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保険金支払いデータを基にした犬種別疾患統計の記述的分析*
一般口演 11 島 村 麻 子 1) 蜂 谷 秋 津 2) 井 上 舞 1) 金 子 真 未 2) 長谷川 篤 彦 3) Asako SHIMAMURA Akitsu HACHIYA Mai INOUE Masami KANEKO Atsuhiko HASEGAWA ペット保険の運営によって蓄積された保険金支払いデータをもとに犬種別疾患 統計の記述的分析を行った。皮膚疾患、耳の疾患、眼の疾患のいずれにおいても フレンチ・ブルドック、パグ、シー・ズー、キャバリア・キング・チャールズ・ スパニエルの罹患率が他の犬種に比べて高い、など疾患と犬種の罹患率の組み合 わせに特徴がみられた。これらの特徴には、解剖学的、発生学的、系統的要因が 関連しているものがあると思われた。これらの情報は、より効果的な対策を確立 し、繁殖関係者および飼育者を啓発する際の一助となると考えられる。 キーワード:疾患統計、犬種、ペット保険 は じ め に 家庭動物の疾患は、その環境要因にも遺伝要因 にも人為的要素が高く、予防医療が貢献しうる可 能性が高い。犬における疾患への罹患に関する環 境要因には、気候や季節といった自然環境、ブリー ダー犬舎、オークション、ペットショップ、家庭、 移動空間といった飼育管理環境、および、その個 体を取り巻く人間の関わり方といった社会文化的 環境が挙げられる。遺伝要因には、個体が親の世 代から引き継いだゲノム情報に基づき、必ず発現 するものと、何らかの環境要因がスイッチとなっ て発現するものとがある。これらが多因的に発現 した結果、体形、体格、毛色、性格などが表現型 として現れる。犬においてはこれら表現型の差を 育種過程で選抜・維持することにより、様々な犬 種が作出されてきた。世界最古の犬種管理団体で あ る イ ギ リ ス の ザ・ ケ ネ ル ク ラ ブ(The Kennel Club)に は、1873 年 設 立 か ら 130 余 年 が 経 過 し、 現在 210 犬種が登録管理されている。さらに世界 中には在来種まで含めると 700 ∼ 800 もの犬種が あると推定されている。 そこで、本研究では犬の健康保険制度により蓄 積されたデータを犬種別、疾患別に記述的分析に 供し、前述の観点に基づき各疾患における、犬種 間の罹患率の違いについて評価した。これにより 特定の犬種を好む繁殖者および飼育者に疾患予防 の効果的な啓発を行うことが可能になることが期 待される。 材料および方法 アニコムが運営する「どうぶつ健保」に契約され ている犬のうち、2004 年 4 月 1 日から 2008 年 3 月 31 日までに契約を開始された犬 684,211 頭分の保 険金支払いデータを抽出した。契約満了または死 亡解約となった各個体の1年ごとの契約について、 その契約が開始した年齢ごとに1契約=1頭とみ なしている。このうち分析の対象とする犬種、お よび頭数は、12,000 頭以上のデータのある上位 16 犬種と混血種の計 17 種、580,344 頭とした。なお、 この分析対象の犬種の分布は、社団法人ジャパン ケネルクラブと日本犬保存会が発表したデータと 比較した場合、ほぼ一致する。 続いて、保険金請求理由を 21 に分類し(表1)、 そのうち「症状」、 「予防措置」、 「その他」の3分類以 外の 18 疾患について、犬種ごとに罹患率(=当該 疾患を理由に保険金請求があった頭数/頭数全体) Statistical analysis based on companion animal insurance claim data アニコム ホールディングス株式会社:〒 161-8546 東京都新宿区下落合 1-5-22 アリミノビル 4 階 2) アニコム損害保険株式会社:〒 161-8546 東京都新宿区下落合 1-5-22 アリミノビル 2 階 3) アニコム パフェ株式会社:〒 161-8546 東京都新宿区下落合 1-5-22 アリミノビル 4 階 * 1) 第 31 回動物臨床医学会 (2010) 1 一般口演 保険金支払いデータを基にした犬種別疾患統計の記述的分析* 一般口演 11 一般口演 表 1 疾患名一覧 1. 循環器疾患 2. 呼吸器疾患 3. 消化器疾患 4. 肝・胆道・膵疾患 5. 泌尿器疾患 6. 生殖器疾患 7. 神経疾患 8. 眼の疾患 9. 耳の疾患 10. 歯・口腔疾患 11. 筋骨格系疾患 12. 皮膚疾患 13. 