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海外のボランティア活動 - 九州大学文学部・大学院人文科学府・大学院
社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 第1節 アメリカ 1.調査対象国におけるボランティア活動の背景 (1)アメリカにおけるボランティア活動の定義 アメリカにおいてボランティア活動とは、自分以外の人や自然環境等のために自発的に 無償で活動することだと考えられています。アメリカ社会では、ボランティア活動等の市 民活動を通じて地域社会に参加あるいは貢献することが尊い行為であると考えられており、 教育や企業の現場においてもボランティア活動の経験が重要視されています1。 しかし、貧富の差の大きなアメリカ社会では、全ての人々がボランティア活動に参加で きるわけではありません。低所得者や貧困層の人々は、ボランティア活動団体によるサー ビスの対象者となっても、活動をするための交通費がない、活動をするとその分仕事がで きなくなって収入が減るなどの経済的な理由から、ボランティア活動に参加することがで きない状況にあります。 そこで、連邦政府は、全ての国民がボランティア活動に参加する機会を保障する必要が あるとの考え方から、VISTA やシニア・コンパニオン・プログラムなどのボランティア活 動振興プログラム2を実施しています。このプログラムに参加して、ボランティア活動を行 った人は、所得とはみなされない程度の額の報酬を得ることができます。また、学生の場 合には、一定期間のボランティア活動を行った後に奨学金が支給される制度もあります。 このような、いわゆる有償の活動をボランティア活動に含めて考えてよいのかという問 題は、アメリカでも議論の対象となっているところです。しかし、実際には、連邦政府の ボランティア活動振興プログラムに参加した人々は、地域のボランティア活動団体に派遣 され、そこで無償のボランティアと一緒に活動を行っています。派遣を受けるボランティ ア活動団体にとっては、人件費の負担なしに、一定期間を継続して活動してもらえる人材 が確保できるという利点があります。ボランティア活動への報酬の是非についての議論は ありますが、どちらのボランティアも、地域社会での福祉サービスの現場で活躍している のが現状であると言ってよいでしょう。 1 大学への入試や企業への就職の際に、成績や推薦状のほかに、ボランティア活動の経験が評価される場 合があります。また、ボランティア活動団体の組織運営にあたった経験が、企業で歓迎されることもあり ます。州立大学のなかには、卒業のための単位取得にボランティア活動団体でインターンとして数週間の 経験を積むことを義務付けているところもあります。このようにボランティア活動の経験が社会的に評価 されることが、アメリカ社会におけるボランティア活動の原動力であるとする指摘もあります。 2 ボランティア活動振興プログラムには、VISA 等の大学生以上の若者が参加するもの、学校の授業でボラ ンティア活動を行っているもの、シニア・コンパニオン等の 55 歳以上の退職者や 60 歳以上の高齢者が参 加するものがあります。VISTA は、貧困地域を健康、住居、教育等の多方面で支援する活動であり、活動 終了後にボランティアに年 4,725 ドルの奨学金が提供されます。シニア・コンパニオンは 60 歳以上の低所 得の高齢者が一人暮らし高齢者、障害者、終末医療を受けている患者の身の回りの世話をする活動です。 11 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (2)福祉サービスの提供において重要な役割を占めるボランティア活動団体 民間の主体性や活力を重視するアメリカ社会では、社会福祉制度において、ボランティ ア活動団体が福祉サービスの提供者として大きな役割を担っています。連邦政府が実施す る公的な福祉サービスの事業委託は、主にボランティア活動団体になされることが多くな っています。また、ボランティア活動団体は、公的なサービスでは対応しきれない地域社 会3の課題に対して主体的に取り組み、必要なサービスを開発し実施しています。 現在のアメリカ社会は、行政改革等によって行政機構のスリム化が進む一方で、少子高 齢化の進展や移民の増大等によって、ケアを必要としている人が増えているといった状況 があります。このような状況のなかで、ボランティア活動団体の役割がますます重要視さ れてきています。それは、地域社会の課題は構成員が自ら解決していくという文化を背景 としてボランティア活動団体が多く組織されていること4、そして、ボランティア活動団体 は地域社会のニーズにきめ細かな対応ができ、当事者の参加を得やすいことなどの理由か らだと考えられます。 また、アメリカでは、このようなボランティア活動団体に対して、助成財団、民間非営 利組織5、企業、行政が多様な支援を行っていることも特徴です。すなわち、ボランティア 活動団体が、公的部門や営利部門からも、社会的に重要な存在であると認められているの です。ボランティア活動団体への支援は、先駆的な事業を立ち上げる、組織や事業を継続 させる、サービスの質を向上させるなどといった目的のもとに、資金や情報などの様々な 面で行われています。特に、助成財団は、ボランティア活動団体を、社会的な課題に対し て先駆的あるいは社会実験的な取り組みを行って、新しい解決方法を見出す可能性のある 主体としてとらえています。このことから、助成財団のなかには、ボランティア活動団体 への助成は社会的な投資であるとする考え方もあります。 3 アメリカでの人々のつながりは、ある一定の地域に住んでいる人々で構成される地域社会のほかに、特 定のニーズや目的を共有する人々の集まりをコミュニティといいます。本報告書では、この両方のつなが りを含めて地域社会と呼ぶことにしますが、コミュニティの意味を強調する必要があるときにはこの言葉 も用いていくこととします。 4 アメリカのボランティア活動団体の全数を把握することはできませんが、内国歳入庁に免税団体として 登録された民間非営利組織の数は、1997 年で 69 万団体にのぼっています。 5 本報告書では、ボランティア活動団体と、ボランティアを活用せずに団体職員だけで非営利活動を行っ ている組織をあわせて、民間非営利組織と呼びます。 12 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (3)ボランティア活動の最近の動向 アメリカでは、ボランティア活動団体にも社会の様々な課題への専門的な対応が期待さ れるようになってきています。例えば、児童虐待の裁判の過程で、裁判所が虐待を受けた 子どもに関するきめ細かな情報を得るために、専門の訓練を受けたボランティアが活用さ れている事例もあります。 このような動向のもとで、ボランティア活動団体が実施するサービス提供を担っている ボランティア(サービス・ボランティア6)にはより高度な専門性が求められるようになっ てきており、団体では、ボランティアに必要な知識や技術を習得・維持してもらうための 研修機会の充実を図っています。 一方では、定期的な活動が期待できないボランティアは、職員の補助的な活動に限って 活用するといった傾向もみられます。組織を立ち上げたばかりの小規模なボランティア活 動団体では組織運営やサービス提供などの様々な活動にボランティアが関わっていますが、 組織化が進んで継続して事業を行うような段階になると、継続的に内容の一定したサービ スを提供するために有給の専従職員を確保し、ボランティアにはこの職員の手伝いをして もらうといったことがあります。また、ボランティアではなくて、一定期間マンパワーと して働いてもらうことが見込めるインターンを活用しているという団体もみられます。 専門性をもったボランティアを継続的に活動してもらうといった傾向は、アメリカのボ ランティア活動団体が福祉サービスの提供者として大きな役割をもち、継続的なケアを実 施することを社会的に期待されているためであると考えられます。すなわち、ボランティ アをサービス提供の現場で活用するためには、サービスに関する専門的な知識や技術があ り、かつ、長期間継続的に活動することが可能なボランティアでなければ難しいといった、 サービス提供の現場における切実な問題があるのだと考えられます。 実際には、このようなボランティアを確保することは難しく、ボランティア活動団体の 悩みとなっています。また、ボランティアの側にも相当の動機付けが必要となり、ボラン ティア活動が社会的に高い評価を得ていることが重要となってきます。 6 アメリカのボランティア活動団体のボランティアは、イベントの手伝い、会報の作成や発送、資金調達 の依頼状の発送などの団体の組織運営上の事務的な補佐を行うボランティア、サービスの実施に携わるサ ービス・ボランティア、会計監査を会計士が無償で行うなどの専門ボランティアに分けることができます。 13 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (4)ボランティア活動における課題 アメリカのボランティア活動団体も、わが国のボランティア活動団体と同様に、資金調 達や人材確保などの面で様々な問題を抱えています。また、情報化が進んでいるアメリカ では、ボランティア活動団体にとっても、コンピュータやインターネットといった新しい 情報技術をどのように活用していくかが課題となっています。 そのなかで、ボランティア活動の現場に共通する課題として、サービスを提供する人と サービスを受ける人との間で意志疎通が十分にできないという事態が発生していることが 挙げられます。 先に述べた通り、アメリカではボランティア活動の専門化が図られており、このため、 ボランティアには所得や教育水準が比較的高く安定した生活を送っている人が多い傾向に あります。一方、サービスの対象者となっているのは、主に、低所得者、貧困層の人々、 マイノリティの人々であり、近年の移民の増加を背景として、英語を理解しない人や文化 や習慣が異なる人々が増えてきています。このため、ボランティアがサービスの対象者と 直接に英語で話しができない、対象者の気持ちやニーズを把握することができないといっ た問題が生じているのです。 そこで、ボランティア活動団体のなかには、アジア系アメリカ人や南米系アメリカ人な どをボランティアとして確保する努力をしたり、多様な文化背景をもった人々への配慮を 行うための専門の担当者をおいて、資料を必要な言語に翻訳したりするなどの対応にあた っている団体がみられるようになっています。 14 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 2.現地調査先の概要 (1)調査団体の概要 現地でインタビュー調査を実施した団体の概要は、次の通りです。 ①ボランティア活動団体 アルツハイマー協会サンフランシスコ・ベイエリア支部イースト・ベイ・オフィス Alzheimer’s Association Greater San Francisco Bay Area http://www.alzsf.org 活動目的 予 算 規 模 収入 支出 人数 高 齢 者 福 祉 事業概要 ベイエリア・コミュニティ・サービス Bay Area Community Services (BACS) 活動目的 予 算 規 模 収入 支出 人数 事業概要 障 害 者 福 祉 究極の目標は、アルツハイマー病に対する治療法の確立であるが、当面の課題として、患者や家 族に対するサービスの提供、また、終末段階における生活の援助などを行う。 1999 年度は 150 万ドル(サンフランシスコ支部) 個人からの寄付 43% 遺贈 27% 財団からの助成 13% 特別行事 13% 書籍・資料販売 2% ・利息 2% 事業費 78% 資金調達費用 19% 事務管理費 3% 職員:サンフランシスコ支部 26 人(イースト・ベイ・オフィスは6人) ボランティア:ベイエリア地区全体は約 300 人、イースト・ベイ・オフィスは約 120 人 ・ アルツハイマー協会は全米組織であり、220 の支部をもっている。サンフランシスコ・ベイエ リア支部は大規模な支部の一つであり、イースト・ベイ・オフィスはその一部である。 ・ アルツハイマー病患者およびその家族に対して、相談事業、当事者間での支えあうグループの 組織・運営など幅広いサービスを提供している。 ・ アルツハイマー病患者自身に今後の生活設計についての研修を行うこと、看護婦等の専門職へ アルツハイマー病に関する研修を行うこと、司法省との協力で徘徊対応のサービスを実施して いることが特徴的である。 ・また、アルツハイマー病やその介護に関する多種多様なマニュアルや出版物を準備し、相談事 業や地域での研修イベントを通じて配付している。 自立生活センター Center for Independent Living (CIL) 活動目的 予 算 規 模 人数 収入 支出 http://www.bayareacs.org 団体がサービスを提供する人々の生活の質の向上を目指し、現行制度に対して、適正で費用対効 果の高い選択肢を提供する。 年間 550 万ドル 連邦政府、州政府、自治体からの政府資金の割合が 90%を占める。 財団や企業からの助成や寄付が6−7%、残りは個人からの寄付 高齢者サービス部門と精神障害者サービス部門ごとの支出となるため算出が難しい。 職員:80 人(常勤、非常勤、契約職員を含む) 、うち高齢者サービス部門は 43 人。 ボランティア:約 120 人 ・ 連邦政府の食事プログラム(会食サービス、配食サービス)を事業委託して実施しているほか、 デイケア・サービス、金銭管理サービス、介護者派遣を実施している。 ・ デイケア・サービスには行政からの資金支援がなく、不採算部門となっている。 ・ 金銭管理サービスは、AARP(全米退職者連盟)との協力のもとで実施している。利用者には 待機者がいる。 http://www.cilberkeley.org 障害者に対して日常的なサービスを提供するほか、自立生活の制度的保障の確立を促す提言活動 を行い、障害者の自立生活を普遍化させる。 