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University of Zurich - Zurich Open Repository and Archive
University of Zurich
Zurich Open Repository and Archive
Winterthurerstr. 190
CH-8057 Zurich
http://www.zora.uzh.ch
Year: 2008
Canine and feline papillomavirus-induced skin lesions
Favrot, C
Favrot, C (2008). Canine and feline papillomavirus-induced skin lesions. ViVeD - Visual Veterinary Dermatology,
4(2):111-117.
Postprint available at:
http://www.zora.uzh.ch
Posted at the Zurich Open Repository and Archive, University of Zurich.
http://www.zora.uzh.ch
Originally published at:
ViVeD - Visual Veterinary Dermatology 2008, 4(2):111-117.
特集 皮膚の上皮性腫瘍 2008(前編)
犬および猫の
パピローマウイルス誘発性皮膚疾患
Canine and feline papillomavirus-induced skin lesions
Claude Favrot, DVM, MsSc, Diplomate.ECVD*
Abstract
犬では 4 つの型,猫では 1 つの型のパピローマウイルスが報告されクローン化されているが,これまでに得ら
れているエビデンスからは,ほかにもいくつかのウイルス型が存在することが示唆されている。これらのウイル
スは古典的な疣贅のみでなく,色素性局面,内反乳頭腫およびサルコイドを誘発する。さらに,それらのいくつ
かは皮膚癌の発生にかかわっている可能性がある。本稿では,肉食動物のパピローマウイルスについての最新知
見および関連性疾患について概説する。
パピローマウイルス(PV)は,小型でエンベロープ
をもたない二重鎖 DNA ウイルスであり,皮膚および粘
がらすべての症例で,初期感染に次いで潜伏期があり,
その間にウイルスゲノムが複製される 6)。
膜に様々な増殖性病変を誘発する。宿主特異性が高く,
初期感染が成立するには感染性粒子が基底層の細胞内
複製は特定の宿主細胞内でなされる 1)。PV ゲノムは 3 つ
に侵入しなければならず,そのためにはほとんどの場合,
の領域から構成される:初期遺伝子領域(E1 ∼ E7),
表皮の破壊が必要とされる 1)。HPV の初期遺伝子発現は
後期遺伝子領域(L1 および L2)および上位調節性遺伝
表皮の基底層および基底層の上方で生じるのに対し,後
子領域(URR)。初期および後期遺伝子領域はタンパク
期遺伝子発現は有棘層および顆粒層内でみられる 1)。こ
質をコード化しているが,URR はコード化していない 2)。
れまでに明らかにされている HPV は 150 種類以上あり,
E1 および E2 は,染色体外 DNA の複製およびウイルス
それらの遺伝子構成によって 3 つのスーパーグループに
サイクルの完成に不可欠なタンパク質をコード化する。
分けられている 7,8)。系統発生的分類は,すべてについ
さらに E2 は,初期領域の転写を調節する2つのタンパ
て言えるわけではないが,親和性(粘膜型 HPV 対 皮膚
。E6 および E7 はウイルスの複製
型 HPV)および病原性(高リスク HPV 対 低リスク
を刺激し,宿主細胞の不朽化および転換を促進する腫瘍
HPV)と関連している 7 − 9)。粘膜型 HPV はコンジローマ
性タンパク質をコード化する 4)。最終領域単位の L1 およ
(生殖器疣贅)を惹き起こし,それらのうちのいくつか,
び L2 は,構造(カプシド)タンパク質をビリオン構築
とくに HPV16 は女性における浸潤性の子宮頸癌の直接
の最終段階でコード化する 。
