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モデル・プロジェクトの評価について(PDF形式:711KB)

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モデル・プロジェクトの評価について(PDF形式:711KB)
「パーソナル・サポート・サービス」について
~モデル・プロジェクトの評価について~
1
パーソナル・サポート・サービスのこれまでの動き
○
モデル・プロジェクトの開始
パーソナル・サポート・サービスの前身は、平成 21 年 10 月に取りまとめられ
た緊急雇用対策である。このときは、
「ワンストップ・サービス・デイ」の試行や
年末年始の緊急宿泊施設の確保と生活相談などを行い、一定の目的を達成した。
しかし、サービスの場所の確保の問題などから、
「ワンストップ・サービス・デイ」
の恒常的実施は困難である、限られた実施期間中に、様々な生活上のリスクが重
なる利用者の課題を把握するとともに、活用可能な支援を相談し、具体的支援に
結びつけることが困難であるなどの問題点も浮き彫りとなった。
緊急雇用対策での取り組みから、生活上のリスクが複雑に絡んでいる生活困難
者を支援するためには、既存の支援体制では問題の全体を受け止めきれないと考
えられ、当事者の抱える問題の全体を構造的に把握した上で、支援策を当事者の
支援ニーズに合わせてオーダーメイドで調整、調達、開拓する継続的なコーディ
ネイトが必要であると認識された。このような認識をもとに、平成22年5月1
1日に第1回セーフティネットワーク実現チームが、同年7月21日にパーソナ
ル・サポート・サービス検討委員会が開催され、同年10月からモデル・プロジ
ェクト第1次地域で、平成23年3月に第2次地域で、プロジェクトが開始され
た。
○
第3次地域での事業実施
第一次及び第二次のモデル・プロジェクトは、平成23年度末までを実施期間
として実施されていた。しかし、3月11日に発生した東日本大震災は、被災地
において様々な生活上の困難を一度に発生させることはもちろん、全国的な経済
活動の停滞等の様々な影響により、全国的にも失業や病気などに脆弱な人々を直
撃し、生活困窮に追い込むリスクを高めた。
これを受けて、7月29日の東日本大震災復興対策本部「東日本大震災からの
復興の基本方針」において、
「ワンストップ型の相談や寄り添い支援に関する先導
的なモデルの構築に取り組む」ことが決定された。
また、平成23年1月に設置された「一人ひとりを包摂する社会」特命チーム
においては、
「社会的包摂」を進めるための議論が行われており、8月10日の「社
会的包摂政策に関する緊急政策提言」において、
「緊急に実施すべき施策」の一つ
として、パーソナル・サポート・サービスのモデル・プロジェクトを社会的排除
リスクの高い者を幅広く含めたモデル事業として継続発展させ、これらの取組の
制度化に向けた検討を引き続き進めていくことが提言された。
これらの決定及び提言により、平成23年度第三次補正予算において平成24
年度までのモデル・プロジェクトに対する所要の予算措置が講じられ、これまで
のモデル・プロジェクトを継続するとともに、第3次地域の募集を行い、事業対
象を拡大することとした。この結果、平成24年2月10日にセーフティ・ネッ
トワーク実現会議において全国27地域での実施が決定され、平成24年度から
随時第3次地域での事業が開始された。
○
モデル・プロジェクトの各地での実施状況について
これまでモデル・プロジェクトを実施してきた地域は27地域であり、その分
布と平成24年11月時点での実施体制は、次図及び表のとおりとなっている。
中間報告の時点と同様、実施主体の態様(NPO法人・労働者福祉団体・社会福
祉法人等への委託、自治体の直接実施等)、これまでの支援活動における主たる目
的(就労支援、地域づくり等)
・対象層(子ども・若者支援、ホームレス支援等)、
人員体制は地域ごとに様々である。
パーソナル・サポート・サービス
モデル・プロジェクト 実施体制(平成24年11⽉末時点)
⾃治体
釧路市
岩⼿県
野⽥市
柏市
横浜市
名称
新潟県
実施体制
NPO法⼈地域⽣活⽀援ネットワークサロン
CPS1名、PS5名、APS8名
これからのくらし仕事⽀援室
NPO法⼈いわて⽣活者サポートセンター
CPS1名、PS5名、APS3名
県南地域PSC
奥州商⼯会議所
CPS1名、PS7名、APS1名
求職者総合⽀援センター(PSC)
NPO法⼈キャリアデザイン研究所
CPS2名、PS3名、APS0名
柏市⽣活⽀援センター あいネット
NPO法⼈あいネット
CPS1名、PS5名、APS0名
⽣活・しごと∞わかもの相談室
NPO法⼈ユースポート横濱
にこまるカフェ相談室
株式会社K2インターナショナルジャパン
相模原市 さがみはらパーソナルサポートセンター
⾜⽴区
実施主体
地域PSCえにぃ
⾜⽴区いのち⽀える寄り添い⽀援事業
新潟県パーソナル・サポート・サービス・
センター
CPS4名、PS7名、APS15名、事務局
⻑、事務局員、ボランティア等
CPS1名、PS4名、APS3名
NPO法⼈⽂化学習協同ネットワーク
CPS1名、PS4名、APS8名
NPO法⼈⾃殺対策⽀援センターライフリンク
CPS1名、PS4名、APS0名
新潟県労福協
⻑野県
ながのPSC
⻑野県労福協
岐⾩県
岐⾩県PSC
パソナ(⼀部地元NPO)
