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理事長退任の挨拶 - 一般財団法人エンジニアリング協会

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理事長退任の挨拶 - 一般財団法人エンジニアリング協会
ISSN 0910–4593
Engineering Advancement Association of Japan
2 0 11 O c t . N o .1 2 8
「不確かな時代」
のエンジニアリング
特集
一般財団法人
エンジニアリング協会
Engineering Advancement Association of Japan
2011 Oct No.128
Contents
2
当協会理事長交替
理事長退任の挨拶
4
理事長就任の挨拶
山田 豊
久保田 隆
東洋エンジニアリング㈱ 代表取締役社長
千代田化工建設㈱ 代表取締役社長
座談会
【不確かな時代】
のエンジニアリング産業に対する期待
三橋 敏宏 経済産業省 製造産業局 国際プラント推進室長
高野 研一 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授
小野 峰雄 安全工学会会長(丸善石油化学㈱ 特別顧問、元社長)
(モデレータ)
久保田 隆 エンジニアリング協会理事長(千代田化工建設㈱ 代表取締役社長)
12
寄稿
「木を見て、
森を見る、
そして土も
見る」
エンジニアリングの確立を
不確かな時代での複雑な問題を解く
23
25
仲 勇治
㈱テクノマネジメントソリューションズ 取締役社長 工学博士
東京工業大学 名誉教授
16
26
会員会社をたずねて
平成23年度「エンジニアリング功労者
コラム
シンガポール・
スカイパークプロジェクト
三輪 恭久
JFEエンジニアリング(株)
海外事業本部 鋼構造部 計画グループマネージャー
ENAAレポート3
「平成23年度エンジニアリング産業の
実態と動向(白書)
」
まとまる
野村 敏
当協会白書部会長
(千代田化工建設㈱ 営業部門付 特任参与)
28
賞・奨励特別賞」
表彰式挙行される
21
ENAAレポート2
第36回 中東協力現地会議に
久保田理事長がパネリストとして参加
㈱神鋼環境ソリューション
青木 克規 取締役社長
20
ENAAレポート1
『エンジニアリング体験セミナー 2011』
を実施して
パストラーレ
『長崎・女神大橋』
中村 庸夫 海洋写真家
29
専務理事および常務理事の紹介
前野専務理事
宮川常務理事
編集後記
表紙の写真:平成23年度エンジニアリング功労者賞受賞
(上)
JFEエンジニアリング㈱ 提供
(下)
西日本高速道路㈱ 関西支社・大成建設㈱・㈱間組・㈱福田組
第二京阪道路小路トンネル工事特定建設工事共同企業体 提供
2011 年4月1日より「財団法人エンジニアリング振興協会」から、
「一般財団法人エンジニアリング協会」に移行いたしました。
不確かな時代…
リスクマネジメントの課題
安全・安心へのアプローチ
日本の存在感をとり戻し、
世界市場の開拓に向けて
エンジニアリング産業への期待と
エンジニアリング協会の新たな挑戦!
ENAA Engineering No.128 2011.10
1
Message
当協会理事長交替
理事長退任の挨拶
山田 豊
東洋エンジニアリング株式会社 代表取締役社長
2009 年7月から当協会14代目の理事長をお引き受け
言うまでもなく、エンジニアリング産業の社会的使命
しておりましたが、任期である2年間が経過し、さる6月
は、最新の科学・技術を駆使して社会の求める施設・
29日を以って千代田化工建設株式会社の久保田隆社
設備やシステムを創ることであり、エンジニアリング産
長に理事長職を引き継いで頂きました。
業は、多様で高度な技術力の集積、豊かな経済力、
私の理事長在任中は、ご指導、ご支援を頂きました
経済産業省の皆様、賛助会員企業ならびに事務局の
そして成 熟に向けた社 会と文 化を基 盤とした産 業で
あります。
皆様をはじめ多数の皆様にお世話になり心より感謝申し
上げます。
本 年3月にわが国で発 生した東日本 大 震 災および
これを原因とする福島第一原子力発電所の事故および
理事長に在任しておりましたこの2年間を振り返って
放射能漏洩や昨今の不安定な世界経済など、社会およ
みますと、当協会にとっての最大のエポックは「一般財
び経済の情勢の先行きは不透明な中にありますが、今
団法人への円滑な移行」であったと考えております。
こそわが国エンジニアリング産業は、持続可能な経済
昨年5月に内閣府の「公益認定等委員会」に対して
発展を実現するために、持てる能力を最大限発揮し、
移行申請を行って以来、紆余曲折もあって当初予想し
常に世界をリードして行かなければならないと再認識
ていたよりも多少時間を要したかもしれませんが、1年弱
しております。
が経過した本年4月1日に「一般財団法人エンジニアリン
グ協会」に無事移行することができました。
また、私としてはこの間、一 般 財 団 法 人 が目指 す
「 民 」主 導による協 会 運 営 体 制に関して、関 係当事
者のご理解が得られる道筋を自らつけることができたと
思っております。
このように激動する業界の内・外部環境の変化に合
わせて協会も大きく変革しなければならない時期に理事
長を交代することになりました。
久保田新理事長のご指導の下、賛助会員企業が一
層結集し、
「自ら運営する自らのための協会」として当
協会がますます発展し、エンジニアリング産業の更なる
今後は、新理事長主導の下、協会理念や協会のあり
展開のために寄与してくださることを心より願う次第であ
方、協会の「民」による自主的・自律的運営体制、財政
り、私も引き続き全力で新理事長をサポートする所存で
基盤確保策等に関して、運営委員会およびその下部組
おります。
織である企画会議の場でこれまで以上に積極的に議論
して頂き、より賛助会員のニーズに沿った運営を図って
頂けることを期待しております。
新理事長に対し賛助会員の皆様方から格別のご支
援を賜りますようお願い申し上げ、退任のご挨拶とさせ
ていただきます。
2
ENAA Engineering No.128 2011.10
理事長就任の挨拶
久保田 隆
千代田化工建設株式会社 代表取締役社長
本年 6 月 29 日に山田前理事長の後を継いで理事長
に就任致しました。
協会設立後 33 年経った今日、エンジニアリングの必
要性は、これまで以上に増し、必要になって来たように感
じます。一般財団法人に移行したこの機会にもう一度原
公益法人改革に伴い、本年 4 月 1 日より、財団法人
点に戻り、エンジニアリング業界として、意見交換を行い
から一般財団法人に移行され、
「エンジニアリング振興
つつ努力を傾注し、しっかりした付加価値を作り上げな
協会」は、その名称を「エンジアリング協会」に改名致し
がら、官及び学との交流を深める中で、エンジニアリング
ました。
ビジネスを発展させることが出来ればと思っております。
一般財団になったことから、公益目的への資金の活用
本年 9 月に当協会が発表した「エンジニアリング産業
計画の着実な実施、今まで以上の当協会の運営の透明
の実態と動向」、所謂「エンジニアリング白書」によれば、
化、賛助会員企業への説明責任などを始めとして従来
エンジニアリング業界の昨年度の売上高は約 8 兆円に達
とは全く異なる協会の運営が必要になっております。賛
しています。裾野まで広がる産業を含めると、市場規模
助会員の皆様、経済産業省を始めとする関係各位の絶
としては、その倍以上になるものと推測されます。つまり、
大なるご支援、ご協力を賜り、微力ではございますが、
エンジニアリング業界は、日本の経済復興、成長の大きな
エンジニアリング協会はもとよりエンジニアリング産業の
柱となりうる業界であります。
一層の発展のために努力を致したいと考えております。
今後の協会の運営は、理事長である私と、前野専務
今回理事長をお引き受けするにあたり、1978 年に設
理事をはじめとする協会の皆様方と連携し進めて行きた
立されたエンジニアリング振興協会(当時)の設立趣意
いと考えております。一方、賛助会員会社 15 社の委員
書及び、エンジアリング協会が最近作成したエンジニアリ
からなる企画会議で協会の課題を整理、検討願い、そ
ングの定義を読み返してみました。設立趣意書の主旨は、
の検討結果を協会の運営に反映していくことを考えてお
「人間社会に必要な社会インフラの整備のために産官
ります。すでに企画会議から検討結果が報告されてお
学が結集しよう」ということであると理解しております。ま
り、これを最大限に尊重し、新しい協会の運営にあたっ
た、エンジニアリング協会の定義では、エンジニアリングと
て行きたいと考えております。
は、
“社会、経済の様々な要請に対し、関連する要素技
術を統合して、物とサービスの融合を図ることにより、最
エンジニアリング産業を取り巻く課題は山積みではあ
適な結果を実現するための新たなシステムを構築し、こ
りますが、エンジニアリング産業は日本の成長を牽引す
れを実用に供するサービスを提供すること。”と定義され
る重要な産業として各方面から大いに期待されていると
ています。関連する要素技術を統合すると言う所が Key
自負しております。関係の皆様と心をひとつにして協会
Point であると思います。
運営に邁進いたしたく、ご指導、ご鞭撻をよろしくお願い
申し上げます。
ENAA Engineering No.128 2011.10
3
座談会
「不確かな時代」の
エンジニアリング産業に対する期待
ヨーロッパの財政危機、アメリカの国債問題等世界経済は混迷し、バブル崩壊以降20年に亘って
の閉塞感や東日本大震災や為替の急騰などにより、現在、日本をとり巻く環境はますます不確かな
状況にある。
こうした状況下でリスクマネジメントやインフラ輸出の課題、
安全・安心への取り組みを
中心に、存在感を示し、日本を取り纏めていくべくエンジニアリング産業への期待や今後求められる
役割などを語っていただいた。
出
席
者
(モデレータ)
4
三橋 敏宏
高野 研一
小野 峰雄
久保田 隆
ENAA Engineering No.128 2011.10
経済産業省 製造産業局 国際プラント推進室長
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授
安全工学会会長 (丸善石油化学(株)
特別顧問、
元社長)
エンジニアリング協会理事長
千代田化工建設(株)
代表取締役社長
「不確かな時代」
のエンジニアリング産業に対する期待
久保田:
は必要だと思います。
また、生産拠点
との工夫が必要です。
世界経済は常に
本日の座談会のテーマは、
「不確か
が海外に出て行く方向にどうしてもな
富の平準化の流れに沿って動いてい
な時代」
のエンジニアリング産業に対
りますので、
その利益を国に戻すネッ
ます。
欧米・日本などの先進国と新興国
する期待ですが、2008年のリーマ
トワークや仕組みについての良いモデ
の経済力の差が次第に狭まっていく中
ンショック以降、経済は低迷し、多少
ルを考えていかなければいけないと
で、
日本は欧米に比べ比較的頑張って
回復の過程はあったにもかかわらず、
思います。
いる証拠でもあると思います。
日本が
なすべきことは経済の発展に努め、
新
ヨーロッパの財政危機、
アメリカの国
債問題、
特に日本は、
バブル崩壊以降
20年に亘っての閉塞感が続き、その
高野:
現在全世界的に閉塞感に覆われ、
興国に追いつかれる程度を少しでも減
らすことではないでしょうか。
そのため
存在感も失われつつある中で、
東日本
全体にあまり元気がないという状況で
に海外投資により利益を上げ、
日本に
大震災、
福島原発事故や為替の急騰
はあります。
ただ大きな歴史の流れを
還流するというシステムを作る、
技術開
など、
この国の将来を考える上で大変
見ると、
英国の産業革命から大体100
発によって新しい事業を興す、
構造改
不確かな状況に囲まれております。
年サイクルで地政学的な成長センター
革による国民生産性向上など挑戦す
が移動しています。1800年代は欧州、
べき課題があります。
一方で、その存在感を取り戻そう
と、
生産設備の海外移転や業界全体
その次の1900年代に米国、
おそらく次
エンジニアリング協会をはじめ産業
が一緒になってパッケージ型インフラ
の21世紀には中国やインドなどアジア
界が力を合わせ、社会に対して積極
設備の輸出をしていこうという大きな
中心に覇権が移ってくると思われます。
的に実行可能な具体的提案をしてい
流れがあり、
その意味でエンジニアリ
そうであれば、
日本は地政学上、
非常
くことを期待していますが、
そのため
ング業界は大きな期待感を持たれて
に有利な立場にあり、
地の利を生かす
には、
学問を社会に結びつける工学に
いると思います。
ことが重要です。
それから日本は大震
優れた学識者(工学者)
が地道に研
まず、
皆様方から今の日本の状況を
災があって大きな被害を受けました
究し、
具体的な問題解決策を立案す
どのように感じておられるかお伺いし
が、
逆にピンチであるからこそ意識が
ることが重要です。
学術的な議論なし
たいと思います。
変わるわけです。
このピンチをチャンス
で既得権やポピュラライズムに走る風
に変えようとする意識変化が重要だと
潮を打破しなければなりません。
大学
思っています「コンクリー
。
トから人へ。
は理論科学偏重で工学を軽視する傾
それから製品から価値へと。
あるいは
向があり、
安全工学会では安全に関
技術立国から社会立国へ」
というよう
する社長懇談会に大学の先生方に出
に、
大きな流れは意識変化を伴いなが
席して貰い現場力を高めるため意見
ら、
人を幸せにするとか、
人とつながる
交換を進めており、産業界が力を合
現状では、
円高の対応が喫緊の課題
とか、
単なる技術だけではなく、
新しい
わせて文科省の教育方法を改善させ
です。
この円高対策は為替の介入や
コミュニティを創造するとか、
新しい付
るようになって欲しいと思っています。
金融の対策などいくつか対策がある
加価値を創造していくことも重要なの
と思いますが、
こういう折だからこそ、
ではないかと思います。
不確かな時代の動きと
現状について
三橋:
行政の最前線にいて感じるのは、
東日本大震災は極めて大きな出来
事でありましたが、
日本の力を持って
対処すれば早期の回復は可能と考え
逆にポジティブに競争力を高める取り
組みも重要だと思います。
例えば外国
座談会
小野:
ています。
のいい資産を買い付けることや特定
世界経済の不安定さという点で、
今
の為替安定策をとっている国の強い
の円高はドルとユーロに対してのもの
企業をつかみに行くことは、
相手の為
で日本に比べ米国と欧州の経済力の
替政策を見直させることにもつながり
低下が原因ではないかと思います。
今
ます。
そういう前向きな動きも組み合
は、
貿易の基軸通貨の多くがドルです
日本の現況は、
目標としてきた西欧
わせていくことが、
今、
アイデアとして
から、
為替損を出さないように企業ご
諸国のレベルに達した途端に目標を
リスクマネジメントの課題
久保田:
ENAA Engineering No.128 2011.10
5
三橋 敏宏
経済産業省 製造産業局 水ビジネス・国際インフラシステム
推進室長(併)国際プラント推進室長
1990年 通産省入省(機械情報産業局電気機器課)
2002年 外務省 欧州連合日本政府代表部
2005年 経済産業省 商務情報政策局サービス政策課
2007年 同 産業技術環境局環境政策課環境交渉官
(併)
地球環境技術室長(併)
京都メカニズム
推進室長
2009年 同 製造産業局水ビジネス・国際インフラシス
テム推進室長(併)
模倣品対策・通商室長
2010年 同 製造産業局国際プラント推進室長に併任
2011年 現職
解が定かでないテーマも少しずつリ
それからもう一点は、
国を出て行く
スクとしてのしかかって来ていると思
ことに対してのリスクです。
日本から
います。先ほどの円高もありますが、
海外に拠点を移すと、
人と同時にノウ
温暖 化問題やエネルギーの節約問
ハウが流出してしまう問題があり、
現
題、
切り口を変えると、
女性の社会進
地で技術や生産システムをオープンに
出というような課題でも、
社会のあり
できないと考えている経営者が多い
方を変えていくことが求められてい
かもしれません。
現在、
日本はフロント
ます。
これらにすべて効く処方箋は、
ランナーになっています。
フロントラン
おそらく容易に見つかるものではな
ナーとは、
何か新しいもの創り出さね
いと思いますが、
リスクが常にあると
ばならない存在ですから、
今まで確立
いうことを前提として、それをきっち
し、
作り上げてきた方法や知識、
ノウ
り認識し、
しっかりマネージすること
ハウまでも全部オープンにしても、
現
に、
組織としてしっかり対応すること
地の企業や人を育て、
それで得た利益
が一歩だろうと思います。
まずはその
を国内に還流する仕組みを作り、
その
リスクの存在を明確に認め、それに
資金で日本国内で創造的な研究開
対して組織として対応する人や部署
発を行い、
さらに新たな素晴らしいも
をきっちり設けていくことにより、業
のを作っていくという転換をしていけ
務の中でそうしたリスクの対応が実
ば、
リスクとして恐れる必要はないと
現され、
リスクが実際に管理できるも
いう感じがします。
のに具体的になっていくのではない
喪失した、
円高も日本がずっとデフレ
かなと思います。
高野:
起こる。
」
というマーフィーの法則が、
ある。
このような中、
日本のこれまでの
円高を造船で考えてみますと、
基本
当てはまってしまった訳です。
ですか
制度も産業のあり方も大きなシステム
的には大手を始め非常に厳しい状
らエンジニアは、
起こる可能性あるリ
としての捉え方をして変えなければ
況ではあります。船の耐久性、
信頼性
スクというものを、
誠実に謙虚に受け
いけない時期に来ていると考えます。
では世界一でもコスト競争には勝て
止めるべきであることが教訓として残
一方で、
経済活動の側面では余剰マ
ないからです。しかし円高でも、あ
りました。
想定外という言葉は簡単な
ネーが暴れまわり、
リスクに対する捉
る造船メーカは、同じような状況で
のですが、
想定をしていなかった、
リス
え方が、
個人あるいは企業として、
より
あっても、こなしきれないほどのたく
クとどう向き合うべきであったかにつ
一層難しい時代になったといいえま
さんの受注を取って、
毎年成長してい
いて考えていなかったことは、
反省とし
す。企業の発展あるいは社会の持続
ます。
これは、
設計や製造工程を標準化
てあるべきではないかなと思います。
的可能な発展に対するものの見方も
し、
経営と技術を一体化するなど全般
エンジニアを含めた現代人は自然の
不確実になっており、
これを一番の大
をシステム化しているからです。円高
脅威を軽視しすぎていたかもしれま
きなリスクと考えた場合に、
どういう形
はピンチですがチャンスでもあるわけ
せん。
立ち止まって考える姿勢を失っ
でこれから立ち向かっていったらいい
です。
今までのやり方を徹底的に破壊
ていたかもしれません。
のかという視点を、
次のポイントとして
して革命的な変貌を遂げることが必
お聞かせください。
要です。
組織としての対応というお話
三橋:
ものの見方での不確実性に加え、
6
力の事故ですが、
「起こってほしくない
が、起こる可能性のあることは、必ず
でいる以上実効で見ると収まらない。
しかし、
しっかり対応している企業も
ぜひ申し上げたいのは、
今回の原子
ENAA Engineering No.128 2011.10
小野:
がありましたが、
まさにそういう対応を
リスクについては、企業と社会、そ
し、考えて、考え抜けば新しいやり方
れぞれが抱えるリスクがあります。
企
が出てくるのではないでしょうか。
業が抱えるリスクは自ら考えて対処す
「不確かな時代」
のエンジニアリング産業に対する期待
べき問題だということに尽きます。次
に規制を突破したら、
やってもいいと
に社会の抱えるリスクは3つほどあげ
いう発想で教えていると。だけど、教
られます。
ひとつは、
構造改革の遅れ
科書に青信号になったら、左右を見
というリスクです。
行政・農林漁業・電
て、
確認して、
手を挙げて渡れというふ
力・医療・港湾荷役・金融など多数の規
うに危機意識を教えるべきだ」
という
制緩和を行う余地があるにも関わら
議論がありました。
原発事故も場合に
ず既得権が邪魔をして改革が進まな
よっては、
そのように事前に審査され
い状況です。構造改革をしなければ
ていたら防げたかもしれない。
競争力を失い利益は新興国に流れて
しまう恐れがあります。
産業界は法人
税減税だけでなく企業活動に不要な
手続きなどの管理費削減を目指すべ
きだと思います。
次が教育に関するリ
日本の力を纏めるために
必要なこと
久保田:
スク。
日本が頼りにする資源は“人”
で
現状の問題点はあるにしても、
日本
す。
昨今は国際間の競争に勝つ教育
国民というのは大変なポテンシャルを
をしていないように見受けられます。
持っていると理解しています。
官民が
教育問題は他人任せではなく産業界
一体となって、
もう一度日本の国力を
も積極的に考え発言していくべきであ
上げて世界に出て行く、
あるいはそう
り、
特に語学や科学の教育を強化す
いう形を取らなければいけないと思
ること重要だと思います。
そして、
国債
いますが、
その様な観点から、
何が強
の信用失墜による高金利というリスク
みになると思われますか。
です。格付け機関とかファンドの動き
によって実態以上の信用失墜が起こ
高野 研一
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科教授
1980年 名古屋大学工学研究科 修士課程修了 (財)
電力中央研究所入所
Central Research Institute of Electric
Power Industry(CRIEPI)
1995年 名古屋大学より工学博士
1995年 1年間英国マンチェスター大学客員フェロー
University of Manchester Visiting
Research Fellow
2005年 早稲田大学大学院 理工学院 非常勤講師 兼務
2007年 慶應義塾大学大学院
先導研究センター教授
2008年 慶応義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授
くるアイデアを上手に機能化させてい
く仕組みがあれば、
この四つをもって、
三橋:
る可能性があります。
国債の信用失墜
以前、
日本のブランドというテーマ
による金利上昇は企業の利益を圧迫
を、
業務の中で考える機会があり、
そ
し、
海外進出による空洞化が進み、
日
の中でたどり着いた言葉が三つあり
本経済は落ち込む心配があります。
ます。一つは「匠の心」
。ものを作る
世界に日本をアピールできるものがつ
くれるのではないかというのが、
私の
個人的な考えです。
高野:
安全工学会の立場からいうと、
今回
のに洗練された技術と能力。二つ目
私も創造性は、
人材育成のキーワー
の地震災害に対する反省は、
リスクか
が「もてなしの心」
。
つまり相手のニー
ドでもあると思います。
創造的破壊と
ら目をそらしてはいけないということ
ズを繊細に受け取り、
それを受け止め
いう、壊す一方ではなく理路整然と
で全員一致しています。
何をリスクとし
て答えを出すということ、
そして三つ目
合理性のあるものを作っていくという
て考え、
どう対処するのかという考え
は「振る舞いの心」
。相手をもてなす
ことが必要ですね。
実はヒューマンエ
が希薄です。
リスクに対する専門のコ
のに加えて振る舞うということにも日
ラーをいかに無くすかという、
人間の
ンサル機能が常に働くような社会的シ
本の強みがあるという捉え方です。
か
負の局面をどのようにカバーするかと
ステムが望まれます。
つて、
ウォークマンなど世界的なヒット
いうことにずっと取り組んできました
商品を日本は生み出してきましたが、
が、
大学院に4、5年前に移り、
人間の
ですが、
日本人の中には、
性善説的行
その分野でも、
今やアップルが世界を
いいところを伸ばす教育が必要では
動が多くて、
危機に対する意識が非常
リードしています。
そういう点を踏まえ
ないかと考えました。
大学院で創造的
に低いという点がある。
大震災のあと
ると、
この三つの心にもう一つ「クリエ
意思決定論という授業を始めたわけ
の安全工学会のときに「今の教育は
イティビティ」
つまり創造性が必要なの
です。そうすると学生が本当に目を
青信号だったら渡ってもいい。
要する
だと思います。
一定の確率で生まれて
輝かせて、
「この授業に出てくるのが
原発の事故も、津波の被害もそう
座談会
ENAA Engineering No.128 2011.10
7
小野 峰雄
あげようと、
非常にホスピタリティがあ
日本の力であり、
強みだと思います。
機
ります。
本当の意味での「三人集まれ
械、
技術の運用を一元化し、
その情報
ば文殊の知恵」
と言ったような本当の
を持って、
何時でも使え得るような体
協力関係を構築できる。
そういう国民
制やシステムを作れば良い。例えば、
性が元々あると思いますので、
そうい
教育強化に必要な質の高い教師にな
う人の強みを生かしていくべきだと思
れる人材も豊富にいますし、
新規事業
います。
協働、
協生、
協調の文化を創造
に必要な資金・良質で豊富な作業員な
していくことが強みになります。安全
どが潜在的に存在しています。
特にこ
ではまさに安全文化の創造が解決策
れからは、
各界のOBの有効活用が大
となります。
命題だと思います。
安全工学会会長(丸善石油化学(株)
特別顧問、
元社長)
1959年 4月
1964年 6月
1984年 6月
1988年 6月
1991年 9月
1993年 6月
1994年 6月
1995年 6月
1997年 6月
1999年 6月
2005年 6月
2010年 6月
2010年 5月
8
丸善石油株式会社 入社
丸善石油化学株式会社 勤務
同社 千葉工場 製造部長
同社 取締役 技術部長
同社 取締役 第四期建設本部長
同社 取締役 千葉工場長兼第四期建設本部長
同社 常務取締役 千葉工場長兼第四期建設
本部長
同社 常務取締役 基礎化学品本部長
同社 専務取締役
経営企画部、研究開発部、生産技術部、
環境保安室担当
同社 代表取締役 取締役社長
同社 相談役
同社 特別顧問(現職)
(非)
安全工学会 会長(現職)
小野:
安全・安心への
さらなるアプローチ
かつて、
私が新入社員当時の会社
の基 本精神は「和」というものでし
た。
田舎にはまだ「和」
の精神が強く
久保田:
残っていますが、都会では核家族化
小野さんが触れられた「和」
は、
多
し「和」
の精神が薄れつつあります。
し
分日本人の本当の心のルーツだと思
かし今大人になって都会で活躍して
いますね。
「絆」
という言葉を分解する
いる人の多くは、
田舎でこの「和」
のあ
と糸の半分ですね。
「伴う」という言
る環境で育っています。
次の時代に引
葉も、
これも人偏に半分ですから、
そ
本当に楽しい」
という感想が多く聞か
き継ぐことに今から備えれば「和」
は
れをまとめて、
一つの意味のある言葉
れました。
最近の若い人は、
創造力と
日本の武器になるのではないでしょう
として機能させるには本当の意味の
いう意味では我々のレベルより高いと
か。
「和」
は東日本大震災では「絆」
と
調和のとれた「和」
が必要なのでしょ
驚かされることがしばしばあります。
呼ばれ、
世界中に貴重なメッセージと
うね。ある本を読んでいましたら、イ
大学院を新しく立ち上げて思うに
なりました。一方「和」の精神が構造
ノベーションという言葉は、
日本語で
は、
いかに世の中の役に立つ人材を
改革を妨げていることも問題です。
こ
は技術革新と訳しますが、
中国語では
供給していくか、
輩出していくかという
れを解決するために構造改革を学術
「創成」
。
創ると成ると、
こちらのほうが
ことが、
その使命だということです。
実
的に研究し説得性を持って社会の変
素晴らしい漢字だという人がいました
際に額に汗をして、
自分がこういうも
化や生ずる利害を明らかにし根拠に
が、
私もそう思いました。
のを作ったというような実体のある分
基づいた国民的議論が展開されるよ
これからいいチャンスであり、
日本
野に人材を供給する。
その意味で、
た
うにすべきであり、
そこには社会学者
の力をまとめていきたいと思っていま
とえば疑似プロジェクトを使ったよう
とか工学者の存在が必要です。
すが、
日本のいろいろな産業設備もか
な実践教育を行い、
実学を通じて産
また、
日本の力や強みは、
蓄積した
なり古くなっており、
リスクとも絡めな
業の魅力を伝えていかなくてはならな
インフラ資源(機械・人的)
だと思いま
がら、
そういう観点から安全・安心に
い時期に来ているかと思います。
す。
私の住んでいる地域は、
今回の大
対する対応についてはいかがでしょう
それから日本は特殊な国という点
震災で液状化の被害を受けましたが
か。
結果として日本の競争力の強化に
です。韓国や台湾、
中国に行っても人
復興に活躍したバキュームカーなど
つながると思いますが…。
と連携するとか、
人と協同するとか、
自
機械類が数多く揃っており、
それを取
分の知っていることを人や同僚に教え
り仕切る有能な人がいたことを見て、
ることはあまりないですね。
日本は自
改めて日本の底力を感じました。
多く
最も直近で分かりやすい事例で言
分が知り得たものは、
隣の人に教えて
の面でこうした力が蓄えられ、
それが
いますと、7月に中国で高速鉄道の事
ENAA Engineering No.128 2011.10
三橋:
「不確かな時代」
のエンジニアリング産業に対する期待
故がありました。
実際に事故が起きま
組織の中の活力、
いわゆる文化が、
組
ば、第三者による診断機関がないの
すと、
今まさに即新幹線を調達したい
織の機能全般に影響しているという感
で、
この育成も社長の課題でしょう。
と思っているブラジル、
あるいはアメリ
じがします。
カから見ますと、
やはり価格だけでは
