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高齢社会におけるアカウント型保険の 課題と可能性に関する考察
生命保険論集第 166 号 高齢社会におけるアカウント型保険の 課題と可能性に関する考察 梅田 篤史 (駒澤大学大学院経営学研究科博士後期課程) はじめに 本稿は、高齢社会における高齢者の経済的問題への対策としてのア カウント型保険1)の課題とその可能性に関する研究である。 今日のわが国が直面している高齢社会は年金、介護、労働、住居な ど様々な問題を抱えている。とりわけ今日の高齢者の生活には医療費 を中心とした突発的な支出が存在しており、このような突発的な支出 が年々増加しているにもかかわらず、それらに対して高齢者の収入は 年金が中心であるため金額が固定されていることから、高齢者は消費 の節約を余儀なくされている。そのため高齢者自身による自助努力と 高齢期に入る前からの十分な資金準備が必要とされている2)。本稿で はこのような高齢者の経済的問題に対応するために、従来型の生命保 険に比べ契約の柔軟性の高いアカウント型保険を題材とし、高齢社会 における経済的問題に対する対策としての有効性と課題についての考 察を行う。 ―125― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 注1)本稿における「アカウント型保険」とは、わが国で一般的に利率変動型積 立終身保険、アカウント型保険、口座型保険、自在型保険、ユニバーサル保 険などと呼ばれている保険のことを指す。本稿ではわが国における本保険に 関する研究の端緒となった江澤雅彦「「アカウント型保険」の導入と課題」 『早 稲田商学』第398号、2003年にならいアカウント型保険という名称を用いる。 2)本稿第1章第3節を参照。 1.高齢社会の現状と医療に関する問題 今日のわが国が直面している高齢社会は年金、介護、労働、住居な ど様々な問題を抱えているのだが、とりわけ医療費を中心とした突発 的な支出は高齢者の生活の経済的側面において大きな負担となる。 本章ではまず今日の高齢社会の現状を概観し、その中で高齢者の生 活の経済的負担となる医療の問題とその解決のための手段と生命保険 との関連について論じる。 1-1 高齢社会の現状 2005年の国勢調査によると、2005年10月1日現在わが国の総人口は 1億2,777万人である。今後は少子化の影響により人口の減少が起こり、 2050年までには人口1億人を割り込むと推測されている。 65歳以上の高齢人口においては、1955年の時点では約5%と非常に 低い数値であるのだが、その後上昇を続け2005年までには約20%とな り5人に1人が高齢者であるという状況である。この高齢人口の増加 はその後も続き、2055年までには約40%まで上昇すると推測されてい る3)(図表1-1参照)。また上述のような高齢人口の増加に対し、近 年では少子化が進行している。合計特殊出生率の推移を見ると、1955 年の時点では2.37人であったが、1975年の時点で出生率は2人を割り、 ―126― 生命保険論集第 166 号 2005年の時点では1.26人と非常に低い値を示している4)。このような 出生率の低下は、高学歴化、女性の社会進出、ライフスタイルの変化、 これらによる晩婚化があげられる。また、現在の不景気による収入の 低下と今後の経済的見通しの不安とさらなる高学歴化による子弟の養 育費の増加もこの少子化に拍車をかける要因となっている。 図表1-1 人口の年次推移と将来推計 人口 千(人 140,000 50% 人口割合 45% 120,000 ) 40% 40.55% 38.24% 35% 100,000 80,000 60,000 33.65% 33.38% 30% 30.48% 25.61% 24.33% 21.51% 26.93% 25% 20% 20.17% 15% 15.96% 14.56% 13.77% 10% 11.83% 10.30% 20,000 10.02% 9.50%9.00% 8.36% 5% 7.92% 5.32%6.29% 40,000 0% 0 1955 1965 1975 1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045 2055 (年) (出所)三浦文夫編『図解 65歳以上 15~64歳 0~14歳 65歳以上人口割合(%) 14歳以下人口の割合(%) 高齢者白書2006年度版』全国社会福祉協議会、2007年、p.38 を筆者により一部修正。 このように増加を続ける高齢者の消費に焦点をあてると以下の通り である(図表1-2参照) 。消費支出全体においては1995年が24万4,100 円、2000年が24万5,586円、2005年が24万8,870円と各年ともほぼ同じ である。これは高齢者の収入の大部分が年金からの収入であるからで ある5)。 しかしその内訳においては10年の間に大きな変化が生じている。 ―127― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 1995年と2005年を比較すると消費金額が大きくなったものは光熱費 (+16.9%)と交通費(+30.0%)であり、最も上昇したものは保健 医療費(+43.4%)である。それらに対し消費金額が小さくなったも のは住居費(-17.5%)家具・家事用品(-15.7%)被服費(-23.4%) といった比較的支出の節約が可能なものが中心である6)。収入が一定 金額である高齢者は公共料金等の上昇に対し、節約の効くものの消費 を少なくすることにより全体の支出を調節しているのだが、社会保障 の改定や物価の上昇などにより近年ではこの調節を強いられている傾 向が強い。その中でも医療費の伸びは極めて大きく、医療費の増加(変 動)は老後の生活において大きなリスクとなる。 図表1-2 消費支出 食糧 住居 光熱・水道 家具・家事用品 被服および履物 保健医療 交通・通信 教育・教養娯楽 その他 (出所)三浦文夫編『図解 高齢者世帯の消費年次推移(月額) 1995 2000 2005 244,100 58,207 21,343 16,190 11,310 12,490 11,564 17,844 26,900 68,252 245,586 60,429 18,464 18,258 10,523 11,635 13,089 20,356 28,020 64,812 248,870 59,270 17,603 18,927 9,531 9,562 16,579 23,194 28,116 66,088 (単位:円) 対1995年 2000 2005 0.6% 2.0% 3.8% 1.8% -13.5% -17.5% 12.8% 16.9% -7.0% -15.7% -6.8% -23.4% 13.2% 43.4% 14.1% 30.0% 4.2% 4.5% -5.0% -3.2% 高齢者白書2006年度版』全国社会福祉協議会、2007年、p.65 をもとに筆者作成。 ―128― 生命保険論集第 166 号 1-2 高齢者の医療に関するリスク 厚生労働省の『平成19年 我が国の保健統計』によると、年齢別入 院件数は65歳~74歳で29万9千人(約20.5%)、75歳以上では63万9千 人(43.7%)であり、全体の入院件数の半数以上を占めている(図表 1-3参照) 。 