血液・免疫疾患 14. 内分泌疾患 15. 感染症 16. 寄生虫症 17. 損傷 18. 腫瘍疾患 19. 症状 20. 予防措置 21. その他 を算出し、比較した。なお、同一請求データ上で 複数の疾患名が挙がっている場合は、主傷病名の みを採用している。また、本研究の罹患率の算出 にあたっては、年齢毎の契約頭数のばらつきによ る影響を調整するため、各年齢群(0、1、2、…、 10 歳)がそれぞれ 10,000 頭になるように計算上の 補正を行った。 シュナウザーも皮膚疾患の罹患率が高くそれぞれ 28.0 %、25.1 %であったが、これら 2 犬種の耳の 疾患の罹患率は、犬全体の罹患率を下回る 12.3%、 13.7 %であった。眼の疾患で高い罹患率を示す犬 種は皮膚疾患および耳の疾患とほぼ同様で、フレ ンチ・ブルドック 15.6%、パグ 18.4%、シー・ズー 23.2 %、キャバリア・キング・チャールズ・スパ ニエル 16.2%であったが、ゴールデン・レトリバー では 5.8%と犬全体の罹患率を大きく下回った。 犬全体の罹患率に比べて、2 倍以上高い罹患率を 示す疾患と犬種の組み合わせは、キャバリア・キ ング・チャールズ・スパニエルの循環器疾患(4.5 倍)、ポメラニアンの呼吸器疾患(2.6 倍)および循 環器疾患(2.2 倍) 、フレンチ・ブルドックの感染症 (2.5 倍)および皮膚疾患(2.0 倍)、シー・ズーの眼 の疾患(2.5 倍) 、パグの呼吸器疾患(2.1 倍)と泌尿 器疾患(2.1 倍)および眼の疾患(2.0 倍)であった。 犬全体の罹患率で 3 %以下と低い値を示したの は、呼吸器疾患、肝・胆道疾患、生殖器系疾患、 神経疾患、歯・口腔疾患、血液・免疫疾患、内分 泌疾患、感染症、寄生虫症の9疾患であった。 犬全体の罹患率で比較的同じ値を示す消化器疾 患と耳の疾患において、罹患率の犬種間の差がど れだけあるかを比較してみると、消化器疾患では 1番高いヨークシャー・テリアの罹患率が 16.2%、 1番低い柴犬の罹患率が 8.7%で、その差は 7.5%、 耳の疾患では1番高いパグの罹患率が 27.1 %、1 番低いパピヨンの罹患率 6.8%で、その差は 20.3% となり、耳の疾患の方が罹患率の犬種間の差は大 きかった。 結 果 考 察 各疾患の罹患率について、罹患率が高い犬種順 犬全体において最も罹患率が高い疾患は皮膚疾 患であった。皮膚疾患の罹患率が犬全体よりも高 にならべ、ベンチマークとして各疾患の犬全体の 罹患率を示した(表 2)。 犬全体の罹患率が高い値を示した疾患は、皮膚 疾患 22.1%、耳の疾患 14.6%、消化器疾患 12.7%、 眼の疾患 9.3 %であった。皮膚疾患の罹患率が特 に高い犬種は、フレンチ・ブルドック 44.6 %、パ グ 35.9 %、シー・ズー 32.4 %、ゴールデン・レト リーバー 29.6 %、キャバリア・キング・チャール ズ・スパニエル 24.8%であった。これらの犬種は、 耳の疾患の罹患率も特に高い傾向が見られ、罹患 率はそれぞれフレンチ・ブルドック 22.6 %、パグ 27.1%、シー・ズー 21.2%、ゴールデン・レトリー バー 24.6 %、キャバリア・キング・チャールズ・ スパニエル 21.5 %であった。柴犬、ミニチュア・ 2 第 31 回動物臨床医学会 (2010) い犬種としてフレンチ・ブルドック、パグ、シー・ ズー、ゴールデン・レトリーバー、キャバリア・ キング・チャールズ・スパニエル、柴犬、ミニチュ ア・シュナウザーの 7 犬種が挙げられた。これら7 犬種のうち、フレンチ・ブルドック、パグ、シー・ ズー、ゴールデン・レトリーバー、キャバリア・ キング・チャールズ・スパニエルの5犬種は耳の 疾患も高い罹患率を示したが、柴犬、ミニチュア・ シュナウザーの 2 犬種では耳の疾患の罹患率は低 かった。その背景には、耳の形状といった解剖学 的要因、あるいは何らかの免疫学的要因が考えら れた。また、耳の疾患のほとんどが外耳炎・外耳 道炎であると推測した場合、これらのデータは皮 一般口演 11 1.循環器疾患 2.呼吸器疾患 3.