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小規模Jリーグクラブの 商店街連携活動の実態と評価

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小規模Jリーグクラブの 商店街連携活動の実態と評価
小規模Jリーグクラブの
商店街連携活動の実態と評価
A study of the actual conditions and the evaluation of cooperative
attempts with storekeepers by small club teams in J-league
02-1999-7 半田 琢哉 Takuya Handa
指導教員 中井 検裕 Adviser Norihiro Nakai
1
はじめに
1−1
研究の背景と目的
Jリーグはその活動方針として地域に密着したクラブを標榜して
いる。また小都市にある新規のJリーグクラブは発展に苦戦している
ため、地域に受け入れられるクラブ作りが求められる。このような背
景から各Jリーグクラブは「地域活動」を盛んに行っている。本研究
では「地域活動」の中でも、地域の中心であり不特定多数の人が活動
する商店街との関係に着目する。
Jリーグクラブによる経済波及効果についての研究 1) やその地域
の意識研究 2) は行われているが、その中で小規模クラブを対象にし
「地域活動」しかも商店街との連携活動に注目した既存研究はない。
そこで本研究では地域活動の影響が特に強く、また必要性も高いと
思われる小規模サッカークラブを対象とする。その上で商店街側のサ
ッカークラブの利用実態とその意図、またクラブ側の商店街における
「地域活動」を把握し連携の実態を探る。さらに活動に対し評価の高
まる要因をクラブ間の比較により示す。
1−2
小規模クラブの現状
図1
表2 Jリーグクラブの地域活動とその目的
小規模クラブは核となるホームタウンの人口が 30 万人以下であ
り、これまでの戦績や観客動員数と予算規模が平均を下回るクラブと
する。これは 2005 年にJリーグに所属していた 30 のクラブをこれま
での観客動員数と戦績、さらに予算規模やホームタウンとする都市の
規模などにより分類した結果(表1)をもとにしている。具体的には
モンテディオ山形、水戸ホーリーホック、湘南ベルマーレ、ヴァンフ
ォーレ甲府、徳島ヴォルティス、サガン鳥栖である(1)。
次に小規模クラブの現状を把握する。30 のクラブを対象に行った分
析では予算と成績には強い相関がある(2)。小規模クラブではJリー
グからの配分金が予算の 25%を占め3)Jリーグの平均値 10%4)を上
回っている。つまり周辺人口が少なく戦績が振るわないため観客が少
なくスポンサーが付かず収入が少ない。このような中でクラブは戦力
強化よりも熱心なサポーターを増やし、地域商店からの支援を維持の
ため地域活動を行う必要がある。
現在Jリーグを目指すクラブは全国に 40 近くあるとされ、仮にJ
リーグに参加した場合多くのクラブがまず「小規模クラブ」に入るこ
とが予想される。
表1 Jリーグクラブの分類
数
特徴
予算
強さ
小都市に多く、戦績・観客動員ともに振る
小規模
7
4.9
0.6
わない。比較的新しいクラブ
既存中
サッカー熱の低いとされる関西の都市が多
8
21.1
1.2
規模
く。戦績・観客動員ともに中位。
新規中
東京郊外をホームタウンとしている。比較
3
16.0
1.0
規模
的新しいクラブ。
観客動
W杯の開催会場となった地方都市に見ら
4
18.9
0.9
員型
れ、成績の割に観客動員が多い。
サッカー
小都市でありながらも強豪。Jリーグ創設時
3
31.6
1.8
タウン
「サッカータウン」として有名に。
ビックク
大都市にあり、ここ 10 年では成績・観客動
5
38.4
1.5
ラブ
員ともに成功しているクラブ。
予算・・2005 年の予算、単位は億円。
平均
20.4
1.1
強さ・・過去 13 年の試合による勝ち点(J2は 2 分の 1)を平均し最大値は 3。
観客・・年ごとの観客動員数を偏差値で求め、平均したもの
2
訪問サッカー教室
40.9
3−1
59.6
48.4
Jリーグクラブを取り巻く関係と地域活動の定義
Jリーグクラブの地域活動の実態
