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会議録 - 北海道

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会議録 - 北海道
平成25
平成 25年度北海道磯焼
25 年度北海道磯焼け
年度北海道磯焼 け 対策連絡会議開催結果
日
時
場
所
出席者数
平成 26 年 1 月 17 日(金)
第二水産ビル 8 階大会議室
254 名
あいさつ
10:00~16:00
北海道磯焼け
中田
北海道磯焼 け 対策連絡会議 会長
( 北海道水産林務部水産基盤整備担当局長)
北海道水産林務部水産基盤整備担当局長 )
克哉
みなさん、おはようございます。北海道水産林務部の中田でございます。
「北海道磯焼け対策連絡会議」の開催にあたりまして、一言、ごあいさつを申し上げます。
本日は、漁協や市町村をはじめ、地域の取り組みを応援していただいている企業の皆様など、全道各
地からまた道外からもご出席をいただき、誠にありがとうございます。
本会議は、磯焼けが各地で進行する中、効果的な磯焼け対策を促進するため、地域の取り組みやその
成果を広く周知し、情報を共有する場として設置したものであり、今回で5回目の開催となります。
この5年間で地域の取り組みも広がり、例年以上にこのように多くの方々のご出席をいただき、磯焼
けに対するみなさま方の関心が年々高くなっていることを実感しているところでございます。
海洋環境の変化などによる磯焼けの進行に対して、広範囲を一気に解決できるような手法の開発は、
なかなか難しい状況にありますが、それぞれの地域のみなさまが熱意を持って、継続して取り組んでい
ただくことが何よりも大切であり、そのことが前浜を少しずつ改善し、藻場の回復に繋がると考えてお
ります。
国では、今年度「環境・生態系保全活動支援事業」から新たに「水産多面的機能発揮対策事業」をス
タートさせており、道内では「藻場保全」を対象とした活動組織も48組織から61組織に増えている
ところです。
みなさまにおかれましては、このような事業を十分に活用され、藻場の回復に向けた取組を進めてい
ただくとともに、成果が上がるよう一歩一歩着実に前進していただきたいと考えております。
道といたしましては、今後も試験研究機関と連携し、漁業者など地域のグループが、継続して取り組
みやすい手法の開発を進めて参りますとともに、このような会議を通じまして、情報提供に努め、皆様
の取り組みを支援して参りたいと考えているところです。
本日は、地域の取り組みや試験研究機関から発表をいただき、最後に専門委員の先生をはじめとする
パネリストのみなさまからご助言をいただく予定でございます。
藻場の回復に向け、地域の取組が今後さらに前に進むよう、本日の会議を進めて参りたいと考えてお
りますので、ご協力のほどをよろしくお願い申し上げ、開会にあたってのあいさつとさせていただきま
す。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
【講 演】
1 「 ウニの身入
ウニの 身入り・
身入 り・成熟
り・ 成熟・
成熟 ・ 品質」
品質 」
~ ウニの生理特性
ウニの 生理特性を
生理特性 を 知 ることが空
ることが 空 ウニの活用
ウニの 活用につながる
活用 につながる~
につながる ~
( 独 ) 水産総合研究センター
水産総合研究 センター北海道区水産研究所
センター 北海道区水産研究所
鵜沼
辰哉氏
私の専門は、繁殖生理学、つまり動物の体の中で卵や精子を作る仕組みについて研究してきた。
◇ 本日の
本日 の 話題
1 どんなウニを食べ、高級なのはどれか
2 ウニのどこを食べ、うまい時期はいつか
3 もっと品質を高めるにはどうすればよいか
-1-
1 どんなウニを食
どんなウニを 食 べ 、 高級なのはどれか
高級 なのはどれか
○国内の主な食用ウニは6種
冷 水 系:キタムラサキウニ、エゾバフンウニ
暖 水 系:ムラサキウニ、バフンウニ、アカウニ
亜熱帯系:シラヒゲウニ
北海道~東北地方で漁獲
冷水系・亜熱帯系以外の地域で漁獲
九州南部~南西諸島で漁獲
○高級なのはどれか
冷 水 系:平均すると高級なのはエゾバフンウニ。キタムラサキウニは品質の幅があり、最高級のも
のはエゾバフンウニを上回る。どちらも生食主体
暖 水 系:アカウニ→ムラサキウニ→バフンウニの順
亜熱帯系:シラヒゲウニは、生食主体だが身が脆弱なため瓶入り。折や塩水ウニには向かない。
・エゾバフンウニはアカ、キタムラサキウニはシロと言われている。
・国内のウニ生産量の半分以上を北海道産が占めている。北海道産のウニが全国の消費地に向け出荷。
○アカとシロのどちらを好むか
道内大手の加工業者3社、築地の仲卸、各地の加工業者にどちらを好んでいるか聞き取りした。
・道内ではアカのエゾバフンウニが優勢
・ウニの漁場がある地域は、「もともとどんなウニを食べていたか」
漁場がない地域は、「はじめにどんなウニが入ってきたか」に影響される。
・北陸、山陰から九州は、シロ優勢。東北、関東はアカとシロ拮抗。北海道、近畿、四国はアカ優勢。
○アカとシロの価格
エゾバフンウニ
キタムラサキウニ
小樽市場
2,500円/120g
1,500円/120g
エゾバフンの半分の値
ネット直販(全国向け) 4,500円/100g
4,000円/100g
それほど差はない
築地市場
1,000~18,000円/300g 1,000~40,000円/300g
・築地で、最も高い値で比較するとキタムラサキウニの方がエゾバフンをはるかに上回る。キタムラサ
キウニは品質に幅があり、選り抜くと極上の折になり、道外での評価は高い。
・10 月~11 月の産卵期は、良いものが手に入らず、価格が安い。磯焼け地域のウニのねらい目はこの
時期
〈 第 1 部 まとめ〉
まとめ 〉
・国内の主な食用ウニは6種
・キタムラサキウニとエゾバフンウニの評価は地域によって異なる
・国内で最も高い値がつくのはキタムラサキウニ
2 ウニのどこを食
ウニのどこを 食 べ 、 うまい時期
うまい 時期はいつか
時期 はいつか
・生殖巣の粒々は卵ではなく栄養細胞と生殖細胞(卵と精子、作りかけの卵と精子)
・成熟とともに栄養細胞が減り生殖細胞が増える。
栄養細胞と生殖細胞の状況からステージ1(未成熟)、ステージ2、ステージ3、ステージ4(成熟)、
ステージ5(産卵後)に分けられる。
産卵期に生殖巣指数は急減、その後徐々に上昇。 7月頃までは栄養細胞に栄養を蓄積し、栄養細胞が
肥ることで生殖巣の大きさを増していく。7月以降生殖細胞の割合が増えていく。
生殖巣の大きさが十分で生殖細胞の割合が少ない時期の7月が旬。
○成熟に伴う品質低下
その1:身 溶 け 卵や精子が流出。ミョウバン処理で緩和されるが渋味が生じる。
その2:味の悪化 卵巣で苦味が生じる(キタムラサキウニほとんどなし)。精巣で雑味が生じる。
卵巣、精巣とも水っぽさが生じる。
・成熟に伴う身溶けや味の悪化のため、ウニの旬は短い。
・食品として見た場合、成熟に良いことはなし。食品として重要なのは生殖細胞ではなく栄養細胞。
-2-
○成熟を抑制しながら養殖したらどうか?→品質の向上、旬の延長が期待される。
生殖細胞が増殖して品質が落ちた時期でも十分に洗って卵や精子を出せば製品になるが、重量は2~
3割減少する。
○成熟を抑制する2つの方法
・三倍体を作出して不妊化→ウニではだれも成功していない。完全養殖でないと利用できない。
・環境因子の制御
ウニの成熟も水温や日長の影響を受ける。→水温や日長を制御すれば成熟を抑制できるはず。
キタムラサキウニは夏から秋に成熟→冬から春の水温に保てば成熟を抑制できる。
天然ウニへの応用可能
〈 第 2 部 のまとめ〉
のまとめ 〉
・生殖巣の粒々の中は栄養細胞と生殖細胞
・食品として重要なのは栄養細胞
・成熟して生殖細胞が増えると身溶け・味の悪化により品質は低下する
・成熟を抑制しながら養殖できれば有利
・水温や日長の制御により成熟を抑制できるはず
3 もっと品質
もっと 品質を
品質 を 高 めるにはどうすればよいか
◇研究事例の紹介:北海道立総合研究機構重点研究「給餌型ウニ低温蓄養システムの開発」
共同研究者である北海道区水産研究所で取り組んでいる内容の紹介
・北海道の磯焼け地帯には、「空ウニ」と言われる身入りが悪く商品価値のないキタムラサキウニが多
く存在。ただし、短期間の養殖で身入りが改善できれば、商品化可能
○研究の目的
最終ゴール:陸上養殖システムの構築
磯焼け漁場のキタムラサキウニ(空ウニ)を用い、成熟を制御しながら飼育し、高品質
なウニを周年出荷するシステムを構築すること
はじめの一歩(本研究):低温での飼育がキタムラサキウニの①身入りと②成熟に及ぼす影響を把握
○低温飼育のねらい
磯焼け漁場では、餌不足で身入りが悪いがそれなりに成熟し、産卵する。
①飽食給餌で栄養細胞を増やす。
②低温飼育で生殖細胞を増やさない。→高品質な時期を長くする。
○材料と方法 北海道区水産研究所(釧路)で飼育
採集:寿都の磯焼け漁場 殻径:30~46mm
水槽:200L(かけ流し)
密度:50個体/水槽 水温:対照(18~22.5℃(生息地(寿都)に同じ))、15℃、10℃
日長:無調整
餌 :ナガコンブ(飽食)
飼育期間 6/30~10/12 5週間毎に 16~18 個体取り上げ、解剖
○身入りの進行
開始時身入り 7.5% 対照区、15℃区は5週間後、10℃区は 10 週後に商品化の目安である 15%
を超えた。低温で飼育しても 5~10 週で十分身入りすることがわかった。
○成熟の進行
飼育終了時、商品価値のないステージ4の割合
対照区:メス 29%、オス 45%、15℃区:メス 10%、オス 0%、10℃区:メス・オス 0%
水温が低いほど卵や精子を作るのが遅いことがわかった。
○身溶けの程度
生殖巣を 24 時間冷蔵し、その後軽く洗浄
卵や精子の流出で生殖巣が軽くなった割合を数値で表す
身溶け指数=100×(初期重量-24 時間後重量)÷初期重量
-3-
対照区:30%、15℃区:対照区の 1/3 程度、10℃区:対照区の 1/4 程度
水温が低いほど身溶けが少ない。
○飼育終了時の官能評価
5段階嗜好尺度を用いた評点法(とても嫌い1~とても好き5)
外観は、対照区で非常に低い値、味は、外観ほどの差はなかったが、対照区で低い傾向
低温飼育では、10 月(産卵期)まで品質を維持できる。
○想定される養殖方法
・種々の水温での摂餌率、身入り速度、成熟抑制効果から最も効率的な養殖方法を考案して、実践した
い。特性値は完全に取り終わっていない。
・餌は養殖コンブを想定、餌を入手しやすい時は十分に与え、入手しにくい時は身入りが低下しない程
度に与える方法を考えている。餌のあるときは高めの温度で飼育し身入りをどんどん進め、餌が不足す
る時期は、低温に保ちできるだけ基礎代謝を押さえ、成熟を抑制するという飼育方法を考えている。
・水温と摂餌・身入り・成熟の基礎データがあれば計画的な生産が可能になる。例えば 5 月に生殖巣指
数 5%のキタムラサキウニを1トン入手、7月までに 15%に高めたければ何トンのコンブを用意して、
何℃で飼育すればいいということを計算できるようになる。
○実用化に必要な課題への取り組み
プロジェクト研究「給餌型ウニ低温蓄養システムの開発」の内容
研究の内容
海洋深層水を使用した蓄養システムの開発を目指している。
・低温による成熟抑制技術の開発(北海道区水産研究所)
・水槽内で高密度に健全に養殖するための条件の解明(栽培水産試験場)
・餌用コンブを安定生産し長期保存する技術の開発(北海道大学など)
・岩内の海洋深層水施設で事業規模での実証試験(中央水産試験場など)
・低温で養殖したウニの市場性と経済効果の把握(中央水産試験場など)
○低温海水を得る方法
事業化するには、低温海水を得る方法を考えなければいけない。
・海洋深層水:300m以深から揚水、水温が極めて低い(2~5℃)、初期投資が膨大
既存の施設(北海道3カ所)を利用可能
・冷 却 機:エネルギーコスト高い、閉鎖循環でコスト削減可能
・地下海水:年間を通して水温安定(北海道なら10℃程度)、初期投資小さい、アンモニアやマン
ガン濃度が高いことがある。
〈 第 3 部 のまとめ〉
のまとめ 〉
・空ウニを夏から秋まで低温で飼育しても身入りは十分に進む
・低温飼育の生殖巣は成熟が抑制され、品質を天然個体の産卵期(10月)まで維持できる
・周年出荷実現のためには水温と飼育期間の最適な組み合わせを明らかにすべき
・低温海水や餌の確保の方法を検討することも必要
最後に、人は栄養細胞を食べている。増やすのなら生殖細胞ではなく栄養細胞を増やしましょう。
【 質問・
質問 ・ 意見】
意見 】
Q 寒地土木研究所 三上氏
非常に興味深い発表どうもありがとうございます。築地市場でキタムラサキウニの値段が一番低くな
っている時期は、産卵期で品質が落ちているということなので、養殖する場合はその時期を狙って出荷
時期を調整し、システムを考えるということでよろしいでしょうか?