図表1-3 年齢別入院件数(2005年) (単位:千人) 入院患者数 34 83 0% 406 20% 0~14歳 (出所)厚生労働省『平成19年 299 40% 15~34歳 639 60% 35~64歳 65~74歳 80% 100% 75歳以上 我が国の保健統計』2007年度版、p.2に基づき筆者作成。 年齢別人口10万対入院件数を見ると、65歳以上の高齢者の入院は多 く(2,116人/10万人)、特に75歳以上の後期高齢者が半数以上(5,487 人/10万人)を占めていることがわかる。このことから、年齢が上昇 すればするほど入院をする可能性が高くなり、特に75歳を超える後期 高齢者となるとその可能性はさらに大きく上昇することとなるという ことが読み取れる(図表1-4参照)。 ―129― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 図表1-4 年齢別人口10万対の入院件数(2005年) (人口10万対) 6,000 5,487 5,000 4,000 3,000 2,000 2,116 1,000 0 191 258 775 0~14歳 15~34歳 35~64歳 (出所)厚生労働省『平成19年 1,145 65~74歳 75歳以上 総数 我が国の保健統計』2007年度版、p.3に基づき筆者作成。 いっぽう年齢別外来件数は、65歳~74歳で155万4,800人(約21.9%)、 75歳以上では152万3,100人(21.4%)であり、外来においても高齢者 の数は多く、全体の半数近くを占めている。純粋な外来件数において はわずかながら75歳以上の後期高齢者よりも65歳~74歳の前期高齢者 の方が多い(図表1-5参照)。 ―130― 生命保険論集第 166 号 図表1-5 年齢別外来件数(2005年) (単位:千人) 外来患者数 774.6 0% 807.6 2442.9 20% 1554.8 40% 0~14歳 15~34歳 (出所)厚生労働省『平成19年 60% 35~64歳 65~74歳 1523.1 80% 100% 75歳以上 我が国の保健統計』2007年度版、p.2に基づき筆者作成。 年齢別人口10万対外来件数を見ると、65歳以上の高齢者が11,010人 /10万人、75歳以上の後期高齢者が13,086人/10万人であり、割合の 上では全体の大部分を占めている。このことから65歳を超えると通院 の必要性が極めて高くなることがわかる(図表1-6参照)。 図表1-6 年齢別人口10万対の外来件数(2005年) (人口10万対) 14,000 13,086 12,000 11,010 10,000 8,000 6,000 4,000 5,551 4,668 4,234 2,000 2,517 0 0~14歳 (出所)厚生労働省『平成19年 15~34歳 35~64歳 65~74歳 75歳以上 総数 我が国の保健統計』2007年度版、p.3に基づき筆者作成。 ―131― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 次にこれらの高齢者がどのような傷病が原因で入院・通院をしてい るのかを検討する7)。 まず65歳以上の傷病別にみた入院患者数の割合をみると、65歳~74 歳の前期高齢者で多い傷病は、神経および行動の障害(22.8%)が最 も多く、次いで循環器系の疾患(21.0%)、新生物(癌)(16.9%)で ある。75歳以上の後期高齢者においては、循環器系の疾患(32.9%)、 神経および行動の障害(11.6%)、損傷・中毒および外因の影響(10.0%) の順に多い(図表1-7参照)。 図表1-7 傷病別にみた推計入院患者数の割合(2005年) 神経および行動の障害 循環器系の疾患 新生物 損傷・中毒および外因の影響 神経系の疾患 呼吸器系の疾患 その他 (出所)厚生労働省『平成19年 65~74歳 22.8 21.0 16.9 6.9 5.7 (単位:%) 75歳以上 11.6 32.9 8.7 10.0 ※「その他」に計上 ※「その他」に計上 26.7 7.5 29.4 我が国の保健統計』2007年度版、p.7に基づき筆者作成。 次に65歳以上の傷病別にみた外来患者数の割合をみると、65歳~74 歳の前期高齢者で多い傷病は、筋骨格器系および結合組織の疾患 (19.3%)が最も多く、次いで循環器系の疾患(18.9%)、消化器系の 疾患(15.3%)である。75歳以上の後期高齢者においては、循環器系 の疾患(24.9%)、筋骨格器系および結合組織の疾患(22.9%)、消化 器系の疾患(9.9%)の順に多い(図表1-8参照)。 これらの高齢者特有の傷病にみられる点は、慢性的な症状を引き起 ―132― 生命保険論集第 166 号 こすものが多いということである。高齢者は一度入院および通院を始 めると、それらの傷病が完治するまでに長くかかるため、若年者より も医療費が高額になる危険性があるのである。 図表1-8 傷病別にみた推計外来患者数の割合(2005年) (単位:%) 75歳以上 65~74歳 筋骨格器系および結合組織 の疾患 循環器系の疾患 消化器系の疾患 内分泌、栄養および代謝疾患 健康状態に影響を及ぼす要 因および保健サービスの利用 眼科および付属器の疾患 その他 (出所)厚生労働省『平成19年 19.3 22.9 18.9 15.3 7.8 24.9 9.9 ※「その他」に計上 6.9 ※「その他」に計上 31.8 5.8 6.9 30.4 我が国の保健統計』2007年度版、p.7に基づき筆者作成。 また前記の通り、少子化も高齢者の医療リスクに大きな影響を及ぼ す(図表1-1参照)。社会保障の負担者である若年層の減少により、 若年層の負担が増えるだけではなく、高齢者自身の負担も発生するこ ととなる。これは今日において後期高齢者医療制度8)という形で表れ ているのだが、現在これは社会的な問題になっている。 高齢人口の増加と関連して、平均寿命の延びも起っている。1955年 時点の男性63.60歳、女性の67.75歳から2005年の時点では、男性が15 年ほど延びて78.56歳、女性は18年ほど延びて85.52歳になっている。 その後は2055年までに男女ともに5年ほど寿命が延び、男性が83.67歳、 。 女性が90.34歳になると推測されている9)(図表1-9参照) このような長寿化により医療にかかる必要性が高くなり、且つその ―133― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 期間がさらに長くなる危険性が存在する。 図表1-9 男女別平均寿命の年次推移 平均寿命 歳( ) 95 88.66 90 85.52 82.85 85 80.48 80 76.89 75 72.92 70 67.75 67.74 65 74.78 81.88 90.34 83.67 78.56 76.38 女 71.73 男 63.60 60 1955 1965 (出所)三浦文夫編『図解 1975 1985 1995 2005 (2030) (2055) (年) 高齢者白書2006年度版』全国社会福祉協議会、2007年、p.43 を筆者により一部修正。 いっぽう高齢者の単独生活者は安定したペースで上昇を続けている。 ここで注目すべき点は女性の単独世帯が非常に多いということである。 1970年では55.0%、2005年では70.8%であり現在では高齢女性の約7 割が単独で生活をしているということになる(図表1-10参照)。