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サンゴ ~~、講ず域の毒宇k流動数値シミ ュレーション

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サンゴ ~~、講ず域の毒宇k流動数値シミ ュレーション
海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECR 30
(September 1993)
サンゴ礁海域の海水流動数値 シミュレ ーション
中 村 仁*1 工 藤 君 明*1
サ ンゴ礁海 域 で は, 複 雑 な海底 地形を 伴 う ために, そ の流 れを捉 え ること は難 し
い 。 し かし, こ のよ うな内 湾 の複雑 な流 れと同時 に外 洋 の流 れとの 相互作 用を把 握
す るこ とによ って, サ ンゴ幼生 の分散 や赤 土 の拡散等を予 測 す ることカi可能 となるO
そ こで, 広 く外 洋 域 も含 め たサ ンゴ礁海 域で の海水 流動を シ ミュレ ーシ・ヨンす る た
めに数 値 モデ ルを 開発 し た。 2層 フ リーレベ ル モデルを 用いてパ ラメ ー ター実 験を
行い, 流 れに及 ぼ す潮流 と吹送流 の効 果 や外 洋 域での計算 の安 定 性 につ いて 検討 し
た。 外洋 域で 鉛 直 渦動 粘性 係数を 大 きく とるこ と によ り安定 し た計算 が可 能 と な っ
た。 また, 漂流 ブイ の観測 結果 との比較 によ り, シミュ レ ー ショ ンの適 応性を 検討
し た。 その結果, 中 城湾 において 北 北東 や南 南西 に対 す る流 れのパ ター ンの傾向を
つ か むこ とがで き た。 ま た, 湾内 の流 れのパ ター ンは風 况 の変化 に 敏感 に反 応 する
こ とが示 さ れ た。
キ ーワ ード :サ ンゴ礁, 潮 流, 吹送 流, 鉛直 渦動 粘性 係数, 漂流 プイ
Numerical Simulation Study on Flows in Coral Reefs
Hitoshi N AK AMURA
Coastal
currents on the coral reef are difficult to understand
of the complex
However,
bottom
topography
In a parameter
*2
its structure because
be predicted by examining
flows in a bay and ocean currents outside of it.
this objective, a numerical
current movements
KUDO
in such areas.
dispersion of coral larvae and red soil can
the interaction of complex
Towards
*2Kimiaki
model
was
developed
to simulate
coastal
on the coral reef, as well as in the open sea at large .
experiment
al current and wind-driven
with two-layered
free level model, the effect of the tid-
current on the flow, and stability of calculation for outer
sea areas were evaluated.
Stability was
achieved using the greater coefficient of vertical eddy
viscosity in
outer sea areas.
*1 海域開発研究部
*2 Marine Development Research Department
107
Comparisons
to observations of drifting buoys showed
the viability of the simula-
tion . As a result, the flow pattern in the middle area of the bay , with wind blowing in the north-northeast and south-southwest directions,could be identified.
It was also found that flow patterns inside the bay were sensitiveto wind changes.
Key
words : Coral reef,Tidal current, wind-driven current, Vertical eddy viscosity,
Drifting buoy
1 はじ め に
らなけ ればな らなか っ た。本研 究 で は湾 内 と外 洋
サ ン ゴ礁海 域で は, サ ン ゴ礁に よ る海 底地 形 が
と の流 れ の交換 を捉 え ると共 に, 漂流 ブ イ の動 き
りーフ等 を形 成 し外 洋 へ と続 いてい るため, 非常
を シ ミュ レーションで きる数値モデルの開 発を行 っ
に複 雑 な海水 流動 を引 き起 こす1)。 流 れの場 を 知
た。対 象海 域 は,沖 縄県 本島 南部 の中城 湾 で あ る
る手 法 と して は, 数 値 シ ミュレー ショ ン は有 用 で
( 図 1)。比 較 のため の観 測 デ ータ ーと し て, 当 セ
あ り, 東 京 湾 等 の閉 鎖性 内湾 で は多 層 レ ベルモ デ
ンタ ーで開 発し たGPS精 密測 位 漂流 ブイ によ る漂
ルがよ く用 いら れて い る2)。当 セ ンタ ーにお い て
流 軌跡 の結果を用 い た4)5)。
も1988年 か ら1991年 にか けて 実施 し た サ ンゴ礁造
園技 術 の研 究開 発プ ロ ジェ クト の2 次 元 単 層 の海
2 数値モデ ル
水 流 動 の数値 モ デ ルの開 発を 行 っ た。3) こ のモ デ
2.1 基本式
ルで は, 急 峻な海 底地 形 を もつ海 域の計算 に弱く,
安定 し た計 算結 果を 得 るた め に は △tを 小 さ く と
本 モデルは,潮流および吹送流に よる流動現象
を シミュレーショ ンす るものであ るが, 特に外洋
まで の海底地形を含めた湾内外 の海水流 動を捉え
られるよ うにした。図 2は, モデル海域 の海底地
形の等深線図であ る。 ただ し, モデ ルにおいて は
200m 以 深 は計算 の安定性 を考慮して200m 均 一 と
した。海水 は,非圧縮粘性流体とし,静水圧近似
を用 いた基本式系 は,以下 に示 す運 動方程式 と連
続 の式 で表される。
(1) 水平方向 の運動方 程式
(2) 鉛 直方向 の運 動 方 程式
鉛 直方向 の運動 方 程式 は本 来(3)式 のよ うに表 さ
れる が, ここで は加速 度 項, 非線 形項 , 粘性項 は
重力 と圧力 項 に比 し て無 視で き る。
)t ° ρ。∂Z  ̄
 ̄
 ̄’  ̄
 ̄
’∂Z2
図 1 沖縄 本島 にお け るモ デ ル海 域
Fig. 1 Model area in Okinawa main island.
