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主論文全文 _樋江井

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主論文全文 _樋江井
Agrobacterium tumefaciens によるイネ形質転換方法に
関する研究
樋江井祐弘
2014 年 10 月
目次
略語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
第 1 章 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
第 2 章 完熟種子由来カルスを用いた A. tumefaciens によるジャポニカ品種形質転換体の作出と解析
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
5. 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
第 3 章 形質転換イネにおける導入遺伝子の安定的遺伝
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
3. 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
4. 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
第 4 章 未熟胚を用いたインディカ品種形質転換方法の改良
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
-1-
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
5. 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
第 5 章 未熟胚を用いたジャポニカ品種形質転換方法の改良
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
3. 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
4. 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83
第 6 章 A. tumefaciens 接種前のイネ未熟胚への遠心および熱処理による形質転換効率の向上
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 87
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91
5. 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
第 7 章 A. tumefaciens によるイネ形質転換の包括的手順書の開発
第 1 節 完熟種子由来カルスを用いたジャポニカ品種の形質転換手順
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
3. 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103
第 2 節 未熟胚を用いたジャポニカ品種の形質転換手順
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
3. 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109
-2-
第 3 節 未熟胚を用いたインディカ品種の形質転換手順
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113
2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
3. 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
第 4 節 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
第 8 章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
-3-
略 語
2,4-D
2,4-dichlorophenoxyacetic acid
BA
6-benzylaminopurine
bar
phosphinothricin acetyltransferase
CFU
colony forming unit
DNA
deoxyribonucleic acid
GUS
β-glucuronidase
hpt
hygromycin phosphotransferase
IBA
3-indolebutyric acid
NAA
α-naphthaleneacetic acid
npt
neomycin phosphotransferase
OD
optical density
PEG
polyethylene glycol
T-DNA
transfer DNA
X-Gluc
5-bromo-4-chloro-3-indolyl glucuronide
-4-
要 旨
イネは、トウモロコシおよびコムギと共に世界の3つの最も重要な作物のうちのひとつである。
また、イネは、植物の分子生物学、バイオテクノロジーおよび遺伝学の研究において、タバコやシ
ロイヌナズナと共に最も頻繁に用いられてきた 3 つの実験用植物のひとつでもある。この分野の研
究では、Agrobacterium tumefaciens を介した遺伝子導入が重要な実験手法である。しかしながら、1990
年の初めまでは、イネ科の主要穀物をはじめとする単子葉植物がもともと自然界において宿主では
なかったことから、A. tumefaciens によるイネの形質転換は不可能であると考えられてきた。このた
め、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法が先んじて開発された。しかし、DNA 直接導
入法と呼ばれるこれらの方法は、導入遺伝子が多コピー導入される、再編成事例が多いなどの問題
があった。他方、A. tumefaciens 法は、形質転換効率が高い、染色体の中へ導入される遺伝子のコピ
ー数が少ない、末端が明確な比較的大きな断片を導入できる、再編成が少ないなどの利点がある。
このため、A. tumefaciens 法によるイネ科作物への遺伝子導入は、挑戦事例も多く、可能性を示す知
見も得られていたために、その可否をめぐり論議が続いていた。
このような背景の下、本研究は、A. tumefaciens によりイネに効率よく外来遺伝子を導入できるこ
とを疑いなく示したものである。ハイグロマイシン耐性遺伝子および細菌細胞中では発現しないイ
ントロンが介在する遺伝子を用いて実験を行い、A. tumefaciens を完熟種子の胚盤由来カルスに感染
させることにより、外来遺伝子を安定発現するイネ形質転換体が効率よく獲得できることを明らか
にした。また、導入遺伝子ならびにその発現の解析は、イネの染色体のさまざまな部位にに遺伝子
が導入されること、後代の植物にメンデル則に従い安定に遺伝することを証明した。外来遺伝子と
イネゲノムの接点の遺伝子配列が、双子葉植物における A. tumefaciens による遺伝子導入で観察され
た特徴をよく示したことから、A. tumefaciens は、双子葉植物にも単子葉植物にも同様な機構で遺伝
子を導入することが推察された。さらに、得られた形質転換植物の多くが形態正常で稔性が高いこ
と、導入した遺伝子が 5 世代以上にわたり安定して発現することも明らかにした。
イネ完熟種子は、非常に扱いやすい実験材料である。供試種子は、室温で保存することができ、
-5-
発芽率の高い種子であれば、良好なカルスが得られることが多い。しかし、良好なカルスが得られ
る品種は限定され、インディカ品種、中でもアイソザイム分析によってグループ I に分類される品
種群は、組織培養が極めて難しい。実際に、グループ I 品種の完熟種子由来カルスに、遺伝子導入
することは困難であった。研究を進めたところ、最も好適と認められたのは、未熟胚に直接 A.
tumefaciens を感染させる方法であった。好適な未熟胚は、温室で健全に生育したイネの受粉後の特
定の発達段階から得られた。未熟胚を利用すると、広範な品種において同じような効率で胚盤細胞
へ遺伝子導入できる。実際に 10 種類におよぶインディカのグループ I 品種すべてで効率よく遺伝子
が導入され、多数の形質転換植物が得られることを確認した。
未熟胚を供試し、さらに遺伝子導入効率を向上させるような物理化学的手法の探索を行ったとこ
ろ、A. tumefaciens を感染させる以前に高温処理や遠心処理などの前処理を行うことに、顕著な効果
が認められた。遠心後は、胚からの芽や根の成長が抑制され、かつ、カルスの誘導が良好となるこ
とも観察された。機構は不明であるが、未熟胚の組織や細胞の成長の様相が、遠心により何らかの
影響を受け、分化の方向から、未分化の方向に転じたのではないかと推測している。これら前処理
を行うことにより、広範な品種において供試未熟胚1個あたり 10 個体以上の独立な形質転換植物を
得ることができた。
最後に、得られた知見を体系化し、種々のイネ品種に外来遺伝子導入する際の基点とできる実験
手順書を提示した。
-6-
第1章 緒 論
イネ (Oryza sativa L.) は、トウモロコシおよびコムギと共に世界の3大重要作物のひとつとい
われている。2011 年には、世界の 15,990 万ヘクタールの耕地で 45,630 万トンのコメが生産されてお
り、発展途上国を中心に世界人口のほぼ半分を養っている (USDA, Grain:World Market and Trade)。ト
ウモロコシやコムギが、主に飼料としてあるいは多岐にわたる加工後に食料として供されるのに対
し、コメは加工されずに直接食されることが多い。また、他のでんぷん作物に比べると、食べる前
に長時間の面倒な調理作業を必要としないため、アフリカのサハラ砂漠以南の国々などでは、伝統
的な食習慣の比重が低い都市部において、コメの消費量が上昇する傾向が認められる。したがって、
アジア、アフリカ地域を中心とする急速な世界人口の増加や経済発展とともに、大きなコメの需要
増が予測されており、イネは、今後も、人類を支える最も重要な食用作物である。
イネの品種改良は、有史以前から進められ、世界各地で多様な品種が育成され栽培されている。
日本でも、過去 50 年の間にコメの単収は 1.4 倍に増加するなど、育種の貢献は大きい。今後は、世
界的にも耕作面積の拡大が望めず、あるいは、地球温暖化などの気候変動が予測されていることか
らも、コメの需要増に対応するためには、さらなる品種改良により、多収性、病虫害耐性、環境ス
トレス耐性などの強化が求められている。伝統的な育種法の利用とともに、バイオテクノロジーに
よる育種法の改良は必須であり、とりわけ、外来遺伝子の導入による遺伝子工学の研究は、欠くこ
とができないものである。
イネは、植物の組織培養、分子生物学、バイオテクノロジー、遺伝学などの研究において、タバ
コやシロイヌナズナとともに、最も頻繁に用いられるモデル植物のひとつでもある。他の 2 種の双
子葉植物の研究が先行はしたものの、イネは、穀類、単子葉植物のモデルとして特異な立場にあり、
かつ、その研究が主要作物の改良に直結するなど、極めて重要な研究対象であるため、人工環境下
での栽培方法や、組織培養の研究も進んでいる。実験用の植物は、限られた栽培施設において多数
の個体を取り扱うことが求められるが、イネの直立した草姿は、この点でも都合がよい。さらに、
-7-
イネの1本の分げつは、すべての必須な器官を有する独立の個体として考えることができるので、
実験施設の単位面積あたりの栽培可能個体数は、シロイヌナズナをしのぐほどであり、イネの実験
用の栽培は、非常に面積効率がよい。近年の植物ゲノムの研究においても、ゲノムサイズの比較的
小さい主要穀物であるイネの役割は大きく、シロイヌナズナに次いで、イネの全ゲノムが解読され
たのは、2004 年のことである。さらに、イネにおける遺伝子機能解明の研究成果は、トウモロコシ
やムギ類など他の重要作物の研究に直接に応用できることが期待されている。
このような研究において、イネの遺伝子あるいは他生物の遺伝子を、過剰発現させたり、発現抑
制したり、何らかの制御化で発現させたり、他の遺伝子との融合遺伝子として発現させたり、プロ
モーターや他の制御因子の働きを調査したり、突然変異を相補させたり、新たな分子ツールを試し
たり、新たな組織培養手法を試験したり、等々のため、形質転換実験は、最も基本的な実験手法の
ひとつである。効率のよい形質転換の手法がなければ、イネの基礎研究も、応用研究も、品種改良
も進めることができないのである。
遺伝子組換えの実験手法に求められる点は多いが、まずは、形態が正常で、高い稔性を示す植物
の獲得が求められる。組織培養から再生される植物体は、いわゆる培養変異の影響を受けたり、不
稔となることが多いことが知られており、その克服が求められる。また、目的とする遺伝子だけが
変異を受けることなく、少数コピーのみ、できれば、1 コピーのみ、導入されることが望まれる。
そして、導入後は、他の内在の遺伝子と同様に、安定して発現し、後代の植物に正常に遺伝するこ
とが必要である。また、簡便な実験手順により、かつ、高い形質転換効率を実現することも重要な
目標である。形質転換は、さまざまな研究において、第一段階に過ぎないので、過大な労力を要す
るようでは、広い利用は望めない。基礎研究段階でも、ひとつの遺伝子の導入あたり、少なくとも
10 個体以上の独立な遺伝子組換え植物の作出が必要である。応用的な研究では、100 を大きく超え
る場合も多い。イネの分子生物学やゲノム研究の進行とともに、多数の遺伝子を個別に導入して、
表現型を比較したり、有用遺伝子を大規模に選抜するなどの実験も行われる。したがって、形質転
換効率の不断の向上に対する期待は高い。
さらには、T-DNA でタグされた系統のライブラリー構築、遺伝子効果のハイスループット選抜、
-8-
イネの機能ゲノミクス、商業化に向けて優良系統を選抜するための 1,000 個体以上の形質転換体の
作出、そしてジーンターゲッティングにおけるターゲットされた形質転換体の選抜 (Terada et al.,
2002) などの目的には、極めて高い形質転換効率の実現が必要である。このため、可能な限り効率
が高い形質転換系であることも望まれる。
イネには、多様な品種が存在するが、まず、2 つの亜種、インディカとジャポニカに大別される
のが通例である。インディカとジャポニカは、一般に異なる地域で栽培されており、各々が熱帯、
亜熱帯、温帯地域に適した品種を包含している。熱帯ジャポニカは、しばしば、第 3 のグループと
してジャバニカと呼ばれる。インディカ品種は、世界のイネ栽培面積の 80 %を占め、かつ、一般に
ジャポニカよりも生産性が高いので、生産量に着目すれば最も重要なグループである。ジャポニカ
は、温帯のイネ栽培地域の主要な品種を含んでいる。中国では、食料の増産に大きな貢献をしたの
はインディカ品種であったが、経済の発展した地域ではジャポニカ品種のコメが好まれる傾向にあ
る。ジャバニカ品種も、地域によっては重要な位置づけにある。インディカとジャポニカは、同種
に分類されながらも、草姿、コメの成分・粒形、開花特性など、諸特性は大きく異なる。組織培養
の条件なども大きく異なり、一般に、インディカは、ジャポニカに比べると組織培養が難しいと考
えられてきた。イネの基礎研究においても実用化研究においても、このような多様な品種群に含ま
れる多くの品種に、効率よく遺伝子を導入できる技術の開発が求められている。
また、イネの系統によっては、DNA 配列のわずかな違いによりタンパクの機能や発現量が他の系
統とは大きく異なる遺伝子を有する場合がある。そのような遺伝子の研究においては、さまざまな
イネ品種において当該遺伝子を発現させ、機能や発現量を検証する実験が必要であり、これまで形
質転換が困難とされてきたグループ I インディカを含む幅広いイネ品種群にも利用できる形質転換
系の開発が望まれる。
本研究は、土壌細菌 Agrobacterium tumefaciens (根頭がん腫病菌)を利用した形質転換法の開発に焦
点をあてている。
A. tumefaciens は、
主として双子葉植物の地際部に感染し、
crown gall (根頭がん腫) と
呼ばれる腫瘍を生じるグラム陰性の植物病原細菌である。根頭がん腫病は、古くから知られる病気
であるが、1980 年台の初めに、A. tumefaciens による植物細胞の形質転換によって引き起こされるこ
-9-
とが明らかとなった (Nester and Kosuge, 1981)。A. tumefaciens には、Ti プラスミド (tumor inducing
plasmid) と呼ばれる大型のプラスミドが含まれており、その DNA の一部である T-DNA (transfer
DNA) が、植物細胞に導入され、染色体に組み込まれるのである。T-DNA には、植物成長調節物質
の生合成に関与する遺伝子などが含まれ、植物成長調節物質の過剰生産により根頭がん腫が生じる。
この現象が解明されて以後、植物の形質転換手法の開発に利用する研究が進んだ。T-DNA の転移に
関わる遺伝子は、ヴィルレンス遺伝子と呼ばれ、Ti プラスミド上の別の部位に存在することが明ら
かになり、
まず、
この領域は保持したまま、
腫瘍誘導遺伝子を有する T-DNA を除去した A. tumefaciens
菌株が開発された。そして、このような菌株に、所望の遺伝子を含む人工的な T-DNA を組み込み、
植物への感染が試みられた結果、ペチュニアやタバコなどのナス科植物への外来遺伝子の導入が成
功した (Horsch et al., 1985) 。それ以来、多くの双子葉植物において形質転換の実験例が報告され、
A. tumefaciens を介した遺伝子転移はこれら植物を形質転換する標準的手法になった。人工的な
T-DNA を持ち、A. tumefaciens 細胞内で増殖するプラスミドは、バイナリーベクターと呼ばれ、広く
用いられている。
ところが、イネ科の主要穀物をはじめとする単子葉植物は、A. tumefaciens では形質転換ができな
いと考えられていた。なぜなら、これらの植物は、もともと自然界における A. tumefaciens の宿主で
はないためである。このため、形質転換イネ作出の初期の成功例は、プロトプラストを用いたエレ
クトロポレーション法 (Shimamoto et al., 1989; Toriyama et al., 1988; Zhang et al., 1988)、または、PEG
法による (Datta et al., 1990; Hayashimoto et al., 1990) ものであった。しかし、プロトプラストを介す
るイネの形質転換方法には、広範な品種でプロトプラストから植物体を再生することが困難なこと
や (Ayres and Park 1994)、再分化植物がしばしば不稔や形態異常を示すという問題があった
(Abdullah et al., 1989; Datta et al., 1992; Li et al., 1993)。
次に開発されたのが、DNA を付着させた微粒子を高速で細胞に打ち込むパーティクルガン法であ
り、多くの研究機関で試みられてきた。Christou et al. (1991 and 1992) は、未熟胚が、ジャポニカ、
ジャバニカそしてインディカの重要品種のパーティクルガンによる形質転換のための良い材料であ
ることを報告した。さらに技術の改良により (Li et al., 1993)、未熟胚あるいは培養細胞を用いたパ
- 10 -
ーティクルガン法はジャポニカ品種の形質転換体を効率良く得るための第一選択枝となった。また、
完熟胚の利用も試みられ、Xu and Li (1994) はエレクトロポレーションにより、稔性のある形質転換
インディカ品種の作出を報告した。未熟胚や完熟胚を用いる手法は、プロトプラストを介する方法
に比べると、特定の品種への依存度は低い (Ayres and Park, 1994; Christou et al., 1991 and 1992)。
しかしながら、どのような手法や細胞を用いた場合でも、DNA の直接導入方法については、外来
遺伝子の多コピー導入 (Allen et al., 1993; Finnegan and McElroy, 1994; Dai et al., 2001; Tada et al., 1990)、
遺伝子の断片化や再編成 (Hayashimoto et al., 1990; Wu et al., 1995)、高頻度の非メンデル遺伝
(Spencer et al., 1992; Tomes et al., 1990) など多くの問題が、他の作物も含めて報告されている。
A. tumefaciens による形質転換法は、形質転換効率が高い、染色体の中へ導入される導入 DNA の
コピー数が少ない、末端が明確な比較的大きな断片を導入できる、そして形質転換における T-DNA
の再編成が少ないなどの利点がある。また、導入された外来遺伝子は、通常メンデルの遺伝法則に
従って、後代植物へ伝えられることが確認されている (Budar et al., 1986; Feldmann and Marks, 1987)。
このように、直接導入法に比べて利点が多いため、どのような植物を研究対象とする場合でも、A.
tumefaciens による形質転換法を、第一の選択肢と考える研究者が多い。
ほとんどの単子葉植物について、A. tumefaciens 法の適用はできないとの通説はあったものの、挑
戦例も多い。De Cleene and De Ley (1976) は、A. tumefaciens に感受性の種を含むのは単子葉植物では
ユリ科とサトイモ科の 2 つの科のみと記載していたが、その後、A. tumefaciens の接種による腫瘍の
誘導が、アスパラガス (Hernalsteens et al., 1984)、グラジオラス (Graves and Goldman, 1987)、および
ヤム (Schäfer et al., 1987) で確認され、A. tumefaciens の宿主範囲が、以前考えられていたよりは広い
ことが明らかとなった。穀類の実験例もあり、外来の酵素活性の検出などが報告された(Graves and
Goldman, 1986; Baba et al., 1986)。しかし、植物の染色体に T-DNA が組み込まれたことが証明された
のは、アスパラガスの一例のみであった (Bytebier et al., 1987)。
単子葉植物への T-DNA 転移の研究には、ウイルス遺伝子も利用された (Grimsley et al., 1986)。
T-DNA 中にトウモロコシ縞葉枯病ウィルス (MSV) のゲノムを組み込んだ A. tumefaciens を、トウ
モロコシの種子由来の幼植物に接種したところ、ウィルス感染の全身病徴が観察され、T-DNA がト
- 11 -
ウモロコシの細胞に移行したことが示された (Grimsley et al., 1986 and 1987)。この手法は、アグロイ
ンフェクションと呼ばれた。Grimsley et al. (1988) は、種子由来幼植物の頂端分裂組織が、とくに、
アグロインフェクションが起こりやすい部位であったことも確認した。しかし、当然ながら、アグ
ロインフェクションは、T-DNA が植物細胞内に到達したことを示すが、染色体への組み込みを示す
知見ではなかった。
1990 年代になってからは、カナマイシン耐性遺伝子(npt)や GUS 遺伝子などのマーカー遺伝子
を導入する実験が盛んになった (Chan et al., 1992 and 1993; Gould et al., 1991; Mooney et al., 1991;
Raineri et al., 1990; Schlappi and Hohn, 1992; Shen et al., 1993)。イネの実験例もあり、Raineri et al. (1990)
は、
完熟胚と A. tumefaciens の共存培養によりジャポニカ品種の形質転換細胞を産出したと報告した。
サザン分析の結果は、植物細胞ゲノムに T-DNA が組み込まれていることを示していたが、形質転換
植物を得ることはできなかった。Gould et al. (1991) は、npt と GUS 遺伝子のトウモロコシの茎頂へ
の転移、茎頂からの植物体の再分化、ならびに F1 世代におけるサザンハイブリダイゼーションによ
る転移遺伝子の検出を報告した。また、Mooney et al. (1991) は、 A. tumefaciens と共存培養したコム
ギの未熟胚から形質転換細胞を得た。彼らは、形質転換カルスからコムギ植物体を再分化すること
はできなかったものの、サザン分析によりカルス組織中に T-DNA を検出した。
このような、A. tumefaciens による単子葉植物形質転換の初期の研究は、遺伝子導入の明確な証拠
を提供したとはいえない。Potrykus (1990a and 1990b) は、A. tumefaciens による単子葉植物形質転換
に関する 2 報の批判的な総説を著し、これまでの研究報告例が、付着した A. tumefaciens の細胞によ
る遺伝子発現を、植物細胞における遺伝子発現と誤認した可能性が高いことや、植物細胞に潜在的
に感染している微生物への遺伝子導入を検出していた可能性があることを指摘した。したがって、
Potrykus は、1990 年の段階で A. tumefaciens による単子葉植物の安定的形質転換を示す如何なる明白
な証拠も存在しないと結論付けた。その後、ようやく、1993 年になって、Chan et al. が、A. tumefaciens
菌株を未熟胚へ接種することにより、2-3 個体の形質転換イネを獲得したことを報告した。彼らは、
たった 1 個体の形質転換植物の後代を解析したのみであるが、サザンハイブリダイゼーションによ
る後代植物への T-DNA の遺伝を証明した。
- 12 -
本研究の挑戦は、このような論議に決着を付け、A. tumefaciens を利用した効率のよいイネの形質
転換手法を開発することにある。DNA の直接導入による成功例の報告はあるものの、直接導入法に
依存していては、イネを用いた基礎研究や応用研究の発展や、バイオテクノロジーの活用によるイ
ネの改良の成功は期待できないからである。Potrykus は、どんな植物でも、形質転換が可能なのは、
一部の "competent" な細胞のみであり、双子葉植物の多くでは、付傷後の細胞増殖によっ
て、”competent”な細胞が得られると論じている。また、単子葉植物の形質転換が困難なのは、単子
葉植物であることが理由ではなく、付傷後の細胞増殖の欠如が原因であると推論している。そこで、
本研究では、比較的培養の容易な品種を用いて、適切な組織を選定し、培養法に工夫を加えること
により、分裂が活発で、かつ、植物再生の可能な細胞を得れば、”competent”な細胞が含まれるので
はないかとの仮説を検証することとした。そして、Potrykus の指摘に鑑み、再現性のある形質転換
の条件を明確化するための種々因子を検討し、詳細な分子生物学的な解析と遺伝学的な解析を組み
合わせ、イネの染色体への外来遺伝子の導入、遺伝子の発現と遺伝を証明することとした。
近年、本目的のために、非常に有用な技術が開発されている。大腸菌由来の GUS は、適切な基
質を用いて、発色あるいは蛍光検出により、簡便に活性を検出・測定できる酵素であるが、GUS 遺
伝子をそのまま用いた場合、A. tumefaciens の細胞中でも発現してしまうという欠点があった。Ohta
et al. (1990) は、イントロンを配置した GUS 遺伝子 (intron-gus) により、この問題を克服しており、
本研究でもこの遺伝子を利用した。
上述したように、パーティクルガン法により得られたトウモロコシやタバコ形質転換体では、非
メンデル遺伝の事例が観察されている (Spencer et al., 1992; Tomes et al., 1990) が、遺伝子組換え品種
の育成には、形質転換体における導入遺伝子が、メンデルの法則に従って世代を超えて安定に保持
され発現することが必要である。したがって、少なくとも 5 世代程度にわたる追跡調査が必要であ
る。
さらに、多様なイネの品種に対する研究ならびに改良に資するためには、すべての亜種や品種に
対応できる遺伝子導入法が求められる。第一段階としては、インディカおよびジャポニカの代表的
な品種について、遺伝子導入法を開発し、導入効率を調査する必要がある。
- 13 -
すでに論じたように、応用研究は勿論、ジーンターゲッティング法の開発などの基礎研究におい
ても、遺伝子導入実験の効率は、可能な限り高いことが要求される。供試植物組織片あたり 1 %以
上であれば、
所望の遺伝子を導入した植物の作出は一応可能であるが、10 %以上の効率がなければ、
再現性を十分に確保した実験設計にしたがって必要な個体数を確保するには多大な労力を要するで
あろう。供試植物組織片あたり平均 1 個体以上、さらに、それ以上の効率が実現できれば、労力の
低減だけでなく、新たな実験手法の開発が可能になるなど、効率の追求に終わりはない。
本研究は、高効率で幅広い品種に利用できる A. tumefaciens によるイネの形質転換方法を開発する
ことを目的として、上記の諸点について基礎的な知見を得るために実施したものである。
- 14 -
第 2 章 完熟種子由来カルスを用いた A. tumefaciens によるイネ
形質転換体の作出と解析
1.