なく、
現実に安全というものをどうやっ
座談会
安全を考えるとき製造業だけでは
限界があります。
事故の半数は設備の
小野:
不良で起きています。
さらなる安全確
て定量化し、
それを競争の要素として
企業の立場で考えると、
生活レベル
保のために製造業界とエンジニアリン
どのように取り込むかというのが、
非
が上がるにつれ安全・安心は重要視
グ業界の協力が絶対に必要です。
プ
常に重要な問題になってきていると
されてきました。
かつて工場で事故を
ラントの設計思想はエンジニアリング
思います。
これは逆に言いますと、
日本
起こすと矢面に立つのは工場長でし
の段階で埋め込まれていますから、
プ
にチャンスが訪れているということで
たが、
現在は社長が前面に出ることを
ラントの設計建設・運転・保全が一体
もあります。
実際にブラジルの高速鉄
社会が要求します。
中国の新幹線事
となってプラントを守って行くことに
道計画の中で、
安全というものを審査
故も昔は闇に葬られていたことかもし
よってより安全にプラントの運転がで
基準として評価する仕組みについて、
れませんが、
今や首相が出てきて国民
きることにつながります。
「日本が具体的な提案を出してくれ」
に釈明するようになりました。
特に、
日
と、
ブラジル当局から今言われていま
本は安全に関する関心は強く経営上
す。
これをどうやって価格、
あるいは事
もウェイトの高いテーマとなってきて
業の中で、
正しい割合で評価されるか
いると思います。
安全活動も現場だけ
ということになると思います。
でなくトップまで巻き込んで安全活動
海外市場の開拓、
インフラ輸出について
久保田:
を展開するようになってきました。
ただ
日本の強みや、
それをまとめて海外
トップの安全に関する役割が何か、
実
に出せるところがあることが分かりま
確かに安全というもの自体は、
実体
は明確になってきていません。
そこで
したが、
これから海外の市場の開拓、
が無いと言いますか、
「安全」
というも
安全工学会では、
企業が安全確保の
海外の展開を考えた場合、
主としてイ
の自体は存在せず、
「危険」
がない状態
ために行っている様々な活動を「保安
ンフラになると思います。
膨大な需要
ということですね。
何か事故が起きて
力」
と命名し、
その中で社長の役割を
がありますから、
これをどう国家として
初めて安全というものを意識するとい
明確にしました。
会社の企業風土を支
展開していけばいいと思われますか。
うことではないかと思います。
そういう
配する大きな力を持つのは社長故で
意味では「安全」
を売り物にするという
す。
現在、
その「保安力」
をより具体化し
のは、
なかなか実体の無いものを説明
企業が実践しやすい形に変え自己評
日本の高度成長期時代はインフラ
するというような意味で難しいのかも
価できる「企業の保安力と評価方法」
投資が盛んに行われてきました。今、
しれません。
我々は、
事業所、
企業の安
を開発中であり、
さらに「社長の役割」
世界中で同様なニーズが生じていま
全診断を15年ほどやってまいりました。
は社長が安全に対して果たすべき役
す。
日本は経済活動で得た利益を資
大学院に移ってからは、
安全だけでは
割が何か、
について書き記したもので、
金とし技術を添えて新興国のインフラ
なくて、
その企業の業績と組織の文化
数人ずつ社長に集まっていただいて懇
投資に協力することになりますが、
そ
は関係あるのではないかという研究に
談会を開いて普及に努めています。
一
の国の経済発展が将来日本経済にプ
も手を出しております。
その結果を簡単
方、
社長は、
社内だけではなく、
社会に
ラスになるよう考慮することも必要だ
に説明すると、
いわゆる組織の文化、
組
対して物を言う立場にもあります。
たと
と思います。
また、
インフラ整備には単
織の活力が高く、
風通しもよく、
コミュ
えば保安4法の統合などについては、
に設備を提供するだけでなくその後
ニケーションもいい生き生きとした組
行政に依存せず、
社長たちが結束して
の運営や保全も含めることが必要だ
織は、
同業他社と比べても明らかに安
知恵を使い、
統合に向けて動く等が必
と考えています。従い、設備のケアが
全パフォーマンスも業績もいいというこ
要でしょう。
出来る力を付けることが大切です。
新
高野:
とがわかりました。
そういう意味では、
更に「保安力」について言及すれ
小野:
興国には設備を運転するために必要
ENAA Engineering No.128 2011.10
9
な技術や保全のサービス体制が不足
高野:
しています。
日本の建設会社は、
かつ
当然中国とインドの二つは無視でき
いといっていいでしょう。
原子力の六ヶ
ては運転指導するくらいに運転に精
ませんから、
そこに焦点を当てたマー
所村を本当に中立的な立場で、
エンジ
通していましたが、
最近は技術サービ
ケティングが重要だと思っています。
ニアリング評価をやってくれと言った
ス面が弱くなったといわれています。
外国の中でのマーケティングでは、
本
ときに、
日本では評価できる機関が無
その原因は、
フィールドエンジニアを抱
当に現地が求めているものは何か、
例
いので、
ロイズに頼んでしまいました。
えなくなってきたからで、
そこが問題だ
えばここでは誰も靴を履いていない
ですから日本でもそういう信頼ので
ということを指摘する人もいます。
という状況であれば、
靴を売るのは無
きる技術的な基盤がしっかりした第
理ではなく、履いてないからたくさん
三者機関というのが必要だろうと思っ
商売のチャンスがあると考える。
現地
ています。例えば米国ですと、原子力
海外への展開、
これは今、
経済産業
の人たちが何を求めているか、
それに
発電所のレーティングをして、
いいレー
省が取り組む最も重要な課題の一つ
合った商品やサービスを提供していく
ティングを得た原子力発電所は保険
です。
かつてR&Dを推進して新しい商
マーケティングが一番重要です。
知識
料率が低くなります。
エンジニアリング
品を開発し、
今までなかったものを市
や意識というより「情」
の部分を、
今ま
協会ができるかどうか分かりません
場に投入して、
市場を作り出すことは、
での日本のメーカーは、
やや軽視をし
が、
そういう第三者的な中立な技術的
80年代、90年代から非常に経済産業
てきたかという感じがします。
アジアで
な評価ができる、
あるいは安全の評
省も旗を振ってきたところですが、
徐々
も、
「日本はどうしたんだ。
日本の顔が
価ができるといったようなことも、
狙っ
にその様相が変わってているのでは
全く見えない」
というのを何回か聞い
ていいと思います。
他の学会と連携し
ないでしょうか。
世界のマスのゾーンが
たことがあります。
そういうことを考え
ながら機能の強化をしていくことが
求めているものは何か。
それが高品質
ると、
情に訴えることがマーケティング
必要ですから、
安全工学会もそういう
を要求されない量的に捌ける大衆車
での重要事項になってきたのかもし
観点でこれからぜひ取り組もうとして
であるならば、
儲けをしっかり稼ぐため
れません。
現地の人が何を求めている
いますので、
ある種の中立的な機関と
には、
その大きなゾーンをしっかり見つ
か、
あるいは現地の人と、
どうやって人
も考えられるエンジニアリング協会と
め直して、
そこに日本の力をフィットさせ
間的なつながりを作っていくかが重
も連携をしながらやっていくといいと
ることが求められているということを
要なのに、
そこに力を注いでいないと
思いました。
認識する必要があります。
まさしくその
いうことがあるのではないかと思って
発想で、
海外のインフラに着目している
います。
三橋:
向けた政府の取組です。
ただこうした
事業は期間が長く、
公共インフラになり
ますと、
国や自治体が整備をしている
ところに企業が契約に行くと、
どうして
もリスクを負うことになります。
さらに長
三橋:
この震災の対応では、
電力に関連し
というのが現在の海外インフラ受注に
エンジニアリング産業
への期待
久保田:
いろいろお話を伺ってきましたが、
て、
関連する機材調達に携わる企業
のピラミッド構造がどうしても気になり
ました。
発注者側の強い地位ときちっ
と納期を守って、
「ピカピカにして納め
ます」
という立場にしっかり分かれて
期にわたるリスクをどうやって背負うか
これまでのお話を含め、
これからのエ
います。
この中にあって、
例えばエンジ
というような難しい問題があります。
こ
ンジニアリング協会に対する期待、
あ
ニアリング業界の立場というものを、
も
れを一つずつ官民で力を合わせてそ
るいはエンジニアリング産業への期待
う一度考えますと、
やはりこのプラント
のリスクを軽減して、
案件を取っていく
について最後にお話いただければと
がきっちり動くために大変重要な役割
必要があると思います。
この反復動作
思います。
を果たしていることが間違いないの
に、
それに見合った発言力と地位が十
をすることで、
その成果が日本に戻っ
てきて、
成長の基につながってくるので
はないかと思います。
10
で、
しかも信頼できる第三者機関が無
ENAA Engineering No.128 2011.10
高野:
日本は第三者機関が非常に貧弱
分認められていないかのようにすら感
じられ、
サプライチェーンの狭いところ
「不確かな時代」
のエンジニアリング産業に対する期待
に押し込められているのではないか
ということを改めて感じます。
また、
これ程の地震は世界でも貴
重な体験であり、
詳細な事実調査を
業界に依って立つ技術力、あるい
実施し検討を加え今後の耐震補強の
は市場で競争するための価格競争
参考にすべきだと考えています。
プラ
力といったところにどうしても着目し
ント本体は殆ど被害を受けていない
がちですが、改めてこういった折に、
がどんな所が弱点かが見えてくる。
現
より今の業界の置かれている環境を
在のプラントの弱点を補強するように
改善するために、
今持っている経営の
するならばプラントはこれ程の地震に
ノウハウとその技術的知見を持って、
も耐えられる。エンジニアリング協会
ユーティリティ側といいますか、
使って
が窓口になり、
土木・建築・機械などを
いる側に優れた提案をきっちりして、
まとめて総合的に取り組んで耐震や
実現していただきたいと思います。
そ
耐震補強の指針作りをして欲しいと
の結果として、この業界の優れた地
思います。
位を確保して欲しいと思いますし、
そ
さらに、設 備と運 転 の間の 技 術
れが逆に今回のような事故を将来二
の交流を深めて欲しいと思います。
度と起こさないことにもつながると
フィールドエンジニアは、
製造会社とエ
思います。
ンジニアリング会社両方にとって無形
の財産になります。
そして、
保全にエン
小野:
座談会
久保田 隆
エンジニアリング協会理事長
千代田化工建設(株)
代表取締役社長
1969年 東北大学工学部化学工学科卒業、
千代田化工建設株式会社入社
1991年 PGFジャカルタ事務所所長
1995年 海外第2プロジェクト本部部長
1998年 取締役 豪亜プロジェクト総室長
1999年 取締役 海外プロジェクト総本部長
2001年 常務取締役兼執行役員 海外プロジェクト統括
兼 海外営業本部長
2004年 取締役兼執行役員 国内プロジェクト副統括
2005年 常務取締役兼執行役員 技術統括
2007年 代表取締役社長(現職)
ジニアリングがもっと積極的に関わっ
科学と社会を結び付けるのが真ん
ていただきたい。
プラントの設計思想
ジニアリングですから、
これはやらな
中のエンジニアリング。
それは学校で
はエンジニアリングするときに埋め込
ければいけないと思います。
第三者機
言えば工学だし、産業側からいえば
まれるものですが、
製造会社は深く理
関の設置については、
私は全く同感で
エンジニアリングだというふうに思い
解していないことが多く、
そのため十
す。
アメリカのAPI(米国石油協会)
に
ますけど、
この中間がやっぱり日本人
分な保全が出来ず事故の原因になる
は第三者機関としての権威がありま
は非常に弱くなっています。
原発処理
こともあります。
製造会社の機械技術
すけど、
公益法人である日本のJPI(石
にしても、
何にしてもその部分が欠落
力が低下していると思われる昨今、
両
油学会)
にはほとんど見られません。
している。
ポリシーを作るときでも、
や
者の交流によってプラントの健全性
室長からは、
エンジニアリング産業の
はりその部分の検討が足りないため
が保たれ事故の減少にも繋がるので
社会的地位について大変力強いお言
に、
抜け穴の大きい政策が出てきて、
はと考えます。
葉をいただきましたが、
欧米に比べま
そこで結論が出ていくという段階で
すから。
この部分については、
やっぱ
すと、
いわゆるエンジニアリングに対す
久保田:
る評価というのが、
今まで必ずしも正
りエンジニアリング産業も相当自信
お三方の大変力強いご支 援のお
当にはなかったと思いますし、
この国
を持って進出してもらいたいなと思っ
言葉を有難うございます。
エンジニア
難は、
官民一緒になって、
エンジニアリ
ています。
ではなくて、小野さんがおっしゃった
ング業界が積極的にその解決に関わ
国内に多様な学会や協会という集
学問を社会に結び付ける工学に優れ
り、
その評価を高める良いチャンスだ
団がありますが、
単独で出来る行動に
た学識者「工学者」
が必要なのでしょ
と思います。エンジニアリング協会も
は限界があります。例えばプラント協
う。会社組織の中でも、
そのような学
皆さまからご指摘いただいた方向に
会、
安全工学会、
設備管理学会、
化学
識者としての役割を担っていないと思
向かえるよう、
その触媒として大いに
工学会…など相互に連携をして問題
います。
もう少しそこを広げないと、
学
機能致したくよろしくご支援をお願い
解決の提案などをしていくようにして
での工学と、
実際のプラントとの間をう
します。
いきたいものです。
まく繋げること、
それこそまさしくエン
本日は有難うございました。
ENAA Engineering No.128 2011.10
11
寄稿
「木を見て、森を見る、そして土も見る」
エンジニアリングの確立を
不 確かな時代での複雑な問題を解く
仲 勇治
㈱テクノマネジメントソリューションズ 取締役社長 工学博士
東京工業大学 名誉教授
P R O F I L E
●経 歴:194 5 年生まれ /1970 年 大阪大学大学院 基礎工学 研究科 修士課程修了/1971 年 京都大学工学部化学工学科助手 /1979 年 英国リーズ大学 研究員 /1981 年 東京工業大学資源
化学 研究所助教 授 /19 93 年 同研究所教 授 /19 9 6 〜 98 年 東京大学大学院 教 授 併任 ●官庁・団体活動:日本学 術 振 興会未来開拓事業、経済産業省ミレニアムプロジェクト、文部科学
省リーディングプロジェクトなどのリーダー、ほか ●著書 :
「総合学入門」、
「化学工学辞典 改訂 4 版」、
「化学工学ハンドブック」、
「工学知
(第 3 巻)」、ほか
はじめに
多角的に評価し、
解を得るとは?