消化器疾患 キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 19.3% ポメラニアン 5.8% ヨークシャー・テリア ポメラニアン マルチーズ チワワ トイ・プードル シー・ズー ヨークシャー・テリア パグ ミニチュア・シュナウザー パピヨン ミニチュア・ダックスフンド ゴールデン・レトリーバー 混血犬 ラブラドール・レトリーバー ウエルシュ・コーギー・ペンブローク フレンチ・ブルドッグ 柴犬 犬全体 9.4% パグ 4.7% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 15.6% 8.3% チワワ 3.4% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 15.3% 7.5% ヨークシャー・テリア 3.3% フレンチ・ブルドッグ 14.6% 5.9% マルチーズ 3.3% トイ・プードル 14.0% 5.7% トイ・プードル 3.2% ミニチュア・シュナウザー 13.4% 5.2% フレンチ・ブルドッグ 2.8% ゴールデン・レトリーバー 13.3% 4.肝・胆道疾患 ミニチュア・シュナウザー マルチーズ ポメラニアン ヨークシャー・テリア チワワ シー・ズー パピヨン トイ・プードル ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 16.2% 4.9% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 2.3% ラブラドール・レトリーバー 13.3% 4.2% ミニチュア・ダックスフンド 2.0% シー・ズー 13.2% 3.8% シー・ズー 1.9% パピヨン 13.2% 3.0% パピヨン 1.8% ミニチュア・ダックスフンド 12.6% 2.5% ラブラドール・レトリーバー 1.7% ポメラニアン 12.5% 2.4% 混血犬 1.7% マルチーズ 11.6% 2.0% ゴールデン・レトリーバー 1.4% チワワ 11.1% 1.3% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 1.4% 混血犬 10.5% 1.1% ミニチュア・シュナウザー 1.3% パグ 9.8% 1.1% 柴犬 1.1% 柴犬 8.7% 4.3% 犬全体 2.2% 犬全体 12.7% 5.泌尿器疾患 6.生殖器系疾患 5.7% パグ 11.8% フレンチ・ブルドッグ 3.1% 4.7% ミニチュア・シュナウザー 10.9% パグ 2.7% 4.2% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 8.6% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 2.4% 3.7% シー・ズー 7.6% ヨークシャー・テリア 2.3% 3.6% フレンチ・ブルドッグ 7.1% ミニチュア・シュナウザー 2.2% 3.5% パピヨン 6.6% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 2.2% 3.4% ラブラドール・レトリーバー 6.3% ポメラニアン 2.1% 3.1% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 5.7% シー・ズー 2.0% 3.0% ヨークシャー・テリア 5.7% チワワ 1.9% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 2.6% ゴールデン・レトリーバー 5.5% ゴールデン・レトリーバー 1.9% 混血犬 パグ ラブラドール・レトリーバー ミニチュア・ダックスフンド フレンチ・ブルドッグ 柴犬 ゴールデン・レトリーバー 犬全体 2.6% 混血犬 4.9% マルチーズ 1.9% 2.3% マルチーズ 4.8% ミニチュア・ダックスフンド 1.7% 2.3% 柴犬 4.5% パピヨン 1.6% 2.2% ミニチュア・ダックスフンド 4.0% ラブラドール・レトリーバー 1.5% 1.6% トイ・プードル 4.0% トイ・プードル 1.4% 1.6% ポメラニアン 3.9% 柴犬 1.3% 1.3% チワワ 3.4% 混血犬 1.2% 3.0% 犬全体 5.8% 犬全体 1.9% 7.神経疾患 フレンチ・ブルドッグ チワワ パグ 8.眼の疾患 9.