1998 年度:1,986,066 ドル 寄付 12.3%、政府補助 81.7%、料金収入 5.1%、利息 0.9%、その他 0.1% 1998 年度:1,757,241 ドル 事業費 81.0%、管理費 16.5%、その他 2.6% 職員:44 人(うち、68%が障害者) ボランティア:約 50 人(障害者もボランティアとなっている) 15 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 事業概要 ・ 障害者自身の手で設立・運営され、多様な種類の障害に対応した世界初の団体で、障害者の自 立生活支援活動は国内外に大きな影響を及ぼした。 ・ 介助者サービス、自立生活支援、就職相談サービス、福祉手当相談、法律相談、ピア・サポー ト・サービス、住居支援、視覚障害サービス、聴覚障者害サービス、青少年サービス等を実施。 ・ 特に、これまで周りに保護されてきた障害者が自立生活に立ち向かっていく意識づくりを行う ために、ピアカウンセリングが重要視されている。 ・ CIL は障害者自身が理事会メンバーの7割を占めている。 ・ CIL およびその他の障害者対象団体が協力して、障害者に対するサービスをワンストップ的に 提供する拠点づくりの構想が実現しつつある。 ステッピング・ストーンズ Stepping stones 活動目的 予 算 規 模 収入 支出 人数 事業概要 社会の主流から疎外されてしまいがちな発達障害をもつ人々の自尊心、自立力、生産する能力を 高めること 1999 年:2,557,181 ドル 行政委託金 82.3%、プログラムへの助成 2.9%、事業収入 9.0%、資金調達 5.8% 1999 年:2,557,181 ドル 人件費 76.6%、事業費 19.1%、その他 4.3% 職員:80 人 ボランティア:事業実施にボランティアは活用せず、高校、大学、他のボランティア活動団体か らインターンを数名受け入れている。理事と事務面でのボランティアが若干いる。 ・ 1975 年から、知的障害者に対する地域住民や企業の理解を獲得して、知的障害者の雇用の場 を拡充してきた。 ・ 知的障害者の成長段階に対応したプログラムを実施している。 ・ 自己決定を重要視した支援を原則としており、毎年知的障害者本人と話しあって一年の目標を 決めている。 ・ 事業評価は、利用者、スタッフ、第三者の3つの観点から行っている。また、団体運営に関す る評価もスタッフ間で行っている。 ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウ Stop Child Abuse Now (SCAN) http://www.scanva.org 活動目的 児 童 福 祉 分 野 予 算 規 模 収入 支出 人数 親と子どもの関係の改善、児童虐待や育児放棄の防止、住民意識の向上等の事業を通じて、子ど もの福祉の向上を目指す。 25 万ドル 主な収入源は、ユナイテッド・ウェイの配分金、イベントによる寄付、財団助成、州政府補助。 このうち、CASA プログラム部分の収入は 8 万ドルであり、州政府からの補助金である。 CASA プログラムの収入は、事業の責任者や担当職員の人件費に充当。 職員:6人(常勤3人、非常勤3人) ボランティア:CASA プログラムのボランティア 48 人、子育て支援ボランティア5人、その他 に、資金調達や組織運営の手伝いをするボランティアが若干名。 ・ 裁判所の指示に基づいて、虐待、育児放棄、親権争いの被害にあって裁判のケースとなってい る子どもを訪問し、生活状況やニーズ、子どもの将来にとって最もよい選択肢などを調査し、 法廷において子どもの代弁者となる活動(CASA プログラム)を実施している。 事業概要 ・ CASA プログラムのボランティアは、厳しい採用基準があり、さらに多様な分野の研修を受け ている専門的なボランティアである。裁判が終了して子どもの処遇が決まるまでの長期間子ど もと一対一で接するため、弁護士、ソーシャルワーカー、精神科医等の専門家からも、CASA ボランティアの調査報告は信頼されている。 ・ このようなレベルのボランティアを無報酬で確保することが活動上の最も大きな課題である。 16 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ②ボランティア活動支援団体(資金支援以外) コンパスポイント CompassPoint 事 業 や 組 織 の 運 営 支 援 活動目的 予 算 規 模 収入 支出 人数 事業概要 http://www.compasspoint.org 民間非営利組織の運営面をはじめ、民間非営利組織が地域によりよく貢献できるために必要なこ とについての支援を行う。 1999 年:4,745,658 ドル 寄付・助成 49.0%(財団助成 44.6%など)、収入 51.0%(行政委託 23.9%、ワークショップ・会 議 13.0%、コンサルティング 11.1%など) 1999 年:4,605,074 ドル 事業費 83.9%、管理運営費 13.8%、資金調達 2.3% 職員:26 人(大学の教員やコンサルタントが多い) ・ 団体の個別のニーズにあわせて、資金調達戦略、財務、マーケティング等の分野でのコンサル ティングを実施している。 ・ リーダーシップ、人材活用、ボランティア・マネージメント等の分野でのワークショップや研 修機会を提供している。 ・ ホームページや図書館、電話を通じて、組織運営に関する様々な相談にのっている。このなか から、よく質問がある項目について分析し、ホームページに回答とともに掲載している。 ・ 各種サービスの料金は、団体の年間予算規模に応じてスライド式である。 ワシントン団体協議会 Washington Council of Agencies (WCA) http://www.wcanonprofits.org 活動目的 団 体 間 の 連 携 促 進 予 収入 算 規 支出 模 人数 事業概要 ワシントンの大都市圏で活動する民間非営利組織が、地域の多様なニーズにあったサービス提供 をすることができるように支援を行う。 1999 年:713,869 ドル 事務代行費(保険手続き代行が主なもの)47.9%、会費 34.9%、寄付・助成 11.5%など 1999 年:666,297 ドル 人件費 64.3%、賃貸料 8.8%、専門家謝礼 6.2%、印刷費 5.9%、郵送費 4.3%など 職員:11 人 ・ ワシントン大都市圏の 750 の民間非営利組織を会員として、電話相談、ワークショップの開催、 民間非営利組織の職員の健康保険の団体加入のとりまとめ・事務手続き代行、アドボカシー活 動を行っている。 ・ 会員団体の大半が、職員数2∼5人程度の小規模な団体であり、会費は予算規模に応じてスラ イド方式で設定している。 ・ コンパスポイントは個別の団体のスキルの向上を目的としているが、WCA は、民間非営利団 体を一つのセクターとして考え、セクター全体の強化を目的として業界団体のような活動を行 っている。 ・ WCA の活動の特色として、ワシントンポスト紙と協力して行っている団体表彰がある。 17 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (2)調査団体の位置付け ①ボランティア活動団体 a.高齢者福祉分野の団体 高齢者福祉分野の事業のなかから、連邦政府が重要視している食事プログラム7を実施 している団体(ベイエリア・コミュニティ・サービス)と、最近アメリカ社会において注 目が高まっている痴呆性高齢者8を対象とした事業を実施している団体(アルツハイマー 協会サンフランシスコ・ベイエリア支部イースト・ベイ・オフィス9)を調査対象としま した。 ベイエリア・コミュニティ・サービスは、地域の高齢者の在宅生活を多方面から支援す るために、食事プログラムによる配食サービスや会食サービスのほかに、デイケア・サー ビス、金銭管理サービス、介護者派遣を実施している地域密着型の団体です。連邦政府の 事業である食事プログラムは、ベイエリア・コミュニティ・サービスが所在しているアラ メダ郡高齢者福祉局を通じて受託しています。 アルツハイマー協会サンフランシスコ・ベイエリア支部は、痴呆性高齢者とその家族の ための全国組織の地方支部であり、多民族多文化社会が最も進展しているサンフランシス コの地域特性に対応した活動を展開しています。この団体では、痴呆性高齢者やその家族 を対象とした相談や情報提供、徘徊する痴呆性高齢者を安全に帰宅させるサービス10、看 護婦や施設職員等の専門職に対する教育、介護家族に対する教育、政策提言活動、アルツ ハイマー病に関する調査研究への支援などの幅広い事業を展開しています。 7 食事プログラムは、低所得や貧困層の高齢者へ援助として連邦政府が早くから実施してきた事業で、配 食サービスと会食サービスが含まれます。 8 レーガン元大統領等の著名な人々がアルツハイマー病患者となったことをきっかけに、5 年ほど前から、 アルツハイマー病に対する関心が高まりました。現在は政府や民間非営利組織がアルツハイマー病患者の ケアに力を入れ始めた段階です。高齢化の進展に伴って今後とも患者の増加が見込まれており、長期的に ニーズの高い活動分野であると考えられています。 9 以下、アルツハイマー協会と略称します。 10 セイフ・リターンと呼ばれる司法省の事業であり、予め協会に登録した痴呆性高齢者が徘徊等のために 所在がわからなくなった場合に、速やかに警察等の行政機関に、当該高齢者の写真等の情報を伝えて探索 を依頼するしくみのサービスです。 18 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 b.障害者福祉分野の団体 アメリカの障害者施策は、障害者が地域で自立した生活を送ることができるように支援 することに主眼がおかれています。このため、障害者の自己決定を尊重すること、障害者 が経済的にもある程度自立していけるように就労を支援すること、屋内外での移動をなる べく自力でできるようにするためにバリアフリー化を進めること、そして、障害者自らが ボランティア活動等を通じて障害者の問題に取り組んでいくことが重要視されています。 このような活動を地域に密着して展開している2つの団体(自立生活センターとステッピ ング・ストーンズ)を調査対象としました。 自立生活センターは、障害の種類に関わらず障害者全体を対象とした多様な事業を行っ ています。この団体は、1972 年から障害者の大学生活や卒業後の地域での生活を支援し、 また、同時に障害者のための制度やサービスの変革を働きかけてきたという経緯をもって います。設立当初には、障害者自身によって設立・運営されている団体であることや、多 様な障害を対象とした支援を行う団体である点で世界で初めての団体であると言われ、ア メリカ国内だけではなく、世界的な障害者の自立生活支援活動に大きな影響を及ぼしまし た。 ステッピング・ストーンズは、知的障害者を対象とした活動を行っている団体です。わ が国でも障害者の自己決定が重要視されていますが、ステッピング・ストーンズでも、知 的障害者の自己決定を最大限に尊重することを基本にした活動が実践されています。特に、 経済的な自立とリハビリテーションを兼ねた就労支援に力を入れており、知的障害者の発 達状況にあわせた段階的な就労支援プログラムを実施しています。また、知的障害者の就 業機会を開拓するために、地元企業をはじめとする地域社会の理解を地道に得ていった経 験を有している団体でもあります。 c.児童福祉分野の団体 アメリカとわが国の児童福祉分野に共通な課題として、児童虐待の問題に取り組んでい る団体(ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウ)を調査対象としました11。 ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウでは、裁判所の指示のもとに、虐待や親権争 いの当事者となっている子どもの代弁者となるボランティア活動を実施しています。これ は、カーサ(CASA) ・プログラム12と呼ばれ、高度に訓練されたボランティアが代弁者と なります。カーサ・プログラムのボランティアは、裁判の焦点となっている子どもが安全 11 アメリカでは、児童を対象としたボランティア活動では教育の分野が多くなっていますが、アメリカと わが国では教育制度が異なるため、本調査では除外しました。 12 Court Appointed Special Advocates (CASA)。法廷によって使命された特別の代弁者という意味です。 CASA プログラムは、シアトルの判事が、裁判の焦点となっている子どもに関する情報が十分でないまま に判決を下さなければならない状況を憂え、適切に訓練された市民のボランティアに、虐待や育児放棄に あっている子どもの状況を調査することを依頼し、その結果を裁判所に報告してもらうというボランティ ア活動のアイディアをもったことが始まりです。1977 年にシアトルで開始されてから全米に広まり、1982 年に全米 CASA 協会が設立されました。 19 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 に生活することができるように、子どもの生活状況についてできる限り多くの情報を把握 し、子どもの将来にとってどのような生活が最もふさわしいのかについて裁判官に意見を 提出します。そして、裁判では、子どもの声を代弁します。このボランティアは、裁判の 終了まで、子どもにとって最も身近な存在の一人となり、子どもの生活状況を調査するな かで、傷ついた子どもの心を受け止めるといった重要な役割も担っています。児童虐待の 分野におけるボランティア活動の可能性を示唆するものであると言えるでしょう。 ②ボランティア活動支援団体(資金支援以外) アメリカにはボランティア活動団体を支援する民間非営利組織があり、資金支援、組織 運営支援、情報提供、研修機会の提供、情報化の支援、連携促進、調査研究などの多様な 支援を行っています。 このなかでも、特に、組織運営に関する研修機会やコンサルティングを提供する団体が 多くなっています13。