的な原因となる 8,10)。皮膚型 HPV は典型的な疣贅および
ク質をコード化する
1,3)
1)
扁平上皮細胞に侵入したヒト PV(HPV)は,臨床的
疣贅状表皮発育異常症を誘発する。疣贅状表皮発育異
および顕微鏡的なエビデンスを欠く潜伏性の感染,臨床
常症は遺伝性疾患で,広範囲に広がる扁平な疣贅を形成
症状がなく顕微鏡的にのみ病変を示す不顕性感染もしく
する 11 − 13)。そうした病変の発生には多くの異なった HPV
は明白な臨床症状を引き起こすことがある 5)。しかしな
が関わっているが,HPV5 および/あるいは HPV8 の関与
するところが極めて大きい 14)。
HPV はボーエン病,ボーエノイド丘疹症およびケー
*Clinic for Small Animal Internal Medicine, Dermatology Unit
Vetsuisse Faculty, University of Zurich, Zurich, Switzerland
翻訳:門屋 美知代(かどやアニマルホスピタル)
監訳:町田 登(東京農工大学農学部獣医臨床腫瘍学研究室)
ラー紅皮症とも関連があるとされてきたが,因果関係が
明確に示されているのは後 2 者である 15 − 19)。
最後になったが,HPV の多くは病原性を有しておら
Vol.4 No.2 2008
111(31)
特集 皮膚の上皮性腫瘍 2008(前編)
図2
COPV によって誘発された古典的な疣贅病変。
犬および猫のパピローマウイルス
肉食動物の PV についてはほとんど知られていない。
これまでに 5 型が同定されているのみで,そのすべてが
皮膚もしくは粘膜に増殖性病変を惹き起こす 24 − 32)。イヌ
口腔 PV(COPV)は犬に典型的な疣贅を誘発し,また
図1
イヌおよびネコパピローマウイルスの進化系統樹(矢
印)
。
CPV2 は免疫抑制状態にあるビーグルに皮膚癌を惹起す
ることが示 されてきた 33,34)。 いっぽう, C P V 3 および
CPV4 は色素性局面の発生と密接に関わっており,当該
疾患がヒトの疣贅状表皮発育異常症に相当するものであ
ず,そのようなウイルスが感染した場合には無症候性で
るとする著者もいる 25,26,35)。これら 4 型の犬のウイルス
。したがって,皮膚もしくは粘膜病変上に HPV
は異なる 3 つの属に所属していることから,それらのゲ
が存在していたからといって,必ずしもそのウイルスが
ノムは著しく異なっているといえる(図1:矢印は犬お
原因因子であるとは限らない。また,皮膚癌が PV 発育
よび猫の PV の所在を示す)。興味深いことに,猫で唯
の好適培養基であることを示すエビデンスも得られてき
一同定されているネコ PV は COPV と同じ属に属する 32)。
ている 22)。この点に関しては,診断のために用いる方法
このウイルスは猫の疣贅から発見された。さらに,犬お
についても十分に考慮する必要がある:現在は精巧な
よび猫の PV DNA の塩基配列のいくつかが,犬の扁平
PCR アッセイにより 100 個のケラチノサイト中の 1 つの
上皮癌あるいは猫のボーエン様上皮内癌から発見されて
PV 遺伝子さえも検出することが可能であるので,そう
いる 36 − 38)。これらのわずかな情報のみから適切な分類を
したアッセイ系によって得られた陽性結果を鵜呑みにす
することは困難であるが,肉食動物にはもっと多くの種
ることなく,注意深く解析する必要がある 23)。組織中に
類の PV が存在し,他のいくつかの属に振り分けられる
潜んでいるほんのわずかなウイルスが,実際に腫瘍を惹
可能性を示唆している。
ある
20,21)
き起こし得るのかどうかについては非常に疑わしい。逆
に,免疫組織化学のような古い手法によって得られた陽
性結果のほうがはるかに信憑性が高い。このような検査
古典的なパピローマウイルス誘発性皮
膚病変:疣贅と内反乳頭腫
方法は,サンプル中にウイルスのカプシドタンパク質が
十分に存在するときにのみ陽性を示す。したがって,こ
COPV は,犬に発生する古典的な疣贅病変の病原因子
の方法によって得られた陽性所見は,ウイルスが存在し
である。若齢犬に好発するが,性別や犬種による偏りは
ていることのみならず,活発な複製が行われていること
