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睡眠時無呼吸症候群(SAS)

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)
No.19
在宅医療インフォメーション
広がる睡眠検診
睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)の特徴は、人口の1∼2%いるとも言
われる潜在的患者数の多さと、適切な治療が施されないままでいると後には、循環器・脳血管障害
などの重大な疾患に陥ることがわかっている。一方、この疾病の自覚症状としては、いびきや日中
の傾眠といった乏しいものでしかない。要するに放置されやすいこの疾病は、個人の健康上の損失
だけでなく、居眠り事故など社会的にも与える損失は大きい。 本号では、SASが招くリスクに目
を向け、各々の分野からSAS企業検診の現状と必要性について紹介する。
睡眠障害が企業経営に与える影響と
その対策について
元 JRバス関東株式会社 会長
山村 陽一
1. 追突事故の原因究明は不十分
∼睡眠障害を疑ってもよいはずなのに∼
高速道路で発生した追突事故の報道を見て、2人
の知人からメールが入った。
Iさん 「先の車を見ていて、直前の車の急停止に気
づくのが遅れた」
と事故を起こした運転手は
言っているが、飲酒運転じゃないかしら。
K氏 「ボーとしていて、前の車の停車発見が遅れ
た」
との報道だが、居眠り運転で、ことによる
と運転手はSAS(睡眠時無呼吸症候群)
かも
しれない。
前者は、飲酒運転防止対策に取り組んでいる活動
家。後者は、運輸業界へSAS検診の重要性を強く訴
えている人だ。
私 「高速バス運転手は、急停車を防ぐため、か
なり先の車の流れをよく見て運転する癖が
あり、直前の車が急停車すれば、居眠りで
なくても追突の可能性はある。もっとも直前
の車の動向に気づくのが遅れたり、ボーとし
たりしたのは何故か、原因の究明は必要で
すね」
同じ事故でも立場が違えば、見方が違ってくる。
報道は追突事故を起こした運転手の責任を追及し
て非難するが、原因は「わき見」
「前方不注意」など
本人の供述にもとづく警察発表の域をでない。Iさ
んは一歩踏み込んで、気づくのが遅れた原因を日
頃の活動から「飲酒」と考えたのだろう。K氏も、
ボーとした状態を居眠りとみて「SASの影響」と推
定したのであろう。もし、ひどい酒酔い状態なら飲
酒運転とされたはずだ。酒臭もなく前日の酒が軽
1
睡眠障害が企業経営に与える影響とその対策について
く残っている程度なら法的には酒気帯び運転には
ならない。しかし微量のアルコール摂取でも、認
知力低下や注意力不足がおこり、ブレーキ操作は
遅れるので、酒気帯び運転の可能性は十分ありえ
る。
「ボーとした」との自覚は、短時間の眠りによく
ある表現だ。K氏のようにSASも疑える。追突の
直接原因はブレーキ操作の遅れであり、その原因
に飲酒や睡眠障害を想定しても無理がない。追突
事故惹起者の健康状態を丁寧に調べれば、根本原
因が明確になるはずだ。しかし、現状では、事故
調査は、責任を追及することに重点がおかれ、表
面的な原因(「前方不注意」など過失状態を示すも
の)を調査するだけに終っている。本人が供述し
た場合を除き睡眠障害まで言及する報道は、見当
たらない。
加害者の会社関係者は、死傷者が0で、世間の注
目を集める類の事故でなく、単純な本人のうっかり
ミスの事故ならば、内心ホッとするのが本音。多く
の追突事故は、原因究明が不十分なまま、運転手
の個人的な過失責任が問われて、処分が確定すれ
ば一件落着だ。再発防止策は追突防止の注意喚起
が中心で、進んでいる企業でも危険予知訓練など
正常者対策にとどまる。追突事故を、昨今の社会
報道から飲酒運転と疑っても「居眠り⇒SAS対策」
と頭に浮かべる経営者は皆無だろう。
2. 重大事故発生は経営の危機
高速道路上の追突事故は、大惨事となりやすく経
営的な危機を呼ぶ恐れがあり、多くの企業が追突
事故防止の標語は高くかかげている。だが対策は
旧態依然たるプロ意識高揚、注意力喚起に頼りが
ちで、事故の根本原因を断つ具体的対策が不十分
だ。実際に発生した重大な事件報道をトレースして
みても、被害の大きさやその惨状は大きく報道され、
事故会社の安全管理の不備と責任を問われるが、
原因究明は専門家にまかされ、解明まで時間のか
かることもあって不明確なことが多い。とくに事故
を起こした運転手が死亡している場合は、推定的
な原因が論議されるだけで、原因究明がうやむや
になる傾向にある。事故会社は、事故再発防止対
策や事故後の危機管理について熱心に検討する
が、事故原因は組織上の欠陥よりも特定個人の問
題としがちだ。会社に不備があっても恥ずべき失
敗は公表したくないのが人情で、業界の横への広
がりは期待できない。関係者は重大事件の再発防
止策を事故から学べないことが多い。
このような中で、2008年1月に発生した庄内交通
の高速バストンネル内停車事件は、原因が社内の精
密検査で「運転手はSAS」と判明。乗客の機転をき
かせた対応がなければ、大惨事をまぬがれなかっ
ただろう。これが報告されたのは、画期的なことだ。
SASとの調査結果を踏まえて、東北運輸局は管内
の事業者へ健康管理対策を徹底するように指示し
た。これを契機に、再度、SAS対策が全国の運輸
業界に広まってほしいものである。
∼だが横への広がりは期待できない∼
死傷者の多数でる重大な追突事故が発生すると
大変だ。直接の事故対策(緊急連絡体制の発動、
事故対策本部の設置、事故現場への急行、救援活
動、緊急輸送手配、事故復旧など)被害者への対
応(入院看護、お見舞い、葬儀、補償、損害賠償)
のほかに、監督官庁への報告、マスコミ対応、再発
防止対策の策定と現場指導、責任者の処分など全
社をあげた一連の事故処理業務が発生する。トッ
プ以下全役員総動員の体制を組み、時間におわれ
た会議や業務指示、緊急作業の連続になる。日常
的な業務はこなせるものの、大きな企業であっても
新しい事業の展開や改善改革業務などは数ヶ月ス
トップする。諸官庁の許認可もでなくなり、重大な
法令違反があれば営業停止も命じられる。その結
果、会社の存続すら困難になる場合も生じる。例
えば、東名高速道路で酒酔い運転の大型トラック
が乗用車へ追突・幼児2名死亡という事件を起こし
た高知県の運送会社は、その後、役員の飲酒運転
事件も重なり、廃業に追い込まれ、現在は存在し
ない。
2
3. 睡眠障害者が事故を起こしていたら?