108
鉛直 方向 の運 動方 程式 は次 式 で近 似 で き る。
JAMSTECR 30
(1993)
∂p
1
−g
- ∂
Z
Pw
O=・
…(4)
(4)式 におい て, 海 面Z= ζで圧 力p =p 。(大 気 圧)
とす ると,
…(5)
p = ρ4 ( ζ−Z )十p 。
(3 ) 連 続 の 式
∂V
∂U
∂W
+ + ㎜ ● ∂y
∂Z
∂X
…(6)
= 0
ただし, ぶi=ま 十U謡 十Vj
十Wj
,
(4) 海 面 と海底 の境 界条 件
図 2 モ デ ル海 域 の海 底地形 ( 単 位: m)
海 面で( Z=;
=ζ)
,
Fig. 2 Bottom topography of model area.
.Z:
)
( Z − ζ)
z
堅
=
-
W −(
Z)t
八
万
ぢ)
十、、
∂t ∂X ∂y
= 0
(7)
ρ・
K,^
= ― C< W, IWI
…(8)
ρω
海 底 で (Z= −H )
∂H
D( Z 十H )
=
£) t
U
-
∂H
十 W= 0
+ V∂y
∂X
…(9)
瓦
図 3 2層 フ リ ー レ ベ ル モ デ ル の 座 標 系 2層
フ リ ー レ ベ ル モ デ ル の 座 標 系(X,
と空 間 固 定 座 標 系(x,
x=xg y=y, Z ―2 C
が成 り 立 つ 。
y, z)
y,
z)
(x・ yg t )9 £二t
and
this coordinate system (1993)
…(10 》
こ こ で ,u, v, wはX, y, z 方 向 の 流 速 , ζ は 水
pa,
` p,は 空 気 お よ び 海 水 の 密 度 , pは 圧 力 , 瓦 ,
£二t between
; (x, y,
and fi χed one ; (χ,y ,z )。
JAMSTECR 30
= が U√U2 + V2
‘
位 変 化 量 , H は水 深 ,f は コ リ オ リ の パ ラ メ ー タ ,
It is discribed by x= χ,y=y ,
t)
に
= が U√i:
函71T ,
と の間 に は
Fig. 3 Coordinate system of free level model・
z二Z ― c (x, y,
瓦1
器
z)
瓦 は 水 平 及 び 鉛 直 渦 動 粘 性 係 数 ,gは 重 力 加 速 度 ,
n2 は 海 底 摩 擦 係 数 , Cj ま海 面 の 抵 抗 係 数 , W。,
W ,は 海 上10m
の 風 速 のx及 びy 成 分 で あ る 。
109
2.2 2
層 フ リ ー レ ベ ル モデ ル
モ デ ル の タイ プ は, レ イ ヤ ーモ デ ル と レ ベ ル モ
デ ル に 大 別 さ れ る。 密 度 成 層 の強 い 海 域 で は鉛 直
方 向 の 流 れが 生 じ に く い た め レイ ヤ ー モデ ルが有
効 で あ り , 複 雑 な 海 底 地 形 や 風 に よ る鉛 直循 環 を
伴 う 海 域 の は鉛 直 流 計 算 の 可 能 な レ ベ ル モ デ ル が
適 し て い る6)。 本 研 究 で は サ ン ゴ 礁 海 域 の 複 雑 な
海 底 地 形 を考 慮 し て, レ ベ ル モ デ ル を用 い る こ と
に し た が , そ の中 で も フ リ ーレ ベ ル モ デ ル を 使 用
し た 。フ レ ー レ ベ ル モ デ ル は 以 下 の よ う な 特 徴 が
あ る7) 。
① 曲 線 座 標 系 に 基 づ く3 次 元 的 な モ デ ル 。
② 原 点 は 自 由 表 面 に 置 く 。
③ 鉛 直 的 な 潮 汐 流 に よ る 人 工 的 な 鉛 直 混 合 が
減 少 す る。
④
水 平 変 動 が 層 の 厚 さ を 上 回 る浅 瀬 や 複 雑 な
海 底 地 形 に お い て も計 算 が 行 え る。
自 由 表 面 上 に 座 標 の原 点 を取 り, 鉛 直上 向 きに正
のZ軸 を と る 直 交 座 標 系 を 考 え る( 図 3) 。
こ こ で , ぐの 変 動 周 期 は 振 幅 に 比 べ 非 常 に 長 い た
め, 自 由 表面 の 傾 斜 は無 視で き る。 し た が って ,
式(1) ∼(9) に 示 さ れ た 空 間 固 定 座 標 系(x,
y, z,
t)( 活 字 文 字 廴 に 対 す る フ リ ー レ ベ ル モ デ ル の 座