小規模クラブを含めたJリーグクラブの地域活動の実態を把握す
るため文献 8)9) による調査やクラブ担当者へのヒアリングを行っ
た。地域活動の分類と目的は表2のようにまとめられる。
図1からクラブの発展の中で商店の活動が深く関わっていること
幼児・小・中学生
(一部大人)
幼児・小学生・中
学生全般
クラブ指
定練習場
クラブ指
定練習場
学校
期
間
育
成
普
及
長
◎
○
長
○
○
短
総
合
収
入
○
○
◎
体育施設
小学生等
短
○
○
グラウンド
スポーツ指導者
各会場
短
○
○
○
体育施設
スポーツ関連活動
一般
中
◎
◎
グラウンド
ファン感謝デー
ファン
会場
短
選手参加イベント
ファン
会場
短
グッズショップ
ファン
商店街等
長
○
ポスター・旗の掲出
一般
商店街
長
地域の祭りへ出店
一般
会場
短
大学との提携
大学生
学校
長
○
育成・・将来のクラブの選手としての強化を目的としたもの
普及・・地域におけるサッカーやスポーツの振興・普及を目的としたもの
総合・・地域総合スポーツクラブへの発展性があるもの
収入・・クラブの収入に直結するもの
動員・・特に観客動員を目的としたもの
会場には商店街などが含まれる
記号は目的の強さを表す
3
54.1
中学生・高校生
場所
サッカー大会・サッ
カー教室・キャンプ
指導者講習会
46.8
図1は大規模クラブとされるクラブの発展の過程を文献5)6)7)を
元にまとめたものである。Jリーグクラブは自治体、企業、住民と深
く関わっている。「地域活動」をクラブがその地域のサッカー振興や
クラブの地域への浸透などを目的として主に地域住民を対象として
行う活動とする。
2−2
ユース・ジュニアユ
ース
長期サッカー教室・
GK教室
39.5
Jリーグクラブを取り巻く現状と地域活動
2−1
対象
観客
54.5
大規模クラブに関わるプレーヤーとその過程
がわかる。また表2から地域活動において商店街で行われる活動は一
般の人を対象にしているものやファン・サポーターを対象とするもの
が行われ、短期的なイベントから長期に渡って行われる活動もあり、
汎用性に優れている。さらに商店街での活動を行うことで地域のチー
ムであるというアピールになる。
商店街が商品としてクラブを利用することはクラブにとっての宣
伝効果となり、反対にクラブが商店街に来る不特定多数をターゲット
に観客動員が増えるような活動をすることで商店街が活気付くとい
う効果が考えられ、クラブと商店街の活発な活動が進むと相乗効果も
期待できる。これらの理由から次章では商店街活動に着目する。
動
員
○
○
◎
◎
○
○
○
商店街活動の実態
商店街活動の定義と関わる主体
商店街活動はその主体に関係
なくホームタウンとする地域に
ある商店街を会場にして行われ
るJリーグクラブに関連した活
動のことであり、活動が商店街規
模で行われたものとする。
全Jリーグクラブのある地域
の自治体や商工会議所、またはク
ラブに対しヒアリングを行った
結果、主にクラブ・商店街や商店
街の連合組織(商店会組合等)・
商工会議所・自治体が活動に関わ
っていることが分かった。地域の
図2 商店街活動と関わるプレーヤー
サッカー協会や青年会議所・NP
O・サポーターが関係した地域もある。(図2)
3−2
小規模クラブの商店街活動の実態
小規模クラブにおける商店街活動は表3にまとめられる。
なお、他のクラブでは商店街活動として「チームソングを流す」「ク
ラブスタッフ有志による定期的な商店街清掃」「クラブに関連したセ
ール」「商店街名をクラブにちなんだものにする」などが行われてい
る。
表3 小規模クラブの商店街活動
市町
店舗
クラブ
数
活動内容
村
率
山形
9
37.9%
旗の掲出
山形
天童
5
43.1%
旗の掲出
米沢
4
34.7%
選手出演イベント・パブリックビューイング
水戸
水戸
1
3.8%
地域の祭りに選手参加・景品にチームグッズを利用
湘南
平塚
22
56.6%
ファン感謝デー・観戦ツアーの実施・モニュメントの設置
甲府
甲府
11
21.8%
グッズ販売所・パブリックビューイング・商店街誌に掲載
徳島
9
48.4%
選手出演イベント・旗の掲出
徳島
鳴門
4
59.9%
選手出演イベント・旗の掲出
板野
5
100.0%
選手出演イベント・のぼりの掲出
鳥栖
鳥栖
4
100.0%
