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Title Author(s) Citation Issue Date Type 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 秋葉, 国利 一橋研究, 24: 20-42 1972-12-01 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/6622 Right Hitotsubashi University Repository 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 秋 葉 国 利 目 次 I はじめに 1V 仕入勘定の性格 1I 設 例 V 三分法第2法の問題点 皿 商品勘定三分割の目的 I は じ め に 我が国における通常の商業簿言己の解説書は商品売買取引の仕訳方法を説明す るに当り,分記法→総記法→三分法という1煩序を取るのが一般的である。こ (1〕 れは,教育上の便宜性以外に,商品勘定の歴史的発展をも或る程度考慮したも のであろう。 先ず分記法とは,省略せずに言えば「商品販売益分記法」であり,純粋の資 産勘定たる商品勘定の他に商品販売益勘定を設け,商品を売上げるたびに販売 益を計算してこの勘定に言己入する方法である。これは,取引個数が少なく商品 の仕入単価も直ちに判明する業種などに適した仕訳法であり,また初心者にも 理解し易いという長所を有す乱 次に総記法とは,期間中には商品勘定を1個だけ用い,商品を売上げるたび に,その仕入原価と販売益とを総計した金額(即ち売価)で商品勘定の貸方記 入を行なう方法である。企業の取引数は余りにも多すぎて,商品の販売ごとに 販売益を一々分配できたいのが現実であるから,この方法を取らざるを得な い。 しかしこの方法では商品勘定の借方に仕入原価のほか売上値引や戻り高など が記入され,また貸方には売価のほかに仕入値引や戻し高などが記入されるた め,勘定の言己人面が複雑にたって仕入取引や売上取引の金額が判明しにくい。 20 商品勘定三分割法の批判的考察(I) (2) 更にシェアーが指摘した如く,商品勘定が混合勘定とたる欠点を伴たう。これ らの欠点を取り除くために商品勘定分割の試みが今世紀の初めスプレーグやケ (3〕 (4〕 スター,ぺ一トンなどの会計学者によって行なわれ,このうちケスターの方法 が若干形を変えて我が国に移植され定着した。それは混合勘定たる商品勘定 を,繰越南昌,仕入,売上の三勘定に分割する所から,我が国では商品勘定三 (5) 分割注或いは単に三分法と呼ばれている。以下ではわれわれは三分法という用 語の方を主に用いることにする。 小論は今回を含めて3回だいし4回にわたって掲載される予定であり,その 最終的な目標は三分法に代る新しい商品勘定の体系を提起するところにある。 今回及び次回は,止揚されるべき三分法の批判的考察に当てられるが,この過 程を通じてわれわれは,三分法の特質と矛盾を浮き彫りにし,且つ,最終目標 に対する素材をできるだけ準備して行きたい。 今回は次に示す設例を用い,それの及ぶ範囲で三分法を論究する。設例はや や長すぎるきらいもないではないが,ともすれば簿記会計学者に見落され勝ち た事例を織り込んだつもりである。 皿 設 例 〔事例〕某商品の販売を営むあずま商事株式会杜の昭和47年8月1日における 前月繰越商品(全て手許在高)は10,000円である。また8月における,われわ れの論述の資料として必要な取引のみを示すと次の通りである。(金額や取扱 い個数は故意に小さくしてある。また,仕入諸掛の問題は考慮せず,仕入単価 一は一律に1,000円,一般売上の単価は一律に1,400円とする。) .2日 千代田商店(仕1〔仕入先元帳の丁数1の略〕)から商品100個を掛で仕 入れた。 13日 上記商品2個を戻した。 4日 東京商会(得1〔得意先元帳の丁数1の略〕)へ商品40個を掛売りした。 5日 委託販売のため商品50個(単価1,000円)を大阪商会向けに積送した。 積送諸掛2,000円は現金で支払った。 21 橋研 究 第24号 7目 江戸川商店から商品90個を現金で仕入れた。 8目 4日に売上げた商品を2,000円値引した。 9日 もみのき商店を吸収合併し,商品80個(単価1,000円と見積り)を引継 いだ。(他にも引継いたものがあるが,ここでは考慮しない。〕 10日 販売費60,000円を現金で支払った。 11日 名古屋商会(得2)へ商品70個を掛売りした。 12日 営業外収益21,OOO円を現金で受け取った。 14日 新宿商店(仕2)から商品35個を掛で仕入れた。 15日 京都商会(得3)へ商品100個を掛売りした。 16日 14日に仕入れた商品の5ち1個を戻した。 18日 神戸商会へ商品10個を現金で売上げた。 19日 別棟の倉庫に保管してあった商品6個(単価1,000円)が出火のため金 焼した。当社は火災保険に加入している。 21日 営業外費用26,OOO円を現金で支払った。 22日 仙台商会(得4)へ商品30個を掛売りした。 23日 大阪商会より委託販売晶につき次のような売上計算書が到着した。 売上計算書 売上高(40個,単価1,500円) 60,O00円 諸掛:保管料 500円 保険料 200 発送運賃 800 手数料 1.500 3,O00 57,OOO円 24日 22日に売上げた商品を3,O00円だけ値引しれ 28日 積送品10個につき大阪商会から「売れる見込みなし」という理由で返却 された。 31日 商品3個(単価1,000円)を千葉商会,横浜商会及ぴ沼津商会へ1個ず つ見本晶として提供した。 22 商品勘定三分割法の批判的考察(I) また,決算修正事項は次の通りである。 