Comments
Description
Transcript
医療の質改善取り組みの報告のための SQUIRE ガイドライン 説明と
資料 6 医療の質改善取り組みの報告のための SQUIRE ガイドライン 説明と詳細 The SQUIRE (Standards for QUality Improvement Reporting Excellence) guidelines for quality improvement reporting: explanation and elaboration G Ogrinc,1 S E Mooney,2 C Estrada,3 T Foster,4 D Goldmann,5 L W Hall,6 M M Huizinga,7 S K Liu,8 P Mills,9 J Neily,10 W Nelson,11 P J Pronovost,12 L Provost,13 L V Rubenstein,14 T Speroff,15 M Splaine,16 R Thomson,17 A M Tomolo,18 B Watts19 Qual Saf Health Care 2008 17: i13-i32 doi: 10.1136/qshc.2008.029058 訳者:大曲 貴夫 , 倉井 華子 , 冲中 敬二 , 河村 一郎 , 羽田野 義郎 , 鈴木 純 静岡がんセンター 感染症内科 要約 ヘルスケアにおける質改善の科学化が進むのにしたがい,発表された論文を通じて成果を共有することの重要性は増 していく.ヘルスケア領域における質改善の取り組みの報告は,現時点では内容と質の両方においてばらつきが大きい. このような背景のもと,この課題に関して関係を有する各学問領域の有力者からなるグループは Standards for Quality Improvement Reporting Excellence を作成した.私たちはこれを SQUIRE ガイドラインもしくは SQUIRE 声明と呼んでい る. SQUIRE 声明は,医療の質改善に関する論文を執筆する際に著者が考慮する必要のある 19 の項目に関するチェックリス トから成っている.チェックリストの項目の大部分はすべての科学的報告に共通であるが,実際にはそのほとんど全てが医 療の質改善領域特有の事情に合わせて変更されている. この「説明と詳細」文書(E&E ドキュメント)は SQUIRE 声明と組になっている.本文書は,SQUIRE ガイドライン の各項目ごとにすでに発表された論文 1 〜 2 編を例として提示し,ガイドラインの各項が意図する内容を,例となった論 文がどのように示しているかを分析して提示している. SQUIRE E&E ドキュメントの目的は,他の生物医学領域のガイドラインのために作成された説明・詳細文書と同様に,論 文の著者が質改善プロジェクトを終えてから論文を公表するまでの過程において著者を導くことにある.SQUIRE 声明お よび SQUIRE E&E ドキュメントそのものと,質改善報告に関する追加の情報は,http://www.squire-statement.org で見つ けることができる. 論文報告に関するガイドラインは,過去の 10 年間で,研究者・医学誌編集者・査読者そして読者らによる医学の 知識基盤の充実のための真摯な取り組みとともに,生物医学論文の領域で重要な役割を果たした.無作為化比較試験 (CONSORT)1) 2),診断精度研究(STARD)3),疫学的観察的研究(STROBE)4),無作為化比較試験のメタアナリシスと系統 的レビュー(QUOROM)5),および観察的研究のメタアナリシス,および系統的レビュー(MOOSE)6),およびそのほかの デザインや内容の領域に関して,ガイドラインが開発された. これまでのところ質改善の報告を行うことは大変に困難であっ 資料 6 357 資料 6 たが,それは一つには質改善の領域の業績は疾患の病理を検討するプロジェクトとは異なる目標と方法を有しているからで ある.質改善プロジェクトに関するデザイン,介入の種類,データ収集,および解析には,既存の公表ガイドラインがうま く適用できない. 1999 年に Quality in Health Care (その後 Quality and Safety in Health Care と改名された)の編集者たちは,質改善 研究(quality improvement reports ;QIR) に関するガイドラインを発表した 7).これらの勧告は, 「質の高い実践を普及 させるために」提供され,実践家が「監査および質研究の科学が成熟するに伴って,実践形がお互いから学びあう機会を持 つことができる(p76)」ことを意図していた.それ以来,QIR は 50 以上の発表された論文で使用されている. QIR が質 改善に関する短報のための優れた構造様式を提示しているのに対して 8),さらに大規模で複雑な質改善研究のためには,更 に詳細かつ包括的なガイドラインが有用であろう 9). 質改善(QI) は根本的には人間のふるまいにおける変化の過程であり,主に経験に基づく学習によって推進される. こ のような背景のもと,改善のための介入の発生・発展は社会政策および社会プログラムの変化との共通点が多い. 同時に, 臨床実践においては利害が大きいため,改善のための介入に効果があるのかどうか,効果があるとしてどのように効果を示 すのかについて正確に記載した,可能な限り最良の質の高いエビデンスを提供する必要がある.質改善研究はこの2つの観 点からの認識が必要であるため,きわめて難しいものとなっている.なかでも,改善プログラムを学術コミュニティの外で 実践している「最前線の」医療従事者にとってはきわめて敷居の高いものとなってしまっている.最後に,多くの雑誌編集 者,査読者,研究資金提供機関,およびそのほかの利害関係者は,質改善プロジェクトの研究および報告に用いられる方法 論に慣れていない可能性がある 9). 質改善に関する業績の報告方法に統一性がなく,その完成度と透明性についてもばらつきが多いことの一つの要因は,コ ンセンサスに基づくガイドラインが存在しないことである.ここに疑いの余地はない.報告方法に多様性が大きいために, 質改善研究の進歩の速度は遅くなってしまい,伝統的な科学的な研究手法(つまり実験科学領域の研究手法)が形通りに質 改善研究に適用されてしまっている 10).