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計量器校正情報システムの研究開発 - 新エネルギー・産業技術総合開発

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計量器校正情報システムの研究開発 - 新エネルギー・産業技術総合開発
「計量器校正情報システムの研究開発」
中間評価報告書
平成15年8月
新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術評価委員会
目
次
はじめに
分科会委員名簿
審議経過
評価概要
技術評価委員会におけるコメント
技術評価委員会委員名簿
第1章 評価
1.プロジェクト全体に関する評価結果
1.1 総論
1.2 各論
2.個別テーマに関する評価結果
2.1 時間標準
2.2 長さ標準
2.3 放射能標準
2.4 三次元標準
2.5 流量標準
2.6 温度標準
2.7 力学(圧力)標準
2.8 電気標準
3.評点結果
第2章 評価対象プロジェクト
1.事業原簿
2.分科会における説明資料
参考資料1
評価の実施方法
1
2
3
4
9
10
1-1
2-1
2-2
参考資料 1-1
はじめに
新エネルギー・産業技術総合開発機構においては、被評価プロジェクト毎に
当該技術の外部の専門家、有識者等によって構成される技術評価分科会を技術
評価委員会によって設置し、同分科会にて被評価対象プロジェクトの技術評価
を行い、評価報告書案を策定の上、技術評価委員会において確定している。
本書は、
「計量器校正情報システムの研究開発」の中間評価報告書であり、第
7回技術評価委員会(平成 15 年 2 月 10 日)において設置された「計量器校正
情報システムの研究開発」
(中間評価)技術評価分科会において評価報告書案を
策定し、第9回技術評価委員会(平成 15 年8月 20 日)に諮り、確定されたも
のである。
新エネルギー・産業技術総合開発機構
1
平成15年8月
技術評価委員会
「計量器校正情報システムの研究開発」
中間評価分科会委員名簿
(平成15年6月現在)
分科会
山﨑
会長
弘郎
東京大学
伊藤
弘昌
東北大学
電気通信研究所
教授
香川
利春
東京工業大学
精密工学研究所
教授
黒沢
格
日本女子大学
理学研究科 数理・物性構造科学専攻
後藤
昌彦
玉川大学
工学部 電子工学科
清水
富士夫
東京大学
土佐
正弘
物質・材料研究機構
材料研究所 主席研究員
中沢
正治
東京大学
工学系研究科
システム量子工学専攻
保立
和夫
東京大学
工学系研究科
電子工学専攻
本多
敏
慶応義塾大学
理工学部 物理情報工学科
委員
名誉教授
教授
教授
名誉教授
教授
教授
教授
敬称略、五十音順
2
審議経過
第1回評価分科会(平成 15 年 4 月 23 日)10:30∼16:50
公開セッション
1.開会(分科会会長、挨拶、資料の確認)
2.分科会の公開について
3.評価の手順、評価の分担等について
4.プロジェクトの全体概要
非公開セッション
5.各標準技術の詳細
6.全体に関する質疑
7.今後の予定
第2回評価分科会(平成 15 年 6 月 26 日)14:00∼16:00
公開セッション
1.開会、資料の確認
2.評価確定の進め方などについて
3.評価書報告書(案)の審議及び確定
第9回技術評価委員会(平成 15 年 8 月 20 日)
1.評価報告書の報告
3
評価概要
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1 総論
(1)総合評価
先進的な計量標準システムを構築する本プロジェクトは、科学技術と産業の発展に
重要であること、政策および産業界のニーズと合致していることから、国が積極的に
押し進めるべき事業である。実用化した場合、生産現場における低コスト化や工場の
海外進出など、産業界を取り巻く社会状況の変化と、国際化した生産体制への適応が
期待されるため、社会的な意義も高い。
中間段階の目標に関しては、各標準技術の研究開発から貴重な知見が得られている
こと、一部の技術は実用化の目処が付いていることなどから、概ね達成していると判
断する。しかしながら、各標準技術の進捗状況には、バラツキが見られる。
着手後の2年間は、各標準技術の研究開発に重点が置かれていたが、今後は、最終
目標である e-trace(注記)の構築へ向けて、人力と資力を主要課題へ重点的に配分
することが望ましい。また、一部の標準技術は、e-trace との結びつきが明確ではな
いため、改善する必要がある。
以上のことから、本プロジェクトは、目標である e-trace を念頭に各計測標準技術
を精査し、その上で残された期間の研究開発を継続すべきである。最終的には、実用
性があり質の高いサービスを提供できる、セキュリティの高いシステムが構築される
ことを期待する。
(注記)e-trace の概念
インターネット、光ファイバ、GPS などの IT 技術を使って効率的に標準を供給す
る。現地に技術者が赴くことなく、遠隔操作で機器の校正を行う。
(2)今後への提言
これまでは、主として遠隔校正に向けた個別の標準技術の研究開発が推進されてき
たが、e-trace として、実際にネットワークで円滑に遠隔校正ができるかどうか、早
急に検証することが重要である。個別の標準技術についても、計測原理の確立と共に、
遠隔計測のシステム構成がどのようになるのか、その結果どのような利点があるのか、
詳細に検討して整理するべきである。
実用化を目指すためには、セキュリティ等も含めたトータルな検討が必要になり、
システムの構築には研究者だけではなく、外部の専門家を入れた方が良い。また、ユ
ーザーあっての校正業務であり、ユーザーの立場に立った実施形態を念頭に、研究を
進めるべきである。
1.2 各論
(1)事業の目的・位置付け
計測標準は産業と科学技術の基礎であり、その特性の向上と利用法の簡素化は、今
後これらの分野の発展にとって重要であること、計測標準供給の時間的、空間的およ
4
び階層的な制約を、IT 技術を利用して打破する目的は、産業界のニーズと合致する
ことなどから、本事業の目的は妥当であり、国が積極的に押し進めるべき事業である。
(2)研究開発マネイジメント
標準技術の各テーマが、プロジェクトリーダにより統合管理されていること、大学
や民間企業との共同研究を進めていること、プロジェクト全体の推移と進展から前倒
しで終了させるテーマと継続するテーマを選別していることなどから、本事業のマネ
イジメントは概ね妥当である。
研究開発着手から中間段階までは、各計測標準技術の確立に重点を置いたことは理
解できるものの、研究開発体制の中にシステム技術者が含まれておらず、e-trace 全
体の最終的な実用形態が明確になっていない。その解決のために、外部のシステム専
門家の助言を得ることや、あるいは一部委託をするなどの方策により、最終的な実用
形態を明確にすべきである。
2.個別テーマに関する評価
2.1 時間標準
(1)研究開発成果
現在まで、順調に進捗しており、中間段階での成果は、概ね上がっている。最終目
標を達成するためには、解決すべき課題がいくつか残っている。
(2)実用化、事業化の見通し
実用化の可能性は高いので、最終的な成果として、使いやすく、高い信頼性のシス
テムが確立されることを期待する。
(3)今後への提言
研究開発を継続する中で、対象となるユーザーを明確にすること、提供するサービ
スのレベルを決定することなど、種々の課題を解決していくことが必要である。
2.2 長さ標準
(1)研究開発成果
①波長
モード同期ファイバレーザの安定化、光コムの広帯域化、狭線幅化、等の要素技術
の進捗は順調であるが、特許の申請が少ない。
②光ファイバ応用
意欲的な試みであり、基礎実験の成功および特許の申請など、多くの成果をあげて
いる。
③He−Ne レーザ
要素技術の進展などに成果を上げているが、特許の申請と論文などの外部発信が少
ない。
(2)実用化、事業化の見通し
5
①波長
装置としての実用化は十分に期待できる。
②光ファイバ応用
大事業所内での長さ標準の供給等、専用の光ファイバを用いての実用化は可能であ
る。
③He−Ne レーザ
ディジタル信号処理が課題である。
(3)今後への提言
①波長
光ファイバでの標準信号伝送の実現については、基礎検討の蓄積が必要である。
②光ファイバ応用
計測における精度の保証が得られれば、実用化へ前進すると考えられる。産業界の
受けるメリットが大きいので、是非早期に実用化されることを期待する。
③He−Ne レーザ
前倒しで終了した判断は妥当である。
2.3 放射能標準
(1)研究開発成果
中間目標は概ね達成されている。要素技術の開発は、遠隔校正だけではなく、放射
能絶対測定器群の拡充にも寄与すると考えられる。
(2)実用化、事業化の見通し
要素技術の開発成果は一次-二次標準器間の校正に使用される予定があり、これが
定着すれば、普及性があり公共性も高い。
実用化により、迅速、安全、および安価な料金で校正業務が行えるようになり、遠
隔測定などの波及効果が期待できる。
(3)今後への提言
線源検出器間の距離について、誤差を生じない安定な配置になるように工夫するな
ど、信頼性の確保に努めるべきである。
研究開発を加速すること、より広い範囲の RI 活用を検討することが必要である。
2.4 三次元標準
(1)研究開発成果
現在まで、順調に進捗しており、同一機種間の遠隔操作については、同一事業所内・
外での実現技術を開発するなど、実用化可能な成果が上がっている。
特許の申請、及び論文の発表などは少ない。
(2)実用化、事業化の見通し
実用化は可能である。三次元測定機の不確かさの評価を、熟練技術者が現場に赴く
6
ことなく計測できる手法の提案であり、実現時の有用性も期待できる。
(3)今後への提言
研究の要素が少ないなどのため、前半で研究開発を終了した判断は妥当である。
新しい認定法の提供であることから、関連法整備等の実現に向けた働きかけが必要
になる。また、ボールプレートの設置等の煩雑さも改良すべきである。
2.5 流量標準
(1)研究開発成果
標準供給の基礎となる石油大流量校正設備の遠隔運転実証試験に成功したが、中間
段階までの成果と本事業の目的である e-trace、すなわち遠隔操作による校正との結
びつきが、明確になっていない。
(2)実用化、事業化の見通し
本標準技術の利点と、e-trace として何ができるのかが明確になっていないため、
実用化の見通しは具体的になっていない。
(3)今後への提言
つくば北センターとの間の問題だけでなく、本プロジェクトの利点が何か見出すべ
きである。
2.6 温度標準
(1)研究開発成果
標準熱電対について、最適な熱処理の方法を開発し、今までにない安定で堅牢な仲
介標準器の技術を開発したことにより、大きな成果を上げている。一方では、白金抵
抗温度計について、達成された不確かさが、目標に対して明確な形で示されていない。
(2)実用化、事業化の見通し
熱電対において、特定二次標準器や性能試験用温度計として、実用化されているこ
とは評価できるが、事業全体の e-trace に向けての取り組みに、やや不明確な点があ
る。
(3)今後への提言
産業界のニーズに配慮して、前倒しで開発を終了したことは評価できる。
仲介標準器の改善について、改善を左右した現象の因果関係をより明確にした方が
よい。
2.7 力学(圧力)標準
(1)研究開発成果
高精度・高安定性の圧力標準遠隔校正システムの実験モデルが試作され、研究所内
レベルでのネットワークにより実証されていることなどから、中間段階の目標は達成
7
している。
(2)実用化、事業化の見通し
高精度ディジタル圧力計により、仲介用標準器としての機能は実現され、遠隔校正
部本体は移動モデルとしてもコンパクトに作製されており、実用化の可能性は大きい。
(3)今後への提言
実用化のためには、ユーザーとなる工場現場への移送に対する堅牢性や、現場での
ネットワーク遠隔校正について実証する方が良い。また、遠隔校正部の現場への設置
や操作などの技能教育が、現場担当者に必要である。
2.8 電気標準
(1)研究開発成果
①直流電圧
装置の小型化や堅牢化などにより、中間目標を概ね達成している。
②交流電圧
FRDC 回路や仲介標準としてのサーマルコンバータを移送して実施した、海外での
予備実験により遠隔校正の確認はできたものの、その成果の説明が十分ではなかった。
(2)実用化、事業化の見通し
①直流標準
遠隔校正の見通しがついており、研究期間内の実用化を期待する。
②交流電圧
実用化に最も近い標準である。
(3)今後への提言
①直流電圧
実用化のための試験を早期に行うこと、コストダウンの可能性を検討すること、冷
凍機のコンパクト化を図ることなどが必要である。
DC10V 電圧標準を目標とするのであれば、多層化にこだわらず、いくつかの技術
的可能性を検討すべきである。
②交流電圧
目標不確かさに対して現時点での成果と問題点を明確にするべきである。
8
技術評価委員会におけるコメント
第9回技術評価委員会(平成 15 年 8 月 20 日開催)に諮り、了承された。技
術評価委員からのコメントは特になし。
9
技術評価委員会委員名簿
委員長
小野田 武
日本大学 総合科学研究所 教授
伊東
弘一
大阪府立大学大学院
稲葉
陽二
日本大学 法学部 教授
内山
明彦
早稲田大学
大西
優
黒川
淳一
横浜国立大学大学院
小柳
光正
東北大学大学院 工学研究科
曽我
直弘
独立行政法人 産業技術総合研究所 理事
冨田
房男
放送大学 北海道学習センター 所長
西村
吉雄
大阪大学 フロンティア研究機構 特任教授
架谷
昌信
名古屋大学大学院 工学研究科 教授
平澤
泠
真鍋
正巳
工学研究科 教授
理工学部
鐘淵化学工業株式会社
教授
常務取締役
工学研究院 教授
教授
東京大学 名誉教授
株式会社デンソー 常務取締役
(合計
13 名)
(敬称略、五十音順)
10
第1章
評
価
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1 総論
(1)総合評価
先進的な計量標準システムを構築する本プロジェクトは、科学技術と産業の
発展に重要であること、政策および産業界のニーズと合致していることから、
国が積極的に押し進めるべき事業である。実用化した場合、生産現場における
低コスト化や工場の海外進出など、産業界を取り巻く社会状況の変化と、国際
化した生産体制への適応が期待されるため、社会的な意義も高い。
中間段階の目標に関しては、各標準技術の研究開発から貴重な知見が得られ
ていること、一部の技術は実用化の目処が付いていることなどから、概ね達成
していると判断する。しかしながら、各標準技術の進捗状況には、バラツキが
見られる。
着手後の2年間は、各標準技術の研究開発に重点が置かれていたが、今後は、
最終目標である e-trace(注記)の構築へ向けて、人力と資力を主要課題へ重点的
に配分することが望ましい。また、一部の標準技術は、e-trace との結びつき
が明確ではないため、改善する必要がある。
以上のことから、本プロジェクトは、目標である e-trace を念頭に各計測標
準技術を精査し、その上で残された期間の研究開発を継続すべきである。最終
的には、実用性があり質の高いサービスを提供できる、セキュリティの高いシ
ステムが構築されることを期待する。
(注記)e-trace の概念
インターネット、光ファイバ、GPS などの IT 技術を使って効率的に標準を
供給する。現地に技術者が赴くことなく、遠隔操作で機器の校正を行う。
<肯定的意見>
○ 古典的な標準供給の考え方を根本的に改めて新しい IT 技術を活用して情報
社会に適合させる狙いが大変適切である。
○ 外国ではまだ着手されていないシステムを、日本が強い技術を利用して多く
の量について組織的に開発し、世界の先頭を切ろうとの計画が卓越している。
○ 産業立国としての戦略的な技術を含んでおり、それが成果となってあらわれ
ている。
○ 最終結果として、いわば新たなビジネスモデルの構築が期待できる、先行き
不透明の今の時代にあって大変興味深い試みであり、現状の努力を継続すべ
きである。
○ 時代の流れにそった、重要なテーマであり個別には優れた成果があがりつつ
ある。
1-1
○ 直流、交流、温度、などにおける仲介検定標準器の開発は評価できます。非
持ち込み検定の方式がどうなっても必ず必要になるものであり今後とも質の
高い研究を望む。
○ 計測標準の遠隔校正という時間的・空間的・階層的の各制約を一気に解消でき
る世界的にも先進的な計量標準体系を構築しつつある点で高く評価できます。
○ 機器開発に関しては、概ね順調に目的を達成しているものが多い。
○ 計測標準は産業ならびに科学技術の基礎であり、その特性向上と利用法の簡
素化は、今後のこれらの発展にとって重要である。我が国の産業に見られる
昨今の陰りを払拭するためにも、また国際化した生産体制に適応するために
も、本プロジェクトの成功に期待したい。
○ 被校正器物を「持ち込む」のでもなく、また現地に熟練した技術者(認定者)
が赴くこともなく、校正を遠隔で行うことを可能にする技術を開発するとの
目的は、時間的節約、人的節約等の面で評価できる。
○ 周波数を用いた標準供給は、いずれ世界基準にもつながるものとして大変面
白い。
○ 計量器の校正情報システムの構築は重要なテーマである。IT 関連システムの
発展と共に計量器の校正も進化すると考えられる。本研究開発はその進化の
過程の足がかりと位置づけられる。まだまだ最適解は得られていないとは思
われるが、多くの試みを歓迎したい。
<問題点・改善すべき点>
● 仲介標準を依頼元に送りつけ、遠隔校正や遠隔比較を行うる方式については、
仲介標準の開発と遠隔校正のための情報通信システムの開発が必要である。
両者のリソースの配分や優先順位などが個々の標準により異なり、不統一で
ある。一般にはロバストな仲介器の開発を優先すべきであろう。
● ごく一部に本事業の目的にそぐわない研究活動が見られるのでそれについて
は方向性を改善すべきである。
● 各テーマごとにフェーズのバラツキがあり、それについては慎重に対応すべ
きである。単に研究の進捗が遅れているのではなく、その原因が e-trace に不
適ということであるならば、そのことを明らかにしたことが前期の成果の一
つであり、後期においては別予算を立てるなどの対策が必要であろう。
● トータルの校正システムとしてのプロジェクト管理が必要である。
● いくつかのグループで行われている遠隔操作方式は実際に普及する可能性は
低いのではないか。このやり方はインターネットを最大限に利用する方式で
すが、ユーザーに提供するシステムは、ユーザーにとって何が一番便利かを
多角的に検討して最良の方式を決めるべきではないか。また、ほとんどすべ
てのグループに対することですが、ユーザーとして誰を対象に、どのレベル
のサービスを提供することを目標に研究されているかをはっきりさせる必要
1-2
●
●
●
●
●
があると思う。
周波数に関連しないグループのなかに遠隔校正の主旨からのずれや進捗状況
にやや遅れが目立つテーマが見受けられる。
開発した機器をシステムの中で活用するための方策が練れていない。
既存の法体系において成立する開発であるのかの確認、ないしは必要な法整
備を平行して実施する等、技術開発そのものだけではなく、実施を念頭にお
いた多角的な取り組みが必要であると考える。
本事業推進者でしかできない中核的な技術開発と、広く社会に解を求め得る
技術開発とを切り分けて進めるべきである。後者の例としてはネットワーク
利用技術があげられよう。
移送標準器を用いる e-trace は、更に工夫が必要であると考えられ、IT 技術
のみで可能なようにすべきである。
<その他の意見>
• ユーザーあっての校正業務である。その立脚点を忘れてはならない。e-trace
•
•
•
•
•
•
により新たなユーザーが増える可能性も期待できる。後期においては常に実
施形態を念頭に研究を進めてもらいたい。
予算執行、論文投稿、特許出願等の情報がほとんどないため、専門分野以外
は評価が難しい。
長さと直流電圧は独自の標準原器なしにより精度の高い時間標準から導出で
きる。このプロジェクトで取り上げられている残りの5つの量に関しても、
より精度の高い量から導出できる物理システムを探求するプログラムが一つ
くらいあっても良いのではないか。
最終的には海外での遠隔校正にはネットワーク技術を使おうとしても途上国
の IT 状況は千差万別であり、また、各国の整備努力が不可欠な面もあり、そ
の発展が強く望まれる。
本プロジェクト期間内に研究が完了し、実用システムが実現できる、できな
いにかかわらず、いずれのプロジェクトについても計測原理の確立と共に、
遠隔計測の場合のシステム構成 (e-trace) がどのようになるのか、その結果ど
のような違いが出るのか、詳細に検討してまとめることが必要。
ドイツ、米国、英国では遠隔校正法の研究に着手しているとのことであるが、
諸外国の後追いにならないように、独創性を重視した事業推進を心がけてほ
しい。
本プロジェクトで開発する技術を実施する際に必要となる周辺環境技術(た
とえば、光ネットワーク技術等)に対する要求や仮定を明確にすべきところ
も見られる。
1-3
(2)今後への提言
これまでは、主として遠隔校正に向けた個別の標準技術の研究開発が推進
されてきたが、e-trace として、実際にネットワークで円滑に遠隔校正ができ
るかどうか、早急に検証することが重要である。個別の標準技術についても、
計測原理の確立と共に、遠隔計測のシステム構成がどのようになるのか、そ
の結果どのような利点があるのか、詳細に検討して整理するべきである。
実用化を目指すためには、セキュリティ等も含めたトータルな検討が必要
になり、システムの構築には研究者だけではなく、外部の専門家を入れた方
が良い。また、ユーザーあっての校正業務であり、ユーザーの立場に立った
実施形態を念頭に、研究を進めるべきである。
○ 情報通信システムの開発については、出来るだけ共通のインフラを利用すべ
きである。したがって、全体で戦略を立て、外部で開発されたものを出来る
だけ活用すべきである。
○ 放射線標準方式と同様に標準物質を供給して、今回の対象外である成分分析
機器を校正することに拡張できるのではないだろうか。供給した標準物質は
校正により消費されるが、標準物質の濃度が不変であれば、標準として適用
可能である。
○ e-trace としてのインターネット技術の利用についての切り分けが必要であ
る。またセキュリティ等も含めたトータルな検討が実用化に際して必要であ
る。
○ これまでは主として遠隔校正に向けた計測標準のハード的な研究が推進され
てきたが、実際にネットワークでスムーズに遠隔操作できるがどうか早急に
各工場の現場や途上国等の実環境下に設置して実証される必要があると思う。
○ 個々の機器のシステム化も必要だが、e-trace として全体を捉え、新たな構想
と提案が世界に先んじてシステム化を諮る上で必須である。プロジェクトを
マネージするグループを中心に、外部専門家を入れて検討してはどうか。
○ 研究開発の幹にあたる部分と枝にあたる部分の識別を明確にして、あくまで
実用化にとって重要な新規性のある幹の研究に力点を置き、枝の部分につい
ては、既存の技術が転用できる場合にはその採用も検討するべきである。
○ 移送標準器を用いる分野について、これを IT 技術に移行できるかどうか判断
が必要である。
○ 実施した場合のフィードバックを適切、速やかに取り入れてもらいたい。シ
ステムは思わぬ特性を示すことがある。
1-4
1.2 各論
(1)事業の目的・位置付け
計測標準は産業と科学技術の基礎であり、その特性の向上と利用法の簡素
化は、今後これらの分野の発展にとって重要であること、計測標準供給の時
間的、空間的および階層的な制約を、IT 技術を利用して打破する目的は、産
業界のニーズと合致することなどから、本事業の目的は妥当であり、国が積
極的に押し進めるべき事業である。
<肯定的意見>
○ 計測標準供給の時間的、空間的および階層的な制約を、IT 技術を利用して打
破する目的が、低コストで高レベルの標準を入手したいという産業界のニー
ズに完全に合致している。
○ 標準の供給を受ける産業界だけでなく、供給側である NMIJ の研究者の負担
軽減が期待される。
○ トレーサビリティのニーズに対応するという意味で事業の意義が深いと評価
される。
○ グローバル化が進む現今の産業を支えるインフラとして、ネットワーク社会
の進展とも歩調をあわせた時宜を得た施策であり、積極的に国が推し進める
べき事業である。
○ 産業界の要請に基づいた、技術の現状に即した妥当なプロジェクト設定であ
る。
○ e-trace が目的とするものは、非常に重要な仕事であると思う。
○ 生産における低コスト化や工場の海外進出など産業界を取り巻く社会状況の
変化に計測標準の遠隔構成システムの確立を通じて対応していくことが大い
に期待されるため、国家的プロジェクトとしての社会的意義や目的・政策的位
置付けは高いといえる。
○ プロジェクト全体としての考え方が徐々に明確にされてきた。
○ 計測標準は産業ならびに科学技術の基礎であり、その特性向上と利用法の簡
素化は、今後のこれらの発展にとって重要である。我が国の産業に見られる
昨今の陰りを払拭するためにも、また国際化した生産体制に適応するために
も、本プロジェクトの成功に期待したい。
○ 海外立地も含めて遠隔構成を実施しようとの目的はまず正しい方向と思われ
る。
<問題点・改善すべき点>
● JCSS の背景となる計量法が e-trace を実用化する上で、障害にならないよ
うに、あらかじめ問題点を摘出し、必要なら法の改正を準備すべきであろう。
1-5
●
●
●
●
●
●
●
●
●
外国の法との関連についても将来問題となりうる。
実用化段階での必要人員や経費などの手当について十分に検討し、研究開発
だけで終わることがないようにされたい。
当該事業は計量法との関連が深く、この法律の目指すところと研究開発の必
要性との関連という視点で、全体計画を立案すると、さらに合理的な姿が見
えてきたはずだと思われる。
校正情報システムの開発であるので、むりにインターネット利用を図る必要
はない。
標準提供は社会に対するサービスですから、どれだけ質の高いサービスが提
供できるかが評価基準であると思います。e-trace 自体が目的にならないよう
ご注意願いたい。
遠隔校正システムの確立には現場である産業界との連携が不可欠ですが、あ
まり推し進められていないようである。
e-trace として 特有のシステムの特長が示せるように さらに工夫を。また、
このプロジェクトは 単なる研究のためにあるのではなく、ユーザーである
利用者がいるのであるから、ユーザーの立場にたった技術開発が必要。ユー
ザーに要望は何なのか、整理しては如何。
既存の法体系において成立する開発であるのかの確認、ないしは必要な法整
備を平行して実施する等、技術開発そのものだけではなく、実施を念頭にお
いた多角的な取り組みが必要であると考える。
仲介器としての GPS あるいは物理的仲介器においてそれぞれセキュリティ
や輸送環境の観点より工夫が必要である。
プロジェクトに対しての評価は重要である。試作したシステムが発展するた
めにも、第三者をユーザーとして、利用し、評価したら如何かと考える。プ
ロジェクト執行者が、利用しやすいと、レポートしても全面的には受け入れ
られない。
<その他の意見>
• 開発が終了し実用化が開始された時点以後にこの事業の産業にたいする貢献
度を評価すべきである。このことを考えると、集中的に資源を投入して短期
間に開発を終了し実用化を図るべきである。そして産業が目に見える形で振
興してゆくことによって社会に対するアピールの度合いが増すことになる。
• 優れた研究成果や進捗状況、あるいはトピックス等をまとめた専用のホーム
ページを開設して広く一般に PR することが望まれる。
1-6
(2)研究開発マネジメント
標準技術の各テーマが、プロジェクトリーダにより統合管理されているこ
と、大学や民間企業との共同研究を進めていること、プロジェクト全体の推
移と進展から前倒しで終了させるテーマと継続するテーマを選別しているこ
となどから、本事業のマネイジメントは概ね妥当である。
研究開発着手から中間段階までは、各計測標準技術の確立に重点を置いた
ことは理解できるものの、研究開発体制の中にシステム技術者が含まれてお
らず、e-trace 全体の最終的な実用形態が明確になっていない。その解決のた
めに、外部のシステム専門家の助言を得ることや、あるいは一部委託をする
などの方策により、最終的な実用形態を明確にすべきである。
<肯定的意見>
○ かつて、計量研や電総研などに分散していた標準の研究者が産総研に統合さ
れ、一元的に管理され、大学や企業の協力をも得て研究開発が進められてい
る。現状まではおおむね順調に進められている。
○ 後期に向けて、研究継続・高度化と、終了・社会への提供を明確にしている
のはよい。
○ 多様な標準供給を視野に入れた体制となっている。
○ 周波数に関連するグループは、標準信号として利用するためにまとまって組
織的に研究開発が行われているようである。
○ プロジェクト全体の推移と進展から、終了させるテーマの選別を行っている
が、妥当な判断と思われる。
○ 被校正器物を「持ち込む」のでもなく、また現地に熟練した技術者(認定者)
が赴くこともなく、校正を遠隔で行うことを可能にする技術を開発するとの
目的は、時間的節約、人的節約等の面で評価できる。
○ 周波数を基にした e-trace の標準供給は共通技術として大変面白いと思う。
<問題点・改善すべき点>
● 活用すべき IT 技術や情報インフラについて、すべての標準について共通部分
をくくりだして一元的に進めるような戦略が必要ではないか。
● 個別の標準技術として蛸壺的な開発となっているように思われる。
● 周波数に関連しないグループは、その扱うユニットの特性上、標準器を輸送
してその堅牢性を実証しなければならないが、個々に行うのではなく、まと
めて(トラック輸送や航空便等)行えるようしてはどうか。
● e-trace のための機器開発専門家とシステム専門家の共同作業が後期では不
可欠。
1-7
● 本事業推進者でしかできない中核的な技術開発と、広く社会に解を求め得る
技術開発とを切り分けて進めるべきである。後者の例としてはネットワーク
利用技術があげられる。
● GPS を用いるもの以外に移送標準の必要な個別技術までを同じプロジェク
トでやる必要性があるのかについて少し疑問である。
<その他の意見>
• 知的所有権の帰属について、産総研、大学側と企業側とで異なる表現が見ら
れる。研究委託契約の場合に決定する事項ではないのだろうか。
• 研究実施者については、世界の頭脳を集めることが望ましい。今回のように
主たる研究実施組織が産業技術総合研究所であっても、資金さえ出せば先進
諸国からの人材を集めてさらに優れた成果をあげ、それを日本の産業振興に
活用できるはずである。
• 新たな対象となる計測量目テーマの調査も始めるべきではないのか。ただ、
そのとき、これまでの経験を生かして、闇雲に何もかも取り上げるようなこ
とは避けたい。
• e-trace としてインターネット技術も利用するということはオープン化につ
ながるわけで、個別技術の開発だけでなくネットワーク技術者も加えたシス
テム構想の検討が必要ではないか。
• 企業現場で遠隔校正するためには、やはり現場の人間の技能教育も必要とな
る点を少し検討されてはどうか。
• e-trace として動く所まできたテーマについて、従来の持ち込みとこの方式の
採用による経済効果の見積もりを外部専門家に委託して勧めてみてはいかが。
後期で実証に持って行くテーマについては是非。
• 本プロジェクトで開発する技術を実施する際に必要となる周辺環境技術(た
とえば、光ネットワーク技術等)に対する要求や仮定を明確にすべきところ
も見られる。
1-8
2.個別テーマに関する評価
2.1 時間標準
1)研究開発成果
現在まで、順調に進捗しており、中間段階での成果は、概ね上がっている。
最終目標を達成するためには、解決すべき課題がいくつか残っている。
2)実用化、事業化の見通し
実用化の可能性は高いので、最終的な成果として、使いやすく、高い信頼
性のシステムが確立されることを期待する。
3)今後への提言
研究開発を継続する中で、対象となるユーザーを明確にすること、提供す
るサービスのレベルを決定することなど、種々の課題を解決していくことが
必要である。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ e-trace の中で、最も IT 技術との相性が良さそうに思えるが、不確かさの目
標が非常に高いために、課題がいろいろある。現在までに順調に進んでいる
と評価される。
○ 研究されている内容は周波数校正の標準的で、多分、唯一の方法だと思いま
す。このまま継続されてよい。
○ 時間は最も基礎的量と思うが、その元は GPS という確立されたものの利用で
あるので、システムとして使用し易く信頼されるものへ
とが出来ると思うし、やるべき。
早く持って行くこ
<問題点・改善すべき点>
● ハードの構成等は外部の会社で既に製作しているようであるので、システム
として使えるものへ、使い易い信頼されるものへ持っていくことが必要と思
う。
<その他の意見>
• (特になし)
1-9
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 実用化については、全く問題はないと思う。
<問題点・改善すべき点>
● 実用化に至る課題を解決するために開発を続行する必要がある。ただし、問
題点を明確化して、個々の現象の因果関係を明らかにすることに留意された
い。
● ユーザーとして誰を対象に、どのレベルのサービスを提供することを目標に
研究されているかをはっきりさせたほうが良いように思う。
<その他の意見>
• 米国が打ち上げ、運用して GPS を頼りにしている点で、米国の都合でスクラ
ンブルがかけられることがある。今後も GPS に依存しても良いだろうか。セ
カンドソースを考慮する必要はないか。
1-10
2.2 長さ標準
1)研究開発成果
①波長
モード同期ファイバレーザの安定化、光コムの広帯域化、狭線幅化、等の要
素技術の進捗は順調であるが、特許の申請が少ない。
②光ファイバ応用
意欲的な試みであり、基礎実験の成功および特許の申請など、多くの成果を
あげている。
③He−Ne レーザ
要素技術の進展などに成果を上げているが、特許の申請と論文などの外部発
信が少ない。
2)実用化、事業化の見通し
①波長
装置としての実用化は十分に期待できる。
②光ファイバ応用
大事業所内での長さ標準の供給等、専用の光ファイバを用いての実用化は
可能である。
③He−Ne レーザ
ディジタル信号処理が課題である。
3)今後への提言
①波長
光ファイバでの標準信号伝送の実現については、基礎検討の蓄積が必要で
ある。
②光ファイバ応用
計測における精度の保証が得られれば、実用化へ前進すると考えられる。
産業界の受けるメリットが大きいので、是非早期に実用化されることを期待
する。
③He−Ne レーザ
前倒しで終了した判断は妥当である。
1-11
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 光コムの基準となるモード同期ファイバレーザの繰り返し周波数の制御につ
いて優れた成果が得られている。大学との協力もうまく進められている。
○ 低コヒーレンス光波干渉計による遠隔比較は大変良いアイデアである。産業
界の受けるメリットが大きいので是非早期に実用に結びつけてほしい。
○ 光ファイバを通した標準伝達は意欲的な試みだと思う。
○ 3 つの研究では完成度は異なる。本プロジェクト期間内に研究が完了し、実
用システムが実現できる、できないにかかわらず、完成すれば遠隔計測のシ
ステム構成 (e-trace) がどのようになるのか、その結果今とどのような違い
が出るのか、詳細に検討してまとめることが必要。
○ 波長技術に関しては、モード同期ファイバレーザの安定化、光コムの広帯域
化、狭線幅化、等の要素技術の進展は順調である。
○ 光ファイバ応用については、基礎実験の成功、特許申請、複数の受賞など、
高く評価できる。
○ ヨウ素安定化レーザはディジタル信号処理の課題であり、確実に実用化して
欲しい。
<問題点・改善すべき点>
● 検討することになっている伝送系の分散などが測定精度にどのように影響す
るか、検討が必要。
● 波長技術に関しては、特許がないのが寂しい。
● ヨウ素安定化レーザは、論文、解説、口頭発表、特許、新聞報道ともになく、
大変に寂しい。
<その他の意見>
• 波長技術に関しては、長距離光ファイバで標準信号を伝送するという今後の
研究計画は大変にチャレンジングであり興味が持てるが、原理的な可能性と
限界の検討を要すると考える。
• 光ファイバ応用については、フォトニック結晶ファイバでの光源開発に拘る
ことなく、実用的な光源選択を考えてもよいのではないか。
1-12
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 低コヒーレンス干渉計による長さの比較は 3km まで確認されている。距離を
延長したときの不確かさの増加はどのような要因で支配されるのか、それが
明らかになれば、実用に向けて、効用と不確かさとのトレードオフをはかる
ことができる。
○ He-Ne のプロジェクトの終了は妥当。3 つのプロジェクトの中で OCT は唯
一 実用実験が出来るのではないか。動作の確認だけではなく、システム構
築を目指して欲しい。
○ 波長技術に関しては、装置としては実用化が充分に期待できると考える。
○ 光ファイバ応用に関しては、大事業所内での長さ標準の供給等、専用の光フ
ァイバを用いての実用化は可能であると評価できる。
<問題点・改善すべき点>
● ドリフト制御と、伝送路による影響に対する保証が得られるような成果を期
待。
● 光ファイバ応用(タンデム干渉計)技術による長さ標準の供給を、一般の光
ネットワークを経由して行えるかどうかは、今後の光ネットワーク技術の展
開による。
<その他の意見>
• 光周波数標準の確立は重要であるが、光ファイバ網による供給は実現性がな
いのではないか。短距離の伝送として、安定化レーザと GPS 時間標準との組
み合わせの方が feasible ではないか。
• 波長技術に関しては、光ファイバでの標準信号伝送の実現については基礎検
討の蓄積が必要であると考える。
• ヨウ素安定化レーザに関しては、関連ソフトウェアの開発を急ぎ、前期での
技術の確立を図って欲しい。
1-13
2.3 放射能標準
1)研究開発成果
中間目標は概ね達成されている。要素技術の開発は、遠隔校正だけではなく、
放射能絶対測定器群の拡充にも寄与すると考えられる。
2)実用化、事業化の見通し
要素技術の開発成果は一次-二次標準器間の校正に使用される予定があり、
これが定着すれば、普及性があり公共性も高い。
実用化により、迅速、安全、および安価な料金で校正業務が行えるように
なり、遠隔測定などの波及効果が期待できる。
3)今後への提言
線源検出器間の距離について、誤差を生じない安定な配置になるように工
夫するなど、信頼性の確保に努めるべきである。
研究開発を加速すること、より広い範囲の RI 活用を検討することが必要で
ある。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 中間目標は、
「産総研と日本アイソトープ協会において、γ線核種用特定二次
標準器(加圧型電離箱及びγ線スペクトロメータ)のリモートキャリブレー
ションシステムを立ち上げ、γ線放出核種に対して、目標値の範囲内(不確
かさの拡大 0.3%)で実際の校正を実施する。」であり、目標はすでにおおむ
ね達成されている。
○ 要素技術の開発は、主として放射能測定システム、および、ネットワークと
のインタフェース部であり、遠隔校正のみならず、放射能絶対測定器群の拡
充にも寄与する開発であった。研究開発の成果は一次-二次標準器間の校正に
使用される予定があり、これが定着すれば、二次-実用標準器間に拡がるなど、
普及性があり公共性も高い。
<問題点・改善すべき点>
● 当面、日本 RI 協会を対象にしているが、よりひろい範囲の RI 使用現場に対
象を拡張すべきであろう。その場合は現状とはかなり異なる形となるのでは
ないか。
1-14
● 研究開発の進展速度が多少遅く感じられる。より一層の努力を求めたい。
● 要素技術開発の中に、ネットワーク技術の急速な進展を充分に生かす方法の
検討を促したい。
● イオンチェンバーや NaI(Tℓ)などの井戸型検出器では線源位置の設定問題は
生じないが、Ge 半導体検出器のように線源検出器間の距離が設定されるとき
は工夫が必要である。
<その他の意見>
• 標準計測としての研究開発の難易が不明(他と比較して難しいとは思えない)。
実用上は意義ありとのこと。
• 平成15年度の計画が達成されるのであれば、特定二次標準器全般に渡り
e-trace が行えるようになり、海外機関との実証実験もあることから、この研
究開発は充分成果を挙げたといえるであろう。
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 広い範囲の核種に拡大して欲しい。
○ e-trace 実証例として しっかりやって欲しい。
○ 研究開発の成果は、今年度から一次-二次標準器間の校正方法として実際に用
いられる予定であり、高く評価できる。
○ 遠隔校正が広く行われるようになれば、スピーディ、安全かつリーズナブル