∼健全な労働力の確保を考えたい∼
1つの事故で会社が破綻するとなれば、防止は危
機管理上の重要課題だ。多くの会社が、事故防止
を経営方針にかかげている。しかし真に有効な対
策がとられているかは疑問だ。例えば追突事故の
原因を「わき見」
「うっかり」
「居眠り」とし、対策が
意識高揚・注意喚起にとどまっているからだ。プロ
運転手は追突が自分の命にかかわることを十分承
知している。それなのに、なぜ「わき見」
「うっかり」
「居眠り」をするのか、根本原因を明確に把握する
必要がある。
「過重労働の法令違反」がある場合は
別だが、勤務体制に不備がなければ、
「居眠り」は
単に個人の不注意とされてきたのである。
会社は、安全上、社員が健全な状態で仕事につ
くのを確認する義務があり、本来は「居眠り」の原
因を追究して、もし病気があれば治療へ導くべきで
ある。それが企業を守る大前提のはず。それなの
に、何故、睡眠障害対策が行われないのか。
その理由は、
① SASという病気が正確に知られていないこと
② 運転業務に毎日従事している者には、例外的
な病気と考えられてきたこと
③ 健康問題、とくに生活習慣にかかわる事柄は
個人の責任とされてきたこと
などが考えられる。また、SAS対策に力をいれると
公表すれば、何も知らない利用者から運転手に睡
眠障害患者が多いのかと疑われる恐れもある。安
全が売物の企業は、信頼第一を考えると深刻な病
気対策を公然と採用しにくい。これは、メンタルヘ
ルス対策やアルコール依存対策も同様である。
多くの人命をあずかる企業は、運転に影響する
各種疾病を、検査・スクリーニングして、健全な労
働力により輸送という商品提供する、いわば「輸送
品質保証検査の確立」を利用者へ、きちんと説明す
べきである。根性論的対策でなく、科学的安全対
策が重要なことを理解していただく努力が大切な
のだ。
飲酒運転常習者に多量飲酒者が多いことが判明
し、飲酒運転防止策としてアルコール依存症予防対
策が注目されはじめた。長年にわたる啓蒙活動に
加え、社会的キャンペインの強化や厳罰化しても再
発する飲酒運転の事故分析、免許停止処分者調査
が寄与している。睡眠障害についても、追突や接
触事故の徹底的な分析、免停処分者を対象に実態
調査などを行い、統計的なデータの整備が必要だ
ろう。
4. モラルから科学へ
∼プロ意識や根性で居眠りは防げない∼
運転業務を安全に遂行するため、出庫前の点呼
で、運行管理者は運転手の健康状態をチェックする
ことが法律で義務付けられており、もし病気などで
安全運行が疑わしい場合は、運転させてはならな
いと定められている。病気を承知で運転させ、重
大な事故を起こせば、点呼執行者は勿論、運行管
理責任のトップ、すなわち社長も罪を問われる。
社員が健康な状態で業務につくことをきちんと確
認するうえで、点呼はその水際チェックにすぎない。
安全対策は、社員が、そもそも生理的、心理的、社
会的に健全であることを前提に組み立てられてい
る。事故の原因究明も、事故防止策も、まず病気
の有無を問題にするのが、科学的態度・方法だろ
う。しかし、点呼後、運転したのは健常だからとの
思い込みから、事故発生は気持ちのゆるみ、怠慢
が原因と考え、事故再発防止はプロ意識の高揚・
モラルの問題として対処してきたのが現実。原点に
もどり、一定の人間集団であれば、必ず一定の割
合で病気は発生すると考え、予防対策、早期発見、
早期治療を講じ科学的な事故防止対策を樹立した
いものだ。
単なる「睡眠をよくとれ」という指導には落とし穴
がある。運輸業に多い寝酒の習慣が多量飲酒へ、
そしてSASや依存症へも。
「酒や薬に頼らない入眠」
指導も必要だ。
5. 事故をきっかけにした装置導入の不幸
∼自白強要機器から健康支援機器へ∼
SAS予防対策、早期発見対策については、新幹
線の居眠り運転事件がきっかけに睡眠ポリグラフ
検査装置を導入する企業が増えた。しかし、SAS
患者を一通り発見し、それほど多くないとみた経営
者や担当者は、急速に関心を低下させた。新しい
患者が発生する可能性があるのに、ほとんど使わ
れず、中にはほこりをかぶっている装置もあるとか。
装置を居眠り運転危険者の排除用と位置づけたこ
とが、利用促進をさまたげている。
⇒ 注 意 喚 起 ⇒ プ ロ 意 識 教 育 ⇒ 根性鍛錬(従来の会社の対策)
⇒ 居眠り防 止 ⇒ 道 路 標 示 ⇒ 道路凸凹舗装(道路行政の対策)
追突事故 ⇒ 居眠り
⇒健 康 診 断 ⇒ SASまたは依存症 ⇒ 専門的治療(第 3の対策)
⇒健 康 診 断 ⇒ 正常の場合は勤務実態に即した睡眠方法指導
3
睡眠障害が企業経営に与える影響とその対策について
日本人の3人に1人が寝酒の習慣をもつといわれ、
とくに運輸業や警備業では、寝酒の習慣⇒多量飲
酒 ⇒依存症になるケースが多くみられる。アルコ
ール検知器を一番初めに導入したバス業界では、
近年、検知器の使用をごまかしたり、すりぬけたり、
検知された者をかばったりする事件が起きている。
検知器が節度ある飲酒習慣へ戻す健康支援機器と
して使われるべきだったのに、酒気帯び取り締まり
用機器となったためにおきた副作用だ。
同様に、睡眠ポリグラフ検査装置も、単にSAS発
見用検査装置と位置づけるのでなく、睡眠の良し
悪しを示す健康支援機器として広く活用したいも
のだ。良い睡眠は安全の原点。定期的に、睡眠状
態をチェックするのは運転手にとって強い味方の検
査のはずである。
6. 現代の悲劇は、技術進歩に遅れた生活習慣・文化
∼未来へ向けて2つの方向∼
われわれの小学生時代、夏休み日記の標語は
「早寝、早起き、良い子の生活」だった。農耕生活
が中心の社会では「早寝、早起き」が良好な睡眠を
保証し、健康を約束してくれた。現代生活では、そ
れができない人達が増えている。先進諸国では人
口の3人に1人が睡眠上の悩みをもつという報告が
あるほど。仕事が深夜に及ぶので本人も家族も早
寝ができないこと、不規則勤務による入眠困難、騒
音や照明による安眠妨害など、さまざまな原因があ
る。24時間フル活動する企業も増えており、世界
が相手の企業活動では、夜間仕事が不可欠だ。睡
眠も生活習慣も仕事に合わせれば、早寝、早起き
4
と正反対にしなければならない。
「朝眠り、夕方起
きる生活」でも十分に良好な睡眠がとれる方法、不
規則な時間でも入眠しやすくする工夫をしなけれ
ば仕事が円滑にできない社会になったのだ。
「早寝、
早起き、良い子の生活」に代わる24時間活動社会
に応しい眠りの取り方の標語が必要だ。赤ん坊の
時代は、分割睡眠。それが親の都合に合わされて
睡眠パターンが変わると考えると、遅くまで起きて
いる幼児が増えてきているのは、この方向を示し
ているのかもしれない。生体リズムも「早寝、早起
き型」
で育った人間のデータからの結論だとしたら、
変えることも可能かも。専門家の意見をお聞きし
たい。
ただし、現代は、地球温暖化防止を踏まえた社
会的活動が求められている。太陽エネルギーを直
接活用できる日の出から日没までの「早寝・早起き・
良い子の生活」は温暖化防止には望ましいライフス
タイル。1万年の農耕生活でわれわれの生理にもな
じんでいる。将来、この標語が「省エネと生体リズ
ムに合った生活」と再び採用されるかもしれない。
現代の多くの課題は技術進歩と生活習慣のギャ
ップから生じている。人類は、次々に課題を克服し
て文明を発達させてきた。歴史を逆転できないと
すれば、ギャップをなくす工夫、技術進歩に合わせ
て生活・文化を創造的に変えることが大切である。
24時間活動社会で、より良い睡眠をいかに確保
するかは、現代日本で、もっとも急がれる課題だ。
国民の睡眠状態の良し悪しを全国的に調べ、睡眠
障害問題の原因究明をはかり、良好な睡眠をとる
方法や制度を検討し、国家レベルで対策を構築す