A 鵜沼氏
10 月の1ヶ月間、キタムラサキウニの最高価格が下がっているが、これは需要がないから下がって
いるのではなく、需要自体は年間を通じて継続してあるけれども、ほぼ全国的に産卵期で、身溶けのす
る品質の悪いキタムラサキウニばかりなので、値段が低くなってしまう。この時期に旬の時期と同じ品
質のものを持ち込めば非常に高い値段で売れると考えています。
-4-
Q
寒地土木研究所 三上氏
消費者のターゲットや出荷時期を考えて、システムを構築することが重要ということですね。どうも
ありがとうございました。
Q
水産庁 小森氏
磯焼け対策で空ウニを駆除し、駆除したウニを飼育して、高品質のウニを高く売れる時期に出荷する
ということだと思うが、実用化に向けては、まだ課題があるということだったが、実用化の目途、あと
何年位というものがあれば教えていただきたいと思います。
A 鵜沼氏
どこまで目指すかということで異なりますが、現在の海洋深層水の施設を使って、養殖して出荷する
ための技術は、だいたい7割位できているので、あと2~3年以内で実用化できると考えています。た
だし、2~3年というのは少量の餌を使って小規模な施設で養殖して、商品として出せるようになるま
での技術です。餌の問題を解決し規模を大きくするとか深層水のない施設でも行えるようにするなどと
目標を高いところに設定するともっと長い期間がかかると思っています。
Q
礼文地区水産技術普及指導所
礼文地区 水産技術普及指導所 伊藤氏
身入りするまでの期間は飽食まで給餌するとのことでしたが、その時期に水温を低く保てない場合、
身入り期に餌の量を減らして、身入りの時期を遅らせることは可能なのでしょうか。給餌量を下げると
生理的に問題はあるのでしょうか。
A 鵜沼氏
餌の量を変えると身入りのスピードは変わってきますが、夏前の本来身入りが進む時期にあまり餌を
与えないで身入りを遅らせるのは利点が少なく、餌が手にはいるのであれば、さっさと身入りをさせた
方がいいと思います。餌が手に入らないのであれば飽食まで至らなくても仕方がないですが、秋には餌
はなくなるので、餌があるうちに身入りをさせた方が得ではないかと考えています。
【講
演】
2 「 他地域における
他地域 における磯焼
における 磯焼け
磯焼 け 対策の
対策 の 取 り 組 み 」
~ 他地域の
他地域 の 取 り 組 み 事例の
事例 の 紹介~
紹介 ~
一般社団法人
水産土木建設技術センター
水産土木建設技術 センター調査研究部
センター 調査研究部
安藤
亘氏
・北海道以外での磯焼け対策の取り組みについて、事例等を紹介したい。
・平成7年から藻場造成に携わっており、ソフト対策の活動の支援を行う中で感じたこと、うまくいっ
ているところは、どのような意義をもって取り組んでいるかについて、考察してきたのでそれらを中心
に紹介したい。
○はじめに(講演の内容)
・水産多面的機能発揮対策事業について
・磯焼け対策について考える
・他地域の取り組み事例の紹介(①三重県、②高知県、③鹿児島県、④大分県、⑤長崎県の事例)
1
水産多面的機能発揮対策事業
H25 から3年間、これまでの環境・生態系保全活動支援事業では、藻場、干潟、珊瑚礁の保全対策
を行うための事業だったが、今年度からは、国民の生命・財産の保全(海難救助、漂流漂着物処理)、
漁村文化の継承(食文化等の伝承機会の提供、教育と啓発の場の提供)が加わった。
H25.12 月現在、活動組織数 805 件、参加市町村数 403 件 北海道が断トツに多い。
・藻場の保全は、北海道、青森県、九州と北と南が多い。
・藻場の保全活動は 14 のメニューにより実施可能、主に実施されているのは、ウニの除去、ウニの密
度管理、母藻の設置、海藻の種苗投入、岩盤清掃、栄養塩の供給など平成 20 年からこのようなメニュ
ーがあるので、みなさん手法はある程度理解されていると思う。北海道で取り組みが多いのは、岩盤清
掃、ウニの密度管理・除去、母藻の設置・種苗の投入で、栄養塩の供給は意外と少ない。
-5-
○磯焼け対策について
・磯焼け対策の調査研究が水産庁で始まって10年目だが、10年かかってもなかなか解決していない。
・食害生物を減らす、栄養塩を添加すれば藻場が再生すると言われているが、大規模に藻場が再生され
たという話はあまり聞こえてこない。
・国からの支援は充実し、磯焼けや藻場への理解・関心も深まっており、実施体制もできている。
・磯焼けの原因究明や技術的な対応以外に足りないものがあるのか。
10年もたっているのにどうしてかということが私も疑問、みなさんも不思議と思う。
・海水温は制御できないが、食害やタネ不足対策は、現場で理解されているし、工夫して取り組んでい
る。特にウニの密度管理や駆除は、ウニ漁と同じ感覚で実施されるので、技術的な話よりもエリアを決
めてしっかり取り組めば、それなりの効果は上がる。タネについてもスポアバッグなど工夫して取り組
まれており、それほど難しい手法ではない。栄養塩は、どの時期にどのくらい添加すればよいか、拡散
範囲など、まだ解決されていない部分はあるがいろいろと研究されているので近いうちに手法が確立さ
れると考えている。浮泥については、一部でメカニズムなどの研究はされているがあまり進んでいない。
・磯焼け対策は、藻場を増やすことが目的というよりも最終的に水産物の安定供給や漁村の振興に繋が
れば、やりがいがあると思うが藻場を増やすことで止まってしまうと、良く理解していない方は、なぜ
やっているのかわからないという状況になってしまうことが多い。
単にメンバーを揃え対策に取り組んでも藻場が再生するものではないということもわかっている。
活動組織を作った始めの頃は、不安や緊張があり、どうやって取り組めばいいのかわからない状態。
10 年経てば、本来は目標に向かって進む時期なのだが、なかなかそこまでは至らず混沌とした状態の
ように思う。
2 取 り 組 み 事例紹介
①三重県 鳥羽磯部漁協答志支所青壮年部
・アワビの漁獲量が激減し、取り組み開始
・活動内容は、種苗づくり、種苗投入、食害防止カゴの設置で、他の組織でも取り組まれていることだ
が、10年近く活動を続けており、自分たちで解決しようという強い意思を持っている。
答志島は、中学生になると親元を離れ他人の家で寝泊まりする寝屋子の制度がある場所で、共同生活
をしながら成長するので、若者たちの信頼関係が強い。
・始めは、国などからの予算措置がなくても自分たちで何かしようと取り組み始めた。
鳥羽市も協力し、勉強しながら自分たちでオリジナルの種苗投入の方法を開発した。
・鳥羽市、漁連、中学校が活動に参加し、マスコミが取り上げることで、活動も広がっていった。
②鹿児島県 高山藻場保全部会
・大型定置網中心の地域、定置漁業の漁獲が減少し、それ以外で所得を確保したいということで活動を
開始
・若者中心
・潜水士の講習を実施
・水産高校の生徒に協力してもらい、ウニ駆除に取り組んでいる。自分たちで食害対策用のカゴを改良
し、設置している。
・駆除した小型巻貝の試験販売にも取り組んでいる。ウニ漁場ではなかったが、板ウニづくりに取り組
んでいる。農業高校の協力を得て、ウニの堆肥づくりにも取り組んでいる。
・これらの取り組みにより、若干水揚げが増えてきた。
・磯焼け対策が、所得に繋がることで意義を感じ、自ら勉強し、取り組みを進めている。
③高知県 池ノ浦・久通磯焼け対策部会
・磯焼けによりアワビ・イセエビの漁獲量が激減
・高齢な漁業者多い。
・自分たちでは潜水できないので、水産試験場、高知大学、ボランティアダイバーの協力を得てウニ駆
除などの活動を実施
・高齢な漁業者は船を出す、若い人は活動が終わった後の食事を用意するなど自分たちでできることに
取り組んでいる。
・活動の内容は、部会だよりを作り、回覧板や掲示板などを活用し、直接参加していない人や女性部な
どへも紹介している。
-6-
④大分県 名護屋地区藻場保全活動組織
・磯焼けによりアワビが激減
・少人数での取り組み
・ウニ駆除と母藻の投入を繰り返し行い、モニタリングを実施。終了後年1回、必ず報告会を実施。
活動の結果を報告し、意見交換を行い、翌年度計画に繋げている。
・初めの3年間は藻場ができなかったが、3年目以降藻場が徐々に増えている。
・地元の小学校の協力も得ており、船からの母藻の投入は小学生が行っている。中学生にも磯焼けや活
動の状況を周知している。NPOも立ち上げ、精力的な活動を行っている。
・活動の成果も見られており、ホンダワラが増え、藻場も回復。活動している場所以外にも流れ藻など
の影響で藻場が増えている。活動を継続することで近隣の藻場にも好影響を与えている。
⑤− 1 長崎県平戸市
・市の職員が中心にコーディネート
・アイゴ、イスズミなどの食害あり。これらの魚は臭みがあって敬遠されがち。価値は低く、処理に困
るので、あまり漁獲されていない。地域によっては食べる習慣のあるところもあり、有効利用しようと
取り組んでいる。
・専門の先生を呼び、臭みの除去など調理方法を勉強したり、イベントで磯焼け丼というどんぶりを作
って販売したりしている。
・1,000~2,000 尾というオーダーで蓄養しているので、大量に漁獲されたときはイベントのみでは
消費できない。また、50cm位ある大きな魚なので、保管するにも経費がかかる。大量に販売できるよ
うマーケティングの専門家を招き勉強もしている。
●マーケティング専門家からのアドバイス
・水産関係者は活魚を考えるが、アイゴやイスズミは、他のおいしい魚にはかなわない。
・魚食事情を福岡の大学生と一緒に分析した結果、臭い、骨がある、面倒などの理由で若者はあまり魚
を食べないという事情がわかった。そのようなことを意識して販売ルート、販売先を考える必要がある。
・磯焼けについて、水産関係者は環境問題として取り組んでいるが、一般の方は、森林や珊瑚礁の問題
は知っていても磯焼けや藻場が減っていることについてあまり知らない。知らないのにその対策の商品
を作っても売れないので、環境問題として磯焼けを知ってもらう活動をする必要がある。
・企業の協力やマスコミも利用している。昨年3月から揚げ天を博多駅で販売、7 ヶ月で 2,500 枚販
売したが、イスズミの数としては 100 尾程度なので大量に販売するため、業務用とすることも検討し
ている。福岡市でのデパートでの即売会も実施。
⑤− 2 長崎県
磯焼け対策強化の取り組み(H25 年度~)
・地域別磯焼け対策会議を実施:県内2カ所 対馬、本土
県による水産基盤整備事業、活動組織による保全活動(水産多面的機能発揮対策)、水産試験場によ
る調査や技術開発、研修会の実施
モデル地区を作って、地域を絞って成功事例を作り広めていくという活動を H25 から進めている。
○以上の取り組み事例の特徴
①三重県、②鹿児島県:若い漁業者自らが意欲的に活動
③高知県、④大分県、⑤長崎県:コーディネーター、専門家のアドバイスを受けながら活動
・リーダーシップを発揮する人が必ずいる。その方を中心に仲間ができている。
・活動し学びながら前に進むことを意識している。
・自分たちだけにとどめず、発信している。
・保全活動ではなく、仕事と考えている。
○アンケート調査の結果(H24 環境・生態系保全活動について実施)
「どういう問題があるか」との問いに対しする回答
●技術的課題で上位を占めた回答
・活動の効果が数字で表せない。(検証が困難)
・活動しても効果が見られない。→自分たちの活動の仕方を見直し専門家などのアドバイスを受ける。
・海中の様子がわからない。→装置などを活用すればよい。
藻場にこだわっている組織が多い。事例を紹介したところは藻場よりも磯根資源がどれだけ増えたか
ということで評価している。
-7-
●運営上の課題で上位を占めた回答
・海象条件により、予定どおりに活動できない→1年行えば、どの位活動できるかわかるので、きちん
と計画を立てる。
・人員・人材不足→いろいろな方を巻き込み、仲間を作る。
・構成員の高齢化→技術の開発には何年もかかる。活動の意義だけでも理解してもらい、もっと積極的
に取り組む。
・有効利用→ウニ殻カルシウムパウダー入り石けん、クッキー、ウニ殻から堆肥、ウニ殻アート、
モバイルうにせん(越後製菓 空ウニのエキスを利用)、ガンガゼのドライペレット
食用ばかりではなく他の利用も考えてみてはどうか。水産関係者ばかりではなく、いろいろな分野の
方の意見を聞くとおもしろい発想が出てくる。
女子大生は、イスズミを臭いイメージではなく、海藻を食べているヘルシーな魚というイメージでと
らえ、イスズミのさつま揚げの商品開発をした。販路はいろいろな方法で考えていけばよいと思う。
○植食性魚類(アイゴ)の有効利用 対馬市水産加工連絡協議会
・あまり食用にならないアイゴを有効利用している。
・漁協と対馬市でアイゴを何とか利用できないかと考えていたところ、平成 22 年に食育法が変わり、
市で食育の基本計画を策定した。学校給食で、地元の魚がほとんど食べられていなかったため、地元の
魚を利用するため、協議会を作り、意見交換をした。給食は単価が安いこと、地元魚はロットが揃わな