日本での装置産業を中心とするエンジニアリングの発
エンジニアリング業界は、大きく分けてプロセス系(EPC
展は、1960 年頃の導入期に始まり、90 年頃のバブル崩
が主体)とプラント系(装置設計、製作が主体)に分かれ
壊で止まった感がある。そもそもエンジニアリングは、
「科
ているものの、依然としてその価値は装置機能よりは装置
学を事の設計に適用する」という意味であり、この業界
重量で評価されている。つまり、利用者を中心とする市場
は設計・施工を中心とする生業である。しかし、広い意
は、利用形態全体から価値を見出さず、設備納入で終わ
味での化学プラントは化学・生物的変化を利用して製品
る短期的な視点からの価値を求め続けてきた。製造プロセ
を製造する装置であり、設計だけでなく、装置の運転・
スだけでなく発電、上下水道などの社会技術インフラにお
操作や保全に関わる業務を加えて成り立っている。今も、
いても同様である。多くの業界もそれでよしとする風土を守
各エンジニアリング段階で分業体制が引かれている。
り続けている。しかし、実際にはそれらの設備は長期に利
エンジニアリング産業は、装置供給者として業をなしてい
用されており、この間に様々な市場ニーズに応じるようにプ
たが、近年、韓国や中国などの市場参入で、ビジネスが
ラント改造が行われてきた。このニーズは、多様に変化す
急速に難しさを増している。昔、日本が安さで手に入れ
る品揃えや品質保証だけでなく、生産性、迅速性等への
た市場を、同じ手口で追われているといえる。
対応を求めている。さらに、社会的要請として、局所的環
一方、1990 年半ばから持続的発展を意識しつつ、地
境・安全問題はもとより、地球環境問題をも視野に入れた
球規模でサプライチェーンを運用するビジネス(SCM)が
解決策が要求されている。利用者はライフサイクル エンジ
始まっており、市場は世界的規模で競争が激化し、流
ニアリング(LCE)の重要性を認識せざるを得ない。これ
動化し続けている。これはインターネットの発達と大いに
は、単に日本のルールに合わせるだけではなく、世界に通
関係がある。同時に、関係者のみならず社会の意識も、
用する LCE の論理の確立を要求するものであり、新たな
従来の
‘専門家にお任せ’
を脱却して、自分たちの目線で
エンジニアリングの枠組みの整備が必要となっている。
‘何故’
という意識が芽生えており、責任ある組織に説明
(1)解くべき全体のスコープ
(森を見る)
とその解(木を見る)
を求める傾向が出てきた。結果、当事者は、様々な異な
を得る、しかも、物質変化に伴う科学の本質(土を見る)
る要求に説明しつつ、迅速に市場に対応しなければな
を見失わないように明示できる業務流れを作ること。
らなくなった。つまり、
「複雑な問題を、多角的に評価し、
(2)従来からのエンジニアリング手法の整備は必須で
かつ速く適切な解を得る」仕組みが要求されている 1)。
この立場から、今後のエンジニアリングの在り方につい
て、考えることにする。
あり、加えて多角的な評価ができること。
(3)情報の再利用をも視野に入れた、ライフサイクルエンジ
ニアリングを確立すること。
(4)
長期に亘って社会変化や意識変化に対応しながら、コ
ストを削減する仕組みを構築すること。
12
ENAA Engineering No.128 2011.10
問題を解くということは、幾つもの評価項目に対し
て、何らかの解決策を提示することであり、そのため
エンジニアリング環境整備の基点
に対象をモデル化することになる(図 1 参照)。ところ
で「解くべき問題」を定義するのは極めて難しく、しば
考えられる全ての条件を考慮していきなり最終解を得
しば曖昧に対象を捉えている。しかも、短期的、ある
ることは不可能に近い。ISO STEP の標準化の議論の
いは長期的な視野が入り混じっていることも多い。1 つ
中で、欧米の一流企業でのリバンプ工程における工数
のモデルで全てにわたって評価できる表現法はないの
を分析した結果が、図 2 −(1)に示されている。前工程
で、幾つかの視点を持ったモデルを組み合わせながら
での結果を次工程に渡すと、そこで前工程の解釈が入
利用することになる(モデルの詳細度という)。例えば、
るために、関連情報を探したり、理解したりする工程が
反応器の詳細なミクロモデルを全てのプラントに適用
必要になる。そして再設計の作業に入る。前者に 75%
するのは、理論上は可能であってもその労力や仮定を
から 80% の工数がかかり、後者に残りの工数が費やさ
考えれば、現実的ではない。安全性評価の際に、動的
れていたという。恐らく10 年程度経過した今でも、状
シミュレータを用いて Hazop を実施すべきという意見
況は変わっていないだろう。前者の設計意図を如何に
もあるが、ケースの多さを考えれば現 実 的ではない。
伝えるかが業務工程を抜本的に変える可能性がある。
しかも、構造体や操作手順が不安定な状況下ではさ
NIST が 1993 年に仕掛けた DAMA プロジェクトは、テ
らに評価は難しい。地球環境の問題が重要になれば、
キスタイルにおける SCM 問題を取り扱った。業種間の
エネルギー消費や温暖化を促進する物質の排出量を
プロトコルの整備により、$100 億の削減と新製品の市場
捕 捉 する必 要 があり、また、排 出 物に対しては量や
出荷への期間を半減した。プラント業界においてもSCM
最終処分至るまでのプロセスを考慮したり、製品系の
は重要であり、最近のアジアや中東でビジネスが立ち上
サプライチェーンをも対象にしたりすることもある。社会
がっているパッケージ型インフラも同様の問題を抱えて
要求によりどのような新しい評価項目が必要になるかを
いる。プロトコルの標準化とその運用はライフサイクルに
常に想定しておくことも必要である。かといって昔の評
亘って極めて重要である。単なる機器の集合体がシス
価がいらないのではない。従来のエンジニアリング手法
テムではない。
も必要である。エンジニアリングベースが異なれば、試み
もう一つの重要な問題は、安全管理と工程管理を
として解を様々なケースについて求めるのは当然のこと
ベースにした品質管理の問題である。高付加価値を求
になる。したがって、論理的な業務の流れに従って、各
めて高度な技術を要求する高機能素材製造にシフトし
業務が高速に、かつ精度高く進むように、従来のエンジ
ている。しかし、この市場は、製品寿命が短く、製品開
ニアリングの方法論をも整備して技術情報基盤を利用す
発から素材の提供までの R&D から製造開始までの時
る必然性が出てくる。
間短縮と従来の品質管理だけでは十分ではない。成型
(1) ฦ๪䛛䜒䛥ᴏຸ୹ᑙ䛴ᴏຸὮ䜒
䜬䝷䜼䝏䜦䝮䝷䜴 䜽䝊䞀䜼䠁ᴏຸ
ᙫ㡢䜘ཀྵ䜂䛟አⓏ⎌ሾ
䟺ᅗහአ䛴ᨳ἖䚮⤊ῥ䚮ᢇ⾙䚮ᩝ໩䚮䝿䝿䝿䟻
ᩝ᭡
୕Ὦ䝃䜽䜳䛴⾪⌟
ᙟᘟ䜘㊻ぇ䛟䜑
ᙔラ䝃䜽䜳䛾䛴
⌦ゆ䝿⩳ズషᴏ
ᩝ᭡
ᐁ㈹䛴షᴏ
ᙔラ䝃䜽䜳䛱≁໩䛝䛥䝈䞀䝯
ᙔラ䝃䜽䜳䛴⾪⌟
ᙟᘟ䜘㊻ぇ䛟䜑
(2) 䜬䝷䜼䝏䜦䝮䝷䜴Ὦ䜒䛮಴ืᴏຸ䛒༝ㄢ䛟䜑ᴏຸὮ䜒
䜬䝷䜼䝏䜦䝮䝷䜴
䜽䝊䞀䜼䠁ᴏຸ
㞹Ꮔ
ᩝ᭡
⌦ゆ
⩳ズ ᐁ㈹䛴షᴏ
షᴏ
㞹Ꮔ
ᩝ᭡
䟺┷䛴ᑊ㇗∸஥䛴ሾ⏲䛵䚮ୌ⯙䛱䛵᪺☔䛱ฦ䛑䜏䛰䛊䟻
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図 1 問題の捉え方は様々
図2 プロトコルの整備でも業務処理は促進する
ENAA Engineering No.128 2011.10
13
寄稿
加工までも組み込んだ SCM を形成しており、連続、バッ
念を持ち込み、
‘ 複雑な問題を解くためのアプローチを
チに組み立て加工が加わった複合型の製造形態がとら
計画・実行し、さらに改善していく一連の流れをシステ
れることが多い。工程管理を中心とした品質や安全に対
マティックに組み立てて実行する学問’
を提唱してきた。
する論理的管理、手順等の標準化が急務になっている。
この考え方は、
‘問題解決のシナリオを想定し、それを多
当然ではあるが、製造は、多系列の多目的プラントであ
角的に評価する仕組みを高速に動かして、マネジメント
り、多種のレシピをそこで実行することになる。品質・安
の意思決定を支援する技術情報基盤がプロダクトで
全を管理し、実行する仕組みを如何に早く作り込むかも
ある’
としている。つまり、単に一つの解を見つけるのが
大きな勝負ポイントである。例えば、製薬製造等におい
目的ではなく、多様なシナリオを多角的に評価しながら
て、雑菌対策を丁寧にすればするほどプラントはコスト高
相応しい解を見つけるのが目的である。図 3 は大学発
になることから、多目的プラントにならざるを得ず、逆に、
ベンチャー(通称テクマス)が提唱する技術情報システム
操作が難しく、工程管理が複雑になる難しさが出てくる。
である。第 4、3 層は、マネジメント(BPM、Business
Process Model)とエンジニアリング業務流れのモデル
(EAM、Engineering Activity Model)で あ る。第
プラント ライフサイクル エンジニアリング
(Plant-LCE)
の推進
2 層は EAM を支援するツール群である。この層にシミュ
レーションを中心とする各種工学の知見が各業務に即し
て格納される。
しかし、常にプラント全体を意識しながら、個別の作業
・技術情報基盤の重要性 プロセス計画・設計が終
を進めるのは容易ではない。プラントを
‘注目するプラント
わって操業に入っても、プラントの内外環境の変化から
領域’
と他のプラント領域に合理的に切り分けられれば、
各種の変更が入るのは常であり、この変更管理を確実
業務遂行はより見通しが良くなる。このために、プラントを
に精度高く、しかも安価に行うためには、Plant-LCE の
分 割 するために CGU(Controlled Group Unit)2)と
考え方が必須になる。海外を見ても、この方針を推進す
名付けて、
‘領域を孤立させることのできる制御バルブで
るために 1990 年半ば頃からエンジニアリング業務全体の
囲まれる領域’
として定義した。この概念は、反応工程
再整備問題に取り組んでいる。このためには、設計意図
などの機能別工程の考えに近い。プラント構造と完全に
の継承や再利用しやすい設計や運転・保全で獲得した
対応して定義できるので、様々な展開に利用できる。
情報モデルの在り方が問題になっている。
この底辺に流れる基本は、設計原点に戻って事を考え
・技術情報基盤の例 技術情報基盤を効果的に利
ることである。つまり、プロセス化学を忠実に守りながら、
用するには、EAM3)が準備されているのが望ましい。日
操作はプラント構造と明確に対応させながら正常時操
本ではあまりその例を見ない。その影響でツール主導型
作・異常時操作として表現し、腐食条件のチェック等は
勿論、安全性評価を反映させて、常に経時変化を掌握
しながら運転を続けることに他ならない。上手い運転より
確実な運転が重要である。プラント構造の部分変更が、
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➠䠅ᒒ㻝㻃䜬䝷䜼䝏䜦䝮䝷䜴ᴏຸ䝦䝋䝯
操作やプロセスの挙動に直接的に作用する、あるいは操
作を変更すると何処のプラント領域でどのような挙動に影
響するか、が明確に分かるだけでも前進である。従って、
安全性評価結果の再利用は必須の条件になってくる。
何度も言うようであるが、このようなエンジニアリング環
境は 1 つの方法論で解決できない。我々は、このような
複雑な問題に正面から向かうために「統合学」という概
14
ENAA Engineering No.128 2011.10
➠䠄ᒒ㻝㻃
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ᐁ⾔
䝛䝭䝷䝌ᨥᥴ
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図3 テクマスの技術情報基盤
HAZOPゆᯊ䝿⥽㞗
きた。しかし、それらは運転全体の一部を表
現したに過ぎず、運転全体の表現や、操作手
順・プラント構造体・挙動の関係表現する手
段も必要である。これを基にして管理の仕組
みを論理的に構成する必要もある。これは、
工程管理の基盤となるものであり、高機能製
品の製造には欠かせない。
FTAゆᯊ䝿IPLシ゛
おわりに
紙 面の関 係で説 明 不 足の感は否めない
が、これからのエンジニアリングは、
