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「社会基盤施設に関連した事故に関する法律に基づく判例」について

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「社会基盤施設に関連した事故に関する法律に基づく判例」について
1.はじめに
「社会基盤施設に関連した事故に関する法律に基づく判例」について
・工学で考えられる設計や施工の問題の枠組み
相違
・法律で規定されている枠組み
社会基盤施設の安全性と技術者責任
(国家賠償法の瑕疵の視点から)
土木エンジニアとして違和感を覚えることがある。
牛島 栄
<設計基準> 例)道路橋
「道路法」→「道路構造令(政令)」→「道路構造令施行規則(省令)」
→「道路橋示方書(日本道路協会)」
の流れで具体的に定められている。
しかし,構造物の倒壊や損傷が生じて利用者(国民)が損害を受け
た場合には,道路法の適用によって議論されるのではなく,国家賠
償法2条が適用されることが多い。
1
1.はじめに
1.近年の社会情勢およびインフラの状況
<国家賠償法>
憲法17条「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,
法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めるこ
とができる。」に基づいて制定された。
国民の基本的人権や自由を国に対して保障するためのもの。
経済的制約のもとにある荷重で、
破壊することを許容する設計法
・外力や抵抗力の不確実性
・想定された構造物の性能
⇒国家賠償法に整合するのかは不確か。
・ある設計法に基づいて設計された社会基盤施設が破壊された場合
・維持管理を適切に行っているにも係わらず破壊されて,人的および
物的な被害が生じた場合
国家賠償法2条の条文
「道路,河川その他の公の営造物の設置又は管理に
瑕疵(かし)があったために他人に損害を生じたときは,
国又は公共団体は,これを賠償する責に任ずる」。
法の目的は,
「社会正義の実現(公平の実現や弱者保護)」
「社会秩序の維持(相反する利害の調整)」
などであるとされている。
・限界状態設計法
・信頼性解析による設計基準法
国家賠償法によって損害が保証されることになる。
「瑕疵」の定義(広辞苑)
→行為・物・権利などに
本来あるべき要件や性質
がかけていること
本稿では,社会基盤施設の安全性と技術者責任に関して整理する。
2
3
2.国家賠償法
2.国家賠償法
国家賠償法2条1項「公の営造物の設置・管理の瑕疵」
⇒「営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」
<設置> 設計の不備,材料の粗悪など,設計・
施工に不完全な点などの原始的な瑕疵
<管理> 造営物の設置後の維持,修繕などに
不完全な点がある場合などの後発的な瑕疵
国家賠償法1条では,その要件として以下のものが必要とされる。
①
②
③
④
⑤
⑥
当該行為の主体が,国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員であること
公務員の職務行為であること
当該職務行為に違法性がること
公務員に故意又は過失があること
被害者に損害が発生していること
公務員の行為と損害の間に因果関係が存在すること
国家賠償法2条が適用され,国または公共団体の責任が認められ
るためには,以下の要件が必要とされる。
①
②
③
④
<瑕疵に関する学説>
客観説では,瑕疵の判断は物的欠
「客観説」と「主観説」がある。 陥の有無ということになり、前述した
「客観説」:瑕疵とは,営造物(公物)が備える 「無過失責任」ということに合致する。
公の営造物であること
公の営造物の設置・管理に瑕疵があること
損害が発生していること
公の営造物の設置・管理の瑕疵と損害との間に因果関係がある
ここで,国家賠償法1条は過失が要件となっているが,国家賠償法2
条は過失が責任となっていないことが判る。
これを「無過失責任」と呼び,瑕疵として過失の存在を必要とせず,
より責任を負うものと思われる。これが瑕疵として過失の存在を必要
としないが,責任の範囲となることになる。
4
3.国家賠償法の法体系
すなわち,実際の判例では学説より
も幅広く瑕疵を認め,被害者救済の
精神に言及されている。
5
憲法§17 (国及び公共団体の賠償責任)
国家賠償法