また一方で全く逆の立場をとるものもおり,どのような方法が,どのような状況 で誰のために有効であるかを地域で学ぶことを発展させるため,広範でサイクルの短い短期間の改善運動を推進することを 呼びかけてきた 11).私たちの見解では,これは「あれかこれか」の議論ではない.むしろ,伝統的な研究と質改善研究の 双方が,患者とシステムに恩恵をもたらすための介入を開発し実行するための情熱を共有すべきである.研究と臨床的なケ アの提供は,ともに系統的・明瞭・正確な質改善報告から恩恵を被ることであろう. 改善のための努力は,新しく一般化可能な科学知識を発生させることに関してというより,むしろ特定の現場におけるケ アの改善を主たる目的として行われる.このような観点からは,多くの改善のための取り組みは (多くの政策がその例で ある ) それぞれの現場に特異的なものである. 質改善運動は本来現場に特異的なものであるが,ケアのシステムやそのケ アシステムをどのように変化させていくのが最もよいかについての重要で新規性が高く,なおかつ一般化可能な知識をしば しば生み出す.SQUIRE ガイドラインは,質改善のための介入の大小や,簡単か複雑であるかにかかわらず,これらの介 入を綿密に注意深く詳細にわたって研究することよって得られた知識を共有するための,明確な枠組みを提示する. SQUIRE ガイドラインと SQUIRE E&E ドキュメントの作成過程 SQUIRE ガイドラインは専門家パネルおよび一般からのフィードバックをもとに,系統的な検証過程を通じて練られて いった. これについての詳細は別に記載がある 12).簡潔に述べれば,まずは 2005 年 9 月のガイドラインの最初の発表 9), 一定期間のパブリックコメントの募集,2007 年のコンセンサスカンファレンス,これとは別時期に行われた E-mail での フィードバックという過程を経て現在の文書の形となった. SQUIRE ガイドラインは, 「主として,質改善に関する最も強力でもっとも確定的なエビデンスの,専門家による査読の ある,評価の確立した学術誌等への発表を支援することを主たる目的としている」9)(P321.E&E ドキュメントでは私た ちは SQUIRE ガイドラインチェックリストを用いており(表 1) ,ガイドラインで取り上げた項目がどのように適用される のかを示すために,既存の文献から模範的な例を提示している.この E&E ドキュメントは,論文の著者たちが SQUIRE 358 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 ガイドラインを用いた論文を発表することによって,彼らの取り組みの成果を共有するための取り組みをはじめることの支 援を目的に作成されている. 私たちは,E&E ドキュメントのために,質改善の領域に特化した研究を公表したことのある人々を招いてグループを結 成し,各人に SQUIRE ガイドラインの項目(表 1)を割り当てた.著者たちは各項目の概要をよく示している論文を1つ もしくは2つ選定した.著者らは各項目に関するコメントを執筆し,例となる論文を引用しながらガイドラインの項目の詳 細について解説を行った.この E&E ドキュメントの中で取り上げた論文のうち,初版の SQUIRE ガイドラインを使用し て書かれた論文は数本であった 9).この E&E ドキュメントは,SUIRE ガイドラインを使用して質改善に関する整った形 の論文を誌筆することが可能であることを示している.また,E&E ドキュメント内の多くの項目では,引用された論文の 質向上のために何ができたかについて,記載を行っている.加えて,相互の項目で内容を関連づけさせているところもある (例としては,研究課題(項目 6)とまとめ(項目 14)が相互に関連している) . E&E ドキュメントをどのように使うか 例の中にはさまざまな研究デザインが含まれている. 単一の施設内での改善の取り組みについて触れているものもあれ ば,他施設研究について触れているものもあり,介入を計画するためのシミュレーションについての報告もある. 私たち はこれらの例を選ぶ際に,現状における質改善の領域の業績の多様性を示すように努力した.この E&E ドキュメントを, 論文執筆の際の手引きとして使用していただきたい.SQUIRE ガイドラインを使用して論文を書き始めたばかりであれば, 私たちはまず本文書の全体を読んで,各項目に十分親しみ,各項目間の相互作用や相関についてよく把握することをお勧 めする.論文執筆の経験が十分にあるのならば,おそらく,この文書全体をざっと眺めたうえで,改善目標(項目 5),介入 が行われた状況(環境)に関する記述(項目 8),介入の導入によるアウトカム(項目 13(a)) など,他では触れられていな い SQUIRE ならではの項目について深く探求していくだろう.この E&E ドキュメントは 読者が研究を行う場合の手段・ デザイン・分析方法の選択を導くことを意図しているわけではなく,むしろ改善についての論文記述を行う場合の指針とし て書かれている.しかし私たちは,本文書に取り上げられている内容の多くが,質善改良プロジェクトの計画と実行に役に 立つ可能性があることは認識している.この E&E ドキュメントの中には,デザインについて他の同様の文書よりも多くの 情報を含んでいる箇所もある.プロジェクトを展開しはじめる段階で,SQUIRE ガイドラインとこの E&E ドキュメント が論文の骨格作成に役立つかもしれない. SQUIRE ガイドラインの記載内容は他のガイドラインの記載内容と相反するものではない.例えば,無作為化比較試験 デザインを使用した改良プロジェクトもしくは有効性研究を行う場合には,CONSORT ガイドライン 1) 2) と SQUIRE ガ イドラインの両方を適用することを真剣に考慮すべきである.同様に,大規模な観察的もしくは質的手法を使用する改 良プロジェクトでは,SQUIRE ガイドラインとともに STROBE 4) ガイドラインの適用を考慮すべきである. 