みられない。病変は典型的なカリフラワー状の様相を呈
をも示唆しており,臨床的な意味合いも大きいと思わ
し,通常は粘膜に発生する。最初の病変形成部位は口腔
れる。
粘膜であり,その後しばしば上部消化管,生殖器粘膜,
(32)112
Vol.4 No.2 2008
犬および猫のパピローマウイルス誘発性皮膚疾患
図3
皮角形成を伴う指の乳頭腫。
図4
内反乳頭腫。
眼瞼などに拡大する。舐めることによって二次的な皮膚
トの皮膚科学の分野では,疣贅およびコンジローマ,表
病変が形成されるため,とくに腹部や四肢に生じやす
在性扁平上皮癌,ボーエン病など,多種の疾患に対して
い。病変は紅斑性,時に浸潤性であり,径 4 cm 大に達
この薬を使用することを支持する研究も多い。しかしな
することもある。診断を下すには通常,臨床検査と病歴
がら,犬の疣贅に対する本薬剤の効果についてはまだ調
だけで十分である(図 2)。組織学的検索では,重度の
べられていない。獣医学領域での唯一の報告が,PV 誘
正角化性角化亢進を伴った表皮の乳頭腫状増殖が認めら
発性である馬のサルコイド治療に本薬剤を使用したもの
れる。通常,PV 感染に典型的な変化,すなわち有棘層
であるが,当該疾患に対してはかなりの効果が認められ
におけるケラトヒアリン顆粒の凝集,青灰色の腫脹した
ているようである 42)。自己ワクチンを含め,その他の治
細胞質と腫大した核を有するケラチノサイトならびに核
療法を支持する研究報告はみられない。PV 誘発性の皮
内封入体が,すべて観察される。真のコイロサイト(腫
膚乳頭腫病変は,稀ではあるが成犬にもみられ,すべて
脹した淡明な細胞質と濃縮[萎縮]した核をもったケラ
の年齢層の犬であらゆる部位に発生し得る。それらは通
チノサイト)が認められることがある。
常,若齢犬の疣贅に似ているが,時に皮角で覆われてい
一般に,治療を行わなくても 3 カ月以内に病変は消退
する。4 カ月以上持続する場合には,罹患犬の免疫状態
ることがある(図 4)。これらの病変は,自然に消退しな
いことが多い。
を再評価しなければならない。病変の存在が生活の質を
内反乳頭腫(図 3)は,皮膚内に向けて内向性の増殖
著しく低下させる場合には,外科的切除を考慮する必要
を示す疣贅である。増殖すると,中心部にくぼみを有す
がある。しかしながら,こうした処置を施すことが,結
る隆起した平滑な結節を形成するが,その大きさは通常
果的に潜在性の感染や再発の増加をもたらすとする報告
径 1 ∼ 2 cm である。腹部に発生することが多く,単発
もある 39)。インターフェロン(アルファもしくはオメガ)
性ないしは多発性である。自然に消退することは少ない
による治療を推奨する研究者もいるが,まだ十分な研究
ため,治療には外科的切除が必要となる。5 つの病変に
がなされているわけではない 。インターフェロン治療
おいて COPV 特異的 in situ hybridization が陰性を示し
を支持する報告も目にするが,その中で扱われている症
たことから,内反乳頭腫は何か特有の乳頭腫ウイルスに
例のほとんどは発生後 2 ∼ 3 カ月経ってから治療された
よって惹起されるものなのかもしれない 43)。しかしなが
ものであり,治療が奏効したのか自然の経過で治癒した
ら著者は,異なる内反乳頭腫から COPV と CPV3 の両方
のかについては明らかではない。著者は,インターフェ
を分離していることから,これらの病変の発生には複数
ロンはおそらく消退を早めることはできるが,単独で消
のタイプのウイルスが関与しているのではないかと考え
退させることはできないと考えている。ヒトでの治療に
ている。
40)
は imiquimod(Aldara ® )が選択される。この薬剤は
疣贅の発生については猫でも報告されているが稀であ
Toll 様受容体の合成リガンドで,インターフェロンのよ
り,ほとんどは免疫不全症が関与している 28 − 31)。唯一そ
うな抗ウイルス性サイトカインの分泌を誘導する 。ヒ
の特徴が明らかにされているネコ PV である FdPV が,
41)
Vol.4 No.2 2008
113(33)
特集 皮膚の上皮性腫瘍 2008(前編)
質的に大きく異なっている。すなわち,ヒトでは顔面お
よび四肢に発生し,過剰な色素病変がみられることは稀