べきである。メタボリックシンドローム対策のような
国家的なプロジェクトが望まれる。
広がる睡眠検診
―睡眠衛生の観点から―
東邦大学医学部看護学科 教授
尾f 章子
近年の疫学調査によれば、一般成人の4∼5人に1人
が睡眠に関する何らかの問題を抱えていることが報告さ
れている1)。不眠の原因には、加齢など生理的変化によ
るもの、身体疾患や精神疾患によるもの、それらの疾患
に対する治療の有害事象によるもの、交代勤務や進学・
就職・退職、
育児や介護など生活スタイルに関連するもの、
食事・運動・嗜好品など生活習慣に関連するもの、ストレ
スや不安などの心理的要因、寝室・寝床の環境によるも
のなどがあり、複数の要因が関与していることが多い。
睡眠衛生(sleep hygiene)
は、科学的根拠に基づい
た睡眠に関する正しい知識を提供し、睡眠を妨げる
誤った生活習慣や行動を修正したり、環境を整えるこ
とにより、睡眠の量・質を向上させることを目的とする
ものである。ここでは睡眠に関する最新の研究成果に
基づき、睡眠に関する指導のポイントについて述べる。
就床時刻にこだわらない、朝の光で体内時
計をスイッチオン、眠たくなってから床につく
・・・・・・・・・・・・
誰もが「毎晩同じ時刻に床に就いて、規則正しい
生活を送りましょう」
と親や教師に言われたことがあ
るだろう。しかし、スムーズに入眠するためには、毎
朝同じ時刻に起床し、太陽光を浴びることが重要で
あることが明らかになってきた。太陽光の情報が視
床下部にある体内時計に伝わり、
「今が朝」
と体内時
計の時刻合わせが行われると、およそ14∼16時間後
に自然な眠気が出現する。その日の眠気に応じ、眠
くなってから床に就くよう指導する。就床時刻はあく
までも目安であり、これにこだわらないほうがよい。
眠る目的以外で床に入らない、およそ30
分以上入眠できなかったら床を離れる
寝つきの悪さは最もよくみられる不眠症状である。心
配ごとや悩みなどによるもので、通常これらの原因が解
決されると寝つきの悪さは解消される。ところが、床の
中で眠れないという辛い体験を重ねると、床に就くとい
ままでの苦痛の記憶がよみがえり、今夜もまた眠れない
のではないかという心配から眠ろうとすればするほどか
えって目がさめてしまう、という悪循環に陥りやすくなる。
まず、眠ることと性生活以外に寝室を使用しない
よう指導する。床の中でテレビを見たり、物を食べた
りしないこと、いやなことがあったからという理由で
床に入らないよう指導する。次に、およそ30分以上
眠れなかったら床から離れ、自分なりのリラックス法
を実践して眠気を感じてから再度床に入るよう指導
する。ただし、翌朝はいつもと同じ時刻に起床して
体内時計の時刻合わせをすることが重要である。
休日も起床時刻を一定に
休日も平日と同じ時刻に起床し、朝の光を浴びること
が望ましい。休日、朝遅くまで床の中で過ごすと、朝の光
を浴びる時刻が遅れ、その分体内時計が遅れてしまうの
で、その晩はさらに寝つきが遅くなってしまう。平日の睡眠
不足があり、週末に長く眠る必要がある場合には、いっ
たん起きて朝の光を浴びて、体内時計の時刻合わせを
してから、改めて床に入り、睡眠不足を解消するとよい。
夕食後にカフェインを含む飲み物を避ける
カフェインはアデノシンA2A受容体に結合し、アデノシ
ンの働きを阻害することにより覚醒効果を発揮する。
日常的に摂取されているコーヒー、紅茶、緑茶、コー
ラ、健康ドリンク、チョコレート、ココアなどに含まれてい
る。カフェインの覚醒作用は摂取後30分後くらいして
から出現し、4∼5時間続く。寝つきがよくない場合は
就床前4時間の摂取を避ける。
就床直前に熱い風呂に入らない
就床直前に42℃以上の熱い風呂に入ると寝つきが
妨げられる。熱い湯が、せっかく眠りの準備をし始め
た身体を目覚めさせてしまうためである。交感神経
系の活動が高まり、血圧が上がると同時に覚醒作用
をもたらす。39∼40℃程度のぬるめの湯であれば、
短い時間の入浴は寝つきをよくする方向に作用する。
睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
日本では、不眠への対処にアルコールを使用している
人が男性で47.0%、女性で24.5%と報告されており、諸
外国と比べ日本は最も多い2)。一方、不眠で医療機関
を受診する人は、諸外国中最低である。睡眠薬代わり
のアルコール使用は、寝つきだけはよくなるものの、睡眠
が浅くなり中途覚醒が増えてしまい、結果として不十分
5
広がる睡眠検診 ―睡眠衛生の観点から―
な睡眠となる。さらに、連用すると耐性が生じ、同じ量で
は効かなくなる。このため入眠目的のアルコールが次第
に増えてしまう。睡眠薬代わりにアルコールを使用するこ
とは決してしないよう指導する。現在、医療機関で処方
される睡眠薬は、アルコールに比べ、依存性もなく、大量
に服用しても害はほとんどなく、きわめて安全な薬である。
睡眠時間にこだわらない
「昨夜は○時間眠れなかったから、今日は調子がよ
くない」
という会話を耳にすることがある。
「睡眠は8時間
必要」
「長く寝る方が健康によい」
と思っている人は予想
以上に多い。必要な正味の睡眠時間は年齢によって異
なり、高齢になるほど睡眠時間は短くなる
(図1)3)。米国
および日本の大規模疫学調査では7時間睡眠の人が男
女とも最も死亡の危険度が低いことが報告されている
(図2)4-5)。必要な睡眠時間には個人差があり、日中に
起きていなくてはならない場面で居眠りをしてしまうような
強い眠気がなければ概ね足りていると判断してよい。
必要以上に床の中で過ごさない
必要以上に床の中で長く過ごすと、かえって睡眠
は浅くなり、中途覚醒が増加する。高齢者では、加
齢によって実質的に眠れる時間は短くなるにもかか
わらず、
「することがない」
「息子や娘に迷惑をかけた
くない」
と眠くもないのに床に入る習慣がある人がか
なりいる。熟睡感が得られない場合、必要以上に眠
ろうとしていないかを振り返り、実際に眠れる時間
(身体が必要とする時間)だけ床の中で過ごすよう、
就床時刻と起床時刻を調整すると改善する。
昼寝は午後3時前の20∼30分、夕方
以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響
昼寝は日中の眠気を解消し、その後の時間をすっ
きりと過ごすのに役立つ。しかし、日中に長時間の昼
寝や夕方以降に昼寝をすると、その夜はなかなか寝
つけなくなる。昼寝をとる場合には午後3時前の20∼
30分程度が望ましい。
レム睡眠
時間 10
深いノンレム睡眠
浅いノンレム睡眠
8
6
4
2
0
前述した生活習慣や睡眠に関する誤った知識や行
動を改善したにもかかわらず、不眠や日中の強い眠気
が1ヶ月間以上続く場合には、医療機関を受診するよう
すすめる必要がある。睡眠医療の専門医療機関は日
本睡眠学会ホームページhttp://jssr.jp/data/list.html
をご覧ください。この時、相談者自身の自覚症状だけ
でなく、家族や同室者の観察が重要な情報となる。
3-5歳 10-12歳 16-19歳 30-39歳 50-59歳 70-79歳
6-9歳 13-15歳 20-29歳 40-49歳 60-69歳
図1
年齢による睡眠時間の変化
Roffwarg et.al(1966)
らより改変作成
1.5
1.4
6
年
後 1.3
の
死 1.2
亡
危
険 1.1
度
1.0
男性
女性
〈参考文献〉
1)財団法人健康・体力づくり事業財団:健康づくりに関する意
識調査報告書、財団法人健康・体力づくり事業財団、1997.
2)平成12年保健福祉動向調査、厚生労働省大臣官房統計情
報部、2001.
