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2007 年度 修士論文 「モード解析によるバドミントンラケットの振動特性
-1- 2007 年度 修士論文 「モード解析によるバドミントンラケットの振動特性」 指導教授 長松昭男 大学院工学研究科 機械工学専攻修士課程 06R1110 後藤 裕太 -2- 目次 1章 2章 3章 4章 5章 6章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1.1研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1.2目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 モード解析概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2.1振動の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2.1.1自由振動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2.1.2強制振動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2.2モード解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 2.2.1モード解析の概要・・・・・・・・・・・・・・・7 2.2.2モード解析の長所・・・・・・・・・・・・・・・7 2.3振動試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2.3.1振動試験の概要・・・・・・・・・・・・・・・・8 2.3.2対象物の支持方法・・・・・・・・・・・・・・・9 2.4打撃試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2.4.1打撃試験の概要・・・・・・・・・・・・・・・11 2.4.2打撃試験の長所・短所・・・・・・・・・・・・11 理論モード解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 3.1理論モード解析の概要・・・・・・・・・・・・・・・・13 3.2有限要素法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 3.2.1有限要素とトラス部材・・・・・・・・・・・・14 3.2.2三角形要素の剛性マトリックスと仮想仕事の原理22 3.2.3有限要素法による固有モード解析・・・・・・・26 実験モード解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 4.1実験モード解析の概要・・・・・・・・・・・・・・・・28 4.2実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 4.2.1加速度応答を利用したモード解析・・・・・・・32 基礎的事項の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 5.1検討に用いた対象物・・・・・・・・・・・・・・・・・35 5.2基礎的事項の検討結果・・・・・・・・・・・・・・・・38 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 -3- 7章 8章 9章 6.1実験対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 6.2実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 6.2.1落下実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 6.2.2ハンマリング実験・・・・・・・・・・・・・・52 6.3実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 6.3.1落下実験の結果・・・・・・・・・・・・・・・54 6.3.2ハンマリング実験の結果・・・・・・・・・・・55 6.4実験の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 実験比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 7.1落下実験とハンマリング実験比較・・・・・・・・・・・・57 7.2ガットテンションによる比較・・・・・・・・・・・・・・57 7.3ラケットの違いによる比較・・・・・・・・・・・・・・・63 多方向からの解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 8.1理論モード解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 8.2高速度ビデオカメラ解析・・・・・・・・・・・・・・・・66 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 -4- 第1章 緒論 1.1 研究背景 振動は私たちの身近な至る所で発生しており,私たちと深いかかわりを持っている.喉 と鼓膜と空気の振動を利用することによって会話が成立し,音は空気の振動によって伝わ る.振動や音は人間に対して様々な影響を与える.人間が身近に使う機械やものは振動が 小さいことや心地よく振動することが大きい商品価値になってきた.また,機械の不具合 や故障の過半数は,振動が原因で発生すると言われている. 快適性や環境との調和がますます重要視される今日において,自動車やスポーツ用品な ど,工業製品の発生する振動・騒音の人体に与える身体的,心理的影響を考慮することが 必要不可欠である. 振動問題を解決するには,対象物の振動特性を正確に把握する必要がある.このために は有限要素法等の理論解析とともに振動実験を実施することが不可欠である.近年,振動 現象の予測と現象解析にモード解析が使用され始めた. 振動実験において最近発展を遂げているのが,実験モード解析である.実験モード解析 とは,実物や模型の振動実験で得られたデータから周波数応答関数を求め,実物や模型を 数学的にモデル化し,固有振動数・固有モード・モード減衰比を求める一連の解析のこと を言う.実験モード解析手法として非線形最適化法が提案されている.非線形最適化法は 周波数領域法である偏分反復法を正確に多点応答に拡張したものである. 本研究はバドミントンラケットに関する研究である. バドミントンラケットはスポーツ用品としては主流製品といえない.そのせいかテニス ラケットに関する研究は数多く見受けられるが,バドミントンラケットに関する研究はほ とんど見受けられない. バドミントンという競技の最大の特徴は,羽(シャトルコック)にある.競技用に主と して使用されている物は,羽軸が強く,丈夫なガチョウの羽(枚数は 16 枚)とコルクから 作られている.壊れやすく,1 本でも羽が折れれば正しい軌道で飛ばなくなるため,消費が 激しい.そのため金銭的な負担も大きい.また,気温や湿度の変化による空気抵抗の差に より,飛距離が変化しやすい.具体的には,気温が高く湿度が低いときはよく飛び,逆に 気温が低く湿度が高いときは飛ばなくなる.そのため常に同じ飛びのシャトルでプレーで きるように,同じ銘柄のシャトルでも飛距離の違うものが数種類ずつ製造されている. スマッシュの初速は,最速で時速 350km 以上に達し,全ての球技の中で打球の初速が最 も速いことで,ギネスブックに認定されている.また打球が相手コートに届くまでに空気 抵抗を受けて急激に失速するため,初速と終速の差が著しいのも他の球技には無い特徴と -5- 言える. 本研究では他に類を見ない特徴を持つバドミントンラケットについて振動特性を把握す るために研究を行った. 1.2 目的 硬式テニスラケットの研究においてラケット自体の1次固有モード形状,2次固有モー ド形状が単純板の曲げモード形状に類似していることがわかっているが,バドミントンラ ケットにおいてはテニスラケットと比較してガットが張ってある部分とシャフト部の接続 がシングルフレームになっていることや,またフレームがテニスラケットと比較しても大 幅に細いなどの特徴があり,単純にラケットとして一括りにできない.特に先に記述した ようにラケット自体をしならせてシャトルを打つ特性がある.本研究の目的はまずバドミ ントンラケットにシャトルが振動特性にどのような影響を及ぼすのかを把握し,バドミン トンラケットの基礎振動特性を求めることを最終目的として研究を始めた. -6- 第 2 章 モード解析の概要 2.1 振動の種類 振動は,自由振動,強制振動,及び複雑な振動に大別できる.ここでは,その中でも特 に重要な自由振動,及び強制振動について述べる. 2.1.1 自由振動(free vibration) 動的な外作用が変化すると必ず発生し,一旦生じれば,外から何もしないでも自分自身だ けで自由勝手に振動し続ける.叩く,引っ張っておいて放すなどのように外作用が加わる ときはもちろん,今まであった加振力が急に無くなる時や,加振力の大きさ,方向,周波 数が急に変わったときにも発生する.同じ物体に同じ外作用の変化があれば同じ自由振動 が発生するが,同じ物体でも外作用の変化が異なると異なる自由振動を生じる.