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成果報告書 - 金沢大学
成果報告書 科学技術振興調整費「産学官連携共同研究の推進」 生体分子のナノ動態撮影用高速原子間力顕微鏡の開発 研究代表者 金沢大学大学院自然科学研究科 安藤敏夫 平成17年 4 月10 日 大項目名 研究成果の概要 研究計画の概要 ■ 研究の趣旨 タンパク質の動作の仕組みを、物質、反応、生理作用、構造など色々な角度から調べ上げることが可能になり つつある。任意のアミノ酸を置換、挿入、欠損させる遺伝子工学技術、表面プラズモンや蛍光相関スペクトロス コピーといった反応解析技術、1分子蛍光観察などの一分子生理学的手法、X線結晶回折や NMR による原子レベ ルの構造解析技術、などの様々な先端技術・手法が使えるようになったお陰である。そんな時代にあって、タン パク質の動的構造情報を得る技術が不足している。タンパク質の機能はその構造が時々刻々変化する間に生ずる。 それ故、動的構造と機能は密接な関係にあるが、動的構造情報を得ることが困難であり、それがタンパク質の機 能解明を遅らせている。従って、ナノメーター・ミリ秒オーダーの時空領域をカバーする水中世界を見ることの できる顕微鏡技術が待望されてきた。しかし、科学技術が進歩したとは言え、この 3 種の条件、 「水中」、 「ナノメ ーター」 、 「ミリ秒」 、を同時に満たすことのできる顕微鏡は存在しなかった。光学顕微鏡は「ナノメーター」の条 件を満たすことができない。電子顕微鏡は「水中」という条件を満たすことができず、乾燥した試料では動的情 報は得られない。1986 年に誕生した原子間力顕微鏡(AFM)は、「水中」、「ナノメーター」という条件を満たす が、走査速度が遅く、実質的に静止したものしか観察できない。しかし、これらの顕微鏡の中で原理的に 3 条件 を同時に満たす可能性を秘めたものは(現時点の技術的・原理的制約を考えると)AFM 以外には有り得ない。AFM の走査速度を高速化して、生命科学が待望する顕微鏡の実現を目指す研究が世界のいくつかの研究室で進められ てきたが、2001 年に動くタンパク質を 80ms で見ることのできる高速 AFM が我々の手によって実現された。しか し、ノイズ、装置の安定性、探針と試料との強い相互作用といった問題を抱えている。本研究はこれらの問題を 解決し、我々がもつ世界唯一の顕微鏡を可能な限り実用レベルに引き上げることを目指すものである。 ■ 研究の概要 AFM は複数のデバイスのアセンブリーであり、AFM の高速化には、先ずこれらデバイスの基本性能を高速化 に向け最適化しなければならない。具体的なデバイスとしては、センサー、振幅計測回路、スキャナー、フィー ドバック制御回路、光テコ光学系、カンチレバー、アクチュエーター駆動回路などがある。まだ開発が不十分な デバイス(スキャナー、フィードバック制御回路、カンチレバー)を試作・評価を通して最適化するとともに、 評価手法の開発や製造プロセスを検討する。また、最終装置は多くのユーザーが利用しやすいデザインとし、生 命科学などへの応用に有効なトランジェント法を高速 AFM に導入する。最終的に完成させた装置を用いて、いく つかの生体分子のプロセスをリアルタイムイメージングする。開発の項目、及びその内容の概略は以下の通りで ある。 1.高速スキャナーの開発 現在走査速度や安定性を決めている主要なデバイスはスキャナーである。機械走査を高速化することは極めて 難しく、プロトタイプ装置に組み込まれたスキャナーの帯域は約 60kHz にとどまっている。また、振動ノイズも 生ずる。イメージングの更なる高速化とノイズの低減は主にこのスキャナーの改良にかかっている。いくつかの 手法を検討し、帯域を 150kHz にまで上げるとともに、振動ノイズを減らす。スキャナーに(サブ)ナノメータ ーの精度をもたせるには、スキャナーの動特性を精密に評価できる手法の開発も重要であり、その開発も行う。 また、安定に同じ性能を持ったスキャナーを製造することも市販化には重要であり、製作工程を十分に検討する。 2.フィードバック制御システムの開発 フィードバック制御の高い精度及び柔軟性は、探針・試料間に働く力を小さく安定に維持して試料の変形や破 壊を防ぐために必須である。また、数十~数百フレームの連続イメージング中に起こる機械的なドリフトにも適 応できる性能も求められる。これらの性能と高速性とを両立させなければならない。探針・試料間にかかる力を 小さく維持するために、振動するカンチレバーの振動振幅の目標値(一定に維持すべき振幅値)を自由振動時の 振幅値近くに保つ必要がある(探針は試料表面ぎりぎりに接することになる) 。しかし、この条件下では試料の高 2 大項目名 研究成果の概要 さが急に小さくなる箇所で探針は試料から完全に離れ、探針が試料に再び接するまで長時間かかる。その間の試 料形状の情報は得ることができない。これを回避するために、PID 制御の特性をダイナミックに変えることので きる動的PID制御手法を導入する。 3.高速走査用カンチレバーの開発 探針・試料間にかかる力はカンチレバーのバネ定数によっても決まってくる。高速走査のためには共振周波数 は高くなければならないが、バネ定数は小さくなければならないという背反する特性が要求される。既に開発し たカンチレバーの共振周波数自身は1画像を 60ms で撮ることを可能にするが、バネ定数がまだ大きすぎる。レ バー加工精度をもっと高めることで、バネ定数を 100 pN/nm 以下にする。現在の高速走査用カンチレバーの製造 の歩留まりは低く(数%台)、安定して供給できる段階にない。歩留まりを 50%以上まで向上させ安定供給できる 改良を行う。また、EBD 法による探針形成に頼ることなくエッチングプロセスだけでレバーと探針を一体成形す る手法も検討する。一体成形は難しい課題であるが、うまくいけば、安定的な生産に最も適した方法であるので 検討したい。 4.探針形成の最適化 既に開発したカンチレバーには探針が付いていない。これは探針加工まで含めることが困難なためである。電 子顕微鏡を利用し、カンチレバー1本ごとに電子線を1点に当て続け探針を形成させるEBD法に頼らざるを得 ない。電子顕微鏡試料室内に自然に存在するコンタミネーションガスの濃度は低く、探針の成長速度は極めて遅 い(約 5 nm/s) 。実際に必要な 1μm の長さを得るには、3 分以上電子線を一点に当て続けなければならない。そ れ故、機械的ドリフトの影響を強く受けると同時に作成に手間がかかり、市販化に向いていない。細い探針を短 時間で形成させる手法の開発を行う。 5.新しい励振法の開発 通常の AFM では、カンチレバーホルダー付近に設置したピエゾ素子を振動させ、その振動が機械経路及び試料 溶媒経路に伝達され、最終的にカンチレバーを振動させる励振法が使われている。この方法では、カンチレバー の共振周波数以外の周波数帯域でも共振が起こるので、共振のピークが何本も立つ。カンチレバーだけを振動さ せる方法として、カンチレバーに強磁性体をコートし、交流を通じたコイルで振動させる方法がある。しかしこ の方法では、カンチレバーの磁性コートが必須であり、そのコーティングによりカンチレバーの共振周波数は下 がってしまう。そこで、共振周波数を下げずに、カンチレバーを選択的に励振する新しい方法を開発する。 6.システム全体のデザインと製作 開発する上記デバイスなどの性能を下げることなく全体に整合性のある操作性の高い高速 AFM システムを設 計・製作する。脆い生体試料でも破壊することなく連続イメージングできるようにする。また、イメージング操 作を通して、ユーザーが使いにくいと思われる点を見出し、改良を加えるとともに、装置がより広く応用される ような付加機能についても検討し、最終装置に加える。 7.トランジェント法の導入 生体分子の機能プロセスの動態をイメージングする場合、生理機能に関係した構造形態変化と単なるブラウン 運動を明瞭に区別する必要がある。紫外線をパルス照射することで本来の基質分子に変換される Caged 化合物は この目的に有効である。そこで、高速 AFM に紫外線パルス照射システムを導入するとともに、その照射がイメー ジにノイズを生じさせないようにする。 8.バイオイメージング いくつかの生体分子の動的なプロセスをイメージングし、世界の研究者がこの装置を早急に入手し自らの研究 に活用したいと思わせるデータを出す。特に、上記トランジェント法を用いて、ATPase 反応や Ca2+結合に同期 したタンパク質の構造形態変化の映像を得る。装置の詳細を知らないユーザーにもイメージングの実験をして頂 き、操作性や付加すべき機能について情報を得て、最終装置の設計に生かす。 3 大項目名 研究成果の概要 研究成果の概要 ■総 括 本プロジェクトでは、AFM に含まれる諸デバイスを最適化することにより、2001 年に開発した高速 AFM が抱えるいくつか の問題を解決し、可能な限り実用レベルに引き上げることを目指してきた。解決すべき諸問題の内、探針・試料間にかかる 力が大きすぎ脆い試料が破壊されるという最も深刻な問題を解決することを最優先課題として取り組んできた。探針が試料 表面すれすれに触る状態を維持することは、走査中のカンチレバーの振動振幅をその自由振動振幅に近づけることを意 味するが、それはフィードバック制御帯域を狭くしてしまう(つまり、高速イメージングを不可能にする)。探針・試料間の相互 作用に応じて制御パラメータを調節する動的 PID 制御法、及び、それを実現する回路を考案して、この最大の難関を乗り 越えることに成功した。フィードバックループに含まれるデバイスの中で最も遅いデバイスは Z スキャナーであり、フィードバ ック帯域を上げるにはZスキャナーを高速化することが第一に要求される。しかし、利用できるピエゾアクチュエータには限り があり、共振周波数を大幅に上げることには限界がある。そこで、新しいアクティブダンピング法を考案し、ピエゾアクチュエ ータの共振を完全に消去するとともに、Zスキャナーの応答速度を飛躍的に向上させることに成功した。以上の2つの成功 は、本プロジェクトを大きく前進させるものであった。実際、2001 年の装置では、アクチンフィラメントやマイクロチュービュル といった非共有結合でモノマー分子が繋がった自己集合系はイメージング中に瞬く間に壊れていったが、現在では壊さず にイメージングできる。更には、タンパク質分子間の極めて弱い相互作用をも乱さずに高速イメージングすることも可能にな った。基本性能の向上のためのこれらの研究を進める一方で、市販化に向けた開発にも取り組んできた。その結果、本研 究で得られた新しいデバイス・手法を取り入れた市販化レベルの装置を製作することに成功した。個々のタンパク質分子を、 機能を損なうことなくリアルタイムにイメージングできる高速AFMは海外には存在しない世界最先端の装置(オンリーワン、 ナンバーワン)であり、且つ、市販化に向けた装置開発の点でも世界を大きく引き離すこととなった。 ■ サブテーマ毎、個別課題毎の概要 1.高速スキャナーの開発 まずスキャナーを剛性の高いデザインに変更し、採用するピエゾアクチュエーターの共振周波 数 f s を(組込み状態で)150kHz にまで上げた。スキャナーの構造由来の共振は以前と同様にカウンターバランス法を採用 することでほぼ完全に消去した。150kHz の共振では実際に有効に使える周波数はせいぜい 80kHz 程度までである。また、 ピエゾアクチュエーターの Quality Factor を Q(=18)とすると、その応答速度は πf s / Q (=26kHz)しかない。そこで、Zスキ ャナーの共振特性と全く同じ特性をもつ擬スキャナー(LCR 回路)の出力を利用する新しいアクティブダンピング法を考案 し、Zピエゾアクチュエーターの共振を完全に消去し帯域を 150kHz にまで上げ、応答速度を 36 倍上げることに成功した。 2.フィードバックシステムの開発 タッピング力、及び、フィードバック帯域が諸パラメータにどのように依存するかをまず理 論的に考察し、定量的な理論式を定式化した。次に、高速走査とタッピング力の軽減とを両立させる制御法を開発した。セ ットポイントを自由振動振幅に近づけると、走査中に試料の高さが急に低くなるところで探針は試料表面から離れてしまう。 いくら離れても振幅( A )は自由振動振幅( A0 )を超えることはなく、エラー信号( A As )は小さいまま飽和する。フィード バックのゲインはこの飽和した小さいエラー信号に頼るので当然小さく、その結果探針が試料(或いは基板)表面に再着地 するまでに長時間かかる。この現象をパラシューティングと呼ぶ。パラシューティングの間の試料形状情報は完全に失われ てしまう。カンチレバーの振動振幅がセットポイントよりも僅かに大きくなったことを検出し、その検出時点でフィードバックゲ インを従来よりもはるかに大きく変更する動的 PID 法を考案し、このパラシューティングの問題を解決した。この動的 PID 制 御法は、走査中に試料の高さが急に高くなり、 A As となる場合にも有効であった。この動的 PID 制御の帯域は As / A 0 =0.95 において通常の PID 制御の帯域の数倍にも達した。 3.高速走査用カンチレバーの開発 鳥の口ばし形状の探針を先端にもつバーズビーク型微小カンチレバー(水中共振周 波数 800kHz、ばね定数 100~150pN/nm)を開発することができた。カンチレバーを安定に歩留まり高く製造する諸工程の 4 大項目名 研究成果の概要 確立が今後の課題である。 4.探針形成の最適化 バーズビーク探針は十分に先鋭ではないため、更に EBD 法で探針を付ける必要があるが、バーズ ビークの十分な高さゆえに、EBD 探針は極短く形成させるだけで十分であり、電子顕微鏡のドリフトが静まるのを長時間待 つ必要がなくなった。また、プラズマエッチング法で先端曲率半径を 4nm 程度までに小さくできることができた。プラズマエ ッチング処理、バースビーク上への EBD 探針の短時間形成は微小カンチレバーの大量生産法への道を開いた。 5.新しい励振法の開発 波長 405nm、20mW のレーザ光を強度変調しカンチレバーに当てると、最大 20nm の振幅でカン チレバーを励振できることを見出した。