これ は一般的には男女の寿命の差により生じたもので、夫に先立たれてし まうことにより生じているケースが多いのだが、近年の若年層が修 学・就職を求めて都市部に移住してしまうことにより親子が別々の生 活をすることを強いられることと、夫婦と子供による家族構成をとる 核家族化の一般化も一つの要因である。 ―134― 生命保険論集第 166 号 単独生活者であることにより同居者(配偶者、子など)の助けを受 けることが困難になるということから、医療を含めた経済的なリスク にさらされる期間がより長くなる。 図表1-10 高齢世帯の単独生活者の年次推移 割合(%) 80 70 60 61.1 64.2 66.5 70.8 69.5 71.4 70.8 71.9 71.5 71.4 55.0 50 40 25.6 30 28.8 30.5 32.4 33.9 34.6 34.3 34.7 34.5 34.0 男性 女性 総数 20.7 20 10 0 5.3 5.9 5.9 6.1 6.6 7.4 9.4 11.0 12.0 13.2 14.5 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 (年) (出所)三浦文夫編『図解 高齢者白書2006年度版』全国社会福祉協議会、2007年、p.46 を筆者により一部修正。 1-3 高齢者の生活上の経済的問題への対策としての生命保険 前節までの高齢者の生活上の経済的問題において、以下の三点の特 徴が存在することがわかった。 第一点目は高齢者の生活には突発的な支出が存在するということで ある。これは医療費が主たるものであり、高齢になるにつれて入院・ 外来頻度の増加が起こるだけではなく、高齢者の傷病は慢性的な症状 を引き起こすもものが多い。 ―135― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 第二点目はこのような突発的な支出は年々増加しているにもかかわ らず、それらに対して高齢者の収入は年金が中心であり金額が固定さ れているため、高齢者は消費の節約を余儀なくされているということ である。これは少子化や後期高齢者医療制度をはじめとした社会保障 政策の変容により医療に対する高齢者負担の増加だけではなく、医療 の高度化10)も要因となる。このような医療をはじめとした必要費用の 増加に対して、高齢者は住居、家具、被服等に対する支出を制限する ことにより対応している。しかし今後の医療費及び物価の上昇などに よりこれらの節約も困難となり本格的な生活危機が起こる危険性があ る。 第三点目は、長寿化により必要な生活資金が増加しているというこ とである。1年当たりの生活資金は約300万円11)であり定年60歳以降の 余命は男性平均で約19年、女性平均で約26年である12)。これを単純計 算すると男女平均で約6,600万円の老後資金が必要となる。しかし平均 寿命は年々伸びているため今後この老後の必要資金は増加することと なる。また近年は独居高齢者が増加傾向にあり、家族からの生活援助 が困難であるため高齢者自身による自助努力と高齢期に入る前からの 十分な資金準備が必要とされる。 さて、医療費等の突発的な支出を含めた老後の資金準備においては 公的年金等の公的な手段と貯蓄をはじめとした個人的(私的)な手段 がある。生命保険文化センター『平成19年度 生活保障に関する調査』 2007年度版によると公的年金の給付内容に対する評価は、2007年時点 で充実しているという回答は11.2%で非充実という回答は70.1%であ る。老後保障に対する志向については公的保障充実志向が33.1%、自 助努力志向が57.2%であり私的保障に対する期待が大きい。 個人による準備が可能なもので老後の生活資金をまかなおうと考え ―136― 生命保険論集第 166 号 ている手段は貯蓄、個人年金保険、生命保険があげられる(図表1- 11参照)。その中で貯蓄は最も回答の多い手段であるのだが、個人の貯 蓄額は年々減少しており十分な老後資金を積み立てられる可能性は低 くなっている13)。 また個人年金保険において期待は大きいものの、生命保険協会『生 命保険の動向』2008年度版によると、2007年度の新契約件数が151万件、 同年度の保有契約件数が1,663万件と実際に個人年金保険に加入して いる人数はまだ少ないという現状である。いっぽう生命保険において は2007年度の新契約件数が888万件、保有契約件数が11,001万件と非常 に多く、老後の生活資金準備に対する手段として期待され得る14)。 以上より生命保険は高齢者の経済的問題への対策としてより有効な ものであるのだが、前節での高齢者の生活上の問題に対応するために は、生命保険の契約に柔軟性が必要とされる。このことから、本稿で は従来型の生命保険に比べ契約の柔軟性が高いアカウント型保険を題 材とし、高齢社会における経済的問題に対する対策としての有効性と 課題についての考察を行う15)。 次章以降ではこのアカウント型保険を題材に高齢社会における経済 的問題の解決を試みる。 図表1-11 老後の生活資金をまかなおうと考えている手段 (複数回答、単位:%) 公的年金 2007年 2004年 2001年 1998年 86.2 83.4 84.3 82.0 企業年金・ 個人年金保 損保の年金 生命保険 退職金 険 型商品 38.6 33.9 40.1 37.0 33.9 31.8 36.7 40.1 5.0 4.7 6.0 5.8 (出所)生命保険文化センター『平成19年度 15.1 18.6 23.5 24.9 預貯金 64.6 63.1 64.5 64.1 有価証券 不動産によ る収入 7.3 5.3 5.9 4.4 4.8 4.1 4.4 4.3 生活保障に関する調査』2007年度版、p.31 を筆者により加筆修正。 ―137― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 注3)わが国の65歳以上人口を諸外国と比較すると、1950年代の時点では低い数 字にあった。しかし2000年では17.4%と周辺のアジア諸国に比べて大幅に高 く、先進国の中でも高い数字を示している。2050年の推測によるとわが国の 高齢者の割合は約40%となり、先進国と比較しても非常に高いという世界的 に突出した存在になることが予想される(図表注―1参照)。 図表注-1 65歳以上人口の割合(対世界) (%) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 1950年 2000年 2050年 日本 4.9 17.4 39.6 世界全域 5.2 6.9 16.1 先進地域 7.9 14.3 25.9 発展途上地域 3.9 5.1 14.6 (出所)三浦文夫編『図解 高齢者白書2006年度版』全国社会福祉協議会、2007 年、p.40を筆者により加筆修正。 4)国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集』2007年度版。 5)高齢者の収入については、三浦文夫編『図解 高齢者白書2006年度版』全 国社会福祉協議会、2007年、p.64を参照されたい。 6)三浦、同上書、p.65。 7)高齢者特有の病床について折茂肇編『新老年学〔第2版〕』東京大学出版会、 1999年によると、老年症候群では主に、健忘症候群(記憶力障害)、尿路障害、 視聴覚障害、低栄養、骨折、転倒、寝たきり、褥瘡、誤嚥があげられる。