大抵,初 めは運動の形も振動数もはっきり見分けがつかないが,次第に両方共見分けがつくまで単 純になり,やがて消えて行く. 自由振動は,ほとんどの場合が速やかに消えてしまい,実際の機械では強制振動ほど大 きい問題を生じないが,実験モード解析から見ると極めて大切である.それは,強制振動 や自励振動などのすべての振動を生じる元になる物体の動特性が,自由振動の中にすべて 含まれているからである.したがって,自由振動を観察すれば,すべての動特性を知るこ とができる.しかも,自由振動は外作用が無い状態で続いているから,現象が外環境の影 響を受けず,物体自身の動特性だけに支配されている.そこで,現象の分析により動特性 を容易に正しく把握できる.自由振動は,1 自由度系では最初の振幅の大きさ,振動の速さ, 減衰の速さの 3 つの現象で表される.多自由度系では,これらがそれぞれ固有モード,固 有振動数,モード減衰比の 3 つの現象に対応する.一方動特性は質量,こわさ(剛性),減 衰係数の 3 種類であり,3 という数字が基本になっている. 2.1.2 強制振動(forced vibration) 外作用に対する応答であり,外作用の開始と共に直ちに発生する.しかし外作用の開始は 外作用の変化の一形態なので,同時に自由振動も発生する.大抵は両者の振動数は異なる ので両者が混合した複雑な波形を示す.これを過渡振動(transient vibration)という.や がて自由振動は減衰して消え,強制振動だけが残る.これを定常強制振動または定常振動 という.過渡振動は外作用の開始だけでなく,大きさや振動数の急変する時にも生じる. -7- 2.2 モード解析(modal analysis) 2.2.1 モード解析の概要 通常行われているコンピュータ援用振動解析の例として Fig.2-1 を示す.振動解析は FEM 数値解析と実験解析の 2 通りの流れに始まる.FEM 数値解析では,設計図面や CAD 情報 をもとにして FEM モデルを構築すれば,コンピュータ内でエネルギ原理を用いて特性行列 (characteristic matrix)(質量行列と剛性行列)が作成される.そして固有値問題を解い てモード特性(modal parameter)を導き,モード解析の理論により周波数応答関数を求め る. 一方,実験解析では,振動試験で得た加振力と応答の測定結果から,信号処理によって周 波数応答関数を求め,さらにモード解析の理論を用いてモード特性を同定する. これら実験による解析,及び FEM 数値解析をそれぞれ実験モード解析,理論モード解析と 呼ぶ. 2.2.2 モード解析の長所 ・ 固有モードの直交性を利用して多自由度系の運動方程式を非連成化する.その ために,複数の1自由度微分方程式を互いに独立に解いただけで,多自由度連立微分方程 式を解くのと同等の解を得ることが出来る. ・ 運動方程式を固有モード毎に互いに独立な1自由度系微分方程式に分解するの で,高次固有モードに相当する式を無視するだけで簡単に高次固有モードを省略できる. そして,解くべき 1 自由度系微分方程式の数を著しく少なくすることが出来る. -8- 実物,模型 図面,CAD 情報 振動試験 近似,要素分割 有限要素モデル 信号処理 同定(エネルギー原理) 周波数応答関数 特性行列 単位衝撃応答 固有値解析 実験モード解析 特性行列同定 モード特性 モード特性 特性行列 モード解析 時系列解析 感度解析 制振 制御 構造変更解析 部分構造合成法 最適設計 シミュレーション Fig.2.1 コンピュータ援用による振動解析 2.3 振動試験 2.3.1 振動試験の概要 機械や構造物に振動を発生させる目的で動的な作用を加えることを,加振または励振と いう.加振の対象である機械や構造物(以下対象物という)は,加振によって動的な応答 を示す.加振入力と応答の間には,次の関係がある. 応答 = 対象物の特性 × 入力 対象物を加振して,加振入力と応答の両方を測定し,それらの測定結果に適切な信号処理 をほどこして,対象物の動特性を情報として含む信号を取り出す一連の操作を,振動試験 という.信号は周波数応答関数として取り出すことが多い.振動試験で得られた信号は, そのままの状態で観察し,不具合対策などに役立てることもあるが,大抵は対象物の動特 -9- 性を同定するための入力として用いる.モード特性を同定する目的で行う振動試験をモー ド試験という.またモード試験とモード特性の同定を合わせて実験モード解析という. 実験モード解析を成功させるためには,正しい周波数応答関数を測定することが第一の 条件である.モード特性同定の方法にはいろいろあるが,誤差が少ない良い周波数応答関 数を入力データとして与えさえすれば,どの方法を用いても大抵は良い結果を得る.反対 に,入力データが大きい誤差を含み信頼性が乏しいときには,どんなに複雑で高級な同定 方法を用いても,あまり良い結果は得られない.したがって,振動試験は実験モード解析 の中で最も重要な部分であるといえる. 2.3.2 対象物の支持方法 振動試験を行うためには,まず対象になる機械や構造物,すなわち対象物を何らかの方 法で支持しなければならない.対象物の支持は,ともすれば軽く扱われがちである.しか し,同一の対象物を同一の方法で加振しても,その支持方法によって応答は全く異なった ものになるので,目的にあった方法で支持するように,細心の注意が必要である. 対象物の支持は,自由境界または自由支持,固定支持および弾性支持の 3 通りに大別で きる. 【1】 自由境界または自由支持 対象物の動きを拘束したり妨げたりしない支持をいう.理想的には空間に浮かんだ状態 を指すが,この理想状態は地球の重力がある限り実現できない.しかし実際には,柔らか いゴムひもで吊ったり,タイヤチューブ,スポンジ,ゴム板,空気ばねなどの上に置いた りすることで,実用上十分な自由支持が比較的簡単に実現できる.対象物を支持している これらの物をここでは支持物と呼ぶ.自由支持を実行する上で留意する必要がある主な事 項を以下に述べる. (1) 支持物のばねこわさが,対象物の剛性に比べて十分小さいこと.そのために,支持物 はできるだけやわらかい物にすべきである.他方,対象物の局部的な剛性ができるだけ大 きい所を支持するように支持点を選ぶべきである.剛性が小さくやわらかい部分を支持す れば,支持物のばねこわさが測定に影響し,対象物が自重によって変形し,その動特性が 変わってしまう恐れがある. (2) 剛体モードの振動数が十分小さいこと. (3) 支持物の質量が十分小さいこと. (4) 支持物による見かけの減衰の増加が十分小さいこと. (5) 測定にできるだけ影響を与えないような支持場所を選ぶこと. (6) ゴム板やスポンジは,全体にわたってべったり敷くよりは,部分的に,数箇所に,で きるだけ剛性の高い所にできるだけ小さい面積で敷く方がよい. - 10 - 以上の事項を十分満足しているか否かを支持条件(吊りひもやゴム板などの種類,場所, 位置,対象物の姿勢など)をいろいろ変えた予備試験によって検討し,不十分な点があれ ば対策や,最適の支持条件を選んだりしておく必要がある. 【2】 固定支持 実用時に一部が固定された状態にある構造物や機械の動特性を本来あるがままの状態で 知りたいときなどに採用される支持条件であり,自由支持ほど一般的な支持条件ではない. 理論的解析では,該当する自由度の変位を零と置くだけで固定支持を極めて簡単に作るこ とができる.一方,振動試験で理想的な固定支持を実現するためには,質量と剛性が共に 無限大である物体に,溶接などで完全に一体化するように対象物を取付ける必要がある. しかしこれは無理なので,実際には質量と剛性の両方が対象物よりもはるかに大きいと考 えられる基礎や定盤のような物体に,ボルト締めなどでしっかり取付けた状態を固定支持 とみなす. このような方法で作った固定支持では,様々な問題が生じることも多く,振動試験では, 固定支持はなるべく避け,できるだけ自由支持で行う方がよい.これは,第 1 に固定支持 は自由支持よりも実現が困難だからである.たとえば,やわらかいゴムひもで吊るし,や わらかいゴム版の上においた状態を自由支持と近似するのは妥当であるが,大きい基礎に 取付けたからといって,必ずしも固定支持にはならない.そして第 2 に,自由支持の結果 から固定支持の結果を導くことは可能であるが,逆は不可能だからである.これは,自由 支持の方が固定支持よりも固定すべき点の応答を測定している分だけ自由度が多く,振動 試験の結果から自由度を減らすことはできても増やすことはできないからである. 【3】 弾性支持 大型構造物や重量機械は,自由支持も固定支持も実現しにくい.また,機械の部品の振 動試験を行うときに,構造上取り外すことが出来なかったり,組み込んだままの動特性が ほしい場合もある.このようなときには,自由と固定の中間の支持で実験を行うことにな る.このような支持方法を弾性支持と呼ぶ.弾性支持の場合には,あらかじめ支持物単体 の固有振動数,固有モードおよび支持点における周波数応答関数を,計算や実験で明らか にしておく必要がある.そして,振動試験の後に,部分構造合成法を利用して,全体の動 特性を表している振動試験結果から支持物単体の動特性を差し引くことによって,対象物 単体の動特性を得ることが望ましい.これを完全に行うことが無理な場合には,支持物単 体を対象物に取付け点における等価 1 自由度系に置き換えておき,それを差し引く. - 11 - 2.4 打撃試験 2.4.1 打撃試験の概要 打撃試験は,FFT の開発と共に現場に急速に普及し,いまや振動試験の中で主役の座を 占めている.