31日 発生主義による販売費の追加計上高12,O00円,一般管理費の追加計上高 8,OOO円。期末商品帳簿及ぴ実地棚卸高13,000円。 以上の事例に基いて,次のものを示すことにする。 ユ. 2日から31日までの期中仕訳(この事例では会計期間は1ヵ月とする。) 2日(仕 入)1OO,OO0 (買 100.000 3日(買掛金)2.000 (仕 2,OO0 4日(売掛金)56.000 (売 56.000 5日(積 送 晶) 52,000 (仕 50.000 (現 2.000 7日(千士 90.000 (現 90.000 8日(売 2,000 (売 2,OO0 9日(イ土 80.000 (諸 80,OO0 10日(販 売 60,OOO (現 60.000 u日(売掛 98,OO0 (売 98.000 12日(現 21.000 (営業外収益) 21.000 14日 (イ土 35,OO0 (買 掛 金) 35,000 15日(売 掛 140.000 (売 上) 140,OO0 16日(買掛 1.000 (仕 入) 1,OO0 18日(現 14.000 (売 上) 14,O00 19日(火災未決算) 6,OO0 21日(営業外費用) 26,000 (仕 入) 6.000 (現 金) 26,OO0 22日(売掛金)42,OO0 (売 上) 42,000 23日(委託販売未収金) 57,000 (積送品売上) 57,OO0 (仕 入) 41.600 (積 送 晶) 41.600 24日(売 上) 3・OO0 (売 掛 金) 3,OOO 28日(仕 入) 10.400 (積 送 品) 31日(販 売 費) 3,000 (仕 入) (6) 10.400 3,000 2.決算修正仕訳(仕入a/cについては,それを完全に締切るまでの仕訳)。 31日(販 売 費) 12,000 (諸 口) 20,O00 (一般管理費) 8.000 31日(仕 入) 10,O00 (損 (繰越南昌)10,OOO 益)292,O00 (仕 入)292,000 23 一橋研究第24号 3.締切り後の繰越南昌,仕入,売上及び損益の各勘定面。 繰越商品 8/1前期繰越 10,000 8/31仕 人10,000 31仕 入 13.000 〃残 高13,OOO 23,000 23,000 仕 人 8/2買 7現 9諸 金100,000 金 90.000 口 80,000 8/3買掛金2.000 5積 送 晶 50.000 16買掛金1,OO0 19火災未決算 6,OO0 14買 掛 金 35,OO0 23積 28積 送 品 41.600 送 晶 10.400 31繰越南昌 10,OOO 〃損 益292,OOO 367,OOO 367,OOO 31版 売 費 3,OO0 31繰越商品 13,OOO 売 上 8/8売掛金2.000 24売掛金3.000 31損 益345,O00 / 8/4売 掛 11売 15売 18現 22売 掛 金 56,OOO 金 98,OOO 掛 金140,OOO 撤 金 14,000 金 42,OOO 350,000 350,OOO 損 益 8/31仕 人292,000 8/31売 上345,OOO 〃販売費75,000 〃 積送品売上 57,O00 〃 営業外収益 21,O00 〃 一般管理費 8,OOO 〃 営業外費用 26,OOO 〃 来処分利益 22.000 423,OOO 24 / 423,OOO 商品勘定三分割法の批判的考察(I) (7) 4・財務諸表準則に基く損益計算書。 あずま商事株式会社 損益計算書 自昭和47年8月1日 至昭和47年8月31日 I 純売 上 高 1.一般売上高 a.総売上高 350,OOO b.値引,戻り高 5.000 345,OO0 2.積送品売上高 57,OOO 402,000 皿 売上原価 1.期首商品棚卸高 10,OO0 2.商品純仕入高 a.総仕入高 225,OOO b.値引,戻し高 3,OO0 222,㎝ 3.合併引継商品 80,OO0 4.積送諸掛 2,000 合計 314,OOO 差 引: 5.火災焼失高 6,OO0 6.見本晶提供高 3,OO0 7、期末商品棚卸高 13,OOO 292.000 売上総利益 110,OO0 皿 販売費及び一般管理費 83,OO0 営業利益 27,OO0 1V営業外収益 当期総利益 21,OO0 V営業外費用 26,OO0 当期純利益 22,OOO 48,OO0 25 一橋研究第24号 5.特殊仕訳帳としての仕入帳及び売上帳。 仕 入 帳 日付 2 摘 要 千代田商店 @¥1,OOO 戻し @¥1,OOO 仕/1 商品90個 @¥1,㎝ レ 新宿商店 商品35個 @¥1,OOO 仕/2 新宿商店 戻し 商品1個 @ ¥1,OOO 仕/2 商品100個 3 千代田商店 商品2個 7 14 16 丁数 江戸川商店 1現金 1OO,OOO (8〕 仕/1 現金仕入高 △2,OOO 90.OOO 35,OOO △1,OOO 90.OOO 掛仕入高 総仕入高 掛 135,OOO 135,OOO 225,OOO 戻 し 高 △3,OOO 本月純仕入高 222,O00 売 上 日付 4 8 11 摘 要 東京商会 商品40個 東京商会 8月4日売上げ分 名古屋商会 商品70個 15 18 22 24 丁数 @¥1,400 得/1 56,OOO 得/1 △2.000 得/2 98.000 得/3 140.OOO 値引 @¥1,400 京都商会 @¥1,400 商品100個 神戸商会 @¥1,400 商品10個 仙台商会 商品30個 @ ¥1,400 仙台商会 値引 8月22日売上げ分 現金売上高 掛売上高 総売上高 値 引 高 本月純売上高 26 現 金 レ 14,000 得ノ4 42,OOO 得/4 △3,OOO 14,000 336,OOO 350.OOO △5,000 劉5,000 336,000 商品勘定三分割法の批判的考察(I) これだけの用意をしておいて本論に入ろう。 