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四辺の調和 - Tama Art University

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四辺の調和 - Tama Art University
正
2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年 度 多 摩 美 術 大 学 大 学 院 美 術 研 究 科 修 士 論 文
2 0 11 , M a s t e r T h e s i s , G r a d u a t e S c h o o l o f A r t a n d D e s i g n , Ta m a A r t U n i v e r s i t y
四
辺の
調和
The Harmony of the Four Sides
菊池星希
学籍番号 31012029
博士前期(修士)課程 絵画専攻 油画研究領域
To s h i k i K i k u c h i
Student ID number 31012029
Field,Painting Course, Master Program
正
2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年 度 多 摩 美 術 大 学 大 学 院 美 術 研 究 科 修 士 論 文
2 0 11 , M a s t e r T h e s i s , G r a d u a t e S c h o o l o f A r t a n d D e s i g n , Ta m a A r t U n i v e r s i t y
四
辺の
調和
The Harmony of the Four Sides
菊池星希
学籍番号 31012029
博士前期(修士)課程 絵画専攻 油画研究領域
To s h i k i K i k u c h i
Student ID number 31012029
Field,Painting Course, Master Program
目次
序章 研究の目的ー04
第一章 森をみる。木をみる。
第 一 節 グ ロ ーバ ル 化 し た 世 界 情 勢 、 日 本 人 と い う 民 族 ー 0 4
第二節 西洋でもない東洋でもない多民族国家ー06
第二章 縁起
第一節 主体性と客体性、調和ー06
第二節 一つのもの、二つのもの、他のものー08
第三章 四辺の調和ー10
お わ り にー 1 3
引用一覧ー15
参考文献一覧ー15
図版一覧ー16
序章 研究の目的
東 洋 的 、 西 洋 的 と は な んで あ ろ う か 。 こ こ で 述 べ ら れ る の は 両 者 の 違 い を 明 確 に して
い き な が ら 自 身 の 制 作 に お いて、 文 化 、 思 想 、 民 族 と い う 側 面 か ら 考 察 し 、 解 説 を 交 え
な が ら 論 じ て い き た い と 思 う 。 こ こ で の 考 察 は 決 して 東 洋 と 西 洋 の 間 に 優 劣 を つ けよ う
と す る も の で は な い 。 む し ろ 、 欠 点 や 長 所 は お 互 い に 有 して お り 、 そ の 場 面 に よ って 対
立しながらも長所を最大限に活かし相互に無いものを補うようにこの世に存在たらしめ
てきた。当初、私の関心が向けられたのは「無」(非存在)はどこに有るのか、という
思索にあった。東洋や西洋に見られるような哲学、思想を源泉とし、私の絵画制作一般
に関わる仕事は、私を取り巻く環境への興味から始まり、同時に、人類、東洋人、日本
人 、 個 人 、 と して の 「 存 在 」 と は 何 か 、 と い う 問 い に も 繋 が っ て ゆ くの で あ る 。 こ の 問
い は し ば し ば 、 桜 の 木 を 観 る と き に も 懐 疑 す る 。 春 の 訪 れ を 知 ら せる 桜 は 出 会 い と 別 れ
を 象 徴 す る ア レゴ リ ー と して の 側 面 が 伺 え 、 百 円 硬 貨 の 裏 に デ ザイ ン が 施 さ れて い る ほ
ど日本人にとって馴染み深いものである。日本列島を3月から5月にかけてグラデー
シ ョ ン の ご と く 美 し い 色 を 彩 って ゆ き 、 そ の 至 福 の ひ と と き も つ か ぬ 間 、 満 開 か ら わず
か1週間から2週間程度で散りはじめてしまう。このとき私は生命の儚さや尊さを観
た 。 枯 れ 葉 は 土 に 還 り 、 土 は 樹 木 に 栄 養 を 供 給 す る よ う に 、 発 生 し 消 滅 す る サ イクル の
な かで 人 、 人 間 、 人 類 は 、 太 い 幹 へ と 成 長 し 「 生 」 の 代 償 と して 「 死 」 の 犠 牲 が 伴 って
き た の で あ る 。 こ こ に 諸 行 無 常 に 似 た 感 覚 を 覚 える の で あ る 。 生 と 死 、 無 と 存 在 、 個 性
とは。
第一章 森をみる。木をみる。
第 一 節 グ ロ ーバ ル 化 し た 世 界 情 勢 、 日 本 人 と い う 民 族
今 日 、 我 々 が 根 ざ して い る 世 界 は 国 境 を 越 え グ ロ ーバ ル 化 が 顕 著 で あ る 。 多 種 多 様 な