耳の疾患 3.4% シー・ズー 23.2% パグ 27.1% 3.3% パグ 18.4% ゴールデン・レトリーバー 24.6% 3.1% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 16.2% フレンチ・ブルドッグ 22.6% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 2.8% フレンチ・ブルドッグ 15.6% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 21.5% ミニチュア・ダックスフンド ヨークシャー・テリア ポメラニアン ミニチュア・シュナウザー ウエルシュ・コーギー・ペンブローク トイ・プードル マルチーズ ラブラドール・レトリーバー 混血犬 パピヨン ゴールデン・レトリーバー シー・ズー 柴犬 犬全体 2.6% マルチーズ 10.8% シー・ズー 21.2% 2.5% トイ・プードル 10.5% ラブラドール・レトリーバー 19.5% 2.1% ヨークシャー・テリア 10.5% マルチーズ 18.8% 2.1% チワワ 8.6% トイ・プードル 14.8% 1.6% パピヨン 8.5% ミニチュア・シュナウザー 13.7% 1.5% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 8.2% 柴犬 12.3% 1.5% ミニチュア・シュナウザー 7.5% ヨークシャー・テリア 11.8% 1.4% 混血犬 6.7% 混血犬 11.7% 1.3% ミニチュア・ダックスフンド 6.1% ミニチュア・ダックスフンド 10.2% 1.3% ポメラニアン 6.0% ポメラニアン 8.9% 1.2% ゴールデン・レトリーバー 5.8% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 8.9% 1.1% 柴犬 5.4% チワワ 7.9% 0.7% ラブラドール・レトリーバー 5.0% パピヨン 6.8% 1.9% 犬全体 9.3% 犬全体 14.6% 第 31 回動物臨床医学会 (2010) 3 一般口演 表 2 各疾患における犬種別罹患率 一般口演 11 一般口演 10.歯・口腔疾患 トイ・プードル ミニチュア・ダックスフンド パピヨン ポメラニアン マルチーズ ヨークシャー・テリア 11.筋骨格系疾患 12.皮膚疾患 4.0% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 8.0% フレンチ・ブルドッグ 44.6% 4.0% ミニチュア・ダックスフンド 7.3% パグ 35.9% 3.8% パピヨン 7.2% シー・ズー 32.4% 3.1% フレンチ・ブルドッグ 7.2% ゴールデン・レトリーバー 29.6% 2.9% ラブラドール・レトリーバー 7.1% 柴犬 28.0% 2.9% ポメラニアン 7.0% ミニチュア・シュナウザー 25.1% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 2.4% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 6.8% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 24.8% チワワ ミニチュア・シュナウザー ウエルシュ・コーギー・ペンブローク ラブラドール・レトリーバー 柴犬 混血犬 ゴールデン・レトリーバー パグ シー・ズー フレンチ・ブルドッグ 犬全体 2.4% ヨークシャー・テリア 6.5% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 22.4% 2.2% パグ 6.1% ラブラドール・レトリーバー 22.3% 2.1% チワワ 5.8% 混血犬 20.2% 1.2% マルチーズ 5.7% ヨークシャー・テリア 19.7% 1.2% トイ・プードル 5.6% ミニチュア・ダックスフンド 18.6% 1.1% ゴールデン・レトリーバー 5.4% マルチーズ 18.2% 1.1% 混血犬 3.6% トイ・プードル 15.4% 1.1% ミニチュア・シュナウザー 3.3% パピヨン 14.4% 0.9% 柴犬 3.2% ポメラニアン 14.3% 0.5% シー・ズー 2.8% チワワ 11.5% 2.1% 犬全体 5.8% 犬全体 22.1% 13.血液・免疫疾患 14.