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更年期の女性が体験するライフイベントと心身不調の実態及びその関連

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更年期の女性が体験するライフイベントと心身不調の実態及びその関連
2
家族看護学研究第7
巻第1
号
2
0
0
1年
〔原著〕
更年期の女性が体験するライフイベントと心身不調の実態及びその関連
菅沼ひろ子])
串 間 秀 子2)
宮 里 和 子3)
要 旨
我が国における更年期女性特有の心身不調に伴う自覚症状に関する検討の歴史はまだ浅く,ことに
医療との接点をもっていない女性についての情報は十分ではない.現実に更年期の女性たちの体験す
る症状や自覚には大きな個人差がある.本研究は更年期女性の自覚症状には,個人の生活に根ざしたさ
まざまな要因が影響すると考え,その要因を生活出来事(以下ライフイベントとする)に代表させ,自
覚症状とライフイベントの実態と,両者の関係を検討したものである.
0∼6
0歳の女性 1
0
7
3名(宮崎市とその近郊に在住)に調
同意の得られた医療にアクセスしていない 4
査用紙を手渡し, 5
1
5名から郵送によって回答を得て,有効回答の得られた 3
7
9名について分析した.
対象の 9割は何らかのライフイベントを体験しており,その平均は一人当たり 4件であった.同様に,
つ以上の症状をもち,その平均は 9種であった.体験している主なライフイベ
自覚症状は 7割の者が l
ントは I
子どもの受験/進学j「多額の出費J
「子どもとの別居J
であり,自覚症状では「物忘れ一肩こり
などであった.中でも負担度の強い自覚症状は「肩こり一冷え一頭痛一性欲
一腰痛一いらいら一頭痛J
の低下」であり,ライフイベントでは「子どもの健康問題j「家庭内トラブルJ
r多額の出費J
「子どもの就
学上の問題Jの順であった.
また自覚症状とライフイベントとの関連については,両者の負担度において有意な関連性を認めた.
キーワード:更年期,ライフイベント,心身不調の自覚症状,負担度
会的意識づくり j などがあげられているお.すなわ
.
I はじめに
ち,この領域での専門的研究の歴史はまだ浅く,実態
としての「更年期」を正しく理解することが求められ
女性の更年期は「生殖期から非生殖期への移行期
ている実状にある.現実に更年期障害に悩む女性に
である jと定義され,生理的な閉経年齢( 5
0
.
5歳)の
とっては「気のもちょう Jとか「生きがいをもっjな
前後約 1
0年間( 4
5∼5
5歳)とされている 1)2).この期
どの対応策だけでは解決できないことや,薬物療法
間には多くの女性が心身不調に伴う身体および精神
のみでは効果のない事例も専門家のカウンセリング
の症状を体験することはよく知られている.厚生省
が加わることで治療効果を示したという報告4)など
では 1
9
9
1年より R
e
p
r
o
d
u
c
t
i
v
eH
e
a
l
t
h研究を開始し
から考えると,更年期女性の心身不調の現れ方には,
てその実態の把握を行っており, 1
9
9
7年度の報告書
個々の生活背景や心理状態などの要因も深く関与し
では望ましい対策として「正しい知識と対応を医療
ている事が考えられる.
rプラスイメージでとらえる社
関係者に教育・普及J
一般的に器質的な原因を除けば,どのような症状
であれその症状の感じ方には,その時々の個人の職
])北里大学大学院看護学研究科博士後期課程
2
)宮崎県立看護大学
3
)北里大学看護学部
場や家族関係などに根ざした心理的な要因や,生育
歴をはじめとした健康観や病気観,あるいは周囲の
家 族 看 護 学 研 究 第 7巻 第 l号
2
0
0
1年
3
受け止め方などが複雑にからみ合って関与すること
としているために,両側卵巣切除術,ホルモン補充療
が考えられる.ことに女性の 4
5歳から 5
5歳という
法を受けている者は対象から除外している.
時期は,日常生活の側面から考えてみると,子どもの
3
. 調査の手続き
進学就職・結婚などによる「巣立ち j をはじめと
地域婦人会,学校 PTAの組織より了解を得た後に
し職場での立場の変化や,パートナーの転職や退
調査の目的を説明し,了解の得られた者に調査紙を
職,親世代の介護問題など,ストレス性の高いライフ
配付した上で郵送による回収とした.なお調査紙は
イベントを余儀なく体験する時期でもあり,中年期
無記名としている.