人 種 が 文 明 、 歴 史 を 継 承 し 境 界 を 越 え 共 存 して い る 。 日 本 で は 、 1 9 8 0 年 代 に 国 際 化
の 必 要 性 が 問 わ れ 始 め 、 9 0 年 代 に 入 る と グ ロ ーバ リ ゼー シ ョ ン へ と 変 わ って い っ た 。
4
科 学 技 術 の 発 達 や I T の 普 及 に よ り 国 か ら 国 へ と 人 や 物 の 往 来 が 容 易 に な り 、 アメ リ カ の
資 本 主 義 に 倣 って 追 い つ き 追 い 越 せ の 日 本 は 、 欧 米 の 価 値 観 に 倣 い 変 遷 を 遂 げ い っ た 。
国 と い う 存 在 は 絶 対 的 な も の で は な く な り 、 国 際 社 会 の 構 造 の 中 の 変 化 と して 機 能 し
た 。 そ して 一 国 の 利 害 は 国 と 国 の 問 題 、 地 球 規 模 で の 問 題 へ と 発 展 、 自 国 で の 政 治 や 経
済 と い っ た 問 題 は 内 憂 外 患 と し 自 国 だ け で 解 決 す る こ と は 困 難 に な って い くの で あ る 。
こう し た 背 景 に 冷 戦 下 で は 東 西 対 立 と い う 大 き な 枠 組 み に よ って、 民 族 、 宗 教 の 対 立 が
表沙汰にならずにいたが、生を育む環境が異なれば、文化、思想、宗教、考え方は知
的 、 情 緒 的 レ ベ ル で 異 な る だ ろ う 。 こ の グ ロ ーバ ル 化 が 境 界 を 越 え 異 文 化 と 接 す る 機 会
が増えたために、民族間の紛争が顕著になった。しかし、対立ばかりではないこともま
た事実である。
2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年 3 月 11 日 に 起 き た 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 は 我 々 の 記 憶 に 新 し い 。
スマトラ島沖地震以来の震度の規模で私自身も未憎有の災害に戸惑いを隠せなかった。
現 在 で も 震 災 が 引 き 起 こ し た 弊 害 が 我 々 人 類 の 存 続 に 重 くの し か か って い る 。 し か し 幸
い に も 震 災 直 後 、 各 国 か ら 迅 速 な 支 援 の 手 が 差 し 伸 べ ら れ 、 領 土 問 題 で 対 立 して い た 韓
国 、 中 国 、 ロ シ ア か ら も 支 援 を 受 ける こ と が で き た 。 自 然 災 害 に よ って 人 類 存 続 に 関 わ
る非常事態に、国というカテゴリーを越境し人類という枠組みで世界が協調した瞬間で
あ ろ う 。 ま た 、 こ の 震 災 に よ って 元 来 日 本 人 が 持 って い る 道 徳 、 モ ラル 、 結 束 力 、 無
私 、 規 律 尊 重 と い う 日 本 人 の 行 動 規 範 が 如 実 に 表 れて い た よ う に 感 じ る 。 そ れ は 助 け 合
い の 精 神 で あ る 。 自 ら を 犠 牲 に 中 国 人 留 学 生 を 誘 導 し た 人 や、 店 頭 の 床 に 散 逸 し た 商 品
を 拾 い 棚 に 戻 す 人 、 身 近 な と こ ろで は 友 人 が 帰 宅 困 難 者 に な っ た と き 、 見 ず 知 らずの 人
の 車 で 自 宅 の 近 く ま で 送 ってくれ た と い う エ ピ ソ ー ド が あ る 。 本 来 な ら ば 混 乱 を 招 き か
ね な い 状 況 に お いて 冷 静 に 周 り を 判 断 し 協 調 を 重 ん じ た 日 本 人 は 、 D N A レ ベ ル で 古 来 か
ら 受 け 継 が れ る そ の 血 を 受 け 継 いで い る の で は な い だ ろ う か 。 道 路 な どの 交 通 機 関 の 驚
異 的 な 復 旧 は 世 界 か ら 賞 賛 さ れ 、 日 本 人 の 冷 静 な 判 断 、 根 底 に も って い る 秩 序 正 し さ が
こ の 震 災 に よ って 如 実 に 伺 え た よ う に 思 う 。
5
第二節 西洋でもない東洋でもない多民族国家
私 の 生 ま れ た 国 は シ ン ガ ポール で あ る 。 言 わず と し れ た 常 夏 の 国 で、 赤 道 直 下 の 北 緯
1度17分、東西103度51分、東南アジアのほぼ中心に位置する島国である。国土面積は
日本の東京23区ほどの大きさで人口密度は世界第2位。小さな都市国家であるが、実に
さ ま ざ ま な 民 族 が 共 存 す る 多 民 族 国 家 と も 言 わ れて い る 。 様 々 な 文 化 が 交 流 す る 交 差 点
の 交 わ り で 共 生 し な が ら そ れ ぞ れ 互 い に 異 な っ た コ ミ ュニ テ ィ ー を 形 成 して お り 、 宗 教
は 、 仏 教 、 キ リ ス ト 教 、 イ スラム 教 、 道 教 、 ヒ ン デュ ー 教 、 そ の 他 が あ る 。 こう し た 異
なる人種、宗教、思想が一同に介し、共存共栄できていることに私は大変な興味を
ら
れ た 。 シ ン ガ ポール で 昨 今 問 題 に な っ た カ レ ー 事 件 は こう し た 背 景 に よ って 起 き た も の
で あ る 。 中 国 系 移 民 が 隣 人 の イ ン ド 系 宅 か らす る カ レ ー の 匂 い に 苦 情 を 言 っ た こ と に 対