いという問題が出てきたため、市で補助したり、加工会社に協力してもらったりしたところ、給食での
地元魚の利用は、年に1~2回だったものが、50%程度になった。商品のパッケージ的なものができれ
ば、販路を外にも拡大しようと考えている。
⑥深浅移植の事例 岩手県洋野町宿戸地区
・水深の浅いところには、よくコンブが生える。干上がる場所なので製品コンブにはならないが、ウニ
などの餌にはなる。水深4~8mのところには沿整事業で造成した投石礁があるが、磯焼け状態で海藻
は生えていなくウニのみ。秋にこのような場所から溝にウニを移植。溝はコンブがたくさん生えるので、
ウニの身入りは良くなる。ウニ漁期には溝のウニは全て漁獲している。20年近くウニの資源は減って
いないと聞いている。
○まとめ
・磯焼けにはいろいろな要因が複雑に絡まって起こっていること、成果の発現には時間を要することは
皆さんご承知です。しかし個人的には10年は少し長すぎると感じます。
長期化から脱却できるようにしなければいけませんし、みなさんもそう願っていると思います。磯焼
け対策ガイドライン作成後、食害対策やタネ不足対策について、斬新な革新的な技術ができたわけでは
ありません。そのような革新的な技術には期待しないで、地道に取り組むことが必要と考えています。
まず、仲間を作ることが重要です。また、保全活動ではなく、サザエ、アワビ、イセエビなどの漁獲
を増やしたいということが大きな目標の中にあれば、漁業者の方にもわかりやすいと思います。単に藻
場を増やしましょうでは、ピンとこない方もいますので、自分たちが頑張ればイセエビが戻ってくると
いうことで進めば、みなさん工夫して取り組むのではないかと思います。継続しているところは漁業の
一環として取り組んでいます。活動の途中途中ではターニングポイントがあり、あきらめてしまうこと
もありますが、民間や行政、アドバイザーの方たちが支援して、停滞しないようにみんなで頑張ってい
ければいいと思います。
【質問・意見】
Q 嵯峨委員
貴重なご講演、大変楽しく、興味深く拝聴しました。対策事例、うまくいっている事例を紹介してい
ただきましたが、成功事例とうまくいっていない事例の割合はどのくらいなのでしょうか。
また、漁業者が業として取り組めば長続きするが、環境保全のようなボランティアだとなかなか長続
きしないという問題点があるとのことでしたが、業として取り組んでいるところはだいたいうまくいっ
ているという理解でいいのでしょうか。
A
安藤氏
成功事例の数はまとめていませんが、長崎県でも1つか2つしかなく、あまりありません。北海道以
外では今日紹介した事例のほかに、あとわずかな事例があるだけです。
生業で取り組んでいるところは、藻場を生やした先を考えて、アワビやイセエビを増やそうという長
-8-
期的な目標を持ち、生産的な仕事で取り組んでいます。成果を捉えるのもわかりやすく、そのような組
織は行政や水試、サポーターなどからアドバイスをもらい、報告会を開催し、必ず結果をフィードバッ
クさせています。また、リーダーになる人がいて、マネジメントしながら取り組んでいるところはうま
くいっていますが、予算が付いたから、磯焼け対策だからということで、ただ取り組むのでは、うまく
いきません。
Q
干川委員
大分県名護屋地区の活動について2点質問したい。アワビの漁獲量が激減したことから、活動に取り
組んだということでしたが、立派なホンダワラの藻場ができているので、アワビの漁獲量に影響があっ
たのでしょうか。
二つ目は、湾の一部で活動した結果、周囲にも藻場が回復したという地図があり、湾の外側でも藻場
が回復していましたが、因果関係など思い当たることがあれば教えてください。
A 安藤氏
アワビの漁獲は、まだ増えていません。ただ、これだけ藻場が増えているので、種苗を作って放流し
ながら、どのくらい成長するかなどを水試や佐伯市の方と調査を始めたところです。
基本的には、湾の一部で保全活動を行いましたが、同じ種類のホンダワラが点々と増えている状況で
す。いろいろな場所で漁をしているので、操業の中でウニがいれば、潰すなどの取り組みをしています。
母藻も投入していますが、残った母藻を港の近くで捨てることもあり、そのようなことも要因かと思っ
ています。
【 事例発表】
事例発表 】
3 神恵内村の
神恵内村の 取 り 組 み
~ 神恵内村藻場∞
神恵内村藻場 ∞ LANDプロジェクトの
LAND プロジェクトの成果
プロジェクトの 成果と
成果 と 課題~
課題 ~
神恵内村
㈱ エコニクス
板倉
村上
宏至氏
俊哉氏
・神恵内村は、北海道積丹半島の西側に位置し、現在の人口は 982 人。北海道内で2番目に人口規模
の小さい村。漁業を主幹産業として発展。江戸時代からニシン漁が盛んで、明治時代に最盛期を迎え、
大正元年には全道一の漁獲量を記録した。
その後、ニシン漁は不振となり各種増養殖事業に取り組み、獲る漁業から育てる漁業への転換を図っ
たが、近年は、磯焼けが進行し荒れてやせた海となっている。キタムラサキウニが多いところで 40~
50 個/㎡分布している状況
○神恵内村藻場LANDプロジェクト事業
海の環境保全活動として、企業と地域が一体となった海の森づくり神恵内村藻場LANDプロジェク
ト事業を立ち上げ、事業の趣旨に賛同いただいた企業の協賛(CSR活動)、関係機関の協力のもと環
境保全活動を実施
・事業のメインテーマである藻場造成は漁業者の自主的かつ積極的な関わりが必要と考え、古宇郡漁業
協同組合が藻場造成活動の中核となり、ウニフェンスの設置や密度管理、スポアバッグの設置を行った。
・協賛いただいた企業のプレートを海底に設置し、企業の社会的責任、CSR活動のPR用として、情
報提供した。
○事業内容
平成 22 年から3カ年で 11 項目の取り組みを実施しているが、本日は「食害防止フェンス設置」「ウ
ニ類密度管理」「コンブスポアバッグ設置」「濁度・光量子量観測」「波浪流況観測」「ウニ身入り調
査」の6項目について説明。
・1区画 1,350 ㎡ 地元の漁業者が主体となった活動
1期(H22):水深3~5m、2期(H23):水深6~7m、3期(H24):水深5~7m
H25 は1期の区画とその周囲、2期と3期の区画を繋げその周囲を範囲とし、密度管理を実施。
面積は、合わせて 1.4~1.5ha
-9-
○食害防止フェンスの設置
45×30mの範囲
フェンスは使われていない古い刺し網を漁業者に提供をしてもらい、漁業者自ら製作した。
海底への設置は専門のダイバーが作業。オールアンカーを2~3m間隔で打ち込み、ステンレス製チ
ェーンを多少たるませて設置。その後、刺し網をインシュロックで結束。時化で刺し網が破損してもま
た補強すれば良いという考え。
○ウニ密度管理
ウニは、最大で 30 個/㎡以上。月1回を目安に潜水除去し、フェンスの外、数mのところに移殖
○スポアバッグ
袋は生分解性の素材で作成。子のう斑が形成されているホソメコンブを採取し、1~2時間水切り、
一晩あんじょうする。漁業者はコンブの陰干しや袋状のものに重しを2個入れ 20~30cm位のホソメ
コンブを2~3本入れ、船上から投入する作業を実施。
袋は3ヶ月くらい経つともろくなって肉眼では見えなくなる。海岸に打ち上がったことはない。素材
は、バイオマスプラスチックで生分解性。
○ウニ類密度管理の効果
開始時のウニは、20 個/㎡、5月ピーク時のホソメコンブの被度は 50%超える程度。フェンスの中
はホソメコンブ中心、フェンスの外はケウルシグサが生えていたが、すぐになくなり再び磯焼け状態に
なった。
○食害防止フェンス設置効果
フェンス設置時:磯焼け状態
→5,6月:フェンスの外の広い範囲まで海藻が繁茂
→7月:フェンス内は海藻が繁茂、フェンス外はウニの食圧が優り、再び磯焼け状態になった
○H25の状況
3期造成区
・3期造成区:ホソメコンブが生い茂っている(コンブ葉幅 12cm、葉長 2.2m)。
コンブの被度 90%
・良い環境になったためか、アワビが集まってきている。
・スポアバッグ 500 袋を2回
1期造成区
・ウニの密度管理をして3年目
・スポアバッグは、100 袋と量を減らしている。コンブも生えているがエゾヒトエグサ、ケウルシグサ、
フクロノリなども生えており海藻の種類が多い。アカモク、フシスジモクとホンダワラ類が繁茂してお
り、継続して取り組んでいる成果と思っている。
○コンブ遊走子の拡散範囲
ホソメコンブの遊走子が着生するのは、主に6時間以内、最大でも12時間の範囲内と言われてい
る。時化ていない状況と考えると、拡散範囲は6時間で 269m、12 時間で 356m。
○相対光量
藻場が存在する限界水深での相対光量は、ホソメコンブの分布する日本海側で 0.31 と言われている。
造成区で測定の結果、水深 11.5mでも 0.36 であり、成長に必要な十分な光量があった。また、日積
算光量も十分な値であり、光環境は良好である。
○ウニ身入り調査
・生殖巣指数は、造成区内(フェンス外の近傍)で 25%。数m離れた造成区外は 14.8%。
今後は生えたコンブを利用し、ウニの身入り改善に繋げ、漁業者の方に実感していただくことが、我々
の仕事と思っている。
○今後の課題
①費用対効果の向上(低コスト管理)
人の手を加えれば藻場が造成できることがわかり、その立証に成功したが、1年間で1,000㎡の
- 10 -
藻場を造成するために多くの協賛金をいただいている。膨大な面積の海域を豊かな海にするためには、
さらなる低コスト化、高効率化を目指す必要がある。事業を継続し、最低限、どれだけ手を加えれば藻
場が造成できるかということを立証する必要がある。
②漁業者が効率良く実施できる手法の開発
漁業者は当事業の趣旨を理解し、漁業経営の傍ら作業を進めている。高齢化や後継者不足の課題もあ
り、作業するメンバーの固定化も見られる。少人数、短時間でできる手法の開発など漁業者の負担を軽
減することが息の長い活動とするために必要と考えている。
③協賛企業をはじめ事業を通じた都市部との交流
当事業では3年間道内外の企業から多くのご支援をいただいた。この間オープニングセレモニーや報
告会を実施するなど、支援いただいた方との関わりを大切にしてきた。この縁を大切にして次に繋げて
いきたい。都市部には環境保全活動に関心を持つもっと多くの企業や人が存在すると予想されるので、
都市部をターゲットに当事業をPRできる場やその方法を検討したいと考えている。
④「藻場づくり」は「人づくり」から
当事業の実施により漁業者の中に自分たちの海を守るという意識が定着したことを村としても心強く
思っている。当事業を継続、発展させるためには、漁業者が主体となって藻場の保全活動を行うことが
望ましいと考えている。保全活動をサポートし、維持拡大できる仕組みが必要。漁業者の枠を超えたN
POなどの立ち上げも今後検討したい。
⑤藻場形成から漁場形成に向けた取り組み強化
藻場形成によりさらに期待できることは魚類の産卵場所と稚魚の生息場所の拡大。藻場造成場所で最
も顕著な変化は稚仔魚の増加。藻場は稚魚の絶好の住みかであり、海のゆりかごとしての機能が期待さ
れる。かつてニシン漁で栄えた当村にとって、豊かな海の復活はニシン漁の復活でもある。これまで道
の直轄事業で放流を行っていただいたが今後は後志南部地域として、継続実施して豊かな漁場が形成で
きるよう取り組んでいきたい。神恵内の豊かな海を次世代の子供たちに残していくために当事業を関係
機関の協力をいただきながら今後も継続して取り組んでいきたいと考えているので、今後ともよろしく
お願いします。 最後にこの事業にご協力いただきました企業、農林水産省、北海道のみなさまに心より
お礼を申し上げます。
【質疑・意見】
Q 吾妻委員
資料の3ページに「ウニ類密度管理の効果」の図がありますが、縦軸の%は、被度ですか。コンブの
場合、1㎡当たり何本くらい生えていますか。
A 村上氏
被度です。1㎡あたり50本はないと思います。サンプリングはしないで、被度で表しています。
Q 吾妻委員
春から夏は、いずれも小型あるいは大型の1年生の海藻が見られています。これらの海藻は早く入植
する海藻で遷移の段階は、初期の段階ですが、毎年、このような植生の変化の図が描けるのですか。
A 村上氏
3年目の場所でも小型の1年生海藻が見られるので、同じように被度で海藻の種類を取りまとめるこ
とが可能です。
Q 吾妻委員
大型で長命のフシスジモクなどの海藻が入植して、優占群落を作るという傾向が認められない。フシ
スジモクにいたらない仕組みがあるのではないかと考えられるのですが、どうなのでしょうか。比較的
水温の高かった 2010 年でもフシスジモクなど高水温に適応している種類が入ってこないのでしょう
か。
A 村上氏
3年目の場所で、フシスジモクが生えてきたという状況です。海岸線の水深が1mより浅いところで
フシスジモクがびっしり生えていますが、3m以深ではあまり見えないので、今後データを取っていき
たいと思います。
- 11 -
【 道総研の
道総研 の 報告】
報告 】
4
コンブのタネが減
コンブのタネが 減 っている?