老 年病では主に、循環器疾患、骨・運動器疾患、神経疾患、消化器疾患、呼吸 器疾患、感染症、内分泌代謝疾患、血液疾患、腎疾患・水電解質代謝異常、 精神疾患、婦人科疾患、皮膚科疾患、膠原病と免疫不全などがあげられる。 8)後期高齢者医療制度については厚生労働省ホームページ (http://www.mhlw.go.jp/)を参照されたい。 ―138― 生命保険論集第 166 号 9)三浦、前掲書、p.43。 10)医療技術の高度化に伴う医療費の上昇も問題となっている。ただしこれは 医学における技術的な問題であるため本稿では扱わない。 11)本稿の図表1-2をもとに年額を計算した。 12)三浦、前掲書、p.43。 13)本稿第4章を参照。 14)ただし年金は老後の生活資金全般の準備手段であり、生命保険は遺族保障 (特約の医療保険は医療にかかる費用の保障)を目的としていため正確には 両者の目的は異なる。しかし生命保険は被保険者の死亡後の遺族のための生 活資金となるだけでなく特約の医療保健は医療を中心とした突発的な支出の ための資金作りとなる。また生命保険を途中解約した際には年金と同様に老 後の生活資金の準備ともなる。 15)生命保険協会『生命保険の動向』2008年度版によるとアカウント型保険の 契約件数は2007年度の時点で新契約件数は60万件(全体の6.8%)、保有契約 件数は761万件(全体の6.9%)と決して多いとは言えない。しかしわが国に おけるアカウント型保険に関する研究は未開発な研究領域であることから、 この問題に取り組む意義がある。これも本稿でアカウント型保険を研究の題 材とした理由の一つである。 2.アカウント型保険導入の背景 前章では今日の高齢社会の現状について概観した。ここでは今日の 高齢者の傾向において、高齢者は病気にかかりやすく症状は慢性的な ものが多いこと、また年々寿命が延びており医療にかかる必要性が高 くなっているということ、そして少子化の影響などにより社会保障の 機能が低下しているという面と単独生活者の増加により家族に頼るこ とが困難であるという問題に直面しているということがわかった。 本章以降では本稿の考察の主たる題材であるアカウント型保険によ りこれらの問題の解決を試みる。まず本章ではわが国におけるアカウ ント型保険導入の背景について、当時の契約者ニーズの変化への対応 の必要性による面と資産負債管理の必要性による面より論じ、最後に ―139― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 70年代のアメリカでのユニバーサル保険導入の背景との違いについて 論じる。 2-1 契約者ニーズの変化への対応の必要性 契約者ニーズの変化においては第1章で述べたような少子化や核家 族化と単独生活者の増加だけではなく、当時のバブル崩壊の影響によ るものなど多岐にわたる要因があり、それらが複雑に影響し合うこと によって生じている。ここでは第1章では取り扱わなかった当時のバ ブル崩壊の影響による点について論じる。 90年代前半のバブル崩壊の影響による低金利・株価の低迷が続き、 消費者の可処分所得の増加が見込めない状況の中で、1997年4月の日 産生命の経営破綻が直接的契機となるいわゆる「生保離れ」が90年代 後半に起こった16)。 この時期にはバブル崩壊以前に生命保険会社の主力商品であった終 身保険、養老保険をはじめとした貯蓄型保険の契約件数の減少および 既存契約の解約が起っている。この貯蓄型保険の低迷に対し、非貯蓄 型保険17)である定期保険、第三分野の保険である医療保険の契約件数 が増加し、これらの保険は近年の生命保険会社における事実上の主力 商品18)へと移行しており、2000年以降は、非貯蓄型保険が生命保険契 約の大部分を占める状態となっている(図表2-1参照)。これは生命 保険に費やすための収入(可処分所得)の減少により必要最低限の保 障を求めていたというのが背景であるが、当時の契約転換営業への不 満も含まれていた19)。 このような中、生命保険会社は主力商品が貯蓄型から非貯蓄型へと 移行に歯止めをかけるために、事実上の主力商品となった定期保険、 医療保険といった非貯蓄型の生命保険に貯蓄を付け加えた(併せた) ―140― 生命保険論集第 166 号 構造を成し、また当時の転換契約営業への不満への対応として契約の 転換を伴うことなく、保障の見直しを柔軟に行うことのできるアカウ ント型保険の導入が行われた。 図表2-1 当時の生命保険の種目別新契約件数の年次推移 契約件数(万件) 500 450 養老保険(定期付を含む) 400 350 終身保険(定期付を含む) 300 250 利率変動型積立終身保険 200 定期保険 150 100 医療保険 50 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 0 年度(年) (出所)生命保険文化センター『生命保険ファクトブック』各年度版(2002年度まで)、生 命保険協会『生命保険の動向』各年度版(2003年度以降)をもとに筆者作成。 2-2 資産負債管理の必要性 わが国の生命保険会社はバブル崩壊の影響を受け、実際の資産運用 利回りがこの時期の予定利率(約5.5%)を上回る水準であったのであ るが、1991年の時点で予定利率を下回り、その後も下落を続け、東京 生命の破綻時である2001年では、1.25%となっている20)(図表2-2 参照)。このような大量の逆ザヤは生保の破綻に大きな影響を及ぼし た21)。 ―141― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 図表2-2 生命保険会社の資産運用利回りの年次推移 利率(%) 6.00 バブル 崩壊前 の予定 利率 (5.5%) 運用利 回り 5.00 4.00 5.02 4.35 3.88 3.00 2.91 2.00 3.36 2.93 2.48 2.01 1.00 2.31 2.15 1.25 0.00 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 (年) (出所) 生命保険協会『生命保険事業概況』各年度版、生命保険文化センター『生命保険フ ァクトブック』各年度版をもとに筆者作成。 そして1997年の日産生命保険相互会社の破綻をはじめとし、1999年 に東邦生命保険相互会社、2000年には第百生命保険相互会社、大正生 命保険株式会社、千代田生命保険相互会社、協栄生命保険株式会社、 2001年に東京生命保険相互会社と7社が相次いで破綻している(図表2 -3参照)。 これに付随するものとして、商品構成の失敗と資金運用という経営 判断の誤りが挙げられる。例えば1997年に破綻した日産生命は商品構 成の失敗の代表的な例であるが、同保険会社は貯蓄性の高い個人年金 の大量販売が祟り大量の逆ザヤを発生させたことが破綻の原因であ る22)。また1999年に破綻した東邦生命は、ノンバンクに対する貸付金 の回収が不能になることによる不良債権の発生、2000年に破綻した千 代田生命も1982年に火災の被害を受けたホテル・ニュージャパンの債 権者であったのだが、同ホテルに対する700億円の貸付金を回収できな ―142― 生命保険論集第 166 号 くなったことによる不良債権がその原因となっている。以上の経営者 側による商品構成と資金運用先の判断も逆ザヤを悪化させる要因とな る。 