[ 公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求請権 ]
[ 公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害の賠償責任、求償権 ]
[ 賠償責任者 ]
[ 民法の適用 ]
[ 他の法律の適用 ]
[ 相互補償主義 ]
公務員の
不法行為により
何人も
国
法律
の定める
ところにより
損害を
受けたとき
その賠償を
求めることができる
又は
公共団体
は
表-1 国家賠償法の法体系
§1条
§2条
§3条
§4条
§5条
§6条
しかし,実際の判例では,物的欠陥
が生じる前の人的行為による被害回
避可能性の有無も考慮している。
3.国家賠償法の法体系
国家賠償法の法体系を表-1に示し、1条から6条までを図-1か
ら図-6に示した
社会基盤施設と言えども,これからの公共工事縮減下における維持
管理には,その予算上多くの課題があり,適切に維持管理を行うこと
が困難な自体も想定される。
国
家
賠
償
法
べき性質または設備を欠くこと,すなわち,本来
の安全性に欠けている状態をいう。設置・管
理の瑕疵とは,客観的に,営造物の安全性の
欠如が,営造物に内在する物的瑕疵,または,
営造物自体を設置し管理する行為によるかど
うかによって決まるとされている。
「主観説」:瑕疵とは,公の営造物を安全良好
な状態に保つべき行為または不作為義務
を課されている管理者が,この作為または不
作為義務に違反したかどうかによって決まる
とされている。
に
§1 (公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求償権)
第1項
図-1
図-2
図-3
図-4
図-5
図-6
憲法§17(国及び公共団体の賠償責任)
国
「公権力」の
行使に当る
「公務員」
又は
公共団体
に
昭22.10.27
その
職務を行う
について
が
故意
又は
過失
刑法§95(公務執行妨害及び職務強要
違法に他人に
「損害」を
加えたとき
によって
国
これを
「賠償」する
責に任ずる
又は
公共団体
は
が
第2項
前項の場合
において
公務員
故意
又は
重大な過失
に
が
あった
ときは
国
その
公務員
又は
公共団体
が
対して
「求償権」
を有する
に
図-1 公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求請権
6
7
3.国家賠償法の法体系
3.国家賠償法の法体系
§3 (賠償責任者)
§2 (公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害の賠償責任、求償権)
第1項
憲法§17(国及び公共団体の賠償責任)
道路
設置
又は
公の
「営造物」
河川
管理
その他
の
の
「瑕疵」が
あったために
第1項
刑法§95(公務執行妨害及び職務強要
国
他人に「損害」
を生じたとき
に
公共団体
は
前二条の規定
これを
「賠償」する
責に任ずる
又は
によって
関
連
法
§1,§2
国
又は
公共団体
が
は
河川法§59(河川の管理に要する費用の負担)以下
海岸法§26(主務大臣の直轄工事に要する費用)
道路法§50(国道の管理に関する費用)
損害を「賠償する責」に
任ずる場合において
訴訟に対する
凡例の傾向
営造物 の設置
又は管理の 瑕疵
の「営造物」の場合
安全性
営造物が通常有すべき を欠いている
選任
公務員
の
安全性を欠いている
「三要件」が存在して
いるにもかかわらず
を
事故の回避措置
採らないとき
道路の
交通止等
①
当該営造物に
その 危険性
が存すること
②
設置管理者において
その 予見可能性
が存すること
監督
当る者
と
設置
③
設置管理者において
その 回避可能性
が存すること
公の
営造物
の
若しくは
管理
俸給、給与
その他
公務員
若しくは
に
費用
の
負担する者
とが
設置
公の
営造物
若しくは
管理
の
異なるとき
費用
の
を
は
費用を負担する者もまた
第2項
前項の場合
において
他に
国
損害の原因について
「責に任ずべき者」
があるときは
これに
対して
又は
その損害を賠償する責に任ずる
「求償権」
を有する
第2項
公共団体
は
前項の場合
において
損害を賠償
した者
その損害を賠償する
責任ある者に対して
内部関係
求償権
を有する
職員への賠償請求
は
図-2 公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害の賠償責任、求償権