3)Roffwarg HP, et al.: Ontogenic development of the
human sleep-dream cycle: The prime role of dreaming
sleep in early life may be in the central nervous system.
Science 152: 604-619, 1966.
4)Kripke DF, et al. Mortality associated with sleep duration
and insomnia. Arch Gen Psychiatry 59:131-136, 2002.
5)Tamakoshi A, et al.: Self-reported sleep duration as a
predictor of all-cause mortality: Results from the JACC
study, Japan. Sleep 27: 51-54, 2004.
0.9
3
図2
4
5
6
7
8
9
10 h
睡眠時間と6年後の死亡危険度
Kripke et.al(2002)
らより改変作成
縦軸は7時間睡眠を1とした場合の各睡眠時間の比を示す。
6
〒143-0015 東京都大田区大森西4-16-20
http://www.nurs.med.toho-u.ac.jp/
産業医から見たSAS検診の必要性
産業医科大学 産業生態科学研究所 作業病態学研究室
中元 健吾
【はじめに】
2003年JR運転士による居眠り運転の原因が睡眠
時無呼吸症候群(以下SAS)
と判明し、その後『睡眠
時無呼吸症候群』が注目されるようになった。国土交
通省においては、事業者・運転者向けのマニュアル
を定め、同マニュアルを活用してSASの周知に努め、
早期発見・早期治療の促進が行われてきた。また、
財団法人全日本トラック協会においては、SAS対策と
いうことでスクリーニング検査助成を実施してきた。
そういった状況もあり、約200万人と言われていたわ
が国のSASの潜在患者は確実に減少してきた。しか
し、現在月日の経過と共にSASに関する国民の関心
は風化してきて、なおかつ運輸業以外の業種での
SASの取り組みはそれほど進んでいない印象を受け
る。このような状況の中で、企業に勤める産業医とし
て何をすべきなのか再度考える必要があるのではと
感じている。
3名(2.9%)
8名(7.8%)
27名(26.5%)
62名(60.8%)
SAS自覚あり+病院受診歴あり
SAS自覚あり+病院受診予定あり
SAS自覚あり+病院受診予定なし
今回、SASを専門にしているわけでもなく、SASへ
の取り組みを行って3年足らずの私にこのような執筆
の機会を与えて頂き、大変恐縮しているが、これまで
の活動を踏まえて1人の産業医として考えてきたこと
を述べさせて頂きたいと思う。
【SASに関する問診票から
見えてきたもの】
2006年秋、月日の経過と共にSASに関する国民の
関心は薄れているのではないかという疑問を確かめ
るべく、私が嘱託産業医として勤務して間もない中小
企業6社に勤務する男性社員361人(平均42.9歳)
を
対象にSASに関する問診票を行うとともにSASに対
する自覚調査、病院受診状況調査を実施した。なお、
この企業では、SASに関する教育は行っていない状
況で実施した。
OSAS診断基準、ベルリン質問票を参考に判定基
準を作成し解析を行った結果、102名(28.3%)が
SASの可能性が疑われ、簡易検査による2次検査が
必要と判断したものの約60%が自分はSASとは考え
ておらず、当然病院受診は考えていないという結果と
なった(図1)
。
この結果から見えてきたものは、SASに関する
関心はそれほど高くなく、また問診票でSASが疑わ
しい人の多くは自覚がなく、病院受診を考えてい
ないということがはっきりと分かった。この結果を
通じて、SASに関する教育を通じての周知と職域
における産業医や産業保健スタッフのSASへの取
り組み(病院受診の促し等)の必要性を感じた。ま
た、問診結果を基に産業医面談で病院受診を促す
も、多くの人が問診票の結果だけでは病院受診す
る動機としては不十分であり、やはり目に見える形
(簡易検査実施)で病院受診を促す必要があると感
じた。
自覚なし
無回答
図1
問診票によってSASが疑われた人のSAS自覚、
病院受診に対する考え
7
産業医から見たSAS検診の必要性
【SAS簡易検査から見えてきたこと】
2007年11月に、2つの企業(いずれも製造業)に
おいて簡易検査を実施した(機器は睡眠評価装置
LS ―100を使用)。2社でSAS問診実施者248名中、
問診結果でSASが疑われた方が122名という状況の
中、実際に簡易検査を実施できたのは44名(37.7%)
であった。44名の簡易検査の結果、半数近くの20
名(43.5%)がAHI≧20という結果だった。また、何
らかの呼吸障害を認める人は実に80.5%認めた。
また、簡易検査の結果を重症度分類すると、約20%
が重症、中等症以上が約50%という結果であった
(図2)。
この結果は私にとって、かなり衝撃的な結果であ
り、もし、簡易検査対象者数として考えていた122名
全員が簡易検査を行っていたら、単純に計算しても
50−60名がAHI≧20という状況である。この結果か
ら職域における簡易検査の導入、簡易検査を通じて
病院受診を促すことは非常に重要であり、SASの早
期発見、早期治療に寄与するものと考える。一方、
課題としてAHI≧20の社員は病院受診を勧める方向
でよいかと思うが、簡易検査でAHI<20または実際
病院受診するもAHI<20でCPAPの適応にならなか
った社員に対し、今後どのようにフォローしていくべ
きか(簡易検査をどれくらいの頻度で行っていくか)
が
今後の課題と考える。職域で行われている定期健康
診断の結果(BMI、血圧、血糖等)
を有効に活用して
いくことが求められる。また、簡易検査の結果を保健
指導に生かし、睡眠時無呼吸症候群の予防、睡眠
時無呼吸症候群に伴う生活習慣病の予防に役立て
ていければと思う。
9名(19.6%)
9名(19.5%)
15名(32.6%)
5≦AHI<15(軽症)
15≦AHI<30(中等症)
AHI≧30(重症)
8
SASは他の生活習慣病と同様、
自覚症状が乏しく、
病院受診へとつながりにくい疾患である。また、中
等度∼重度のSASに罹患している場合でも、日中に
強い眠気を感じない人が多くいることが判明してい
るため、日中に強い眠気を感じない人であっても、
スクリーニング検査を受ける必要があると言われて
いる。そういった状況で病院受診へつながりにくい
中、職域におけるSASへの取り組みは、SASの早期
発見、早期治療においてますます重要となってくる
わけである。SASは生活習慣病の1つですが、他の
生活習慣病と異なり、労働安全衛生法で実施されて
いる健康診断のような定期的な検査があるわけでは
ない。SASの診断とCPAPによる治療に対応してい
る医療機関が増加している状況の中で、産業医が
もっと積極的にSASへの取り組みを行うことが必要
である。
2008年4月から40−74歳を対象に特定健康診査、
特定保健指導が始まった。SASの合併症として高血
圧・糖尿病・虚血性心疾患等があり、これは特定保
健指導の項目にも該当することから、是非特定健康
診査、特定保健指導の導入と共に簡易検査を用い
たSAS対策の導入が出来ればと考える。
そのなかで、社員、会社、企業健康保険組合はど
のような立場で取り組めばいいのか? 私は以下のよ
うな考え方で取り組んでいければと考えている。
○社員としてのアプローチ
SASは、高血圧・糖尿病・虚血性心疾患等の合併