危 機 と も 捉 え る こ と が で き る 51. Holmes& Rahe
4
. 調査内容
0
9
6
7)は,ストレス性の高いライフイベントが重な
1
) ライフイベント
ると,さまざまな身体的あるいは精神的障害を招来
家族や生活環境の変化や生活上の出来事などのラ
することを報告している 61. また森本ら (
1
9
9
4)は,
イフイベントについては,まず更年期の女性 7人に
日本人の日常性を考慮して改良した項目による調査
面接を行い実際に体験しているライフイベントを確
によって,日米の文化的背景が異なるにも関わらず
認し,先行研究ト Illを参考にして,
各ライフイベントに対するストレス度が近似してい
こと,②夫に関すること,③自分自身に関すること,
ることを報告している 71. この観点に立てば,ライフ
そして④家族全体に関することに大別した項目を考
イベントはストレスを生起する刺激または源(スト
案した.その際に日本独特の背景やこの時期に特有
レツサー)として位置づけることも可能である.
なライフイベントを抽出し,プレテストを経て最終
:
a子どもに関する
そこで本研究では,更年期の時期にある女性が体
的に 2
1項目を設定した.このライフイベントについ
験するライフイベントは自覚する心身不調の症状に
ては現在の自覚症状に影響する期間を考慮し,過去
何らかの影響を与えるであろうという仮説を検証す
3年間の体験について回答してもらっている.回答
ることを目的とし,ストレツサーとなり得るライフ
に際しては各々のイベントの体験をしたか否かを
イベントを体験しそれを負担と感じる程度は,心身
「あり J「なし Jで答え, 「あり Jの場合にのみ負担度
不調による自覚症状の負担度との聞に一定の関連が
についても回答してもらった
あるものと考え,この点を中心に更年期の女性が体
2
)心身不調の自覚症状
験するライフイベントと心身不調の実態の検討を目
ライフイベントと同様に面接から実際の自覚症状
や実態を確認し,さらに先行研究 121印を参考にして自
的とするものである.
8名の更年期の女
覚症状リストを作成した.さらに 3
性によるプレテストを経て 3
0項目の自覚症状を限
!|.方法
定した.なおこの際,記憶の範囲とこの時期の症状の
質問紙を用いた調査研究である.
出現の特徴を配慮して,過去 6ヶ月間に体験した症
1
. 調査地と調査期間
状について回答してもらっている.回答に際しては
1
9
9
8年 l月∼3月に宮崎市とその周辺地区で、行っ
各々の症状の体験をしたか否かを「あり J
「なし jで答
の場合にのみ負担度についても回答して
え,「あり J
た
.
2
. 対象者
もらった.
日本産婦人科学会の規定による 4
5∼5
5歳という
年齢に前後 5年を加え,
4
0∼6
0歳の既婚女性とし,
3
)負担度の測定
ライフイベントと自覚症状に関する負担度の測定
調査の時点で医療を受けていない者を対象とした.
には,すでに痛みの測定において信頼性・妥当性が
なお,本調査は通常の女性の実態を知ることを目的
検証されている VAS法による方法をとり,先行研
4
家 族 看 護 学 研 究 第 7巻 第 l
号
2
0
0
1年
究凶∼18)を参考に「Oを何ともないレベル」「 1
0
0を我慢
とし,各々について一線上に主観的
できないレベルJ
な負担度を点で表示してもらった.なお,各 VAS
は実測値 7cmを 1
0とし,目盛りを 7
/
1
0cm毎に入
0の数値を入れた.
れて両端に Oと 1
5
. 分析方法
P
S
Sを使用した.対象者の各
統計学的分析には S
自覚症状( 3
0項目)と各ライフイベント( 2
1項目)に
ついて,平均保有数(ライフイベントは体験数)と平
均負担度を求めた.算出においては自覚症状のない
者,ライフイベントを体験していない者は除いてい
表1
. 対象の背景
(
n=379)
年齢
歳 ±SD
本人の平均年齢
4
8
.
3
±
5
.
0
夫の平均年齢
5
1
.
0
±
5
.