標 系(x,
イ タ リ ッ ク 文 字)
y, z, £)(
変 換 は次 式 の よ う に な る。
X二X ,y °y ,Z°Z − ζ(Xg y,
t),
t =
へ の座 標
t・ ‥(11)
式 劭,
(13
)
によ って 得 ら れる2層 フ リ ー レ ベ ル モ デ
ル の運動 方 程 式及 び連 続 の式 は,以 下 のよ うに な
る。 ただ し,hl は1層目 の厚 さ,h2 は水 深H か ら
1層 目 の厚 さh1を 引 い た値 と定義 す る。 す る と ,
2層 目 の厚 さ はh2十 ぐと な る。
(1) 上 層 の運 動方 程式
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(3) 連続 の式
こ こで, ζは海 面 の鉛直変 位,ZX, りの添 え 字 は
1層 目, 2層 目 を 表 す。 ま た,ω は 1層目 と 2層
目 の境 界面 に生 じ る鉛直流 で あ る。
2.3 差 分化
差 分展 開 は, す べて 陽差 分 を 用い た。差 分化 し
た 格子 にお いて 計算 さ れる変 数 は図 4 のよ う な位
ここで,Fは代表 さ れ る変 数 , △£は時 間 ステ ッ
置 に定 義 す る 。 時 間 に 対 し て は 水 位 と 流 れ を
プ, △sは空間 ステップ,I,J は計算位 置 の座 標
△£
/2 ず らして交 互 に計 算 し てい く前 方差 分を 用
を示 す。
い た。 空 間 に対 し て は中央差 分 , ただ し 移流項 に
境界条件につ いて は,陸地 との閉境界 で はnon-
つ いて は上 流差 分 を用 いた。上 流差 分 を導入 した
slip条件とした。ま た外洋で の開境界 で は, 境 界
ことに より ,以 前 の モデ ル3)に比 べ て 空 間 ス テ ッ
内側 の値を そのまま外側 の値 に置 き換え る一 様開
プ はそ の ま まで タイ ムステ ップ を 約3 倍 に し て 安
境 界条件を用いた。
定 した計 算 が行 え るよ うに な った。 そ れぞ れの差
分 式 の基本 的 な形 は。
(1) 前 方差 分
メ ッ シュ割 付 と変数 の定 義
Var iables allocated on mesh system.
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2.4 パラ メ ータ の設 定
が, ここで は計 算 の安 定 性 を 考 慮 し △t=6sec と
各 パ ラメ ータ ーの初期 値 は, 表 1に示 し た。各
項 目 の値 は次 のよ う に与え た。
した。
(2) 水 平及 び鉛 直 渦動 粘性 係数:Km K。
(1) 空 間及 び時間 ステ ップ: △x, △y, △X
空 間 ステ ップ は全 体 の格子数 と海 底地 形 を十分
水平 方向 は沿岸 で は10°∼lOW/s
程度 とい わ
れて い る ので8)
, そ の平 均的 な値を とり, 10 m2/ s
に表現 で きる長 さ がバ ラ ン スす るよ うに, 500m
と し た 。 一 方 鉛 直 方 向 で は, 一 般 に は,10-2 ∼
と し た。時 間 戈テ ップ は重 力 波 の進行速 度 を 考慮
10-4㎡ /s程度で あ る が, そ の値 を 用 い る と , 大
し た安 定条 件
水 深海 域, 特 に開 境 界付 近 で不安 定 が生 じ,計 算
を長 時 間 続 ける こと はで きな く なった。そのため,
安定 し た計 算 が行 え る値 とし てKt=0.1 ㎡ /sを 用
い た。 しか し,この値は一般的 な値に比 べて 1オー
ダー大 きい ため, 不安 定 を 起 こす外海 域( 水 深60
よ り, 本 モデ ルで用 い た △x=500m,
g=9.8m/
S2, hmax= 200mを 代入 す ると, △£
く7.9secと な る
m 以 深 と した )に のみ用 い, そ れ以外 の海域で は,
£.=0.01 ㎡ /sを用 いて 安定 し た計算 結果 を 得 た 。
表 1 2層 フ リー レ ベ ル に お け るパ ラ メ ー タ初期 値一 覧
table l Initial values of parameters used for 2 − layer free level model.