「エンジ
ニアリングは哲学」という意識を持つことが
図4 安全性評価の定性から定量へ・IPL 設計の
肝要であり、利用者の要求意図を論理的に
のエンジニアリング環境を局所的に形成する結果になっ
一つの仕組みに仕立て上げて、運用に供することで
ており、しかもカスタマイズされているために他の業務と
ある。社会は
‘見える化’
を求めている。単純に「結果
の親和性を欠いている場合が多い。例えば、担当者が
を求める」のではなく、利用するときのシナリオ群全体
変われば使っていたツールを使わなくなったり、新しい評
を見る時 代に入っている。これからは多 様な価 値 観
価の導入が遅れたり、自社開発環境に頼ったためにコス
が当たり前となるので、常に「複雑な問題を解く」こと
ト高になる等である。広い視野で、ツールを含めた情報
が要求されてくる。実現するのは一つの解であっても、
資源を如何に整備するかという方針は、各社の経営方
それは絶対的な解ではない。この折り合いを論理的に
針そのものといえるが、そこまで至っていないのが現状で
説明して、将来必ず起こる変更管理を合理的に展開で
ある。目前の問題解決をすれば終了というエンジニアリン
きるように準備するのも新しいエンジニアリングスタイルと
グは終焉を迎えており、これからは安全・品質を基本に
いえる。
「木を見て森を見る、そして土を見る(根本に
した論理的なLCE に突入することは、必須である。
帰る)」という意識は必須といえる。
製品が異なれば利用する個別技術に違いは出てきて
社会や時代の要請に応えて、知恵と様々な技術を
も、エンジニアリング全体の論理体系の骨格は同じであ
合理的に、有機的に融合して、独創性のある成果物を
る。多様な問題を表現できる多次元情報モデル(プラント
生み出す、いわば複雑系課題のソリューションサービス
構造、操作・運営、挙動情報からなる)が必要なことに
業、これがエンジニアリングの世界といえる。この状況下
変わりはない。この考えに基づいて、様々な技術的観点
でエンジニアリング企業は、従来の機器供給者から脱皮
から標準化作業が世界で行われている。安全設計を定
して、本当の意味でエンジニアリングの付加価値を高め
性的評価から定量的評価へシームレスに移行する論理
るチャンスでもある。
も確立できた (図 4 参照)。安全と品質の確保は、対象
4)
とする挙動は異なるが、原因-結果の視点で見ると類似
性が極めて高い。
世界的に見て、最も遅れているのが「運転の標準化」
である。プロセス制御の表現は、製造方式の個別性に
依存して、組立加工型、連続型やバッチ型に分けられて
(参考文献)
1)仲勇治編著:
‘統合学入門’
, 工業調査会 , 東京(2006)
2)Yuji Naka, Ming Liang Lu and Hiroshi Takiyama:
‘Operational
Design for Start-up of Chemical Processes’, Computers Chem.
Engng., Vol. 21(9), pp. 997-1007(1997)
3)安全部会 PSM-WG:
‘安全管理の見える化 ~化学プラント安全管理のための業
務フローモデルの提案~’,テクニカルレポートNo.42, 化学工学会安全部会(2010)
4)凌元錦 , 島田行恭 , 北島禎:
‘HAZOP 解析情報を利用したフォールト・ツリー
の自動生成’,化学工学会第 76 年会 , 東京(2011)
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会員会社をたずねて
水処理、廃棄物処理プラントを中心に
特色ある国内・海外展開を推進。
❶中期ビジョンで新たな挑戦
特筆すべき業績向上
株式会社神鋼環境ソリューションは、
ファインケミカ
ル、
医薬品、
電子材料、
食品などの製造プロセスの心臓
部となる機器の耐食素材・表面処理技術であるグラス
ライニング分野では国内トップシェアを誇る一方、
上下水
処理、
都市ごみ処理、PCB等の無害化処理を得意とし
神戸製鋼所の環境ビジネス部門と旧神鋼パンテック
(前身は神鋼ファウドラー)
との事業統合から8年、
株式会社神鋼環境ソリューションは、国内・海外市
場で、地域に根ざした事業活動により好調な業績
を維持している。
この度、神戸市にある同社本社を
当協会前野専務理事が訪ねて、青木克規社長に
歴史や経営方針、国内・海外展開、人材育成などに
ついてお聞きした。
て多様な環境ソリューションビジネスを展開している。
社長に就任しておよそ5年となる青木克規 氏は「就任
早々は、
新規事業でのつまづきもありましたが、
現在は、
事業の方向性をしっかり定めた経営ができるようにな
りました。2010年度は、
この会社ができてから、
最高益。
今年度、
来年度と利益水準を更新し続けることが出来
そうです。
」
と語る。
その言葉通り、最近は世界不況や円高等の影 響を
受け、
企業の業績不振が相次ぐ中、
同社は2009年から
2010年には、経 常 利 益がほぼ 倍の16.5億円から31.3
億円を達成。受注高を見ても551億円から850億円と、
50%以上の伸びを示している。
借入金も0に近い状態、
財務体質も強化されている。
その一方で、
バイオガス都
市ガス導管注入の実証や既存技術のブラッシュアップ、
差別化商品・新規メニューの開発等の研究開発投資に
も着実に力を入れている。
企 業データ
名 : 株式会社神鋼環境ソリューション
社
廃棄物処理関連事業、
事 業 内 容 : 水処理関連事業、
化学・食品機械関連事業
立 : 1954年6月
創
所
在
地 : 神戸市中央区脇浜町1丁目4番78号
電 話 番 号 : 078-232-8018
ホームページ : http://www.kobelco-eco.co.jp/
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ENAA Engineering No.128 2011.10
会員会社をたずねて
好調な業績の原動力の一つは、同社の流動床式ガ
ス化溶融廃棄物処理プラントである。
川越市資源化セ
株式会社神鋼環境ソリューション
可能エネルギー分野などに取り組んでいます」
と、
青木社
長が今後の具体的な方針を語る。
ンター熱回収施設、
相模原市南清掃工場などでの安定
した運転実績や高品質の溶融スラグ生成は高く評価さ
❷特色ある国内・海外展開
れている。
また、
水処理も含めDBO(Design, Build &
Operate)
や長期運転維持管理など地域密着型の案件
取組みも顧客の注目を得ている。
これらは、
安定的な受
注を生みだす同社の強みとなっている。
国内では、
地域に根ざし、
新技術にも取り組む
国内展開は、水処理プラントと廃棄物処理プラント
このような好業績を踏まえて、青木 社長のリーダー
と、
いわゆる環境設備をメインとし、PCB無害化処理
シップの下、
同社は2015年度に向けた中期ビジョンを策
プラントを手がけている。
これに、
現在もシェア50%を誇
定し、
新たな挑戦を開始した。
るグラスライニング機器や装置の製作を加えた構成だ。
「ごみ焼却の分野は、公共事業で
もあり、
年間発注量は日量処理換算
で3,000トンないし4,000トンと、ある
程度の量が見込めますので、
地域に
根ざしながら、
プラントの設計・建設
から操業・維持管理まで手がけ、
コン
スタントな売り上げを確保していき
ます。今 年3月に受注した東 京 都の
西秋川衛生組合向けのごみ処理施
設は、
地域のご協力を最大限得なが
ら、施 設の建 設に加え20年間の運
営・維持管理業務トータルで請け負
うことでご評価いただきました。
上下
こうべバイオガス事業関連設備
(神戸市建設局提供)
水道関係では、
神戸市東灘処理場に
おけるバイオ天然ガスプラント、
これ
は、
下水汚泥を消化ガスにし精製し
中期ビジョンと3つの柱
2015年度に向けた中期ビジョンでは、売上げ目標が
1,000億円、経 常 利 益で50億円を目指す。国内市場で
た上で車の燃料として使用することを神戸市様、大阪
ガス様と一緒に取り組んでいます。
それを今度は都市
ガス導管に注入して家庭で使ってもらう事業をスタート
させています」
の事業基盤の強化、
海外市場への進出・拡販、
新規メ
新しい 技 術に、様 々な工
ニュー・事業の創出という3本柱を打ち出し、
強みを生か
夫を加えながら、
より地域の
した戦略を展開。
要請に応えるビジネスを展
「国内市場では、
廃棄物処理、
水処理プラントの設計・建
設・操業・維持管理を中心に『ものづくり力』
の強化等、
事業
開していることが大きな特
色といえる。
基盤を強化しています。
また、
海外では、
ベトナムに拠点を築
「強みのある技 術に一層
く一方、
インド等に進出しています。
新規事業では、
環境先
の磨きをかけながら、
安定し
進国ヨーロッパにアンテナを張り、
新しい技術による事業
た受注への力をつけていま
展開を模索する一方、
バイオ天然ガスプラントを始め再生
す」
と続ける。
お話を伺う
当協会の前野専務理事
ENAA Engineering No.128 2011.10
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会員会社をたずねて
海外展開では、
ベトナムの拠点に続きインドにも進出
牽引していく優秀な技術者を配置しました。
環境に対す
るものの考え方が、
ヨーロッパは最も進んでいます。
技術
「国内で公共事業を中心にビジネス展開してきたこと
も環境に関わる制度も先取りしてヨーロッパで情報収集
もあり、
海外には出遅れていました。
したがって我が社
することに大きな価値があります。
今回の東日本大震災
の海外展開は、
既に競争の激しい中国ではなく、
成長著
の場合もそうですが、
エネルギー政策が大きく見直され
しいベトナムに着目し、
まず現地で工業団地の水処理プ
るときに、
欧州が何を考え、
何をしようとしているかを早
ラントの建設を手掛けました。今は、新たに日系の工業
く知ることは、
素早い変化への対応に重要であると思っ
団地の事業会社に出資し、
その運営にも携わります。
」
ています。
」
海外では、
プラント建設も価格競争だけでは難しいの
広く海外に視野を広げ、新技術や制度の情報収集に
が現状だ。
その点も踏まえ、
現地に出資をして、
現地の環
積極的に取り組む。
また、
デスクでの情報収集だけでは
境基準に適合する環境負荷を考慮した工業団地の水
ない。例えば、
「ガス化溶融炉のマーケティングをCB&I
処理プラントの設備やアフターサービスをトータルで手
ルーマス社と一緒に展開しています。実際のビジネス活
がけ、
運営していくという方針が功を奏し、
ベトナムでも
動を行うことが生きた情報収集活動です。
お客さんのと
高い評価を受けるにいたっている。
ころへ行って話しをして、
色々な要望を聞いてくる。
大事
アジアで、
もう一つ着目している市場がインドである。
なのは、本当に生きた情報です。
また、駐在員には、
ヨー
インドでも、
地元の鉄鋼財閥とのジョイントベンチャーで
ロッパの工場を徹底的に見なさいと言っています。例え
エンジニアリング会社をつくり、
その会社を通じて水処理
ば、鉄 鋼の生産に水がどう関わっているのか。工場に
プラント建設と運営を手がけていく方針。
今後の成長が
よって考え方が異なる場合があります。
その思想を知ら
見込めるインドの鉄鋼会社との連携により、
用水供給や
ないと、お客さんと議論できませんし、創造性のある提
排水処理ニーズに的確に応えていく。
確かな手ごたえを
案もできません。
単にEPCビジネスだけでなく、
技術を核
感じているという。
としたライセンス、
エンジニアリング、
事業などを種々に組
合わせ、
事業展開できたらという思いがあります。
」
環境ビジネスの本場ヨーロッパに注目
基に新たな提案をしていく。
また、
海外では、
常にパート
さらに特色ある海外展開として、2010年にドイツ・デュッ
ナーを探しながら取り組むことを徹底する。
ビジネスチャ
セルドルフに事務所を開設。
環境ビジネスの本場である
ンスの高い国としてイギリスを挙げる。その理由は環境
ヨーロッパの技術や情報を取り込んでいく狙いである。
に対する税制、
あるいは法制面でのインセンティブが一
「ヨーロッパは環境先進国です。
そこには、
次の時代を
18
実際に技術の現場から、生きた情報を拾い、それを