な料金で校正業務が行えるようになるであろう。波及効果も遠隔測定などが
考えられており、期待できる。
<問題点・改善すべき点>
● しばらく、一次-二次標準器間の校正方法は従来の方法と併用して行い、十分
な信頼性確保に努めるべきである。線源検出器間の距離については、誤差を
生じない安定な配置になるように工夫する必要がある。
<その他の意見>
• 特定二次標準器については、すみやかにすべての機器で遠隔校正が行えるよ
うにすることが望まれる。
1-15
2.4 三次元標準
1)研究開発成果
現在まで、順調に進捗しており、同一機種間の遠隔操作については、同一事
業所内・外での実現技術を開発するなど、実用化可能な成果が上がっている。
特許の申請、及び論文の発表などは少ない。
2)実用化、事業化の見通し
実用化は可能である。三次元測定機の不確かさの評価を、熟練技術者が現
場に赴くことなく計測できる手法の提案であり、実現時の有用性も期待でき
る。
3)今後への提言
研究の要素が少ないなどのため、前半で研究開発を終了した判断は妥当で
ある。
新しい認定法の提供であることから、関連法整備等の実現に向けた働きか
けが必要になる。また、ボールプレートの設置等の煩雑さも改良すべきであ
る。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 三次元測定機における幾何学的誤差の遠隔測定に的を絞り、実用化が可能な
成果を得た。
○ 三次元測定機の不確かさの評価を、熟練した認定者がその場に赴く必要もな
く実現できる手法の提案であり、実現時の有用性に期待がもてる。
○ 既に、同一機種間の遠隔操作については、同一事業所内・外での実現技術を
開発するなど、成果の蓄積は順調である。
○ 三次元標準測定システムの校正問題について、良く整理されている。
<問題点・改善すべき点>
● 産業界で使用されている三次元測定器の数が多いだけでなく、機種も多いの
で、機種の差を超えた遠隔操作が要請されるが、それについても課題を解決
しつつある。
● 検定操作に高い技術がいるのでユーザーの装置を遠隔操作するという議論は
私には理解できない。これは3次元測定器のある現場にそれを操作できる技
術者が居ないということとほとんど同じ。もし事実なら、遠隔装置を作るの
1-16
ではなく、技術者の養成、技術検定をするシステムを作るべき。また、発表
時の円測定の話は、測定点の誤差から、測定点以外の点の誤差を見積もる数
学上の問題であり、3次元計測器自体の精度は物体を載せる面と探針の精度
で決まる物理的問題で論理的に独立に議論すべき。もし、前者に問題がある
のならば、誤差の推定が簡単に行えるマニュアルを作る(研究を行う)べき
である。
● 研究の要素は少ないので 終了の判断は良いが システムとしての完成度は
低いのでは。使えるようにするにための要件を明らかにすることが望まれる。
● 特許がなく、また発表も学会大会程度であるのは、幾分寂しい。
● コントローラにスキルを入れることは可能ではないか。
<その他の意見>
• 関連法の整備に向けた働きかけが重要である。
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ IT 技術の進歩や変化は非常に急速であるが、それを意識し、進歩をいち早く
取り入れている。
○ 基本概念の実現は可能と考えられる。
<問題点・改善すべき点>
● 新しい認定法の提供であり、関連法整備等の実現に向けた働きかけが不可避
であろう。
● e-trace によって、遠隔指導の際に、使用者の思わぬミスにシステムが気付か
ない可能性も考えられるので、十分な運用上の注意が必要と考える。
<その他の意見>
• 校正者が現場に行かなくてもよいというだけでなく、ボールプレートの設置
等の煩雑さをも改良する方向が望まれる。
• 本技術の普及には、急速に進歩するネットワーク技術の熟知とその吸収、な
らびに周辺 IT 技術の取り込み・活用が鍵を握ると考えられる。
1-17
2.5 流量標準
1)研究開発成果
標準供給の基礎となる石油大流量校正設備の遠隔運転実証試験に成功した
が、中間段階までの成果と本事業の目的である e-trace、すなわち遠隔操作に
よる校正との結びつきが、明確になっていない。
2)実用化、事業化の見通し
本標準技術の利点と、e-trace として何ができるのかが明確になっていない
ため、実用化の見通しは具体的になっていない。
3)今後への提言
つくば北センターとの間の問題だけでなく、本プロジェクトの利点が何か
見出すべきである。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 標準供給の基礎となる石油大流量校正設備の遠隔運転の実証試験に成功した。
○ 産業界において流量標準の扱いは重要である。
<問題点・改善すべき点>
● 現在までの成果においては、流量の e-trace との結びつきが明確ではない。
石油流量検定設備の遠隔操作の実施例である。遠隔操作による校正を通して
得られた問題点や課題を発表してほしい。それが e-trace の成果である。
● 今後仲介標準器としての流量計の開発を期待するが、開発の順番は仲介標準
を先行させるべきではなかったか。
● これまでの成果が事業目的(e-trace)に沿っていない。これは事前審査のと
きに指摘されていたことである。今後研究の焦点を目的に添ったものに絞る
必要がある。
● e-trace のための前段階の開発であり、前倒しが必要である。
● 16 年度以降予定の自己診断付き流量計の開発が決め手である。
● 遠隔校正の意義つけの説明が、不足している。
<その他の意見>
• 標準供給としては重要な項目であり、仲介用標準流量計の開発が望まれる。
1-18
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ (特になし)
<問題点・改善すべき点>
● 流量標準の拡張は産業界の要請が現状において大きいので、e-trace 技術を活
用して是非重点的に研究開発を進められたい。
● 仲介用標準流量計に関して具体的な開発項目があがっていない。
● e-trace として何ができるのか、見えるようにやってほしい。
● つくば北センターとの間の問題だけでなく、本プロジェクトの利点が何か見
出すべきと考える。
<その他の意見>
• 過去のラウンドロビンによる国際比較等の実績もあり、実用仲介器の完成に
期待する。
1-19
2.6 温度標準
1)研究開発成果
標準熱電対について、最適な熱処理の方法を開発し、今までにない安定で堅
牢な仲介標準器の技術を開発したことにより、大きな成果を上げている。一方
では、白金抵抗温度計について、達成された不確かさが、目標に対して明確な
形で示されていない。
2)実用化、事業化の見通し
熱電対において、特定二次標準器や性能試験用温度計として、実用化され
ていることは評価できるが、事業全体の e-trace に向けての取り組みに、やや
不明確な点がある。
3)今後への提言
産業界のニーズに配慮して、前倒しで開発を終了したことは評価できる。
仲介標準器の改善について、改善を左右した現象の因果関係をより明確に
した方がよい。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 耐震特性が優れた抵抗温度計と温度分布特性の優れた熱電対を開発して安定
で堅牢な仲介標準器の技術を開発したことが高く評価される。
○ 目的に添ったかたちで研究開発がすすめられている。研究成果は、達成され
ている。
○ 今までなかった計測器が働くようになっていることは評価できる。
<問題点・改善すべき点>
● 仲介標準器の改善について、改善を左右した現象の因果関係をより明確にさ
れたら、さらによい。
● 到達目標不確かさに対応して、現時点で達成された不確かさが白金抵抗温度
計については明確な形で示されていない。
<その他の意見>
• 産業界のニーズに配慮して計画を前倒しで推進していることは評価できる。
1-20
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 熱電対において特定二次標準機、性能試験用温度計として実用化されている
ことは評価できる。
<問題点・改善すべき点>
● 仲介標準器が校正段階や輸送の段階で受けた衝撃や温度の履歴などを自動的
に検出し把握できる機能を仲介標準器に付与する必要がある。そのために無
線タグの技術が利用できよう。
● e-trace にむけての取り組みの進捗状況にやや不安がある。
● 実用化を目指すとのこと、システム構築は 是非研究者だけではなく、シス
テム専門家をいれてやって欲しい。使い勝手が全く異なることが多い。
<その他の意見>
• 開発に成功したロバストな仲介温度計が、再現性よく多数生産できるか不明
である。
1-21
2.7 力学(圧力)標準
1)研究開発成果
高精度・高安定性の圧力標準遠隔校正システムの実験モデルが試作され、研
究所内レベルでのネットワークにより実証されていることなどから、中間段階
の目標は達成している。
2)実用化、事業化の見通し
高精度ディジタル圧力計により、仲介用標準器としての機能は実現され、
遠隔校正部本体は移動モデルとしてもコンパクトに作製されており、実用化
の可能性は大きい。
3)今後への提言
実用化のためには、ユーザーとなる工場現場への移送に対する堅牢性や、
現場でのネットワーク遠隔校正について実証する方が良い。また、遠隔校正
部の現場への設置や操作などの技能教育が、現場担当者に必要である。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ シリコンのマイクロマシン技術を利用して製作した振動形デジタル圧力計を
使用し、圧力を周波数に変換できた点が実用化にいたる原因と思う。
○ 高精度・高安定性の圧力標準遠隔構成システムの実験モデル(圧力範囲:10k
−100kPa)が試作され研究所内レベルでのネットワークにより実証されてい
る等すぐれた成果が生み出されている。
<問題点・改善すべき点>
● マイクロマシン技術では、同一のものを多数製作することにより工程が安定
するので、圧力から周波数への変換係数を使用者側で微細に制御することが
容易ではない。また、半導体デバイスの特徴であるが、希望の特性のデバイ
スは、多数の出来たものの中から選択する必要がある。この点がこの仲介器
の特徴であり、問題点でもある。
● 移動標準器の実際のユーザーとなる工場現場への移送に対する堅牢性や工場
等現場でのネットワーク遠隔校正について実証されることが望まる。
<その他の意見>
• 質量標準が欠落しているのが残念である。
1-22
• 天秤がベストであり、これで終了というのは、研究はせず、標準供給業務に
専念するということを意味する。ワットバランス等、分銅・標準圧力発生器
を周波数電圧標準とリンクさせる方向での研究開発が必要ではないか。
• 試作した圧力標準遠隔構成システムは、その対象とする圧力領域が 10k−
100kPa と狭く、半導体電子業界やナノテクノロジー技術に必要となる超高真
空領域レベルへの何らかの展開も望まれる。質量標準については、産業界の
要望があまりないため打切りということですが、移送に手間がかかり、環境
からの影響も小さくないと考えられる海外の現場でも本当に不必要なのかど
うか疑問が残る。
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 適用圧力を拡大するよりも産業界の要請の最も多い範囲から実用化する方が
よい。
○ 高精度デジタル圧力計により仲介用標準器としての機能は実現された。
○ 遠隔校正部本体は移動モデルとしてもコンパクトに作製されているようなの
で、その実用化、事業化へのすみやかな展開が期待できると思う。
<問題点・改善すべき点>
● 本プロジェクトの趣旨にそった、持ち込みよりも簡便な供給体制を構築すべ
きである。
● 遠隔校正部の現場への設置や操作等が、実際に現場の人間が行えるかどうか
技能教育も含めて検証する必要があると思う。
● ネットワークを利用する見通しが甘い。ユーザーの立場にたった技術開発が
必要。
<その他の意見>
• マンパワーが不足については、当該計測産業界との協力や連携、あるいは認
定業者等との共同研究等で補うことはできないのか。せっかく順調に進捗し
ているテーマだけに前期で終了するというのは惜しい気がする。
1-23
2.8 電気標準
1)研究開発成果
①直流電圧
装置の小型化や堅牢化などにより、中間目標を概ね達成している。
②交流電圧
FRDC 回路や仲介標準としてのサーマルコンバータを移送して実施した、
海外での予備実験により遠隔校正の確認はできたものの、その成果の説明が十
分ではなかった。
2)実用化、事業化の見通し
①直流標準
遠隔校正の見通しがついており、研究期間内の実用化を期待する。
②交流電圧
実用化に最も近い標準である。
3)今後への提言
①直流電圧
実用化のための試験を早期に行うこと、コストダウンの可能性を検討する
こと、冷凍機のコンパクト化を図ることなどが必要である。
DC10V 電圧標準を目標とするのであれば、多層化にこだわらず、いくつか
の技術的可能性を検討すべきである。
②交流電圧
目標不確かさに対して現時点での成果と問題点を明確にするべきである。
【研究開発成果】
<肯定的意見>
○ 産業界のインフラとして供給に対する要請と期待が最も大きい標準である。
それに応える成果が出つつある。
○ 直流電圧分野については中間目標を達成していると評価される。
○ 直流、交流ともに、精度の高い計量が身近になりつつあることが実感できた。
それは一に、小型化、堅牢化など新技術による装置の改善に伴うもので、今
後もその方向での技術開発を進め、GPS 標準電波による周波数供給とあいま
って、e-trace を実現してほしい。
○ 独自に開発している標準素子を用いるシステムで期待している。
1-24
<問題点・改善すべき点>
● ジョセフソン電圧標準の開発は順調に進んでいるように思われるが、生産設
備の清浄度をあげないと 10V は到達困難ではないか。
● 交流標準の説明がやや不十分であった。特に海外に FRDC 回路や仲介標準と
してのサーマルコンバータを運んで実施した予備実験の意義が、どのような
課題をクリアするためか、明確ではない。
● 交流電圧分野においては目標不確かさに対して現時点での成果がはっきり報
告されていない。また問題点の解明も報告されていない。
● 今後、DC10V 電圧標準を目指し、デバイス作製における多層化技術を検討し
ているようであるが、NbN はきわめてストレスの大きな材料であり難しいの
ではないか。むしろ、正攻法の大面積化、高周波数化を検討すべきではない
か。
<その他の意見>
• 電総研報告 No989で見る限り、FRDC の研究段階はすでに終了している。
実用機の開発としてはペースが遅いのでないか。NIST の論文ですでに同様の
ものが発表されている。技術的な先導性が不明である。
【実用化、事業化の見通し】
<肯定的意見>
○ 交流標準は、実用化に最も近い標準であると判断される。
○ 直流標準については遠隔校正の可能性の見通しがでてきたので、早期に実用
化のための試験が可能であると予想される。(したがってぜひ実現してほし
い)
<問題点・改善すべき点>
● 液体ヘリウムフリーの直流電圧標準は冷凍機の部分がどの程度コンパクトに
なるか、取り扱いが容易であるかが実用化へ向けた課題であると思う。
● 直流標準についてはコスト低減について少しでも可能性をさぐるべきである。
Zener 装置に比べてあまりにもコストがかかり実用性を損なうと考えられる。
● 現在達成している装置で、目的を達成できる見通しを得ているとのこと、持
ち運べる機器構成であることから、是非期限内に実用システムの構築を図っ
て欲しい。
1-25
<その他の意見>
• 交流電圧標準については、後期に実用化されるように期待する。
• e-trace の全体にいえることであるが、校正業務を一部ユーザーに委ねること
になり、善意のユーザーを前提にシステムが成り立っているといえる。これ
は本当に大丈夫なのかどうか、ネットワーク上の認証技術の専門家などとの
議論が、今後、実施に向けては必要となるように思う。
1-26
3.評点結果
2.7
1.事業の位置付け・必要性について
1.6
2.研究開発マネジメントについて
1.9
3.研究開発成果について
2.1
4.実用化・事業化の見通しについて
0.0
1.0
2.0
3.0
平均値
素点(注)
評価項目
平均値
1.事業の位置付け・必要性について
2.7
B
A
A
B
A
A
B
A
A
A
2.研究開発マネジメントについて
1.6
B
B
C
B
C
B
B
C
C
B
3.研究開発成果について
1.9
B
B
C
B
B
B
C
A
B
B
2.1 C A C B B B B B
(注)A=3,B=2,C=1,D=0として事務局が数値に換算し、平均値を算出。
A
A
4.実用化・事業化の見通しについて
<判定基準>
(1)事業の位置付け・必要性について
(2)研究開発成果について
・非常に重要
・重要
・概ね妥当
・妥当性がない、又は失われた
・非常によい
・よい
・概ね妥当
・妥当とはいえない
→A
→B
→C
→D
(3)研究開発マネジメントについて
・非常によい
・よい
・概ね適切
・適切とはいえない
→A
→B
→C
→D
(4)実用化・事業化の見通しについて
→A
→B
→C
→D
・明確に実現可能なプランあり
・実現可能なプランあり
・概ね実現可能なプランあり
・見通しが不明
1-27
→A
→B
→C
→D
第2章
評価対象プロジェクト
1.事業原簿
次ページに当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿を示
す。
2-1
「計量器校正情報システムの研究開発」
事業原簿
作成者
新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究開発業務部
概 要
作成日
制度・プログラム名
計量器校正情報システム技術開発
PJコード
T01011
<e−t
r
ace>
基準創成課
事業担当推進部室・
担当者 研究開発業務部 知的基盤・
本プロジェクトでは、経済活動の迅速化やグローバル化に対応する戦略的な社会インフラ整備として計量標準供
事業の概要
事業(プロジェクト)
名
1.事業の目的・政策的位
置付けについて
【NEDOが関与する意義】【事
業の背景・目的・位置付け】
2.研究開発マネジメントに
ついて
【事業の目標】
給体系の近代化を図るものである。この目的のために、情報通信ネットワーク技術を活用して計量標準の遠隔校
正技術を開発する。
知的基盤の整備については、「科学技術基本計画」(平成8年7月)、「経済構造の革新と創造のための行動計
画」(平成9年5月)においてその重要性が指摘され、それを受けて、産業技術審議会と日本工業標準調査会合
同の「知的基盤整備特別委員会」(平成10年6月)において、新規産業創成を推進するために積極的な整備及
び研究開発を行うべき重点分野として、計量標準、標準物質、化学物質総合管理基盤、人間生活・福祉関連基
盤、生物資源情報基盤及び材料関連基盤が選定された。その後、平成11年12月の同委員会において、それぞ
れの分野で世界のトップレベルを2010年を目処に達成することを目指すことが掲げられた。
計量標準分野においては、経済活動のグローバル化に伴い、基準認証制度を国際的に整合し、その評価結果
を相互に受け入れる体制の構築が求められており、国内外でのトレーサビリティ制度を確立するニーズが高まっ
ている。また、計量標準を担う国立研究機関等での各種校正・審査業務においては、標準供給における地理的
問題の解消(海外進出企業への標準供給)、高精度化、省力化、校正日数の短縮化、技術審査の効率化等を達
成することが重要である。このことから、インターネット、光ファイバー網、GPS(全地球測位システム)等の情報通
信技術等を活用した各種標準分野における遠隔校正技術の研究開発を行うことが必要である。また、情報通信
技術を用いた計量器校正情報システムの開発には民間の能力を活用する必要があり、研究開発のマネジメント
の点でNEDOの関与が必要である。
日本経済の活性化をもたらし、再生するために必要不可欠な戦略的な社会インフラ整備としての計量標準の確
立のために計量標準供給方法を近代化する目標達成のために、周波数に関連するグループと関連しないグ
ループの計量標準とに分けて、計量標準の遠隔校正(遠隔供給)の研究開発と実証実験を実施する。
周波数に関連するグループは世界に先駆けた先進的な計量標準供給体系の開発であり、技術的に難しく長期に
わたる困難な技術開発と実証実験を必要とする。光ファイバ網を使う標準供給については全光交換機を介在し
ないと全国至るところまでは伝送できないが、光ファイバ網は着実に進展している。全光交換機が配備されるま
では、関東地域とか関西地域とかのローカル光ファイバ網の範囲から実施することが考えられる。
周波数に関連しないグループの多くの量目に関しては、前期(平成13年度‐平成15年度)で国家標準機関から認
定事業者への遠隔校正実証実験まですすみ、後期(平成16年度、17年度)では産業界への実用計量標準のた
めの遠隔供給技術開発まで進む予定である。信頼性の検証とともに現行の計量法の観点からも整合性の検証
が必要である。
主な実施事項
【事業の計画内容】
H13f
y
H14f
y
H15f
y
H16f
y
H17f
y
(
単位:
百万円) H13f
y
(当初)
150
(実績)
139
H14f
y
200
H15f
y H16f
y H17f
y
300 未定
未定
時間標準
長さ標準
電気標準
放射能標準
三次元測定器測定標準
流量標準
温度標準
力学標準
【開発予算】
一般会計
特会(
電多)
特会(
石油)
特会(
エネ高)
総予算額(
計)
【開発体制】
(当初)
(実績)
(当初)
(実績)
(当初)
(実績)
(当初)
(実績)
150
139
200
-
300 未定
-
-
未定
総額
-
経済省担当原課
産業技術環境局知的基盤課
運営機関
新エネルギー・産業技術総合開発機構
委託先
(独)産業技術総合研究所、東北大学、浅沼技研、サンジェム、東京電機大学
【情勢変化への対応】
運営委員会の指導の下に、情勢変化には柔軟に対応して研究開発を進める。具体的には、計測標準
を必要とする産業界の社会情勢の変化、新たな技術の進展、組織替えや退職などにともなう担当人員
の変化などに対応する。最も大きな変化は計量標準を必要とする産業界の社会情勢である。日本経
済の停滞が年々著しくなり、人件費などの高コスト構造に耐えかねて製造業の多くは中国やベトナムな
どに工場を移転する動きが止まらない。切実に求められている海外進出企業への現地校正サービス
に対応しなくてはならない。新たな技術の発展も大きな情勢変化である。幸いなことに、日本は通信技
術の先進国であるので、そのメリットを十分に生かして、最新通信技術を取り込み、本プロジェクトの課
題である「
速く、安く、どこにでも」
計量標準を供給する技術開発を進める。
【今後の事業の方向性】
当初案では5ヵ年計画であったものを出来る限り前期で前倒し実現するように努め、実証実験の終了し
たものから順次標準供給を開始する。標準供給を開始したテーマで解決し得た問題点は、次に供給開
始するテーマにフィードバックし、順次改良を重ねる。
また、技術困難課題については最終年度まで技術開発を継続す一方で、より産業の現場に近い標準
にもe-traceの概念を生かせるものは後継テーマを設定し、後期に技術開発を実施する。
1
3.研究開発成果
本事業は平成13年度より5年の研究開発期間を予定しているが、現時点では発
足後約2年を経過したところであり、いまだ研究開発途上にある。しかし、事前審査
(
写真、図、表の使用 員の指摘を受けて全体的に計画を前倒し実施している。現時点での事業全体の成
果としては、標準供給の近代化を具体的に提案し、世界に先駆けて具体的なプロ
可)
ジェクトとして走らせていることである。日本以外では組織だった標準供給近代化
のための研究開発は行われていないので、十分に世界中の計量標準供給の手本
(要素技術含む)
になるものである。 いままでの個別テーマの成果としては、時間標準はすでに周
波数遠隔校正の実証試験に入っており、比較的早い時点での実用化が期待でき
る。長さ標準の波長標準はモードロックド・
ファイバレーザの波長をアセチレンに
ロックすることに成功し、光コムの発生および位相雑音低下も東北大学と共同研究
が進んでいる。光ファイバ応用もタンデム干渉計による長さ情報を3km伝達する
ことに成功している。これらは、技術的に困難な課題が多い。ヨウ素安定化He-Ne
レーザのデジタル制御は実用化の見通しがたっている。電気標準の直流は液体ヘ
リウムなしでも動作するプログラマブル・
ジョセフソン接合アレーの開発に世界に先
駆けて成功し、1 V電圧を得ているが、10 Vを目標にしてプロセス開発が重要な段
階にさしかかっている。電気標準の交流は小型サーマルコンバータ・
ユニットのプロ
トタイプ開発がすすみ、近く遠隔校正実証実験に入れる見込みである。放射能標
準はすでに日本アイソトープ協会との間で実証実験をすすめている。三次元測定
機標準はインターネット経由で遠隔地に設置してある異機種三次元測定機とを接
続し、制御する段階まで進展している。流量標準はつくば北センターの流量標準設
備を第三事業所から遠隔監視するシステムを構築している。温度標準は、いまま
で脆弱であった耐環境性に優れた温度計の開発および温度遠隔モニタシステムの
開発がすすんでいる。力学標準はデジタル気体圧力計を用いた圧力標準の遠隔
校正システムを開発中である。
10件
(特許・論文等につい 特許
件数を記載)
論文
21件
や「
光ファイバ応用」
、「
電気標準」
の「
直流」
などの技術
4.実用化、事業化の 「長さ標準」の「波長標準」
的困難度の高い数件の課題は5年間の研究を続けるものの、そのほかの課題は
見通し
前期(平成13年度∼平成15年度)
に国立標準研究機関から第一階層認定事業者
を対象とした遠隔校正の要素技術開発と実証実験を終え、その後は、あるものは
実際に遠隔校正による標準供給を実施し、あるものはより産業現場に近い実用標
準までの遠隔校正課題に取り組む予定である。本方式の利点は多いが、実際に運
用するとなると隠された問題点も多い可能性があり、本課題の中で出来る限りデ
バッギングして対応策を確立したのち、その他の標準量目にもこの概念による標準
供給を進める考えである。現時点での事業全体の成果としては、標準供給の近代
化を具体的に提案し、世界に先駆けて具体的なプロジェクトとして走らせていること
である。ここ2年の間にe-traceの技術開発と実証実験を重ねつつ、国内外で遠隔
校正による標準供給法の近代化について提案しているが、国内産業界からは大き
な反響があり、早期に実現を望む声が強い。
5.評価に関する事項
実施時期
評価履歴
【評価実施時期】
評価項目・
基準
【評価項目・評価基
準】
実施時期
評価予定
評価項目・
基準
15年度 中間評価実施
標準的評価項目・評価基準
18年度 事後評価実施予定
標準的評価項目・評価基準
2
―
目 次 ―
0. 概要
I.事業の目的・政策的位置付けについて
1.NEDO の関与の必要性・制度への適合性
--- 1
--- 1
1.1 NEDO が関与することの意義
--- 1
1.2 実施の効果(費用対効果)
--- 2
2.事業の背景・目的・位置付け
--- 2
II.研究開発マネジメントについて
--- 6
1.事業の目標
---
6
2.事業の計画内容
---
7
2.1 研究開発の内容
---
7
2.2 研究開発の実施体制
--- 14
2.3 研究の運営管理
--- 16
3.情勢変化への対応
--- 17
3.1 事前審査コメントへの対応
--- 17
3.2 一般的情勢変化への対応
--- 20
4.今後の事業の方向性
--- 21
5.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法および実施時期
--- 23
III.研究開発成果および実用化、事業化の見通しについて
--- 24
1.事業全体の成果
--- 24
2.研究開発項目ごとの成果、実用化、事業化の見通し
[添付資料]
1.基本計画
2.実施方針
3.成果報告書
4.事前評価書
--- 26∼109
I.事業の目的・政策的位置付けについて
1.NEDO の関与の必要性・制度への適合性
1.1 NEDO が関与することの意義
知的基盤整備の大綱に基づき計測標準整備が進められているが、その供給体系は従来通
り上位機関に被校正器物を持ち込み校正する「持ち込み校正」の形態のままである。当該
事業「計量器校正情報システムの研究開発」
(略称「e-trace プロジェクト」
)は、最新の情
報通信技術を活用した計測標準の遠隔校正を行うことを主目的としており、供給体系の近
代化の為の試金石となる研究開発事業である。
これは社会インフラ整備のための研究である。当該事業には約 10 億円の資金規模、5
年間の期間を要するものであり、インフラ整備という事業内容からして民間企業の事業に
はなじまない。
ここ 10 年来のバブル崩壊後の日本の経済環境の変化をみると、製造コスト削減を求め
て製造業の海外進出が進み、海外工場でも日本国内と同等の校正サービスが要望されてい
る。また、日本の製造業の伝統的な資材調達・品質保証スタイルである「系列」の崩壊も
進み、企業の資材調達も必要な規格を満たした保証された品質の資材を、世界中からネッ
ト入札、ネット調達する時代に移行している。必要な規格を満たし、品質保証するために
は迅速な計測標準供給、すなわちトレーサビリティ確保が必要である。
従来の標準供給体系である「持ち込み校正」ではこのような要望に十分には対処できず、
社会状況が変われば必要とされる社会インフラもまた変わらなければならない。時代に即
した社会インフラの整備は政府の責任である。さらに計測標準の供給法を近代化する研究
開発事業は、単なる社会インフラ整備とは異なり、日本経済を再生し、次世代日本経済を
活性化するために必要不可欠な戦略的な社会インフラ整備であって、産業界の基礎体力増
強を目指しているものである。これは、国として優先的に取り組むべき課題であり、情報
通信技術を用いた計量器校正情報システムの開発には民間の能力を活用する必要があり、
研究開発のマネジメントの点で NEDO が関与する必要性は明らかである。
1
1.2 実施の効果(費用対効果)
当該事業は、数百ある JCSS(Japan Calibration Service System)の計測標準量目の分野
から 11 量目をえらび、約 10 億円程度の資金規模、5 年間の期間で遠隔校正のフィージビ
リティ・スタディを行うものである。前半期には遠隔校正の要素技術開発と実証実験、後
半期には実用(現場)標準の遠隔校正の実証実験を予定している。このフィージビリティ・
スタディの結果、遠隔校正による不確かさの信頼性問題や、セキュリティ、コストなどの
懸案事項が明らかになり、従来方式との整合性や優位性が確かめられれば順次ほかの計測
標準量目にも拡大されるものと予想される。
当該事業のもたらす効果は次のようなものである。
1)空間的制約の克服(海外立地、遠隔地立地工場でも高度な校正サービスが受けられる)
2)校正時間の短縮による時間的制約の克服(時代の急激な変化への対応)
3)上位標準機関から企業の生産現場、あるいは精密測定現場への直接供給可能になるこ
とによる階層的制約の克服
また、計測標準供給体系も情報化社会の中に組み込むことによって、経営情報を統合的
に提供して経営をサポートする e-commerce と、調達資材および製品の品質・性能をサポ
ートする e-trace は産業界の車の両輪となるものである。おりからの電子政府(e-Japan)計
画にも合致するものである。
本事業は本質的には社会基盤整備のための研究ということもあり、もたらされる日本経
済再生の政策効果を定量的に表現することは難しいが、このような戦略的概念の社会イン
フラを整備することにより、今後の日本経済が再び活性化する基礎になると期待される。
2.事業の背景・目的・位置づけ
本事業の背景と目的
本事業の立案に至った背景は以下の通りである。
1)知的基盤の整備については、
「科学技術基本計画」
(平成 8 年 7 月)、
「経済構造の革新
と創造のための行動計画」
(平成 9 年 5 月)においてその重要性が指摘され、それを受け
て、産業技術審議会と日本工業標準調査会との合同の委員会である「知的基盤整備特別
委員会」(平成 10 年 6 月)において、計測標準、標準物質、化学物質総合管理基盤、人
間生活・福祉関連基盤、生物資源情報基盤および材料関連基盤が選定された。その後、
平成 11 年 12 月の同委員会において、それぞれの分野でトップレベルにある米国並み水
準を 2010 年を目処に達成することが掲げられた。本プロジェクトはその一環として実
施するものである。
2)計測標準分野においては、経済活動のグローバル化にともない、基準認証制度を国際
的 に 整 合 し 、 そ の 評 価 結 果 を 相 互 に 受 け 入 れ る 体 制 ( MRA=Mutual Recognition
Arrangement)の構築が求められており、国内外でのトレーサビリティ制度(計測標準
供給体系)を確立するニーズが高まっている。
3)2010 年までに世界最高水準の計測標準を整備するために、物理標準 250, 物質標準 250
2
の整備計画が進行中であり、2002 年度末で物理標準 153, 物質標準 143 を 整備する予
定である。整備計画がすすむ一方で、国内の計測標準供給体系は従来どおりの階層(ヒ
エラルキー)構造であり、上位の階層のところへ下位の階層の機器を持参し、校正する
仕組み(「持ち込み校正」)になっている。この方式は校正に要する時間を長く要し、校
正料金は生産コストに反映するほど高価であり、階層の下位になるに従って不確かさが
増大(精度が劣化)する。また、海外に進出した工場に対する計測標準供給サービスは
無いので、海外工場で生産した測定機器などの製品は一度日本に持ち込んで校正し、そ
れから輸出している例もある。
4)産業界の経済活動の中に情報化が浸透しており、瞬時にマーケットニーズを把握し、
生産調整し、品質を確保し、商取引決済する仕組みを構築している。一企業にあっては
本社と事業部と工場群が世界のどこに位置しようともあたかも隣にあるが如く、
、マーケ
ット情報、資材入手情報、生産計画情報およびその時々の金融情報を交換しあい最適経
営(すなわち利潤最大)をダイナミックに展開できる。このような時代にあって、現在
の計測標準供給体系(「持ち込み校正」)は時代の動向にそぐわないとの認識がある。
[e-trace の背景として、ここ10年の産業構造の激しい変化]
1.バブル崩壊後の日本の経済環境の変化
--- 製造コスト削減を求めて製造業の海外立地
--- 日本の製造業の伝統的な資材調達・品質保証スタイル(系列)の崩壊
--- 海外工場でも日本国内と同等の校正サービス要望
2.国内製造業空洞化
--- 組み立て加工分野の海外移転(「モジュラー化」の進展)
--- 国内の企業は、たゆまぬ技術革新により付加価値の高い分野の優位性確保が必要
--- 付加価値の高い分野は精密計測を要し、精密計測は計測標準を要する
3.電子化決済の普及(e-commerce)
3.電子化決済の普及
--- 単に決済のみでなく、金融面での統合的経営ツールに発展。
--- 決算処理の時間短縮。関連企業や取引先企業とのリアルタイム連携
--- 金融面のみでなく、マーケットリサーチや生産計画とリンク
4. ヨーロッパ発のGlobal
Standard
ヨーロッパ発の
に乗り遅れると市場を失う危機感
5)近年、情報通信技術は格段に進歩している。セキュリティの問題を抱えながらもイン
ターネットは日常の通信手段になっており、全地球測位システムは本来の軍用目的以外
にも利用されており、日本ではカーナビゲーションで親しまれている。時間軸の光通信
技術は日本が世界中で最も進んでいると言っても過言ではない。このような先進的な情
報通信技術を標準供給システムに活用し、遠隔校正が可能になれば上記3)
、4)の問題
解決に十分資することが可能である。
3
6)しかしながら、遠隔校正は不確かさの信頼性問題や、セキュリティ、コストなどの懸
案事項が多くあり、一挙にすべての計測標準量目を遠隔校正にするにはリスクが大きい。
各分野にわたっていくつかを選択し、フィージビリティ・スタディののち、確かに上記
期待に応え得るものであることが実証されたならば順次適用すべきと考える。
7)諸外国の動向は以下の通りである。
・米国においては、NIST を中心に SIMnet と称する遠隔校正の研究が進みつつある。
(SIM は Interamerican Metrology System からとったもので、net は internet を介し
た校正という意味。)SIMnet は現段階では NIST で校正済みの直流電圧、電流、抵抗な
どの測定機能をもったデジタルボルトメータ(DVM)を中南米諸国を巡回させ、各国の
標準との比較結果をインターネットで NIST に報告させている。しかしながら、情報通
信網のサイバーテロに備えて NIST のインターネット・セキュリティのファイアウール
は著しく厳密になり、このために中南米諸国との校正結果のやり取りに支障が生じてい
る。
・ドイツでも PTB において、e-Calibration という遠隔校正プロジェクトが企画され、
日本の e-trace プロジェクトを追走している。
・イギリスにおいては、e-Metrology というプログラムがあり、NPL において高周波ネ
ットワークアナライザの校正キットを認定事業者に送り、その校正結果をインターネッ
トを介して NPL に送付させ、その結果が適切な範囲内にあれば校正証明書をインターネ
ットを介して送付するというサービスを実施している。それ以外の量目については、NPL
独自ではなく EUROMET として GPS を介した時間・周波数標準供給を行っている。
これら諸外国の動向は 2003 年 4 月に英国 NPL から発行予定の”Report to the National
Measurement System Directorate, Department of Trade & Industry” の中の ”Survey
of International Activities in Internet-enabled Metrology” に記載されている。
以上の時代背景認識をもとに、計測標準供給方法を近代化し、産業界のニーズに合った
標準供給法の確立、さらに言えば単なる社会インフラ整備としてではなく、日本経済の活
性化をもたらし、再生するために必要不可欠な戦略的な社会インフラ整備としての次世代
計測標準供給法の確立が本事業の目的である。
4
本事業の位置付け
前節にも述べたように、本事業は「知的基盤整備特別委員会」
(平成 10 年 6 月)において
選定された計測標準の整備計画の一環であり、具体的には JCSS の標準供給体系を近代化
しようとするものである。これは、おりからの電子政府(e-Japan)政策とも合致する。
本事業は、産業技術に関する研究開発体制の整備に関する法律(昭和 63 年法律第 33 号)
第 4 条第 1 項に基づき実施するものである。その意図するところは、最新の情報通信技術
を応用して計測標準の遠隔校正技術を開発し、従来のトレーサビリティ制度の難点であっ
た空間的制約の克服(海外進出した工場にも日本国内と同等の校正サービスを提供)、時間
的制約の克服(迅速な校正サービスの実現)
、量目によっては階層的制約の克服(国内に残
った企業はより一層の高付加価値を要求されるので、上位標準機関から企業の生産現場、
あるいは精密測定現場への直接供給可能)、かつ校正料金を低減しようとする試みであり、
日本経済の再生という戦略的概念をもった社会インフラ整備を実現しようとするものであ
る。ただし、遠隔校正は不確かさの信頼性問題や、セキュリティ、コストなどの懸案事項
が多くあり、一挙にすべての計測標準量目を遠隔校正にするにはリスクが大きいので、い
くつかの分野の計測標準を選んでフィージビリティ・スタディの後に順次適用する予定で
ある。
5
II.研究開発マネジメントについて
1.事業の目標
日本経済の活性化をもたらし、再生するために必要不可欠な戦略的な社会インフラ整備
としての計測標準の確立のために計測標準供給方法を近代化する目標達成のために、周波
数に関連するグループと関連しないグループの計測標準とに分けて、計測標準の遠隔校正
(遠隔供給)の研究開発と実証実験を実施する。
周波数に関連するグループは世界に先駆けた先進的な計測標準供給体系の開発であり、
技術的に難しく長期にわたる困難な技術開発と実証実験を必要とする。光ファイバ網を使
う標準供給については全光交換機を介在しないと全国至るところまでは伝送できないが、
光ファイバ網は着実に進展している。全光交換機が配備されるまでは、関東地域とか関西
地域とかのローカル光ファイバ網の範囲から実施することが考えられる。
周波数に関連しないグループの多くの量目に関しては、前期(平成 13 年度‐平成 15 年
度)で国家標準機関から認定事業者への遠隔校正実証実験まですすみ、後期(平成 16 年
度、17 年度)では産業界への実用計測標準のための遠隔供給技術開発まで進む予定である。
信頼性の検証とともに現行の計量法の観点からも整合性の検証が必要である。
[e-traceの目指すもの --- 標準供給の革新]
1.JCSS制度の補完
1.