図表2-3 保険会社名 90年代後半における破綻生命保険会社一覧 破綻時点 債務超過額 引受会社 日産生命保険相互会社 1997年04月 3,000億円 あおば生命 東邦生命保険相互会社 1999年06月 6,500億円 GEエジソン 第百生命保険相互会社 2000年05月 3,200億円 マニュライフセンチュリー 大正生命保険株式会社 2000年08月 365億円 千代田生命保険相互会社 2000年10月 3,119億円 AIGスター 協栄生命保険株式会社 2000年10月 6,895億円 ジブラルタ 東京生命保険相互会社 2001年03月 731億円 あざみ生命 T&Dフィナンシャル (出所)小藤康夫『生保危機の本質』東洋経済新報社、2001年、田中周二編『生保の株式会社 化』東洋経済新報社、2002年を筆者により加筆修正。 従来の生命保険から生じた問題について、従来の生命保険は保険期 間が長期であり契約内容と予定利率が契約時で固定されている。しか しこれまでの既述のように、契約者のニーズは時間を経るごとに変化 することと同様に、実際の利回りは変動するという問題が存在する。 これは実際の利回りが予定利率を下回ることによる逆ザヤが問題なの だが、90年代のような大量の逆ザヤは、保険会社のみではなく契約者 においても多大な影響を及ぼすことになる。 生保危機前後の10年間で利回りに変化が起こったように、当時5.5% であった予定利率が、バブル崩壊を受け、年々下がり最終的には実際 ―143― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 の利回りが1%台にまで下がるということが実際に起こったというこ と。生保危機後の10年の間に主力商品に変化が起こったということで ある23)。 以上の低金利の影響による利回りの低下、生命保険会社の連続破綻、 固定された予定利率への危機感から資産負債管理の(予定利率リスク 管理)の一環として金利の変動に柔軟に対応ができるアカウント型保 険の導入が行われた24)。 2-3 アメリカでのユニバーサル保険の導入との違い わが国で導入されたアカウント型保険は、70年代後半のアメリカに おけるユニバーサル保険がモデルであるとされている。アメリカでの ユニバーサル保険導入の背景は70年代に遡る。当時のアメリカは、イ ンフレと個人や企業の金融資産の増大などから超高金利下にあり金利 選好の意識が高まっていた。この現象に伴う証券会社によるMMF(Money Market Mutual Fund)の導入、銀行による高利回りの金融商品の販売 により自由金利型の金融商品への資金のシフトが起こった。 このような展開により金利面の自由化のみならず業務規制の緩和の 方向も打ち出され、金融自由化の進行がおこるのであるが、いっぽう の生命保険会社においては、このような状況の中、契約者が当時の主 力である長期固定金利型の貯蓄型生命保険よりも利率の高い保険外の 金融商品を購入する動きが活発になり、貯蓄型保険の購入を控え、掛 け捨て型保険である定期保険を購入する傾向を見せた。 また当時の契約者貸付利率よりも保険外の金融商品の金利の方が高 かったため、貯蓄型保険の契約者は、保険外の金融商品に投資するた めに契約者貸付をこれまでより多く受けるという動きが起こったこと から生保資金が枯渇するという、生保版ディスインターミディエーシ ―144― 生命保険論集第 166 号 ョンが起こった。その対策として生命保険会社は、生保資金の流失の 防止と他業界への対抗策として、死亡保障と貯蓄の分離が成され、従 来通りの固定された予定利率ではない運用収益が上限なく保険金に反 映される変動型金利という構造を成すユニバーサル保険を導入したの である。 このようにアメリカでは超高金利下での他の金融商品との競争とい う背景の中、ユニバーサル保険が導入されたという経緯であり、他の 金融機関との競争により新たな顧客を取り込むチャンスとなったとい う点においては競争戦略的な性格がより強い。それに対しわが国では 超低金利下での逆ザヤ問題を背景とした資産負債管理としての性格が より強いという点が70年代のアメリカでのユニバーサル保険導入の背 景との特徴的な相違点である。 注16)江澤、前掲書、p.69。 17)生命保険には貯蓄部分(契約者個人の保険料の蓄積部分)の有無により、 養老保険や終身保険のような貯蓄部分が存在する保険を貯蓄型保険と呼び、 定期保険のように貯蓄部分のない保険を掛け捨て型保険、または保障型保険 などと呼び分類が成されている。しかし貯蓄部分の無い生命保険においては、 「掛け捨て型保険」と「保障型保険」という用語の用い方に議論が生じている。 掛け捨て型保険においては、保険の主な機能は保障であるという点におい てこの類の保険と貯蓄型保険は同様であるとし、分類基準を個人の保険料の 蓄積に焦点を当てている。そのため個人の保険料の蓄積の無い保険を掛け捨 て型保険とし、個人の保険料の蓄積のある保険を貯蓄型保険としている。こ の分類では、保険の本質である多数の経済主体による経済的保障については より正確に捉えてはいるのだが、掛け捨て型保険における保険料を掛け「捨 てる」という捉え方に問題があるとされている。 またいっぽうの保障型保険においては、分類の基準を実際(実務上の)の その保険の中心的な役割に焦点を当てて保険を分類している。そのため、保 障が主たる役割であり(かつ貯蓄部分が存在しない)保険を保障型保険と呼 び、貯蓄が主たる役割である(または貯蓄部分が存在する)保険を貯蓄型保 険と呼ぶ。このような分類方法は、それぞれの保険の中心的な機能を明確に とらえてはいるのだが、ここでの貯蓄型保険は、保障は貯蓄(個人による保 ―145― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 険料の蓄積)の付随的要素に過ぎないというとらえ方であり、保険の本質で ある保険は多数の経済主体による経済的保障であるという概念を逸脱してい るのではないかという捉えられ方をされる恐れがある。 以上の点および近年の保険・金融・証券の融合(垣根の撤廃)を考えると、 これらの生命保険の分類において、より正確な定義付け(と明確な使い分け) が求められるという点から、今後の議論の余地があると考える。 なお、本稿においては貯蓄部分の存在する保険を「貯蓄型保険」 、貯蓄部分 の存在しない保険を「非貯蓄型保険」という用語を用いてこれらを分類し記 述する。 18) 「事実上の主力商品」とは契約件数が多いという数字の上の主力商品という 意味であり、本来の主力商品とは異なる。本来の主力商品は各保険会社の経 営方針により決定される。 19)当時の契約者の契約転換への不満と生命保険会社の対応については江澤雅 彦、前掲書、pp.71~72を参照されたい。 20)生命保険協会『生命保険事業概況』各年度版。 21)小藤康夫『生保危機の本質』東洋経済新報社、2001年。小藤康夫「生保危 機と保険機能の分離―金融サービス産業としての生保会社―」 『専修大学商学 研究所報』第33巻第3号、専修大学商学研究所、2001年(b)。深尾光洋編著『検 証 生保危機』日本経済新聞社、2000年。 22)柴田忠男「生命保険会社のリスクマネジメント」 『保険・金融不安とリスク マネジメント(危険と管理代29号)』日本リスクマネジメント協会、1998年。 日産生命保険相互会社における個人年金の保有契約件数は1989年で25%に及 んでいた。それに対し当時の業界全体の平均は5%であった。 