これは熱膨張によって起こる。カンチレバーに力を直接作用させることができ、カン チレバー以外のものを振動させないという大きな長所をもつ。 6.システム全体のデザインと設計 まず、金沢大の製作した高速AFMのヘッド部分(試料台、走査機構、変位検出系など を含む)、すべてのエレクトロニクスを市販化に向けてデザイン・仕様の変更を行った。AFMヘッドは色々な応用を考えて 倒立型光学顕微鏡に搭載されているが、この光学顕微鏡のデザイン・機能をそのまま使えるようにAFMヘッドを一層コン パクト化した。また、操作性を高めるために、すべてのソフトウェアを一から開発した。こうして、2004 年 7 月から試験販売す る装置が出来上がった。 7.トランジェント法の導入 紫外線パルスをAFMヘッドへ導入するための光学系、及び、走査に同期したタイミング信号発 生回路を作成し、どの程度の光量がケージド化合物のケージ解除に必要か、紫外線パルスのカンチレバーの力学的な振 る舞いへの影響、紫外線パルスと走査のタイミングをどのようにすべきかなどの検討を行った。その結果、減弱したレーザ 光を 100kHz 程度の周波数で短時間(1ms以下)当て続け、その間試料ステージをカンチレバーから一時的に僅かに遠ざ けることで、ケージ解除に同期したタンパク質の過渡的な変化を捉えることができるようになった。 8.バイオイメージング ダイニンCについては、ATP の加水分解にドライブされてそのステム部分が2つの位置の間をカタ カタ動く様子が繰り返し観察された。このように生理機能にともなって動くタンパク質そのものをナノ解像度で直接見ることが できたのは世界で初めての成果である。また、ミオシンVとアクチンが ATP 存在下で相互作用し、アクチンが一方向に運動 するときのミオシンVの動的な振る舞いを観察することにも成功した。 ■ 波及効果、発展方向、改善点等 脆い生体試料を破壊しないばかりでなく、弱いタンパク質間相互作用をも乱さずに探針・試料間にかかる力を低減化し、 且つ、フィードバック帯域を向上させるという大きな課題を克服する「動的 PID 法」、及び、「スキャナーのアクティブダンピン グ法」を開発した点が本研究の最も大きな成果である。その成果により、アクチンフィラメントや微小管を壊さずに高速イメー ジングできるようになった。ATP 存在下でミオシンとアクチンフィラメントが相互作用する様子や、ダイニンCの ATPase 反応 に伴う構造変化を映像として見ることに成功し、高速AFMが生命科学に真に有効な技術であることを実証した。このような タンパク質のナノ動態の直視はこれまで夢でしかなかったが、現在進めている装置の市販化により他の研究者も同様な観 察ができるようになり、もっと広い多様な試料で新しいデータが出てくるに違いない。それにつれて高速AFMへの期待が 今後一層高まることは間違いないであろう。ところで、今回のフィードバック帯域の向上は探針から試料に働く力の軽減化 に大きな効果をもたらしているだけで、更なる高速イメージングに繋がっていないように思われるかもしれない。以前よりも高 速にイメージングすることは今回開発した装置で実際可能である。だが、そのイメージングで脆い試料はダメージを受けて しまう。今後の最大の課題は、更に高速走査しても試料に及ぼす力を弱く維持できるほどフィードバック帯域を十分に拡大 する点にある。そのためには、フィードフォワード制御、カンチレバーの振動の高感度検出、カンチレバーの共振周波数の 更なる向上などが必須である。それらが開発されれば、もっと美しく、優しく、高速にイメージングすることが可能になり、高 速AFMにより解明できる生命現象が格段に広がるものと期待される。 5 大項目名 研究成果の概要 ■ 研究成果の発表状況 (1) 研究発表件数 原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計 国 内 0件 13 件 51 件 64 件 国 際 6件 1件 14 件 21 件 合 計 6件 14 件 65 件 85 件 (2) 特許等出願件数 5 件 (うち国内 4 件、国外 1) (3) 受賞等 3 件 (うち国内 2 件、国外 1 件) 1.安藤敏夫、古寺哲幸、戸田明敏:日経BP技術賞(医療バイオ部門) 2003.4.4. 2.安藤敏夫:日本学術振興会 ナノプローブテクノロジー賞 2004.7.21. 3. 安藤敏夫:高速 AFM が中国科技日報世界十大科学技術ニュースに選定 2003.12.31. (4) 主な原著論文による発表の内訳 国内誌 該当なし 国際誌 1. N. Kodera, H. Yamashita, and T. Ando: Active Damping of the Scanner for High-speed Atomic Force Microscopy. Rev. Sci. Instrum. (in press). 2. N. Kodera, T. Kinoshita, T. Ito, and T. Ando: High-resolution Imaging of Myosin Motor in Action by a High-speed Atomic Force Microscope. Adv. Exp. Med. Biol. 538:119-127 (2003). 3. R. Ishikawa, T. Sakamoto, T. Ando, S. Higashi-Fujime and K. Kohama:「Polarized Actin Bundles Formed by Human fascin-1: Their Sliding and Disassembly on Myosin II and Myosin V in vitro」. J. Neurochem. 87:676-685 (2003). 4. T. Ando, N. Kodera, Y. Naito, T. Kinoshita, K. Furuta, and Y.Y. Toyoshima: A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules in action. ChemPhysChem 4:1196-1202 (2003). 5. M Kitazawa, K. Shiotani and A Toda:「Batch Fabrication of Sharpened Silicon Nitride Tips」. Jpn. J. Appl. Phys. 42, 4844–4847 (2003). 6. T. Ando, N. Kodera, E. Takai, D. Maruyama, K. Saito and A. Toda: A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules in action. Jap. J. Appl. Phys.41:4851-4856 (2002). 本研究に関連して発表した論文 国内誌 1. 安藤敏夫 最新機器の挑戦 2. 安藤敏夫、古寺哲幸 高速原子間力顕微鏡 化学 59(9):42-43 (2004) 「生体分子のナノ動態撮影 - リアルタイム AFM -」 バイオインダストリー 21(6):10-19 (2004) 3. 安藤敏夫:「リアルタイムで“見る”ナノの世界 分子の動きを捉える」 9章 p.121-149 in 「ナノバイオロジー」 竹安 7 大項目名 研究成果の概要 邦夫編集 共立出版 (2004). 4. 安藤敏夫「モータータンパク質の運動が高速 AFM で見えた!」化学 59(1)28-29 (2004) 5. 安藤敏夫:「生体分子の高速ダイナミクス撮影」 4 章 4 節 p.395-406 in 「ナノバイオテクノロジーの最前線」植田充 美監修 シーエムシー出版 (2003). 6. 安藤敏夫 「高速原子間力顕微鏡 -生体分子のナノダイナミクス撮影-」 応用物理 72(10):1304-1308 (2003). 7. 安藤敏夫 「高速原子間力顕微鏡 - 液中ナノメーター世界の高速撮影 -」 金沢大学機器分析センターNEWS 2:3-7 (2003). 8. 安藤敏夫 「超高性能顕微鏡を開発して生命現象の謎に迫る ク質分子の観察」 9. 安藤敏夫 「総説 10.安藤敏夫 化学と工業 11.安藤敏夫 「解説 - 高速原子間力顕微鏡の開発と動くタンパ 金沢大学サテライト・プラザミニ講演記録 3(4):1-19 (2002) 原子間力顕微鏡-生命科学への適用-」 生化学 74(11):1329-1342 (2002). 高速原子間力顕微鏡 -液中ナノメーター世界の高速撮影―」 55(8):877-879 (2002). 「解説 高速原子間力顕微鏡-液中ナノメーター世界の高速撮影-」 生体の科学 54(1):54-60 (2002). 12.安藤敏夫 「リアルタイム AFM」電子顕微鏡 37(1): 45-50 (2002). 13.安藤敏夫 「原子間力顕微鏡でタンパク質の動きをリアルタイムに撮影する」 ファルマシア 38(6):508-512 (2002). 国際誌 1. T. Ando: A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules in action. Proc. of International Federation for Medical & Biological Engineering 8 3 (Part2):22-26 (2002). 大項目名 研究成果の詳細報告 1. 高速スキャナーの開発 ■要 約 本研究では、高速走査用のスキャナーの機械的構造を最適化し、実際に試作・評価を行うとともに、Zスキャナーの共振 を消去する新しいアクティブダンピング法を開発し、帯域及び応答速度の向上を図った。スキャナーのガイドとして弾性ヒン ジを採用し、XY方向の共振周波数 20 kHz 以上、Z方向の共振周波数 150kHz の性能を得た。共振には、スキャナーの構 造に起因する共振と、Zピエゾ自身の共振の2種類が存在する。構造由来の共振は以前開発したカウンターバランス法で ほとんど完全に消去できることが分かっている [1,2]。後者の共振はこれまでのスキャナーでは消去されず、帯域を制限し ていた。アクティブダンピング(Q値制御 [3, 4])では、共振系の応答を検出し、その信号の位相を 90 度遅らせた信号に適 当なゲインをかけたものを励振信号に加えることが通常行われる。しかし、Zピエゾの高速な微小変位を高感度に検出する ことは極めて困難である。それ故、市販AFMのスキャナーでは、入力励振信号をノッチフィルターに通す方法が一般に採 用されている。しかし、この方法では、ノッチフィルターの応答速度の問題があり、共振は防げても応答速度を上げることが できないという欠点をもつ。共振系(ここではZピエゾ)の応答を検出する代わりに、Zピエゾと同じ共振特性を持つ共振回路 (LCR回路で構成)の応答を検出し、その信号をアクティブダンピングに利用する方法を考案した [5]。この方法により、Z ピエゾのもともとのQ値が18であったものが究極のQ=0.5まで下がり、その結果、応答速度は36倍向上し、且つ、共振は 完全に消去された。Q値を下げることに伴う位相の遅れは、逆伝達関数法を適用することで解決できた。以上により、Zピエ ゾの共振周波数(150kHz)までZスキャナーの帯域を上げることに成功した。 ■目 的 本研究では、剛性の高い構造をもつスキャナーをデザイン・試作・評価するとともに、フィードバック帯域に含まれる諸デ バイスの中でもっとも遅く、それ故、走査速度を律していたZスキャナーの応答速度、及び、帯域を向上させ、それによって、 高速AFMのフィードバック帯域を上げることを目的とする。 ■ 研究方法及び内容 弾性ヒンジをガイドにもつ構造のスキャナーを試作した(図1)。そのXY方向の周波数特性を図 2 に示す。20 kHz 以上に 共振が現れた。Zピエゾには、自己共振周波数 420kHz、最大変位 900nm(at 100V)をもつ積層型ピエゾ素子(3x3x3 mm3, NEC-Tokin に特注)を用いた。試料ステージ(1mm 直径の上面をもつ円錐台形状のガラス)を真空グリースを介して Z ピエ ゾ素子の上面に固定した。バランスを維持するために、カウンターバランス用のZピエゾ素子にダミーの試料ステージ(試料 ステージと等しい質量)を固定した。電力増幅器(M-2331, Mess-Tek)はそのZピエゾ素子(22 nF)を 1MHz まで駆動できる。 Zピエゾ素子の変位をモニターするために、カンチレバー探針を試料ステージ上面に接触させた。大気中における高いQ 値(~200)によって起こる遅い応答の問題を回避するために、カンチレバーは水に浸けた。カンチレバーの変位は以前開 30 180 20 120 10 60 0 0 -10 -60 振幅[dB] 位相[度] -20 -120 -30 -180 0 図1 試作したスキャナー 10 20 30 周波数 [kHz] 40 図2 XY方向の周波数特性 9 位相[deg] 振幅[dB] 発した光てこ光学系を用いて測定した [1]。このカンチレバーは、新たにオリンパスが開発したもので、水中共振周波数 大項目名 研究成果の詳細報告 800kHz、ばね定数 100~150pN/nm の特性をもつ [6]。カンチレバー探針は EBD 法により更に伸ばした。Zスキャナーのオ ープンループ及び全クローズドループ伝達関数は周波数解析装置(FRA-5096, NF 回路設計ブロック)を用いて測定した。 カンチレバーの水中での共振周波数は約 800kHz であるので、Zスキャナーの変位の信頼のおける測定はおおよそ 500 kHz までに限定される。 Zスキャナーのオープンループ伝達関数を図 3(曲線 a)に示す。共振のピークは 150kHz(Q=18)に見える。50kHz 付近に 見えるゲインの小さなこぶは Z スキャナーの構造共振によるものである。カウンターバランスなし(曲線 b)では、もっと大きな 振幅が現れる。カンチレバーのアクティブQ値制御は色々な目的のために最近利用されている。例えば、Q値を上げて探 針・試料間相互作用を高感度化したり [3]、Q値を下げてカンチレバーの応答速度を上げる [4] ことが行われている。