ENAA Engineering No.128 2011.10
番魅力的であるからだという。
会員会社をたずねて
❸技術開発と人材育成に独自の視点で取り組む
株式会社神鋼環境ソリューション
んでいきたいと、
青木社長は熱く語る。
さらに、
社長自身が全社員にひと月に二回程度、
最近
根本は、
技術にあり。
「当社の根本は技術」
と言い切る青木社長。
その象徴
の社内状況や世の中の動きなどについての感想などを
“社長便り”
としてメールを配信しており、
社員との意志の
疎通を大切にしていることが窺えた。
がドイツへの技術者の派遣といえる。
「うちは海外に出るのが出遅れた。
しかし、
この遅れ
❹エンジニアリングと協会への期待
を何とかしなければならない。
重要なのは人です。
そして
提案力です。
提案力というのは人の能力の高さから生ま
「どこまでの範囲をエンジニアリングというのか、
その
れます。
人は能力の高い人の提案しか耳を傾けてくれま
定義が難しいと思います。
ファイナンシャルエンジニアリ
せんから、
レベルが高くないといけない。
これにはやはり
ングというのもあります。
普通は技術をエンジニアリング
知識及び情報量の向上が不可欠です。
だから、
能力アッ
といいますが、
エンジニアリング協会さんでは、
どこまで
プを目的に、
若い人をベトナム、
インドやヨーロッパにしっ
カバーするのか。海外で仕事をするときは、特にお金の
かりと目標を与え派遣しています。常に12 〜 3人は出て
ことを抜きにしたら何もできませんから、
ファイナンスは
います。
」
大事な分野だと思います。
エンジニアリングをコアにして
若い人を積極的に海外の進出先に派 遣し実際の業
事業展開すると技術ばかりでなく、法律や地域特性の
務に当たらせる中で生きた知識、
情報量のアップを図り
問題等いろいろなビジネスファクターが入ってくる。
各社
人材を育てる。
これを短期的なレベルアップと捉え、
さら
さん夫々工夫を凝らしておられると思いますが、
エンジニ
に中長期的な人材教育の必要性も強調する。
その内容
アリング協会さんには、
このあたりの情報の全体の取り
とは、
いったいどんなものなのだろう。
まとめ役をして、
会員会社に広めていただくとありがたい
ですね。
」
と、
最後に協会への期待を語る。
独自の寺子屋制度と社長塾
海外ではパートナーとの連携で事業を展開し、
環境ビ
「中長期的なレベルアップが必要だと感じて4年ぐらい
ジネスの本場であるヨーロッパに注目しながら新たな技
前から、
寺子屋教育をやっています。
管理職クラスを中心
術の取得と人材育成を試みる。
環境ビジネスで、
日本は
に、
ある年代の社員を20 〜 30人集めて、
分野ごとに専門
もとより世界のフィールドで社会の発展に貢献する神鋼
的な講義を行っています。
工場見学を始め、
いろいろな体
環境ソリューションの新しい挑戦が始まっている。
験をさせるシステムも作りました。
わたし自身も社長塾とい
うのをやっています。
これは次の世代を担う経営者を育
てるために、
主に部長クラスを対象に、
昼食時を利用して、
時々のテーマについて雑談するのです。
基本的には1対1
でやります。
わたしが若い頃経験したことを具体的に話し
たり、
また、
その人の経験や考えていることを聞いたりしな
がら、1時間程度、
食事をしながら懇談します。
何回か続
けることによって、
私の思いを伝えることが出来ます。
そし
て、
何よりも私自身が彼らの意見を聞くことが出来ます。
こ
れが大切なことで、
今も繰り返し行っています。
」
対話や種々の体験を通じて、
コミュニケーションを図
りながら、
技術とマインドの伝承を図っていくユニークな
試みに違いない。
また、
このような伝承の試みと同様に
社員のモチベーションを高めることにも継続して取り組
青木 克規
(あおき かつのり)
株式会社神鋼環境ソリューション
取締役社長
山口県出身
1947年生まれ。
1970年 一橋大学商学部 卒業
株式会社神戸製鋼所 入社
同年
1999年 同社執行役員 経営企画部長
2002年 同社常務執行役員
都市環境・エンジニアリングカンパニー
エンジ部門営業担当、
企画管理部担当
2004月 同社専務執行役員
機械エンジニアリングカンパニー
エンジニアリング事業部長
2006年 株式会社神鋼環境ソリューション
取締役社長
現在に至る
2003年7月〜2006年3月
当協会理事 運営委員を務める
ENAA Engineering No.128 2011.10
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「エンジニアリング功労者賞・
奨励特別賞」
表彰式挙行される
平成23年度
平成 23 年度「第 31 回エンジニアリング功労者賞」およ
ジェクト枠 2 件】個人表彰 1 名、
「エンジニアリング奨励特
び、平成 21 年度より設置の「エンジニアリング奨励特別賞」
別賞」グループ表彰 3 件に対して、久保田理事長より表彰
の表彰式が平成 23 年 7 月 20 日(水)17 時から東海大学
状および副賞が渡された。来賓の経済産業省製造産業局
校 友 会 館( 霞が関 )において執り行われた。多 数の案 件
国際プラント推進室長の三橋敏宏様による局長祝辞(代読)
の中から、小島圭二氏(東京大学名誉教授)を委員長とす
と受賞者代表としてグループ表彰を受けられた「アルジェリア・
る選考委員会の厳正なる審議の結果、
「エンジニアリング
LPG 三期工事プロジェクトチーム」長島日吉氏(㈱ IHI)の
功労者賞」はエンジニアリング産業に関与し、その活動を通じ
謝辞があり、表彰式は厳粛に執り行われ、出席者一同より、
エンジニアリング産業の発展に著しく貢献したグループ表彰
心からお祝いの拍手をもって終了した。
14 件および個人表彰 1 名が決定され、
「エンジニアリング
表彰式終了後、協会懇親パーティが開催された。この度
奨励特別賞」は、商業的実用化が期待される先駆的技術の
理事長交替があり、山田前理事長の退任挨拶、久保田理
開発に顕著な功績のあったグループ表彰 3 件が決定された。
事長の就任挨拶が行われ、経済産業省大臣官房審議官の
表彰式では、久保田理事長の式辞に続き、
「エンジニア
市川雅一様の来賓挨拶、小島エンジニアリング功労者選考
リング功労者賞 」のグループ表彰 14 件【国際協力 5 件、
委員長の乾杯の音頭で始まったパーティは、功労者表彰を
エンジニアリング振興 6 件、環境貢献 1 件、中小規模プロ
受けられた方々を中心に賑やかかつ和やかな夕べとなった。
[ 第31回 エンジニアリング功労者賞 ]
グループ表彰
国際協力
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
アルジェリア・LPG
三期工事プロジェクトチーム
㈱ IHI
長島 日吉/㈱ IHI
プラントセクター海外プロジェクト統括部
部長/ 73 名
シンガポール・
スカイパークプロジェクトチーム
JFEエンジニアリング㈱
三輪 恭久/ JFEエンジニアリング㈱
海外事業本部 鋼構造部 計画グループマネー
ジャー/ 30 名
台湾・台北地下鉄空港線
CU02Aプロジェクトチーム
㈱奥村組、榮民工程股份有限公司
山本 祐司/㈱奥村組
西日本支社 土木第 4 部 課長/ 15 名
ベネズエラ・メタノール製造プラント 小林 繁久/三菱重工業㈱
増設プロジェクトチーム
機械・鉄構事業本部 環境・化学プラント
三菱重工業㈱
事業部 副事業部長/ 50 名
伊藤 澄夫/㈱東芝
ブルガリア・マリッツアイーストⅡ
電力システム社 火力プロジェクト部
リハビリテーションプロジェクトチーム プロジェクト推進担当 ブルガリア
㈱東芝
マリッツア・イーストⅡ
プロジェクトマネージャー/ 32 名
エンジニアリング振興
名 称
アポロカッター工法開発チーム
鹿島建設㈱、川崎重工業㈱
代表者 / 現職 / 構成員数
永森 邦博/鹿島建設㈱
東京土木支店 土木部機電グループ
グループ長/ 9 名
余部橋りょう建設チーム
中原 俊之/清水建設㈱
清水建設㈱、㈱錢高組、西日本旅客鉄道㈱、
作業所 所長/ 14 名
ジェイアール西日本コンサルタンツ㈱
第二京阪道路小路トンネル工事チーム 近藤 羊一/西日本高速道路㈱
西日本高速道路㈱、大成建設㈱、
関西支社 枚方工事事務所 副所長/
㈱間組、㈱福田組
22 名
実プロ化が期待される先駆的技術
名 称
ENAA Engineering No.128 2011.10
代表者 / 現職 / 構成員数
片畑 正/川崎重工業㈱
中国銅陵市 CKK 実証施設開発チーム
プラント・環境カンパニー 環境プラント部
川崎重工業㈱
基幹職/ 5 名
UAE パームジュメイラ海底トンネル
田村 克己/大成建設㈱
建設工事チーム
国際支店 工事部長/ 5 名
大成建設㈱
環境貢献
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
五十嵐敬之助/日立造船㈱
エンジニアリング本部 環境・ソリューション
事業部 プロジェクト部 海外グループ
プロジェクトマネージャー/ 25 名
中国・成都市洛帯ごみ焼却
発電プラントプロジェクトチーム
日立造船㈱
中小規模プロジェクト枠
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
鋼管コッター工法技術開発チーム
戸田建設㈱
トヨタループス殿向けハンズフリーシ
ステム導入プロジェクトチーム
㈱大林組、
トヨタ自動車㈱、
トヨタループス㈱、立山科学工業㈱
三輪 明広/戸田建設㈱
技術研究所 主管/ 8 名
長舟 利雄/㈱大林組
本社技術本部 エンジニアリング本部
情報エンジニアリング部 情報技術第一課
課長/ 10 名
個人表彰
エンジニアリング振興
氏 名
中島 博志
1950 年
(昭和 25 年)生まれ
現 職
鹿島建設㈱
エンジニアリング本部 施設計画グループ
[ 第3回 エンジニアリング奨励特別賞 ]
代表者 / 現職 / 構成員数
米澤 要/㈱サンコーシヤ
雷保護技術トータルシステム開発チ
技術開発部課長/
ーム
内田 元/大成建設㈱
㈱サンコーシヤ、大成建設㈱
設計本部 設備グループ/ 10 名
20
名 称
中央幹線建設プロジェクトチーム
中根 宏行/東京ガス㈱
東京ガス㈱、鹿島建設㈱、清水建設㈱、 防災・供給部 幹線グループ マネージャー
㈱大林組、大成建設㈱、日鉄パイプライン㈱ / 100 名
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
三次元レーザスキャナを用いた設計・
佐藤 康弘/大成建設㈱
施工支援システム開発チーム
技術センター 建築技術開発部/ 3 名
大成建設㈱
スーパーアクティブ制震
「ラピュタ2D」研究開発チーム
㈱大林組
勝俣 英雄/㈱大林組
技術本部 技術研究所 構造技術研究部
部長/ 7 名
Column
コラム
シンガポール・スカイパークプロジェクト
JFEエンジニアリング(株)
海外事業本部 鋼構造部 計画グループマネージャー
三輪 恭久
1.
スカイパーク概要
事業者MBS 、建築意匠コンサルタントのAedas、構造設
計コンサルタントのArupと十分に協議を行って進めて
スカイパークは、全長 340m、幅 40mにおよぶ空中庭
園で、
シンガポールの統合リゾート事業者であるマリー
ナベイサンズが運営する施設の中でもひときわ目を引く
新たなランドマークとして、2010 年 6月グランドオープ
ンを迎えた。
JFEエンジニアリング(株)とヨンナム社の共同企業体
いった。
構造的な特色、設計面からの特 徴としては、以下が
挙げられる。
● 張出し部を支えるために、
箱桁内面の上フランジ側
にPCストランドが配置されており、箱桁架設完了
後、
緊張する構造となっている。
は、2008年 4月、スカイパークの構造躯体の建設工事
● 群集、
風荷重による振動を防ぐため、
張出し部の先
を受注、
直ちに詳細設計、架設計画に着手し、2009 年
端部分に、
重量5トンの制振装置が設置されている。
7月から現 地工事を開始して9 ヶ月間という短 期間で
● 鋼材料は、BS EN 10025 Hot rolled products
8,000トンの鋼構造物の架設を完了させた。
of structural steelsによるS355Jを使用した。
●ブ ロックの 接 合 継ぎ 手 部 の 設 計 につ いては、
2.