このような団体は、マネージメント・サポート・オーガニゼーショ ン(MSO)と呼ばれ、支援型の民間非営利組織です。本調査では、MSO のなかでも老舗 であるコンパスポイントを調査対象としました。 また、アメリカでは、地域ごとに、ボランティア活動団体の連携を促進するための団体 が設立されています。このような団体は会員制をとり、会員団体のために、連携や交流機 会の提供、研修機会の提供、集団購入のあっせんなどの事業を行っています。MSO が個 別の団体の組織運営能力を高めようとしているのに対し、連携を促進する団体は、地域の ボランティア活動団体全体の存在を高めるために業界団体のような働きをしている傾向 があります。本調査では、大都市圏におけるボランティア活動団体の連携を促進する団体 (ワシントン団体協議会)を調査対象としました。 13 これは、1960∼1970 年代にかけて民間非営利組織の一部に租税回避や脱税の疑惑が生じ、民間非営利 組織全体に、社会的責任の再確認、会計の透明性の確保、情報公開の促進が求められるようになったこと が背景となっています。このため、民間非営利組織は、組織運営に関する専門的な支援を必要とするよう になり、このニーズに対応するために、マネージメント・サポート・オーガニゼーション(MSO)が出現 し、今日に至っているのです。 20 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 3.ボランティア活動団体からの示唆 ここでは、現地調査結果から、わが国のボランティア活動団体の活動の参考になると期 待されることについて紹介します。 (1)事業・活動について ①高齢者福祉分野 a.家族会を活用した痴呆性高齢者への援助 痴呆性高齢者を抱える家族への援助を行う際には、家族の会を地域ごとに組織し、介護 に関する情報や経験を共有する場づくりを行うことが有効な支援方法となっています。わ が国では、以前は痴呆性高齢者を家の外に出したがらない傾向がありましたが、現在では 痴呆に関する理解が進み、家族も介護の悩みを他の人に言えるような状況になってきてい ます。わが国でも、家族等の当事者の会を通じた援助に挑戦する環境が整い始めていると 考えられます。 アルツハイマー協会では、地域の痴呆性高齢者の家族に個別に連絡をとり、家族会への 参加を働きかけています。家族会が結成されると、協会はその家族会の連絡先を協会広報 誌等で紹介して地域に周知し、希望する人が気軽に参加できるようにしています。また、 家族会の活動に、精神科医、看護婦、ソーシャルワーカー等の専門職を参加させ14、専門 職による個別相談を実施しています。すなわち、家族の会は、地域で孤立しがちな痴呆性 高齢者やその家族に同じ悩みをもった仲間を紹介し、彼らのニーズを顕在化させ、専門職 などの地域の社会資源と結びつけるという場として機能しているのです。 家族会の運営における協会の役割は、家族会の集まりの調整や当日の司会進行を行うこ とであり、これはアルツハイマー病に関する知識や家族会の運営方法に関する協会の研修 を受けたボランティアが担当しています。 14 アルツハイマー協会では、家族会を通じた援助のほかに、医師、看護婦、施設職員等の痴呆性高齢者の 治療やケアにあたる専門職を対象として、痴呆性高齢者とどのように接したらよいのか、判断能力が低下 した人の自己決定などの人間としての尊厳をどのように尊重したらよいのかについての教育機会を提供し ています。この事業を通じて知り合った専門職に、家族会の相談等への協力を依頼しています。 21 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 b.痴呆性高齢者本人にも意識啓発の援助を行う わが国では、介護保険が導入され、痴呆性高齢者が住み慣れた地域で可能な限り自立し、 自分の生活のあり方を自己決定していけるように支援することが求められています。しか し、これまでは、痴呆性高齢者の介護家族の負担軽減に力点が置かれていた傾向があり、 痴呆性高齢者本人への援助が十分ではなかったと思われます。アメリカにおいては、介護 家族への援助と同時に、痴呆性高齢者本人への援助も重要視されています。 アルツハイマー協会では、元気な高齢者や痴呆症の初期段階にある高齢者に対して、痴 呆に関する情報提供をするという援助が行われています。具体的には、次のような内容の パンフレットを作成して一般に配布したり、地域の公開フォーラムなどで講演を行ったり して、元気な高齢者や痴呆の初期段階にある高齢者およびその家族に、痴呆に関する理解 を深め、将来の生活設計の準備をしてもらうよう訴えています。 <アルツハイマー病について知っておきたいこと、また、病気と戦うためにあなたができること −パンフレットより> ■ アルツハイマー病とはどんな病気なのか ■ 自己診断をせずに、医療機関で診断を受けることが大切 ■ 今後の生活にどのような変化がおきるのか ■ 自分を見失わずに日々の生活をするためのヒント ■ 将来の設計をたてる(仕事、財産・法律面での問題、住居の手配、治療、専門の弁護士の所在、 援助が必要な場合の連絡先について) c.本人の意思を尊重したサービス提供を心がける ボランティア活動団体のサービス提供は、本人がサービスの内容を理解しサービスを受 けることに合意した上でなされることが基本です。しかし、ボランティア活動団体はその 人にサービスを提供する必要があると考えているのに、本人がサービスの必要性を感じて おらず利用を拒否するといった場合もあります。もちろん、ボランティア活動団体が本人 のニーズを正しく把握していない可能性もありますが、本人の周囲にいるだれもがサービ ス提供が必要であると考えている場合に、どのように対応するかは重要なことです。 具体的な例は、ベイエリア・コミュニティ・サービスが実施している金銭管理サービス においてみられます。金銭管理サービスには、本人の合意を得て、ボランティアが社会給 付の受取や使用に関する代理権を付与されるものがあります。しかし、給付金を自分で使 えなくなることに抵抗を感じる人が多く、浪費癖などがあってサービスの必要性が高いに も関わらず、ボランティアに代理権を付与することを嫌いサービスの利用を拒否する人が 多いのが実情です。 このような場合に、ベイエリア・コミュニティ・サービスでは、あくまでも、サービス 利用についての本人の理解と合意を得るため、ボランティアが何度も本人宅を訪問して時 間をかけた話し合いを行うようにしています。話し合いの際に、ボランティアは、サービ スを利用した場合の利点を説明するとともに、 「もし、このサービスを利用せずに、日常 22 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 的な金銭管理をしない生活を続けていたら、ホームレスになってしまう可能性があります よ。そうなったら、健康を害してしまいかねませんよ。 」などのように、サービスを利用 しないとどのような事態に陥るかについても十分に説明するようにしています。なお、ボ ランティアは、ベイエリア・コミュニティ・サービスが実施する金銭管理サービスのボラ ンティア研修において、本人と話し合ってサービス利用についての合意をとる訓練を受け ています。 d.日常の活動から得た知識や経験を関連する専門職にも伝えていく 高齢者と向き合った日々の活動を通じて、ボランティア活動団体には、医師、看護婦、 ソーシャルワーカー、施設職員等の専門職にとっても価値がある臨床的な知識や経験が蓄 積されていきます。このような知識や経験は、団体内部にとどめておくのではなく、積極 的に社会に紹介していくことが望まれています。 このような観点から、アルツハイマー協会では、次のような専門職のために研修機会を 提供しています。これは、専門職が主な対象となっており、研修内容も高度なものとなっ ていますが、地域住民も希望者は参加できるようになっています。研修は、医師や看護婦 等の専門職に、治療を行う際に、痴呆性高齢者の状況を説明し本人の利害を代弁する人の 意見をきく必要があるとの意識をもってもらうことに役立っています。これは、判断能力 や意志伝達能力が低下していくという特徴をもつ痴呆性高齢者が、医療の現場において、 人間としての尊厳を尊重されるようにするために重要なことです。 <アルツハイマー協会の痴呆に関する教育フォーラム> ・四半期に 30∼40 回程度の頻度で開催され、専門職が主な対象ですが、地域のだれもが参加することが できます。 ・研修テーマには、アルツハイマー病の高齢者のための財産管理の方法、終末医療の段階のケアの方法、 痴呆による問題行動がある場合の対応方法など、個別の具体的な課題が設定されています。 23 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ②障害者福祉分野 a.ピアカウンセリングによって、障害者が自立生活に挑戦しようとする勇気 を援助する 障害者の自立生活が重要視されているアメリカでも、かつては、自分の現在の生活や将 来の暮らし方について自分で決めて実行してきた経験をもつ障害者はあまり多くありま せんでした。このため、障害者が自立生活に挑戦しようとしたときに、そのための第一歩 として、自分に自信をもつことが必要であると考えられたのです。わが国においても、自 分で決めて実行し、その結果について自分で受けとめるという自己決定の経験が十分でな い障害者が少なくないものと思われます。 自立生活センターでは、自己決定の経験のない障害者に自立生活に挑戦する勇気をもっ てもらうために、障害者同士が集まって、これまでの経験や自分の考えなどを述べ合うと いうピアカウンセリングを行っています。ピアカウンセリングに参加することによって、 自分だけが悩んでいるのではないことを知ったり、自分と同様の悩みや問題を乗り越えて きた人の経験から学んだり、また、自分が他の障害者を支えることができることを実感す るなかで、障害者は自分に自信をつけていくことができるのです。そして、自立生活へ踏 み出す心構えができると、次に、障害者は自立生活に必要な知識や技術をピアカウンセラ ーと一緒に学んでいきます。 <自立生活センターにおけるピアカウンセリングの概要> ・ ピアカウンセラーと障害者が一対一、あるいは、8∼10 人程度のグループ、障害者の家族を交えたグ ループで定期的に集まり、お互いの情報や経験を共有し合います。ピアカウンセラーも、参加者と同 様の障害をもった人です。 ・ ピアカウンセラーは、自立生活に挑戦しようとする障害者の自宅を訪問して、掃除のし方、家計のつ くり方や管理のし方、交通手段の使い方、利用できる公的サービスなどの日常生活に必要な知識や技 術を指導して、障害者の自立生活を応援します。 ・ 特に、障害者が地域で暮らすには適切な住居の確保が重要であり、ピアカウンセラーは、障害者の住 居が住みにくい状況であれば、自立生活センターの住宅支援の担当部に連絡をします。この住宅支援 部には専門の設計士がおり、住居を改修したり、バリアフリー化について大家との交渉を行ったり、 あるいは、より条件のよい住居を斡旋するなどの対応を行います。 24 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 b.障害者の自己決定を尊重して援助を行う 障害者が自立生活に挑戦する勇気をもつことができたら、次に重要なことは、障害者に 関わっている人々が本人の自己決定を尊重する姿勢で接することです。障害者のなかには、 自分で決めて実行することに時間がかかる人もいますが、本人が納得するまで待つことが 必要です。障害のない人と同様に、障害者も、時間をかけて、ときに失敗しながら、自分 自身でなにかを成し遂げていくという日常生活上の成功体験の積み重ねが、自立生活を続 けていくにあたって重要なことなのです。 ステッピング・ストーンズでは、知的障害者一人ひとりの一年間の活動目標を、本人と 職員が話し合って一緒に設定し、結果については障害者が自分自身で評価を行っていくよ うにしています。具体的には、以下のような流れで自立支援のための活動計画がつくられ ていきます。この際には、本人の意思を尊重することが、本人の希望を全てかなえるとい うことではないことに留意されています。これには、障害をもたない人々と同様に、障害 者も、いつも自分の希望が通るとは限らないことを体験することが必要であるとの考え方 が背景にあります。ステッピング・ストーンズでは、障害者が意思決定を行うために必要 な情報を提供し、本人が自己決定したことについて、実際に実現可能かどうかについても はっきりと結果を示し、本人が納得するまで必要な説明を行う時間を惜しまないという方 針で、知的障害者の自立支援の援助に臨んでいるのです。 <ステッピング・ストーンズの知的障害者との接し方> ・ステッピング・ストーンズに援助を求めて訪れる知的障害者には、2つの経路があります。一つは、 地域センター15のケースワーカーや両親から勧められて訪問してくる知的障害者(児)です。また、本 人自らが団体のドアをたたく場合もあります。 ・ステッピング・ストーンズを訪れた知的障害者(児)は、まず、初回面談を担当するインテーク・ア セスメント部の職員と話をして本人の意思、ニーズ、生活の状況などが確認されます。その上で、本 人の参加のもとで、生活課題に対応した具体的な目標が設定され、その目標に基づいて一人ひとりに 個別の活動プログラムが作成されるのです。 ・一年間の目標に対する進捗状況は、四半期ごとに、本人と担当の職員によって確認されることになっ ています。一年間が終了した後には、「自立して働けるようになったか」「雇用環境での上司関係を理 解できるようになったか」「していいことと、悪いことはなにか理解しているか」などの具体的な観点 から、本人と担当職員の話し合いによって達成状況の評価がなされます。この評価を踏まえて、次の 一年を何を目指して活動するかについて、本人の自己決定を尊重しながら新たな目標が設定されてい きます。 ・このような流れのなかで、ステッピング・ストーンズの職員は、知的障害者と接する際に、本人の話 を批判せずにまず聞く、本人が何をしたいのかがわかるまでじっくり時間をかける、本人の希望に対 して実現が困難なものについてははっきりと説明をする、本人に必要なサービスについての情報提供 はするが押し付けにならないようにする、などの点を心がけています。 