皿 商品勘定三分割の目的 論者がどれに力点を置くかの相違はあるにせよ,商品勘定三分割の目的とし (9〕 て一般に次の3つが挙げられている。 ω 混合勘定性の排除 混合勘定としての商品勘定は,在高系統の勘定(実在勘定)の要素と損益 系統の勘定(名目勘定)の要素とを混有するという欠陥を持つ。しかし三分 割を行なえば,繰越商品a/Cはその残高が商品の在高を示す所から実在勘定 となり,仕入a/C及び売上a/Cは費用及び収益の勘定,つまり損益系統の勘 足となる。 12〕仕入取引・売上取引の数値を勘定面から直ちに知るため。 単一の商品勘定に,仕入高,売上高,仕入値引及び戻し高,売上値引及び 戻り高,前期及び次期繰越高を言己入すると,記入面が複雑にたって商業経営 上必要た資料を直ちに得ることができたい。経営活動としての仕入取引及び 売上取引がそのまま計数的に勘定の上に現われるようにするために三分法が 必要とたる。 13〕特殊仕訳帳と,元帳の勘定面との金額的一致を得るため。 三分法を適用すれば,特殊仕訳帳としての仕入帳及び売上帳が,総勘 定元帳における仕入a/C及び売上a/Cにそれぞれ金額の面で一致し,仕 入帳及び売上帳をもって仕入a/C及び売上a/Cに代用することが可能にだ る。 われわれは以下において,これらの目的が三分法によって有効且つ厳密に達 成され得るかどうかを検討してみたい。 沼田嘉穂教授はこのうち特に13〕の目的を強調し,これこそ商品勘定分割の最 (1o〕 大の理由であるとしてい乱 しかし,仕入a/Cと仕入帳とが金額的に一致するという表現には欠きた疑問 27 一橋研究第24号 がわく。前の設例で明らかなように,決算修正言己人前の仕入a/C借方残高は¥ 295,000である。ところが仕入帳の純仕入高は¥222,OOOであり両者は一致し ていない。不一致の原因は,仕入帳には仕入高,仕入値引・戻し高など本来の 仕入活動に基く金額のみが記入されたのに対して,仕入a/Cにはこのほか借方 (11〕 に合併引継商品,積送品の戻り高,販売された積送品,貸方に積送品の発送高, 火災による焼失高,見本品提供高などの仕入取引とは全く無関係な金額が言己入 された所にある。設例では挙げなかったが,このほか仕入a/C借方には割賦販 売商品の戻り高(或る仕訳法を採用した場合),見本晶の戻り高(提供ではな く一時的に貸与した場合)だとが言己入され,貸方には割賦販売商品の手渡し高 (或る仕訳法を採用した場合),商品現物による給料支払い高などが記入され る。沼田教授が13)こそ商品勘定分割の最大の理由だと主張すること自体は正し いかも知れぬ。しかし,その自由は現行の三分法によって必ずしも厳密には達 成されたいのである。 われわれのこの見解に対して次のような反対意見も起るであろう。 先ず,仕入帳に積送品の出し入れや火災による焼失高などを言己載する欄を設 けて,ここへ該当金額を記入すれば仕入a/Cの金額と一致するではないかとい う意見である。しかし,仕入帳を保管する仕入係の権限は仕入取引にのみ関連 する。例えば積送品の払い出しは倉庫係たいし発送係の権限に属し,仕入係の あずかり知らぬ所である。火災による焼失高も倉庫係の記録すべき事項であ り,仕入係には何の関係もたい。仕入係にとっての関心事すたわち仕入帳に言己 入すべき事柄は仕入れによる商品の受入れとその値引,返品のみである。 次に,仕入a/Cには仕入取引のみを言己録し,積送品の払い出しなどは繰越商 品a/Cに貸記すれば良いといラ意見もあるだろう。これは傾聴すべき見解であ り,現代のアメリカの簿言己書は多くこの方法によっている。古いアメリカの簿 記書では積送品を払い出した時に (積送品)×× (仕 入)×× (12) 〔13〕 といラ仕訳を行なっているが,現代のものは貸方を(棚卸商品)としている。 日本でこの方法が行たわれたいのは,後述するように日本の三分法における繰 28 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 越南昌a/Cは仕入a/Cに対する経過勘定としての色彩が強く,一般に,経過勘 定には期中取引を記入しないという原則があるためだろ㌔ 第三番目に,「実質的に仕入取引を見た場合,積送品の出し入れや火災によ る焼失などは例外的た事項に属する。企業の経常的な取引に関する限り,仕入 a/Cと仕入帳は一致する。」という反対意見も考えられる。しかしこの意見は誤 まっている。たるほどわれわれの想定した設例は極端な部類に入るであろう。 だが現代の企業は途方もなく大きい。しかも会計期間は6ヵ月もしくは1年で ある。通常の仕入・販売取引以外による商品の出し入れが只の一度も起らない ということの方がむしろ例外ではたかろうか。 ここで一歩を譲って,これらの事柄が極めてまれにしか起らないと仮定しよ う。それにも拘わらず上述の見解の根拠は誤まっている。数学や論理学で,或 る命題が成り立たたいことを示すためには反例を只一つ挙げれば十分であるの と丁度同じく,われわれの議論でも,或る事項がいかに例外的であれ,起る可 能性が只一度でもある限り十分た反例となり得る。論理の厳密さと,会計上い わゆる重要性の原則とはおのずから別のものである。 このようにして,少なくとも日本の慣行による三分法に従う限り,仕入帳と 仕入a/cが金額的に一致するという命題は誤りである。(3)の目的は厳密には達 成されず,普通の形式の仕入帳をもってしては仕入a/Cに代用できたい。 次に目的(2〕が達成され得るかどうかを検討してみよ㌦既に明らかなよう に,仕入a/Cの残高は必ずしも仕入取引の数値を表わしているとは限らないの であるから,厳密た意味では三分法によって目的2〕は達成され得ない。