症を引き起こし、生活習慣病の原因の1つとも言われ
ている。SASの早期発見・早期治療は、生活習慣病
の予防にもつながり、生活習慣病対策にSAS対策を
盛り込むことは効果的と考える。また、SASは睡眠
の質の低下を招き、仕事の効率低下やうつ病のよう
な精神障害を引き起こすと言われている。我々にと
って睡眠は非常に重要であり、社員へ睡眠の重要性
を教育し、睡眠も仕事の1つとして捉えてもらえたらと
思う。
13名(28.3%)
AHI<5(正常)
図2
【職域におけるSAS取り組みの意義】
AHIを用いた重症度評価
○会社としてのアプローチ
これまでは安全の観点からのアプローチが非常に
強く、運転業務の少ない業種では取り組みが進んで
いない印象がある。上記で述べたように会社にとっ
て、
「人」は重要な経営資源であり、睡眠の質の低下
は、生産性の観点から仕事に対する意欲の低下、作
業効率の低下を招く。ある研究によると、睡眠障害
による仕事の効率の低下は4割で、それに伴う給与
面、欠勤、遅刻、交通事故などによる経済損失は、
年間3兆5000億円にあたるという試算結果もある。
労働災害の予防という観点だけではなく、企業の
生産性を向上させるためにも、会社として積極的に
取り組むべきと考える。
○企業健康保険組合としてのアプローチ
SASは多くの生活習慣病を合併症として持ち合わ
せており、SAS対策を行うことは生活習慣病対策に
もつながり、SAS対策導入後一時的には医療費は増
加するが、長い目で見た場合、
「医療費削減」につな
がる可能性が非常に大きい。特定健診・特定保健指
導の実施により保険者の負担はますます増加してい
く可能性が懸念されているなか、SAS対策も並行し
て行うことが効果的と考える。
以上のように、それぞれが異なった角度からSAS
をはじめ多くの生活習慣病に取り組んでいければ、
健康増進、生産性向上、医療費削減につながってい
くと考える。また、SASを診断できる医療機関が少な
い・近くにない、専門医が少ない、診断料が高い、診
断に時間がかかる等の問題は依然としてあるが、職
域と医療機関が共に連携し合って対策を行うことこ
そが、今後のSAS対策強いては生活習慣病対策に
重要な意味を成すものと思う。
【最後に】
職域においてSASに関する問診票、簡易検査を
用いてのフォローの仕方のフローチャートの整備は
まだまだ不十分と思う。ガイドラインでは、問診で強
いいびきや無呼吸を周囲から指摘されたことがある
かどうかを確認し、そのような症状が認められると
きは、さらに日中の過眠、睡眠中の窒息感、あえぎ、
繰り返す覚醒、起床時の爽快感の欠如、日中の疲労
感、集中力の欠如について質問をし、2つ以上の症
状を認める場合、SASの可能性が高いと判断して
精査を勧めることになっている。近年、単身赴任
者・1人暮らしの増加に伴い、いびきや無呼吸を周
囲から指摘される機会が減少しており、SASを早期
に発見するためにはどのようにすればよいのか検討
していく必要がある。そういった状況も踏まえ、是
非専門医の先生方のお力を借りて、SASの専門家
でない産業医でも取り組めるよう問診票の汎用版、
簡易検査を用いてのフォローの仕方のフローチャー
トができればと思う。一方、企業で勤務している産
業医は、多くの専門家の先生方がSASに取り組んで
いる現状の中で、企業で働いている医師だからこそ
できるものは何か、企業で働いている医師だからこ
そしないといけないものは何かを今一度考える必要
がある。また、多くの中小企業に産業保健サービス
を提供している企業外労働衛生機関も簡易検査を
導入し、企業に対してSAS対策を積極的に行って欲
しい。
今後産業医と専門医が協力し合いSASに取り組
むことこそが、SAS対策にとって重要なことであり、
さらには、国民の健康、企業の発展につながってい
くと思う。
私自身、SASへの取り組みを行ってまだ日が浅く、
手探り状態な部分が多い状況だが、社員が質の高
い睡眠がとれ、健康で充実した生活を送り、また、会
社が社員の睡眠の質の向上で生産性が向上するよ
う今後とも活動していく所存であるので、専門医の先
生方をはじめ、産業医の先生方今後とも御指導の程
よろしくお願い致します。
〒807-8555
福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1番1号
http://www.uoeh-u.ac.jp/JP/index.html
9
SAS指導管理 開業医の役割
御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長
村田 朗
2003年の新幹線運転手の居眠り事故以後、わが
国 で も「 睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 Sleep Apnea
Syndrome:SAS」の社会的影響の重大さが認知され
るようになった。また、SAS患者の90%以上は、閉塞
型SAS(OSAS)
とされ、わが国では全人口の2%程
度(200万人)存在すると推定されている。しかし、
疫学調査を考慮すると実際の有病率は更に高く、糖
尿病や気管支喘息にも匹敵する規模である。このよ
うなSASは眠気などによる作業能率の低下、労働災
害、交通事故に加え、高血圧症・糖尿病・高脂血症
などメタボリックシンドロームとの関連性も指摘され
ており、専門外というだけで看過することができない
病気と認識すべきである。一方、治療ではnasal
CPAPの有効性が認めらているものの、保険診療上
月に1回の受診が必要であるため、忙しい働き盛り
である中年以降に患者が多いことや自覚症状が乏
しい症例では、外来受診からの脱落症例・中止例も
少なくない。そこで、外来におけるSAS診療のポイ
ントを概説する。
●多彩な症状
SASの主訴はしばしば「いびき」
「無呼吸」である
が、自ら気がつく重症者以外の多くは、家族に指摘さ
れて来院されることが多い。重症者ならば日中の過
剰な眠気などの典型的な症状を訴えることもあるが、
表1
「起床時の頭痛」
「熟睡感がない」
「夜間頻尿」
「作業
能力の低下」
「抑うつ状態」
「インポテンツ」などの多
彩な症状(表1)を訴えるため、SASによる症状と自
覚せずさまざまな医療機関に受診し、適切な診断と
治療を受けていないことが多い。また、高血圧症、
糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患、脳血管障害など
の治療中に発見されることも多い。したがって、医師
自身がSASを念頭に置いて病歴を聴取することが大
切である。
●合併症
無呼吸に伴って動脈血酸素飽和度の著明な低下
を繰り返したり、炭酸ガスが溜まって血液が酸性に
傾くことなどから、さまざまな合併症が引き起こされ
る。特に、重要なのは循環器系への影響である。不
整脈、狭心症、心不全などが引き起こされる。加え
て、夜間も脳波上覚醒を繰り返すため、交感神経の
緊張状態が続いて睡眠障害ストレスから自律神経が
乱れて、内分泌系にも影響を及ぼし耐糖能障害や、
40∼50%に夜間の血圧上昇などを特徴とする高血
圧症、その結果、動脈硬化が進行し虚血性心疾患、
脳血管障害へ進行すると考えられている
(図1)
。した
がって、昼間の眠気だけなら我慢できても、寝ている
間に死に至る可能性のある合併症が作られてしまう
ことが OSASの最大の問題点である。
SASの症状
症状
理由
症状
理由
日中の強い眠気
睡眠障害
疲労感・過剰な眠気
大きないびき
気道の狭窄
睡眠呼吸障害による
呼吸仕事量の増加
頻回の中途覚醒
睡眠障害
肩こり・起床時の頭重感
急激な体重増加
睡眠障害と眠気対策などによる
摂食行動異常