緒 言
本研究の第1の課題は、これまで A. tumefaciens を用いてイネを形質転換することが困難であった
のは、イネを始めとする単子葉植物では付傷により細胞分裂が誘導されないため、双子葉植物と同
じ手法では、"competent" な細胞に A. tumefaciens を感染させることができなかったとの仮説の検証
である。もし"competent" な細胞が、活発に分裂・増殖を行い、かつ、植物体を再生する能力を持つ
細胞であるとすれば、付傷ではなく、適切な組織を培養する技術により、そのような細胞を獲得す
ることができると考えた。したがって、まず、適切な品種、細胞、組織の選定が肝要となり、組織
培養手法の活用が求められる。本章では、日本晴と同等の培養容易性を示すジャポニカ品種、
「月の
光」
、
「朝の光」と、実用性の観点から、日本で最も広く栽培されている「コシヒカリ」を用い、培
養経験のあるさまざまな組織や細胞を実験に供した。また、A. tumefaciens は、傷付いた宿主植物の
細胞から放たれる、アセトシリンゴンや α-ハイドロキシアセトシリンゴン のようなフェノール系の
シグナル物質に反応して、傷付いた植物に引き付けられ付着するとともにヴィルレンス遺伝子が活
性化することが知られている。したがって、イネ細胞に A. tumefaciens を付着させる際に、そのよう
なフェノール物質を与えることは必要条件であろうと考え、実験に供試した。
外来遺伝子の導入と発現の検出方法も大きな論点となっているので、本章では、intron-gus 遺伝子
の利用により、細菌細胞での発現を防ぎ、イネ細胞での外来遺伝子の発現のみを調査すること、サ
ザンハイブリダイゼーションにより核ゲノムへの外来遺伝子の組み込みを確認すること、導入遺伝
子が次世代に受け継がれ発現することを厳密に判断することとした。
また、形質転換効率が極端に低い場合、仮説の検証に疑義が生じる。再現性があり、かつ、今後
の基礎研究や応用研究に供するためには、仮説検証実験とはいえ、供試する組織片あたり、少なく
とも 10%以上の遺伝子導入効率が必要であり、10 個体以上の形質転換体について、詳細な解析が求
- 15 -
められる。さらに、導入された T-DNA の両端が、A. tumefaciens による遺伝子導入の特徴を示すこ
との確認も重要である。
本章は、このように仮説検証実験を設計し、A. tumefaciens による単子葉植物の形質転換方法にか
かる疑義に終止符を打つ証拠を提示することを目的とする。
2. 材料および方法
1) イネ品種と培地
ジャポニカ品種、
「月の光」
、
「朝の光」
、
「コシヒカリ」を形質転換に用いた。組織培養に用いた
培地は、表 2-1 に示した。
2) 茎頂、根および根由来カルス
完熟種子を脱頴し、70 %エタノールで 1 分間、0.1 % Tween 20 を含む 1.5 % 次亜塩素酸ナトリ
ウムで 30 分間処理することにより滅菌した。種子は、滅菌水で十分に洗浄した後、N6F 培地上に播
種し、25 °C 暗黒下で 3 日間培養し発芽させた。発芽種子から、茎頂と 2 ないし 3 枚の葉を含む直径
およそ 0.5 mm 長さおよそ 1 mm の組織片、および、5 mm ないし 10 mm の長さでメスにより切断し
て得た根の断片を形質転換実験に用いた。同様の根の断片を 2N6 培地上に置床し、30 °C 暗黒下で 3
週間培養することにより根由来のカルスを誘導し、活発に生長している直径約 1 mm のカルス塊を
形質転換実験に用いた。
3) 胚、胚盤由来カルス、懸濁培養細胞
上述のごとく滅菌した完熟種子の玄米を 2N6 培地上に置床し、30 °C 暗黒下で培養した。5 日後
に培養種子から胚を取り出し、形質転換実験に用いた。また、同様に 3 週間培養した後、胚盤から
増殖したカルスを新鮮な 2N6 培地に移植し、さらに 4 日間培養した。増殖により新たに形成された
直径 1 mm ないし 2 mm のカルス塊をピンセットで摘み取って形質転換実験に供試した。
胚盤由来の
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カルス塊を 2N6L 液体培地に懸濁し、25 °C 暗黒条件下で 125 rpm の速度で回転振盪培養し、培地を
7 日間ごとに交換した。3 ないし 4 回の継代の後、4 日間培養した対数増殖期の懸濁培養細胞を形質
転換実験に用いた。
4) 未熟胚
受精 10 日後の登熟中の種子の頴を除去し、70 %エタノール、および、0.1 % Tween 20 を含む 1 %
次亜塩素酸ナトリウムで滅菌した。約 1 mm 長の未熟胚を取り出し、形質転換実験に用いた。
5) A. tumefaciens 菌株およびプラスミド
A. tumefaciens 菌株として、LBA4404 (Hoekema et al., 1983)と EHA101 (Hood et al., 1986) を用い、
下記のプラスミドをこれらの菌株にエレクトロポレーション法により導入した (Sambrook et al.,
1989)。A. tumefaciens は、AB 培地 (Chilton et al., 1974) 上で 28 °C にて培養した。
カリフラワーモザイクウィルスの 35S プロモーターに、翻訳配列の N 末端領域にイントロンが
介在する GUS 遺伝子 (Ohta et al., 1990) を連結した。このレポーター遺伝子 intron-gus は、植物細胞
pIG121Hm
中でGUS 活性を示すが、
A. tumefaciens の細胞中ではGUS を発現しない (Ohta et al., 1990)。
(図 2-1) は、T-DNA 上に npt、hpt と intron-gus を有するプラスミドである。
pTOK162 (Komari, 1990b) は、Ti プラスミド pTiBo542 (Komari et al., 1986) のヴィルレンス遺伝子
のうち、virB と virG を有するバイナリーベクターである (An et al., 1988; Hoekema et al., 1983)。
pIG221 (Ohta et al., 1990) を EcoRI で消化し、T4 DNA ポリメラーゼで処理し、HindIII リンカー
(5’-CAAGCTTG-3’) で環状化した。得られたプラスミドを HindIII で消化し、intron-gus を有する 3.1
kb の断片を得た。この断片を pUC18 (Yanisch-Perron et al., 1985) に hpt を挿入した pGL2 (Bilang et al.,
1991) のHindIII部位へ挿入し、
pGL2-IGを獲得した。
pGL2-IGをLBA4404 (pTOK162) およびEHA101
(pTOK162) に導入した。得られた菌株は、相同組換えによる pTOK162 と pGL2-IG のコインテグレ
ート型のプラスミドを保有する。そのコインテグレート型を pTOK233 と命名した (図 2-1)。上述の
ように、pTOK233 は pIG121Hm と同様 T-DNA 中に npt、hpt および intron-gus を含む。
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6) 形質転換
A. tumefaciens 菌株 LBA4404 (pIG121Hm)、EHA101 (pIG121Hm)、LBA4404 (pTOK233)、EHA101
(pTOK233) を、50 mg/l ハイグロマイシンおよび 50 mg/l カナマイシンを含む AB 培地上で 3 日間培
養した。培養菌をマイクロスパーテルで集菌し、1 ml あたり 3.0 - 5.0 × 109 細胞の濃度で AAM 培地
に懸濁した。
上述したイネの組織片を、5 分間、細菌懸濁液に浸漬した。茎頂以外の組織片およびカルスは、
洗浄処理なしで、2N6-AS 培地 (表 2-1) に置床した。同様に、茎頂組織片は N6S3-AS 培地 (表 2-1)
に置床した。これらの培地には、Ti プラスミドのヴィルレンス領域の転写誘導物質であるアセトシ
リンゴンを 100 μM の濃度で添加した。25 °C 暗黒条件下で 3 日間共存培養後、組織片とカルスを 250
mg/l セフォタキシムを含む滅菌水で洗浄した。
「朝の光」および「月の光」については、茎頂組織片
を除くすべての組織片とカルスを 2N6-CH 培地 (表 2-1) に置床した。
「コシヒカリ」については、
茎頂組織片を除くすべての組織片とカルスを 2N6K-CH 培地 (表 2-1) に置床した。また、すべての
品種について、茎頂組織片を N6S3CH 培地に置床した。それぞれ、3 週間の 1 次選抜培養を行った。
なお共存培養後の培養は、25 °C 連続照明下 (およそ 3,000 lx) で行った。
「朝の光」および「月の光」
については、1 次選抜培地上で増殖した細胞塊を、摘み取って N6-7-CH 培地に置床し、10 日間の 2
次選抜培養を行った。
「コシヒカリ」については、N6-7K-CH 培地 (表 2-1) を用いた。2 次選抜にお
いて新たに増殖した細胞塊を、再分化培地である N6S3-CH (表 2-1) 上に置床した。得られた再分化
植物 (T0 世代) を土壌を充てんしたポットに移植し、温室内で開花結実まで栽培した。
7) ハイグロマイシン耐性についての後代試験
形質転換体の自殖種子 (T1 および T2 世代) を N6F 培地上に播種し、2 ないし 3 日後、種子を
N6F-H 培地に移植し、25 °C 連続照明下で培養した。抵抗性の実生の苗条と根は、選抜培地上で正常
に成長したが、感受性植物は枯死した。
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8) GUS 活性の分析
イネ細胞中の GUS の発現は、基質として X-Gluc を用い、基本的に Rueb and Hensgens (1989) に
より記載されている分析法で検出した。すなわち、イネの組織片を、1% Triton X-100 を含むリン酸
緩衝液 (50 mM NaPO4 pH6.8) 中に移し、37 °C で 1 時間保温した。緩衝液を除去し、1.0 mM X-Gluc
と 20 %メタノールを含む新しいリン酸緩衝液をイネの組織片に加えた。組織片が入った反応液を弱
い減圧処理下に 5 分間置いた後、37 °C で一晩保温した。GUS を発現している細胞は濃い青色を呈
した。葉片については、葉緑素を除去するため、99 %メタノールで 2 時間 2 回脱色処理した後に視
覚的に調査した。
9) DNA 抽出とサザンハイブリダイゼーション
DNA は、Komari (1989) により記載されている方法に従い葉組織から抽出した。得られた DNA
(5-20 μg)を HindIII で消化し、1.5 V/cm で 15 時間電気泳動することによって、0.65 %アガロースゲル
上に分画した。サザンハイブリダイゼーションは、Sambrook et al. (1989) に記載の方法により実施
した。hpt プローブとして pGL2-IG の 1.1 kb BamHI 断片を用い、gus プローブとして pGL2-IG の 1.9
kb SalI-SacI 断片を用いた。
10) 挿入 T-DNA の境界領域の配列解析
導入された T-DNA とイネゲノム DNA の境界領域を Isegawa et al. (1992) に記載のカセットライ
ゲーションを介する PCR 法により解析した。カセットとカセットプライマーは、タカラバイオ (京
都 、 日 本 ) か ら 購 入 し た 。 形 質 転 換 体 か ら 単 離 さ れ た DNA を MboI で 消 化 し 、
5’-GTACATATTGTCGTTAGAACGCGTAATACGACTCACTATAGGGA-3’
と
3’-CATGTATAACAGCAATCTTGCGCATTATGCTGAGTGATATCCCTCTAG-5’からなる Sau3AI カセ
ットに結合した。
最初のPCR のための反応液 (50 μl) は、
下記の反応液からなる。
テンプレートDNA 50 ng、
50 mM
KCl、10 mM Tris-HCl (pH 8.3)、1.5 mM MgCl2、0.01 % ゼラチン、各 0.2 mM の dGTP、dATP、dTTP、
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および、CTP、1 ユニットの Taq
DNA polymerase、各 10 pmol のカセットプライマーC1
(5’-GTACATATTGTCGTTAGAACGCG-3’) 、 プ ラ イ マ ー LS1 ( 左 ボ ー ダ ー 検 出 用 :
5’-TCAGTACATTAAAAACGTCCGCA-3’) 、 ま た は、 プ ラ イマー RS1 ( 右 ボ ー ダ ー検出 用 :
5’-GATCAGATTGTCGTTTCCCG-3’)である。94 °C 1 分間、60 °C 1 分間、そして 72 °C 1 分間の反応
を 30 サイクル行った。
第 2 の PCR は、テンプレートとして最初の PCR からの反応液 1μl、カセットプライマーC2
(5’-TAATACGACTCACTAGGGAGA-3’) 、 プ ラ イ マ ー LS2 ( 左 ボ ー ダ ー 検 出 用 :
5’-ACCATGGATCCGCAATGTGTTATTAAGTT-3’)、もしくはプライマーRS2 (右ボーダー検出用:
5’-TAGTCAGATCTGTCGTTTCCCGCCT-3’)を用いて実施した。テンプレートとプライマー以外 (反
応液の組成とサーマルサイクリングの詳細)は、最初の PCR と同一条件とした。PCR 産物は、クロ
ーニングベクターpCRII (インビトロジェン)にクローン化後、標準的方法 (Sambrook et al., 1989) に
より塩基配列を決定した。
3. 結 果
1) イネ組織への A. tumefaciens の接種とハイグロマイシン耐性かつ GUS 発現植物の作出
イネの種々の組織、すなわち、茎頂、実生の幼根断片、胚盤、未熟胚、幼根由来カルス、胚盤
から誘導したカルス、そして胚盤から誘導された懸濁培養細胞を、A. tumefaciens
EHA101
(pIG121Hm) (図 2-1)と共存培養し、GUS 遺伝子の発現を共存培養直後に調査した (図 2-2a, 表
2-2)。GUS 遺伝子の発現は、切断根を除いて調査したすべての組織で検出された。胚盤から誘導し
たカルスは、接種した組織数に対する GUS 発現組織数の割合が最も高かった。そして、未熟胚にお
ける GUS の発現は、主に胚盤において観察された。
A. tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) と共存培養したイネ組織は、ハイグロマイシンを含む培地
上で培養した。選抜培地上で細胞の増殖が観察されたのは、胚盤から誘導されたカルス (図 2-2b)、
未熟胚、懸濁培養細胞においてであった (表 2-2)。これらの中で、ハイグロマイシン耐性細胞の生
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出効率が最も高かったのは、胚盤由来カルスであった (23 %, 169/743)。選抜培地上で増殖した部位
は、GUS の均一な発現を示した (図 2-2c)。
2 種類の A. tumefaciens と 2 種類のバイナリーベクターによる 4 組み合わせからなる菌株を胚盤
由来カルスに接種、共存培養し、1 次選抜培地上で培養した。LBA4404 (pTOK233) (図 2-1) を感染
させたカルスにおいて、ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性な細胞の出現頻度が最も高かった (表
2-3)。LBA4404 (pTOK233) の卓越性は、培養が容易ではない品種「コシヒカリ」の場合により明確
であった。
1 次選抜で選抜された大部分の細胞塊が、2 次選抜培地上でも増殖した。耐性の細胞をハイグロ
マイシンを含む再分化培地に移植すると、高い効率で再分化植物を得ることができた (図 2-2d)。再
分化効率は、選抜された細胞塊の 50%から 80 %の範囲であった。その結果、GUS を安定的に発現
する数百のハイグロマイシン耐性植物が得られた。
このような植物体は、
最も高効率な菌株LBA4404
(pTOK233) では、試験したすべての品種について、共存培養した胚盤カルスの 12.8%~28.6%から得
ることができた (表 2-4)。ハイグロマイシン耐性細胞塊の多くは、GUS の組織化学的な分析によっ
て均一な青色を示し、一様に GUS を発現していた。しかし、一部の細胞塊は染色されない領域も含
んでいた。このような細胞塊は、外来遺伝子を発現している細胞と発現していない細胞のキメラで
あると考えられる。再分化植物体の葉または根の切片は、ほとんどの場合、試料全体が青く染まる
結果を示した (図 2-2e および f) 。しかし、多数の点状の染色が認められる場合など、部分的な GUS
発現も時おり観察された。
なお、予備試験の段階では、アセトシリンゴンを含まない共存培養培地も用いたが、共存培養後
の GUS 遺伝子の発現は全く観察されず、ハイグロマイシン耐性の細胞も一切得られなかった。
2) T0 世代における植物の特性
ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性の植物を、温室で栽培し、倍数性、形態、種子稔性につい
て評価した。調査対象は、EHA101 (pIG121Hm) と共存培養した「月の光」の胚盤由来カルスから得
られた 103 植物体、および、LBA4404 (pTOK233) との共存培養により得られた、
「月の光」由来の
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93 個体、および、
「コシヒカリ」由来の 103 個体である。フローサイトメトリーによる倍数性の解
析では、すべての植物体が 2 倍体であることが確認でき (結果非表示) 、形態異常を示す植物体は認
められなかった。種子稔性については、完全不稔から完全稔性まで変異が観察されたが、形質転換
体の多く (約 70 %) は、種子由来の対象植物と同等の種子稔性を示した (図 2-2g) 。また、部分不
稔を示した形質転換体は、ほとんどが後代で種子稔性を完全に回復した。
ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性の植物体を、サザンハイブリダイゼーションにより解析した。
例えば、EHA101 (pIG121Hm) と共存培養した「月の光」の胚盤カルス由来の 20 の独立なハイグロ
マイシン耐性カルスから得られた 29 個体のハイグロマイシン耐性植物から DNA を抽出した。各
DNA を HindIII で消化し、hpt と gus プローブを用いてハイブリダイぜーションを行った結果の一部
を図 2-3a およびb に示す。
pIG121Hm のT-DNA はHindIII 制限部位を一箇所だけ持っている (図 2-1)
ので、ハイブリダイズしているバンドの数は、T-DNA が反復して複数コピー導入されていない限り、
植物中に組み込まれた遺伝子のコピー数を反映する。
検出されたバンドのほとんどは、
pIG121Hm (図
2-1) の制限地図から期待される断片の最小サイズの 6.0 kb より長かった。ひとつの細胞塊から再分
化した複数の植物は、それらが同一の形質転換細胞由来であることを表す同一のバンドパターンを
示した。組み込まれた遺伝子のコピー数は 1 から 6 を示した (表 2-5) 。数個体の植物体では hpt プ
ローブとだけハイブリダイズするシグナルを持つものが見られ、他の少数の個体は、gus プローブと
だけハイブリダイズするシグナルを持っていた。そして、その断片のいくつかは、6.0 kb より短か
かった (結果非表示) 。これらの期待と異なる DNA 断片は、染色体への組み込み過程で T-DNA が
切断されたことにより生じたものと考えられる。
3) 導入遺伝子の遺伝
自殖後代植物について、ハイグロマイシン耐性と GUS 活性を評価した。20 の独立なハイグロ
マイシン耐性細胞塊から得られた 39 個体の植物の自殖次世代における導入遺伝子発現に関する分
離パターンを表 2-5 に示す。ハイグロマイシン耐性とハイグロマイシン感受性の実生は、ハイグロ
マイシンを含む寒天培地上で容易に判別できた (図 2-2h) 。そして、20 の独立な形質転換体のうち
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12 の形質転換体の後代が 3:1 の分離を示した。後代の大部分が GUS 陽性と GUS 陰性の明瞭な分離
を示した。そして、推定された遺伝子座の数は、ハイグロマイシン耐性に基づき推定された遺伝子
座の数と矛盾しない結果であった。
推定された遺伝子座の数は、いくつかの植物ではサザン解析により得られた遺伝子のコピー数よ
り少なかった。これは、そのような植物では 2 コピー以上の遺伝子が、お互いに近接して 1 染色体
上に組み込まれたことによるものと考えられる。少数の植物では、メンデルの法則では説明できな
い分離比を示した (表 2-5, 植物 11、18a および 19e)。例えば 19e の後代では、ハイグロマイシン耐
性の植物数が、ハイグロマイシン感受性の植物数より少なかった。異常な分離比を示した T1 植物の
典型的な例を図 2-5 に示した。ハイグロマイシン耐性について異常な分離比を示した T1 植物 (表
2-5, 11, 18a および 19e; 図 2-5a) では、GUS 活性の分離比についても異常な結果を示した。それら
の植物の中には、GUS 遺伝子を点状に発現する個体が含まれていた (図 2-5b, c)。
1b、3a、8a、9、10c および 12a の T1 植物は、ハイグロマイシン耐性と GUS 発現の両方において
3:1 または 15:1 分離パターンを示した。これらは、サザンハイブリダイゼーションにより解析を行
ったので、その結果の一部を図 2-4 に示す。ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性後代のすべてにお
いて、hpt と gus プローブにハイブリダイズするバンドが得られた。これに対して、ハイグロマイシ
ン感受性かつ GUS 陰性の後代ではハイブリダイズするバンドは検出されなかった。
ハイグロマイシン耐性と GUS 発現についての明瞭なメンデル型の遺伝的分離は、1a、3a、9、10c
および 12a の T2 世代でも観察された。例えば、10c からのハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性の
T1 植物のうち 2/3 の T2 植物では、ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性 とハイグロマイシン感受
性かつ GUS 陰性の比率が 3:1 の割合であった (表 2-6)。残りの 1/3 の T2 後代植物は、すべてハイ
グロマイシン耐性かつ GUS 陽性を示し、遺伝子導入された染色体がホモ接合型で固定していた。10c
からのハイグロマイシン感受性かつ GUS 陰性の T1 植物の T2 植物は、すべてハイグロマイシン感
受性であり GUS 活性についても陰性であった。
4) T-DNA との境界領域の解析
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イネのゲノム DNA と T-DNA の境界領域を、選ばれた形質転換体から増幅し、塩基配列を決定し
た。EHA101 (pIG121Hm) により形質転換したイネの T-DNA の 3 つの右ボーダーと 5 つの左ボーダ
ーのイネゲノム DNA との境界配列を、pIG121Hm の T-DNA ボーダーの由来である pTiT37 (Yadav et
al., 1982; Zambryski et al., 1982) の配列と共に図 2-6 に示す。右ボーダーの境界は、3 つともタバコの
形質転換体で観察された配列に正確に一致していた (Yadav et al., 1982; Zambryski et al., 1982)。5 つの
左ボーダーの境界も、タバコ形質転換体で既に報告されている左ボーダー境界と同様に、25 bp のボ
ーダー配列中に存在した (Yadav et al., 1982; Zambryski et al., 1982)。
4. 考 察
A. tumefaciens を介した遺伝子導入法は、高効率で形質転換できる、限定された末端を持った DNA
断片を導入できる、相対的に大きな断片が導入できる、そしてプロトプラスト培養技術が不要であ
るなど、他の方法に比して有利な点が多い。しかしながら、単子葉植物が自然界では A. tumefaciens
の宿主ではないため、A. tumefaciens が単子葉植物を形質転換できるのかどうかは、重大な論争の的
であった。本研究では、ジャポニカの 3 品種を用い、A. tumefaciens を介する方法により数百に及ぶ
独立な形質転換体を獲得することができた。そして、20 以上の植物について詳細に調査を行った結
果、外来 DNA がイネ染色体の中に安定的に組み込まれたこと、その DNA が子孫へメンデル遺伝し
たことを明瞭に示すことができた。Chan et al. (1993) による予備的な知見と合わせ、長く続いてき
た論争がイネにおいて決着したといえる。
本研究は、まず、感染に供する組織の選択に着目し、様々な組織片について、A. tumefaciens との
共存培養に対する反応性を調査した。接種直後の供試組織における GUS 発現は、好ましい組織を選
ぶための良い指標であった。とりわけ、intron-gus (Ohta et al., 1990) は、イネ細胞で強く発現するが、
組織に付着している A. tumefaciens 細胞中では発現しないので、
大変便利なマーカー遺伝子であった。
GUS の初期の発現は多くの供試組織で認められ、中でも、胚盤由来のカルス、茎頂、未熟胚におい
て比較的高い頻度で観察された。形質転換の成功を報じた以前の論文でも (Chan et al., 1993; Gould et
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al., 1991; Raineri et al., 1990) 、これら組織で GUS の初期の発現が観察されている。しかしながら、
未熟胚からは、少数の形質転換体が得られたのみであり、茎頂からは形質転換体は得ることはでき
なかった。本研究の結果は、胚盤から生じたカルスが A. tumefaciens によるイネの形質転換のための
非常に優れた材料であることを明確に示している。イネの組織培養実験では、胚盤由来の旺盛に増
殖するカルスを基点に、懸濁細胞やプロトプラストの調製や、再分化実験を行うのが一般的である。
したがって、A. tumefaciens による形質転換に好適であったのは、研究着手にあたり設定した仮説の
とおり、活発に分裂・増殖を行い、かつ、植物体を再生する能力を持つ細胞であった。一方、他の
研究では必須であることが見出されていた (Chan et al., 1993; Moony et al., 1991; Raineri et al., 1990)
組織の前処理、例えば、付傷、細胞壁の酵素処理、などは不要であった。
イネの染色体への T-DNA の組み込みは、サザンハイブリダイゼーション、遺伝解析、および、
T-DNA の左右ボーダー配列と植物 DNA との境界部位の解析によって証明した。サザンハイブリダ
イゼーションにより得られたパターンは、形質転換体間で異なっており、T-DNA がイネのゲノム中
のさまざまな部位に組み込まれたことを示している。この実験において、hpt と gus プローブにハイ
ブリダイズした DNA 断片が、形質転換に用いられた A. tumefaciens の DNA の混入によるものでは
ないことは明らかである。もしそうなら、用いた菌株中のベクターは、サザン解析により一定の大
きさの断片として現れるからである。例えば、pIG121Hm からは 15 kb のバンドが現れるはずである。
T1 と T2 植物の遺伝解析において、ハイグロマイシン耐性と GUS 発現は、メンデルの法則にしたが
って分離し、イネの染色体への T-DNA の組み込みの決定的な証拠を提供した。そして T1 世代のサ
ザン解析の結果は、遺伝解析の結果と一致していた。さらに、T-DNA の左右ボーダー配列とイネ
DNA との境界部位は、双子葉植物で既に観察されていたものと同様な特徴を示すことが判明した。
一方、少数の個体については、サザンハイブリダイゼーションにおいて T-DNA の部分的削除など
DNA の再編成が生じた可能性が示されたり、導入遺伝子のキメラ状の発現や、その後代におけるメ
ンデルの法則従わない遺伝の様相が観察された。このような現象は、双子葉植物における A.
tumefaciens を介した遺伝子導入の場合にも認められているものであり(Deroles and Gardner, 1988;
Komari, 1989; Komari, 1990a; Schmülling and Schell, 1993; Finnegan and McElroy, 1994; Flavell, 1994)、単
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子葉植物の遺伝子導入において特異に認められる現象ではない。
A. tumefaciens の T-DNA の転移過程は、双子葉植物が産生するフェノール物質によるヴィルレンス
遺伝子の活性化から始まるとされている (Stachel et al., 1985)。本研究では、ヴィルレンス遺伝子活
性能を持つ物質アセトシリンゴンを共存培養培地に加えた場合のみ形質転換体が得られた。この結
果は、単子葉植物の形質転換が困難であった理由のひとつが、このようなフェノール物質の産生能
の欠如であることを示している。また、上述した実験結果とともに、T-DNA が A. tumefaciens から双
子葉植物にも単子葉植物にも同一の分子機構によって転移するという仮説を、強く支持している。
Waterhouse et al. (1998) および Wang and Waterhouse (2000) は、形質転換体における GUS 遺伝子の
不安定な発現の原因を探るため、GUS 遺伝子を導入したイネの形質転換カルスに、さらに、GUS
遺伝子を導入して遺伝子発現に対する影響を調査した。この際、通常のセンス方向に発現する遺伝
子、に加えて、アンチセンス RNA を発現する遺伝子、同一方向または反対方向に重複させた遺伝子
等を用いたところ、どの場合も、遺伝子発現が抑制されたカルスが頻出した。そして、反対方向に
重複させた遺伝子の場合にその頻度が高かったことから、RNA の 2 本鎖形成が介在する RNA 干渉
(Eamens et al., 2008)によるものと考察している。本研究において認められた点状発現の個体は、
概して、外来遺伝子の導入コピー数が多かったことから、やはり、RNA 干渉によって GUS の発現
が不安定となったのかもしれない。
形質転換の成功に続く課題は、形質転換の効率の向上であり、組織培養条件や共存培養条件の最
適化は決定的に重要であった。培地の組成は、とくに、この研究の予備実験段階で、概して反応が
良好ではなかった品種「コシヒカリ」の培養の成否に影響した。ジャポニカ品種の多くの高品質な
品種が「コシヒカリ」に近縁であるので、ここに記載した方法は、イネの品種改良において大いに
有用であろう。共存培養に関係する重要な条件のひとつとして、22 ℃~28 ℃の温度があげられる。
この範囲より高いもしくは低い温度で共存培養が行ったとき、形質転換体は得られなかった。Chan et
al. (1993) は、ジャガイモの懸濁培養細胞から得られる培地抽出物の添加が必須であったことを示し
たが、本研究ではそのような添加物を必要としなかった。
A. tumefaciens の中には、他の菌株よりも病原性の高い菌株があり、そのような菌株に由来する Ti
- 26 -
プラスミドpTiBo542 の能力は、
以前の報告 (Chan et al., 1993; Gould et al., 1991; Raineri et al., 1990) に
おいても重要視されてきた。Ti プラスミド pTiBo542 を持つ菌株の形質転換効率が高いことが報告さ
れて以来 (Jin et al., 1987; Komari 1989)、pTiBo542 を基にした 2 種類の新しい手法が開発された。ひ
とつは、pTiBo542 から野生型の T-DNA を削除した EHA101 菌株 (Hood et al., 1986) の利用である。
この菌株は、単子葉植物の形質転換を目的にする試験によく用いられてきた。2 つ目は、スーパー
バイナリーベクターである。
これは、
従来型バイナリーベクター (An et al., 1988; Hoekema et al., 1983)
に、pTiBo542 のヴィルレンス遺伝子の一部を挿入したものである (Komari 1990b)。本研究では、ど
ちらも試験することとし、通常の菌株 LBA4404 (Hoekema et al., 1983)と菌株 EHA101 との比較と、
通常のバイナリーベクターpIG121Hm とスーパーバイナリーベクターpTOK233 との比較を行った。
品種「月の光」を用いた時、に LBA4404 (pTOK233)は、LBA4404 (pIG121Hm) や EHA101 (pIG121Hm)
より、わずかに効率が高かった。そして、LBA4404 (pTOK233) は、品種「コシヒカリ」を用いた場
合には、明らかに最も効率が高かった。よって、スーパーバイナリーベクターの効果は、培養が「難
しい」品種において顕著であった。EHA101 (pTOK233)は、期待に反してイネの形質転換に全く効果
的ではなかった。この原因は不明であるが、形質転換にはベクターと菌株の選択が大変重要である
ことを示している。
本研究では、3 品種のイネについて、A. tumefaciens を接種した胚盤由来カルスを用いて、10-30 %
の効率で安定的に形質転換体を作出する方法を開発した。組織培養の複雑な操作は不要であり、1
回の実験で 20 以上の独立な形質転換体を容易に作出することができた。この効率は、A. tumefaciens
を用いた双子葉植物の形質転換の効率と比し遜色はない。さらに、この方法により作出された植物
の大部分が形態的に正常であり、不稔も少なかった。これは、おそらく、組織培養の期間が短く、
いわゆる培養変異の影響を受けにくかったためであろう。プロトプラストを介する形質転換方法で
は少なくとも 6 ヶ月を必要とするのに対し、本研究のカルス誘導開始から再分化個体の土壌への移
植はおよそ 4 ヶ月であった。以上のように、本研究により、A. tumefaciens を介する遺伝子導入法は、
イネの遺伝的改変のための容易で日常的手法として利用可能となったのである。
- 27 -
表 2-1. イネ組織培養および形質転換に用いた培地
培養ステップ 培地
組成
菌懸濁および AAM
AA 無機塩およびアミノ酸 (Toriyama and Hinata, 1985)、MS ビタミン
接種
(Murashige and Skoog, 1962)、500 mg/l カザミノ酸、68.5 g/l ショ糖、36
g/l グルコース、0.1 mM アセトシリンゴン、pH 5.2
種子発芽およ N6F
N6 主要無機塩、N6 微量無機塩、N6 ビタミン (Chu 1978)、20 g/l ショ
び発根
糖、2 g/l ゲルライト (Merck 社)、pH5.8
発根
N6F-H
40 /l mg ハイグロマイシン B を含む N6F 培地
再分化
N6S3
1/2 濃度 N6 主要無機塩、N6 微量無機塩、N6 ビタミン、AA アミノ酸、
1 g/l カザミノ酸、20 g/l ショ糖、0.2 mg/l NAA、1 mg/l カイネチン、3 g/l
ゲルライト、pH5.8
共存培養
N6S3-AS
10 g/l グルコースおよび 0.1 mM アセトシリンゴンを含む N6S3 培地
(再分化)
再分化
N6S3-CH
250 mg/l セフォタキシムおよび 30 mg/l ハイグロマイシン B を含む
N6S3 培地
2 次選抜
N6-7-CH
N6 主要無機塩、N6 微量無機塩、N6 ビタミン、2 g/l カザミノ酸、20 g/l
ショ糖、30 g/l ソルビトール、1 mg/l 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸
(2,4-D)、0.5 mg/l BA、60 mg/l ハイグロマイシン B、250 mg/l セフォタ
キシム、2 g/l ゲルライト、pH5.8
カルス誘導
2N6
N6 主要無機塩、N6 微量無機塩、N6 ビタミン、1 g/l カザミノ酸、30 g/l
ショ糖、2 mg/l 2,4-D、2 g/l ゲルライト、pH5.8
2N6L
ゲルライトを含まない 2N6 培地
共存培養
2N6-AS
10 g/l グルコースおよび 0.1 mM アセトシリンゴンを含む 2N6 培地
1 次選抜
2N6-CH
250 mg/l セフォタキシムおよび 30 mg/l ハイグロマイシン B を含む
2N6 培地
コシヒカリ
2N6K-CH
1/2 濃度 N6 主要無機塩、N6 微量無機塩、N6 ビタミン、1 g/l カザミ
1 次選抜
ノ酸、200 m/l バレイショ抽出物 a、30 g/l ショ糖、2 mg/l 2,4-D、250 mg/l
セフォタキシム、30 mg/l ハイグロマイシン B、2 g/l ゲルライト、p
H5.8
a
:バレイショ抽出物は以下のようにして準備した。200 g のバレイショ塊茎の皮を剥き、1-2 cm3 の大
きさに切断、1,000 ml の水と混合し120 °C で 10 分間オートクレーブした。その上澄みを培地に添加
した。
- 28 -
表 2-2. A. tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) との共存培養直後のイネ組織 (品種「月の光」) における
GUS の発現および GUS 陽性かつハイグロマイシン耐性細胞の獲得
組織数
共存培養直後
選抜培養3 週間後
組織
共存培養 GUS 陽性 共存培養
(%) GUS 陽性、 共存培養
(%)
日数
HygR カルス
茎頂
2
40
80
(50)
茎頂
5
69
77
(90)
0
77
(0)
幼根断片
3
0
100
(0)
胚盤
3
8
89
(9)
0
128
(0)
未熟胚
3
66
198
(33)
3
51
(6)
幼根カルス
3
24
115
(21)
胚盤カルス
3
497
533
(93)
169
743
(23)
懸濁培養細胞
3
61
247
(25)
22
254
(9)
HygR:ハイグロマイシン耐性
- 29 -
表 2-3. 種々のA. tumefaciens 菌株で接種した胚盤由来カルスからのGUS 発現かつハイグロマイシン
耐性 (HygR) カルスの生出
GUS 陽性かつ HygR カルスを生出したカルス数
/接種したカルス数 (%)
イネ品種
試験
LBA4404
EHA101
LBA4404
EHA101
(pIG121Hm)
(pIG121Hm)
(pTOK233)
(pTOK233)
月の光
1
10/521 (2)
141/540 (26)
22/605 (4)
コシヒカリ
2
56/187 (30)
114/324 (35)
44/254 (17)
3
20/325 (6)
100/349 (29)
3/314 (1)
4
91/338 (27)
139/301 (46)
110/305 (52)
5
59/421 (14)
66/425 (16)
108/360 (31)
30/260 (12)
6
64/295 (22)
66/251 (26)
108/263 (41)
30/260 (11)
7
63/436 (14)
172/394 (44)
229/397 (58)
45/420 (11)
8
61/236 (26)
65/241 (27)
65/143 (45)
27/219 (12)
1
6/269 (2)
7/271 (3)
65/283 (23)
2
3/262 (1)
18/310 (6)
60/273 (22)
3
5/197 (3)
11/176 (6)
34/138 (25)
4
2/177 (1)
16/140 (11)
49/215 (23)
HygR:ハイグロマイシン耐性
- 30 -
3/251 (1)
3/162 (2)
表 2-4. A. tumefaciens LBA4404 (pTOK233) によるイネの形質転換効率
胚盤由来カルスの数
イネ品種
試験
接種 HygR カルス
HygR 植物
HygR かつ GUS 陽性
(A)
生出
生出
植物生出(B)
月の光
1
42
20
15
12
朝の光
コシヒカリ
効率
(B/A, %)
28.6
2
112
35
19
15
13.4
3
64
48
24
18
28.1
4
65
48
24
18
20.0
5
45
18
10
7
15.6
6
88
24
21
16
18.2
1
86
19
11
11
12.8
2
77
23
17
15
19.5
1
74
16
13
13
17.6
2
138
34
26
26
18.8
3
215
49
40
40
18.6
HygR:ハイグロマイシン耐性
- 31 -
表 2-5. A.tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) により作出した品種「月の光」の形質転換体における導入遺伝子
の推定コピー数および後代におけるハイグロマイシン耐性と GUS 発現の分離パターン
ハイグロマイシン耐性
GUS 発現
遺伝子座の
T0 世代における
T1 世代における
遺伝子座の
T1 世代における植物数
数
コピー数
植物数
数
+
C
HPT
GUS
R
S
1a
1
1
58
22
1
15
5
1
1b
NT
NT
42
18
1
14
6
1
2
4
6
48
22
1
13
7
1
3a
2
2
28
2
2
18
2
1-2
3b
NT
NT
29
1
2-3
19
1
2
4a
4
5
27
3
1-2
18
2
1-2
4b
NT
NT
39
1
2-3
20
0
2-3
5
2
2
30
0
2-3
19
1
2-3
6a
2
1
46
4
2
14
6
1
6b
NT
NT
37
3
2
15
5
1
6c
NT
NT
38
2
2-3
12
8
1
7a
2
2
42
18
1
17
3
1-2
7b
2
2
32
8
1
13
7
1
8a
1
1
76
24
1
15
5
1
8b
1
1
36
14
1
15
5
1
9
2
2
23
7
1
15
5
1
10a
2
1
36
14
1
17
3
1-2
10b
2
1
32
8
1
16
4
1
10c
2
1
72
28
1
14
6
1
11
6
6
89
41
1
2
14
4
?