もっと も摘要欄の相手勘定科目を調べたり,或いは仕入取引以外の商品の移動の数値 を失言己するたどの工夫を施したりすれば,この目的は達成されるであろう。但 し前者については,機械簿記の発達などにより摘要欄に相手勘定科目を言己入し (I4〕 ない慣行が普及すれば,不可能になる。 最後に第1の目的の検討に移ろ㌦ .現代の簿記会計学者で,三分法が商品勘定の混合勘定性を除く目的を持つと はっきり主張している論者がいるだろうか。例えば戸田義郎教授は次のよう汰 29 一橋究所第24号 表現を用いている。「この勘定〔=仕入a/C(秋葉)〕については,商品a/Cの 分割書己人法における商品仕入処理用勘定であって,商品a/Cの混合勘定性を除 (15〕 く目的をもって設定せられる諸勘定の1つであり,」「三分法は商品勘定の混合 勘定性を除き,明瞭性原則ならびに総額主義原則に忠実た記録を確保する道で (工6〕 ある。」しかし前者は辞典の一項としての通説列挙的た表現に過ぎず,後者に ついては,理由付けを示した注意深い表現であるとは思えない。もっとも前者 については歴史的た意味がないわけではたい。混合勘定なる概念の提起者J. F.シェアー(1846−1924)は,商品勘定の混合勘定性を排除する目的でその勘 定を仕入勘定(Einkaufskonto)と売上勘定(Verkaufskonto)とに二分割し く17〕 た。この場合仕入勘定は純粋た在高勘定どたり,売上勘定は成果勘定とたる。 しかしシェアーは継続記録法を導入することによって商品勘定分割を試みたの であり,彼の言う仕入勘定は,むしろ分記法における商品勘定に近い。シェア ーの仕入勘定は三分法の仕入勘定とは異なるものである。いずれにせよ,「三 (18) 分法によっても商品勘定の混合勘定性は究極的には排除され得たい」というの が現代簿言己学の有力説であるように思われる。 それにも拘わらずわれわれがこの問題を取り上げるのは,一つには,ともす れば会計学者が「三分法は商品勘定の混合勘定性を排除する」という表現に陥 りやすいのを啓蒙するためであり,二つには,どのような意味で三分法が商品 勘定の混合勘定性を排除し得ないのかを明らかにするためである。 さて,混合勘定とは一体何であろうか。シェアー流の古典的な意味では,商 品勘定にその典型を見る如く,混合取引が言己入されるため在高勘定(Bestand− konto)の要素と成果勘定(Erfo1gsk㎝to)の要素とを混有するに至り,その残 高が何の意味をも持たない勘定である。しかし現代では混合勘定の概念は拡張 されていて,一般に在高勘定の要素と名目勘定の要素とを混有する勘定(必ず (19) しも混合取引の言己入を前提としない)も混合勘定であるとされている。例え ば,償却計算を行なう前の償却資産の勘定,棚卸計算法を採用した場合の決算 修正前の棚卸資産の勘定,未経過分を有する損益勘定などは混合勘定である。 今,前者を「古典的た混合勘定」,後者を「拡張された混合勘定」と仮称して 30 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 三分法の混合勘定性の問題を考察してみよう。 先ず売上勘定について言えば,これはネットの意味での利益勘定でこそない が,グロスの意味での収益勘定である。三分法の,総書己法に対する一つの特徴 は,収益(利益)概念をネットからグ目スヘと転化させた点にあり,売上勘定 はもはや資産と利益との混合した勘定ではたくて,一個の独立した単純勘定で ある。従って売上勘定については,三分法は商品勘定の混合勘定性を排除し得 たと結論付けて良いであろう。 次に仕入勘定はどうであろうか。われわれは既に「三分法によっても商品勘 定の混合勘定性は究極的には排除され得ない」というのが現代簿言己学の有力説 であろうと述べたが,かっこの中を主張する会計学者は,「仕入勘定が資産と {20〕 費用との混合勘定である」ことをその理由付けとする。しかしこの理由付けは 厳密には正しくたい。wで示すように,仕入勘定は貸方残高となる場合もあ る。資産も費用も共に借方に残高が現われるのに,貸方残高どたり得る仕入勘 定がどうして両者の混合勘定だと言えようか。後述するように,再修正仕訳を 施した後の仕入勘定が資産と費用の混合勘定(これは拡張された混合勘定であ る)になるのであって,現行三分法による仕入勘定は会計的に有意義な概念を 持ち得ず,混合勘定とも単純勘定ともなり得ないのであ乱 最後に繰越商品勘定を検討する。繰越南晶勘定の残高は,期中を通じて期首 の金額のままに保たれるため,期中の或る日付の商品実在高を示さない。従っ て純粋の資産勘定とは言えず単純勘定ではない。それでは混合勘定であろう か。われわれは,その混合勘定性を問題にすべきではたいと思う。けだし,例 えば或る棚卸資産の勘定が混合勘定であるという時には,借方へは期中の継続 言己録を行なうけれども,貸方における費用化の記録は省くという手続を前提と している。しかるに繰越南晶勘定の借方には期中の継続記録が行なわれないた め,他の棚卸資産勘定と同じ条件でその混合勘定性を論ずることはできないか らである。 このようにして,三分法は商品勘定の混合勘定性を排除するものではたい。 再修正仕訳を取り入れた三分法が,「古典的な混合勘定」の問題を,「拡張され 31 一橋研究第24号 た混合勘定」の問題へと移し変えるのがせいぜいである。 以上見て来たように,本章冒頭の3つの目的は,厳密た意味では三分法によ って達成されたい。目的ωは,三分法によってもたらされる混合勘定の質の変 化ということを考慮に入れなければ,全く達成されたいと言って良く,目的2) 13版びは,売上勘定については有効に達成されるが,仕入勘定については必ず しも十分に達成され得たい。 1V 仕入勘定の性格 三分法において問題にたるのは仕入勘定の性格である。皿でも,3つの目的 が達成されない時,仕入勘定が何らかの形でその原因となった。