この 技術は如何なる共振系にも適用可能である。制御されるべき共振系の出力信号を±90 度位相シフトさせ、そのゲイン調整 した信号をその共振系をドライブする信号に加算する。この加算はみかけの粘性抵抗を変化させ、その結果、Q値を増大、 或いは減少させる。この技術をZピエゾに適用するには、Zピエゾの変位を検出する必要があるが、それは困難である。 図3 Zスキャナーのオープンループ伝達関数 図4 アクティブダンピング制御のブロックダイアグラム Zピエゾの力学的応答は2次の伝達関数でよく近似できる。すなわち K ωp 2 G piezo s s 2 ωp / Q p s ωp 2 (1) ここで、 ωp 2πf p で、 f p はZピエゾの共振周波数、 Q p はZピエゾの共振振動のQ値、 K はピエゾへの入力電圧に対す る静的な変位の割合である。この入力・出力関係はこの伝達関数によってのみ決定され、その他の性質には依存しない。 それ故、Zピエゾの変位をモニターする代わりに、Zピエゾと全く同じ伝達関数で特徴付けられる或る共振系(擬Zピエゾ)か らの出力をモニターすることができる。我々は LCR 回路から擬Zピエゾを構成し、 1 / LC ωp 、 L / R 2 C Q p となるよう に調節した。共振周波数とQ値はそれぞれ、可変コンデンサ、及び、可変抵抗で合わせた。図4はアクティブダンピング制 御設計で用いられたブロックダイアグラムである。ドライブ信号(フィードバックループをかける場合には PID コントローラー の出力)を2つに分岐し、試料ステージ変位用Zピエゾ、及び、カウンターバランス用のZ’ピエゾを制御する。Q値を小さく するために擬Zピエゾ及び擬Z’ピエゾの出力を-90 度位相シフトさせる、それは最終的にはZピエゾ及びZ’ピエゾの自然 なQ値(約 18)を 0.5 まで減少させる。図3(上パネルの曲線 c)に示すように、このアクティブダンピングにより共振は完全に 消えた。更に、Zスキャナーの応答速度は著しく増大した(図5)。この測定では、時刻 150μs から Z スキャナーを 150kHz AC 信号によってドライブさせた。アクティブダンピングを作用させない場合には、セトリングタイム 38μs でZスキャナーはゆ っくり応答したのに対して、アクティブダンピングを作用させた場合にはセトリングタイム 1.1μs で素早く応答した。これらの セトリングタイム( τ)は関係式 τQ / πf p から予想される値と一致していた。 しかしながら、図3(下のパネル)で示すように、位相遅れはアクティブダンピングにより大きくなった。すなわち、45 度の位 相を与える周波数は 132kHz から 51kHz に減少した。Q=0.5 では伝達関数は G piezo s K / 1 s / ωp 2 (2) 10 大項目名 研究成果の詳細報告 図5 Zスキャナーの応答に及ぼすアクティブダンピングの効果 図6 Zスキャナーのオープンループ伝達関数、及び、 位相補償の効果 となる。従って、この位相遅れは逆伝達関数 G s K' 1 s / ωp 2 で補償することが可能である。この逆伝達関数は直列 に繋いだ2つの PD 回路で構成することが可能であり、その内のひとつは、クローズドループで動作させる場合には、もとも との PID コントローラに任すことができる。図4に直列に繋いだ2つの PD 回路による補償効果を示す。補償の結果、45 度の 位相遅れを与える周波数は 51kHz から 131kHz に増大し、ゲインは 180kHz までほとんど一定になった。しかし、位相補償 は周波数に比例してゲインを増大させるので、高次の共振振動が増大してしまう。我々はこの問題を、高周波(<1MHz)の 振動を抑制する Q 値の小さい擬アクチュエータをもつアクティブダンピングコントローラを追加することで解決した。ピエゾ 駆動増幅器に入り込む 1MHz 以上の周波数のノイズは直列に繋いだノッチフィルターにより除去した。このノッチフィルター で除かれる周波数帯域は真のピエゾ素子の第一次の共振周波数から十分離れているため、この一次周波数付近における 位相遅れはこのノッチフィルターでほとんど増大することはない。図7に、アクティブダンピングの有無におけるクローズドル ープ伝達関数の比較を示す。この測定において、PID 回路のセットポイント電圧をサイン波信号で変えた。各伝達関数の 測定において、PID コントローラのパラメータは最良のフィードバック条件が得られるように調整した。アクティブダンピングな しの場合のフィードバック帯域(45 度の位相遅れを与える周波数で定義)は 7kHz、アクティブダンピングありの場合で 29kHz、そして更にひとつの PD コントローラで位相補償を加えた場合で 50kHz であった。図8にフィードバック帯域の差を 像の差として示す。擬似AFM像(図8a、図8c)は、50nm の高さの変化に対応するセットポイントの矩形状変化に応答する カンチレバーの変位信号から構成したものである。図8b、図8d に時間軸に沿う像の断面を入力矩形波信号と一緒に示す。 アクティブダンピングなしの場合には、応答は非常に遅く矩形波信号は大きく歪んでいる。アクティブダンピング及び位相 補償ありの場合には、矩形波信号はカンチレバーの変位信号に十分再現されている。 図7 セットポイントを変動させた場合のクローズドル ープ伝達関数 図8 セットポイントを矩形変動させたときのカンチレバーの変位応答 11 大項目名 研究成果の詳細報告 ■ 研究成果 弾性ヒンジというオーソドックスな構造を利用して比較的剛性の高い高速スキャナーを製作できた。擬Zスキャナーを利用 した新考案アクティブダンピング法に逆伝達関数位相補償、及び、ノッチフィルターのよる高周波ノイズ除去を組み合わせ ることにより、Zピエゾ素子の共振を完全に除去し、Zスキャナーの帯域をZピエゾの共振周波数まで拡大することに成功し た。また、Zスキャナーの応答時間を 1.1μs まで短縮することができた。 ■考 察 本研究で、フィードバックループに含まれるデバイスの中でこれまで最も遅いデバイスであったZスキャナーの帯域を 150kHz 程度まで拡大することができた。更に拡大するにはピエゾ素子そのものをより共振周波数の高いものに置き換える 必要がある。しかし、共振周波数が高くなると自動的に最大変位が小さくなる。それ故、共振周波数の高いピエゾと低いピ エゾを組み合わせて二重フィードバックループとする方向に進む方向が考えられる。或いは、ピエゾ素子に頼らずに、例え ば共振周波数の高いカンチレバーに力を直接作用させ、共振周波数より低い周波数範囲で変位させることが考えられる。 XYスキャナーの変位の遅れも高速走査では問題となる。この遅れの主原因はピエゾ素子の静電容量(0.75μF)にあると 思われる。静電容量の小さいピエゾ素子(0.18μF)でスキャナーを試作したところ、遅れが改善されることが判明した。 2.フィードバック制御システムの開発 ■要 約 基板に緩く吸着した柔らかい試料をイメージングするに最も適した走査法は現在のところタッピング走査モード [7]である。 このモードでは、共振周波数で振動するカンチレバー探針で試料を叩く。従って、試料にはこの叩く力(タッピング力、縦方 向の力)と、X走査にともなう横方向の力がかかる。横方向の力はカンチレバーが十分高周波で振動し、且つ、フィードバッ クが高速に働いている限り、極めて小さいと考えられる。本プロジェクト開始以前の高速AFMでは、脆い試料であるアクチ ンフィラメントや微小管が走査中に徐々に壊れていった。大きなタッピング力が作用している可能性が高いが、それがどれ ほど大きいのかを実測することはできない。また、力の大きさはカンチレバーのばね定数、共振周波数、振幅などに依存す ると予測されるが、どのような定量的関係があるか定かでない。他方、フィードバック帯域も色々なパラメータに支配されて いるが [8]、この場合についても定量的関係が明らかにされていない。これらをまず理論的に考察し、諸パラメータを含む 定量的関係を明らかにした。タッピング力を弱くするためには、カンチレバーのばね定数を小さくする、カンチレバーの Q 値 を上げる、セットポイント(走査中に維持すべきカンチレバーの振幅)をその自由振動振幅に近づける、の 3 点が可能性とし てある。ばね定数を小さくすることは高速走査用カンチレバーでは既に限界に近付いている。Q 値を上げるとカンチレバー の応答が遅くなり、高速走査と両立しない。セットポイントを自由振動振幅に近づけると、走査中に試料の高さが急に低くな るところで探針は試料表面から離れてしまう。いくら離れても振幅( A )は自由振動振幅( A0 )を超えることはなく、エラー信 号( A As )は小さいまま飽和する [7]。フィードバックのゲインはこの飽和した小さいエラー信号に頼るので当然小さく、そ の結果探針が試料(或いは基板)表面に再着地するまでに長時間かかる。この現象をパラシューティングと呼ぶ。パラシュ ーティングの間の試料形状情報は完全に失われてしまう。本研究では、このパラシューティングの問題を解決するために新 しい PID 制御法を開発した [9]。ここで開発した制御法は、探針と試料間にかかる力に応じて PID 制御のパラメータの一部 を動的に変更するため、これを動的 PID 制御法と呼ぶことにする。この開発の成功によって、セットポイントに依存しないフィ ードバック帯域が得られ、高速走査と弱い探針・試料間相互作用とを両立できるようになった。実際、極めて弱いタンパク質 間相互作用をも乱さずにある程度の高速イメージングが可能になった [10]。 12 大項目名 研究成果の詳細報告 ■目 的 本研究では、タッピング走査モードにおけるフィードバック帯域、及び、探針が試料を叩く力の大きさを諸パラメータの関数 として理論的に求め、それにより、試料に優しい高速イメージング実現に必要な開発要素及びそのレベルを明らかにするこ とを目的とする。また、タッピング力を非常に小さくしても高速イメージングが可能になる新しいフィードバック制御法を開発 することを目的とする。これにより、脆い生体試料を壊さず、且つ、極めて弱いタンパク質間相互作用をも乱さずに高速イメ ージングできるようにする。 ■ 研究方法及び内容 (1)理論的考察 水中で共振振動しているカンチレバー探針が柔らかい試料にぶつかると、その撃力により試料は変形する。ここではこの 変形を、試料と探針との間に付着力がなく、静的に押し合う場合に適用できる Hertz の理論 [11]を第一近似として用いる。 半径 R1 、 R2 の弾性球(その材質のヤング率をそれぞれ、 E1 、 E 2 、また、ポアソン比を σ、 1 σ 2 とする)を力 F で押し付け 2 2 たときの接触領域半径 a とへこみ距離 δは、 R R1 R2 / R1 R2 、 D 3 / 4 1 σ 1 / E1 1 σ 2 / E 2 とおくと、それ ぞれ 1/ a RDF 3 (3) 2 δa / R (4) で与えられる。探針が試料にぶつかる直前のカンチレバーの力学的エネルギーは、衝突によりカンチレバーの運動エネル ギーがゼロになったときのタンパク質の変形による弾性エネルギーと、カンチレバーの弾性エネルギーに変換されると近似 的に考えられる。接触してから試料を押し込むまでの時間内に励振力がカンチレバーにした仕事や、外部に散逸したエネ ルギーは、この時間が極めて短いと考えられるので、これらのエネルギーをここでは無視する。溶媒の粘性抵抗により、カン チレバーの共振角周波数が ω0 から ω αω0 になるとすると、ぶつかる直前のカンチレバーの力学的エネルギー E は、 1 E k c A 2 1 α2 A0 2 α2 (5) 2 となる。ここで、 k c はカンチレバーのばね定数、 A0 は自由振動振幅、 A はぶつかる直前の振幅である。試料(弾性球)の 変形によるポテンシャルエネルギーは、 F U/ δより、 5/ 2 2 U δδ R/ D (6) 5 従って、 1 1 2 k c A 2 1 α2 A0 2 α2 U δ kc A δ 0 0 2 2 (7) ここで、 δ 0 は試料の最大へこみ距離であり、 A δ 0 は維持すべきカンチレバーの振幅(すなわち、セットポイント)である。 一般的な球状タンパク質のヤング率とポアソン比をそれぞれ、2x109 N/m2、0.25 とし、その半径を 20nm とし、我々が用いて いるカンチレバーの特性( ω2π800 kHz、 k c 100 pN/nm、 α0.4 )、探針先端の曲率半径 10nm、自由振動振幅 2.5nm を用いて、式(7)を数値計算し、試料に働く最大力をセットポイントの関数として求めると図 9 のようになる。 図7 図 9 セットポイントとタッピング力の関係 図8 図 10 セットポイントとフィードバック帯域の関係 13 図 11 振幅とフィードバック帯域との関係 大項目名 研究成果の詳細報告 次に、フィードバック帯域を考える。ここでは簡単のために、カンチレバー探針が走査中に試料表面から離れないという 条件を満たす最大のフィードバック周波数がフィードバック帯域であると定義して考える。空間周期 λをもつ試料を速度 V s でX走査すると、時間周波数 f s V s / λ に変換される。共振周波数 f c で振動するカンチレバーが1回振動する間にサイ ン波形状の試料の位相は θf s / f c 2πだけ進む。試料の最も急な勾配の手前で探針がセットポイントで接触してか ら1周期後の探針のX方向の位置が最も急な勾配の部分をまたぐとすると、そこに試料がなければ、 1 r A0 だけ下がった 位置に来る。ここで、 rA0 はセットポイントである。他方、このとき試料の高さは h sin θ/ 2 だけ下がる。ここで、 h は試料 の最大高さである。探針が試料面に接触するためには、 1 r A0 でなければならない。従って、 fs h sin θ/ 2 fc 1 r A0 sin 1 π h (8) (9) が成り立つ。この場合フィードバック周波数は f s と一致するので、フィードバック周波数は(9)式の右辺を超えることができな い。よって、右辺がフィードバック帯域を与える。ところで、本来のフィードバック帯域は周波数 f s に対して 45 度以下の位相 遅れを満たす範囲を指す。