制度の補完
--- JCSSは従来型標準供給体系(階層構造&手渡し)。e-traceによる供給体系の近代化
2.計測標準供給体系を情報化社会への組み込み
2.計測標準供給体系を情報化社会への組み込み
--- 情報化社会の中にあって、計測標準供給体系も情報化社会の中に組み込まなければ
産業インフラ足りえない。
--- 産業にとって、金融面から経営をサポートする e-commerce と、調達資材の品質および
製品の品質・性能をサポートするe-traceは車の両輪たるべき。
3.時間的制約の克服(時代の急激な変化への対応)
--- 校正時間の短縮
--- 周波数にリンクする物理量はリアルタイム校正(測定の前後での校正も可能)
4.空間的制約の克服(海外立地、遠隔地立地工場でも高度な校正サービスが受けられる)
4.空間的制約の克服(海外立地、遠隔地立地工場でも高度な校正サービスが受けられる)
--- 仲介器としての空間を伝播する電波
--- 仲介器として光通信ファイバを伝播する光波
--- 運搬環境変化に強い(robust)物理的仲介器の開発および運搬環境モニタ
5.階層的制約の克服
--- 標準供給の階層性(ヒエラルキー)による不確かさの増大を排除するために、トップから
最終ユーザに直接供給を可能にする(電波や光波の伝播性を利用)
6.標準に基づいた高精度計測
6
2.事業の計画内容
2.1 研究開発の内容
前節に述べた目標を達成するために、以下の周波数に関連するグループと関連しないグ
ループの遠隔校正技術開発と実証実験を平成 13 年度から 17 年度にわたって実施する。
1)
周波数に関連したグループ
・ GPS 信号を媒介とした時間・周波数標準の遠隔供給
・ 上記で遠隔供給された周波数をもとにした(ジョセフソン効果に基づく)直流電
圧
・ モードロックド・ファイバレーザによる光周波数標準およびマイクロ波周波数標
準を光ファイバ通信網により供給
(モードロックド・ファイバレーザの光周波数はアセチレン分子振動にロックされ、
かつコム(高調波信号群)は遠隔供給された周波数信号にロックされている。)
・ モードロックド・ファイバレーザによる光周波数標準をクリスタル・ファイバで
可視光に変換し、干渉計の光源に用いて長さ標準の遠隔供給
すなわち、周波数は最も正確な物理量であり、かつ空間を伝播できる特性を利用して
GPS 衛星からの信号の届く範囲に遠隔供給できる。この特性と量子力学的性質を組み合
わせることにより、周波数に関連付けられる物理量(直流電圧やそれに関連する物理量
など)の計測標準を遠隔供給できる。また、モードロックド・ファイバレーザを組み合
わせることにより、光ファイバ網を通じて光波長に関連する物理量(長さなど)を遠隔
供給できる。空間伝播と光ファイバ網伝播は補完関係にあり、いわば二重の伝送網をも
つに等しい。対象とする計測標準量目は、時間・周波数、光周波数、長さ、ジョセフソ
ン電圧標準。このような先進的な有機的標準供給概念は日本が最初である。
7
[ 周波数を基にした標準供給スキーム ]
光ファイバ
アセチレン吸収にロック
世界時
(UTC)
GPS Time
周波数標準
空間伝播
H14,15年度
実証実験
H16,17年度
産業界へ普及
する研究
H13,14年度
1 V系実証実験
H15,16,17年度
10 V系実証実験
周波数・時間標準
1.5 µm 帯域モードロ
ックド・レーザによる
光周波数標準
+
Comb周波数
(マイクロ波、ミリ波)
+
(時刻)
モードロック・ファイバ
レーザ(H13,14,15年度)
光(多重)波長標準
マイクロ波、ミリ波
周波数標準
時刻(近い将来)
長さ標準
(干渉計)
(フェムト秒コム)
電圧標準
H16, 17年度は100 km以上の距離で
実証実験を予定
電圧に変換できる
物理量
世界的にみても、このような先進的標準供給の構想はまだ実現されていない。
8
2)
周波数に関連しないグループ
計測標準量目の多くは周波数に関連しない物理量である。このグループは1)のよう
に有機的供給は出来ないので、遠隔校正のために量目ごとに輸送環境に対して丈夫
(robust)な移送標準器(仲介器)開発が主要な開発テーマである。移送標準器を長距離輸
送した場合、輸送途中の温度、湿度、振動、加速度などの環境変化により、その特性が
変化し不確かさが増大することが国際比較においても指摘されている。丈夫な移送標準
器のみならず、その輸送中の環境をデータ集録し、被校正事業対象者は荷物到着時にそ
のデータをインターネット経由で上位標準機関にフィードバックする。上位標準機関は
その移送標準器が校正に使用可能か否かを判断し、使用可能であると判断されたならば
遠隔校正を実施した結果を上位標準機関にインターネット経由で送付し、その結果が期
待される範囲内であるならば上位標準機関は校正証明書をインターネット経由で被校正
対象者に送付するという一連の手順を踏む。対象とする計測標準量目は、AC/DC、放射
能、三次元、温度、流量、力学標準(圧力標準)
。
[ 周波数を基にしない量の標準供給スキーム ]
④ 移送標準器(transfer standard)の返却および
国立標準機関または認定事業者での再校正
③ インターネット経由で校正証明書発行
国立標準機関 &
認定事業者
② インターネット経由で校正データ、
不確かさ評価送付
① 校正済み移送標準器(transfer standard)の輸送 および
輸送環境データ集録(到着時にそのデータをインター
ネット経由でフィードバック)
輸送環境に対して丈夫(robust)な移送標準器開発
[AC/DC、放射能、三次元、温度、流量、力学標準]
9
産業界での校正
基本計画の個別研究開発の具体的内容と中間目標および最終目標を以下に示す。
(1)時間標準
GPS 受信機を介して独立行政法人産業技術総合研究所(以下、
「AIST」という。)の原子
時計標準と遠隔地の原子時計の時刻及び周波数を高精度で比較するシステムの開発を行い、
各種遅延効果等による不確かさの評価を行う。この結果を元に、インターネットを介した
遠隔校正により二次標準器の校正システムを確立する。
中間目標:GPS を介して AIST の標準原子時計と遠隔地の標準原子時計との間において、不
確かさ 10 ns 以内の比較を行う。
最終目標:国家標準による二次標準器の遠隔時間校正をこのプロジェクトで開発されたシ
ステムを使って、測定時間1日に対し 10-12 以下の不確かさで達成する。
(2)長さ標準
①波長
アセチレン安定化レーザとモード同期ファイバレーザを用いることで、波長 1.5 µm 帯
の光通信帯において、
広帯域で高精度な光周波数計測のための光コムの開発を行う。また、
光ファイバを利用して周波数標準・波長標準の供給を行う際の技術的課題を検討する。具
体的には、モード同期レーザの繰り返し周波数の高純度化・安定化(光コムの"目"の高精
度化)
、周波数の安定化(光コムのドリフトの抑制)
、光コムを光ファイバを通して伝送す
る場合の信号劣化の評価、およびその対策など、技術的検討を行う。
また,高調波モード同期に特有なスーパーモード雑音とレーザ発振線幅およびスペクト
ル変動との関係を明確にする。更に、温度・振動などによる共振器長の変化および励起パ
ワーの変動による線幅の変化を把握する。これらの実験を通じて狭線幅化の主要パラメー
タを抽出し、更なる狭線幅化を目指す。次に、位相同期法を用いて超高安定なシンセサイ
ザに共振器の繰り返し周波数をロックし、これにより超高安定な光コムを実現する。
中間目標:通信帯の光コムの制度評価を行う。光コムの目にあたる繰り返し周波数がどれ
ほどの精度を持つかを、すでに精度評価されている非線形光学素子を用いたパ
ッシブな光周波数コムを用いて評価する。また、モード同期ファイバレーザの
狭線幅化(目標:線幅が 1 kHz 以下であること)及びモード同期ファイバレー
ザの繰り返し安定化(目標:安定度が 10-10 以下であること)を行う。
最終目標:光コムと波長安定化光源とを組み合わせて不確かさ 10-10∼10-11 の光周波数計
測システムを確立する。また、線幅 10 Hz 以下、繰り返し周波数の安定度 10-12
以下のモード同期ファイバレーザを開発する。
②光ファイバ応用
数十nm以上のブロードなスペクトルを光源とする精密な低コヒーレンス干渉計を開発
し、それらを光ファイバで連結することによって、ブロックゲージ干渉計の光ネットワーク
化を実現する。実際に、標準研究所の長さ用干渉計とユーザが保有するブロックゲージ干渉
10
計とを光ファイバで連結し、遠隔で精密な校正技術を確立する。
中間目標:異なる二点間にある測長用低コヒーレンス干渉計を 3 km 長の光ファイバで連結し、
標準研究所の長さ標準によって実用長さ標準器を遠隔で絶対校正する光波干渉技術
を開発し、0.1 µm/5 cm の測定不確かさを実現する。
最終目標:異なる二点間にある測長用低コヒーレンス干渉計を 3 km 長の光ファイバで連結し、
標準研究所の長さ標準によって実用長さ標準器を遠隔で絶対校正できる標準供給シ
ステムを開発し、0.2 µm/1 m の測定不確かさを達成する。また、フェムト秒パル
スレーザのモード間ビートを利用した距離測定技術を開発し、光ファイバを用いた遠
隔校正法によって 0.5 ppm の測定不確かさを達成する。
③He-Ne レーザ
従来アナログ素子により構成されていたヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの制御系を
コンピュータ・ネットワークとの親和性に優れたデジタル制御方式に置き換えるとともに
(前期)、インターネットを介した制御および動作状況のモニタリングが行えるシステムを
確立する(後期)。
中間目標:ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザデジタル化従来アナログ素子により構成さ
れていたヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの制御系をコンピュータ・ネット
ワークとの親和性に優れたデジタル制御方式に置き換える。
最終目標:インターネットを介したヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの制御および動作
状況のモニタリングが行えるシステムを確立し、不確かさ 10-11 を達成する。
(3)電気標準
①直流
液体ヘリウムを使わない SNS 型 NbN ジョセフソン接合集積技術、GPS 信号から復元した
基準周波数、およびインターネットを介して装置の条件設定やデータ伝送などを構成要素
とした遠隔校正電圧標準システムを確立する。
また、単電子トンネル接合素子による電流量子標準の実現の可能性を検討する。AIST
と認定事業者間で同システムによる校正試験を行う。
中間目標:平成 14 年度末までに1V プログラマブル電圧標準用ジョセフソン接合アレー
チップ及び冷凍機システムを開発する。また、単電子トンネル接合素子による
電流量子標準の実現の可能性を検討する。
最終目標:商用電源が利用できる地球上の任意の場所において電圧標準の供給を可能にす
るため、GPS周波数を基準として利用し10 K冷凍機による動作が可能なジョセ
フソン電圧標準システム(電圧:最大10 V)を確立し、不確かさ0.1 ppmを達成
する。
②交流
交流電圧標準の遠隔校正における信頼性の向上を目的として、ファスト・リバース DC
方式を用いたインターネット対応型 AC-DC トランスファー標準用校正装置を開発する。
また同装置を用いて、AIST と日本電気計器検定所等の認定事業者や海外の標準研究所と
11
の間において、インターネット及び仲介標準器を介した遠隔校正試験を行なう。
中間目標:AC-DC トランスファー標準の供給においては,実験室レベルで不確かさ 10 ppm
の校正精度を達成する。
最終目標:遠隔校正(2-5 V, 10 Hz – 1 MHz)を実施して最高不確かさ 10 ppm(1 kHz)
の校正精度を達成する。
(4)放射能標準
インターネットを利用した双方向画像通信技術と遠隔操作技術を利用し、長半減期の安
定した基準線源を参照とする加圧型電離箱システム等の遠隔校正技術を確立し、個々の線
源の輸送に伴う煩雑な手間とリスクから解放された、基準線源を標準仲介器として用いた
安全でしかも広い供給範囲を持つ、放射能標準供給体制を確立する。
中間目標:他所の特定二次用加圧型電離箱の遠隔校正を、不確かさ 0.3 %以内で実施する
とともに、ガス状放射性核種の標準確立のため、放射性ガス絶対測定システム
を構築する。
最終目標:通常の標準核種の他、医療用の短半減期核種やガス状放射性核種などの移動困
難な放射線源、及び Ge 検出器などの移動困難な特定二次用測定機器の遠隔校
正について、不確かさ 0.3 %以内を達成する。
(5)三次元測定機測定標準
インターネットを利用した、遠隔操作による三次元測定機の測定の不確かさの算出、な
らびに仲介標準器を用いた幾何学誤差測定法を確立する。また、外国標準機関との間で遠
隔不確かさ決定の実証を行う。この技術を確立することにより、三次元測定機を使う多く
のユーザがトレーサブルな測定を行うことができる体制を確立する。
中間目標:AIST の所有する 2 台の三次元測定機を使用して、お互いの測定機をネットワ
ーク経由で遠隔操作できる技術を確立し、実証実験を行う。AIST の外部にあ
る AIST と同機種の測定機を使用して、ネットワーク経由で遠隔操作できる技
術を確立し、実証実験を行う。
最終目標:三次元測定機の不確かさを算出するために必要な基礎データを、ネットワーク
を利用して遠隔操作により測定し取得するシステムを確立する。具体的には、
AIST の内部・外部にある AIST と同機種・異機種の三次元測定機に対応した
システムを確立する。また遠隔校正による不確かさは 3 µm / 1m を達成する。
(6)流量標準
国家標準大型流量試験設備を用いて遠隔地からインターネットを利用して流量計の校正
を行うために必要な計測制御技術と評価技術を開発する。
中間目標:流量標準の遠隔校正で拡張不確かさ 0.1 %(包含係数2)を達成するために必
要な装置の構成並びに構成要素の仕様を明らかにし、遠隔地までのデータ転送
の予備実験を行う。
最終目標:AIST北センターの国家標準大型流量試験設備を用いて、遠隔地からインターネ
ットを利用してAIST第3事業所及び民間企業からの遠隔校正を行い、口径50∼
12
150 mmの流量計を10∼300 m3/hの流量範囲において拡張不確かさ0.1 %
(包含係数2)の遠隔校正を達成する。
(7)温度標準
660 ℃までの温度域に対して、耐振動性に優れる高性能抵抗温度計の開発及び評価を行
う。1100 ℃までの温度域に対して、温度分布依存性の小さな純金属熱電対の開発及び評
価を行う。これら2つの温度計を仲介標準器として用い、ネットワークを利用した遠隔技
能試験技術を確立する。
中間目標:(1)現状の標準白金抵抗温度計について、衝撃・振動による温度計校正値に対す
る影響を定量的に評価する。(2)個々の熱電対について炉の温度分布の違いに起
因する温度測定の不確かさを評価するための熱電対温度分布特性評価炉を開発
し、影響の定量的評価を行う。
最終目標:(1) 輸送環境に対して丈夫な仲介抵抗温度計(不確かさ 0.004℃)の開発を行い、
移送実験による性能確認を行なう。(2) 温度分布の影響を低減できる純金属熱
電対(不確かさ 1100℃において 0.2℃)を開発し、事業者間模擬技能試験を行う。
(8)力学標準
デジタル圧力計の性能評価と利用技術の開発による高精度化、及び、遠隔校正システム
の構築と自動遠隔校正プロトコルの開発により、電子式デジタル圧力標準遠隔設定システ
ム(気体圧力:10 kPa∼1 MPa,液体圧力:1 MPa∼100 MPa)を確立する。また、国家標準
に基づく 1 kg を基準とし自動分量・倍量機能を持った質量標準遠隔設定システムを開発す
る。
中間目標:圧力標準遠隔校正システムの実験モデルを試作し、AIST の内部でネットワー
クを利用して実証試験を実施する。
最終目標:デジタル圧力計を用いた圧力標準遠隔校正システムによる標準供給の技術開発
と実証を行う。具体的には、デジタル圧力計の性能評価と利用技術の開発によ
る高精度化、及び、遠隔校正システムの構築、自動校正プロトコルの開発と実
証を行う。不確かさは、気体圧力標準については 10 k-1 MPa の圧力範囲にお
いて 0.02 %、液体圧力標準については 1 M-100 MPa の圧力範囲において
0.05 %を達成する。また、国家標準に基づく 1 kg を基準とし自動分量・倍量
機能を持った質量標準遠隔設定システムを開発し、
不確かさ 0.5 mg を達成する。
13
2.2 研究開発の実施体制
企業,大学,民間研究機関,あるいは独立行政法人等が,共同研究契約等を締結して研
究体を形成し、研究体には研究開発責任者を置き,その下で産学官の研究者が協力して効
果的な研究開発を実施する.
また,計測標準の公的一貫性及び共通基盤性を確保するために,本プロジェクトで開発
される校正技術は国家計測標準にトレーサブルでなければならず,実施に当たっては,責
任を有する公的機関(独立行政法人 産業技術総合研究所(以下、
「産総研」という.)
)と
密接に協力し、目標の達成にあたる。
1)実施体制
経済産業省
補 助
NEDO
委 託
研究体
研究開発責任者
運営委員会
(産総研 吉田春雄)
分野1 分野2(1) 分野2(2) 分野2(3) 分野3(1) 分野3(2) 分野4 分野5 分野6 分野7 力学標準 産総 研
温度標準 産総 研
流量標準 産総 研
三次元測定標準 産総研/東京電機大/浅沼技研
放射能標 準 産総 研
電気標準 交(流 ) 産総研 / サンジェム
︶産総研
He-Neレーザ
電気標準 直(流 ) 産総 研
長さ標準 ︵
長さ標準 光(フ ァイバ ー ) 産総 研
長さ標準 波(長 ) 産総研 /東北 大 時間標準 産総 研
14
分野8
2)研究開発の実施場所
①独立行政法人産業技術総合研究所(最寄り駅:JR 常磐線荒川沖駅)
〒305-8563 茨城県つくば市梅園 1-1-1
②東北大学電気通信研究所(最寄り駅:東北本線仙台駅)
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1
③株式会社サンジェム(最寄り駅:JR 小海線 龍岡城駅)
〒384-0412 長野県南佐久郡臼田町田口 4731
④東京電機大学(最寄り駅:営団地下鉄千代田線新御茶ノ水駅)
〒101-8457 東京都千代田区神田錦町 2-2
⑤株式会社浅沼技研(最寄り駅:JR東海浜松駅より車20分)
〒431-1103 静岡県浜松市湖東町4079−1
3)研究開発責任者 吉田
春雄 (産業技術総合研究所 計測標準研究部門)
4)研究開発担当者名簿(申請時)
テーマ
1.時間標準
担当者(*テーマリーダ)
*福山康弘、萩本
所 属
憲、中段和宏、池上
健
産業技術総合研究所
計測標準研究部門(NMIJ)
2.長さ標準
(1)波長
*大苗
敦、奥村謙一郎(非常勤職員)
共同研究
東北大学電気通信研究所
*中沢正隆、吉田真人、崔
(2) 光 フ ァ イ
NMIJ
森悦(大学院生)
*松本弘一、藤間一郎、平井亜紀子
NMIJ
*石川
育、伊藤信彦
NMIJ
3.電気標準
*吉田春雄、小柳正男、桐生昭吾、岩佐章夫
NMIJ
(1)直流
共同研究
バ応用
(3) ヨ ウ 素 安
純、稲葉
肇、平野
定化 He-Ne
レーザ
彰、山森弘毅、石崎真弓(非常勤職員) 産業技術総合研究所
東海林
エレクトロニクス研究部門
(2)交流
*佐々木
仁、高橋邦彦、藤木弘之
共同研究
臼田
4. 放 射 線 標
NMIJ
(株)サンジェム
稔、小野田信一
*檜野良穂、工藤勝久、瓜谷
章
準
15
NMIJ
5. 三 次 元 測
定機
測定
標準
*黒澤富蔵、高辻利之、大澤尊光
NMIJ
共同研究
東京電機大学工学部精密工
古谷涼秋
学科
共同研究
浅沼技研
柴田政典、今澤宣幸
6.流量標準
*高本正樹、寺尾吉哉、嶋田隆司
NMIJ
7.温度標準
*新井
NMIJ
優、井土正也、岸本勇夫、山澤一彰、
小倉秀樹
8.力学標準
*大岩
彰、平田正紘、米永暁彦、秋道
斉、
NMIJ
藤井雄作、上田和永
2.3 研究開発の運営管理
経済産業省及び研究開発責任者と密接な関係を維持しつつ,本プロジェクトの目的及び
目標に照らして適切な運営管理を実施する.必要に応じて,技術審議委員会及び技術検討
会等,外部有識者の意見を運営管理に反映させる他,四半期に一回程度研究開発責任者等
を通してプロジェクトの進捗について報告を受けること等を行う.
また、研究体内に、学界,産業界を含め 11 人の委員からなる運営委員会を設置し、運
営に関する助言を得ること等を行う.
運営委員会の名簿
氏 名
所
属
運営委員長
中村 一則氏
古川電工(株)研究開発本部 主査
委員
大園 成夫氏
東京電機大学工学部精密機械工学科 教授
鹿熊 英昭氏
(株)アカシ 取締役技術部長
中川 脩一氏
(株)横河総合研究所 社長
小谷 泰久氏
経済産業省 産業技術環境局 知的基盤課長
濱野 径雄氏
NEDO 研究開発業務部長
中沢 正隆氏
東北大学電気通信研究所 教授
臼田 稔氏
(株)サンジェム 技術部
古谷 涼秋氏
東京電機大学工学部精密機械工学科 教授
柴田 正典氏
(株)浅沼技研 テクニカルセンタ 上級主事
吉田 春雄氏
(独)産総研 計測標準研究部門 総括研究員
16
3.情勢変化への対応
3.1 事前審査コメントへの対応
本事業開始前の事前審査においてテーマ全体および個別テーマに対するコメントをいただ
いた。それらのコメントに対して本プロジェクトでは以下の方針で対応している。
知的基盤 13年度「計量器校正情報システムの研究開発」(e-trace)技術審査委員会
事前審査議事録ダイジェストとプロジェクトの状況 (1)
プロジェクト全体についての事前審査員コメント
現在のプロジェクトの状況、方針
1. 日本のトレーサビリティーは国の機関と民間の繋がりがよ
くない。また、精度もわるく、日本の弱点になっている。
ニーズより、日本のトレーサビリティをどうしたら良いか
の視点が欲しい。
基本計画作成をしっかりしなくてはならない。
日本の計測標準全般にかかわるご指摘である。
整備計画は順調に進んでおり、世界最高レベルの
標準をJCSSとして2002年度末で物理標準153, 物質
標準156整備する予定。中・長期計画前倒し実現。
e-traceの目的はトレーサビリティー体系の近代化。
2. 国のプロジェクトという観点が強く、産業界が参加しにくい。
国のプロジェクトとしてe-traceの問題点を洗い出し、
いくつかの成功例をつくってから、産業界と連携して
より多くの量目の遠隔校正スキームを作りたい。
3. 開発期間に5年も必要ないような提案が多い。成果前倒し
を目指し、ぐずぐずやっているプロジェクトは打ち切りす
べき。
特に困難な開発課題を除いて、基本的に機器開発
および実証実験は3年で終える。
3年で終了するものは終了し、別テーマに変える方針。
4. ネットワーク関係者の参加が少ない。
ネットワーク関係者の参加が少ないことは、我々の弱
点であるが、産総研のTACCや外部企業への相談な
どで対応している。
5. トレーサビリティの2次、3次標準にも力を入れて欲しい。
後期(16,17年度)は2次、3次標準を取り上げる予定。
17
事前審査議事録ダイジェストと個別テーマの状況 (2)
テーマ
評価
コメント
1.時間・周波数
A-
1) 開発に5年は不要。早く完成を。
2) 産総研とのトレーサビリティ必要
機器開発および民間企
業との間で実証実験
2.長さ標準
1)光波長
A
1) 開発に5年かかるだろう。
大学と共同でモードロッ 光/周波数標準を100 km
クド・ファイバレーザ開発 遠隔校正実証(室内実験)
A
1) 国内の光ファイバ網は電気を介
在する。この部分をパスする必
要あり
タンデム型干渉計開発。
3 km伝送実証
遠距離は光交換機の実
用時期にあわせる。
0.1µm/5cmの不確かさ
実現(端度器校正)
端度器を100 km以上
遠隔校正実証(室内実験)
民間協力でデジタル・
インターフェイス開発
終了し、社会へ
2)光ファイバ
応用
前期(H13-15)方針
2)0.1µm/mよりもう1桁高精度要
後期(H16,17)方針
時間・周波数標準JCSS
にて遠隔供給。低コスト。
フェムト秒パルスレーザに
よる長さ遠隔校正追加予
定。
3)He-Neレーザ
A-
1) アナログからデジタルへの変換
はすぐ対応可。5年は長い。
2) 遠隔校正とは直接関係ない
3.電気標準
1)直流(プログラ
マブル電圧標準)
A
1) 素子の作り方がポイント
1 Vプログラマブル電圧標
10 Vプログラマブル電圧標
2) 1Vでなく10 Vを狙うべき
準開発と遠隔校正実証
準開発と遠隔校正実証。
3) 単電子トンネル素子は他予算で
(デバイスの開発要素大)
2)交流(AC/DC)
A
1) 開発期間5年は長い。早く完成を。
2) 遠隔校正に関するアイデア必要
18
民間企業と共同で機器
開発および実証試験。
(主な機器開発終了)
JEMICへ供給開始。海外
との遠隔校正実証試験。
インダクタンス遠隔校正
追加予定。
事前審査議事録ダイジェストと個別テーマの状況 (3)
テーマ
評価
コメント
前期(H13-15)方針
4.放射能
標準
A
1) 技術的面白みは少ないが、
トレーサビリティで意味あり。
2) 早く完成させるべき
3) ネットワークに持ち込むまで
が重要。外部に委託しては?
1) 特定二次加圧型電離
箱を不確かさ0.3%で遠
隔校正。
2) ガス状放射能絶対測
定システム構築。
5.三次元測定
標準
A-
1) ISOに関連して必要度が高く
タイムリー
2) 研究要素が少ない
1) 大学、民間と共同で、
同機種、異機種間でも
遠隔校正実証
6.流量標準
A-
1) 産業界のニーズ大
2) 開発目的がはっきりしない
技術的面白みが少ない
北センタの大型石油流量
標準を遠隔操作し、不確
かさ0.1 %で校正
7.温度標準
A-
1) 産総研で前から行われてい
る
2) 遠隔校正という意味がある
3) 早く完成させるべき
前期に、輸送環境に対し
て丈夫な仲介抵抗温度
計、温度分布の影響を低
減できる仲介熱伝対温度
計の機器開発。抵抗温度
計の輸送実験と熱電対温
度計の技能試験実施
8.力学標準
(圧力標準)
A-
1) 2次標準にも力を入れて!