112
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(3) コリ オ リカ:f
f=2Ωsin φより, 中 城湾 の ほぼ中央 の緯度 φ=
ここで, ωは潮汐 周期の角速度,tは時刻, V, h
はりーフ上 の流速及 び水深,q は線流量 であ る。
26.2° を代 入 して6.4×10 Ssec 1とし た。 ここで,
Ω は, 地 球 自転 の角速度 であ る。
(4) 1
層 目 の厚 さ:hl
中 城湾 で は淡 水 流 入 が ほとん どな い ため成層 は
み ら れない ので, 観 測 じた漂 流 ブ イ のド ロ ーグの
位置 が 1層 目 の中央 に来 るよ うに10m と した。 ま
た,hlを大 きくす る と, 1層 目 の流 れを 抑 え ら れ
る こと から, 流 れ の強さを調 節 す るパ ラメ ーター
とし て15m とい う値 も用 い た。
(5) 海底 摩擦 係数 及 び海面 の抵 抗係数:7h 2 。
c
数 値 モ デ ルにお い て一般 に広 く使わ れて いる値
を 用 い,海 底 摩擦 係数 は0.0026, 海 面 の抵 抗 係数
は0.05と し た。
2.5 外部 条件
(1) 潮 汐
潮 汐 は開 境 界 に おいで潮 汐振 幅を 強制 水 位 とし
て 与え る。 4分 潮 まで 与え ら れるが, 本 モ デルで
は中 城湾 の卓 越 周期 であ る半 日 周期(12 時 間 )の
図 5 リ ーフ条 件を 与え る線 境 界( 太線 )
Fig. 5 Line bounderies with reef condition
(bold lines)
みを 用 い, 振 幅 はl mとし た 。 計 算 領 域 の4 角 で
次式 のよ う に振 幅, 遅 角を与 え, そ の間 の開境 界
につ いて は, そ れを はさ む 2点 の潮 位を直線 補間
す るこ とによ り水 位を制 御し た。
こ こで,Nは分 潮数 , ωj ま第n分潮 の角 速 度 ,a。
は振 幅, φ。
は遅 角 であ る。
(2) リ ーフ条 件
リーフ上 で は水 深 が浅い ため, 砕波 など の作 用
に より り ーフ内 側 に強 い流 れを生 じ る。 こ の流 れ
を以 下 のよ う な 実 験 式 を 用 い て 表 現 し た3)oこ の
条件 を線 境 界で設 定 し( 図 5), 線 境 界 に対 し て
垂 直方向 の成 分 の流量 を 湾内 向 きに強 制的 に与 え
て り ーフ特性 を再 現 した 。差 分 格子上 で の りーフ
の計 算点 は図 6のよ う になる。
図 6 リ ー フ の計 算 点 y 方 向 の線 境 界 の場 合
( 太 線 ,x=i)
Fig. 6 Calculation point on the reef condition・
In case of line boundary of y-direction
(bold line ,
x=i).