呼吸仕事量の増加・睡眠障害・
二酸化炭素の貯留
意欲低下
睡眠障害
上気道閉塞による頻回の覚醒
うつ気分・易怒性
睡眠障害・意欲低下・脱抑制
睡眠中の心房性利尿ペプチド、
カテコラミン過剰と心拍出量増加
インポテンツ
睡眠障害・テストステロン分泌障害
治療抵抗性の高血圧
睡眠障害
喉の渇き
口呼吸といびきによる咽頭粘膜障害
狭心症発作
繰り返す上気道炎
口呼吸と乾燥による気道の炎症
低酸素血症・交感神経緊張・
多血症・凝固亢進
覚醒時の胸部筋肉痛
気道閉塞時の過剰な胸腔内陰圧
頻拍発作
低酸素血症・交感神経緊張 睡眠障害による認知障害
逆流性食道炎症状
胸腔内圧低下に伴う胃液逆流
熟睡感の欠如
夜間頻尿
集中力・持久力の欠如
10
生活習慣病
マルチプル・リスクファクター
耳鼻咽喉科・歯科口腔外科疾患
ヘビー
スモーカー
口蓋扁桃・アデノイド肥大症、慢性副鼻腔炎、
鼻中隔彎曲症、小下顎症、咬合不良など
缶コーヒー
症候群
上半身肥満
内蔵脂肪蓄積
覚醒中の上気道狭搾
昼間過眠
努力性吸気時の胸腔内圧低下による上気道抵抗の増大
閉塞型睡眠時無呼吸
睡眠障害
ストレス
低酸素血症
カテコールアミン
放出
肺高血圧
左室充満制限
による1回拍出
量低下
咽頭
食道
インスリン抵抗性
a. 目覚めている時
上気道抵抗
症候群
高CO 血症、アシドーシス
2
肺動脈攣縮
心室中隔
左方偏位
鼻腔
喉頭蓋
脳波上の
覚醒反応
一過性右室
容量負荷
口腔
舌
遺伝、運動不足、過食 男性ホルモン、加齢
摂食・行動異常
睡眠中の筋緊張低下による
上気道閉鎖
喉頭
高インスリン血症
交換神経
活性増加
ナトリウム
貯留
脂質代謝異常
リポ蛋白リパ
ーゼ低下
血管壁
肥厚
耐糖能異常
右室肥大
末梢血管抵抗増大
糖尿病
右心不全
奇脈
夜間不整脈
高血圧
左室肥大
高トリグリ 低HDL
セリド血 血症
b. 無呼吸の時(気道の閉塞)
動脈硬化症
(虚血性心疾患、脳血管障害)
左心不全
図1
夜間狭心症
閉塞性睡眠時無呼吸症候群と高血圧などの循環器疾患との関連
(塩見利明他、呼吸と循環46:1163-1168,1998を一部改変)
c. nasal CPAP
図2 気道の閉塞とnasal CPAP
●OSASの原因
OSAS患者では睡眠により咽喉開大筋の緊張が低
下し、また重力により舌根が沈下して咽頭腔はます
ます狭小化し、上気道抵抗が著しく高まる。その上、
吸気時の気道内の陰圧が軟口蓋や舌根部を引き込
むようにして咽頭を閉塞して無呼吸を発生する
(図2a,b)
。いびきは、その狭い気道を空気が流れること
で気道壁を振動させて生じる。
このOSASの発症原因としては、そのほとんどは舌
や咽頭軟部組織(軟口蓋や扁桃など)
、顎顔面形態な
どの異常による上気道(咽頭腔)
の解剖学的な狭小化
などの発症因子と、これに肥満や加齢、疲労、飲酒な
どが増悪因子とし関与していると考えられている。そ
のため、親子では顔貌・頭蓋骨骨格が似ることから、
親にいびきやOSASが認められるときには、子も同様
な所見を認めることも多い。したがって、頭蓋骨骨格
を改善することは難しいため、ほとんどのOSASを完
全に治癒させる方法は未だ無いのが現状である。
診断は、この簡易検査である程度の診断は可能で
あるが、確定診断としては、脳波(EEG)、頤筋電図
(EMG)、眼球の動き
(EOG)等で睡眠段階・覚醒反
応の有無などの睡眠状態を測定し、気流センサー、
腹部・胸部センサー、マイク等で無呼吸の程度など
呼吸状態を評価する睡眠ポリグラフ検査(PSG)が
必須である。
「無呼吸」は10秒以上の呼吸停止、
「低
呼吸」は安静時に比べて換気が50%以下に低下し
酸素飽和度が3%以下を伴うものと定義され、1時間
あたりの無呼吸低呼吸の回数を算出したものを無呼
吸低呼吸指数(AHI)
と呼び、重症度の判定に利用
する。すなわち、SASは「一晩に30回以上無呼吸低
呼吸が生じる場合あるいはAHIが5回/hr以上の場
合で、傾眠などの自覚症状を伴う場合」
と定義され、
AHIが5∼15回/hrを軽症、15∼30回/hrを中等症、
AHIが30回/hrを超えるものを重症と判定している。
パルスオキシメータ
●診断のポイント
自覚症状と身体所見などより、SASが疑われた場
合、無呼吸症の検査を行う。まず始めに、睡眠中の
呼吸状態と動脈血酸素飽和度の連続記録を簡易的
におこなうスクリーニング検査を行う
(図3)
。SASの
気流プレッシャーセンサー
図3
簡易睡眠検査器(LS100:フクダ電子提供)
11
SAS指導管理 開業医の役割
●治療方針
肥満傾向のある患者に対する減量指導に加え
て、中等症以上のOSASに対する治療の第一選択
はnasal CPAP治療(図2-c)である。これは睡眠中
に鼻につけたマスクから持続的に空気を流して圧
力をかけ、気道を広げて閉塞を防ぐことにより、無
呼吸を取り除く治療法である。外来にて、自動圧
調整機能をもつCPAP(auto CPAP)を用いて治療
を開始する場合もあるが、一般的には入院にて
PSG検査を実施して、適切な圧設定を行うことが望
ましい。このnasal CPAP治療は対症療法であり、
適切な圧は患者ごとに異なるため、適正な最低圧
で治療を行うことがその後の治療の継続性に重要
な因子となる。
しかし、nasal CPAP治療を試して有効でないとき、
外科的手術や軽症にはマウスピースなどの治療法も
検討する。
●nasal CPAPの副作用
nasal CPAP治療の副作用としては、特に冬季に
は、口鼻の乾燥などがみられるため、その対処法
としては機器に付属の加温加湿器を併用する。ま
た、気温低下時には、鼻粘膜に対する刺激症状と
しての疼痛・くしゃみ・鼻水、マスク内結露などもあ
る。対処法としては暖房をいれて部屋の温度を上
げると効果的である。鼻閉などの症状に対しては、
点鼻薬、レーザー治療などを行う。マスク周囲から
のエアリークが見られる際には、マスクの変更やマ
スクフィッティングの再教育を行う。口からのエアリ
ークが多い場合にはマウステープ、チンストラップ
の併用をし、口を閉じて呼吸ができるように指導す
る。マスクによる接触性皮膚炎および皮膚刺激症
状に対しては、ステロイド軟膏の塗布をする。以上
のような、副作用対策の細かな指導がCPAP継続に
おいて重要である。
●経過をみるときのポイント
nasal CPAP治療により多くのSAS患者は、日中
の傾眠、夜間頻尿、中途覚醒、起床時の頭痛も消
失し、性的機能の改善など認められる。CPAPの
使用状況はICメモリーカードを用いて、使用頻度・
使用時間、CPAP圧の経過、治療中の無呼吸の程
度を確認でき、CPAP継続への指導に用いることが
できる。更に、患者からの眠気などの自覚症状の
変化、CPAP使用時の呼出困難、いびきの有無、ま
た、体重・血圧測定と血糖値、コレステロール値な
どの血液の経過など、細かな所見に関して外来受
12
診時に経過を追って観察する。
●専門医への紹介のタイミング
簡易型スクリーニング検査装置でSASが診断さ
れた場合、AHIが40回/hr以上の重症のOSASで
あるならば外来CPAP導入は可能であるが、でき
る限り専門医へ紹介してPSG検査を行い、睡眠の
状態を精査したのち、適正圧でCPAP治療を開始
することが望ましい。その後、CPAP治療が良好
に行える患者は紹介医に逆紹介し、紹介医のもと
で治療を継続する病診連携システムの確立が望ま
れる。
●OSAS診療のポイント
OSASを診断・治療するにあたっては、外来初
診時にOSASの原因・病態・合併症・治療法など
を、CPAP治療開始時にはCPAP治療の有用性と
副作用を、CPAP治療継続中にはコンプライアンス
の評価と副作用への対処法などを、時間をかけて
