の政治過程と
連動する形で実施されており、
“peace-keeping”と“peace-building”とが有機的に結び付
き、相互に補完しながら機能していたと言える。
5. カンボジア内戦(UNTAC)―多機能型 PKO②
【事実の概要】 東西冷戦構造下で生じたベトナム戦争を背景として、カンボジア国内での大
量虐殺を契機にベトナムとカンボジアとが対立し、ベトナムのカンボジア侵攻によりプノ
ンペン政府が樹立された。これに対し、クメール・ルージュを中心とする連合政権が樹立
され、プノンペン政府と激しく敵対することとなった。その後、冷戦の収束に伴い、ASEAN
及びフランスによる仲介が行われ、パリにおいて和平協定が締結された。当該和平協定に
おいて、カンボジアの暫定統治が決定され、カンボジア最高国民評議会(SNC)及び国連
暫定統治機構(UNTAC)が設置された。
【活動の概要】 上記の和平協定においては、互いに正当性を主張する連合政権及びプノンペ
ン政府という二つの政権の上に SNC という最高機関を設け、これにカンボジアの主権を担
わせた上で、SNC が和平協定の履行に必要な権限をすべて UNTAC に移譲する旨定められ
ていた。UNTAC の任務は、行政管理、軍事的任務(停戦、武装解除及び動員解除に係る履
行支援及び監視)
、選挙管理及び人権監視(人権教育、監視及び人権侵害の調査)と多岐に
わたった。特に、行政管理及び選挙管理iii は、PKO の任務としては希有なもので、暫定統
治を特徴付けるものである。
iii
選挙実施に係る監視等を主たる職務とするそれまでの PKO による選挙管理と異なり、
UNTAC は、自ら選挙を組織し、及び実施した。この措置は、選挙の中立性及び投票の秘密を
確保する措置として、実効を上げた。
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6. ソマリア問題(UNOSOM・UNOSOMⅡ)―強制的な PKO①
【事実の概要】 ソマリアでは、1991 年 1 月にバレ政権が崩壊して以降、無政府状態が続き、
氏族集団が割拠して激しい抗争が行われていた。この内戦に加え、干ばつによる大飢饉が
ソマリアを襲い、少なくとも 30 万人以上の国民が死亡し、100 万人から 200 万人の難民及
び被災民が発生したと報告されている。こうしたソマリアの悲惨な状況は、国際的にも大
きな関心を呼ぶこととなった。
【活動の概要】 この状況に対して、国連は、アフリカ統一機構(OAU)の協力を得て、紛争
当事者の調停に乗り出し、1992 年に停戦協定を締結させ、UNOSOM(国連ソマリア活動)
が設置された。UNOSOM は、PKO 活動としては初めて人道援助支援を主要任務とし、停
戦監視及び援助活動の警護を展開しようとしたが、アイディード派の反発により、警護活
動が進まない状況が続いた。このため、安全保障理事会は、事務総長からの解決策の提示
を受けて、ソマリア紛争を国際の平和及び安全に対する脅威であると認定した上で、人道
救援活動のための安全な環境を確立することを目的として必要なあらゆる手段(武力行使
を含む。
)を講ずることを承認し、加盟国に対し、兵力、資金等を提供するよう要請した。
この承認及び要請を受けて米軍を中心とする多国籍軍(UNITAF)iv が設立され、
「希望回
復」作戦が実施され、一定の成果を収めた。
その後、UNITAF の任務を引き継ぐ形で UNOSOMⅡが組織された。UNOSOMⅡは、自
衛の範囲を超えた一定の武力行使権限を認められた新たな PKO 形態であり、その任務は、
①停戦の監視、②難民及び避難民の帰還支援、③紛争再発の防止及び停戦違反者に対する
適切な措置の実施、④重火器の管理、⑤不法な武装分子の小火器の押収、⑥救援物資の配
付に必要な施設の安全確保、⑦PKO の要員及び設備の保護並びにこれらを攻撃する武装分
子の解体等であったv。しかし、UNOSOMⅡの視察団がアイディード派の武力攻撃を受け
たことを契機に、UNOSOMⅡ及びこれを後方支援するため待機していた米軍によるアイデ
ィード派に対する軍事作戦が開始された。この軍事作戦において重大な損失を被ったアメ
リカは、ソマリアからの撤退を決定し、また、UNOSOMⅡは、強制行動の停止を余儀なく
された。そして、結局、その後も目標を達することができないまま、1995 年に UNOSOM
Ⅱは完全撤退した。
iv
実際に行われた UNITAF の活動は、援助物資の供給の確保、自主的な武装解除に係る重火
器集積所の視察等に限定されていた。
v
武装解除に係る任務については、これを効果的に実行するため強制的に行うとともに、武装
解除の要請に従わない派閥の武器を押収する旨安全保障理事会において承認された。このよう