私たちは, SQUIRE ガイドラインが他の公表ガイドラインと相乗的に効果を発揮すると強く信じており,これらを同時に用いること で,いずれかのガイドラインを単独で用いた場合よりもさらに完成度の高い論文原稿ができあがると考えている. SQUIRE チェックリストは 19 の異なった項目で形成されているが,著者(または,学術誌の編集者 ) によっては,情報 の流れもしくは学術仕事の特定の必要要件に基づいて,2 つ以上の項目からの情報を結合して用いるかもしれないと私たち は考えている.私たちは,それぞれのガイドライン項目を厳密に適用するのではなく,これらのガイドラインをプロジェ クトを明確に記述するために使用することを勧める.ガイドラインをあまり厳格に使用しないように注意を促しておく. 1995 年に行われた検討では,論文原稿に対して Standards of Reporting Trials (SORT) が厳格に適用されたが,その結果 読みにくく,論理的に不合理であり,長々とした論文原稿が出来上がった 13)14).ガイドライン項目の多くが多量の情報を含 んでいるので,厳密にそれらを固く守ると,多くのジャーナル要件(すなわち,通常約 3000 の単語を上限とする ) をは るかに超える長い論文ができあがってしまうだろう.表(項目 13(a),アウトカム) ,図(項目 12 分析と項目 13(b),アウ トカム) ,リストまたはフローチャート(項目 4 局在的な問題,もしくは項目 8 状況(環境 ) )にまとめることができる項 目もある.私たちは,著者が簡潔で明確な原稿を作成するために,各項目を意識して統一して用いることを奨励する.これ らの項目が全て言及されるべきではあるが,各項目は,別々の見出しか小見出しを用いて示される必要はない.このガイド ラインは,論文草稿の完全性・精度・および透明性をチェックするのに最も適している. 資料 6 359 資料 6 表 1 SQUIRE ガイドライン (Standards for QUality Improvement Reporting Excellence) の番号付き各項目とチェッ クリスト 表題と要約 Title and abstract あなたの論文が(正しく)検索に掛かり,分類,参照されるよう,明快で正確な情報を提供したか? 1.表題 Title a. 表題は論文が質の改善(広義には患者ケア上の安全、効果、患者中心主義、適時性、効率、公平性など) に関連していることを示す. b. 介入の目的について明示されている. c. 研究に用いられた方法を明示している(例えば、 「質的研究」もしくは「ランダム化クラスター研究」など) 2.要約 Abstract 本文の各セクションからのカギとなる情報を全て,投稿先の要約様式に従って,的確にまとめる. 緒言 Introduction なぜ, (このような研究を)始めたのか? 3.背景 Background knowledge 検討しようとしているケア上の問題についての簡潔で偏りがない最新の知識の要約や、それらの問題が起こっ ている組織の特徴について記す. 4.局在的な問題 Local problem 局在的に起きている特定の問題や課題となっているシステム機能不全の性質や深刻さについて記述する. 5.改善しようとしていることについて Intended improvement a. 提言している介入の具体的な目的(診療手順や診療結果における変化 / 改善)について記述する. b. 誰(呼びかけ人、支持者)が、そして何(出来事・実態)が,変化を起こさせようとの決断のきっかけと なったのか、およびそれがなぜ今(タイミング)なのかを明確にすること 6.研究で問おうとしている疑問点について Study question 介入によってもたらされる主要な改善点に関連する研究課題や、二次的な研究課題に関して的確に記載する 方法 Methods 何をしたのか? 7.倫理的論点について Ethical issues 改善を実際に行い,それについて調査するうえで問題となる倫理的問題、具体的にはプライバシーへの懸念や 参加者の身体的健全さの保護、著者の潜在的利益相反などについて言及し、これらの問題に対してどのように 対処がなされたかについて記述する. 8. (研究対象の)状況(環境)Setting 改善活動が行われた一つのあるいは複数の現場で,改善活動に最も影響を及ぼすのではないかと考えられた局 在的なケア環境の要素がどのようなものかが特定され,特徴づけられたかを明記する. 9.介入を計画する a. 介入内容とその構成について、他の人たちが再現できる程度に十分詳しく記述する. b. 特定の介入を選択するのに寄与した主要な因子(例えば,(システム)機能不全の原因についての分析, 対応する他施設での改善経験と局在的な状況との対比,など)を示す. c. どのように介入を実施するかについての初期計画を略述する…例えば,何をなすべきか(最初のステップ は何か,これらのステップで成就できる機能は何か,介入を修正するために変化についての検証をどのよ うに用いるのか) ,そして誰が行うのか(意図された役割,資格,スタッフのトレーニング)など . 360 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 10.介入についての研究を計画する Planning the study of the intervention a. いかにうまく介入が実施されたかを評価するための計画について略述する(用量や曝露の強度). b. 介入の各要素が変化を起こす仕組み(理論)と,その仕組みが実際に有効なのかどうかについて検証する ための計画を記述する. c. 該当する場合には,主要および二次的アウトカムに対する介入の影響を測定するために選択された研究計 画(例えば,観察,擬似 ‐ 実験的,実験的など)を特定する.. d. 選択した研究計画の必須部分の実施プランについて,該当する場合には,個々の研究計画毎に定められた 投稿指針(例えば,www.equator-network.org )に従って説明する. e. 内的妥当性(データの統合性) ,外的妥当性(一般化可能性)に関連する研究計画の個々の側面について 記述する. 11.評価の方法 Methods of evaluation a. (a) 介入の有効性、 (b)介入の有効性についての介入要素と背景要因の寄与,(c)主要および二次的アウ トカムを評価するために、調査手段と実施方法(質的,定量的,ミックス法など)について記述する . b. 