CPS1名、PS2名、APS7名、
その他4名
CPS1名、PS4名、APS26名、
登録APS34名
CPS1名、PS2名、APS20名
CPS1名、PS5名、APS6名、センター
浜松市
浜松市PSC
NPO法⼈⻘少年就労⽀援ネットワーク静岡
野洲市
しごと・くらし相談コーナー
野洲市
CPS1名、PS3名、APS0名
京都府
京都府PSC
京都府PSC(府設置の任意団体)
CPS1名、PS2名、APS1名
京丹後市
豊中市
吹⽥市
「くらし」と「しごと」の寄り添い⽀援セ
ンター
京丹後市
⻑、事務
CPS1名、PS2名、APS3名、センター
⻑
豊中市PSC
豊中市PS運営協議会
CPS1名、PS2名、APS8名
豊中くらしかんPSC
豊中市PS運営協議会
CPS0名、PS12名、APS0名
豊中市社会福祉協議会PSC
豊中市社会福祉協議会
CPS1名、PS1名、APS8名
PSCすいた、サポートスペース⾚レンガ
パソナ、NPO法⼈フルハウス
CPS1名、PS5名、APS0名
サポートスペース⾚レンガ
パソナ、NPO法⼈フルハウス
CPS1名、PS2名、APS0名
箕⾯市
PSC箕⾯中央(らいとぴあ21)
NPO法⼈暮らしづくりネットワーク北芝
CPS1名、PS3名、APS4名
⼋尾市
⼋尾市パーソナル・サポート・センター
NPO法⼈就労・⽣活・まちづくり⽀援機構
CPS1名、PS4名、APS4名
柏原市
柏原市パーソナル・サポート・センター
NPO法⼈就労・⽣活・まちづくり⽀援機構
CPS1名、PS2名、APS1名
社会福祉法⼈⼤阪⾃彊館
⼤阪⾃彊館
CPS1名、PS4名、APS2名
NPO法⼈釜ヶ崎⽀援機構
NPO法⼈釜ヶ崎⽀援機構
CPS0名、PS4名、APS4名
島根県
島根県PSC
島根県社会福祉協議会
岡⼭市
パーソナル・サポート・おかやま
NPO法⼈リスタート
⼭⼝県
PSCやまぐち
⼭⼝県労福協
徳島県
PSCとくしま
徳島県労福協
⼤阪市
⾹川
⾹川求職者総合⽀援センター(パーソナ
ル・サポート・センター)
障害者等就労サポートセンター
福岡市
絆プロジェクト
福岡絆プロジェクト共同事業体
沖縄県
就職・⽣活⽀援PSC
沖縄県労福協
CPS1名、PS4名、APS1名、
所⻑
CPS1名、PS1名、APS4名
CPS1名、PS6名、APS9名、
センター⻑、事務
CPS1名、PS5名、APS12名
CPS1名、PS11名、APS0名、
マネージャー等
CPS4名、PS2名、APS10名
CPS1名、PS8名、APS17名、
事務
○
モデル・プロジェクト研修・交流会、各地域研修会等の実施
モデル・プロジェクトにおいては、各地域で支援に携わる支援者の研修・
意見交換を通じた支援技術の向上を目的とした「経験交流」の場として、モ
デル・プロジェクト実施地域において研修・交流会を実施している。研修・
交流会には、内閣府がその企画に関与したものもあるが、多くは各地域が自
主的に企画した取り組みであり、各地域の支援技術向上に向けての積極的な
意識の表れとなっている。
研修・交流会の実施は様々な効果をもつ。たとえば、各地域の先駆的な取
組の共有、パーソナル・サポート・サービスの「5つの理念」を支援の実践
に体現するための議論、全国で同じ事業に取り組む支援者の交流によるモチ
ベーションの向上等である。また、このような研修・交流の結果を各地域に
持ち帰ることにより、支援の「偏り」を防ぐことにもつながる。
具体的には、研修・交流会では、個別のケースを題材としてのグループ単
位でのケース・カンファレンス実習や、モデル・プロジェクトにおける記入
シートについての説明・議論などが実施された。
○
モデル・プロジェクトの評価~記入シートによる分析~
モデル・プロジェクトにおいては、支援の振り返り、評価を行うことが重
要である。具体的には、支援プロセス自体の評価や、就労が達成できたかど
うかといった「1か0か」という観点では表れにくい自立に向けた当事者の
変化の把握、そしてそれらを踏まえての事業全体としての評価である。これ
らの評価を行うための記録を行う記入シートについては、 22年度に作成
した試行版を基に更に関係者間で協議を行って改訂し、23年6月以降、モ
デル・プロジェクト実施地域において記入・提出いただいた。
この記入シートを収集・分析し、「パーソナル・サポート・サービスの評
価手法等に関する調査」を実施した。(調査内容・結果等については後述)
2
モデル・プロジェクトの実績と評価
○
モデル・プロジェクトの支援実績
パーソナル・サポート・サービス モデル・プロジェクトを行った27地
域における事業開始から平成24年11月30日までの相談受理件数は合
計で 19,615 件であり、そのうちパーソナル・サポート・サービスが必要と
事業実施主体により判断されたケースは 11,833 件(相談受理件数の 60.3%)
であった。
このうち、実際にパーソナル・サポート・サービスの利用につながったケ
ースが 10,447 件(88.2%)、当事者本人とパーソナル・サポート・サービス
の利用について調整中のケースが 387 件(3.2%)である。また、関係機関
からの紹介のあったケースなどで、当事者本人とはコンタクトが取れていな
いが当事者とつながっている関係機関や家族等とコンタクトをとり、パーソ
ナル・サポート・サービスの利用を働きかけているというケースが 337 件
(2.8%)存在する。