十分に説明する必要がある。特に重症OSASでは、
合併症の併発、特に狭心症、心筋梗塞、脳梗塞な
どを発症するリスクが高いことを充分に説明し、
予防のためにCPAP治療継続の必要性が高いこと
を 理 解 さ せることが 必 要 で あ る 。この ことは 、
CPAP治療のコンプライアンスを高めることに必須
である。
したがって、以下のポイントに注意し、診療を行う
ことが望ましい。
1)多彩な症状を示すことを意識し、SASを念頭に問
診する。
2)問題点は眠気だけでなく、寝ている間に合併症が
作られることである。
3)原因は、顎顔面形態などの異常による上気道の解
剖学的な狭小化である。加えて、肥満や加齢、疲
労、飲酒などが増悪因子として関与している。
4)治療はnasal CPAP治療が第一選択である。PSG
検査にて適正圧を決めることがコンプライアンス向
上につながる。
5)副作用対策のきめ細かな指導を継続する。
6)
自覚症状および血液検査・血圧・身体所見などの
変化をチェックすることにより、CPAP治療の有効
性を見落とさない。
〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台2-8 瀬川ビル3F
http://www.sas-care.jp/orcc/main.html
SAS集団検診の取り組み
東京海上日動メディカルサービス株式会社 健康プロモーション事業部
岸 喜昭
「SAS(睡眠時無呼吸症候群)が
心配な方は○○病院へ」
「自分はもしかしたらSASではないか?」
こんな心配を持たれた方は、ネットで専門の医療
機関を検索したり、自社の産業医に相談したりするで
しょうが、そんな時に返ってくる答えが「SASが心配
な方は○○病院へ」です。もちろん、心配であれば
こそ積極的に検査を受けてみようとなるので、その
姿勢はすばらしいことです。
ところが、これが「個人」の心配ではなく、
「うちの
会社にはSASの社員はいるのか?」や、
「一度に100
人の社員に検査を受けさせるには?」などのように、
「組織」
としての取り組みを考えた場合に「100人の検
査」を一度に受け付けてくれる医療機関は全国にも
そんなには多くないと思います。自社の近隣でとなる
と、さらに見付けるのが難しくなるのではないでしょ
うか?
弊社が提案する「SAS集団検診プログラム(図参
照)」は、このような要望にお応えすべく考えられた
もので、以下にプログラムの要領をお示しします。
に治療中の方を含めて)
ならびに、産業医が指名し
た 従 業 員 の 方 に お 勧 めして います。す なわち 、
「SAS集団検診プログラム」の対象者はお客様にお
いて決定していただくことを原則としています。会社
によっては、
「全従業員」に実施しているところもあり
ます。
(2)SAS問診票検査
上記で選抜された方に対して、弊社が独自に作成
した「SAS集団検診プログラム」専用の問診票をご記
入いただきます。この問診票の評価は、
(財)
日本予防
医学協会福岡診療所(以下「福岡診療所」
とします)
という医療機関によって行われます。判定は「A」
と
「B」の2種類で、
「B判定」の方には、次のステップで
ある「簡易終夜睡眠PSG検査(在宅)」をご案内いた
します。
1. SAS集団検診の流れ
(1)対象者の選抜
SASはごく一般的な病気ですので、特定の業務
(作業)に従事している方に多く見られるといった
ものではありませんが、特に(日中の)眠気や居眠
りが重大な事故や大きな損害につながる業務とし
ては自動車や電車等の運転、重機の操作、高所・
高温での作業、計器等の見張り、精密検査、シス
テムでのデータ管理などが挙げられます。その他
にも重要な会議や商談中での居眠りはお客様との
信頼や経営に大きな影響を及ぼすことも予想され
ます。
「SAS集団検診プログラム」では、運転業務に限
らず会社として「この社員がもしもSASだったら」
と
の心配から、業務内容や作業を考慮のうえで対処者
の人選をしていただきます。また、これとは別途、毎
年実施している「定期健康診断」の結果において、
肥満度の大きい方、血圧や血糖値が高めの方(すで
13
SAS集団検診の取り組み
(3)簡易終夜睡眠PSG検査(在宅)
問診票検査の結果で、SASの可能性が高いと判
定された方(B判定)
は、さらに一晩パルスリープLS ―
100(フクダ電子製)
という検査装置を腕に着けてお休
みいただくことになります。この装置は、睡眠中の呼
吸の状態やいびきの様子そして、血液中の酸素飽和
度の変化を記録しています。翌朝(検査終了後)
その
データを所定の要領で抽出し、福岡診療所にお送り
いただくと、これを解析・判定した後、概ね10日ほど
で結果報告書をお届けします。
パルスリープLS ―100(以下LS ―100)では、SAS
の確定診断ができますので、検査の結果「要治療」
または「要精密検査(PSG)」と診断された方は、そ
のままこのデータを持って専門の医療機関をご受診
ください。
(4)SAS専門医(医療機関)のご案内と産業医支援
「SAS集団検診プログラム」では、
「どこで精密検査
や治療を受ければいいのか?」
というお声に対して、
検査結果報告書に「医療機関名」を明記した受診要
領を同封しています。ご案内する医療機関は、事業
所の近郊でSASの患者さんをたくさん診療している
所で、所在地や診療時間等も紹介しています。また、
医療機関側には、SAS検診の事前に事業所名と受
診者数を伝え、受診当日に双方での混乱がおきない
ように協力を依頼しておきます。SAS検診の「やりっ
ぱなしにしない」
をモットーにしています。
また、産業医が、SASについて専門医の助言を求
められた場合、ご案内する医療機関には事業所名と
併せて産業医名を紹介し、両者の連携で有用な健
康管理が達成できるようご希望に応じて産業医の支
援をしています。
(5)睡眠日記
「SAS集団検診プログラム」の対象となった方全員
に弊社オリジナルの「睡眠日記」
をお配りしています。
2. 簡易終夜睡眠PSG検査
(LS ―100検査)の実施フロー
(1)実施期間
LS ―100検査は「在宅(一晩)」で行う検査ですの
で、1人につき「2日間」必要になります。
「SAS集団
検診プログラム」では、LS ―100を1台につき「10日
で3人」を目途に、必要な台数で装置をご用意いた
します。受診対象者数が決定した後、受診期間と
台数についてのお打合せをさせていただきます。
(2)社内リレー
LS ―100検査では、装置自体の回収と配布はお客
様にご協力をお願いしています。所定の台数すべて
を事前に事業所(営業所ごと等)
にお届けしますの
で、それ以降は社内で装置をリレーして次の方へお
渡しください。その際、電池の交換や鼻センサー
(使
い捨て:人数分ご用意します)
の配布などもお願いい
たします。
(3)データ発送
LS ―100内のデータは、所定の要領(1週間単位や
営業所単位など)
にて福岡診療所へお送りいただき
ます(別途、ご説明させていただきます)
。
以上を参考に、
「SAS集団検診プログラム」の利用
を希望された際には、直接ご訪問のうえ詳細(実施
時期や料金等)の説明をさせていただきますので、
どうぞ遠慮なくお声掛けください。
3. SASコミュニケーション・クラブ
弊社では、日々の生活にお役に立てるようにと
〈SASコミュニケーション・クラブ〉
というサイトで、
SAS以外にも「睡眠」に関連する有用な情報や、話
題性のあるテーマに沿って、さまざまな立場の方に
よるコラムを逐次掲載しています。
医療に関係している方はもとより、どなたにもお
読みいただけるようにとテーマを絞り、著者独自の
観点から分かりやすく解説しているユニークなサイ