スカイパークの構造
BS5950のNon-slip in serviceによる摩擦 接合の設
計を行った。
接合部に使用するボルトはトルシアボル
スカイパークは、ホテルタワー間をつなぐ連絡橋 2 連
ト(S10T)
の適合性を確認の上、
日本から調達した。
およびタワー 3上の張り出し部を有する箱桁橋、
タワー
● 沓については、
ドイツのマウラー社を起用し、協同
上の鉄 骨による連 続した鋼 構造 群により構成されて
で 設 計を行った。設 計 基 準 は、BS5400 Part9,
いる。タワー間連絡橋は3主構を対傾構形式の横桁で
1983が適用された。
連結した単純トラス橋が採用されている。
タワー 3上は
●タワー上及びタワー外面を含む隣 接10mの範囲
3主桁形式となっており、そのうち両側の2主桁は鈑桁
は1.5時間の耐火性能が要求されたため、鉄骨部、
から箱桁へ変化して67.7mの張出し部を形成している。
橋梁部について、
それぞれ該当する箇所に耐火被
張出部を支える根元部は、
その桁高さが10mあり、
鋼製
覆を行った。
箱桁橋としては最大級のものである。
3.
設計的特色
本 構造 物は建 築 構造 物であるが、
橋 梁 の 特 性も有 するため、建 築 鉄 骨
構 造の設 計 基 準であるBS5950:2000
St r uc t u r a l u s e of Ste e l work s i n
Buildingsおよび鋼橋の設計基 準であ
るBS5400:1988 Steel, Concrete and
composite bridgesに併用準 拠して 設
計された。構造詳細の設計に際しては、
ENAA Engineering No.128 2011.10
21
▲北側張り出し部大ブロック吊り上げ直前
▲北側張り出し部大ブロック吊り上げ
タワー間連絡橋大ブロック吊り上げ▶
4.
製作および現地据付
鋼構造部材については、地元のヨンナム社にて製作
され現地へ搬入された。
ホテルタワー頭上の鉄骨部については、
タワークレー
5.
安全および環境対策
日常的に200mを超える高所での作業が実施され、
安全面での注意はこれまでにはないレベルで喚起され
た。自身の落下を防止するフルハーネスの着用義務付
ンにて一部材ずつ吊上げ、据付を行った。
タワー 3上の
け、工具類の落下を防ぐランヤードの使用については、
箱桁橋、
タワー間連絡橋 2 連、
タワー 3 北側張出し部は、
最盛期労働者450 名、スタッフ70 名もの大所帯の隅々
タワー基部に隣接する地上部で大ブロック化してから
まで行き渡るよう繰り返し徹底した。
一括で吊上げた。タワー間連絡橋 2 連は各々主桁毎に
すべての作 業について、詳 細な施 工手順書を作成
3ブロック、タワー 3上の箱桁橋は東西主桁毎に2ブロッ
し、施主およびコンサルタントの承認を得るとともに、
ク、タワー 3 北側張出し部は張り出し方向に6ブロック、
マネージャーレベルで 検 討、議 論を尽くし、その 後、
計14の大ブロック、本体総重量4000tを、2009 年10月
スタッフ全員に周知した。特に、危険が想定される作業
1日から12月29日までの約3 ヶ月間に吊上げた。
についてはリスクマネジメント管理を徹底して行った。
この架設はタワー上に設 置したガントリーフレーム
マネージャーは全員、
安全に関してシンガポール労働
に組み込んだストランドジャッキを用いて200mの高さ
省承認のプロジェクトマネージャー認定コースを受講し
に吊上げるヘビーリフト工法にて行われた。吊上げは
合格、スタッフは全員、現場エンジニア認定コースを合
ジャッキのストローク運動のほぼ最大速度である毎時
格した者であった。
さらに、
プロジェクトマネージャーお
15mで行い、約15時間後に200mの目標高さに到達し
よびコンストラクションマネージャーは、
同上のリスクマ
た。
吊上げ後、
横引ジャッキを用いて、
所定の位置まで引
ネジメント認定コースも受講、
合格とした。
き込み、
さらに、
ストランドジャッキの油圧開放によるブ
シンガポールでは特に、
デング熱に直結する水溜りの
ロックの降下にて、
橋脚上の最終位置に据付を行った。
放置による蚊の発生を撲滅することに、国を挙げて取
本工事の詳細施 工計画の策定およびその実施は、
以下の理由から煩雑で困難を極めた。
り組んでおり、現場では、雨後の点検および水溜りの除
去、
部材の水抜きなどを徹底する必要があった。
スカイパークが曲線構造であること、3 棟のタワーが
平行配置ではないこと、
さらにはタワー上部とタワー基
6.
おわりに
部の形状が異なることなどから、14分割した大ブロッ
クそれぞれの重量、形 状が大きく変化するものであっ
本工事において特筆すべきことは、
このような難工事
た。
この課題解決のためには、
当社がこれまで蓄積して
を100万時間重大災害ゼロにて完遂したことである。外
きた個々の要素技術を集大成させる必要があった。大
国人労働者、地元企業のスタッフ、
ローカル採用のエン
型の箱桁橋の詳細設計・製作の実績、200mを超える
ジニア、そしてわれわれ日本人が言葉や文化の壁を越
高所での作業経験、
ストランドジャッキやケーブル技術
えて、一丸となって工事に立ち向かった結果である。最
への精通、さらには、吊橋や斜張橋に代表される大ブ
後に、
シンガポール鋼構造協会から、Structural Steel
ロック直下吊り架設に関する豊富な知見と遂行能力な
Design Awards 2010を受賞したことを付記する。
ど、
これら総合力を駆使して難問解決に挑戦した。
22
ENAA Engineering No.128 2011.10
ENAAレポート
ENAA Report 1
Report.1
『エンジニアリング体験セミナー 2011』
を実施して
昨年度に引き続き本年も9月10日〜 12日の3日間に
わたり26名の学生の参加を得て『エンジニアリング体験
セミナー 2011』
を実施した。
●第2日目は「LEGOでエンジニアリングにトライ!」と
題して:ビジネス演習の実施
ジェット機のLEGOを使いプロジェクトの立ち上げから
このセミナーは多くの学生の皆さんにエンジニアリン
完成(完了)
までを疑似体験できるカリキュラムで限られ
グ産業の特徴と魅力を紹介し、
プロジェクトマネジメント
た時間内でチームを結集し、
プロジェクトを如何に成功
とは何か等の研修、
エンジニア産業に興味を持ってもらう
させていくか。
第1日目と違うグループ編成とし自己紹介か
ためのキャリア支援を目的としたものであり、
下記テーマ
ら始める。
このグループ紹介も今までと違った方法で場を
にそって実施した。
和ませる。
その後グループ会議、
プロジェクト計画プレゼ
ン、
プロジェクト活動と損益計算まで全員参加で実施し
●第1日目は「エンジニアリングを知ろう」
と題して:エン
た。
納期が迫るなか学生たちはもとより、
関係者一同がハ
ジニアリング産業基礎知識の講義を実施
ラハラ・ドキドキのビジネス(LEGO)
演習だった。
大規模なプロジェクトの仕事や働き方、
そして経験を
積み重ねて成長していくためのキャリア開発のイメージな
どを講師の話とパワーポイントを使用して説明した。
産学
人材交流センター企画調査部会長の挨拶に続きオリエ
ンテーション、
そして越島委員のアイスブレーク(自己紹
介・造形ゲーム)
へと続く。
今回の自己紹介ではグループ名
を何かに例えて
(からだ・桃太郎・カレーライスなど)
今まで
と違った紹介方法で参加者の固さがとれ和やかな雰囲
気で講義を進めることが出来た。
また、
アムティ・コモンの
野村講師からは世界のニュースを題材(チリ落盤事故)
に
したグループワークを行った。
第2日目「LEGOでエンジニアリングにトライ!」
その1
第2日目「LEGOでエンジニアリングにトライ!」
その2
第1日目「エンジニアリングを知ろう」
ENAA Engineering No.128 2011.10
23
ENAAレポート
●第3日目は「エンジニアリングを見よう!」
と題して:エネ
アンケート調査について
ルギー施設の見学
最後に学生達からのアンケート調査
(一部)を紹介する。
世界中でプラントを作っているエンジニアリング企業
社員の体験談を聞くことや日本のエネルギーを支えてい
第1日目
るガスや電力のプラント施設の見学をすることによってエ
全体に関して殆ど全員に近く「期待以上・満足した」
の回
答が得られている。
また造形ゲームも「非常に良かった・良
かった」
がほぼ全員である。
特に新しい自己紹介方法が面白
かった。
造形ゲームでコミュニケーションの取り方について
考えることができた。
との意見が多かった。
ンジニアリング業界の社会貢献とその魅力を知ってもら
うことを目的としたものである。
JR川崎駅で集合し、
バスで千代田化工建設㈱本社へ
向い、
長濱氏よりカタールでの貴重なプロジェクト体験談
を聞き、
学生たちはエンジニアリング業界・プロジェクトに
ついて非常に興味を持ったようである。
昼食ののち、
再度
バスで移動し、
東京ガス㈱(根岸工場)
へ向かった。
根岸
工場では日本で最初にLNGを受け入れたことや、
ガスは
当初照明として利用されていたが時代と共にエネルギー
として利用されるようになったことや、
東京ガスは首都圏
(東京・神奈川・千葉・埼玉等)
の都市ガスを供給しているこ
第 2日目
全体に関して全員が「期待以上・満足している」
であった。
時間的に厳しいとの条件もあったがもう少し工夫すれば良
かった。
具体的なプロジェクト計画、
原材料費、
設計費の算
出は面白かったし、
リアルな体験が出来たとの意見も多かっ
た。
反面、
計画と実績をみて、
自分達の見積もりの不確かさ
を理解したことや大雑把に計画を立てすぎた気がするの
で、
もっと細かく計画を立てるべきだったとの反省もあった。
となどを知ることができた。
東京ガスを後にして隣の電源
開発㈱(磯子火力発電所)
へバス移動。
火力発電では普
段は見ることのできない施設の中心部・最先端の技術を
第 3日目
体験学習した。
想像していたより騒音も少なく作業環境
全体に「期待以上・良かった」
が多数占めている。
千代田化工建設:長濱さんの実体験でのお話しが聞けて
非常に興味深く良かった。
普段のセミナーでは聞けないこと
が聞けて良かった等々の意見が多数であった。
東京ガス:実際に施設を回ることができて有意義だった。
ただ、LNGを使った実験は本格的なものをやって欲しかっ
たという意見もあったが、LNGやシステムについても良くわ
かったようだ。
電源開発:普段入ることができないような発電機やボイラ
の並ぶ施設の中に入ることができ、
貴重な体験ができた。
実
験で用いたミニチュアのモデルがわかり易くて良かった。
も悪くなく少ない人員で管理されているのには驚いた。
大
規模プロジェクトを進めることのスケールのデカサに驚
き、
益々エンジニアリング産業・プロジェクトマネジメント
に興味が湧いてきている様子だった。
全 体
第3日目「エンジニアリングを見よう!」
その1
今回のセミナーに参加した学生はエンジニアリング業界
に非常に興味をもっており、
セミナー全体に関しての感想も
期待以上・満足しているが全体の92%を超えている。
☆現時点で学生達の興味のある業界、
職種 のほとんど
が「エンジニアリング業界」
または「それに関係する業種」
であり、
このセミナーを後輩たちに紹介したいと言っていた。
第3日目「エンジニアリングを見よう!」
その2
24
ENAA Engineering No.128 2011.10
この学生たちが以前よりましてエンジニアリング業界に興
味を増したことは有意義であったと思う。
また、
学生同士の
親睦とこのセミナーの企画・運営のために土日惜しまず参
加していただいた各社からの委員との交流を深めるため、
3日間に亘り毎日交流会をしたことでエンジニアリング業界
を身近に感じとってもらえたことは大きな成果である。
(文責:産学人材開発部)
集合写真
ENAA Report 2
Report.2
第36回 中東協力現地会議に
久保田理事長がパネリストとして参加
経済産業省及び財団法人中東協力センターが主催す
る「第36回中東協力現地会議」が、8月25日、26日両
日にかけて、
トルコ共和国イスタンブールで開かれました。
アリング協会関係者では、
日揮の川名社長、TECの永田
会長など、
産官学から多数の方々が参加されました。
こうした中で、
当協会の久保田隆理事長が、
中東地域
この会議は、
中東・北アフリカ諸国及びその関連地域
で活躍する日系企業の代表として、
本会議の最後を飾る
に駐在されている方々と、
日本から参加する産官学の関
パネルディスカッション(
「変貌する中東・北アフリカ情勢
係者が300名ほど一堂に会し、
その時々の政治・経済・社
と日本のビジネス/産業協力」
)
に参加され、
「エンジニアリ
会情勢を踏まえ、
我が国と中東地域の協力関係やそれを
ングを通じての中東への協力」
との演題で、
エンジニアリ
具現化するためのアプローチを議論するものです。
ング産業の必要性とこれまでの中東における日本のエン
この会議には、
奥田碩中東協力センター会長(日本経
ジニアリング企業の貢献や中東マーケットの重要性に付
済団体連合会元会長)
をはじめ、
中東・北アフリカ諸国の5
きお話しされるとともに、
当協会の活動状況についても
人の大使、
経産省の佐々木通商政策局長、
外務省松冨中
説明されました。
更に、
エンジニアリング業界関係者を代
東局長などの政府高官、JETRO林理事長など中東に関
表し、
政府関係機関(特に、
国際協力銀行や日本貿易保
係する政府関係機関、
団体の幹部の方々、
講演者として、
寺
険)
に対して、
現地通貨建て融資の拡大、
迅速な融資の
島実朗様、
東大山内教授、
宮家立命館大学教授、
エンジニ
実行などを要望されました。
久保田理事長(左)
と前野専務理事
講演する久保田理事長
ENAA Engineering No.128 2011.10
25
ENAAレポート
ENAA Report 3
Report.3