パーソナル・サポート・サービス モデル・プロジェクト 支援実績(平成24年11月末時点)
相談受理件数と、相談受理につながった経路ごとの件数とその割合
件数
パーソナル・サポート・サービスが必要と(組織的に)判断された件数とその割合
割合
件数
就労支援の実施と実績
就労支援の実施件数
(就労支援が終了した件数も含む)
割合
PSが必要と判断された件数
相談受理
19,615件
100.0%
11,833件
100.0%
当事者から直接連絡・相談(訪問、電話)
10,475件
53.4%
(1) PSにつながった
10,447件
88.3%
支援関係機関からの紹介
7,646件
39.0%
(2) 当事者本人と調整中
397件
3.4%
398件
2.0%
(3)家族等とコンタクト
337件
2.8%
1,096件
5.6%
(4) コンタクトはとれていないが、働きかけ継続
142件
1.2%
(5) 働きかけもできていない
510件
4.3%
7,220件
2,996件
就職につながった件数
支援を終結した件数
巡回相談等の地域活動
その他
抱えている問題ごとの対象者数と、
その問題を抱えている対象者の全体に対する割合
抱えている領域数ごとの対象者数とその割合
抱えている領域数
PSSが必要と(組織的に)判断さ
れたもの全体(1)~(5)
人数
割合
3,692件
PSS利用中の者限定(1)
問題領域
人数
PSSが必要と(組織的に)判断さ
れたもの全体(1)~(5)
人数
割合
割合
PSS利用中の者限定(1)
人数
割合
1領域
2,874人
26.9%
2,448人
26.6%
仕事をめぐる問題〈失業、労働問題など〉
8,869人
82.9%
7,704人
83.8%
2領域
3,823人
35.7%
3,269人
35.5%
生活をめぐる問題〈衣食住の欠如など〉
4,161人
38.9%
3,617人
39.3%
3領域
2,326人
21.7%
1,983人
21.6%
健康をめぐる問題〈疾患、けがなど〉
1,992人
18.6%
1,740人
18.9%
4領域
1,046人
9.8%
926人
10.1%
メンタルヘルスをめぐる問題〈うつ、依存症など〉
3,387人
31.7%
2,882人
31.3%
5領域
433人
4.0%
392人
4.3%
家族や地域との関係をめぐる問題〈DV、虐待、暴力被害など〉
2,344人
21.9%
1,982人
21.6%
8領域
145人
1.4%
132人
1.4%
教育をめぐる問題〈不登校、いじめ、中退、基礎学力未習熟な
ど〉
749人
7.0%
636人
6.9%
7領域
41人
0.4%
34人
0.4%
法律・経済的な問題〈事業不振、多重債務、滞納など〉
1,954人
18.3%
1,742人
18.9%
8領域
12人
0.1%
11人
0.1%
その他の問題
1,661人
15.5%
1,430人
15.6%
9領域
1人
0.0%
1人
0.0%
対象者が抱えている問題数の合計
10領域
0人
0.0%
0人
0.0%
一人あたりの抱えている平均問題領域数
3領域以上(再掲)
4,004人
37.4%
3,479人
37.8%
4領域以上(再掲)
1,678人
15.7%
1,496人
16.3%
5領域以上(再掲)
632人
5.9%
570人
6.2%
10,701人
100.0%
9,196人
100.0%
合計
25117
21733
2.35
2.36
○
相談受理に至る経路
相談受理された 19,615 件のうち、当事者から直接連絡・相談のあったケ
ースが 10,475 件(53.4%)、支援関係機関からの紹介によるケースが 7,646
件(39.0%)、巡回相談等の地域活動からつながったケースが 398 件(2.0%)、
その他のケースが 1,096(5.6%)となっている。平成 24 年度に第 3 次実施
地域が加わったことを加味しても、平成 24 年 4 月から 11 月までで約 13,000
件の相談があったこととなり、件数が大きく伸びている。
巡回相談等の地
域活動, 398件
その他, 1,096件
支援関係機関か
らの紹介, 7,646
件
当事者から直接
連絡・相談(訪
問、電話),
10,475件
平成24年3月31日までの支援実績(第10回検討委員会資料 「「パ
ーソナル・サポート・サービス」について(3)~23年度モデル・プロジェ
クトの実施を踏まえた中間報告~」。以下「前回実績」という。)と比較す
ると、当事者から直接連絡・相談のあったケースの割合が増加する一方で、
支援関係機関からの紹介によるケース及び巡回相談等の地域活動からつな
がったケースの割合がそれぞれ減少している。これは、モデル・プロジェク
トが地域住民に普及し、困難を抱えている人が窓口に相談きやすくなった結
果と考えられる。これに伴い、相談は受理したものの、パーソナル・サポー
ト・サービスの利用は必要ないと考えられるケースの割合が、10.5%から
39.7%へと大幅に増加しており、問題を抱えた者が相談しやすい体制が構築
されているものと考えられる。
一方、巡回相談等の地域活動による対象把握(アウトリーチ)が減少した
わけではなく、平成 24 年 4 月時点と比較して 227 件から 398 件に大きく伸
びており、総合相談窓口とアウトリーチというパーソナル・サポート・サー
ビスの理念が順調に普及した結果であると考えられる。
前回実績
H24.11月時点
H24.11月時点
10,475件
53.4%