12a
1
1
40
10
1
15
5
1
12b
1
1
70
20
1
13
7
1
13
2
2
47
13
1
16
4
1
14
4
4
30
10
1
15
5
1
15
1
1
54
26
1
15
5
1
16a
2
2
42
18
1
15
5
1
16b
2
2
31
9
1
15
5
1
16c
NT
NT
21
9
1
14
6
1
16d
NT
NT
31
9
1
15
5
1
17a
2
1
45
5
2
17
3
1-2
17b
NT
NT
40
0
2-3
15
5
1
18a
3
3
29
21
?
7
6
7
?
18b
3
3
48
12
1
16
4
1
19a
3
2
26
14
1
17
3
1-2
19b
3
2
36
14
1
17
3
1-2
19c
3
2
31
9
1
17
3
1-2
19d
NT
NT
27
13
1
15
5
1
19e
NT
NT
8
32
?
0
13
7
?
20
2
2
47
13
1
16
4
1
アルファベットのみが異なる表示の個体は、同一ハイグロマイシン細胞塊から再生した形質転換体である。
R:耐性、S:感受性、C:ドット状発現、NT:非試験区
形質転換体 a
- 32 -
表 2-6. A.tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) により作出した品種「月の光」の形質転換体 10c の T2 世代
におけるハイグロマイシン耐性と GUS 発現の分離パターン
明らかとなったT1 の
カイ自乗
T1 の表現型
T2 植物数
系統番
遺伝子型
値
号
GUS
Hyg
GUS+
GUS(3:1)
(T1)
HygR
HygS
10c-1
+
R
27
12
0.692
gus/hpt/10c-3
+
R
31
8
0.419
gus/hpt/10c-4
+
R
30
9
0.077
gus/hpt/10c-5
+
R
25
10
0.238
gus/hpt/10c-7
+
R
28
11
0.214
gus/hpt/10c-8
+
R
27
9
0.000
gus/hpt/10c-9
+
R
28
10
0.035
gus/hpt/10c-10
+
R
32
8
0.533
gus/hpt/10c-11
+
R
28
11
0.214
gus/hpt/10c-13
+
R
31
9
0.133
gus/hpt/10c-15
+
R
27
8
0.086
gus/hpt/10c-17
+
R
32
8
0.533
gus/hpt/10c-2
+
R
39
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-6
+
R
39
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-12
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-14
+
R
35
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-16
+
R
38
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-18
+
R
37
0
gus/gus
hpt/hpt
10c-19
S
0
40
-/-/10c-20
S
0
37
-/-/GUS+:GUS 陽性、GUS-:GUS 陰性、HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性。
- 33 -
(a)
(b)
図 2-1. pIG121Hm (a)および pTOK233 (b)の T-DNA 領域
図中の略号:
BR:右ボーダー、BL:左ボーダー、NPTII:ネオマイシンリン酸基転移酵素、NOS:ノパリ
ン合成酵素のプロモーター、35S:35S プロモーター、TNOS:ノパリン合成酵素の 3’シグナ
ル、T35S:35S RNA の 3’シグナル、ORI:ColE1 の複製開始起点、AmpR:アンピシリン耐
性遺伝子 (大腸菌中で活性を有する)、B:BamHI、H:HindIII、S:SalI、Sc:SacI、X:XbaI。
- 34 -
(a)
(b)
(e)
(f)
(c)
(g)
(d)
(h)
図 2-2. A. tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) と共存培養したイネ品種「月の光」の胚盤由来
カルス、カルスに由来する形質転換細胞および植物
(a):感染後の GUS 発現。3 日間共存培養したカルスを X-Gluc で染色した。
(b):ハイグロマイシン耐性細胞塊。共存培養後カルスを選抜培地上に置床した。写真は、3
週間の選抜の後に撮影された。
(c):ハイグロマイシン耐性細胞塊における GUS 発現。3 週間の選抜の後、カルスから増殖し
た細胞塊を X-Gluc で染色した。
(d):植物体の再分化。写真は、選抜細胞を再分化培地に移してから 4 週間後に撮影した。
(e):形質転換体の葉における GUS 発現。形質転換植物体の葉片 (写真上側) と非形質転換植
物体の葉片 (写真下側) を X-Gluc で染色した。
(f):形質転換体の根における GUS 発現。形質転換植物体の根の切片を X-Gluc で染色した。
(g):登熟した形質転換体。
(h):後代のハイグロマイシン耐性試験。非形質転換体の後代種子 (左) と形質転換体の後代
種子 (右) を選抜培地に置床し、3 日後に写真を撮影した。
(Bar = 1 mm)
- 35 -
(a)
(b)
図 2-3. 形質転換体 (T0 世代) のサザン解析
非形質転換体 (C) と形質転換体 (1a-12b) からの DNA を HindIII で消化し、電気泳動にて分
画、ナイロンメンブレンに転写した後、hpt (a) または gus (b) プローブを用いてハイブリダ
イズさせた。
- 36 -
(a)
(b)
図 2-4. 形質転換体 3a, 9 および 12a の T1 世代のサザン解析
T0 形質転換体 (0)、ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性の T1 後代 (1, 2, 5 および 6)、ハイ
グロマイシン感受性かつ GUS 陰性の T1 後代 (3, 4) の DNA を HindIII で消化、電気泳動にて
分画し、ナイロンメンブレンに転写した後、hpt (a) または gus (b) プローブを用いてハイブ
リダイズさせた。
- 37 -
(b)
(a)
1 2
(c)
3
4
5
6
(d)
図 2-5. A. tumefaciens EHA101 (pIG121Hm) によるイネ品種「月の光」形質転換体#11 (表 2-5)
の T1 における導入遺伝子の発現
(a):3 日間 N6-F 培地で培養し、発芽種子を N6F-H 培地 (40 mg/l ハイグロマイシン含有)へ
移植後、8 日目の実生。1 および 2:ハイグロマイシン感受性個体、3 および 4:ハイグロマ
イシン感受性だが hpt の弱い発現を示唆する個体、5 および 6:ハイグロマイシン耐性個体
(b):ハイグロマイシン耐性個体の葉における GUS 発現
(c):ハイグロマイシン感受性だが hpt の弱い発現を示唆する個体の葉における GUS 発現
(d):葉における GUS の発現が点状を示した個体の根における GUS 発現、10 日間 N6-F 培地
で培養した個体より得た。
(Bar = 1 mm)
- 38 -
図 2-6. T-DNA と植物 DNA の境界部位の配列解析
選ばれたイネ形質転換体において見出された境界部位の DNA 配列を pTiT37 の T-DNA ボー
ダーの配列の下に示す。イネゲノム DNA に起源すると思われる配列をアルファベットの小
文字で示し、T-DNA かイネゲノム DNA のどちらかに起源すると思われる塩基についてはイ
タリック体で示した。タバコ形質転換体における右側境界部位のコンセンサス配列を pTiT37
とイネの配列の間に示した。
「n」はいずれかのヌクレオチドであることを示す。
*:イネ植物 11 は T-DNA を多コピー有しており、2 つの左側境界領域について配列を決定
した。
- 39 -
第 3 章 形質転換イネにおける導入遺伝子の安定的遺伝
1.
緒 言
A. tumefaciens を介して双子葉植物に導入された遺伝子は、多くの報告において、メンデルの法則
に従って安定して遺伝すること記載されている (De Block et al., 1984; Budar et al., 1986; Chyi et al.,
1986; Feldmann and Marks, 1987; Muller et al., 1987)。それに対して、DNA の直接導入法では、導入さ
れた遺伝子が高頻度で非メンデル遺伝を示すという結果が数例報告されていた。例えば、パーティ
クルガン法で得られたトウモロコシの形質転換体では、導入された bar 遺伝子と GUS 遺伝子の発現
が不安定なため、後代ではわずかな個体のみが遺伝子発現を示したことが報告された (Spencer et al.,
1992)。パーティクルガン法で形質転換したタバコでは、2 個体のうち 1 個体からの T1 世代でカナ
マイシン感受性の個体が多く分離したと報告されている (Tomes et al., 1990)。イネでは、プロトプラ
ストでPEG 法により作出した3 個体の形質転換体を用いて、
T3 世代まで導入遺伝子 (gus とnptII) の
発現が解析された (Peng et al. 1995)。
しかし、
2 個体の形質転換体の後代で異常な分離が観察された。
第 2 章では、A. tumefaciens を介してジャポニカ品種が効率よく形質転換できること、導入した遺
伝子が T1 および T2 世代へメンデル遺伝したことを確認した。本章では、イネにおいても、A.
tumefaciens による双子葉植物の形質転換体と同様に、数世代にわたり安定して導入遺伝子が保持さ
れるのかどうかを明らかにするため、T4 世代まで、植物体再生から 5 世代にわたって導入遺伝子の
遺伝と発現ならびにその安定性について、大規模な解析を実施した。
2. 材料および方法
1) イネの形質転換
形質転換の材料には、品種「月の光」および「コシヒカリ」の完熟種子の胚盤から誘導したカル
スを用いた。A. tumefaciens 菌株として、LBA4404(pTOK233) と EHA101(pIG121Hm) を用い (第 2
- 40 -
章の図 2-1 参照)、第 2 章の材料および方法に従い形質転換を実施した。
2) 後代の解析
形質転換体の後代種子を N6F 培地 (第 2 章 表 2-1 参照) 上で無菌培養 (第 2 章 材料および方法
参照) し、発芽発根した実生を得た。実生のハイグロマイシン耐性は、1 mm 長の幼根を実生から切
除し、その幼根切片を 40 mg/l ハイグロマイシンを含む 2N6 培地上で 3 週間 30 °C 暗条件下で培養す
ることにより評価した。ハイグロマイシン耐性の実生の根切片は黄色身を帯びたカルスを形成した
が、ハイグロマイシン感受性の実生の根切片は、白色のまま何の反応も示さなかった。(図 3-1a)。
GUS 発現は、実生の地上部の葉片を用いて検定した (第 2 章 材料および方法参照)。
3) サザンブロット解析
形質転換体の葉から抽出した 10 μg の DNA を HindIII あるいは XbaI で消化し、1.1 V/cm で 16 時
間電気泳動することにより 0.7 %アガロースゲル上に分画した。その後、hpt および gus プローブを
用いてサザンハイブリダイゼーションを実施した (第 2 章 材料および方法参照)。
3. 結果および考察
1) 形質転換当代(T0)
LBA4404 (pTOK233)を介して品種「月の光」へ遺伝子導入し、GUS 陽性かつハイグロマイシン耐
性の独立な形質転換植物 20 個体 (集団 T) を得た。 同様に、EHA101 (pIG121Hm)を用いて「月の光」
の独立な形質転換植物 20 個体 (集団 E) を得た。また、LBA4404 (pTOK233)を介して品種「コシヒ
カリ」へ遺伝子導入し、20 の独立な形質転換体 (集団 K) を得た。これらの T0 植物の葉からゲノム
DNA を抽出し、
サザンハイブリダイゼーションによって、
導入した gus および hpt の解析を行った。
その結果、導入した遺伝子の数は、1 コピーから 6 コピーまで多様であることがわかった (表 3-1
および表 3-2)。しかし、過半数の形質転換体では 1 ないし 2 コピーを示した。数個体の植物は、hpt
- 41 -
と gus のコピー数を異にしていた。形質転換過程における DNA の再編成によるものと考えられる。
2) T1 世代
T0 植物の自殖後代 (T1) を、ハイグロマイシン耐性と GUS 活性で評価した。K 系統群 (コシヒカ
リ形質転換体) の次世代における分離パターンを表 3-1 に示す。GUS 陽性とハイグロマイシン耐性
は、メンデルの法則に則った明瞭な共分離した。すなわち、根切片からハイグロマイシン耐性カル
スを形成した T1 植物の葉切片は、切り口が青く呈色したことから葉片全体に GUS 活性を有するも
のと判断された(第 2 章 図 2-5b 参照)
。また、ハイグロマイシン感受性の T1 植物は、根切片が白
色のまま何の反応も示さず、葉切片の GUS 活性も陰性であった。このような導入遺伝子の表現型調
査の結果、20 個体の T0 に由来する T1 系統群のうち 13 系統が 3:1 (導入遺伝子について、陽性:陰
性) の分離比を示した (表 3-1)。しかし、1 系統 (K3)においては、39 の T1 個体中 31 個体で、根切
片が白色のままではなく褐変を呈したと共に、葉で GUS 遺伝子の点状の発現を示した (表 3-1、第
2 章 図 2-5c 参照)。残りの 8 個体は、両遺伝子について陰性であった。この系統の褐変を呈した根
切片の中には、少量の小さなカルスを形成するものがあったことから、褐変は hpt 遺伝子の弱い発
現の結果であると考えた。よって、系統 K3 は弱いハイグロマイシン耐性を伴う点状 GUS 発現:ハ
イグロマイシン感受性かつGUS 陰性の分離比で 3:1 を示したと判断した。
これと同様な GUS と HPT
の発現は、集団 E の系統 E5 の T1 世代でも観察された。
形質転換体の 3 集団の T1 世代の解析結果を、表 3-2 に要約した。推定された遺伝子座の数は、
いくつかの系統において T0 のサザンブロット解析で判断したコピー数よりも少なかった。そのよう
な植物では、2 コピー以上の遺伝子が同一染色体上で互いに近接して組み込まれたものと推測され
る。GUS 遺伝子と HPT 遺伝子の数が、2 ないし 3 のケースで異なっていたが、T-DNA の再編成に
よるものと推測される。
3) T2 世代
3:1 の分離比を示した 15 個体 (E:5 個体、K:5 個体、T:5 個体) の T0 由来の T1 系統群およ
- 42 -
び 15:1 の分離比を示した 3 個体 (E:1 個体、K:1 個体、T:1 個体) の T0 個体の T1 系統群を成熟
するまで栽培した。これらの系統群から得た T2 世代の植物を評価した。
分離比 3:1 の系統 (K4) の T2 解析結果を表 3-3 に示す。GUS 陽性かつハイグロマイシン耐性の
T1 植物由来の T2 世代は、3:1 に分離するか、または、すべて GUS 陽性かつハイグロマイシン耐性
であった。GUS 陰性かつハイグロマイシン感受性を示した T1 植物の T2 は、すべて GUS 陰性かつ
ハイグロマイシン感受性であった。系統 E5 および K3 の T1 世代に現れた弱いハイグロマイシン耐
性を伴う点状の GUS 発現もまた、メンデルの法則に従う遺伝子座として T2 世代まで遺伝した。
系統 K7 は、T1 で 15:1 の分離を示した。その T2 世代の解析結果を表 3-4 に示す。T2 系統群は、
導入遺伝子について陽性の植物だけからなる系統、3:1 の系統、15:1 の系統、そして導入遺伝子につ
いて陰性の植物だけからなる系統が得られ、その比率は、7:4:4:1 であることが予測される。この比
率は結果 (表 3-4) として確認され、他の 15:1 分離を示した T1 系統からの T2 世代の試験において
も、結果は同様であった。
4) T3 および T4 世代
T3 植物は、導入遺伝子についてホモ接合が確認された T2 植物から得た。そして、引き続き T4
植物を作出した。このようにして、T0 の 3 集団 (E 系統、T 系統および K 系統) 各々から、独立な
6 個体について自殖を繰り返して得られた T3 および T4 世代を調査した。すなわち T0 の 18 個体か
ら各々得られた 18 のホモ接合系統について、導入遺伝子を DNA レベルおよび発現レベルで解析し
た。その結果、T3 および T4 植物のすべてが、GUS 陽性かつハイグロマイシン耐性であった。T0
から T4 世代への導入遺伝子の遺伝様式の典型的な例 (系統 E8) を表 3-5 に示す。
T1 世代で出現した系統 E5 および K3 における弱いハイグロマイシン耐性を伴う GUS の点状の発
現は、ホモ接合の T4 世代まで安定して遺伝した。T3 世代になって、弱いハイグロマイシン耐性を
伴う GUS の点状発現を示す植物が、2 つの独立な系統 E9 と E10 で、新たに確認された。導入遺伝
子についてホモ接合となっているので、全個体が同様な発現を示し、これらの特性は T4 世代まで遺
伝した。
- 43 -
また、2 遺伝子座に導入遺伝子を有していた T0 植物から起源し、T3 世代において 1 遺伝子座で
導入遺伝子についてホモ接合となった T3 植物を、試験した独立な 3 系統すべてで首尾よく確認する
ことができた。
5) 後代植物のサザンブロット解析
サザンハイブリダイゼーションにより後代の植物を解析し (結果の一部を図 3-2 および 図 3-3 に
示す)、表現型と遺伝子型との間の密接な相関を確認した。例えば、導入遺伝子の発現が陽性であっ
た系統 E8 の T0、T1、T2、T3 および T4 植物は、同一のハイブリダイゼーションパターンを示した
(図 3-2, 表 3-5) 。系統 K7 では、2 つの遺伝子座に相当する 2 コピーの外来 DNA 断片の独立な遺
伝を確認した (図 3-3, 表 3-4)。
T1 世代で点状の GUS 発現と弱いハイグロマイシン耐性を示した植物のハイブリダイゼーション
パターンは、正常に導入遺伝子を発現していた T0 植物のハイブリダイゼーションパターンと違いは
なかった。
その一例である系統K3 の結果を図 3-4 に示した。
このような系統K3 ならびにE5, E9, E10
で観察された点状の GUS 発現は、いわゆる、ジーンサイレンシング現象(Eamens et al., 2008)であ
ると考えられる。これら 4 系統ともに、T0 植物におけるサザンブロット解析で導入遺伝子を1つの
遺伝子座に 2 コピー以上保持していた。おそらく T-DNA が重複して導入されたことにより、転写さ
れた RNA 同士が干渉(Wang and Waterhouse, 2000; Eamens et al., 2008)を起こしたためであろうと推
察される。また、プロモーター領域が逆位反復導入された時に生じるとされる、転写型のジーンサ
イレンシングの関与も考えられる。なお、gus および hpt が1コピーのみ導入され、重複の可能性が
ない 12 個体の形質転換体からは、後代におけるジーンサイレンシングは観察されなかった。
6) 結 論
本研究は、A. tumefaciens によりイネに導入された 2 つのマーカー遺伝子の安定的メンデル遺伝を
証明した。具体的には、18 個体の独立な形質転換イネの後代を T3 および T4 世代まで解析し、すべ
ての系統で、導入遺伝子の明瞭なメンデル遺伝を確認した。5 個体の T0 由来の自殖後代で、導入遺
- 44 -
伝子のサイレンシングが観察されたものの、分離比のゆがみは認めなかった。サザンブロット解析
は、遺伝解析の結果を物理的に完全に裏付けた。これにより、本研究でイネに組み込まれた外来遺
伝子は、A. tumefaciens により作出された双子葉植物の形質転換体と同様に遺伝的に安定して保持さ
れていると結論した。
- 45 -
表 3-1. A.tumefaciens LBA4404 (pTOK233) により作出した品種「コシヒカリ」の形質転換体における導
入遺伝子のサザンブロット解析によるコピー数の推定、および T1 世代におけるハイグロマイシン耐性
と GUS 発現の分離パターン
導入遺伝子のコピ
T1 植物数
カイ自乗値
ー数(T0)
系統番号
HPT
GUS
GUS+
GUS3:1
15:1
(T0)
HygR
HygS
K1
3
4
45
8
2.774
7.075**
K2
1
2
38
12
0.027
26.885*
K3
2
2
31***
8
0.419
13.540**
K4
1
1
29
11
0.133
30.827**
K5
1
2
29
11
0.133
30.827**
K6
3
3
36
12
0.000
28.800**
K7
3
2
31
2
6.313*
0.002
K8
2
2
35
10
0.185
19.593**
K9
2
2
35
2
7.575**
0.045
K10
4
3
71
5
13.754**
0.014
K11
2
2
40
0
13.333**
2.667
K12
1
2
32
8
0.533
12.907**
K13
2
2
65
14
2.232
17.743**
K14
3
2
36
2
7.895**
0.063
K15
1
1
52
15
0.244
29.780**
K16
2
3
35
12
0.007
29.823**
K17
2
2
38
1
10.470**
0.904
K18
2
2
65
14
2.232
17.743**
K19
2
1
37
13
0.027
33.285**
K20
1
1
58
15
0.772
25.469**
HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性、*:5%レベルで有意、**:1%レベル
で有意;。***:GUS の発現がドット状で根に形成されたハイグロマイシン耐性カルスの数が少ない。
- 46 -
表 3-2. T0 における導入遺伝子のコピー数と T1 世代の分離パターンにより推定された遺伝子座の数
サザン解析により推定した
T1の分離比に基づく
集団
解析
導入遺伝子
導入遺伝子のコピー数
推定遺伝子座数
系統数
1
2
3-6
1
2 以上
E
20
hpt
4
10
6
15
5
gus
7
8
5
16
4
T
20
10
9
12
13
8
7
K
20
hpt
6
10
4
gus
6
9
5
E:EHA101 (pIG121Hm) で形質転換された品種「月の光」
T:LBA4404 (pTOK233) で形質転換された品種「月の光」
K:LBA4404 (pTOK233) で形質転換された品種「コシヒカリ」
14
14
6
6
hpt
gus
2
4
8
7
- 47 -
表 3-3. A.tumefaciens LBA4404 (pTOK233) により作出した品種「コシヒカリ」の形質転換体における
T2 世代におけるハイグロマイシン耐性と GUS 発現の分離パターン(系統 K4)
系統番
T1 の表現型
T2 植物数
カイ自乗
明らかとなったT1 の
号
値
遺伝子型
GUS
Hyg
GUS+
GUS(T1)
(3:1)
HygR
HygS
K4-1
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-2
+
R
32
8
0.533
gus/hpt/K4-3
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-4
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-5
+
R
32
8
0.533
gus/hpt/K4-6
+
R
30
10
0.000
gus/hpt/K4-7
+
R
39
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-8
+
R
36
14
0.240
gus/hpt/K4-9
+
R
41
11
0.410
gus/hpt/K4-10
+
R
33
16
1.531
gus/hpt/K4-11
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-12
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-13
+
R
34
7
1.374
gus/hpt/K4-14
+
R
47
12
0.684
gus/hpt/K4-15
+
R
34
6
2.133
gus/hpt/K4-16
+
R
26
13
1.444
gus/hpt/K4-17
+
R
29
14
1.310
gus/hpt/K4-18
+
R
40
0
gus/gus
hpt/hpt
K4-19
S
0
40
-/-/K4-20
S
0
40
-/-/GUS+:GUS 陽性、GUS-:GUS 陰性、HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性。
- 48 -
表 3-4. A.tumefaciens LBA4404 (pTOK233) により作出した品種「コシヒカリ」の形質転換体における
T2 世代におけるハイグロマイシン耐性の分離パターン (系統 K7)
系統番
T1 の表現型
T2 植物数
カイ自乗値
号
GUS
Hyg
GUS+
GUS3:1
15:1
(T1)
HygR
HygS
K7-1
+
R
39
0
13.000**
2.600
K7-2
+
R
28
9
0.009
20.628**
K7-3
+
R
36
0
12.000**
2.400
K7-4
+
R
35
1
9.481**
0.740
K7-5
+
R
40
0
13.333**
2.667
K7-6
+
R
38
0
12.667**
2.533
K7-7
+
R
38
0
12.667**
2.533
K7-8
+
R
40
0
13.333**
2.667
K7-9
+
R
31
2
6.313*
0.002
K7-10
+
R
38
2
8.533**
0.107
K7-11
+
R
40
0
13.333**
2.667
K7-12
+
R
39
1
10.800**
0.960
K7-13
+
R
42
0
14.000**
2.800
K7-14
+
R
43
0
14.333**
2.867
K7-15
+
R
40
0
13.333**
2.667
K7-16
+
R
30
7
0.730
10.135**
K7-17
+
R
39
0
13.000**
2.600
K7-18
+
R
38
2
8.533**
0.107
K7-19
+
R
39
0
13.000**
2.600
K7-20
+
R
35
9
1.000
12.800**
K7-21
+
R
44
0
13.000**
2.600
K7-22
+
R
47
0
13.000**
2.600
K7-23
+
R
39
14
0.333
41.667**
K7-24
+
R
35
17
0.268
48.657**
K7-25
+
R
44
3
9.627**
0.005
K7-26
+
R
47
0
13.000**
2.600
K7-27
+
R
39
0
13.333**
2.667
K7-28
+
R
40
0
13.333**
2.667
K7-29
+
R
40
20
1.155
66.692**
K7-30
+
R
45
18
2.270
69.465**
K7-31
+
R
39
10
0.551
16.763**
K7-32
S
0
30
90.000**
450.000**
K7-33
S
0
30
90.000**
450.000**
GUS+:GUS 陽性、GUS-:GUS 陰性、HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性。
- 49 -
表 3-5. EHA101 (pIG121Hm) により作出した品種「月の光」の形質転換体における T4 世代までのハ
イグロマイシン耐性と GUS 発現の分離パターン (系統 E8)
親植物
次世代の植物数
カイ自乗 明らかとなった親植物の
値(3:1)
遺伝子型
系統番号 (世代)
表現型
GUS+
GUSHygR
HygS
GUS
Hyg
E8
(T0)
+
R
45
13
0.207
gus/-us
hpt/E8-1
E8-4
E8-9
E8-10
E8-15
E8-16
E8-2
E8-6
(T1)
(T1)
(T1)
(T1)
(T1)
(T1)
(T1)
(T1)
+
+
+
+
+
+
-
R
R
R
R
R
R
S
S
34
35
26
34
25
39
0
0
0
13
9
0
10
17
35
35
E8-1-1
E8-10-5
(T2)
(T2)
+
+
R
R
30
30
0
0
E8-1-1-2
(T3)
+
R
30
0
0.111
0.010
0.238
0.857
gus/gus
gus/gus/gus/ gus
gus/gus/-/-/-
hpt/ hpt
hpt/hpt/hpt/ hpt
hpt/hpt/-/-/-
gus/gus
gus/gus
hpt/hpt
hpt/hpt
gus/gus
hpt/hpt
E8-1-1-4
(T3)
+
R
30
0
gus/gus
hpt/hpt
E8-1-1-5
(T3)
+
R
30
0
gus/gus
hpt/hpt
GUS+:GUS 陽性、GUS-:GUS 陰性、HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性、
- 50 -
(a)
(b)
図 3-1. A.tumefaciens LBA4404 (pTOK233) により形質転換した品種「月の光」の T1 植物に
おけるハイグロマイシン耐性と GUS 発現の調査試験
(a)
(b)
:T1 実生の根の切片を選抜培地上に置床し 3 週間後に写真を撮影した。
:T1 の実生を暗黒下で培養し、その葉片を X-Gluc で染色した。
- 51 -
T4
E8
E8-1
E8-4
E8-9
E8-10
E8-2
E8-6
E8-1-1
E8-10-5
E8-1-1-2
E8-1-1-4
E8-1-1-5
E8-1-1-2-1
E8-1-1-2-2
E8-1-1-2-3
T2
T3
T1
T0
C
(a)
6 kb
(b)
6 kb
図 3-2. 形質転換体 E8 の T1、T2、T3 および T4 後代のサザン解析
T0 形質転換体とその後代の葉から採取した DNA を HindIII で消化し、
電気泳動により分画、
ナイロンメンブレンに転写し、gus (a) または hpt (b) プローブでハイブリダイズさせた。
- 52 -
図 3-3. 形質転換体 K7 の T1、T2 および T3 後代のサザン解析
T0 形質転換体とその後代の葉から採取した DNA を XbaI (a) または HindIII (b) で消化し、電
気泳動により分画、ナイロンメンブレンに転写し、gus (a) または hpt (b) プローブでハイブ
リダイズさせた。
- 53 -
(a)
K3-7
K3-8
K3-6
K3-5
K3-4
K3-3
K3-2
K3
T1
K3-1
T0
K3-8
K3-7
K3-6
K3-5
K3-4
K3-3
K3-2
T1
K3-1
K3
T0
(b)
7.5
kb
4.6
kb
図 3-4. 形質転換体 K3 とその T1 後代のサザン解析
A.tumefaciens LBA4404 (pTOK233) により得たコシヒカリの形質転換体 K3 とその T1 後代の
葉から採取した DNA を XbaI (a)または HindIII (b)で消化し、電気泳動により分画、ナイロン
メンブレンに転写し、gus (a) または hpt (b) プローブでハイブリダイズさせた。K3:ハイグ
ロマイシン耐性かつ正常な GUS 発現個体、K3-1, K3-2, K3-3, K3-4, K3-5 および K3-6:弱いハ
イグロマイシン耐性かつ点状の GUS 発現個体、K3-7, K3-8:ハイグロマイシン感受性かつ
GUS 陰性個体。
- 54 -
第 4 章 未熟胚を用いたインディカ品種形質転換方法の改良
1. 緒 言
第 3 章までの研究により、少なくとも、ジャポニカの一部の品種については、A. tumefaciens によ
り、効率よく形質転換できることが明らかになった。したがって、残る課題は、さまざまな品種に
この手法を拡張することと、遺伝子導入効率の不断の向上にある。
イネは、世界人口のおよそ 40 %の人々の主要な栄養源である。ジャポニカとインディカは世界の
異なる地域で栽培されている 2 つの亜種に当たる。ジャバニカは時々第 3 のカテゴリーとして言及
されるが、普通は、熱帯地域で栽培されるジャポニカのサブグループとして分類される。インディ
カ品種は、熱帯、亜熱帯などの温暖な地域で広く栽培され、主として発展途上国の人々の主食であ
る。インディカ品種の形質転換技術の確立は、優良品種の改良と新品種作出へ多くの機会を与える
と考えられる。
Glaszman (1987) は、アイソザイム多型を元にイネの品種をいくつかのグループに分類した。この
分類によれば、グループ I に属するインディカ品種のほとんどが しばしば「真のインディカ品種」
と呼ばれている。しかしながら、グループ I インディカ品種は、これまで組織培養と形質転換が非
常に困難とされてきた (Ayres and Park, 1994; Wünn et al., 1996; Jain et al., 1995)。グループ I インディ
カ品種形質転換の最初の成功例は、パーティクルガン法によるものである (Christou et al., 1991 and
1992)。
彼らは、
ジャポニカ品種およびジャバニカ品種と共に4 種のグループI インディカ品種 (IR26、
IR36、IR54 および IR72) を形質転換した。そしてインディカ品種の形質転換効率は、0.8 %から 5.0 %
(処理未熟胚当たりの独立な形質転換植物数) であった。
第2章に記載した形質転換方法については、その後、他の研究室もインディカ品種への適用を試
みている。Aldemita and Hodges (1996) は、A. tumefaciens によるグループ I 品種の形質転換に成功し
た。そしてその形質転換効率は、未熟胚当り「TSC10」で 0.7 % 、
「IR72」で 4.2 % であった。A.