機械の動的な性質を調べた不具合対策をしようとする人は,ほとんどまず IMP による打撃試験を行う.これは,打撃試験が手軽に短時間でできるので,一見簡単そうに 見えるからである.しかし,実際には多くの落し穴があって良い結果を得るのが意外に難 しい.むしろ,打撃試験はすべての振動試験の中で最も困難な方法であると言っても過言 ではない.これは,方法の簡単さが,人間の技能および計測とデータ処理に負荷をかける ことによって実現されているからである. 打撃試験では,力と応答が特別な性質を持っており,それが原因で,外乱と漏れ誤差と いう 2 つの問題を生じる.これらに対処するために,打撃試験特有の信号処理方法を必要 とする.またこれらの問題による精度低下の程度は,対象物の性質と実施者の技能に大き く依存する. 打撃試験は,大別して 3 つの目的で行われる.第 1 に固有振動数と固有モードの有無と およその値と形を知るため,第 2 に他の高精度な方法で本試験を行う前の予備試験として, 第 3 に他の方法と同様に正確な周波数応答関数を得るため,である.第 1 や第 2 の場合に は適当に行ってもよいが,第 3 の場合には,経験と知識と注意なしでは良い試験を行うこ とができない.しかし逆にいえば,これらがあれば必ず良い結果を得ることができるので ある. 2.4.2 打撃試験の長所・短所 【1】 打撃試験の長所 (1) 準備と実施の両方の時間が,全加振方法の中で最も短い. (2) 基本的には,打撃ハンマと加速度計と 2 チャンネル FFT さえあれば良く,加振器を使 う他の加振方法に比べて装置が簡単で金がかからない.また,機動性に富むから,現場で 容易に実現できる. (3) だれでもすぐ行うことができる.他の振動試験では加振点を固定させて応答点を移動 させるが,打撃試験では加振点の移動が極めて簡単であり,次々と場所を変えて叩いてい くだけで全体の振動試験ができる. (4) 加振系は,エネルギを注入する瞬間だけ対象物に接触する.そのために,加振系が対 象物に影響を与えその動特性を変えることがない.また,対象物に加振系取付けのための 加工を加える必要がない. (5) 打撃力は広範囲の連続周波数スペクトルを有するため,広周波数帯域の加振が瞬時に - 12 - できる. (6) 加振力に漏れ誤差が全く生じない. (7) 叩ける物であれば何でも加振でき,広いはん用性を有する. 【2】 打撃試験の短所 (1) 波高率が極端に大きい. (2) SN 比が極端に小さい. (3) 非線形特性を有する対象物には不適である. (4) 対象物の減衰の大きさにより制限を受ける. (5) 精度が実施者の技能や熟練度に大きく依存する. (6) 加振力の大きさ,周波数範囲,周波数成分の割合を調整しにくい. (7) 低周波域の加振が困難である. (8) 叩くことにより対象物に損傷を与える可能性がある. - 13 - 第3章 理論モード解析 3.1 理論モード解析の概要 理論モード解析とは,モデル化によって対象物の自由度を決めて物理モデルを作成し, 力の釣り合いやエネルギ.原理によって数学モデルに変換することにより得られた式を理論 解析や数値解析によって解き,固有振動数と固有モードを求めることをいう.本研究では, 最も広く使われている有限要素法を使用し,モード特性を求める.モデル作成には3次元 CAD ソフトSolid Works とプリ処理ソフトAltair / Hyper Mesh を,ポスト処理ソフト Altair / Hyper Viewを,有限要素法解析にはMSC / NASTRAN を使用した.理論モード解 析の流れをFig.3.1に示す. Fig.3.1 理論モード解析の流れ - 14 - 3.2 有限要素法 有限要素法とはRitz-Galerkin 法の一種で,近似関数として区分多項式を用いるものであ り,連続体を幾つかの要素に分けて考え,要素ごとに方程式を作り,それを元に全体とし ての方程式を組み立てて解く方法のことをいう. 有限要素法の特質は, ・ 問題とする領域<物体>を小部分に分割する ・ 各々の小部分を簡単なモデル<数式>で近似する ・ それを全体的に組み立てて解く という点にある.一般に実物モデル(数式)化解くという形は数学的に問題を解くときの 定石であるが,その際,特に「小部分のモデルをつないで全体のモデルとする」というやり かたをとるのが有限要素法である.従来は,たいてい小部分に分けることをせず,全域の 現象を単一のモデル(数式)で表現しようとした.そのため, ・ 領域(物体)の形が単純でないと適用しにくい ・ 粗い近似解はすぐ得られるが高精度化が困難 という悩みがあった.この難点を解決するため,有限要素法では区分多項式を用いている. また,有限要素法の特徴として以下のことが言える. ・ 近似のバランスが良い ・ 理論と実際の中間的存在である ・ 実際的問題を扱えるのが強み ・ 応用範囲が極めて広い ・ コンピュ.タと密着した計算法である ・ デ.タを入れれば即座に解が出る便利な道具である(ブラック・ボックスとして使える) 3.2.1 有限要素とトラス部材 連続体を有限要素法により解析する場合,解析対象を有限の大きさを有する他所で分割 して取り扱う.この要素のことを有限要素(finite element)といい,連続体を有限要素で 分割して力学的に解析する手法を有限要素法(finite element method;略してFEM)という. ここでは2次元の場合を取り扱い,有限要素として三角要素を使用する.ここで注意しても - 15 - らいたいのは,2次元の意味である.解析対象は物理的に実態のあるもので,空間に3次元 的に存在するものである.しかし,板厚が他の寸法に比べ非常に小さい場合,あるいは非 常に大きい場合は,内部の応力状態は板厚方向には変化せず一定であると考えてよい.こ のような状態を2次元というのである.また,板厚が小さく σ z = 0 と考えられる場合を平面 応力状態,板厚が大きく ε z = 0 と考えられる場合を平面ひずみ状態という.いま,2次元の 場合を取り扱うということの意味は,応力状態が平面応力,平面ひずみの状態を扱うとい うことである.また,板厚方向の形状は一定でなければならないから,解析対処の形状と しては2次元的な形状のみを考えればよいことになる(Fig.3.2).また,板厚方向に荷重が 加わる場合は,2次元応力状態とならないから,荷重も図に示す x ⋅ y 面内に働く場合を扱う わけである. Fig.3.2 2 次元連続体 Fig.3.3 2 次元トラス - 16 - これをトラスの場合と比較するとわかりやすい.トラスの場合は,実際には3次元的な部 材から構成されているが,断面積に比べ部材の長さが長いことから,トラス部材は1次元の 棒として扱った.したがって,応力,ひずみも1次元であった.しかし.これら部材の組み 合わせからなる構造は,2次元トラスの場合,2次元的に組み合わされ.それゆえ,荷重, 接点変位は2次元的である(Fig.3.3). トラスの場合を示すと, (1) 荷重は節点を介してのみ伝えられる (2) 応力,ひずみは部材内で一定である これらは物理的に当然のことであった.これにならって,連続体の場合にも同じ仮定を設 ける.すなわち,三角形要素の3頂点を節点(node)といい, (1) 荷重は節点を介してのみ伝えられる. (2) 応力,ひずみは要素内で一定である. という仮定をする.トラスの場合には,これが直観的に理解できることであったのに対し, 連続体の場合にはあくまでも仮定である. Fig.3.4 三角要素の接点力と接点変位 - 17 - まず(1)について考えてみる.トラスの場合と同様に三角形の節点の節点力,および節点 変位をFig.3.4のように定める.荷重は実際には要素の境界上のすべての表面力として伝わ る.トラスの場合,要素境界は節点に一致しているから表面力は節点力に一致するが,連 続体の場合は表面力すなわち節点力ということにはならない.そこで,(1)のような仮定を 設けるのである.節点力の大きさは節点力が要素になす仕事の表面力が要素になす仕事に 一致するように仮想仕事の原理を用いて決められる.この意味での節点力を等価節点力 (equivalent nodal force)という. 次に(2)を考えてみる.トラスの場合は,応力.ひずみが部材内で一定となるのは当然であ るが,連続体の場合は一般に一定とはならない.しかし,要素分割を細かくすれば要素内 でほぼ一定と考えてもよい.トラスの場合,なぜ応力,ひずみが一定になるかといえば, 変位が部材内で直線的に変化するからである. Fig.3.5 部材の変位,歪,応力 Fig.3.5(a)に示したように変位u は式(3.1)となる. u = α1 + α 2 x (3.1) - 18 - また, ui = u (0) = α1 u j = u (l ) = α1 + α 2l であるから, α1 = u1 , α2 = u j − ui l となり,したがってこれらを代入する事により,式(3.1)は式(3.2)となる. ⎛ u = ⎜1 − ⎝ x⎞ x ⎟ui + u j l⎠ l (3.2) これはトラス部材の変位.節点変位関係を示している. 連続体の場合も応力,ひずみが要素内で一定であると仮定することは要素内で変位が直 線的に変化すると仮定することに相当する.式(3.1)に対応して,三角形要素内の変位場を 次のように仮定する. u = α1 + α 2 x + α 3 y ⎫ ⎬ v = α 4 + α5 x + α6 y⎭ (3.3) ここに, u : x 方向の変位, v : y 方向の変位である.