フィードバック走査はカンチレバーの振幅が読み取られてから掛かるので、カンチレバーの振 動の1周期分の遅れが常に存在することになる。この遅れは位相差 θとなるので、 θπ/ 4 でなければならない。従っ て、(9)式とこの条件を両方満たす部分がフィードバック帯域となる。カンチレバーの共振周波数、ばね定数をそれぞれ 800kHz、100pN/nm、試料の高さとカンチレバーの自由振動振幅の比 A0 / h を 1、或いは、2 とした場合のフィードバック の帯域を r =(セットポイント/自由振動振幅)の関数として求めると図 10 のようになる。図 11 には A0 / h のフィードバック 帯域に与える影響を示す。フィードバック帯域は、フィードバックループ内に他の遅延によって更に狭くなるはずである。こ の遅延時間をまとめて τとすると、フィードバック帯域の上限は、 fc / 1 f c τ 8 (10) で与えられることになる。カンチレバーの共振周期程度の遅延があると、上限は更に半分程度にまで落ちてしまう。 ■ 研究方法及び内容 (2)動的 PID 制御 走査中に維持すべきカンチレバーの振動振幅(セットポイント As )を自由振動振幅( A0 )に近づけると、試料の高さが 急に低くなるところで探針は試料から離れてしまう。どんなに大きく離れても、小さく離れても、エラー信号は A0 As 以上に はなれない。これをエラー信号の飽和という。この飽和値は非常に小さいので、この飽和値に PID の固定ゲインをかけたも のは小さく、試料を探針に近づけるのに長時間かかってしまう。この飽和の問題を解決すべく、PID のゲインを走査中に常 に一定に固定せず、探針・試料間の相互作用に応じて(すなわち、カンチレバーの振幅に応じて)動的に大きくする方法を 考案した [10]。ダイナミックオペレータと名付ける回路をエラー信号と通常の PID コントローラーの間に挿入した(図12)。こ のダイナミックオペレータは次のように働く(図13参照)。或る閾値レベル( Aupper )をセットポイントと自由振動振幅の間に 設定する。カンチレバーの振幅( A )が Aupper を越えるとき、その差信号( A Aupper )を増幅し、エラー信号に加算する。そ の付加的信号をもつエラー信号を通常の PID に入力する。この擬エラー信号(真のエラー信号より大きい)はより速いフィー 図12 ダイナミックオペレータを含むフィードバックループのブロックダイアグラム 14 図13 動的 PID 制御の原理を説明する図 大項目名 研究成果の詳細報告 ドバック動作を生じさせる。例え真のエラー信号が小さいレベルで飽和しても、それが飽和状態に留まっている時間は、擬 エラー信号によって著しく短縮する。従って、実際のところフィードバックが飽和することはない。エラー信号の同様の操作 は A が As より小さくなった場合にも適用できる。この場合、新しい閾値レベル( ALower )を As よりもある程度小さく設定する。 振幅 A が ALower よりも小さくなるとき、差信号( A - ALower )を増幅し、エラー信号に加算する。この操作は、カンチレバー 探針が試料を強く押すことを防ぐ(特に試料の高さが急に高くなるところで)。以上の操作で注目すべきは、エラー信号を見 かけ上大きくする操作は一時的であり、 A が2つの閾値レベルの間(セットポイント付近)にある場合には通常の PID 制御が 行われる点である。従って、一時的なフィードバックゲインの増大は、通常のフィードバックがゲインを上げすぎると発振して しまうのとは対照的に、発振を引き起こすことはない(もちろん、一時的に上げるゲインを大きくしない限りの話だが)。 以上説明したダイナミックオペレータは図14に示す回路で実現した。この回路は水平方向に3つの分岐をもつ。真のエ ラー信号は真ん中の分岐線を通過する。 Aupper As に対応する DC 信号は上の分岐の入力端子につながれ、そして、減 算器を通って、 A Aupper が出力される。この出力は増幅され(ゲイン g)、精密ダイオード回路を通り、そして、真のエラー 図14 ダイナミックオペレータの動作を実現する回路とその動作 信号に加算される。精密ダイオード回路は、ダイオード素子にもともとあるオフセットを補償したものである。最終出力、 L A Aupper g A As は通常の PID 回路に入力される。ここでオペレータ”L ” は、 L x x (if x>0)、もしくは、 L x 0 (if x 0)のように動作する。信号 A Aupper は信号 A と Aupper から直接作ることはできるけれども、この場合、 Aupper は As よりも大きくなければならないので、 Aupper は As を変更するたびに調節しなければならない。他方、我々が採 用 し た 方 法 で は 、 Aupper As に 対 応 す る 正 の DC 信 号 を As と は 独 立 に 調 節 で き る 。 擬 エ ラ ー 信 号 、 L A ALower g A As 、は同様にして下の分岐で作られる。 ここで、上のような方法で製作した動的 PID によるフィードバックの動作を通常の PID の動作と比較する。ここでは、実際 の AFM 装置(カンチレバーやスキャナー)を用いる代わりに、擬似 AFM 回路を用いてイメージングを行った。擬似 AFM に ついてはあとで述べる。擬似カンチレバーを 600kHz で振動させ、擬似試料表面を左から右へ 0.125mm/s(図15a)、 0.25mm/s(図15b,c,d)の走査速度で、2つの異なるセットポイントを設定して走査した。擬似試料は2つの異なる高さをもつ 4つの矩形ステップからなる。1つの高さはカンチレバーの自由振動振幅と等しくし、もうひとつはその2倍にしてある。通常 の PID 制御では、パラシューティングが著しく、走査速度を倍にするとトポグラフィー像はよりぼやけ(図15a と図15b を比 較)、セットポイントを 0.8 A0 から 0.9 A0 に増やすと更に悪くなった(図15b と図15c を比較)。他方、動的 PID を用いた場合 には、パラシューティングは小さく、トポグラフィー像は試料形状をかなり忠実に反映していた(図15d)。 セットポイント/自由振動振幅を 0.9 に固定し、カンチレバーの自由振動振幅を試料の最大高さの 0.5、0.25 倍としたとき のフィードバックのクローズドループ伝達関数を、通常の PID 制御と動的 PID 制御で比較した(図16)。通常の PID 制御に おいては、位相が 45 度ずれる周波数を見ると、前項で理論的に導かれたフィードバック帯域とよく一致している。また、動 的 PID 制御により大幅にフィードバック帯域が拡大していることが明瞭である。次に、セットポイントをパラメータとしてフィー 15 大項目名 研究成果の詳細報告 図15 擬似 AFM 装置を用いて得られた像、及び、動的 PID 制御と通常の PID 制御との比較 ドバック帯域を計測した結果を図17に示す。この測定では、セットポイントなどの与えられた条件下で最良の帯域が得られ るように PID 制御のパラメータをその度に調節している。それ故、若干データがばらついている。まず、通常の PID 制御では、 理論的に予測したとおり、セットポイントを上げていくと、あるところからリニアにフィードバック帯域が下がっていく。セットポイ ントが 0.95x 自由振動振幅である場合には、フィードバック帯域は 10kHz 以下にまで下がってしまう。それとは対照的に、動 的 PID 制御では、フィードバック帯域はセットポイントに依存しない。従って、例えばセットポイントが 0.95x 自由振動振幅の 場合では、動的 PID 制御は通常の PID 制御のフィードバック帯域を10倍近くまで増大させる。 フィードバック帯域の評価や帯域に与える諸パラメータの影響の検討といった作業を実際のカンチレバーやスキャナー を用いて行うことは効率が悪く、現実的ではない。そこでこれらの作業に便利な擬似AFM(Mock AFM)を開発した [9] (図18)。カンチレバーとZスキャナーを同じ共振周波数やQ値特性を持つ LCR 回路で模擬した。試料ステージとカンチレ バーとの接触によるカンチレバーの振幅の変化は、ダイオードを利用して模擬した。 図16 動的 PID 制御と通常の PID 制御におけるクローズドループ伝達関数の比較 図17 通常の PID 制御と動的 PID 制御のフィードバック帯域の セットポイント依存性。自由振動振幅/試料の最大高さは上の線 から下に向かって、1, 0.5, 0.25, 0.125 に設定されている。 16 図18 Mock AFM の回路構成 大項目名 研究成果の詳細報告 ■ 研究成果 振動するカンチレバー探針が試料に及ぼす最大の力(探針が試料を押し込んでいる間の平均の力は最大力の 25%程 度)は、セットポイントにほぼ逆比例して大きくなることが分かる。その大きさはセットポイントが 0.8 程度(最大振幅より 0.5nm だけ小さい)でもかなり大きくなることが分かる。10 pN 程度以下に力を抑えるには、セットポイントを 0.95×最大振幅以上に しなければならない。フィードバック帯域に対して、カンチレバーがその共振周波数の 8 分の 1 となる上限を与えることはこ れまで認識されていなかったので、この結果は重要な発見である。また、カンチレバーの自由振動振幅に対する試料の高 さの割合やセットポイントがフィードバック帯域に与える影響が定量的に示された。力の軽減化と高速走査の両立のために 何をすべきかの指針が得られたことは大きな成果である。通常用いられる PID 制御では、探針から試料に働く力を減弱させ るためにセットポイントを上げていくと、どんどんフィードバック帯域が下がってしまう。今回ここで開発した動的 PID 制御法で は、フィードバック帯域はセットポイントに依存しない。これは素晴らしい発見であった。図9に示したようにセットポイントを下 げていくと、探針から試料に働く力はどんどん大きくなってしまう。動的 PID 制御では、フィードバック帯域がセットポイントに 依存しないので、セットポイントを十分大きくすることが可能であり、それにより、探針から試料に働く力を大幅に小さくするこ とができる。 ■考 察 探針が試料に及ぼす力の軽減化を、セットポイントを自由振動振幅に近づけることで実現しようとすると、フィードバック帯 域がかなり落ちてしまうことが明らかになった。従って、通常の PID 制御のままでは、力の軽減化と高速走査の両立が困難 となることは明らかである。走査中のカンチレバーの振幅に応じて動的にゲインを調節する PID 制御法は今回開発した方 法以外にも考えられる。今回の方法では、真のエラー信号より大きな信号を通常の PID 回路に入力している。通常の PID 制御では積分成分が大半を占めており、若干の遅れがある。通常の PID とは別に PD 回路を設け、真のエラー信号より大き な信号をこの PD 回路にも入力し、その出力をもともとの PID 回路の出力に加算するという方法も考えられる。或いは、閾値 を数段に分けて、それぞれの閾値に応じたゲインを選ぶことも可能である。動的 PID 制御の性能を律する要因は、カンチレ バーの振動の振幅を与える電気信号のノイズである。従って、このノイズを下げる工夫も今後の課題である。 3.高速走査用カンチレバーの開発 ■要 約 高速走査用カンチレバーの開発はオリンパスが行い、金沢大はそれを評価しそれをオリンパスにフィードバックした。で きるだけ共振周波数が高く、且つ、ばね定数の小さいカンチレバーの開発を目指した。高速 AFM を用いてカンチレバーの 大気中及び水中における熱揺らぎのパワースペクトルを測定し、そのスペクトルから共振周波数とばね定数を求めることで 評価した。 ■目 的 高速イメージングで要求される共振周波数が高く、ばね定数の小さいカンチレバーの製作技術を構築することを目的と する。 ■ 研究方法および内容 カンチレバーは半導体プロセスにより、シリコン基板表面に数十μmの段差を設け、レバーや探針を減圧 CVD(Chemical Vapor Deposition)法による低応力の窒化シリコン膜により一体形成し、シリコン基板の裏面側からシリコンが貫通するまでエ 17 大項目名 研究成果の詳細報告 ッチングし、支持部(チップ)を形成した[6]。 従来の窒化シリコン製カンチレバーと同等以上の尖った探針先端を得る為のポイントは低温熱酸化処理プロセスである。 窒化シリコンは酸化し難い材料として知られているが、拡散炉に入れ水蒸気を流しながら950℃で熱処理すると僅かである が表面が酸化する。表面保護膜エッチングの際、この酸化膜をフッ酸により除去することにより窒化シリコンの探針先端を 先鋭化する方法を検討した。まず、探針形状(頂角)や酸化温度をパラメータとし実験を行なった。低温熱酸化処理を施さ ない時(酸化時間=0分)から熱酸化処理時間を長くしてゆくと、探針部先端の曲率半径は小さくなることが確認された。マ スクの頂角が 10 度の場合を例に取ると、酸化処理をしない場合 60nmに留まっていた探針曲率半径が、酸化処理を 1000 分施すことにより 30nm以下までに先鋭化されていた(図19)。先鋭化のメカニズムを調べるため、低温熱酸化による窒化シ リコン膜表面組成の変化をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy: ESCAとも呼ばれる)によって分析した(図2 0)。縦軸が原子濃度、横軸がスパッタ時間であり試料面からの深さに対応している。 [Si]と[N]の元素で構成される窒化シ リコン膜表面に[O]元素が検出され、窒化シリコン膜が酸化されていることが確認できた。以上の観察より、窒化シリコンパタ ーンの表面近傍のシリコン原子は、熱酸化処理により雰囲気中の酸素と結び付き酸化シリコン膜もしくは酸化窒化シリコン 膜となるが、酸化が不均一に進むことによりあとのフッ酸エッチング後に現れる形状はテーパ状となると判断される。 Radius of tip apex (nm) 100 10deg. 14deg. 24deg. 80 60 40 20 0 0 200 400 600 800 1000 Thermal oxidation time (min) 図19 先鋭化処理時間と探針曲率半径 図20 窒化シリコン膜の表面酸化の時間経過 次にレバー長の制御技術についてプロセス開発を行なった。