し 、 大 勢 の シ ン ガ ポール 人 が カ レ ー を 食 べ て 抗 議 を し た 。 こ の 隣 人 同 士 の ト ラ ブル は 、
地元当局が仲裁する事態までに発展し、facebookにてこの頁が作成されこれを地元紙
が 報 じ る や い な や 5 万 7 6 0 0 人 以 上 の フ ォ ロ ワ ー が 集 い 、 こ の イベ ン ト を 企 画 し た 一
人 は 、 今 回 の ケ ース が 外 国 人 の 融 合 と い う 点 に お いて 問 題 を 生 じ か ね な い と して、 『 こ
の イベ ン ト を 通 して カ レ ー を 皆 で 囲 み な が ら 、 私 た ち の 文 化 を 理 解 し 受 け 入 れ る こ と が
で き れ ば 』 と 語 っ た と い う 。 私 は こう い っ た 異 質 な 環 境 下 に 育 ま れ 、 様 々 な 民 族 と 接 す
る こ と が で き た の も 何 か の 所 以 で あ ろ う 。 世 界 を 一 望 し 、 そ してそ れ は 世 界 に 対 す る 見
方 は ひ と つ で は な い と い う 問 い か け で も あ り 、 こう し た 世 界 に お いて 中 立 的 に 様 々 な 考
えが共存し交錯する文化に相互理解を貢献したい。そこには飛躍があり調和がある。
第 二 章 縁 起1
第一節 主体性と客体性、調和
人 間 で あ る 以 前 に 人 と して、 果 た して 我 々 の 事 物 に 対 す る 認 識 は 普 遍 的 な も の な の だ
ろ う か 。 現 在 か ら お よそ 2 0 0 万 年 前 、 ア フ リ カ で ア ウ ス ト ラ ロ ピ テ ク ス 属 か ら 枝 分 か れ
1
縁起:仏教における用語。広義に、相互に依存し関連して物事がおこること、あるいは原因と結果の関係について言
うが、深いレベルでは、実在の一切のスペクトルを包含する。
14世ダライ•ラマ著 大谷幸三訳 『空と縁起 人間はひとりでは生きられない』同朋舎出版 1995(平成7)年 89頁
6
し 、 2 0 ∼ 1 0 万 年 前 の 我 々 の 祖 先 で あ る ホ モ ・ サ ピ エ ンス と よ ば れ る 新 種 の ホ モ 属 が 誕
生した。直立二足歩行、道具の使用、知能の発達によって現在では5種の人種がそれぞ
れ の 文 明 を 、 風 土 、 風 俗 、 民 族 、 宗 教 、 思 想 を 高 い レ ベ ル で 築 き こ の 世 界 で 共 存 して い
る 。 今 日 、 そ れ ら に 用 い ら れ る 方 法 は か つ ての ホ モ ・ サ ピ エ ンス の 直 立 二 足 歩 行 、 道 具
の使用、知能の発達と同様に、言語、知覚、理解、記憶、思考、学習、推論、問題解決
を 形 式 的 な 側 面 に お いて 共 有 して き た 。 事 実 そ う で あ る こ と は 言 を 俟 た な い 。 し か し 、
我 々 文 明 人 の 事 物 に 対 す る 視 点 が 認 知 学 に お ける 人 の 解 釈 は 皆 同 じ と い う 考 え は 一 掃 さ
れ 、 東 洋 と 西 洋 と で は 事 物 に 対 す る 知 覚 や 思 考 の 体 系 が 異 な って い る と い う 結 論 を 得 た
のである。
東 洋 と 西 洋 の 違 い は ど こ に あ る の か 。 一 言 で 言 え ば 、 西 洋 人 は 木 を 見 て、 東 洋 人 は 森
を 見 て い る 。 つ ま り 、 西 洋 人 は 、 物 事 を カ テ ゴ リ ー に 分 類 して 認 識 す る の に 対 して、 東
洋 人 は 広 い 文 脈 の 中 で 特 定 の 物 事 を 認 識 す る の で あ る 。 いず れ に せ よ 、 両 者 の 間 に 個 人
差はあるものの、本質的な事物に対するアプローチに違いがある。今日、10億人を越
え る 人 々 が 古 代 ギ リ シ ア の 知 的 遺 産 を 受 け 継 ぎ、 一 方 で、 2 0 億 人 を 越 え る 人 々 が 古 代
中 国 の 思 想 的 伝 統 を 受 け 継 いで い る 。 ギ リ シ ア 人 は 主 体 性 の 観
念を強く持ち、あらゆる束縛から解放された人生を謳歌し安閑
と して い た 。 ギ リ シ ア 人 に と っ て 個 人 と は 唯 一 無 二 の 存 在 で あ
り、汎神論に見られるように、諸概念や法則が一神教であれ多
神 教 で あ れ 、 一 つ の 神 へ と 偶 像 化 さ れ 完 全 な 個 性 を 有 して い
た 。 一 カ 所 に 留 ま らず、 エ ピダ ウ ロ ス に 足 を 運 び 芸 術 を 体 験 す る
た め だ っ た ら 長 旅 も 惜 し ま ず、 古 代 オ リ ン ピッ ク で あ る 国 民 的 行
事であるオリュンピア祭には戦時中であろうと皆、武器をおき
観 戦 に 集 中 し た の だ 。 こ れ に 対 して 古 代 中 国 で は 、 主 体 性 よ り も
図1 菊池星希
2007(平成19)年
「始まりはどこから終わり
周囲との協調性が重んじられた。単語よりも文節を、文よりも文脈を読み、木よりも森
を 見 た の で あ る 。 こ れ は 中 国 の 三 大 宗 教 の 一 つ で あ り 中 心 思 想 で あ る 儒 教 に お いて も み