この式を変位関数(displacement function)という.定数 α1 ,α 2 ,L,α 6 を節点変位 ui , vi , u j , v j , uk , vk および節点座標 xi , yi , x j , y j , xk , y k で表す. - 19 - ui = u ( xi , yi ) = α1 + α 2 xi + α 3 yi vi = v( xi , yi ) = α 4 + α 5 xi + α 6 yi u j = u( x j , y j ) = α j + α 2 x j + α 3 y j v j = v( x j , y j ) = α 4 + α 5 x j + α 6 y j uk = u ( xk , yk ) = α1 + α 2 xk + α 3 yk vk = v( xk , yk ) = α 4 + α 5 xk + α 6 yk これを解くと α1 ,α 2 ,L,α 6 が得られる.これを式(3.3)に代入すると,式(3.2)に対応する三角 形要素の変位.節点変位関係が,次のように求められる. 1 {(ai + bi x + ci y)ui + (a j + b j x + c j y)u j + (ak + bk x + ck y)uk } 2∆ 1 {(ai + bi x + ci y)vi + (a j + b j x + c j y)v j + (ak + bk x + ck y)vk } v= 2∆ u= (3.4) ここで, ai = x j yk − xk y j , a j = xk yi − xi yk , ak = xi y j − x j yi , bi = y j − yk , b j = yk − yi , bk = yi − y j , ci = xk − x j , c j = xi − xk , ck = x j − xi , (4.5) ∆ は三角形要素の面積で,三角形要素の3 節点 i, j , k が反時計方向の順ならば(Fig.3.4) 行列式を用いて, ⎡1 xi 1⎢ ∆ = ⎢1 x j 2 ⎢⎣1 xk yi ⎤ y j ⎥⎥ yk ⎥⎦ と書ける.式(3.4)の変位.節点変位関係を形状関数(shape function)という. この様にして,変位.節点変位関係が得られれば歪.変位関係を用いて歪.節点変位関係が求 められる. トラスの場合(1次元)は, - 20 - ε= du dx (3.6) であるから式(3.2)より式(3.7) を得る. 1 l ε = (u j − ui ) = δ (3.7) l 三角形要素の場合(2次元)は, ∂u ∂v , εy = ∂x ∂y ∂v ∂u = + ∂x ∂y εx = γ xy (3.8) であるから,式(3.4)より次式を得る. 1 {biui + b ju j + bk uk } = 1 {( y j − yk )ui + ( yk − yi )u j + ( yi − y j )uk } 2∆ 2∆ 1 {civi + c j v j + ck vk } = 1 {( xk − x j )vi + ( xi − xk )v j + ( x j − xi )vk } εy = 2∆ 2∆ 1 {ciui + c ju j + ck uk + bivi + b j v j + bk vk } γ xy = 2∆ 1 {( xk − x j )ui + ( xi − xk )u j + ( x j − xi )uk = 2∆ εx = + ( y j − yk )vi + ( yk − yi )v j + ( yi − y j )vk } これをマトリックス表示すれば式(3.9)を得る. ⎧εx ⎫ ⎡ y j − yk ⎪ ⎪ 1 ⎢ ⎨ε y ⎬ = ⎢ 0 ∆ 2 ⎪γ ⎪ ⎢ xk − x j ⎩ xy ⎭ ⎣ yk − yi yi − y j 0 0 0 0 xk − x j xi − xk xi − xk x j − xi y j − yk yk − yi ⎧ ui ⎫ ⎪u ⎪ 0 ⎤⎪ j ⎪ ⎥ ⎪⎪u ⎪⎪ x j − xi ⎥ ⎨ k ⎬ v yi − y j ⎥⎦ ⎪ i ⎪ ⎪v j ⎪ ⎪ ⎪ ⎩⎪vk ⎭⎪ (3.9) - 21 - この歪-節点変位関係式の係数マトリックスを [B ] とおき,これを歪.変位マトリックス (strain-displacement-matrix)という.すなわち, ⎡ y j − yk 1 ⎢ [B] = ⎢ 0 2∆ ⎢ xk − x j ⎣ y k − yi 0 xi − xk yi − y j 0 x j − xi 0 xk − x j y j − yk 0 xi − xk yk − yi 0 ⎤ ⎥ x j − xi ⎥ yi − y j ⎥⎦ (3.10) いま,歪ベクトル {ε },節点変位ベクトル {ξ e } を ⎧ ⎫ ⎧ ε x ⎫ ⎪ ∂u ∂x ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ∂v ⎪ {ε } = ⎨ ε y ⎬ = ⎨ ⎬, ∂y ⎪γ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ xy ⎭ ⎪∂v + ∂u ⎪ ∂y ⎭ ⎩ ∂x ⎧ ui ⎫ ⎪u ⎪ ⎪ j⎪ ⎪u ⎪ {ξe } = ⎪⎨ k ⎪⎬ ⎪ vi ⎪ ⎪v j ⎪ ⎪ ⎪ ⎩⎪vk ⎭⎪ とすれば,歪.接点変位関係式(3.9)は, {ε } = [B]{ζ e } (3.11) と書くことが出来る. 歪と接点変位の関係がわかれば,応力.歪関係式を用いて応力と接点変位の関係がわかる. トラスの場合(1 次元)は, σ = Eε であるから,式(3.6)より, σ= E (u j − ui ) l となる.一方,三角形要素の場合(2次元)は応力.歪関係は応力.歪マトリックス [D ] によ って次のように表される. {σ } = [D]{ε } マトリックス [D ] は平面ひずみの場合は, (3.12) - 22 - ⎡ ⎢ 1 E (1 − v) ⎢ v ⎢ [ D] = (1 + v)(1 − 2v) ⎢1 − v ⎢ ⎢ 0 ⎣ v 1− v 1 0 ⎤ ⎥ ⎥ 0 ⎥ ⎥ 1 − 2v ⎥ 2(1 − v) ⎥⎦ 0 であり,平面応力の場合は, ⎡1 v 0 ⎤⎥ ⎢ [D] = E (1 − 2v) ⎢v 1 0 ⎥ 1− v ⎢ 1 − 2v ⎥ ⎢⎣0 0 2 ⎥⎦ である.式(3.11)により,三角形要素の応力は,接点変位ベクトルから次のように求めるこ とが出来る. {σ } = [D ]{ε } = [D][B]{ζ e } (3.13) 以上,三角形要素の節点変位から要素内ひずみ,応力を導く手順をトラス部材と比較し ながら示した.なお1次の変位関数の仮定,すなわち,要素内のひずみ,応力が一定である という仮定は要素が適当に小さければ近似的に容認しうる仮定である.したがって,形状 の変化,荷重の変化が大きい箇所,すなわち,応力変化の大きい箇所では要素分割を細か くしなければならないということがわかる. 3.2.2 三角形要素の剛性マトリックスと仮想仕事の原理 前項では要素の節点変位から応力,ひずみを導く手順を示したが,実際には荷重を受け ている物体(連続体)に生じる応力,ひずみを求めるためには節点荷重(あるいは節点力) と節点変位関係,すなわち剛性マトリックスを求めなければならない. トラスあるいはバネの場合は, f = kζ = k (u j − ui ) の関係から直ちに剛性マトリックスを導くことができた.しかし,2次元である三角形要素 の剛性マトリックスは常識のように簡単には求められない.前項で節点変位と応力,ひず - 23 - みの関係を導く際に用いた弾性体の支配方程式は,(1)歪.変位関係式,(2)応力.歪関係 式であった.弾性体における支配方程式はもう1 つあり,それはつり合い方程式あるいは これに等価な仮想仕事の原理から導かれるのである. 仮想仕事の原理は次のようである. ∫ {ζ } {P}dS + ∫ {ζ } {F }dV − ∫ {ε } {σ }dV = 0 * T * T * T (3.14) ここで, {ζ }:仮想変位ベクトル * {P}:単位面積当たりの表面力ベクトル {F }:単位面積当たりの体積力ベクトル {ε }:仮想ひずみベクトル * {σ }:応力ベクトル と定義する.いま,体積力を考えないとすると式(3.14)は次のようになる. ∫ {ζ } {P}dS = ∫ {ε } {σ }dV * T * T (3.15) 三角形要素に仮想仕事の原理を適用して三角形要素の剛性マトリックスを求める.要素 に作用する表面力 {P}は一般には三角形要素の各辺に作用するが,この表面力がなす仕事と 等価な仕事をする節点力を定義する.すなわち,三角形要素の節点ベクトル { f e } ,節点変 位ベクトル {ξ e } を ⎧ f xi ⎫ ⎪f ⎪ ⎪ xj ⎪ ⎪f ⎪ { f e } = ⎪⎨ xk ⎪⎬, ⎪ f yi ⎪ ⎪ f yj ⎪ ⎪ ⎪ ⎪⎩ f yk ⎪⎭ ⎧ ui ⎫ ⎪u ⎪ ⎪ j⎪ ⎪u ⎪ {ζ e } = ⎪⎨ k ⎪⎬ ⎪ vi ⎪ ⎪v j ⎪ ⎪ ⎪ ⎩⎪vk ⎭⎪ (3.16) とするとき,節点力のなす仕事 {ξe }T { f e }が,表面力 {P}のなす仕事に等しくなるように,節 点力を定義するのである.