内分泌疾患 ミニチュア・シュナウザー ポメラニアン 0.7% ゴールデン・レトリーバー 2.7% フレンチ・ブルドッグ 2.5% 0.6% ミニチュア・シュナウザー 2.4% シー・ズー 1.6% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 0.6% マルチーズ 2.4% パグ 1.4% マルチーズ シー・ズー ゴールデン・レトリーバー ミニチュア・ダックスフンド ヨークシャー・テリア ラブラドール・レトリーバー ウエルシュ・コーギー・ペンブローク パグ 混血犬 トイ・プードル パピヨン フレンチ・ブルドッグ チワワ 柴犬 犬全体 0.6% ポメラニアン 2.0% ラブラドール・レトリーバー 1.3% 0.5% パグ 1.9% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 1.3% 0.4% ラブラドール・レトリーバー 1.5% ゴールデン・レトリーバー 1.3% 0.4% 混血犬 1.5% トイ・プードル 1.0% 0.3% トイ・プードル 1.5% 混血犬 1.0% 0.3% シー・ズー 1.4% ポメラニアン 1.0% 0.3% ヨークシャー・テリア 1.4% パピヨン 0.9% 0.3% フレンチ・ブルドッグ 1.3% ミニチュア・ダックスフンド 0.8% 16.寄生虫症 フレンチ・ブルドッグ シー・ズー パグ ゴールデン・レトリーバー 柴犬 ラブラドール・レトリーバー ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 15.感染症 0.2% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 1.2% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 0.8% 0.2% チワワ 1.2% ヨークシャー・テリア 0.8% 0.1% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 1.1% マルチーズ 0.8% 0.1% 柴犬 1.0% 柴犬 0.8% 0.1% パピヨン 0.9% ミニチュア・シュナウザー 0.7% 0.1% ミニチュア・ダックスフンド 0.9% チワワ 0.7% 0.4% 犬全体 1.6% 犬全体 1.0% 17.損傷 18.腫瘍疾患 2.1% フレンチ・ブルドッグ 6.7% ゴールデン・レトリーバー 12.5% 1.8% ラブラドール・レトリーバー 5.1% ラブラドール・レトリーバー 8.5% 1.7% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 4.9% ミニチュア・シュナウザー 7.7% 1.3% ゴールデン・レトリーバー 4.8% パグ 7.4% 1.2% 柴犬 4.4% フレンチ・ブルドッグ 6.9% 1.2% 混血犬 4.2% シー・ズー 6.8% 1.2% ミニチュア・ダックスフンド 3.9% ウエルシュ・コーギー・ペンブローク 6.5% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 1.0% ミニチュア・シュナウザー 3.9% ヨークシャー・テリア 4.9% 混血犬 パピヨン ヨークシャー・テリア マルチーズ ポメラニアン トイ・プードル ミニチュア・シュナウザー チワワ ミニチュア・ダックスフンド 犬全体 1.0% シー・ズー 3.8% ミニチュア・ダックスフンド 4.9% 1.0% パグ 3.8% トイ・プードル 4.7% 0.9% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 3.5% 混血犬 4.6% 0.9% ヨークシャー・テリア 3.5% マルチーズ 4.2% 0.9% マルチーズ 3.4% キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 3.7% 0.8% ポメラニアン 3.1% 柴犬 3.1% 0.7% パピヨン 3.1% ポメラニアン 2.8% 0.6% トイ・プードル 2.9% チワワ 2.8% 0.6% チワワ 2.8% パピヨン 2.4% 1.1% 犬全体 4.0% 犬全体 6.3% 4 第 31 回動物臨床医学会 (2010) 一般口演 11 評価することが重要と考えられる。 犬全体としての罹患率が同等の疾患であって も、犬種間で差があるもの(耳の疾患の罹患率差 20.3 %)と、差が小さいもの(消化器疾患の罹患率 差 7.5 %)が認められた。前述のように犬種によっ て解剖学的に大きな差がある耳と、大きさに差が その理由としては、これら 4 犬種の眼が大きく突出 あったとしても解剖学的には差がほとんどないで しているなどの解剖学的要因に加えて、皮膚、耳、 眼が外胚葉由来で発生学的に近いことも要因であ あろう消化器との差というように解剖学的差とも 考えられる。 る可能性が考えられた。