従来の製法において、レバー長はシリコン基板の表裏面 の合わせズレや基板貫通エッチング時のばらつきによって、±5μm程度の変動があった。この変動は本高速カンチレバ ーには致命的な要因となるため、ばらつき要因の影響が無く、レバー長を決定できるプロセスを構築した。シリコン基板の 表面側からレバー固定端を決定し、その後に基板を貫通させるプロセスを行なった。レバー直下のシリコンを除去し、レバ ー固定端からシリコンの面方位(111)面の傾斜面を形成し、AFM 装着時に、レーザ光を微小なカンチレバー上に照射し易 い構造に設計した。しかしシリコン基板を裏面側から貫通する際、表面側のレバー直下の(111)傾斜面をいかに保護する かが大きな課題であった。そこでコンフォーマルに膜を形成可能な減圧 CVD 法を用いて、レバーやレバー直下のシリコン 面をアルカリ溶液から保護する方法を用いた。この結果、表裏面の合わせズレやエッチングばらつきの影響を受けずに、レ バー固定端が決定でき、±1μm程度のばらつきに抑える事が確認できた。 試作したカンチレバーの力学的特性の評価を以下のように行った。我々の高速AFM装置にカンチレバーをセットし(探 針には何も接触させない)、センサー出力を A/D 変換する。そのデータをパソコンに取り込み、FFT プログラムでパワー R=17nm 9μm (A ) (C (B ) ) 2μm 図21 試作したカンチレバー、探針の電顕写真 18 大項目名 研究成果の詳細報告 スペクトルを求めた(図22)。次に、カンチレバー探針を基板に接触させてバックグラウンドのパワースペクトルを求め、それ 2 を上で求めたスペクトルから差し引く。ばね定数は、パワースペクトルの2乗を積分し、 X を求め、それからばね定数 k c を、 k c k B T / X 2 の関係式から求めた。ここで、 k B は Boltzmann 定数、 T は絶対温度である。この例では、大気 中共振周波数 2.2MHz、水中共振周波数 0.9MHz、ばね定数 126pN/nm である。 図22 カンチレバーの熱揺らぎのパワースペクトルの例 ■ 研究成果 探針部をレバー部先端に集積化するプロセスを開発した。図21A、21B に試作したカンチレバーの一例を示す。この例 では、レバー長 9μm、レバー幅 2μm、レバー厚さ 0.13 である。開発したカンチレバーは、バーズビーク形状をしている探 針部も含め、全ての構造をバッチプロセスにより作製した。探針先端の曲率半径は最も尖ったもので17nmであり、探針長 も約1μmとすることができた(図21C)。 ■考 察 低温熱酸化プロセスにより探針先端曲率半径は 17nm まで低減することができた。今後窒化シリコン探針のさらなる先鋭 化が必要と考えるが、EBD 法による探針形成を電顕で高速成長させ、更に、プラズマエッチングのバッチ処理で先鋭化す る方法も有効である。また、CNT 探針をカンチレバーにバッチ形成する究極的方法も考えられる。 4.探針形成の最適化 ■要 約 EBD 法を用いて探針を形成し、それを更に尖鋭化するためにプラズマエッチング法を検討した。アルゴンガスの圧力、 放電電圧、処理時間といったパラメータを振って、先鋭化に最適な条件を求めた。その結果、元々の先端曲率半径 10~ 15nm を 4nm まで小さくすることができた。プラズマエッチング法は大量のカンチレバーをバッチ処理できる方法であり、近い 将来高速走査用カンチレバーを市販化に向け大量生産するに当たって有効な方法である。 ■目 的 オリンパスが今回開発したカンチレバー[6]にはバーズビーク型の探針が一応付いているが、その先端は十分に先鋭化 されているとは言えず、電子顕微鏡を用いて EBD 探針を更に形成させる必要がある。しかし、通常の電子顕微鏡の試料室 の環境では EBD 探針の成長速度は遅く、電子顕微鏡のドリフトの影響を受け易い。将来効率よく EBD 探針を短時間で形 成させるためには、電子顕微鏡の試料室の中でカンチレバーが局在する位置に外部から素材となるガスを導入する必要 19 大項目名 研究成果の詳細報告 がある。しかし、この方法では探針は極めて太くなるという欠点を抱えており、形成後に先鋭化処理を行う必要がある。その 先鋭化に大量処理が容易なプラズマエッチング法が有効かどうかを検討することが本研究の目的である。 ■ 研究方法および内容 EBD 探針には走査電子顕微鏡(SM-520 トプコン)を用い、その先鋭化にはプラズマエッチャ(盟和商事、PE-2000)をもち いた。エッチングのための導入ガスはアルゴンである。圧力 180mTorr、電力 10W の条件下でエッチングした結果を図18に 示す。左4枚は処理時間の効果を示している。処理時間 8min くらいが適当で、それ以上処理すると EBD 形成時のドリフト の影響が表に出てしまう(スケールバー、 33nm)。図23a、図23b はそれぞれ、フラット型カンチレバーに付けた EBD のエッ チング処理前と 8min 処理後を示す(スケールバー、200nm)。図23c はバーズビーク型カンチレバーに付けた EBD 探針を 先鋭化処理したあとのものである(スケールバー、200nm)。 図23 探針のエッチング効果を示す電子顕微鏡写真 ■考 察 今回の EBD 探針は電子顕微鏡試料室にガス導入は行わず、コンタミネーションしているガス分子を利用している。それ 故、探針の成長速度は遅く、ドリフトの影響を受け易い。その結果エッチングしていくとドリフトにより曲がった探針が現れて きてしまう。また、コンタミネーションのガスは真空ポンプオイルから出ているものでその成分はカーボンや珪素であり、それ らを素材にした探針は丈夫ではない。それ故、先端曲率半径を 4nm 程度以下にすることは難しい。今後は丈夫な素材とな りうるタングステンカルボニールなどのガスを電子顕微鏡試料室に導入する必要がある。 5. 新しい励振法の開発 ■要 約 従来の音響励振法に代わり、カンチレバーに直接力を及ぼす新しい励振法を検討した。先端の尖ったホーンをカンチレ バーの極近くに設置し、そのホーンの振動をカンチレバーに伝える方法をオリンパスが試みたが、結局うまくいかなかった。 その原因は、ホーンの振動が周りの液体全体に伝わり、液・空気境界面で反射する結果、境界面の形状の変化によって励 振効率が変動してしまうことによる。また、直接力を伝えることは無理であることが判明した。そこで金沢大では熱膨張を利 用する第2の方法を検討した。熱源として 405nm のバイオレットレーザを用いた。カンチレバー(窒化シリコン製)の片面は 金でコートされているが、金は窒化シリコンより熱膨張率が数倍大きく、熱により屈曲しえる。実際に測定したところ、水中に 在るカンチレバーの共振周波数(約 800kHz)において通常のタッピングモードで使う振幅より十分大きく振動した。従って、 この新しい励振法は使えることが分かった。熱膨張であるので、応答が遅いことが考えられるが、実際に測定したところ、6.4 μs(156kHz の周波数)であった。すなわち、156kHz の一次ローパスフィルターを介して 800kHz でカンチレバーを共振さ せることになり、効率は悪いが実用上問題はないと思われる。 ■目 的 カンチレバーを励振するために通常使われている音響励振法では、カンチレバーホルダー近傍に設置したピエゾ素子 を振動させ、その振動が色々な部分を通って最終的にカンチレバーに伝わる。その結果、カンチレバーの共振周波数以 20 大項目名 研究成果の詳細報告 外のいくつかの周波数で共振させてしまうことが起こる(これを Forest of Peaks と呼ぶ)。この場合、カンチレバーのQ値を制 御することが不可能である。実際この問題を解決すべく、カンチレバーに強磁性体を付け、電磁コイルで励振させる方法が 既に開発されている [12]。しかし、この方法ではカンチレバーの質量が大きくなり共振周波数が下がるので、高速走査に 用いることはできない。本研究の目的は、カンチレバーを修飾せずに力を直接作用させることのできる新しい励振法を見出 し、それにより Forest of Peaks を解消し、カンチレバーのQ値制御(特に、Q値を下げる制御)を可能にすることにある。 ■ 研究方法および内容 20MHz くらいまで強度変調できる最大パワー20mW のバイオレットレーザ(波長 405nm、特注品、デジタルストリーム社) を用いた。まず、この波長を微小カンチレバーに導くために AFM ヘッド内のダイクロイックミラーなどを 405nm 仕様に変更し た。次に、ステップ状の熱供給・遮断に対するカンチレバー(水中)の応答を観察するために、レーザに矩形波を入力したと ころ、熱供給と遮断の両方でほぼ同じ減衰応答が観察された(図24)。これを単一指数関数にフィットして緩和時間を求め たところ 6.4μs(156kHz)が得られた。このフィッティングは緩和曲線全体でほぼ成り立っており、従って、カンチレバーは熱 に対して 156kHz の一次のローパスフィルタとして振舞うことが分かった。次に、レーザに供給する変調信号を振幅を一定 図24 Laser の on-off によるカンチレバーの変位応答. 図25 カンチレバーの振動スペクトル. に保ち(レーザ出力約 5mW)、周波数を 1kHz から 10MHz までスウィープしたところ、図25b に示すカンチレバーの振動ス ペクトルが得られた。ローパスフィルタの効果のため、共振のピークははっきりしないが、600kHz 付近にショルダーが観察さ れる。この位置はこのカンチレバーの熱揺らぎのパワースペクトルのピークに一致していた。そこで、ローパスフィルタの効 果を除去するために、得られたスペクトルをローパスフィルタのゲインで割ったところ、図25a に示すようにはっきりした共振 のピークが現れた。低周波における最大振幅は約 20nm で、共振周波数での振幅も約 20nm になっている。共振点で振幅 が大きく現れない原因としては、実際のローパスフィルタが単一の時定数をもつ1次ローパスフィルタになっていないことが 考えられるが、いまのところはっきりしない。ローパスフィルタの共振周波数におけるゲインは約 0.25 であるので、共振点に おいてカンチレバーは約 5nm の振幅で実際に振動していることになる。図25c にはピエゾの振動を用いた音響励振による スペクトルを示す。Forest-of-Peaks が現れている。 ■ 研究成果 バオイレットレーザがカンチレバーを熱膨張させ、変調周波数が低い場合には 20nm の振幅(5mW レーザパワーで)が容 易に得られることが判明した。また、熱膨張の応答は意外に速く、156kHz もあることが分かった。これはカンチレバーが微 小であるため熱容量がかなり小さいためであると考えられる。20mW のレーザをカンチレバーに当てれば、共振点において も最大 20nm 程度の変位が得られ、ここで試みた光による熱膨張法は新しい励振法として十分使えることが判明した。 ■考 察 微小カンチレバーの熱応答が予想外に速く(156kHz)、低周波側において 20mW のレーザパワーで 40~80nm 変位する ことから、カンチレバーをZスキャナーとしても使える可能性がある。但し、熱応答は一次のローパスフィルタとして振舞うの 21 大項目名 研究成果の詳細報告 で、一次の位相補償が必要になる。現状のZスキャナーの帯域も 150kHz 程度であるので、カンチレバーをZスキャナーとし て現時点で使う必要性はないが、高速走査用微小カンチレバーのサイズが将来もう少し小さくなることを考えると、Zスキャ ナーとして本当に利用することを検討する価値があると思われる。熱膨張を積極的に利用するのであれば、金コートは最良 とは言えない。もっと熱膨張係数の大きな金属(例えば、銀やインジウム)を使えば、もっと大きな変位を得ることが可能であ ろう。レーザによる熱膨張を利用して水中に在るカンチレバーのQ値を下げるQ値制御が可能であるかどうかは未だ検討し ていないが、現状のQ値が水中で 2-3 であるので、Q値を理想の 0.5 まで下げられれば、応答速度を 4-6 倍上げることが可 能になる。 6.システム全体のデザインと製作 ■要 約 高速 AFM を製品化するためには、試験販売により市場情報、ユーザー動向などを調査する必要がある。高速 AFM のハ ードウエア(装置本体や電気回路部)に関しては、金沢大がこれまで開発したものを手直しするだけで試験販売に耐えうる 性能を実現できた。ソフトウエアについては、描画速度(フレームレート)の極端な違いから従来の製品のソフトウエアが流 用できず、操作性、拡張性に関して様々なユーザーに対応できるレベルになかった。そこで試験販売に向けて、操作性と 拡張性に優れた動画取得・表示ソフトウエアを製作した。このソフトウエアによって、動画観察に必要とされる主な機能を満 たすとともに、従来、動画観察が可能であった生物用走査型レーザ顕微鏡の既存製品に近い操作性を実現できた。また、 各種機能の切替をタブ方式にすることによって、新しい機能の追加が容易になった。 ■目 的 市販化に向けてハードウェアを手直しするとともに、操作性と拡張性に優れた高速 AFM システムの動画取得・表示ソフト ウエアを製作することを目的とする。 ■ 研究方法および内容 ハードウェアについては既に開発したシステムを手直ししたが、基本的には大きな変更がないので、ここでは一切触れず、 ソフトウェアについてのみ述べる。高速 AFM の動画観察に必要とされる主な機能は、フレームレートや走査速度の設定、 走査範囲の設定、観察解像度の設定、動画観察データの保存である。この中でも特に重要なのが動画観察データの保存 である。今回製作したソフトウエアでは、観察データの保存方法として PC の RAM を用いたリングバッファ方式を採用し、観 察後に必要な領域だけを切り取って保存できるようにした。また操作性については生物用走査型レーザ顕微鏡の既存製 品を参考に、動画観察に適した GUI を設計した。さらに、保存された動画データの編集機能、カンチレバーの振動特性を 調べる FFT 解析機能を設け、これらの機能をタブ方式によって切り替え可能とした。 ■ 研究成果 研究で製作したソフトウエアを図26、図27に示す。図26は動画観察機能の GUI である。