したがって,式(3.15)の左辺は, - 24 - ∫ {ζ } {P}dS = {ζ } { f } * T T e (3.17) e { } となる.ここに, ξ * は仮想節点ベクトルである. また,要素内で応力,ひずみが一定であるから式(3.15)の右辺は, ∫ {ε } {σ }dV = V {ε } {σ } * T * T (3.18) と書ける.ここには三角形要素の体積であり, V = t∆ (t :三角形要素の板厚, ∆ :三角形要素の面積) (3.19) である. 以上から,仮想仕事の原理は三角形要素に対して, {ζ } { f } = t∆{ε } {σ } * T e * T (3.20) e と書くことができる.これに, {ε } = [B]{ζ e } {σ } = [D ]{ε } = [D][B]{ζ e } ひずみ.節点変位関係 応力.歪み関係 { } を代入する.仮想節点変位ベクトル ξ e* に対応する仮想ひずみベクトル {ε } = [B]{ζ } * * e であることに注意して,式(3.20)を書き直すと次のようになる. {ζ } { f } = t∆{ε } {σ } = {ζ } (t∆[B ] [D ][B ]){ζ } * T e * T e * T e T e {ε }は * - 25 - は任意の仮想節点変位ベクトルであるから,上式が成立するためには, { f e } = (t∆[B]T [D][B]){ζ e } (3.21) が必要である.これは三角形要素の節点力ベクトル { f e } と節点変位ベクトル {ξ e } の関係を 表しており,三角形要素の剛性方程式である.要素の剛性マトリックスを [K e ] とすれば剛 性方程式は { f e } = (t∆[B]T [D][B]){ζ e } (3.22) となる. ここで [K e ] は, [Ke ] = t∆[B]T [D][B] (3.23) である. 以上のようにして,要素の剛性マトリックスは [B ] , [D] , t , ∆ から計算できることが示 された.以上示した三角形要素に関する諸関係を,弾性体の支配方程式から導出する手順 を整理して,Fig.3.6に示す. - 26 - Fig.3.6 弾性論より有限要素法へ 3.2.3 有限要素法による固有モード解析 固有モード解析は構造物の動特性を評価するために一般によく行われる.例えば回転機 械が基板上に据え付けられる場合,過度な振動を防止しなければならない.この機械は回 転数が基盤の固有振動数に近接しているかどうか調べるために解析される.さらに進んだ 解析においては,固有モード解析は動解析と応答解析のために構造物の固有振動数および モード形状を提供する.Fig.3.6に有限要素法による理論モード解析の流れを示す. 有限要素解析の基本目標は次の単純振動方程式に対する解を得ることである. [M ]{u&&}+ [K ]{u} = 0 (3.24) 式(3.24)の解は次の調和形式になる. {u} = {φ }e jωt (3.25) ここで, {φ }はモード形状, ω は振動数である.式(3.25)を式(3.24)に代入すると,次の固 有値方程式を得る. ([K ] − ω [M ]){φ} = 0 2 (3.26) 自明でない解は係数マトリックスの行列式が次式で示すようにゼロになる場合のみ存在 する. - 27 - det ([K ] − ω 2 [M ]) = 0 (3.27) また, ω 2 を λ と置いて det([K ] − λ [M ]) = 0 (3.28) 固有値 λ は複数個の解を持つ.解の数は剛性マトリックス [K ] の次元数に等しい. 式(4.25)は次式のように書き直せる. ([K ] − λi [M ]){φi } = 0 (3.29) 下添字 i は1からNまでの値をとり,Nは剛性マトリックス [K ] の次元数である. λi は i 番目 の固有値, {φi } は λi に対する i 番目のモードベクトルである. - 28 - 第4章 実験モード解析 4.1 実験モード解析の概要 実験モード解析とは,振動試験で測定した加振力と応答の実験デ.タを分析することによ って,その中に隠れた形で混ざり合っている動特性すなわち固有振動数,固有モードおよ び減衰の大きさを明らかにすることである.流れとしては振動試験で得た加振力と応答の 測定結果から,信号処理によって周波数応答関数を求め,さらにモード解析の理論を用い てモード特性を同定する. 振動試験,及び打撃試験は前章の2.3,2.4においても示したが,ここではもう少し詳しく 説明する.振動試験では,一連の装置を組み合わせて振動試験システムを構成する.シス テムの構成内容は振動試験の方法によって様々に異なるが,本研究で使用したシステム構 成をFig.4.1に示す. Fig.4.1 振動試験のシステム構成 この図のように,標準的な振動試験システムは加振部,信号検出部および信号処理部の3 - 29 - つの部分によって構成される. まず加振部は,加振方法によって,加振器を用いる場合,打撃ハンマ.(Impulse hammer) を用いる場合,および非接触で加振するなどの場合に分かれる.本研究では打撃ハンマ.を 用いた(Fig.4.2). Fig.4.2 打撃ハンマ. 信号検出部は,力や応力,変位を電気信号に変換することによって検出する部分であり, 力変換器,応答変換器,電気信号を後続の信号処理が可能になるまで増幅し調整する増幅 器からなる.力変換器としては,ピエゾ素子を用いることが多いが,ときにはひずみゲー ジを用いることもある.応答変換器としては,ピエゾ素子を内蔵する加速度計を用いて加 速度を検出することが多いが,渦電流やレ.ザ光線を利用した非接触変位計,レ.ザドップラ. 速度計,ひずみゲージを使用することもある.また本研究では加速度計(Acceleration Pick-up),及び半導体歪ゲージ(Semiconductor Strain Gage)を使用した. 信号処理部は高速フ−リエ変換(FFT)を主体とした種々の信号処理を行って周波数応 答関数あるいは単位衝撃応答を出力する.その道具としては,専用のFFT装置を用いる場 合と汎用コンピュ.タの信号処理ソフトを内蔵させる場合がある振動試験システム全体はコ ンピュ.タによって制御すると共に監視器によって随時観察する監視器とは,専用のオシロ スコ.プを用いることもあるが,大抵はFFT装置やコンピュ.タの出力を利用する.また本研 究で使用したFFT装置とモード解析用シ−ムレスソフトをFig.4.3,Fig.4.4に示す. - 30 - Fig.4.3 Fig.4.4 FFT装置 モード解析用シ.ムレスソフト 振動試験によって良い周波数応答関数を得ようとすれば,対象物の支持方法,加振器の 種類と取り付け,加振波形の種類と大きさ,加振力と応答の両方を検出する変換器の精度 と信頼性,窓関数の種類,信号処理方法,結果の良否の見分け方,など様々な事柄に留意 しなければならない. - 31 - 4.2 実験方法 実験モード解析の流れをFig.4.5に示す. Fig.4.5 実験モード解析の流れ 実験は加振点移動法を用いた.まず,応答点の場所を決め,応答位置に加速度ピックア ップを設置する.次に対象物の形状が大まかに分かるよう加振点を設定し,一点ずつ加振 を繰り返し,それぞれ加振点と応答点の間の周波数応答関数をとっていく.信号処理は MATRAB言語で組まれたプログラムで実験デ−タをマトリクス形式にまとめ,FORTRAN 言語で組まれたモード特性を同定するプログラムを利用する.その同定計算の結果は MATRAB言語を用い,アニメ−ションとして表す.加振点と応答点の配置例をFig.4.6に示 す. - 32 - Model Shape 100 50 0 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 12 14 16 18 20 22 y 23 2 -50 4 6 8 10 -100 0 100 200 300 400 500 x Fig.4.6 加振点と応答点の配置例 4.2.1 加速度応答を利用したモード解析 多自由度系において周波数応答関数を定式化する.単一の角振動数 ω で振幅 Fi の調和加 振力が点 i に作用し,他の点には外力が作用しない場合には,外力ベクトル { f } は, i 行目 が Fi e jωt で他の前項が零になる.これを代入すれば式(4.1)になる. mrζ&&r + crζ&r + k rζ r = {φr }T f = φri Fi e jωt ( r = 1∼N ) (4.1) ここで, φri は r 次の固有モード {φr } の i 行目の項である.式(4.1)は1自由度系の式と同一で ある.ここで,調和加振力が作用する場合の応答が1自由度のときの式の様に調和波形で表 現できるとすれば, ξ&r = jωξ r , ξ&&r = −ω ξ r となり,これらを式(4.1)に代入して変形すれば 2 式(3.2)になる. ζr = φri Fi − mrω + jcrω + k r 2 e jωt ( r = 1∼N ) (4.2) 式(3.2)により,角振動数 ω の調和加振力に対する応答がモード解析座標上で求められた. - 33 - 次に空間座標上での応答を求める. { x} = [φ ]{ξ } に式(4.2)を代入すれば式(4.3)になる. φri Fi N {x} = ∑ r =1 − mrω + jcrω + kr 2 {φr }e jωt (4.3) 式(4.3)は点 i に調和加振力が作用するときの全点(自由度)の応答を示す.