評価手段の信頼性を保証し,検証するために行った努力について報告する. c. データの質と適切性を保証するための方法について説明する(例えば,盲検化,測定とデータ抽出の繰り 返し,データ収集に際してのトレーニング,十分な基礎測定値の収集など). 12.分析 Analysis a. データが意味するところを引き出すのに使った質的ないしは定量的(統計的)方法の詳細を提供する. b. 該当する場合には,分析の各単位を,介入が実施されたレベルに合致させる. c. 実施に当たって起こりうるバラツキの度合い,主要アウトカムに起こりうる変化幅(エフェクトサイズ) および採用された研究デザイン(研究規模を含む)がこれらの効果を検出する能力を明確にする. d. 変数としての時間の効果を示すのに用いられる分析方法を記述する(例えば,統計的プロセス制御など). 結果 Results 何がわかったのか? 13.アウトカム Outcomes a. (研究対象の)状況(環境)と改善のための介入の性質について i. 研究に関連した環境要素(例えば,地形,物理的資源,組織の文化、過去の改革努力など),および介 入の背景を形成しているケアの組織と様式(例えば,スタッフ,指導者の職務)を明確に記載する. ii. 介入の実際の筋道(例えば,各段階の順序,出来事または局面,キーポイントにおける参加者のタイプ と数)を, (例えば,介入の手順,事象,相,カギとなるポイントでの参加者のタイプと数など)について, できれば時系列表やフローチャートを用いて説明する. iii. 介入の諸要素導入における成功の度合いについて記録する. iv. どのようにして,また,なぜ,最初の計画が生まれたのか,そして,それが生まれる中で学んだ最も重 要な教訓,特に,変化の試みから得られた内的フィードバックの効果(反射作用性)について記述する. b. 介入したことによって生じたケアプロセスと患者アウトカムの変化 i. ケア提供プロセスで見られた変化に関するデータを提示する. ii. 患者アウトカム(例えば,死亡,偶発症,機能,患者 / スタッフの満足度,サービス活用,費用,ケア の不公平など)の測定で観察された変化についてのデータを提示する. iii. 得られた利点,有害点,予測しなかった結果,問題,失敗を考慮する. iv. 観察された変化 / 改善と介入の要素 / 背景要因の間の関連の強さについてのエビデンスを示す. v. 介入とそのアウトカムについての欠損データのまとめを含める. 資料 6 361 資料 6 討論(考按)Discussion 結果は何を意味するか? 14.まとめ Summary a. 介入要素の遂行において最も重要な成功と困難,ケア提供と臨床アウトカムにおいて観察された主な変化 についてまとめる. b. 当該研究の特別の強みについて強調する. 15.他のエビデンスとの関係 Relation to other evidence 広く文献をレビューすることによって,他の関連する所見と当該研究結果を比較し,その違いを示す.これま でのエビデンスをまとめるには表を使って要約するのが便利. 16.限界 Limitations a. デザインにおける交絡,バイアス,あるいはデザイン・測定・解析上の不完全な点などの,研究のアウト カムに影響を与えたかもしれない要因について考慮する(内的妥当性). b. 一般化可能性(外的妥当性)に影響を与える要因について調べる.…例えば,参加者の代表性,実施の有 効性,用量―反応効果,局在的なケア環境の特徴など c. 観察された利点が時間とともに減退するかもしれない可能性について検討し,もしあれば,改善をモニター し,維持するための計画について記述する.もしそのような計画がなされていなければそのことをはっき りと記載する. d. 研究の限界を最小にし,調整するために行った努力について要約する. e. 研究の限界が結果の解釈や適用に生じさせる影響について評価する . 17.解釈 Interpretation a. 予期した結果と実際の結果が食い違った理由が何かを調べる. b. 特に,介入の有効性(ないしはその欠如)と介入が最も有効となりそうな環境を決めるのに役立つ介入要 因と背景因子に注意を払いつつ,因果関係と観察された変化について,効果の大きさをうまく説明する推 論を提示する. c. 将来のパフォーマンス改善のために変更すべきステップを示唆する. d. 介入の機会費用と実際の経済的コストに関する課題を概括する. 18.結論 Conclusions a. 介入の全般的実際的有用性について考察する. b. この報告が将来の改善介入についての研究に与える影響について示唆する. その他の情報 Other information この研究の実施と解釈に関連するその他の要因はなかったか? 19.資金 Funding 資金源があれば記述し,研究の企画,実施,解釈,出版における資金提供機関の役割についても記述する. チェックリストの中のアイテム ここで私たちは,19 の SQUIRE チェックリストの各項目(表 1)について,既に発表された論文を例として提示する. 例は査読体制を有する雑誌に発表された論文の抜粋である. 例が提示されたのちに,例の内容についてコメントした説明 文章が続いている.例の中には,SQUIRE の勧告の観点から改善され得た点について,追加の説明が施してあるものもある. 1. 表題 362 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 a. 表題は論文が質の改善(広義には患者ケア上の安全,効果,患者中心主義,適時性,効率,公平性など)に関連して いることを示す. b. 介入の目的について明示されている. c. 研究に用いられた方法を明示している(例えば, 「質的研究」もしくは「ランダム化クラスター研究」など) 例 a) プライマリケアにメンタルヘルスを統合する質改善プロジェクトの結果 15) b) 出産施設における新生児予防サービスの改善:病院を場とした共同質改善プロジェクト 16) 解説 質改善もしくは患者の安全性の論文の表題は,その主要な焦点が品質改善や患者安全であることを示す必要がある.質改 善もしくは患者の安全性の論文には,理論的な論文や質改善に関する大規模な研究論文が含まれるため,論文では,特定 の介入の報告であることを示すとわかりやすい.