本章では仕入 勘定の性格を検討すると共に再修正仕訳の問題をも考察してみたい。 今,皿で作った仕入a/Cのラち,期中取引に関する部分のみを抜粋すると次 のようにたる。 仕 人 8/2買掛金100.0008/3買掛金2,000 7現 金90,OO0 5積 送 晶 50,OOO 9諸 口 80.000 16買掛金1.000 19火災未決算 6,OO0 23積 送 晶 41.600 3!販 売 費 3,O00 14買掛金35,OO0 28積送品10,400 これの借方残高295,000円(=借方合計357,000円一貸方合計62,000円)は, 明らかに当期純仕入高222,000円(仕入帳の金額)と一致しない。 一体この295,000円は何を意味するのであろうか。結論を言えばそれは〔当 期申の売上原価最大可能額(295,O00円十10,000円)マイナス期首商品棚卸高 (10,OOO円)〕である。これは決して迂遠た表現ではない。295,000円は,それ 自体には意味がなく,当期中の売上原価最大可能額という要素と期首商品棚卸 高という要素とを介して間接的に表現される数値である。もう少し表現を一般 化すれば,或る日付における仕入a/C借方残高とは,その日付までの売上原価 最大可能額から期首商品棚卸高を引いた数値であ乱 32 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 以上のことを更に具体例を用いて説明す乱 〔設例〕 9月1日における期首商品棚卸高(会計期間は1ヵ月)は20,000円で ある。今,9月中における商品の売上,仕入取引その他を示せば次の通りで ある。 2日 商品1,OOO円を戻した。 8日 商品を6,O00円で掛売りした。 14日 商品3,O00円を積送した。 20日 商品2,OOO円を見本晶として小売商店に提供し㍍ 27日 商品を9,O00円で掛売りした。 30日 本日決算に当り商品棚卸高は4,000円である。 この設例から,決算直前の仕入勘定を作れば次のようになる。 仕 人 9/2買掛金1.000 14積送品3,0G0 20販売薮2,000 ここで14日における借方残高(一4,000円)〔即ち貸方残高(十4,000円〕は, ユ4日までの売上原価最大可能額(20,000円一4,O00円)マイナス期首商品棚卸高 (20,O00円)である。9月30日の決算直前における借方残高(一6,000円)は 当期申の売上原価最大可能額(20,000円一6,000円)マイナス期首商品棚卸高 (20,O00円)である。この借方残高(一6,000円)〔或いは貸方残高(十6,000 円)〕は,それ自体では会計的意味を持たたい。それを説明するのには,「9月 2日の仕入戻し1,000円,14日の積送晶発送高3,OOO円,20日の見本品提供高 2,000円の合計」という要素列挙の表現を用いねばたらず,それをただ一語で 表現する一段高いレベルの会計的概念が存在しないのである。 この欠陥を除去するにはどうすれば良いだろうか。その方法は期首商品棚卸 高20,OOO円を予め仕入勘定借方に加えておくこと,つまり,繰越南昌の期首在 高を期首に仕入勘定へ振り替えることである。こうすることによって仕入勘定 残高(常に借方残高)は,或る日付までの売上原価最大可能額を示すことにな 33 一橋研究第24号 (21) り,会計的に有意義た概念とたる。この状態での仕入勘定は資産と費用との混 合勘定(拡張された混合勘定)であり,その残高から,その日付における商品 棚卸高という「資産」を控除することにより,その日付までの売上原価といラ 「費用」を表わす勘定へと転化する。 所でここに挙げたような手続き,つまり或る損益勘定の経過勘定の期首在高 を期首にその損益勘定へ振り替える手続きは一般に再修正仕訳ないし再振替仕 (22) 訳と呼ばれ,仕入勘定以外の損益勘定については行なわれている。われわれは 仕入勘定に関する再修正仕訳の論理を上のように説明したけれども,費用勘定 一般に関する再修正仕訳の論理はむしろ,費用性資産把握の費用法の貫徹とい ラ立場から説明した方が説得的であろう。これについては後述する予定であ る。 いずれにせよ三分法は,再修正仕訳を行なわないことにより,他の損益勘定 (23) における手続きとの統一を乱している点及び仕入勘定に会計的意義を与え損な っている点という少なくとも二点において誤りを犯している。 ここで何故三分法が再修正仕訳を行なわないのかを検討してみよう。 思うにその理由は,仕入勘定の純粋性を保とうとする意識が実務家を支配し (24) ているためであろう。今まで述べて来たことから明らかだ如く仕入勘定は売上 原価と密着した勘定である。しかし一般には,それは仕入取引を表わす勘定だ という見解が根深い。「仕入勘定は期末の修正を行なえば売上原価の勘定とな るが,それまでは仕入取引を表わす勘定だ」という見解が支配的である。仕入 帳と仕入勘定は金額的に一致する,という見解もこれと同じ種類に属する。こ のような理解に立つ以上,繰越南昌を期首に仕入勘定に振り替えるという手続 きは出て来たい。そうすれば,仕入勘定は当期に属する仕入取引以外の不純な 要素を自己の内に含むことになるからである。 このように,もし三分法が仕入勘定の純粋性を保つために再修正仕訳を行な わないのであったたらば,それは片手落ちの純粋性保持だと言わねばなるま い。何故たら,仕入勘定の仕入取引に関する純粋性を保つためには,火災によ る商品焼失高や積送品の発送高たどをも仕入勘定から排除したければたらたい 34 商品勘定三分割法の批判的考察(I〕 からである。三分法のこのようた欠陥は,仕入勘定の性格を良く把握していた いことに帰因する。 われわれの見解に従えば,仕入a/Cはむしろ売上原価a/Cそのものである。 