っている?
~ コンブの胞子
コンブの 胞子に
胞子 に 関 する研究
する 研究の
研究 の 現状と
現状 と 課題~
課題 ~
(地独)
地独 ) 北海道立総合研究機構中央水産試験場
秋野
秀樹氏
コンブ群落の再生産に欠かせないコンブの胞子、タネと言うことも多いが、その研究の現状と課題を
報告する。遊走子がどのように広がっていくかが今日の主な話題。
○コンブの生活史
・ホソメコンブは、10~12 月頃、かさぶたのような子のう斑と呼ばれる組織が体の表面にでき、遊走
子が放出される。遊走子は鞭毛を動かし活発に動き回る。遊走子が石などに着底し、雄と雌の配偶体と
なる。配偶体に卵と精子ができ、受精するとコンブになる。
○昔
・何もしなくても、なんぼでもコンブは生えた。
・ロープや石を入れるとコンブがびっしり付いた。スポアバッグなどを入れ、タネをわざわざ撒かなく
ても生えてくると言われていた。
○過去の事例紹介
・美国町厚苫での事例(S58)の大規模造成礁を2組
一方にスポアバッグ(ネットの袋にマコンブを入れ浮きと重しを付けたもの)、もう一方は何もなし。
その結果、どちらもタネがたくさん飛んできて何もしなくてもコンブがたくさん生えた。
・大成町長磯での試験(S60~)
スポアバッグを入れた区域と入れない区域を作りどのようにコンブが生えるかを調べた。その結果、
投石礁(スポアバッグあり)、天然礁(スポアバッグなし)で大差なし。同じ投石礁でも差がなく、ス
ポアバッグの有無に関わらずタネは供給された。
・泊村渋井での事例(S57)
スポアバッグのタネが飛び散ってなくならないようにポリシート(水抜きの穴あり)で帽子のような
ものを作り礁にかぶせた。試験区 6.6~14kg/㎡、対照区 1.2kg/㎡となり、差が出た。
○近年の事例
・2012 年 11 月の試験:一辺7cmの小さなプレート、一方に実験室内でコンブの胞子を着生させ、
もう一方は何もなし。翌年、コンブの胞子を付けたプレートにはコンブがたくさん生え、何もしなかっ
たプレートには何も生えなかった。周囲は食害動物の影響を受けないよう、ウニを除去している。
・コンブが生えなくなった投石礁
コンブの胞子を付けたプレートと何もしないプレートを並べて設置。投石礁は嵩上げし、ウニの食害
を受けないようにしている。胞子付けしたプレートにはコンブがたくさん着生したが、胞子なしのプレ
ートには何も生えなかった。
コンブのタネがどこにでもたくさんあるわけではないという事例を得ることができた。
○母藻投入の必要性
天然で胞子不足があるとしたら、それを補うことができる。
胞子の数×生える確率(食害動物の有無、水温や環境によって大きく変動する)=コンブ本数
生える確率を増やすには、たくさんのタネがあった方がいい。
○天然でのコンブ遊走子の分布事例
・泊村のコンブが豊富な場所で採水。ろ過して培養し、生えてくるコンブの数を数えた。岸辺から沖合
までいろいろなエリアで調べた結果がある。コンブの生えている周囲の採水からは、コンブがたくさん
出てきたが沖合になると急に減った。コンブのタネはどこにでもあると言われてきたが、データとして
はそうではない。距離が離れるとタネはあっという間に減ってしまい、500m から 1,000m までしか
この調査方法では確認できなかった。
- 12 -
○どのくらい広がるか
後志北部地区水産技術普及指導所が中央水産試験場の流水槽(2×26×0.3m)で試験
水路の中央にコンブの母藻を数枚置き、スライドグラスを適当な間隔で吊し、コンブの種がどちら側
にどの位広がるかを調べた。流れは毎秒2cm 程度。
結果、母藻を設置した場所は胞子の付着数が 241 と多かったが、上流・下流に1m離れただけで2
~3個になってしまい、さらに離れると2~5個とものすごい勢いで数が減ってしまった。止水に近い
ような人工的なプールでもわずかな距離で、コンブの付着する量が激減することがわかった。
○遊走子の遊泳時間の試験
7.5℃、10.0℃、12.5℃、15.0℃、17.5℃で実験水槽を作り、コンブ遊走子を入れ、スライドグラ
スを吊し、2時間おきに検鏡し付着している遊走子の数、泳いでいる遊走子の数を調べた。遊泳してい
る遊走子の数は時間とともに減少し、12 時間位で見えなくなった。スライドグラスに付着した遊走子
の数は時間とともに増加するが、6時間位でほとんど増えなくなった。6~12 時間でほとんどの遊走
子は付着することが考えられる。
・コンブの遊走子が広がる範囲は意外に狭い。コンブの遊走子はどこにでもあるわけではない。大部分
の遊走子は数時間で付いてしまう。天然での胞子は限られた資源なのではないかと思われる。
・磯焼け海域でのスポアバッグの投入は、意義のあることと思うが、確実な方法、必要な母藻の量、
配置間隔や設置方法を調べ、今後、より効果的な方法を検討したいと考えている。
○先行事例 高知県土佐市のカジメの例
海底から浮かせたところに母藻を入れたカゴを設置。どのくらい広がるかを調べた結果、20~30m
の範囲で広がり、多かったのは 10m以内の範囲。有効範囲は狭いということがわかった。
○事例 本州のコンブ類藻場 愛知県水試のサガラメの例
遊走子から芽が出たものを培養して、配偶体となったものをアルギン酸のジェルの中に砂と一緒に混
ぜ、基質に塗って海底に置いたり、コーキングガンにジェルと砂を混ぜたものを詰めて海底に塗りつけ
る方法で取り組んだ。確実に生えるように工夫した事例であり、特許を取っている。応用すればコンブ
でも可能と思う。
○母藻投入の必要性
胞子の数×生える確率=コンブの本数
母藻投入で補える部分は、人為的に管理できると考える。胞子の数を確保しておけば、水温が高い年
でも生えるのか、冬の水温が高い年は、何をやっても無理なのか、そのようなことを今後検証するなど、
試験場として役立つ技術を提供していきたいと考えている。
○今後の技術開発の課題
・水産試験場では、母藻投入の手法開発も磯焼け対策の柱の一つとして位置付けている。
・他県も含め、母藻投入(スポアバッグ)は、マニュアルがない。
→配置量、時期、間隔、方法など検討課題が山積み
・コンブの胞子がどこに行っているのか野外で迅速に検出できるような技術の開発が必要
→DNAによって海水中に含まれるコンブの種の数を数えられるような技術も今後検討したい。
そのような技術開発を通じて磯焼け対策に貢献したいと考えている。
【質問・意見】
Q 吾妻委員
「胞子の数×生える確率=コンブの本数」という式だが、この式だとコンブの胞子の数がコンブの本
数を決定しているような内容に見受けられるが、遊走子とその後の配偶体の成長や生育は、栄養塩の濃
度によって影響を受けるといういくつかの報告がある。栄養が少なくなった場合は、胞子の数が胞子体
の本数に結びつくかどうか、その当たりも含めた式が必要ではないかと思ったのですが、いかがでしょ
うか。
A 秋野研究主任
貴重なアドバイスありがとうございます。この式はとても簡略化してあり、先生がご指摘になった部
分、環境による変動、その後の配偶体や初期の胞子体の減耗や成長は、生える確率という部分に含めて
- 13 -
いる考えでしたが、説明不足でした。最初の胞子の量とその後の環境の変化についても評価できるよう
にしたいと思います。海外の先行研究では、胞子を密度別に付けた基質を海底に置き、最低限どのくら
いの胞子が付いていれば生えてくるかという研究例もあるので、それらも参考に進めたいと思います。
【 道総研の
道総研 の 報告】
報告 】
5 水産試験場の
水産試験場 の 磯焼け
磯焼 け 研究が
研究 が 目指すもの
目指 すもの
~「グランドデザイン
~「 グランドデザイン」
グランドデザイン 」 の 紹介
( 地独)
地独 ) 北海道立総合研究機構中央水産試験場
干川
裕氏
道総研水産研究本部が進める磯焼け研究のグランドデザインの背景と主な内容について説明する。
○漁業者に占める高齢者の割合
60歳以上の高齢者の割合が石狩・後志、檜山管内で50%を超える。
○漁業者一人当たりの販売取扱高
多いのはオホーツクで 4,000 万円を超える。後志、檜山、渡島は 1,000 万円以下。10 年前の平成
13 年との比較でも、後志、檜山、渡島は 80%以下、特に檜山は 60%以下の収入に下がっている。ス
ケトウダラの減少が大きいが、磯根のウニ、アワビ、コンブも半分以下になっている。
○北海道の磯焼け地帯
一時は道北の利尻、礼文でも見られたが、現在は日本海南西部沿岸、積丹半島から南側で顕著な磯焼
けが起きている。岩内では 1959 年には漁場の4割位にコンブなどの有用海藻が生えていたが、1990
年になると 2 割以下になり磯焼けを呈している場所が約7割になった。
○磯焼けがウニ、アワビに及ぼす影響
・磯焼け海域のウニは身入りが 10%以下で、商品価値なし。アワビの成長だが、海藻群落では6歳で
殻長9cm、磯焼け地帯では同じ6歳でも7cm に満たない。サイズが小さいということは産卵数も少な
いので、次の世代を残すという点でも不利。
・後志管内のコンブの生産量は、1970 年代以降減り続け、近年はゼロに近い。後志・檜山管内のコン
ブの生産量とアワビの生産量は正の相関関係がある。
磯焼けによる餌不足は、ウニ類の身入りやアワビの成長に大きく影響しており、沿岸漁業衰退の一要
因となっている。
○小樽市忍路湾の試験(中央水産試験場で 20 年前から実施)
海藻繁茂期(6月)のホソメコンブ生育量の推移 多い年は6kg/㎡。3kg 以上の年と3kg 未満の
年に分け、12~3 月の旬平均水温を20年間で比較してみると1月下旬から3月上旬にかけて、両者の
水温に違いが見られ2月上旬から中旬は特に差が大きくなっている。2月上旬・中旬の水温とコンブの
成育量は逆相関の関係にあり、水温が5℃を超えるとコンブの成育がかなり悪いということがわかった。
○寿都湾における 100 年間の水温の推移
水温は徐々に上がっており、1930 年頃磯焼けが北海道南西部で発生、1965 年頃に水温の上昇があ
り、磯焼けの拡大した時期と言われている。平成以降さらに水温が上昇し、近年の磯焼けの深刻化と一
致、水温が5℃よりも低い年はまれにしか起こらないという厳しい状況である。
○水産試験場では、20 年以上前から磯焼け研究に取り組んでいて、吾妻先生が寿都でウニを除去して
海藻が生えることを実証した。刺し網フェンスを設置し、秋に中のウニを除去したところ、フェンス内
にはアオサやコンブなどが繁った。フェンスの内と外では栄養塩や鉄の量が異なるとは考えられないの
で、水産試験場では主要な要因としてウニの食圧を考えていた。
○漁業者にこのような話をすると、昔からウニはたくさんいてコンブも生えていた。何故磯焼けになっ
たのか?と言われる。
・昔は、海藻の発芽時期は、水温が低くウニの活動も鈍く活発に餌を食べなかった。水温が高くなりウ
ニの食欲が旺盛になってくる時期には既にコンブも大きくなっていて、コンブが揺れることでウニが群
落内に入れず、周辺部や流れ藻を摂餌していた。
- 14 -
・現在は、水温が高いため、ウニの活動が活発でコンブが小さい時期から食べてしまい、その場所は磯
焼けになってしまう。また、ウニは身入りが悪く漁獲されないため漁場に残ってしまう。タイミングの
問題が大きいと考えられる。
○よく言われること
・磯焼け対策といっても、ウニの密度管理、施肥、母藻投入(スポアバッグ)など多くのことが言われ
ているが何をどうすればよいのか?