46.2%
7,646件
3,049件
2,856件
398件
227件
43.3%
39.0%
1,096件
464件
2.0%3.4%
5.6%7.0%
対象者の属性
支援対象者が抱えている問題を見ると、失業、労働問題などの「仕事をめ
ぐる問題」の割合が 82.9%(前回実績では 83.4%)、衣食住の欠如などの
「生活をめぐる問題」の割合が 38.9%(前回実績では 40.0%)、うつ病、
依存症などの「メンタルヘルスをめぐる問題」の割合が 31.7%(前回実績
では 31.3%)などとなっている。
問題領域の重なりをみると、3領域以上の問題を抱えているケースが
4,004 件(37.4%。前回実績では 37.0%)、そのうち4領域以上の問題を抱
えているケースが 1,678 件(15.7%。前回実績では 15.3%)となっており、
前回実績と大きな変化はみられない。また、一人当たり平均 2.35 領域の問
題を抱えている状態にある。
その他
巡回相談等の地域活動
支援関係機関からの紹
介
当事者から直接連絡・
相談(訪問、電話)
その他
巡回相談等の地域活動
支援関係機関からの紹
介
当事者から直接連絡・
相談(訪問、電話)
○
前回実績
当事者が抱えている問題領域数
当事者が抱えている問題
82.9%
5領域以上
5.9%
4領域
9.8%
38.9%
31.7%
21.9%
18.6%
7.0%
その他
法律・経済的な問題
教育
家族や地域との関係
メンタルヘルス
健康
生活
仕事
○
1領域
26.9%
18.3% 15.5%
3領域
21.7%
2領域
35.7%
就労支援の実績
モデル・プロジェクトの支援対象となった者で、年齢等の制約がなく、就
労支援を実施することができた者は 7,220 件である。このうち、2,996 件が
何らかの形で就労することに成功しており、就職率は 41.5%となった。モ
デル・プロジェクトの支援対象者は、単に職がないだけでなく、様々な理由
により就労に困難を抱えている者である。こうした者に対しても、ハローワ
ークを含む関係機関が連携して支援に取り組むことで、一般の就労支援と比
べて遜色ない就労実績を示すことができている。
3.モデル事業の具体的評価に関する検討ついて
○ 記入シートの調査・分析から得られた知見
前述のとおり、モデル・プロジェクトにおいては、支援プロセスの評価や自
立に向けた当事者の変化の把握、事業全体の評価を行うための記入シートを各
実施地域において記入・提出していただいた。
この記入シート(平成25年2月末までに受領した全1,055件)を収集・
分析し、「パーソナル・サポート・サービスの評価手法等に関する調査」を実
施した。
※
調査は、内閣府より社団法人北海道総合研究調査会に委託して実施した。
調査では、支援による当事者の定量的な変化を把握・分析すると同時に、支
援の経過記録を体系的に整理し、支援方策の豊富化や有効性の検証、「事務局
機能」やパーソナル・サポート・サービスの5つの理念(本人と向き合う支援、
本人の個別状況に合った支援、継続的支援、予防的支援、本人をとりまく環境
への働きかけ)の具体的内容・視点の抽出を行い、最後にパーソナル・サポー
ト・サービスの制度化を想定した事業全体の評価の検討を行った。
調査から得られた知見としては、概ね以下の点が挙げられる。
ア 当事者の属性に関する分析
調査では、全国的にみると当事者の年代は20歳未満から60歳以上まで、
概ね均一に分散している傾向がみられた。一方で、性別では男性が67.3%、
女性が32.7%であり、年代別にみてもすべての年代において男性が6
0%以上となっていた。
他方、当事者像は年代によって異なる傾向がみられた。具体的には以下の
ような点が挙げられる。
・ 「結婚の有無」では、離別・死別を合わせると50歳代以上では6割
以上に結婚の経験があるのに対し、30歳代以下では7割以上に結婚の
経験がない。他方、40歳代で約4分の1、50歳代で約3分の1、6
0歳以上では半数弱が離別・死別となっている。
・ 「成育歴における課題」では、40歳代以上に比べ、30歳代以下の
方が相対的に課題を有する場合が多い。特に、20歳未満では、虐待・
DV や家庭の貧困・借金、不登校などの課題を抱えている者が4割近く
に上っている。
・ 就労形態に関するデータをみると、現在就労している者についてはど
の世代もアルバイト・パートが多いが、「(現在就労していない者の)
直近の就労形態」や、「最初に就いた就労形態」、「一番長く勤めてい
た仕事の形態」では、40歳代や50歳代では正社員の割合も相対的に
高い。平成 19 年の就業構造基本統計調査で社会全体の状況をみると、
どの年齢層でも「最初に就いた就労形態」や「一番長く勤めていた仕事
の形態」では正社員が多いが、年齢別にみると30歳代をピークに高い
年齢層ほど正社員の割合が低く、支援対象者のデータと異なる傾向を示
している。このことから、特に若い世代において、初職等で正社員にな
れないことによる生活困窮のリスクが大きく高まることが推定される。
・ 現在の問題領域については、すべての年代において「仕事」の割合が
高いが、50歳代、60歳以上では「生活」、「健康」の割合が高いの
に対し、20歳代、30歳代では「メンタルヘルス」、20歳未満では
「家族・地域との関係」、「教育」の割合が高い。
イ 支援による当事者の定量的な変化に関する分析
パーソナル・サポート・サービスでは、就労が達成できたかどうかといっ