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(3) 風況の設定
海面 を吹く風 は,風向, 風速,連吹時間を時間
流 ブイ の軌跡 であ る。黒 丸印 が漂流 スタ ート地 点
で ,点 は 1時間 ごと の位置 を示 し てい る。 岸 に近
単位で与え る。複数 の条件を設定す ることで風況
い流 れは, ほぼ同 じ だ が, 湾 口や湾中央付近で は,
の時間変化を表現 で きる。ただし,空間的分布に
2層 フ リ ーレ ベ ルモデ ルの方 が 風向 に沿 う流 れ が
つ いて は一 様であ る。
卓 越す る。 すなわち,単層 モデ ルに比 べ2層フ リー
レ ベルモ デ ルの方 がよ り現 実的 な吹 送流 を シ ミュ
3 海水流動 シミ ュレ ーション
中城湾におけ る海水流動パ ターンに及 ぼすモデ
ルのパ ラメータの効果を知 るために, 風況,鉛直
渦動 粘性係数 などに対す るパ ラメータ実験を行 っ
た( 表2 )
O
レ ー ショ ンで きる とい え る。 し たが って , こ れ以
降で は全 て 2層 フ リ ーレ ベルモデルについて扱 う。
3.2 流 れに及 ぼ すパ ラメ ータ の効 果
(1) 風況 の効 果
海 域全 体 に一 様 に 風を与 え ること に よ って, 湾
内 の流 れ のパ タ ーン は大 きく変 化 す る。 風 の ない
表 2 中 城湾 にお け る数値 モデ ル のパ ラメ ータ
実験
Table 2 Parameter test of numerical model
in Nakagusuku day・
場合 ,南 南 西 5 m / s,北 北 東 8m/sの 3つ の条
件 で風 況 の効 果 を 比 較 し た 。 図10 , 図11 , 図15
(a) は各 条 件 で の 上 層 の 残 差 流 ( 潮 流 の効 果 を
除 く ため,12 時 間目 か ら24時 間目 の 1周期 分 の流
れを積 算 した もの )
であ る。 風 なし の場合 (図10 )
は, 湾 内 に顕著 な流 れ は全 く見 ら れず, 湾 外 で も
り ーフ条件 のあ る部 分 に湾 内 へ の流 入 が見 ら れる
だ けであ る。 こ れは地形 等 によ る残 差 流 へ の影 響
が ほとん どない こ とを 示 し てい るo 一 方 , 風が吹
くと,jヒjヒ 東 風(図15(a)) で は反 時 計 回 り , 南
南 西 風(図11 )で は時 計 回 り の流 れが岸 に沿 って
卓 越す る。特 に湾 北 部 の浅 瀬 で は流 れが強 い。
さ ら に, 風を一 様 に与え た状態 で時 間 に対 して
一 様 な場 合 と時 間を変化させ た場 合で流 れのパ ター
ンを比 較 し た。南 南 西5 m/s
の場 合 で , 風 向 は
変 え ず に, 風速 を O→ 6→ 8→4
m/s
と時 間 変
化 さ せた( 図12 )。 風向 が同 じで も風速 が変 わ る
だけ で流 れ のパ タ ー ンは大 き く変 化 す るこ と が わ
か る。
(2) 鉛直 渦動 粘性 係数 (瓦 ) の効果
3.1 単層 モデ ルと 2層フリーレベ ルモデ ル
瓦 の値 は上層 と 下 層 の 鉛 直 シ ア ーを 決 め る だ
風 のない状態で は,中城 湾の流れは上 げ潮時に
けで な く,上層 に生 じ る吹 送流 の強 さ に も影 響 す
津堅島南側と久高島西 側から顕著な流入があり湾
る。図13 はjヒゴヒ東 風 8m/sで瓦 =0.1㎡/sと0.05
全体に広 がり,下 げ潮時 はちょうど逆向 きの流出
㎡/sの と きの漂流 ブ イの24 時 間 の軌 跡 で あ る 。
が見 られる( 図 7)。このよ うな流 れ は実 際に中
岸 に近 い ところで のプ イの軌跡 は ほぼ同 じだ が,
城湾 で見 られる潮流 のパ ターンであり,単層モデ
湾 中央 部及 び湾 口 付 近 で は瓦 が 小 さ い 方 が 風向
ルと2層 フリーレベ ルモデ ルの差 はほとんどない
成 分 が や や強 くな って い る 。 す な わ ち, 瓦 の値
( 図 7,図 8)。 しかし, 風が吹 くことによって単
が小 さい ほど 風 の効 果 が大 きくな る。 と こ ろが,
層 モデルと2層 フリーレベ ルモデルで は流れのパ
瓦 を もっと小 さ くし て0.01㎡ /s と す る と, 外 海
ター ンに明確 な差 が生 じる。図 9は北北東風 8m
域で計算 の不安 定 が生 じて し まう。
/sの風 を一 様に与え たと きの湾中央 部 からの漂
114
そこで,瓦 の値 は海 域 に よ って も異 な る こ と
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図 7 中城 湾 におけ る潮 流 シミュレ ーショ ン[ 単 層 モデ ル(case 1
(a)
上 げ潮時 (24 時 間目 )
,(b )
下 げ潮時 (18 時 間目 )
)]
Fig. 7 Tibal current simulation in Nakagusuku bay. [single layer model (case l )]
(a)flood current (t=24hr), (b)ebb current (t=18hr)
JAMSTECR
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115
中 城湾 にお け る潮流 シミュレ ー ショ ン( 上層 )[ 2層 フ リー レベ ルモデ ル(case 3 )]
(a)
上 げ潮時 (24 時 間目 )
,(b )
下 げ 潮時(18 時 間目 )
Fig. 8 Tibal current simulation in Nakagusuku bay. (upper level). [2 − layer free level model
(case 3 )](a) flood current (t=24hr), (b) ebb current (t=18hr)
図8
116
JAMSTECR
30 (1993)
単 層 モ デ ルと 2層 フ リ ーレ ベ ル モ デ ルの流 れ の比 較 ( 黒 丸 ( ● ) は プ イ の 漂 流 開 始 地 点 ,
点( ・ )は 1時 間 お き の ブイ の 位置 を 示 す 。)
(a)
単 層 モ デ ル[case 2 ] , (b)2 層 フ リ ーレ ベ ル モ デ ル[case 4 ]
Fig. 9
Comparison of water movements between
single layer model and 2 ―layer free level
model. (Black circle( ● )and dot( ・) indicate drifting start point and positon
buoy at evey hour respectively.)
