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企業文化の浸透

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企業文化の浸透
巻頭言
企業文化の浸透
おおばやし
ひでひと
大林 秀仁
社団法人日本貿易会 常任理事
株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長
1人ひとりに個性があるように、企業にも成長発展する歴史の中で蓄積、形成され、その企業に
備わった特有の価値観や判断基準、行動パターンがある。別の言い方では、これを「企業文化」と
言うのであろう。人によっては、
「企業文化」を「企業風土」や「社風」とも表現するように、漠と
した空気のような面があり、また組織が大きくなるにつれて複雑にもなる。従って企業の「文化」を
的確に把握するのはなかなか難しい。私が「企業文化」を理解する際に基準としているのは、
「そ
の企業が大切にしていることは何か」に着目することで、これが企業文化をとらえるための最も分か
りやすい方法ではないかと思っている。これは、言い換えると、
「その企業がこれまでどのように成
長してきたのか。また今後は、どのような方向を目指し、発展していこうとしているのか」ということ
を明らかにすることでもある。
日立ハイテクノロジーズは、2001年に、日立グループの商社であった日製産業に日立製作所の計
測器グループと半導体製造装置グループというメーカー機能を統合して誕生し、2011年、創立 10 周
年を迎える。現在も国内外で多様な事業の再編・統合のニュースをよく耳にするが、その成否を決
めるのは再編・統合後の一体化、中でも新しい企業文化の創造であろう。当社においても、2001
年以降もいくつかの会社、組織を吸収して事業展開してきた。
2003 年には、当社のコアコンピタンスを再確認するとともに、当社が一致団結して発展していこう
とする方向を明確にするため、
「ハイテク・ソリューション事業におけるグローバルトップをめざす」と
いう「企業ビジョン」を制定した。そして、
「企業ビジョン」を支えるものとして、①積極的にチャレ
ンジできる会社、②風通しの良い明るいオープンな会社、③チームワークでスピーディに実行する会
社−を実現する、という「企業文化方針」も設定した。併せて、複線化していた制度の統一や経営
管理制度の改革などを通じて、1つの企業グループとして機能するための基盤整備を行ってきた。
継続して高い成長を実現している企業には、1人ひとりが立ち返るべき、その企業特有の原点、
基準、志があり、しかも、これらが社員1人ひとりに大切に伝承されている。逆に言うと、この「共
有すべき価値観(shared value)
」を会社全体で共有できるか否かが、企業発展のための重要な鍵
を握っているといえる。
当社では、10 年後、20 年後に目指すべき企業像を見据えて、事業基盤を一層強化し、将来、さ
4 日本貿易会 月報
巻頭言
らなる成長を遂げるためには、どのような企業文化を持ち、どのようなビジョンの会社になるべきか
についてさらに深く考える「Next Decade Project」を2008 年に立ち上げ、役員によるブレーンストー
ミング等を通じ、長期的な視点から検討を行ってきた。そして、その結果、日立ハイテクノロジーズ
グループとしての共通の価値観を全員が共有し、
「企業文化方針」が日々の活動において自然体で
実践・活用されることが最も重要であることが再確認された。
そこで、これらの実現を図ることを目的に、2009 年度、当社グループ社員60 余名を選抜し、
「
『Hitachi High-Tech SPIRIT』プロジェクト」をスタートさせた。そして、プロジェクトで半年間に
わたり討議を行った結果、
「企業文化方針」と現状の姿との間にギャップが存在しているとの認識
を共有した。そして、この距離を縮めるための具体策の1つとして、
「SPIRIT Meeting」を開催し、
これを価値観共有の実践の場とすることが提案された。
「SPIRIT Meeting」の目的は、当社の「企
業文化」や「共有すべき価値観(shared value)」について考え、理解することを通じて、それらの
共有・実践を図ることである。
そして、いよいよこの 6月から「SPIRIT Meeting」が始まった。
「SPIRIT Meeting」は 2010 年
度に 20 回の開催を予定しており、参加メンバーは、毎回、海外グループ会社を含む異なる職場、職種、
階層から選ぶ。参加メンバーの人数は、延べ 400 名になる予定である。参加者がそれぞれの職場に
戻り、日々、繰り返し実行することにより、日立ハイテクノロジーズグループの一体感の醸成と、ワー
ルドワイドでの活性化を狙いとしている。
このように、さまざまな会社、組織からメンバーが集まり 1 つのことを討議するという、こ
れほど大掛かりな試みは、実は、当社創立以来、今までに例のないことである。異なるバック
かんかんがくがく
ボーンを持つ参加者同士が当社グループについて侃々諤々の議論を行うことにより、グループ
全体を見渡し、職場、職種、階層を超えたネットワークを構築する機会として、大いに活用し
てほしいと思っている。
今後、
「SPIRIT Meeting」の開催を通して、当社グループ全社員が現状と「企業文化方針」との
ギャップを埋め、
「共有すべき価値観(shared value)」を、それぞれが自分の言葉に落とし込み、
共有し、
「企業文化方針」が日々の活動に着実に活かされることを期待している。これにより、全社
員が同じ思い、同じ目標を持って働ける会社になるとともに、当社が目指す「企業ビジョン」の実現
を図りたいと考えている。
企業文化が一朝一夕に浸透・定着するものでないことは十分理解している。しかし、経営トップ
から社員1人ひとりに至るまで、全員の意識の変革と強い意志の力があれば、現状を変えて、
「あり
たき企業文化」を実現し、
「ありたき会社」になることも十分可能であると信じている。
大切にすべき価値観を共有し、高い志を持ってビジネスに取り組むことが、1人ひとりの生きがい
や夢の実現につながっていく。1人ひとりの成長が、会社の成長、ひいては社会の進歩発展に直結
する。そんな元気で夢のある日立ハイテクノロジーズをグループ全員でつくりあげていきたい。そして、
当社が元気で夢のある会社になることによって、世界の中で尊敬される元気で夢のある日本の実現
に向けて、少しでも貢献していきたいと考えている。
JF
TC
2010年7・8月号 No.683 5
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