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pdf 強きものと弱きもの

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pdf 強きものと弱きもの
第十三話 強 きも のと蒻きも の
.
ろ ん良 家 の子女 で はな いでし ょうが 、
﹁お嬢 さ ん の理想 の結 婚相 手 は?﹂
と尋 ね ます と、婦 人 は、
﹁い いえ、 と んでも な い。 それ な らな にも 文 句 はな いのです が 、実 は、主 人 は六十 五
才 だ った の
です。 七十 五才 と いう から結 婚 し た のです が 、 六十 五才 なら結 婚す る ん で
。﹂
は
あ
り
し
ま
で
せ
ん
た
と答 え た と いう お話 です 。 この小話 の意味 はおわ かり にな る でし ょうЭ 日本 にも 戦後 、 チ ョ
ク
チ ョクと、 この種 の勇 敢 な お嬢 さ んが あ った よう です o若 いお嬢 さ んた ち︱︱ と言 っても 、
もち
?L
﹁それ で は、
ご主 人 は七十 五才 だ と き[って いた のに、
ほ ん とう はも っと 年 寄 り だ った のです か
的 にはさ っば り と割 り切 れ な い生 き方 を指 す こと にな った よう です 。
ア メリ カに こんな笑 い話が あ り まし た。 あ る若 い婦 人が 、 自分 の夫 にだまされ た と言 って法
廷
に訴え出 まし た。 原 告側 の婦 人 は言 う のです c
﹁自分 は主 人 と結 婚 したば かり です が 、結 婚す るま で、主 人 は自 分 の年齢 を 七十
五才 だ と言 って
いて、 私も そう とば かり信 じ て結 好 し た のに、実 は、主 人 は私 を偽 って いた のです 。﹂
そ こで判事 が、
、
ら数年間、巷 に流行 した いわゅる流 行 語 の 中
皆様、今 は少し古くなりましたが 戦争直後 か
。ド ライな考 え方 とか、ド ライ娘 などという言葉
に、ド ライとゥ ェットという言葉がありました
ン
、
。
う と、ド ライと反対なウ エ トと いぅ言葉
が盛 んに使われたも のでした そして どちらかとい
った意味 で用 いられ、それ に対 してド ライと
、
が古 い思想を代弁するも のとして 一種 の侮りをも
。
も ののよう に考 えられたも のでした
いう言葉がな にか新鮮な新 し い生き方を代弁す る
で ︶
ェ 卜 ﹁
増
ざ 勁″¨だ燿
ぃ
っ
一 梼罐 ”蟻麒 熱﹂鄭静﹄﹄ 補 だ[﹂︺鰤酔
”
は
い
つ
︼
置
]
ぃ
﹂
き つ
語の
、
、
、
え方や生活態度 に応用されて ドライと
したと いう意味 の言葉 であ りまして それが 物事 の考
、
の概念 で、数学的 に割 り切 った き ゎめに唯物
は、す べて物事 を金銭的 なあ る いは現世的 な損得
、
、
ットとは、なんのもうけ にもならな い 一文 の得 にも
論的 な考 え方や生活 を意味 し 反対 にウ エ
、
、
、
もしな い理想論な どに引 かれて生き る 数学
ならな いとわか って いながら 義理や人情 や 実在
生 きるに値す るいのち
強 きもの と弱 き もの
第十三 話
と尋 ねられ、平然 として
﹁お金持 ち のおじ いち ゃん!﹂
ょ 。
と答えたお嬢 さ んたちがあ ったよう です。 おじ いち ゃんだから間も なく死ぬでし う 死ねば遺
、
っ
産が ころげ込む。さて、それ から、 おも しろおかしく人生を楽 しむ のだという 真 に割 り切 た
け¨ 篠 日
運拙く と言 いまし ょう か、 十 数名 のグ リ ラ部 隊 が ついに
敵 の手 に捕 え られ ま したc 費 虐 な ナチ の
部 隊 長 は、 な ん の詮議 も な く、 直 ち に全員 に銃 殺 の刑 を申 し し