8
3.国家賠償法の法体系
社会基盤施設が自然災害・耐久性の低下などにより損害を受ける。
損害の賠償の責任
については
又は
公共団体
前三条の規定
によるの外
民法の規定
による
それにより利用者に人的・物的被害を与えることが想定される場合、
・予見可能性や回避可能性などの技術的な安全性を考慮する
・社会基盤施設の使用を見合わせる措置などを取る
・社会基盤施設の管理者の不作為を無くす
・適切な管理運営を実施する
の
図-4 民法の適用
§5 (他の法律の適用)
国
損害の賠償の責任
について
又は
公共団体
民法以外の
他の法律
の
別段の定が
あるとき
に
その定める
ところによる
は
不幸にして,何らかの損害が生じた場合には,国家賠償法の法体
系の基に適切に損害賠償がなされることを十分に理解することが重
要である。
図-5 他の法律の適用
§6 (相互保証主義)
外国人が被害者
である場合には
この法律
9
3.国家賠償法の法体系
§4 (民法の適用)
国
で
図-3 賠償責任者
相互の保証が
あるときに限り
は
これ
適用する
を
図-6 相互補償主義
10
11
管理瑕疵・契約・保険の関係
主な道路に関する訴訟と判決
表―2主な道路に関する訴訟と判決
番号
地方公共団体が管理する橋梁の通行規制の状況(平成20年と23年)
<平成23年4月時点>
橋 梁 数
規制区分
通行止め
通行規制
橋長区分
都道府県
管理道路
市区町村
管理道路
(政令市含む)
橋 梁 数
計
橋長 2m以上
4
139
143
橋長15m以上
4
117
121
橋長 2m以上
94
740
834
橋長15m以上
80
600
680
規制区分
通行止め
通行規制
橋長区分
都道府県
管理道路
市区町村
管理道路
(政令市含む)
計
橋長 2m以上
17
199
216
橋長15m以上
16
156
172
橋長 2m以上
133
1,525
1,658
橋長15m以上
115
1,014
1,129
※通行規制には、損傷・劣化による規制の他、古い設計等による重量規制等も含む。
※岩手・宮城・福島県は平成22年4月データ(東日本大震災と福島第一原子力発電所事故に伴うデータ収集が出来ない)。
月日
1964・12・03
瑕疵の有無
高知落石訴訟第一審判判決
有り
2
高知落石訴訟控訴審判決
1967・05・12
有り
3
奈良県道工事中車両転落事件第一審判決
1970・03・16
無し
4
函館バス海中転落事件判決
1970・03・27
有り
5
和歌山国道170号線放置車両追突事件第一審判決
1970・06・27
無し
6
高知落石訴訟上告審判決
1970・08・20
有り
7
奈良県同工事中車両転落事件控訴審判決
1971・05・31
無し
8
函館バス海中転落事件控訴審判決
1972・02・18
有り
9
和歌山国道170号線放置車両追突事件控訴審判決
1972・03・28
有り(過失相殺7・5割)
10
飛騨川バス転落事故第一審判決
1973・03・28
有り(不可抗力4割)
11
飛騨川バス転落事故控訴審判決
1974・11・20
有り
12
奈良県道工事中車両転落事件上告審判決
1975・07・25
無し
13
和歌山国道170号放置車両追突事件上告審判決
1975・06・26
有り(過失相殺7.5割)
14
地附山地滑り訴訟
1997・06・27
有り
15
豊浜トンネル国家賠償請求訴訟判決
2001・03・29
有り
管理瑕疵などに対する責任ルールの比較(公務員と民間)
表-1 地方公共団体が管理する橋梁の通行規制状況の現況(H23.4現在)
<平成20年4月時点>
件名
1
橋梁が落橋するまでの4つのケース
ケースの比較(条件・点検・損表評価・補修の実施状況)
被害者の落ち度と予見可能性から起訴の可能性を考える。
4.おわりに
これからの予算縮減下の維持管理に対して,社会基盤施設の管理
者とされる公的技術者(インハウスエンジニア)は,社会基盤施設お
よび工事保安施設のチェックとその記録を基に問題発生を早期に予
見して回避措置を採る,復旧手段を準備しておくことが,事故の発生
を未然に防ぐばかりではなく,法的責任を免責されるためにも必要で
あるものと考えられる。
技術者の社会基盤施設の安全性に関する認識と、法的な責任の
隔たりに関しても技術者の倫理観のみならず、何らかの整理を行うこ
とが重要である。
19
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