7
対象の年齢分布
4か−44歳
45-49
5
0
5
4
号60
5
1
4
9
(
3
9
.
3
%
)
8
1(
2
1
.
4
%
)
5
4
(
1
4
.
2
%
)
末子の年齢
人(%)
未就学
1
(0
.
3
%
)
小学生
4
2
(
1
1
.
1
%
)
中学生
6
5
(
1
7
.
1
%
)
1
2
2
(
3
2
.
2
%
)
高校生
大学/社会人
その他, NA
る.自覚症状とライフイベントの関連については 4
職業
つの観察項目(ライフイベントの体験数,負担度,自
専業主婦
覚症状の保有数,負担度)それぞれについて,負担度
パートタイム就労
は個々のケースの VAS値から得た値の合計値を,ラ
人(%)
9
5
(
2
5
.
1
%
)
フルタイム就労
その他
1
3
4
(
3
5
.
4
%
)
1
5
(3
.
9
%
)
人(%)
8
0
(
2
1
.
1
%
)
1
3
3
(
3
5
.
1
%
)
8
7
(
2
2
.
9
%
)
7
9
(
2
0
.
8
%
)
社会的活動の有無
人(%)
イフイベントと自覚症状の保有数は個々の合計数を
もっている
2
4
4
(
6
4
.
4
%
)
e
a
r
s
o
n)を求め検討した.合計
使って,相関係数( P
なし
NA
1
3
2
(
3
4
.
8
%
)
3
(0
.
8
%
)
値を用いたのは,どのような自覚症状やライフイベ
ントであっても,その体験が積み重なることで,当人
の負担が増すと考えたからである.
6
4
.
4
%と多いことが分かった.
2
. ライフイベントの実態
I
l
l
.結果
対象の 9
2%が設定した 2
1項目の中で,一つ以上
のライフイベントを体験しており,一人当りの平均
調査紙の配付数 1
0
7
3名,回収 5
1
5名(回収率 4
8
は4
±
2
.
8件であった.図 lは体験割合の多い順にラ
%),この中での有効回答数は 3
7
9名
(7
3
.
6%)であっ
イフイベントを並べている.最も体験している割合
た
.
の高いライフイベントは「子供の進学・受験jで 6
7
.
l
1
. 対象の背景(表 1)
%であった.次いで家族全体にかかわる「多額の出
本人の平均年齢は 4
8
.
3歳
, 4
0代後半の女性が全体
6
.
3
%
, 「子供との別居J4
5
.
5
%
, 「父母との
費jが 5
の4
0%をしめた集団となった.子どもについては,
死別 J
4
4
.
2%であった.折れ線はそれぞれのライフイ
その世話の必要性があるかどうかの視点から末子の
ベントに対する平均負担度である.負担の高いもの
年齢を確認したところ,約 7
0%が高校生以上でほと
としては, l番に f
子どもの健康問題j次いで「家庭
んどが親が世話をする必要のない年齢で、あった.
内トラブルj,「多額、の出費j,「子どもの就学上の問
およそ 8
0%の者は何らかの仕事に従事しており,
題」となっていた.表 2は家族員別にライフイベント
0%であった.家族構成としては L、
わ
専業主婦は約 2
を分類したものである.対象女性の 4
4
.
2
%は父母と
3
.
3
% 子どもが巣立って夫
ゆる核家族が最も多く 5
の死別を体験し,職業をもっ場合には職務上の問題
7
.
4
%,また夫婦と子ど
婦だけになっている家族が 1
に対する負担が強いことが分かる.
も以外の同居人のいる家族は 2
5
.
6
%であった.さら
3
. 心身不調の自覚症状の実態
に家事や仕事以外に何らかの活動をしている者が
この時期の女性たちがどのような自覚症状をも
第
家族看護学研究
7巻
第
l号 2
0
0
1年
5
VAS
値
%
8
0
80
6
0
6
0
40
40
2
0
2
0
夫の職場での問題
ハリ
家庭の対社会問題
子供・夫との死別
本人職務上の問題
子供の就学上問題
子供の対社会問題
近所付き合い
夫の転勤
家庭内トラブル
夫の対社会問題
本人の健康問題
子供の健康問題
夫の定年
夫の健康問題
職場の人間関係
義父母の健康問題
父母の健康問題
父母との死別
子供と別居
多額の出費
子供の進学・受験
U
凸
図1
. ライフイベントの体験割合と平均負担度
表2
. 家族員別ライフイベントの保有割合と負担度
AtRυcO ハり aq ヴd
qunJ つ 白 民d q L q a
4
4
. 自覚症状とライフイベントとの関連
体験したライフイベントの負担カヰ郎、場合に自覚
する症状の負担も強くなるであろうという考えのも
とに両者の関連を確認した.表 3に相関係数を示し
た
. ライフイベントと自覚症状それぞれの負担度の
相関係数は 0
.