な武装解除に係る強制的な性質が UNOSOMⅡを平和執行部隊のモデルケースと称する所以で
ある。この強制的な性質を認めたことがソマリアにおける失敗の原因であるとの指摘もあるが、
救援物資の収奪が一つの軍事戦略となっていた事実にかんがみれば、PKO の援助活動自体が内
戦に巻き込まれる危険性を内包していたのであり、むしろ、人道的な援助活動を PKO の任務
にすることの問題が問われるべきであるとの指摘もある。
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7. ユーゴ内戦(UNPROFOR)―強制的な PKO②
【事実の概要】 旧ユーゴスラビアは、「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言
語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と称されるように複雑な多言語・多民族国家
であり、歴史的に、内紛が絶えなかった。そして、1990 年のユーゴスラビア連邦の崩壊を
契機として民族の独立要求が高まり、これに経済的背景も加わって、問題が一気に表面化
して内戦が勃発し、欧州最大規模の紛争へと発展した。特に、ユーゴ・セルビア共和国内
のコソボ自治州では、セルビア治安部隊によるアルバニア系住民に対する「民族浄化」と
称される虐待が激化し、国際的な関心を呼ぶこととなった。
【活動の概要】 国連は、1992 年に、停戦監視を目的とする UNPROFOR(国連保護軍)の
クロアチアへの派遣を決定した。UNPROFOR は、旧ユーゴスラビア各地で活動を展開し、
一部では、武力行使の権限も認められたが、紛争当事者の協力を得ることができなかった
ため、安全保障理事会が設定した安全地帯からの武装勢力の撤退、同地帯における戦闘の
停止等の任務を十分に果たすことができず、また、多数の死傷者を生じる結果となった。
このため、冷戦後の複雑な原因に根差す地域紛争に対する国連の平和維持活動の限界が認
識されるようになった。その後、UNPROFOR は、その権限を多国籍軍である和平実施部
隊(IFOR)に移譲するとともに、UNMIBH により代替された。UNMIBH は、ボスニア・
ヘルツェゴビナにおける警察訓練、難民及び避難民の帰還支援等民生部門における活動の
支援をその任務とし、現在も活動中である。
8. マケドニア予防展開(UNPREDEP)―予防展開部隊
【事実の概要】 旧ユーゴスラビアにおいて内戦が勃発する中で、1991 年 11 月、マケドニア
共和国は、旧ユーゴスラビアからの独立を宣言した。しかし、①旧ユーゴの他地域におい
て紛争が激化していたこと、②国内において失業率が高騰していたこと、③最大民族グル
ープであるマケドニア人と少数派であるアルバニア人との民族的対立が顕著となったこと
等の不安定要因を抱えていたことから、1992 年 2 月、キロ・グリゴロフ大統領は、同国に
おける平和及び安定を維持するため、国連事務総長に対し、同国への国連保護軍の展開を
要請した。
【活動の概要】 上記の要請を受けて、1992 年 12 月、安全保障理事会は、マケドニアに国連
平和維持軍(UNPROFOR→UNPREDEPvi )を緊急に展開する旨の決議を採択した。
UNPREDEP(国連予防展開軍)は、軍人、市民警察及び文民スタッフから構成され、部隊
の展開、調停、交渉、和解その他の平和的手段により紛争の発生を未然に防止するという
vi
旧ユーゴ各地で活動を展開していた UNPROFOR は、1995 年 3 月の安全保障理事会の決議
により、その活動範囲をボスニア・ヘルツェゴビナに限定され、これとは別個の組織として、
クロアチアには UNCRO が、マケドニアには UNPREDEP が、それぞれ、組織されることと
なった。
15
目的の下に、①マケドニアとアルバニア及びユーゴとの国境地域の監視、②脅威を与える
可能性を有する事態の発生の報告、③政治的、社会的及び民族的勢力間の相互理解の推進
及び強化、④社会的発展の援助及び促進、⑤多元的文化及び多元的民族の協力の促進等を
その任務としていた。
マケドニアは、UNPREDEP との協力の下に、内戦の勃発を免れるとともに、憲法の制定、
国連への加盟、平和的な政治運営等に努めており、予防展開の成功例と一般に評価されて
いる。しかし、マケドニア国内外の紛争要因は未解決のまま残されており、その将来は、
楽観を許すものではない。
9. 東チモール問題(UNAMET 及び UNTAET)―最近の事例
【事実の概要】 東チモールでは、1976 年のインドネシア併合以降、独立派と併合派との対立
が続いていた。1998 年のハビビ政権による拡大自治案が提示されて以降、両派間の武力紛