た「1か0か」という観点では現れにくい当事者の変化を様々な角度から把
握することが重要である。これにより、就労自立から距離のある人が支援を
受けて、自立に向かって歩を進めていることを社会に対して説明することも
できる。
パーソナル・サポート・サービスにおける当事者の定量的な変化の視点と
しては、まず、支援する側の押しつけではない当事者本位の支援を行う観点
から、当事者自身の主観的な満足感を把握することが重要である。これは、
単に当事者の主観的満足感が重要というだけでなく、支援のステップが進む
中で、一律に満足感が上がり続けるのではなく、下がる局面があり得ること
を把握するという観点でも重要である。
次に、当事者の客観的状況を把握することが重要である。パーソナル・サ
ポート・サービスでは、住居や収入、健康状態等の「生活面」、家族・親族
関係の課題、社会的なつながり、コミュニケーション等の「社会面」、就労
に向けた意欲・準備、スキル等の「就労面」の3つの観点から総合的に把握
することとした。
調査では、このような視点に基づき、当事者の主観的状況(満足感)及び
生活面、社会面、就労面での客観的状況を概ね3か月に1度把握した。
①
全体の満足度の動き
全体の満足度の動きを、4時点で調査したものが次の図である。これを見
ると、満足度の向上は、初回から2時点目にかけて大きく、それ以降上昇幅
は縮小しながらも、満足度が向上していく動きがみられる。社会的孤立状況
にあった支援対象者が、パーソナル・サポート・サービスを利用することで、
支援機関とつながりができること、それ自体が満足度に大きな効果をもたら
していると考えられる。
満足度の動き
60.00
56.71
57.86
55.00
51.25
50.00
45.00
40.00
36.32
35.00
初回
2時点目
3時点目
4時点目
残念ながら、個別にみると、分析対象となった114ケースのうち11ケ
ースで、支援期間中に満足度が減少している状況が見られた。これらのケー
スを個別に分析すると、たとえば支援期間中に失職する、離婚が成立するな
どの理由で、経済的な負担が増してしまったことなどが原因であった。こう
した原因はパーソナル・サポート・サービスによるものではないが、こうし
た対象者に対してもきめ細かい支援が求められる。
②
個別の領域での評価の動き
生活面、社会面、就労面での客観的状況については、次の表に記載の観点
から、支援対象者の評価をまとめたものである。
指
標
評価の視点と評価点
生活面
日常生活に必要な基本条件(例:必要な食事をしている、電気・ガス・
日常生活状況
水道等のライフラインを使用している、冷暖房を使用している、生活
用品を購入している、衛生面の問題がない等)が整っているか否か、
その程度について 1 点~10 点で評価
社会的な接点(例:家族、友人、職場等の所属組織、支援機関(PS
社会面
社会的つながり
以外)、宗教、趣味の活動など)多少、孤立感の大小の程度について 1
点~10 点で評価
コミュニケーション(他者と意思疎通をするコミュニケーションを砂
コミュニケーション
嘴、表情や行動など言葉を使わないものも含む)がとれるか否か、そ
の程度について 1 点~10 点で評価
生活のリズムを整える、コミュニケーションスキルの訓練、ハローワ
就労面
就労に向けた意欲・準備
ークに通う、求人雑誌を見る、技能講習を受ける、中間就労のプログ
ラムを体験する、体験就労を行うなど、本人に応じた就労に向けての
準備の程度について 1 点~10 点で評価
コミュニケーションスキル、社会人としての一般常識、挨拶、電話対
就労のためのスキル
応など就労に当たっての基本的なスキルの習得レベルについて 1 点~
10 点で評価
これら各分野での指標の動きをみると、全体として、支援開始当初に大き
く指標が上昇し、その後緩やかに上昇していくという傾向は共通のものであ
る。この中で、就労面での指標は、生活面、社会面と比べ水準が低いが、伸
び率はもっとも高い。これは、支援対象者の就労面で置かれている状況が非
常に厳しいことと、それに対するパーソナル・サポートによる支援が大きな
効果を持っていることを示唆するものであると考えられる。
就労面の指標
社会面の指標
生活面の指標
9.00
9.00
9.00
8.00
8.00
8.00
7.00
7.00
7.00
6.00
6.00
6.00
5.00
5.00
5.00
4.00
4.00
4.00
3.00
3.00
3.00
2.00
2.00
初回
2回目
3回目
4回目
2.00
初回
2回目
3回目
4回目
初回
2回目
3回目
住居の継続性
家族・親族関係の課題
就労に向けた意欲・準備
収入の安定
社会的つながり
就労のためのスキル
日常生活状況
コミュニケーション
就労状況
心身の健康状態
金銭的な課題
就労上の労働問題
一般社団法人北海道総合研究調査会
平成24年度パーソナル・サポート・サービスの評価手法等に関する調査より
4回目
ウ 支援モジュールに関する分析
パーソナル・サポート・サービスにおいては、「特定の目標を達成するた
めに用いられる一連の支援方策群」を「支援モジュール」と整理している。
たとえば、①日常的な家計管理のための支援モジュール、②親族とのコミュ
ニケーション確立に向けた支援モジュール、③断酒に向けた支援モジュール、
④自己有用感の醸成に向けた社会参加を勧める支援モジュールなどである。
モジュールの概念図