る こ と が で き 、 父 子 、 君 臣 、 夫 婦 、 長 幼 、 朋 友 は 、 五 倫 関 係2 の 維 持 に 意 義 が あ っ た 。
2
五 倫 関 係 : 儒 教 に 置 ける 5 つ の 道 徳 法 則 で あ る 。 儒 教 と は 中 国 の 主 たる 道 徳 体 系 で あ り 、 そ の 本 質 は 主 君
と臣民、親と子、夫と妻、兄と弟、友と友の間に存在する義務の集大成である。
R i c h a r d E . N i s b e t t 著 村 本 由 紀 子 訳 『 木 を 見 る 西 洋 人 森 を 見 る 東 洋 人 』 ダイヤ モ ン ド 社 2009(平成
21)年 18頁 7
同 じ 旋 律 を 奏 で、 同 じ 歌 を 歌 う 単 旋 律 の 音 楽 を 好 ん だ の で あ る 。 李 禹 煥 の 仕 事 に み ら れ
る よ う な 、 物 と 物 の 関 係 、 物 と 周 り の 空 間 と の 関 係 に お いて も 同 じ 事 が 言 える だ ろ う 。
物 の 主 体 性 を 限 り な く 無 意 味 な も の に し 、 集 団 や 組 織 と しての 物 の 関 わ り を 最 大 限 に 機
能するといった出会いはまさに東洋的である。
空 間 は も と よ り 歴 史 的 時 間 の 捉 え 方 も そ れ ぞ れ の 文 化 に よ って 異 って い る 。 時 間 の 捉
え 方 は い くつ か の 類 型 に 分 類 さ れ る 。 第 一 は 、 始 ま り が あ り 終 わ り が あ る 線 分 上 を 前 進
する時間、第二に、円周上を無限に循環する時間、第三に、無限の直線上を一定方向へ
流れる時間、第四に、始めなく終わりのある時間、第五は、始めあり終わりのない時
間 、 仏 教 に お ける 時 間 の 概 念 に は 輪
転 生 が あ る 。 図 1 の 支 持 体 に 描 か れて い る 線 は 、
こう い っ た 仏 教 観 念 に 基 づ いて 制 作 さ れ た も の で あ る 。 画 面 に 奔 る 一 本 の 線 は 、 天 面 、
側 面 、 裏 面 を 通 り 再 び 天 面 に 戻 ってくる と い う 周 期 的 な 構 造 を 持 って い る 。 永 遠 、 反
復 、 連 続 性 と は 何 か 。 私 が 目 指 して い る の は 第 二 の 、 円 周 上 を 無 限 に 循 環 す る 時 間 軸 な
のかもしれない。
第二節 一つのもの、二つのもの、他のもの
人 と の 関 わ り の 中 で 私 の 中 で ひ と つ の 疑 問 が 浮 か び あ が る 。 そ れ は ” 如 何 様 に して 個
が形成されるのか。”である。私は大衆の前で何かを公言するのが苦手である。それが
綿密に計算されたプレゼンテーションであっても結果は同じであろう。いざ環境が変
わ って し ま う と 思 って も な い こ とを 言 って し ま う 。 後 に な って 自 身 の 発 言 の 内 容 を 反 省
して も 記 憶 して い な い こ と が し ば し ば で あ る 。 内 容 よ り も 、 空 間 の 広 が り 、 空 気 の 匂
い 、 味 、 感 触 、 温 度 、 存 在 の 数 と い っ た 情 報 を 随 時 ひ ろ って し ま い 、 そ れ が 様 々 な 弊 害
を 引 き 起 こ して し ま う の だ 。 し た が って 何 か を 発 言 す る と き 、 住 み 慣 れ た 環 境 に 身 を 置
く こ と が 私 に と って 最 善 で 有 益 な 舞 台 で あ る 。 著 名 な 理 論 物 理 学 者 で あ る アイ ン シ ュ タ
イ ン の 言 葉 に 、 「 人 は 生 ま れ な が ら に して 社 会 的 な 存 在 で あ る 。 」 が あ る 。 人 は 生 ま れ
た 国 の 文 化 や 思 想 に 礎 を 築 き 、 そ の 国 の 言 語 で コ ミ ュニケ ー シ ョ ン を 行 う 。 す で にそ う
いった群衆の中に居場所が存在する。他方、狼に育てられた少年はどうだろうか。姿、
形 は 似 て い る も の の 、 そ の 行 動 様 式 は 一 変 して い る 。 と て も 同 じ 人 間 で あ る こ とを 忘 れ
て し ま う ほ ど 我 々 と は 似 て 非 な る 容 姿 を して お り 、 人 と い う よ り は 寧 ろ 狼 の 特 徴 に 非 常
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に よ く 類 似 して い る 。 移 動 す る と き は 二 本 足 で は な く 四 本 足 で 行 動 し 、 昼 間 は 体 を 休
め、夜は活発に動くという夜行性の性質を持ち合わせている。食事の時間になると狩り
を 実 行 し 野 生 の 生 肉 を 頬 張 る 。 言 葉 は 失 わ れ 、 そ れ に 変 わ って 狼 の よ う な 唸 り 声 を あ げ
仲 間 と の 意 思 疎 通 を 図 る よ う に 遠 吠 えを す る 。 し か し 「 蝶 は も ぐ らで は な い 。 で も 、 そ
の こ と を 残 念 が る 蝶 は い な い で あ ろ う 。 」3 元 来 、 同 じ 道 具 を 使 用 して き た 同 じ 「 人 」