tumefaciens によるインディカのカルスを用いた形質転換の成功は、
「Pusa Basmati I 」 (Zhang et al.,
- 55 -
1997; Mohanty et al., 1999; Azhakanandam et al., 2000; Kumria et al., 2001; Kumria and Rajam 2002) と
「IR64」 (Khanna and Raina 2002) で報告されている。
「IR64」の形質転換効率は、2.5%から 10.1% (カ
ルス当りの形質転換植物数) であった (Khanna and Raina 2002)。
しかし、ジャポニカの形質転換効率と比較すると、インディカの形質転換効率は低く、少なくと
も 1 桁の差がある。本章の課題は、この問題の克服にある。第 2 章では、完熟胚の胚盤由来のカル
スが最適であると報告したものの、インディカはカルスの培養自体がジャポニカよりも難しく、実
験は容易ではなかった。そこで、インディカでは、主に、パーティクルガン法において実績のある
未熟胚を用いて実験を行うこととした。
本章では、A. tumefaciens による形質転換において種々の条件を最適化したことにより、多様な 10
品種からなるグループ I インディカ品種で未熟胚当たり 30 %以上の形質転換効率を安定的に観察し
た。加えて、ひとつの未熟胚から複数の独立な形質転換体を得るための技術を開発したので、以下
に詳述する。
2. 材料および方法
1) A. tumefaciens 菌株とプラスミド
LBA4404(pIG121Hm)、EHA101(pIG121Hm) そして LBA4404(pTOK233) を供試した (第 2 章 材
料および方法参照)。これらの菌株に含まれるプラスミド上の T-DNA は、hpt と intron-gus を有して
おり、両遺伝子ともに 35S プロモーターで制御されている。加えて、GUS 発現ユニットは同一だが、
トウモロコシユビキチンプロモーターで hpt を制御する新規なベクターを構築し供試した (図 4-1)。
具体的には、GUS 発現ユニットを pKY205 (Kuraya et al., 2004) の hpt 上流の HindIII 制限サイトに挿
入し、得られたプラスミド pSB34 を LBA4404 (pSB1) (Komari et al., 1996) に導入することにより目
的の菌株 LBA4404 (pSB134)を得た。
2) イネ品種と植物組織
- 56 -
供試イネ品種 「IR8」
、
「IR24」
、
「IR26」
、
「IR36」
、
「IR54」
、
「IR64」
、
「IR72」
、
「新青矮 1」
、
「南京
11」および「水原 258」は、 (独) 農業生物資源研究所から入手した。植物は、補光による 14 時間
日長下で、夜温 24 °C 以下で加温、昼温 30 °C 以上で窓を開放する温室にて栽培した。また、10 時
間の短日処理 3 週間により開花誘導を行った。開花後 8 ないし 12 日の未熟種子をピンセットで脱頴
し、70 %エタノールで数秒、0.1% Tween 20 を含む 1 % 次亜塩素酸ナトリウムで 5 分間処理するこ
とにより滅菌した。その後未熟種子を滅菌水で数回洗浄し、実体顕微鏡下で 1.3 mm から 1.8 mm の
間の長さの未熟胚を採集した。
3) 接種および共存培養
A. tumefaciens を 50 mg/l ハイグロマイシンおよび、50 mg/l カナマイシンもしくは 50 mg/l スペクチ
ノマイシン含む AB 培地で 3 日間培養した (28 °C) 。集菌後、3 x 109 cfu / ml の濃度で 0.1 mM アセ
トシリンゴンを含む AA-inf 培地 (表 4-1) に懸濁した。
未熟胚を、胚盤側を上向きにして共存培地上に置床した。そして、5 μl の A. tumefaciens 懸濁液を
各未熟胚上に滴下した。接種後の未熟胚を、25 °C 暗黒下で 7 日間培養した。2 種類の基本培地組成
の組み合わせ、N6-As と NB-As (表 4-1)、そして 3 種類の固化剤、ゲルライト、精製寒天、アガロ
ースタイプ I を共存培地 (表 4-1) として試験した。共存培養後の未熟胚における GUS 活性は、
X-Gluc により組織化学的に解析した。具体的には、各々の未熟胚について、視覚的に胚盤表面全体
に対する青く呈色された胚盤領域を百分率で見積もり評価した。見積もった百分率から、未熟胚ご
とに評点をつけ、0 %が評点 0.0、0 %から 1 %が評点 0.5、1 %から 10 %が評点 5.5、10 %から 25 %
が評点 17.5、25 %から 50 %が評点 37.5、50 %から 75 %が評点 62.5、75 %から 100 %が評点 87.5 と
した。試験区ごとに、評点の平均値を GUS 発現指数として記録した。
4) 形質転換細胞の選抜と形質転換植物の再分化
共存培養後、
未熟胚から伸長した苗条をメスで除去した。
以下の培養は、
すべて 30 °C 連続照明 (約
5,000 lx)下で実施した。未熟胚の胚盤側を上向きにして、250 mg/l セフォタキシムと 100 mg/l カル
- 57 -
ベニシリンを含む NBM または CCM 培地 (表 4-1) 上で 5 日間培養した。この非選抜の培養の段階
を、
「レスティング」と呼ぶ。その後未熟胚は、1 次選抜培地 (75 mg/l ハイグロマイシンと 250 mg/l
セフォタキシムを含む CCM 培地、もしくは、250 mg/l セフォタキシムと 30 mg/l ハイグロマイシン
を含む NBM 培地) (表 4-1) へ移植し、3 週間培養した。胚盤上に形成されたハイグロマイシン耐性
カルスを同培地上に移植し 10 日間培養し、2 次選抜を行った。ハイグロマイシンに対し明瞭な耐性
を示す胚盤由来のカルスを、40 mg/l ハイグロマイシンと 250 mg/l セフォタキシムを含む再分化前培
養培地 NBPR (表 4-1) に移植し、10 日間培養した。その後、グリーンスポットを有する増殖中のカ
ルスを 30 mg/l ハイグロマイシンと 250 mg/l セフォタキシムを含む RNM 再分化培地 (表 4-1) 上に
移植し培養を行った。2 週間後、再分化した幼植物を 30 mg/l ハイグロマイシンを含む MSI 発根培地
(表 4-1) に移植し培養した。得られた植物体はポットに移植し、温室内で成熟するまで栽培した。
5) 1 未熟胚から複数の独立な形質転換体を得るための手法
上述の形質転換方法は、図 4-2 の Method 1 に図解した通りである。1 つの未熟胚から複数の独立
な形質転換体を獲得するため、レスティング以降の手順は次のように修正した。Method2 では、未
熟胚の各々をメスで4 ないし6 分割した。
1 次選抜とその後の段階は、
Method 1 と同様に実施した (図
4-2)。Method 3 では、未熟胚の各々をメスで 4 ないし 6 分割し、10 日間再びレスティング培地上で
培養した。
各分割組織をさらにもう一度 4 ないし 5 個に分割し、
1 次選抜培地上で 10 日間培養した。
2 次選抜とそれに続く段階は、Method 1 と同様に実施した (図 4-2)。Method 2 と 3 においても、未
熟胚切片は常に胚盤側を上向きにして培養した。
6) 形質転換体とその後代の解析
イネの葉における GUS 活性について、基質として X-Gluc を用いて検定し、上述した方法により
評点を付けた。自殖後代 (T1) の GUS 活性およびハイグロマイシン耐性については、 (第 3 章 材料
および方法) に記載の方法で調査した。形質転換体の葉から抽出した DNA (7 μg) を HindIII、EcoRI
あるいは XbaI で消化し、1.5 V/cm で 15 時間電気泳動することにより、0.7 %アガロースゲル上に分
- 58 -
画した。サザンハイブリダイゼーションには、gus および hpt プローブ (第 2 章 材料および方法参
照) を用いた。
3. 結 果
1) 共存培養用培地の最適化
「IR64」について、2 種類の基本培地と 3 種類の固化剤の組み合わせで、LBA4404(pTOK233) と
の共存培養後の未熟胚における GUS 活性を比較した。GUS 発現指数は、組成 N6-As よりも組成
NB-As において総じて高かった。そして固化剤としては、ゲルライトや寒天よりもアガロースが良
好であった (図 4-3) 。
イネの組織培養でよく用いられている 3 種類の基本培地の MS (Murashige and
Skoog, 1962)、CC (Potrykus, 1979) そして B5 (Gamborg et al., 1968) は、いずれも予備試験において、
かなり低い GUS 活性指数を示した。よって、アガロースで固化した NB-As を選択し、以下のすべ
ての試験に用いた。
2) インディカ 10 品種の形質転換
レスティングと選抜の培養には、
修正NB 培地 (NBM) と修正CC 培地 (CCM) (表 4-1)を用いた。
これらの培地が、予備試験段階で N6 や MS を修正した培地よりも良い結果を得たためである。こ
の際、注意すべき点は、非形質転換細胞の増殖を抑制するハイグロマイシンの濃度が、NBM の場合
は 30 mg/l、CCM 場合は 75 mg/l と、全く異なっていたことである。
10 種のグループ I インディカ品種「IR8」
、
「IR24」
、
「IR26」
、
「IR36」
、
「IR54」
、
「IR64」
、
「IR72」
、
「南京 11」, 「新青矮 1」および「水原 258」を A. tumefaciens LBA4404(pTOK233) で形質転換した。
NBM と CCM の両方を用いてすべての品種に対し試験を行うのは実際的でないので、直接的には、
3 品種 (「IR24」
、
「IR64」および「IR72」) の形質転換試験において比較した。そして他の品種に対
しては、どちらか一方の培地を用いて形質転換を実施した。その結果、
「IR72」と NBM 培地の組み
合わせの場合は、形質転換効率(独立な形質転換体数/未熟胚数)が 10 %であったが(表 4-2) 、この
- 59 -
例を除き、すべての試験区で 30 % - 65.5 %という高い値であった。
「IR24」と「IR64」においては、
CCM 培地と NBM 培地間で差は見られなかった。このことから、CCM 培地と NBM 培地の全体的
な性能は、少なくとも 1 品種 (「IR72」) で CCM 培地が NBM 培地より良好ではあったものの、大
差はないというのが結論である。
なお、ここまでの実験において、初期の試みにおいては、最良と考えられる培養条件を用いても、
外来遺伝子の発現や、形質転換体の獲得が全くできない実験回があった。その後、未熟胚を採取す
るイネ植物の温室栽培の経験を積み、旺盛に生育する健全なイネから未熟胚を採取する努力を積む
ことにより、ここに示したような形質転換効率を継続的に観察できるようになった。
3) ベクターと菌株の組み合わせ
A. tumefaciens の 3 菌株、
LBA4404(pTOK233)、
LBA4404(pIG121Hm) および EHA101(pIG121Hm) に
よる「IR64」と「IR72」の未熟胚を用いた形質転換における能力を比較した。EHA101(pTOK233) は、
予備的試験において非常に乏しい性能であったので、本試験では用いなかった。共存培養後の GUS
活性は、LBA4404(pTOK233)において最も高かった。EHA101(pIG121Hm) を感染させた未熟胚は、
共存培養後にしばしば褐変を呈したが、LBA4404(pIG121Hm) と EHA101(pIG121Hm) の 2 つの菌株
は、共存培養後の GUS 活性について似通った結果を示した。LBA4404(pTOK233) を感染させた未
熟胚の半分以上から形質転換体が得られた (表 4-3)。他の 2 菌株では、20 %以下の形質転換効率に
とどまり、EHA101(pIG121Hm) よりも LBA4404(pIG121Hm) がわずかに高かった。
4) 形質転換植物の解析
このようにして得られた形質転換当代植物 (T0 世代) のすべてが、形態的に正常であった。ほと
んどの植物が種子稔性を有し、60 %以上の形質転換体が 80 %以上の種子稔性を示した。形質転換体
の種子稔性は、品種間で差はなかった。
「IR8」
、
「IR24」
、
「IR26」
、
「IR36」
、
「IR64」
、
「南京 11」の形
質転換体当代から各 5 個体、全部で 30 個体のハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性植物を gus と hpt
プローブによるサザンハイブリダイゼーションにより解析した。
「IR36」と「IR64」の形質転換体の
- 60 -
解析結果を図 4-4 に示した。図 4-4a は、pTOK233 の T-DNA とイネ DNA の境界断片を検出してお
り、4.6 kb より大きな hpt プローブにより検出されたバンドの数、あるいは 7.5 kb より大きな gus プ
ローブにより検出されたバンドの数が、それぞれの導入遺伝子のコピー数を反映している。一方、
図 4-4b の実験では、hpt プローブの場合 1.0 kb と 0.8 kb、gus プローブの場合 3.1 kb といった T-DNA
の内部断片を検出している。形質転換体のほとんどは 1 ないし 2 コピーの導入遺伝子を有していた
(図 4-4a、表 4-4) 。解析した植物すべてが、gus と hpt の全長を有していた (図 4-4b)。しかし、3
個体については、再編成を受けた余分な遺伝子を付加的に保持していた。hpt プローブにおける、レ
ーン 3 の 2.4 kb のバンド、レーン 11 の 3.2 kb と 8 kb のバンドが、それに該当する。また、gus プロ
ーブにおける、
レーン 2 の 5.8 kb のバンド、
レーン 11 の 5.8 kb と 9 kb のバンドが、
それに該当する。
導入遺伝子の発現は、次世代 (T1) において遺伝的分離を示した。30 系統のうちの 17 系統が発現
と非発現の 3:1 の分離比を示した (表 4-4)。形質転換体 IR8-1 では、T1 世代で GUS 陽性かつハイグ
ロマイシン感受性の個体が得られた (表 4-4)。おそらく、2 コピー導入された T-DNA のうちの 1 つ
が hpt 遺伝子を欠いていたことによると考えられる。多くの植物では、推定された遺伝子座の数が、
サザン解析で測定した遺伝子のコピー数よりも少なかった (図 4-4a および表 4-4)。おそらく、2 コ
ピー以上の遺伝子が、該当する植物の 1 本の染色体上に組み込まれたためと考えられる。T1 後代で
GUS と HPT の発現が 15:1 の遺伝子分離パターンを示した IR24-2 の T1 植物をサザンハイブリダイ
ゼーションにより解析した (図 4-6)。ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性のすべての T1 個体は、
hpt プローブにハイブリダイズしたが、ハイグロマイシン感受性かつ GUS 陰性 T1 個体は hpt プロー
ブにハイブリダイズしなかった。これらの結果は、導入遺伝子が安定してイネ染色体中に組み込ま
れ、メンデルの遺伝法則に従い、次世代に遺伝子したことを明瞭に示している。
5) 未熟胚の分割による形質転換体の効率的作出
A. tumefaciens を接種した 1 つの未熟胚の胚盤からは、数個のハイグロマイシン耐性細胞の小塊が
しばしば増殖する。これは、複数の独立な形質転換体が生じたことを示している。しかしながら、
これらの小塊はすぐに融合してしまうため、このような胚盤から複数の植物を再生させると、同一
- 61 -
の形質転換体に由来する植物なのか、独立な形質転換体なのか、区別が難しくなる。従来手法では、
同一の形質転換体に由来する植物の獲得を避けるため、1 未熟胚から 1 形質転換体だけを得ること
にしていた。もし、上述のような複数の独立な形質転換体各々から、形質転換植物を得ることがで
きるのなら、形質転換体の作出効率は、顕著に改良されるはずである。
そこで、しばらくの間非選抜条件で未熟胚を培養した後、未熟胚をいくつかに分割する手順を 2
種類試し (図 4-2)、分割した後に切片を選抜培地上において培養し、形質転換植物体を再生させた。
この新しい手法は、1 切片から最大 1 形質転換体を得ることが基本である。Method 2 では、1 未熟胚
を一度に 6 個へ分割した。また、Method 3 では、2 回の操作で最多で 30 個へと分割した。Method 3
では、2 回目の分割のために分割組織が十分な大きさまで成長するよう、1 回目の分割の後に 10 日
間のレスティング培養を付加した。分割した組織における GUS 活性の例を図 4-5e に示す。1 未熟
胚に由来するこれら 24 切片は、選抜培養 8 日後のものである。形質転換セクターを、約 2/3 の切片
で見ることができる。
Method 2 における形質転換の最終的な効率は、従来法に対して 1.7 倍に増加した (表 4-5)。Method
3 では、顕著に形質転換効率が向上し、その効率は、従来法の 6 倍を示した(表 4-5)。Method 3 によ
り得られた形質転換植物をサザンハイブリダイゼーションで解析した (図 4-7)。1 未熟胚から得た 4
ないし 7 個体の植物体から、pSB134 の T-DNA とイネ DNA のジャンクション部位の断片の検出を
行った。
「IR64」で 3 未熟胚、
「IR72」で 2 未熟胚および「IR24」で 1 未熟胚から得た形質転換植物
体を試験に用いたが、ハイブリダイゼーションパターンはすべて異なっていた。この結果は、これ
らの植物体が独立な形質転換体から再分化したということを明確に示している。
4.
考 察
本研究では、グループ I に属するさまざまなインディカ品種を非常に効率よく形質転換できるこ
とを証明した。最も効率が高い場合、A. tumefaciens と共存培養した未熟胚の1つから得られる独立
な形質転換体は、平均 7 個体に達した。
- 62 -
前章までのジャポニカ品種の形質転換では、さまざまな材料を比較した上で、主として、完熟種
子から得たカルスを用いてきた。しかし、インディカ品種では、カルスを用いた形質転換は、効率
が低い上に、他の研究グループによる試みにおいても、グループ I インディカ品種の形質転換の成
功例は、
「Pusa Basmati1」
(Zhang et al., 1997; Mohanty et al., 1999; Azhakanandam et al., 2000; Kumria et al.,
2001 and 2002; Khanna and Raina 2002) と「IR64」 (Khanna and Raina, 1999 and 2002) の 2 品種に限ら
れていた。カルスの形質転換では、活発に分裂している細胞から成る胚形成能の高いカルスの使用
が非常に重要であるが (Dong et al., 1996; Rashid et al., 1996)、一般的にインディカ品種において、こ
のようなカルスを培養することは大変難しい上に、比較的好適な培養条件が品種間で全く異なるこ
とが多い。そこで着目したのが、単離直後の未熟胚である。活発に細胞分裂をしている細胞から構
成されている組織であり、培養を始めても活発な細胞分裂は続き、直ちに植物体を再生させること
ができる。この材料の利用により、容易に多くのインディカに適用できる形質転換手法の開発がで
きた。
インディカの形質転換においても、培地組成やさまざまな培養条件の適切な選択が重要な成功要
因であった。具体的には、共存培養の培地として修正 NB 培地を用いた場合、導入遺伝子の発現頻
度が高かった。レスティングと選抜には、修正 NB 培地と修正 CC 培地が同様に適していた。また、
再分化の前培養には NBPR 培地が適し、再分化には RNM 培地が優れており、この組み合わせは、
様々なグループ I インディカ品種に適用できるものと考えられる。
NB 培地は、インディカ品種の完熟種子からカルスを誘導し、得られたカルスから直接植物体を再
分化させるという試験目的のために Rancé et al. (1994) が報告した培地であり、N6 主要無機塩類、
B5 微量無機塩類、B5 ビタミンから成っている。CC はトウモロコシとイネで様々な組織培養に用い
られてきた培地であり、パーティクルガンによる「IR72」の形質転換に首尾よく用いられた (Zhang
et al., 1998)。これらの培地が、N6、B5、MS または他の培地よりも、なぜ良好な結果を示すのかは
不明である。
共存培養の培地に固化剤としてアガロースを使用すると、イネ細胞で非常に高い GUS 活性が得ら
れた。遺伝子導入に関して異なる固化剤による影響は、これまであまり研究されてこなかった。形
- 63 -
質転換を最大限に効率化するために、固化剤の種類を、さらに探索しても良いかもしれない。
炭素源の選択も重要であった。本研究では、レスティング、選抜そして再分化のための培地に、
マルトースを用いた。マルトースを含む培地上では、培養細胞の再分化能はよく維持され、植物体
が素早く再生した。よく似た観察例が、インディカ品種「IR43」のプロトプラスト由来カルス (Gosh
Biswas et al., 1994) および「Pusa Basmati 1」の形質転換実験 (Azhakanandam et al., 2000; Kumria et al.,
2001; Kumria and Rajam, 2002) で報告されている。
レスティングと選抜培地における BA の添加は、黄色く、コンパクトで、球状のカルスを誘導す
るために効果的であった。形質転換植物は BA を含むこれら培地を経由すると、効率よく再分化し
た。この観察による知見は、インディカ品種でサイトカイニンを含む培地上で培養したプロトプラ
スト由来カルスが、非常に高効率で再分化することを報告した Hodges et al., (1991) の結果と矛盾が
ない。
再分化の前培養では、成長調節物質の濃度、すなわち、高濃度の 2,4-D (2.0 mg/l) と BA (1.0 mg/l) が
重要な条件であった。この再分化の前培養操作を省略した時、あるいは 2,4-D の濃度を 0.5 mg/l より
も低くした時には、植物体の再分化率は非常に低くなった (結果非表示)。
他の研究者により有用とされた手法に効果が認められない点もあった。Rancé et al. (1994) は、増
殖した細胞を再分化培地に置床する前に少し乾燥させると、再分化能力が劇的に高まることを報告
した。しかしながら、本研究では特に何も前処理することなく、増殖した形質転換細胞のほとんど
から再分化個体が得られた。本研究では、培養容器を封じるのに通気を遮らないサージカルテープ
を利用しており、これが、乾燥処理を不要にしたのかもしれない。
レスティングと選抜の段階において胚の分割することにより、1 つの未熟胚からの複数の独立な
形質転換体を効率的に獲得することができた。そして、形質転換効率 (独立な形質転換体/胚)は、最
も高い場合に 700%を超えた。幸いなことに、この分割操作法は、一般的な継代培養操作と比べて複
雑な手法ではなく、形質転換試験の作業量を増加させることはない。
Sallaud et al. (2003) は、ジャポニカ品種のカルスの形質転換について、同様な目的で異なる手法を
記述している。カルスを共存培養したあと、速やかにハイグロマイシンによる選抜を行い、1 つの
- 64 -
カルスから 4-10 個のハイグロマイシン耐性細胞塊を得ている。刃物により切断分割する手法ではな
く、細胞塊が融合する前に、掴んで取り出すという方法である。彼らは、それらの細胞塊から再生
した形質転換植物の 96 %が独立な形質転換体であることを確認している。しかし、この操作は、多
くのハイグロマイシン耐性細胞塊が、素早く、ほぼ同時に出現する場合にのみ効果的であるので、
組織培養で非常に良好な反応を示すジャポニカ品種以外には利用しにくいと考えられる。インディ
カ品種では、好適な条件でも培養細胞の増殖はジャポニカ品種には劣るので、未熟胚を材料とし、
レスティング過程で未熟胚を分割する方法が、最も効率よく形質転換体を得ることができると考え
られる。
最後に、最も重要でありながら、実験条件の厳密な記載が難しい要因について論じておきたい。
それは、未熟胚を採取するイネを栽培する温室の管理である。日長、日照、温度、湿度、通気、水
温など、自然条件の影響を大きく受ける要因が多い上に、土壌、水、肥料の管理など、実験者の経
験や技能に依存する度合いも高い。本章で記載した最良の手順で実験を行っても、温室の栽培条件
が不良な場合は、形質転換体を得ることは全くできない。この意味では、最も重要な成功要因は、
好適な条件の温室で育てられた健全なイネから単離した新鮮な未熟胚を用いることであるといえる。
したがって、温室設備を良好に保ち、経験に基づき、適切な栽培管理に徹することが、形質転換実
験において極めて重要である。空調設備や照明設備の整った温室の利用が好ましいことは言うまで
もない。
- 65 -
表 4-1. Agrobacterium によるインディカイネの形質転換に用いた培地
培養ステップ
共存培養
培地
N6-As
共存培養
NB-As
菌懸濁および
接種
AA-inf
レスティング
および選抜
NBM
レスティング
および選抜
再分化前培養
CCM
NBPR
再分化
RNM
発根
MSI
組成
N6無機塩およびビタミン (Chu, 1978)、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ
酸、0.5 g/l プロリン、20 g/lショ糖、10 g/lグルコース、2 mg/l 2,4-D、1 mg/l
NAA、1 mg/l BA、0.1 mM acetosyringone、5.5 g/l アガロース・タイプI、
pH5.2.
N6主要無機塩、B5微量無機塩およびビタミン (Gamborg et a.l., 1968)。
他の組成はN6-As 培地と同じ .
AA無機塩およびアミノ酸 (Toriyama and Hinata, 1985)、B5ビタミン、0.5
g/lビタミンアッセイカザミノ酸、20 g/lショ糖、10 g/lグルコース、0.1 mM
acetosyringone、pH5.2.
N6主要無機塩、B5微量無機塩およびビタミン、0.5 g/lビタミンアッセイ
カザミノ酸、0.5 g/lプロリン、0.3 g/lグルタミン、20 g/lマルトース、36 g/l
マニトール、2.0 mg/l 2,4-D、1.0 mg/l NAA、0.2 mg/l BA、5.0 g/lゲランガ
ム、pH5.8.
CC無機塩およびビタミン (Potrykus et al., 1979)、他の組成はNBM 培地
と同じ.
N6主要無機塩、B5微量無機塩およびビタミン、0.5 g/lビタミンアッセイ
カザミノ酸、0.5 g/lプロリン、
0.3 g/lグルタミン、
30 g/lマルトース、
2.0 mg/l
2,4-D、1.0 mg/l NAA、1.0 mg/l BA、7.0 g/lゲランガム、pH5.8.
N6主要無機塩、B5微量無機塩およびビタミン、0.3 g/lビタミンアッセイ
カザミノ酸、0.3 g/lプロリン、0.3g/lグルタミン、30 g/lマルトース、1.0 mg/l
NAA、3.0 mg/l BA、4.0 g/l アガロース・タイプI、pH5.8.
1/2濃度MS主要無機塩、MS微量無機塩、MSビタミン (Murashige and
Skoog, 1962)、1 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、15 g/l ショ糖、0.2 mg/l
IBA、4.0 g/lゲランガム、pH5.8.