トです。http://www.sas-com.jp/ をぜひご覧く
ださい。
〒100-0004
東京都千代田区大手町2-6-2
TEL 03-5299-3107
[email protected]
http://www.tokio-mednet.co.jp/
14
SAS検査を実施して思うこと
財団法人日本予防医学協会 九州センター福岡診療所統括
診療放射線技師・システムエンジニア
健康診断・人間ドック等の健康支援事業と産業保
健事業を行っております。SAS検査を始めて5年にな
ります。最初は、保険診療から、睡眠時無呼吸症候
群を診断する検査として位置づけていました。
最近は、産業保健から睡眠を見直すきっかけに、
SAS検査と問診を位置づけています。と申しますのは、
産業保健の話題が、セクハラ・メンタル・自殺などから長
期時間労働者、いわゆる、過重労働・過労死と変わりま
した。もちろん、過重労働者は、睡眠時間が短いと思わ
れます。更に、長期にわたるとメンタル系や心筋梗塞・脳
血管障害などを引き起こすリスクが高いと言われていま
す。そこで、
「快い睡眠をとるには」
ということで、睡眠状
態を観察・解析・診断する検査として、SASスクリーニン
グ検査と問診を取り入れた方法が必要と考えます。
肱下 俊信
職業ドライバーの方を検査しましたが、生活がかか
っていますので、正確な問診が得られませんでした。
一般サラリーマンの長時間労働者は、首都圏ですと、
通勤に往復4時間、残業4時間とすると、食事・休息・
趣味・睡眠に使える時間は8時間です。最低でも5時間
は睡眠にほしいところですが。生活習慣病の問診に、
食事や運動・睡眠について記入してもらいますが、過
重労働者は、まず、保健指導の対象者になりがちです。
平成20年度から、特定健診・特定保健指導が義務
化されます。メタボなIT関連の30歳以上を対象に、ラ
イフスタイル改善の道具として、SASスクリーニング検査
を進化させたいと思います。例えば、携帯電話につな
いで、データを保存し、生活改善のツールとして、大ヒ
ットします、携帯電話会社からPAT契約をとりましょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)簡易PSG解析を
実施するにあたり、検査技師としての思い・・・
臨床検査技師・超音波検査士 岩本
睡眠時無呼吸症候群により、注意力散漫や生活の
質の低下などの弊害を起こし、勤労低下、労働災害、
交通事故にまで発展する危険性は広く知られていま
す。弊会において、睡眠時無呼吸症候群の検査及び
解析を実施する中で、安定した波形(図左.口鼻呼
吸は一定のリズムを保ち、SpO 2、脈拍は安定し、気
管音はほとんど無いような波形)
をみると、心穏やか
で、明日への活力、今日の疲労回復のため
“すやすや”
と寝ている姿を思い浮かべます。逆に睡眠時無呼吸
症候群特有の波形(図右.口鼻呼吸は止まりSpO 2、
脈拍は低下し、気管音は睡眠時無呼吸症候群特有
のしばらく無音の後、一気に大きくなるような波形)
に
出会うと、こちらまで急に息苦しくなってドキドキして
しまいます。過剰な表現かもしれませんが、解析結果
口鼻呼吸
[波形]
×1/2
SpO2
(%)
脈拍数
(拍/分)
の波形から、その方の人生にまでも思いが及びます。
睡眠時無呼吸症候群は、無呼吸中に低酸素血症
等を生じ、動脈硬化の遠因としても重視されていま
す。動脈硬化以外にも循環器系疾患をはじめとする
様々な合併症の要因となることを、理解してもらい、
治療の重要性を知るべきです。
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合の職場で
の不利益を考え、検査には興味はあるがためらって
いる人もいるのではないでしょうか。そのためには、
睡眠時無呼吸症候群検診の必要性と適切な治療に
より確実に改善することを啓蒙していく必要がありま
す。多くの方に睡眠時無呼吸症候群の検診の機会
が与えられ、充実した生活が送られることを心より願
っています。
口鼻呼吸
[波形]
×1/4
100
SpO2
(%)
75
200
脈拍数
(拍/分)
0
気管音
×4
時:分
祐子
100
75
200
0
気管音
×1
2:46
2:47
2:48
2:49
2:50
2:51
2:52
時:分
0:32
0:33
0:34
0:35
0:36
0:37
0:38
15
SAS検査を実施して思うこと
臨床検査技師・超音波検査士 本村
明美
就寝中の大きないびきや呼吸停止、昼間に異常な
眠気があれば、睡眠時無呼吸症候群を疑います。ま
た、夜間にたびたびトイレに行く、起床時に頭痛がす
るといったことも睡眠時無呼吸症候群の可能性が高
いそうです。
新幹線オーバーラン事故等で有名になったため
か、
“SAS=交通事故”
と認識している方もいるでしょ
う。確かに、飲酒時より重症のSAS患者のほうがハ
ンドル操作ミスが多いというショッキングデータもあるそ
うです。また、SASの適切な治療をせず放置してい
ると他の病気を引き起こすことをご存知でしょうか?
高血圧・糖尿病・不整脈・狭心症・心筋梗塞・脳卒中
などです。いわゆる生活習慣病なのですが、健常者
よりかなり高率で罹患し、そのために命を落とすこと
も多いそうです。
みなさんも、SASを疑う場合にはぜひ検査を受け、
もし治療が必要ならば必ずきちんと治療を受けてくだ
さい。適切な治療でSASは治るのです。自分のそし
て周りの人の命を守るためお願いします。
臨床検査技師・超音波検査士 松本
なぎさ
解析を実施するうえで一番悩むのがボーダーライン
です。そのとき参考になるのが問診だと思います。し
かし、問診がたまに適当になっている方がいます。そ
れは意識の低さか仕事上の影響を恐れてか分かりま
せん。が、SAS検診は仕事上のミスを防ぐためなど
重要な検査の一つだと思います。陽性(再検査)
だと
しても、会社での地位確保や治療に専念できる環境
を整えるなど会社全体の意識を高めることが必要だ
と思います。
臨床検査技師 衛藤
妙子
運転業務に携わる方々の睡眠時無呼吸症候群の
検査を行うようになって2年になります。治療を必要と
される所見が得られた方が数名いらっしゃいました
が、驚いたことにその方々が、必ずしも自分の症状を
的確に認識していないという事です。また、正確に検
査を進めるための正しい情報を得るためには、企業
側と検査を受ける方々に、睡眠時無呼吸症候群の正
しい知識を持って頂く必要性があると感じました。
この検査は、運転業務等、人の命を預かる仕事に携
わる方はもちろんですが、生活習慣病との密接な関係
のある病気でもあるため、メタボリックシンドロームとともに
注目していかなければいけないのではないかと思います。
臨床検査技師 作本
睦美
睡眠時無呼吸症候群の解析を担当した中で、文献
においても
「首周りの脂肪沈着」
も原因のひとつに挙
げられている様に、異常所見と思われる中にBMI値
が基準値(22)
を超える方が多い様に感じました。現
在、生活習慣病のひとつとしてメタボリックシンドロー
ムが重要視されていますが、肥満のため睡眠時無呼
吸症候群の患者では、無呼吸により高血圧などの合
併症でメタボリックシンドロームを形成し悪化させ、ま
た、メタボリックシンドロームの人は肥満により気道が
塞がれ睡眠時無呼吸症候群となる危険性が高まり、
睡眠時無呼吸症候群とメタボリックシンドロームとで悪
循環に陥る可能性があるといわれています。
このことからも睡眠時無呼吸症候群をひとつの疾
患としてだけで捉えるのではなく、生活習慣病のひと
つと考え、生活習慣の改善も考慮していくことが大切
だと実感しました。
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