また、これら 4 犬種は、人 間社会において使役目的性が低くスポーツもほと また、犬全体の罹患率に比べて 2 倍以上高い罹患 率を示す疾患として、キャバリア・キング・チャー んど行われず、いわゆる愛玩用として系統進化さ せてきた経緯があり、他の犬種よりも視覚維持に ルズ・スパニエル(循環器)、ポメラニアン(呼吸 器および循環器)、フレンチ・ブルドック(感染症 対する関心が薄かった可能性がある。逆に、ゴー ルデン・レトリーバーは、中頭種であるという解 および皮膚)、シー・ズー(眼)、パグ(呼吸器、泌 尿器および眼)が挙げられた。特に、循環器疾患は 剖学的要因もあるだろうが、ガンドッグとして視 覚異常をはじめとする眼の疾患を持つ系統が淘汰 キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルだ けが顕著に罹患率が高いという特徴があった。さ されてきたという可能性が示唆された。 一方で、犬全体の罹患率が 3%以下と低い値を示 した 9 疾患に関してはその理由として、疾患その らなる統計学的分析をすすめることによって犬種 差と疾患の特徴が明確になれば、その疾患の環境 要因および遺伝要因の追求ができ、予防につなが ものの罹患率とは別に、確定診断に至るまでに要 する期間、疾患の分類方法や定義が十分に統一さ れていないことなどの理由により罹患状況が実例 よりも少なく計上されている疾患である可能性が 考えられた。今後共通言語としての疾患統計を確 立するために、疾患の分類方法や定義等について、 ると思われる。 これらのデータを繁殖時における当該疾患の遺 伝的要因を減らす対策と、当該犬種に特化した啓 発予防を優先的に行うことに活用することで、犬 全体として疾患を減らすことにもつながると考え られる。 運用、目的も含めた議論を行っていく必要がある。 低い罹患率を示した疾患は必ずしも対策の優先 順位が低いということではない。例えば、歯・口 腔疾患の罹患率は犬全体で 2.1%と低かった。しか しながら、歯・口腔疾患で一番多いと思われる歯 周病(歯肉炎、歯垢、歯石を含む)は、全身性の疾 患との相関があるとの報告がある 5、6)。すなわち、 歯周病は犬のQOLを下げる間接的な要因のひとつ と考えられるため、その対策の重要性を認識して おくことは、意義深いと思われる。さらに、歯・ 口腔疾患が低い罹患率を示す原因として、 「飼育者 が、症状をみつけ来院する」ことができていない可 能性が考えられる 2)。今回のデータは、治療から発 生した保険金請求を基にしている。一方で、歯科 健診という目的が明確化された来院の場合、歯肉 炎は 22.9 %、歯垢、歯石は 76.3 %の犬に認められ たというデータもある 4)。この差は、飼育者の意識 の差がバイアスとして作用していると考えられた。 つまり、飼育者の意識向上と動物病院からの勧め との相乗効果によって、罹患率が増加する可能性 が高い疾患であるとみることもできる。これらの データを分析する際には、疾患の背景を考慮して 参 考 文 献 1) 島村麻子ら:保険金支払いデータを基にした 疾患統計、第 30 回動物臨床医学会Proceedings No.3、28-31(2009) 2) 島村麻子:コミュニケーションツールとしての疾 患統計・1疾患統計が秘める可能性、Infovets vol.13No.2(2010) 3) アニコムホールディングス:犬の歯周病、アニ コム家庭どうぶつ白書、53(2009) 4) アニコム損保:犬の歯周病に関する調査、プレ スリリース(2010) 5) Linda J.DeBowes:The Veterinary Clinic of North America 獣医臨床シリーズ 2000 年版 Vol.28/No.5 犬の歯科学 学窓社 歯科疾患の 全身疾患への影響 7 − 10 (2000) 6) Zlatko Pavlica, Milan Petelin,Polona Juntes.at al:Periodontal Disease Burden and Pathological Changes in Organs of Dogs, J Vet Dent , 97-105 (2008) 第 31 回動物臨床医学会 (2010) 5 一般口演 膚疾患の一部ともとらえる事ができ、耳の疾患お よび皮膚疾患の両方に高い罹患率を示す犬種には 免疫学的な要因など共通の背景が存在すると考え られた。また、皮膚疾患も耳の疾患も高い罹患率 を示した 5 犬種のうちゴールデン・レトリーバー以 外の 4 犬種が、眼の疾患にも高い罹患率を示した。