争が発生したが、1999 年、和平合意が成立し、拡大自治案の受入れに関する直接投票を実
施することが合意された。
【活動の概要】 安全保障理事会は、東チモールにおける民意確認プロセスを実施する国連東
チモール・ミッション(UNAMET)を設立し、その下で、直接投票が実施された。しかし、
拡大自治案否決の結果が公表されると、再び武力衝突が勃発し、治安が著しく悪化した。
これを受けて、安全保障理事会は、平和及び安全の回復等を任務とする多国籍軍の派遣を
承認する決議を採択して同地における治安の回復を図るとともに、東チモールの統治に対
し全般的責任を有し、その任務実現のために「すべての必要な措置」を講ずることを許可
された UNTAET を設立した。その後、東チモールは、UNTAET の暫定統治期間を経て、
正式に独立した。
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参考資料ー②
ブラヒミ報告に関する資料
「国連平和活動検討パネル報告(ブラヒミ報告)
」骨子
※ この骨子は、
「国連平和活動検討パネル報告」
(英文)の理解の便に供するため、衆議
院憲法調査会事務局において整理したものです。
1. 現状の認識と評価
① 安定的な停戦合意等のないまま不安定な状況に介入する複雑な平和活動
について、過去 10 年にわたり、国連は、失敗を繰り返してきた。
②
複雑な平和活動において、軍事力は平和が構築される空間を創り出す不
可欠な要素ではあるが、終局的な紛争解決のためには、平和維持と平和
構築とが密接な連携を保って展開される必要がある。
2. 勧告の概要
(1)平和強制・執行(peace-enforcement)
強制力を伴う行動は、憲章 7 章に基づく安全保障理事会の授権の下、多国
籍軍に委ねられてきた。
(2)国連の平和活動
全般的事項
イ 部隊展開の迅速化
① 伝統的な PKO については安保理の設置決議から 30 日以内に、複雑な
PKO については安保理の設置決議から 90 日以内に活動展開が可能な
体制の整備を図るべきである。
② 設置決議後 7 日以内に派遣可能なスタートアップ・チーム、平和活動
幹部、将校、文民警察、各専門家等を含む形で国連待機制度を発展さ
せるべきである。
③ 加盟国は、文民警察、各専門家等に係るプール制度を国内に創設する
とともに、共同訓練・計画に係る地域間協力を促進すべきである。
ロ 平和活動に対する支援能力の強化
① 情報収集・分析能力の強化を図るため、
「平和及び安全委員会情報・戦
略分析局」を設置すべきである。
② 国連後方支援基地の強化等を通じて、平和活動の装備等に関する政策
及び手続に係る体制の整備を行うべきである。
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③ 平和維持に必要な要員、装備等に係る経費については、国連通常分担
金から拠出すべきである。
④ PKO の設置が明らかに予測される場合には、安保理の設置決議前に、
5,000 万ドルを上限とする財政権限を事務総長に認めるべきである。
個別的事項
イ 紛争予防(preventive action)
緊張地域に対する事実調査団の派遣に係る体制を整備するとともに、こ
れを積極的に活用すべきである。
ロ 平和構築(peace-building)
① 文民警察の活用方針を変更するとともに、法の支配、人権擁護等の分
野における専門家の積極活用を図るべきである。
② 武装解除、元兵士の動員解除・社会復帰等に関する経費については、
国連通常分担金から拠出すべきである。
③ 地域住民の生命等の保護を目的とする迅速かつ実効的な活動展開(ク
イック・インパクト・プロジェクト)については、財政支援の問題を
含め、これに柔軟な対応をすべきである。
④ 選挙支援と統治支援のための戦略との統合を図るべきである。
ハ 平和維持(peace-keeping)
① 当事者間の合意、公平性及び自衛の場合に限った武力の行使という平
和維持活動の基本原則を確認する。
・ 憲章の掲げる目的及び PKO 任務に対する忠誠という意味での公平
性原則の概念を明確にすべきである。
・ 強力な交戦規定の策定、武器使用権限の明記、要員、装備等の充実
等を通じて、自衛能力の向上を図るべきである。
② 安保理は、明確かつ達成可能な任務指令を出すべきであり、また、十
分な要員、装備等が確保されていない段階での拙速な設置決議を差し
控えるべきである。
・ 事務局は、任務遂行上の障害を考慮した現実的なシナリオに従い、
軍事力その他の装備のレベルを設定するとともに、安保理に対し、
これを正確に報告すべきである。
・ 要員等を提供する加盟国には、十分な情報提供及び安保理との協議
を求める権限が認められるべきである。