上記で引用されている表題は, 「質改善プロジェクト」となっており,特 定の介入に関する報告であることを示している.読者が論文の内容を把握し,なおかつ National Library of Medicine の Medline データベース上で medical subject headings (MeSH) 上の適切なキーワードが論文に当てはめられるためには, 「質」「質改善」「患者安全」などの用語を用いることが重要である.現在の MeSH には, “healthcare quality” ,“access and evaluation” ,“quality assurance” ,“ health care” ,“quality control” ,“quality indicators” ,“ health care” ,“ quality of health care”, “total quality management”等が含まれる. 表題が介入の目的も説明しており,また可能であれば,介入の行われた場の設定や介入方法について示唆するものであっ てよい.上記の例はこの点よくできている.タイトルは論文についてのすべての情報を伝えることはできないが,読者に対 して論文の内容についてまず伝える役割を有している.簡潔で完全な表題は,読者のさらに読みすすみたいという思いをか き立てるものである. 2. 要約 本文の各セクションからのカギとなる情報を全て,投稿先の要約様式に従って,的確にまとめる. 例 a) 背景: 血圧コントロールが不十分なことは,良質のケアという観点で以前から問題となっている. 目的: 血圧コントロールを改善するために,医療従事者と患者の介入を評価する. デザイン: クラスター無作為化比較研究 研究の行われた場: Tennessee Valley の在郷軍人医療システムに属する,病院付属の診療所 2 施設および市中の 診療所 8 施設 対象患者: 本態性高血圧を有する 1341 人の患者.これらの患者に対し 182 人の医療従事者が対応にあたった.研 究に参加する患者の条件は,血圧測定で 6 カ月以内に 2 回以上血圧が 140/80mmHg を超えており,降圧薬1剤のみ を服用しているものとした. 介入: 研究参加患者を担当する医療従事者は,高血圧の予防・発見・評価・治療に関する共同全国委員会第 7 回報 告書ガイドライン(医療従事者教育),医療従事者教育および患者特異的なコンピューターによる高血圧アラートシ ステム(医療従事者教育とアラート) ,もしくは医療従事者教育・高血圧アラート・患者教育(患者は,薬剤の定期 的な服用のすすめ,生活習慣改善,医療従事者との会話をすすめる内容の手紙を受け取る)の,いずれかへのウェブ リンクを伝える E-mail を受けとるように無作為に割り付けられた. 測定: 6 カ月経過後に,収縮期血圧 140 mmHg を達成している患者の割合,および降圧薬の内容の強化の有無 結果: 平均ベースライン血圧は,157/83 mmHg であり,各群間には有意差はなかった(p = 0.105) . 6 カ月の経 過観察データが利用可能だったのは 975 例(73%)であった.担当医療従事者が患者教育群に無作為に割り付けら れていた患者は,医療従事者教育と患者固有情報アラート,医療従事者教育単独に割り付けられていた群の患者と比 較し,血圧のコントロールは良好であった(患者教育群 138/75 mmHg,医療従事者教育・患者固有情報アラート群 および医療従事者教育単独群ではそれぞれ 146/76 mmHg と 145/78 mmHg) .患者教育群内患者において,医療従 資料 6 363 資料 6 事者教育・患者固有情報アラート群および医療従事者教育単独群と比較し, 血圧が 140 mmHg である比率が高かった. 患者教育群の医療従事者教育・患者固有情報アラート群および医療従事者教育単独群と比較した場合の修正リスク比 は,1.31 [95%信頼区間 1.06 ∼ 1.62],P 値= 0.012)であった. 限界:血圧測定のフォローアップをしていた患者のうち 27%が途中でフォローできなくなった.今回の研究では患 者教育が血圧管理を改善させるメカニズムを同定することはできなかった. 結論: 医療提供者のみへの教育と比較して,患者教育を含めた複数の介入は,血圧のコントロールを改善させ た 17) . b) 背景: 具合の悪い小児への腰椎穿刺検査は,親と若手医師をともに不安にさせる.この年齢群における腰椎穿刺検 査後合併症の報告数は増加してきている. 目的: 必要とされる標準的な腰椎穿刺検査を 3 カ月以内に 100% 達成できるように,必要文書の作成,同意,手 技の改善することを目的とした. 研究の行われた場: The Royal North Shore Hospital(シドニー大学,オーストラリア・シドニー)の小児救急部 参加者: 初期研修医・後期研修医,コンサルタントを含む小児救急部スタッフ 方法: 介入開始から遡って 6 カ月以内に腰椎穿刺検査を実施した連続 40 名の小児のカルテを調べた.そして,効 果の評価目的に介入後 25 名のカルテを調べた.介入開始前に,若手医療スタッフは腰椎穿刺検査のためのマネキン (Baby Stap; Laerdel, USA)を用いて指導を受けた. 結果: 介入前の指標の中央値は 4 点(12 点満点中)であった.親への同意書取得,合併症,および鎮痛に関する 記録ほとんどなされていなかった.介入後は患者あたりの指標の中央値は明らかに改善し 12 であった(p < 0.01, 95% 信頼区間 6-8). 結論: 腰椎穿刺への介入およびマネキンを用いた手技の指導は,小児腰椎穿刺に関する記録の著明な改善をもたら す.腰椎穿刺はマネキンでの実習で許可を得た医療者のみが実施できる 18). 解説 要約の目的は,臨床現場や自身の研究と文献との間に関連性があるかどうかを読者が判断できるように,研究内容の要点 をまとめたものである.要約は Medline のような電子検索データベースに搭載される唯一の情報である.また,多くの読 者は要約の内容以上の情報を集めることはしない.事実,読者はしばしば「ボトムライン」つまりは結論から読み始め,興 味をもった場合のみ残りを読む.このため要約,特に結論は,明確・完結・正確でなければならない.