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マスコミは何を伝えたか
マスコミは何を伝えたか 発表者 第3章 坂本 逮捕 記者クラブ制度の問題点 「拘置」と「拘留」を新聞はそろいもそろってミスを犯している。 この異常は記者クラブ制度からきているのではないか 明治半ば…記者クラブ第1号「共同新聞記者クラブ」誕生 戦前の記者クラブは一種の親睦団体。太平洋戦争前夜新聞界は 「社団法人・日本新聞連盟」を設立。政府の言論統制に自主的に 協力した。 敗戦後…自主的な機関として日本新聞協会が設立。 記者クラブはこの新聞協会を”母体”としている。 1997年(カレー事件の前年)、新聞協会は記者クラブを 「公的機関の保有する情報へのアクセスを容易にする、取材のための拠点」 と位置付けた。 しかしながら現実は「公的機関の保有する情報」-真実かどうか わからない情報‐を世に広める公官庁の広報下請機関 記者クラブの最大の欠点…”報道の横並び” 情報源は同じ。用語の統一にも心がけている。事件関係では「拘置」の他に、 「供述」「容疑者」「被告」などの用語が登場するが、誤った意味で用いられて いるのだから始末が悪い。唯一正しい「供述」には、ある種の意図が感じら れる。 捜査段階において、被疑者を含めた事件関係者が捜査官に話したことはすべ て「供述」である。しかしマスコミはなぜか被疑者の話に限って「供述」を使っ ている。「自白」という言葉は厳しい取り調べを想像させる。 「供述は今も続く拷問捜査を‐意図的にかどうかはともかく‐ 覆い隠す役割をはたしている」 再逮捕の方針を固める 十月二一日、朝刊 「林夫婦、再逮捕へ」「高度障害保険金 五千余万円」(朝日) 「林容疑者夫婦 二十五日にも再逮捕」「高度障害保険金五千万円詐取容疑」 記事→p207 和歌山地裁は、十月六日、林夫婦の勾留を決定した。 刑訴法では一般刑事事件における被疑者勾留を一回十日、二回までと定めて いる。遅くとも、二回目の勾留期限の切れる十月二十五日までに、検察官は 刑事処分を決めなければならない。 刑事処分は、大きく次の四つ 1.起訴 2.不起訴 3.起訴猶予 4.処分保留¹ 起訴しない場合は被疑者を釈放しなければならない。 二十四日夕刊 「傷害保険六千万円追加」「三十五歳男性へ『ヒ素うどん』の前に」 記事→p209 彼女は本当にこの男を殺そうとしたのか。男は保険金詐欺を企てるための グルだったのではないか… 逮捕後二十日経つのに、彼女は依然として否認していた。 逮捕、再逮捕を繰り返して被疑者を追い込んでいくのが、否認事件 のパターンである。 愛人の存在を推測してみせる週刊誌 『週刊文春』十月二十二日号 「本誌だけが知っている『毒婦』林真須美を妊娠させた男」 同紙によると、逮捕されたとき、「真須美は妊娠しているらしい」という 情報がながれたらしい。 県警詰めの記者からも真須美が産婦人科に手錠に縄という姿で現れたとい う情報が。コメント→p211 しかしながら、当時の状況を考えるとこの情報は不確実なもの。 1 処分保留の場合の被疑者の扱いはどうなるのか 文春編集部はこの不確実な情報をもとに 「夫の健治とうまくいってなかったので、愛人がいた」と推理 さらに「その男はカレー事件の共犯者ではないか」と、またまた「捜査関係 者」なる人物にコメントさせた。 その後も真須美妊娠に関する推測記事が続く。 →実は警察は逮捕前の聞き込みで、妊娠の可能性があることは承知していた。 他の週刊誌やスポーツ紙、夕刊紙もさかんに『妊娠』の記事を書きたてた。 どうしてこのような報道がまかり通るのか…² 保険金詐欺「手口」を解説 十月二十五日、和歌山地検は林夫妻を起訴し、新聞の”予告”どおり、翌二十 六日に再逮捕された。 同日夕刊、各紙一面トップでこれを扱った。 