で あ る に も 関 わ ら ず、 郷 に い れ ば 郷 に 従 い と い う 言 葉 が あ る よ う に 生 ま れて き た 環 境 が
異 な れ ば こ こ ま で 変 化 して し ま う の で あ る 。 し か し 、 両 者 の 間 に は 明 確 な 共 通 点 が あ
る 。 ヘー ゲル の 言 に 従 え ば 、 「 実 際 に 存 在 す る の は 、 な に か が 他 の も の に な る こ と で あ
り、他のものが他のものになることである。なにかが他のものと関
係するとき、何か自体が、すでに、他のものにたいする他のもので
あ る 。 か く て、 移 行 す る 先 と 移 行 す る も の と は 、 ま っ た く 同 じ も の
であり、二つは、他のものであるという同一の規定以上の規定をも
たない。となると、他のものへと移行するなにかは、自分自身と一
つ に な る し か な く 、 こ の よ う に 、 移 行 す る な かで、 そ して、 他 の も の
の な かで、 自 分 自 身 と 関 係 す る こ と が 『 真 の 無 限 』 で あ る 。 こ れ を
否 定 的 に い う と 、 変 化 して い くの は 他 の も の で あ り 、 変 化 して 他 の も
の の 他 の も の と な る 。 こう して、 否 定 の 否 定 に よ って 存 在 が 回 復 さ
れ 、 『 自 分 と む き あ う 存 在 』 が あ ら わ れ る 。 」4 の で あ る 。 一 つ の も
図2 菊池星希 2007(平成19)年
のが周囲の環境に適応した結果、自己という存在が社会的に確立さ
れ、自己は他を内包し、またその他も他に内包するという関係性に
「わたしはどこに在
るのか。」
お いて、 環 境 の 一 部 で あ る わ た し を 形 成 して い き 、 集 団 の な か の 一 つ の 変 化 が 集 団 主 義
的 な 存 在 の ア レゴ リ ー と して 「 人 」 に 体 現 さ れて い る の で は な い だ ろ う か 。 ま た 、 バー
ネ ッ ト ニュ ー マ ン の 作 品 に お け る ス ト ラ イ プ も ま た 、 メ タ フ ォ リ ッ ク に 存 在 と して の 人
を 垂 直 に 伸 び る ス ト ラ イ プ に よ っ て 体 現 さ れて い る 。 そ してそ れ は 空 間 を 超 越 す る 崇 高
な も の と して 目 の 前 に 現 前 す る の で あ る 。
3
4
ジェ リ ー • メ イヤ ー 、 ジョ ン • P • ホ ーム ズ 著 『 B i t e - S i z e E i n s t e i n 』 厚 徳 社 2 0 0 2 ( 平 成 2 4 ) 年 2 1 頁
ヘー ゲル 著 長 谷 川 宏 訳 『 論 理 学 』 作 品 社 2 0 0 2 ( 平 成 2 4 ) 年 2 1 9 頁
9
図2は、定規で引いた線と、身体性のある手で引いた線を、天から地、地から天へと
天 地 に 接 して い る 垂 直 に の び る 支 持 体 に 永 遠 と 描 いて い っ た 作 品 で あ る 。 こ の と き 、 一
つ の も の に わ た し と い う 存 在 が ど こ で 関 わ って い くの か と い う 追 求 が あ っ た 。
第三章 四辺の調和
創 作 す る 上 で い くつ か 重 要 な キ ー ワ ー ド が あ る 。 無 、 存 在 、 崇 高 、 主 体 性 、 客 体 性 、
関係性、反復性、連続性、旋律、空、間、余白、余韻、矩形、配置である。それらはあ
る 輪 郭 を 覆 う よ う に 色 や 形 、 質 や 量 、 数 字 、 位 置 に 表 象 して い る 。 そ れ は 普 遍 的 で 感 覚
的なものであり、普遍性が社会だとするならば、感覚は個人である。それぞれが5:5、
6 : 4 、 7 : 3 、 8 : 2 、 9 : 1 の 比 率 に よ って 配 置 さ れて い る 。
図3 菊池星希
2008(平成20)年
「白と黒の間」
私 に と って 黒 、 灰 、 白 は 、 無 、 有 、 否 定 、 肯 定 、 静 止 、 再 生 、 飛 躍 、 余 白 を 意 味 す る
特別な色であった。(図3)有彩色はある特定の事物、具体的なものを連想する限定的
な 知 覚 の 現 実 体 験 で あ り 、 そ れ 以 外 で は な く な って し ま う と い う 危 険 を は ら んで い た 。
私 は カ テ ゴ リ ー に 収 め てそ れ ぞ れ に 名 称 を 与 え 機 能 を 限 定 す る こ と を 受 け 入 れず、 も の
( 赤 い 林 檎 ) で は な く 、 相 互 依 存 の 出 来 事 ( モ ノク ロ ーム の 林 檎 ) に 現 実 を 観 よ う と し
た 。 ゲルハ ル ト • リ ヒタ ー は 「 灰 色 は 、 特 別 な 関 係 に あ る 色 で し た 。 そ れ は 、 無 意 味
さ 、 無 、 『 ∼ で も ∼ で も な い 』 こ と だ っ た の で す。 」5 と 言 説 し 、 駒 井 哲 郎 の 「 白 と 黒
の造形」もまた例外ではないだろう。
5
ゲルハ ル ト • リ ヒタ ー 著 清 水 穣 訳 『 写 真 論 / 絵 画 論 』 淡 交 社 2 0 0 6 ( 平 成 1 8 ) 年 3 2 頁
10