2) 標準器の取り扱い者の技能
にも着目すべき
デジタル圧力計を校正し、
AIST内のネットワークで
圧力遠隔校正実証
19
後期(H16,17)方針
1) 海外との放射能遠隔
校正実証試験。
2) 医療用の短半減期放
射能などの一般機器に
遠隔校正追加予定。
前倒し終了し、社会へ
1) 前倒し終了。
2) 自己校正機能つき現
場用遠隔校正流量計
追加予定
前倒し終了し、社会へ
前倒し終了。
3.2 一般的情勢変化への対応
運営委員会の指導の下に、
情勢変化には柔軟に対応して研究開発を進める。具体的には、
計測標準を必要とする産業界の社会情勢の変化、新たな技術の進展、組織替えや退職など
にともなう担当人員の変化などに対応する。
最も大きな変化は計測標準を必要とする産業界の社会情勢である。日本経済の停滞が
年々著しくなり、人件費などの高コスト構造に耐えかねて製造業の多くは中国やベトナム
などに工場を移転する動きが止まらない。前節でも述べたように、現状では海外に進出し
た企業は生産物を一度日本に持ち込み、校正してから製品として国内あるいは海外に出荷
するケースが多い。進出先の多くは途上国であり、その国では必要とする計測標準の供給
が行われていない場合が多いからである。それらの海外進出企業は現地において国内と同
等の校正サービスを切望している。現地で校正し、そこから直接第三国へ輸出可能になる
からである。
一方、国内に残った企業はより精度の高い、付加価値の高い製品を作らなければ生き残
れない時代になりつつある。その意味では、産業界としては現行の計測標準供給体系の下
で数段階の階層を経て不確かさの大きい計測標準を受け取るしかない、というのでは時代
の要請に逆行する。必要ならば、国立標準研究所から直接に企業の生産現場に供給すべき
である。すなわち、本プロジェクトは一刻も早く実証実験を終え、そこで顕わになった問
題点を解決して実用に供することが求められている。
新たな技術の発展も大きな情勢変化である。幸いなことに、日本はデジタル通信技術、
光通信技術、携帯電話に見られるような小型化技術、i モードに見られるようなアプリケ
ーション、GPS をカーナビゲーションに利用する技術など、通信技術の先進国である。こ
の技術を計測標準供給に利用できるならば、我々は大きなメリットを享受できる。我々の
テーマの中には「周波数に基づく標準」というカテゴリーがあり、GPS 信号を媒体とした
周波数の遠隔校正、その校正された周波数を基にしたジョセフソン電圧標準、その校正さ
れた周波数を基にした光周波数コム信号とアセチレン共鳴信号にロックした光周波数信号
の組み合わせによる校正された光周波数を光通信用ファイバで遠隔地に伝送できる。また、
それを干渉計の光源に用いることにより、長さ標準の遠隔校正にも変換できる。光ファイ
バ網は着実に進展しているものの、全光交換機の実用配備までにはまだ時間がかかるが、
それまでの間は関東地域や関西地域などのローカル光ファイバ網での遠隔供給が実現でき
る。
ともあれ、我が国が通信技術の先進国であるというメリットを十分に生かして、最新通
信技術を取り込み、本プロジェクトの課題である「速く、安く、どこにでも」計測標準を
供給する技術開発を進める。
20
4.今後の事業の方向性
本事業を取り巻く環境
1)計測標準供給体系の近代化に対して産業界のニーズが高い。海外に進出した企業は
国内と同等の校正サービスを要望し、国内に残った企業はより高精度の校正サービ
スを要望している。
2)産業技術総合研究所では計測標準整備を進めており、多くの量目が網羅される。
多くの計測標準が整備されても、標準供給体系が従来通りでは供給が滞ってしまう。
本方式は、標準を供給する側にとってもメリットがある。
3)本方式は最新の通信技術を使うが、日本は通信技術の先進国であり、本事業成功の
土壌がある。
4)世界の状況
日本以外では組織だった標準供給近代化のための研究開発は行われていない。米国
の SIMnet はデジタルボルトメータ(DVM)を巡回させる方式であり、中南米から
のデータは著しく厳密な NIST のインターネット・セキュリティのファイアウール
により排除される問題を抱えている。ドイツでも PTB では e-Calibration という遠
隔校正プロジェクトを企画して日本を追走している。イギリスにおいては、
e-Metrology というプログラムで NPL が高周波ネットワークアナライザの遠隔校
正を始めたところである。
以上の本事業をとりまく環境から判断して、本事業の実用化に対する社会的ニーズは高い
と言える。
今後の事業の方向性
事業の期間を前期(平成 13 年度‐平成 15 年度)と後期(平成 16、17 年度)に分けて、
1)前節の社会情勢の変化を受けて当初案では 5 ヵ年計画であったものを出来る限り前期
で前倒し実現するように努め、実証実験の終了したものから順次標準供給を開始する。
標準供給を開始したテーマで解決し得た問題点は、次に供給開始するテーマにフィー
ドバックし、順次改良を重ねる。
2)より産業の現場に近い標準にも e-trace の概念を生かせるものは後継テーマを設定し、
後期に技術開発を実施する。
3)技術困難課題は後期まで技術開発を継続する。
具体的には波長標準、光ファイバ応用、10 V プログラマブルジョセフソン電圧標準。
4)本プロジェクトで得られた知見は広く公開し、ほかの標準量目の遠隔校正実現のため
に協力する。
5)e-trace に参加している量目以外に e-trace 化できる対象を探すことによって、標準
供給体系における e-trace 概念の広がりを示し、第二のプロジェクトを検討する。
(JCSS の標準整備計画に載っている多くの標準量目を対象にする。
)
6)実用化、事業化にあたっては、どの階層からでも標準供給を受けられるようにしてお
21
けば、標準供給を受ける側の産業界は自らのビジネス目的に応じて必要な計測標準供
給を受けることが出来る。たとえば、本当に高度な計測標準が必要であれば、それな
りのコストを払えば生産現場に国家標準レベルの計測標準を取り入れることも可能で
ある。国立標準研究所から基本的な標準量を認定事業者に供給し、認定事業者はそれ
を基に顧客の要望する範囲拡大や個別製品で必要とする組み立て標準量を開発すれば
ビジネス・チャンスは増える。また、供給する計測標準の不確かさ、供給時間、料金
などの組み合わせでビジネス形態の自由度が増える。すなわち、計測標準のインフラ
整備とともに、受けて側、送り手側に自由競争原理が働き、選択自由度が増す。これ
が日本経済活性化につながる。
e-trace テーマの前期、後期予定
前期(H13~15)
後期(H16,17)
1.時間標準
2.長さ標準
1)波長
2)光ファイバ応用
3)He-Ne レーザ
3.電気標準
1)直流(PJVS)
2)交流(AC/DC)
4.放射能標準
5.三次元測定機標準
6.流量標準
7.温度標準
8.力学標準
ここで
は機器開発と遠隔校正実証を意味し、
での実用標準の遠隔校正開発を意味する。
22
は下位階層ま
5.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法および実施時期
国の定める技術評価に係る指針及び技術評価要領に基づき,技術的及び産業技術政策的
観点から,研究開発の意義,目標達成度,成果の技術的意義ならびに将来の産業への波及
効果等について,NEDO に設置する技術評価委員会において外部有識者による研究開発の
中間評価を平成 15 年度,事後評価を平成 18 年度に実施する.なお,評価の時期について
は,当該研究開発に係る技術動向,政策動向や当該研究開発の進捗状況等に応じて,前倒
しする等,適時見直すものとする.
23
III.研究開発成果および実用化、事業化の見通しについて
1.事業全体の成果
進捗と今後の進め方
本事業は平成 13 年度より 5 年の研究開発期間を予定しているが、現時点では発足後約 2
年を経過したところであり、いまだ研究開発途上にある。しかし、事前審査員の指摘を受
けて全体的に計画を前倒し実施している。すなわち、
「長さ標準」の「波長標準」や「光フ
ァイバ応用」、「電気標準」の「直流」などの技術的困難度の高い数件の課題は 5 年間の研
究を続けるものの、そのほかの課題は前期(平成 13 年度∼平成 15 年度)に国立標準研究
機関から第一階層認定事業者を対象とした遠隔校正の要素技術開発と実証実験を終え、そ
の後は、あるものは実際に遠隔校正による標準供給を実施し、あるものはより産業現場に
近い実用標準までの遠隔校正課題に取り組む予定である。本方式の利点は多いが、実際に
運用するとなると隠された問題点も多い可能性があり、本課題の中で出来る限りデバッギ
ングして対応策を確立したのち、その他の標準量目にもこの概念による標準供給を進める
考えである。現時点での事業全体の成果としては、標準供給の近代化を具体的に提案し、
世界に先駆けて具体的なプロジェクトとして走らせていることである。
標準供給体系近代化の提案
ここ 2 年の間に e-trace の技術開発と実証実験を重ねつつ、国内外で遠隔校正による標
準供給法の近代化について提案し、以下の広報活動を行ってきた。
[海外]
1)2001.7.03 PTB(ドイツ)にて e-trace 講演(吉田)
2)2002.3.25 CSIRO/NML(オーストラリア)にて e-trace 講演(吉田)
3)2002.5.15 KRISS(韓国) にて e-trace 講演(吉田)
4)2002.6.22 NRC(カナダ)Watt balance Warkshop にて e-trace 講演(吉田)
5)2002.6.25 NIST(米国, Gaithersburg)にて e-trace 講演(吉田)
6) 2002.9.28 NPL(英国) Joint BIPM-NPL Workshop:The Impact of Information
Technology in Metrology にて e-trace 講演(吉田)
[国内]
1) 2003.1.09 日本学術会議標研連
2) 2003.1.16 JEMIMA 大型プロジェクト委員会
3) 2003.1.23 計測標準フォーラム
4) 2003.1.17 日本経済新聞 15 面
5) 2003.3.05 計量 100 周年記念講演会予定
6) 2003.4.10 TEST2003(周波数を使わない「e-trace」関連のセミナー)
産業界としては期待が大きいという感触である。
また、学会活動なども以下のように予定している。
1) H16 年春の応用物理学会に e-trace シンポジウム企画
24
2) 国際会議 CPEM, CLEO などに e-trace セッションを設けるよう働きかけ
3) APMP 国際比較に e-trace 方式採用提案
4) JICA/NIMT に e-trace 方式採用提案
以上に述べたように、現時点では開発途上であり、遠隔校正による実際の標準供給の実
績はまだ無いが、標準供給体系の近代化を旗印にして世界に先駆けて具体的なプロジェク
トとして走らせ、その概念の広報活動を活発に行っている。
世界を見渡してもこのように組織だった標準供給近代化のための研究開発は行われてい
ない。米国の SIMnet はデジタルボルトメータ(DVM)を巡回させる方式であり、中南米
からのデータは著しく厳密な NIST のインターネット・セキュリティのファイアウールに
より排除される問題を抱えている。ドイツでも PTB では e-Calibration という遠隔校正プ
ロジェクトを企画して日本を追走している。イギリスにおいては、e-Metrology というプ
ログラムで NPL が高周波ネットワークアナライザの遠隔校正を始めたところである。計
測標準には純粋な度量衡学としての研究、貿易の自由を保障するための国際比較、標準供
給体系などの分野があるが、標準供給に関しては依然として進展がなく、e-trace を発展さ
せることにより日本はこの分野で世界をリードできると考えられる。
開発した技術の引き受け先
本プロジェクト終了後に本プロジェクトで開発した遠隔校正技術の普及先(受け手)は
一義的には JCSS の一次および二次認定事業者であるが、国家標準により産業界の生産現場
の測定機器を遠隔校正する場合もあるから最終校正先も含む。また、外国校正機関との間
で遠隔校正することもあるので、外国の標準機関がこの技術の引き受け先となることもあ
る。
25
2.研究開発項目ごとの成果、実用化、事業化の見通しについて
2.1 時間標準遠隔校正技術の開発
2.1.1 研究開発成果
本テーマでは、GPS 信号を介した時間周波数の遠隔校正のシステム開発および実証実験
を行っている。図1に概念図を示す。
GPS衛星
被校正器物
被校正器物とGPSの
時刻比較データ
インターネット
原子時計
時間周波数校正依頼者
産業技術総合研究所
(GPSを介した) 原子時計と
被校正器物の比較・校正データ
図1 GPS を用いた時間周波数の遠隔校正概念図
時間周波数の遠隔校正を行うためのシステム開発を行うにあたり、まず、その不確かさ
の見積もりを行った。表1の直接測定の不確かさから計算されるとおり、遠隔測定におけ
る不確かさは参照発振器の不確かさに測定の不確かさを加えたもので、総合的な最高測定
能力を 1×10-13 とするためには、GPS を用いた周波数測定を 9.3×10-14 よりも小さな不確
かさで行わなければならないことがわかった。
ところで、GPS で時刻比較を行う際には衛星とアンテナ間の距離が既知である必要があ
る。つまり、任意の位置の衛星との距離を知るためには、アンテナの位置が既知である必
要があり、その見積もりの誤差は測定の不確かさに影響を与える。実際にはアンテナの位
26
置を正確に知ることは非常に難しく、図2ならびに図3に示すように、GPS 衛星搭載の時
計と手元の発振器との間の時刻差は、GPS 衛星の位置、すなわち、その方位角や仰角との
間にある種の相関がみてとれる。これは、アンテナ位置の決定精度と共に、GPS 衛星から
の信号が対流圏で伝播遅延する量が仰角により異なることにも影響している。そこで、過
去のデータから GPS 衛星の位置に対して相関をもたなくするようなアンテナ位置を求め、
その数値を採用することで、図4と図5に示すように測定の不確かさが改善された。この
ことは、結果的に、衛星からの信号の伝播経路に存在する対流圏の長さも考慮されたモデ
ルを採用したといえる。
このようにして得られたデータから実際に被測定器物の安定度を計算すると、図6のよ
うなアラン標準偏差が得られる。この安定度は測定の不確かさに起因する量の他に被測定
器物である発振器自身の安定度なども含まれる。今後、この量からその両者を分離して評
価し、測定の不確かさの算出を行う予定である。
GPS コモンビュー方式を使った周波数測定を行う際には2箇所で得られる比較データ
を使って、その差から値を求める必要がある。遠隔校正を行う観点からいえば、ユーザ側
から産総研側にデータを送信しなければならない。その仕組みにはインターネットを用い
ることとしたが、汎用性をもたせるため、そのシステムはユーザ側のインターネット環境
に依存せず、また、セキュリティにも配慮したデータの送信技術を確立する必要がある。
そのための仕組みとして、ウェブページをブラウズするために用いられるTCP/IP
ポートを利用して、双方向の通信を行うためのソフトウェアシステムを開発した。このシ
ステムが稼動するための条件は、外部のウェブサーバに対してアクセスが可能であること
のみであり、汎用性のあるシステム開発に成功した。その概略を図7と図8に示す。
以上まとめると、衛星からの信号の対流圏による伝播遅延量の推定を含む、GPS アンテ
ナ位置の推定システムを開発し、測定の不確かさを小さくしたことと、測定データの送受
信システムを構築したことが主な成果である。その結果、最終的な遠隔計測の際の不確か
さの目標にはまだ及ばないものの、当該年度までの目標は達成しており、さらなる検討と
システムの改善を経て最終目標を平成15年度中に達成する見込みである。
表1.直接測定の測定不確かさ
測定方法による不確かさ
スタートパルスのジッタ Δtstart
( <1ns ) 分配増幅器のマニュアルより
タイムインタバルカウンタの分解能
100ps タイムインタバルカウンタのマニュアルより
ストップパルスのジッタΔtstop
( <1ns ) 被校正器物による
位相ノイズとスタートパルスのスリ
( <<1ns ) マニュアルと実測より
ューレート
測定方法による不確かさ
(Δtstart 2+Δtstop 2)1/2/T
27
T: 測定時間
↓
3.9x10-13 (T=1h)
6.5x10-14 (T=6h)
(次の値を仮定した
Δtstart =1ns,
Δtstop =1ns)
3.2x10-14 (T=12h)
2.2x10-14 (T=18h)
1.6x10-14 (T=24h)
参照発振器の不確かさ
3.5x10-12 ((τ
τ=10s)
8.5x10-13 (τ
(τ=100s)
13
2.7x10
(τ
(τ=1000s)
参照発振器のマニュアルより
8.5x10-14 ((τ
τ=10000s)
14
2.7x10
(τ
(τ=1d)
1.0x10-14 (τ
(τ=5d)
1.0x10-14 ((τ
τ=30d)
1.0x10-14 (Flicker floor)
UTC の SI に対する不確か
最新の Circular-T より
2x10-14
最新の Circular-T より
さ
UTC(NMIJ)の UTC に対す
る不確かさ
2.4x10-14
UTC(NMIJ)の
UTC(NMIJ) の SI に対する
不確かさ
200
100
0
時刻差[ns]
に対して
SI
1x10-14
-100
-200
-300
-400
-500
-600
0
45
90
135
180
225
方位角[度]
270
315
図2.GPS 衛星の方位角との関係
28
360
200
100
時刻差[ns]
0
-100
-200
-300
-400
-500
-600
0
10
20
30
40 50 60
仰角[度]
70
80
90
図3.GPS 衛星の仰角との関係
時刻差(アンテナ位置修正前)
9.620E+07
9.610E+07
9.600E+07
9.590E+07
1日
9.580E+07
9.570E+07
図4.アンテナ位置修正前の時刻差データ
時刻差(アンテナ位置修正後)
9.650E+07
9.640E+07
9.630E+07
9.620E+07
9.610E+07
1日
9.600E+07
9.590E+07
図5.アンテナ位置修正後の時刻差データ
29
周波数安定度
相対周波数
1.E-10
1.E-11
1.E-12
1.E-13
1.E-14
1.E+04
積算時間 [s]
1.E+05
1.E+06
図6.遠隔測定で得られた被校正器物(ルビジウム原子時計)の
セシウム原子時計に対する安定度
GPS受信機
制御用PC
ID:TF00XX
プ
ロ
セ
ス
管
理
プ
ロ
グ
ラ
ム
比較データの取得
RS-232C
比較スケジュールのセット
シリアル通信
時刻データの取得・時計あわせ
比較データの送信
比較スケジュールの受信
プログラムのバージョンアップ
その他コマンドの受信
図7.ユーザ側システム
30
擬
似
ブ
ラ
ウ
ザ
プ
ロ
セ
ス
httpプロトコルで
インターネットへ
ID:TF00XX
サーバPC
ウ
ェ
ブ
サ
ー
バ
デ
ー
フォーム
タ
データ・
処
理
変
換
プ
ロ
テキスト
グ
ラ
ファイル
ム
処理用PC
データ処理
比較データ
ログ
更新された
周波数
周波数値
安定度
・不確かさ
保守用の プログラム 比較スケ
コマンド
ジュール
図8.産総研側システム
【論文・解説】
なし
【口頭発表】
1)Time and Frequency Remote Calibration Service using GPS and the Internet, Yasuhiro
Fukuyama*, Ken Hagimoto, and Takeshi Ikegami, ATF2002, Daejeon, Korea,
2002.11.06
2)
「GPS を利用した時間周波数の遠隔校正」福山康弘, 萩本憲, 中段和宏, 池上健, 計測
研究会, 2002.01.25
3)「GPS を利用した時間周波数の遠隔校正」福山康弘, 時間標準分科会, 2002.02.19
4)
「時間周波数の遠隔校正技術の開発」福山康弘、 第3回産総研 計測標準総合センター
講演会, 2002.11.21 pp.1-16
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.1.2 実用化、事業化の見通しについて
1)実用化、事業化の見通し
時間周波数の遠隔校正システムの開発は平成14年度までに、必要な要素の開発を終え
ており、不確かさ評価の再検討の後、平成15年度からは遠隔校正サービスを開始する予
定である。これは当初に計画していた予定よりも前倒しであるが、プロジェクト全体とし
てみた場合、時間周波数は他のいくつかの量を組み立てるためにも必要であり、早くにそ
31
のサービスを立ち上げることは、プロジェクト全体が成功するためにも必要である。
2)今後の展開
一方、現在開発を進めている GPS コモンビュー方式の遠隔校正は、装置が高価なことか
らユーザが負担しなければならないコストも高くなることが見込まれ、広く普及するか否
かについて必ずしも肯定的ではない。そこで、計画の当初には盛り込まれていなかった GPS
従属発振器を用いた遠隔校正サービスの検討をはじめており、今後この方式によるシステ
ムの開発を行う予定である。この方式は GPS コモンビュー方式に比べて不確かさは大きく
なるものの、ユーザにとっては設備投資としてコスト的な負担も少ないため、より広く普
及することが見込まれる。平成17年度までに時間周波数の遠隔校正は、不確かさとコス
トによって差別化した2つの方式によってサービスを行う予定である。
32
2.2 長さ標準遠隔供給技術の開発
長さ・波長のパラダイム
標準研
社会・産業界への貢献
標準のリーダーシップ
波長
I. 波長標準器
精度10-11〜10-12
・国際標準機関
・認定事業者
光ファイバー
・効率的標準供給
II. 光クロック
精度10-11〜10-12
+
III. タンデム低コヒーレンス干渉
・標準に基づいた計測
長距離伝送
100 km以上
・精度
I.
10-7〜10-8
II. 10-11
精度10-7 〜10-8
III. 10-7
コストの低減
2.2.1 長さ標準遠隔供給技術の開発:波長
2.2.1.1 研究開発成果
2.2.1.1.1 長さ標準遠隔供給技術の開発:波長 (産業技術総合研究所)
(1)要約
波長 1.5 µm の光通信帯での超短パルスを発生させるモード同期ファイバレーザを用い
て、”光のものさし”の“目”にあたる繰り返し周波数の制御・安定化方法を検討し、市販
のレーザを改良することで、基準として用いたシンセサイザーの安定度と同程度に安定化
することができた。また、分散フラットファイバを用いて”光コム”の広帯域化について
の予備的な実験を行った。ファイバンプを用いて出力を増強することにより、分散フラッ
トファイバ中での非線形効果をおこすことにより、はじめ波長 1.5 µm 付近のみのスペク
トルであったものが、波長 1.3 µm∼1.7 µm までのスペクトルの広がりを確認することが
できた。また、アセチレン分子の飽和吸収を利用した安定化レーザと光コムを組み合わせ
ることで、通信帯Cバンド内での光周波数計測システムを試作し、市販の安定化レーザの
特性を評価した。このシステムとしての不確かさは基準とするアセチレン安定化レーザの
再現性で決まり、光周波数で 100 kHz ( 5×10-10)である。現在、2つの光周波数のもの
さしの比較を行い、システムの不確かさの最終的な評価を行っている。
33
(2)本文
一般にモード同期レーザから発せられる超短パルスは、光周波数軸上で捕らえると、図
1のようにほぼ等間隔に並んだモード(レーザ発振線)の集合体となる。ひとつひとつの
モードを櫛の歯に見立てて、これを“光コム(Comb)”と呼ぶことがある。あるモードの
光周波数f(n)は、パルスの繰り返し周波数f(rep.)と大きな自然数n(n= 4,000,000)、
さらにオフセット周波数f(0)を使い
非常に簡単に表すことができる(図1の
式参照)
。もし、この光コムに、周波数未
知fxの連続発振レーザ光を重ねると、
近傍のモードとビート(うなり)周波数
(fx−f(n))が観測される。もし、
周波数既知のレーザについても同じよう
にビート周波数を観測すれば、2つのレ
図1. 光(周波数)コム
ーザの光周波数差を決定することができ
る。この原理を使えば、光コムはまさに
光周波数軸上における“光ものさし”と
いえる。
我々は、光ファイバをもちいた光周波
数(波長)標準の伝送、供給を目標とし
て、波長1.
5μmの光通信帯において、
モード同期ファイバレーザを用いてこの
光のものさしを実現するシステムを開発
している。光のものさしの目にあたる間
図2.ドリフトする繰り返し周波数
隔(パルスの繰り返し周波数でもある)
はすでにかなりの程度安定であるが、
周囲温度変化などによるレーザ共振器
長の変化により変動する。図2にレー
ザをつけてからの繰り返し周波数の変
動を示す。
高精度の光のものさしとするためには
この間隔をさらに安定化させる必要が
ある。モード同期ファイバレーザの共
振器の一端に圧電素子(PZT)を装
図3 繰り返し周波数の安定化
着し、繰り返し周波数が一定になるよ
うに制御をかけた。繰り返し周波数を
高精度のシンセサイザーの周波数と比
較し制御することにより、ほぼ基準の
34
シンセサイザーと同程度の安定度を
得ることができた。図3にこの様子を
示す。明らかに極めて安定になってい
るのがわかる。このような安定度は通
常、観測する時間(積分時間:τ)の
関数としてアラン分散σy(τ)と呼
ばれる量で評価する。図4に結果を示
す。これより我々のモード同期ファイ
バレーザは、光のものさしとして極め
て高精度なものとなっていることがわ
かった。
次に、光のものさしの範囲を拡大す
図4 繰り返し周波数のアラン分散
ることを目的として、分散フラット光フ
ァイバと光ファイバアンプを用いること
により、光コムのスペクトルの広帯域化
について予備的な実験を行った。図5に
示すように光スペクトラムアナライザで
の観測により 1.3 μm∼1.7 μmまでの
スペクトルの広がりを確認することがで
きた。
しかし、まだこのデータだけでは、
スペクトルすべての領域で各モードがは
図5 スペクトルの広がり
っきり分かれているか(すなわち、連続
光源と重ねたときビート周波数が観測できるか)わからない。現在、いくつかの部分でス
ペクトルの特性をさらに調べる実験を準備中である。
(本実験で使用した分散フラット光フ
ァイバは東工大大津研究室の興梠元伸氏より提供を受けた。
)
平成14年度では、アセチレン分子の飽和吸収に周波数安定化された半導体レーザとモ
の光コムを組み合わせて通信
帯のCバンド(1530 nm ∼
1565 nm)において光周波数
測定システムを試作した。図
6に示すように光周波数コム
を光のものさしとして利用す
ることにより2つの安定化レ
HCN安定化レーザの光周波数 -
仕様にあるノミナル値 (MHz)
ード同期ファイバレーザから
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0
20
ーザの差周波数を測定するこ
とができる。ここで、安定
40
60
80
100
時間 ( 1 点 = 10 sec )
図6
光周波数コムを用いた2つの安定化レーザの差
化レーザ1をアセチレン安
35
定化レーザ、安定化レーザ2を被測定対象となる光周波数(波長)未知の安定化レーザと
すれば、図の中の式で示すような関係が
あるので、繰り返し周波数、
2つのビート周波数、基準と
なるアセチレン安定化レーザ
の光周波数から被測定対象の
光周波数(波長)を決定でき
る。
アセチレン安定化レーザが
9桁∼10桁の基準となるこ
とがわかっているのでこれを
基準として、市販されている
高精度な HCN 安定化レーザの
光周波数測定を行った。被測
図7.アセチレン安定化レーザを基準とし、光周波数
定対象の安定化レーザには、
コムをものさしとして測定した市販の安定化レ
安定化のために、光周波数に
−ザの光周波数(波長)測定例
10 MHz 程度の変調幅で周波数
変調がかかっているために、
もう1台のバッファ・レーザ
を用意する等の工夫をする必
要があったが、光周波数が測
定できることが確かめられた。
図7は測定データの例である。
温度の変化に依存すると考え
られる 150 kHz 程度のドリフ
ト、市販の安定化レーザの安
定度を反映した 50 kHz 程度
のばらつきがあることがわか
図8
2つの光周波数コムを使った周波数計測の
不確かさの評価実験
る。また、測定対象の製品仕
様では 10 MHz の不確かさとなっていたが、測定したレーザについては仕様に示されたノ
ミナル値から 400 kHz 程しかずれておらず、充分に 1 MHz の中に入っていることがわかっ
た。このような高精度の評価は、通常の市販されている波長計(5桁∼6桁)では全く不
可能である。また、もし波長計測で8桁∼9桁の測定を行うとすれば、大きな真空層や大
口径の光学系、干渉計が必要となる。波長計測から光周波数計測に移ることにより、装置
の小型化、システムの簡素化、高精度化などが極めて有効に行えることがわかった。
現在、モード同期ファイバレーザからの光コムが「光のものさし」としてどれだけ正確
かを確認するために、もう一つ別のものさしとの比較実験を遂行中である。電気光学結晶
36
にマイクロ波(MW)をかけることで、その結晶への入射光に多くのサイドバンドを立て
ることのできる(受動的な)光コム発生器がごく最近製品として開発された。今年度その
製品を購入し、モード同期ファイバレーザから発生される光コムとの比較を行っている。
図8にその原理を示す。安定化レーザを2つ用意し、2つの光のものさしを使いその光周
波数の差を同時に測定すれば、異なるものさしの目(繰り返し周波数)のものさしの比較
ができる。これにより、ビート周波数などを測定するためのトラッキングオシレータ、フ
ィルター、アンプ、カウンタなども含めてトータルシステムとしての比較測定の不確かさ
を見積もることができる。
アセチレン安定化レーザの再現性、周波数比較システムの不確かさ、被測定安定化レーザ
の測定のばらつきなどから、校正結果の不確かさを総合的に評価できる。
【論文・解説】
1)Optical frequency standard at 1.5 μ m based on Doppler-free acetylene
absorption:A. Onae, K. Okumura, K. Sugiyama, F. -L. Hong, H. Matsumoto, K.
Nakagawa, R. Felder, O. Acef、 Proceedings of the 6th symposium on frequency
standards and metrology (SSFSM),pp.445-452、World Scientific、 2002.
2)「標準用安定化レーザの現状と将来」:洪 鋒雷、石川 純、大苗 敦、光学 31 巻、
12号、pp.856-863、2002 年.
3)「時間の単位の仲間、周波数の単位「ヘルツ」」:大苗
敦、Science & Technology
Journal 7月号、pp.54-56、2002 年.
4)光通信帯の光周波数(波長)標準の開発:大苗 敦、AIST Today(産総研広報誌)2003
年 3 月号 テクノインフラへ掲載予定。
【口頭発表】
1)Optical frequency standard at 1.5 μ m based on Doppler-free acetylene
absorption:A. Onae, K. Okumura, K. Sugiyama, F. -L. Hong, H. Matsumoto, K.
Nakagawa, R. Felder, O. Acef、 The 6th symposium on frequency standards and
metrology (SSFSM)、St. Andrews, U. K. September, 9-14, 2001.
2)An accurate optical frequency measurement system at telecommunication
region :
A. Onae, K. Okumura, K. Sugiyama, F. -L. Hong, J. Ishikawa, H.
Matsumoto, K. Nakagawa, R. Felder, O. Acef 、 Conference on Precision
Electromagnetic Measurements (CPEM 2002), Ottawa, Canada, 16-21, June 2002.
3)Development optical frequency standards in the 1.5 micron region for WDM
optical communication system:K. Nakagawa and A. Onae、International Union
of Radio Science XXVIIth General Assembly (URSI), Maastricht, Netherland,
17-24, August, 2002.
4)「アセチレン分子の飽和吸収を用いた波長1.5μm 帯の光周波数標準」
:大苗
敦、
奥村謙一郎、杉山和彦、洪鋒雷、松本弘一、中川賢一、レイモンド・フェルダー、オ
ウアリ・アシェフ 応用物理学会 2002 年春 28p-ZG-2.
37
5)「超短パルスレーザによる光周波数計測」
:大苗 敦、第19回センシングフォーラム
2002 年 9 月 17 日
TC3-1
慶應大.
6)「通信帯の光周波数標準」
:中川賢一、大苗 敦、応用物理学会 2002 年秋 新潟大
2002 年 9 月 24 日.
7)「通信帯での光周波数標準の開発」
:大苗 敦、第3回 NMIJ 講演会(全科展)
、東
京ビックサイト、2002 年 11 月 21 日.
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
38
2.2.1.1.2 長さ標準遠隔供給技術の開発:波長(東北大学電気通信研究所)
パルスレーザ出力光の繰り返し周波数を周波数標準として利用することを目指して繰り
返し周波数安定化パルス光源の研究開発を行った。この周波数標準供給光源の開発にあた
って光源が以下の仕様を満たすことに留意した。
(a) 光ファイバ伝送路を用いた情報の遠隔供給を実現するために、光源の波長が光通
信波長 1.5 µm 帯であること。
(b) 長時間にわたり安定な光パルスが出力できること。
(c) 供給信号に高い周波数確度を得るためにパルスを構成する各縦モードのスペクト
ル線幅が十分狭いこと(中間目標:1 kHz 以下)。
(d) 繰り返し周波数が数 10 GHz と高く実用的であり、かつその周波数安定度が十分
高いこと(中間目標:1×10-10 以下)
。
本研究では、上記の仕様を満足する光源として繰り返し周波数が 10 GHz の高調波再生
モード同期ファイバレーザの研究開発に取り組んだ。まず、レーザ共振器を構成し、その
出力パルス信号波形を観測した。発振
条件を最適化することによりパルス幅
が数ピコ秒と短く、かつジッタ雑音が
90 fs と非常に小さい高品質な光パル
ス出力を得た。次にそのパルスを構成
する縦モードの線幅測定を行った。こ
れまでに本モード同期ファイバレーザ
の線幅測定に関する報告例はなく、本
研究では新たに線幅測定系を考案・構
成した。その測定の結果、本レーザの
発振線幅は 250 Hz 以下であることを
初めて明らかにした。市販の DFB 半
導体レーザの発振線幅は数 10 kHz∼
図1
数 MHz であるのに対し、本レーザは
高調波再生モード同期ファイバレーザの
構成
極めて狭線幅なパルス光源であること
を明確にした。現在、
位相同期法を用いた共振器長の制御回路をレーザ共振器内に導入し、
レーザ出力パルスの繰り返し周波数の高安定化に取り組んでいる。
(1)高調波再生モード同期ファイバレ
ーザの構成および出力特性
図 1 に高調波再生モード同期エルビウムファイバレーザの構成を示す。本レーザは、光
通信波長 1.55 µm 帯に利得特性を有する偏波保存エルビウムファイバ(PM-EDF)をレーザ
媒質として利用し、偏波保存分散シフトファイバ(PM-DSF)、30%の出力カップラー、偏
波保存型アイソレータ、LN 強度変調器、帯域 5 nm の波長可変光フィルターおよび励起
光を合成するカップラーから構成されている。レーザの励起光源には 1.48 µm 帯半導体レ
39
ーザを使用している。本共振器を構成する各光素子の役割は以下のとおりである。共振器
内のファイバは全て偏波保持ファイバを使用し、偏波変動による不安定性を抑えている。
PM-DSF は長さ 200 m で分散値 3.4 ps/km/nm の異常分散をもち、ソリトン効果により
出力パルス幅を短くするために使用している。また、高調波モード同期動作時に固有の問
題であるスーパーモード雑音を抑制するためにもこのソリトン効果と光フィルターを組
み合わせて利用している。
本レーザは以下のように動作する。レーザの出力の一部を光受光素子、Q 値が高い狭帯
域電気フィルター(Q>1000、中心周波数=10 GHz)
、および電気増幅器からなるクロック
抽出器に入力する。
クロック抽出器より 10 GHz 付近の正弦波のクロック信号を抜き出し、
光パルスとクロック信号間の位相を調整し、増幅後、強度変調器に印加する。基本周波数
の整数倍に一致した 10 GHz 付近のクロック信号は、変調周波数と光パルスの繰り返しが
完全に一致するため、安定なパルス発振が徐々に強められる。この過程が繰り返されるこ
とにより、再生モード同期が達成される。再生モード同期ファイバレーザは温度変動等に
より共振器長が変化し、光パルスの繰り返しが変化しても、光パルスの繰り返しに一致し
た周波数で常に変調を行うため、長時間にわたって安定なパルス発振動作が実現できる。
図 2 にレーザの励起電力に対する(a)出力電力および(b) 出力パルスの時間バンド幅積を
測定した結果を示す。図 2(a)に示すように 8 mW 以上の励起電力でレーザは発振し、その
0.4
Bandwidth-pulse width product
Output Power
[mW]
5
発振しきい値=8
4
3
2
1
0
図2
0
10
20
30
40
50
0.35
0.3
0.25
0.2
15
20
25
30
35
40
45
Pump Power [mW]
Pump Power [mW]
(a)
(b)
レーザの励起電力に対する(a)出力電力および(b)出力パルスの時間バンド幅積の関係
スロープ効率は約 9.5 %であった。また図 2(b)より励起電力が 27.5 mW において時間
バンド幅積は 0.315 であり、このときトランスフォームリミットな sech 型パルス(基本
ソリトンパルス)出力が得られることがわかった。このソリトンパルス出力光の諸特性を
図 3(a)~(d)に示す。図 3(a)は自己相関計で測定した出力パルス波形である。この自己相関
波形から求めたパルス幅は 2.5 ps であった。図 3(b)に光スペクトル波形を示す。中心波長
は 1556.825 nm、スペクトル幅は 1.00 nm であり、10 GHz に相当する縦モード(モード
40
間隔は 0.08 nm)がはっきり見られた。図 3(c)および(d)にクロック信号のスペクトル波形
およびその周辺の雑音強度スペクトル波形を示す。図 3(c)に示すように 10 GHz のクロッ
ク信号の周りに信号成分は観測されず、スーパーモードや余分な雑音は 70 dB 以下に抑圧
された。また図 3(d)の雑音強度スペクトルより出力パルスのジッタを算出するとその値は
90 fs であり、非常に低雑音で品質の高い光パルスであることがわかった。
以上のように、ソリトン効果および再生モード同期技術を用いてパルス幅が数 ps と短
く、かつジッタが 100 fs 以下の高品質な 10 GHz の繰り返し光パルス信号を発生すること
に成功した。
10 dB/ div
Intensity [dBm]
0
2.5 ps
-10
1.00 nm (123.7 GHz)
-20
-30
-40
-50
1555
1556
1557
1558
1559
Wavelength [nm]
(a)自己相関波形
1.9 ps/div
(b)光スペクトル波形
10 dB/div
Noise power [dBc/Hz]
-50
-70
-90
Timing jitter= 90 fs
-110
-130
-150
10
10
2
10
3
10
4
10
5
10
6
Frequency offset [Hz]
2 MHz/div
(c)10 GHzのクロック信号のスペク
トル波形
(d) クロック信号の周りの雑音強度スペク
トル波形
図 3 レーザの出力特性
41
(2)レーザの発振縦モード線幅の測定
(a)
レーザ出力パルスの繰り返し周
(b)
f
f
波数を標準信号として利用する際
に、その信号の周波数確度・純度は
レーザの発振縦モード線幅に強く
依存する。そのため本開発において
その縦モード線幅を正確に評価す
(c)
ることが重要である。図 4 に我々が
る縦モード線幅の測定系を示す。測
f
図4
定には 2 台の高調波再生モード同
0
期エルビウムファイバレーザ(ML
-10
ザ(Laser1)の発振縦モードを透過
スペクトル帯域が 6 GHz である超
0
Laser1
Power [dBm]
fiber laser)を用いた。一方のレー
ヘテロダイン検波法によるレーザ
の発振線幅の測定系
-20
-30
1555
1557
1558
1559
1555
1556
1557
1558
1559
Wavelength [nm]
(a)
(b)
0
Laser2
-10
Power [dBm]
ーにより構成した干渉計を用いて
1556
Wavelength [nm]
り(CW 光)、もう一方のレーザ
ビート信号を光ファイバカップラ
-30
-50
-50
ィング(FBG)を用いて一本抜き取
(Laser2)からの光パルス信号との
-20
-40
-40
狭帯域ファイバブラッググレーテ
Laser1
-10
Power [dBm]
考案したヘテロダイン検波法によ
-20
-30
-40
観測した。
図 5 に干渉計に入射した光信号
-50
1555
1556
1557
1558
1559
Wavelength [nm]
のスペクトル波形を示す。図
図5
5(a)-(c)はそれぞれ図 4 に示した干
渉計の各位置(a)-(c)における光信号
(c)
干渉計に入射した光信号のスペクトル
波形:(a)-(c)はそれぞれ図 4 の各位置
に対応する
のスペクトル対応している。図 5(b)
より隣接する縦モードと比較して
30 dB 以上の強度比で縦モードを
FBG を用いた縦モード抽出器の実
現によりヘテロダイン検波法によ
る高い精度の線幅測定が可能にな
Linear scale [a.u.]