「平成23年度エンジニアリング産業の実態と動向(白書)
」
まとまる
野村 敏
当協会白書部会長
(千代田化工建設㈱営業部門付 特任参与)
千億円(同9.2%増)
、
専業大手は9千億円弱(同21%
去る9月15日に「平成23年度エンジニアリング産業の
減)
でした。
(
[図ー 2]
参照)
実態と動向」
(以下白書)
が刊行されました。
これはエンジ
ニアリング協会の調査研究活動の一つとして毎年、
財団
本部賛助会員企業を対象にアンケート調査を実施して
●プラント・施設別受注高では1位(構成比率28%)
の
回答結果をエンジニアリングビジネスに関する業務統計
電力・プラントシステムが2兆3千億円で、
特に海外は前
(エンジニアリング産業白書)
としてまとめたもので、
当協
年度比36.2%増と好調で国内・海外合計で同12.6%
会の前身であるエンジニアリング振興協会(エン振協)
の
増でした。
他方、2位(構成比率20%)
の都市・地域開
創立から4年目の1982年12月に創刊されて以来、
毎年刊
発システムは海外で前年度比55%増と伸びたものの、
行され、
本年度は丁度30回目に当ります。
受注高の95%を占める国内が8.5%減で、
国内・海外
合計は前年度比6.4%減と1兆7千億円を下回り、
続く
化学プラントは国内26.9%減、
海外29.1%減、
全体で
平成22年度は、
世界経済が欧州での財政危機や中
28.3%減と1兆2千億円を下回り、
振るいませんでした。
東・アフリカでの政情不安の中で先行き不透明感を増す
中で、
日本国内はデフレの持続や円高、
厳しい雇用情勢
の下、
内需の低迷に加えて東日本大震災、
それに伴う原
●今後の受注見通しとして会員企業による見通しを集
発事故の影響等による影響が懸念されるという状況に
計した結果によれば、2011年度受注を2010年度比
ありました。
で国内6.9%増、海外は同55.7%増と見込んでおり、
2012年度以降の3年間で同じく2010年度比で国内
17.2%増、
海外は約倍増と、
特に海外について強気の
●そうした環 境の中で今回の白書は、賛 助 会員企業
見通しになっています。
59社から寄せられたアンケート回答を集計・分析した
ものですが、平成22年度のエンジニア
リング産業全体の業績は、
受注総額で
同一企業対前年度比 (%)
-14.0
-5.6
+9.1
+9.4
+6.9
-2.2
+1.8
-13.1
-12.8
-5.2
8兆4,000億 円、国 内6兆3,000億 円、
海外2兆1,000億円で、
前年度比較では
受注高推移
(兆円)
国内が5.7%、
海外が3.9%と何れも減少
14.0
し、
全体では5.2%の減少で[図ー 1]
に
12.0
示す通り、2007年度のピークから3年
10.0
連続の減少となりました。
海外受注
国内受注
2.7
2.0
2.2
3.5
3.0
3.5
2.8
2.6
8.0
2.2
2.1
6.0
●業種別受注動向は、構成比率29%で1
4.0
位の総合建設が国内、
海外合わせて2兆
2.0
4千億円(前年度比8.6%減)
、
造船重機
0.0
は1兆6千億円(同1.6%減)
、
重電は1兆3
8.6
2001
8.0
2002
7.9
2003
9.0
2004
8.9
2005
9.1
2006
8.9
2007
7.7
2008
6.6
6.3
2009
2010
図ー 1 全体受注高推移(国内・海外)/同一企業対前年度増減比率
26
ENAA Engineering No.128 2011.10
年度
兆円
14
12
①
10
②
8
③
6
4
2
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
④
⑤
⑥
⑦
⑧
専業大手
専業中堅
総合建設
鉄鋼
造船重機
産業機械
重電
通信情報
0
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
2010年度
図ー 2 エンジニアリング業務受注高推移(業種別)
詳細につきましては白書をご覧いただければと思いま
めて厳しくなることから統計データと直接リンクしない部
す。尚、
白書概要につきましては、
当協会のホームページに
分は思い切って構成から外すことにしました。
又、
同時に
「白書(要約版)
」
が掲載されておりますので是非ご参照く
従来の印刷・製本の形から電子媒体とすることで作業効
ださい。
率を上げると共に、
グラフなどカラー表示を多用すること
で、
より見やすく、
且つ、
利用者にとってデータ活用の利便
白書を以前からご利用されている方はお気づきかと思
性を高めることも考慮しました。
さらに、
来年度からアン
いますが、
今回の白書は従来の白書と以下の点で異なっ
ケート集計システムを一新して、
従来よりも柔軟に対応で
ています。
きる仕組みとする予定です。
引き続き、
皆さまからの忌憚
1.従来は9月の「白書速報」
、12月の「白書本編」
と2回
に分けて報告していたが、
本年度より9月報告に一本化
のないご意見、
ご要望を頂いて、
より良い白書を目指した
いと考えております。
2.構成を変更し、
これまで本編の第4章にあった「世界
のエンジニアリング産業」
と第5章に掲載していた「特
別テーマ」
は必要に応じて別建てとし、
白書からは割愛
今回の白書から作成スケジュールが実質的に3カ月前
3.発行形態を従 来の印刷・製本の形から電子媒体
倒しになり、
執筆担当した白書部会委員には夏休みを返
(CD-ROM)
に変更
上して作業に当られた方もおられました。
9月の白書刊行を決定した際に、
委員全員が最も心配
エン振協がエンジニアリング協会に移行するのを機
したのは、
この厳しいスケジュールでのアンケート調査に
会に、
白書についてもより望ましい業務統計とするため、
対して会員企業からタイムリーに十分な回答が集まるだ
昨年10月以来、
ワーキンググループを設置して検討を行っ
ろうかという点にありました。
データが揃わなければ、
作
てきました。
今回の白書はそのワーキンググループの提言
業に着手できないからです。
しかし、
事務局の尽力と会員
を反映し編集されたものです。
白書は毎年、
同年3月末の
企業各社のご協力により、
従来よりも早い締め切りにも
会員企業の業績等の実態調査に基づく統計分析であり、
拘わらず、
多くの企業から回答をお寄せ頂き、
予定通り白
アンケート調査の実施は各社の決算報告がまとまる6月
書を刊行できました。
各業種を代表する形でワーキンググ
以降にならざるを得ません。
従来2回に分けて報告を行っ
ループに参加して提言をまとめられた方々、
各企業でアン
てきましたが、
業務統計として速報性を重視すれば12月
ケートへの回答作業に携わられた方々、
白書執筆で協力
の本編発行では遅いとの観点から、
今年度より本編相当
頂いた白書部会メンバー並びに協会の役員、
事務局の皆
を9月に刊行することとしました。 作業スケジュールが極
さまのご尽力に対し、
末筆ながら厚く御礼申し上げます。
ENAA Engineering No.128 2011.10
27
Pastorale
海洋写真家
中村 庸夫
パストラーレ
なかむら つねお
Marine Photographer : Tsuneo Nakamura
『長崎・女神大橋』
長崎港生まれの豪華客船のクリスタル・ハーモニーから改名された飛鳥Ⅱなど大型客船も桁下の高い女神大橋をくぐって出入港している。
橋は隔てられた陸地を結び、陸上交通の便を大幅に改
善する。しかし、水面を越える橋の場合、桁下高さによって
さて、長崎の港口に架かる女神大橋は 2005 年に完成
は、大型船舶が通行できなくなる、というジレンマがある。
した斜張橋で、延長 1,289m(斜張橋部 880m+ 取付高
港を母港としている練習帆船の日本丸や海王丸のマスト
ている。桁下高さは、長崎港を利用する対象最大船舶の
東京港のレインボーブリッジは桁下高さ 52m で、東京
架橋部 409m)で、スパン 480m、桁下高さ 65m となっ
最高部の海面からの高さは 50m であるが、ゆとりが少な
マスト高 62m に、余裕高 2m とさらに、長崎港で起きる
いるそうだ。
時の海面から 65m を確保している。そのため、港内にあ
いため波が高い時や、潮が上げている時の通過は控えて
レインボーブリッジは桁下高さを 1m 高くするのに橋の
独特な「アビキ」現象を考慮して 1m を加え、最高満潮
る造船所における大型船の建造や、世界最大級の客船
「大型船客
工事費が 1 億円ずつ高くなる、とされたため、
の入港なども現時点では可能とされている。
断念した経緯があるそうだ。
上下振動(副振動)する独特な現象で、長崎湾で多く発生
船は横浜港に入ってもらえば良い」、と高さを上げる事を
QE2(クイーン・エリザベス 2 世)はレーダーマストの
高さが 52m で、東京港はダメでも、横浜ベイブリッジの
桁 下 56m はくぐれたため入 港した。しかし、更に大 型
の QM2(クイーン・メリー 2 世、150,000ton)は高さが
63m あり、橋をくぐれないため、橋の外側の大黒ふ頭の
コンテナバースに接岸し、乗客は大変不便な思いをした。
現在計画中の、阪神高速 5 号湾岸線が通過する神戸
港入り口の橋も、桁下 59m で、QM2 やフリーダム・オブ・
ザ・シーズ(160,000ton)などの超大型客船は通過でき
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ないため、国際的な港・神戸として問題視されている。
ENAA Engineering No.128 2011.10
さて、
「アビキ」とは、気圧の急変が原因とされる、海面が
する。30 ~ 40 分周期で海面が上下に振動し、それによっ
てできる水流により、海岸や河口付近の低地での浸水や停
泊していた船舶が流出する等の被害が発生するそうだ。
女神大橋の名前の由来は、神功皇后が朝鮮出兵され
た際、船上から深江浦(現在の長崎港)の風景をご覧に
なり、浦の入り口の東西に浮かぶ小島を、陰陽に例えら
れ、東側の島を陰神島(めかみしま)つまり女神島、西側
の島を陽神島(おがみしま)つまり男神島と命名され、
その女神という美しい名前が用いられたもの。
専務理事および常務理事の紹介
去る6月29日に開催の「平成 23 年度第 2 回(定時)評議員会」において選任された理事(17 名)のうちから
理事長(代表理事)には、久保田隆氏(千代田化工建設(株)代表取締役社長)が選任され、専務理事には
前野陽一氏、常務理事には宮川秀眞氏が選任されました。
(平成 23 年度 第 3 回(臨時)理事会にて選任)
久保田理事長は、本誌 3 頁に理事長就任の挨拶を掲載(経歴は 11 頁を参照)しましたので、ここでは前野
専務理事、宮川常務理事の紹介をします。
専務理事(新任)
前野 陽一(まえの よういち)
1955 年生まれ。
1979 年東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。
日本貿易振興会デュッセルドルフ・センター所長、同省商務情報政策局流通政策課長、関東経済
産業局総務企画部長、内閣官房内閣審議官等を歴任され、2009 年退官。
(株)日本政策金融
公庫特別参与を経て、2011 年 6月当協会専務理事に就任され、現在に至る。
常務理事(再任)
宮川 秀眞(みやかわ ほつま)
1946 年生まれ
1969 年京都大学理学部数学科卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。
同省工業技術院計画課長、石油公団備蓄計画部長、中国通商産業局長等を歴任され、1996 年
退官。超音速輸送機システム研究の専務理事、
(財)日本情報処理開発協会の常務理事を経て、
2004 年 7月当協会常務理事に就任され、現在に至る。
編集後記
ENAA Engineering 2011
No.128
【広報部会「広報誌編集分科会」】
今回は「【不確かな時代】のエンジニアリング産業への期待」をコアテーマに企
画を組みました。人類は、いつの時代にあっても「不確かさ」を相手に、知恵を絞り
それを乗り越えてきました。従って、特段テーマになるような話ではないはずが、ここ
僅かの間に、情報通信手段や物流の多様化、スピード化を背景に世の中の仕組
みが一層複雑化し、一筋縄では「不確かさ」を制御できない時代に至っているかと
思われます。
ただ明白なのは、いかなる「不確かさ」に囲まれていても、人類には、自らを律す
る共通の社会制度や規範や、ロバスト(強靱)な社会インフラを作り上げ、持続可
能性を担保できる社会を確かに構築することが課せられています。このような状況
下、ものとサービスを融合し、新たな価値創造を担うエンジニアリングの役割がます
ます重要になってくることは自明の理です。今回の記事にある数々の貴重なご意見
や実績が、エンジニアリングに対する社会的認知の深化や、エンジニアリング協会
と業界の発展に大いに役立てればと考えます。
(岸本 健夫)
分 科 会 長 : 岸本 健夫 (千代田化工建設)
員 : 浅川 時生 (IHI)
委
坂田 文彦 (荏原製作所)
栗原 昌司 (大林組)
斎藤 俊哉 (鹿島建設)
広常 雅也 (JFEエンジニアリング)
古賀 敏博 (石油資源開発)
大久保 澄 (大成建設)
川腰 浩文 (東洋エンジニアリング)
笠原 文東 (日揮)
河野 浩一 (三菱重工業)
事
発
務
局 : 小倉 三枝子
行 : 一般財団法人エンジニアリング協会
〒105-0003
東京都港区西新橋一丁目4番6号
TEL. 03-3502-4441 FAX. 03-3502-5500
http://www.enaa.or.jp/
制
作 : 東洋美術印刷株式会社
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一般財団法人
エンジニアリング協会
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