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国連平和活動検討パネル報告要旨
※ この要旨は、“ Report of the Panel on United Nations Peace Operations ”の中の
“Executive Summary”を衆議院憲法調査会事務局において和訳したものです。和訳に当た
っては、正確かつ日本語として平易な訳出をするよう細心の注意を払ったところですが、そ
れでもなお、誤訳等の可能性があることについて、あらかじめ、ご了承下さい。
国連は、
「戦争の惨害から将来の世代を救」うことを目的として創設された。この目的を
実現することは、国連の最も重要な責務であり、また、人々が国連を評価する際の基準と
なっている。しかし、過去 10 年にわたって、国連は、この目的の実現に当たって失敗を繰
り返し、今日に至っても状況の改善は見られない。加盟国における関与の在り方の刷新、
抜本的な制度改革及び財政支援の増加がない限り、今後、国連は、平和維持活動及び平和
構築活動を実行する能力を持ち得ないであろう。国連平和維持軍が要請されるべきでない
任務や派遣されるべきでない地域は数多くあるが、平和維持のために国連軍を派遣する場
合、国連は、戦争や暴力の力に打ち勝つべき能力と決断をもって、これらに真正面から向
き合う準備をしていなければならない。
事務総長(コフィ・アナン)は、紛争予防、平和維持及び平和構築に関する様々な分野
において経験を有する者から構成される「国連平和活動検討パネル(Panel on United
Nations Peace Operations)
」に対し、現行システムの欠陥について評価をするとともに、
その改善に係る率直、明確及び現実的な勧告をするよう要請した。我々の「勧告」は、政
策や戦略だけでなく、活動展開上及び組織上の問題に焦点を当てるものであり、また、む
しろ、後者に力点を置くものであると言える。
緊張緩和及び紛争回避に係る予防策を講ずるに当たって、事務総長は、加盟国からの支
援を必要としている。国連が過去 10 年間苦い経験を繰り返してきたことから分かるように、
特に、複雑な平和維持活動が展開されている場合において、実効的な軍事力を派遣する以
外に選択肢は存在しない。しかし、軍事力だけが平和を創り出すのではない。軍事力は、
平和が構築される空間を創り出すに過ぎない。この「勧告」に示された改革案は、加盟国
が政治的意思を結集させ、国連が真に平和のための軍事力を行使できるよう政治面、財政
面及び運営面において支援するのでなければ、恒久的なインパクトを持つものではなくな
るであろう。
この報告書において提起された改革案は、戦略の方向性、意思決定の在り方、迅速な派
遣、活動計画の策定及びその支援並びに情報技術の活用の分野における重大な問題を改善
することを企図するものである。評価及び勧告の概要について、以下に記す。
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過去の経験
過去 10 年間に実施された活動のいくつかにおいて、その目的の達成が非常に困難であっ
たということは、驚くべきことではない。これらの活動は、紛争が終局していない地域や、
当事者の武力展開の停滞、国際的な圧力等により戦闘の停止がもたらされたものの紛争当
事者の一部が当該戦闘の停止に関与していないような地域に派遣される傾向があった。つ
まり、これらの国連の活動は、紛争後の状況に介入するものではなく、紛争後の状況を創
り出そうとするものであった。そのような複雑な活動において、平和維持活動への従事者
は、安定的な地域環境の維持のために作業し、他方で、平和構築活動への従事者は、当該
地域に住まう者が独力においてそのような環境を維持できるよう作業している。そして、
そのような環境が現実のものとなった場合において、平和維持に係る軍事力は不要とされ、
平和維持活動への従事者と平和構築活動への従事者とが不即不離のパートナーになり得る。
予防行動及び平和構築の意味
−戦略と支援の必要性−
国連及び加盟国は、長期的及び短期的な展望において、紛争予防に係るより効果的な戦
略を構築する必要性に迫られている。当パネルは、「ミレニアム・レポート(Millennium
Report)」及び紛争予防を議題として 2000 年 6 月に開催された安全保障理事会の第 2 回公
開会議における発言に示された紛争予防に関する事務総長の提言を支持するものである。
また、当パネルは、事務総長が推進する短期的な危機予防行動を支援するための緊張地域
への事実調査団の派遣を支持するものである。
さらに、安全保障理事会(Security Council)及び総会の平和維持活動特別委員会(General