15 地域センターは、カリフォルニア州政府の福祉機関です。各地域の実情に応じた福祉サービスを実施す るために、地域のボランティア活動団体に助成を行ったりもしています。 25 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 c.障害の程度に応じたきめ細かな就労支援 障害者が地域で自立した生活していくためには、生活の糧を得るだけでなく、社会参加 やリハビリテーションの観点からも、雇用機会を得て地域社会で働くことが重要であると 考えられています16。このため、障害者の自立支援を行うボランティア活動団体の多くで は、就労支援は重要な事業となっています。 ステッピング・ストーンズでは、知的障害者の障害の程度と、就労に関する学習成果の 程度に応じて、以下に示すような4つの段階的な就労支援プログラムを設定してきめ細か な支援を行っています。 <ステッピング・ストーンズが実施している就労支援の概要> 1. 知的障害児向けのプログラム(5∼22 歳を対象) ・ 知的障害児が放課後や休日に集まり、仕事をするために雇用されるとはどういうことか、自立して生 活する大人になるためにはどうしたらよいかということを学ぶために、仕事、社会生活、自立生活面 での多様なスキルを学びます。 ・ 年齢と障害の程度に応じて、4つのクラスが用意されています。第一のクラスでは、自己の生存と安 全を確保するための生活技術の習得に重点がおかれています。第二のクラスでは、料理とコミュニケ ーションの知識や技術を学ぶものです。第三のクラスでは、仕事のしかたやチームワークについて学 ぶために、小規模のリサイクル事業を実際に運営するという体験をします。第四のクラスでは、自己 表現の方法を学んだり、学校卒業後に自立して生活するためにはどうしたらよいかを検討します。 2. 一人で雇用され仕事をする段階にない知的障害者を対象としたプログラム この段階の知的障害者対して、次の2つの手法が用いられています。 ①ステッピング・ストーンズが実施している小規模ビジネスで障害者を雇用する ・ 障害者は、ステッピング・ストーンズからサービスを必要としている地域住民のもとに派遣され、庭 の管理、住居の管理人業務、ボートの清掃などのサービスを仕事として行う。 ・ 障害者は、仕事を通じて、時間に正確になること、毎日出勤すること、上司の指示に従うこと、同僚 や上司とよい関係を築くことなどを学びます。 ②障害者がグループで直接雇用主から雇用される ・ 障害者3∼8名がグループとなって同じ仕事をワークシェアリングする方式です。 ・ このグループに対して、ステッピング・ストーンズの職員が監督者としてつきます。このため、雇用 主は、雇用した障害者の指導に費用をかけなくてよいことになります。 ・ この方式で雇用されている障害者の多くは、大きな食品ストアの挨拶係として働いたり、リサイクル 事業所で再利用可能な紙やガラスの分別作業の仕事をしています。 ・ このような働き方は、知的障害者に労働組員としての経験を提供し、また、障害をもっていない同僚 達と同じ賃金や福利厚生等の待遇を経験する機会となっています。 3. 一人で雇用され仕事をすることができる段階の知的障害者を対象としたプログラム ・ この方式で雇用された障害者一人ひとりに、職員が指導員(ジョブ・コーチ)としてつきます。 ・ この段階の知的障害者は、レストランの厨房のアシスタント、法律事務所の文書管理のアシスタント、 ヘルス・クラブの管理人など、多様な職種で仕事をしています。 16 わが国では、知的障害をもった子どものために両親が不動産等の財産を確保し、親亡き後も生活に困ら ないようにする場合が多くみられます。アメリカでも一部でこのような対応がとられていますが、大部分 は、州政府による知的障害者支援策に子どもを委ねるものと考えているのが現状のようです。カリフォル ニア州では、知的障害を有していると認定された場合には、自動的に一生涯州政府の知的障害者を対象と したサービスを利用する資格が付与されます。このサービスには、グループホーム、文化面でのプログラ ム、高等教育機関への進学に関するプログラム、レスパイトケアなどの多様なものがあります。ステッピ ング・ストーンズでは、このなかの、雇用促進や自立生活支援の部分を担っているのだと認識しています。 26 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 4. 自立生活支援プログラム ・ 両親のもとや施設を出て、地域での独立した在宅生活を望む知的障害者に対して、買い物や公共交通 機関の使い方等の細かな生活技術や、家計のたてかた、金銭や財産の管理のしかたなどの知識や技術 を向上させることを目的としたプログラムです。 ・ 知的障害者一人ひとりを職員が指導します。職員は、当初は一対一できめ細かな指導や見守りを行い、 知的障害者が自分でできるようになっていくにつれて、関わりの度合いを減らしていきます。 27 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 d.地域社会に障害者についての理解を深めてもらう アメリカにおいても、障害者に対する地域社会の理解は以前よりは進んだとはいえ、実 際に障害者を自分の企業で雇用してもよいという事業主を見つけることは難しいのが現 状です。しかし、障害者のなかには、仕事の内容によっては就労可能な人も多く、適切な 支援があれば、職場によい影響を及ぼす場合もあることは忘れてはならないことです。例 えば、障害者が仕事に真摯に取り組む様子は、他の障害をもたない同僚達の仕事への意識 を高めることに役立ちます。 ステッピング・ストーンズでは、過去 15 年間にわたって、知的障害者の雇用機会を得 るために地元企業との対話を続けてきました。当初は、地域で働いている障害者がいなか ったことやアメリカ経済が不景気であったことなどから、事業主だけでなく、地域住民か らの理解も得ることができない困難な状況が続きました。現在ではアメリカ経済の好調を 背景に、知的障害者の雇用機会を見つけることはさほど困難ではなくなっていますが、こ れは、単なる景気の問題ではなく、長期間にわたって、以下のような地道な努力を積み重 ねてきた成果が花開いている結果なのです。なお、地域社会に団体の活動をアピールする ために、団体紹介ビデオといった視覚的にわかりやすくうったえる材料も用意しています。 地域社会の理解を得る最も重要なポイントは、まず成功事例を一つつくることです。す なわち、実際に知的障害者が仕事に取り組む様子を地域の人々にみてもらうことが、大き な説得材料となるのです。このようにして地域社会の理解と協力を得た結果、ステッピン グ・ストーンズの就労支援の事業は、全米的にも評価を受けるようになり、ますます地域 社会での評価も高まっています。 <ステッピング・ストーンズの行った努力> ・ 知的障害者の就業先を確保するためには、まず、地域社会の理解と支援を得ることが重要です。この ために、地元企業はもとより、地域住民に対して、いろいろな機会をとらえて意識向上の働きかけを 行っていくことが必要です。この際には、連邦政府から助成を得て作成した団体紹介ビデオを活用し て、わかりやすくアピールしていく工夫も行っています。 ・ 具体的には、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、就職相談会を主催する団体等の関係機関に、職 員が出向いていって、ステッピング・ストーンズの活動や知的障害者を雇用することに問題はないこ となどを繰り返し説明しました。また、実際に知的障害者が地域で職場をみつける過程で、関係する 人々や団体・企業に根気よく説明や説得を行っていくという努力の積み重ねが重要です。 ・ 特に地域の意識向上に効果があったのは、実際に知的障害者が働く姿を地域住民や企業関係者が目の 当たりにして納得するということでした。知的障害者が雇用され仕事をしているという成功事例をつ くることによって、他の事業主にとっても知的障害者を雇用する上の不安が取り除かれ、他の従業員 に与える好影響などの利点が理解できるようになるのです。 ・ また、保健福祉省の視察を受け入れて評価を得たり、全米発達障害協会や全米産業協会等の全米組織 から就労支援活動の表彰を受けるなどの、外部の評価を得ていったことも、有効な説得材料となって います。 28 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 e.障害者を対象とした活動を行っている団体が集まり、ワンストップ・サー ビスを提供する アメリカには、情報技術の進展を背景として、一か所で全ての行政サービスを利用する ことができるようにするという「ワンストップ・サービス」という考え方があります。こ れを、障害者を対象とした活動を行う団体が連携して、障害者サービスの面で実現しよう という構想が、自立生活センターを中心に実現化されつつあります。 この構想は、自立生活センターの創始者に因んで、「エド・ロバーツ・キャンパス構想」 と名付けられています。具体的には、交通利便性の高い場所に、ユニバーサル・デザイン を採用して、障害者にとって移動が容易な場所を整備します。そこを、「障害者へのサー ビスの向上や障害者の機会の向上のために、地域に根ざし、かつ、世界を視野に入れた、 障害者および障害者関係団体間の協働関係を構築していくためのセンターとする」ことを 目指しているのです。この構想に参画を予定している9つの障害者対象団体の共同事務所 のほか、会議センター、障害者に関する図書館、コンピュータ・メディアセンター、フィ ットネス・センター、カフェ、小規模な子どもの遊び場、地元商店やオフィス向けのレン タル・スペースの整備が計画されており、障害者だけでなく地域住民の利用も前提とした 設計となっています。エド・ロバーツ・キャンパス構想は、いわば、障害者を含めた地域 社会全体のための地域づくり構想であるといえます。 エド・ロバーツ・キャンパス構想は、行政の支援には頼らずに、民間非営利組織が中心 となって構想し実現しようとしているものであり、アメリカの民間非営利組織らしい動き であるといえます。また、一方で、この構想は、障害者を対象とした活動を行う団体間の 連携が高度に進んだなかで、障害者の利便性を第一に考えた場合にどのようなサービス提 供の方法が適切かという共通の視点をもち、関係する団体間で協議して見出した回答なの だといえます。この構想は、アメリカの力のある民間非営利組織の動きではありますが、 ボランティア活動団体の可能性の大きさを示唆するものであると考えられます。 <エド・ロバーツ・キャンパスに参画を予定している障害者対象団体> ・ 障害者にレクリエーションやスポーツ活動の機会を提供している団体 ・ 学校や職場で使用されるテクノロジーに関する情報提供を障害者に行う団体 ・ 自立生活センター ・ 障害者に情報技術の研修機会やインターンシップや雇用機会を提供する団体 ・ 障害者が必要なサービスを利用することができるように法律面から支援する団体 ・ 障害者の権利擁護を行う団体 ・ 障害者を対象とした臨床的なサービスの開発を行う団体 ・ 障害者の自立支援のために必要な公共政策を研究するための団体 ・ 障害者の移動手段のための機器を提供する団体 29 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ③児童福祉分野 ○児童虐待問題に取り組むために裁判所と連携したボランティア活動 わが国でも社会問題となってきた児童虐待問題は、虐待を受けている子どもや虐待して いる親の両方の側に適切な援助が必要であり、かつ、親権が重視される家庭という密室で 発生することが多いことから、ボランティア活動団体だけでは取り組みが難しい問題であ るといえます。 このような問題に対して、アメリカではカーサ・プログラムによるボランティア活動が 実施されています。これは、1977 年にシアトルの判事が、虐待や育児放棄、親権争いの 対象となっている子どもの裁判を扱うなかで、裁判の焦点となっている子どもに関する情 報が十分でないまま審議が進められることを憂えて創設されたプログラムです。このプロ グラムは、訓練された市民のボランティアが、裁判の焦点となっている子どもの状況を把 握して裁判所に報告し、法廷においては子どもにとって今後どのような対応が適切なのか について提言するものです17。 具体的には、CASA プログラムを実施するボランティア活動団体は、裁判所命令によっ て、裁判の焦点となっている子どものもとに、専門のボランティアを派遣します。ボラン ティアは子どもの代弁者として位置付けられ、子どもの生活状況、ニーズ、意思等を把握 するための調査を行う権限が裁判所から与えられます。これによって、ボランティアは、 医療機関、学校、精神保健関連機関などから、子どもに関する必要な情報を得ることがで き、また、子どもと直接会って情報を得るため、弁護士、精神科医、ソーシャル・ワーカ ー等の関係者のなかで、子どもに関する最も豊富な情報をもつことになります。これらの 専門家は、カーサ・プログラムのボランティアほどには子どもと過ごすための時間を割け ませんので、ボランティアからの情報に信頼を寄せるようになっています。 また、ボランティアは、裁判が終了するまでの期間、子どもの代弁者として、頻繁に子 どもと会い、交流を深めていきます。このことは、子どもにとって、親や弁護士以外の第 三の代弁者を得ることを意味するとともに、人間不信に陥りやすい時期に人との暖かいふ れあいを経験することができることを意味するものです。 このような高度に専門的な活動を行うボランティアを確保することはアメリカにおい ても難しく、また、ボランティアの専門性を維持するために、定期的および日常的に研修 や訓練を実施していく必要があります。また、ボランティアと子どもとの相性を考えて派 17 この仕組みを、カーサ・モデルと呼んでいます。カーサ・プログラムは、現在、カーサ・モデルに基づ いて全米の 50 州で実施されていますが、実際の運営方法は各州によって異なります。それは、カーサ・プ ログラムが裁判所命令によって開始されることによります。