図5、6、7の「空、間Ⅰ」、「空、間Ⅱ」、「四
辺 の 調 和 」 は 矩 形 の な か の 正 方 形 と しての 意 味 合 い
が 強 い 。 矩 形 と は 、 例 え ば ア ップル 社 の タ ブ レ ッ ト
端末であるiPad2のようなものとは区別できる。矩
形は縦と横に延びる辺と辺、面と面は常に90度とい
図4 「鳥獣人物戯画 甲巻」
う 角 度 を 前 提 条 件 に 配 置 さ れ 、 i P a d 2 の デ ザイ ン の
よ う に 辺 と 辺 を 結 ぶ 四 隅 が カ ーブ を 描 き 無 限
平安時代 12世紀
京都・東京国立博物館所蔵
に ル ープ す る 構 造 と は 異 な り 、 ま た 側 面 も 存
在 し な い 二 面 性 の 性 質 に よ って 量 は 失 わ れて
い な い 。 そ して 「 正 方 形 」 と は 縦 に も 横 に も
広がらない中立的な立場を保とうとするも
の、観る者の視点を限定せず立つ位置によっ
て色々な色に輝く開かれた空間であり、否定
的 に 言 え ば 停 止 して い る も の で あ る 。 こ れ ら
図5 菊池星希
2010(平成22)年
矩形が配置される空間は、天と地の広さに
「空、間Ⅰ」
よ って 示 す 時 と 間 、 主 体 と 客 体 の 関 係 性 で あ る 。
元 来 、 白 銀 比 と 同 様 に 正 方 形 は 日 本 人 に 好 ま れて き た 。 白
銀比とは1:1,41の比であり正確には1:√2の比であるのに対し
て、 正 方 形 は 1 : 1 で あ る 。 白 銀 比 は 均 斉 の と れ た 美 し い 比 率 で
あ る と 言 わ れ 日 本 の 仏 像 や 建 築 物 な ど に よ く み ら れて い る 。
身 近 な と こ ろで は A 4 の 紙 や は が き 、 法 隆 寺 の 五 重 塔 な ど が そ
う で あ る 。 鳥 獣 人 物 戯 画 に 描 か れて い る カ エ ル
図6 菊池星希
2010(平成22)年
「空、間Ⅱ」
や阿修羅の比率もまた例外ではない。鳥獣人物
戯 画 、 甲 巻 の 相 撲 の 左 か ら 二 番 目 に 描 か れて い
る カ エ ル は 白 銀 比 に よ って、 一 番 右 に 描 か れて
いるカエルは正方形の比によって描かれてい
る。(図4)阿修羅像も顔は正方形、手先から
図7 菊池星希
2011(平成23)年
足 下 に か け て は 白 銀 比 に よ り 構 成 さ れて い る 。
日 本 人 に と って 白 銀 比 、 正 方 形 は 身 近 な 存 在 だ っ
11
「四辺の調和Ⅰ」
た と 言 える だ ろ う 。 こ れ ら 正 方 形 を 任 意 の 場 に 配 置 して い く こ と が 、 同 時 に 自 ら の 存 在
を証明するものであった。自身が客体と関わる余地があるのは、鑑賞と配置の機会だけ
で あ る 。 芸 術 は 本 質 的 に は 生 死 と 関 わ って い る 。 有 は 無 と 切 って も 切 り 離 せ な い 表 裏 一
体の関係似ている。
例えば、「赤信号、みんなで渡ればこわくない。」という言葉がある。確かに一人よ
りも二人、二人よりも三人のほうが、一人が背負うリスクは軽減されるだろう。しか
し 、 こ こ で の 一 人 と しての 存 在 は 数 で し か な い の だ ろ う か 。 否 、 個 人 と い う 存 在 は 場 に
対 して 触 媒 し 化 学 反 応 を 起 こ す こ と で、 ま っ た く 新 し い 別 の な に か を 空 間 に 生 成 す る の
で あ る 。 すべ て を 受 け 入 れ る と い う こ と は 、 すべ て を 拒 否 す る と い う こ と だ 。 一 つ を 選
択 す る と い う こ と は 、 すべ て を 否 定 し な け れ ば な ら な い 。 物 事 を 俯 瞰 し て 、 つ ま り ゲ
シ ュ タル ト 的 に 全 体 を 見 渡 す こ と は で き る が すべ て を 受 け 入 れ る こ と が で き な い 。 文 脈
の な か の 個 と して、 あ る い は 個 が 文 脈 に 与 える も の と しての 意 味 を 0 , 1 , 1 , 2 , 3 , 5 , 8 • • • の 1
の正方形に体現した。
図 6 の 作 品 は 、 内 側 か ら 外 に 向 か って い く エ ネ ル ギ ー と 、 外 側 か ら 内 側 に 向 か って い
く 力 を 表 現 して い る 。 主 体 性 と 客 体 性 、 木 と 森 に つ いて、 考 え 始 め た き っ か け の 作 品 で
もある。図5の「空、間Ⅱ」は図6の「空、間Ⅰ」の延長につくられたもので関連づけて
制 作 さ れ た も の で あ る 。 複 数 あ る こ れ ら の 支 持 体 を 、 く り 抜 か れて い る 空 に 対 して、 同
じ 大 き さ の も の を は めて い く 。 す る と 、 複 数 の 支 持 体 が 一 枚 の パ ネ ル に 帰 結 す る よ う な
構造になっており、一番大きい支持体と一番小さい支持体の大きさは、図6「空、間
Ⅱ」の大きさと等しくなっている。図7の作品は、黄金分割によって取り出した正方形
と 、 白 銀 比 に よ って わ り だ し た 支 持 体 の パ ネ ル を 組 み 合 わ せ た も の で あ る 。 黄 金 比 の 比