読者が興味のある文 献を見つけやすいように,司書が正確に検索カテゴリーに分類するためのキーワードを要約には含めるべきである. ジャーナルによって必要な形式が異なる.このため重大な要素が要約に効果的に組み込まれている例を上記に示した.登 録形式が異なるにもかかわらず,いずれの要約も質の改善についての研究結果であることを明確に示している 17)18). 現 存する質の格差に関する記載と同様に,計画の目的および主たる目標が明確に記載されている.研究環境および参加者につ いても簡潔に記載されている.方法では,改善のための当初の戦略について記載し,結果では変化がもたらす効果の大きさ について述べる.介入そのものの変化の内容について要約の限られたスペースに記すことは困難かもしれないが,少なくと も言及はするべきである.結論では,計画の要約および,今回導きだされた「一般化できる」内容について記載する.上記 の要約はこれらを明確に記載しており,読者は全体の内容を素早く,賢明に評価することができる. 3. 背景 検討しようとしているケア上の問題についての簡潔で偏りがない最新の知識の要約や,それらの問題が起きている組織の 特徴について記す. 例 臨床的に不安定な心停止前の患者がしばしば示す徴候や症状について記載された研究は少ない.Schein らは心停止 を迎える患者のうち 70%が心停止前の 8 時間以内に呼吸状態の悪化を示すことを指摘した.その他の注意すべき徴候 としては低血圧,高血圧,頻脈,頻呼吸および精神状態の変化があった.患者の状態悪化,および医師がそれらに気づ いていることが記録されているにもかかわらず,対応が不十分であったり,対応されていなかったりすることが頻繁に 364 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 ある.Rapid response team のコンセプトは集中治療室外にも救命救急診療を広げ,早期の介入によって心停止を予防 することである.最近我々の病院で立ち上げた早期対応チームでの結成初期の経験についての評価を今回の研究で行っ た…… Saint Anthony Central Hospital はコロラド州デンバーにある都市型・レベル 1 の繁忙な市中外傷センターである. 年間 2500 名の外傷入院があり,そのうちちょうど 600 名余りが外傷重症度スコア 16 点以上の重症患者である.さら に Saint Anthony Central Hospital は Centura health hospital Network 内の 3 次紹介施設となっている.この病院 には経験豊富な外傷専門外科医や救命救急医が 24 時間毎日常駐している.同様に,集中治療医が院内に常駐しており いつでも呼び出し可能である. 2005 年 3 月より前は看護師が患者の状態悪化を発見した後,連絡を受けた院内の外傷および救命救急医が対応し ていた.ICU 外での患者状態悪化に際し有効な救命救急をベッドサイドで行えるようにするため,早期対応チームを 2005 年 1 ∼ 2 月にかけて結成した 19). 解説 質の改善のための介入方法を明確に理解するために,問題点とそれに対する介入がどのように関連しているかについての 一般的な知識を読者が得ることは必要である.このため,診療の質に影響を及ぼす一連の問題の文脈の中に今回の研究を位 置づけることが必要となる.文脈とは「互いにより合わさって事物を形成しているもの」という意味である 20). 地域にある空間的,社会的,経時的そして文化的な要素に富んだ複雑に絡み合った様々な要素が改善のためのアイデアを 刺激し,改善という色を塗るためのキャンバスを形成する.文脈の解説は周囲の物理的な状況の説明を超えて行うべきであ る.組織(参加患者のタイプ,ケアを提供するスタッフ,介入前のケアの過程)に関する一般的な記載は,今回の研究が読 者自身の実践環境に当てはめることができるかどうかの判断の手助けとなる.複数の環境での共同研究では,一覧表をもち いることが環境間の差異を要約する有用な方法となる.この一覧表はそれぞれの環境における構造や作業過程,人々や診療 パターンを明確にし,読者が結果を解釈しやすくする. 上記の例は,臨床的に増悪傾向の患者への早期対応の必要性を早期に認識するという文脈の中での改善策についてである が,著者の施設が救命救急に力を注いでいるレベル 1 の外傷センターであることについても詳細に言及している.この記 載は同様の施設に勤務する読者の注意を引きつけ,結果を自施設で適用するうえでの示唆を与えるだろう.逆にコンテクス トが非常に異なる読者にとっては,結果を適切に解釈しやすくなる. 調整研究では,選択バイアスを避けるために研究の行われている環境の調整が行われるが,質改善研究では,医療が提供 される場の実際の状況を詳述し理解しようと試みられることが多い.Pawson らは,行動変容を促すようにデザインされた, 複雑な構成からなるプログラムを発明するために“realist evaluation”で知られる調書を用いることを提案した.realist evaluation に記載されているこれに関連した質問とは 「取り組む介入がどのようなものか,誰のためのものか,どのよう な状況で,何を重視し,なぜ行うのか 21)」というものである.質の改善研究の中の,変化をもたらす背景に関する記載が, これらの質問に答えてくれる.医療における背景や地域のコンテクストの記載はチェックリスト項目3(背景知識)や 4(局 在的な問題)で適宜記載される.背景知識や地域の文脈 ,局在的な問題が全て記述されていることを確かめることに比べ れば,これらの情報をそれぞれ適切なカテゴリーに内に記載することはそれほど重要ではない. 4 局在的な問題 局在的に起きている特定の問題や課題となっているシステム機能不全の性質や深刻さについて記述する. 例 我々の研究を開始するにあたり,90% の大腸内視鏡検査完遂率は満足できる値であると考えられたため,今回のプ ログラムは英国内視鏡グループよって認められた.英国の3つの地域の調査によると大腸内視鏡検査の完遂率の中央 値は,57-73%の間で,完遂の定義により異なる.しかしいくつかの施設では完遂率を 90%以上に調節して報告してい る.米国における大規模な症例集積(3465 例の症例集積など)でのおおよその完遂率は 95%であり,通常の診療での 90%完遂率は可能であると考えられる.