23)また、既存の貯蓄型保険の契約者の中にも契約者貸付を受ける傾向が強く なり、1人あたりの契約者貸付額は年々増加している。これらは既存契約の解 約や貯蓄部分のない定期保険へのニーズへの変化の予兆を示す一つの指標と なると考えられる。(図表注-2参照) 図表注-2 1人当たりの契約者貸付額の年次推移 金額(円) 90,000 85,000 81,094 75,000 71,720 73,902 67,827 70,000 65,270 62,732 65,000 60,000 82,662 83,608 77,485 80,000 59,041 55,000 50,000 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 (年度) (出所)生命保険文化センター『生命保険ファクトブック』 各年度版にもとづき筆者作成。 ―146― 生命保険論集第 166 号 24)生命保険会社の資産負債管理とアカウント型保険との関連については小藤、 前掲書(2001年、b)を参照されたい。 3.アカウント型保険の構造 第1章では医療費等の突発的な支出を含めた老後の資金準備におい ては公的年金等の公的な手段と貯蓄をはじめとした個人的(私的)な 手段の内、公的保障充実志向よりも自助努力志向が強く、その個人に よる準備としては加入件数の多い生命保険により期待が持たれるとい うことを述べた。その中で生命保険は高齢者の経済的問題に対する対 策としてより有効なものであるのだが、高齢者の生活上の問題に対応 するためには、生命保険の契約に柔軟性が必要である。 以上のことから第2章以降では従来型の生命保険に比べ契約の柔軟 性が高いアカウント型保険を題材とし、高齢社会における経済的問題 に対する対策としての有効性と課題についての考察を行っている。本 章ではこのアカウント型保険の構造をはじめ、契約者にとっての利点 と本保険の理論的分類上の位置づけについて検討する。 3-1 アカウント型保険の特徴 従来の生命保険は保障が契約の主たる役割を成し、付随的に貯蓄が 保障と混ざり合った形で構成されている。保障と貯蓄の組み合わせ(割 合)は契約時に決められたものがそのまま続き、利率についても契約 時に定められた予定利率が保険期間終了まで固定されていることが一 般的である。また毎回の保険料は、保険料払い込み期間中を通して一 定額の状態にした平準保険料が採用され、契約時に定められた予定利 率分だけ事前に割り引かれている。 ―147― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 以上が従来型の伝統的な生命保険の基本的な構造であるのだが、い っぽうのアカウント型保険は、貯蓄が主契約となり、従来は契約の主 たる役割を成していた保障が特約として存在している。また主契約た る貯蓄と特約である保障はその契約内で明確に分離(unbundling)さ れており、契約者は両者をある程度自由に組み合わせることが可能で ある25)。そして予定利率においては、これは貯蓄部分である主契約が 対象とされるのだが、一定期間ごとに見直される形の変動型の予定利 率(最低保証利率)が採用されている26)。保険料の支払いは一定では ないため支払い保険料は、伝統的生命保険のように予定利率分だけ事 前に保険料が割り引かれるという形式ではない。また毎回発生した利 息分は主契約部分に積み立てられる。 このアカウント型保険は、保険料払い込み期間である第1保険期間 と保険料払い込み期間終了後である第2保険期間に分けられる(図表 3-1参照) 。 図表3-1 保険料 一部解約 アカウント型保険の構造図 運用益 貯蓄部分の積立金をもとに 終身(死亡、医療、介護)保障・ 年金へ移行 主契約部分 特約保険料の引き落とし 特約部分 死亡保障 医療保障 介護保障 第1保険期間(例:30歳~60歳) 第2保険期間 での契約内容 の決定を行う 第2保険期間 (出所)明治安田生命保険相互会社ホームページに基づき筆者作成。 ―148― 14 生命保険論集第 166 号 3-1-a 第1保険期間 第1保険期間とは、被保険者が契約から同期間終了までの30年程度 にわたる保険料払い込み期間のことであり、この期間では契約者が生 命保険会社に払い込んだ保険料はいったん主契約部分に払い込まれ、 毎回その中から必要な特約保険料27)が自動的に払い込まれることにな り、残った部分は利息を付けられて積み立てられる。この期間では契 約者は特約である保障内容を自由に選択・買い増し・解約をすること ができる。上述の通り、貯蓄部分の予定利率は一定期間ごとに見直さ れる。また貯蓄部分は一部分に限り手数料なしで解約することが可能 である28)。 3-1-b 第2保険期間 第2保険期間は、保険料払い込み期間である第1保険期間終了後の ことを指し、第1保険期間で積み立てられた貯蓄部分を原資とし、そ の原資を終身死亡保障、終身医療保障、あるいは終身介護保障等に移 行することができる。この時点で契約者はどの終身保障または年金、 一時金を選択するかを求められる。この選択は契約終了まで続く。な お、この時点では上述の第1保険期間における構造とは異なり、その 構造は終身保険と類似した構造に変わる。 3-1-c 契約者の利点 アカウント型保険の契約者にとっての利点は契約の利便性である。 契約者は主契約である貯蓄部分と特約である保障部分の内訳を自由に 決めることができること。貯蓄部分は手数料なして一部解約すること が可能であること。契約の転換を伴うことなく、保障の見直しを柔軟 に行うことができるということである。ただし第1保険期間での主契約 ―149― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 部分の積み立てを怠ると第2保険期間での保障が小さくなってしまう ということから保険料の積立には注意が必要である。 3-2 生命保険の理論的分類とアカウント型保険の位置づけ 生命保険を理論的に分類した場合のアカウント型保険の位置づけは 以下のとおりである29)。 生命保険は保険事故をもとに分類すると死亡保険、生存保険、生死 混合保険の三つに分類される30)。これらを保険料の蓄積の有無により さらに分類すると、生存保険は年金、生死混合保険は養老保険、変額 保険にそれぞれ分類される。これらは貯蓄型保険の範囲にある。いっ ぽう死亡保険は、保険料の蓄積が存在する終身保険のような貯蓄型保 険の範囲にあるものと、定期保険のように保険料の蓄積が存在しない 非貯蓄型保険に分けられる。また第三分野の保険(医療保険など)も 非貯蓄型保険である。 さてアカウント型保険の第1保険期間の主契約部分は貯蓄に近い性 質を持つものである。特約部分は死亡保険である定期保険と第三分野 である医療保険などの非貯蓄型保険によって構成されている。アカウ ント型保険はこれらの貯蓄と非貯蓄型保険によりかつこれらが明確に 分離された形で構成されている。 第2保険期間では主契約部分の積み立てを資金として終身保障に契 約が移行する。このときは終身保険に類似した形態(まれに生存保険 である年金や一時金になることもある)である貯蓄型保険にその形態 が変化する。 このような契約期間の移行により保険の理論的分類上の形態が変化 するという点はアカウント型保険の特殊な性質である(図表3-2参 照)。 ―150― 生命保険論集第 166 号 図表3-2 生命保険の分類とアカウント型保険の位置づけ 非貯蓄型保険 第三分野 アカウント型保険 (第1保険期間) 医療保険 特約部分 定期保険 主契約部分 貯蓄 終身保険 死亡保険 生命保険 養老保険 生死混合保険 変額保険(投資型) 生存保険 年金 終身保障 (死亡保障以外あり) アカウント型保険 (第2保険期間) 59 貯蓄型保険 (出所)筆者作成。 注25)江澤、前掲書、p.323。 26)明治安田生命の「ライフアカウントL.A.」を例にとると、予定利率は3年ご とに見直される。また予定利率は過去の国債の平均利回りなどを基準に決め られる。 27)アカウント型保険の特約は非貯蓄型保険で概ね保険期間が1~3年の短期的 なものであり、その種類は死亡保障、医療保障、介護保障など多岐に渡る。 28)江澤、前掲書、p.325。 29)アカウント型保険の時系列上の分類と位置づけに関しては、梅田篤史「ア カウント型保険の導入と生命保険会社の収益構造に関する考察」『保険研究』 第59集、慶應義塾保健学会、2007年、pp.281~282を参照されたい。 30)庭田範秋編著『保険学』成文堂、1989年、pp.124~125。 4.老後の資金準備としてのアカウント型保険の課題 第2章以降では本稿の考察の主たる題材であるアカウント型保険に より、第1章で概観した高齢社会における高齢者の医療の経済的問題 ―151― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 の解決を試みている。 本章では今日の高齢社会における老後の資金準備における自助努力 の一つとしてアカウント型保険を考えた場合の課題について検討する。 ここではアカウント型保険の課題を大きく二つに分けて記す。第一の 課題は第1保険期間における保険料積み立て時の問題であり、もう一 つは第2保険期間の終身保障への移行時の問題である。 4-1 第1保険期間における保険料積み立て時の問題 4-1-a 保険料の積立の問題 アカウント型保険の保険料は、その支払いにおいて契約者に利便性 が与えられているのであるが一時払いではない。そのため契約者は家 計の中から毎期間にわたって保険料の積み立てを行わなくてはならな い。契約者は毎期間定期的に保険料を積み立てることを余儀なくされ るのだが、一般的な保険料積立期間である30歳代~50歳代にはそれほ どの経済的余裕はなく、この期間の保険料の積み立ては困難であると いう問題が存在する31)。 中・壮年期の貯蓄を見た場合、第一に、2007年の年代別負債保有世 帯の割合では、全体が51.3%であり、30未満が39.3%、30歳代が54.9%、 40歳代が61.5%、50歳代が52.9%と30歳以上の大半の人は何らかの負 債を抱えており、年長になるほど負債保有者の割合が大きくなる32)。 第二に年代別年間収入では2002年と2007年のデータを比べた場合、 平均では-4.0%であり、30歳未満では-1.5%、30歳代では-6.0%、 40歳代では-2.0%、50歳代では-15.0%と全体的に貯蓄は減少してい るが、収入が最も大きくなる時期の50歳代で収入の大幅な減少が起こ っている33)(図表4-1参照)。 ―152― 生命保険論集第 166 号 図表4-1 年 次 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 年代別年間収入の年次推移 (単位:万円) 平 均 30歳未満 30~39歳 40~49歳 50~59歳 748 465 629 780 893 721 459 607 766 847 730 461 608 778 858 719 449 597 768 837 713 430 595 776 828 718 458 591 762 839 (出所)総務省統計局『家計調査年報(平成19年度)』2007年度版をもとに筆者作成。 次に年代別貯蓄現在残高をみると、2002年から2007年の変化におい ては、平均では-1.0%であり、30歳未満では-33.0%、30歳代では- 9.0%、40歳代では-0.5%、50歳代では-0.5%と30歳未満の若年層の 。この現象は今後の保 貯蓄が大きく減少している34)(図表4-2参照) 険契約の動向に影響が出る可能性がある。 図表4-2 年 次 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 年代別貯蓄現在高の年次推移 (単位:万円) 平 均 30歳未満 30~39歳 40~49歳 50~59歳 1,280 368 719 1,108 1,659 1,292 316 738 1,118 1,672 1,273 349 701 1,132 1,683 1,292 350 707 1,175 1,645 1,264 258 686 1,145 1,627 1,268 248 651 1,103 1,563 (出所)総務省統計局『家計調査年報(平成19年度)』2007年度版をもとに筆者作成。 第四の年代別負債現在高について2002年から2007年の変化において は、平均では+9.0%、30歳未満では+62.0%、30歳代では+15.0%、 40歳代では+10.0%、50歳代では-1.0%と全体的に負債は増えてい ―153― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 る35)(図表4-3参照)。特に30歳未満の上昇率(62.0%)は貯蓄現在 残高同様今後の保険契約に影響を及ぼす可能性がある。 図表4-3 年代別負債現在高の年次推移 (単位:万円) 平 均 30歳未満 30~39歳 40~49歳 50~59歳 607 249 727 845 526 605 229 701 864 528 655 296 742 923 547 616 296 728 840 524 624 285 755 914 474 664 403 835 927 531 年 次 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 (出所)総務省統計局『家計調査年報(平成19年度)』2007年度版をもとに筆者作成。 最後に年代別純貯蓄額(貯蓄現在高―負債現在高)をみると、2002 年から2007年の変化においては、平均では-69万円、30歳未満では- 274万円、30歳代では-176万円、40歳代では-87万円、50歳代では- 101万円と全体的に大きく減少している36)(図表4-4参照)。このよ うなことから保険料積立のための資金が日常の消費・負債の返済に回 り保険料の積み立てが困難になるという結果が生じている。 図表4-4 年 次 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 年代別純貯蓄額の年次推移(貯蓄現在高-負債現在高) 平 均 673 687 618 676 640 604 (単位:万円) 30歳未満 30~39歳 40~49歳 50~59歳 119 -8 263 1,133 87 37 254 1,144 53 -41 209 1,136 54 -21 335 1,121 -27 -69 231 1,153 -155 -184 176 1,032 (出所)総務省統計局『家計調査年報(平成19年度)』2007年度版をもとに筆者作成。 ―154― 生命保険論集第 166 号 4-1-b 生活設計に対する意識の問題 また契約者を含む生活者の生活設計に対する意識も保険料の積立の 減少を引き起こす要因となる。