州によって、あるいは裁判所の判事によって、 カーサ・プログラムをどのように裁判に活用するかの姿勢が異なるからです。今回の現地調査では、全米 のなかでもカーサ・プログラムに対する裁判所の理解が深いとされているバージニア州のアレクサンドリ ア市のカーサ・プログラムの受託団体(ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウ)を調査対象としてい ます。バージニア州は小規模な人口規模の州ですが、全米でも児童虐待、育児放棄、親権争いの裁判が多 い地域であり、アレクサンドリア市のカーサ・プログラムは州のなかでも早い時期に実施されています。 30 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 遣を行うなどの調整業務や、ボランティアが作成した裁判所への提出書類のチェック等の 作業も重要であり、これらの業務は、ボランティア活動団体のカーサ・プログラム担当者 の責任で行われています18。 アメリカにおいては陪審員制度が用いられるなど司法においても市民参加のしくみが あることから、カーサ・プログラムのように、裁判所とボランティア活動団体とが協働す る事業を考えやすいという背景があると考えられます。しかし、制度の違いはあっても、 児童虐待という社会的な大きな問題に対して、ボランティア活動団体が、公的機関との協 力のもとに何らかの対応をしていく可能性は検討の余地があるものと考えられます。 <カーサ・プログラムのボランティアの資格要件と活動内容> ①ボランティアの資格要件 ・ 21 歳以上であること ・ 裁判所への報告を口頭および文書で行うに足るコミュニケーション能力を有していること ・ カーサ・プログラムで知りえた情報について守秘義務を遵守できること ・ 子どもにとって最も重要な利益を代弁するに必要な、成熟した判断力、責任感、十分な時間を有して いること ・ 異なる民族や文化背景の人々および異なる社会階層の人々との関係を構築できること ・ 最低 1 年間はボランティア活動を継続できること ・ 移動手段をボランティア自身で確保できること ②ボランティアの活動内容 ・ 裁判の焦点になっている子どもに関して得た情報の完全な記録を作成すること ・ 子どもを含む、裁判に関係する人々を面接調査すること ・ 子どもや家族が適切なサービスを受けているかどうかについて判断すること ・ 裁判の全ての過程において、子どもにとって最も望ましい利益を代弁すること。また、子どもにとっ てどのような決定が最も望ましいのかについての提案を法廷に行うこと。 ・ 裁判所命令に従って、子どもを定期的に観察し状況を確認すること ・ 子どもの基本的な生活欲求が充足されているか、また、裁判所命令が実行されているかを観察するた めに、必要に応じて子どもを訪問して状況を確認すること ・ 子どもに対する将来の計画作成の過程に参加し、子どもに関する情報提供を行うこと ・ 裁判所から正式な活動終了の指示があるまで、子どもに積極的に関わること ・ 児童虐待や育児放棄の疑いがある場合には、些細なことでも、ボランティア活動団体のカーサ・プロ グラム担当者や適切な社会資源に報告を行うこと ③ボランティアが担当する子どもの人数と活動時間 ・ ボランティア一人が担当する子どもの数には制限があります。1つの裁判ごとに1人の子どもを担当 する場合には合計3人まで、1つの裁判できょうだいを担当する場合には2家族から合計で9人まで のきょうだいを担当します。 ・ ボランティアは月に 10∼15 時間程度活動します。 18 カーサ・プログラムを実施するボランティア活動団体には、連邦政府から助成金が支給され、プログラ ムを担当する職員の人件費に充てられます。 31 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (2)組織や事業の運営について ①団体の理念や目的を大切にする a.団体の活動目的に沿った事業展開を考える ボランティア活動団体のなかには、日常的に高齢者や障害者に接するなかで、彼らの 様々なニーズを知ってしまうと、次々と活動の範囲を広げていってしまう団体もあります。 この結果、事業の数や量を拡大しすぎてしまった場合には、団体の活動の全容を把握する ことができなくなったり、個々の事業の目的を見失ったりする恐れが生じます。 アルツハイマー協会では 10 もの事業を実施していますが、今後もアルツハイマー病患 者の増加が予測されていることから、いずれも重要な事業であると社会的にも期待されて います。しかし、協会は、10 の事業全てを同等に考えているわけではありません。団体 の設立当初からの事業であり、協会の活動目的に最も合致している相談事業と家族会を通 じた援助事業を最も重要視しています。予算規模の大幅な縮小があっても、この2つの事 業は継続させたいと考えているのです。このように、事業の幅が広くなっても、常に団体 の活動目的に照らして、どの事業が最も重要なのか、自分たちの団体らしい事業とは何な のかについて組織内部での意思統一を図っておくことが、組織の求心力を高め、継続した 活動に役立つのだと考えられます。 b.採算はとれないが団体の活動目的にてらして重要な事業は継続させていく ボランティア活動団体の事業の多くは資金不足が課題となっていますが、特に、団体の 目的に沿った重要な事業でありながら不採算である事業をどうするかについては、団体の 存在意義にも関わる重要な問題です。 ベイエリア・コミュニティ・サービスでは、虚弱な高齢者や初期の痴呆症の高齢者の在 宅生活の支援を重要視し、これらの人々を対象としたデイケアを 20 年間も実施していま す。しかし、アメリカではデイケアに行政からの資金支援がなく、しかも、デイケアは毎 年継続しなければならない事業であるため助成財団から助成を受けることは難しい状況 となっています。このため、ベイエリア・コミュニティ・サービスでは、利用者に所得に 応じた利用料を負担してもらうとともに、他事業からの収益でデイケアの赤字分を補填し たり、サービスの質を下げずにコスト削減をする19などの努力を行っています。また、こ のような努力とともに、デイケア事業の責任者は、デイケアが団体の活動目的上重要な事 業であるということを、意思決定機関である理事会に十分に理解してもらう努力もしてい ます。 19 デイケアで提供する活動プログラムを、成人教育の教師やボランティアに担当してもらうといった工夫 をしています。活動プログラムの指導者の確保には費用がかかりますが、成人教育制度を活用して、受講 者をデイケアの利用者、教育の場をデイケアの拠点とすることによって、コスト削減を図っています。 32 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ②サービス提供におけるマンパワーとしてのボランティア a.ボランティアによって多様なサービスが提供されている アメリカのボランティア活動団体には、サービスの提供にボランティアを活用している ところと、そうではなく、団体の職員のみでサービスを提供しているところとがあります。 ボランティアが活躍している団体では、様々なサービスにボランティアを活用しており、 また、その多くはボランティアに専門的な知識や技術を習得してもらっています20。 <現地調査先団体にみるボランティアの活用分野> ・ アルツハイマー協会では、痴呆性高齢者や家族からの電話相談や、家族会の運営の指導者としてボラ ンティアを活用していいます。 ・ ベイエリア・コミュニティ・サービスの金銭管理サービスでは、ボランティアが、利用者に日常的金 銭管理についての助言をしたり、また、利用者に代わって金銭を管理しています。また、デイケアで は、食事やリハビリ等のプログラムの実施をボランティアが手助けしています。 ・ ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウが実施しているカーサ・プログラムでは、虐待を受けて裁 判になっている子どもの状況を調査するという専門的な活動をボランティアが担っています。 b.ボランティア活動の専門性を高める ボランティアが、aで紹介したサービスを提供するためには、定期的に研修を行って必 要な知識や技術を常に向上させていく必要があります。このため、ボランティア活動団体 では、次のような研修や自己研鑽の機会をボランティアに提供しています。 <アルツハイマー協会の家族会の運営を担うボランティアの研修> ・ アルツハイマー協会では、ボランティアに8時間の事前研修を実施しています。事前研修は、家族会 を通じた支援を担当する団体の職員によって実施されています。 ・ 研修内容は、「アルツハイマー病に関する理解を深める」 「家族会の運営方法」の2つです。「アルツハ イマー病に関する理解を深める」研修ではアルツハイマー病に関する一般的な知識や介護の方法を学 びます。「家族会の運営方法」の研修では、痴呆性高齢者を介護している家族が集まって話し合いを行 うことが家族会の主な活動であるため、会合の進行役としての能力を高めることを目的として実施さ れます。具体的には、会合内で一人でしゃべりすぎている人はいないか、沈黙している人はいないか に気をつけて、出席者全員が会合に参加できるように配慮することを学びます。 <ベイエリア・コミュニティ・サービスの金銭管理サービスを担うボランティアの研修> ・ ボランティアは、事前研修と四半期毎の継続研修を受けることになっています。 ・ 事前研修は5時間程度の研修で、金銭管理サービスについての知識、ボランティアとして何をしてよ くて何をしてはいけないのか、家計のつくり方などについて学びます。また、利用者を代理して金銭 管理を行う場合には、代理人となることを利用者に合意してもらうためにどのように話しをするかに ついても学びます。 ・ 継続研修は、制度やサービスに関する新しい情報について学んだり、事例研究を行って実践的な知識 の交換をしあうものです。 20 このようにサービス提供に従事するボランティアを、サービス・ボランティアと呼んで、組織運営の事 務的な部分をお手伝いするボランティアや資金調達のお手伝いをするボランティア等と区別しています。 33 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 <ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウのカーサ・プログラムのボランティア研修> ・ カーサ・プログラムのボランティアには専門的な能力が求められているため、30 時間以上におよぶ事 前研修や、年間 12 時間以上の継続研修が実施されています。この研修は、ストップ・チャイルド・ア ビューズ・ナウのカーサ・プログラム担当職員によって実施されています。また、これらの研修のほ かに、ボランティアは、担当しているケースの状況について職員と日常的に話し合ったり、ボランテ ィア同士でのケース検討会を実施して、カーサ・プログラムの遂行に必要な知識や経験を交換しあっ ています。 ・ 事前研修や継続研修は、次の内容の訓練マニュアルを用いて行われます。 1.はじめに(CASA プログラムの遂行に必要な価値観の明確化) 2.CASA ボランティアの役割と責任 3.事例研究(ブラウン家の場合) 4.虐待と育児放棄について 5.関連法規について 6.子どもの発達について 7.子どもへの愛着と距離をおくこと 8.裁判所への報告書作成について 9.コミュニケーションについて 10.代弁と交渉 11.法廷での証言について 12.子どもの文化的背景への意識 13.付録 14.社会資源リスト c.ボランティアを支える職員の役割が重要 ボランティアが利用者に満足してもらえるサービスを提供するためには、ボランティア が活動できるプログラムをつくったり、必要としている人のもとにボランティアを派遣す るための調整を行ったりする役割を担う人が必要です。この役割を担う人のことを、ボラ ンティア・コーディネーターと呼び、アメリカの場合は団体の有給職員として確保されて いる場合が多くなっています。ボランティア・コーディネーターは、ボランティアからサ ービスを提供する際の悩みなどの相談を受けたりもします。このようなボランティアを支 える職員の働きが、ボランティアを活用してサービスの質を向上させるためには不可欠と なっています。 <ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウの職員によるボランティアへの支援> ・ ボランティアと担当する子どもとのマッチング カーサ・プログラムの担当者やボランティア・コーディネーターが、裁判になっている事件や子ど もの状況を分析し、ボランティアの年齢、経験、人間としての成熟度、文化的背景を勘案して、 子どもに最もふさわしいボランティアを選んでいきます。 ・ 日常的な支援 日頃からボランティアの話をよく聞き、子どもへの対応の状況や今後の対応のしかた等について、 ボランティアと一緒に検討しています。 また、ボランティアが、子どもの家庭を訪問する場合、子どもの通っている学校や担当のソーシャ ルワーカーと話し合う場合、裁判所での聴聞会でボランティアが証言をする場合などにボランティ アに同行します。 さらに、ボランティアが裁判所に提出する書類を作成する際に相談にのったり、ボランティアが作 成した書類のチェックを行っています。 34 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 d.ボランティアによる事故の防止 ボランティアがサービスを提供する過程において、利用者との間になんらかの問題や事 故が発生する可能性は否定できません。例えば、ストップ・チャイルド・アビューズ・ナ ウでは、虐待にあった子どもへの援助を目的にボランティア活動を実施していますが、そ のボランティア自身が活動対象である子どもを虐待してしまうという危険性から目をそ むけないようにしています。ボランティアの提供したサービスの結果は、ボランティアが 所属している団体の責任であるからです。 このため、ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウでは、ボランティアの採用の際に、 紹介状を求めたり、ボランティアの犯罪歴などを厳しくチェックするようにしています。 