(a)single layer model [ case 2 ] , (b)2 ―layer free level model[case 4
]
図10 中城 湾 にお け る潮 汐残差 流( 上層 ) 12 時 間 目か ら24時 間 目 まで[case 3 ]
Fig. 10 Tibal residual current in Nakagusuku bay (upper level)
from t=12hr to t=24hr. [case 3 ]
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図11 南南西風5 m/s 時 の残差流( 上層) 12時間目 から24時間目まで[case 5 ]
Fig. 11 Residual currents in upper level with the wind of ssw 5 m/s.
Calculation from t=12hr to t=24hr.[case 5 ]
図12 風況 の変化 に よ る流 れのパ ター ンの比 較( 上層 )
(a)
風一 様[case 10 ], (b) 風時 間変化[case 11 ]
Fig. 12 Comparison of flows in upper level with different wind patterns.
(a)constant wind [case 10 ] , (b)variable wind [case 11 ]
118
JAMSTECR
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図13
異 な る鉛 直渦動 粘性 係数 によ るパ タ ーンを 比較 (上 層 )
( マ ー クの意味 は図 9と同 じ。)
(a)ifi=0.05mVs,
(b) 尺,
=0.1m2 /s
[case 7 ]
Fig.13 Comparison of flows in upper level with different vertical eddy viscosity. (Mean
of the wach mark is similar to Fig. 9 )
。
(a)
瓦=0.05 m2/s[case 6 L (b) 瓦=0.1m2// s[case 7 ]
図14
瓦 を 変え る領域 の定義 (海 域
(a)
と
(b )の境 界線 は水 深60m の等 深線 。)
Fig. 14 Definition of area with different values of
瓦。(Boundary line between
areas (a) and (b) is here defined as isobath of 60m.)
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(1993)
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図15 水 深 により 瓦を 変え た と き の残差 流( 北北 東 風 8 m/s,
瓦 =0.1m ソ s) (a)
上 層,(b )
下 層 [case 8 ]
水深60m 以 浅 でK,=0.01m2/
Fig. 15 Residual current in changing value of瓦by depth (瓦=0.01m2/s in depth
and Kz―0Am2/s in deptlC>60m).
(a)upper level, (b)lower level [ case 8]
120
JAMSTECR
s,
≦60m
30 (1993)
図16 瓦一様のときの残差流(北北東風8 m/s, 瓦=0.1m2/s) (a)上層, (b) 下層 [case 4 ]
Fig. 16 Residual current with constant(wind
K,
of NNE 8 m/s, 瓦=0.1m2/s).
(a) upper level, (b)lower level
[ case 4]
JAMSTECR
30 (1993)
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図17 中 城湾 に おけ る漂流 プ イ の軌跡(1991 年 9月21 日∼22 日 )
(a)
観 測 結果,(b )シ ミュ レ ー ショ ン結果[case 9 ]
( マ ーク の意味 は図 9と同 じ。潮 汐振 幅 は1m 。)
Fig. 17 Trajectories of drifting buoys in Nakagusuku bay. (21-22. Sep. 1991)
(a)observation result, (b)simulation result[case 9 ]
(Mean of the each mark is similar to Fig. 9 . Amplitude of tide is l )
m.
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図18 中 城湾 にお ける 漂流 ブ イの軌跡(1992 年 9月23 日∼24 日 )
(a)
観 測 結果,(b )シミュ レ ーショ ン結果[case 12 ]
( マ ー クの意味 は図 9と同 じ。 潮汐振 幅 はlm 。)4
Fig. 18 Trajectories of drifting buoys in Nakagusuku bay. (23-24 Sep. 1991)
(a)observation result, (b)simulation result[case 12 ]
(Mean of the each mark is similar to Fig. 9 . Amplitude of tide is l )
m.