「林夫妻を再逮捕」「保険金詐欺などの疑い 障害重く装う」(朝日) 「林被告夫婦を再逮捕」 「虚偽診断書で保険金詐欺容疑」 「真須美被告 殺人 未遂容疑も」(毎日) 「林被告夫婦を再逮捕」「真須美被告『ヒ素うどん』殺人未遂」「健治被告 保 険金詐欺で共謀容疑」(読売) 新聞は林夫妻は起訴されたとして、「被告」をつけて呼ぶようになったが、 刑事事件で起訴された場合、正しくは「被告人」。 「林被告夫婦」という奇妙な呼称をつくり出した。 保険金詐欺の被疑事実は各紙読み比べても、理解しがたい。 記事→p214、215 短い記事(毎日)に正体不明のコメントが二回も出てくる 「当時の診断に誤りはなかった」と医師は誰に語ったのか。 →考えられるのは警察の捜査担当者。”情報源”は従来通り警察 「われわれの事情聴取に対して、医師はこう供述していた」といった話を 捜査官から聞き込んできたのではないか。 2 報道におけるモラルとは? しかしながら、警察の事情聴取で医師が何を語ったにせよ、診断書の作成過 程や内容に、いかなるミスもないとしたら、ふつう保険金詐欺は成立しない。 つまり医師の”協力”なしに保険金詐欺を企てるのは、ほとんど不可能。 しかし和歌山カレー事件では、不可能が可能になった。和歌山県警は医師の 責任をいっさい問わなかった³。 このことから、保険金詐欺容疑は林夫妻の身柄を確保するための別件逮捕だ ったことが、明白になった。 しかし、マスコミはここでも警察に批判的な眼差しを向けることはなかった。 弁護士批判始まる 警察サイドに立つ報道はついに、弁護士を批判し始めた。 「林容疑者夫婦起訴 作成調書まだゼロ」(朝日) 記事→p219、220 1.〈難航する取り調べ〉 明らかに警察サイドに立った表現。「林夫妻を自白に追い込めば、事件はい っきょに解決する」という捜査官の思いの代弁のようである。 2.弁護人の被疑者接見だけでなく、 I. 勾留理由の開示請求 刑訴法の保障する被疑者の権利 II. 勾留取り消しの申し立て III. 拘留場所の変更を求める準抗告 などを、捜査側に対する牽制行為とみなしている。また『朝日』は 弁護団の連日の動きを報道陣に明らかにしているにもかかわらず、 これまでほとんど取り上げていない。 3.「真須美容疑者や弁護団の悪口言う」というコメント これを言った人物は、おそらく捜査官だろうが、本当に弁護団はそのように コメントしたのだろうか。実際に使ったとして、なぜ記者たちは言葉の "中身"を問わないのか。 3 別件逮捕の場合、その別件の関係者らは深くは追求されないものなのか Ⅰ~Ⅲに関しては、『朝日』の読者でも、注釈なしに理解するのは難しい。 被疑者の権利と受け止めていたら、 「捜査側に対する牽制⁴」とはみなさない だろう。 この問題は十一月二日に開かれた勾留理由開示請求裁判とも関わっている。 「林容疑者『取り調べ中暴力受けた』勾留開示法廷」(朝日)記事p223 馬渡香津子裁判官…「証拠隠滅や逃亡のおそれがある」 真須美容疑者…「腕をこぶしで殴るなどの暴力はやめてほしい」 「長時間の取り調べで疲れも出ているので、拘置所に移して ほしい(Ⅲ)」 健治容疑者…容疑を否認 裁判所は林健治を西署へ勾留せよと「命令」。『朝日』によれば弁護団は林健 治勾の留場所の変更を求める準抗告をおこした。まさか、弁護団は林真須美 の勾留場所の変更については、求めなかったのか。『朝日』には記していな い。 これでは、夫のほうだけ準抗告したので、私も〈拘置所に移してほしい〉と 訴えたかのようである。 また、捜査当局はしばしば子どもを"落としの材料"使っている。そのために、 警察が動くと目立ってしまうので、検察官は林夫妻の子どものところへ出向 いていたのだろう。 『朝日』はこうした検察官の行為を当然と受け止め、検察官を批判する弁護 団を「捜査側に対する牽制」とみなした。 4「捜査側に対する牽制」とは、具体的に捜査に対してどの様な影響を与え ることか