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主題に対する思いや考えを伝え合う授業

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主題に対する思いや考えを伝え合う授業
美術科(中学校第2学年)
主題に対する思いや考えを伝え合う授業
本事例の言語活動のポイント
①
発想や構想の手がかりとなる観点を示すことで、主題を考えさせる。
②
作品を作る前に自分の思いや考えを簡単な文章で表現させることで、自分の作品に対
するイメージをより明確にもたせる。
③
製作途中において、互いの作品のよさや工夫を話し合う活動を取り入れることで、そ
こから得られた自分の課題を作品づくりに生かすようにさせる。
単元名
想像の世界への飛翔
単元目標
【美術への関心・意欲・態度】
〇
心の世界を表現することに関心をもち、主体的に主題を生み出そうとする。
〇
形や色彩などの特徴や印象などから、作者の心情や意図、創造的な表現の工夫に関
心をもち、主体的に感じ取ろうとする。
【発想や構想の能力】
夢や想像、感情などの心の世界をイメージ化して、主題を生み出すことができる。
【創造的な技能】
材料や用具の特性を生かし、表したいイメージをもちながら自分の表現意図に合う表
現方法を工夫して、創造的に表現することができる。
【鑑賞の能力】
形や色彩などの特徴や印象などから、全体の感じ、本質的なよさや美しさ、作者の想
像の世界と表現の工夫などを感じ取り、自分の価値をもって味わうことができる。
単元を構想するに当たって
多くの生徒は「自分自身に納得のいく作品を作りたい」と思っている。しかし、実際の造形
活動になると、自己表現や表現技法に自信がもてないため、自分の思いや考えを「思いどおり
に形として描くことができない」「どのような雰囲気で彩色を進めればよいかが分からない」
といった悩みをもつ生徒は多い。また、作品を最後まで完成させることができなかった経験
をもつ生徒もいる。これは、作品づくりに対する思いとは異なり、主題に対して、自分の思
いや考えを深めながらアイデアを練るといった発想や構想の能力が未熟なことや、作品を完
成させるまでの見通しをもち、計画的に作品づくりをしていないことが原因であると考えら
れる。さらに、これまでの造形活動の中で、自分とは異なる造形表現に出合ったとき、その
造形表現のよさや工夫を感じ取り、自らの作品に取り入れようとする経験が不足しているか
らである。
- 122 -
そこで、「主題に対する自らの思いや考えを膨らませ、進んで造形活動に取り組む生徒」「友
達の造形表現のよさや工夫を互いに認めて、自らの課題を見付け出す生徒」を目指し、本単元
に以下の手立てを取り入れて、言語活動の充実を図る。
【言語活動の充実を図る手立て】
①ワークシートの活用 ②意見交換・対話 ③造形的な用語の整理 ④鑑賞活動の工夫
指導計画(全 12 時間)
※
「手立て」の番号は「言語活動の充実を図る手立て」の①~④の番号を表す。
授業時間
第1時
第2・3時
手立て
④
○現実とは違った想像の世界の表現を味わう。
① ② 〇どのような想像の世界を表現するか、思いや考えを言葉で記述する。
①
第4・5時
○言葉から連想される想像の世界をアイデアスケッチとして描く。
○モダンテクニックの体験活動を行う。
②
第6時
第7~11時
学 習 活 動
〇表現の効果を高めるための意見交換を行う。
○活動計画表を作成する。
③
〇造形的な用語の整理を行う。
②
〇主題を効果的に表現するために教師と対話する。
② ④ 〇中間鑑賞を通して、自らの課題を見付ける。
第12時
④
〇完成作品について鑑賞を行う。
指導の実際
1
想像画の魅力とはなんだろう(第1時)
マルク・シャガールが描いた「日曜日」の作品鑑賞を行い、シャガールが描く題材の特徴
として、故郷の風景、過去の実話や伝説、夢などが発想の基になっていることを知らせた。
生徒は「優しい雰囲気」「時間が止まっているようだ」「楽しそう」「この時は二人ともこの世
にいない」などの感想をもち、個々の価値観に沿って、作品の魅力を味わっていた。また、
先輩の想像画作品を提示し、作品に込められた心情(作品解説)やタイトルを知らせると、
作品から伝わる作者の思いに共感し、画家の作品とは異なる作風を鑑賞することができた。
2
心の中をのぞいてみよう(第2・3時)
想像画は、非現実的な場面をイメージしながら具体物を描画したり彩色したりするため、
イメージづくりの段階でつまずきやすい題材である。そこで、「心の中の素直な気持ちか
らイメージする」「夢や思い出からイメ-ジする」「視点を変えたり、位置や大きさを変
化させたりしてイメージする」「物語・詩・音楽からイメ-ジする」の四つの観点を「心の
扉」と題して、個々の主題を考えさせる手がかりにさせた。
次に、自己の内面や心情に基づき、主題の中心となる具体物を考えさせ、どのような想
像の世界を表現するか、その思いや考えを簡単な文章でまとめさせた。そして、文章で用
いられている言葉から連想される想像の世界をワークシートに、アイデアスケッチとして
描かせた(資料1)。
- 123 -
ワークシートを用いて、自分の思いや考えを言葉で表
【資料1
アイデアスケッチ】
現させる方法は、主題を考えさせる際にとても役立った
ようであり、多くの生徒がスムーズにアイデアスケッチ
を描くことができた。これにより生徒は、自分の思いや
考えを言葉で整理することで、自己表現に対する見通し
をもち、本制作への造形活動につなげることができた。