抽出している様子がわかる。この
1 kHz
った。
図 6 に電気スペクトラムアナライ
ザを用いて観測したビート信号の電
気スペクトルを示す。そのスペクト
5 kHz/div
図6
42
ヘテロダイン検波信号の電気スペクトル波形
ル半値全幅は 1 kHz であり、1 本当たりの縦モード線幅に換算すると 250 Hz 以下と非常
に狭いことがわかった。
(3)繰り返し周波数の安定化
高調波再生モード同期ファイバレーザは長時間にわたって安定にパルス列を発生できる
が、繰り返し周波数が共振器長の変動に応じてわずかに変化し一定にならないという問題
を含んでいる。現在、この問題を解決するために位相同期(PLL)回路をレーザ共
振器に導入し、その繰り返し周波数
を安定化に取り組んでいる。図 7 に
この PLL ファイバレーザの構成を
示す。PLL 回路は外部信号発生器
( Synthesizer )、 位 相 比 較 器
(DBM)、フィードバック制御回路
( Feedback circuits )、 高 圧 電 源
PZT
(High voltage)および電歪素子
(PZT)から構成されている。DSF
の一部が PZT に巻かれており、
PZT
に電圧を印加することにより共振
器長を変化できる。クロック抽出器
Phase
Controller
から出力されたクロック信号と外
Clock
Extraction
Circuit
部信号発生器から出力された信号
の位相差に比例した電圧(誤差電
Synthesizer
圧)を制御信号として PZT に印加
High Voltage
Controller
Feedback
Circuits
する負帰還フィードバック制御回
路を構成し、レーザの繰り返し周波
DBM
図7
PLL ファイバレーザの構成
数を外部信号に同期させる。
(本研究テーマは H15 年度の達成
目標である。)
【論文・解説】
なし
【口頭発表】
1) Longitudinal linewidth measurement of 10 GHz, picosecond mode-locked
erbium-doped fiber lasers using a heterodyne detection method:M. Yoshida, S.
Choi, M. Nakazawa The 9th International Workshop on Femtosecond Technology,
FC-3, Tsukuba, Japan, June 27-28, 2002.
2) 「10 GHz ピコ秒モード同期ファイバレーザの縦モード線幅の測定」:崔森悦, 吉田真
人, 中沢正隆, 電子情報通信学会技術報告, OFT2002-26, pp. 45-50, 2002 年 8 月 22
日.
3) 「10 GHz-ピコ秒高調波再生モード同期エルビウムファイバレーザの縦モード線幅の
43
測定」:崔森悦, 吉田真人, 中沢正隆, 電子情報通信学会 2003 年総合大会, (2003 年
3 月 22 日発表予定)
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.2.1.2 実用化、事業化の見通しについて
1)実用化、事業化の見通し
ファイバによる波長(光周波数)標準の伝送に関する研究において、プロジェクト前期
では波長1.5μm の光通信帯において光周波数コムとアセチレン安定化レーザによる光
周波数計測システムの試作を行い、市販の安定化レーザを評価できることがわかった。こ
の技術をベースに光通信帯(ITU-T Cバンド)での安定化レーザ、波長計の校正サービス
(依頼試験)を行う予定である。
パルスレーザ出力光の繰り返し周波数を周波数標準として利用することを目指した繰り
返し周波数安定化パルス光源の研究開発において、モード同期ファイバレーザの繰り返し
周波数の安定化および発振縦モード線幅の狭線幅化を行い、マイクロ波∼ミリ波帯の高周
波信号源としての実用化を目指す。
2)今後の展開
プロジェクトの後半では、波長校正システムおよびモード同期ファイバレーザの仕様の
最終目標へむけた評価と同時に、光ファイバ伝送路を利用して標準信号を伝送する場合の
信号劣化の評価やその対策について実験をとおして技術的な検討を行っていく予定である。
44
2.2.2 長さ標準遠隔供給技術の開発:光ファイバ応用
2.2.2.1 研究開発成果
(i)タンデム干渉計による長さ情報伝送の実証
二つの干渉計を単一モード光ファイバで直列につなぎ、低コヒーレンス光源を用いたタンデ
ム干渉計で、長さ情報の伝送が精密に行えることを 世界で初めて 提案し、実用長さ標準器校
正への適用を実証した。標準研究所にある干渉計とユーザの持つ干渉計をつなぐことによって、
ユーザが保有する実用長さ標準器を遠隔に校正することができる。実用長さ標準器の輸送が不
要なので、輸送途中の紛失、破損の危険がなくなり、輸送後の温度慣らしの時間も不要であり、
効率的な校正が可能となる。また、将来は光ファイバの分岐・結合を利用した並列校正の可能
性もある。
平成 13 年度に精密な低コヒーレンス光波干渉計を開発すると共に、これらを 10 m 長の
単一モード光ファイバとレンズ系による光入出力装置で連結することによって、図1に示
すようなタンデム干渉計を開発した。この干渉計の光源としてスーパールミネセントダイ
オード(中心波長が約 820 nm、スペクトル幅が約 60 nm)を用いて、二つの光波干渉計の
間で伝送される光の減衰特性、干渉縞パターンの安定性、及びその位相精度を評価した。
また、実用長さ標準器の一つとして最も広く用いられているブロックゲージの遠隔測定の
光学実験を行った。図2に示すように、呼び寸法が 10 mm までのブロックゲージ校正を行
い、0.14 µm の精度を得た。
平成 14 年度には、低コヒーレンス光波干渉計を 3 km 長の単一モード光ファイバと光入
出力装置で連結し、呼び寸法 50 mm のブロックゲージの遠隔測定の光学実験を行った。用
いた光源は上記スーパールミネッセントダイオードで、波長 820 nm 用の単一モードファイ
バを用いた。オフセットを与える第一干渉計で、ステージの長距離移動による光軸ずれを
抑制するために鏡の替わりにコーナーキューブを用い、さらにコーナーキューブの位置を
レーザ干渉計でモニタすることによって、第一干渉計のオフセット量の精度を向上した。
さらに、被測定ブロックゲージの温度や気温、気圧、湿度を測定し、ブロックゲージの熱
Low-coherence
light
BS1
Second interferometer
∆
Optical fiber
BS2
Detector
P
図1
G
Nonlinear deviation [µm[
First interferometer
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
2
4
6
8
10
Nominal length [mm]
タンデム干渉計光学系
P; 基板, G; ブロックゲージ,
BS; ビームスプリッタ
図2測定結果の校正値からのずれ
45
膨張や空気屈折率の変化を補正した。その結果、呼び寸法 50 mm のブロックゲージに対し
て、校正値と測定データとの差 0.07 µm が得られた。現在、検出された干渉縞生成位置の
標準偏差は 0.1 µm であるが、干渉計の断熱性向上やファイバ入出力効率のさらなる最適
化により、今年度中に干渉縞生成位置の検出精度を向上できる見込みである。
外径;
100 µm
空孔間隔; 2.0 µm
空孔直径; 1.8 µm
コア直径; 1.7 µm
図3
Intensity [arb. unit]
(ii)高輝度広帯域光源の開発
3000
output
input
2000
1000
0
500 600 700 800 900 1000
Wavelength [nm]
フォトニック結晶ファイバーによるスペクトルの広帯域化
(a)フォトニック結晶ファイバーの断面図,
(b)フォトニック結晶ファイバーの入出力光のスペクトル
長さ測定精度の向上のためには、光源のスペクトル幅が広い方が良い。また、信号対雑
音比向上のため、パワーの大きな光源が望ましい。近年、光の波長オーダーの構造をもっ
た素子の非線形効果に関する研究が進展著しい。その一つである、フォトニック結晶ファ
イバに超短パルスレーザを入射すると、自己位相変調効果により光のスペクトル幅が大幅
に拡大することが報告されている。本研究では、フォトニック結晶ファイバ出力光の特性
を調べ、(i)のタンデム干渉計の光源としての可能性を検討した。フォトニック結晶ファイ
バ出力光は、それ自体の特性が検証されている段階であり、干渉計等への光源として応用
された報告は、世界的にもまだない。応用分野の立場から特性を評価し、有用性を示すこ
とができれば、フォトニック結晶ファイバの市場を大きく拡げることが期待される。
本研究では、英国バース大学と三菱電線工業株式会社において製作されたフォトニック
結晶ファイバを用いた。超短パルスレーザ(IMRA femtolite, C-20、中心波長 780 nm、ス
ペクトル幅 7.5 nm, 100 fs, 20 mW)をフォトニック結晶ファイバに入射し、出力特性を
評価した。バース大学製のフォトニック結晶ファイバでは、スペクトル拡がりが殆ど見ら
れなかったが、三菱電線工業製のフォトニック結晶ファイバでは、600∼900 nm にわたる
スペクトル幅を持つ約 5 mW の光が出射された。図 3 にフォトニック結晶の断面構造、各パ
ラメータとフォトニック結晶ファイバ入出力光のスペクトルを示す。今後、本手法に有効
な光源として利用するため、フォトニック結晶ファイバ出力光の強度やスペクトル分布の
46
安定性、偏光特性等について、引き続き検討を行っていく。
(iii)低コヒーレンス光のヘテロダイン干渉実験
遠距離送信における信号対雑音比劣化を防ぐため、(ii)では光源の強度向上を目指した
が、一方、光位相変調技術により信号対雑音比を向上する方法も検討している。我々はこ
れまで、波長依存性を補償した低コヒーレンス光のヘテロダイン干渉変調技術を世界で初
めて提案し、形状計測や分光計測へ適用してきた。本研究では、新たに移動回折格子を利
用して、白色光の光周波数をシフトさせる方法を考案した。格子間隔が約 9 µm の位相型
回折格子をステージで移動させることによって約 400 Hz の周波数でのヘテロダイン干渉を
実現し、位相検波・増幅の実験を行った結果、4.47 mW/mm2 の非常に弱いハロゲンランプに
おいて、検出信号の SN 比を7倍向上させることができた。
(ⅳ)外部発表
外部発表
13FY
特許
1件
1. 松本、平井、長さ情報伝送方法、特開 2002-107118
論文・解説
4件
1. 松本、
「光が拓く計測の世界」、O plus E、23
23,
23 96-98(2001).
2. 松本、
「長さ標準」、計測と制御、40
40,
40 585-591 (2001).
3. A. Hirai, L. Zeng, and H. Matsumoto, "Heterodyne Fourier transform
spectroscopy using moving diffraction grating," Jpn. J. Appl. Phys. 40,
40 6138-6142
(2001).
4. H. Matsumoto and A. Hirai, "Transmission of optical length information through
single-mode fiber by low-coherence tandem interferometer," Opt. Eng. 40,
40
2365-2366 (2001).
口頭発表 3 件
1. 平井、松本、
「タンデム干渉法による長さ情報の伝送(II)」、Optics Japan 2001, (東
京、2001 年 11 月 5-7 日).
2. A. Hirai and H. Matsumoto, "Transmission of length information by tandem
interferometry," Australasian Conference on Optics, Lasers and Spectroscopy 2001,
(Brisbane, 3-6 Dec. 2001).
3. 平井、松本、
「低コヒーレンス干渉を利用した光ファイバーによる長さ情報の伝送」、
電気学会計測研究会、(東京、2002 年 1 月 25 日).
47
14FY
特許
1 件出願準備中
1. 松本、平井、
「密着誤差を補正した長さ情報伝送方法」、出願準備中。
論文・解説
1件
1. A. Hirai and H. Matsumoto, "Remote calibration of end standards using a
low-coherence tandem interferometer with an optical fiber", Opt. Commun. 215,
215
25-30 (2003).
口頭発表 3 件
1. A. Hirai and H. Matsumoto, "New remote length measurements with optical fiber
using a low-coherence tandem interferometer," 19th Congress of International
Comission for Optics (Florence, 25-31 Aug. 2002).
2. A. Hirai, D. Lin, C. Tagaki, and and H. Matsumoto, "Novel heterodyne Fourier
transform spectrometer for the NIR region," 19th Congress of International
Comission for Optics (Florence, 25-31 Aug. 2002).
3. 平井、松本、
「低コヒーレンス干渉のヘテロダイン化法の比較」
、Optics Japan 2002,
(東京、2002 年 11 月 2-4 日).
プレス発表
3件
1.
「遠隔での校正が可能に」,日本工業新聞,2003 年 3 月 20 日
2.
「長さ標準器
3.
「「長さ標準器」の遠隔校正に見通し 光ファイバー利用」,科学新聞,2003 年 4
光の干渉現象を利用」
,日刊工業新聞,2003 年 3 月 20 日
月4日
受賞
3件
1. 平井亜紀子、アジア太平洋計量計画飯塚賞(2002.11).
2. 尾藤洋一、平井亜紀子、吉森秀明、、洪鋒雷、大苗敦、岩崎茂雄、瀬田勝男、第 53
回精密工学会論文賞(2003.3).
3. 平井亜紀子、電気学会 A 部門最優秀論文発表賞(2003.4).
IV. 実用化、事業化の見通しについて
1. 実用化、事業化の見通し
長さは七つの SI 基本単位の中でも特に重要な量の一つであり、長さ標準供給の重要
性は非常に高い。現在、JCSS 認定事業者数も多く、特にブロックゲージ(端度器)の
認定事業者数は突出しており、現在も新規申請が続いている状況である。実用長さ標
準器を精密に遠隔校正する技術が開発されれば、市場に対するインパクト、利益は計
48
り知れない。また、現在急速に光ファイバー網の整備が進められており、全光ネット
ワークへ向けての研究開発も活発に行われている。光を応用した遠隔校正のためのイ
ンフラは整いつつある。光通信帯の波長の利用、光源の高輝度化、変調による信号帯
雑音比の向上技術を引き続き開発することにより、遠距離伝送に耐えうる校正技術が
期待できる。
また、ここで開発するフォトニック結晶の応用や広帯域光のヘテロダイン変調技術
は、他の光計測法に適用可能な汎用的な技術であり、半導体などの先端産業関連分野
への寄与も見込まれる。
2. 今後の展開
後期には、民間企業も取り入れ、共同研究による実用化を考慮した上で、より高度
で効率的な実用長さ標準器の校正技術を開発していく予定である。プロジェクト終了
後には、本プロジェクトで開発される波長標準の伝送技術とも組み合わせ、既存光網
を利用して事業所内や地域内での遠隔校正を実証し、事業化を目指す。
メートルの定義による校正の姿(端度器、線度器、干渉計など)
特定標準器(JCSS)
第1低コヒーレンス干渉計
産総研
経済ブロック内
幹線光ファイバー (1
00km程度)
技能試験
基幹認定事業者
第2低コヒーレンス干渉計
機関内の計測
(会社、工場)
第1低コヒーレンス干渉計
光ファイバー
認定事業者
他機関
第2低コヒーレンス干渉計
他機関
機関内の計測 (会社、工場)
49
[基本計画の変更]
最終目標:0.2 µm/1 m の測定不確かさを 0.05 µm/0.25 m に変更する。
理由:0.25 m までの短い方のブロックゲージの市場が大きく、認定事業者、ユーザもこの
範囲がほとんどであり、長いゲージまでカバーするより、短いゲージの遠隔校正技術を集
中的に開発する方が効果が大きい。
50
2.2.3 長さ標準遠隔供給技術の開発:ヨウ素安定化 He-Ne レーザ
2.2.3.1 研究開発成果
ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの制御回路を構成しているアナログ素子は、近年調
達が困難になりつつある。また、アナログ制御回路は、ネットワークを介した遠隔操作や
状態のモニタリングが難しい。一方でデジタル IC 技術は急速な進歩を続けており、集積
度、動作速度が著しく向上し、消費電力、価格も下がってきている。このため、アナログ
部品で構成していた制御回路をデジタル IC で構成し、信号をデジタル演算により処理す
ることにより制御装置の小型化、高精度化、高信頼化、さらにネットワークを介した遠隔
操作や状態のモニタリングの実現が期待できる。我々は、デジタル信号をリアルタイムで
処理する高速プロセッサ DSP を用いて、まず、信号発生、同期検波を行った。さらに、
特定標準器との周波数比較、ネットワークを介した遠隔管理のための基礎実験も行った。
実験装置のブロックダイアグラムを図1に示す。評価ボード上の DSP から発生した変
調信号は,シリアル通信により DA コンバータへ移りアナログ信号となる。さらに増幅器を
通過してヨウ素安定化 He-Ne レーザに変調が加えられる。レーザの信号は PD で検出され、
差動アンプ、変調周波数のノッチフィルターを通過後、評価ボードの AD コンバータをへ
て、デジタル信号となり、シリアル通信によって DSP へ送られる。DSP では変調信号の
3倍の周波数信号 3f 信号も発生させている。3f 信号の位相は、プログラミングにより細
かく設定することが可能である。入力した信号と 3f 信号の積を制御信号として、シリアル
ポートへ送り、DA コンバータで DA 変換した後、差動アンプ、低域フィルター、積分器、
高圧増幅器を通り、電歪素子へ帰還される。
評価ボードはアナログデバイス社の ADSP-2189M EZ-KIT Lite を使用し、パーソナル
コンピュータ上で走る Visual DSP を使用して、プログラミングをアセンブリ言語で行っ
た。コンパイルされた後、リンカーにより、コードとデータがターゲット DSP へマッピ
ングされる。スキャン信号を入れた時に観測されたヨウ素のd線を図2に示す。今後フィ
ルターの部分をプログラム化する予定である。
さらに、現在、レーザ制御に最適化した専用モジュールの開発を進めている。図3にそ
のブロックダイアグラムを示す。4入力4出力のポートを持ち、インターフェイスとして、
USB1.1、 プログラムポート、40ピンの入出力バッファーを備えている。16bit の信号
精度を持ち信号処理に ADSP2188、外部とのインターフェイス用に H8HD64F4048 の2
個のプロセッサを使用する予定である。
アナログ信号処理とデジタル信号処理を使用した制御によるレーザの安定度の比較も行
った。ヨウ素分子の吸収線 d,e,f,g それぞれの吸収線にレーザの周波数を安定化させた時
の、特定標準器との周波数差を図4に示す。
アナログのレーザ制御装置がスイッチにより、
外部のデジタル信号処理装置を使用した制御に切り替わるように工夫されている。図4で
黒丸がアナログ信号処理で、白丸がデジタル信号処理によるものである
ネットワークを介した遠隔管理のための基礎実験として、信号処理にデジタルロックイ
ンアンプを使用して、USB インターフェイスを介してコンピュータとのデータのやりとり、
51
データのモニタを行った。開発ソフトとしてラボビューと Visual BASIC を使用した。
図1 実験装置ブロックダイアグラム
52
図2 デジタル信号処理により得られたヨウ素分子吸収線(d成分)
図3 レーザ制御デジタルモジュールブロックダイアグラム
53
図4 アナログ信号処理(黒丸)およびデジタル信号処理装置(白丸)を用い
た場合の特定標準器との周波数差
【論文・解説】
なし
【口頭発表】
なし
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.2.3.2 実用化、事業化の見通しについて
1)実用化、事業化の見通し
現在、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザは計量法における特定標準器になっており、
その高度化は重要である。また、商品化されたヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザで、
デジタル制御を実現しているものはない。初めてのデジタル制御ヨウ素安定化ヘリウム
ネオンレーザとしての商品化を、近い将来に実現することを計画している。
2)今後の展開
標準器制御のデジタル化は、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザ以外にも、プログラム
の変更により、比較的容易に対応できると考えられるので、信頼性を高めるために、応用
範囲の拡大を図る。
[基本計画の変更]
研究開発を前期(平成 13 年度‐平成 15 年度)で前倒し終了する。
54
2.3 電気標準遠隔校正技術の開発
電気標準のパラダイム
NMIJ
社会・産業界への貢献
1.プログラマブル電圧標準
基準周波数の
空間伝播(GPS)
GPS
f
f
Programmable
JJAVS
Programmable
JJAVS
民間企業
標準研究所
液体ヘリウム不要の 産業界のインフラとして
量子電圧標準
・ 標準供給の構造を平準化し、不確かさ低減
(小型、安価)
(インターネットを介した相互比較・相互補完
高い精度の標準を直接生産現場へ) インターネット
遠隔校正プログラム ・ 速やかな標準供給サービス
・ 最新の通信技術を利用し
海外進出企業にも国内と同等品質の
標準供給サービス
2.AC/DC標準
AC -DC 校正器(
校正器(開発 )
計測コン トローラ
&サーバー
LAN
巡回標準器
・ 国際的相互承認
Fast Reversed DC
AC/DC校正器
インターネット
遠隔校正プログラム
・ リアルタイム校正による計測機器の内蔵
基準源簡素化、低コスト化の提案
・ 安い校正費用
標準器(仲介器)移送
2.3.1 電気標準遠隔校正技術の開発:直流
2.3.1.1 研究開発成果
液体ヘリウムを使用せずに動作させることのできるプログラマブル・ジョセフソン電圧
標準システム(電圧:最大 10V、不確かさ:0.1ppm)の開発を最終的な目標として研究開発
を行っている。中間目標としては、平成 14 年度末までに、1V プログラマブル電圧標準用ジ
ョセフソン接合アレーチップ及び冷凍機システムを開発することを設定した。この中間目
標は、これまでにほぼ達成した。以下に、これまでに行った技術開発内容と今後の予定を
記す。
1)1V プログラマブル電圧標準用ジョセフソン接合アレーチップ
1V の出力を持つプログラマブル電圧標準用ジョセフソン接合アレーは、直列に接続され
た 32,768 個の NbN/TiN/NbN ジョセフソン素子から構成されている。図 2.3-1 に作製したチ
ップの顕微鏡写真を示す。また、図 2.3-2 に回路図を示す。
55
図 2.3-1 1V プログラマブル電圧標準チップ
図 2.3-2 1V プログラマブル電圧標準素子回路図
図 2.3-2 に示したように、この素子は、128、128、256、512、1,024、2,048、4,096、8,192
および 16,384 個のジョセフソン素子のアレーに分割されており、それぞれに独立にバイア
ス電流を流す事ができる。高精度電圧を発生させるためのマイクロ波は左端の端子から入
力され、分配回路と dc block 用の容量を介して回路内の全てのジョセフソン素子に供給さ
れる。それぞれのアレーに流すバイアス電流をスイッチによって“ゼロ”あるいは“ノン
ゼロ”に切り替える事によって素子が発生する高精度電圧の値を変化させる事ができる。
すなわち、素子を8ビットの D/A 変換器として動作させることができる。これが“プログ
ラマブル”と呼ばれる所以である。
図 2.3-3 に、素子の作製工程を示す。
56
図 2.3-3 プログラマブル電圧標準素子の作製工程
上記作製工程では、段差による上部配線電極の超伝導臨界臨界の低下を防ぐために、化
学機械研磨(Chemical-Mechanical Polishing:CMP)による平坦化を行った。(工程(f))図
2.3-4 に、平坦化を行って作製した素子と行わずに作製した素子の SEM 写真を比較して示す。
(a)
(b)
図 2.3-4 作製した素子の SEM 写真
(a) 平坦化有、(b)平坦化無
57
平坦化を行った結果、配線の臨界電流は電圧標準応用に十分大きな値(>10kA/cm2)を再現性
良く得る事ができた。
2) 冷凍機システムの開発
作製した素子が、液体ヘリウムを使用せずに動作可能である事を実証するために、小型
冷凍機を用いた素子特性評価システムを開発した。図 2.3-5 に、そのシステムの写真を示
す。
図 2.3-5 冷凍機システムの写真
このシステムには、2段の G-M 冷凍機が採用されており、そのコールドヘッド上に置か
れたチップの温度を 4∼20 K 間の任意の温度に設定することができる。室温から 10K まで
冷却するのに必要な時間は約4時間である。マイクロ波は冷凍機外部の発振器より、セミ
リジッド同軸線路と SMA コネクターを介してチップキャリア及びチップに導入された。チ
ップの温度は、冷凍機内部に設置されたヒーターと温調計によって行われ目標値の±0.05
度の範囲に設定された。バイアス電流は、細い被服銅線(0.1mmφ)によってチップに供給さ
れた。チップを1重のメタルシールドによって被い、地球磁場や外部環境磁場の影響を
抑えるようにした。その周囲をさらに金メッキした銅のシールド板で被い、熱輻射による
チップ温度の上昇を抑えた。
58
周波数 16 GHz のマイクロ波をチップに照射することによって得られた定電圧ステップの
測定例を図 2.3-6 に示す。
図 2.3-6 マイクロ波(16GHz)照射による定電圧ステップ
のデータ。図中の数字は測定したアレーが
2(n-1)個のジョセフソン素子を含んでいる事を示す。
測定温度:8.5 K
図 2.3-6 は、32,768 個のジョセフソン素子を含むアレーが約 1V の電圧を発生しているこ
とを示している。このように作製した素子を、液体ヘリウムを使用せずに、小型冷凍機に
よって冷却することによって動作させることが可能である事を実証した。
3)今後の研究計画
上記の冷凍機システムは1号機であり、まずチップの冷却が可能かどうかを試験するこ
とが目的であった。このため、熱起電力による発生電圧のゆらぎを抑制する設計にはなっ
ていない。チップの冷却が可能である事が実証されたため、1号機をベースとして、熱起
電力による発生電圧のゆらぎを抑制する機構を備えた2号機を現在試作中である。今後、
2号機が完成次第、発生した電圧を従来のジョセフソン電圧標準システムで発生した電圧
との比較実験を行う予定である。それによって、冷凍機を用いた電圧標準システム実用化
への道筋が明らかになる。また、現在 5V の発生電圧を有するチップの開発を進めている。
このチップではジョセフソン素子の数が 13 万個以上に達するため、1V チップの作製で使
用した真空装置以外に、高品質な絶縁薄膜を作製するための真空装置を使用する予定であ
る。最終的には、プロジェクト期間内に 10V の発生電圧を有するチップの開発を行う予定
である。
59
【論文・解説】
1)「液体ヘリウムを必要としないジョセフソン電圧標準素子の開発」、「東海林彰」、
「AIST Today 1 巻 3 号」、「平成 13 年 5 月」
2)「Fabrication of all-NbN digital-to-analog converters for a programmable voltage
standard」、
「山森弘毅、伊藤正樹、佐々木仁、東海林彰、S.P.Benz、P.D.Dresselhaus,」、
「Superconductor Science and Technology, Vol. 14, pp.1048-1051」、「平成 13 年
11 月」
3)「プログラマブルジョセフソン標準用デバイス」、「山森弘毅、東海林彰」、「電気
学会計測研究会資料」、「平成 14 年 1 月 25 日」
4)「NbN/TiNx/NbN/TiNx/NbN double-barrier junction arrays for programmable voltage
standards」
、
「山森弘毅、石崎真弓、伊藤正樹、東海林彰」、
「Applied Physics Letters,
Vol. 80, No. 8, pp.1415-1417」
「平成 14 年 2 月」
5)「第 3 世代ジョセフソン電圧標準素子の開発」、「東海林彰」、「JITA ニュース 6 号」、
「平成 14 年 6 月 10 日」
6)「Josephson junction arrays for liquid-He-free programmable voltage standards」、
「東海林彰、山森弘毅」、
「Singapore Journal of Physics, Vol.18, No.1, pp.185-190」、
「平成 14 年 7 月」
7)「(NbN/TiNx)n/NbN 多重積層接合の作製とマイクロ波照射特特性」、「電気学会支部
連合会研究会資料」、「平成 14 年 7 月 24 日」
8)「NbN/TiNx/NbN 接合を用いた 1V プログラマブル電圧標準素子」、「山森弘毅、石崎真
弓、東海林彰」、「電気学会支部連合会研究会資料」、「平成 14 年 7 月 24 日」
9)
「世界初、液体ヘリウムフリーのデスクトップ型ジョセフソン電圧標準システム」、
「電
子情報通信学会誌 85 巻 10 号」、
「平成 14 年 10 月」
【口頭発表】
1)「Fabrication of all-NbN digital-to-analog converters for a programmable voltage
standard」、
「山森弘毅、伊藤正樹、佐々木仁、東海林彰、S.P. Benz、P.D. Dresselhaus」、
「8th International Superconductive Electronics Conference」、「平成 13 年 6 月
20 日」
2)「Niobium nitride Josephson junctions with metallic barriers」、「東海林彰」、
「8th International Superconducting Electronics Conference」、「平成 13 年 6 月
27 日」
3)「次世代ジョセフソン素子」、「東海林彰」、「電気学会計測技術委員会先端波動干
渉計測調査専門委員会」、「平成 13 年 7 月 11 日」
4)「Josephson junction arrays for liquid-He-free programmable voltage standards」、
「東海林彰、山森弘毅」、
「1st East Asia Symposium on Superconductive Electronics」、
「平成 13 年 11 月 28 日」
5)「プログラマブルジョセフソン電圧標準用デバイス」、「山森弘毅、東海林彰」、「電
60
気学会計測研究会」、「平成 14 年 1 月 25 日」
6)「NbN/TiNx/NbN Josephson junctions and their application to a programmable voltage
standard」、「東海林彰」、「2002 ONR/NIST Superconducting Electronics Program」、
「平成 14 年 2 月 13 日」
7)「1V プログラマブルジョセフソン電圧標準用接合アレー」,「山森弘毅、石崎真弓、佐々
木仁、東海林彰」、「第 49 回応用物理学関係連合講演会」,「平成 14 年 3 月 29 日」
8)「(NbN/TiN)n/NbN 多重接合アレーの臨界電流の制御及びマイクロ波応答特性」,「石
崎真弓,山森弘毅、伊藤正樹、東海林彰」,「第 49 回応用物理学関係連合講演会」,「平
成 14 年 3 月 29 日」
9 ) 「 Control of critical currents and microwave-induced characteristics of
(NbN/TiNx)n/NbN stacked junction arrays」,「石崎真弓、山森弘毅、東海林彰、S.P.
Benz、P.D. Dresselhaus」、「Applied Superconductivity Conference 2002」,「平
成 14 年 8 月 8 日」
10)「(NbN/TiNx)n/NbN 多重積層接合の作製とマイクロ波照射特性」、「石崎真弓、山森弘
毅、東海林彰」、「平成 14 年 9 月 10 日」
11)「Operation of a NbN-based programmable Josephson voltage standard chip with a
compact refrigeration system」、「Applied Superconductivity Conference 2002」、
「山森弘毅、東海林彰、石崎真弓、S.P. Benz、P.D. Dresselhaus」、「平成 14 年 8
月 8 日」
12)「NbN/TiNx/NbN 接合を用いた 1V プログラマブル電圧標準素子」、「山森弘毅、石真弓、
東海林彰」、「電気学会 金属・セラミックス研究会」、「平成 14 年 9 月 10 日」
13)「1V プログラマブルジョセフソン電圧標準用アレーの冷凍機動作」、「山森弘毅、石崎
真弓、佐々木仁、東海林彰」、「第 63 回応用物理学会学術講演会」、「平成 14 年 9
月 25 日」
14)「ジョセフソン素子を用いた高精度電圧発生技術の新しい展開」、「東海林彰」、「平
成 14 年度 NEDO 先端技術講座」、「平成 14 年 10 月 17 日」
15)「次世代の電圧標準技術」、「東海林彰」、「第3回 産総研 計測標準総合センター
講演会」、「平成 14 年 11 月 21 日」
【特許等】
1)
「超伝導配線及びその作製方法」、
「東海林彰、吉田春雄、山森 弘毅」、
「特願 2001-355724」、
「平成 13 年 11 月 21 日出願」
2)「超伝導デジタル/アナログコンバータ及びその処理方法」、「吉田 春雄」、「特願
2002-23513」、「平成 14 年 1 月 31 日出願」
3)「多重積層型ジョセフソン接合」、「山森弘毅、東海林彰」、「特願 2002-147491」、
「平成 14 年 5 月 22 日出願」
4) 「ジョセフソン接合の作成方法及び装置」、
「東海林彰、山森弘毅」、
「特願 2002-240313」、
61
「平成 14 年 8 月 21 日出願」
5)「電圧標準装置」
、「石崎真弓、山森弘毅、東海林彰」、
「特願 2002-333100」、「平成 14
年 11 月 18 日出願」
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.3.1.2 実用化、事業化の見通しについて
1)実用化、事業化の見通し
今回開発した 1 V プログラマブル電圧標準素子は、実用化に十分な 1 V の出力電圧と 2 mA
を越える定電圧ステップを有していることが確認された。さらに、冷凍機による動作が可
能である事も実証された。このため、今後プログラマブルな高精度電圧発生のための冷凍
機システム、バイアス回路、発振回路等の開発を行う事によって、早ければ平成 15 年度内
に、おそくとも平成 16 年度内には、小型冷凍機によって動作する実用的な 1 V プログラマ
ブル・ジョセフソン電圧標準システムを開発することができると予測している。
1 V プログラマブル電圧標準システムの事業化については、現在、検討中である。
2)今後の展開
今後、5 V プログラマブル電圧標準素子の開発を行い、その後に、素子の最終目標であ
る 10 V プログラマブル電圧標準素子の開発を行う予定である。
システムの開発に関しては、
まず、発生電圧を従来のジョセフソン電圧標準システムと比較するためのプログラマブ
ル・ジョセフソン電圧標準システム(1 V、4.2 K)の開発を行う。次に、冷凍機によって
動作する高精度 1 V プログラマブル・ジョセフソン電圧標準システムの開発を行う。最終
的に、高精度 10 V プログラマブル・ジョセフソン電圧標準システムの開発を行う。
[基本計画の変更]
中間目標:平成 14 年度末までに1V プログラマブル電圧標準用ジョセフソン接合アレー
チップ及び冷凍機システムを開発する。また、単電子トンネル接合素子による
電流量子標準の実現の可能性を検討する。
の「単電子トンネル接合素子による電流量子標準の実現の可能性を検討する。」は、別途検
討することにし、これを削除する。
62
2.3.2 電気標準遠隔校正技術の開発:交流
2.3.2.1 研究開発成果
[成果概要]
本分野においては、ファストリバース DC 技術と遠隔校正技術を用いることにより、国家
標準に匹敵する高精度の AC-DC 標準を、迅速かつローコストに供給する事を目指している。
具体的には、熱電型交直変換器(TC),高分解能起電力検出回路,ファスト・リバース DC(Fast
Reversed DC : FRDC)回路,精密デジタル正弦波発生回路および演算処理ユニットから構成
される AC-DC 標準校正システムの開発を行なう.