である。いっぽう,犬で唯一報告され遺伝的素因も明ら
かにされているパグにおいて,当該病変が癌にまで進行
することはない。そのうえ,猫の局面がヒトのそれの類
縁疾患である可能性も示唆されている 44)。しかしながら
ヒトとは対照的に,罹患猫は比較的高齢で,遺伝的素因
は認められず,病変のほとんどは UV 光の関与が否定的
な有毛部に発生する。こうした違いがあるので,本疾患
に関して肉食動物とヒトとの間で早計な比較・検討を行
うことは慎まなければならない。
図5
パグの色素性局面。
犬の色素性局面は,扁平で多発性の濃性色素沈着病
変であり,腹部,四肢,顔面に多く発生する。こうした
病変がパグに好発すること(図 5)を最初に報告したの
は Van Rensburg および Briggs であり,このことは色素
これらの病変の 1 つから分離され,塩基配列が決定され
性局面の報告症例の 50 %以上がパグであることからも
ている。
確かである 25,26,35,45 − 52)。興味深いことに,我々は最近,
血縁関係のない 4 頭の本症罹患パグが同じ型の PV,す
猫のサルコイド(線維乳頭腫)
なわち CPV4 に感染していたことを明らかにした 26)。こ
のことは,パグが CPV4 に感染しやすいこと,パグは他
猫のサルコイドは稀な疾患であり,鼻,指,口唇,耳
介および尾に病巣を形成する。罹患猫は通常若齢であ
の犬種に比べて CPV4 感染に伴う臨床症状を発現しやす
いことなどを示唆している。
り,田園地帯で飼育されている屋外猫(典型例は牛との
もう 1 種類の PV,すなわち CPV3 も色素性局面を有
接触がある)に好発する傾向がある。病変は単発性であ
する犬の皮膚から分離された 25)。CPV3 と CPV4 はとも
り,径 2 cm 以内の硬い結節を形成する。それらは緩徐
に同じ属に分類されており,他のイヌ PV とは異なって
に成長し,時に浸潤性を示すこともある。組織学的に
いる。興味深いことに,こうした病変が癌にまで進行し
は,密に集簇した紡錘形細胞からなる,周囲組織との境
たとする報告はパグではみられない。現在のところ,こ
界が不明瞭な結節状病巣を真皮に形成する。被覆表皮は
れが宿主特異性によるものか(パグは CPV4 感染に対す
過形成性で,増生した上皮細胞が腫瘍組織内に「スパイ
る感受性が高いが,癌の発生に対しては抵抗性があるの
ク状」もしくは円柱状にくい込む。
か),CPV4 自体に癌の誘発性がないことによるものか
馬のサルコイドと同様,猫のサルコイドはおそらくウ
については不明である。いっぽう,癌の発生については
シ PV ないしは近縁の PV の感染によるものである。治
他の犬種で報告されてはいるが,これらの犬がすべて同
療の第一選択肢は外科的切除である。馬のサルコイドの
じウイルスに感染していたのか,あるいは癌がより発生
中には imiquimod による治療が奏効した例もあることか
しやすい犬種があるのかどうかは不明である。さらに,
ら,外科手術が不適応な場合には,この薬剤あるいは類
犬の色素性局面がどれくらいの頻度で悪性転化するのか
縁物質を用いることも考慮する必要がある。
についても明らかでない。
通常,確定診断には組織学的検査が必須である。組織
犬および猫の色素性局面ならびに
PV 関連性皮膚癌
学的には,波打ったように中等度に肥厚した表皮,角化
細胞内の多数のメラニン色素顆粒,有棘層内に集積した
ケラトヒアリン顆粒などが観察される。ウイルス性封入
犬および猫のPV はヒトのPV と同様,色素性局面,ウ
イルス性局面,扁平疣贅のような扁平病変を惹き起こ
す。犬にみられるこれらの皮膚病変は,ヒトの疣贅状表
体が見い出されることはめったになく,コイロサイトも
稀である。
もし本症の発生に免疫抑制が関わっていたとすると,
皮発育異常症に相当するものであるとする著者もいる 35)。
原因がコントロールされた場合には,時に消退すること
しかしながら,これらの病変に関して犬とヒトとでは本
もある。しかしながら,根本的な原因が解明されること
(34)114
Vol.4 No.2 2008
犬および猫のパピローマウイルス誘発性皮膚疾患
図6
猫のウイルス性局面の組織像。ケラチノサイトが腫脹
している。HE 染色。バー: 50μm
図7
猫のボーエン様皮内扁平上皮癌(左方の大型病変)と