渡 まし た。 ゲリ ラ部 隊 の隊 員 の数
と同 じ だけ のド イ ツ兵がず らり と並 ん で い っせ いに銃 を
構 え、自分 の目 の前 の フラ ンス兵 にねら
いを定 めて ﹁撃 て!﹂ と いう号 令 を待 ち ま したo と、間
一髪 、 ひとり のド イ ツ兵が、 突然 叫 び声
ン
ス
一﹂
峙
一
¨
雌
ヽ
懃
麟
舜
﹂
榊
ど
な
︻
い
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一
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↓
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一
し
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け
な
ヽ
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織
噴
つ
︼
ユ
レ
﹄
﹂
洵
将
兵
・・
,
い った い、そ のドイツ丘︵
とは何者 な のかと尋 ねると、村 の人 々はひとな L沢を ら
光 せながら、
次 のよう に話 してくれる ことでし ょうo
それ は、第 二次大戦も 末期 に近 いころ のことでした。 争朝鯛
と共 に、電光石人 のようなドイ
戦
ツ軍 の進撃 の前 に、 あえなく つぶれた フラ ンスではあり し
ま たが、祖国再建 の意気 に燃える フラ
一 ¨一 っ
の名 は忘 れ ま し たが 、何 でも 、 ドイ ツと の国境 近く にあ る フラ ン スの 一寒
村 に、 今度 の大戦中 に
戦 死し た、 フラ ンスのゲリ ラ部 隊 十 数 の
、
名
墓
が
あ
で
る
の
す
が
そ
の
に
墓
混 じ って、 ひとり の無 名
っ
っ
け
わ
. 動 の蒙 ぃ経 けに ど 浸 れは 村 な いだ割時 ︹味わ に 着 轍導 琳 澤 は¨ 日嘱 〓
イ
の
も ちろん、 これ はド ライと いう言葉 を、も 一つド ライに割 り切 った用 い方 であるかも しれませ
、
、
ん。 ド ライな考 え方 という言葉 の中 には、そ のよい面 す なわち も っと深 い生活 の知恵が含 ま
れ ている ことを私 は否定しませんが、戦後 の流行語 としてのこの言葉 の用 い方 にはや はり唯物論
的 な意味 を含 ま せた場合が多 か ったよう です。
、
っ
そ の反対 に、 ウ エットという と、たとえば ひとり の愛人を思 い そ の愛人とは結婚 によ て結
、
ばれる ことが できな か った にも かかわらず、そわ ひとりを おのが生涯 におけるただひとり の人
、
と考 えて、そ のひとり の愛情 の想 い出 にお のが操を棒げ て生き るとい ったような生き方 外 国 に
、
し
は、 つまり唯物論的 な損得 の立場 から見 るなら 真 になんの足 し にもならぬ愚かな生き方 と か
。
思えぬ、そう いう ふうな、物事 の考 え方や生き方 を指 していう のです
ヨー ロッパを旅行中、私 は 一つの興味深 い話を聞きました。 どこでしたか町
ところで、先年、
考 え方、 つまり非常 にド ライな考え方な のです ね。
生 きるに値す るいのち
強 きもの と弱 き もの
第十三話
107
をあげ ま した。
。
、
に戦闘 能 力 を 失 って ぃます こんな重傷 兵
﹁隊 長 ︱ 私 の前 の フラ ンス人 は三傷 を受 け て 完全
を撃 ち殺す ことは でき ま せん︱ ﹂
、
吹
り に目も くら んだ よう に 口から泡 を
今 ま で、 か って反 抗 され た こと のな い ナチ の隊 長 は怒
。
き なが ら叫 び返 しま し た
﹂
と
.