繰越商品a/Cは,もしそう呼んで差し行えなければr前払売上原価a/C」であ 飢ここで言う三分法は,後述するように,商品資産を費用法によって把握し たものに他ならたい。 (25〕 この趣旨に従って前掲の設例を仕訳し,勘定面を示せば次のようになる。 9/1 (売上原価) 20,OOO (前払売上原価) 20,OO0 2 (買 掛 金) 1,000 (売上原価) 1.000 8 14 (売 掛 金) 6,OO0 (売 上) 6,OO0 (積 送 晶) 3,OO0 20 (販 売 費) 2,OO0 (売上原価) (売上原価) 2,000 27 (売 掛 金) 9,OO0 (売 上) 9,OO0 30 (前払売上原価) 4,OOO 4,OOO 〃 (損 益) 1O,OOO (売上原価) (売上原価) 10,OOO 〃 (売 上) 15,OOO (損 益) 15,OOO 3,OO0 前払売上原価 9/1前期繰越 20,OO0 9/1売上原価 20,OO0 30売上原価 4,OOO 30残 高 4,㎝ 24,OOO 24,OOO 売 上原価 9/1前払売上原価 ∴ 20,OOO 9/2買 掛 金 1.000 14横 送 品 20版 売 費 3,OO0 30前払売上原価 4,OO0 〃 損 益 10,OOO 20,OOO 売 9/30損 益15,㎜ / 15,OOO 2,C00 20,OOO 上 9/8売掛金6,OO0 27売掛金9,OOO 15,OOO 35 一橋研究第24号 ここで売上原価a/C(再修正仕訳が施された仕入a/C)は,それが最終的には 当期発生費用を表わし集合損益a/Cへ振り替えられるという意味で費用の勘定 であり,決算修正以前には未消費分たる資産(繰越商品,前払売上原価)が混 在しているという意味で混合勘定である。その金額はもはや当然に仕入帳の金 額と一致せず,また決算修正以前の或る日付におけるその勘定残高は,期首か らその日付までの売上原価最大可能額を示す。 V 三分法第2法の問題点 三分法には,決算修正仕訳に関して,今まで述べて来たのとは別の方法があ る。それによれば,期末に繰越商品の期首在高を損益a/Cの借方へ振り替え, 仕入a/Cの残高を損益a/Cの借方又は貸方へ振り替え,期末商品棚卸高を繰越 南昌a/Cの借方及び損益a/Cの貸方へ言己入することによって,損益a/Cの上で 間接的に売上原価を計算する。これは日米の文献にしばしば現おれる方法であ (26〕 り,われわれは今まで述べて来た三分法を三分法第1法,ここで述べる方法を 三分法第2法と名付けることにする。 今,三分法第2法による決算仕訳及び勘定面を,皿の設例に基いて示せば次 のようにたる。 8/31 (損 益) 10,O00 (繰越商品)10,OOO 〃 (損 益)295,OOO (仕 入)295,OOO 〃(繰越南昌)13,000 (損 益) 13,OOO 〃 (残 高) ユ3,000 (繰越南昌)13,000 繰 越 商 晶 8/1前期繰越 10,OO08/31損 益 10.000 31損 益、13,O00 ・残 高 13,OOO 一...。理q00.. 36 23,OOO 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 仕 人 8/2買掛金100.0008/3買掛金 2,000 7現 金 90,000 9諸 口80.000 14買掛金35,OO0 5積送品50.000 16買掛金1,000 19火災未決算 6,000 23積 送 晶 41.600 28稜 送 晶 10,400 31販 売 費 3,O00 357,OOO 357,000 〃損 益295,000 損 益 8/31繰越南昌 10,0008/31繰越南昌 13,000 ”仕 人295,OOO 〃販売費75,000 〃一般管理費 8.000 1莫董㌶㍑llll1 436,000 〃売 上345,OOO 〃積送品売上 57,000 ”営業外収益 21,OOO / 436,000 この方法が行なわれる根拠は次の二点にあるように思われる。第一は損益 a/Cを損益計算書の形式に適合させる点であり,第二は精算表の記載様式と関 連する。 先ず第一の点について述べよう。周知のように,我が国の企業会計原則並び に財務諸表準則が要求する損益計算書には,期首及び期末の商品棚卸高も記載 される。このことは次の文言に端的に示されている。 「売上原価は,売上高に対応する商品等の仕入原価又は製造原価であって, 商業の場合には,期首商品棚卸高に当期商晶仕入高を加え,これから期末商 晶棚卸高を控除する形式で表示し,製造工業の場合には,期首製品棚卸高に 当期製晶製造原価を加え,一これから期末製品棚卸高を控除する形式で表示す ・る。 当期商晶仕入高は,その総仕入高から仕入値引,戻し高等を控除する形式 で純仕入高を表示する。」 (「企業会計原則」損益計算書原則,3のD) この文言の趣旨には少なくとも二つの問題点がある。一つは,損益計算書の 37 一橋研究第24号 上になぜ商品棚卸高のような貸借対照表項目を言己載する必要があるのかといラ 点であり,もう一つは,この文言内からは,合併引継商品や火災焼失高だと。 記載をどう取り扱うべきか判然としたい点である。 これらの点の詳細については,損益計算書の言己載様式に関する論述として後 述する予定だが,前者の問題点はそのまま三分法第2法による損益a/cへの批. 判につながる。名目勘定の集合である損益勘定(集合損益勘定)に,実在勘定 である繰越南晶勘定を記載するのは誤っているのではなかろうか。繰越商品を 記載する必要があるのなら,前払保険料a/Cだとの経過勘定をも損益勘定に記1 載せねばたるまい。又,特に仕入取引を損益勘定の上で明らかにしたいという 意図があるとしたら,その意図は仕入勘定残高をそのまま損益勘定へ振り替え. た所で必ずしも達成されないことは既に自明である。 