これまでに、個別要素回路の動作確認を目的としたプロトタイプ 1 号機と、これをベース
として実用機とほぼ同じ機能および操作性を有するプロトタイプ 2 号機の開発を行った。
産総研において行ったプロトタイプ 2 号機の評価試験の結果、FRDC-DC測定、AC-DC 測定
共に 2ppm 以下の測定値の再現性が得られ、中間目標として設定している、実験室レベルで
の校正精度 10ppm を達成する見通しを得た。また試作したプロトタイプ 2 号機を、ドイツ
およびオーストラリアの国立標準研究所に持参し、遠隔校正の予備実験を行った。これら
の結果を元に、市販化を前提とした実用機の設計に着手している。
[成果詳細]
平成 13 年度においては,
AC-DC 標準校正システムの個別要素回路の動作確認を目的として,
プロトタイプ一号機の設計および試作を行った.プロトタイプ一号機の仕様の検討および
基本設計は産総研が行った。ファスト・リバース DC 回路および精密デジタル正弦波発生回
路の主要部の回路図をそれぞれ図1、図2に示す。
図1 ファスト・リバース DC 回路
63
図 2 精密デジタル正弦波発生回路
この基本設計に基づき、プロトタイプ機の詳細な回路設計および試作をサンジェム(株)
において行った.試作したプロトタイプ一号機の写真を図3に、またプロトタイプ機を用
いて発生した精密基準正弦波およびファスト・リバース DC 出力波形を図 4 および図5に示
す。
図3 プロトタイプ一号機
図4 精密基準正弦波およびその高調波歪み成分
64
図5 ファスト・リバース DC 出力波形
平成 14 年度においては、プロトタイプ一号機の評価結果に基づいて、プロトタイプ二号
機の開発を行った。プロトタイプ二号機は、実用機製作に向けての最終テスト用に製作す
るもので、実用機とほぼ同じ機能および操作性を有し、精密測定環境下において交直変換
精度 10 ppm を得ることを目標として開発を行った。プロトタイプ一号機と同様に、回路の
基本設計および精密評価は産総研が担当した。プロトタイプ二号機においては、新たに熱
電型交直変換器(TC),高分解能起電力検出回路、およびインターフェイス回路より構成さ
れるサーマルコンバータ(TC)ユニットの開発を行った。サーマルコンバータ(TC)ユニット
の回路図を図6に示す。
図6 サーマルコンバータ(TC)ユニット回路
プロトタイプ二号機は、サーマルコンバータ(TC)ユニットの他に、ファスト・リバース
DC(FRDC)ユニット、およびデジタル正弦波発生(DSS)ユニットから構成される。これらのユ
65
ニットの、詳細な回路設計および試作はサンジェム(株)において行った.これらをそれ
ぞれ独立な筐体に収容した構成(分離型)を図7に、また FRDC ユニットおよび DSS ユニット
を電源回路と共に同一の筐体に収容した構成(一体型)を図8に示す。
図7 プロトタイプ二号機(分離型)
図8 プロトタイプ二号機(一体型)
製作したプロトタイプ 2 号機の精密評価は、産総研標準室の安定な温度環境下において
行われた。評価には FRDC ユニット、DSS にそれぞれ TC ユニットを組み合わせ、実際の校正
と同じ FRDC-DC 測定、AC-DC 測定を試みた。評価試験の結果をそれぞれ図9および図 10 に
66
示す、FRDC-DC測定、AC-DC 測定共に 2 ppm 以下の測定値の再現性が得られ、中間目標と
して設定している、実験室レベルでの校正精度 10 ppm を達成する見通しを得た。また、プ
ロトタイプ一号機で問題となった精密基準正弦波発生回路の安定度の向上のため、発熱量
の多い電源回路と、温度係数に配慮が必要な精密回路の熱的な分離を行う等の工夫を行う
ことによって、実用上問題のない安定度(10 ppm/min)を得ている。
図9 FRDC-DC 測定結果
図 10 AC-DC 測定結果
67
一方、実用機での遠隔校正の実証に先立って、プロトタイプ二号機を用いた、遠隔校正の予
備実験を H15 年 2 月から 3 月にかけて CSIRO(オーストラリア国立計測研究所)と PTB(ド
イツ物理工学研究所)において実施した.オーストラリア CSIRO での予備実験は、平成 15
年 2 月 24 日から 2 月 28 日にかけて行なわれ、産総研佐々木仁、およびサンジェム小谷野信
一が対応した。CSIRO では電磁気標準グループ長の Ilya Budovsky 博士の協力を得て、持参
したプロトタイプ 2 号機を用いてサーマルコンバータの交直差の完全自動測定を行った。ま
た計測プログラムからメール送信機能を用いた測定データの自動転送を行い、産総研側に正
常にデータが送出されることを確認した。
以下においては、CSIRO において FRDC 測定を行った際に CSIRO から産総研に自動送付され
たメールを例にとり、遠隔校正の手順について簡単に述べる。まず、測定開始後、測定パ
ラメータが正常に入力され、かつ必要な初期化が正常に終了した時点で、"FRDC Measurement
Started"という題名のメールが産総研に送られる。ここでは、被測定標準器の名称・定格・
入力抵抗等の情報や、測定の繰り返し回数や待ち時間等の測定全体に共通する入力パラメ
ータが送付される。
----------------------------------------------------------------------------Date: Mon, 24 Feb 2003 15:19:43 +1100 (EST)
From: "Ilya Budovsky" <[email protected]>
To: <[email protected]>
Subject: FRDC Measurement Started
***Automatic Report***
Data from the ET2001 ACDC System
Comment; First Try
TC name/type; SJTC-ET01; TVC
TC description; SS283+tama 1000ohm
TC/Dummy Res.; 1025; 1000Ohm
Off-Time; 8us
Repeat No.;
5times
Waiting Time; 10s
Reading Number;
10sampling
----------------------------------------------------------------------------次に、予め入力されたいくつかの試験点において、自動測定が行われる。測定の繰り返し
回数等にも依存するが、一カ所の試験点で通常 30 分から 90 分程度の時間を要する。各試
験点での測定が完了するたびに、"FRDC Measurement at XXXXHz"という題名のメールが産
68
総研に送られる。ここでは、試験電圧 10V、試験周波数 1kHz において、6 回の FRDC-DC 差
測定が繰り返され、最初の測定を除く 5 回の測定値の平均と標準偏差が求められている。
また、測定に先立ってサーマルコンバータの指数(Index)測定や各出力回路の出力調整が行
われ、トータルで約 30 分の測定時間を要している。メールでは、これらの測定データや試
験電圧や試験周波数等の測定条件と共に、サーマルコンバータの指数(Index)測定の結果と
各出力回路の出力調整の結果も併せて送付される。これらのパラメータは、それぞれサー
マルコンバータユニットおよび FRDC ユニットの正常動作を確認するために有用な情報とな
っている。
----------------------------------------------------------------------------Date: Mon, 24 Feb 2003 15:52:06 +1100 (EST)
From: "Ilya Budovsky" <[email protected]>
To: <[email protected]>
Subject: FRDC Measurement at 1.000E+03Hz
***Automatic Report***
Mes. No.= 1
Date/Time; 02-24-2003; 15:30:33
Output Level; 10; V
SW Period; 1; ms ; (1.000E+03Hz)
TC Index; 1.83
Adjust A+/-; 0; -.066
Adjust B+/-; -.044; -.102
Rep#; Time; Vac*(nV); Vdc+(nV); Vdc-(nV); Vac/(nV); Vsd(ppm); FRDC-DC(ppm)
000; 15:33:51; 5.6013793E+02; 5.6015382E+02; 5.6012031E+02; 5.6013666E+02; 7.79;
-0.22
001; 15:36:43; 5.6005054E+02; 5.6006684E+02; 5.6003414E+02; 5.6005081E+02; 7.89;
-0.19
002; 15:39:31; 5.5998992E+02; 5.6000869E+02; 5.5997335E+02; 5.5999303E+02; 8.40;
-0.44
003; 15:42:19; 5.5994434E+02; 5.5996160E+02; 5.5992699E+02; 5.5994436E+02; 7.36;
-0.06
004; 15:45:07; 5.5989908E+02; 5.5991949E+02; 5.5988449E+02; 5.5990555E+02; 8.11;
-0.31
005; 15:47:56; 5.5985491E+02; 5.5987341E+02; 5.5984014E+02; 5.5985862E+02; 7.03;
0.00
69
FRDC-DC diff;(in ppm); -0.20; +/- 0.16;(sd) ;(ex. #0)
----------------------------------------------------------------------------各試験点における FRDC-DC 差の自動測定が全て完了した後、"FRDC Measurement Results"
という題名のメールが産総研に送られる。ここでは、上記のメールで送付された全ての測
定データおよび測定パラメータが、添付ファイルの形で再度産総研に送付される。
----------------------------------------------------------------------------Date: Mon, 24 Feb 2003 15:52:25 +1100 (EST)
From: "Ilya Budovsky" <[email protected]>
To: <[email protected]>
Subject: FRDC Measurement Results
***Automatic Report***
Results attached as text file separated by semi-colon
Attachment converted: MacG4 HD:F030224-1.txt (TEXT/ttxt) (000436CF)
----------------------------------------------------------------------------次にドイツ PTB で行った予備実験の結果について述べる。ドイツ PTB での予備実験は、オ
ーストラリア CSIRO の予備実験に引き続き、平成 15 年 3 月 2 日から 3 月 5 日にかけて行な
われ、産総研高橋邦彦が対応した。PTB では、AC-DC トランスファー標準の世界的権威であ
る Manfred Klonz 博士の協力の下に、CSIRO での予備実験と同様の完全自動測定を行なった。
測定データはメールで産総研に送付され、産総研で解析が行われた。測定結果を第 6 図に
示す。
70
第 6 図 予備実験(PTB)測定結果
図に示されるように、PTB での測定結果は、産総研での測定結果(第 4 図)と 1ppm 以内で一
致している。この解析結果は、メールで直ちに PTB に送付され、測定が問題なく行われた
ことを PTB 側でもほぼリアルタイムで確認することができた。これらの成果については、
CSIRO および PTB の研究者から大きな関心が寄せられた。CSIRO および PTB とは今後も継続
して研究協力を行っていく予定である。
平成 15 年 4 月現在、プロトタイプ二号機の精密評価および遠隔校正試験の予備測定の成功
に引き続き、市販化を前提とした実用機の設計を行っている。実用機の開発に際しては、
プロトタイプ二号機で問題となった USB インターフェイスの不安定動作を改善することが
主要な課題となっている。サンジェムを中心とした実用機の開発は平成 15 年度前半で終了
し、平成 15 年度後半には産総研と日本電気計器検定所等の内外の校正機関との間で、実用
機を利用した遠隔校正の実証試験を予定している。
なお、本研究開発制度における交流電気標準での研究開発は、平成 15 年度末において前倒
しで完了する予定である。
2.研究発表・講演,文献,特許等の状況
研究発表・講演:
【口頭発表】
(1) 佐 々 木 , "E-trace project in NMIJ/AIST Japan", Conference on Precision
Electromagnetic Measurements AC-DC Expart Meeting (CPEM2002), Ottawa, CA.
【特許等】
71
(1) 「熱電型交直変換器」サンジェム(株)と産総研共同で出願済み
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.3.2.2 実用化、事業化の見通しについて
1)実用化、事業化の見通し
装置の開発は平成 15 年度前半で終了し、平成 15 年度後半から産総研と日本電気計器検
定所との間で、開発した校正装置を利用して遠隔校正の実証試験を開始する予定である。
また、サンジェム(株)において、開発した装置の市販化を予定している。
2)今後の展開
複数の外国研究機関から非公式に研究協力の申し出をうけており、平成 16 年度以降は、
外国標準研究機関を含めた世界的な遠隔校正ネットワークの構築を行っていく予定である。
[基本計画の変更]
AC−DC の遠隔校正においては、装置の開発および実証試験は平成 15 年度で前倒し終了
する。後期(平成 16,17 年度)は新たにインピーダンスの遠隔校正を開始する。
72
2.4 放射能遠隔校正技術の開発
放射能のパラダイム
産総研
社会、産業界への貢献
特定標準器群による
標準の維持、供給
機器の移動のない安全かつ低コ
スト、スピーディーな校正
仲介器としての
標準線源の開発
放射能測定器の
遠隔制御技術の
開発
スペクトルデータ
を含む高速
大容量通信
インターネット
標準放射能の供給
海外事業者への校正サービス
スピーディーな
国際比較
高速A/Dによる
計数回路の
デジタル処理化
2.4.1 放射能遠隔校正技術の開発概要
放射能標準の供給は、測定機器を校正するための放射能線源を、いわば天秤を校正する
分銅の役割を持たせることにより、実施されている。放射性同位元素は種類が多く、その
用途も様々であることから、対象機器に最も適した強度の放射能線源を特定標準器で調整
して、二次標準器の校正が実施される。即ち、分銅としての個々の線源供給を定期的に実
施する必要がある。しかし、放射性線源の移動には多くの制約があり、煩雑な事務処理が
必要である。さらに、近年利用範囲が拡大している医療用極短半減核種や持ち運びの困難
な、ガス状の放射能に関しては、直接に校正線源を供給することは困難である。
そこで、インターネットを利用した双方向画像通信技術と、遠隔操作技術を利用し、長
半減期の安定した線源を基準とした様々な核種に関する遠隔校正技術を確立し、個々の線
源供給から解放された、放射能標準の供給の実現を目指す。これは、単に放射能標準の供
給拡大のみならず、今後の国際比較などにも有効で、国際的な放射能標準の供給範囲拡大
と精度向上に資するものである。
これまで研究は順調に進展しており、平成15年度中には中間目標を達成し、当面の研
究開発目標は達成される見込みである。即ち、産総研と日本アイソトープ協会において、
γ線核種用特定二次標準器(加圧型電離箱とγ線スペクトロメータ)の遠隔校正システム
を立ち上げ、γ線放出核種に対して、実際の線源により、遠隔校正試験を実施した。これ
に加えて、放射性ガス絶対測定システムについて産総研において構築した。
73
この技術を用いることで、国内のみならず、海外の放射能測定器も産総研から校正す
ることが期待できる。また、放射能遠隔校正技術は校正だけでなく、ほぼそのまま放射能
遠隔測定に応用できる。
2.4.2 電離箱の遠隔校正
電離箱は、放射線により発生した電離電流を測定することにより、放射性物質の量を測定
する測定器である。従来、電離箱システムの校正は認定事業者の持つ電離箱システムを産
総研内に搬入し、産総研の電離箱システムと併置して行っていた。精密機器である電離箱
システムを運搬することは、破損や故障の危険があり、安全上好ましくない。また、海外
の事業者に対し、このような方法をとることは時間と費用の観点から望ましいと言えない。
e-trace が実現されれば、認定事業者や海外事業者のもつ電離箱システムをその場に設置し
たまま、校正が行なえるようになることから、このような制約を除去することができる。
e-trace における電離箱測定システムの具体的な構成は以下のようになる。
TV 会議システにより、お互いの装置を視認し、線源が適切に電離箱に装荷されること
を確認できるようにする。遠隔校正システムを構築している時に、この TV 会議システ
ムを用いて、ドイツの PTB で同様の研究展開を試みているグループとの TV 会議を試み、
成功を納めている。電離箱は窒素が封入されている高圧型電離箱である。この電離箱か
らの電離電流を、Keithley 社製エレクトロメータで測定する。エレクトロメータは GPIB
バスにより計算機で制御され、測定データも計算機に取り込まれる。計算機は Ethernet
ケーブルでインターネットに接続されており、TCP/IP により、相互に通信される。制
御計算機から、産総研のエレクトロメータと、認定事業者のエレクトロメータをコント
ロールする。この制御プログラムを独自に開発した。機器設定は産総研の制御計算機か
らすべて行なえる。取得した生データ、および、放射能の算出結果は産総研に設置され
たデータサーバに蓄積される。時刻はタイムサーバーによりインターネットを介し供給
される。
74
図1 遠隔校正システムの構成(後述するγ線スペクトルメータも含まれている)
この遠隔校正システムの試験を行うため産総研内の実験室に図1に示す遠隔校正システ
ムを構成した。国際比較の測定を行った時、国際比較用線源 Ga-67 を用いて、従来の測定
システムとこの遠隔校正システムとの電離箱電離電流値の比較を行った。Ga-67 はガリウ
ムシンチグラフィーという医療診断に用いられる重要な核種であり、国内では約 100 億円
程度の市場を形成している。この Ga-67 は半減期が 3.2612 日と短く測定の難しい核種の一
つである。
遠隔校正システムによる測定において、Ga-67 の電離電流は標準線源 Ho-166m の電離電
流に対する比で表される。3 個のガラスアンプル中に封入された Ga-67 溶液を測定した。
その結果、電離電流はそれぞれのアンプルについて不確かさの範囲内で、一致した測定値
が得られることが確認された。今後、e-trace のシステムを用いて国際比較における放射能
測定を試みる予定である。
遠隔校正システムの動作が確認されたので、実際にアイソトープ協会が所有する電離箱シ
ステムと産総研の制御計算機をインターネット経由で接続した。アイソトープ協会も産総研
もファイヤーウォールが設置してあり、計算機同士を直接接続はできないので、アイソトー
プ協会では ADSL、産総研では光ファイバーを各々の所内ネットワークとは別個に引いて、イ
ンターネットに接続した。
産総研にて製作し、アイソトープ協会に送付した電流計の基準となる標準線源 Ho-166m(半
減期 1200 年)を用いて、アイソトープ協会の電離箱を産総研からリモートコントロールして
電離電流を測定した。その時の、測定結果を表2に示し、電離箱制御ウィンドウと TV 会議
75
システムより得られたアイソトープ協会から画像を図2に示す。
これらの結果から、産総研からアイソトープ協会の電離箱システムをコントロールし、標
準線源を測定することで、アイソトープ協会の電離箱を校正することが、技術的に可能であ
ることがわかった。また目標値である不確かさの拡大が 0.3%以下である点も達成できた。
今後、特定二次標準器である電離箱の校正周期ごとのアイソトープ協会への校正は、この遠
隔校正システムで行う予定である。さらに、γ核種の国際比較が行われる度に、その国際比
較用線源を用いて、遠隔校正を行い、特定二次標準器の国際的整合性確保にも役立てたいと
考えている。
図2 リモートキャリブレーションシステムのコントロールウィンドウと TV 会議システム
より得られたアイソトープ協会の測定装置の稼動状態。
2.4.3 γ線スペクトロメータの遠隔校正
γ線スペクトロメータは、放射性物質から放出されるγ線の個数を計数するとともに、
それぞれのγ線のエネルギーを測定することで、γ線のエネルギースペクトルを得ること
のできる測定器である。このエネルギースペクトルから放射性物質の同定と定量が行なえ
76
るという特徴を持っている。
γ線スペクトロメータとして Ge 半導体検出器と井戸型 NaI(Tl)シンチレータが特定二次
標準器として用いられている。この Ge 半導体検出器、井戸型 NaI(Tl)シンチレータにも
e-trace を適用した。
研究開発の進展を速めるため、γ線スペクトロメータの遠隔校正については、制御計算機
類は電離箱システムで用いたものを用い、制御プログラムは、市販の SEIKO EG&G 社製γス
タジオと IBM 社製 DESKTOP ON CALL を組み合わせて使用し、遠隔校正システムを構成した。
電離箱測定システムの電離箱とエレクトロメータの部分を Ge 半導体検出器、井戸型 NaI(Tl)
シンチレータと計測モジュールで置き換えた構成になっている。計測機器は、Ge 半導体検出
器の場合は、プリアンプ、アンプ、マルチチャンネルアナライザーであり、井戸型 NaI(Tl)
シンチレータの場合は、光電子増倍管、アンプ、マルチチャンネルアナライザーである。マ
ルチチャンネルアナライザーは GP-IB バスにより制御計算機と接続されている。制御計算機
はインターネット経由で産総研の計算機に接続される。この測定システムを日本アイソトー
プ協会に設置し、産総研からコントロールすることにより、標準線源 I-125 を測定した。I-125
はラジオイムノアッセイなどに用いられる核種である。
この測定の結果、産総研からアイソトープ協会のγ線スペクトロメータシステムをコントロ
ールし、標準線源を測定することで、アイソトープ協会の電離箱を校正することが、技術的
に可能であることが示せた。今後、特定二次標準器である Ge 半導体検出器および 井戸型
NaI(Tl)シンチレータの校正周期ごとのアイソトープ協会への校正は、この遠隔校正システム
を用いる予定である。
2.4.4 ガス状放射性物質測定システムの構築
遠隔校正の範囲拡大のため、ガス状放射性物質の測定システムの構築を行った。この装
置を用いることによって、放射性ガスを高精度で値付けることができるようになった。こ
のガスを用いて認定事業者の保持する電離箱システム(特定二次)を比較校正することに
より、他のγ線核種同様の遠隔校正が可能となり、持ち運びや封入が困難なガス状放射性
物質標準のトレーサビリティ確立と供給の拡大に寄与出来る。
この装置は、電離箱と電流測定装置が一体となったシステムである。一定体積のガスを
循環させ、0.1pA までの電流が測定可能で、通常の大気レベルから、数桁上の濃度まで測
定可能で、しかも濃度に対する電流出力の直線性も極めて良好であることが分かった。
2.4.5 派生技術と重要性の拡大
当初の想定では遠隔校正のみを考えていたが、ほぼそのままのシステムでリアルタイムの
遠隔放射能測定も可能であることが立証された。これにより、以下のような応用が考えられ
る。
公設試験研究所の人員削減により、放射能を測定できる人材が少なくなってきている。
人員削減がそのまま、放射能測定の廃止、および放射能測定器の廃棄となる可能性は否定
77
できない。放射能測定において、人員的な面での対応が難しくなっているが、遠隔校正技
術により解決が可能である。即ちある公設試験研究所に放射能専門の人員がいなくとも、
遠隔測定システムを応用して、遠隔地にいる専門員が放射能測定器をコントロールして、
食品等、所定の試料中の放射能を測定できる。これは、今現在ある設備を生かしつつ、低
価格、低人数で現在のパフォーマンスを維持する最良の方法であると考えられる。同様の
理由で、地方自治体の広域合併に伴う、公設試験研究所の再編においても、この技術が応
用できる。公設試験研究所の再編に伴い、依頼試験業務の分担が行われた場合、放射能測
定担当員は削減されて、一ケ所におかれることになると思われる。この場合、他の箇所に
設置されていた放射能測定器は専門員を配置することなく、遠隔コントロールすることに
より、以前と同様に依頼試験業務を行なえることとなる。
遠隔校正技術は国内における応用だけではなく、海外の需要に対しても、有効な技術であ
る。今後、アジア地域の経済発展に伴い、原子力発電所の増加や、アイソトープ利用の増加
が見込まれる。日本が放射能に関してアジア地域にトレーサビリティの枠を広げようとする
場合、校正の遠隔校正技術は不可欠になってくる。海外に設置してある測定装置を校正する
には、産総研にその測定装置を運送、搬入するのは実際上非常に困難である。遠隔校正技術
が運用されれば、スピーディーに多くの測定装置を日本から校正することが可能になる。
これらの観点から、今回開発した遠隔校正技術は、今後需要を増していくと考えられる。
現在、アメリカ合衆国の NIST、ドイツの PTB が同様の遠隔校正を考えている。NIST は南北ア
メリカを、PTB がヨーロッパ、アフリカをカバーすることを考えている。日本の産総研はアジ
ア地域をカバーすることを他の諸国から期待されている。放射能分野においても e-trace を
実現することは非常に重要である。
2.4.6 まとめと今後
インターネットを利用した双方向画像通信技術と、遠隔操作技術を利用し、γ線核種に対
する遠隔校正技術を確立した。個々の線源から解放された、放射能標準の供給の実現に向
け、今後、荷電粒子測定装置、イメージングプレート等、他の測定システムについて遠隔
校正技術を確立していく予定である。さらに派生技術の実証も考えていきたい。
【論文・解説】
発表リスト
1)Y. Hino, “Traceability system of radioactivity standards in Japan”, APMP/TCRI
report '2001
3)Y. Hino, Results from APMP comparisons on radioactivity measurements of Co-58,
Y-88 and Ho-166m, Int. J. Appl. Radiat. Isotopes, Vol.56, pp421-427 (2002)
4)桧野良穂、イメージングプレート用放射能標準線源の開発、「放射線検出器とその応
用」研究会、高エネルギー物理研究機構、(2002/2/8)
5) 佐藤 泰、放射能標準と遠隔校正技術の開発、産総研計測標準報告、掲載予定
78
【口頭発表】
1) 檜野 良穂、佐藤 泰、山田 崇裕、松本 幹雄、
”微弱面線源の作成とイメージング
プレートへの応用”,日本原子力学会秋の年会(2002/9/14)
2) 佐藤 泰、檜野 良穂、山田 崇裕、松本 幹雄、
”イメージングプレート用強度標準
線源と位置分解標準線源の試作”,研究会「放射線検出器とその応用」
【特許等】
特許申請 桧野良穂 「面状放射線源及びその製法」 2001 年 11 月申請、整理番号 1126
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.4.2 実用化、事業化の見通しについて
1) 実用化、事業化の見通し
リモートキャリブレーション試験において、良好な結果が得られた。今後、日本アイソ
トープ協会に設置してある特定二次標準器(加圧型電離箱)の定期、不定期校正において、
今回開発されたリモートキャリブレーションシステムが使用される。
2) 今後の展開
日本アイソトープ協会に設置してある特定二次標準器の校正を定期的に行い、システム
の安定性を確認しつつ、海外に設置されている二次標準器の校正、日本アイソトープ協会
が行う事業者への校正業務への適用が考えられている。校正以外の用途として、放射能の
遠隔測定も可能である。一箇所から複数の公設試験研究所の放射能測定装置を稼動させ、
依頼試験を受けることが可能になる。
79
2.5 三次元測定機測定標準遠隔校正技術の開発
e-trace
1.ゲージの輸送
2.装置の制御
コントローラ
三次元測定機
カメラ
インターネット
3.測定結果
4.映像
5.評価結果
不確かさ算出用データ
三次元測定機測定標準遠隔供給技術の開発
2.5.1 研究開発成果
1)概要
三次元測定機(CMM)は,ほとんどあらゆる工業製品の形状を測定できる装置として,
全世界で 10 万台近くが使用されており,この装置を使った測定の不確かさを評価し,ト
レーサビリティー体系を整備することの重要性は高い.
三次元測定においては,各測定点の座標から幾何学量を計算するという過程を経るため,
最終的に必要な幾何学量測定の不確かさを算出することが容易ではない.不確かさを算出
する方法の一つとして,シミュレーション法が現在 ISO に提案されている.
シミュレーション法では,CMM の移動機構自身が有する真直度や直角度などの幾何学
的誤差を要素ごとに測定し,そのデータを使って測定の不確かさを算出する.
したがって,
最初に装置ごとの幾何学的誤差を測定する必要があるが,この作業には道具・時間・熟練
が必要であり,全てのユーザが簡単に行えるものではない.
そこで本プロジェクトでは,この幾何学的誤差の測定を遠隔操作により行えるシステム
の構築を行う.
2)イントラ内接続実験
まず初年度に,産業技術総合研究所が所有する Brown & Sharpe 社製の 2 台の同型の
CMM を用いて,遠隔操作ができるシステムを構築した.
80
2 台の CMM の制御装置(Alpha
コンピュータ)をイーサネットで
つなぎ,互いの装置にログインで
きる環境を構築した.その結果,
CMM が持つほぼ全ての機能をも
う一方の CMM から制御し,測定
データが取得できることを確認し
た.次に,ライブカメラをネット
ワークに接続し,産総研イントラ
内で WEB ブラウザを使って装置
を監視できるシステムを構築した.
以上のシステムにより,一方の CMM を他方の CMM のコントローラから制御することが
可能である.
実際の測定においては,装置の暴走やプログラミングのミスによる装置の衝突など,不
測の事態が起こることが多々ある
図 1
ため,操作対象の CMM の前で人
産総研所有の三次元測定機
間が監視し,非常停止ボタンをい
つでも押す体制になっていなけれ
ばならない.実際に本システムを
稼動させる場合には CMM の前で
操作を行う人間が必ず必要であり,
この心配は特にする必要はないと
考えられる.
図1は実験に使用した CMM で
幾何学誤差算出用ゲージであるボ
ールプレートを測定している様子
である.また図2はその拡大図で
ある.オペレータは,図 3 のよう
図2
三次元測定機拡大図.ボールプレートを測
定している
に WEB ブラウザ上に表示される
ライブ映像を見ながら操作するこ
とが可能である.またカメラの視
線方向を,WEB ブラウザを通し
て遠隔操作することも可能である.
ネットワークカメラの画像転送
スピードは,カメラの性能や,ネ
ットワーク回線の品質・込み具合
などに影響される.今回使ったラ
図 3 ネットワーク経由で遠隔地の三次元測定機
81
を監視するためのライブ映像
イブカメラは音声を送る機能はないため,音声は普通の電話を使って行っている.実験の
結果,画像はコマ送りの状態でも実用には耐えられることが確認できた.
測定精度については,ネットワーク経由で CMM を操作するのであるから,CMM 直結
の制御装置を用いたものと同じ結果が得られる.CMM のような複雑な装置を使用する場
合,オペレータの技能,CMM の場合ゲージの設置やアライメンとの精度,が測定結果に
大きな影響を及ぼす.その影響を遠隔地からオペレータに指示を与えることで低減できる
本システムの効果は大きい.
3)インターネット経由接続実験
2 年目には,産総研と同型の機種を所有する共同研究先である(株)浅沼技研の CMM
を,産総研から遠隔操作する実験を行った.産総研は専用のインターネット接続線を持っ
ているが,全ての企業にそのようなインフラが整備されているわけではない.
ここでは最近急速に普及が進んだ ADSL を使って接続実験を行った.ここで問題となる
のは,産総研と浅沼技研のいずれのネットワークにも存在する Fire Wall である.そこで,
浅沼技研側に Fire Wall に穴を開けるためのソフトウェア(今回使用したのは Sonicwall
と呼ばれるソフトウェア)を行い,産総研の特定のコンピュータのみ接続できるように設
定を変更した. 浅沼技研には,産総研と全く同型の CMM 以外に,同じ制御システムを
使っている非接触型の CMM がある.実験の結果,どちらの CMM に対しても全ての機能
を制御することができた.
さらに外国との遠隔操作実験を行った.相手が外国の機関であるないにかかわらず,装
置の遠隔操作を行う場合には,情報の漏洩と言う問題がある.現在は実験段階であり,こ
の問題を回避するために,ドイツの Brown & Sharpe 社(B&S 社)から,産総研の CMM
を遠隔操作する実験を行った.産総研には外部から接続するために Virtual Private
Network(VPN)サーバが設置されている.Windows や Macintosh などに対しては VPN
ソフトウェアがあり,これを使うと外部から産総研内のネットワークアクセスできる.と
ころが産総研で使用している CMM の制御ソフトは OpenVMS というオペレーティングシ
ステム上で稼動しており,この OS については VPN ソフトウェアが存在しない.そこで
VPN ハードウェア(ルータの一種である)を使い,その下に CMM の制御装置をつなぐ
ことにより,遠隔操作が可能になった.B&S 社のネットワークは非常に遅く数 kpbs 程度
であるが,CMM の操作はテキストデータのやり取りのみであるので,若干のレスポンス
の遅れはあるが実用になることが確認できた.また同じく VPN を使って産総研内に設置
した Web カメラにアクセスし,CMM が動作する様子をモニタすることもできた.
4)異機種接続実験
上記の遠隔操作実験は全て同じ機種の CMM を 2 台使って行っていたが,実際はさまざ
まなメーカ・機種の CMM が使用されているため,機種の差を越えた遠隔操作ができるの
が理想である.
82
そのための手段の一つとして DMIS と呼ばれるソフトウェアがある.現在東京電機大で
DMIS を使ったボールプレート測定ソフトウェアを作り,それをさまざまな機種の CMM
で動かす実験を続けている.
5)その他の成果
現在,幾何学的誤差の測定においてはボールプレートがもっともよく用いられているが,
産総研独自の装置であるレーザトラッキング装置を使ったほうが効率的かつ正確な測定が
できる.現在各国ともその事実を認識し始め,ドイツ,イギリス,メキシコの国立研が後
追いの実験を開始している.レーザトラッキング装置は,ゲージ以上に簡単に幾何学誤差
を測定することが可能であり,この装置をユーザ側に輸送することでこれまでに述べたの
と同様のシステムの構築が可能である.そこでこのレーザトラッキング装置を使って
CMM の誤差を測定する実験を行い,誤差が 3 µm 程度であることを確認した.
本プロジェクトで構築したシステムを実社会で利用するには,より具体的なプロトコル
を作成する必要がある.現在主に使用されているスチール製のボールプレートより,低膨
張材料で作られたホールプレートの方が優れている点も多く,東京電機大ではそのための
検討を行っている.
またどの程度の頻度で幾何学誤差の評価を行えばよいのかは,非常に重要なパラメータ
であるにもかかわらず誰も正確に把握されていない.浅沼技研では複数の CMM を使って
そのための基礎データを取得する実験を行う.
【論文・解説】
なし
【口頭発表】
1)大澤尊光, 高辻利之, 黒澤富蔵, “2次元幾何学ゲージの校正とその不確かさ”, 2002 年
精密工学会春季大会学術講演会論文集, p.747 (2002).
2)梅津健太,古谷涼秋,大澤尊光, 高辻利之, 黒澤富蔵, “レーザトラッキングシステムも
用いた CMM の校正”, 2002 年度精密工学会秋季大会学術講演会論文集, p.??? (2002).
3)梅津健太,古谷涼秋,大澤尊光, 高辻利之, 黒澤富蔵, “レーザトラッキングシステムも
用いた CMM の校正”, 2003 年度精密工学会春季大会学術講演会論文集, in press (2003).
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.5.2 実用化、事業化の見通しについて
1) 実用化、事業化の見通し
同機種の CMM を遠隔操作する技術はほぼ確立された.したがってセキュリティーが問
題にならない,例えば一つの企業内でこのシステムを利用することはすぐにでも可能であ
る.しかしながらそうやって取得したデータのトレーサビリティーについては,法律を含
83
めた整備を行わなければならない.
技術や知識を持たない企業に対し,第三者が遠隔操作により装置の評価を行う場合,さ
らにその評価結果にトレーサビリティーを確保するためには,さらに進んだ法整備が必要
である.
これらの体制整備作業は来年度中に完成するものではなく,プロジェクト終了後もその
作業を継続する必要がある.
2) 今後の展開
今後は産総研が所有する CMM とは異なるメーカや機種の CMM を遠隔構成する手法を
確立する必要がある.そのために現在,産総研の CMM ともう一つの共同研究先である東
京電機大学が所有するミツトヨ製の CMM に,共通言語である DMIS をインストールし,
実験を進めている.さらに進んで,工作機械と同じように CMM の制御ハードウェアもメ
ーカや機種を超えて共通のプロトコルで動くのが理想であり,今後はその実験を進める予
定である.
またどの程度の頻度で幾何学誤差の評価を行えばよいのかは,非常に重要なパラメータ
であるにもかかわらず誰も正確に把握していない.浅沼技研では複数の CMM を使ってそ
のための基礎データを取得する実験を行う.