自己表現で自信のもてない生徒Aは、アイデアスケッチ
を描く段階で悩んでいた。そこで生徒Aには、読書が好
きなこともあり、「心の扉」から「物語・詩・音楽からイ
メ-ジする」という観点を勧め、愛読する本の中から印
象に残る一場面を言葉で記述させ、それをヒントにアイ
デアスケッチを描くようアドバイスした。
3
モダンテクニックを楽しもう(第4・5時)
モダンテクニックは、生徒にとって初めて知る表現技法ばかりである。そこで、名称と
原理を説明した後、効果や特徴を捉えさせるために、生徒にさまざまな技法を体験させた。
生徒は、偶然にできる模様のおもしろさに興味を示し、どうすれば自分が思い描く効果を
表現できるかなど、自発的に意見交換を行っていた。モ
ダンテクニックを体験した後の生徒の感想には、新しい
表現技法を知り、これまでの絵画作品とは異なる作風に
取り組もうとする記述が多く見られた。生徒Aは、雲の
やわらかさを表現するため、マーブリングを使ってみた
いと記述していた。また、表現技能に自信のもてない生
徒Bは、モダンテクニックが特別な技術を必要とせず、
自分でも簡単にできる表現技法であることを体感し、自
らの作品に取り入れたいと考えていた(資料2)。この
ように、表現技法を体験させたことは、自己表現や表現
技能の面で不安を抱く生徒にとっても、主題のイメージ
【資料2
体験活動の感想】
<生徒A>
マーブリングを使って、雲のやわらか
さを表現したいと思いました。
<生徒B>
作業手順が分かりやすかった。
どのモダ
ンテクニックも難しくないので、いろい
ろ使ってみたいと思った。特に、スパッ
タリングがおもしろそうなので早くやっ
てみたい。
を膨らませるよいきっかけとなった。
4
自分らしい色調で彩色を進めよう(第7~11 時)
水彩絵の具による彩色活動を行うに当たっては、「混色」「重色」「にじみ・ぼかし」「タッチ」
などの彩色技法を活用することで、「透明感」「重厚感」「動きや流れ」「質感」などの表現効果
が生み出されることを確認した。また、これらの造形的な用語の整理を行い、その用語を
基に、参考作品の中で意図的に活用されている彩色技法を見付けさせ、その効果を捉えさ
せることで制作の参考にさせた。
実際の彩色活動では、教師側から造形的な用語を意図的に使い、個々の進度に合わせた
助言を行った。生徒自身も自己表現したいことを確認しながら教師側の問いかけに対して、
造形的な用語を使って自分の思いや考えを伝えようとしていた。
5
鑑賞活動について(第9時・第 12 時)
鑑賞活動を行うに当たっては、製作途中で行う「中間鑑賞」と、作品を完成させてから
行う「作品鑑賞」を設定した。漠然と作品を鑑賞することがないように、特に中間鑑賞で
は友達の造形表現のよさや工夫を自己の造形表現に生かすことができるよう、鑑賞時のル
- 124 -
ールとして下記の4点を生徒に確認した。
ア 「上手・下手」という見方をしないこと
イ 自分とは異なる表現方法を見付け、友達はどのように造形表現しているかを確認すること
ウ 自分の作品で苦労した部分を、友達はどのように造形表現しているかを確認すること
エ 自分のイメージに合った造形表現の作品については、作者(友達)に声をかけて、制作を進め
る上でのポイントについて確認すること
中間鑑賞では、生徒は鑑賞のルールに沿って、制作上の悩みを解決する方法や自己表現
の構想を練るためのヒントを、友達の作品から
見付け出していた。例えば、表現技能に自信の
【資料3
生徒Bの中間鑑賞プリント】
もてない生徒Bは、全員の作品を一とおり鑑賞
した後、鑑賞のルールの「エ」に基づき、 自分
と同じ表現技法を取り入れている友達に声を
かけ、「スパッタリングでのぼかしの変化を自
然に表現するためには、どのようにすればよい
か」と質問をしていた。質問を受けた友達は、
生徒Bが実際に困っている箇所に手を差し延
べ、スパッタリングの手助けをしていた。生徒Bは、友達から教えてもらったスパッタリ
ングの作業ポイントを、資料3のようにまとめていた。その後の造形活動では、ブラシの
動かし方などを工夫して、自己表現に合った表現効果で作品を完成させた。また、生徒に
とって造形的な用語は、作品を鑑賞する視点ともなり、友達に自分の表現意図を知らせる
ためのキーワードとなっていた。「これ、にじみ・ぼかしだよね。どうやって描いたの」「マ
ーブリングの模様がきれい」などといった、
用語を用いた交流が自然
に生まれる中で、互いの造形表現のよさや工夫を認め合い、表現技
能を高め合うよいきっかけとなっていた。
作品鑑賞では、自分の作品はどのような想像の世界を表現したい
と考えたのかを、作品を提示しながら説明させた。発表者は緊張し
た様子であったが、これまでにワークシートに記述した自らの思い
や考えを基に、自己表現での工夫した点や中間鑑賞で得ることので
きた課題をどのように解決したかなどを交えながら、分かりやすく
伝えていた。
【生徒の完成作品例】
考
○
察
ワークシートを活用して、主題に対する自らの思いや考えを言葉で表現させたことによ
り、生徒は言葉のもつイメージからも、自ら表現しようとする想像の世界の具現化を図る
ことができた。
○
造形的な用語を整理したり、その意味を理解させたりすることで、生徒に鑑賞活動を行
う上での共通の視点を与えることができ、友達の自己表現のよさや工夫に対する理解を促
すとともに、作品の意図を相手に分かりやすく伝えることができた。
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