率は古くから西洋に多くみることができ、黄金比は宇宙で最も美しい数値であるのと同
時 に 自 然 界 の 事 物 の 基 本 的 な 構 成 に 深 く 関 わ って い る と 一 般 的 に 考 え ら れて い る 。 ア ン
モ ナ イ ト や 向 日 葵 、 古 代 ギ リ シ ア 時 代 に 建 て ら れ た パ ル テノ ン 神 殿 や ピ ラ ミ ッ ド と い っ
た歴史的建造物、ダ•ヴインチの「最後の晩
」 、 「 ウ ィ トル ウ ィ ウ ス 的 人 体 図 」 が 描
か れ た 手 稿 は 「 プ ロ ポー シ ョ ン の 法 則 」 、 「 人 体 の 調 和 」 と も 呼 ば れて お り 、 すべ て が
黄 金 比 率 に 基 づ いて 体 現 さ れて い る 。 白 銀 比 と 黄 金 比 は 、 即 ち 、 東 洋 と 西 洋 を ひ と つ の
空間に共存、共生する中立的な立場から観た旋律である。
12
おわりに
自 作 に お いて 長 方 形 や 正 方 形 、 あ る い は そ れ が く り 抜 か れ た よ う に 虚 像 と して の 空 が
存在する画面は垂直(天、人)、水平(地、動物)、量(山、実態と虚像)、空
6 ( シ ュ ーニ ャ7 、 色 即 是 空 8 ) の 広 が り に お ける 余 韻 で あ り 、 配 置 に よ って 大 地 を 削 り 川
が 流 れて い く よ う に 余 白 、 間 が 描 か れて い く 。 虚 像 と 実 像 が 相 互 に 共 鳴 、 衝 突 し た と
き、場に抑揚のある調和が生まれるのだ。私は色、形、量、質、個性、空や間、時が、
相 互 に 出 会 い 、 共 鳴 す る 場 を 創 造 し た い 。 こ の 場 合 、 私 と い う 存 在 は 、 あ る 場 に 対 して
化合し全く別の何かを生成するのである。主体性を持った個々が、他者、すなわち文脈
と の 関 係 に お いて 自 ら を 触 媒 し 、 化 学 反 応 に よ って 環 境 の 一 部 で あ る 個 を 形 成 す る と
き 、 部 分 と 全 体 の イ ン タ ラ ク ティ ブ な 関 係 性 ( ハー モニー ) は 、 個 体 ( ス ク エ ア の 支 持
体)→群衆(意味を持たないもの)→集団(意味を持つもの)に意義をもつのである。
全 体 は 部 分 の 総 和 に 在 ら ず、 部 分 は ひ と つ ひ と つ 距 離 を 隔 て 存 在 す る が 、 我 々 が 見 る の
は 連 続 し た リズ ム で あ り 、 流 れ か ら 生 じ た 意 味 で あ る 。 こ の 流 れ は 音 楽 の よ う に 均 斉 の
と れ た 美 し い リズ ム 、 メ ロ ディ ー を 奏 でる の だ 。 「 空 」 や 「 間 」 は 、 こ れ ら に 音 階 を 与
え る 。 そ して こ れ ら は 自 然 の 事 象 に お け る 調 和 で あ り 、 生 命 の 息 吹 で あ り 、 鼓 動 な の
だ。人と人、物と物の間には、空が在り、間が在り、余白が在る。風向きをみてみよ
う。風が吹くところに人は集まる。人が集まったところに空、間がある。この空、間
は 、 風 の 通 り 道 を 知 って い る 。 諸 事 物 は こ の 風 通 し の い い リズ ム に あ わ せ て 生 命 に 心 地
6
空(シューニャ):現実の究極的な実態である。
1 4 世 ダ ラ イ • ラ マ 著 大 谷 幸 三 訳 『 空 と 縁 起 人 間 は ひ と り で は 生 き ら れ な い 』 同朋舎出版 1995(平成
7)年 74頁
7
śūnya (シューニャ):ふくれ上がって中がうつろなことの意。転じて、無い。欠けた。またインド数学では零を意味
する。諸の事物は因縁によって生じたものであって、固定的実体がないということ。縁起しているということ。合成語
の終わりの部分として、「•••が欠如している」「•••がない」という意に使われるが、単なる「無」(非存在)ではな
い。
広説佛教語大辞典上巻 中村元著 東京書籍株式会社 311頁 2001(平成13)年6月21日
8
色即是空:般若経の諸本にこれと同類の表現が反復されるなかで、般若心経のこのフレーズは特によく知られる。色
は、かたちあるもの、現象する対象、物質的な存在の総体をいい、いっさいを五蘊に分つその第1で、たんに〈もの〉と
みなしてもよい。「色は即ちこれ空なるが故に、これを真如実相といふ。空は即ちこれ色なるが故に、これを相好•光明
といふ。」〔往生要集大文第4〕
岩波 仏教辞典 第二版 中村元 福永光司 田村芳郎 今野達 末木文美士 編集者 株式会社岩波書店 417頁 2002(平成14)年10月30日
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よ い 旋 律 を 奏 でる の だ 。 私 は こ の 音 楽 が 好 き だ 。 カ テ ゴ リ ー 化 さ れ た 対 象 で は な く 、 ス
ク エ ア が 文 脈 の 中 で、 相 互 の 距 離 が 認 め ら れ 、 余 韻 が 感 じ ら れ る 空 、 間 、 こう い っ た 場
が 創 造 さ れ る こ と を 望 んで い る 。 か く して、 曖 昧 な 対 象 を 無 限 の 輪 郭 で 捉 え よ う と い う
試みであるのかもしれない。次作は“崇高”という枠に配した新しい試みである。これま