Assembly’s Special Committee on Peacekeeping Operations)は、戦争から平和への転換
を図ろうとしている地域や国家を国連が支援していかなければならないことを自覚すると
ともに、複雑な平和活動における平和構築の重要な役割を認識している。これは、国連シ
ステムに対し、平和構築の戦略及び行動に係る従来の手法において不十分であった分野に
対処することを求めるものである。したがって、当パネルは、平和及び安全委員会
(Executive Committee on Peace and Security)が、事務総長に対し、平和構築戦略を発
展させ、それらの戦略の支援の下に計画を実施するための国連機能の強化に係るプランを
提示することを提言する。
当パネルが支持する改革案は、以下のとおりである。
(1)平和活動における文民警察その他の法秩序担当部門の活用方針の変更―これは、法の
支配及び人権の尊重を支援し、かつ、和平合意に向けた紛争からの解放を援助するに当
たって、部隊単位での対処を強調する。
(2)武装解除、元兵士の動員解除・社会復帰等に関する経費について、複雑な平和活動に
係る当初予算への組入れ
(3)地域住民の生命等の保護のために不可欠な「即効性のある事業(quick impact
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projects)
」への資金提供に係る柔軟な対応
(4)選挙支援と統治機構支援のための広範囲にわたる戦略との統合
平和維持の意味するもの
−確固とした方針と現実的な指揮命令−
当パネルは、①当事者間の合意、②公平性、③自衛の場合に限った武力の行使が平和維
持活動の基本原則であることに同意する。しかし、経験に照らしてみれば、内戦及び国境
を越えた紛争という文脈において、合意は、様々に操作を受けるものであることが分かる。
また、国連活動の公平性は、憲章の掲げる原則にのっとったものでなければならないが、
紛争当事者により和平協定の条件が明確に破棄された場合において国連が平等取扱いの原
則を維持するときは、問題解決の実効を上げることはできず、国連が一方当事者に加担す
る結果となる最悪の事態を生じさせるおそれもある。犠牲者と侵略者との区別に消極的で
あったことは、1990 年代の国連平和維持活動の地位及び信頼性を損ねたという意味におい
て、最大の失敗であった。
過去において、国連は、これらの課題について実効的な対応ができなかった。しかし、
国連はこれらの課題に対応できる能力を備えなければならないということが、この報告書
の基本的前提となっている。国連平和維持活動の従事者は、派遣先において、専門的かつ
成功裡にその任務を遂行できなければならない。このことは、国連の軍事部隊が自らとと
もに他の部隊及び任務遂行を防御できる能力を備えていなければならないことを意味する。
交戦規則(rule of engagement = ROE)は、十分に強固なもの(sufficiently robust)とす
べきであり、また、国連に受け身を強いるものであるべきではない。
このことは、紛争当事者が想定外の行動を起こしている状況に対し、最良の事態を想定
した計画を適用してはならないことを意味する。このため、その任務においては、武力行
使に係る要件が明確にされ、また、より大規模かつ重装備の軍事部隊を派遣することによ
り、実効的な抑止力を持たせるべきである。特に、複雑な活動展開を必要とする国連軍は、
武装勢力に対して実効的な防御をするために必要な現地情報収集能力と装備を許容される
べきである。
さらに、地域住民に対する暴力行為を目撃した国連平和維持活動の従事者(軍隊又は警
察)は、その有する手段をもって当該暴力行為を阻止する権限を認められるべきである。
そして、地域住民の防護に係る広範かつ明示的な任務を与えられた活動には、当該任務を
遂行するために必要な特別の装備が与えられなければならない。
新たな平和活動を展開するに当たって、事務局が安全保障理事会に対し軍事力その他の
装備のレベルを提示する場合、その主張すべきは、安全保障理事会が聞きたいことではな
く、知る必要があることである。また、事務局は、想定し得る任務遂行上の障害を考慮し
た現実的なシナリオに従い、軍事力その他の装備のレベルを設定しなければならない。他
方、安全保障理事会の任務指令は、平和維持活動が危険な状況において展開される場合に、
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当該平和維持活動の統一的な行動を可能とする明確さを反映したものでなければならない。
近年の慣行では、軍事レベルを明示した安全保障理事会決議を事務総長が書面で受理す
ることになっているが、その時点では、軍隊や派遣団が実効的に機能するために必要な人