- 66 -
表 4-2. A. tumefaciens LBA4404 (pTOK233) および LBA4404 (pSB134) による多様なインディカイネに
おける形質転換植物の作出
接種したA. tumefaciens イネ品種 接種した未 独立なHygRかつ
形質転換効率 用いたレスティン
菌株
熟胚数 (A) GUS陽性植物の数 (B/A: %)
グおよび選抜培地
(B)
IR8
IR24
IR24
IR26
IR36
IR36
IR36
IR54
IR64
IR72
南京11
新青矮1
水原258
LBA4404 (pSB134)
IR24
IR24
IR64
IR64
IR72
IR72
HygR:ハイグロマイシン耐性
LBA4404 (pTOK233)
60
32
120
63
35
90
100
42
79
50
57
57
40
60
60
30
30
29
30
18
11
63
27
14
33
50
19
53
28
21
24
18
38
28
13
15
19
3
- 67 -
30.0
34.4
52.5
42.9
40.0
36.7
50.0
45.2
67.1
56.0
36.8
42.1
45.0
63.3
46.7
43.3
50.0
65.5
10.0
NBM
NBM
NBM
NBM
CCM
CCM
CCM
CCM
NBM
CCM
NBM
NBM
NBM
CCM
NBM
CCM
NBM
CCM
NBM
表 4-3. A. tumefaciens 3 菌株による「IR64」および「IR72」における形質転換効率
イネ
A. tumefaciens 菌株 接種した未熟胚 独立なHygRかつ 形質転換効率 用いたレスティン
品種 (バイナリーベクター) の数(A)
GUS陽性植物の (B/A: %)
グおよび選抜培地
数(B)
IR64 LBA4404(pIG121Hm)
51
8
15.7
NBM
EHA101(pIG121Hm)
51
6
11.8
LBA4404(pTOK233)
79
52
65.8
IR72 LBA4404(pIG121Hm)
30
4
13.3
CCM
EHA101(pIG121Hm)
29
3
10.3
LBA4404(pTOK233)
50
28
56.0
HygR:ハイグロマイシン耐性
- 68 -
表 4-4. A. tumefaciens 菌株 LBA4404 (pTOK233) を介して得られたインディカイネ形質転換体(T0)のサザ
ンブロット解析において推定された導入遺伝子のコピー数ならびにその後代 (T1) における遺伝的分離
の解析
コピー数(T0)
T1植物の数
カイ自乗検定値
形質転換当代
(T0)
hpt
gus
HygR
HygS
HygS
GUS+
GUS+
GUS-
IR8-1
1
2
30
8
2
IR8-5
2
3
52
2
0.60
(15:1)
IR8-7
2
2
42
12
0.22
(3:1)
IR8-10
2
2
47
3
0.01
(15:1)
IR8-12
1
1
32
9
0.20
(3:1)
南京11-5
3
3
48
13
0.44
(3:1)
南京11-8
2
2
56
4
0.02
(15:1)
南京11-10
3
3
40
8
1.78
(3:1)
南京11-13
2
2
35
2
0.05
(15:1)
南京11-14
2
2
43
2
0.25
(15:1)
IR24-2
2
2
48
2
0.43
(15:1)
IR24-4
2
2
40
14
0.02
(3:1)
IR24-6
2
3
38
2
0.11
(15:1)
IR24-7
2
1
37
11
0.11
(3:1)
IR24-12
1
1
33
10
0.07
(3:1)
IR26-3
1
1
36
14
0.24
(3:1)
IR26-3
4
4
25
1
0.26
(15:1)
IR26-4
1
2
45
17
0.19
(3:1)
IR26-5
4
3
39
3
0.06
(15:1)
IR26-7
2
3
44
3
0.00
(15:1)
IR36-2
1
2
46
21
1.44
(3:1)
IR36-3
2
2
40
11
0.32
(3:1)
IR36-4
1
1
36
10
0.26
(3:1)
IR36-11
2
2
37
14
0.16
(3:1)
IR36-17
1
1
32
7
1.03
(3:1)
IR64-2
2
2
38
2
0.11
(15:1)
IR64-3
1
1
28
7
0.47
(3:1)
IR64-4
1
1
32
7
1.03
(3:1)
IR64-6
3
2
38
2
0.11
(15:1)
IR64-7
2
1
27
8
0.09
(3:1)
HygR:ハイグロマイシン耐性、HygS:ハイグロマイシン感受性、GUS+:GUS 陽性、GUS-:GUS 陰性。
- 69 -
表 4-5. 胚分割法による A. tumefaciens LBA4404 (pSB134) を介したインディカ形質転換体の作出結果
接種未熟胚数(A)
組織数
形質転換効率
イネ品種 Methoda
(B/A: %)
メスによる 生出したHygRかつ
分割
GUS+ 植物数(B)
IR24
1
2
3
20
20
20
20
96
403
10
29
75
50.0
145.0
375.0
IR64
1
2
3
20
20
20
20
90
432
14
24
85
70.0
120.0
425.0
IR72
1
2
3
1
2
3
16
16
16
18
18
18
16
83
340
18
97
417
14
28
90
16
45
133
87.5
175.0
562.5
88.9
250.0
738.9
a
:Method 1, 2 および 3 の詳細は、第 4 章の材料および方法ならびに図4-6 を参照のこと。
HygR:ハイグロマイシン耐性、GUS+:GUS 陽性。
- 70 -
(a)
BR
H E
NPTII
NOS
ori
X H EX
IGUS
AmpR
Tnos
Tnos
35S T35S
BR
X
BL
35S
4.6 kb
BL
HPT
35S UBI
cos
X XX X
IGUS
Tnos
ori
1.0 kb 0.8 kb
3.1 kb
X
E
E
HPT
7.5 kb
(b)
E
UbiI
1 kb
Tnos
1.4 kb
図 4-1. pTOK233 (a) および pSB134 (b) の T-DNA 領域
図中の略号:
BR:右ボーダー、BL:左ボーダー、NPTII:ネオマイシンリン酸基転移酵素 II、IGUS:intron-GUS
遺伝子、NOS:ノパリン合成遺伝子のプロモーター、35S:35S プロモーター、UBI:トウモ
ロコシのユビキチン I プロモーター、UbiI:トウモロコシのユビキチン I の第 1 イントロン,
Tnos:ノパリン合成遺伝子の 3’シグナル、T35S:35S RNA の 3’シグナル、ori:ColE1 の複製
起点、AmpR,:大腸菌で機能するアンピシリン耐性遺伝子、cos:ラムダファージの cos 部位、
E:EcoRI 制限部位、H:HindIII 制限部位、X:XbaI 制限部位。
- 71 -
Co-cultivation
with
Agrobacterium
Resting
(non-selective)
First selection with hygromycin
Method 1
3 weeks
Method 2
7 days
Immature
embryo
5 days
3 weeks
Hygromycinresistant
calluses
Method 3
10 days
10 days
Cut into
4 - 6 pieces
Cut into
4 or 5 pieces each
図 4-2. Agrobacterium との共存培養後のインディカ未熟胚の分割手順
- 72 -
50
GUS Activity Index
40
30
20
10
0
N6-As NB-As N6-As NB-As N6-As NB-As
8.0 gl-1
agar
4.0 gl-1
Gelrite
8.0 gl-1
agarose
Medium for co-cultivation
図 4-3. 異なる培地上で A. tumefaciens 菌株 LBA4404 (pTOK233) と共存培養した「IR64」
の未熟胚における一過的 GUS 活性
好適な共存培養の培地を選定するため、2 種類の基本培地組成の組み合わせ N6-As および
NB-As (表 4-1 に記載)、ならびに 3 種類のゲル化剤を比較試験した。各培地試験区における
共存培養後の未熟胚あたりの GUS 活性の平均 (各 50 未熟胚) を「GUS 活性インデックス」
として記録した (第 4 章 材料および方法参照)。
- 73 -
(a)
(b)
IR64
IR36
IR36
C 2 3 4 11 17 C 2 3 4 6 7
IR64
C 2 3 4 11 17 C 2 3 4 6 7
hpt
4.6 kb
EcoRI
HindIII
gus
1.0 kb
0.8 kb
7.5 kb
3.1 kb
XbaI
HindIII
図 4-4. LBA4404 (pTOK233) で形質転換した「IR36」と「IR64」の GUS 陽性かつハイグロ
マイシン耐性植物のサザンブロット解析
非形質転換体 (レーン C)、
「IR36」と「IR64」の形質転換植物体のゲノム DNA を、(a) では
電気泳動により分画し、
制限酵素 HindIII および XbaI で、(b) では EcoRI と HindIII で消化し、
ナイロンメンブレン上に転写、hpt および gus プローブを用いてハイブリダイズさせた。
- 74 -
(d)
(a)
(b)
(c)
(e)
図 4-5. グループ I インディカイネにおける A. tumefaciens による形質転換経過の概要
(a):A.tumefaciens と 7 日間共存培養後の「IR64」未熟胚における組織化学的 GUS 活性。
(b):30 mgl-1 hygromycin B 含有 RNM 培地で 14 日間培養後の「IR72」の形質転換体の再分化。
(c):成熟期の「IR24」形質転換植物
(d):Method1 (図 4-6 および 材料および方法に詳述) によって、ハイグロマイシンを含む1
次選抜培地上にて 3 週間培養後の「IR72」の 3 未熟胚における組織化学的 GUS 活性
(e):Method 3 (図 4-6 および 材料および方法に詳述) によって、ハイグロマイシンを含む1
次選抜培地上にて 8 日間培養後の「IR72」の未熟胚由来 24 切片における組織化学的 GUS
活 性 。 パ ネ ル (a) 、 (b) お よ び (c) で は 、 胚 へ の 感 染 に A. tumefaciens 菌 株
LBA4404(pTOK233) を用いた。パネル (d) と (e) では、菌株 LBA4404(pSB134) を用い
た。(Bar = 1 mm)
- 75 -
C 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
(kb)
23.1
9.4
6.6
4.4
2.3
2.0
図 4-6. A. tumefaciens 菌株 LBA4404 (pTOK233) を用いて形質転換した T0 植物から得た T1
世代植物のサザンブロット解析
非形質転換植物 (レーン C)、表 4-4 における T0 植物 IR24-2 (レーン 0)、ハイグロマイシン耐
性かつ GUS 陽性の T1 後代植物 (レーン 1 から 19)、ハイグロマイシン感受性かつ GUS 陰性
の T1 後代植物 (レーン 20) のそれぞれからゲノム DNA を抽出し、制限酵素 HindIII で消化
し、電気泳動で分画し、ナイロンメンブレンに転写、hpt プローブを用いてハイブリダイズ
させた。
- 76 -
IR64
a
b
IR72
a
c
IR24
b
a
(kb)
23.1
9.4
6.6
4.4
2.3
2.0
図 4-7. A. tumefaciens LBA4404 (pSB134) を介し、方法 3 (図 4-6) により獲得したインディカ
形質転換体のサザン解析
「IR64」の 3 未熟胚 (a, b および c)、
「IR72」の 2 未熟胚 (a および b)、
「IR24」の 1 未熟胚 (a)
から得られた形質転換植物のゲノム DNA を XbaI で消化し、電気泳動で分画、ナイロンメン
ブレンに転写し、hpt プローブを用いてハイブリダイズさせた。
- 77 -
第5章
1. 緒
未熟胚を用いたジャポニカ品種形質転換方法の改良
言
第 2 章で、A. tumefaciens によるジャポニカの形質転換に適していると判明したのは、完熟胚
の胚盤由来のカルスであった。この方法のインディカへの応用は難しく、インディカでは未熟
胚を用いることによって、効率の良い遺伝子導入を行うことができた(第 4 章)。その中で、
未熟胚を用いる実験では、親植物の栽培条件が決定的に重要であることを学んだ。したがって、
第 2 章においてジャポニカで供試した未熟胚は最良の状態ではなかったかもしれず、この点に
も留意して研究を進めることにより、より高い効率の実験手法の開発が可能となると考えた。
未熟胚を材料にした A. tumefaciens によるイネの形質転換の最初の報告は、Chan et al . (1993)
によるものであり、2 mg/l 2,4-D を含む培地で 2 日間前培養した材料が用いられた。得られた形
質転換体は 2-3 個体であった。Aldemita and Hodges (1996) は、ジャポニカ品種「Radon」の単
離直後の未熟胚にスーパーバイナリーベクターLBA4404(pTOK233)を接種し、未熟胚当たり
27 %の形質転換効率を得た。また、Huang et al. (2001) は、2 mg/l 2,4-D を含む培地で 4-5 日間
前培養したジャポニカの未熟胚に A. tumefaciens を感染させ、未熟胚当たりの形質転換効率で、
品種「Xiushui 11」が 60.3 %、「Chunjiang 11」が 36.2 %であったことを報告した。なお、この
研究では、35S プロモーターで制御された npt が用いられ、G418 (Geneticin)で形質転換細胞の
選抜が行われた。He et al. (2004) は、7-10 日間 2, 4-D を含む培地で前培養したジャポニカ品種
「石狩白毛」の未熟胚を用いて、A. tumefaciens による形質転換を行ったところ、1.3-6.0 %の効
率で形質転換体が得られたことを報告した。この試験では、リン酸マンノース異性化酵素遺伝
子 (pmi) が用いられ、マンノースを選抜薬剤として使用した。以上のように、形質転換の結果
は多様であり、材料にも単離直後と前培養後の両方の未熟胚が用いられている。
未熟胚を供試材料とするには、温室で親植物を栽培する必要があるため、完熟種子を出発材
料とする場合よりも栽培管理にコストが掛かる点で問題がある。しかし、高い効率で形質転換
植物を得ることができれば、材料栽培に適する温室を保有し年間を通じて形質転換実験を行う
研究室にとっては有用である。また、カルスを誘導する段階が不要なため、培養期間を短縮で
き、培養変異の問題も軽減できる。
78
このような観点から、第 5 章ではジャポニカ品種の未熟胚を用いた形質転換の効率化を課題
として、試験を行った。単離直後と前培養後の未熟胚の両方を用いて、どちらの材料がより形
質転換に適しているかなど、形質転換における諸条件の最適化を図った。加えて、第 4 章と同
様にして 1 つの未熟胚から複数の独立な形質転換体を得る技術を適用した。その結果を以下に
詳述する。
2.
材料および方法
1) A. tumefaciens 菌株とプラスミド
LBA4404 (pSB134)を用いた (第 4 章 材料および方法参照)。
2) イネ品種と植物組織
ジャポニカ品種「朝の光」、「ゆきひかり」および「コシヒカリ」の未熟胚を用いた。一部、
共存培養後の GUS 活性の比較を行う目的で、インディカ品種「IR24」および「IR64」の未熟
胚も材料として用いた。親植物の栽培方法および未熟胚の単離は、第 4 章 (材料および方法) に
従って実施した。
3) 接種および共存培養
A. tumefaciens 菌株 LBA4404 (pSB134) を、50 mg /l ハイグロマイシンおよび 50 mg /l スペク
チノマイシンを含む AB 培地上で 28 °C で 3 日間培養した。集菌後、3 x 109 cfu /ml の濃度で 0.1
mM アセトシリンゴン を含む AA-inf 培地 (第 4 章 材料および方法参照) に懸濁した。
未熟胚を、胚盤側を上向きにして共存培地上に置床した。ジャポニカ品種には N6-As (表 5-1)、
インディカ品種には NB-As (第 4 章、表 4-1) を用いた。未熟胚の前培養は、胚盤を上向きに
置床し 25 °C 暗黒下で行った。前培養期間は、0 日間(前培養なし)、1 日間、3 日間および 6 日
間の 4 区とした。前培養後、未熟胚から伸長した苗条がある場合はメスで除去し、再度胚盤側
を上向きにして共存培地上に置床した。その後、5 μl の A. tumefaciens 懸濁液を各未熟胚上に
滴下した。接種後の未熟胚は、25 °C 暗黒下で 7 日間 (前培養なしの場合)、6 日間 (前培養 1
日間の場合) 、4 日間 (前培養 3 日間の場合) または 3 日間 (前培養 6 日間の場合)、共存培養
79
を行った。
共存培養後の未熟胚における GUS 活性は、X-Gluc により組織化学的に解析し、GUS 発現指
数を記録した (第 4 章 材料および方法参照)。
4) ジャポニカ品種の形質転換細胞の選抜と形質転換植物の再分化
培養は、すべて 30 °C 連続照明 (約 5,000 lx) 下で実施した。また、未熟胚の分割により 1 未
熟胚から複数の独立な形質転換体を獲得する第 4 章の“方法 3”を用いた。ただし、ジャポニカ
品種の場合は、インディカ品種の場合と異なり、胚の分割前のレスティング培養、2 次選抜培
養、および、再分化前培養は実施しなかった。
具体的には、以下の通りである。共存培養後のジャポニカ品種品種「朝の光」および「ゆき
ひかり」の未熟胚を、まず 4-6 分割し、胚盤側を上向きにして 250 mg /l セフォタキシム と 100
mg /l カルベニシリンを含む nN6 (表 5-1) 培地に置床し、10 日間レスティング培養を行った。
未熟胚の各分割切片をさらに 4-5 分割し、50 mg /l ハイグロマイシンと 250 mg /l セフォタキシ
ムを含む nN6 選抜培地 (表 5-1) へ胚盤側を上向きにして移植し、10 日間培養した。胚盤上に
形成されたハイグロマイシン耐性カルスを、50 mg /l ハイグロマイシンを含む N6R 再分化培地
(表 5-1) 上に移植し、さらに培養を行った。ハイグロマイシン耐性カルスは、各分割切片から
最大 1 個のみ継代することにより、同一形質転換体の混入を避けた。2 週間後、再分化した幼
植物を 50 mg /l ハイグロマイシンを含む N6F 発根培地 (表 5-1) に移植し培養した。
なお、「コシヒカリ」の共存培養後に用いた培地は、以下の通りである。レスティング培養
には、250 mg/l セフォタキシムと 100 mg/l カルベニシリンを含む NBK 培地 (表 5-1) を、選
抜培養には、250 mg/l セフォタキシム、100 mg/l カルベニシリンおよび 40 mg/l ハイグロマイ
シンを含む NBK 培地、再分化培養には 50 mg/l ハイグロマイシンを含む NBKR 培地 (表 5-1)
を、また、発根培養には 40 mg/l ハイグロマイシンを含む N6F 培地 (表 5-1) を用いた。各培
養期間は「朝の光」および「ゆきひかり」と同様である。
3. 結果および考察
1) 共存培養後の一過性 GUS 発現
80
5 品種のイネの未熟胚を前培養した場合 (1、3 および 6 日間) と、しない場合 (0 日間) でど
の程度遺伝子導入効率が異なるのか、共存培養後の GUS 活性を比較した。単離直後の未熟胚
に A. tumefaciens を接種した場合は、5 品種間で遺伝子導入効率に大きな差は見られなかった
(図 5-1)。ところが、1 日間前培養した後に A. tumefaciens を接種すると、5 品種とも遺伝子導入
効率が極端に低くなった (図 5-1)。前培養 3 日後では、品種間で大きな差が見られるようにな
った。培養が容易なジャポニカの「朝の光」および「ゆきひかり」では前培養しなかった未熟
胚と同程度まで遺伝子導入効率が回復した。同じジャポニカでも「コシヒカリ」では遺伝子導
入効率は回復せず、インディカでは遺伝子導入効率はさらに低減した (図 5-1)。前培養を 6 日
間実施した後 A. tumefaciens を接種した場合には、
「朝の光」および「ゆきひかり」において、
前培養しない未熟胚を上回る高い GUS 活性が観察された。一方、
「コシヒカリ」、
「IR24」およ
び「IR64」では、前培養を行うにしたがって胚盤領域への遺伝子導入頻度が低くなった (図 5-1)。
以上の結果を要約すると、A. tumefaciens を介した単離直後の細胞分裂活性が高い未熟胚への遺
伝子導入効率は、品種間で差が見られなかったものの、前培養を行うにしたがって、大きな差
が認められるようになった。培養が容易な「朝の光」および「ゆきひかり」では前培養により
未熟胚胚盤の細胞分裂活性が維持増強されたため、前培養なしの未熟胚より 6 日間前培養した
未熟胚への遺伝子導入効率が高くなったと考えられる。逆に、培養に対する反応が不良な「コ
シヒカリ」、
「IR24」および「IR64」の場合、前培養に用いた培地では未熟胚胚盤細胞の分裂活
性を維持できず、A. tumefaciens による遺伝子導入効率が低減したと考えられる。
2) ジャポニカ品種の未熟胚分割による形質転換体の効率的作出
共存培養後の未熟胚胚盤細胞における GUS 活性と最終的な形質転換効率は、第 4 章のイン
ディカ品種の試験では、ほぼ相関する結果が得られた。本試験では、単離直後の未熟胚および
6 日間前培養した未熟胚を供試し、未熟胚分割法による形質転換体作出試験を行った。その結
「ゆきひかり」および「コシヒカリ」の
果を表 5-2 に示す。前培養を行わなかった「朝の光」、
形質転換効率は、未熟胚当たり 3 個体前後でほぼ似通った値を示した。6 日間前培養した「朝
の光」および「ゆきひかり」の未熟胚からは、未熟胚当たり 5 ないし 6 個体の形質転換植物が
得られ、前培養を行わなかった未熟胚の 1.5 倍以上の形質転換効率を示した。この結果は、共
存培養後の胚盤領域の GUS 活性にほぼ比例して形質転換体が得られることを示している。ま
81
た、メスによる分割切片あたりの形質転換植物が得られた割合は、
「ゆきひかり」で 21 %、
「朝
の光」で 26 %であった。この数値は、完熟種子由来のカルスを用いた形質転換の効率と類似し
ている。
未熟胚の単離から得られた形質転換体を土壌に移植するまでの培養期間は、55 ないし 57 日
である。完熟種子由来のカルスを出発材料とする場合より、培養期間を大幅に短縮することが
できた。培養変異低減への貢献程度を測ることは容易ではないが、一定の効果があるものと推
察される。未熟胚の胚盤から得られるカルスは、完熟種子の胚盤から得られるカルスに比べる
と、均質で再分化能力が非常に高い。本章で論じた未熟胚に A. tumefaciens を接種する方法は、
未熟胚の胚盤細胞由来の 1 次カルスを直接再分化培地に置床するため、再分化率はほぼ 100 %
である。したがって、1 切片から 1 カルスを再分化培地に置床するだけでよい。すべての工程
を含む作業量は、完熟胚由来カルスを用いる形質転換方法の 60 %程度である。
未熟胚当たり 5-6 個体 (切片あたり 21-26%) という形質転換効率とその作業効率は、親植物
栽培に適した温室があり、年間を通して形質転換実験を行うことができる研究室にとっては、
利用価値が高い技術であると考える。なお、前章末で論じた未熟胚を採取するイネ植物の栽培
条件の重要性は、ジャポニカ品種の場合も変わりはない。
82
表 5-1. A. tumefaciens によるジャポニカイネ未熟胚の形質転換試験に用いた培地組成
培養ステップ 培地
共存
nN6-As
レスティング nN6
および選抜
レスティング NBK
および選抜
再分化
N6R
再分化
NBKR
発根
N6F
発根
NBKF
組成
N6無機塩およびビタミン (Chu, 1978)、0.5 g /l ビタミンアッセイカザミノ
酸、0.5 g /l プロリン、20 g /l ショ糖、10 g /l グルコース、1 mg /l 2,4-D、0.5
mg /l NAA、0.1 mg /l BA、0.1 mM acetosyringone、8.0 g /l アガロース・タイ
プI (Sigma)、pH5.2
N6 無機塩およびビタミン、0.5 g /l ビタミンアッセイカザミノ酸、0.5 g /l プ
ロリン、0.3 g /l グルタミン、20 g /l ショ糖、55 g /l ソルビトール、1.0 mg /l
2,4-D、0.5 mg /l NAA、0.1 mg /l BA、5.0 g /l ゲルライト、pH5.8
(NH4)2SO4を除去しKNO3を2022 mg /lに減じたN6主要無機塩、B5微量無機塩
および ビタミン (Gamborg et al., 1968)、 AAアミノ酸、ショ糖の代わりに
20 g /l マルトースを含む。上記以外の成分はnN6培地と同じ
1/2濃度N6主要無機塩 (すなわち (NH4)2SO4、MgSO4·7H2O、CaCl2·2H2O、
KNO3 および KH2PO4)、1/1濃度のN6の他の無機塩およびビタミン、AAア
ミノ酸 (Toriyama and Hinata 1985)、1.0 g /l ビタミンアッセイカザミノ酸、
20 g /l ショ糖、30 g /l ソルビトール、0.5 mg /l カイネチン、4.0 g /l ゲルラ
イト、pH5.8.
NBK培地の無機塩およびビタミン、AAアミノ酸、1.0 g /l ビタミンアッセイ
カザミノ酸、20 g /l マルトース、30 g /l ソルビトール、0.2mg /l カイネチン、
4.0 g /l ゲルライト、pH5.8.
N6R培地の無機塩およびビタミン、AAアミノ酸、1.0 g /l ビタミンアッセイ
カザミノ酸、15 g /l ショ糖、30 g /l ソルビトール、3.0 g /l ゲルライト、pH5.8
N6K 主要無機塩、B5 微量無機塩、B5 ビタミン、15 g/l ショ糖、30 g/l ソル
ビトール、1.0 g/l ビタミンアッセイカザミノ酸、3.0 g/l ゲランガム、AA ア
ミノ酸 (pH 5.8)、40 mg/l ハイグロマイシン B、pH5.8
83
表 5-2. A. tumefaciens LBA4404 (pSB134)による前培養したイネ未熟胚における形質転換結果
組織数
形質転換効率
イネ品種 前培養期 共存培養 接種未熟
(B/A)
間* (日) 期間 胚数(A)
(日)
メスによ 生出した形質転 未熟胚当たりの独立な形質転換
る分割 換植物数** (B) 植物数** (平均 ± 標準誤差)
朝の光
0
6
7
3
15
15
321
345
52
91
3.47
6.07
±
±
0.52
0.41
ゆきひかり
0
6
7
3
15
15
326
357
44
76
2.93
5.07
±
±
0.37
0.57
コシヒカリ
0
7
15
339
54
3.60
±
0.56
* 0 日:前培養なし、**:ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性植物。
84
60
GUS actity index
50
40
30
20
10
0
0
1
3
6
Asanohikari
0
1
3
Yukihikari
6
0
1
3
6
0
1
Koshihikari
3
IR24
6
0
1
3
6
IR64
Periods of preculture (days)
図 5-1. 前培養した未熟胚における A. tumefaciens との共存培養後の胚盤における一過的
GUS 活性の品種間差異
0, 1, 3 および 6 は前培養日数。0 は単離直後に A. tumefaciens を接種した。各試験区につき 20
未熟胚を供試した。GUS 活性インデックスについては、第 4 章 材料および方法に記載した。
85
第6章
A. tumefaciens を接種する前のイネ未熟胚への遠心処理と
熱処理による形質転換効率の向上
1.
緒
言
ジャポニカ品種の遺伝子組換えができた後、未熟胚の利用により、インディカ品種の形質転
換が可能になるとともに、ジャポニカ品種形質転換の効率化を図ることができた。これらの研
究を通じて、遺伝子導入実験のおいては、供試する植物組織や細胞の状態が、決定的に重要な
因子であることが明らかとなった。そこで、本章で検討を行ったのは、供試する未熟胚に何ら
かの処理を加えることにより、未熟胚をさらに遺伝子導入に適した状態にすることができない
かという点である。
A. tumefaciens を介する形質転換は、様々な植物種で標準的な技術となっている (Komari and
Kubo, 1999)。アグロバクテリウムの宿主範囲外と考えられてきた主要な穀類が、1990 年の中頃
から普通に形質転換されるようになった (Ishida et al., 1996; Cheng et al., 1997; Tingay et al.,
1997)。形質転換の効率もまた、多くの植物種で大いに高められた。その結果、形質転換に必要
な時間、作業量、および、その他研究に必要な諸資源が、かなり削減された。感染のための植
物材料、培地組成、固化剤、除菌用の抗生物質、植物成長調節物質、温度、照明および組織培
養のための他の条件、そして組織培養過程での材料操作の様々な方法、材料への様々な処理な
ど因子も、形質転換効率の改善のために巧みに制御されてきた。
対象植物の拡大と形質転換効率の向上は、高等植物の形質転換の研究において、引き続き、
最上位の目標のひとつである。また、大多数の植物種は、まだまだ形質転換が困難と言わざる
を得ない。実際に、多くの研究報告では、形質転換されている植物は、タバコ、シロイヌナズ
ナそしてイネの 3 種に限定されている。さらに、ほとんどの主要作物では、広く栽培される優
良な品種は、往々にして、他の品種より1桁または 2 桁以上低い効率でしか形質転換できない
状況にある。
特定の植物種あるいは品種で、形質転換効率を向上する技術が開発された場合、その種や品
種において、実験効率を大きく改善するだけではなく、様々な利益をもたらす。その技術を用
いて、他の植物種や品種が、同様に効率よく形質転換できるようになるかもしれないし、全く
86
形質転換ができなかった植物でさえも形質転換し得るかもしれない。また、T-DNA でタグされ
た系統のライブラリー構築、遺伝子効果のハイスループット選抜、商業化に向けてエリート系
統を選抜するための数百から千を超える形質転換体の作出、そしてジーンターゲッティングに
おけるターゲットされたイベントの選抜、などのような目的には、極めて高い形質転換効率が
必要である。そのため、多様な植物種あるいは品種について、形質転換効率を向上する努力は、
止むことなく行われるであろう。
Khanna et al. (2004) はバナナの細胞への熱処理により、A. tumefaciens 接種後のバナナ細胞の
生育力が高まったこと、バナナ細胞と細菌細胞を一緒に遠心処理することにより、バナナ細胞
と細菌細胞の接着が改善したこと、そしてそれらが形質転換効率を向上させたことを報告した。
本章では、イネの未熟胚への熱ならびに遠心の前処理が形質転換効率の顕著な向上をもたらす
ことを報告する。そのような改善の背後にある機構は不明であるが、Khanna et al. (2004) の観
察に基づく所見とは、幾分異なると考えられた。
2.
材料および方法
1) A. tumefaciens 菌株およびプラスミド
LBA4404(pTOK233) (第 2 章 材料および方法参照) および LBA4404(pSB134) (第 4 章 材料お
よび方法参照)を供試した。
2) イネ品種と組織
イネ品種、「朝の光」、「コシヒカリ」、「IR24」、「IR64」および「IR72」を用いた。イネの栽
培方法および未熟胚の単離方法は、第 4 章の材料および方法に記載の通りである。単離後の未
熟胚を 1.5 ml 微量遠心チューブの 1 ml 滅菌水中に集めて供試した。
3) 熱による前処理
未熟胚が入ったチューブを、A. tumefaciens 菌株で接種する前に、様々な温度 (34、37、40、
43、46 および 49 °C) の恒温水槽で加温した。処理時間は、3、5、10、20、40、60、100、120
または 180 分間とした。熱処理後、15-25 °C の恒温水槽で 1 分間冷却した。
87
4) 遠心による前処理
未熟胚を入れた微量遠心チューブを、最大半径 83 mm の固定式アングルローターを用い、
25 °C で 10 分間様々な回転速度で遠心処理を行った。遠心処理は、A. tumefaciens 菌株を接種す
る前に実施した。
5) 遠心による前処理後のイネ未熟胚における細胞成長の調査
10 個の「コシヒカリ」の未熟胚を 1 組とし、20,000 xg で 10 分間遠心処理した。それから、
nN6-As 培地上 (第 5 章、表 5-1)に移し、25 °C 暗条件下で 1 週間培養した。遠心処理をしてい
ない未熟胚 (対照区) も同じ方法で培養した。培養後、成長した苗条は未熟胚から取り除き、1
組 10 未熟胚の重量を測定した。各試験区につき 5 組を測定した。組あたりの平均重量を遠心
処理区と非遠心処理区 (対照区) の間で比較した。
6) 接種と共存培養
A. tumefaciens LBA4404(pTOK233) と LBA4404(pSB134) を 50 mg/l ハイグロマイシンを添加
した AB 培地上に広げ、28 °C で 3 日間培養した。集菌後 AA-inf 培地 (第 4 章、表 4-1) に懸
濁、菌密度を 1-3 x 109 cfu ml-1 に調整した。A. tumefaciens の接種と共存培養の方法は、第 4 章 (材
料および方法) にしたがって行った。ジャポニカ品種の共存培養には、nN6-As 培地 (第 5 章、
表 5-1) を、インディカ品種の共存培養には NB-As 培地 (第 4 章、表 4-1) を用いた。
7) 形質転換細胞の選抜と形質転換イネの再分化
イネの形質転換の操作手順を図 6-1 に図解した。ジャポニカ品種の形質転換に用いた培地は、
第 5 章 (材料および方法、表 5-1) に、インディカ品種の形質転換に用いた培地は、第 4 章 (材
料および方法、表 4-1) に記載したとおりである。
8) 形質転換体の解析
共存培養後の未熟胚における GUS 活性は、胚盤領域全体に対して青く呈色された胚盤領域
を視覚的に百分率で見積もり評価した (第 4 章 材料および方法参照)。得られた百分率値を、
88
無処理の対照区の百分率値で割り、得られた値を GUS 活性相対値とした。葉から抽出した DNA
7 μg を HindIII または BamHI で消化し、1.5 V/cm で 15 時間電気泳動し、0.7 %アガロースゲル
上に分画したのち、ナイロンメンブレンにアルカリブロッティングした。その後、hpt プロー
ブおよび gus プローブ(第 2 章 材料および方法参照)により、サザンハイブリダイゼーション
を行った。.
3.