4
4であり,両者の関連は有意なもので
あった.また,自覚症状の数とライフイベントの数に
おいてもその相関係数は 0
.
3
7で
, その関係も強くは
ないが認めることができた.すなわち,精神的にスト
レス性の強いライフイベントを体験した場合には自
覚する症状の負担も大きいものになるということが
凶
白
Aτ P 0 0 0 ワ
.9.
4
5.
67
生 局 生 rDRU
分かる.
細川官
00
家族の対社会問題
839488
家庭内トラフル
−
家族全体
多額の出費
M4
2
3
.
2
5
6
.
3
1
4
.
4
7
.
5
本人の健康問題
凸u
門 nu
J
義父母の健康問題
職務の問題
円
J
円 Q d Q O
d
2
6
.
0
職場の人間関係
れ
つ
父母の健康問題
父母との死別
−
−
釘冒
近所付き合い
7
.
7
4
4
.
2
2
3
.
l
9
.
0
1
5
.
7
1
2
.
3
子供/夫との死別
本
人
。oqtuQd
夫の社会的トラブル
EAnF
夫の健康問題
2EA
夫の職場の問題
A宮 内 4
夫
夫の転勤
64
’ 2 0 414
夫の定年
PO
o
υ4A
ワ白丹、
−n
子供の対社会問題
i
巧
円 A A O O
d
戸
4
qJqGRυ D
子供の健康問題
6
5740
.
1A . .
子ども
子供と別居
子供の就学問題
平均負担度(VAS値
)
臼 QU
Fhupb ワ
子供の進学/受験
保有率(%)
7
5061
よ
ー
P O A当 1ょ 1i11
ライフイベント
られてない.
ち
, それがどの程度負担なのかを確認したものであ
I
V
.考
察
更年期の女性が体験するライフイベント
).全体の 7割の者が一つ以上の症状をもち,
る(図 2
更年期は家族の発達段階や女性のライフサイクル
.
6の自覚症状を保有している
平均して一人当り 9±5
巣立ち jの時期と重なる.本
の視点からも子どもの f
ことが分かった.その保有率が最も高い症状は「物忘
調査結果でも子どもに関するライフイベントを最も
れjで,次いで「肩こり一腰痛ーイライラー頭痛一冷
多く体験しており, 「子供の受験・進学J
については
えj となっていた.
約 7割が体験していた. この時期の女性にみられる
なお,負担度の高い症状上位 5位までには「肩こり
心理的特徴として有名な「空の巣症候群 J
1
9
lについて
一頭痛一冷え一性欲低下一頻尿Jがあることが分か
は,子供の巣立ちに伴う「子供との別居jという項目
った.全体的に各症状間の負担度値に大きな差は見
によって確認してみたが, その負担度の VAS値は
6
家族看護学研究
第 7巻
第 l号
2
0
0
1年
VAS
値
%
6
0
80
盤麹保有割合(%)
70
−・一平均負担度(VAS
値
)
4
0
6
0
4
0
50
4
0
3
0
30
2
0
2
0
1
0
1
0
。物肩腰い頭冷倦ゆ性集頭使神不風動頻ほめし息耳のむ発尿下吐寝食。
忘こ痛ら痛え怠う欲中重秘経阪邪俸尿てまび切鳴ぼく汗も痢き汗欲
れりい
感う低力感の
りいれれりせみれ気低
ら つ 下 低 興
感
下
下 奮
図2
. 自覚症状の保有割合と平均負担度
年期という時期にある女性の生活において重要な意
表3
. ライフイベントと症状との関連
ライフイベント
体験数
ライフイベント
体験数
負担度
自覚症状
保有数
負担度
負担度
1
0
.