旗の掲出
数・・関連する商店会団体数 店舗率・・(関連商店会会員店舗数/全商店会会員店舗数)
4
商店街とクラブ間の連携の評価要因
4−1 商店街とクラブ間の連携に関する実態と意識調査
4−1−1 調査の概要と結果
商店街活動に対する意識を把握するため商店街・商工会議所・Jリ
ーグクラブに対してアンケート調査を実施した(表4)
表4 アンケート調査概要
商店街
小規模クラブの商店街活動を行う商店街すべて
回収率 63.5%(47/74)
商工会議所
小規模クラブと何らかの関係のある商工会議所
回収率 85.7%(6/7)
Jリーグクラブ
小規模クラブを含む全Jリーグクラブ
回収率 50.0%(15/30)
調査期間:2006 年 1 月 17 日∼2 月 16 日 配布・回収方法:郵送(一部ファクシミリ)
対象ごとにアンケートは以下のようにまとめられる。
Ⅰ・商店街 商店街活動に対し「話題の提供」が最も多く「普段利用
しない人が商店街を利用する」
「普段からの利用者へのサービス」「ク
ラブの観客が増える」など 77%の商店街が何らかの期待をしている。
ポジティブな評価をした商店街は 47%にとどまり、2 商店街では「活
動が負担」とした。具体的な評価は「商店街のイメージアップ」「メ
ディア露出」「クラブの認知度向上」「普段商店街を利用しない人が
来た」であり期待する内容とほぼ対応している。直接的な経済効果と
いった商店街活性化の効果はないとしている。またクラブに対する要
望として「チームの成績アップ」が圧倒的に多く地域内の知名度に関
する項目が多かった。商店街が新たに行いたい活動は「選手出演イベ
ント」「クラブに関したセール」「景品にチームグッズ」であった。
小規模クラブの商店街では活動に対する評価が高くなく、一般的に
言われる直接的な商店街活性化効果は小さいと言える。
Ⅱ・商工会議所 商工会議所は期待、評価共に商店街とほぼ同じであ
るがクラブへの要望として「選手の参加」など実務的なものが多い。
Ⅲ・Jリーグクラブ アンケートは小規模クラブも含めた全クラブ対
象に行った。「地域に浸透していくために重視する地域活動」として
は「長期サッカー教室」が多かった。「商店街を含めた商業施設での
宣伝・イベント開催」はそれほど重視していないが商店街なども含む
「地域の祭りへの参加」は重視している。活動を商店街で行う理由と
して「商店街の集客性」が多いがその対象は一般の人よりもファンが
多い。「商店がスポンサーだから」「商店街から依頼を受けたから」
も多く、クラブが有名になると商店街からの依頼が増えるという自由
回答があった。活動に対しては「多くの人にクラブを認知してもら
う」「商店街の活性化の手助けになる」という期待を抱き評価も「ク
ラブの認知度向上」が多く、期待と評価の内容が対応している。また
「地域の人の絆が深まった」「より商店街がチームを応援してくれ
た」とも感じている。
Jリーグクラブ全体では商店街の活動を重視しているわけではな
く商店街の依頼などから商店街活動を行なっている。
4−1−2
調査結果のまとめ
小規模クラブの商店街活動では商店街側には経済的な活性化効果
はあるとは言いがたいが、クラブ側には認知度の向上という効果があ
ると言える。
また意識調査からクラブと商店街の間には主に 3 点の見解の相違が
見られた。
①小規模クラブも含めたJリーグクラブ側は商店街の活性化を期
待しているが商店街側は「活性化」というほどの評価をしていない。
②一部の商店街側はクラブの観客が増えたと評価しているが、クラ
ブ側でそのように評価しているのは 1 クラブにとどまっている。
③クラブ側は活動をすることで有名になったと評価しているが、商
店街はクラブの戦績向上など有名であることを求めている。
次項ではこのような意識のずれが生まれる原因を商店街とクラブ
のコミュニケーション不足ととらえ連携の様子に着目する。
4−2
小規模クラブの商店街の分類による連携の評価
まず回答のあった 47 の小規模クラブの商店街について、活動に対
する評価と期待を基に分類を行った。(表5)
その上で商店街側が捉える商店街活動に関わる主体の数について
の回答を見る。評価型は平均で 2.3 主体が関わっていると感じている
が不満型は 1.5 主体にとどまっている。無関心型では2つ以上の主体
を選択している商店街はない。評価型は特に商店街とクラブの他に商