国際的な大腸スクリーニングプログラムを成功させる過程で,大腸内視鏡検 査の非完遂の影響は大きく取り上げられた.我々は自身の大腸内視鏡検査の完遂率が低いことに気づき,患者が不必要 な注腸検査や見落としに合わないように,技術が推奨標準に到達することを期待した 22). 資料 6 365 資料 6 解説 診療の質改善の文献の導入部分は,現存する質の差を明確に記すべきである.現在知られている標準もしくは達成可能な 最善の診療について可能な限り具体的に記載し, その地域の診療がその基準に達していないことの証拠を提示すべきである. これらの著者は,自身の地域の大腸内視鏡検査の完遂率が 57 ∼ 73% であるところを,90%は達成可能であると明確に記 している. 地域や国際間での比較・対照は,この研究を他の研究の結果に当てはめやすくする.英国での大腸内視鏡検査の完遂率を 米国のものと比較することによって,より良い施術の定量化および達成が可能であるという資料を提供することができる. 達成可能な標準診療の基準がない場合,著者は設定した診療レベルの目標の正当性について述べる必要がある. 診療の質の差の関連事項を詳細に記載することは不要であるが,個々の患者や地域のシステム, (もし該当する場合には) その国での関連事項に関する簡潔な要約は,この研究の重要点を表現しやすくする.上記の例では,不十分な大腸内視鏡検 査完遂率が,誤診や死亡率の増加,費用や法医学的なリスクなどを引き起こすことで国家の健康増進主導の妨げとなりうる ことを著者は指摘した.診療の質の差についてのさらなる示唆については,ディスカッションの項(項目 15 他のエビデン スとの関係,項目 18 結論)で述べる. 5. 改善しようとしていること,改善目的 a. 提言している介入の具体的な目的(診療手順や診療結果における変化 / 改善)について記述する. b. 誰(呼びかけ人,支持者)が,そして何(出来事・実態)が,変化を起こそうとする決断のきっかけとなったのか, およびそれがなぜ今(タイミング)なのかを明確にすること 例 我々の施設の繁忙な内科系 ICU は,長年にわたってカテーテル関連血流感染症(CR-BSI)に苦しんできた.2002 年の CR-BSI 率は国内の中央値である 5.2 /1000 catheter-days よりも 44% も高率であった.多くの病院と同様に我々 は感染対策サーベイランスとスタッフ教育に力を注いできた.しかし,この複雑な問題に対処するにはより革新的な戦 略が必要なことがわかった.他の健康管理問題における継続的な質の改善(continuous quality improvement :CQI) の効果は,その他のハイリスクな業界からの成功報告とも相まって,我々に CQI へのアプローチを考慮するよう促した. CVC(central venous catheter:中心静脈カテーテル)ケアの時間測定が内科 ICU で実現可能であると示すことが, 我々の重要な目標である.我々はこの新しい計測が CQI への取り組みとなり, CR-BSI 率の減少につながると予測した. ケアの時間計測と臨床結果との関連について認識してもらうために,我々は一括したデータをケアに関わる医療従事者 へフィードバックした. 我々は内科 ICU リーダー,感染症専門家,ICU で実際働いているスタッフ,質改善の専門家を最低限含む自発的な 他職種チームを作った.このチームの目標は,CVC ケアの時間計測システムは感染症を減らす将来の医療改善活動の 指針となるという理解のもと,このシステムを開発することであった.このチームは CR-BSI に関連した文献によって 判明した危険因子のリストに従い,それらの危険因子をカテーテル挿入時に起こるのか,毎日の管理の中で起こるのか に分類した.最初にどこにフォーカスを絞るのかを決定するにあたり,以下の問題が指摘されたため,今回は CVC 挿 入時を最初のポイントとした. (1)内科 ICU のほとんどの CVC は研修医によって挿入され,手技の習熟度が不安定 である可能性が高かった. (2)CR-BSI とある種の挿入手技との間に強い相関が見られた. (3)CVC 挿入は簡単に評 価ができ,改善の影響を受けやすい 23). 解説 質の改善に関する論文は改善に至る契機となった事象もしくは情報について記載すべきである.改善に関連する具体的な データや組織要因についても含めるべきである. 診療の質を改善させるアイデアが他の事象と関連しないことはまれである. これらの著者は特定の施設における感染症サーベイランスとスタッフ教育の取り組みが必要なことは認めているが,CRBSI 率を減らすには不十分としている.質の改善に関する現存のあるいは過去の研究について触れることで,著者は今回の 研究を以前の取り組みと関連付けることができる. 改善への取り組みの目的は明確に記載すべきである.例えば,具体的な達成すべきゴールおよび,それをどのように評価 366 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 するかについての情報を含むべきである.上に示した例では,本報告が CVC ケアの時間計測が可能かどうかの実現性を研 究する取り組みの最初の段階であることを示している.2 番目の目標として,時間調査が感染率低減につながるかを推察す ることとした. 加えて,著者はケアのどの側面を,改善するための照準とするかについて記載すべきである.上記の著者は CVC 挿入に 照準を絞り,この選択理由について,過去の文献および自身の救急部の環境に関連したローカルファクターを用いて明確に した. 最後に質改善のための記載には,取り組みに関与する人々を含めるべきである.これらの著者は,4 種類の異なるチーム メンバーを記し,それぞれの異なる役割を強調した.改善への取り組みの参加者の役割を記載することは,どの専門知識が チームに必要かという情報を読者に提供する.改善の取り組みはしばしば診療部や診療所,病院もしくは健康推進部のリー ダーによって開始される.もし改善の意思へのサポートもしくは期待が読者の施設にあるのなら,これらの要素を記載する ことは,どのような組織的な要因が改善の取り組みを手助けしてくれるかについて理解しやすくなる. . 