結
果
1) 熱による前処理
共存培養後、熱で前処理した未熟胚において、GUS 活性の増強が認められた。インディカ品
種「IR64」では、より高い温度で処理すると、より短い時間で GUS の発現が最大値に達する
傾向が認められた (図 6-2)。発現の最大値は、37 °C の場合 120 分後に、40 °C の場合 60 分後
に、43 °C の場合 40 分後に、46 °C の場合 10 分後に、49 °C の場合 3 分後に検出された。それ
ぞれの最大値の大きさは、処理温度間であまり差はなかった。しかし、46 °C の処理時間を延
長した場合、あるいは、46 °C より高い温度で処理した場合には、カルス誘導培地に置床して
も成長しない未熟胚の数が増加した。これらの条件では、未熟胚が損傷したと思われるので、
最適条件の範囲を狭めることとなった。
「IR24」や「IR72」などの他のインディカ品種、
「朝の
光」や「コシヒカリ」などのジャポニカ品種においても、同様の結果が得られた。処理時間の
さらなる最適化のために 43 °C で 30、35、40 および 45 分の熱処理についても試験を行ったが、
共存培養後の GUS 発現における顕著な違いは見られなかった (結果非表示)。よって、その後
の試験では 43 °C 30 分の条件を用いた。
2) 遠心による前処理
遠心による前処理も、共存培養後の未熟胚における GUS 活性を著しく向上させた。ジャポ
ニカ品種「朝の光」の未熟胚における GUS 活性は、
10 分間の遠心処理により強く促進された (図
6-3a)。2,000 xg から 20,000 xg の間で遠心処理した後の GUS 活性は、対照区に対しおよそ 8 倍
になった。しかし、100,000 xg あるいは 200,000 xg という高加速度の遠心処理後、細胞の成長
は強く抑制された。なお、20,000 xg と 100,000 xg の間については、詳細な試験を実施しなか
89
ったため、成長に影響にない遠心速度の正確な限界値は未調査である。遠心処理時間について
は、1 分から数時間の範囲で GUS 発現程度にあまり大きな差をもたらさなかった。他のジャポ
ニカ品種「日本晴」、
「コシヒカリ」および「しおかり」でも、同様な効果が認められたことか
ら、20,000 xg 10 分の遠心前処理条件をその後のジャポニカ品種の試験に適用した。
インディカ品種では、10 分間の遠心処理の効果は、GUS の発現の強さの比較で、
「IR64」の
場合 1.2 倍 (図 6-3b)、
「IR72」の場合 2.3 倍とあまり高くなかった (図 6-3c)。GUS 活性の最大
値は、遠心加速度で「IR64」の場合 1,100 xg、
「IR72」の場合 2,300 xg にあった。これは、イン
ディカの品種によっては、最適条件がかなり異なることを示している。また、ジャポニカ品種
と同様にインディカ品種でも、遠心処理時間の違いは、導入効率にほとんど影響しなかった。
遠心処理は、イネの未熟胚には、以下のような影響をもたらした。通常、前処理をしない場
合には、共存培養中に苗条が伸長するが、ジャポニカとインディカの両方で、遠心処理した未
熟胚では苗条の伸長が明らかに抑制された。加えて、カルス誘導培地におけるカルス形成は、
ジャポニカ (図 6-4)、インディカ共に、未処理の未熟胚よりも遠心処理した未熟胚において明
らかに良好であった。その一方で、カルスや懸濁培養細胞においては、遠心処理は遺伝子導入
および細胞分裂の促進効果を全く示さなかった (結果非表示)。
3) 前処理の組み合わせとイネ形質転換
イネの未熟胚を熱と遠心の両方で前処理し、A. tumefaciens と共存培養した。前処理の順番は、
予備試験の段階で、共存培養後の一過性の GUS 発現あるいは安定的形質転換の効率に何も違
いを及ぼさなかった。そのため、以下に記載する試験では、先に熱処理を行い、次に遠心処理
を行うことにした。共存培養後、胚から形質転換細胞を選抜し、形質転換植物を再分化させ、
温室において成熟するまで育てた。
形質転換試験の結果を、表 6-1 に要約した。独立した実験を、3 ないし 4 回繰り返し実施し
たところ、同様な結果が、すべての試験で得られた。よって、複数回の試験のうちの 1 回の試
験からの結果を、表 6-1 に示している。すべての品種において、前処理を組み合わせた試験区
が、最も高い形質転換効率を示した。すなわち、両方の前処理を行うことが、未処理およびど
ちらか一方の前処理を行うよりも高い形質転換効率を得た。全般的な傾向として、ジャポニカ
品種では、遠心処理の効果が熱処理の効果より高かった。それに対して、インディカ品種では、
90
熱処理の効果が遠心処理の効果より高かった。
得られた 15 個体のイネ形質転換体についてサザンハイブリダイゼーションによる解析を行
った。その結果を T-DNA の模式図と共に図 6-5 に示した。hpt プローブにハイブリダイズする
3.4 kb (図 6-5a) 以上のバンド数が hpt 遺伝子のコピー数を反映するように、または gus プロー
ブにハイブリダイズする 2.5 kb (図 6-5c) 以上のバンド数が GUS 遺伝子のコピー数を反映する
ように、T-DNA とイネ DNA の結合領域 (図 6-5a) の検出を行った。他方では、理論的に hpt プ
ローブを用いて 3.1 kb となる T-DNA 内部断片もターゲットとした (図 6-5b)。解析した形質転
換体のすべてから少なくとも 1 本のバンドが検出され、形質転換体の大部分は導入遺伝子を 1
ないし 2 コピー有していた。図 6-5b に示したように 11 個体が期待したバンドだけを有してい
た。4 植物体は、余分なバンドも持っていた。これは、形質転換過程で、ある程度の導入遺伝
子の再編成があったことを示している。
形質転換体当代および後代植物は、形態的に正常であり、大部分がほぼ完全な稔性を示した。
また、導入遺伝子が安定的に次世代に遺伝することも確認した (結果非表示)。これらの結果が
示すように、前処理による負の効果は、これまでのところ一切観察されていない。
4. 考
察
本研究では、A. tumefaciens を感染させる前に、遠心および 熱で未熟胚を処理することが、
顕著に形質転換効率を向上させることを示した。なお、これら処理によって明白な負の効果は
なく、形質転換効率は、試験を行ったすべてのイネ品種で向上した。
短時間の熱処理は、種々の生物における組織培養と形質転換において報告されている。例え
ば、ペチュニアの PEG を介した外来遺伝子のプロトプラストへの導入に関する研究において、
42 °C 45 分の熱による前処理により一過的遺伝子導入効率が向上したことが報告されている
(Zakai et al., 1993)。Khanna et al. (2004) は、懸濁培養細胞への 45 °C 5 分間の熱による前処理が、
A. tumefaciens によるバナナの形質転換効率を改善したことを報告した。Khanna et al.の観察に
よれば、熱ショックはレポーター遺伝子の一過性発現に如何なる改善ももたらさなかったが、
懸濁培養細胞の A. tumefaciens 感染後の生存能力を 2 倍にしたというものであった。それに対し、
本研究では、熱処理後イネ未熟胚における導入遺伝子の発現が顕著に向上する結果が現れた。
91
それゆえ、熱が形質転換効率を改善する様式は、植物種、品種、材料の種類によって異なって
いるのかもしれない。
加熱や低温処理に比べて、重力の制御、あるいは遠心加速度の適用は、これまでほとんど試
みられることはなかった。Khanna et al. (2004) は、バナナの細胞と A. tumefaciens を一緒に遠心
処理をし、形質転換効率が 4 倍まで向上したと述べている。彼らは、共遠心処理により植物細
胞への細菌の結合が増したことが要因であると結論付けている。ところが、本研究は細菌感染
の前に、植物細胞に対して遠心処理を行ったものである。本研究の予備試験段階において、細
菌中で発現するイントロンが介在しない GUS 遺伝子を用いて、未熟胚への細菌の付着程度に
ついて調査をおこなった。その結果、共遠心を行うと、確かに細菌の未熟胚への付着は促進さ
れた。しかしながら、遠心処理を事前に施した未熟胚に対して、細菌が付着しやすくなったと
いう事実は認められなかった。加えて、細菌と胚を共遠心処理し共存培養した場合には、未熟
胚への遠心前処理により誘起された場合と同程度の効率向上効果が認められた (結果非表示)。
以上のことから、本研究における遠心処理による遺伝子導入効率向上は、植物細胞への細菌の
付着増加とは無関係であることがわかった。
他方、遠心処理により、イネ未熟胚からの苗条の伸長の抑制と、胚盤の細胞分裂の促進が観
察された。このように、遠心処理は器官の正常な発達を妨げる一方で、植物細胞の脱分化成長
を促進しているように見える。おそらく、植物組織を形質転換に関して“competent”な状態に
変化させていると考えられる。この仮説は、カルスまたは懸濁培養細胞に対しては、遠心処理
の効き目がないという観察と矛盾がない。しかしながら、その機構については、一切不明であ
る。
Khanna et al. (2004) の研究と本研究は、高等植物の形質転換において、熱ショックと遠心に
よる植物材料への処理が、効率的な手法開発のための効果的な選択肢であることを示している。
しかしながら、最適な強度、条件および処理の手順などは、植物種、品種、そして組織の種類
に依存して多種多様かもしれない。
ここに報告した遠心と熱の前処理で促されたイネの形質転換効率は、著しく高い。平均で 18
個体もの独立な形質転換植物が、ジャポニカ「朝の光」の 1 未熟胚から得られた。形質転換の
実験において、このような高効率は、研究者に向けて非常に大きな柔軟性を提供する。独りの
実験者が、何万もの形質転換植物を 1 年間で作出できるかもしれない。導入遺伝子あたり 10
92
形質転換体の作出を目標とするなら、A. tumefaciens を 1 または 2 未熟胚へ感染させるだけで十
分である。そして、1 年で数千種類の外来遺伝子を、容易にイネに導入できるかもしれない。
このような高い効率は、ゲノム機能の研究をはじめとする様々な分野の研究に、大変有用で
あろう。
93
表 6-1. A. tumefaciens LBA4404 (pSB134) を介した数種のイネ品種の形質転換における未熟胚への熱およ
び/または遠心による前処理の効果
品種
熱処理
(温度および時間:
°C - min)
遠心処理
(xg)
未熟胚当たりの独立な形質転換植
物数* (平均 ± 標準誤差)
朝の光
43 - 30
43 - 30
20,000
20,000
3.20
5.13
14.80
17.93
±
±
±
±
0.69
0.77
0.69
1.01
コシヒカリ
43 - 30
43 - 30
20,000
20,000
2.67
4.47
9.40
13.27
±
±
±
±
0.60
0.56
1.06
0.85
IR24
43 - 30
1,100
5.07
9.27
±
±
0.54
0.86
IR64
43 - 30
43 - 30
1,100
1,100
3.27
11.00
4.27
12.33
±
±
±
±
0.70
0.75
0.52
0.67
IR72
43 - 30
43 - 30
2,300
2,300
4.40
9.60
6.87
12.87
±
±
±
±
0.95
0.83
0.77
1.05
*:ハイグロマイシン耐性かつ GUS 陽性植物、各試験データは 15 未熟胚での結果の平均を示す。
94
Japonica rice
Indica rice
Immature embryo
Immature embryo
Heat-treatment
Centrifugation
Heat-treatment
Centrifugation
Inoculation with
Agrobacterium
Inoculation with
Agrobacterium
Co-cultivation for 7 d
Cut into 6 pieces &
transfer to resting medium
Co-cultivation for 7 d
Transfer to resting medium
1st resting for 5 d
Resting for 10 d
Cut into 4 pieces each &
transfer to selective medium
Cut into 6 pieces &
transfer to resting medium
2nd resting for 10 d
Selection for 10 d
Transfer to regeneration
medium
Cut into 4 pieces each &
transfer to selective medium
1st selection for 10 d
Regeneration for 14 d
Transfer to selective medium
Transfer to rooting medium
2nd selection for 10 d
Rooting for 10 d
Transfer to pre-regeneration medium
Transgenic plants
Pre-regeneration for 10 d
Transfer to regeneration medium
Regeneration for 14 d
Transfer to rooting medium
Rooting for 14 d
Transgenic plants
図 6-1. 前処理未熟胚を用いたイネ形質転換プロトコールの概要
95
Relative GUS expression
6
34 ℃
37 ℃
40 ℃
43 ℃
46 ℃
49 ℃
5
4
3
2
1
0
1
10
100
Time for heat shock (min)
1000
図 6-2. 熱処理したイネ品種 IR64 の未熟胚における相対的 GUS 活性
IR64 の未熟胚を、あらかじめ決めた長さの時間、所定温度の熱で処理した。その後、胚に
A. tumefaciens LBA4404 (pTOK233) を接種した。共存培養後、未熟胚における GUS を、X-Gluc
で組織化学的に分析した。未処理の対照に対する相対的 GUS 活性を、標準誤差の範囲とと
もに表示した。各試験区とも 20 未熟胚を供試した。
96
(a)
(b)
3
Relative GUS activity
Relative GUS activity
10
8
6
4
2
0
100
1,000
10,000
2
1
0
100
100,000
1,000
Centrifugal acceleration (xg)
10,000
100,000
Centrifugal aceleration (xg)
Relative GUS activity
(c)
4
3
2
1
0
100
1,000
10,000
100,000
Centrifugal acceleration (xg)
図 6-3. 遠心で前処理されたイネの未熟胚における相対的 GUS 活性
イネの未熟胚を 10 分間所定の速さで遠心処理した。その後、胚に A. tumefaciens LBA4404
(pSB134) を接種した。
共存培養後、
胚における GUS 活性を X-gluc で組織化学的に分析した。
未処理対照区に対する相対的な GUS 活性を、標準誤差の範囲と一緒にプロットした。
(a):ジャポニカイネ「朝の光」
(b):インディカイネ「IR64」
(c):インディカイネ「IR72」
各試験区とも 15 未熟胚を供試した。
97
Fresh weight / 10 embryos (mg)
60
50
40
30
20
10
0
Control
Centrifuged
図 6-4. 遠心処理したイネの未熟胚からの細胞増殖
「コシヒカリ」の 10 未熟胚のバッチを 20,000 xg で 10 分間遠心処理し、カルス誘導培地上に
置床後、25 °C 暗黒条件下で 1 週間培養した。伸長した苗条を未熟胚から切除し、1 バッチ
10 未熟胚分の重量を測定した。5 バッチの平均と標準誤差をプロットした。
98
(a)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1213 14 15
(b)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 13 14 15
kb
kb
23.1
23.1
9.4
9.4
6.6
6.6
4.4
4.4
2.3
2.0
2.3
2.0
(c)
HindIII
HindIII
BR
BL
HPT
IGUS
Tnos
35S
UBI
3.1 kb
UbiI
Tnos
3.4 kb
図 6-5. 形質転換植物のサザン解析
LBA4404 (pSB134) で形質転換した「朝の光」 (レーン 1、 2、 3)、
「コシヒカリ」 (レーン
4、5、6)、
「IR24」(レーン 7、8、9)、
「IR64」(10、11、12) および「IR72」 (13、14、15) の
ゲノム DNA を制限酵素 HindIII で消化し、電気泳動にて分画し、ナイロンメンブレンに転写
した。そして、hpt (a) もしくは gus プローブ (b) を用いてハイブリダイズさせた。pSB134 (c)
の T-DNA 領域の模式図をその下に示す。
図中の略号:
BR:右ボーダー、BL:左ボーダー、IGUS:intron-GUS 遺伝子、HPT:HPT 遺伝子、35S:
35S プロモーター、UBI:トウモロコシユビキチン I のプロモーター、UbiI:トウモロコシユ
ビキチン I の第 1 イントロン、Tnos:ノパリン合成酵素の 3’シグナル、T35S:35S RNA の 3’
シグナル。
99
第7章
A. tumefaciens によるイネ形質転換の包括的手順書の開発
第 2 章から第 6 章に掛けて示した A. tumefaciens を介するイネ形質転換の研究において、ジャ
ポニカとインディカの幅広いイネ品種を取り扱った。そして供試したすべての品種において、
完熟種子由来カルスもしくは未熟胚を材料として、効率よく形質転換体を獲得することができ
た。この結果、イネにおいては、広範な研究において、外来遺伝子の導入実験を行う道筋を拓
くことができたといえる。そこで、本章では、この道筋をさらに歩みやすく整備するため、1) イ
ネ形質転換の手順における、材料や方法に関するさまざまな選択肢を整理し、実験の目的や規
模に応じた選択肢の決定を容易にすることと、2) 研究の過程で得た新たな知見を反映した最新
の実験手順を確立することを目指し、A. tumefaciens によるイネ形質転換の包括的手順書の作成
に取り組んだ。
第 1 節には、熱帯ジャポニカを含む幅広いジャポニカ品種および培養容易なインディカ品種
に適用可能な「完熟由来カルスを用いたジャポニカ品種の形質転換手順」を、第 2 節には、第
1 節と同様な品種群がさらに効率よく形質転換できる「未熟胚を用いたジャポニカ品種の形質
転換手順」を、第 3 節には、従来から培養が困難とされているインディカ品種を効率よく形質
転換できる「未熟胚を用いたインディカ品種の形質転換手順」を提示した。なお、残念ながら、
本研究では、「完熟由来カルスを用いたインディカ品種の形質転換手順」を提示するには至ら
なかった。これらの手順に従えば、90 %以上が形態的に正常であり、高い稔性を有する形質転
換イネの獲得が期待できる。また、このようにして得た形質転換体は、およそ 40-50 %が導入
遺伝子を 1 コピーのみ持ち、30 %が 2 コピー、残りが 3 コピー以上を有するということが経験
的に言える。
どの手順を採用するかは、研究の目的・規模・継続性や、研究組織の構成、利用できる研究
設備・施設に依存する。「日本晴」などの形質転換しやすい品種を用いればよい場合や一時的
に少数の組換え体を作成すればよい場合は、第 1 節記載の手順、すなわち、完熟種子由来のカ
ルスの利用が選択肢となる。例えば、研究組織は主として分子生物学者で構成され専任の組織
培養研究者は参加しておらず、整った温室設備がない状況が当てはまる。
逆に、インディカ品種など比較的困難な品種や変異系統を供試する必要がある場合や多数の
形質転換体を作出する必要がある場合は、第 2 節、もしくは、第 3 節の手順、すなわち、未熟
100
胚を用いて形質転換を行うべきである。例えば、長期継続的に形質転換実験を行う必要があり、
専任の組織培養研究者を含む研究組織が構成され、整った温室設備を有し、常勤の栽培管理担
当者が配置されている状況が当てはまる。
多くの場合は、両極論の間のどこかに相当するであろうから、実状に合わせて、形質転換手
順にも改変を加えることになる。また、本章には記載のない品種の形質転換を試みる場合も、
何らかの手法の改変が必要であろう。いずれの場合も、本章の手順書は、その改変の基点とし
ての利用されることを期待している。
ここで、注意したいのは、未熟胚を用いた場合には、広範な品種や変異系統の形質転換が可
能であるが、多くの研究室は、例えば、空調と補光により適切に管理され通年栽培可能な温室
を利用できる状況にはないという、現実の問題が存在することである。したがって、多くの研
究室では、完熟種子から誘導したカルスの利用が、実際には唯一の選択肢となってしまう。こ
の方法は、確かに、簡便ですぐれた方法である。未熟胚を用いた形質転換は、親植物の健康状
態等により効率が著しく変動することがありうるが、カルスの場合、元の種子が発芽能力を保
持しているかぎり、形質転換効率は、比較的安定している。種子は、保存も移動も容易である
ので、多くの研究室で、必要に応じて、実験を行うことができる。そのため、イネの形質転換
法の改良を目指した近年の研究のほとんどは、カルスを用いて形質転換できる品種を拡大する
試みである (Park et al., 2003; Rachmawati et al., 2004; Hoque et al., 2005; Kumar et al., 2005; Lin
and Zhang 2005; Martinez-Trujillo et al., 2003; Visarada and Sarma 2004)。それでもなお、形質転換
の効率は高くなく、そして骨の折れる努力が品種ごとに必要とされている。
このような研究動向が、真に望まれる方向なのかは、議論の余地があるところである。未熟
胚を用いる形質転換を効率よく行うことができる施設と研究組織を整備し、適切に維持管理で
きれば、比較的容易に、さまざまな品種の形質転換ができる訳である。ゲノム解析のような大
型のプロジェクトで試みられているように、このような形質転換技術の研究を先進的に行う研
究機関と、さまざな個別の研究を担当する機関との連携を強化するのが本来の姿かもしれない。
第1節
1 諸
完熟種子由来カルスを用いたジャポニカ品種の形質転換手順
言
101
イネの A. tumefaciens を介する形質転換の出発材料として、完熟種子は、大量に入手でき、研
究室の棚に長期間保存できるので非常に使い易い。第 2 章で示したように、ジャポニカ品種で
は、完熟種子からカルスを誘導し、カルスに A. tumefaciens を感染させることによって、形質転
換体を得ることができる。しかしながら、多くの他の品種、特にインディカ品種の多くは、完
熟種子からの形質転換に適したカルスを誘導することが困難であり、培養系の開発にはたいへ
んな努力が必要である。そして、このような努力は、品種毎を基本に実施する必要がある (Park
et al., 2003; Rachmawati et al., 2004; Hoque et al., 2005; Kumar et al., 2005; Lin et al., 2005; Datta
and Datta 2006; Martinez-Trujillo et al., 2003; Visarada and Sarma 2004)。加えて、1 研究室で開発さ
れたカルス培養の技術が他の研究室では再現できないこともよくある。したがって、A.
tumefaciens による完熟種子由来カルスを用いた形質転換法では、1-2 種類の手順書により、幅
広いインディカ品種群に関する手法を記載することは困難である。
本節では、熱帯ジャポニカを含む広範なジャポニカ品種およびコシヒカリとその近縁品種、
ならびに培養容易なインディカ品種である「カサラス」に確実に適用できる、完熟種子由来カ
ルスを用いた高効率な形質転換手順を提示する。
2
材料および方法
1) 選抜マーカー
hpt はイネの形質転換に非常に効率的であり、本手順に採用した。
2) 形質転換ベクターと A. tumefaciens 菌株
種々の形質転換ベクターと A. tumefaciens 菌株が、イネの形質転換で試験されてきた。どのベ
クターと菌株を使用しても、形質転換手順そのものは、細菌増殖用培地に加える薬剤以外、同
じである。ただし、ベクターと菌株の組み合わせは、形質転換の効率に影響を及ぼす可能性が
ある。この手順では、2 種のベクターpNB134 および pSB134 (第 4 章 材料および方法参照)、お
よび 2 種の菌株 LBA4404 と EHA105 を用いた。pNB134 は、T-DNA 上にトウモロコシのユビ
キチン 1 遺伝子のプロモーターと第一イントロンで制御される HPT 遺伝子、およびコーディン
102
グ配列中にイントロンが介在する intron-GUS 遺伝子 (Ohta et al., 1990) を有する (図 7-1a, c)。
pSB134 は、pNB134 と形質転換効率の高い Ti プラスミド pTiBo542 由来の virB と virG を組み
合わせて構築されたスーパーバイナリーベクターである (図 7-1b, c)。EHA105 は、pTiBo542
から T-DNA を除去した Ti プラスミドを有する菌株である (Hood et al., 1993)。
▲重要
適切なイントロンを有し CaMV 35S プロモーターのような構成的発現をする強力な
プロモーターに制御された HPT 遺伝子も、使用可能である。しかし、イントロンのない 35S
プロモーターのような弱いプロモーターを使うときは、選抜圧の調整が必要である。例えば、
選抜培地中のハイグロマイシンの濃度を 80 %まで減じたほうが良い。ただし、選抜は可能であ
るが、耐性細胞と感受性細胞の区別がやや不明確になる。
3) イネ品種
表 7-1 に記載した品種を供試し、その結果に基づいて分類した (表 7-1)。
4) 培地組成
本手順で用いた各培地の組成を表 7-3 に示した。また特殊なストック溶液については、その作
成方法について表 7-2 に示した。
3
結果および考察
確立した手順は以下に示すとおりである。操作時間に関する記載は、熟練した実験者が 15
個の完熟種子に由来する 200 個のカルスを用いて形質転換試験を実施した場合を想定したもの
である。また、おおよその所要時間について図 7-2 に示す。完熟種子の培養開始 (操作 8) か
ら、形質転換体をポットに移植する (操作 29) まで 70 日掛かる。形質転換試験の結果から導
いた典型的形質転換効率の範囲を表 7-5 に示す。
完熟種子由来カルスを用いたジャポニカ品種の形質転換手順
1) A. tumefaciens 懸濁液の調製:
操作時間:5 分、培養期間:3 日
103
(1)
A. tumefaciens 菌株を 3 日間 28 °C 暗条件下で適切な抗生物質を含む AB 培地上で培養
する。
(2) 白金耳で細菌を集菌する。1.0 ml 当たり 3 x 108 cfu/ml の濃度 (660 nm で OD 値:0.3) で
1.0 ml の AAM 培地中に懸濁する。なお、接種前の液体培地による A. tumefaciens の増
殖は不要である。
▲重要:接種源には新鮮なものを用いること。培養は、形質転換予定日の 3 日前に開始す
る必要がある。
2) カルスの誘導: 操作時間:65 分、培養期間:17 日
(3)
籾摺り器 (イネ用籾摺り器:株式会社
藤原製作所 08101701) で完熟種子を脱頴する
(4) 玄米を無菌の 50 ml チューブに集める。
▲重要な操作:種子は、カルス誘導の過程での微生物の雑菌汚染を少なくするため、見て
分かるカビや傷がないものでなければならない。もし培養物が雑菌汚染されたら、汚染さ
れていない種子への影響を排除するため、速やかに新しいプレートに移植した方が良い。
(5)
20 ml の 70 %エタノールで 10 秒間処理したのち、Tween 20 を 1 滴含む 1.5 % の次亜
塩素酸ナトリウム 25 ml 中で 30 分間攪拌し表面殺菌する。
(6)
5 回滅菌水で種子をすすぐ。
(7)
2N6 培地上に玄米を置き、サージカルテープ (ニチバンサージカルテープ 21N: No.
25、ニチバン株式会社) でプレートを封じる。25 粒を 1 プレート上で培養できる。
(8)
7 日間 30°C 暗条件下で種子を培養する。これがカルスの前誘導段階である。
(9)
培養した種子 (図 7-3a)から胚盤部分をメス (替え刃:No. 19、株式会社フタバ) で切
り出し、胚盤を 2N6 培地 (ジャポニカのタイプ 1, 2、インディカのタイプ 6) または
2NBK 培地 (ジャポニカのタイプ 3) (表 7-4 参照)に胚盤側を上向きにして置床する
(図 7-3b)。サージカルテープでプレートを封じる。25 の胚盤を 1 プレートに置床で
きる。
(10) 胚盤を暗黒下 30°C で 10 日間培養する。これがカルス誘導段階である。
(11) 黄色掛かった白 (クリーム)色で球状の活発に増殖しているカルス (図 7-3c) を 90
mm のシャーレの 5 ml の滅菌水中に浸す。滅菌水中でメスを用いて、カルスを直径
0.5-1 mm の小さな塊に刻む。
104
(12) 水を除去し、ピンセットでカルスを 2N6 培地 (ジャポニカのタイプ 1, 2、インディカ
のタイプ 6) もしくは 2NBK 培地 (ジャポニカのタイプ 3) に移植し、サージカルテー
プでプレートを封じる。200-250 カルスが 1 プレート上に置床可能である。
(13) 32 °C 連続照明下 (5,000 lx) で 3 日間培養する。これがカルス前培養段階である。
▲重要な操作:特殊な品種を形質転換する時には、表 7-4 にある両方の培地を試すことを
推奨する。どちらか一方、または両方の培地からカルスを得ることができると考えられる。
2) 接種と共存培養:
操作時間:25 分、培養期間:3 日
(14) 活発に増殖しているカルスを 90 mm のシャーレの 5 ml の滅菌水中に浸す。
(15) シャーレを傾け、シャーレの低い方にピンセットでカルスを掻き集める。滅菌水を
除去する。
(16) 細菌懸濁液 1.0 ml (接種源、試薬の調製を参照) をパスツールピペットを用いて傾け
たシャーレに加える。そして、ピペットからの液の出し入れによりカルスと懸濁液を
混ぜ合わせる。
(17) 傾けた状態でシャーレを 25 °C で 2 分間維持する。
(18) カルスと細菌懸濁液をピペットからの液の出し入れにより再び混ぜ合わせ、パスツ
ールピペットを用いて細菌懸濁液を除去する。
(19) 2N6-As 培地 (ジャポニカのタイプ 1, 2、インディカのタイプ 6)、もしくは 2NBK-As
培地 (ジャポニカのタイプ 3) にカルスを移植し、パラフィルムでプレートを封じる。
およそ 150 カルスを 1 プレートに置床することができる。
(20) 暗条件下 25°C で 3 日間培養する。これがカルスの共存培養段階である。
3) 形質転換細胞の選抜:
操作時間:5 分、培養期間:19 日
(21) 共存培養後、カルスを 1 次選抜培地の 2NBKCH40 に移植し、サージカルテープでプ
レートを封じる。抗生物質溶液や滅菌水によるカルスの洗浄は、不要である。1 プレ
ートに 30-60 個のカルスを置床できる。
▲重要: 選抜培地上で A. tumefaciens が増殖してしまう場合は、共存培養後にカルスを滅
菌水で数回洗浄した後、2.5 mg/ml セフォタキシム溶液に 5 分間浸漬する。過剰な水分を除
105
去した後、1 次選抜培地へ移植する。
(22) 32 °C 連続照明下 (5,000 lx) で 2 週間培養する。これが 1 次選抜段階である。
(23) 増殖した黄色掛かった白色のカルスを 2 次選抜の培地 nN6CH50 (ジャポニカのタイ
プ 1, 2 およびインディカのタイプ 6) または NBKCH40 (ジャポニカのタイプ 3) に置
床し、サージカルテープでプレートを封じる。1 次選抜培地上で同一カルスから得た
ハイグロマイシン耐性カルスの集団は、事実上、一つの形質転換体から成長した細胞
として取り扱った。2 次選抜には、ほんの 2, 3 のカルス塊を培養することで十分であ
る。1 プレート当たり 50 の集団を置床できる。
(24) 32 °C 連続照明下 (5,000 lx) で 5 日間培養する。これが 2 次選抜段階である。
5) 形質転換イネの再分化:
操作時間:50 分、培養期間:28 日
(25) ピンセットで直径 0.5-1.0 mm の増殖したカルスを再分化培地 N6RH50 (ジャポニカの
タイプ 1, 2、インディカのタイプ 6)、NBKRH40 (ジャポニカのタイプ 3)に移植する。
プレートをサージカルテープで封じる。植物は、ジャポニカおよびインディカのタイ
プ 6 の黄色掛かった白色のカルスから、容易に再分化する。再分化培地上に形質転換
体当たり 2-3 個のカルスを置床すれば十分である。10-30 の独立な形質転換細胞塊を 1
プレート上に置床できる。
(26) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが再分化段階である。
(27)
再分化した幼植物 (シュート) を発根培地 N6FH50 (ジャポニカのタイプ 1 およびイ
ンディカのタイプ 6)、NBKFH40 (ジャポニカのタイプ 2, 3) に移植する。
1 つの Magenta
容器 (Magenta®容器:SIGMA F3270 - GA-7 filter) に 10 個の再分化個体を移植できる。
(28) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが発根段階である。
6) 形質転換イネの栽培:
操作時間 30 分、植物栽培期間:95 日
(29) 17-cm ポットの栽培土に形質転換植物を移植する。3 植物体が 1 ポットに移植できる。
温度を 18 °C から 24 °C の間で保持し、栄養成長期の間は 14 時間以上の日長を維持す
る。
(30) 5 週間後、花芽誘導のため 12 時間に日長を変更する。日中の温度は 28 °C と 35 °C の
106
間を維持し、夜間は 22 °C と 25 °C の間を維持する。植物が、開花時期に達したら (お
よそ日長時間の変更後 9-10 週間)、次世代種子の採取ができる。
▲重要な操作:上記の栽培条件は、ほとんどのジャポニカおよびインディカ品種に好適で
あり、形質転換のために共通で使用できる。日長を制御できない場合には、旺盛な成長を
助けるために温度と照度だけを制御する。理想的には、照度は 60,000 lx 以上である。開花
までに必要な期間がばらつくことに注意する。
7) 備
考
菌株とベクターの組み合わせによって形質転換効率には明瞭な差が認められ、LBA4404 とス
ーパーバイナリーベクターpSB134 との組み合わせで最も形質転換効率が高かった (表 7-5)。
病原性の高い菌株に由来する EHA105 と通常のバイナリーベクターpNB134 との組み合わせが、
それに次ぐ効率を示した。LBA4404 と通常のバイナリーベクターpNB134 との組み合わせでは、
形質転換効率が最も低かった (表 7-5)。この結果は、第 2 章と同様である。
ジャポニカのタイプ 3 は、日本で全水田の 70 %以上を占める「コシヒカリ」とその近縁品種
に該当する。これらの品種における低い硝酸還元酵素活性が、組織培養に対する反応不良を引
き起こしていることが明らかにされている (Ogawa et al., 1999)。このため、アミノ酸が豊富な
培地が、これら品種のカルスの培養により好適である。しかし、種子の初期反応は、このよう
な培地上でも不良である。そのため、種子は最初アミノ酸を添加しない培地上で 7 日間培養し、