また、図27は動画データ編集 機能の GUI である。これらの機能はタブによって切り替えられる。このソフトウエアによって、フレームレートや走査速度の設 定、走査範囲の設定、観察解像度の設定、入力レンジの切替、2ch 同時表示、リングバッファ方式による動画観察データの 保存が可能となった。また生物用走査型レーザ顕微鏡の既存製品に近い操作性を実現できた。さらに、保存された動画デ ータの再生、擬似カラー表示などの動画編集が可能となった。加えて、タブ切替方式の採用によって新しい機能の追加が 容易になった。 22 大項目名 研究成果の詳細報告 図26 動画観察機能の GUI 図27 動画編集機能の GUI ■考 察 本研究で製作したソフトウエアには、画像処理・解析系の機能が設けられていない。高速 AFM の観察データは動画デ ータとなるため、静止画用の画像処理・解析ソフトウエアのアルゴリズムとは全く異なるものになる。今後は、試験販売によっ て得られたユーザニーズに基づいてこれらの機能を付加しいく。 7. トランジェント法の導入 ■要 約 タンパク質に基質などが作用した直後に起こるタンパク質の変化を捉えるために、基質などを光感受性色素に共有結合 させてその基質を不活性化させておき、光照射によりその共有結合を切って活性のある基質の濃度を短時間に上げる方 法が利用されている。このように不活性化したものを一般に Caged 化合物と呼ぶ [13]。本研究では、この Caged 化合物を 利用してタンパク質が基質を結合した直後のトランジェントな変化を高速AFMでイメージングする技術を開発した。Cage 解 除には 355nm のパルスレーザを用いた。この解除の効率は照射する紫外光の強度に依存するが、強い紫外線を照射する とカンチレバーは大きな振幅で振動し、探針が壊れてしまう。カンチレバーを大きく振動させることなく、Cage 解除に十分な 紫外光を高速イメージングを乱さないように照射する工夫が要求された。色々な条件を検討した結果、適切な条件を見出 すことができた。ここで開発した方法を Caged-ATP に適用し、ミオシンVやアクチン・ミオシンVが ATP を結合する前後の変 化をイメージングすることができるようになった。 ■目 的 タンパク質などの生体分子の機能動態を撮影する場合、ブラウン運動が重なった変化を捉えることになる。従って、非常 に大きな構造変化が起こらない場合には機能動態とブラウン運動を識別することが難しい。また、例えば ATPase 反応に伴 う機能動態を捉える場合、ATPase 反応が速ければ、その機能動態を繰り返し観察することができる。しかし、そうでない場 合にはたまにしか起こらない現象を捉えるしかなく、観測が困難になる。本研究はこれらの困難を克服するために、Caged 化合物を利用して反応直後のトランジェントな変化を高速AFMで捉える手法を開発することにある。 ■ 研究方法および内容 まず、波長 355nm の紫外線をカンチレバー探針直下にある試料領域に導入できるように、高速AFMヘッドの光学系を 23 大項目名 研究成果の詳細報告 変更した。Cage 解除には大きなエネルギーをもつ紫外線パルスが必要であるので、最大 20Hz で発振できるパルスレーザ (波長 355nm、7mJ)を最初検討した。しかし、この大きなエネルギーを単発で導入するとカンチレバーは大きな振幅で激し く振動してしまった。この振動で探針は基板に激しくぶつかり破損した。そこで、パルスレーザの発振周波数を大幅に上げ (50kHz 程度)、単パスル当たりのエネルギーを小さくする方向で検討した。パルス数×単パルス当たりのエネルギーは Cage 解除に必要な大きさに保った。この場合でも光照射によりカンチレバーは 50nm 程度変位した。そこで、紫外線照射を イメージングには関係しないY方向の戻り走査中に行うと同時に、この照射中に試料をカンチレバーから 50nm 以上一時的 に遠ざけておくためのタイミング装置を開発した。図28にそのブロックダイアグラムを示す。 図28 紫外線パルス照射及び試料ステージ一時退避のためのタイミング発生装置のダイアグラム GroES が ATP に結合した GroEL にのみ結合することを利用して [14]、上記の方法の有効性を確認した。GroEL をマイ カ基板に高密度で吸着させ、GroES を Caged-ATP(100μM)とともに溶液中に浮遊させておき、紫外線照射の直後に GroES が GroEL に結合していく様子を観察した(図29)。紫外線照射領域に生成された ATP はその近傍にある GroEL に 結合するとともに、結合しなかった ATP は直ぐに拡散し照射領域内の ATP 濃度は直ぐに低下する。ATP 加水分解には 10 秒ほどかかるため [14]、それ以内の時間に再度紫外線パルスを照射すると、新たに ATP が結合した GroEL に GroES が 結合する。 図29 Caged-ATP から ATP を放出する前後の GroEL-GroES の AFM 像。フレーム14及びフレーム2 3のY方向の戻り走査時に紫外線パルスを照射。フレーム速度は1フレーム/s. 8. バイオイメージング ■要 約 ここで開発した高速 AFM イメージング装置が生体分子研究に有効であることを示すために、いくつかの試料系(ダイニン C、ミオシンV、アクトミオシンV)のナノ機能動態をイメージングした。ダイニンCはクラミドモナス軸糸から精製したもので、国 立情報通信技術研究所の大岩研究室から提供を受けた。ミオシンV [15]、アクチンはそれぞれひよこ脳、うさぎ筋肉から調 製した。本研究による高速AFMの改良以前では、アクチンフィラメントや微小管を壊すことなく高速イメージングすることは できなかった。探針から試料に働くタッピング力を軽減する改良、及び、フィードバック帯域を上げるためのいくつかの改良 によって、これらの試料を壊すことなくイメージングできるようになった。壊さないばかりでなく、弱いタンパク質間の相互作 用をも乱さずにある程度の高速イメージングも可能になった。ダイニンCでは ATPase 反応に伴うステム部分の運動を観察 できた。アクトミオシンVでは、2 分子のミオシンVと相互作用するアクチンフィラメントが一方向にステップ状に運動する様子、 24 大項目名 研究成果の詳細報告 及び、その間作用しているミオシンVも明瞭に観察することができた。このようなタンパク質分子機械の運動が実空間でリア ルタイムに観察できたのは世界で初めてのことであり、高速AFMによるタンパク質分子機械のナノ機能動態の観察がその 機能解明に大いに貢献する技術であることを実証することができた[11]。 ■目 的 現在は観察試料系の機能解明を高速AFM技術で行うという段階ではなく、むしろ、観察を通して装置などの問題点の 発見や、試料系に求められる条件を見出すことが本研究のひとつの目的である。また、タンパク質の機能動態映像を通し て改良した高速AFMが生命科学研究に有効な装置であることを示すことも大きな目的である。 ■ 研究方法および内容 ダイニンCの電子顕微鏡写真は 2003 年に Burgess らによって撮られている [16]。彼らは、ヌクレオチドが存在しないとき(ア ポ状態)と ADP・Vi が存在するときの像を比較し、ストーク(その先端は微小管と結合)とステム間の角度が異なることを見出 した。この変化が実際に起こっているかどうかは定かでないが、この運動が微小管を滑らす原動力になっていることを提案 した。ADP・Vi 状態は ADP・Pi 中間体状態を模擬すると言われ、他の ATPase でも広く利用されている。しかし、実際の ATPase サイクル中で ADP・Vi 状態と同じ状態が出現するかどうか確認された例は存在しない。それは、実際の ATPase サ イクル中の状態を時間を追って追跡することはこれまでの観察技術では不可能であったからである。そこで、我々は、ATP が存在する状態でダイニンCがどのように振舞うかを高速AFMでイメージングすることにした。まずその前に、Burgess らの 観察結果を高速AFMで確認することから始めた。アポ状態と ADP・Vi 状態では確かにストーク・ステム間の角度は異なっ ていた。多数の分子の像で角度を計測した結果をヒストグラムにしたものを図30に示す。アポ状態での角度の平均は 138 度で、ADP・Vi 状態では 158 度であった。この結果は Burgess らの結果とほぼ一致した。次に実際に ATP が存在するとき の動態を高速AFMで撮影した。ダイニンCのステム部分はリング状のヘッドに一部分巻き込まれて存在しているようで、イ メージング中に解かれて外に飛び出て激しく運動することがあった。しかし、図31に示すように、ステムが2つの位置を交互 する様子も観察された。この2つの位置におけるステム・ストーク間の角度は、138 度と 183 度であった(図32)。前者はアポ 状態の角度と一致するが、後者は ADP・Vi 状態よりも更に大きい。 図30 Apo 状態と ADP・Vi 状態におけるダイニンCのステム-ストーク間の角度 図31 ATP存在下で動くダイニンCのAFM像。数字はフレー ム番号。イメージング速度は 160ms/Frame。 図32 ATP 存在下におけるステム-ストーク間の角度変化 25 大項目名 研究成果の詳細報告 ミオシンV-アクチン系については色々な観察を行っているが、ここではその一例を紹介する。ミオシンVをマイカ基板に 比較的まばらに緩やかに吸着させてからアクチンフィラメントをそこに載せた。この場合、アクチンフィラメントも基板に若干 吸着するので、その運動は妨げられる。また、アクチンフィラメントは走査範囲よりも通常長いので、走査範囲外のミオシンV とも相互作用している可能性が高く、アクチンフィラメントが運動してもどのミオシンV分子によってその運動が引き起こされ たのか判断することは難しい。幸い走査範囲に全長が入る短いフィラメントの運動を観察することができた(図33)。このフィ ラメントには 2 分子のミオシンVが相互作用し、且つ、それぞれの片方の頭部のみが相互作用していた。アクチンフィラメント が結合したあとしばらく一方向に運動しなかったが、その後ステップ上に左方向に運動した。運動の瞬間は速く、そのとき のミオシンVの様子は 160ms/Frame のイメージング速度ではしっかりと捉えきれない。しかし、アクチンフィラメントの運動中、 所謂レバーアームがスウィングしているようには見えなかった。アクチンフィラメントにただ接触しているだけのように見える。 図は2つのミオシンV分子が相互作用している部分を拡大し立体像として示している。 図33 2分子のミオシンVと相互作用し左方向に動くアクチンフィラメントを捉えたAFM像。数値はフレーム番 号。フレームレートは 160ms/フレーム。 ■ 研究成果 本研究プロジェクト開始以前では高速イメージングはできても脆い試料系を壊さずにイメージングすることはできなかった。 装置の大幅な改良により、タンパク質試料を壊さずにイメージングできるようになったことは大きな成果である。ATP 存在下 で結合・解離しうるミオシンV・アクチンフィラメント間の相互作用は極めて小さいと思われるが、その相互作用を乱さずに比 較的高速にイメージングできたことは装置の性能が大幅に向上したことを如実に示している。 ■考 察 この報告には述べていないが、タンパク質系のイメージングの前段階として基板表面の改変を色々試みた。特に、基板 に固定したアクチンフィラメントに沿って運動するミオシンVが連続的に運動する様子を捉えるために、アクチンフィラメント だけを基板に選択的に固定するための基板表面の処理を手作業で色々試みた。しかし、処理により基板にほこりが付いて しまったり、基板表面が荒れてしまったりして成功しなかった。基板表面の改質・修飾にはクリーンブース、蒸着装置、LB膜 作成装置などの設備が必要であると実感した。今後高速AFMが生命科学に貢献するためには、基板表面の処理法を確 立する必要がある。 ■ 引用文献 1.T. Ando, N. Kodera, E. Takai, D. Maruyama, K. Saito and A. Toda:「A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules」.Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 12468-12472 (2001) 2. T. Ando, N. Kodera, E. Takai, D. Maruyama, K. Saito and A. Toda:「A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. Jap. J. Appl. Phys.41, 4851-4856 (2002). ¨ ´ 3. R. D. Ja ggi, A. F.-Obrego n, P. Studerus, and K. Ensslin: 「Detailed analysis of forces in fluencing lateral resolution for Q-control and tapping mode」. Appl. Phys. Lett. 97, 135-137 (2001). 4. T. Sulchek, R. Hsieh, J. D. Adams, G. G. Yaralioglu, S. C. Minne, and C. F. Quate, J. P. Cleveland, A. Atalar, and D. M. Adderton:「High-speed tapping mode imaging with active Q control for atomic force microscopy」. Appl. Phys. Lett. 76, 1473-1475 (2000). 5. N. Kodera, H. Yamashita, and T. Ando:「Active damping of the scanner for high-speed atomic force microscopy」. Rev. Sci. Instrum. (in press). 