﹁
鎌 欅 “畔けマ 瀾 ”鋼
、
罐 ︻日 ヽ響 は﹄ ︹な ﹄げ 一鰤 ︹好 な い ゅ﹂¨ ﹂
ツ
を足 下 におく と 静 かな
・
、 う め いて いる フラ ンス兵 を か かえ起 こ
、
て
足 取 り で、 ゲ リ ラ部 隊 の中 に割 って入り 重傷 を負 う
、
、
っせ いに銃 が人 を吐 いて そ のド イ ッ兵
。
と
い
轟
然
す と、 し っかり と抱き 締 めま し た 次 の瞬間
った と いぅ のです。
と フラ ンス兵 と は折 り重 な る よう に倒 れ て 息絶 え て行
、
す かィ ド ライな考 え方 からす るな ら
、
と ころ で皆様 は こ のド イ ッ兵を どう ぉ思 いにな り ま
。 の男が 死 んで、 だれが、 ど んな 得 を し た と
こ
ば、 これ ほど、 ば から し い死 こ方 はあ り ま せ んね
。
し 人 はあ りま せ んで し た そ
たれも。 そ う です〓 ほ ん とう にだれも 得 を た
いう のでし ょう か∵ ぃ
、 どう せだれ かが 撃 った でし ょぅ。 し かも ぁ た ら将来 あ る このド イ ツ兵自 身
。 そ の上、 戦争 中 のでき ご と です 。 戦争中 は隊 長 の命 令が絶 対的 な 力 を 持
の男が撃 たなく とも
ま でも殺 され る のです
って お り 、 死 を も って強 制 さ れ た の です か ら 、 自 分 に はな
ん の一
責任 も あ り ま せ ん し 、 戦 争 犯 罪 に
そ う です 。 撃 っても よ か った のです 。 け れ ど、皆様 、 撃 った ら 、 ど
な
う な った でし ょう? 確
か にそ のド イ ツ兵 の生命 は助 かり ま し た。 け れ ど得 を し た のは、
そ の ド イ ツ兵 ひ とり の 生命 で
す 。 ナチ の残 虐 の消 え が た い思 い出 と共 に、 ひとり のド イ ツ兵 の
生命 が 長 ら え得 た のです 。
し かし、 そ のド イ ツ兵 は撃 ち ま せ ん でし た。 のみな ら 、
ず 自 分 も 殺 さ れ て行き ま し た。 と ころ
でな にか得が あ った か と お尋 ね にな るな ら、 こう答 え ま し ょ 。
う ひ とり のド イ ツ兵 の死 はそ れ を
目撃 し た人 々に忘 れ得 ぬ 思 い出 を残 し た のみな らず 、 ナチ の
残 虐 行 為 の 一つは こ の思 い出 によ っ
て洗 い浄 めら れ、 そ の話 を 伝 え聞 く ほ ど の人 々の心 に、 ほ のぼ のとし
た生き る こと の希 望 を与 え
ま し た。 ナチ の残 虐 子 もか かわ らず 、 人間 の持 つ良 識 と善 意 と を全
ヽ 世 界 の人 々の心 に立証 し た の
です 。 こ のよ うな 人が ひ とり でも 人 の世 に いてく れ た と
い ことで、 私 た ち は人生 に絶望 し な い
う
です む。 今 は人 々が猜 疑 と憎 し み で いが み合 つては いても 、
人間 の心 の奥 底 にこ のよ うな生 き 万
をす る可能 性 が安 って いる限 り、 い つの日 にか再 び ほん と
う
の
から の平 和が や って来 る と信 ず
心
る ことが でき 、 人間 と いうも のに信頼 を おく ことが でき る⋮ ⋮
これ が 、 こ のド イ ツ兵 の死が も た
。 ば
、
ち
し
員
で
な
の
す
撃
て
ば
せ
め
自
て
﹁
嚇
畑
勲
獄
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﹂
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︶
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妙
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郭
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残
﹁
浄
つ
つ
生きるに値す るいのち
強 き もの と弱 きもの
第十 三話
110
生 きるに値す るいのち
ら し た贈 物 な のでし た。 ど この生 まれ か、 名 も 知 ら ぬ、 年 も わ から ぬ こ の無 名 の敵 国 の 一兵 士 の
、
墓 の前 に戦後 十 数年 を 経 た今 日、未 だ に手 向 け の花 の絶 え る こと のな いと いう 一つの事 実 こそ
。
彼 の死 の贈 物 に対 す る 人類 の感 謝 のあ ら わ れ でなく て何 であ り ま し ょう んか
、
。
皆様 、 残 虐 な ナチは、 そ の生 み の親 ヒ ット ラー総統 と共 に滅 び ま し た そ し て ナチ の軍 靴 に
、
蹂躙 され、 ア ッと いう間 に こ の世 から抹 殺 され てし ま った はず のあ のド イ ツ兵 の思 い出 だけが
、何 を意味 す る か、 おわ かり でし ょ
未 だ に人 々の心 の中 に暖 かく 抱 き 締 められ て いる と いう事 が
う か?