それから、アミノ酸が豊富な培地に継代培養する方法が推奨される (Ozawa and Kawahigashi,
2006)。この推奨事項は、本手順にも採用した。
本手順では選抜マーカーとして、HPT 遺伝子を用いたが他の選抜マーカーも利用可能である。
リン酸マンノース異性化酵素遺伝子 (pmi) (Lucca et al., 2001 )は、1 次選抜以降の培地からハイ
グロマイシンを除き、ショ糖またはマルトースに替えて同濃度のマンノースを使用することで、
hpt での効率を凌ぐほど高効率で形質転換が可能である。植物にゲネティシン (G418) とパロ
モマイシンに対する耐性を付与する npt もまた使用可能である (Toriyama et al., 1988; Huang et
al., 2001)。パロモマイシンを選抜薬剤として用いる場合には、パロモマイシンがゲランガムを
含む培地中で不溶化するため、ゲランガムを寒天かアガロースに置き換える必要がある。bar
を選抜マーカー (Christou et al., 1991; Enriquez-Obregon et al., 1999) として使用するなら、グル
107
タミンは、選抜培地から除かなければならない。というのも、グルタミン合成酵素の強力な阻
害剤である選抜薬剤ホスフィノスリシン (PPT) の作用機序を無効にするかもしれないためで
ある。他のマーカーを使用する場合でも手順の本質は変更するべきではない。
第2節
1 諸
未熟胚を用いたジャポニカ品種の形質転換手順
言
本節では、第 6 章で開発した単離直後の未熟胚を用いた熱帯ジャポニカを含む広範なジャポ
ニカ品種および「コシヒカリ」とその近縁品種、ならびに培養容易なインディカ品種である「カ
サラス」に確実に適用できる、非常に高効率な形質転換手順を提示する。未熟胚の形質転換成
功のための要因は、1) 新鮮で、健全な未熟胚を用いること、2) 培地組成の最適化、3) 感染前
の胚への熱と遠心処理である(特に遠心処理)。しかし、未熟胚を用いる形質転換の成功は、
胚の品質に依存するということに注意が必要である。良い未熟胚は、健全な温室で正しい成長
段階で旺盛に生育する健全な植物から得られる。もし形質転換試験を通年実施するなら、開花
中のイネ植物は、年間をとおして必要である。そして、温室が、適切に温度と日長および光の
強さを制御できるよう装備されていることが望ましい。未熟胚の形質転換は優れた結果を得る
ことができる一方で、完熟種子から誘導されたカルスの形質転換よりもコスト高となる。
2
材料および方法
1) 選抜マーカー
hpt を選抜マーカーとして本手順に採用した。
2) 形質転換ベクターと A. tumefaciens 菌株
この手順では、2 種のベクターpNB134 および pSB134、および 2 種の菌株 LBA4404 と EHA105
を用いた (第 1 節 材料および方法参照)。
108
3) イネ品種
表 7-1 記載の品種を供試し、その結果に基づいて分類した (表 7-6)。
4) 本手順で用いた各培地の組成を表 7-7 に示した。また特殊なストック溶液については、そ
の作成方法について表 7-2 に示した。
3
結果および考察
確立した手順は以下に示すとおりである。操作時間に関する記載は、熟練技術者が 10 個の
未熟胚を用いて形質転換試験を実施した場合を想定したものである。また、おおよその所要時
間について図 7-4 に示す。共存培養の開始 (操作 18) から形質転換体をポットに移植する (操
作 27) まで、55 日掛かる。形質転換試験の結果から導いた典型的形質転換効率の範囲を表 7-9
に示す。
未熟胚を用いたジャポニカ品種の形質転換手順
1) 形質転換材料の準備:
操作時間:21 分、植物栽培:95 日
(1) 温室内の 17 cm ポットに入った土壌にイネ完熟種子を播く (ポット当たり 100 粒まで)。
温度を 18 °C から 24 °C の間で保持する。
(2)
2 週間後、実生を温室内の 17 cm ポットに移植する (ポット当たり 3 植物)。温度を 18 °C
から 24 °C の間で保持し、栄養成長期の間は 14 時間以上の日長を維持する。
(3) 5 週間後、花芽誘導のため 12 時間に日長を変更する。日中の温度は 28 °C と 35 °C の
間を維持し、夜間は 22 °C と 25 °C の間を維持する。植物が、開花時期に達したら (お
よそ日長時間の変更後 5 週間)、以下に記載したように未熟胚の採集ができる。
▲重要な操作:上記の栽培条件は、ほとんどのジャポニカ品種に好適であり、形質転換の
ために共通で使用できる。日長を制御できない場合には、旺盛な成長を助けるために温度
と照度だけを制御する。理想的には、照度は 60,000 lx 以上である。開花までに必要な期間
はばらつくことに注意する。良好な胚は、適切に制御されている温室で旺盛な生育をして
109
いる健全な植物から得ることができる。
(4) 受粉後 8 ないし 12 日、適正な発達段階で未熟胚を含む穂を収穫する。
▲重要な操作:胚が最良の発達段階に到達するのに必要な日数は、品種と季節によって異
なる。手でチェックする方法としては、親指で未熟種子の中ほどを押すことでできる。種
子が凹むことにわずかに抵抗するなら、その未熟胚は通常適切な大きさである。もし種子
が全く抵抗しない、あるいは、硬いなら、それぞれ早すぎるか遅すぎるかである。
(5) ピンセットで未熟種子から頴を取り除く。無菌の 50 ml チューブ中に未熟種子をいれる
(最多 200 種子)。70 %エタノールに未熟種子を 10 秒間浸す。
(6) エタノールを除き、Tween 20 を 1 滴含む 1 %次亜塩素酸ナトリウムを 25 ml 加える。そ
して、振盪機でゆっくり 5 分間チューブを振盪する。
(7) 次亜塩素酸ナトリウムを除去し、滅菌水で 5 回洗浄する。未熟種子を無菌の 90 mm シ
ャーレ中に集める。
(8) ピンセットで種子から未熟胚を単離し 0.8 % (wt/vol) 寒天培地上に移す。熟練技術者な
ら 2 分 30 秒で殺菌種子から 10 個以上の未熟胚を集めることができる。適正な発達段
階の未熟胚を使用することは重要であり、未熟胚の大きさは非常に良い発達段階の指
標である。胚軸に沿って長さ 1.3 mm ないし 1.8 mm の未熟胚が形質転換に好適である。
出発材料として好適な典型的未熟胚を図 7-5 に示す。
(9) 1.5 ml 微量遠心チューブに入った 1.0 ml の滅菌水中へ適切な大きさの未熟胚を入れる。
未熟胚がチューブの底に沈むように指でチューブを軽くたたく。
2) 熱と遠心処理による前処理:
処理時間:40 分
(10) 未熟胚が入ったチューブを 43 °C の恒温水槽中に入れ 30 分間保持する (図 7-4 参照)。
▲重要な操作
43 °C
30 分間の熱処理は、広範なイネ品種においてよく効く (表 7-8)。
ある品種群に対しては、処理をいっそう最適化できるかもしれないが、本条件が良い出発
点になる。この処理の効果は、共存培養後における intron-GUS 遺伝子の発現活性を一過性
発現レベルでモニターできる。
(11) 1 分間氷上でチューブを冷却する。
(12) 83 mm の最大半径の固定アングルローターを用い、25 °C で 10 分間チューブを遠心
110
処理する。20,000 xg の遠心加速度を用いる (表 7-8 参照)。
▲重要な操作
遠心処理の最適条件は、品種により異なる。ジャポニカおよびインディカ
のタイプ 6 には 20,000 xg がおそらく好適である。特殊な品種については、処理を最適化で
きるかもしれないが、上記条件が良い出発点になる。処理の効果は、共存培養後における
intron-GUS 遺伝子の発現活性を一過性発現レベルでモニターできる。
3) A. tumefaciens 懸濁液の調製:
操作時間:5 分、培養期間:3 日
(13) A. tumefaciens 菌株を 3 日間 28 °C 暗条件下で適切な抗生物質を含む AB 培地上で培養
する。
(14) 白金耳で細菌を集菌する。1.0 ml 当たり 1 x 109 cfu/ml の濃度 (660 nm で OD 値:1.0)
で 1.0 ml の AA-inf 培地中に懸濁する。なお、接種前の液体培地による A. tumefaciens
の増殖は不要である。
▲重要:接種源には新鮮なものを用いること。培養は、形質転換予定日の 3 日前に実施す
る必要がある。
4) 接種と共存培養:
操作時間:20 分、培養期間:7 日
(15) 操作 (12) の微量遠心チューブから、ピンセットを利用し、未熟胚と水を空のシャー
レ (60 x 15 mm) に流し出す。ピペットで水を除去し、未熟胚を nN6-As 培地 (ジャポ
ニカ タイプ 1, 2 およびインディカのタイプ 6) もしくは NB-As 培地 (ジャポニカタ
イプ 3) 上に胚盤側を上向きにして移植する (表 7-6 参照)。100 未熟胚まで、1 プレ
ート上に置床して良い。
▲重要な操作
個々の品種に対して表 7-6 に明示された培地の使用が決定的に重要である。
全く別の品種を形質転換しようとする時には、表 7-6 にある培地の選択肢のすべてを試す
ことが良い考え方である。
(16) 操作 (14) の A. tumefaciens の懸濁液 5 μl を各未熟胚上に滴下する。
(17) 細菌懸濁液が培地中へ浸み込むまで 25 °C で 15 分間待つ。未熟胚を同培地の使用され
ていない表面上に移動し、パラフィルムでプレートを封じる。
▲重要な操作
共存培養培地が新し過ぎる場合には、A. tumefaciens が共存培養中にプレー
111
トの濡れた部分で過増殖する。細菌の過増殖は、カルスのネクローシスを引き起こし、形
質転換効率を下げてしまう。従って、培地の表面に細菌の懸濁液を滴下した後、速やかに
培地中に浸み込んでいくように、培地の作成後 2-3 日間は使用しないで置いておくべきで
ある。
(18) 25 °C 暗条件下で 7 日間培養する。これが共存培養段階である。
5) 形質転換細胞の選抜:
操作時間:45 分、培養期間:20 日間
(19) 操作 (18) の共存培養後、未熟胚から伸長した芽を除去する。未熟胚をメスで 6 個に
切り、各切片を nN6C 培地 (ジャポニカのタイプ 1, 2 およびインディカのタイプ 6) ま
たは NBKC 培地 (ジャポニカのタイプ 3) (図 7-6、図 7-7a, b) へ置床する。抗生物質
溶液や滅菌水で胚を洗浄する必要はない。サージカルテープでプレートを封じる。
(20) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 10 日間培養する。これがレスティング段階である。
(21) 切片の各々をメスでさらに 4 切片に切り分け、各切片を選抜培地である nN6CH50 培
地 (ジャポニカのタイプ 1, 2 およびインディカのタイプ 6) または NBKCH40 培地 (ジ
ャポニカのタイプ 3) 上に胚盤側を上向きにして置床する (図 7-6、図 7-7c, d)。そし
てサージカルテープでプレートを封じる。
▲重要な操作:操作 (19) と操作 (21) の主目的は、可能な限り多くの独立な形質転換体を
獲得することにある。胚がこれらの段階で切片化されない限り、多数の形質転換体はすぐ
に互いに混ざり合ってしまい、個々に取り出すことは困難である。
(22) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 10 日間培養する。これが選抜段階である。
6) 形質転換イネの再分化:
操作時間:50 分間、培養期間:28 日
(23) ピンセットで直径 0.5-1.0 mm の増殖したカルスを再分化培地 N6RH50 (ジャポニカの
タイプ 1, 2 およびインディカのタイプ 6)、NBKRH40 (ジャポニカのタイプ 3) に移植
する。プレートをサージカルテープで封じる。植物は、ジャポニカおよびインディカ
のタイプ 6 の黄色掛かった白色のカルスから容易に再分化する。再分化培地上に形質
転換体当たり 2, 3 個のカルスを置床すれば十分である。10-30 イベントを 1 プレート
上に置床できる。
112
(24) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが再分化段階である。
(25) 再分化した幼植物 (シュート) を発根培地 N6FH50 (ジャポニカのタイプ 1 およびイ
ンディカのタイプ 6)、NBKFH40 (ジャポニカのタイプ 2, 3) に移植する。
1 つの Magenta
容器に 10 個の再分化個体を移植できる。
(26) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが発根段階である。
7) 形質転換イネの栽培:
操作時間:30 分、栽培期間:95 日
(27) 17-cm ポットの栽培土に形質転換植物を移植する。3 植物体が 1 ポットに移植できる。
(28) 操作 (1) - (4) に記載した様に温室で形質転換体を 95 日間栽培し、次世代種子を収穫
する。後代植物は、同様な方法で栽培可能である。
8) 備
考
品種が異なっても菌株とベクターの組み合わせによる形質転換効率の違いは、大きくなかっ
た (表 7-9)。LBA4404 の方が EHA105 より形質転換効率がやや高い傾向が見られた。単離直
後の未熟胚が、異なる品種間でも同じような細胞分裂活性を有しているためと推察される。本
手順では選抜マーカーとして HPT 遺伝子を用いたが、他の選抜マーカーも利用可能である (第
1 節 備考参照)。
第3節
1 諸
未熟胚を用いたインディカ品種の形質転換手順
言
本節では、第 4 章および第 6 章で開発した単離直後の未熟胚を用いた広範な品種からなるイ
ンディカ品種に適用できる、非常に高効率な形質転換手順を提示する。未熟胚の形質転換成功
のための要因は、1) 新鮮で、健全な未熟胚を用いること、2) 培地組成の最適化、3) 感染前の
胚への熱と遠心処理 (特に熱処理) である。しかし、未熟胚を用いる形質転換の成功は、胚の
品質に依存するということに注意が必要である。良い未熟胚は、健全な温室で正しい成長段階
で旺盛に生育する健全な植物から得られる。そして、温室が、適切に温度と日長および光の強
113
さを制御できるよう装備されていることが望ましい。
2
材料および方法
1) 選抜マーカー
hpt を選抜マーカーとして本手順に採用した。
2) 形質転換ベクターと A. tumefaciens 菌株
本手順では、2 種のベクターpNB134 および pSB134、および 2 種の菌株 LBA4404 と EHA105
を用いた (第 1 節 材料および方法参照)。
▲重要
適切なイントロンを有する (Wang and Waterhouse, 1997) CaMV 35S プロモーターの
ような構成的発現をする強力なプロモーターに制御された HPT 遺伝子も、使用可能である。し
かし、イントロンのない 35S プロモーターのような弱いプロモーターを使うときは、選抜圧の
調整が必要である。例えば、選抜培地中のハイグロマイシンの濃度を 20 %減じたほうが良い。
選抜は可能であるが、耐性細胞と感受性細胞の区別が不明確になる。
3) イネ品種
表 7-1 記載の品種を供試し、その結果に基づいて分類した (表 7-10)。インディカのタイプ 6
については、本章第 2 節のジャポニカ品種のタイプ 1 の手順を適用する。
4) 本手順で用いた各培地の組成を表 7-10 に示した。また特殊なストック溶液については、そ
の作成方法について表 7-2 に示した。
3
結果および考察
確立した手順は以下に示すとおりである。操作時間に関する記載は、熟練技術者が 10 個の
未熟胚を用いて形質転換試験を実施した場合を想定したものである。また、おおよその所要時
間について図 7-8 に示す。共存培養の開始 (操作 18) から形質転換体をポットに移植する (操
114
作 33) まで、70 日掛かる。形質転換試験の結果から導いた典型的形質転換効率の範囲を表 7-12
に示す。
未熟胚を用いたインディカ品種の形質転換手順
1) 形質転換材料の準備:
(1)
操作時間:21 分、植物栽培:95 日間
温室内の 17 cm ポットに入った土壌にイネ完熟種子を播く (ポット当たり 100 粒ま
で)。温度を 18 °C から 24 °C の間で保持する。
(2)
2 週間後、実生を温室内の 17 cm ポットに移植する (ポット当たり 3 植物)。温度を
18 °C から 24 °C の間で保持し、栄養成長期の間は 14 時間以上の日長を維持する。
(3)
5 週間後、花芽誘導のため 12 時間に日長を変更する。日中の温度は 28 °C と 35 °C の
間を維持し、夜間は 22 °C と 25 °C の間を維持する。植物が、開花時期に達したら (お
よそ日長時間の変更後 5 週間)、以下に記載したように未熟胚の採集ができる。
▲重要な操作:上記の栽培条件は、ほとんどのインディカ品種に好適であり、形質転換の
ために共通で使用できる。日長を制御できない場合には、旺盛な成長を助けるために温度
と照度だけを制御する。理想的には、照度は 60,000 lx 以上である。開花までに必要な期間
はばらつくことに注意する。良好な胚は、適切に制御されている温室で旺盛な生育をして
いる健全な植物から得ることができる。
(4)
受粉後 8 ないし 12 日、適正な発達段階で未熟胚を含む穂を収穫する。適正な発達
段階の未熟胚を使用することは重要であり、未熟胚の大きさは非常に良い発達段階の
指標である。胚軸に沿って長さ 1.3 mm ないし 1.8 mm の未熟胚が形質転換に好適であ
る。出発材料として好適な典型的未熟胚を図 7-5 に示す。
▲重要な操作:胚が最良の発達段階に到達するのに必要な期間は、品種と季節によって異
なる。手でチェックする方法としては、親指で未熟種子の中ほどを押すことでできる。種
子が凹むことにわずかに抵抗するなら、その未熟胚は通常適切な大きさである。もし種子
が全く抵抗しない、あるいは硬いならば、それぞれ早すぎるか遅すぎるかである。
(5)
ピンセットで未熟種子から頴を取り除く。無菌の 50 ml チューブ中に未熟種子をいれ
る (最多 200 種子)。70 %エタノールに未熟種子を 10 秒間浸す。
(6)
エタノールを除き、Tween 20 を 1 滴含む 1 % 次亜塩素酸ナトリウムを 25 ml 加える。
115
そして、振盪機でゆっくり 5 分間チューブを振盪する。
(7)
次亜塩素酸ナトリウムを除去し、滅菌水で 5 回洗浄する。未熟種子を無菌の 90 mm
シャーレ中に集める。
(8)
ピンセットで種子から未熟胚を単離し 0.8 % (wt/vol) 寒天培地上に移す。熟練技術
者なら 2 分 30 秒で殺菌種子から 10 個以上の未熟胚を集めることができる。
(9)
1.5 ml 微量遠心チューブに入った 1.0 ml の滅菌水中へ適切な大きさの未熟胚を入れ
る。未熟胚がチューブの底に沈むように指でチューブを軽くたたく。
2) 熱と遠心処理による前処理:
処理時間:40 分
(10) 未熟胚が入ったチューブを 43 °C の恒温水槽中に入れ 30 分間保持する (図 7-8 参照)。
▲重要な操作 :43 °C
30 分間の熱処理は、広範なイネ品種においてよく効く (表 7-8)。
ある品種群に対しては、処理をいっそう最適化できるかもしれないが、本条件が良い出発
点になる。この処理の効果は、共存培養後における intron-GUS 遺伝子の発現活性を一過性
発現レベルでモニターできる。
(11)
1 分間氷上でチューブを冷却する。
(12)
83 mm の最大半径の固定アングルローターを用い、25 °C で 10 分間チューブを遠心
処理する。インディカのタイプ 4 には 1,100 x g、そしてインディカのタイプ 5 に対し
ては 2,300 x g の遠心加速度を用いる (表 7-8 参照)。
▲重要な操作:遠心処理の最適条件は、品種により異なる。表に記載されていないインデ
ィカ品種には 1,100 xg と 2,300 xg の両方を試すべきである。特定の品種群については、処
理条件をいっそう最適化できるかもしれないが、上記条件が良い出発点になる。その場合、
遠心加速度を最適化すべきであり、処理時間の変更は意味をもたない。処理の効果は、共
存培養後における intron-GUS 遺伝子の発現活性を一過性発現レベルでモニターできる。
3)
A. tumefaciens 懸濁液の調製:
操作時間:5 分、培養期間:3 日
(13) A. tumefaciens 菌株を 3 日間 28 °C 暗条件下で適切な抗生物質を含む AB 培地上で培養
する。
(14) 白金耳で細菌を集菌する。1.0 ml 当たり 1 x 109 cfu/ml の濃度 (660 nm で OD 値:1.0)
116
で 1.0 ml の AA-inf 培地中に懸濁する。なお、接種前の液体培地による A. tumefaciens
の増殖は不要である。
▲重要な操作:接種源は新しいものを使用すべきであり、準備するのに 3 日必要である。
4) 接種と共存培養:
操作時間:20 分、培養期間:7 日
(15) 操作 (12) の微量遠心チューブから、ピンセットを用いて、未熟胚と水を空のシャー
レ (60 x 15 mm) に流し出す。ピペットで水を除去し、未熟胚を NB-As 培地上に胚盤
側を上向きにして移植する (表 7-10 参照)。100 未熟胚まで、1 プレート上に置床し
て良い。
▲重要な操作
個々の品種に対して表 7-10 に明示された培地の使用が決定的に重要であ
る。他の品種を形質転換しようとする時には、表 7-10 にある培地をまず試すことを薦め
る。
(16) A. tumefaciens の懸濁液 (14) 5 μl を各未熟胚上に滴下する。
(17) 細菌懸濁液が培地中へ浸み込むまで 25 °C で 15 分間待つ。未熟胚を同培地の使用され
ていない表面上に移動し、パラフィルムでプレートを封じる。
(18) 25 °C 暗条件下で 7 日間培養する。これが共存培養段階である。
5) 形質転換細胞の選抜:
操作時間:125 分、培養期間:39 日
(19) 操作 (16) の共存培養の後、メスで未熟胚から伸長した芽を切除し、CCMC 培地へ胚
盤を上向きにして置床する。抗生物質溶液または滅菌水による胚の洗浄は不要である。
プレートをサージカルテープで封じる。
(20) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 5 日間培養する。これが第 1 レスティング段階である。
(21) 未熟胚をメスで 6 個の切片に切り、胚盤側を上にして新規レスティング培地 CCMC に
置床する (図 7-7)。プレートをサージカルテープで封じる。
(22) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 10 日間培養する。これが第 2 レスティング段階である。
(23) 切片の各々をさらに 4 つに切り (図 7-6)、各切片を選抜培地 CCMCH75 に置床し、サ
ージカルテープでプレートを封じる。切片は、胚盤側を上向きにして培地上に置床す
べきである。
117
▲重要な操作 操作 (21) と操作 (23) の主目的は、可能な限り多くの独立な形質転換体を
獲得することにある。胚をこれらの操作で切片化しない場合、多数の形質転換体はすぐに
互いに混ざり合ってしまい、形質転換体を個々に取り出すことは困難である。
(24) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 10 日間培養する。これが第 1 選抜段階である。
(25) 培養した切片から増殖したカルスを 2 次選抜培地 CCMCH75 に移植し、プレートをサ
ージカルテープで封じる。第 1 選抜培地上に置床した同一切片から得られたカルスの
プールは、事実上 1 形質転換体に由来するカルスとして取り扱う。20 のカルスのプ
ールを 1 プレート上に置床することができる。
(26) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 7 日間培養する。これが第 2 選抜段階である。
(27)
よく増殖している黄色掛かった白色 (クリーム色) の細胞塊であるハイグロマイシ
ン耐性カルスを再分化前培養培地の NBPRCH40 に移植し、プレートをサージカルテ
ープで封じる。20 のカルスのプールを 1 プレート上に置床することができる。
(28) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 7 日間培養する。これが再分化前培養段階である。
6) 形質転換イネの再分化:
操作時間:50 分、培養期間:28 日
(29) ピンセットで直径 0.5-1.0 mm の増殖したカルスを再分化培地 RNMH30 に移植する。
プレートをサージカルテープで封じる。植物はインディカ品種の緑掛かったカルスか
ら、容易に再分化する。再分化培地上に形質転換体当たり 2, 3 個のカルスを置床すれ
ば十分である。10-30 体を 1 プレート上に置床できる。
(30) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが再分化段階である。
(31) 再分化した幼植物 (シュート) を発根培地 MSIH30 に移植する。1 つの Magenta 容器に
10 個の再分化個体を移植できる。
(32) 32 °C 連続照明 (5,000 lx) 下で 14 日間培養する。これが発根段階である。
7) 形質転換イネの栽培:
操作時間:30 分、栽培期間:95 日
(33) 17 cm ポットの栽培土に形質転換植物を移植する。3 植物体が 1 ポットに移植できる。
(34) ステップ (1)-(4) に記載した様に温室で形質転換体を 95 日間栽培し、次世代種子を
収穫する。後代植物は、同様な方法で栽培可能である。
118
8) 備
考
品種が異なっても、菌株とベクターの組み合わせによる形質転換効率の違いは、大きくなか
った (表 7-9)。菌株では、LBA4404 の方が EHA105 よりもやや形質転換効率が高い傾向が認
められた。単離直後の未熟胚が、異なる品種間でも同じような細胞分裂活性を有しているため
と推測される。本手順では選抜マーカーとして HPT 遺伝子を用いたが、他の選抜マーカーも利
用可能である (第 1 節 備考参照)。
119
表 7-1. 本プロトコールにて試験を行ったイネ遺伝子型
ジャポニカ
タイプ1
タイプ2
タイプ3
朝の光
しおかり
あきたこまちコ
あそみのり
シヒカリ
チヨニシキ
ヒノヒカリ
M202
ひとめぼれ
日本晴
ササニシキ
月の光
ゆきひかり
120
インディカ
タイプ4
IR8
IR24
IR26
IR36
IR54
IR64
水原 258
南京 11
新青矮1
タイプ 5
IR72
タイプ 6
カサラス
表 7-2. 本プロトコールで使用した特殊なストック溶液の組成
ストック溶液名
組 成
10 x N6K主要無機塩
20.22 g KNO3、1.66 g CaCl2•2H2O、1.85 g MgSO4•7H2Oおよび4.0 g
KH2PO4を蒸留水1000 mlに溶解
100 x 修正MSビタミン
10 gミオイノシトール、100 mgチアミン塩酸塩、50 mgピリドキシン
塩酸塩、50 mgニコチン酸および200 mgグリシンを蒸留水1000 mlに
溶解、-20°C保存
10 x AAアミノ酸 (pH5.8)
8.76 gグルタミン、2.66 gアスパラギン酸、1.74 gアルギニン、75 mg
グリシンを蒸留水1000 mlに溶解、pH5.8に調整、0.22 μmセルロース
アセテートフィルターで滅菌、4 °C保存
10 x AAアミノ酸 (pHフリー) 8.76 gグルタミン、2.66 gアスパラギン酸、1.74 gアルギニン、75 mg
グリシンを蒸留水1000 mlに溶解、0.22 μmセルロースアセテートフ
ィルターで滅菌、4 °C保存
100 x グルタミン
30 gグルタミンを蒸留水1000 mlに溶解、0.22 μmセルロースアセテー
トフィルターで滅菌、4 °C保存
100 mMアセトシリンゴン
392.4 mgアセトシリンゴンを10 mlヂメチルスルフォキシド
(DMSO) に溶解、10 ml蒸留水で希釈する。フィルターろ過滅菌、4 °C
保存
50 g/lハイグロマイシンB
1 gの純粉末相当のハイグロマイシンB溶液 (Calbiochem 400051) に
蒸留水に加え総量を20 mlにする、0.22 μmセルロースアセテートフ
ィルターで滅菌、4 °C保存
121
表 7-3 完熟種子由来カルスを用いたジャポニカイネ形質転換用培地の組成
培養ステップ 培地
組成
菌懸濁および AAM
AA主要無機塩 (Toriyama and Hinata, 1985)、B5微量無機塩、B5ビタミ
接種
ン (Gamborg et al., 1968)、AAアミノ酸、0.1 mMアセトシリンゴン、
68.5 g/lショ糖、36 g/lグルコース、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ酸
(Difco)、pH5.2
カルス前誘導 2N6
N6主要無機塩、N6微量無機塩、N6ビタミン (Chu, 1978)、2.0 mg/l 2,
カルス誘導
4-D、30 g/lショ糖、0.1 g/lミオイノシトール、0.5 g/lプロリン、0.5 g/l
カルス前培養
ビタミンアッセイカザミノ酸、4.0 g/lゲランガム、pH5.8
カルス誘導
2NBK
N6K主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミンおよび、2.0 mg/l 2, 4-D、
カルス前培養
30 g/lマルトース、0.5 g/lプロリン、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ
酸、4.0 g/lゲランガム、AAアミノ酸 (pH 5.8)、pH5.8
共存培養
2NBK-As
N6K主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、2.0 mg/l 2, 4-D 、20 g/l
マルトース、10 g/lグルコース、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、
4.0 g/lゲランガム、0.1 mMアセトシリンゴン、pH5.2
選抜
2NBKCH40 N6K主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、2.0 mg/l 2, 4-D 、30 g/l
マルトース、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、4.0 g/lゲランガム、
40 mg/lハイグロマイシンB、250 mg/lセフォタキシム、100 mg/lカルベ
ニシリン、pH5.8
選抜
nN6CH50
50 mg/lハイグロマイシンB含有nN6C培地
選抜
NBKCH40
40 mg/lハイグロマイシンB含有NBKC培地
再分化
N6RH50
1/2濃度N6主要無機塩*、N6微量無機塩、5 μM CuSO4、N6ビタミン、
0.5 mg/l カイネチン、20 g/lショ糖、30 g/lソルビトール、1.0 g/lビタミ
ンアッセイカザミノ酸、pH5.8 (オートクレーブ前)**、4.0 g/lゲランガ
ム、AAアミノ酸 (pHフリー)、50 mg/lハイグロマイシンB
再分化
NBKRH40
N6K主要無機塩、B5微量無機塩、5 μM CuSO4、B5ビタミン、0.2 mg/l
カイネチン、20 g/lマルトース、30 g/lソルビトール、1.0 g/lビタミンア
ッセイカザミノ酸、pH5.8(オートクレーブ前)**、4.0 g/lゲランガム、
AAアミノ酸 (pHフリー)、40 mg/lハイグロマイシンB
発根培地
N6FH50
1/2濃度N6主要無機塩*、N6微量無機塩、N6ビタミン、15 g/lショ糖、
30 g/lソルビトール、1.0 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、3.0 g/lゲラ
ンガム、AAアミノ酸 (pH 5.8)、50 g/lハイグロマイシンB、pH5.8
発根培地
NBKFH40
N6K 主要無機塩、B5 微量無機塩、B5 ビタミン、15 g/l ショ糖、30 g/l
ソルビトール、1.0 g/l ビタミンアッセイカザミノ酸、3.0 g/l ゲランガ
ム、AA アミノ酸 (pH 5.8)、40 mg/l ハイグロマイシン B、pH5.8
122
表 7-4. 完熟種子由来カルスを用いたイネ形質転換におけるイネのタイプ別使用培地
培養ステップ
ジャポニカ
インディカ
カルス前誘導
カルス誘導
カルス前培養
バクテリア懸濁
共存培養
第 1 選抜
第 2 選抜
再分化
発根
タイプ1
2N6
2N6
2N6
AAM
2N6-As
2NBKCH40
nN6CH50
N6RH50
N6FH50
タイプ2
2N6
2N6
2N6
AAM
2N6-As
2NBKCH40
nN6CH50
N6RH50
NBKFH40
123
タイプ3
2N6
2NBK
2NBK
AAM
2NBK-As
2NBKCH40
NBKCH40
NBKRH40
NBKFH40
タイプ6
2N6
2N6
2N6
AAM
2N6-As
2NBKCH40
nN6CH50
N6RH50
N6FH50
表 7-5. 完熟種子由来カルスを用いた本プロトコールによるジャポニカおよびインディカ「カサラス」の
典型的な形質転換効率
遺伝子型
菌系(バイナリー・ベクター) 形質転換効率 (%)a
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
LBA4404(pSB134)
50 - 90
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
LBA4404(pNB134)
20 - 40
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
EHA105(pNB134)
40 - 70
ジャポニカ タイプ 3
LBA4404(pSB134)
50 - 90
ジャポニカ タイプ 3
LBA4404(pNB134)
20 - 40
ジャポニカ タイプ 3
EHA105(pNB134)
40 - 70
124
表 7-6. 未熟胚を用いたジャポニカおよびインディカ「カサラス」の形質転換おけるイネのタイプ
別使用培地
ステップ
ジャポニカ
インディカ
タイプ 1
タイプ2
タイプ3
タイプ 6
バクテリア懸濁
AA-inf
AA-inf
AA-inf
AA-inf
共存培養
nN6-As
nN6-As
NB-As
nN6-As
レスティング
nN6C
nN6C
NBKC
nN6C
選抜
nN6CH50
nN6CH50
NBKCH40
nN6CH50
再分化
N6RH50
N6RH50
NBKRH40
N6RH50
発根
N6FH50
NBKFH40
NBKFH40
N6FH50
125
表 7-7. 未熟胚を用いたジャポニカイネ形質転換用培地の組成
培養ステップ 培地
組成
菌懸濁および AA-inf
AA主要無機塩 (Toriyama and Hinata, 1985)、B5微量無機塩、B5ビタミン
接種用
(Gamborg et al., 1968)、AAアミノ酸、0.5 gビタミンアッセイカザミノ酸、
0.1mMアセトシリンゴン、20 g/l ショ糖、10 g/lグルコース、pH5.2
共存培養
nN6-As
N6主要無機塩、N6微量無機塩、N6ビタミン (Chu, 1978)、1.0 mg/l 2, 4-D、
0.5 mg/l NAA、0.1 mg/l BA、20 g/lショ糖、10 g/lグルコース、0.5 g/lビタミ
ンアッセイカザミノ酸、8.0 g agarose type I (Sigma A6013)、0.1mMアセト
シリンゴン、pH5.2
共存培養
NB-As
N6主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、2 mg/l 2, 4-D、1.0 mg/l NAA、
1.0 mg/l BA、20 g/lショ糖、10 g/lグルコース、0.5 g/lプロリン,0.5 g/lビタミ