また、カーサ・プログラムを実施するうえでの事故等に対応する損害保険にも加入してい ます。 このような対応は、ボランティアの善意を否定するものではなく、社会的に責任のある 活動を行うために、組織として講じておかなければならない対策であると考えられます。 ボランティア活動上の事故や過失はボランティア保険等によって対応できる場合が多い と考えられますが、いじめや虐待等の問題に取り組む活動の場合には、ボランティアの採 用の段階でその人の人となりを十分に把握する配慮が必要となるでしょう。 35 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ③団体の活動を支える有給職員 ボランティア活動団体の有給職員は、一般的に、日常的な組織運営や事業の企画・実施・ 評価を行っており、事務局長のもとで団体の活動の中心的な役割を担っています。アメリ カでは、大学で専攻したことなどを活かしてボランティア活動団体の有給職員に就職する 人が多くなっています。通常、有給職員の肩書きは、事務局長、事業部門の責任者や担当 者、あるいは、ボランティア・コーディネーター、資金調達担当者などであることが多い のですが、最近では、アメリカにおいて多民族多文化社会が進展していることを背景に、 新しい仕事が生まれています。 例えば、アルツハイマー協会が実施している痴呆に関する相談は電話や電子メール等で 受け付けていますが、英語が話せない人は電話をすることができませんし、他の人々と積 極的にコミュニケーションをとろうとしない伝統をもっている人々は、援助が必要な状況 であっても自分から誰かに助けを求めていくということをしないことが多いのです。多民 族多文化の社会では、サービスはつくっただけでは機能しないので、利用者がサービスに 直接に手が届くようにきめ細かな配慮をしていくことが必要となっています。そこで、ア ルツハイマー協会では、多文化プログラム・マネージャーという有給職員を置いて、次の ような対応を行っています。 <アルツハイマー協会の多文化プログラム・マネージャーの仕事> ・ アルツハイマー協会では、英語が話せない、文化的背景が異なるといった利用者に配慮する専門の担 当者として、多文化プログラム・マネージャーを最近新たに設置しました。 ・ 多文化プログラム・マネージャーは、協会の発行する各種のパンフレットや機関誌を必要な言語に翻 訳したり、英語が話せないために電話相談ができない人に通訳とともに直接会って相談ができる機会 を提供するなど、サービスを利用できるようにきめ細かな調整を行っています。また、アルツハイマ ー協会の職員やボランティアにも、利用者の文化的背景に配慮した対応を行うように助言を行ったり しています。 36 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ④理事会の役割・特徴 アメリカのボランティア活動団体の責任を負うのが理事会です。 理事会の役割には、組織の監督と組織の支援という2つがあります。組織の監督には、 団体の事業実施状況や財政状況を監督する、連邦政府への必要な財務報告を行う、団体の 事業に長期的な視点を提供する、事務局長の採用・監督・解雇を担当する、組織としての 統一見解を決定するなどが含まれます。また、組織の支援とは、理事がもつ専門的知識や 人脈を活用して、団体の職員やボランティアに様々な助言を行ったり、資金調達への協力 を行ったりすることです。 理事は無報酬のボランティアで構成されます。このため、本来団体の活動を内部的にチ ェックする機能をもっているはずの理事会が十分に機能しないという事態がしばしば生 じてきました21。そこで、近年では、理事は名前を連ねているだけのボランティアではな く、ボランティア活動団体に対しても社会に対しても責任を負う必要があるのだという認 識が広まっています。 ⑤組織運営への利用者等の利害関係者の参加 障害者福祉分野のボランティア活動団体では、障害者自身が理事としてボランティア活 動団体の意思決定に参加することが行われています。障害者自身が自立することや、ピア カウンセリングなどを通じて他の障害者を支えるためのサービス提供を行うことは、わが 国でも重要視されてきていますが、アメリカのボランティア活動団体では、団体の意思決 定にも障害者自身が参画する道が開かれているのです。 例えば、自立生活センターでは、理事会の構成員の 51%以上が障害者でなくてはなら ないことが定款に明記されています。実際には、自立生活センターでは理事の 70%が障害 者となっています。これによって、自立生活センターの行う活動が障害者のニーズをより 的確に把握し、それに対応したサービスの提供が可能になると考えられています。 21 理事会の社会的な責任の重要性が指摘されるに至ったきっかけとして、全米規模の募金組織であるユナ イテッド・ウェイの寄付金を、元会長が流用するといった事件であった。 37 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 ⑥資金調達の工夫 アメリカのボランティア活動団体においても、事業の実施や組織運営に必要な資金を調 達することは大きな課題となっています。福祉分野のボランティア活動団体は、行政から の委託費が主要な財源となっていますが、このほかに、財団からの助成を受けたり、企業 や個人からの寄付を集めたりしています。 行政委託は、アメリカでは4年に一度企画入札競争が実施されます。行政委託を受けよ うとするボランティア活動団体は、行政の担当部局から示される仕様と必要書類に基づい て、実施できる事業内容、サービス提供量、実施にかかわる全ての人員の経歴をつけた実 施体制、予算書などを盛り込んだ詳細な企画書を提出します。行政の担当部局による審査 を経て事業を受託した後は、実施したサービス量を定期的に行政に報告して還付金を受け るという方法で資金を受け取る場合が多いようです。 財団からの助成は、主に初期段階の事業資金として助成されることが多く、ボランティ ア活動団体は、日頃から支援を受けようとする事業に適した資金支援を実施している財団 を、全米の財団リストやインターネット検索などで探す努力をしています。そして、助成 を申請する場合には、財団の要求する書類や情報を揃え、財団の助成担当職員との相談の なかで、事業の意義や取り組み体制等について積極的にアピールしていきます。また、助 成とは少し意味あいが異なりますが、わが国の共同募金のようなユナイテッド・ウェイ22の 配分金の指定先になるといった工夫もあります。 個人や企業からの寄付は、行政からの委託費や財団からの助成と異なって、使途があま り制限されていないという特徴があります。寄付を集めるには、キャンペーンや事業に企 業の協賛を得る、テニスやゴルフトーナメント等のイベントの賞金を寄付してもらうなど の工夫をしており、最近ではアメリカ社会におけるインターネットの普及を背景に、イン ターネットによる寄付を可能にしている団体もみられます。なお、寄付をお願いする際に は、まず団体の目的や事業内容をよく理解してもらい納得して寄付をしてもらうという姿 勢が重要です。そして、寄付に対しては、速やかに礼状を出して善意に対する感謝を表す ことが必要です。礼状や寄付がどのように使われたかの報告を通じて、寄付者の団体に対 する信頼が深まり、継続的な寄付につながるのです。 また、団体の外部に資金支援の応援部隊を設置することも有効な方法です。自立生活セ ンターでは、地元財界の協力を得て、次のような外部の応援部隊(自立生活センター・フ レンズ)を設置しています。 22 ユナイテッド・ウェイとは、共同募金を行う全米で最大規模の組織です。法人募金や職域募金等の方法 で集められた寄付金を、寄付者の指定先に配分するほか、指定先が決まっていない寄付金については、ユ ナイテッド・ウェイの各支部が決める受配資格団体に配分されます。受配資格団体になるための基準は各 支部で決められており、ニューヨーク市のユナイテッド・ウェイの場合は、児童・高齢者・障害者の3つ の分野で活動している団体で、州法の遵守、内国歳入法による免税団体であること、地域のニーズに対応 したサービスを直接実施していること、財務報告等が情報公開されていること、定期的な自己評価を行っ ていることなどの基準を満たす必要があります。 38 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 <自立生活センター(CIL)フレンズ> ・ 自立生活センター(CIL)フレンズの役割は、団体の財政状況について助言を行い、必要な資金を調達 することです。自立生活センターの現在の拠点を施設を購入する際にも、自立生活センター(CIL)フ レンズが地元財界に働きかけて 10 万ドルの寄付を集めた実績があります。 ・ 構成員は、地域の事業主や経営者、政治家、住民であり、約 40 人が登録されています。月1回の定例 会議を行って、自立生活センターを財政面でどのように支援するかの話し合いを行っています。 ・ 自立生活センターはフレンズを組織するにあたって、地元経済界を手始めに障害者に理解をもってい る人々に接触し、フレンズに加入してくれた人がさらに候補者を紹介するといった方法で徐々に拡充 していった経緯があります。 ⑦情報公開、団体の広報活動に関する工夫 a.インターネットによる情報提供 アメリカではパソコンの普及やインターネットの利用が進んでおり、多くの人々がイン ターネットを活用して必要な情報を入手したりサービスを受けたりしています。また、イ ンターネット等のマルチメディアを利用して必要な情報やサービスを受けることが難し い人々への支援も政府やボランティア等によって行われつつあり、アメリカ社会において はインターネットの社会的な重要性が高まっていくと考えられます。 このような背景のもと、団体の独自のホームページをもって団体の紹介を行っているボ ランティア活動団体が多くなっています。ホームページは、各々の団体が創意工夫をこら して作成しています。 b.評価を広報活動にとりこんで、団体の実績をアピールする 評価については次項で詳しく述べますが、団体が年間目標として掲げたことに対してど の程度達成できているかについて内部で検証し、その結果を、団体紹介のパンフレットや ホームページに掲載している団体もあります。この際には、目標や達成度が数字で表され ているとわかりやすいものになり、多くの人々にアピールするものとなるとともに、助成 などの支援を受ける際にも自らの団体について印象的に説明する材料ともなります。 39 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 c.多くの人々に知ってもらうためには、そのための材料をつくる 先駆的な事業を行っているボランティア活動団体にとって、事業の内容やその必要性を 一人でも多くの人々に理解してもらうことが、支援を受けるためにも事業を普及させてい くためにも重要です。事業を多くの人に理解してもらうためには、活動を通じて蓄積した 情報や関連データ等を整理し、だれにでも資料として示せるようにしておくことが効果的 です。また、団体や事業を紹介するために、ビデオ等の視覚的な材料を作成しておくこと も役立ちます。 このような考え方から、アルツハイマー協会では、アルツハイマー病に関する統計や研 究の動向、介護の方法などについての資料や出版物を多く準備しています。予算の余裕が あるときには、大学などの研究機関に調査研究を依頼して書籍を出版したりもしています。 また、ステッピング・ストーンズでは、連邦政府から支援を受けて、団体が実施している 事業の重要性をアピールする内容のビデオを制作しました。そして、それを再編集し、全 米の類似の活動を行っているボランティア活動団体や行政機関などに配布しています。 <アルツハイマー協会の資料や出版物の一例> ・ アルツハイマー病に関する統計 ・ アルツハイマー病の事実(アルツハイマー病を定義し、早期発見と早期治療の重要性を提言している) ・ アルツハイマー病の初期症状の理解(医療専門家のためのガイド) ・ アルツハイマー病患者とコミュニケーションをとるために ・ 失敗しないアルツハイマー病患者への介護(介護者へのガイドブック) ・ 尊厳のためのガイドライン(施設におけるアルツハイマー病と痴呆のケアについてのガイドライン) 40 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (3)評価について ①アメリカにおける評価の動向 アメリカのボランティア活動団体は、実施している事業や団体の組織運営についての評 価23を行ない、これまでに何を達成することができ、今後何をするべきかを検討していま す。 評価は、主に、団体が自ら行うもの(自己評価)、団体のサービスの利用者が行うもの (利用者による評価)、団体の外部の人が行うもの(第三者評価)の3つの手法がありま す。どのような目的で評価を行うかに応じて、これらの3つの手法を使い分けることにな ります。アメリカのボランティア活動団体では、主に自己評価や利用者による評価が行わ れているようです。第三者による評価は、団体の組織運営の状況を格付けするなどの目的 の場合や、州政府の資金を使って事業をするときに同様の事業を行っている団体間で評価 しあうことが義務付けられている場合24などに行われています。 また、評価を行う過程で職員間で議論した経験や、議論を通じて合意に至った評価の結 果は、今後何をするべきかについて検討するための原動力や材料となります。さらに、評 価の結果を団体の関係者や地域に広く情報公開していくことによって、団体に対する理解 を深めることに役立ちます。このように、評価は、よりよい事業や組織運営を行っていく ためのステップの一つとして前向きに取り組まれているのです。 ②評価の目的とノウハウ a.事業を評価する 主に、自己評価や利用者による評価を行って、事業の目標をどの程度達成できたか、何 をすることができなかったかを確認し、その事業を今後拡大もしくは継続するのか、ある いは縮小もしくは中止するのかを検討します。近年では、事業の目標を数値化して達成率 を算出して、評価の結果をわかりやすいものにする工夫もみられます。