7
2
0
.
7
2
*
0
.
3
7キ
0
.
3
8
*
0
.
3
0
*
0
.
4
4キ
1
自覚症状
保有数
0
.
3
7
0
.
3
8
1
0
.
8
4
*
p
e
a
r
s
o
nの相関係数
負担度
昧をもつことを指摘するものである.
2
. 更年期の女性のもつ心身不調
0
.
3
0
0
.
4
4
本調査では, 7割の者が何らかの自覚症状をもち
0
.
8
4
1
一人当たり 9種の症状をもっているという結果を得
*p<0.001
た.対象は医療にアクセスしていない女性であるこ
とから,本調査の上位にある「物忘れ一肩こり一腰痛
2
7
.
5と決して高いものではなかった.本調査の結果
ーイライラ一頭痛ー冷えー倦怠感ーゅううつ,性欲
から,更年期の女性にとって負担の強いライフイべ
の低下J
などは,女性がこの時期にもつ標準的な症状
ントとしてあげられるのは「子供の健康問題J
「家庭
o
c
k
1
2
1
とも解釈できる. これは,既に行われている l
内トラブ l
レJ
「子供の就学上の問題J
「義父母の健康問
0
9
8
4年実施,対象 1
1
4
1名)及び, 日本婦人会議211
題J
r本人の職務上の問題J
などであったことから,こ
0
9
9
1年実施,対象 2
9
5
3名)の報告ともほぼ一致した
れらがストレスフルなライフイベントであることが
内容で、あった.
推定できる. 「多額の出費jの項目については半数以
なお,今回それぞれの自覚症状の負担度,すなわち
上の者が体験していた.これは,子供の進学や結婚に
つらさの程度を確認した.その上位には「肩こり一冷
関わる出費,家の改築や新築あるいは親世代の介護
え一頭痛一性欲の低下 jがあったが,概して症状聞の
などに関わる費用がその内容として考えられる.
負担度の差が小さいことから, どんな症状であれ症
N
.F
.Woods 0
9
9
7
) は,北米の 3
5∼5
5歳の女性を
対象に調査し,対象女性が重要とするライフイベン
状を自覚するということは負担を伴うものと解釈で
きる.
トとして 「当人の仕事に関連したもの j「人生の達成
3
. ライフイベントと心身不調との関連
目標に関連したもの J
「家族に関連したもの J
「死別・
本調査の対象である女性たちは, 一人当たり約 4
喪失に関連したもの J
「健康に関連したもの jをあげ,
件のライフイベントを体験しており,約 9種の心身
中でも家族に関連した項目への回答が多いことを報
不調の自覚症状を体験していた.しかも,体験したラ
告している 2
0
1 この時期の女性にとって家族のあり
イフイベントの負担が高い場合には自覚症状も負担
ょうや家族に関連したライフイベントの存在は 3 更
が強まることが確認できた. この点に着目した先行
家 族 看 護 学 研 究 第 7巻 第 l号 2
0
0
1年
7
研究には G
r
e
e
n
e& C
o
o
k
e0
9
8
0)辺)によるものがあ
に認識するか,あるいは家族の中での自分の存在位
る.この論文では,自覚症状の強さには年齢や月経の
置や役割,さらには「性J
をどのように捉えるか,ま
状態よりもストレス度の高いライフイベントの方が
たパートナーとの関係や「更年期 jをどのように認識
関連が強く,更年期時期にはストレスを受け易い時
しているかなども考慮すべき問題である.さらに人
期であるという解釈をしている. 2
0年前 (
1
9
7
8)に行
間の加齢現象との区別の視点からは,女性だけでは
われた研究調査であり,文化的背景や方法などが異
なく同世代の男性についても研究することが必要と
なっているにも関わらず,類似した結果を得たこと
考える.
には意味があるものと考える.