このうち点 j の 応答だけを取り出して x j = X j e jωt とおけば式(4.4)になる. φriφrj ⎛ N ⎞ ⎟⎟ Fi X j (ω ) = ⎜⎜ ∑ 2 ⎝ r =1 − mrω + jcrω + kr ⎠ (4.4) 多自由度系における点 i と点 j 間の周波数応答関数(コンプライアンス)は式(4.5)となる. Gij (ω ) = X j (ω ) Fi N φriφrj kr = yrφriφrj ∑ 2 r =1 − ( mr k r ) ω + j (cr k r ) ω + 1 r =1 N =∑ (4.5) ここで, yr は式(4.6)とする. yr = 1 kr − ( mr k r ) ω + j (cr k r ) ω + 1 (4.6) 2 したがって,式(4.5)を行列にまとめると式(4.7)となる. ⎡ G11 ⎢ ⎢ G 21 ⎢ M ⎢ ⎣⎢G m1 G12 G 22 M Gm 2 L G1n ⎤ ⎡φr1φr1 φr1φr 2 ⎥ ⎢φ φ N L G2 n ⎥ φr 2φr 2 = ∑ yr ⎢ r 2 r1 ⎢ M O M ⎥ M r =1 ⎥ ⎢ L G mn ⎦⎥ ⎣φrmφr1 φrmφr 2 m×n L φr1φrn ⎤ L φr 2φrn ⎥⎥ O M ⎥ ⎥ L φrmφrn ⎦ m×n (4.7) m : 応答点数(出力) n : 加振点数(入力) ここで,m = n の場合,式(4.7)の右辺を見ると対称行列であることが分かる.このことから, 入力点と出力点を入れ換えても伝達特性は等しいということが分かる.この性質のことを - 34 - マクスウェルの相反定理(Maxwell’s reciprocity)と呼ぶ. - 35 - 第5章基礎的事項の検討 5.1検討に用いた対象物 基礎的事項の検討として FRP パイプを実験に用いた.実験の対象物として FRP パイプと同 様な形状のアルミパイプを用いた.アルミパイプについては異方性材料である FRP パイプと 同様な形状を持つ等方性材料の比較として用いた. 計算モデルとして,アルミパイプは均質な等方性材料なので立体要素の2次元要素で 作成し,FRP パイプについては異方性材料であることを考慮し,立体要素の3次元要素とし てモデルを作成した.アルミパイプ,FRP パイプの計算モデルについてそれぞれ Fig.5.1, 5.2 として示す.節点数・要素数については Table.5.1 に示す.材料定数を Table.5.2,5. 3 として示す.なお,FRP パイプは繊維方向が違う 15 層構造の積層になっているが実際の再 現は難しいと判断し,材料定数は平均ヤング率という考えを基として等方性材料として見 なした場合と,異方性材料ということを考慮し以下の式の行列部の入力値を変更した場合 を示している. ⎡ ⎢ 1 ⎢ υ ⎧σ x ⎫ ⎢ ⎪σ ⎪ ⎢1 − υ ⎪ y⎪ ⎢ υ ⎪⎪σ z ⎪⎪ E (1 − υ ) ⎢1 − υ ⎢ ⎨ ⎬= ⎪τ xy ⎪ (1 + υ )(1 − 2υ ) ⎢ 0 ⎢ ⎪τ ⎪ ⎢ 0 ⎪ yz ⎪ ⎢ ⎪⎩τ zx ⎪⎭ ⎢ ⎢ 0 ⎣⎢ E:縦弾性係数 ν:ポアソン比 ベクトル式を以下のように表す. υ υ 1 −υ 1 1−υ 0 0 1−υ 0 0 1 −υ 1 0 0 0 0 1 − 2υ 2(1 − υ ) 0 0 0 0 1 − 2υ 2(1 − υ ) 0 0 0 0 υ υ ⎤ ⎥ ⎥ 0 ⎥ ⎧ε x ⎫ ⎥ ⎪ε ⎪ ⎪ y⎪ 0 ⎥⎪ ⎪ ⎥ ⎪ε z ⎪ ⎥⎨ ⎬ 0 ⎥ ⎪γ xy ⎪ ⎥ ⎪γ ⎪ yz 0 ⎥⎥ ⎪ ⎪ ⎪⎩γ zx ⎪⎭ ⎥ 1 − 2υ ⎥ 2(1 − υ ) ⎦⎥ 0 - 36 - ⎡G11 ⎢G ⎢ 21 ⎢G31 ⎢ ⎢G41 ⎢G51 ⎢ ⎢⎣G61 G12 G13 G14 G15 G22 G23 G24 G25 G32 G33 G34 G35 G42 G52 G43 G44 G53 G54 G45 G55 G62 G63 G64 G65 G16 ⎤ G26 ⎥⎥ G36 ⎥ ⎥ G46 ⎥ GG56 ⎥ ⎥ G66 ⎥⎦ Table.5.1計算モデルの節点数・要素数 モデル 節点数 要素数 アルミパイプ 923 840 FRPパイプ(サンプルA) 3481 3976 FRPパイプ(サンプルB) 3981 3976 Table.5.2アルミパイプ材料定数 縦弾性係数(kpa) 3 ポアソン比 比重 (kg / m ) 25000 0.34 2700 Table.5.3FRP パイプ材料定数 G11 G12 G13 G14 170000 40000 40000 G22 G23 G24 94000 40000 G33 G34 94000 G44 G15 0 G16 0 G25 0 0 G26 0 G35 0 0 G36 0 G45 26000 0 G46 0 G55 0 G56 21000 0 G66 10000 - 37 - Fig.5.1 アルミパイプの有限要素モデル - 38 - Fig.5.2FRP パイプの有限要素モデル 5.2基礎的事項の検討結果 実験モード解析と理論モード解析によって得られた周波数応答関数をアルミパイプ,FRP パイプそれぞれ Fig.5.3,5.4 として示す.アルミパイプは実験モード解析と理論モード 解析の単純な比較である.FRP パイプについては理論モード解析において等方性材料と見な した場合と異方性材料と見なした場合をそれぞれ等方性材料・異方性材料とし,実験モー ド解析と比較している. - 39 - Fig.5.3 アルミパイプの周波数応答関数比較 Fig.5.4 FRP パイプの周波数応答関数比較 アルミパイプにおいては実際の材料と用いられているとされるアルミニウムの材料定数 に多少の差があったと考えられる.また,FRP パイプに関しては実際材料定数ではないが等 方性材料・異方性材料と見なしたときの両方で3次固有モード以降が実験のグラフと大き くかけ離れてしまう. Fig5.5∼19 にアルミパイプと FRP パイプの1次から3次の実験と計算から得られた固有 モード形状を示す. - 40 - Fig5.5 実験モード解析によるアルミパイプの固有1次モード形状 Fig5.6 理論モード解析によるアルミパイプの固有1次モード形状 - 41 - Fig5.7 実験モード解析によるアルミパイプの固有2次モード形状 Fig5.8 理論モード解析によるアルミパイプの固有 2 次モード形状 - 42 - Fig5.9 実験モード解析によるアルミパイプの固有 3 次モード形状 Fig5.10 理論モード解析によるアルミパイプの固有 3 次モード形状 - 43 - Fig5.11 実験モード解析による FRP パイプの固有 1 次モード形状 Fig5.12 理論モード解析による FRP パイプを等方性材料と見なしたときの 1次固有モード形状 - 44 - Fig5.13 理論モード解析による FRP パイプを異方性材料と見なしたときの 1次固有モード形状 Fig5.14 実験モード解析による FRP パイプの固有 2 次モード形状 - 45 - Fig5.15 理論モード解析による FRP パイプを 等方性材料と見なしたときの 2 次固有モード形状 Fig5.16 理論モード解析による FRP パイプを異方性材料と見なしたときの 2 次固有モード形状 - 46 - Fig5.17 実験モード解析による FRP パイプの 固有 3 次モード形状 Fig5.18 理論モード解析による FRP パイプを等方性材料と見なしたときの 3 次固有モード形状 - 47 - Fig5.19 理論モード解析による FRP パイプを異方性材料と見なしたときの 3 次固有モード形状 固有モード形状ではアルミパイプは類似した形状が再現でき,FRP パイプにおいては等 方性材料とみなしたとき,異方性材料とみなしたとき両方では実験で得られる固有モード 形状と類似する形状が得られた. - 48 - 第6章実験 6.1実験対象 本研究で研究対象とした2本のミズノ社製バドミントンラケット TETRACROSS500(以下 TC500)と TETRACROSS700(以下 TC700)を Fig.7.1,2 に示す.本研究では実験対象として バドミントンラケットを用いた.バドミントンラケットの特徴を以下に示す. 1. 全長で 680mm 以内,幅は 230mm 以内と規定されている 2. 材質は主にカーボン製で軽量,高反発 3. 近年ではナノテクノロジーやゴムメタルを採用したものが存在する. 本研究で用いたラケットの詳細を Table.6.1 に示す.落下実験ではガットのテンションを 20ポンドに設定し,ハンマリング実験では手張りと20ポンド,25ポンドに設定した. 手張りではテンションの測定のしようがないがたるまない程度に張った.ガットはすべて YONEX 製 BG65TI を使用している.両ラケットのテンション使用領域は20∼25ポンドに 設定されている.本研究で用いたラケットは製品の仕様上以下のような特徴を持つ. 1. TC500 はコントロールを重視しつつ,しなりを使ったショットを打つのに適す.後衛向 き. 2. TC700 はドライブ,プッシュなどしなりを使わないショットを打つのに適す.