支援の効果を上げていくためには、当事者の抱える問題に対応した支援モ
ジュールを、領域としては幅広く、手段としては多様に持ち、支援と支援の
隙間を小さくしていくことが求められる。
ただし、単に支援モジュールを豊富に持てば支援の効果が上がるわけでは
ない。各地域間のネットワークを活用し、専門家の助言などを得つつ、当事
者の複雑かつ多様な状況(局面)を的確にとらえた局面に応じた有効な支援
モジュールを用いること(「根拠に基づく支援」(Evidence Based Practice)
であり、「目標指向的な支援」)が重要であり、そのための研究・分析を行
っていく必要がある。
このため、調査では、当事者の直面している状況(「局面」)及び当該局
面において用いられた支援モジュールの体系化を行い、局面については本調
査では暫定的に 19のカテゴリーに分類した。また、支援モジュールにつ
いては、当事者の抱える課題領域及び属性ごとに活用されている支援モジュ
ールの分類を行った。
支援モジュールの代表的な例を挙げると、次表のようになる。
問題領域
支援モジュールの内容
メンタル
症状・信頼関係の局面に応じ、医療機関とも連携して支援
食
緊急性が高い。フードバンク等
金銭
小口貸付、法テラスの活用、金銭管理サポート等
住まい
緊急時のシェルター、物件探し支援等
家族
家族との対話・仲介等
健康
医療機関等へのつなぎ、医師との調整等
就労
ハローワークへの同行、履歴書指導、面接練習等
その他
本人との対話、問題のアセスメント、当事者同士の交流等
これらの支援モジュールは、当事者の状況に合わせ、様々に組み合わせて
実施されている。また、当事者の問題解決に合わせ、ステップアップした支
援が行われることになる。
加えて、各地域の人口、都市化状況、社会資源の存否に応じて、様々な地
域性のある支援モジュールが存在している。PSに対する社会的評価も地域
によって異なるため、地域の状況を十分に加味したうえで支援を行う必要が
あることが観察された。
エ 事務局機能に関する分析
パーソナル・サポート・サービスにおいては、パーソナル・サポート・サ
ービスの理念を体現するため、一人ひとりの支援者の機能を超えた組織的な
対応や支援者のサポート・ケアといった形で行われる様々な機能を「事務局
機能」と定義し、支援者機能とともに重要な機能として位置づけ議論を行っ
てきた。
調査では、各地域において実施している事務局機能の取組について、その
取組内容とともに、「意図・ねらい」、「結果・課題」の把握を行った。
この結果、各地域において、地域におけるネットワークの形成、多角的な
目線による支援の方針・方策の提案等の支援スキルの向上(支援の質の向上)、
支援スタッフの心身の健康サポート、制度の内容・運用の改善等の様々な取
組が実施されていることが把握され、個々の支援の質や効果を高める上で事
務局機能が重要であることが改めて確認された。また、調査では、地域の多
様な資源の組合せや各種団体等の連携によって、事務局が意図しなかった思
わぬ結果を導くことも期待されることが把握された。
モデル・プロジェクトでは、事務局が様々な実践を重ねていく中で、ねら
い以上の効果や相乗効果が生まれることにより、新たな社会資源が創出され
さらに支援の幅が拡がったり、パーソナル・サポート・サービスが存在する
ことによって、パーソナル・サポート・サービス以外のまわりの機関が本来
の役割を果たすだけでなく、本来の役割を超えて連携する仕組みが地域に生
まれるといった、地域の社会資源の有効活用・活性化、あるいは創出につな
がる動的な展開、いわば事務局機能によって引き起こされた地域のダイナミ
ズムともいうべき動きが生じていることが把握されている。
多くの問題領域を抱えた当事者に対して適切な支援を行うことは、単一の
期間ではどうしても限界がある。しかしながら、生活支援、就労支援、医療
といった各機関がそれぞれの機関にそれぞれの専門性を発揮させ、それらを
緊密に連携させることで、複雑な問題にも対処することが可能となることが、
モデル・プロジェクトで明らかになっている。そうした観点から、連携の要
となる事務局機能は、パーソナル・サポート・サービスにとって非常に重要
なものであるといえる。
オ パーソナル・サポート・サービスの「5つの理念」の具体化に関する分析
パーソナル・サポート・サービスにおいては、支援の機能やプロセスに着
目して「5つの理念」
(本人と向き合う支援、本人の個別状況に合った支援、
継続的な支援、予防的な支援、本人をとりまく環境への働きかけ)を整理し、
これを具体の支援の実践に体現していくことを目指した。
このため、記入シートにおいては、具体の支援のプロセスについて、5つ
の理念に照らして振り返り、評価を実施していただき、調査において、それ
ぞれの理念ごとの「視点」をブレイクダウンして提示することを試みた。
これら5つの理念に関する視点は、相互に重なりあうことも多く、厳密に
分類をすることは困難であるし、その必要性も乏しい。しかしながら、支援
モジュールと同様、生活困難者支援としての枠組みの普遍化や、全体として
の支援の質の向上のためには、モデル・プロジェクトの成果を確認し、5つ
の理念を具体の支援の実践に体現できるようにしていくことが重要である
と考えられる。
調査において抽出された「5つの理念」についての視点
①本人と向き合う支援
思い・訴え
の傾聴
信頼関係の
構築
ニーズ・状況の
把握
本人のペースに