一般にう更年期にはし、わゆる更年期障害と称され
本研究は,更年期の女性が自覚する症状は単に女
る不定愁訴がつきものであるかのように解釈されて
性ホルモンの低下だけが起因して生じるものではな
いるが,一概にそうとはいえない.それは今回の研究
く,個人の生活に根ざしたさまざまな要因が影響す
からも明らかになったように本人の「認識のありょ
るのではないかと考えそれを生、活出来事(ライフイ
うjによって,自覚症状が大きく影響を受けていたか
ベント)に代表させて,症状とライフイベントとの関
らである.事実,自覚症状を持たないという女性もい
連を確認することを試みたものである.そもそも,こ
るのである.十分にこの点を配慮する姿勢が求めら
の両者の関係には個人の性格をはじめ生育暦や環
れる.
境,文化的な要因など,さまざまな条件が複雑にから
本調査は宮崎市の婦人会と学校 PTAの協力を得
み合って影響し合っていることが考えられる.した
て行ったものであるが,調査紙の回収率が 4
8%とや
がって,本研究ではそのさまざまな要因の中の一つ
や低かった.その主な原因として考えられるのは調
であるライフイベントのみに限って分析したわけで
査の時期が子どもの受験期 (
1∼3月)と重なったこ
あり,その意味からも今回の分析結果である相関係
とと思われる.
数
0
.
4
4は,現実的で妥当な値と考えられる.
ラザルスとフオルクマン (
1
9
8
4)は,本人の対処能
v
.結 論
力を越えて健康を害するような人間と環境との特殊
な関係をストレスと位置づけ,状況と個人の要因は
常に相互依存的であり,ライフサイクルを通じて起
こるストレスフルな出来事(ライフイベント)のタイ
本研究によって確認された以下の事項を結論とす
る
.
1
. 対象者の約 9割は何らかのライフイベントを
ミングも評価に影響するとしている 231. すなわち,
体験しており,その平均は 4
件で,子供に関するイベ
個人の生活に起こるライフイベントをも対象の理解
ントが最も多く体験しているものであった.また負
において重要な存在であることを示唆するものであ
担度の高いものは「子供の健康問題 J
I家庭内トラブ
り,更年期の女性の理解においては家族メンバーと
ルj「多額の出費 J
I子供の就学上の問題jなどである.
の関連を含め,対象の心理社会的な背景を理解する
2
. 対象者の約 7割の者は少なくとも一つ以上の
ことの重要性を示唆するものである.
ことに今回の結果から,本人のライフイベントを
負担とする「認識」のあり方が,自覚症状に影響する
自覚症状をもち,平均約 9種類の自覚症状をもって
いた.その中でも負担度の強い症状は「肩こり一冷え
一頭痛一性欲の低下 j などである.
ことが明らかになったわけである.このことは健康
3
. 更年期の女性の体験しているライフイベント
教育の視点からみれば重要な示唆を得たものと考え
と,心身の自覚症状は互いに関連が強く,ライフイベ
る.具体的にどのように個人の認識に働きかけるべ
ントが心身不調への一つのストレツサーとなってい
きかを明らかにするには「年をとること jをどのよう
ることの示唆を得た.
家 族 看 護 学 研 究 第 7巻 第 l号
8
すなわち,この時期の女性はストレスへの感受性
が高くなっている可能性も考えられる.
本研究は常磐大学大学院人間科学研究科に修士論文として提出
したもの却を対象地区を変えて再度検討したものであるなお,こ
の一部は第 5回日本家族看護学会にて発表した
文 献
1
) 玉田太朗:更年期一定義と範囲産婦人科の世界, 3
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2)武谷雄二.中高年女性の健康をめぐる諸問題 中高年女性の
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3
)厚生省心身障害研究生涯を通じた女性の健康づくりに関す
る研究 分担研究:更年期における女性の健康支援に関する
5平成 9年度報告書
研究 7 5
4
)冬城高久,堀口 文,太田博明,他更年期障害患者における
心理的背景の把握とカウンセリングの必要性について 日本
更年期医学会雑誌, 4
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5
)相良洋子:中高年女性の精神・心理 中高年女性の健康管理
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) 森本兼裏
ストレス科学のめざすもの一平均値の医学から個
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4)我部山キヨ子,近藤潤子 分娩進行に伴う産痛の強度一主観
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号
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5) 我 部 山 キ ヨ 子 痛 み の 質 問 紙 の 開 発 −M
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明寛他監訳 ストレスの心理学一認知的評価と対処の研究 l
-117実務教育出版東京, 1
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4)菅沼ひろ子:更年期女性のもつ心身不調とライフイベントと
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