・水産試験場は、磯焼け対策について何を目標にどのような取り組みをやっていくのか?
・のんびり研究をしていては、浜の問題は解決しない。何時までに結果を示すのか?
↓
磯焼け対策の研究課題の関連性と目指す目標をスケジュールとともに示したのが
「磯焼け研究のグランドデザイン」
・目標:磯焼け海域のウニ漁場の再生
「磯焼け対策技術研究」と「磯焼け関連基礎研究」を進める。
10年くらいのスパンで進めていくが、できた技術は随時、普及指導所を通じて情報提供し、使って
もらい、問題を抽出しさらに技術の改良を進める。因果関係がわからなければ基礎研究に戻す。両者の
間で関連性を持たせながら進めると考えている。
・ウニ類の食圧の制御を基本に、ホソメコンブの加入量の確保、栄養の強化を組み合わせながら対策を
行う。
○なぜ、当面の目標をウニ漁場の再生にしたか。
・磯焼けが顕著な後志・檜山管内で、浅海漁業生産金額にウニが占める割合は後志 39.6%、11 億円、
檜山 31.1%3億円であり、ウニは非常に重要な漁獲対象資源。
・その年のホソメコンブの生育状況がウニの身入り(生殖巣の量的成長)に直接影響する。藻場を作る
ことが漁業者の収入にリンクするため、ウニをターゲットにするのが重要と考えている。
○基本はウニの密度管理
・神恵内藻場ランド事業:ダイバーによりウニの密度管理を実施し、コンブが繁茂
・流速によるウニの食圧制御:天端高を高くし、海底面での振動流速を速めると、ウニはコンブを食べ
られない。コンブが大きくなったらウニが上がって海藻を食べられるようにする。多年生化しないよう
に他の海藻の時期はウニが食べて、基質を更新。そのような計算をし、2004 年に寿都美谷地区に嵩上
げ礁を造成した。造成後5年間は海藻の生育が良好だったが、その後海藻の生育が悪くなった。流速で
ウニの食圧は制御しているはずだが、なぜかということで機能不全の原因究明を行った。嵩上げ礁のモ
デルとなった沿整施設の海藻繁茂状況と水温を調べたところ、水温が6℃より低い時はコンブが生えて
いる。嵩上げ礁を作った当初は水温が比較的低い年が続いた。流速でウニの食圧を制御しても冬期の水
温が高くなってしまうと食圧制御だけではコンブ群落を維持できず、別の要因が出てくることがわかっ
た。
嵩上げ礁の周囲にある被覆ブロック上に 20cm のコンクリートプレート、コンブのタネをドブ漬けで
人為的に付けたものと何も付けないものを秋に設置し、春に経過を見ることを2年続けて実施。タネを
付けたプレートには平均で6kg のコンブが生育。付けなかったプレートは1kg にも満たなかった。石
灰藻がコンブの生育に影響する可能性があるので、潜水してたがねでたたいて剥離して、コンクリート
の地が出るようにしたが、それでも生えなかった。モロイトグサや他の海藻も付いていなかった。秋に
設置したタネ付けしたプレートには春まで、コンブが残っていたので、流速でウニの食圧が制御されて
いた。ウニの食圧を制御してもタネを付けるなどもう一つ手を加えないとコンブ群落は作れないという
ことがわかった。
○施肥
タネが付いて成熟して胞子体になって伸びていく過程で、高水温による栄養不足を補填することで、
成長を助けることができるのではないか。東北大学の谷口先生が室内で栄養塩を加え、成長の効果を確
認し、泊村で実証もした。現在は寿都町で固形の施肥材を用いた実証事業に取り組んでいる。固形の施
肥材は、安価で扱いやすく、栄養塩が溶出するので、コンブの発芽を促進する可能性がある。この事業
で施肥材の有効な利用法が明らかになることで、磯焼けに悩む現場に海藻群落を回復させる手法を提案
することができると考えている。
- 15 -
○適地選定手法の開発とガイドライン作成
ウニの食圧制御、ホソメコンブの加入量促進、栄養強化の3つの要素技術をその場所の特性に応じて、
どう組み合わせていけば良いか。どういう場所であればコンブが生えるか、適地選定手法の開発とそれ
をもとにしたガイドラインを作成し、事業化の検証を行い、目標に到達するという考え。
○コンブ群落形成における適地選定の重要性
神恵内はコンブ群落になったが、ウニを除去しても全くコンブが生えなかったり、ケウルシグサが生
えたり、コンブが多少生えてもモロイトグサなどが混在してしまう場合などいろいろなパターンがある
ことがこれまでわかっている。
・忍路の事例
波当たりの違うところにフェンスで囲った試験区を四カ所設けた。潜水によりウニを除去したが、生
えてきた海藻には大きな差があった。流速の早いところではコンブが多く、遅いところではコンブは少
なかった。一つの条件にすぎないが、このような観点からの解析も必要と考えている。
○農林水産省農林水産技術会議「水産業再生プロジェクト」
「生態系ネットワーク修復による持続的な沿岸漁業生産技術の開発」H25~H29 H25:1億円
対象魚種はアサリ、アワビ、カレイ、
アワビの研究のうち
・藻場回復の適地選定手法との開発とその実証→グランドデザインで説明した内容
積丹町美国と古平町沿岸で、大規模藻場回復のための適地選定手法の開発に取り組んでいる。
「大規模」が、キーワード。補助金で実施できるのが1ha レベル。この規模では漁業者の収益が上
がるということを実感できるまではにはならない。数十 ha 規模でコンブ群落を回復することで、ウニ
漁業を通じて、漁業者が磯焼け海域でも収入が増えることを実感できるということを出口として考えて
いる。
・磯焼け海域において残存する藻場やアワビ分布の評価
説明変数として、漁場の状況の音響観測、空中からの撮影、海底地形のデジタルデータ、風、波、流
れの観測データを解析し、底質、傾斜・水深などの地形情報、流動の数値解析、ウニ類の密度分布など
の条件を明らかにしてそれぞれの組み合わせで、その結果、その場所がどのような条件なのか。ガラモ
場はどういう条件なのか、磯焼けの中でもホソメコンブが残っている場所はどういう条件なのか、アワ
ビが多いところはどういう条件なのか、磯焼けになっているのはどういう条件なのかを整理し、一般化
していく。GISなどの位置的なデータも合わせて、一つの大きな図にする。
・ウニ除去に関わる回復藻場の事前評価手法
ウニを除去した後に、その結果何になるのか、ガラモ場なのかコンブ場なのかということを実験的に
行って、ホソメコンブを作るためには、事前にこういう条件の場所であれば、ウニの密度管理を行うこ
とで、生える可能性がある、そういうことを明らかにしていこうと考えている。
○まとめ
・高水温下では、ウニの密度管理だけではなく、コンブの加入促進を図る手だても同時に実施する必要
がある。
・コンブの加入促進には、主に次の方法がある。
スポアバッグによりタネの量を増やす。
タネ(遊走子)の着底から発芽・成長を助ける栄養強化
これからもみなさんの現場に入って、野外試験を続けながら磯焼けに対する各種研究を進めていきた
いと思うので、水産試験場への協力をこれからもよろしくお願いします。
【質問・意見】
Q 寒地土木研究所 三上氏
いろいろな情報がたくさんあり、とても参考になりました。目標と思いますが、数十 ha の磯焼けの
回復というのは、非常に重要なことと思います。安藤さんからのお話にもあったように磯焼けの回復の
根底には、ある程度規模の大きい回復が必要と思うので、今後も頑張っていただければと思います。
質問ですが、高水温のお話をされていますが、高水温というのは日本海だけではなく、全道全てで高
水温化していると思うのですが、日本海で磯焼けが深刻なのは、水温の上がり方が特に大きいからなの
でしょうか。他の要因もあるのでしょうか。
- 16 -
A
干川主幹
今回、北海道の事例だけお話ししましたが、九州でも高水温化が進んでいて、藻場の消失が見られて
います。植食性の魚類により海藻が食べられるようになったと聞いています。北海道でも、昔キタムラ
サキウニがいなかったわけではなく、昔から重要な漁業資源でした。報告の中でタイミングの話をしま
したが、昔は低水温でウニの動きが鈍く餌が食べられなかった2月でも現在は水温が高いため、ウニが
活発に動き餌を食べるようになっていて、ウニの側ではそのような変化があります。また、栄養塩と水
温は逆の相関関係があります。低い水温の方が鉛直混合によって、冬の栄養塩濃度が高いという報告が
あるので、コンブにとっても栄養塩の面から不利な状況になっています。同じ量の遊走子が付いても成
熟して発芽する量が減ったり、成長が遅くなったりする可能性もあり、そのようなことで、バランスが
崩れたというのが北海道の場合の高水温の影響と考えています。西日本の高水温による影響とは必ずし
も一致しませんが、忍路の約 20 年の状況と寿都の 100 年間の水温データから類推するとそのような
ことが考えられます。
6 意見交換
「 磯焼け
磯焼 け 対策に
対策 に 必要なこと
必要 なこと」
なこと 」
パネリスト
司
司会松永
会
北海道磯焼け
北海道磯焼 け 対策連絡会議
同
専門委員会
同
同
( 一社)
一社 ) 水産土木建設技術センター
水産土木建設技術 センター
神恵内村
美国・
美国 ・ 美 しい海
しい 海 づくり協議会
づくり 協議会
北海道水産林務部水産振興課
総括技術顧問
委員
委員
委員
原
嵯峨
吾妻
干川
安藤
玉川
神
松永
彰彦氏
直恆氏
行雄氏
裕氏
亘氏
量規氏
哲治氏
靖
初めに、「北海道磯焼け対策連絡会議」の設立経過、本日の会議の企画意図、さらにこれ
から始める意見交換の趣旨を若干説明させていただきます。
「北海道磯焼け対策連絡会議」は、平成21年に道が、国、漁協、市町村、民間企業など
を構成員として、地域にあった効果的な磯焼け対策を促進することを目的に、各地域の取組
や成果を広く周知し、情報共有を図る場として設置しており、今回で5回目となります。
また、同じ平成21年から水産生物の保護培養に重要な役割を果たします藻場干潟の保全
活動を促進するため、国の「環境・生態系保全活動支援事業」も始まっています。この環境
生態系事業は、平成25年からは「水産多面的機能発揮対策事業」と名称が変更されていま
すが、平成25年は、全道で61地区の活動組織が藻場の保全活動に取り組んでいるところで
す。これまで、約5年にわたり各地区で藻場保全、磯焼け対策の取り組みが行われてきてい
ますが、活動内容、効果などに、地域差が見られるようになってきています。そのため、こ
れまでの活動を振り返って、改善点などを見つけ、それぞれの地区でさらに活動を前進させ
るのによい機会ではないかと考えています。
本日の会議は、全体を通じて、地域の地道な藻場再生の取組をこれからも継続してもらい
たい、さらに、その取組活動の励みになるように、収入、漁業経営につながる地域活動に一
歩前進させてもらいたいというねらいで全体を企画構成しています。
これから始めます意見交換では、講演や発表の内容をさらに掘り下げ、「磯焼け対策に必
要なこと」をテーマにして、進めたいと思います。
「磯焼け対策に必要なこと」として、一つ目には、当然、「藻場が再生できる対策であるこ
と」が必要ですが、どうすれば藻場が再生できるか、どうすればうまくいくのか、また、う
まくいっているところはどんな取組をしているのかということ。
二つ目として、効果を持続させるには、藻場を維持保全するための漁業者主体の活動の継
続が非常に重要なことだと思っています。「各地区の活動の継続には何が必要なのか」、
この二点について、この磯焼け対策連絡会議の専門委員のみなさんと実際に各地域で活動さ
れているみなさんを本日のパネリストとしていますので意見を聞いていきたいと思います。
- 17 -
また、意見交換の後半には、会場からご意見やご質問等を受けたいと考えています。
事前に実施しましたアンケートやそのコメントも資料として配布しています。詳しく説明
する時間はないですが、実際の意見交換ではアンケートの中で出された意見に若干触れなが
ら進めていきたいと思っています。
まず、一つ目として、地域で取り組む活動は当然「藻場が再生できる対策であること」が
重要です。各地区で多くの活動が進められていますが、藻場が回復した、大きな効果が見ら
れたという報告が残念ながら少ないように思っています。
「どうすれば、藻場が回復するのか?どうすればうまくいくのか?」各地域で悩んでいらっ
しゃる方が多いと思います。この点について、パネリストのみなさんから意見を伺っていき
たいと思います。最初に、この会議の総括である原総括技術顧問からお願いします。