合わせた支援
支援の見立て
・本人の気持ちをベースとした会話(意思の尊重)
・孤独感を解消するための本人の不安や不満を受け止め
・これまでの振り返り、および将来についての聞き取り
・内面心情の変化への注意
・ラポールの形成
・安心して本音で話せる関係づくり
・問題について一緒に考える
・お互いに約束を守る
・家族全体のサポート
・よくないところははっきりと指摘する
・現状の問題の把握、共有
・具体的な問題提示
・優先順位の整理
・自問自答してもらい目標を設定してもらう
・周囲からの客観的な情報による状況の把握
・課題の改善支援、フィードバック
・定期的な面談を行う
・話をかみくだき、理解を促す
・強みを活かし、弱みを補助する
・本人の能力・体力を踏まえた支援
・意欲喚起
・本人と支援者側の見立てについて確認
・適切な支援機関の紹介
・場当たり的な対応ではなく支援の全体像を見る
②本人の個別状況に合った支援
適切なアセスメント
の実施
意向の
優先
「オーダーメイド」
型の支援
関係機関との連携に
よる支援
・本人に負担がかからないような配慮
・本人の特性をつかむ
・病気か障害かのみきわめ
・病気(障害)の開示へのアドバイス
・自己分析シートの活用
・一時的ニーズ(食事・住まいなど)を満たす
・支援者側の意向を押し付けない
・考える方向への後押し支援
・自己決定権の尊重
・必要な情報の提供
・問題や課題へのスムーズな対応・助言・指導
・課題克服の機会提供
・課題と現状のすり合わせ
・行動にコメントを加える
・関係機関の早い段階での連携
・関係機関との連携・役割分担
・家族との情報共有
・地域の社会資源の開拓
状況に合わせた
支援体制
・PS と本人が 1:1 の関係になる
・APS と PS がサポートする二重構造の支援
・女性 PS、男性 PS の役割分担
・PS と事務局(ポイントでの後方支援)の支援
・複数の阻害要因・課題を見落とさぬようチームで対応
③継続的な支援
状況の
確認
本人の支援の
継続性
方針変更の際
の次のステッ
プへの対応
見守り支援
関係機関・家族
との連携
・定期的な連絡、面談
・電話、メール、手紙のやり取り
・本人のペースに合わせた面談
・定期的な面談計画の提示
・将来像を語ってもらう
・状況だけでなく、気持ちを把握する
・生活継続のための助言(生活破たんの予防)
・自立に向けてのフォローアップ
・支援の提案の幅を広げる
・活用できる制度の情報提供
・取り組みシートを活用して達成感を持ってもらう
・状況の変化に合わせ、支援方針を変更する際の際アセスメント
・今後のステップを見据えた支援計画
・本人とのコミュニケーション、信頼関係の維持
・直接支援の必要がないため、間接的な見守り
・関係機関と連携しながら見守り
・専門家とのやりとりのサポート
・就労後の定着についての見守り
・専門機関や社会資源と連携した支援
・地域での支援につなげる
・生活の変化に合わせた必要な関係機関との関係作り
・家族・仲間や同年代の人との交流場所の提供
④予防的な支援
早期発見
本人の状況の確認
早期・予測対応
見守りの体制と気づ
・生活困難が具体化する前からの関わり
・相談申請前のキャッチ
・学校や更生保護施設など関係機関との情報共有
・関係機関との連携(キーパーソン・専門機関・NPO など)
・連絡が取れなくなった場合の対応を検討しておく
・外部支援機関の情報をフィードバック
・複数 PS で対応し情報共有する
・医師と連携し、体調悪化時やその前兆の傾向を把握しておく
・定期的な面会
・先を予測して先手の対応をとる
・普段の聞き取りから本人の不安を察知する
・問題の発生につながる変化点の把握
・予想できる展開を本人と話し合っておく
・リスクを予想し、回避するための心がけを説明しておく
・家族の動きにも気を配る
・徹底した金銭管理、勤務状態の確認
きの共有
課題の解決へ
向けて
・不安の要因の確認
・メンタルサポート(うつや引きこもりの予防)
・適度な距離を保つ
・失敗したときのアフターケア
・ケースカンファレンス等による事例検討
・目標の設定とリスクの共有
・本人のデメリットを明確にし、対応策の検討
・トラブルの原因をつかむ
・課題の大きさ、重要度の理解に努める
・社会的孤立をしないように事前に地域資源につなげる
⑤本人をとりまく環境への働きかけ
・関係機関との信頼が築けるようにアドバイス
本人への
・メンター的な関係者の洗い出し
働きかけ
・社会資源の提案
・本人だけと話をする
・関係機関との連携・調整・情報交換
・支援ネットワークの継続による相談チャンネルの確保
関係機関への
・本人の利用機関と意見交換する事での見立てのズレの防止
働きかけ
・関係機関全体での支援体制
・PS が側面・後方支援ができる体制づくり
・養育歴や家庭環境の把握
・家族の病識や障害への理解
家族への
・家族と連絡をとりあう環境を構築する
働きかけ
・家族との認識のずれを解消する
・本人から家族に話ができるように調整する
・家族内でのサポート体制を構築
・家族を包括する支援
インフォーマルな
・複数の支援者同士が本人の状況を把握して支援する
資源へのつなぎ
・地域の中で主に支援する人を決める
・障害者の社会的就労の場の創出への働きかけ
・必要に応じた資源や制度の提案
新たな社会資源
・制度利用の基準について再検討を依頼
創出
・制度の適正な運用の実現とその情報の共有化
・啓発活動
6.モデル・プロジェクトを通じて得られた知見と課題