員を与えられるか否か、また、それらが適正な装備を備えたものであるか否かについては
知らされない。当パネルは、現実に派遣要請がなされ、これが承認された場合、安全保障
理事会は、事務総長がその要請に見合う十分な軍隊及び装備の提供を加盟国から受けるま
で、決議を草案の段階で留めておくべきであるとの見解を有している。
軍事的活動を展開する部隊に人員等を提供する加盟国は、活動実施期間中、安全保障理
事会との協議を求める権限が与えられるべきである。そこでの協議事項は、憲章 29 条に規
定するように、安全保障理事会の補助機関の設立を通じて制度化されるであろう。軍隊の
提供国には、活動人員の安全に影響を与える危機的な状況が発生した場合や武力の行使に
係る命令が変更され又は再解釈される場合に、安全保障理事会で開催される説明会議への
出席が認められるべきである。
情報活用・戦略分析に係る司令部の能力
当パネルは、事務総長及び平和及び安全委員会委員の情報収集及び分析上の支援をする
ための新たな機関の創設を提言する。そのような能力がなければ、両機関は、受動的な機
関にとどまり、時流に追いつくことはできず、また、その職務を果たすことができなくな
る。
当パネルが提案する「平和及び安全委員会情報・戦略分析局(Information and Strategic
Analysis Secretariat)
」は、①平和及び安全に関する諸問題について統合データベースを作
成・管理すること、②その情報を国連システム内部において効率的に配分すること、③政
策分析を可能にすること、④長期展望に立った戦略を構築すること、⑤危機の萌芽に平和
及び安全委員会の関心を向けさせることをその職務とする。同局は、事務総長主導の改革
で想定されているように、平和及び安全委員会を意思決定機関として機能させつつ、同委
員会の決定事項に係る提言及び運営を行う。
当パネルは、平和及び安全委員会情報・戦略分析局が、国連システム内に分散している
政策企画部門を統合し、既存の PKO 局(Department of Peacekeeping Operations)と合
併する形で創設されるべきであり、その際、軍事の分析家、国際犯罪の専門家及び情報シ
ステムの専門家をそのメンバーにすべきであると提案する。
任務指令及びリーダーシップの改善
当パネルは、国連司令部(United Nations Headquarters)が新たな任務における活動内
容、支援計画、予算、要員及び任務指令の策定に参加するため、その主導権を速やかに同
司令部に集中させることが必要であると考える。このため、当パネルは、安全保障理事会
が、組織的にかつ加盟国からの登録に基づき、地理的配分及び性差を考慮した上で、事務
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総長特別代表その他の平和活動の幹部、軍司令官、文民警察長官等の待機リストを作成す
ることを提案する。
迅速な派遣及び「即応」専門家
停戦又は和平合意後の 6 週から 12 週の間は、安定的な平和及び国連の平和活動の信用性
を確立するに当たって最も重要な期間である。その期間に失ってしまった好機を再度得る
ことは難しい。
当パネルは、国連が、
「迅速かつ実効的な派遣能力」について、伝統的な PKO では安全
保障理事会の設置決議から 30 日以内に、複雑な PKO では 90 日以内に派遣することと定義
付けるよう提言する。
当パネルは、強固な平和維持軍の創設に係るニーズを満たすため、加盟国との共働の下
に創設される統合軍及び必要な能力を有する軍隊を含む形で国連待機制度(U.N. Stand-by
Arrangement System)を発展させるよう提言する。また、当パネルは、事務総長が、PKO
の派遣に先んじて、提供される軍事要員が PKO に必要とされる訓練及び装備を備えたもの
であるかどうかを確認するための調査団を派遣することを提言する。その要求を満たさな
い部隊は、派遣されてはならない。
このような迅速かつ実効的な派遣を支援するため、当パネルは、PKO 局により審査され、
かつ、承認された約 100 名程度の経験豊かで十分な適格を有する軍人将校の「即応リスト」
を国連待機制度内に構築することを提言する。このリストの中で 7 日のうちに就任可能な
者から構成されるチームは、司令部において作成された広範にわたる戦略レベルの任務を
本隊の派遣に先立って具体的な活動実施計画に移行させ、スタートアップ・チームとして
当該任務における中核要素を担う機能を増大させることになるであろう。
文民警察、国際裁判専門家、刑事専門家及び人権専門家の即応リストについても、法の
支配を実効あらしめるために十分な人数を揃えた上で、国連待機制度内に構築すべきであ