原総括技
私は、機会あってこの5年間、顧問を務めさせていただいていますが、磯焼けの専門家で
術顧問
はありません。素人目で見てどうなのかなということですが、本日の5つの講演や発表の中
でも強調され、司会の方も言われましたが、とにかく地道にそれぞれの地域でこの取り組み
を継続していくことが一番大事ではないかと思います。
具体的な対策としては、まずウニの密度管理。潜水によって取り組まれるなど経費がかか
って大変だとは思いますが、いかにして密度管理を行っていくかということが重要と思いま
す。それから今日の会議ではあまり出ませんでしたが施肥、そして、今日発表のあったコン
ブの胞子不足対策。このような対策を組み合わせて今後も取り組んでいくことが大事だと思
います。
司会松永
原総括技術顧問から地域が取組む手法としては、「ウニの密度管理」「施肥」「コンブの
胞子不足対策」の三つの対策が基本というお話がありましたが、実際に現場で取り組む際に、
これらの手法をどう組み合わせるのか?どんな場所で行うと効果が上がるのか?それぞれ
の地区で悩んでいるのではないかと思います。アンケートでも、対策を実施する場所の選定
理由の7割が「磯焼けが著しい場所だから」という回答がありました。今日、藻場再生がう
まくいっている事例として、神恵内村の藻場ランドプロジェクトの事例を紹介をさせていた
だきましたが、神恵内村の玉川課長から、神恵内で実際に対策に取り組むに当たって、場所
や手法などをどうやって選んだのか、他の地区との違いなどがあれば、教えていただきたい
と思います。
玉川課長
場所を選んだ理由として、アンケートでは「磯焼けが著しい場所だから」という回答が多
いとのことでしたが、これに尽きると思います。
藻場ランドの場所を選んだ際、この場所で対策をすれば確実に生えるという確信は正直言
ってありませんでした。事業を進めるに当たっては、漁業者が主体となって活動してもらう
ということに軸足を置いていましたので、藻場が出来たときに生産活動に繋げやすい場所と
いうことも考慮しました。藻場が出来たらウニを獲りやすい、より効率的に次の展開に進め
るということも考えて、赤石漁港のすぐ近くを選定しました。
手法については、磯焼け対策ガイドラインに載っている手法で漁業者が手を付けられる手
法を選んで行いました。先ほどの報告のとおりですが、磯焼けの原因が多岐にわたるという
ことですから対策手法も多種多様と考え、合わせ技で選定しました。
他の地域との違いということですが、漁業者は正しい情報というか知識を持っていないと
ころがありますので、学習しながら、漁業者の参画意識も高めながら、場所や手法を選ぶ際
はみなさんで考えていきましょうというスタンスで進めました。コンブの生活史を学ぶこと
から始めていくうちに徐々に漁業者の経験則からこの場所がいいねという声も出てきまし
た。みなさんで考えていきましょうというスタンスで取り組んだのが藻場ランドの特徴と言
いますか、特に意識して展開してきたところです。
司会松永
玉川課長から漁業者主体でみんなで学習しながら、漁業者ができることで、なおかつ生
産活動をしやすい場所を選んで活動したという話がありました。しかし、他の地区では、ウ
ニの密度管理をしているが、なかなか藻場が再生しないという意見もあります。専門委員で
ある吾妻委員から神恵内村で藻場が再生できた理由、どういう風に捉えているのかお聞きし
たいと思います。
- 18 -
吾妻委員
神恵内の海域が特異的に栄養塩濃度が高いということは考えにくく、ウニを除去してコン
ブのスポアバッグだけで、コンブ群落が形成されたと理解する。これがどういうことを意味
しているかというと、この場所の磯焼けはウニの摂食圧で持続していたということを証明し
たということです。栄養塩濃度は、他の日本海海域と同様に低いはずなのに、なぜコンブが
生えたのか。これは低い濃度でもコンブは効率的に栄養を吸収できたことを意味していま
す。先ほど干川さんの報告にありましたように波の動き、流速が速いという物理的な条件に
よって、水深6mまでコンブ群落が維持したということを示しているのではないかと思いま
す。従って、この結果から高水温でも栄養が豊富であればコンブは成長できるということと
同時に、高水温で栄養塩が低濃度であっても効率的に吸収できればコンブは成長できるとい
うことを示しているのではないかと思います。
もう一つ、着定基質が転石あるいは大転石ということでしたので、基質が非常に安定して
いるということもコンブ群落が形成された要因と思います。それ以外の阻害要因、例えば浮
泥、浮遊あるいは堆積している粒子の影響などがここではなかったということも影響してい
ると思います。ウニを除去した後に大型、小型の1年生の海藻が生え、遷移の極相をなす大
型の多年生のホンダワラの仲間にいたらないのは、コンブが生えることによって、極相に当
たる種が入ってこられないというしくみがあるのではないかと思います。特に羅臼や知床
で、流氷が来ないと大型の多年生のホンダワラにいたることと似ています。遷移が極相に至
らないで初期に留められている、妨害されている状態が、この海域ではウニ、アワビの成長
に最も結びつく海藻の遷移系列にあるということを示していると思いました。
司会松永
今日は、道総研の秋野さんからもコンブのタネの話、干川委員からもタネの量を増やす必
要があるとの話がありました。どんな場合にタネを増やす取り組みをした方がいいのか。
ウニ除去のほかにタネを増やすためのスポアバッグ、また、施肥という方法も要素技術とし
てあると思うのですが、それらをどう組み合わせるのか?どういう場所で行うのが効果的な
のかなど干川委員から何かアドバイスがあれば教えていただきたいと思います。
干川委員
私たちが農林水産技術会議のプロジェクト研究で取り組もうとしているのが、適地選定で
す。ウニの密度管理を基本としながらオプションとして、母藻投入などのコンブの加入促進、
場合によっては施肥による栄養強化で成長や成熟を促進させる。それをどういう環境条件に
よって使い分けるかということです。また、平行して行っているのが、これまで行ったいろ
いろな事例の検証です。このような会議ではうまくいった事例が報告されますが、うまくい
かなかった事例についても何に問題があったのか、それを整理して、こういう要因があった
ため、ウニの密度を管理しただけではダメだったという分析を平行して進めています。例え
ば、すぐ近くでコンブが良く生えているので、ウニの密度管理をすれば生えるだろうと期待
し、密度管理を行ったが生えなかった。流速の解析をシミュレーションしてみると海岸や海
底の地形からその場所では流れが抑えられている。そうすると、遊走子自体がそこにたどり
着いて付く確率が減る。そのようなことが少しずつわかってきたので、みなさんの活動の中
で、生えなかった、うまくいかなかったので表に出さないということもあると思いますが、
そういう事例を出していただいて、ある条件の中で整理していくことも重要と考えていま
す。技会プロ研でも3年目くらいからモデルを出していきますので、こういう場所、こうい
う条件ではウニの密度管理主体で、こういう条件ではコンブの母藻は必ず必要ということも
見えてくると思います。先ほどの嵩上げ礁のように、コンクリートプレートにタネを付けて
実験的に入れてみることも簡単にできる検証方法なので、もし水産多面的機能発揮対策事業
で、オプションで実施してみるという考えがあれば、水産試験場にお問い合わせいただけれ
ばと思います。
司会松永
先ほど吾妻委員からも干川委員からも栄養塩の話がありましたが、今日の会議では、施肥
については、あまり触れていませんが、道では、平成21年から上ノ国で平成24年からは
寿都で施肥の実証事業に取り組んでいます。上ノ国の事業では、大規模な藻場造成を期待し
て、いろいろと取り組みましたが、実際には藻場造成には至りませんでした。しかし、施肥
によってコンブの成長や身入りの効果が見られましたし、投入する栄養塩の量で異なります
が、施肥の効果範囲は、最大で350mという結果も得られています。
施肥については、その必要性や有効性、場所の条件などいろいろとあると思うのですが、
施肥に関して吾妻委員から何か良いアドバイスがあれば教えていただきたいと思います。
- 19 -
吾妻委員
上ノ国の事業は、泊村での栄養塩添加試験が発端でした。泊村の実験というのは、同じよ
うな環境条件の袋澗を二つ設定して、一つには10月から5月まで、液肥を継続的に添加し
ました。過去の培養実験の結果から窒素濃度が1mg/Lで、リンは0.1mg/Lの濃度になる
ようにモニタリングし、さらに実験区、対照区ともウニを除去しました。
また、海底にはポーラスコンクリートを入れて、養殖施設も入れました。養殖施設の半分
にはマコンブの種苗糸を付け、半分には何も付けませんでした。その結果、栄養塩を添加し
ていない対照区では、海底にはコンブは生えない、種苗糸を付けたロープでもコンブが生え
ませんでした。それに対して実験区では養殖ロープに大量のコンブが生え、2m以上に達し
ました。海底でも短いコンブでしたが生育しました。対照区では全くコンブが生えなかった
ということは、この場所ではウニを除去してもコンブが生えないことを示しています。従っ
て、この場所でのコンブの生育を制限している要因は、低い栄養塩濃度であると考えられま
す。今日の神恵内の発表によるとウニ除去とスポアバッグでコンブが生えています。
施肥はどういう場合に必要かと考える場合、ウニ除去によっても生えてこないような場所
を選定する必要があると思います。それ以外の要因として、陸域からの栄養塩の供給がない
ような場所を選定する、事前に他の阻害要因がないかを調べてから場所を選定する必要があ
ると思います。先ほど言いましたように堆積している粒子、浮遊している粒子などがないよ
うな場所を事前によく吟味して、施肥をする場所を選定する必要があるのではないかと思い
ます。
司会松永
具体的にそれぞれの現場でいろいろな対策を組むとなると、実際には漁業者の方の経験や
勘が非常に重要になってくると思います。今日の会議の中で紹介はできませんでしたが、積
丹町の美国の取組でも藻場は再生しています。漁業者とボランティアダイバーが協力して活
動を行っています美国・美しい海づくり協議会の神会長にこの意見交換に参加していただい
ていますので、美国で活動に取り組むに当たって、場所の選定や対策をどうするかなど、ま
た、どんな工夫をして活動しているかなどを教えていただきたいと思います。
神会長
私の地区は浅海漁業の中でもウニに対する依存度が高く、漁業者のウニに対する意識が高
い地域です。私は若い頃から磯焼け対策に繋がる活動をしてきました。以前はキタムラサキ
ウニの密度は薄かったので、操業が終わった場所で密度が薄くなっているところを禁漁区と
して対策を行っていました。何十年も次の漁のためにウニを移殖し密度管理をし、わざわざ
禁漁区としていました。その後、着業者も減り、キタムラサキウニの密度も濃くなり過ぎて、
禁漁は必要ないということになっています。活動場所の選定ですが、ウニの密度が最も高い
場所で、港から近いこともあり、この場所でやりましょう、ということで始まりました。結
果として、場所の選定は間違いがなかったかなと感じています。
私の地域は積丹ブルーと言われる地域で、透明度も良く、昔から多くの一般ダイバーが潜
水に訪れる地域です。密漁がらみの人もいて、ダイビングを楽しみに訪れる人と漁業者との
間でしがらみが続いていました。ウニは潜水によって管理するのが最も良いと考えていまし
たが、漁業者は高齢化が進み、青年部でも潜水できる人が数少なかったというのが一般ダイ
バーの協力を得ようと考えたきっかけです。ウニの密度管理と合わせ、施肥や母藻の設置も
考えました。これからも長く活動を続けるためには、普段から一般ダイバーや漁業者がお互
い声をかけ合い、交流を図ることが大事と考え、そのような機会を持つようにしています。
私の地域はウニの依存度が本当に高いので、何とか工夫しながら長く長く活動を続けていき
たいと思っています。他の地域で、いい方法があれば、教えていただき我々も取り入れて頑
張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
司会松永
漁業者とダイバー、普段の交流が大事で、交流しながら続けていくというお話でした。
午前中の水産土木建設技術センターの安藤さんの講演の中で、「仲間を作って活動し学びな