6. M Kitazawa, K. Shiotani and A Toda:「Batch Fabrication of Sharpened Silicon Nitride Tips」. Jpn. J. Appl. Phys. 42, 26 大項目名 研究成果の詳細報告 4844–4847 (2003). 7. C.A.J. Putman, K.O. Van der Werf, B.G. de Grooth, N.F. van Huist, and J. Greve:「Tapping mode atomic force microscopy in liquid」. Appl. Phys. Lett. 64, 2454-2456 (1994). 8. T. Sulchek, G. G. Yaralioglu, C. F. Quate, and S. C. Minne:「Characterization and optimization of scan speed for tapping-mode atomic force microscopy」. Rev. Sci. Instrum. 73, 2928-2936 (2002). 9. N. Kodera and T. Ando:「An atomic force microscope capable of high-speed imaging of fragile biological samples in solution」. (in preparation). 10. T. Ando, N. Kodera, Y. Naito, T. Kinoshita, K. Furuta, and Y.Y. Toyoshima:「A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. ChemPhysChem 4, 1196-1202 (2003). 11. B. Leroy:「Collision between two balls accompanied by deformation: A qualitative approach to Hertz's theory」. Am. J. Phys. 53, 346-349 (1985). 12. W. Han, S.M. Lindsay and T. Jing: 「A magnetically driven oscillating probe microscope for operation in liquids 」. Appl. Phys. Lett. 69, 4111-4113 (1996). 13. J.A. McCray, D.R. Trentham:「Properties and uses of photoreactive caged compounds」. Annu. Rev. Biophys. Biophys. Chem. 18:239-70 (1989). 14.H.S. Rye, A.M. Roseman, S. Chen, K. Furtak, W.A. Fenton, H.R. Saibil, A.L. Horwich:「GroEL-GroES cycling: ATP and nonnative polypeptide direct alternation of folding-active rings」. Cell 97, 325-38 (1999). 15. T. Sakamoto, I. Amitani, E. Yokota, and T. Ando:「Direct Observation of Processive Movement by Individual Myosin V Molecules」. Biochem. Biophys. Res. Commun. 272:586-590 (2000). 16. Burgess SA, Walker ML, Sakakibara H, Knight PJ, Oiwa K.:「Dynein structure and power stroke」. Nature 421,715-718 (2003). ■ 成果の発表 原著論文による発表 国内誌(国内英文誌を含む) 該当なし 国際誌 1. N. Kodera, H. Yamashita, and T. Ando:「Active damping of the scanner for high-speed atomic force microscopy」. Rev. Sci. Instrum. (in press). 2. N. Kodera, T. Kinoshita, T. Ito, and T. Ando:「High-resolution Imaging of Myosin Motor in Action by a High-speed Atomic Force Microscope」. Adv. Exp. Med. Biol. 538:119-127 (2003). 3. R. Ishikawa, T. Sakamoto, T. Ando, S. Higashi-Fujime and K. Kohama:「Polarized Actin Bundles Formed by Human fascin-1: Their Sliding and Disassembly on Myosin II and Myosin V in vitro」. J. Neurochem. 87:676-685 (2003). 4. T. Ando, N. Kodera, Y. Naito, T. Kinoshita, K. Furuta, and Y.Y. Toyoshima:「A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. ChemPhysChem 4:1196-1202 (2003). 5. M Kitazawa, K. Shiotani and A Toda:「Batch Fabrication of Sharpened Silicon Nitride Tips」. Jpn. J. Appl. Phys. 42, 4844–4847 (2003). 6. T. Ando, N. Kodera, E. Takai, D. Maruyama, K. Saito and A. Toda:「A high-speed Atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. Jap. J. Appl. Phys.41:4851-4856 (2002). 原著論文以外による発表(レビュー等) 国内誌(国内英文誌を含む) 27 大項目名 研究成果の詳細報告 1. 安藤敏夫:「最新機器の挑戦 高速原子間力顕微鏡」 化学 59(9):42-43 (2004). 2. 安藤敏夫、古寺哲幸:「生体分子のナノ動態撮影 - リアルタイム AFM -」バイオインダストリー 21(6):10-19 (2004). 3. 安藤敏夫:「モータータンパク質の運動が高速 AFM で見えた!」化学 59(1)28-29 (2004). 4. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡 -生体分子のナノダイナミクス撮影-」 応用物理 72(10):1304-1308 (2003). 5. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡 - 液中ナノメーター世界の高速撮影 -」金沢大学機器分析センターNEWS 2:3-7 (2003). 6. 安藤敏夫:「超高性能顕微鏡を開発して生命現象の謎に迫る - 高速原子間力顕微鏡の開発と動くタンパク質分子 の観察」.金沢大学サテライト・プラザミニ講演記録 3(4):1-19 (2002). 7. 安藤敏夫:「総説 原子間力顕微鏡-生命科学への適用-」. 生化学 74(11):1329-1342 (2002). 8. 安藤敏夫:「解説 高速原子間力顕微鏡 -液中ナノメーター世界の高速撮影―」.化学と工業 55(8):877-879 (2002). 9. 安藤敏夫:「解説 高速原子間力顕微鏡-液中ナノメーター世界の高速撮影-」生体の科学 54(1):54-60 (2002). 10. 安藤敏夫:「リアルタイム AFM」電子顕微鏡 37(1): 45-50 (2002). 11. 安藤敏夫:「原子間力顕微鏡でタンパク質の動きをリアルタイムに撮影する」ファルマシア 38(6):508-512 (2002). 12. 安藤敏夫:「生体分子の高速ダイナミクス撮影」 4 章 4 節 p.395-406 in 「ナノバイオテクノロジーの最前線」植田充美 監修 シーエムシー出版 (2003). 13. 安藤敏夫:「リアルタイムで“見る”ナノの世界 分子の動きを捉える」 9章 p.121-149 in 「ナノバイオロジー」 竹安邦 夫編集 共立出版 (2004). 国外誌 1. T. Ando:「A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. Proc. of International Federation for Medical & Biological Engineering 3 (Part2):22-26 (2002). 口頭発表 国際会議招待基調講演 1. 1. 2. 3. T. Ando:「High-speed Atomic Force Microscope for Studying Biological Macromolecules in Action」. Vienna, Austria, European Medical & Biological Engineering Conference, 12.4-8.2002. 国際会議招待講演 T. Ando:「Dynamic Behavior of Myosin V and Reconstructed HMM Studied by Single Molecule Assay and High-speed AFM」. the University of Colima, Colima, Manzanillo, Mexico, International Symposium on “ Muscle Contraction and Cell Movement”1.20-26.2005. T. Ando:「High-speed AFM」. Kobe Institute, Oxforde-Kobe Seminar: UK-Japan Collaborations in Bionanotechnology, 7.1-3.2004. T. Ando:「High-speed Atomic Force Microscopy for Viewing Protein Molecules at Work」. MIT (Boston) Dept. of Mechanical/Biological Engineering, MIT Seminar, 2.20.2004. 4. T. Ando:「Nanometer-scale dynamic behavior of motor proteins revealed by high-speed AFM」. Nara, Japan, The 19th International Symposium in Conjunction with Award of the International Prize for Biology, 12.3-4.2003. 5. T. Ando:「Motor Proteins at Work Imaged by High-speed Atomic Force Microscopy」. Sydney, Australia, World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, 8.28.2003.T. Ando: 「 A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules in action」. Linz, Austria, Vth Annual Linz Winter Workshop on Single Molecule Techniques in Biophysics and Drug Discovery, 1.31-2.3.2003. 7. N. Kodera and T. And:「A High-speed Atomic Force Microscope for Studying Biological Macromolecules in Action」. Hakone, Japan, Funiwara Seminar on Molecular and Cellular Aspects of Muscle Contraction, 10.26-30.2002. 8. T. Ando:「A High-speed AFM for Studying Biological Macromolecules in Action」. Chiba, Japan, Kazusa DNAResearch Institute International Symposium, 2.18-19 .2002. 28 大項目名 研究成果の詳細報告 国内会議等招待講演 1. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡が拓く新しいナノバイオロジーの可能性」. 京都国際会議場、日本生物物理学会第 42回年会シンポジウムシンポジウム「ナノバイオエンジニアリングの基礎としての生物物理学」、12.13-15.2004. 2. 古寺哲幸、宮城篤、前田大輔、榊原斉、大岩和弘、安藤敏夫:「高速 AFM によるダイニン・ミオシンVのダイナミクス観 察」. 京都国際会議場、日本生物物理学会第42回年会シンポジウム「分子モーター研究の新潮流」、12.13-15.2004. 3. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡」. 特許庁(東京)、特許庁研修講義、12.8.2004. 4. 安藤敏夫:「高速AFMが拓く新しい分子生命科学の可能性」. 金沢大癌研究所、第3回北陸ポストゲノム研究フォー ラム、11.30.2004. 5. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡で動く分子を見る」. 名古屋大学、日本顕微鏡学会 シンポジウム、11.8-9.2004. 6. 安藤敏夫:「生物分子モーターのナノ構造ダイナミクス」. 名古屋大学工学部、 VBLシンポジウム「生体高分子の1分 子イメージングと構造の物性と機能」、10.17.2004. 7. 安藤敏夫:「生体分子の高速AFM観察」. 東北学院大、応用物理学会 薄膜表面分科会企画シンポジウム「カンチレ バー技術の最前線 -作成から応用まで-」、9.1.2004. 8. 安藤敏夫:「 特別講演: 高速 AFM が拓く新しい生体分子研究」. 理化学研究所、レーザー顕微鏡研究会、 7.1-2.2004. 9. 安藤敏夫:「蛋白質の動きを観察する高速原子間力顕微鏡」. 熊本大学、熊本大学拠点形成研究 B「原子レベルの生 命機能と細胞システムへの展開」主催ミニシンポジウム「蛋白質の構造と動きを見る」、3.9.2004. 10. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡(生体分子のナノダイナミクス撮影装置)の最近の展開」. 東京工業大学、日本学術 振興会 第 167 委員会セミナー、1.29-30.2004. 11. 安藤敏夫:「高速 AFM による生体分子のナノダイナミックス撮影」. 名古屋工業大学、応用用物理学会東海支部基礎 セミナー 「バイオナノテクノロジー」、1.23.2004. 12. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡 タンパク質のナノ動態撮影」. 東北大学、東北大学多元物質科学研究所ミニシン ポジウム、1.14.2004. 13. 安藤敏夫:「企画講演 高速 AFM で見るタンパク質のナノ動態」、金沢、日本薬学会第25回生体膜と薬物の相互作 用シンポジウム、11.13.2003. 安藤敏夫:「アクチンフィラメントに形成された場で無生物は走るか?」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学会第41回 年会シンポジウム「アクチン、微小管の知られざる物性とその構造的基盤」、9.23-25.2003. 14. 安藤敏夫:「第30回記念企画招請講演 高速原子間力顕微鏡 -液中ナノメーター世界の高速撮影-」 第30回電 顕皮膚生物学会学術大会、9.13.2003. 15. 安藤敏夫:「動態観察原子間力顕微鏡の開発とモーター蛋白質のダイナミックス」. 大阪大学、阪大基礎工学部生物 工学科セミナー、5.14.2003. 16. 安藤敏夫:「高速 AFM でタンパク質の動きを見る」. 東京国際フォーラム、公開シンポジウム バイオイメージングとナノ テクノロジー、2.20-21.2003. 17. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡-液中ナノメーター世界の高速撮影」. 早稲田大学総合学術情報センター、第 22 回表面科学講演大会シンポジウム、11.26-28.2002. 18. 安藤敏夫:「原子間力顕微鏡の動的形態科学への適用」. 金沢大学医学部記念館、解剖学会形態科学シンポジウム、 10.5.2002.」 19. 安藤敏夫:「高速走査SPM -液中ダイナミクス観察-」. 千葉幕張メッセ、応用物理学会有機分子・バイオエレクトロ ニクス分科会 有機バイオSPM研究会、9.6.2002. 20. 安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡の開発」. 金沢、石川県教育センター教育研究会、8.8.2002. 21. 安藤敏夫:「タンパク質分子のナノ動態撮影」. 理化学研究所播磨研究所 SPring-8、第 4 回・振興調整費総合研究全 体班会議<アクチン・フィラメントの構造と動態の解析による筋収縮・調節機構の解明>、7.22-23.2002. 22. 安藤敏夫:「超高性能顕微鏡を開発して生命現象の謎に迫る -高速原子間力顕微鏡の開発と動くタンパク質分子の 29 大項目名 研究成果の詳細報告 観察-」. 金沢、金沢大学サテライトブラザ ミニ講演、7.5.2002. 応募・主催講演等 1. T. Ando, N. Kodera, A. Miyagi, and H. Yamashita:「Further Improvement of the High-speed Atomic Force Microscope」. Los Angels, USA、米国生物物理学会 2.12-16.2005. 2. M. Yokokawa, A. Yagi, N. Sakai, T. Ando and K. Takeyasu:「Single Molecule Analysis of Protein-protein Interaction by Fast Atomic Force Microscopy」. Los Angels、米国生物物理学会、1.12-16.2005. 3. 又多恵子、古寺哲幸、宮城篤、安藤敏夫:「タンパク質のAFM映像を原子モデルに照らして理解するための解析法」. 京都国際会議場、日本生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 4. 前田大輔、宮城篤、古寺哲幸、安藤敏夫:「高速AFMによるタンパク質の動態撮影に資する基板開発」. 京都国際会 議場、日本生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 5. 伊藤悠徳、内橋貴之、安藤敏夫:「高速AFMの性能向上のための改良」. 京都国際会議場、日本生物物理学会第4 2回年会、12.13-15.2004. 6. 宮城篤、前田大輔、古寺哲幸、大岩和弘、安藤敏夫:「高速原子間力顕微鏡によるモータータンパク質分子の動態観 察」. 京都国際会議場、日本生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 7. 田中祐介、木下達也、小出博史、安藤敏夫:「量子ドットを用いたミオシンVの高分解能蛍光観察系の開発」. 京都交 際会議場、日本生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 8. 小出博史、木下達也、田中祐介、安藤敏夫:「Ca2+存在下でのミオシンVの1分子観察」. 京都国際会議場、日本 生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 9. 木下達也、小出博史、田中祐介、安藤敏夫:「単頭ミオシンVから再構成した擬似HMMの運動」. 京都国際会議場、 日本生物物理学会第42回年会、12.13-15.2004. 10. 宮城篤、古寺哲幸、前田大輔、安藤敏夫:「高速 AFM によるモータータンパク質などの動態撮影」. 大阪千里ライフサ イエンスセンター、生体運動合同班会議、1.7-9.2005. 11. 小出博史、木下達也、安藤敏夫:「ミオシンVの化学修飾と運動特性」. 大阪千里ライフサイエンスセンター、生体運動 合同班会議、1.7-9.2005. 12. N. Kodera, Y. Naito, A. Miyagi, T. Ando, H. Sakakibara & K. Ooiwa:「Dynamic Behavior of Motor Proteins in Action Captured by High-speed Atomic Force Microscope」. Baltimore,USA、米国生物物理学会、2.14-18.2004. 13. M. Yokokawa, S. Yoshimura, Y. Naito, T. Ando, A. Yagi, H. Takahashi & K. Takeyasu:「Real-time AFM Analysis of DNA-enzyme Reaction」. Valtimore, USA、米国生物物理学会、2.14-18.2004. 14. 古寺哲幸、内藤康行、宮城篤、安藤敏夫:「高速 AFM が捉えたモータータンパク質のナノ動態」. 東京大学駒場、生 体運動合同班会議、1.8-10.2004. 15. 木下達也、高橋輝行、柳浦大志、安藤敏夫:「ミオシン V の運動解析」. 東京大学駒場、生体運動合同班会議、 1.8-10.2004. 16. 宮城篤、古寺哲幸、安藤敏夫:「高速 AFM 用カンチレバーのフッ素修飾」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学会第41 回年会、9.23-25.2003. 17. 柳浦大志、木下達也、安藤敏夫:「ミオシンVの尾部の Actin-activated ATPase 活性に与える効果」. 新潟朱鷺メッセ、 日本生物物理学会第41回年会、9.23-25.2003. 18. 平山潤太、木下達也、安藤敏夫:「ミオシンVにおける無負荷プロセッシブ運動の高分解能測定」. 新潟朱鷺メッセ、 日本生物物理学会第41回年会、9.23-25.2003. 19. 又多恵子、安藤敏夫、小椋輝:「高速 AFM による FtsH2 次元結晶のイメージング」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学 会第41回年会、9.23-25.2003. 20. 古寺哲幸、内藤康行、宮城篤、安藤敏夫:「高速 AFM の改良」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学会第41回年会、 9.23-25.2003. 21. 内藤康行、榊原斉、大岩和弘、安藤敏夫:「高速 AFM による単頭ダイニンの動態撮影」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物 30 大項目名 研究成果の詳細報告 物理学会第41回年会、9.23-25.2003. 22. 高橋輝行、木下達也、安藤敏夫:「アクチンのホットスポットの検出」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学会第41回年 会、9.23-25.2003. 23. 木下達也、柳浦大志、安藤敏夫:「単頭脳ミオシンVの運動解析」. 新潟朱鷺メッセ、日本生物物理学会第41回年会、 9.23-25.2003. 24. N. Kodera, Y. Naito, T. Ito & T. Ando:「Improvements on a High-speed Atomic Force Microscope」. San Antonio, USA、米国生物物理学会、3.1-5.2003. 25. T. Kinoshita & T. Ando:「Single-headed Myosin V Moves along Actin Filaments」. San Antonio, UAS、米国生物物理 学会、3.1-5.2003. 26. 内藤康行、古寺哲幸、伊藤誉浩、古田健也、豊島陽子、安藤敏夫:「高速 AFM によるモーター分子一分子の動態撮 影」. アクロス福岡、生体運動合同班会議、1.9-11.2003. 27. 衣笠元気、木下達也、高橋輝行、安藤敏夫:「ミオシンVの運動解析」. アクロス福岡、生体運動合同班会議、 1.9-11.2003. 28. 古寺哲幸、矢田部桂、伊藤誉浩、内藤康行、安藤敏夫:「高速 AFM の開発:生体分子のリアルタイム観察に向けて」. 名古屋大学、日本生物物理学会第40回年会、11.2-4.2002. 29. 木下達也、安藤敏夫:「単頭脳ミオシンVの運動解析」. 名古屋大学、日本生物物理学会第40回年会、11.2-4.2002. 30. 伊藤誉浩、安藤敏夫:「アクチン・ミオシンV系の高速 AFM によるリアルタイム観察」. 名古屋大学、日本生物物理学会 第40回年会、11.2-4.2002. 31. 斉藤究、伊香祐子、徳永万喜洋、二井将光、安藤敏夫:「F1-ATPase からの ATP の解離」. 名古屋大学、日本生物 物理学会第40回年会、11.2-4.2002. 32. 古田健也、内藤康行、古寺哲幸、豊島陽子、安藤敏夫:「高速 AFM による微小管上のキネシン一分子の観察」. 名古 屋大学、日本生物物理学会第40回年会、11.2-4.2002. 33. 高橋輝行、木下達也、安藤敏夫:「アクチンのホットスポットの検出」. 名古屋大学、日本生物物理学会第40回年会、 11.2-4.2002. 34. 安藤敏夫:「GroEL/ES の構造変化のリアルタイム計測・イメージング」. 沖縄ホテルムーンビーチ、「タンパク質の一 生」吉田班会議、10.27-30.2002. 特許等出願等 1. 2003.01.09,「走査型プローブ顕微鏡および分子構造変化観 測方法」, 安藤敏夫・林美明, 金沢大学長・オリ ンパス光学, 特願 2003-003668. 2. 2003.02.20,「走査型プローブ顕微鏡および分子構造変化観 測方法」, 安藤敏夫・林美明, 金沢大学長・オリ ンパス光学, 特願 2003-043065. 3. 2003.10.27,「走査型プローブ顕微鏡および分子構造変化観 測方法」, 安藤敏夫・林美明, 金沢大学長・オリ ンパス, 特願 2003-365072. 4. 2004.1.9, 「Scanning Probe Microscope and Molecular Structure Change Observation Method」, Toshio Ando・ Yoshiaki Hayashi, Kanazawa University・Olympus, pct/jp 2004/000110 5. 2003.12.25, 「アクチュエータ制御方法及びその装置ならびに走査型プローブ顕微鏡」, 安藤敏夫・古寺哲 幸・酒井信明, 金沢大学長・オリンパス, 特願 2003-431554. 受賞等 1. 安藤敏夫、古寺哲幸、戸田明敏:「日経BP技術賞(医療バイオ部門)」. 2003.4.4 2. 安藤敏夫: 「高速 AFM: 2003 年中国科技日報世界十大科学技術ニュースに選定」. 2003.12.31. 3. 安藤敏夫:「日本学術振興会 ナノプローブテクノロジー賞」. 2004.7.21. 31