る。このリストから抽出され、事前の訓練を受けたチームであれば、文民警察の主力や関
係専門家がその任務に就く前に、法秩序分野担当部門の迅速かつ実効的な任務への派遣が
可能となるであろう。
当パネルは、国内紛争に介入する平和活動への文民警察官及び関係犯罪・法令専門家の
派遣に係る強い要請に応えるため、警察官及び関係専門家について、国連平和活動への派
遣に備えた者が登録される「プール」制度を国内に創設することを加盟国に対し要請する。
また、当パネルは、国連の要請する文民警察の質に係る水準を達成するための各国要員の
訓練を目的とした共同地域パートナーシップ及び共同計画の創設を考慮することを加盟国
に対し促す。
事務局は、①透明かつ特定国への集中を廃した文民要員のリクルート・システムの確立、
②複雑な平和活動において必要とされる文民専門家の保持、③文民要員を迅速に派遣する
ための待機制度の創設等の必要性について、緊急に検討すべきである。
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最後に、当パネルは、事務局が、迅速な派遣を可能にするため、平和活動における装備
の調達に係る体制及び手続を抜本的に変革させるよう提言する。当パネルは、平和活動に
係る予算及び装備に関する所掌を運営局(Department of Management)から PKO 局に移
管することを提言する。当パネルは、①新たなかつ合理的な現地調達政策及び手続の策定、
②調達専門家の現地派遣の増大、③現地活動に係る予算運営の柔軟化を提案する。当パネ
ルは、事務総長が、装備の備蓄に係る規律及び日常品に係る企業との契約に関する広範囲
にわたる後方支援計画を作成し、その承認のため、安全保障理事会にこれを提出すること
を促す。当パネルは、必要不可欠な「初動装備(start-up kits)
」がイタリアのブリンディ
ジ(Brindisi)にある国連後方支援基地に保持されるべきであると提言する。
当パネルは、PKO の設置が明らかに予測される場合には、安全保障理事会の設置決議前
に、行財政問題諮問委員会(Advisory Committee on Administrative and Budgetary
Questions)の承認を条件として、事務総長に対し、5,000 万ドルを上限とする財政権限を
与えることを提言する。
活動計画・支援に係る司令部能力の向上
当パネルは、平和維持に対する司令部の支援が国連の中核的な活動として扱われるべき
であり、したがって、必要な要員、装備等の大半が国連の通常経費により賄われるよう提
言する。PKO 局及び平和維持について計画を立て、及びこれを支援するその他の事務局は、
現在、主として単年度かつ一時的な支援予算(Support Account)により維持・運営されて
いる。そのような財政及び人員に係る手法は、特殊な任務における一時的な性質と、明ら
かに国内問題ではなく、国連の中核活動である平和維持活動や他の平和活動の一般的な性
質とを混同させるように思える。
PKO 局及び平和維持に関する事務局を支援する関係司令部の総予算は、
1 年につき 5,000
万ドル又は平和維持費用のおおよそ 2%を超えることはない。これらの事務局に対し、2 億
ドルを超える 2001 年における平和維持に係る経費の消化状況を確認するための別の財源が
早急に必要とされる。したがって、当パネルは、事務総長が総会に対し最大限どれだけの
ものを必要としているかの概要を提案することを提言する。
当パネルは、PKO 局の運営手法に係る改革を行う必要があるとともに、特定分野におけ
る要員不足が明らかであると考えている。例えば、27,000 名の軍人に対し軍事計画及び概
要を提示する 32 名の職員、8,600 名の警察官に対し概要を提示する 9 名の文民警察官、現
在進行中の 14 件の活動と 2 件の新たな活動に対応する 15 名の事務スタッフ、また、平和
維持費用のうち 1.25%分の司令部に対する資金配分、そのいずれもが不十分なことは明ら
かである。
計画・支援のための統一部隊の創設
当パネルは、新たな任務を計画し、十分な活動展開を可能とするため、全国連システム
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から動員された要員からなる統合部局の創設を提言する。これは、司令部が現地に提供す
る支援を強化することにつながる。現在、政策分析、軍事活動、文民警察、選挙支援、人
権、開発、人道援助、難民及び避難民、情報、後方支援、財政並びに要員確保に係る責任
を担うとともに、統合的な計画を立て、又は支援を行う部署が事務局に存在しない。
PKO 局、特に、それぞれ二つの別組織として再構成されるべき「軍及び文民警察部