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か ら, 浅海 域と外海 域 と の境 界を水 深60m の等 深
し なが ら, 風下方 向 に流 れてい く傾向 は捉え る こ
線で 定 義 し(図14), 60m 以 深 の外 海 域 で は瓦 =
と がで きた といえ る。
0.1㎡/s, そ れ以 外 の 浅 海 域 は0.01㎡ /sと し て
(2匚92 年 9月23 日∼24 日 の軌跡
計算 を 行 った。
( 図15 )ま た, 同 時 に 全 域一 様 に
こ れ は, 満潮 のおよ そ 1時間 前 に湾 中央 南部 か
i£=0.1 ㎡ /sと し た計 算 も行 い(図14 ) そ れ らを
らブ イを 投入 し, 約15 時 間 漂流 さ せ た ものであ る
比較 し た。 図16 で は上 下層 共 に ほぼ同 じ流 れとな
( 図18) 。 風 の条件 は一 様 に 南 南 東9
るが, 図15 で は湾 口付 近で 上下 層 の流向 か 異な る
測時 風 况 と ほぽ同 様で あ るo 投 入 直後 の ブイ の動
こ と がわ か る。 ま た湾 中央 か ら湾口 (久 高島 一津
きは,実 際 の軌跡 と一 致 して い るが, モ デ ルで は
堅 島 間 ) にかけて の流 れが明 らか に異なり, 湾 内
ブ イ の軌跡 の外海 側 へ の ふ くら みが小 さい こ と か
で 風向 に沿 う強 い 流 れが 現 れ る。 し た が って ,
ら, 潮 流 に よる引 き潮 の効果 力1弱い ことがわかる。
Kzの値 は, 外海 域 で は大 き く と る こ と に よ って
3.3 (1)の場 合と比 べ ると, 軌跡 は単純 に な っ て い
よ り安 定 した計 算 を行 う こと がで きる。
るが, 実 際 のブ イ の速 度 は時 間 と共 に変化 し て お
3・3 実 際 の 漂流ブ イ軌跡 と の比較
著者 ら は中 城湾 に おい て1991 か ら92年 に かけて
m/s
で, 観
り, シミュレ ーショ ンの結果 で は,投 入 直 後 の ブ
イの速 い動 きが み ら れず ほぼ等速で移動 してい る。
GPS精密 測 位漂流 ブ イによ る海水流 動調 査を 行 っ
漂流 ブイ観 測時 に, 引 き潮 の乗 った ブ イ が津堅 島
た。 そ の観測 結果 と して, 十 数mの精 度 の漂 流 ブ
南 側 から外 海へ抜 けて し ま うので は ない か と思 わ
イ の軌跡 と 観測期 間 中 の現場 の風向 風速 デー タが
れた が,実 際 に は湾 内 に留 まり北 上 す る軌跡 が得
得 ら れて い る3)4
)
。 こ れ ら の デ ー タ の中 か ら,91
ら れた。 こ のよ うな流 れの傾向 は シ ミュレ ート で
年 9月21 日∼22 日,92 年 9月23 日∼24 日 の2つ の
きたといえ る。
ケ ー スの漂流 ブ イ の軌跡 につ いて モ デ ルと観測 結
果 と の比較 を行 っ た。 モデ ルで は上記 の水 深60m
4 おわり に
等 深線 の境 界で瓦 を 変え た形 で計 算を 行 った が,
今 回実 際に観測 から得 られた漂流ブイの軌跡 デー
湾 内 の吹送 流 の効果 が強 か った ため, そ れを抑 え
タを 比較 の ために 使用 で きた こと は, 数 値 モ デ ル
るた め にhlを15m とし た。
を用 いて サ ンゴ礁海 域 の海 水流 動を 検討 す る上 で
(1) 91 年 9月21 日∼22 日 の軌跡
極 めて有 効であ っ たO こ の漂流 ブ イ デ ー タは中 城
こ れ は, 2つ のブ イを ほぼ同時 に干 潮 のお よそ
湾内 に存 在 する小 規模 の複雑 な流 れが, 風 况 の違
1時 間前 に投 入 して, 約29 時 間 漂流 さ せた もので
い により 全 く異 な るパ タ ー ンにな るこ とを 示 して
あ る(図17 )
。 風 况 は期間 中平 均 し て ほ ぼ北 北 東
い るが, 本 モデ ルで はまだ こ のよ うな 細 かい流 れ
風 8m/sで, こ れを一 様 に 与 え た 。 共 に 風 下 方
のパ ター ンの シミュレ ーショ ン はで きてい な い。
向 に流 れる傾向 は同 じだ が, モデ ルで は等速 で久
し かし, 中 城湾 にお いて北 北 東 風 や南 南 西 風 によ
高島 西端 に向 か って い るの に対し, 実 際 の軌跡 は
り 生 じ る流 れのパ ター ンの そ れぞ れ の傾向 を つ か
知念 半 島 の方 へ向 か って 徐 々 に減速 してい る。 モ
む こ とがで きた といえ る。 また, 湾 内 の小規 模 の