前衛向き. - 49 - Fig6.1 TETRACROSS500 Fig6.2 TETRACROSS700 - 50 - Table6.1 バドミントンラケット諸元 name TC500 TC700 weight(g) weight(g) weight(g) length(m weight(g) tension 20 tension 25 by hands m) 675 78.2 81.3 81.3 81.8 675 79.9 83 83 83.5 6.2実験方法 本研究における注目点の一つはシャトルである.シャトルは YONEX 社製 F-50HIGH-CLEAR を用いた.用いたシャトルを Fig6.3 に示す.シャトルの影響を調べるために本研究では2 つの研究法を用いた.実際にシャトルをガット面に落とし,そのときのフレームの振動を 測定するシャトル落下実験(以後落下実験と呼ぶ)と,フレームにインパルスハンマによ る打撃加振を行い,そのときのフレームの振動を測定するハンマリング実験を行った.落 下実験とハンマリング実験に用いた実験装置の概要を Table6.2 に示す. Fig.6.3 使用したバドミントンラケット - 51 - Table.6.2 実験装置 インパルスハンマ:PCB PIEZOTRONICS 086D80 感度(±15%):22.5mV/N 測定範囲:±220N 周波数範囲(−10dB)(Hard Tip):20kHz ハンマの質量:2.9g 共振周波数:≥100kHz ヘッドの直径:6.3mm チップの直径:2.5mm ハンマの長さ:101.6mm FFT アナライザ:RION SA-01(4 16ch タイプ) レベルレンジ:−40dB∼+30dB 10dB ステップ ダイナミックレンジ:90dB 周波数レンジ:1Hz∼20Hz および 40kHz の 15 レンジ ポイント数:256∼32768 ポイント(2 のべき乗) 6.2.1落下実験 落下実験はシャトルを用い,高さ15cm からガット面のスイートスポット部にシャトル を落下させた.落下実験は5回行い,振動データを得た.シャトルは温度・湿度で飛距離 が変わってくるが本研究では実際打撃しているわけではないので不問とした.支持方法は ゴムによる宙づり状態の3点自由支持とした.自由支持とは対象物の動きを拘束したり妨 げたりしない支持をいう.Fig6.4 に実験風景を示す. - 52 - Fig6.4 落下実験風景 6.2.2ハンマリング実験 ハンマリング実験はインパルスハンマを用いフレームを TC500 は56点,TC700 は57点 を5回ずつ計測した.支持方法はゴムによる2点自由支持とした.以下に実験風景を Fig6.5 に,加振点を Fig.6.6,7 に示す. - 53 - Fig6.5 ハンマリング実験風景 - 54 - Model Shape 300 200 100 7 8 9 10 11 12 13 5 6 14 15 16 2 17 1 18 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 35 19 34 20 33 21 32 22 31 30 29 28 27 26 25 24 23 3 y 0 -100 4 -200 -300 0 100 200 300 400 500 600 700 x Fig6.6 TC500 加振点位置 Model Shape 400 300 200 100 7 8 9 10 11 12 13 5 6 14 15 16 2 17 1 18 36 37 38 39 40 41 42 4344454647 48 49 50 51 52 5354 55 5657 35 19 34 20 33 21 32 22 31 30 2928 27 26 25 24 23 y 3 0 -100 4 -200 -300 -400 0 100 200 300 400 500 600 700 x Fig6.7 TC700 加振点位置 6.3実験結果 6.3.1落下実験の結果 以下に落下実験の結果を Fig6.8 に示す.シャトルは落下の仕方がその時々で変化してし まうので加速度は5回の中の中間値を選択し図に示している. - 55 - Fig6.8 TC500 と TC700 の落下実験結果 TC500 と TC700 では1次と2次の固有振動数に大きな違いが見られないが3次固有振動数 に多少の違いが現れた.Table.6.3 に実験で得られた固有振動数を示す. (Hz) TC500 TC700 gap(%) 1 55 55 0 2 3 175 415 175 425 0 2.352941 6.3.2ハンマリング実験の結果 以下にハンマリング実験の結果を Fig6.9 に示す.結果については周波数応答関数を示し ている.比較に用いたのは両ラケットともにテンションを20ポンドで張ったときのもの である. - 56 - Fig6.9 TC500 と TC700 のハンマリング実験結果 落下実験と同様に1次と2次の固有振動数に大きな違いが見られない.また,落下実 験で3次固有振動数だと考えられた振動数の上下 100Hz 以内に違う固有モードが見られた. また落下と同様に2本のラケットについて1次2次以降の固有振動数の違いが見られた. Table.6.4 に実験で得られた固有振動数を示す. Table.6.4 ハンマリング実験で得られた固有振動数 (Hz) TC500 TC700 gap(%) 1 57 57 0.00 2 180 181 0.55 3 360 373 3.49 4 423 430 1.63 5 485 483 -0.41 6.4実験の考察 落下実験で得られた固有振動数とハンマリング実験における固有振動数では3次固有振 動数に違いが見られた.特にハンマリング実験で得られた4次固有振動数については落下 実験で得られた3次固有振動数と一致し,またハンマリング実験で得られた3次,5次固 有振動数は4次を対称中心として上下 15%ほどの差のうちに存在している.そのためハン マリング実験の4次固有振動数に影響を及ぼしていると考えられる. - 57 - 第7章実験比較 7.1落下実験とハンマリング実験比較 Fig7.1 に落下実験とハンマリング実験で得られた加速度の比較を示す.実験に用いたガ ットのテンションは20ポンドである. Fig.7.1 落下実験とハンマリング実験加速度比較 落下実験とハンマリング実験は先の章で示したとおり,ハンマリング実験の3次固有振 動数以降に違いが出た.また,ハンマリング実験によって得られる加速度は落下実験にお ける加速度より非常に小さい.落下実験はシャトルの影響によりピーク値における減衰が 大きい.落下実験で得られた固有振動数よりハンマリング実験で得られた固有振動数の方 がシャトルによる減衰が含まれていないので,より正確な計測ができる. 7.2ガットテンションによる比較 ガットの張り方による違いを比較していく.Fig7.2 に TC500 における周波数応答関数の - 58 - 比較を示す. Fig7.2 TC500 周波数応答関数 手張りはばらつきが大きく周波数応答関数も2次固有振動数が2つに分離してしまって いるなど実用に際しストリングマシン使用しガットを張らなければならないことがわかる. 次に Table7.1 に20ポンドと25ポンドの固有振動数の比較を示す. Table7.1 テンション差による固有振動数(TC500) 20pond(Hz) 25pond(Hz) gap(%) 1 57 56 2.15 2 181 180 0.77 3 344 4 423 412 2.62 5 485 487 -0.45 20ポンドでは減衰が大きく3次固有振動数が計測できなかった.しかし,概ねテンシ ョン差による固有振動数の差が3%以内に収まっており,ガットによる質量の差もないこ とからガットのテンションを上げても大きく剛性が変わらない. 次に TC500 のガットのテンションが20ポンドと25ポンドの時の1次∼5次固有モー ド形状を Fig7.3∼7 に示す. - 59 - Mode Shape : Order = 2, f = 57.17 (Hz), ζ =0.592 (%) Mode Shape : Order = 2, f = 55.95 (Hz), ζ =1.33 (%) Fig7.3 TC500 の1次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 3, f = 181.2 (Hz), ζ =0.512 (%) Mode Shape : Order = 3, f = 179.2 (Hz), ζ =2 (%) Fig7.4 TC500 の2次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 4, f = 344.3 (Hz), ζ =0.498 (%) Fig7.5 TC500 の3次固有モード形状 - 60 - Mode Shape : Order = 4, f = 421.8 (Hz), ζ =0.794 (%) Mode Shape : Order = 5, f = 411.9 (Hz), ζ =0.414 (%) Fig7.6 TC500 の4次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 5, f = 489.3 (Hz), ζ =0.303 (%) Mode Shape : Order = 6, f = 487.2 (Hz), ζ =0.27 (%) Fig7.6 TC500 の5次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) 得られた固有モード形状を Table.7.2 にまとめる.