で の 創 造 は 自 身 の 置 か れて い る 環 境 に 比 例 して 作 品 の 大 き さ が 限 定 さ れて い た 。 未 来 は
身 の 丈 を 超 越 し 未 曾 有 の 世 界 が 広 が って い る 。 垂 直 と 水 平 の 構 図 、 量 、 空 と い う 問 題 が
局面を迎えた。
14
〈引用〉
1 − 14世ダライ•ラマ著 大谷幸三訳 『空と縁起 人間はひとりでは生きられない』同朋舎出版 1995(平成7)年 89頁
2−Richard E.Nisbett著 村本由紀子訳 『木を見る西洋人 森を見る東洋人』ダイヤモンド社 2009(平成21)年 18頁
3 − ジェ リ ー • メ イヤ ー 、 ジョ ン • P • ホ ーム ズ 著 『 B i t e - S i z e
Einstein』厚徳社 2002(平成24)年 21頁 4 - ゲ オル ク • ヴィル ヘ ル ム • フ リ ー ド リ ヒ • ヘー ゲル 著 長 谷 川 宏 訳 『 論 理 学 』 作 品 社 2002(平成24)年 219頁
5 − ゲル ハ ル ト • リ ヒ タ ー 著 清 水 穣 訳 『 写 真 論 / 絵 画 論 』 淡 交 社 2 0 0 6 ( 平 成 1 8 )
年 32頁
6 − 14世ダライ•ラマ著 大谷幸三訳 『空と縁起 人間はひとりでは生きられない』同朋舎出版 1995(平成7)年 74頁
7−広説佛教語大辞典上巻 中村元著 東京書籍株式会社 311頁 2001(平成13)年6月21日
8−岩波 仏教辞典 第二版 中村元 福永光司 田村芳郎 今野達 末木文美士 編集者 株式
会社岩波書店 417頁 2002(平成14)年10月30日
〈参考文献〉
•李 禹煥『余白の芸術』みすず書房 2004(平成16)年
• ゲルハ ル ト • リ ヒタ ー 著 清 水 穣 訳 『 写 真 論 / 絵 画 論 』 淡 交 社 2 0 0 6 ( 平 成 1 8 ) 年
• 東 野 芳 明 著 『 マル セ ル • デュ シ ャン 』 美 術 出 版 社 1 9 7 7 ( 昭 和 5 7 ) 年
• 本 江 邦 夫 著 『 C A R P D I E M ー そ の 日 を 摑 め 』 『 モ ー リス • ド ニ に か んす る 覚 書 』
『 孤 高 に して 絶 対 的 な イメ ー ジ 』 『 時 空 の 収 縮 』 2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年 多 摩 美 術 大 学 で
の 本 江 邦 夫 の 講 義 「 美 術 史 I 」 の 配 布 テ キス ト よ り
• Richard
E . N i s b e t t 著 村 本 由 紀 子 訳 『 木 を 見 る 西 洋 人 森 を 見 る 東 洋 人 』 ダイヤ
モンド社
2009(平成21)年
• 小坂国継著 『西洋の哲学•東洋の思想』講談社 2008(平成20)年 15
• Geert Hofstede著 岩井紀子 岩井八郎訳 『多文化世界』有斐閣社 1997(平成9)年
• 加 藤 周 一 著 『 日 本 文 化 に お ける 時 間 と 空 間 』 岩 波 書 店 2 0 0 7 ( 平 成 1 9 ) 年
• 相沢義男著 『存在論 なぜ無ではなく世界が存在するのか』彩流社 2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年
• 金悠美著 『美学と現代美術の距離』東信堂 2004(平成16)年
• 14世ダライ•ラマ著 大谷幸三訳 『空と縁起 人間はひとりでは生きられない』
同朋舎出版 1995(平成7)年
• ク レメ ン ト • グ リ ーンバー グ 著 藤 枝 晃 雄 訳 『 グ リ ーンバー グ 批 評 選 集 』 勁 草 書 房
2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年
• 松浦寿夫 岡崎乾二郎著 『絵画の準備を! Ready for painting!』朝日出版社 2005(平成17)年
• マル ティ ン • ハイ デ ッ ガ ー 著 細 谷 貞 雄 訳 『 存 在 と 時 間 』 上 下 巻 ち く ま 学 芸 文 庫 2009(平成21)年
• ルネ•デカルト著 谷川多佳子訳 『方法序説』 岩波文庫 2006(平成18)年
• ゲ オル ク • ヴィル ヘ ル ム • フ リ ー ド リ ヒ • ヘー ゲル 著 長 谷 川 宏 訳 『 論 理 学 』 作 品 社 2002(平成24)年
〈図版一覧〉
• 図 1 ー菊池星希「 始 ま り は ど こ か ら 終 わ り は ど こ ま で 」 2 0 0 7 ( 平 成 1 9 ) 年
• 図 2 ー 菊池星希「 わ た し は ど こ に 在 る の か 。 」 2007(平成19)年
• 図 3 ー 菊池星希「 白 と 黒 の 間 」 2008(平成20)年
• 図 4 ー 「鳥獣人物戯画 甲巻」京 都 ・ 東 京 国 立 博 物 館 所 蔵 平 安 時 代 1 2 世 紀
• 図 5 ー 菊池星希「 空 、 間 Ⅰ 」 2010(平成22)年
• 図 6 ー 菊池星希「 空 、 間 Ⅱ 」 2 0 1 0 ( 平 成 2 2 ) 年
• 図 7 ー 菊池星希「 四 辺 の 調 和 Ⅰ 」 2 0 11 ( 平 成 2 3 ) 年
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