がら前へ進む」というお話がありました。国の磯焼け対策ガイドラインの中でも「順応的管
理」が重要と記載されていいます。有効な対策にするには、非常に大切なポイントと思って
います。全国や全道の取り組みを見て、各地区の取り組みを効果のあるものにするには何が
必要なのかということを安藤さんからアドバイスがあれば教えていただきたいと思います。
安藤研究
順応的管理については、みなさんご存知だと思うのですが、その前に保全活動をなぜする
員
のかをよく考えて、始めないと活動がなかなか進みません。例えば、藻場の保全、磯焼け対
策をする場合、なぜするのか?「磯焼けだから藻場を増やすんだ」ということで進める場合
- 20 -
が多いと思うのですが、それだと活動がなかなか進みません。「アワビを増やすために活動
をする」「イセエビのための藻場を増やすために活動をする」ということにすれば、俄然、
目的がはっきりします。したがって、最初の目的を明確にし、その後の順応的管理のところ
では、具体的にどういう活動をすればいいかを考えさせ、フィードバックを必ず行うように
することが大切と思います。先ほどのお話にあった場所の選定についても「イセエビを増や
したいから、イセエビが以前ここにいたからこの場所でやりたい」という話をされるのです
が、我々がサポートに入るときは、難しい場所ではやらないようにさせます。最初は小さな
規模でも自分たちが絶対出来そうなところを我々の方で地図を見ながら候補を出して選ん
でもらいます。そして1年後には必ず生えるところでやらせて、生えるということを教えま
す。その間に藻場とイセエビの因果関係を知らない漁業者もいるので、イセエビの赤ちゃん
はプランクトンとなって外洋を浮遊し、その後、ホンダワラなどの海藻に着床し、藻場で生
活するということを教えます。そのようなことをしないと磯焼け対策は、ただ海藻を生やす
こととなり、海藻に興味がなければやらないということにもなりかねません。なぜ藻場を守
るのかをみんなで深く考えてから活動を進めるのが一番いいと思います。
司会松永
ここまで各委員、パネリストの方に聞いたのですが「藻場が再生できる対策であること」
について、どんなことが必要かということを嵯峨委員にまとめていただければと思います。
嵯峨委員
今回、5回目の会議ですが、初めは、磯焼けという現象は非常に複雑で、いろいろな要因
が絡み合ってわかりにくいということでしたし、磯焼けを克服する、藻場を再生することは、
なかなか至難の業というところから出発したわけです。ちょうど5年目の節目になり、本日
の講演やパネルディスカッションを聞いてみて、私は、「磯焼けは克服できる。藻場は再生
できるんだ。」ということを確信いたしました。まだまだ、全ての地域でパーフェクトに回
復は出来ていませんが、神恵内や美国のようにうまくいっているところがあり、また、安藤
さんから話のあったいくつかの成功例のうち大分県の事例では確実に藻場が再生している
ということを目の当たりにしますとそういう思いを強くしています。
磯焼けには浮泥、栄養塩、水温、食害、タネ不足などいろいろな要因があります。吾妻先
生、干川先生に解釈していただいて、説明できるところは説明されているわけです。科学の
力というものを、我々は信頼して、もっともっと進めていただければいいと思っております。
それぞれの磯焼けの原因は千差万別ということでしたが、千差万別の中でも私の感触では、
少なくて5つ、多くても10くらいのタイプ分けが可能なのかなと思います。今後、大きな
タイプ分けをネットワークの中で行って、また5年後どうなっているのかを楽しみにしてい
ます。
もう一つ私が今日感じたのは、自然科学の範疇にはなかなか入らない、統計も取りにくい
のですが、人の力、人の輪が大事なのかなという気がしました。各成功例を話された方々か
らも出てきたことで、いわゆる経験則に則って、考えながら、学びながら、活動しながら前
進していくという順応的対応が大事だということを私も改めて思いました。水産業は百数十
年取り組まれてきていますが、作り育てる漁業というのはここ数十年のことです。漁海況の
変化すなわち地球環境の変化は、数十年というのはミニマムでして、数百年、数千年、ある
いはそれ以上の大きな変化にさらされてきているわけです。我々が直面しているこの磯焼け
も他の水産資源の変動も、人類の歴史の中で、産業活動を始めて、初めての経験だと思いま
す。うまくいっていたものが今、大きな環境の変動にさらされている、初めての体験ですか
ら必ずしもサイエンスだけでは乗り切れないものがあって、そこを人の輪、人の活動、学び、
そして考えて学びながら前進する順応的な対応、そのようなことが非常に大事なんだと改め
て思いました。いずれにしてもこのように5年目の節目に「磯焼けは確実に克服できる」と
いうことを確信できたのは、この会議、このパネルディスカッションの大きな成果なのかな
と思っています。
司会松永
人の力、人の輪、順応的な管理をしながら進めていくことが重要ということを伺いました。
次に二つ目として、「活動を継続すること」が、磯焼け対策には非常に重要なことだと考
えます。藻場再生の活動を継続させるのは、なかなか難しくて、地域のみなさんも大変ご苦
労されていると思います。原総括技術顧問にお聞きしたいのですが、活動を継続するために
はどのようなことが必要でしょうか。
原総括技
大変難しいことなのでしょうが、嵯峨先生が言ったように人というのが大事、直接の現場
- 21 -
術顧問
は漁業者が主体になるのでしょうが、それをバックアップする自治体、お金を出してくれる
ようなところ、もちろん民間も含みますが、関係機関の力も重要と思います。そして、いか
に漁業者にやる気を起こさせるかということが非常に大事ではないかと思います。
目的を明確にという話がありましたが、これをやれば経済的に恵まれてくるということも
当然考慮されることですし、漁業者の収入が増えるということが実際に起こるんだというこ
と、今ここにウニがあれば、いくらで売れるのかということを漁業者の方がわかってくると、
またこれを増やそうという意欲が出てくるのではないかと思います。
簡単に言えば、活動を持続するということは、漁業者がいかにやる気を出すか、そして、
いい方に転がると継続されていくのではないかと思います。
司会松永
漁業者主体で漁業者がやる気を出して取り組むということと収益や経済性に繋がる対策
が必要とのお話でした。
アンケートでは「実際の事例から漁業者の協力を得た経緯を教えて欲しい。」などの意見
もありまして、みなさん各地区でご苦労されている状況も伺えました。神恵内村の藻場ラン
ドプロジェクトでは、漁業者も活動に参加して取り組まれているとのことでしたが、漁業者
の協力を得るのに苦労したこと、工夫したこと、他の地区で参考になるようなアドバイスが
あれば、玉川課長に教えていただきたいと思います。
玉川課長
言葉尻を取るようで申し訳ないのですが、私が藻場ランドプロジェクトを担当し、漁業者
に何かをしていただくというスタンスの中で、譲れないと言いますか覚悟したことがありま
す。それは、漁業者にとって「協力」ではなく、「協働」だということをいかに漁業者に伝
えていくかということでした。この事業は対等な立場で進めていく、漁業者の方は、「村が
やりたいなら協力しよう」と言いますが、「協力ではないんですよ」と敏感に反応して、漁
業者の方に接しました。そのために、何が必要だったかというと精神論的なことで申し訳な
いのですが、漁業者は怖いです。気性が激しく、すぐにけんか腰になりますし、黙って人の
話を聞くようなこともあまり得意ではありません。漁業者と接するときはひるまないという
ことを念頭に置きながら、このプロジェクトを進めました。漁業者と接する中では、事業の
見通しや将来的なことも考えていないのかなどと言われることもあり、プロジェクト自体が
頓挫してしまうような場面もありましたが、危機的な状況になると村長自ら漁業者と膝を交
えて話し合いを持ちました。行政サイドで進める中での苦労話になりますが、私一人で進め
ているわけではありません。組織として漁業者に伝えていこうという意気込みをしっかり持
っていないと漁業者はそんなに易しくはないと思います。
プロジェクトの中で、CSRで企業の方から協賛いただいて、保全活動に使うわけですが、
漁業者が活動する際の対価をどうするかということが論議になりました。企業のみなさんに
は事業を理解していただき、協賛金を出していただいています。漁業者は漁労活動の傍ら保
全活動を行いますが、自分たちのためになるのだから対価は捻出できないという正論も出る
わけです。ただ、活動するとどうしても一生懸命やってくれる方とそうでもないという方が
出てきてしまいます。平等にするためにもやっていることに対する評価、対価は必要で、そ
れを与えることによって責任を持っていただいて、使命感的なものを持っていただくと事業
が前向きに進んでいく、そのようなことを意図的に考えたところもあります。
深浅移殖で、翌年の夏に獲るウニを沖から持ってくるのですが、ウニ漁が終わった秋が一
番手が空いているのでやると漁業者は言うのですが、海藻にとっては良くないので、漁業者
に説明し2年間やめたということもあります。漁業者にいろいろなことを学んでいただい
て、それを推進力にして、進めていくような枠組みを考えて実施いたしました。
最後に民間の力を借りたことも成功の要因と思っています。漁業者は資材を用意するなど
の段取りまではできないので、事業を進めるに当たってエコニクスさんにもお力添えをいた
だいきましたし、CSRでご協力いただいた企業のみなさまなど民間の力も大きかったと思
っています。
司会松永
協働、使命感、平等、民活など参考になるお話がありました。
実際に活動をされている美国の神会長にもお聞きしたいのですが、実際に取り組んでいる
側から見て、漁業者主体の取組を継続するためにどうすればよいか、神会長のような漁業者
リーダーが各地にいて、活動を引っ張っていただけるような体制ができれば、活動が進むと
思うのですが、実施に取り組んでいる側から見て、漁業者主体の取組が継続するための神会
長の思い、実際の活動の中で気をつけた点や工夫をしている点があれば、教えていただきた
- 22 -
いと思います。
神会長
活動を続けるためには、漁業者が加わらなければいけないというのはどこの活動組織も同
じと思います。ただ漁業者が中心になって全てを進めるのは大変なことで、玉川課長から話
があったように、ある程度準備してくれるアドバイザーも必要かと思います。私たちの組織
もダイビングショップや指導所などいろいろな方の協力を得た中で、活動しているのが現実
です。
若い人が少なく、高齢者が多いのでウニの半分は利用できていないのが現実です。昨年は
我々の活動以外の自然の部分でもコンブの繁茂が良かったので、ウニ漁の収益も結構上がり
まして、50名弱の着業者で1億円ほどの水揚げがありました。活動した結果、水揚げも増
えたと他の人も活動に誘えるのではないかと思います。
ダイバーの方たちは海のすばらしさ、自分たちが手を貸して海藻が繁茂した、小魚も増え
たことに喜びを感じています。また、ただ潜って見るだけではなく、写真を撮って、藻場や
小魚の状況を他の人に見てもらうこともしています。漁業者もダイバーの方も自分たちが取
り組んだことで、こういう風になったということを実感しています。細く長く、できたら太
く長く活動を続けたいと思っています。
仲間を作るのは大変なことで、長く続けていると意識のずれも出てきますので、その辺の
工夫をもっと考えていかなければいけないと思っています。漁業者とダイバーの交流はこれ
からも続けていきたいと思っています。美国はウニの依存度が高く、自分たちの水揚げから
3%を拠出金として、稚ウニを買うなどいろいろな活動に使っています。
司会松永
次に原総括から漁業収入に繋がる対策も必要であるというお話がありました。活動の継続
に繋げるには、水揚げなどの収入や漁業経営の改善に繋がっていくことも必要があると思う
のですが、そのためのアドバイスなど、吾妻委員教えていただきたいと思います。
吾妻委員
北水研の鵜沼さんからウニの成熟を抑制して、通常の出荷時期ではない時期に出荷できる
ようにするという報告がありました。鵜沼さんは周年出荷までを考えていると思います。も
う一つのやり方としては、天然の生殖巣が発達する時期にうまく対応させて、成長期に当た