また、この検討の 過程で、事業に携わった職員やボランティア間に意志疎通が図られ、事業の実施状況や今 後の課題に対する共通認識を得ることができます。 利用者による評価では、事業によって対応できるニーズと利用者が望んでいるニーズが 合致しているかどうかについても確認し、問題があれば事業の方向を修正していく材料を 得ることができます。 23 わが国では、「評価」という言葉は、何らかの成果のよしあしを第三者が判定するという意味に使われて きました。しかし、最近では、評価という言葉は、自分で自分のしたことについて検証することも含めて、 多様な意味で使われ始めています。このため、評価という言葉の受け取り方は、人によって様々ですが、 ここでは、事業や組織運営の過程や成果を振り返って、その達成度や良し悪しを検討し、次の事業や組織 運営のあり方につなげるという一連の流れを評価と考えることとします。 24 ピア・レビューとよばれており、膨大なマニュアルに沿って評価や監査が行われるものです。 41 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 <アルツハイマー協会の全ての事業を包括した目標と達成度> アルツハイマー協会では、以下のように、全ての事業を包括した3年間の目標を定めて、会計年度ごと に達成度を検証しています。 1.直接サービスの提供時間を 37,680 時間から 44,839 時間に増加させる 2.直接サービスの対象者を 20,000 人から 23,800 人に増加させる 3.電子媒体や紙の資料によって情報提供された人数を、120,000 人から 159,600 人に増加させる 4.サービスの対象者を、文化的・民族的にこの地域を代表している人々に移行させていく 5.サービス利用者の満足度を 93%以上に向上させる 6.アルツハイマー協会の全米組織が掲げている「アルツハイマー病に関する調査研究助成のために 3,000 万ドルを集める」という目標に貢献する 7.政策提言活動への参加者数を 498 人から 662 人に増加させる 8.ボランティア活動時間を 12,000 時間から 14,000 時間に拡大する 9.年間の歳入を 213 万ドルから 251.4 万ドルへ拡大する → これらの目標に対する達成度は、次のように表されます。 (目標の1の場合) ・1999 年 12 月現在の目標の達成度は 53%である ・直接サービスの提供時間は、1999 年 12 月現在で 23,893 時間に及んでいる。 <ステッピング・ストーンズが実施している職員による評価> ステッピング・ストーンズでは、四半期ごとに、事業を担当している職員が、自分が実施した事業につ いての評価を行い、これを事務局長などの責任者に報告しています。これによって、事業の担当者自身が 自分のしてきたことを振り返ることができるほか、事務局長は、当該職員が仕事に満足しているか、意欲 をもって楽しんで仕事をしているかについても把握することができるのです。 <ステッピング・ストーンズが実施している利用者による評価> ステッピング・ストーンズでは、毎年利用者に、利用したプログラムについて、満足度、感想、改善点 を述べてもらっています。具体的には、事業の担当者以外の職員が利用者とざっくばらんな話し合いをし て、利用者が事業に対して抱いている評価を把握していくものです。 42 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 b.団体の組織運営を評価する 団体の組織運営の評価は、主に、自己評価を行って団体の組織運営の改善点を把握する ことを目的としたものと、寄付先として適切な団体かどうかを第三者が格付けすることを 目的としたものがあります。組織運営についての自己評価は各団体で独自に行われていま すが、寄付先としての格付けについては、全米慈善団体情報機関など25の全米規模の組織 が実施しています。 全米慈善団体情報機関では、主に予算規模が 50 万ドル以上などの大規模な団体を対象 として、その団体に寄付をした場合に寄付金が効果的に使われるかどうかの観点から財務 状況や組織管理体制などについて評価を行っています26。 ボランティア活動団体が独自に行っている組織運営に関する自己評価には、次のような ものがあります。 <ステッピング・ストーンズが実施している組織運営に関する自己評価> ステッピング・ストーンズでは、毎年設定している団体の目標に沿って、「十分な資金調達ができたか」 「利用者が、計画通りに自立度を高めているか」「団体職員が仕事に愛着をもっているか」などの観点から、 各事業の責任者や担当者から、事務局長や評価担当部署が話をきいて評価を行っています。 また、別途、年に一度、団体の全職員が1泊2日の小旅行に出かけて、昨年度の反省を行うとともに、 これからの事業展開等について話し合いを行っています。このように、全ての職員が評価に参加する機会 をつくり、よりよい団体運営や事業実施に向けて心を一つにし意識を高めあう工夫をしています。 ③評価を行うためのコストの考え方 精緻な評価結果を得ようとすると、多大な時間と費用が必要となります。ODA などの ように投入した費用に対してどれくらいの効果があがっているかを丁寧かつ正確に把握 することが求められる公的な事業もあり、この場合には事業評価を行う専門部署も設置さ れていたりします。しかし、ボランティア活動団体が実施する事業の場合は、精緻な評価 を行うというよりは、評価を行う過程で事業に関わっている人々の間の意志疎通を十分に 行ったり、過去のやり方を反省して、事業をよりよく実施していくためにはどうしたらい いかの答えを考える材料を得ることが主な目的となっています。そこで、ボランティア活 動団体の多くは、団体内部で対応可能であり、関係者にわかりやすい方法で評価を行って います。つまり、評価のための評価に陥らないように、評価の目的をしっかりもちながら、 団体の体力にみあった時間とコストをかけて評価を実施しているのです。 全米慈善団体情報機関(National Charities Information Bureau)、American Institute of Philanthropy (AIP)、Council of Better Business Bureau (CBBB)が格付けを実施しています。 26 全米慈善団体情報機関では、団体の目的、組織運営体制、事業の収支、調達した資金の使途、情報公開 などの観点から団体を評価します。AIP では、公益目的に支出した費用の割合、100 ドルを調達するのに 要した資金調達コスト、資金調達をしないで流動資産だけで現在の活動水準を何年間維持できるかなどの 観点から評価を行って格付けを行っています。 25 43 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 4.ボランティア活動支援団体(資金支援以外27)からの示唆 アメリカにおいては、ボランティア活動団体に対して資金支援以外の支援を行う民間の 非営利団体が多く存在し、主に、ボランティア活動団体が組織運営や事業運営を適切に行 うための研修機会を提供したり問題解決の相談にのったりする MSO28と呼ばれる団体と、 ボランティア活動団体間の連携を促進する団体があります。 MSO は、個々のボランティア活動団体の組織や事業の運営について支援を行う団体です。 当初は、政府、財団、企業等からボランティア活動団体に提供された資金が効率的かつ効 果的に活用されるように、資金を受けた団体に組織や事業の運営の方法を助言するという 役割を担っていました。現在でも、このような役割は残っており、ボランティア活動団体 が行政から事業を受託した場合や財団から大規模な助成を受けた場合に、行政や財団が委 託先のボランティア活動団体に、MSO の指導や研修を受けることを義務付ける場合もあり ます。しかし、現在では、MSO の支援は、ボランティア活動団体が自らの組織や事業運営 をよりよいものにするために自発的にも利用されています。 一方、連携を促進する団体は、市や州などの地域ごとにつくられている会員制組織であ り、その地域内のボランティア活動団体が集まって地域社会における認知度や存在意義を 高めていこうとする業界団体のような役割を果たしています。 (1)MSO の支援内容 ①多様な支援プログラム MSO の提供する支援プログラムは多岐にわたります。各々のプログラムは、大学教員、 経営コンサルタント、コンピュータ技術者などの専門家が担当して研修を行っています。 また、ボランティア活動団体が希望すれば、個別の相談や課題解決方法の提案といったコ ンサルティングを受けることもできます。 研修の料金体系は、小規模な団体にも利用しやすいように工夫されています。現地調査 対象先のコンパスポイントでは、団体の予算規模に応じた料金体系が採用されていました。 また、コンパスポイントの提供する支援プログラムのなかで、現在最も人気が高いもの は、コンピュータの活用、インターネットの活用、人材活用の分野となっており、アメリ カ社会の情報化の進展にボランティア活動団体も対応していこうとしている様子がうか がえます。 資金支援を行う助成財団については、第 4 章で述べます。 MSO は、Management Support Organization の略です。1960∼1970 年代にかけて財団による租税回 避や脱税の疑惑が生じ、民間非営利組織の社会的責任について批判が起こった経緯がありますが、この問 題を解決するために、民間非営利組織の組織運営の支援を行う MSO がつくられました。 27 28 44 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 <コンパスポイントの支援プログラムの概要> ・ 研修のテーマ リーダーシップ養成、人材育成、ボランティア管理、資金調達、財務管理、 コミュニケーションとマーケティング、技術管理と計画、インターネット、コンピュータ ・ コンサルティング 資金調達戦略、会計システム、プログラム開発、理事会の能力向上、マーケティング、情報技術、 組織開発(組織内部の意志疎通、管理能力の向上、打ち合わせの持ち方など)、指導者の交替支援等 ②インターネットを活用した情報提供 コンパスポイントでは、ボランティア活動団体から頻繁によせられる質問を約 100 程度 に分類し、この回答について、ホームページ、資料、自前の図書館を通じて情報提供を行 っています。特に、ホームページでの情報提供は、ボランティア活動団体がコンパスポイ ントまで足を運ぶ手間をかけずに、質問したいことについて一定程度の情報を得られるこ とから好評を博しています。より詳しい情報や自分の団体にふさわしい答えが必要な場合 は、コンパスポイントに電話して相談を行うことができます。 <コンパスポイントによくよせられる質問の例> ・ 理事会について ボランティア活動団体の理事会と企業の理事会はどう違うのですか? 企画と予算づくりにおける理事会の役割はなんですか? よい理事会とはどのようなものですか? 資金調達の経験のない理事や資金調達が苦手な理事に、どうしたらうまく資金調達をしてもらえま すか? ・ 財務管理について 会計システムとはどのようなものですか? 非営利団体と営利団体の会計の違いはなんですか? 会計監査とは何ですか? 会計監査を受けるべきですか? どのような会計報告を作成するべきですか? ・ 資金調達について どのようにして資金支援を依頼したらいいのですか? 寄付金はいくら程度もらうのがよいのでしょうか? 資金調達の責任者の役割と、適当な給与額はなんでしょうか? ・ 情報技術について 情報化とはなんですか? ・ なぜ情報技術を高めるための計画が必要なのですか? 戦略的計画について なぜ戦略的計画が必要なのですか? 実施計画や長期計画との違いはなんですか? ボランティア活動団体の戦略的計画は、企業や政府のものとどう違うのですか? ・ ボランティア管理について ボランティアと職員の協力関係はどのようにして構築したらよいですか? 事業を実施する際に、どのようにしてボランティアを活用したらよいのですか? ボランティア募集をどのようにしたらよいですか? 45 など 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 (2)連携を促進する団体の支援内容 ①会員団体の要望の把握がポイント 地域のボランティア活動団体の連携を促進する団体は一般に会員制をとっているため、 全ての会員が満足するような支援を行うことが求められています。しかし、会員団体の規 模や活動経験年数等は様々であり、全ての会員の要望に応えることは難しいのが現状です。 そこで、現地調査を行ったワシントン団体協議会では、会員団体に共通した要望で、かつ、 個々の団体では対応することが難しいものを分析し、それに焦点をあてて支援を行ってい ます。会員団体の要望等は、ワシントン団体協議会の電話相談に日常的によせられる声を 聞いたり、研修やイベントの際に会員団体が集まった際に話をきいてみたり、定期的にア ンケート調査を実施したりして把握しています。 ②新聞社と協力した団体表彰を活用した支援 ワシントン団体協議会では、機関誌を通じた情報提供、電話相談、会員団体が組織運営 や事業実施に関して悩んでいることをテーマとした研修機会の提供などの支援を実施し ています。 これらは連携を促進する団体には一般的にみられる支援内容ですが、これに加えて、ワ シントン団体協議会では、ワシントンポスト紙と協力して、毎年組織運営能力を向上させ た団体を表彰するという支援を行っています。表彰された団体は、ワシントンポスト紙の 一面で紹介され、社会的な知名度や評価が大きく向上します。このことによって、その団 体は、今後事業を展開する上で地域社会の理解を得やすくなり、また、組織運営がしっか り行われている団体であるとの評価は資金調達がしやすくなるという大きな利点を生み ます。このため、地域の多くのボランティア活動団体が受賞を目指して組織運営能力の向 上に努め、あるいは、受賞しなかった場合には受賞した団体とどこが違うのかを反省する などの努力を行っています。つまり、団体表彰は、地域のボランティア活動団体が自らの 能力を向上させようとするきっかけとなっているのです。 