ンアッセイカザミノ酸、8.0 g/l agarose type I (Sigma A6013)、0.1mMアセト
シリンゴン、pH5.2
レスティング nN6C
N6主要無機塩、N6微量無機塩、N6ビタミン、
1.0 mg/l 2, 4-D、0.5 mg/l NAA、
0.1 mg/l 6BA、20 g/lショ糖、55 g/lソルビトール、0.5 g/lプロリン、0.5 g/l
ビタミンアッセイカザミノ酸、5.0 g/lゲランガム、250 mg/lセフォタキシ
ム、100 mg/lカルベニシリン、pH5.8
レスティング NBKC
N6K主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、1.0 mg/l 2, 4-D、0.5 mg/l
NAA、0.1 mg/l 6BA、20 g/lマルトース、55 g/lソルビトール、0.5 g/lプロリ
ン、0.5 gビタミンアッセイカザミノ酸、5.0 g/lゲランガム、AAアミノ酸
(pH 5.8)、250 mg/lセフォタキシム、100 mg/lカルベニシリン、pH5.8
選抜
nN6CH50
50 mg/lハイグロマイシンB含有nN6C培地
選抜
NBKCH40 40 mg/lハイグロマイシンB含有NBKC培地
再分化
N6RH50
1/2濃度N6主要無機塩*、N6微量無機塩、5 μM CuSO4、
N6ビタミン、0.5 mg/l
カイネチン、20 g/lショ糖、30 g/lソルビトール、1.0 g/lビタミンアッセイ
カザミノ酸、pH5.8 (オートクレーブ前)*、4.0 g/lゲランガム、AAアミノ酸
(pHフリー)、50 mg/lハイグロマイシンB
再分化
NBKRH40 N6K主要無機塩、B5微量無機塩、5 μM CuSO4、B5ビタミン、0.2 mg/l カ
イネチン、20 g/lマルトース、30 g/lソルビトール、1.0 g/lビタミンアッセ
イカザミノ酸、pH5.8(オートクレーブ前)*、4.0 g/lゲランガム、AAアミノ
酸 (pHフリー)、40 mg/lハイグロマイシンB
発根培地
N6FH50
1/2濃度N6主要無機塩*、N6微量無機塩、N6ビタミン、15 g/lショ糖、30 g/l
ソルビトール、1.0 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、3.0 g/lゲランガム、
AAアミノ酸 (pH 5.8)、50 g/lハイグロマイシンB、pH5.8
発根培地
NBKFH40 N6K 主要無機塩、B5 微量無機塩、B5 ビタミン、15 g/l ショ糖、30 g/l ソ
ルビトール、1.0 g/l ビタミンアッセイカザミノ酸、3.0 g/l ゲランガム、AA
アミノ酸 (pH 5.8)、40 mg/l ハイグロマイシン B、pH5.8
*:鉄の錯イオン濃度については、N6 と同様
126
表 7-8. 未熟胚への前処理におけるイネのタイプ別最適条件
前処理
ジャポニカ
インディカ
タイプ1, 2 , 3
タイプ4
熱:温度 (時間)
43°C (30 分)
43°C (30 分)
遠心:加速度 (時間) 20,000 xg (10 分)
1,100 xg (10 分)
127
タイプ5
43°C (30 分)
2,300 xg (10 分)
タイプ6
43°C (30 分)
20,000 xg (10 分)
表 7-9. 未熟胚を用いたジャポニカおよびインディカ「カサラス」の典型的形質転換効率
遺伝子型
菌系(バイナリー・ベクター)
形質転換効率*
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
LBA4404(pSB134)
12 - 18
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
LBA4404(pNB134)
12 - 18
ジャポニカ タイプ 1, 2
インディカ タイプ 6 「カサラス」
EHA105(pNB134)
10 - 15
ジャポニカ タイプ 3
LBA4404(pSB134)
12 - 18
ジャポニカ タイプ 3
LBA4404(pNB134)
12 - 18
ジャポニカ タイプ 3
EHA105(pNB134)
10 - 15
*:独立な形質転換植物数 / 接種未熟胚数
128
表 7-10. 未熟胚を用いたインディカイネ形質転換におけるイネのタイプと使用培地
ステップ
インディカ
タイプ 4, 5
タイプ6
バクテリア懸濁
AA-inf
AA-inf
共存培養
NB-As
nN6-As
レスティング
選抜
再分化前培養
再分化
発根
CCMC
CCMCH75
NBPRCH40
RNMH30
MSIH30
nN6C
nN6CH50
N6RH50
N6FH50
129
表 7-11. 未熟胚を用いたインディカイネ形質転換用培地の組成
培養ステップ 培地
組成
菌懸濁および AA-inf
AA主要無機塩 (Toriyama and Hinata, 1985)、B5微量無機塩、B5ビタミン
接種用
(Gamborg et al., 1968)、AAアミノ酸、0.5 gビタミンアッセイカザミノ酸
(Difco)、0.1mMアセトシリンゴン、20 g/l ショ糖、10 g/lグルコース、pH5.2
共存培養
NB-As
N6主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、2 mg/l 2, 4-D、1.0 mg/l NAA、
1.0 mg/l BA、20 g/lショ糖、10 g/lグルコース、0.5 g/lプロリン、0.5 g/lビ
タミンアッセイカザミノ酸、8.0 g/l agarose type I (Sigma A6013)、0.1mM
アセトシリンゴン、pH5.2
レスティング CCMC
CC主要無機塩、CC微量無機塩、CCビタミン (Ptrykus et al., 1979)、2.0 mg/l
2, 4-D、1.0 mg/l NAA、0.2 mg/l BA、20 g/lマルトース、36 g/lマニトール、
0.5 g/lプロリン、0.5 g/lビタミンアッセイカザミノ酸、5.0 g/lゲランガム、
250 mg/lセフォタキシム、100 mg/lカルベニシリン、pH5.8
選抜
CCMCH75
75 mg/lハイグロマイシンB含有CCMC培地
再分化前培養 NBPRCH40 N6主要無機塩、B5微量無機塩、B5ビタミン、2.0 mg/l 2, 4-D、1.0 mg/l
NAA、1.0 mg/l BA、30 gマルトース、0.5 g/lプロリン、0.5 g/lビタミンア
ッセイカザミノ酸、5.0 g/lゲランガム、0.3 g/lグルタミン、250 mg/lセフ
ォタキシム、40 mg/lハイグロマイシンB、pH5.8
再分化
RNMH30
N6主要無機塩、B5微量無機塩、5 μM CuSO4、B5ビタミン、1.0 mg/l NAA、
3.0 mg/l 6BA、30 g/lマルトース、0.3 g/lプロリン、0.3 g/lビタミンアッセ
イカザミノ酸、4.0 g/l agarose Type I、、0.3 g/lグルタミン、30 mg/lハイグ
ロマイシンB、pH5.8
発根培地
MSIH30
1/2MS主要無機塩*、MS微量無機塩 (Murashige and Skoog, 1962)、修正
MSビタミン、0.2 mg/l IBA、15 g/lショ糖、1 g/lビタミンアッセイカザミ
ノ酸、3.0 g/lゲランガム、30 mg/lハイグロマイシンB、pH5.8
*:鉄錯イオン濃度については、MS と同様
130
表 7-12. 未熟胚を用いた本プロトコールにより得られるインディカイネの典型的形質転換効率
遺伝子型
菌系(バイナリー・ベクター)
形質転換効率*
インディカ タイプ 4, 5
LBA4404(pSB134)
5 - 13
インディカ タイプ 4, 5
LBA4404(pNB134)
5 - 13
インディカ タイプ 4, 5
EHA105(pNB134)
3 - 10
*:独立な形質転換植物数 / 接種未熟胚数
131
図 7-1. バイナリーベクターpNB134 (a) と pSB134 (b) およびそれぞれの T-DNA 領域 (c) の
概略図
図中の略号,
RB:右ボーダー、LB:左ボーダー、intron-gus,:intron-GUS 遺伝子、35S:35S プロモーター、
Ubi:トウモロコシのユビキチン I のプロモーター、Ubi intron:トウモロコシユビキチン I の
第 1 イントロン、Tnos:ノパリン合成酵素の 3’シグナル、OriV:IncP プラスミドの複製開始
点、virB:pTiBo542 の virB オペロン (Hood et al., 1984; Komari et al., 1986)、virC:pTiBo542
の virC オペロン、virG:pTiBo542 の virG 遺伝子。
132
Callus method for japonica rice
Mat ure s eeds (15 s eeds , 200 calli)
(3-7) Sterilize and transfer to callus induction
35 m in
(8) Pre-induc tion of c allus
7 days
(9) Isolation of sc utella and trans fer to c allus
i nduction
10 m in
(10) Induc tion of callus
10 days
(11-12) Transfer t o preculture
20 m in
(13) Preculture of callus
3 days
Preparation of Inoculum
(1) Culture A. tumef ac iens on AB medium
(2) Preparation of inoc ulum
5 min
3 days
Co-culti vation
(14-19) Inoculation
25 m in
(20) Co-c ul tivation
3 days
Selection
(21) Transfer to first s election
10 m in
(22) First selection
14 days
(23) Transf er to 2nd selection
35 m in
(24) 2nd s elec tion
5 days
Regeneration
(25) Transfer to regeneration
35 min
(26) Regeneration
14 days
(27) Transfer to rooting
15 min
(28) Root ing
14 days
Greenhous e
(29) Transfer to s oil
30 min
(30) Grow trans genic plants
95 days
T1 seeds
図 7-2. 完熟種子由来カルスを用いたジャポニカイネ形質転換プロトコールのタイムライン
15 個の完熟種子に由来する 200 のカルスがステップ 11 で集められ、200 のカルスに由来する
材料がその後のステップでも操作されることを仮定している。
イネ品種のタイプについては、
表 7-1 に記載した。
133
図 7-3. カルス誘導 (ジャポニカ品種「ゆきひかり」)
(a):カルス前誘導培地 (2N6) 上で 7 日間培養した完熟種子。
(b):カルス前誘導培地 (2N6) 上で 7 日間培養した完熟種子からの胚盤組織の単離。
(c):カルス前誘導培地 (2N6) 上で 10 日間培養した胚盤から増殖したカルス。
(Bar = 1 mm)
134
Immature embryo method for japonica rice
Im mature em bryos (10 embryos)
(1-3) Grow ing ric e plants
95 days
(4) Harvest panic les
5 min
(5-9) Isolation of imm ature embryos
16 min
(14) C ulture A. tumefaciens on AB
m edium
Pretreat ment
(10-12) Pretreatm ent with heat and
centrifuging
40 min
(15)Preparation of inoculum
Preparation of Inoc ulum
3 days
5 min
Co-cult ivation
(15-17) Inoculation
20 min
(18) Co-c ultivation
7 days
Selection
(19) Cut imm ature embryos and transfer to
resti ng
10 min
(20) Res ting
10 days
(21) Cut pieces furt her and transfer t o
s elec tion
35 min
(22) Select ion
10 days
Regeneration
(23) Trans fer to regenerat ion
35 min
(24) Regeneration
14 days
(25) Trans fer to rooting
15 min
(26) Rooting
14 days
Greenhouse
(27) Trans fer to soil
30 min
(28) G row trans genic plants
95 days
T1 seeds
図 7-4. 未熟胚を用いたジャポニカイネの形質転換プロトコールのタイムライン
熟練した 1 人の技術者により 10 未熟胚がステップ 9 で集められ、
その後のステップでも操作
されることを仮定している。イネ品種のタイプについては、表 7-1 に記載した。
135
図 7-5. 未熟胚の大きさ
形質転換に好適なインディカ品種「IR64」とジャポニカ品種「ゆきひかり」の未熟胚をここ
に示す。1.3-1.8 mm の長さの未熟胚が通常使用される。(Bar = 1 mm)
136
図 7-6. 共存培養後の未熟胚の分割方法
Agrobacterium と共存培養した 1 つの未熟胚は、多数の独立な形質転換イベントを胚盤組織に保有
している。この手順図では、共存培養および非選抜培養後、多くのイベントを別々に取り出すこ
とができるように、1 未熟胚を 24 個もの切片へと分割する。
137
図 7-7. ジャポニカ品種「ゆきひかり」の未熟胚の分割
(a):ステップ 16 の後の未熟胚、最初の分割は破線に沿って実施。
(b):最初の分割後の未熟胚切片。
(c):ステップ 20 の後の未熟胚の切片の一つ。2 回目の分割は破線に沿って実施。
(d):2 回目の分割の後の未熟胚切片。(Bar = 1 mm)
138
Immature embryo method for indica rice
Immature em bryos (10 em bryos)
(1-3) Grow ing rice plants
95 days
(4) H arves t panicles
5 min
(5-9) Is olation of immature embryos
16 min
Preparation of Inoculum
(13) Culture A. tum efaciens on AB medium
3 days
Pretreatment
(10-12) Pretreatment w ith heat and
centrifuging
40 min
(14) Preparation of inoculum
5 min
Co-c ult ivat ion
(15-17) Inoc ulation
20 min
(18) Co-cultivat ion
7 day s
Selection
(19) Trans fer to rest ing
10 mi n
(20) First resting
5 days
(21) Cut immature em bryos and transf er to
res ting
10 min
(22) 2nd res ting
10 days
(23) Cut piec es f urther and trans fer to
selection
35 mi n
(24) First s election
10 days
(25) Trans fer to 2nd s elec tion
35 min
(26) 2nd selecti on
7 days
(27) Trans fer to
pre-regene ration
35 min
(28) Pre-regenerat ion
7 days
Regeneration
(29) Trans fer to regeneration
35 mi n
(30) Regenerat ion
14 days
(31) Trans fer to root ing
15 mi n
(32) Rooting
14 days
Greenhous e
(33) Trans fer to s oil
30 mi n
(34) Grow trans genic plants
95 days
T1 s eeds
図 7-8. 未熟胚を用いたインディカイネの形質転換プロトコールのタイムライン
未熟胚法において、熟練した 1 人の技術者により 10 未熟胚がステップ 9 で集められ、その後
のステップでも操作されることを仮定している。イネ品種のタイプについては、表 7-1 に記
載した。
139
第8章
総合考察
本研究は、A. tumefaciens により、イネに効率よく外来遺伝子を導入できることを、疑いなく
示したものである。
単子葉植物は、A. tumefaciens によって起こされる crown gall に罹病しないため、この細菌の
利用による遺伝子組換えはできないといわれていた。しかし、挑戦事例も多く、可能性を示す
知見も得られていたために、その可否をめぐり論議が続いていた。これまでの挑戦事例には、
再生植物が得られていない、付着した A. tumefaciens 細胞または他の微生物における遺伝子発
現を植物細胞での発現と誤認している可能性がある、形質転換が可能であるとしても効率が極
めて低いなど、疑義を呼ぶ点が多々認められた。それでも、A. tumefaciens による遺伝子導入法
は、植物細胞に DNA を直接導入する手法に比べると利点が多いことから、単子葉植物への応
用が切望されていた。イネでも、1980 年代に開発されたプロトプラストへのエレクトロポーレ
ーション法では、操作が煩雑で時間がかかる上に効率が低い場合も多く、不稔個体が多数出現
することが問題であった。1990 年代に広く用いられるようになったパーティクルガン法でも、
導入される遺伝子のコピー数が多いことや再編成事例が頻繁であることが課題であった。
本研究では、細菌細胞中では発現しない intron-GUS 遺伝子を用いて遺伝子導入と発現を調べ
るとともに、サザンハイブリダイゼーション法によりイネの染色体にランダムに遺伝子が導入
されること、導入遺伝子ならびにその発現が後代の植物にメンデル則に従い安定に遺伝するこ
とを明確に示し、上記疑義に関する論議に終止符を打つことができた。また、外来遺伝子とイ
ネゲノムの接点の DNA 配列が、双子葉植物における A. tumefaciens による遺伝子導入において
観察された特徴をよく示したことから、A. tumefaciens は、双子葉植物にも単子葉植物にも同様
な機構で遺伝子を導入することが推察できた。単に遺伝子導入を証明したのみではなく、形質
転換植物の多くが形態的に正常で稔性が高いこと、ジャポニカとインディカを問わず広範な品
種への遺伝子導入が可能であること、ならびに導入した遺伝子が 5 世代以上にわたり安定して
発現することを示した。また、供試未熟胚1個あたり 10 個体以上の独立な形質転換植物が得
られるなど極めて形質転換効率が高い形質転換手法を開発した。さらに、開発した遺伝子導入
法について、さまざまな関連手法を検討の上、得られた知見を体系化し、種々のイネ品種に外
来遺伝子を導入する際の基点としうる実験手順書を取りまとめた。
140
効率のよいイネの形質転換法の開発にあたり、さまざまな実験条件を検討する必要があった。
まず、強調すべきは、活発に細胞分裂を行い、かつ、植物体を再生する能力を有する植物組織
を供試することである。外来 DNA は、DNA 複製や修復に関わる酵素により染色体に組み込ま
れると考えられている。これらの酵素は、分裂期の細胞において活性が高いので、分裂期の細
胞が形質転換に適しているのは当然ともいえる。イネでは、さまざまな組織を比較した結果、
まず、完熟種子の胚盤に由来するカルス細胞が好適と認められ、初期に解析した形質転換植物
はこの組織から得られたものである。完熟種子は、非常に扱いやすい実験材料である。供試種
子は、室温で保存することができ、発芽率の高い種子であれば、多くの場合に良好なカルスが
得られる。しかし、良好なカルスが得られる品種は限定され、とくに、インディカ品種のカル
ス培養は容易ではない。研究を進めたところ、最も好適と認められたのは、未熟胚に直接 A.
tumefaciens を感染させる方法である。当初の実験結果はカルスに劣っていたが (Chan et al.,
1993; Aldemita and Hodges 1996)、後に、初期の実験では最適な条件の未熟胚を用いていなかっ
たことが判明した。好適な未熟胚は、よく管理された温室で、健全に生育したイネからのみ得
られるものであり、かつ、受粉後の特定の発達段階でなくてはならない。したがって、未熟胚
を利用するには、設備や栽培体系の整った実験施設が必要であるが、条件がそろえば、広範な
品種において効率のよい遺伝子導入が可能である。
分裂活性と植物再生という観点では、茎頂の分裂組織も注目に値する。実際、本研究でも、
GUS の強い一過性の発現を観察することができた。しかし、最終的に生殖器官を生じる細胞に
遺伝子が導入されなければ、形質転換植物を得ることはできない。分裂組織においても、その
ような細胞は極めて少数であるため、効率のよい遺伝子導入は容易ではないと推察され、本研
究でも、形質転換植物は得られなかった。その後も、単離した茎頂からの形質転換イネ植物の
作出の報告はあるが、効率は非常に低いものであった (Park et al., 1996)。しかし、インディカ
品種の「White Ponnni」および「Pusa Basmati 1」を用いて、供試茎頂組織当たり 5.6 %ないし 8 %
という形質転換効率を達成したとの報告もあるので (Arockiasamy and Ignacimuthu 2007)、さら
なる改良は可能かもしれない。茎頂組織を利用できれば、脱分化を経ないで形質転換体を得る
ことができ、培養変異の問題が生じないので、さらなる研究の進展が待たれる。
実験室では、懸濁培養細胞の方が通常、カルス細胞よりも高い分裂活性が得られるものであ
るが、本研究の当初においては、遺伝子導入頻度は低かった。しかし、懸濁培養細胞を固体培
141
地上で数日間培養した後、A. tumefaciens を感染させると形質転換効率が回復する (Urushibara et
al., 2001) ことや、液体培地上にろ紙を置き、その上で共存培養を行うと高効率で形質転換で
きることが報告されており (Ozawa and Takaiwa, 2010)、実験目的によっては好適な組織と考え
られる。
品種の選択も重要である。他の植物種でも観察されることであるが、イネでも、培養の容易
性には、大きな品種間差異がある。本研究では、当初、主として、培養の容易なジャポニカ品
種を実験に用いた。これが、最終的に大きな成功要因になったと考えている。そして、その経
験を活かしつつ品種拡大を図ることができ、ジャポニカでは、品種「コシヒカリ」も A.
tumefaciens により高効率で形質転換可能であることが判明した。コシヒカリは品質が高く、日
本の新品種の多くがコシヒカリに近縁であるが、コシヒカリとその近縁品種は、組織培養が困
難であることもよく知られている。本研究で示したコシヒカリの効率的な形質転換方法は、日
本のイネ品種の改良に大いに貢献するであろう。培養の難易は植物生理学的にはほとんど解明
されていない現象であるが、コシヒカリについては、低い硝酸還元酵素活性の影響が報告され
ている (Nishimura et al., 2005)。そこで、これらの品種の組織培養や形質転換では、アミノ酸含
量の高い培地が利用されるようになった (Ozawa and Kawahigashi, 2006) ので、本研究でも、包
括的な手順の取りまとめに際し、この知見を利用した。一方、インディカ品種においても、グ
ループ I と呼ばれる広く栽培されている品種群については、組織培養も形質転換も極めて困難
と言われることが多い。本研究では、栽培条件の至適化や培養条件などの工夫を重ね、未熟胚
を材料として、
「南京 11」、
「新青矮 1」、
「水原 258」、
「IR8」、
「IR24」、
「IR26」、
「IR36」、
「IR54」、
「IR64」そして「IR72」を含むグループ I 品種の効率的な形質転換体の作出に成功した。これ
らの品種を含め、これまでに供試した、すべてのイネ品種について、高効率の形質転換が可能
であったことを特筆しておきたい。
培地の選択、培養の諸条件の適切な設定は、形質転換効率の向上に決定的に重要であり、品
種によりその選択は異なる。本研究では、広範なジャポニカおよびインディカ品種について、
好適な培地組成や培養条件を示している。ここに示していない品種を供試する場合でも、本研
究で示した実験条件を起点として検討を進めれば、比較的容易に好適な条件を探索することが
できると考えている。形質転換実験の条件設定において、高等植物と微生物の相互作用を利用
しているという観点を忘れてはならない。例えば、イネ細胞は、一般に 30 °C 前後で成長が良
142
好であり、多くの A. tumefaciens 菌株は、28 °C が最適な培養温度とされているが、A. tumefaciens
の遺伝子転移機構自体は、20 °C 以下の方が活性が高いと報告されている。共存培養の条件設
定においては、この範囲内である程度の試行錯誤の実施を覚悟しなくてはならない。
形質転換細胞を選抜するための薬剤耐性遺伝子ならびに選抜薬剤の選定も、重要な条件であ
る。双子葉植物では、カナマイシン耐性遺伝子が用いられることが多いが、イネでは、ハイグ
ロマイシン耐性遺伝子が最良であった。当初、イネにおいて、カナマイシン耐性遺伝子を用い
ると、形質転換細胞が得られない、植物体が再生しない、不稔となるなどの不都合があった。
しかし、カナマイシン耐性遺伝子を用いて、選抜薬剤としてパロモマイシンを利用すると、比
較的効率よく遺伝子導入を行うことができた。その後、除草剤耐性遺伝子や、マンノース資化
能を付与する遺伝子を用いたイネの形質転換法が報告されるようになった。現在でも、ハイグ
ロマイシン耐性遺伝子が、イネにおいて、明確に形質転換細胞が選抜できる最良のマーカー遺
伝子であることは疑いないが、手法の工夫により、利用できる遺伝子は増えている。
未熟胚を供試した場合に、A. tumefaciens を感染させる以前に、高温処理や遠心処理などの前
処理を行うことに、大きな効果が認められた。当初、遠心処理は、バナナの報告例を参考に、
植物細胞と細菌の接触を良好にするために施したものであったが、感染以前の処理に効果が認
められたことから、植物細胞の状態を好適にする効果があったものと推察するに至った。遠心
後は、胚からの芽や根の成長が抑制され、かつ、カルスの誘導が良好となることも観察された。
機構は不明であるが、未熟胚の組織や細胞の成長の様相が、遠心により何らかの影響を受け、
分化の方向から、未分化の方向に転じたのではないかと推測している。一方、植物ホルモンを
含む培地上で 2 日以上培養したイネ未熟胚に対しては、遠心処理による遺伝子導入促進効果は
認められなかったので、ある程度脱分化が進むと、遠心の影響は受けなくなるようである。
A. tumefaciens に関する条件の考察も重要である。1980 年代の諸研究により、この細菌は、植
物細胞により放たれるシグナル物質に反応して傷付いた植物に引き付けられ、そして付着し
(Hohn et al., 1989; Zambryski, 1988)、傷付いた植物細胞から放たれる、アセトシリンゴンや αハイドロキシアセトシリンゴン のようなフェノール物質 (Stachel et al., 1985) によって、ヴィ
ルレンス遺伝子が活性化されることが解明されている。単子葉植物、特にイネ科に属する植物
は、これらの物質をほとんど産出しないか、もし産出してもそのレベルは不十分である (Smith
and Hood, 1995) 。双子葉植物の形質転換においても、植物と A. tumefaciens の共存培養に、ア
143
セトシリンゴンなどの添加の例があるが (Van Wordragen and Dones, 1992)、本研究では、100 μM
のアセトシリンゴンの添加が、イネへの遺伝子導入には必須であった。また、酸性 pH (Alt-Mörbe
et al., 1989; Turk et al., 1991)、28 °C 以下の培養 (Alt-Mörbe et al., 1988)、高浸透圧 (Usami et al.,
1988)などの影響も報告されているが、本研究でも、A. tumefaciens との共存培養後、胚盤から
誘導されたカルスにおける GUS の一過性の発現が最も強かったのは、
共存培養を 22 °C と 28 °C
の間で行い、培地の pH が 4.8-6.2 の間にあるときであった。糖の種類 (Shimoda et al., 1990;
Cangelosi et al., 1990) なども、ヴィルレンス遺伝子の発現に影響するとの報告もあるが、100 μM
アセトシリンゴンの存在下では、特段の影響は観察されなかった。
菌株とベクターの選定も重要であった。本研究では、2 種類の菌株と 2 種類のベクターの組
み合わせの効率を試験した。その結果、他作物でも形質転換効率が高いとされている菌株や、
スーパーバイナリーベクターと命名した効率の高いベクターを用いた場合に、イネの形質転換
効率が高いことが判明した。とりわけ、ジャポニカ品種コシヒカリや、グループ I インディカ
品種を用いた場合に、スーパーバイナリーベクターの効果が高かった。トウモロコシでも、効
率のよい形質転換には、スーパーバイナリーベクターの使用が必須であることが報告されてい
る (Ishida et al., 1996)。したがって、培養が難しい品種や植物種の形質転換には、特に、ベク
ターと菌株の選定が重要である。
従来、イネなどの単子葉植物に、A. tumefaciens によって外来遺伝子を導入することが、なぜ
困難であったのか、再度、考えてみたい。一点目は、極めて多くの要因が関わっていることで
ある。品種の選定、供試組織・細胞の選定、培養条件、組織・細胞の取扱いの手順、菌株、ベ
クターなど、成否に直結する重要な条件が多いため、好適な条件の組み合わせの発見は容易で
はない。二点目は、双子葉植物の形質転換法が、操作性や効率などの点で、あまりに優れてい
たために、類似の方法の適用に関心が集まってしまったことであろう。葉片ディスクを基点に
検討を重ねても、単子葉植物において好適な組織・細胞に到達するのは容易ではない。三点目
は、単子葉植物においても A. tumefaciens による腫瘍誘導に成功することが、遺伝子導入法の開
発の前提とする考えがあったことである。腫瘍誘導は多数の段階よりなる現象であるが、植物
ホルモンの過剰生産による植物細胞の増殖など、形質転換植物の作出実験においては必要はな
く、かつ、単子葉植物においては再現しにくい過程も含まれている。前提を誤ると、成功への
道は遠くなる。四点目は、A. tumefaciens による感染の際の傷の役割 (Lippincott and Lippincott,
144
1975; Binns and Thomashow, 1988) についての理解が進んでいなかったことである。双子葉植物
への付傷は、A. tumefaciens と植物細胞の接触を可能にし、ヴィルレンス遺伝子発現を誘導する
物質の生産を促し、傷修復のための細胞分裂を誘導する。しかし、多くの単子葉植物の細胞は、
単なる付傷操作の模倣では、双子葉植物の葉片ディスクの周縁細胞のように明らかな細胞分裂
を示すことはなく、木質化あるいは硬化するのみである (Kahl, 1982)。これらの機能を、人工
的な接種、ヴィルレンス遺伝子発現を誘導する物質の培地への添加、好適な組織・細胞の選定
と培養法の工夫などによって置き換える必要があったのである。五点目として、intron-gus 遺伝
子や、ハイグロマイシン耐性遺伝子のように、実験に適した、発現や選抜のマーカー遺伝子を
利用しなければ、形質転換に適した条件を見つけるのは、困難であったことを挙げたい。
これに対して、本研究では、1)カルスや未熟胚など活発に細胞分裂し、かつ植物体を再生
する能力を有する組織、細胞を用い、2)適宜、遠心処理などの前処理を加え、3)A. tumefaciens
を人工的に感染させ、4)ヴィルレンス遺伝子の発現を誘導するアセトシリンゴンを培地に加
え、5)適切なマーカー遺伝子を用いて、外来遺伝子の発現を検出と形質転換細胞の選抜を行
い、6)培養条件と操作に工夫を重ねることにより、イネにおいて、効率よく形質転換植物を獲
得する方法を開発するこができたのである。本研究の後に続いたトウモロコシ (Ishida et al.,
1996)、コムギ (Cheng et al., 1997)、オオムギ (Tingay et al., 1997) およびソルガム (Zhao et al.,
2000) などの主要穀物の A. tumefaciens による形質転換の成功は、すべて、これらの原則に従っ
たものである。
本研究で開発したイネの遺伝子導入法の効率は極めて高い。ジャポニカ品種では、未熟胚あ
たり 10 個体以上の独立な形質転換植物が獲得できている。異なる植物種の間の効率比較は簡
単ではないが、供試細胞と形質転換細胞の比という観点では、双子葉植物の中でも容易とされ
るタバコの葉片ディスク法を凌ぐと考えている。また、形質転換体の多くは、形態正常で稔性
も高い。一部の形質転換イネについては、4 世代目まで、導入遺伝子の伝達と安定な発現を確
認できている。実用的な遺伝子組換え品種育成では、1,000 個体以上多数の組換え植物を作成
する場合もあるが、本研究で開発した方法は、このような要請にも問題なく対応できる。研究
目的でも、高い効率が求められる場合は多い。T-DNA の挿入変異を多数作出してタギング・ラ
イブラリーを構築する研究、多数の遺伝子の効果をハイスループットで評価する研究、部位特
異的遺伝子組換えによるジーンターゲッティングの研究 (Terada et al., 2002)などで、本研究で
145
開発した方法によりこれらがが可能になったと言える。
本研究で開発した方法は、今後、基礎から応用までのさまざまな研究において、広く利用さ
れていくものと期待される。また、この方法自体も、さらなる効率の向上など、改良が進めら
れるであろう。選抜マーカー除去技術 (Komari et al., 1996) や、ベクター部分の導入を阻止す
る技術 (Kuraya et al., 2004) など、他の遺伝子組換え関連技術との組み合わせも試みられると
考えられる。そして、遺伝子組換え法の改良や、他の技術との組み合わせが、また、新たな手
法の開発やその応用へと展開するに違いない。
146
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158
謝
辞
本研究の遂行ならびに本稿を草するに際し、終止懇切なる御指導と御鞭撻を賜った名古屋大
学教授服部束穂博士、日本たばこ産業株式会社経営企画部部長小鞠敏彦博士ならびに植物イノ
ベーションセンター所長植木潤博士に深甚なる感謝の意を表する。
今日に至るまで数々の貴重な御指導と御鞭撻を戴いた日本たばこ産業株式会社遺伝育種研
究所前所長久保友明博士、遺伝育種研究所前副所長神代隆博士ならびに植物イノベーションセ
ンター研究員石田祐二博士に対し、深く感謝申し上げると共に本研究に終始御協力戴いた日本
たばこ産業株式会社植物イノベーションセンターならびに JT クリエイティブサービスの所員
各位に厚く御礼申し上げる。
159
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