生命保険文化センターの『平成19年度 生活保障に関する調査』によると、生活設計をしていないという回答 が、全体の6割程度を占めており、この傾向がここ10年間で変わってい ないというデータが出ている37)(図表4-5参照)。 図表4-5 100% 5.2 90% 生活設計の有無 8.3 9.4 8.5 59.9 60.4 57.9 80% 70% 55.1 60% わからない 50% 生活設計なし 40% 生活設計あり 30% 20% 39.7 10% 31.8 30.3 33.6 2001年 2004年 2007年 0% 1998年 (出所)生命保険文化センター『平成19年度 生活保障に関する調査』2007年度版をもとに 筆者作成 。 4-2 第2保険期間の終身保障への移行時の問題 4-2-a 資金運用の問題 アカウント型保険の予定利率は一定期間ごとに見直され、予定利率 はそのときの経済状況により決定される38)。そのため、第1保険期間 ―155― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 での経済状況が悪いときには予定利率が低く設定されるため、生活設 計時に予定していたものよりも利回りが小さくなり、第2保険期間移 行時の保険資金が思っていたよりも小さくなってしまうという危険性 がある。 4-2-b 終身保障であることの問題 アカウント型保険は保険料払込期間である第1期間が終了し、第2 保険期間に移行すると契約は終身保障になる。終身保障に移行すると 保障内容は固定されるため、これまでの第1保険期間に与えられてい た契約の利便性は無くなる。また保障内容の変更ができなくなると同 時に保険金の設定額が一定になってしまうという問題も存在する。こ の状態になると従来型の生命保険である終身保険(とりわけ医療特約 付終身保険または終身医療保険)と同じ形状になるため将来にわたる 社会環境や契約者ニーズの変化への柔軟な対応に弱くなる。特に時期 には契約者は収入が一定金額である年金が中心となる高齢者となるた め、これ以降の保険の加入や資金の準備が困難になるという問題が発 生する39)。 注31)総務省統計局『家計調査年報(平成19年度)』2007年度版。 32)同上書。 33)同上書。 34)同上書。 35)同上書。 36)同上書。 37)アカウント型保険において、保険会社側はアニュアルレポート等により契 約者に自身の保険の状況を明確に示すことにより、契約者に積立の意識を向 上させるようにはしているのだが最終的な保険料の積立の決定は契約者の意 思決定にゆだねられている。 38)明治安田生命の「ライフアカウントL.A.」を例にとると、予定利率は3年ご とに見直される。また予定利率は過去の国債の平均利回りなどを基準に決め ―156― 生命保険論集第 166 号 られる。 39)三浦、前掲書、p.64。 5.まとめと今後の課題 これまでの考察により本稿の前半では、今日の高齢者の生活には医 療費を中心とした突発的な支出が存在するのだが、このような突発的 な支出が年々増加しているにもかかわらず、それらに対して高齢者の 収入は年金が中心であるため金額が固定されているため、高齢者は消 費の節約を余儀なくされているということ。今後の医療費及び物価の 上昇などによる必要な生活資金が増加からこれらの節約も困難となり 本格的な生活危機が起こる危険性があるということ。また近年は独居 高齢者が増加傾向にあり、家族からの生活援助が困難であるため高齢 者自身による自助努力と高齢期に入る前からの十分な資金準備が必要 とされるということがわかった。 医療費等の突発的な支出を含めた老後の資金準備においては公的年 金等の公的な手段と貯蓄をはじめとした個人的(私的)な手段の内、 公的保障充実志向よりも自助努力志向が強く、その個人による準備と しては加入件数の多い生命保険により期待が持たれるということがわ かった。 生命保険は高齢者の経済的問題に対する対策としてより有効なもの であるのだが、高齢者の生活上の問題に対応するためには、生命保険 の契約に柔軟性が必要である。このことから、本稿では従来型の生命 保険に比べ契約の柔軟性が高いアカウント型保険を題材とし、高齢社 会における経済的問題に対する対策としての有効性と課題についての 考察を本稿の後半において行った。 ―157― 高齢社会におけるアカウント型保険の課題と可能性に関する考察 本稿の後半では、高齢者の医療における経済的問題に対しアカウン ト型保険による解決を試みたのだが、アカウント型保険には以下の課 題が存在していることがわかった。第1保険期間における保険料の積 み立て時には、保険料の積立の際の資金作りの問題、契約者および生 活者の生活設計に対する意識の問題が存在することがわかった。第2 保険期間の終身保障への移行時のでは、資金運用の問題、第2期間開 始時に移行する終身保障の内容が固定されていて、その後の変化への 対応が困難であるという問題が存在することがわかった。 これらの問題を勘案し、高齢社会における高齢者の経済的問題への 対策としてのアカウント型保険の改善点とその可能性を以下にあげる。 まず契約の見直し、特に第2保険期間における医療保険の買い増し が考えられる。しかし高齢者においては収入が一定額であることから 追加的な保険料を支払うことが困難であるためこの保険の買い増しは 望ましい考えではない。そこで医療保険の事故率が逆相関である保険 とセットにするということを考える。しかし生命保険・医療保険の範 囲で事故率(死亡率)逆相関になるようは保険の開発は困難なため、 ここでは医療保険と保険金が逓減型の生命保険とを組み合わせるとい う方法が現時点ではより有用である。それは歳をとるにつれて配偶者 の余命も短くなることから遺族補償の必要が小さくなるためその分を 医療保険に振り分けることができるからである。さらに追加的に保険 料を支払う必要性か小さくなるため、年金が主な収入源であり追加的 な収入を見込むことが難しい高齢者にはより有用である。 この他に保険契約者へのアフターサービスとしての健康・心理に対 するカウンセリングと経済上の相談サービスが求められる。通常の保 険金支払いに替えて、入浴や病院などへの送迎サービスなどの介護を はじめとした現物給付にするなどの保険の見直しも必要である。 ―158― 生命保険論集第 166 号 本稿ではこれまで本稿の考察の主たる題材であるアカウント型保険 により、第1章で概観した高齢社会における高齢者の医療の経済的問 題の解決を試みた。しかし、本稿においてはアカウント型保険の第2 保険期間における契約内容についての改良が中心であり、第1保険期 間の保険料積立時における問題および資金運用の問題は解決できなか った。なぜならこれらの問題は、保険そのものの問題としての範囲を 超えており、社会経済・金融にわたる広い視野からの考察が必要だか らである。そのためアカウント型保険の第1保険期間における保険料 積み立て時の問題と資金運用についての問題は今後の課題である。ま た今回は今日の高齢社会における経済的問題とアカウント型保険につ いての考察をややマクロ的視点から行った。今後は高齢世帯モデルを 用いたミクロ的視点からの考察を行い具体的な対策について考察を行 いたい。 参考文献 アッチェリー,ロバート C・バルシュ,アマンダ S/宮内康二訳『ジ ェロントロジー~加齢の価値と社会の力学~』きんざい、2005年。 Atchley, Robert. 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