46 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 <ワシントン団体協議会がワシントンポスト紙と協力して行っている団体表彰> ・ 団体表彰の概要 組織運営能力を向上させた団体を表彰するもので、ワシントンポスト紙の協力を得て応募団体を 募り、有識者からなる審査検討委員会を設置して、最優秀団体1、優秀団体4を選出します。 最優秀団体は 5,000 ドルの賞金とワシントンポスト紙に大きく紹介される機会を得ます。優秀団体 には 1,000 ドルが贈られます。 ・ 団体表彰を実施した経緯 ワシントン団体協議会が、ボランティア活動に理解があるワシントンポスト紙に話をもちかけ、 同紙が趣旨に賛同して企業の社会貢献活動の一環として実施しているものです。表彰団体への 賞金はワシントン団体協議会が拠出し、同紙は、表彰団体の紹介や応募団体の公募の広告を 行ってくれており、この広告は商業ベースで換算すると 25 万ドル相当の経費となっています。 ・ 評価基準 財政運営(適切な予算配分、支出構造、財源の管理)、情報とコミュニケーション(団体の趣旨や 目標がどのように職員、理事会、利用者などの関係者全体に周知されているか。また、地域社会と どのように協力し、団体が有する知識や経験を地域に還元できたか。)、組織の発展(組織内部の運 営能力の向上のためにどのようなことを実施したか。また、そのためにどのような説明責任のシス テムをもっているか)、人材開発(職員やボランティアは必要な知識や技術をどのように高めたか。) の点から評価されます。 ・ 小規模草の根団体が表彰されるためのしくみ ワシントン大都市圏には全米規模のボランティア活動団体や国際的な活動を行っている団体の本部 が多く存在しているが、これらの団体ではなく、ワシントン大都市圏に住んでいる住民に密着した 活動を行っている草の根団体が脚光を浴びるようにしたいという意向を、ワシントン団体協議会お よびワシントンポスト紙はもっている。これは、小規模で草の根の団体は、通常は、毎日の活動を 行うことで精一杯であり、団体が存続し活動を継続していくために必要な組織運営能力の向上には 注意を払う余裕がない場合が多いからです。このため、審査検討委員会を、小規模草の根団体への 理解が深い有識者で構成するといった工夫を行っているのです。 ③会員間での共同購入による費用削減の支援 ワシントン団体協議会では、会員団体に共同購入を斡旋し、事務経費の削減の支援を行 っています。特に、アメリカにおいては、保険費用が高いことから、団体職員を対象とし た健康保険の団体加入を斡旋しており、この事務代行収入が、ワシントン団体協議会の大 きな収入源となっています。このほかには、事務用品の共同購入や、郵便物の発送先の管 理やデータ管理などの共同で行ったほうが費用が低くすむことの取りまとめを行ってい ます。 47 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 アメリカのボランティアと NPO から学ぶ 安立清史(九州大学 大学院人間環境学研究院 助教授) (1)アメリカの元気、ボランティアの活力 今回、次々にボランティア団体や NPO を訪問した。そこで出会ったボランティアも数多 い。どの人も生き生きとしている。団体やグループも次々と新しいチャレンジをしている。 この元気さや活力の源は何なのか。それはさかのぼると「内側から湧き起こる内発的な力」 なのだろう。そして、アメリカ社会には、このような人間の内側から伸びてくる力を外に 現れやすくするための工夫や仕組みがうまく作られていると思う。それがボランティア団 体だったり、NPO という仕組みだったりする。今回のアメリカ調査では、人間の内側にある このようなエネルギーをどう社会に活かすようになっているのか、その仕組みとしての NPO に注目しながら歩を進めた。 (2)アメリカのボランティアや NPO の特徴 アメリカのボランティアの特徴を日本との比較で一言で言うと、それは「楽しそう」。無 理をしていないし、世のため社会のため、というような悲壮な意識もない。楽しくリラッ クスして自分のためにやっている、とみんなが言う。でも、それがコミュニティや社会の ためになっているのだとみんな確信してもいる。歴史や経験の深さなのか、この達人のよ うな身軽さには驚いた。肩ひじはらないから楽しく長続きする。ひるがえって社会貢献と か理念が先行しがちな日本では、いつかボランティアも疲れてしまうのではないかと思う。 もっと軽やかに楽しむのがボランティアの秘訣。それをアメリカで知った。 (3)ボランティア・サポートの仕組み アメリカでも、ボランティアは何もないところに自然と生まれて盛んになったわけでは ない。ボランティアが盛んになるためには、まず、ボランティアが社会にとって大切だと いう価値観が広く共有されていることが前提条件になる。この価値観は、最近、日本でも 確立されつつある。ついで、ボランティア活動の場所や機会の創出とボランティア活動し やすくするための社会的条件の整備。そしてボランティアという人間的な活動を激励した り、問題を一緒になって解決してくれるようなコーディネーターなどのサポートシステム。 こうした広い意味でのボランティア支援システムが整備されているのがアメリカだ。 たとえば、今回の取材で訪れた「ストップ・チャイルド・アビューズ・ナウ」という NPO は、ボランティアへの教育・研修システムを分厚いマニュアルにして持っている。虐待を 48 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 受けている子どもたちへの支援には、心理学・社会学・法律学・社会福祉など、多くの専 門的知識が必要とされる。そのうえ、裁判所や行政などの機関との連携も必要だ。一個人 としてのボランティアでは、とうてい出来ない。そこを支え、ボランティアとの共働で子 どもの虐待防止への先駆的な取り組みをしているのがこの NPO だった。ぎゃくに言えば、 この NPO があるからこそ、ボランティアが子どもの虐待問題に関わって積極的な役割を果 たすことが出来ているのだとも言える。ボランティアが活動するためのには、活動を支援 する仕組みが必要で、その支援をしているのが NPO だということがよく分かった。 (4)NPO の役割 ボランティアをサポートするのが NPO。同時に、行政や他の NPO とも密接な連携をしなが ら活動をしていた。たとえば、オークランドの「ベイエリア・コミュニティ・サービス」 では、行政からの補助金で高齢者への食事サービスや配食サービスをしている。こうした 活動を通じて地域の高齢者のニーズを把握し、この NPO では、AARP(全米退職者協会)とも 連携しながら痴呆性高齢者のデイケアや金銭管理といった課題に取り組んでいる。痴呆性 高齢者の金銭管理などは、高度に訓練されたボランティアの協力なしには実施不可能なも のだが、各地で NPO がこうした新しいニーズや課題に取り組んでいる。 また、痴呆性高齢者の金銭管理の問題など法律的な問題やリスク管理が絡んでくる複雑 な問題は、小規模の NPO だけでは手に余る課題だ。そこで専門的な知識を持つ NPO や NPO 同士のネットワークが重要になってくる。たとえば痴呆性高齢者の金銭管理に関しては、 AARP が連邦政府とも共働しながら先駆的な方法を開発した。その方法をさらに地域の NPO が具体的な実施状況にあわせて、さらに改善したり改良したりしている。子どもの虐待防 止や痴呆性高齢者の金銭管理といった新しい課題にたいして、ボランティアが積極的に取 り組めるのは、地域の NPO もさることながら、全国的規模での専門的な NPO のネットワー クや、NPO と行政との協力関係も確立されているからに他ならない。 (5)NPO サポートセンターの役割 ボランティアと共働する NPO は、小規模で地域密着型が多い。したがって組織の管理・ 運営や財政問題は苦手なところが多い。アメリカで何十万と存在するこうしたボランティ アと共働する NPO の運営が行きづまったら、ボランティアやサービス利用者だけでなく、 行政や社会全体が打撃を被ることになる。今回の取材では、世界的に有名な障害者の自立 生活運動の発祥の地、バークレイの「自立生活センター」を訪問したが、まさにこの団体 は 1980 年代にこうした問題を経験していたのだ。また、アラメダ郡の行政担当者を取材し た時にも、郡から事業委託を受けている NPO が活動を停止し頭を痛めているという話をき いた。こうした経験をふまえて、アメリカでは、NPO へのマネジメント(運営)支援の必要性 49 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 が高まり、1980 年代から各地に NPO サポートセンターが設立され、活発な活動を行ってい る。 今回取材したサンフランシスコのコンパスポイントは、そうした NPO サポートセンター の中でも最大級のもの。ここの特徴は、NPO による NPO の運営支援組織(マネジメント・サ ポート・オーガニゼーション)であること。しかもサンフランシスコ市からも、NPO の支援 業務を受託している。さすがに行政から NPO への支援を受託している NPO は、アメリカで も数少ないらしいが。NPO への運営支援は、サポートセンターの専門家スタッフと、ボラン ティアによって運営されている。NPO の運営に関するコンサルティングやワークショップが 年間500回、2千以上の NPO 団体から6千人以上が参加しているというから驚きだ。こ うして NPO の資金調達戦略、経営戦略、理事会の運営、ボランティアとの共働の仕方など を助言している。また、NPO らしいコンピュータの利用法や活用法の指導も、コンピュータ ルームを備えて積極的に行っていた。 ボランティアといっても幅広い。専門的知識を持つコンピュータや法律の専門家もコン パスポイントのボランティアとて NPO 支援に携わっているのに新鮮な驚きを感じたし、そ れ以上に NPO の「理事」がアメリカでは重要なボランティアであることにあらためて気づ かされた。ボランティアと共働する NPO だが、管理・運営の中心は専従職員。だから、と きに NPO という組織の管理・運営のほうに傾いてしまうこともないではない。だからこそ、 ボランティアとして NPO の使命や運営方針に関わる理事の役割は重要なのだ。理事はボラ ンティアとして NPO の初心を守っている。コンパスポイントでは、この重要な役割をはた す理事や理事会が形骸化しないための様々な助言を提言を行っている。これは NPO の使命 や役割を、つねに NPO に再確認させ、NPO が NPO らしく活動するためのサポートなどだ。こ れまた NPO とボランティアとの共働を支える仕組みとして重要だと思われる。 (6)ボランティア活動振興における連邦政府の役割 今回の取材では、ボランティアと行政との関係についても様々なことが分かった。 連邦政府も、ボランティア活動の振興に積極的に取り組んでいるのである。その政策的 意図しては、所得や学歴や人種といった要素によって「ボランティア格差」が生じないよ うにするというものであろと思われる。「ボランティア格差」とは耳慣れない言葉だと思わ れるが、コンピュータの出現によってコンピュータを利用できる人と出来ない人との間に、 様々な格差が生まれつつあるという「デジタル・ディバイド(コンピュータ利用格差)」と 同じようなものと言ってよい。アメリカ社会は、ボランティアを高く評価する社会だから 「ボランティア活動したくても、経済的な理由などでボランティア活動できない状態」が あれば、それは結果的に社会的な不平等を生み出すことになる。今回取材したところでは、 アメリカ政府が行っているボランティア活動振興プログラムや、オークランド市が連邦政 50 社会福祉・医療事業団 『海外のボランティア活動に関する調査研究・報告書』2001 年 3 月 府の援助をえておこなっている「シニアコンパニオンプログラム」などがそれに当たるだ ろう。 これらは人種や所得階層の違いによって、ボランティア活動の格差が生じないようにす るための政策の一種であると見ることができる。ボランティア活動に出かけるにも、交通 費や食事代などの経費がかかる。こした経費が負担できずにボランティア活動したくても 出来ない人たちがいるのがアメリカだ、というオークランド市担当者の説明には説得力が あった。アメリカ政府のボランティア活動振興プログラムは、このような経済的・社会的 格差によって、ボランティア活動したくても出来ない人がいることを認識し、それに対し て支援を行おうとするものであり、これからのボランティア活動振興政策への示唆をそこ から読みとることが出来よう。 (7)まとめ ボランティアと社会との関係について示唆にとんだ話をたくさん取材できた。大きくま とめると次のようになるだろう。アメリカのボランティアが、なぜボランティア活動に熱 心なのか。それは活動が楽しく、自分のためになり、かつ社会へも貢献できるという好循 環を生み出す社会の仕組みが整備されているからだ。ボランティア活動が理念的・観念的 なものではなく日常生活に根ざしているからだろう。それとともに、ボランティア活動を 支え、活動の場所や機会を提供する NPO の役割も大きい。NPO が活発だからこそ、高度に専 門的な活動にまでボランティアが関わることが出来る。高度な専門的な活動は、ボランテ ィアにとってもやりがいがあるはずだ。NPO を支える社会的な仕組みが整備されていること もボランティア活動にとって重要なことだ。小さな NPO や始まったばかりの NPO、専門的な 活動に乗り出す NPO など、様々な NPO があって、それぞれに行政や企業とも連携したり共 働したりしながら、社会にボランティア活動の風を送っている。NPO を支援する NPO、NPO のネットワークをつくる NPO、こうした仕組みも整備されていた。そして政府もボランティ ア活動の振興には積極的な役割を果たしている。こうして社会全体が、ボランティア活動 を重要なものとして、それを支援し、育成していこうと様々な施策や工夫をこらしていた。 日本への示唆は大きい。 ٛ参 考 ٛ 田中尚輝・安立清史『高齢者 NPO が社会を変える』 (岩波ブックレット 51 №523)、岩波書店