最後に、本事業を通じて得られた知見と課題について整理する。平成 25 年
度以降は、平成 25 年 1 月 25 日に取りまとめられた「社会保障審議会生活困
窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書」に基づき、厚生労働省に
おいて新たな生活困窮者支援制度の構築に向けて検討が進められることとな
る。新たな制度は、本事業を直接に引き継ぐものではないが、その検討に当
たっては、本事業で得られた知見が活用されることが望まれる。
○
パーソナル・サポート・サービスによるコーディネイト機能
モデル・プロジェクトは、対象者を限定せず、既存の施策の枠組みにとらわ
れない総合的な支援として行われた。このような、枠組み横断的な支援は、と
もすれば既存制度に「屋上屋を架す」ものと捉えられがちである。
しかしながら、パーソナル・サポート・サービスの意義は、サポーターが核
となり、医療、介護、障害者支援、生活保護などの既存施策や、地域のコミュ
ニティで行われている様々なインフォーマルの支援をコーディネイトし、対象
者の状況に応じた個別の支援プログラムを構築することにある。
<具体的な事例>
例1
本人がアルコール依存症、家族もアルコールや薬物依存などを抱えて
おり、通常の支援が満足に受けられない事例
→
PSを核に、ケースワーカー、介護担当者、医療関係者、成年後見人
など十数人のチームを組んで対応、通常の生活維持を可能に
例2
→
外国籍の母子家庭、DVで避難したケース
PSが核となり、宿泊施設を確保、その後自治会、市役所、教育機関
と連携し、就労支援を行い、現在求職できる状態に回復
例3
→
中高年になって失職し、生活困窮に陥ったケース
PSによる支援を始めたところ、知的障害の疑いがあり医療機関に接
続、知的障害が判明。本人経由で各機関と連携を取ることが困難である
ため、PSを中心に家族、ケースワーカー、医者などが情報共有できる
仕組みを構築
このような連携の取組は、現在検討されている新たな生活困窮者支援制度を
展開するうえで非常に有意義な先行事例となっていると考えられる。また、こ
うした事例は、パーソナル・サポート・サービスが、それ単独で支援を完結さ
せることができるものではなく、既存の各支援制度を活用し、それぞれの支援
制度の効果を高めていくことによって、様々な問題が複合している生活困難者
への支援が有効なものとなることを示唆しており、今後の施策に生かしていく
ことが期待されるものである。
○
広域的な連携支援
実際の支援を行うに当たっての社会的資源は、医療や介護などの既存の行政
施策にせよ、NPOなどの民間団体による支援にせよ、地域に密着して存在し
ているものであり、対象者の身近な社会的資源を活用することが必要となる。
一方で、支援を受ける対象者には、自分がそうした支援を受けていることを親
族や友人などの身近な人に知られたくないという気持ちがあることや、依然と
して社会的なスティグマが解消されていないこと、本人の事情により住所地で
支援を受けられないなどという事情から、自分の地元の相談窓口で相談するこ
とに抵抗を感じるというケースも多く存在する。
<具体例>
例1
本人の親族が市役所の公務員であり、迷惑をかけたくないという気持ち
から、県内の遠くの相談窓口までいって相談、時間をかけて支援につなげた
ケース
例2
DV被害者であり、住民票を移さずに逃げたケースで、住民票のない地
域で支援を受けるケース
このため、適切な支援メニューを用意するという意味においては、一番身近
な行政単位である市町村が重要な役割を担うが、そこからこぼれてしまう支援
対象者をカバーするため、相談窓口にはある程度広域性を持たせることも求め
られているのではないかと考えられる。
この点について、パーソナル・サポート・サービス・モデル・プロジェクト
では、大阪府柏原市と八尾市のように、異なる市町村で連携してプロジェクト
を実施した例もあるし、プロジェクト自体を県で運営し、域内の市町村の連携
を取っている例がある。
○
「アウトリーチ」による支援
パーソナル・サポート・サービスを必要とする対象者は、行政サービスの情
報からも孤立しているケースが多く、居住地域でパーソナル・サポート・サー
ビスを行っていたとしても、それを知らず活用できないケースが多い。また、
サービスがあることは知っていても、不信感などから利用しようとしないケー
スもある。こうした対象者の存在をキャッチし、支援につなげていくような働
きかけを行っていく「アウトリーチ」の取組を進めることは、モデル・プロジ
ェクトの課題でもあった。今後、「アウトリーチ」の取組をどのように強化し
ていくかが大きな課題となるだろう。
○
人材確保と育成の課題
こうした既存施策のコーディネイト機能や、アウトリーチ機能を果たしてい
くためには、相応の人材が必要となる。支援担当者に求められる能力としては、
①
相談を通じて個別の対象者の抱える問題を整理するアセスメント能力
②
個別の対象者ごとに利用する施策をまとめるプランニング能力
③
関係機関や関係者をまとめ、支援体制を整えるコーディネイト能力
④
支援の進捗管理とフォローアップ
などが考えられる。
現状のモデル・プロジェクト実施地域でも、こうした人材の確保が課題とな
っており、人材の確保と適切な人材育成プログラムの開発が必要となると考え
られる。
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