得られた固有モード形状はそれぞれ単 純梁の固有モード形状と一致する. Table.7.2 TC500 固有モード形状 1 2 3 4 20ポンド 1次曲げ 2次曲げ 3次曲げ 25ポンド 1次曲げ 2次曲げ 1次ねじり 3次曲げ 5 1次ねじり 1次ねじり (逆位相) 20ポンドで張ったときに3次固有モード形状が得られなかったが4次固有モードを挟み 1次ねじり形状が現れている. Fig7.7 に TC700 における周波数応答関数の比較を示す. - 61 - Fig7.7 TC700 周波数応答関数 こちらでも TC500 と同じく手張りはばらつきが大きく周波数応答関数も2次固有振動数 が2つに分離してしまっているなど実用に際しストリングマシン使用しガットを張らなけ ればならないことがわかる. 次に Table7.3 に20ポンドと25ポンドの固有振動数の比較を示す. Table7.3 テンション差による固有振動数(TC700) 20pond(Hz) 25pond(Hz) gap(%) 1 58 57 0.80 2 185 182 1.57 3 372 353 5.00 4 433 427 1.52 5 486 483 0.54 概ねテンション差による固有振動数の差が5%以内に収まっており,ガットによる質量 の差もないことからガットのテンションを上げても大きく剛性が変わらない. 次に TC700 のガットのテンションが20ポンドと25ポンドの時の1次∼5次固有モー ド形状を Fig7.8∼12 に示す. - 62 - Mode Shape : Order = 2, f = 58.15 (Hz), ζ =0.818 (%) Mode Shape : Order = 2, f = 57.04 (Hz), ζ =0.546 (%) Fig7.8 TC700 の1次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 3, f = 185.1 (Hz), ζ =0.9 (%) Mode Shape : Order = 3, f = 182.2 (Hz), ζ =1.03 (%) Fig7.9 TC700 の2次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 4, f = 371.7 (Hz), ζ =0.473 (%) Mode Shape : Order = 4, f = 353.1 (Hz), ζ =0.464 (%) Fig7.10 TC700 の3次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) - 63 - Mode Shape : Order = 5, f = 433.4 (Hz), ζ =0.908 (%) Mode Shape : Order = 5, f = 426.8 (Hz), ζ =0.582 (%) Fig7.11 TC700 の4次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) Mode Shape : Order = 6, f = 487.2 (Hz), ζ =0.27 (%) Mode Shape : Order = 6, f = 483 (Hz), ζ =0.246 (%) Fig7.12 TC700 の5次固有モード形状(左20ポンド,右25ポンド) 得られた固有モード形状を Table.7.4 にまとめる.得られた固有モード形状はそれぞれ単 純梁の固有モード形状と一致する. Table.7.4 TC700 固有モード形状 1 2 3 20ポンド 1次曲げ 2次曲げ 1次ねじり 3次曲げ 25ポンド 1次曲げ 2次曲げ 1次ねじり 3次曲げ 4 5 1次ねじり (逆位相) 1次ねじり (逆位相) 4次固有モードを挟み1次ねじり形状が現れている. 7.3ラケットの違いによる比較 Fig7.13 に TC500 と TC700 による周波数応答関数の比較を示す.Table7.5 に TC500 と TC700 - 64 - による固有振動数の比較を示す.比較に用いたガットのテンションは20ポンドである. Fig7.13 ラケットの違いによる周波数応答関数比較 Table7.5 ラケットの違いによる固有振動数比較 TC500(Hz) TC700(Hz) gap(%) 1 57 57 0.00 2 180 181 0.55 3 360 373 3.49 4 423 430 1.63 5 485 483 -0.41 ラケットの違いにより固有振動数の差が4%以内程度に収まっており大きな差がみられな い.特徴として上げられる点とすれば3次固有振動数と4次固有振動数,5次固有振動数 の周辺である.7.2にて示した固有モード形状からすると TC500 は曲げモード形状にお いてアクセレランスが大きいことが上げられる.また,TC700 は1次ねじり形状におけるア クセレランスが大きい.さらに,TC700 の3次,4次固有振動数では他所に比べて TC500 よ り振動数が大きい. - 65 - 第8章多方向からの解析 8.1理論モード解析 ラケットを設計する中で現在は3次元CADを用いて設計図を作成する.今後,実際に 製品を作成する前にCADデータより製品の性能を予測する目的で有限要素モデルを作成 した.ラケットの有限要素モデル作成において一番の問題点はラケットを構成する素材が FRPである点があげられる先の章でFRPパイプを用いて基礎的実験を行い,材料定数 は平均ヤング率という考えを基として等方性材料と見なす場合などを考えてきた.しかし, この方法では実験を行い平均ヤング率や異方性材料の行列部などのデータを経験的に蓄積 することが必要である.また,バドミントンラケットはフレーム部とグリップ部のアセン ブリでできている.特にグリップ部は木製でCADデータは存在しない.Fig8.1 に等方製 材料と見なした上でグリップ部がない有限要素モデルの1次固有モードを示す. Fig8.1 グリップなしのラケット有限要素モデル 有限要素モデルの形状はCADデータより作成をすることができた.しかし,上記の通 り経験的なデータが不足していることやグリップ部の作成ができていないことから有用な 有限要素モデル作成ができなかった.今後に向けて経験的なデータを収集していくことや 実際のグリップ部と同様なグリップのCADデータを作成し実際のラケットと同様な有限 要素モデルを構築していくこと必要がある. - 66 - 8.2高速度ビデオカメラ解析 ハンマリング実験に測定される振動を測定するだけでなく実際にシャトルを打ったとき に測定できる振動を把握することは非常に重要である.しかし,実際の振動は非常に高速 で起きているため加速度などの値は工夫によって測定することはできるが,形状に関して は測定することが難しい.本研究では高速度ビデオカメラを用いることにより実際の振動 の形状を把握した.Fig8.2 に高速度ビデオカメラによる実際の振動の形状を示す. - 67 - Fig8.2 実際のフレームの振動形状 Fig8.2 では1次固有モード形状が観測できたが,高速度ビデオカメラでは画角や解像度, 感度や明るさなどにより大きくとれる画像が変わってくる.今後はその点に注意し,動作 解析などにより,より正確なたわみ量などの形状変化の値を得る. - 68 - 第9章結論 1. 落下実験とハンマリング実験の比較の結果,シャトルの落下が固有振動数の大きさに 関わるような影響は及ぼさないが,衝突面が大きいことによる影響で減衰が大きくな ってしまっていると考えられ,ハンマリング実験の方がより詳細な振動特性が得られ た. 2. ガットのテンションによる比較の結果,今回用いたラケットではテンションを張り替 えることによりラケット自体の剛性を上げることは難しい. 3. ラケットの違いによる比較の結果,両ラケットで違いが出るのは3次固有モード以降 であった.特に3次固有モード,5次固有モードは形状が逆位相の同様な形状となっ ていた.また,製品の仕様よりコントロールが利きやすい TC500 としならない TC700 の特徴があるが,ねじり形状が出にくい TC500 と曲げ形状で振動しにくい TC700 とし て製品の仕様の特徴が確認できた. 4. 今後の解析については,理論モード解析では経験的なデータを収集していくことや実 際のグリップ部と同様なグリップのCADデータを作成し実際のラケットと同様な有 限要素モデルを構築していくこと必要がある.高速度ビデオカメラによる解析では実 際の変形量などの実際の値を得ることが必要である. - 69 - 参考文献 1. 長松昭男,モード解析入門,コロナ社,1998 2. 三好俊郎,有限要素法入門,1994,培風館 3. 鈴木・大館他,テニスラケットの実験モード解析と最適構造化,2005, 法政大学計算 科学研究センター研究報告第 18 号 4. 大館・岩原他,モード解析によるテニスラケットの振動特性と構造最適化の研究,2005, 法政大学計算科学研究センター研究報告第 18 号 5. 山口・後藤他,モード解析によるソフトテニスラケットの振動特性,2007, 法政大学 計算科学研究センター研究報告第 20 号 - 70 - 謝辞 本研究の進行にあたり、終始適切なご指導と御助言をしていただいた法政大学工学部機 械工学科、長松昭男教授、岩原光男先生に深く感謝いたします。特に岩原先生にはお忙し い中、相談にのって頂きたくさんのご指導を頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上 げます。また本研究に際してご協力いただいた法政大学工学部機械工学科長松研究室の皆 様に厚く御礼申し上げます。