近年の IT 技術の進展には目覚しいのもがあるが,本プロジェクトが始まったころから
のブロードバンド技術,マルチメディア技術の進歩は目を見張るものがある.当初困難と
見られていたネットワークカメラ,IP 電話,常時接続が当然のものになりつつある.本プ
ロジェクトの事業化には強力な追い風であるが,その進歩にいち早くついていかなければ
プロジェクトの成果自体が陳腐化する恐れがある.そのためにも研究成果の早急な達成が
望まれる.残りの期間,IT 技術の動向を見据えつつ研究を進めたい.
[基本計画の変更]
三次元測定機標準の遠隔校正の研究開発および実証実験は前期(平成 13∼15 年度)で前
倒し終了する。
84
2.6 流量標準遠隔校正技術の開発
流量標準のパラダイム
産総研
社会・産業界
1.校正情報
インターネット
2.標準流量計
標準流量計/
校正情報:
インターネット
LAN
遠隔地
2.認定事業者
不確かさ:0.1~0.2%
不確かさ:0.04%
校正情報
1.海外標準研
遠隔校正用
自己診断機能
一般流量計ユーザ
流量標準に基づく流量計測
不確かさ:0.2%~
特定標準器
大型の流量校正設備
人的資源節約
校正能力アップ
2.6.1 研究開発成果
(1)はじめに
流量の計測は、古くから多くの産業分野で様々な種類の計測器が用いられてきたにもか
かわらず、技術開発の進展が他の計測器と比較して緩やかであり、依然として産業界が必
要としているサービスを十分満足に達成することができない状態である。その理由のひと
つとして、流量計は設置条件によって思わぬ不確かさの増大を招くことがあるため、依頼
者が校正現場に立ち会い、データを実時間で入手してその場で校正結果の良否の判定を行
わない限り信頼性の高い校正結果を得られないことが挙げられる。
このため本研究では、依頼者が自分の事業所に居ながらにして実時間で校正データを入
手できるようにすること及びつくば中央第3事業所からの遠隔校正の実現を目標として、
産業技術総合研究所つくば北にある大型の流量計試験設備をインターネットに接続し、流
量計の校正をするために必要なネットワークによる計測制御技術と遠隔校正評価技術を開
発する.不確かさ目標は 0.1%である.
産業技術総合研究所つくば北にある大型の水用流量計試験設備をインターネットに接続
する際の設計資料とすることを目的として,調査を行った。これらの調査結果に基づき、
国家流量標準設備(石油大流量校正設備)において収録される計測データと画像情報をオ
ンラインでつくば中央第3事業所の研究室に送り、遠隔校正を実際に試みた。
85
(2)水用大型流量計校正設備における遠隔校正の調査
調査対象の水用大型流量計校正設備の概要を図1に示す。本設備は液体流量の特定標準
器である。容量 900 m3 の地下貯水槽の水を揚水ポンプにより、ヘッドタンクに汲み上げ
る。ポンプは遠心型で 7 機あり、それぞれ 75 kW の電動機で定速駆動され、流量に応じて
必要な台数が運転される。ヘッドタンクは容量 144 m3 であり、試験管路の中の最も高い
位置からヘッドタンク内の水面までの有効高さは 18.5 m である。ヘッドタンク内部には
オーバーフローチャネルが設けられており、任意の流量での水位の変動は±0.5 mm 以内に
保たれる。ヘッドタンク内部の水は重力により流れ落ち、試験管路に流入する。試験管路
内径(D)は 150∼1100 mm であり、全ての管路に対して被校正流量計の上流に 100D 以上の
直管を配置できるようになっている。被校正流量計の下流には流量調整弁があり、さらに
その下流にはダイバータ付きの秤量タンクが設けられている。秤量タンクには、ロードセ
ル式の秤量計が取り付けられている。秤量計の容量は 50 t、分解能は 5 kg である。設備
全体の寸法は、全長 200 m、全幅 27 m である。この設備の拡張不確かさは 0.1%(k=2)
以内と見積もられている。現在、装置の運転は計測室内に置かれている制御盤で行われて
おり、一部の計測はパソコンを利用し自動データ収集を行っている。校正を行うために必
要な計測値の信号はすべて、計測室内に置かれている制御盤に入力され、その一部は制御
盤に接続されたパソコンに転送されている。また、設備の運転を行うための揚水ポンプ、
油圧装置の起動信号は制御盤から出力されている。これらの機器は、制御盤上のスイッチ
類によって起動・停止が行われるが、制御盤内の各種インターロックにより起動制限がか
けられ安全を確保している。また、一部の運転は制御盤に接続されたパソコンを利用し自
動化されている。本設備に対し、ネットワーク(産業総合研究所の所内 LAN)により計測
制御の遠隔化を実現するためにはどのような問題があるか調査を行った。
調査の結果、遠隔校正を実現するには、既設制御盤をコンピュータとネットワークをベ
ースにしたものに更新し、運転と計測を統合してパソコン画面上から計測作業が行えるよ
うにする必要があることがわかった。本調査により提案された遠隔校正のための計測制御
系の概略図を図2に示す。現在、制御盤と付属のパソコンが持っている機能は、I/O コン
トローラ、計測制御サーバ、計測制御操作パソコンで分担することになる。これらはイー
サネットにより接続されるため、もう1台の計測制御操作パソコンを第3事業所に設置す
ることにより、遠隔校正が可能となる。また、産業技術総合研究所の外におかれたパソコ
ンに計測制御操作パソコンと同等のソフトウエアをインストールすることにより、産業技
術総合研究所の外でも実時間で校正データを受け取ることが可能となる。
しかしながら、これらの改修には約 23,000 千円の費用が必要であると見積もられたこ
とから、既にプライベートネットワークが構築されている石油大流量校正設備での遠隔校
正を実際に試みた。
(3)石油大流量校正設備における遠隔校正技術の開発
流量国家標準施設(石油流量校正施設)は石油流量の国家標準施設として産総研つくば
北に建設され、2002 年 7 月に完成した。この中に設置されている石油流量計の実流校正設
86
備の概要を図3に示す。灯油用及および軽油用の2つの試験ラインを持ち、校正の不確か
さ(k=2 の拡張不確かさ)が体積流量で 0.04 %、質量流量基準で 0.03 %以下と世界最高
水準である。国家標準としては転流器による通液式秤量法を採用している。産総研により
開発された新方式の転流システムは、これまで用いられてきたバルブの切り替えによる秤
量法に比べて計測時の流量変動が無く、さらに切り替え時に発生する誤差を飛躍的に小さ
くすることが特徴である。また、校正の効率化を図るために、作業標準としてスモールボ
リュームプルーバ(SVP)
、サーボ式容積流量計が設置されている。流量計が設置される
試験管路の内径は 50∼150 mm であり、校正対象の流量計入り口で理想的な流れが形成させ
るために流量計の上流側に管径の 100 倍以上の直管が設置されている。遠心ポンプ3台を
同時に定速駆動させることによって容量が 43m3 である貯蔵タンクから試験ラインへ試験
液を流し、流量計内に脈動のない流れが実現される。また、複数の調節弁により試験管路
での流量範囲である 3∼300 m3/h に調整される。高精度を達成するためには試験液の膨張・
圧縮を正確に把握することが求められるため、温度及び圧力を安定させる制御システムが
構築されている。また、試験液の中に微細な気泡が混入されやすいことから、貯蔵タンク
および回収タンクには気泡除去に多大な効果を示す多段スクリーンメッシュが挿入されて
いる。10t もしくは 1t 用の秤量計及び転流器が軽油、灯油ラインのそれぞれに設置され、
試験流量に合わせて秤量システムが選択される。秤量計には標準分銅が付属され、常に秤
量計を高い精度で自動校正が可能である。本石油流量校正設備に対し、所内 LAN により計
測制御の遠隔化を実現するためにはどのような問題があるか調査を行った。
その結果、産総研 LAN を利用した遠隔校正のシステム設計を行ううえで、大型危険物取
扱所である校正施設の安全性を維持するとともに、外部からの作業者による誤作動防止用
インターロックの実装とシステムセキュリティの確保が重要であることがわかった。さら
に、オンタイムで測定データを取得するために、データ転送速度に依存する取得データ量
が測定精度に及ぼす影響について検討を行い、適切な遠隔校正システムを構築する必要性
があることがわかった。そこで、第1段階として現在使用中の制御プログラムを監視専用
に改造し、リモートコントロールプログラムを用いて遠隔校正を行った。次に、産総研つ
くば北もしくはつくば中央から校正設備の監視するために、設備稼働状況を把握するとと
もに校正データの取得し、運転員に測定開始と次の実験の指示を可能とする遠隔校正用シ
ステムを付加した。ここで、安全性を確保するために、遠隔からの指示は現場へのサポー
ト手段であり、施設稼働の最終的な判断は現場運転員が行うものとした。
具体的には、プライベートネットワークとして確立している既設の流量国家標準施設制
御用システムの LAN 内にデータ管理端末及びリモート管理端末を、また、プライベートネ
ットワークと産総研 LAN との間にルータを新設した。今回構築した遠隔校正用システムの
構成図を図4に示す。ルータのフィルタリング機能を利用して指定された IP を保有する産
総研内遠隔用端末のみからプライベートネットワークへの接続可能とした。また、リモー
ト管理端末には制御用端末の監視プログラムをベースに作成された監視機能のみの遠隔監
視用プログラムをインストールし、リモートコントロールプログラムを用いて産総研つく
87
ば中央から校正設備の遠隔監視を実現させた。また、これまで制御用サーバが制御用デー
タとともに共有していた校正データをデータ管理端末に分離した。さらに、データ管理端
末には、データ収集、テンポラリファイル作成、試験結果の格納、試験情報入力データの
変更の機能を有するプログラムを実装させ、リモート管理端末を介して外部からのアクセ
スを可能とした。校正環境データを含めた全種類の測定値を実時間で遠隔へ転送すること
が望ましいが、産総研 LAN だけでなく転送速度がボトルネックとなることが予想される民
間や外国からのインターネットを利用した遠隔校正を行うために転送する校正環境データ
の種類を選択可能とした。
現在、構築したシステムでの遠隔監視実験を実証中であり、さらなる利便性と効率化を
図るためには詳細な検討が必要である。平成15年度には Web サーバを用いた産総研外部
へのデータ送受信を行い、産総研外部からの遠隔校正を実施する予定である。
図1 水用大型流量計校正装置
88
図2 遠隔校正実現のための計測制御系概念図
灯油ライン
サーボ式容積流量計
SVP
軽油ライン
熱交換器
貯蔵タンク
(軽油;43m3)
試験管路
熱交換器
貯蔵タンク
ポンプ
(灯油;43m3)
転流器・
秤量タンク・
図3 石油大流量校正設備
89
図4 石油流量校正設備の遠隔校正のための計測制御系概念図
【論文・解説】
1)嶋田隆司「石油大流量校正設備」AIST Today 2002 年 7 月号 pp.32
2)嶋田隆司、寺尾吉哉、高本正樹、他「Development of a New Diverter System for Liquid
Flow Calibration Facilities 」 Flow Measurement and Instrumentation, To be
submitted.
【口頭発表】
1)嶋田隆司「計量技術の最近のトピックス「石油流量の国家校正施設の紹介」法定計量
セミナー発表日:平成13年11月8日
2)嶋田隆司、寺尾吉哉、高本正樹、他「Development of a servo PD oil flow meter for a
transfer standard 」、 The 5th International Symposium on Fluid Flow
Measurement, Arlington, U.S.A 発表日:平成14年4月10日
3)嶋田隆司、土井原良次、寺尾吉哉、高本正樹、他「New primary standard for
hydrocarbon flowmeters at NMIJ - International comparison between NMIJ and
SP」11th Flomeko, Netherlands 発表日:15年5月予定
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
90
2.6.2 実用化、事業化の見通しについて
1) 実用化、事業化の見通し
流量計校正設備の遠隔校正技術が確立され、また自己診断機能付きの遠隔校正用現場標
準流量計が実用化されることにより、民間の石油会社等に数十カ所設置されている石油流
量計校正設備の信頼性の向上と効率化の促進が可能となるとともに、維持管理が煩雑であ
る現存の基準タンクや基準体積管による校正設備は、作業効率と取扱が容易な標準流量計
を利用した校正設備へ変移する。
2) 今後の展開
大型の石油流量計校正設備では多額の維持管理費が必要である。本事業での技術開発が
もたらす校正方法の簡便化と校正の効率化は民間企業保有の校正設備の維持管理費の大幅
な削減が予想される。さらに、現存する校正設備の多くは老朽化のために再構築が検討さ
れていることから、建設費の削減をもたらすとともに遠隔校正に適応した校正設備へ変貌
することが予想される。
91
2.7 温度標準遠隔供給技術の開発
温度標準のパラダイム
外国標準研(国際比較)
認定事業者(技能試験)
産業技術総合研究所
校正の遠隔モニター
振動・衝撃に強い
抵抗温度計
抵抗測定装置
電圧測定装置
不確かさ 0.004 ℃
(660 ℃)
抵抗測定装置
電圧測定装置
温度分布依存性
の小さい熱電対
不確かさ 0.2 ℃
(1100 ℃)
温度定点実現装置
温度定点実現装置
仲介標準器の移送
92
2.7.1 研究開発成果
【輸送仲介用白金抵抗温度計の開発】
輸送仲介用白金抵抗温度計の開発のため,1)従来型の標準用白金抵抗温度計(SPRT)の
耐振動安定性評価,2)耐振動型の輸送仲介用白金抵抗温度計プロトタイプの設計・試作,
3)試作したプロトタイプ温度計の耐振動安定性評価,4)抵抗温度計評価装置の開発を
行った(図1).
図1.輸送仲介用白金抵抗温度計の開発
1)従来型の標準用白金抵抗温度計(SPRT)の耐振動安定性評価
工業用白金抵抗温度計の IEC 規格の試験方法を参考にして,既存の標準用白金抵抗温度
計について振動試験を行い,その安定性を評価した.標準用白金抵抗温度計が振動・衝撃
に対して弱いことは,良く知られているが,標準用白金抵抗温度計は,一般に振動・衝撃
が少ない状況で使用するため,定量的に対振動・衝撃性について,調べられた例は,これ
までなかった.
図2に,調べた振動による標準用白金抵抗温度計のダメージを示した.試験を行なった
温度計は,一般的に標準供給でよく用いられるステム型標準用白金抵抗温度計5本につい
て,加振機による振動試験の前後での水の三重点(0.01℃)での抵抗測定を行い,抵抗値の変
化を調べた.抵抗値の上昇は,振動によるセンサー白金線の歪み発生を意味しており,振
動により劣化したことを示している.5本の温度計のセンサー部の構造は,A, B1,B2 がダ
ブルコイル型で,C1,C2 が折り返し型である.それぞれの抵抗値(0.01℃)は,25Ω(A)
,
5Ω(B1,B2)
,3Ω(C1,C2)である.振動加速度は,最初の3時間,10m/s2,続いて3時
93
間,20m/s2 で行った.
この実験の結果から,従来型の標準用白金抵抗温度計では 20m/s2
の振動加速度により,
3 mK から 10 mK 相当の抵抗値の変化を示すことが分かった.これは,温度校正の不確か
さ(2 mK)と比べて大きく,既存の温度計では一般的な運送方法を用いることができないこ
とを定量的に裏づけている.
10 m/s
20 m/s
A
B1
B2
C1
C2
6
10
∆Rtpw(t) / Rtpw(0) × 10
2
8
6
2
Acceleration
1mK
4
2
0
0
1
2
3
4
5
6
t/h
図2.従来型温度計の振動試験.
2)耐振動型の輸送仲介用白金抵抗温度計プロトタイプの設計・試作
輸送の振動に耐えうる温度計プロトタイプの設計および試作を行なった.白金線セン
サー部を耐振動型コイルとし,その周囲を高純度のアルミナ粉末で充填し,温度計シース
中に保持している.金属酸化物粉末の充填は,工業用の金属シース型抵抗温度計で採用さ
れている方法であるが,純度等を考慮してアルミナ粉末を採用した.また,センサー形状
は,白金線が機械的に影響を受けにくいと考え,折り返し型を採用した.抵抗値の違いに
よる強度を調べるため,抵抗値は,25 Ωと 100 Ωのものを作成した.
3)試作したプロトタイプ温度計の耐振動安定性評価
従来型の SPRT に対して行なった耐振動性評価と同じことを,試作した温度計について
も行った.さらに,国際温度目盛(ITS-90)に定められた標準用白金抵抗温度計の規格を満た
しているかを,ガリウムの三重点温度(29.7666 ℃)での抵抗比の測定により確認した.図3
に水の三重点での抵抗値の変化を示した.今回,試作した温度計では,大きな個体差が見
られたが,8本中3本の温度計では,ダメージが 1 mK 相当以下の極めて高い安定性を示
94
しており,これらは,輸送に耐え,十分な精度を維持できる標準用白金抵抗温度計として,
期待できるものである.
10 m/s
10
2
20 m/s
2
∆R tpw(t) / Rtpw(0) × 10
6
Acceleration
8
6
1mK
4
2
0
0
1
2
3
4
5
6
t/h
図3.耐振動型温度計プロトタイプの振動試験.
4)抵抗温度計評価装置の開発
開発した耐振動型の仲介標準器の特性を評価するため,高精度で効率よく測定を行う
ことが可能な抵抗温度計評価装置を開発した.評価するにあたっては,使用する温度範囲
にわたる再現性や温度−抵抗特性を測定する必要があり,定点温度間での連続的な高精度
の比較測定が必要不可欠となる.
抵抗温度計評価装置は,均熱部,加熱部,断熱部および制御部から成る.均熱部には
高い温度安定性を得るために圧力制御型のセシウムヒートパイプを用いた.均熱チャンバ
ー内には抵抗温度計を4本挿入できる比較ブロックを設け,一回の測定で4本の温度計の
比較を可能とし,効率的な評価が実現される.加熱部には信頼性の高いカンタルヒータ,
断熱部には高純度のアルミナ繊維による断熱材を使用し,断熱性能を向上させた.
ヒートパイプ内部の圧力制御,および加熱部への電力供給は制御部で行った.圧力制御
は2kPa∼100 kPa の範囲で,10 時間にわたり±1 Pa 以下の安定度を実現した.これにより
比較測定が可能な温度範囲は 370 ℃∼660 ℃であり,圧力の設定を行うだけで,任意の温
度において再現性の高い温度場の実現が可能となった.
製作した抵抗温度計評価装置の性能確認のため、従来型の標準用白金抵抗温度計を用い
95
て、温度安定性、均熱性および圧力−温度の制御性を測定した。図4は、圧力を 92.350 kPa
に制御し、温度を 660℃とした際の 10 時間にわたる温度測定の結果である。温度測定値の
10 時間にわたる標準偏差(σ)は、温度換算で 0.048 mK であった。温度安定性を標準偏
差の2倍(2σ)とすると 0.1 mK となり、非常に高い温度安定性を得ることができた。
図4 抵抗温度計評価装置の温度安定性
本装置は4本の温度計挿入孔を有するが、挿入孔内の温度差を測定したところ、対角に
位置する挿入孔間の温度差は 0.7 mK となった。このため、温度の均一性においても優れて
いることが明らかとなった。
図5および図6は、設定圧力を変化させた場合の過渡応答を調べたものである。圧力の
設定値を時刻 100 分においてステップ状に 92.345 kPa から 5 Pa 上昇させた場合の圧力及び
温度の測定結果である。
96
図5 圧力の過渡応答
図6 温度の過渡応答
図5より、圧力はおよそ 5 分後には新しい設定値で安定している。また、温度は、図6
より、30 分後には圧力の上昇分に相当する温度で一定となっている。このように、1 mK
オーダの温度設定が可能であり、また、高精度の温度制御を数 10 分で行うことができるこ
とが確認できた。
ここで開発した抵抗温度計評価装置は、660℃付近で 1 mK 以下の安定性や均熱性を有し
ており、比較測定による温度計の評価を行うための十分な性能を確認することができた。
平成15年度には、本装置により、開発した仲介標準器抵抗温度計の特性評価を行う。
97
【仲介標準器用の熱電対の開発】
一般に熱電対の熱起電力は熱電対に沿っての温度分布の影響を受けて変化し、不均質の
大きな熱電対ほどその影響は大きい。そのため、仮に同じ温度に熱電対の測温接点があっ
たとしても、温度分布が異なると異なった熱起電力を示し不確かさの原因となる。この温
度分布依存性の不確かさは熱電対を用いた校正を行う場合には大きな要因となり、特に
1000 ℃付近の高温域では校正作業中に不均質が発生するため、校正の不確かさの大部分を
占める。そのため、仲介標準器用に熱電対を用いて高精度な温度標準供給を行うためには、
温度分布依存性の少ない熱電対の開発が非常に重要になる。
温度分布依存性の少ない仲介標準器用の熱電対を開発するということは、言い換えれば、
熱電対素線の不均質発生が小さい熱電対を開発することである。仲介標準器である熱電対
の素線に部分的に存在する不均質の位置の特定とその大きさを定量的に評価するため、熱
電対温度分布特性評価炉の開発を行った。図7に、開発した縦型の電気炉の概略を示す。
高温部の温度を測定した結果、10時間にわたって0.01℃以内で安定していることが確
認できた。図8は、炉底から炉の上側10cm までの温度分布を測定した結果である。炉の
温度を400℃にしたとき、高温部では20cm で0.1℃程度の温度均一性を示し、また、
温度勾配部では3cm で400℃から室温まで変化した。熱電対は温度勾配部で起電力が発
生するため、温度勾配部の長さが狭まれば熱電対の不均質の位置分解能を高めるだけでな
く、不均質の検出感度も向上する。これまで海外の研究所で報告されている不均質評価炉
では、高温部が250℃のとき温度勾配部は約50mm であり、このときの温度勾配は4
0℃/cm 程度となる。今回開発した評価炉では温度勾配部が30mm、温度勾配が120℃
/cm 程度であることから、海外の研究所で報告された評価炉と比較して位置の分解能は3/
5倍、検出感度は3倍に向上した。
Alumina tube
400
400
Aluminum block
Ceramic wool
Cesium heat pipe
Temperature / ℃
Copper block
Water
300
200
100
Heater
0
0
10
20
30
40
50
x / cm
図7
熱電対温度分布特性評価炉の構造
図8
98
熱電対温度分布特性評価炉の温度分布
高温用の熱電対としては、R 熱電対(ロジウム13%を含む白金ロジウム合金と白金と
を組み合わせた熱電対)が一般的に使用されているが、高温下での長時間の使用では劣化
により熱起電力が大きく変化する。そのため、本研究では高温下の使用でも熱起電力の変
化が小さいことが期待される白金・パラジウム(Pt/Pd)熱電対を選び、熱電対に沿っての温
度分布の影響が少ない純金属熱電対の仲介標準器の開発を行った。
図9は Pt/Pd 熱電対を一定の温度勾配のアニール炉中に挿入し6時間から48時間曝露
した後、今回作製した評価炉で熱起電力値を測定した結果である。縦軸は各時間で曝露後
の熱起電力値と曝露前の熱起電力値との差であり、曝露による熱起電力の変化量を表して
いる。横軸は、熱電対を引き上げて測定した際、評価炉の温度勾配部にある熱電対部分の、
温度勾配付アニール炉中での曝露温度を示している。
図9を見ると、700℃以上の温度域で熱起電力が大きく変化しており、この温度域で
不均質が大きく生じていることが確認できる。これより、銀凝固点(961.78℃)、銅
凝固点(1084.62℃)等の700℃以上の定点では、校正中に不均質が生成し易いと
言える。特に1000℃以上では曝露開始後の6時間で熱起電力の変化はほぼ完了してい
ることから、1000℃以上の温度定点である銅の凝固点で校正する場合、比較的短時間
で不均質が生成されることが予想される。そのため、高温域での定点において、熱電対の
校正の不確かさを減少させるためには、熱電対の不均質の発生をいかに小さく抑える事が
出来るかが非常に重要となる。
Emf change / µ V
0.6
Pt/Pd (450℃ 10h)
48h
24h
12h
6h
0.4
0.2
0.0
-0.2
図9
500
600
700
800
900
Heat treatment temperature / ℃
1000
450℃∼1100℃で曝露した Pt/Pd 熱電対の起電力の変化
図10(a)(b)は、図9の結果を基に作成した模式図である。図10(a)の熱処理条件は、通
電アニールでは1200℃で10時間、更に、炉中1100℃で3時間熱処理した後、4
99
50℃で10時間熱処理をした場合であり、図10(b)では、通電アニールでは1200℃
で10時間、更に、炉中1100℃で3時間熱処理した後、850℃で100時間熱処理
をした場合を想定した。図10(b)より、850℃の熱処理により最初の不均質のレベルは
図10(a)よりも高くなるため、不均質の変化量は図10(a)よりも小さくなる事が予想され
る。これより、850℃で熱処理した場合、Pt/Pd 熱電対の不均質の発生が小さくなり、そ
emf change
の結果、温度分布依存性の小さな熱電対が作製できると期待できる。
450℃10h
850℃100h
0
0
600
850 1084
600
850 1084
Heat treatment temperature / ℃
(a)
(b)
図10
Pt/Pd 熱電対の起電力変化の模式
図
図11は、図10(a)(b)で想定した熱処理条件に従い組立を行った熱電対を、一定の温度
勾配のアニール炉中に挿入して48時間曝露した後、熱電対温度分布特性評価炉を用いて
熱起電力の変化を測定した結果である。図11を見ると、暴露後の不均質の発生量は、4
50℃で10時間熱処理を行った場合と比べて、850℃で100時間熱処理を行った方
が減少していることが確認できる。
emf change / µ V
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
600
図11
450℃ 10h
850℃ 100h
700
800
900
Heat treatment temperature / ℃
48時間曝露した Pt/Pd 熱電対の起電力の変化
実際に性能を確かめるため、銅の凝固点装置を用いて、図10(a)(b)で想定した熱処理条
件に従い組立てた Pt/Pd 熱電対の挿入長を変化させて熱起電力値の測定を試みた。
ここで、
「熱電対の挿入長を変える」行為は、
「熱電対に沿った温度分布を変える」行為と同等であ
100
る。よって、不均質の小さな熱電対であれば、銅の凝固点実現装置の均熱領域中(8cm)
で位置を変化させたとしても、熱起電力の大きな変化は起こらない。
図12は組み立て直後の熱電対を銅凝固点装置の挿入孔の最深部(0cm)に保持し、
銅凝固温度付近で50時間暴露した後、毎分0.5cmで引き抜いた時の熱起電力の変化を
測定した結果である。図中の赤い丸が炉中450℃で10時間熱処理した熱電対、緑の丸
が炉中850℃で100時間熱処理した熱電対である。図より、850℃で熱処理した熱
電対の熱起電力値は、最深部から8cm に渡り±10mK 以下であり、450℃で10時間
熱処理した場合に比べ、熱起電力値の変化は非常に小さいことが分かる。これより、今回
使用した Pt/Pd 熱電対に関しては、850℃で100時間熱処理することにより不均質の
非常に小さな熱電対になることが確認できた。これは、高温域で温度分布依存性の非常に
小さな熱電対ができたことを意味し、今回開発した熱電対を仲介標準器として使用するこ
とにより、高温域での正確な温度標準のトランスファーが可能になる。
1.5
18cm
0 cm
emf change / µV
450℃10h
1.0
20mK
0.5
850℃100h
0.0
-0.5
0
2
4
6
8
Junction immersion / cm
図12
銅の凝固定点装置への挿入長を変化させた時の熱起電力値の変化
【温度遠隔モニタシステムの開発】
産総研から送られた仲介標準器を,校正事業者において測定に用い,測定状況のモニタ
ー,産総研からの指示,測定データ転送をオンラインで行なう温度遠隔モニタシステムを
開発した(図13).このシステムの使用目的から,事業者側でのデータの改ざん防止,取
得データのセキュリティ管理,事業者の通信事情によらない汎用性を考慮して,システム
設計を行なった.
本実験に先立ち,動作確認のため,東京にある事業者との間で,実証試験を行い,シス
テムの動作確認した.
101
図13 温度遠隔モニタシステム概略
【論文・解説】
1)Effects of Heat Treatment on the Inhomogeneity of the Pt/Pd Thermocouple at the Cu Freezing
Point, H.Ogura, H.Numajiri, K.Yamazawa, J.Tamba, M.Izuchi, M.Arai, Temperature: Its
Measurement and Control in Science and Industry, (in press).
2) 温度の標準供給 -熱電対-, 新井優, AIST Today, 2003 年 4 月号
【口頭発表】
1)Development of a stable transfer standard thermometer I. Evaluation of vibration damage on
standard platinum resistance thermometers, Isao Kishimoto, Masaru Arai, Hirokazu
Narushima, Akiyoshi Kawata, SICE Annual Conference 2002 in Osaka. 発表日:平成 14 年
8 月 5 日、大阪
2)Emf Changes of Pt/Pd Thermocouples at the Cu Freezing Point, Hideki Ogura, Haruhiko
Numajiri, Masaya Izuchi, Masaru Arai, SICE Annual Conference 2002 in Osaka. 発表日:平
成 14 年 8 月 5 日、大阪
3)Effect of Temperature Distribution on Emf of Thermocouples, Hideki Ogura, Jun Tamba,
Masaya Izuchi, Masaru Arai, SICE Annual Conference 2002 in Osaka. 発表日:平成 14 年 8
月 5 日、大阪
4)Uncertainty Caused by Inhomogeneity of the Pt/Pd Thermocouple at the Cu Freezing Point,
102
H.Ogura, H.Numajiri, K.Yamazawa, J.Tamba, M.Izuchi, M.Arai, 8th Temperature Symposium.
発表日:平成 14 年 10 月 24 日、Chicago
5)Jun Tamba,Isao Kishimoto, Masaru Arai, Evaluation of Transfer Standard Platinum
Resistance Thermometers, SICE 2003 (投稿済)
6)Development of a Stable Transfer Standard Thermometer. II Vibration Test of Prototype
Models, Isao Kishimoto, Masaru Arai, Kazuaki Yamazawa, Akiyoshi Kawata, SICE 2003 (投
稿済)
7)Remote Monitoring System for “e-trace” in Thermometry, , Kazuaki Yamazawa, Isao
Kishimoto, Masaru Arai, SICE 2003 (投稿済)
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
2.7.2 実用化、事業化の見通しについて
1) 実用化、事業化の見通し
【輸送仲介用白金抵抗温度計の開発】
校正機関認定の中で、国家標準機関が事業者を審査するという行政行為と事業者が審査
を受けるという事業行為の中で、本研究において開発を行っている輸送用仲介標準器用白
金抵抗温度計と遠隔校正システムは、人の移動と輸送の労力等が低減でき、効率化が図れ
る。現段階の本研究では、遠隔校正システムは、動作確認が成功しており、輸送に耐える
標準器の開発は、50 %程の段階であり、今後、温度特性の評価を行い、完成をめざす。
輸送仲介標準器用の白金抵抗温度計の開発は、上記、認定のための技能試験に用いるだ
けにとどまらず、一般的に、温度校正事業者が参照標準器の校正を上位の校正機関におい
て行う際に、労力の低減と輸送中の校正値の変動による誤差発生を防ぐことができる。
【仲介標準器用の熱電対の開発】
熱電対による温度の標準供給は、たとえば、温度標準器である産総研の定点装置で校正
した仲介標準器(熱電対)を用いて、校正事業者のワーキングスタンダード定点装置の値
付けを行うことによって行われる。定点装置は定点炉と定点セルとから構成され、両者の
同一製品の組み合わせでない限り、熱電対を挿入する測温孔における温度分布は同じにな
らない。また、従来の熱電対では温度分布依存性が少なからず存在するため、温度分布の
測定自体が困難である。したがって、仲介標準器としては、温度分布依存性の小さいこと
が非常に重要である。本研究では、この点に焦点をおいて Pt/Pd 熱電対を開発し、実際の
標準供給の形態を想定して外部の8事業者との間で熱電対を移送する持ち回り試験を実施
した。この結果、第 1 階層の標準供給では、銅点(1085 ℃)において 0.2 ℃以下の不確
かさが十分達成できることが確認された。現在ではこの成果を生かして、Pt/Pd 熱電対を
特定二次標準器とする銅点及び銀点(962 ℃)での標準供給が開始されている。本研究で
開発した Pt/Pd 熱電対においても、誤操作あるいは長時間の使用により温度分布依存性が
生じてくるため、校正時にその影響を評価する手法を開発中である。
103
2.8 力学標準遠隔供給技術の開発
2.8.1 研究開発成果
1) 圧力標準
圧力範囲 10 k-100 kPa の気体絶対圧力標準の遠隔校正システムの構成を検討した。移動
標準器に用いるデジタル圧力計に横河電機製シリコンレゾナンス形を選定し、シ−ル部をメ
タル製に置き換えてゼロ点の安定性を向上した圧力計 S14 を入手した。遠隔校正システム
を開発し、通信インフラの充実している産総研内にて LAN(イーサネット)を使って、遠
隔校正の実験ができるようになった。
図1と図2に、試作した圧力計遠隔校正システムの構成と写真を示す。現場側にサーバ
ーとなるパソコンと映像中継装置を配置し、イーサネットを介した別のパソコンで真空チ
ャンバの圧力を任意に設定し、移動標準器の圧力計を基準に被校正圧力計を比較校正する。
遠隔操作するための手段は、無料ツールとして公開されているリモートアクセスソフト
(WinVNC)を使用した。発生圧力の設定は、将来の可搬性を持たせるために小形でコント
ロールガスの消費が少ない市販の圧力設定器 DPI-520(Druck 社製、圧力範囲:0-200kPa、
制御精度:±0.01 %FS、再現性:0.1 %FS)を選定した。圧力制御の排気には、ターボ分子
ポンプとロータリーポンプとを用意した。圧力の設定は、設定器内部の圧力を設定値と比
較し、その差の正負で加圧用のガス導入バルブと減圧用の真空排気バルブを開閉すること
により行われる(図3参照)
。気体ゲージ圧標準の場合、このシステムから真空ポンプが必
要でなくなる。
この装置に、基準用圧力計、あるいは、被校正圧力計として、デジタル式圧力計 S-14(横
河電機製、圧力範囲:0-130 kPa)、MU101(横河電機製、圧力範囲:0-130 kPa)
、RPM-1-23A
(DHI 社製、圧力範囲:0-160 kPa)
、及び、アナログ式圧力計 Baratron 690A(MKS 社製、
圧力範囲:0-133kPa)を取付け、これら圧力計の特性評価とシステムの機能試験を行った。
圧力計の感度に影響する温度は、チャンバ部に白金測温抵抗体を配置し測定した。
図4に示すように、システム試験の圧力は 20 kPa〜120 kPa を 20 kPa の間隔で階段状に
遠隔設定した。圧力設定に要する時間は約 60 s である。
図5−7に、それぞれ設定圧力が 20 kPa、60 kPa、及び、100 kPa の時の S-14、MU101、
RPM-1-23A と Baratron 690A の指示値、及び、RPM-1-23A を基準にした相対感度の時間変化
を示す。圧力計による指示値のばらつき量の違いは、圧力分解能の差による。圧力指示値
は、20 kPa と 60 kPa でのこぎり刃状に、あるいは、100 kPa でステップ状に変化している
が、この変化は圧力設定器の制御精度(フルスケール 200 kPa の±0.01 %)に起因するも
のである。変化量は最大 10Pa で、圧力設定器のフルスケールの 50 ppm に相当するが、相
対感度への影響は 100 kPa 時に 10 ppm 以下になることを確認した。
図8に、相対感度の圧力依存性を示す。同一メーカーの S-14 と MU101 は、圧力依存性に
比例関係がある。図9に、圧力が 100 kPa 時の相対感度の繰返し性を示す。連続して8回
測った最初のデータと約1週間後に連続して6回測った相対感度との間に、アナログ式圧
力計は圧力換算値で 150 ppm 程度の差のあるものがあるが、50 ppm 以内での繰返し性が得
104
られている。
当初の計画通り、平成 14 年度までに圧力標準遠隔校正システムの実験モデルを試作し、
産総研内部でネットワークを利用した実証試験ができた。平成 15 年度には産総研外部(認
定事業者など)とネットワークを利用して実証試験を実施する計画であり、移動モデルの
試作と基準用圧力計の特性評価を進めている。
2) 質量標準
自動分量・倍量機能を持った質量標準遠隔設定システムを開発し、国家標準を持つ産総
研から 1kg 分銅だけを認定校正ラボに送り、認定校正ラボにおいて当該の質量標準遠隔設
定システムを利用して認定校正ラボが使用する標準分銅を遠隔校正することを提案し、前
期において認定校正事業者に対して調査を行ったところ、このような質量標準遠隔設定シ
ステムに対するニーズはあまり高くないことが判明した。校正事業者は、同システムを設
置し 1 kg 分銅だけを送られて自己の標準分銅を遠隔校正するよりも、自己の複数の標準分
銅(組分銅)を産総研に送って校正を受けることを望んでいる。このように質量標準遠隔
設定システムの開発をしたとしても現実に波及効果が薄いことが判明したので、この分野
の研究は当初計画を変更する必要がある。
AIST NetWork 100Base-T
加圧用GAS
ネットワーク部
被校正器
被校正器
真空チェンバ
現場PC
基準圧力計
圧力コントローラ
遠隔校正部
温度計
ターボ分子ポンプ
大気圧計
映像部
ロータリーポンプ
図1.圧力計の遠隔校正システムの構成
105
温湿度計
図2.遠隔校正システムのブレッドボードモデル
制御部
Vacuum
Pump
GAS
真空チェンバ
被校正器
被校正器
基準圧力計
制御原理
図3.圧力設定の原理
140
圧力指示値(kP a)
120
100
80
60
40
20
0
0
2000
4000
6000
時間(
s)
図4.圧力の設定
106
8000
10000
20.025
0.9999
0.9998
20.020
相対感度
指示値(kPa)
0.9997
20.015
0.9996
0.9995
20.010
0.9994
20.005
0.9993
1300
1500
1700
1900
2100
2300
1300
1500
1700
時間(s)
バラトロン
MU-101
1900
2100
2300
時間(s)
RPM-1
S-14
バラトロン
MU-101
S-14
図5.圧力指示値と相対感度(基準:RPM-1、20 kPa)
0.99 992
60.030
0.99 988
相対感度
指示値(kPa)
60.025
60.020
0.99 984
60.015
0.99 980
60.010
3800
4000
4200
4400
0.99 976
3800
4600
4000
時間(s)
バラトロン
MU-101
4200
4400
4600
時間(s )
RPM-1
S-14
バラ トロン
M U-101
S-14
図6.圧力指示値と相対感度(基準:RPM-1、60 kPa)
0.99996
100.040
100.035
0.99992
相対感度
指示値(kPa)
100.030
100.025
0.99988
100.020
時間(s)
0.99984
100.015
0.99980
100.010
6100
6300
6500
6700
6100
6900
6300
6500
6700
6900
時間 (s)
バラトロン
MU-101
RPM-1
バラトロン
S14
MU-101
S-14
図7.圧力指示値と相対感度(基準:RPM-1、100 kPa)
107
0.9935
0.9934
0.9933
0.9932
0.9931
0.9930
0.9929
0
5
10
15
Pressure (x10 kPa / RPM-1)
バラトロン
MU-101
S14
図8.相対感度の圧力依存性
0.9935
0.9934
0.9934
0.9933
0.9933
0.9932
0
5
10
15
回数
バラトロン
MU-101
S-14
図9.相対感度の繰り返し性(100 kPa)
【論文・解説】
なし
【口頭発表】
1) 城、富田、秋道、小畠、平田、”圧力計遠隔校正の検討”、第 63 回応用物理学会学術講
演会、25p-S-10(新潟大学、平成 14 年 9 月 25 日)
.