( Military and Civilian Police Division )」 や 「 現 地 行 政 及 び 後 方 支 援 部 ( Field
Administration and Logistics Division)
」における構造的な調整が必要とされる。経験則
分析班(Lessons Learned Unit)を強化して、PKO 局に編入すべきである。政策局
(Department of Political Affairs)
、特に選挙課で行われているように、司令部における広
報計画及び支援の強化も必要とされている。事務局のほか、平和活動の構成要素である人
権に関する計画を立て、及び支援を行う国連人権委員会事務局(Office of the United
Nations High Commissioner for Human Rights)の能力は、補強されるべきである。
3 人目の PKO 副局長を配置し、そのうちの一人を「事務総長補(Principal Assistant
Secretary-General)
」に任命して事務総長を補佐させることが、考慮されるべきである。
平和活動の情報時代への適用
現代の情報技術は、上記の目的を可能とする鍵であるが、戦略、政策及び実践における
ギャップが、その効果的な利用を妨げている。特に、司令部は、平和活動における情報技
術に係る戦略及び政策を所掌する担当部署を有していない。平和及び安全の分野における
情報技術に係る戦略及び政策に関する責務を有し、かつ、各国連平和活動における事務総
長代行の事務所にカウンターパートナーを持つ担当者が任命され、情報・戦略分析局に配
置されるべきである。
司令部及び現地部隊は、各活動が情報・戦略分析局のデータベース、情報分析、過去の
経験等にアクセス可能な実体的かつ地球規模の平和活動ネットを必要としている。
実施への試み
当パネルは、上記の勧告が加盟国に対し合理的に要求し得る限界の範囲内に収まってい
るものと考える。これらの勧告を実施することは、さらなる財源を必要とするものである
が、我々は、国連の抱える問題を解決する最善の手法が単にさらなる財源を与えるだけで
よいと示唆するつもりはない。実際、どれだけの資財をもってしても、この組織の現状に
おいて早急に必要とされている重要な改革の必要性に代替することはできない。
当パネルは、事務局に対し、市民社会の制度を構築しようとする事務総長のイニシアテ
ィブに注意を払うこと及び国連が唯一の世界機構であることに常に留意することを要請す
る。世界中の人々は、国連が自らのための機関であると考え、また、国連の活動及びそこ
に従事している者について是非の判断を下す十分な資格を有している。
さらに、有能な者が有能でない者の埋め合わせをするため不合理な仕事を与えられるよ
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うな職員の質に係る不均衡とシステムにおける不均衡は、最初に認識すべき問題である。
国連は、実力主義に向けた改革を行わない限り、有能な者、特に若者が、国連から離れて
いく傾向に歯止めをかけることはできず、また、有能な者は、国連で働こうとするインセ
ンティブを持たないだろう。事務総長をはじめとする管理職が優先課題として真剣にこの
問題に取り組み、有能な者に報い、非競争主義を廃さない限り、資財は浪費され、改革は
不可能となるだろう。
加盟国は、その任務に取り組む行動様式や手法について熟考する必要性を認識している。
例えば、1999 年の東チモール紛争時にジャカルタ及びデリーに派遣した安全保障理事会使
節団がそうであったように、自ら決定した事項を実行に移すことは、安全保障理事会理事
国の責任である。
我々、国連平和活動に関する検討パネルのメンバーは、ミレニアム・サミットに出席す
る各国の首脳に対し、国連の示す方向性に対する関与の在り方を再考する際には、紛争が
生じた地域の手助けをし、平和を維持・保全するという国連の存在意義に関わる任務を十
分に達成できるよう国連の能力を強化する形で関与することを要請する。
この報告書の勧告についてコンセンサスを形成する過程で、我々は、紛争を防止し暴力
を終わらせるために地域社会、国家等に対し強力な手助けをするという国連の機能に関す
る共通の見解を持つに至った。我々は、情報・戦略分析局の下に、平和の構築及び維持、
和解、民主主義の強化、人権保障といったその地域の人々が以前にはできなかったことを
自分自身で行う機会が与えられつつ、任務が完遂されることを期待している。つまり、我々
は、大きな約束を果たし、人類の圧倒的多数から国連に付与された自信と信頼を正当化す
る意思と能力を有する国連を期待している。
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