後者の問題点に関しては,文言前段の「当期商晶仕入高」は文言の後段から 仕入勘定の借方残高ではたくて,文字通りr仕入高」であることがわかる。合 併引継商品や火災焼失高がある場合には,このようにして「当期商品仕入高」 に加減する道が断たれているので,これらをどこへ言己入して良いのか分らたい のであるが,文言の不備を補って企業会計原則の趣旨をできるだけ取り入れた 損益計算書を作成すれば,皿の設例で示したもののようになるであろう。しか し明らかにこれは,本章の損益a/Cからそのまま作られるものではたい。もし 三分法第2法の趣旨が,損益計算書を作るのに好都合た損益a/cを作成するこ とにあるとすれば,この意図は失敗に終っている。三分法第2法の損益a/cが 財務諸表準則の損益計算書に適合するのは,火災による商品焼失や合併引継商 品などのたい場合に限られるのである。 次に,三分法第2法が行なわれる根拠の第二点の説明に移ろう。 いわゆる商的工業簿言己(棚卸計算法により期末に一括して当期製品製造原価 及び売上原価を計算する工業簿言己)を採用する場合の製造企業の精算表は,例 (27〕 えば次表のようにたる。 このようた精算表の整理記入欄には,棚卸資産の期末棚卸高が貸借同額で記 入される実務慣行がある。製品について言えば表のように,期末棚卸高2.100 38 商品勘定三分割法の批判的考察(I) 精算表(商的工業簿記) 試算表整理記入製造勘定損益計算書1貸借対照表 勘定科目 借方貸方借方貸方借方貸方借方1貸方借方貸方 製 品 1,500 材 料2,700 仕 掛 晶 420 2.100 2.100 1.500 2,100=2.100 6006002・700600 P 600 300 300− 420 300 300 17.42617,426 当期製晶 製造原価 5,880.5−5,880.5 ’円が整理記入欄に貸借記入され,貸借対照表借方及び損益計算書貸方へ移記さ 、れる。一方,期首棚卸高1,500円(試算表借方残高)は損益計算書借方へ移記さ 。れ,又,製造勘定の欄で計算された当期製晶製造原価5,880.5円は損益計算書 ・借方へ移言己される。このようにして損益計算書の上で間接的に売上原価(1,500 .円十5,880.5円一2,100門=5.28015円)が算定される。他の棚卸資産について も同様の手続きが行なわれる。材料費a/C,売上原価a/Cが精算表の勘定科目 の欄に言己入されていたい場合には,材料,製品についてはこのように整理記入 一個に、期末棚卸高を貸借言己入しない限り精算表の作成が不可能になるのである。 一方,皿の設例の金額を用いて,三分法第1法及び第2法による精算表を作 成してみよう。 精算表(三分法第1法) 勘定科目 試 算 表 整理記入 損益計算書 貸借対照表 繰越南昌 10.000 13,OO010,OOO. 13,OOO 仕 人29、。。。 、、。。。1孔。。。12、、。。α 売上 345,OO0 345,000 39 一橋研究第24号 精算表(三分法第2法) 勘定科目1試算表1整理記入11損益計算書1貸借対照表 繰越南昌 10.000 13,00013.00010,OO013,OOO−13,OOO 仕入295.000 295,000 うセ 」二 345.000 345,000 さて,精算表だけの問題として考えた場合には,手続き的に,三分法第2法 による精算表の方が,三分法第1法による精算表よりも,商的工業簿記の精算 表に一層多くの親近性を持つ。ここに三分法第2法が第1法よりも好まれる理 由があるのではたかろうか。 (商工兼業企業の精算表は商業簿言己と商的工業簿. 言己の双方を含む場合があり得る。この場合には商業簿記については三分法第2 法が採用される可能性が大きい。) ここで,精算表固有の問題として三分法第2法を批判してみよう。精算表の 整理書己入欄の言己入は,可能た限り決算修正仕訳と一致させるべきであろう。し かるにこの精算表の整理書己入欄の記入に対応するところの (繰越南昌)13,000 (繰越南昌)13,OOO の仕訳は,仕訳帳の上では決算修正仕訳として行なわれていたい。教育上の観 点からも問題があると思う。この点では三分法第1法の方が勝れている。 もっとも批判がこれに尽きるものであれば,われわれの論述の説得力は弱い かも知れたい。実務の精算表と決算修正仕訳が対応したければたらない根拠が 必ずしも明白でないからである。われわれは,しかしながら,新しい商品勘定 の体系を提起した後で,商的工業簿記の精算表と併せて三分法第2法の精算表 の批判を再び行たう予定である。違った角度から眺めた別の批判は,多分もっ と説得的なものになるであろう。 (未完) (1〕r或る程度」と表現したのは,三分法が総書己法の発展形態であるのは明らかだが, 歴史的に見て総記法が分記法から派生したとは必ずしも明言し得たいからである。 泉谷勝美『簿記学概論』,森山書店,日習和40年,180頁などを参照のこと。 {2〕 Johann Friedrich Schヨr,3m肋ακ刎£m〃6B〃伽2,5−Aufl.,Berlin,1922,S. 66−70.なお同書66−67頁によれば,混合勘定(9emischte KOnten)なる概念は 40 商品勘定三分割法の批判的考察(I) シェアー自身によって次の書物の中で初めて提起された。Sch射,γ㈹m力幽m ω5∫5m5c励ガ伽ゐem Be肋mmmn身6〃Bmc尻ゐακ〃〃島Basel,1890. 13〕上野道輔『新編簿言己原理』,有斐閣,昭和11年,225−239頁。 ω Roy B.Kester,λccmm伽厚_丁免eoη 伽δPmc地2,Vo1,I,2nd Ed.,New York,1922,pp.116_121. (5〕アメリカの現代の簿記書は,サービス業について簿記手続の一巡を説明した後, 直ちに「三分法」を用いて売買業の説明を行なう。