、
、
私 た ち は ともす る と、 日 に見 え る力、何 かを生産 す る富 の力 何 かを破壊 す る武 力 他 人 を屈
、
服 せし める権 力、 そう いう外 見的 な 力 だけ を 偉 大 なも のとし て尊 重 し それ だけ が実 在 す る も
、
、
の、 現実 的 なも のと考 え て、 そ の他 のも のは 非 現実 的 なも の あ っても なく ても よ いも のと い
、
、
、
、
う ふう に考 えが ち です ね。 そ し て、前 者 す な わ ち力 を征服 者 勝 利 者 とた たえ 後 者 を弱 者
、
、
、
無 力者 、敗 北者 と考 えが ち です ね。 け れ ども ほ ん とう に人間 の世界 を 人間 の世界 ら しく 美
しく作 り 上げ て行 く も のは、 こ の二 つのう ち の、 果 たし て どちら だ と皆様 はお考 え に な り ま す
か?・
、
古代 の ロー マ大帝 国 は、 さ しも に権 力 を はし いま ま にし た大帝 王 たち と共 に 歴史 の流 れ の中
皆様 、古代 ロー マが滅 んだよう に、 バビ
ロ ニアや カルタゴがそ の帝 王たち と共 に
滅 び失 せたよ
う に、現代 の二大強 国、 アメリ カや ソヴ イ ト 、
エ ヽ い っか滅 び失 せまし ようo ヒ ツト
ラー、 ムッ
ソリー ニ、 スターリ ンの名も忘 ら
れ れる と同様 に、現代 の英 雄 たち の も
名 い つか忘却 のかなた に
消え失 せる ことでし ようo
だが、
それらとな んの関係もなく、
人間 の世界 は、
人間 の世界らし
に滅 び失 せましたo しかし、そ の崩壊 の騒音
の中 で静 かに生き た聖 オーガ スチ ンの
懺悔録 は、未
だに、読む人 の心 に深 い潤 いをも たらし て
います。大詩人ラ シー ヌや劇作家 モリ
エー ルたちは、
当時 の風習 に従 い、自分 の作 品を時 の
権威者 に献呈しましたo しかし献呈
され た権 力者 たち の名
は、今、 だれが党え ている でし ょう か
? が、献呈した弱者 は今 でも生き
続 け ていますo
蠅 嗽 ¨赫れ れ﹃蹄け清ど獣薇畔 げ嘲
時に向薩貯・
魏哺剌﹄Ⅵ議蒙わいけ に狩麻はゎ
破
諷 ¨¨け嘲t
学者 は学 び、そし て、宗教 は無数 の聖
者を生 教続けますo彼 らは弱者 ですo
この世 の権 力者 は彼
らをただ 一言 でこの世 から抹 で
殺 き る でし ょう。けれ ど、生き残 るも
のは権力者 ではありま せん。
この世を人 の世 とし て完成す るも の、
それ は征服者 ではなく て、弱き者、
私たちが ともす ると非
現実的 な存在 と考え ている小さな人
々のう ちに満 ち浴れ、充足 した魂 のいの
ちな のでありますo
強 きもの と弱 き もの
第十三話
れ た世界 だけが 、 唯 一の実 在 な ので
あ り、そ れ 日
ろげ にでも お気 づき
蠅
嗽
瞼
鳳
﹁
ど
︹
残
呻
べ 見
崚
貯
嚢
峙
嗜
は
畔
枷
賊
﹃
]
胸
彎
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一
一
き
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一
一
一
一
轟
つ
一
け
一
一
]
﹃
の り ]
も のかである︱︱ という 一つの事
実な のであ りますo
今世紀 の初頭 から、すばらし い勢
いで発展 して参りました科学 の成功 に
目がくらんで、私たち
までは行 かなく とも、私が何 を話
そう と意図 しているかという ことを、
おぼ
っ
に
な
は
動
に
ヽ
は
級
顔
︹
ゃ
嘲
腱
“
一
げ
衆
﹁
て
い
財
ほ
嘲
敏
”
識
﹄罐
﹄
行
薇
く
こ
嘲
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師
咽
い
贅
れ
な
川
動
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。
。
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何
て
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学
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一
棘
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一
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一
一
い
中
一
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一
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﹃
時
こ
¨
ぃ
峰
鰊
韓
を
る
第 十 四話 一
二百 五 十 円 の い の ち
で し ょう。 いゃ、 行 かねば な らな
く 、 し みじ み とし たも のを内 に宿 し つ っ着 々と形 造 ら れ て行 く
、 れ の日 にも とまらなく とも 、 内 に輝
、
、
、
いのです 。 そ し て それ を形 造 るも の そ れ は 小 さく だ
り ます 。
き を放 って、聖 く真 剣 に生 き 抜 く 人間 の魂 の いのち な のであ
、
含 んで いる よう です ね。
人間 は複 雑 なも の、 そ し て人間 の世 界も ま た複 雑 な なぞ を
。
で は、 皆様 ま た、来 週 のこ の時 間 に
生 き るに値す るいのち
三 百五十円のい の ち
第十四話
Fly UP