2) 富田、城、秋道、小畠、平田、”遠隔測定による低真空計の校正の検討”
、第 43 回真空
に関する連合講演会、17p-10(千里サヤンスセンター、平成 14 年 10 月 17 日).
【特許等】
なし
【その他の公表(新聞報道)】
なし
108
2.8.2 実用化、事業化の見通しについて
1) 実用化、事業化の見通し
当初の計画通り、平成 14 年度までに気体圧力標準遠隔校正システムの実験モデルを 試
作し、産総研内部でネットワークを利用した実証試験ができた。平成 15 年度には産総研外
部(認定事業者など)とネットワークを利用して実証試験を実施する計画である。精度的
には第 2 階層以下の現場に近いところでの実用化が期待される。質量標準は、遠隔校正で
きる精度は前期の調査で遠隔設定システムに対するニーズがあまり高くなく、システムを
開発したとしても現実に波及効果が薄いことが判明した。
2)今後の展開
圧力標準は、前期で圧力範囲が 10k-100kPa の気体絶対圧力標準の遠隔校正システムを実
証できる。プロジェクト当初に予定した圧力範囲の 1MPa までへの拡大は、圧力範囲の異な
るデジタル圧力計と圧力設定器への変更の必要はあるが、基本技術は同じである。また、
液体圧力標準の遠隔校正システムも基本的な概念は気体圧力標準と同じである。質量標準
は、前期の調査で遠隔設定システムに対するニーズがあまり高くなく、システムを開発し
たとしても現実に波及効果が薄いことが判明した。従って、後期は本件を本課題から除く
ことが適当と考える。
[基本計画の変更]
[中間目標]変更なし。
[最終目標]
移動モデルの気体圧力標準遠隔校正システムを構築し、産業技術総合研究所外部との間
のネットワークを利用して実証試験を実施する。圧力範囲は 10 k-100 kPa、不確かさは
0.03 % とする。
当初の基本計画にあった「気体圧力標準については 10 k-1 MPa の圧力範囲において
0.02 %、液体圧力標準については 1 M-100 MPa の圧力範囲において 0.05 %を達成する。
また、国家標準に基づく 1 kg を基準とし自動分量・倍量機能を持った質量標準遠隔設定
システムを開発し、不確かさ 0.5 mg を達成する。
」は実施しない。
理由:研究室の人員減により後期(平成 16,17 年度)は本プロジェクトへの参加が困難
になった。民間企業と連携して継続することを模索しているが、まだ結論を得ていない。
109
2.分科会における説明資料
本資料は、第1回分科会において、プロジェクト実施者がプロジェクトを説
明する際に使用したものである。
2-2
「計量器校正情報システムの研究開発」の中間報告
e-traceプロジェクト
● プロジェクトの概要、背景、事業計画概要
● プロジェクトの概要、背景、事業計画概要
・ プロジェクトの背景、産業界からの要望
・ e-trace の概念
・ ・ 事業概要と
の関与する必要性
・ 事業概要とNEDOの関与する必要性
・ 事業概要と
● プロジェクト運営方針、e-trace
● プロジェクト運営方針、
の具体例
・ プロジェクト運営方針
・ プロジェクト運営方針
・ 周波数を基にした / 基にしない標準供給スキーム
・ e-trace
によって期待できる効果 ・ ● 各テーマ進捗と事業化の見通し
・ 各テーマの進捗
・ 実用化、事業化見通しと今後の予定
● まとめ 1. プロジェクトの概要
1.プロジェクトの名称:「計量器校正情報システムの研究開発」
(略称: e-trace プロジェクト)
2.研究開発期間 :平成13~17年度までの5年間
3.予算 :平成13年度1.5億円、平成14年度2.0億円、
平成15年度3.0億円、平成16年度以降は未定。
4.最終目標 :計測標準の遠隔供給、遠隔校正を可能に
する計量器校正情報システムの研究開発
5.プロジェクトの性格:遠隔校正のための要素技術およびシステム
開発と実証実験
6.重点評価希望項目:事業の計画内容と個別研究成果の達成度
2. プロジェクト開始の背景
● 計測標準はあらゆる産業・科学技術の基礎であり、その整備
は重要
● 知的基盤整備の重要性が指摘され、2010年までに欧米なみ
の整備を行うことが閣議決定
● トップレベルの計測標準整備ができても、それを産業全体に
行き渡らせるためには、より効率的な標準供給体制が必要
ドイツ、米国、英国が遠隔校正研究着手
● ISO/IEC国際規格の中で、測定機器の
定期校正が要求事項として規定される
動向
3. e-trace の背景として、ここ10年の産業構造の激しい変化
1.バブル崩壊後の日本の経済環境の変化
--- 日本の製造業の伝統的な品質保証スタイル(系列)の崩壊
--- 製造コスト削減を求めて製造業の海外立地(2000年度で
年度で14%)
製造コスト削減を求めて製造業の海外立地
年度で
-- 海外工場でも日本国内と同等の校正サービス要望
2.国内製造業空洞化
--- 組み立て加工分野の海外移転(「モジュラー化」の進展)
-- 国内に残る企業は、たゆまぬ技術革新により付加価値の高い分野の 優位性確保が必要
---付加価値の高い分野 精密計測要 計測標準
付加価値の高い分野 精密計測要 計測標準
3.企業内統合情報処理の進展に対して、現在の計測標準供給体制は
「持ち込み校正」であり、情報化の遅れ
-- 産業用インフラとして不十分
4. ヨーロッパ発のGlobal
ヨーロッパ発の
Standard に乗り遅れる
と市場を失う危機感
4. 産業界からの計測標準に対する要望
1.国際対応できる国家計測標準の整備
対欧米輸出、国際的な規制などに日本として必要十分な計測標準整備
対欧米輸出、国際的な規制などに日本として必要十分な計測標準整備
2.日本経済の再生、次世代の産業のための戦略的社会インフラとしての
計測標準整備
1)急激な構造変化に迅速に対応
標準供給のスピードアップ、校正周期短縮
標準供給のスピードアップ、校正周期短縮
2)高付加価値製品生産への対応
高付加価値生産のために、工場の生産現場にも国家標準レベルの標準供給
高付加価値生産のために、工場の生産現場にも国家標準レベルの標準供給
3)海外進出企業にも校正サービス
進出先の国家標準で十分とは限らない
進出先の国家標準で十分とは限らない
5. e-trace の概念
・インターネット,光ファイバー,
インターネット,光ファイバー,GPS
GPSなどの
インターネット,光ファイバー,
GPSなどのIT
などのIT技術を使って効率的に標準を供給.
IT技術を使って効率的に標準を供給.
・現地に技術者が赴くことなく,遠隔操作で機器の校正を行う.
e -trace
1.ゲージの輸送
コントローラ
2.装置の制御
三次元測定機
カメラ
インターネット
3.測定結果
4.映像
5.評価結果
不確かさ算出用データ
三次元測定機測定標準遠隔供給技術の開発
e-traceの実現により
traceの実現により
1)時間的制約の克服(リアルタイム性)
2)空間的制約の克服(遠隔校正)
3)階層的制約の克服(量子標準の場合,どこでも同一精度)
6. e-trace の技術的概念
最新の情報通信技術(インターネット、光通信、
最新の情報通信技術(インターネット、光通信、GPSなど)を駆使して
など)を駆使して
品質保証の原点である標準供給を速く、安く、正確に行うことをめざす
GPS
国際相互認証
仲介器
輸出
1) 周波数を仲介器とした物理量
(周波数、時間、時刻、電圧、
長さ、---)
長さ、
情報
標準機関&
標準機関
認定事業者
産業界
(国内、海外)
2) 物理的仲介器
(温度、流量、圧力、三次元量、
AC/DC、
、放射能
放射能----)
インターネット
機器設定情報、取得データ、不確かさ情報
校正証明書
7. グローバル e-trace : 海外進出企業への標準供給案
産総研
計測標準部門
e-trace供給
供給(1)
供給
途上国の
国家標準機関
e-trace供給
供給(2)
供給
直接供給
日本からの
進出企業
日本からの
進出企業
日本からの
進出企業
途上国
8. 事業計画概要
1.日本の標準供給体系であるJCSS (Japan Calibration Service System)
1.日本の標準供給体系である
制度の補完
制度の補完
--- JCSSは標準量目の整備と国際
は標準量目の整備と国際MRA対応。標準供給は「持ち込み校正」
対応。標準供給は「持ち込み校正」
は標準量目の整備と国際
e-traceによる供給体系(トレーサビリティ)の近代化を目指す
による供給体系(トレーサビリティ)の近代化を目指す
2.計量標準供給体系を情報化社会への組み込み
--- 情報化社会の中にあって、計量標準供給体系も情報化社会の中に組み込ま
なければ産業インフラ足りえない
[e-traceの
traceの目指す革新]
目指す革新]
・ 時間的制約の克服(時代の急激な変化への対応)
--- 変化への迅速な対応
--- 周波数にリンクする物理量はリアルタイム校正
・ 空間的制約の克服(海外立地工場でも国内と同等の校正サービス)
--- 空間を伝播する電波 / 光通信ファイバを伝播する光波で標準供給
--- 運搬環境変化に強い
運搬環境変化に強い(robust)物理的仲介器による標準供給
物理的仲介器による標準供給
・ 階層的制約の克服(高付加価値製品の生産)
--- インターネットを介した標準機関の相互モニタおよび相互補完、平準化
--- 上位標準機関から企業の生産現場、あるいは精密測定現場への直接供給可能
9. 我が国の知的基盤整備について 本プロジェクトは我が国の知的基盤整備の一環である。
1.重要性について
・「科学技術基本計画」(平成8年7月)
・「経済構造の革新と創造のための行動計画」(平成9年5月)
2.重点分野について 2.重点分野について
・「知的基盤整備特別委員会」(平成10年6月)
(産業技術審議会・日本工業標準調査会合同会議)
-計量標準、標準物質、化学物質総合管理基盤、人間生活・福祉関連基盤
生物資源情報基盤、材料関連基盤を選定
3.2010年に向けた目標
年に向けた目標
3.
・「知的基盤整備特別委員会」(平成11年12月)
-世界のトップレベルにある米国並み水準を目指す
10. NEDOの関与する必要性
1.バブル崩壊後の日本経済の凋落
--- 安い労働力を求めて製造工場の海外立地
--- これに対して、ヨーロッパの団結・米国の技術力・中国の台頭
2.日本経済の再生、次世代の活性化のための戦略的
社会インフラ整備の必要性
--- 計測標準は産業の社会インフラ(私企業ではできない)
--- 従来型標準供給体系は変化の激しい時代に合わない
--- 戦略的社会インフラ整備としてe-traceの提案
の提案
戦略的社会インフラ整備として
3.戦略的社会インフラ整備は政府の責任
--- 国として優先的に取り組むべき課題
=産業界への影響大
--- 産学官の協調による開発
=NEDO関与の必要
関与の必要
11. 研究開発体制
経済産業省
補 助
NEDO
委 託
研究体
研究開発責任者
運営委員会
(産総研 吉田春雄)
分野1 分野2(1)
分野2(1) 分野2(2)
分野2(2) (2) 分野2(3)
分野2(3) (3) 分野3(1)
分野3(1) (1) 分野3(2)
分野3(2) (2) 分野4 分野5 分野6 分野7 分野8
力学標準 産総研
温度標準 産総研
流量標準 産総研
三 次元測 定標準 産 総研/ 東京電 機大/ 浅沼技 研
放射能標準 産総研
電気標準 交(流 )産総研/ サンジェム
電気標準 直(流 ) 産総研
長さ標準︵ He︶産総研
He-Neレーザ
Neレーザ
長さ標準 光(ファイバー )産総研
長さ標準 波(長 )産総研/東北大 時間標準 産総研
12. プロジェクト運営方針
1.変化の激しい日本の産業構造を支える戦略的インフラ整備
--- 運営方針に産業界の意見のフィードバック
事前・中間審査委員会の意見のフィードバック
運営委員会の指導
--- 11種のテーマをサンプリングしてフィージビリティ・スタディ
2.上記に照らして研究計画の自主的見直し・適宜変更
--- 重点予算配分により前倒し終了し、社会へ
--- 実用標準の遠隔校正の開発計画追加
--- 技術的に困難なものは期間中研究継続
3.JCSS標準整備計画とリンク
--- 計測標準量目増大と新たな標準供給スキーム
4.今後の標準供給の手本
--- 世界的に先駆けた新たな標準供給スキーム
13. 周波数を基にしたe-trace の標準供給スキーム
光ファイバ
アセチレン吸収にロック
世界時
(UTC)
GPS Time
周波数標準
空間伝播
H14,15年度
実証実験
H16,17年度
産業界へ普及
する研究
H13,14年度
1 V系実証実験
H15,16,17年度
10 V系実証実験
周波数・時間標準
電圧標準
電圧に変換できる
物理量
1.5 µm 帯域モード
ロックレーザによる
光周波数標準
+
Comb周波数
周波数
(マイクロ波、ミリ波)
+
(時刻)
モードロック・ファイバ
レーザ(H13,14,15年度)
年度)
レーザ
二値化信号(ON/OFF)による
情報伝送ではなくて、正確な
パルス波形、コヒーレンス、
位相を伝送する。(ソリトン)
長距離伝送の際のジッター、
線幅の広がり、S/N劣化、位
相のくずれなどの基礎研究
が必要。
光(多重)波長標準
マイクロ波、ミリ波
周波数標準
時刻(近い将来)
長さ標準 三次元
(干渉計) 測定
(フェムト秒コム)
H15年度から100 km以上の光ファイバで室内
実証実験。その後フィールド実験を予定。
世界的にみても、このような先進的標準供給の構想はまだ実現されていない。
14. 時間・周波数の遠隔校正(具体例)
GPS衛星
被校正器物とGPSの
時刻比較データ
被校正器物
インターネット
原子時計
時間周波数校正依頼者
産業技術総合研究所
(GPSを介した) 原子時計と
被校正器物の比較・校正データ
15. 周波数を基にしない量のe-trace の標準供給スキーム
④ 移送標準器(transfer
standard)の返却および
移送標準器
の返却および
国立標準機関または認定事業者での再校正
③ インターネット経由で校正証明書発行
国立標準機関 &
認定事業者
② インターネット経由で校正データ、
不確かさ評価送付
① 校正済み移送標準器(transfer
standard)の輸送
校正済み移送標準器
の輸送 および
輸送環境データ集録(到着時にそのデータをインター
ネット経由でフィードバック)
輸送環境に対して丈夫
輸送環境に対して丈夫(robust)な移送標準器開発
な移送標準器開発
[AC/DC、
、放射能、三次元、温度、流量、力学標準]
放射能、三次元、温度、流量、力学標準
国際比較においても、移送標準器の輸送環境による特性変動が問題になっている。
産業界での校正
16. 温度標準の遠隔校正 (具体例)
産業技術総合研究所
外国標準研(国際比較)
認定事業者(技能試験)
校正の遠隔モニター
振動・衝撃に強い
抵抗温度計
抵抗測定装置
電圧測定装置
不確かさ 0.004 ℃
(660 ℃)
抵抗測定装置
電圧測定装置
温度分布依存性
の小さい熱電対
不確かさ 0.2 ℃
(1100 ℃)
温度定点実現装置
温度定点実現装置
仲介標準器の移送
17. e-trace 実用化によって期待できる効果
1. 校正時間の短縮・校正周期の短縮
標準量によってはリアルタイム校正
2. 被校正対象器物を移動せずに校正
校正保証点が産総研からユーザの計測現場に!
3. 企業の生産現場、あるいは精密計測現場に国家標準レベル
を直接供給可能 (高付加価値製品の生産)
計測標準も企業経営情報の中で運用可能になる
4. 海外進出工場へも高度な校正サービス
次世代の戦略的社会インフラ整備
18. 個別テーマの前期(H15年度まで)の進捗度見込み
テーマ名
中間目標に対する 下期予定
進捗度見込み 1.時間標準 ◎ システム開発・実証実験 技術開発継続、普及版も開発
2.長さ標準
1)波長 ◎ 光コムをアセチレンロック 技術開発継続 2)光ファイバ応用 ◎ 干渉信号伝送室内実験 技術開発継続+フェムト秒長さ計測
3)He-Neレーザ
◎ デジタル・インターフェース 前倒し終了
3.電気標準
1)直流(Prog. Josephson) ◎ 1Vデバイス、10 K冷却機 技術開発継続
2)交流(AC/DC) ◎ 海外との実証実験 前倒し終了。+ 新たにインダクタンス
4.放射能標準 ◎ 日本アイソ協会と実証実験 開発継続+放射線医療機器用
5.三次元測定機標準 ◎ 異機種間接続 前倒し終了 6.流量標準 ○ 石油流量標準遠隔制御 開発継続+現場流量標準
7.温度標準 ◎ JEMICと実証実験 前倒し終了
8.力学標準 ○ 圧力範囲限定で達成 終了
19. 実用化、事業化の見通し概要 (1)
1.プロジェクト期間内は遠隔校正を実施する上での
フィージビリティ・スタディ期間
--- 校正不確かさ、信頼性、ネットワーク・セキュリティなど
2.上記の懸念が克服されれば、期間終了後は速やかに
遠隔校正実施を目指す
--- 産業界からの早期実施要望が大きい
--- ここで研究した標準量目以外にも遠隔校正の要望大
時間・周波数 H15年度は持ち込み校正
H16年度から e-trace の成果を順次実用化
長さ
1)光波長 H18年度よりe-traceの成果を順次実用化。 5社/年程度
2)光ファイバ H16年度よりe-traceの成果を順次実用化。ブロックゲージ。
応用 供給先多数。後期にはフェムト秒長さ計測
3)ヨウ素安定化 標準供給よりも遠隔制御に主眼
He-Neレーザ
20. 実用化、事業化の見通し概要 (2)
電気
1)直流 H17年度まで技術開発継続。H18年度よりe-trace供給予定
2)交流 H16年度から e-trace 成果を順次実用化。まず、JEMICに供給
放射線 H16年度からe-trace 成果を順次実用化。日本アイソトープ協会 後期は自己校正機能つき医療用遠隔校正開発予定
三次元 H15年度終了、H16年度からe-trace成果を順次実用化
流量 北センターの石油流量標準設備の遠隔制御が主眼
後期は自己校正機能つき実用流量標準の遠隔校正開発予定
温度 H15年度終了、H16年度からe-trace成果を順次実用化
まず、JEMICに供給、その後国際比較にも対応
力学(圧力) 圧力範囲限定で達成し、H15年度終了予定
産総研内部の圧力標準遠隔校正に対応
21. e-trace テーマの前期、後期予定
1.時間標準
前期(H13-15) 後期(H16,17)
2.長さ標準
1)波長
2)光ファイバ応用
フェムト秒長さ計測
3)He-Neレーザ
3.電気標準
1)直流(PJVS) 2)交流(AC/DC)
(社会)
インダクタンス標準遠隔校正
4.放射能標準 医療用自己校正機能つき放射線計器
5.三次元測定機標準
(社会)
6.流量標準 自己校正機能つき流量計 7.温度標準 (社会)
8.力学標準 (社会)
[ 凡例 ]
機器開発と遠隔校正実証
下位階層までの遠隔校正
22. 新聞発表例
23. まとめ
1. 次世代の戦略的社会インフラ整備としてのe-trace 開発が
概ね順調に進展している。
2. プロジェクト運営は、早期実現課題に予算を重点配分、事前
評価意見や運営委員会の意見を反映など、自主管理している。
3. 前期(H13~H15年度)で機器開発、実証実験まですすみ、
後期(H16,17年度)から順次e-trace 供給するグループと、
技術的困難課題のため後期まで開発継続グループがある。
4. 実証実験は、外部機関との間でデータ伝送の安全性、精度の
保証、校正証明書発行などの実際的問題点を明らかにする。
5. 平成16年度から e-trace の成果を順次実用化していく。
参考資料1
評価の実施方法
評価の実施方法
本評価は、「技術評価実施要領」(平成 13 年 5 月制定)に基づいて技術評
価を実施する。「技術評価実施要領」は、以下の 2 つのガイドラインに定め
るところによって評価を実施することになっている。
l 総合科学技術会議にて取りまとめられた「国の研究開発評価に関す
る大綱的指針」(平成 13 年 11 月内閣総理大臣決定)
l 経済産業省にて取りまとめられた「経済産業省技術評価指針」
(平成
14 年 4 月経済産業省告示)
NEDO における技術評価の手順は、以下のように被評価プロジェクト毎
に分科会を設置し、同分科会にて技術評価を行い、評価報告書(案)を策定の
上、技術評価委員会において確定している。
l 「技術評価委員会設置・運営要領」に基づき技術評価委員会を設置
l 技術評価委員会はその下に分科会を設置
国 民
経済産業省
公開
報告
NEDO
分科会
理事長
各プロジェクト毎に設置
評価報告書(
確定)
報告
技術評価委員会(
審議・
報告)
B分科会
C分科会
図1
プロジェクトの説明・
質議応答
事務局
(
技術評価部)
評価報告書(
案)
A分科会
実質的評価の場
評価手順
参考資料 1-1
1.評価の目的
実施要領において、評価の目的は、
l 評価をする者(評価者)と評価を受ける者(被評価者)が意見交換
を通じ研究開発の意義、内容、達成状況、今後の方向性等について
検討し、より効率的・効果的な研究開発を実施していくこと、
l 高度かつ専門的な内容を含む研究開発の意義や内容について、一般
国民にわかりやすく開示していくこと、
l 限られた研究開発リソースの中で、国の政策や戦略に対応した重点
分野・課題へのリソース配分をより効率的に実施していくこと、と
されている。
本評価においては、この趣旨を踏まえ、本事業の意義、研究開発目標・計画
の妥当性、計画と比較した達成度、成果の意義、成果の実用化の可能性等につ
いて検討・評価した。
2.評価者
実施要領においては、事業の目的や態様に即した外部の専門家、有識者から
なる委員会方式により評価を行うこととされているとともに、分科会委員選定
に当たっては以下の事項に配慮した選定を行うこととされている。
l 科学技術全般に知見のある専門家、有識者
l 当該研究開発の分野の知見を有する専門家
l 研究開発マネジメントの専門家、経済学、環境問題その他社会的ニ
ーズ関連の専門家、有識者
l 産業界の専門家、有識者
これらに基づき、分科会委員名簿にある10名が選任された。
なお、本分科会の事務局については、新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術評価部評価業務課が担当した。
3.評価対象
平成13年度から平成17年度までの計画で実施されている「計量器校正情
報システムの研究開発」プロジェクトを評価対象とした。
参考資料 1-2
なお、分科会においては、当該事業の推進部室である新エネルギー・産業技
術総合開発機構 研究開発業務部、及び以下の研究実施者から提出された事業
原簿、プロジェクトの内容、成果に関する資料をもって評価した。
研究実施者
産業技術総合研究所
4.評価方法
分科会においては、当該事業の推進部室及び研究実施者からのヒアリングと、
それを踏まえた分科会委員による評価コメント作成、評点法による評価及び実
施者側等との議論等により評価作業を進めた。
なお、評価の透明性確保の観点から、知的財産保護の上で支障が生じると認
められる場合等を除き、原則として分科会は公開とし、研究実施者と意見を交
換する形で審議を行うこととした。
5.評価項目、評価基準
分科会においては、次に掲げる「評価項目・評価基準」で評価を行った。こ
れは、技術評価委員会による『各分科会における評価項目・評価基準は、被評
価プロジェクトの性格、中間・事後評価の別等に応じて、各分科会において判
断すべきものである。』との考え方に従い、第1回分科会において、事務局が、
技術評価委員会により示された「標準的評価項目・評価基準」(参考資料1−8
頁参照)をもとに改訂案を提示し、承認されたものである。
プロジェクト全体に係わる評価においては、主に事業の目的、計画、運営に
ついて評価した。各標準技術については、達成度、成果の意義や実用化への見
通し等について評価した。
参考資料 1-3
評価項目・評価基準
1.事業の位置付け・必要性について
(1)NEDOの事業としての妥当性
(2)事業目的の妥当性
プロジェクト全体
2.研究開発マネジメントについて
(1)研究開発目標の妥当性
(2)研究開発計画の妥当性
(3)研究開発実施者の事業体制の妥当性
(4)情勢変化への対応等
3.研究開発成果について
(1)目標の達成度
(2)成果の意義
(3)特許の取得
標準技術毎
(4)成果の普及等
4.実用化、事業化の見通しについて
(1)成果の実用化可能性
(2)波及効果
(3)事業までのシナリオ
(基準の詳細は次ページ以降を参照)
参考資料 1-4
1.事業の位置付け・必要性について ・・・プロジェクト全体
(1)NEDOの事業としての妥当性
・特定の施策(プログラム)、制度の下で実施する事業の場合、当該施策・制
度の選定基準等に適合しているか。
・民間活動のみでは改善できないものであること、又は公共性が高いことに
より、NEDOの関与が必要とされる事業か。
・当該事業を実施することによりもたらされる効果が、投じた予算との比較
において十分であるか(知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を
除く)。
(注)独立行政法人化後においては、NEDOの中期目標・中期計画に適合
しているかについても評価する。
(2)事業目的の妥当性
・社会的・経済的背景及び研究開発の動向から見て、事業の目的は妥当か。
2.研究開発マネジメントについて・・・プロジェクト全体
(1)研究開発目標の妥当性
・技術動向調査等に基づき、戦略的な目標が設定されているか。
・目標達成のために、具体的かつ明確な開発目標を設定しているか。
・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。
(2)研究開発計画の妥当性
・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分
を含む)となっているか。
・目標達成に必要な要素技術を取り上げているか。
・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。
・継続プロジェクトや長期プロジェクトの場合、技術蓄積を、実用化の観点
から絞り込んだうえで活用が図られているか。
(3)研究開発実施者の事業体制の妥当性
・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。
・各研究開発実施者の選定等は適切に行われたか。
・全体を統括するプロジェクトリーダー等が選任され、十分に活躍できる環
境が整備されているか
・目標達成及び効率的実施のために必要な、実施者間の連携 and/or 競争が
十分に行われる体制となっているか。
参考資料 1-5
・実用化シナリオに基づき、成果の受け取り手(活用・実用化の想定者)に
対して、成果を普及し関与を求める体制を整えているか。
(4)情勢変化への対応等
・進捗状況を常に把握し、計画見直しを適切に実施しているか。
・社会・経済の情勢の変化及び政策・技術動向に機敏かつ適切に対応してい
るか。
・計画見直しの方針は一貫しているか(中途半端な計画見直しが研究方針の
揺らぎとなっていないか)。
3.研究開発成果について・・・標準技術
(1)目標の達成度
・成果は目標値をクリアしているか。
・全体としての目標達成はどの程度か。
(2)成果の意義
・成果は市場の拡大或いは市場の創造につながることが期待できるか。
・成果は、世界初あるいは世界最高水準か。
・成果は、新たな技術領域を開拓することが期待できるか。
・成果は汎用性があるか。
・投入された予算に見合った成果が得られているか。
(3)特許の取得
・特許等(特許、著作権等)は事業戦略に沿って適切に出願されているか。
・外国での積極的活用が想定される場合、外国の特許を取得するための国際
出願が適切にされているか。
(4)論文発表・成果の普及
・論文の発表は、質・量ともに十分か。
・成果の受け取り手(活用・実用化の想定者)に対して、適切に成果を
普及しているか。
・一般に向けて広く情報発信をしているか。
4.実用化、事業化の見通しについて・・・標準技術
(1)成果の実用化可能性
・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができているか。
参考資料 1-6
(2)波及効果
・成果は関連分野への技術的波及効果及び経済的波及効果を期待できるもの
か。
・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果
を生じているか。
(3)知的基盤・標準整備等のための研究開発に特有の評価項目
・成果の公共性を担保するための措置、或いは普及方策を講じているのか(J
IS化、国際規格化等に向けた対応は図られているか、一般向け広報は積
極的に為されているか等)。
・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。
・公共性は実際にあるか。見込みはあるか。
参考資料 1-7
標準的評価項目・評価基準
【本標準的項目・基準の位置付け(基本的考え方)】
本項目・基準は、研究開発プロジェクトの中間・事後評価における標準的な
評価の視点の例であり、各分科会における評価項目・評価基準は、被評価プロ
ジェクトの性格、中間・事後評価の別等に応じて、各分科会において判断すべ
きものである。
なお、短期間(3年以下)又は少額(予算総額 10 億円未満)のプロジェクト
に係る事後評価については、以下の「3.」及び「4.」を主たる視点として、
より簡素な評価項目・評価基準を別途設定して評価をすることができるものと
する。
1.事業の位置付け・必要性について
(1)NEDOの事業としての妥当性
・特定の施策(プログラム)、制度の下で実施する事業の場合、当該施策・制
度の選定基準等に適合しているか。
・民間活動のみでは改善できないものであること、又は公共性が高いことに
より、NEDOの関与が必要とされる事業か。
・当該事業を実施することによりもたらされる効果が、投じた予算との比較
において十分であるか(知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を
除く)。
(注)独立行政法人化後においては、NEDOの中期目標・中期計画に適合
しているかについても評価する。
(2)事業目的の妥当性
・社会的・経済的背景及び研究開発の動向から見て、事業の目的は妥当か。
2.研究開発マネジメントについて
(1)研究開発目標の妥当性
・技術動向調査等に基づき、戦略的な目標が設定されているか。
・目標達成のために、具体的かつ明確な開発目標を設定しているか。
・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。
(2)研究開発計画の妥当性
・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分
参考資料 1-8
を含む)となっているか。
・目標達成に必要な要素技術を取り上げているか。
・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。
・継続プロジェクトや長期プロジェクトの場合、技術蓄積を、実用化の観点
から絞り込んだうえで活用が図られているか。
(3)研究開発実施者の事業体制の妥当性
・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。
・各研究開発実施者の選定等は適切に行われたか。
・全体を統括するプロジェクトリーダー等が選任され、十分に活躍できる環
境が整備されているか
・目標達成及び効率的実施のために必要な、実施者間の連携 and/or 競争が
十分に行われる体制となっているか。
・実用化シナリオに基づき、成果の受け取り手(活用・実用化の想定者)に
対して、成果を普及し関与を求める体制を整えているか。
(4)情勢変化への対応等
・進捗状況を常に把握し、計画見直しを適切に実施しているか。
・社会・経済の情勢の変化及び政策・技術動向に機敏かつ適切に対応してい
るか。
・計画見直しの方針は一貫しているか(中途半端な計画見直しが研究方針の
揺らぎとなっていないか)。
3.研究開発成果について
(1)目標の達成度
・成果は目標値をクリアしているか。
・全体としての目標達成はどの程度か。
(2)成果の意義
・成果は市場の拡大或いは市場の創造につながることが期待できるか。
・成果は、世界初あるいは世界最高水準か。
・成果は、新たな技術領域を開拓することが期待できるか。
・成果は汎用性があるか。
・投入された予算に見合った成果が得られているか。
参考資料 1-9
(3)特許の取得
・特許等(特許、著作権等)は事業戦略に沿って適切に出願されているか。
・外国での積極的活用が想定される場合、外国の特許を取得するための国際出願
が適切にされているか。
(4)論文発表・成果の普及
・論文の発表は、質・量ともに十分か。
・成果の受け取り手(活用・実用化の想定者)に対して、適切に成果を
普及しているか。
・一般に向けて広く情報発信をしているか。
4.実用化、事業化の見通しについて
(1)成果の実用化可能性
・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができているか。
(2)波及効果
・成果は関連分野への技術的波及効果及び経済的波及効果を期待できるもの
か。
・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果を生
じているか。
(3)事業化までのシナリオ
・コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化とそれに伴う経済効果等の
見通しは立っているか。
5.その他
知的基盤・標準整備等のための研究開発に特有の評価項目
・成果の公共性を担保するための措置、或いは普及方策を講じているのか(JI
S化、国際規格化等に向けた対応は図られているか、一般向け広報は積極的に為
されているか等)。
・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。
・公共性は実際にあるか。見込みあるか。
参考資料 1-10
Fly UP