日本とは違って説明の段階で総 記法は現われず,分割されるべき原初の「混合勘定たる商品勘定」が存在しないの であるから,「三分法」という用語も問題にならない。本誌英文目次のthe MethOd of Dividing a Merchandise A㏄omt into Three A㏄0untsは筆者の造語であ る。 同 10,400=10,O00+2,O00(積送諸掛)×1αOO0 50,OOO /τ〕ここで示す損益計算書の形式は財務諸表準則だけからは出て来ないため,中沢博 『新訂勘定科目設定の実務』,中央経済社,昭和43年,44−45頁及び前田慶四郎・飯 野利夫監修『簿言己論』,税務経理協会,昭和45年,105頁を参照した。なお,このよ うな形式に触れた文献は,非常に数が少ない。 /8〕仕入帳,売上帳における数字の左肩の△印は,その数字が朱記されるべきもので あることを示す。 19〕戸田義郎「仕入a/c」『新会計学辞典』追補版,同文舘,昭和43年,394頁。戸田 義郎『簿記』,改訂増補版,評論杜,昭和44年,307頁。井上達雄『新版現代商業簿 言己』,中央経済社,昭和39年,125頁。沼田嘉穂『完全簿記教程』第2巻,中央経済 社,昭和46年,93−94頁。黒沢清r近代会計学小辞典』,春秋杜,昭和47年,303− 306頁。 (1o〕沼田嘉穂,前掲書,93−94頁。 l11〕但し沼田教授のように,委託販売に公言己法又は総書己法を用いれば,販売された積 送品は仕入a/cの借方に記入されない。(前掲書第3巻,20−21頁) l12〕例えばRoy B−Kester,λccmmガmg一τ乃eoηm♂Pmc腕e,New York,1917, P,477. l13)例えばGri舳,Wi11iams and Larson,〃mmc〃λccom肋島Revised Ed. 1971,p,796。但しまれには次のようにかっこ書きの形で仕入a/cへの貸記をも示し ている書物(Kies0,Mautz and Moyer,〃e舳e肋fe〃5m似e5ガλccomm伽& 1969,p.271)がある。 Consignment Out360.OO Inventory(or Purchases)360.OO 日本でも,仕入a/Cに貸記することの矛盾を指摘した論文がある(西垣直言己「積 送品仕訳に関する考察」『彦根高商論叢実業教育五十周年記念論文集』昭和9年, 378頁)。このようなものを読むと,日本の簿記学者の意識は昭和9年以来むしろ退 化しているのではあるまいかという懐疑に陥る。 l14〕沼田嘉穂,前掲書,第1巻,75−76頁。 ㈲ 戸田義郎「仕入a/C」(前掲)。 41 一橋研究第24号 ⑯ 戸田義郎『簿言己』,前掲307頁。 包司 Sch直r,5励〃,S.276丘. 胸沼田嘉穂『近代簿記』,中央経済社,昭和37年,174−175頁及び泉谷勝美,前掲 書,188頁及び上村久雄r混合勘定」r新会計学辞典』(前掲)339頁などを参照。 ω 沼田嘉穂「決算整理とその理論」『駒沢大学経営学部研究紀要』,第2号,昭和47 年,26頁。片野一郎『新編簿記精説』,同文舘,昭和43年,169−170頁。上村久雄 r混合勘定」(前掲)。吉田寛r混合勘定」『新基準会計学辞典』,中央経済社,昭和 41年,165−165頁。Eric L.Kohler,“mixed account”,λ〃。地価η力πん一 cm〃mな,4tb Ed・,New Jersey,ユ970,p・283・ ¢O 泉谷勝美,前掲書,188頁。上村久雄「混合勘定」,前掲書,399頁。 ⑳ 最大可能額という概念及び用語は一般にぼ用いられていないかも知れない。例え ば期中における受入れや払出し及び期末における評価の基準として取得原価主義が 採用された資産の勘定残高一般はそれらの資産の価額の最大可能額を表わす。継続 的に前払いによって処理している費用の勘定残高は再修正仕訳を行なうことにより その費用の当期発生の最大可能額を表わす。勘定の本質を考える場合には,少なく とも,①その勘定に何が記入されるか,②その勘定残高は何を意味するか,の2点 を問題にする必要がある。最大可能額という概念は②に関して有意義であるように 思える。なお売上原価最大可能額を英訳すれば,the maximum possib1e am㎝nt ofcostofsa1esとでもなろうか。 ⑳ この手続きを期末に行なっても再修正仕訳である,とする考え方もあるが(沼田 嘉穂『簿言己論攻』,中央経済社,昭和36年,274頁),われわれはここでは,期首に 行なうものだけを再修正仕訳と呼ぶことにする。 ㈱ 三分法が再修正仕訳を行なっていないことは今までにも指摘され批判されている が,批判の根拠として,論者はもっぱらこの点を挙げている。(沼田嘉穂,前掲書, 274頁。飯野利夫「商品会計処理法の吟味」『会計人コース』,昭和41年6月号,6 −7頁) ⑳ 次に示すわれわれの論述とは幾分異なった表現を用いて,飯野利夫教授もこの点 を指摘している。飯野教授は再修正仕訳を行なわない理由として更に, 「期首有高 と当期仕入高とを区別して記載する損益計算書の作成を容易ならしめる」点を挙 げ,しかしこれらの点は理論的根拠が乏しく三分法でも再修正仕訳を行うべきであ ると述べている。(飯野利夫,前掲論文。) ㈲ われわれが終局的に提起する商品勘定の体系は,しかしながらこのようなもので はない。 ⑳ 例えば,井上達雄,前掲書,128頁。泉谷勝美,前掲書,191頁。戸田義郎r仕入 a/c」r新会計学辞典』前掲。Cars㎝,Carlson and Bo1ing,Con螂んωmm佃島 8th Ed.,1967,pp・252−259・ ㈲ 田島四郎『工業簿言己一理論と実務一』,国元書房,昭和36年,53頁の精算表から, 金額を3桁切り下げて抜粋した。 (筆者の住所:東京都武蔵野市境南町2−26−5) 42