2 つのウイルス性局面(右方の小型病変)。C. Mège の
厚意による。
はほとんどなく,新たな病変が次々と発生してくる。効
のサンプルからしばしば検出されている 37,38,56−60)。さら
果的な治療法については,いまだ報告されていない。著
に,弱毒化 COPV ワクチンを接種されたビーグルに,癌
者は,何頭かの犬に対して imiquimod あるいはインター
病変の形成が認められている 61)。それにもかかわらず,
フェロンによる治療を試みたが,成功しなかった。
PV がこれらの病変の発生にどのような役割を果たして
猫のウイルス性局面は,肉色∼暗色調に色素沈着した
いるかについては,議論が尽きないところである。いっ
丘疹性ないしは斑状病変であり,体表のすべての部位に
ぽう,もう 1 種類のイヌ PV,すなわち CPV2 は,免疫
発生し得る。それによって不快感を伴うことはなく,偶
機能が障害された犬における扁平上皮癌の発生と関連し
然発見されることが多い。組織学的検査では,多くの角
ており,これらの症例ではかなり重要な役割を果たして
化細胞の腫脹と萎縮あるいは腫大した核(それぞれコイ
いる可能性がある 27,33)。
ロサイト,明細胞)を有する,表皮の中等度∼重度肥厚
本章のはじめに記したように,扁平上皮癌のサンプル
が認められる(図 6)。時に核内封入体が観察され,細
から PV の核酸が検出されたからといって,必ずしも PV
胞質内偽封入体形成がしばしば認められる:これらはサ
がその原因になっているとは限らない。実際のところ,
イトケラチンフィブリルの濃縮物であることが Carny ら
潜在性あるいは日和見的な感染によって PCR 陽性とな
によって明らかにされた 。ウイルス性局面を有する猫
ることがある。原因を明らかにするためには,① PV が
に,ボーエン様上皮内癌(BISC)病変の合併を認める
数ある病変の中のすべてでなくてもほとんどに存在する
ことがある(図 7 :右側の 2 つが色素性局面であり,大
こと,②感染とその後に発生する癌との間に統計学的な
28)
型・灰色で過角化を伴っているのが BICS 病変である)。
関連性があること,③培養細胞においてそのウイルスが
さらには,同じ組織標本上に両者が見い出されることも
細胞転換誘発能を有すること,などを証明する必要があ
ある。これらの所見は,猫のウイルス性局面が BICS の
る。肉食動物の検索において,こうしたエビデンスがし
前駆病変であるとの仮説を支持している。さらに,免疫
っかり揃えられているとはいいがたい。
組織化学的に BICS がしばしば PV 抗原陽性を示すこと,
これらの病変サンプル内に PV 核酸が常時見い出される
まとめ
ことなどが示されている 36,53,54)。
BICS 病変はウイルス性局面より大型である;また,
最近の科学・技術の飛躍的な進歩にもかかわらず,肉
色素沈着と過角化を伴うことが多い。ある報告では,罹
食動物のパピローマウイルスについてはほとんど分かっ
患猫 12 頭中 3 頭において,当該病変が浸潤性の皮膚癌に
ていないといっても過言ではない。たとえば,PV 感染
まで進行したことが記されている 。猫のウイルス性局
と疣贅発生との関連性について報告されたのが何十年も
面と BICS に,imiquimod あるいはインターフェロンが
前であったにもかかわらず,今のところ有効な治療法は
効くとの報告もあるようだが,真偽のほどは定かでない。
ない。PV が皮膚や粘膜の癌発生に果たす役割について
PV の抗原あるいは核酸が,犬および猫の扁平上皮癌
しばしば仮説が立てられるが,確固たる証明はなされて
55)
Vol.4 No.2 2008
115(35)
特集 皮膚の上皮性腫瘍 2008(前編)
いない。おそらく肉食動物は多くの種類の PV に感染す
るであろうが,これまでに検出されているのは 5 型のみ
である。猫あるいは犬の中には,PV にオカルト感染し
たり,PV と共生したりしているものもいるであろうが,
その確認はなされていない。何より大切なのは,多くの
研究を展開することによって,これらの重要な病原因子
と宿主間の関係について,さらに理解を深めていくこと
である。
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