る時期、冬から春になりますが、その時期に磯焼け域からウニを採取し、養殖する。コンブ
やワカメを飽食量与えて、栄養細胞が形成されている時期に高品質のウニを出荷するという
方法もとれると思います。東北の太平洋では、養殖しているコンブやワカメが大量に確保で
きるという利点がありますので、来月から私たちの研究室で取り組み、その間でどういうウ
ニが出来るのかということを鵜沼さんの報告にあった評価方法を応用して試してみたいと
思っています。
養殖のウニを使用する場合、注意しなければいけないのは、高齢のウニは使わないという
ことです。特にキタムラサキウニの場合、7歳以上になると生殖巣の色が褐色化してしまい
ます。宮城県では、大きなウニ、高齢なウニは漁獲して塩ウニなどにするよう水産指導所や
水産試験場で浜に指導しています。鵜沼さんはそのような点に配慮して、小型のキタムラサ
キウニを使用していると察しました。
安藤さんから紹介のあった鹿児島の事例でウニの殻のカルシウムを利用したり、お菓子に
入れたりという、そのような工夫をどんどん取り入れて、ウニの漁業にうまく結びつけるよ
うな方策が取れるといいと思います。
司会松永
これまで漁業収入という点で、お話を聞きました。いろいろな視点から資源として考えて
みるということで、北海道の中では、有効活用ということはあまり取り組みが進んでいない
部分だと思います。
活動が継続するには、「漁業者主体の活動にすること」と「収入に繋がる対策にすること」
が必要ということで、意見交換してきましたが、嵯峨委員に活動を継続する、収入に繋がる
取り組みについて、まとめていただければと思います。
嵯峨委員
貴重な討論を聞いて、私も勉強になっています。まとめてみますと藻場を再生して豊かな
前浜にするという使命感、モチベーション、モチベーションの中には漁業者の収入がアップ
して生活が豊かになるということももちろん入っているでしょう、使命感とモチベーション
が大事なんだと思います。そして、継続していくためには夢と希望を漁業者自らが持つこと、
我々行政、研究者がそういったことを手助けしていく、夢と希望を与えていくような取り組
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みをしていくことが肝要なのかなと思っております。
そのためには人の力、人の輪、組織の活性化、それぞれの活動ユニットのリーダーシップ
も大事と思います。今後は、いわゆるGP戦略、すなわちGood Practice、成功事例を我
々が明確に抽出し、連絡し、情報交換していく、そして夢と希望を絶やさずにいくというこ
とと思います。干川委員が話をした失敗例、ここもきちんと捉えて、成功例と比較して、成
功に導いていく。失敗例も恐れずに取り上げていくということもこの連絡会議の重要な役目
なのではないかと思いました。
司会松永
ステージ上でのやりとりは、この辺にして、会場の皆様から、ご意見、ご質問を受けたい
と思います。これまでの内容や磯焼け対策全般に関して、皆さんの中で、ご意見、ご質問の
ある方がいましたら挙手をお願いします。
水産庁
貴重なご意見ありがとうございます。今日の講演にもありました高水温の関係ですが、こ
小森係長 れは北海道だけでなく、九州、山口沿岸などでも起きていて、これをいかに大規模に広範囲
に回復させていくかというところを考えていかなければいけないと思っています。例えば、
県をまたいだような対策も視野に入れる必要があると考えています。対策というのは、継続
することが重要とのお話もありました。大規模に実施する場合に継続させるという観点でど
ういったところに気をつけるべきなのかということについて、ご意見等ありましたら教えて
いただければと思います。
干川委員
個人の意見として聞いてください。実は玉川課長や神さんが体制を作ってご苦労されてい
るのは、よくわかります。ただ、ここに集まっておられます市町村や漁協の方の担当してい
るエリアでは、高齢化が進んで体制が作れなかったり、CSRを活用するのが難しかったり、
大都市から離れていてレジャーダイバーが来てくれないような地域は多々あると思います。
そういう中でも、漁業者がモチベーションを持って磯焼け対策を実施するうえで必要なの
は、やはり実感できる収入アップだと思います。漁業者だけの力ではとても無理と思います。
公共事業でブロックを入れていますが、数億円かけて30年でB/Cは、1を超える。ソフ
ト面に切り替えると1,000万円だと3年でB/Cが1を超えれば、事業が成り立つのではな
いかと考えています。公共投資で数十haの藻場を作り、水産多面的機能発揮対策事業など
の補助事業で縁辺部を漁業者が管理する。徐々に小さくなってダメになったら、また何年後
かに公共投資で大規模に藻場回復を図る。ホタテの輪採性のような感覚で捉えています。公
共事業なので失敗するような所にお金は投じられませんので、適地を選ぶ必要がある。そこ
で、技会プロ研では、大規模な藻場の回復と適地選定が重要な課題となっています。こうい
うデータがあれば事業化するのに役立つというものがあれば、どんどん教えていただきた
い。この技会プロ研の中で、データ化していきます。そして、事業が終わったときに受け皿
として、国や道が施策を打ってくれるなら漁業者の収入が実感としてアップする。アップす
れば、漁業者のモチベーションとなって、その海域で事業が続く。
後継者も残って、若手が潜ってくれればプロのダイバーではなくて、若手が潜る費用にも充
てられる。そうやって漁村が継続できることが考えられる。西日本などでの県をまたぐ仕事
になれば、適地選定を広いエリアで行って、そのエリアに対して地域ブロックとして、適地
に対して、ローテーションを組んで輪採的に公共のお金を投じて対策を行う。これだけ高水
温化が進んだ中で人間が活動せざるをえないのだから、漁業者だけに任せるのではなくて、
環境保全という国民に対してもメリットがあるという認識で国が考えていかないとだめだ
と思います。箱物の公共事業だけではなくてソフト面でもやっていっていただきたい。今の
公共事業の枠組みの中では、とてもソフトだけの事業は実施できない、本体事業の付随でし
かない。道庁、水産庁で平成29年度までにいい作戦があったら是非教えていただきたいと
思います。個人的な意見です。
水産庁
ただいまのご意見を踏まえて検討するところは検討したいと思います。今後ともよろしく
小森係長 お願いします。
安藤さんが講演で話されていたことなのですが、磯焼け対策を行ううえでの場所の選び方
道水産振
興課
として、かつての漁場を回復するのではなくて確実に効果が見込める場所を選ぶべきと話さ
今村主任 れましたが、具体的に「ここがいけるんじゃないか」と判定するに当たって、どういう視点
で判定しているのでしょうか?例えば、地形データや流速などのデータから生態系モデリン
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グを組んで、N量、海藻量などを考慮して、人為的にどのファクターを操作していくべきか
ということが考えられますが、実際には難しいと思いますので、どういう視点で行っている
のか教えていただきたいのですが。
安藤研究
我々が場所を選ぶときは、地形を確認して波当たりを見ます。転石帯が続くところは、ウ
員
ニの除去が大変なので、独立した根を探します。なぜなら、そういう場所はウニの侵入が遅
れるから、対策効果が持続します。最終的には、漁業者が自分たちでやっていかなければい
けないので、モニタリングができないような場所は避けます。九州だと台風が多いので、山
や岬を見て、山が荒れていたり、土砂が流れるような地形、木が倒れているような所は避け
ます。そういうところを絞っていくとおおよそ対策の効果はみることができます。後は合意
形成が大事です。我々が決めていくことはしないで、こういう条件で選びましょうと説明を
してから、活動される方がみんなで決めていきます。
今村主任
安藤研究
員
物理的用件としての害敵の侵入を制限できる地形のところ、土砂の流入がないところで、
社会的用件として、モニタリング調査がしやすい場所、あとは合意形成できる場所で絞り込
んでいくという、そのような感じなのでしょうか。漁場整備を実施するときと同じような条
件なのですね。
そのような条件で選べば、だいたいうまくいっています。
司会松永
最後に専門委員のみなさまから、今後に向けて一言ずついただき、最後に原総括技術顧問
に全体を総括していただきたいと思います。
嵯峨委員
私は、偉人や成功を収めた人の伝記や手記を読んだり、インタビューを聞いたりして思う
のですが、「成功の秘訣は何ですか」と問いにみなさんだいたい同じような答えをしていま
す。一つ目は楽天的であること、二つ目は成功するまであきらめない、そういう粘り強さが
必要ということです。挑戦を止めないでチャレンジし続けること、すなわち継続は力なりと
いうことを今日改めて感じている次第です。
吾妻委員
今後に向けて3つほどお話ししたい。一つは、施肥によるコンブ群落の造成技術は、まだ
完成していないということ。干川さんや嵯峨先生も話されましたが成功事例、失敗事例につ
いて、どういう場所で施肥を行ったのか、環境要因を整理する必要があると思います。
二つ目は、施肥による適正な栄養塩濃度と影響範囲を維持するために投入する肥料の量、
濃度などを調節する技術を確立する必要があるということです。
三つ目は、施肥によって養殖コンブを増産できるので、ウニの養殖と連動した磯焼けの対
策方法もあるのではないかと考えています。
干川委員
道総研の組織としては、今日ご紹介しましたグランドデザインで進んでいきます。個人的
には先ほど述べましたように公共投資による大規模磯焼け対策の実施と予算の継続で、北の
地から始めて、西日本まで展開できるようなそのような方向に進んでいただけたらと願って
います。
原総括
最初にお話ししたことの繰り返しになるのですが、この磯焼け対策に関しては、地道な活
技術顧問 動の継続が大変重要ということです。今日も紹介がありましたが現在、藻場が再生できたと
ころは、藻場の利用など次の展開を考え、成功例として、その藻場を使ってどういうことが
出来た、収入が上がったというのを見せてもらいたいと思います。現在、効果が見られない
ところは、成功例を見ながらさらに改善をして、藻場の再生を目指していくことが必要では
ないかと思います。研究機関は、引き続き漁業者が実施可能な対策手法の開発を目指して取
り組んでいただきたいと思います。
最後に、この会議は満5年を迎えたのですが、私の感想としましては、最初の頃は、なか
なか焦点が定まらないような会議かなと思いましたが、だんだんと話がわかるようになって
きたというか、話の筋といいますかゴールが何となく見えてきたような感じがします。
また、今回、道で作った資料ですが、質問に対するコメントを大変詳しく書いているので
すが、このような資料は、この5年で初めてと思います。そういう面でも5年間で、この会
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議自身も進化を遂げているのではないかと思います。内容も最初に比べると成功例が出てき
ており、この会議を立ち上げた意味はあった、成果は出ているのではないかと思います。今
後もこういう場で情報を交換できるというのは非常に大事なことと思います。
最後に神恵内の発表で「藻場づくりは人づくり」ということを話されましたが、藻場づく
りだけでなく、活動に取り組む人の人づくりも考えていかなければいけないと思います。ど
うもありがとうございました。
司会松永
どうもありがとうございました。道といたしましては、今後も漁業者の方が取り組みやす
い対策手法の開発を目指して、試験研究機関と連携して取り組むとともに、公共事業による
藻場造成、そして本日のような会議を通じて情報提供に努め、地域のみなさまの取り組みを
支援して参りたいと考えています。本日の会議を参考にそれぞれの地域で活動が継続され
て、さらにその活動内容を一歩前進させていただければと思っております。
本日ご出席のみなさまがそれぞれの立場で、引き続きこの磯焼け対策にご尽力いただきま
すことをお願いいたしまして、この意見交換を終了させていただきます。本日はどうもあり
がとうございました。
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