工会議所や自治体を活動主体として挙げている。
続いて商店街のクラブとの連携に関する項目を見る。評価型商店街
の 7 割が何らかの連絡手段があると感じているのに対し、他のタイプ
は 4 割程度にとどまっている。また評価型では連絡手段として「関係
者を交えた協議会の場」を含めた複数の方法があり密な連絡を取って
いると感じている。
また、クラブのスポンサーになっている商店街では評価型が多い
が、商店街内の個別の店舗がクラブに対し出資しているかどうかは 3
群に影響していない。商店街の立地条件や(スタジアムまでの距離)
傘下商店数などとの関係性も見られなかった。なお商店街のクラブに
対する要望は、評価型・不満型では活動自体への指摘が多いのに対
し、無関心型はクラブの地域での知名度への言及に終始している。
まとめとして小規模クラブの場合、商店街活動に自治体・商工会議
所を含む複数の主体が参加しクラブ・商店街間でコミュニケーション
が取れていると感じる商店街は評価が高くなるといえる。
表5 小規模クラブの商店街の分類
評価型
商店街活動に対して何らかのポジティブな評価を与えている群
不評・不
商店街活動に対して期待をしているものの、ネガティブな評価を
満型
与えているか、評価自体を与えていない群
無関心型
商店街活動に対し、期待も評価もしていない群
数は該当商店街数 パーセントはクラブと連絡手段があると感じている割合
4−3
22
70%
14
45%
10
40%
小規模クラブの商店街の評価に影響を与える因子
分類した商店街の地域毎の分布に着目し、クラブ・商工会議所への
調査を含め考察していく。サンプル数の多い4地域(山形・湘南・甲
府・徳島)のうち地域C・地域Dは評価型、地域Bは不満型、地域A
は無関心型が多い傾向がある(図3)。
地域C・DはJ1昇格・Jリーグ1年目だったことが評価を高めた
要因と考えられる。また地域Bでは「強かった頃は盛り上がった」と
いう自由回答が多く見られ、商店街によって強い温度差が見られた。
評価にはまずクラブの成績が大きく影響している。
これら各地域では自治体・商工会議所が活動に関わっているが地域
Aのようにクラブと商店街の対話がなく商工会議所が商店街に依頼
する形で活動が行われて
いる場合、商店街自身が
主体と感じずに無関心な
商店街が増えるものと思
われる。
このように単に自治体
などの介入が有効なので
はなくあくまで商店街と
クラブの円滑な意思疎通
が行われた上での介入が
商店街側の活動の満足に
つながると言える。
図3
5
地域毎にみた商店街側の評価の因子
おわりに
5−1
結論
本研究の結論は以下の通りである。
1) 小規模クラブの商店街活動の内容を明らかにしクラブ側と商
店街側の活動に対する意識を明らかにした。
2) 商店街活動において、商店街側の評価にはクラブの成績が大き
く影響することを明らかにした。
3) その上でクラブと商店街が密なコミュニケーションをとり、自
治体や商工会議所が参加することが商店街活動に必要である
ことを明らかにした。
5−2
今後の課題
本研究では小規模クラブにおける地域活動の中で商店街活動に着
目し商店街とクラブのコミュニケーションが商店街側の評価に影響
を与えているとしたが、今後はより成果の期待できる活動のあり方を
検証していく必要がある。
【参考文献】1)川久保篤志(1998)「プロサッカーチームの誘致と地域振興−
静岡県磐田市−」新地理 46-3 28-39 2)木村和彦(1998)「J リーグがホ
ームタウンに与えた影響に関する研究−鹿島市を事例として−」電気通信大学
地域スポーツ研究プロジェクト
3)ヴァンフォーレ甲府公式
http://www.ventforet.co.jp/4)Jリーグ公式 http://www.j-league.or.jp/
5)大住良之「浦和レッズ 10 年史」ベースボールマガジン社 6)「浦和レッ
ズオフィシャルハンドブック」1995∼2005 7)埼玉新聞 1990 年∼1992 年
朝刊 8)「J-league News」vol.1∼vol.119 9)各クラブの公式HP・公式
イヤーブック
【注釈】(1)著しくホームタウンの人口規模の小さいザスパ草津は除いた。
(2)相関係数は 0.8103
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