デ ルで は知 念半 島沖 か ら久 高島西 端を 通 って外 洋
流 れ は風向 が一 定 であ って も風速 が変 化 す るだ け
へ抜 け て い く流 れが卓 越 して い るが, 実 際 の流 れ
で敏感 に反応し, 異な る流動 パ タ ーンを形 成 す る
は, 知 念半 島 に沿 って外 洋 へ出てい くようである。
こと がわ かった。
特 に, モ デ ルで は干 満 によ る軌跡 の蛇 行 が緩 やか
モ デ ルの タイプ とし て は, 単 層 モ デ ルより も2
だ が, 実 際 の軌跡 は鋭 く転 向 して い る。 この動 き
層 フ リ ーレ ベルモ デ ルの方 がより 現 実 に近 い吹 送
は潮 流 に よ る ものだ が, モ デ ルで はこのよ うな鋭
流を シ ミュレ ート で きる ことが示さ れた。今後は,
い転 向 が みら れない こ と から, 潮流 の効 果 が弱い
多 層 モ デ ルへと拡 張 し てい く こと によ って, さ ら
と考え ら れる。 ま た, 実 際 の軌跡 で は 2つ のブ イ
に実 用的 な モデ ルにな る こと が期待 さ れる。
の投 入 位置 が3km 程離 れただ けで, 全 く異な る軌
計 算 の安定性 の問題 で は, 従来 は不安 定 で あっ
跡 を たど る のに対 し, モ デ ルで は ほぽ水 平 移動 す
た水 深 の大 きい外 海域 を広 く取 り入 れて も, そ の
るだ けで あ るo しか し,潮 流 によ る蛇行 を繰 り返
外 海域 に対 して, 瓦 の値 を大 きくす ることによっ
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て安定し た計算を行 うことが可能となっ たO
計算時間について は,上流差 分を用いたことに
より,陽差分であり ながらタイ ムステップを従来
2)藤野 正隆 ・多 部田 茂 :多 層 モデ ルに よ る海 水
流動 解析 一東京 湾 内 へ の海水 流 動 へ の応 用 一
日本造 船学 会 文集, 170, 367-393. (1991)
の約 3倍にあ たる6秒 で計算可 能となった。しか
3 )河野 健・ ザビ エ ー
レ ン ハ ル ト : サ ン ゴ礁 造
し, これで もまだ タイムステップ が小さいために
園モ デ ル海 域 の海水 流 動特性 −そ の 1, 中 城湾
多 くの計算時間を必要 とし,不安定 も起こしやす
の海水 流動 シ ミュ レ ー ショ ン ー・海 洋科 学技 術
い。陽差分 モデ ルにお けるこれらの問題点 を解決
セ ンター試 験研 究報 告, 25, 33-48 (1991)
す るために は,安定条件において タイ ムステップ
4 )工 藤君明 ・寺 尾 裕 ・中村 仁: GPS精密 測
に制約を もたない陰差分を用いることが必要であ
位 漂流 プ イ システ ムによ る海水流動 の夏 査研究
る。
海洋調 査技 術, 3(1), 21-31. (1992)
5 )工 藤君明 ・ 寺 尾 裕・ 中村 仁: GPS精密 測
位漂流 ブ イによ る サ ンゴ礁 の流 れ の計 測 .海 洋
謝 辞
最後になりまし たが, 2層 フリーレベルモデル
を開発 する際に ご協力 して頂い た国際航業 ㈱海洋
エ ンジニアリ ング事業部技師長徳田正幸博士に深
科 学技 術 セン タ ー試 験 研 究 報 告, 30, (Now,
Appeqar)
6 ) Ishikawa, M.:A Study of Model for Coast-
く感謝 の意 を表します。また,論文作成にあたり
al Environment Management. Tokyo Univ.
有益 なご討論を頂 いた海域開 発研究部 2Gの横 澤
doctoral thesis, 313pp. (1989)
7 )堀江 毅l・ 沿 岸 海 域 の水 の流 れと物 質 の拡 散
均研究員に感謝 いたします。
に関す る水 理学 的研 究. 港湾 技 研 資 料, 360,
参考文 献
1 ) K.P.Black,
運 輸省 港湾 技術 研究 所, 222pp. (1980)
P.J.Moran and L.S.Hammond :
Numerical models show coral reefs can be selfseeding . Mar. Ecol. Prog. Ser.
(1991)
JAMSTECR 30
,
8 )和達清夫 監 修:海 洋大辞 典 . 東 京 堂 出版 ,
東 京, 589pp. (1987)
74, 1-11・
( 原稿受 理:1993 年 6月 1日)
(1993)
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