6. 研究で問おうとしている疑問点について(研究課題) 介入によってもたらされる主要な改善点に関連する研究課題や,二次的な研究課題に関して的確に記載する 例 我々は病院への受診回数の分析と,受診に要する時間を短縮するのに必要な外来の対応能力に関する調査のために 一般的に利用可能な,コンピュータシミュレーションモデルについてこの文献で記載する.研究機関付属の医療施設 2 箇所の外来に導入した際の結果を含む分析モデルとシミュレーションモデルの両方を提示した. ・ どの程度まで分析モデルは適切で, 深く洞察するためにはどのようなときにシミュレーションモデルが不可欠なのか. ・ モデルと結果を他部署に一般化することは可能なのか 24). 解説 研究課題は導入部分の基本的な構成要素である.なぜなら,研究課題は今回の介入について明らかにし,これらの課題と 今回の研究目的との関連に言及するからである.項目 5 で述べたような質改善の目標とは対照的である.目的とは臨床的(も しくはシステムの)に意図される変化を明らかにするが,研究課題は介入がどのように機能し,どのような効果が生じるか・ 生じうるのかという機序に焦点を当てたものである.例えば,著者は介入の目標の概要や,動機となった成績の差を記載し たり,どのように評価を行い,なぜ介入の評価を行ったのかに関しての研究課題の要点を記載する.研究課題によってもた らされる詳細はまた,研究に影響をもたらす文脈(誰のためにそれを行うか,どのような環境下か,どうして行うのか)を 推察するのに役立つ.このため研究課題は文脈の記載から自然に導かれる. 研究課題はその地域での質の差に関して研究者が捉えていることの概要を示してくれる.研究課題は格差の原因と認識さ れていることと,格差を埋めるために選択した方法との重要な接点である.上記の例で著者は,需要と供給の格差は,新し い患者の非常に長い待ち時間の原因であるとの仮説を立てている.彼らの研究課題は明確に定義されているため,文献の方 法の部分に詳細に記載された改善のための介入について理解がしやすくなっている.研究課題は量および質的方法によるプ ロセスや結果の混合したものについて,研究で利用されたデータを導入しやすくする.さらにこれらの研究課題は,今回使 用されたモデルを他の診療所にも適応できる,といったような介入の一般化の可能性も広げる.これらの一般化が可能な概 念は,議論の項目でさらに強調されている(項目 16(b) 限界 および 17(b) 解釈を参照) . 7 . 倫理的論点について 改善を実際に行いそれについて調査するうえで問題となる倫理的問題,具体的にはプライバシーへの懸念や参加者の身体 的健全さの保護,著者の潜在的利益相反などについて言及し,これらの問題に対してどのように対処がなされたかについて 記述する. 例 a) 登録から 30 日以上の生存が望めない(と,上級医と看護師が判断した) ,フルオロキノロンにアナフィラキシーや 重篤な副反応の既往がある,もしくは病院への搬送を予め行わないことになっている療養施設の利用者は除外された. 研究プロトコールは St Joseph's Healthcare Hamilton Research Ethics Review Board に認可された.全ての参加者 資料 6 367 資料 6 もしくは代理人からインフォームド・コンセントを得た 25). 入居者の適格性の評価,試験についての説明とインフォームド・コンセントの取得,入居者を登録するために,研究 担当看護師が療養施設を定期的に訪問した 25). b) 我々の質の改善プロジェクトの目的は帝王切開における首尾一貫性と信頼性の改善,緊急帝王切開を行う時間を 30 分以内に達成することである 26). 解説 質の向上に関する発表においては,研究を計画し履行するうえで倫理的基準の記載があるかを確認するべきである.医療 の質を向上する努力がさらになされる中で,倫理的な配慮がなされているかどうか確かめる必要がある.自主性(自由を奪 わない) ,慈善(患者の利益を優先し私利を避ける) ,非有害性(害を及ばさない) ,公正(公平と正当な看護) ,そして義務 の履行(専門性と組織としての責任を果たす)などの倫理的な原則が,医療を行う礎となる.これらの原則は,質の向上に 関する活動の計画,履行,発表を行ううえで根幹となる. 質の向上に関する明確な倫理的基準の中には,上記に挙げた倫理的な原則から導かれたものもある.具体的には,質を向 上する活動から生まれる社会的または科学的有用性(限られた資源の責任ある利用),科学的に妥当な手法(不必要な害や 資源の無駄づかいの回避) ,負担と利益を均一に分布するための公平な参加者選択(公正) ,適切な危険と利益の関係,危険 の制限と利益の最大化(非有害性,損害の回避) ,プライバシーと機密性保持による参加者の尊重(個々の自主性に対する 尊重) ,危険を最小限にしたうえでの質の向上に関する活動が治療の一部である場合の説明と同意(自主性の尊重) ,倫理的 行為の自主的評価と質を改善するための説明の義務(専門的,組織的かつ公的な説明の義務)などが挙げられる 27).職業 的責任および組織的な説明義務に関する他の倫理的基準として,実際のあるいは予測可能ないかなる利益の衝突をも回避す ることも挙げられる.これらの基準により倫理的な質を確固とする基礎が形作られる. 例 (a) は公式に計画された質の向上に関する調査研究のもので,一般化可能な結果を導くよう設計されている.この研究 が倫理的基準について配慮していることを読み手がはっきり理解できるのは,研究のデザインおよび同意の過程に参加者の 保護について記されているためである.また他の倫理ガイドラインを独立した評価過程の一部として明言している.この例 は米国における医学規範(the Common Rule)における「一般的な知識の発展や貢献に寄与する,研究の進展,検査,評 価を含む全体的調査」28)を反映し,研究事業の一般的に受け入れられている解釈を満たしているため,研究内における質 の向上に関する活動はこれらの要件を遵守しなくてはならない.質の向上に関するプロトコルは St Joseph's Healthcare Hamilton Research Ethics Review Board によって検閲ならびに是認されている.そしてプロトコルは独立した評価を受 けているうえ,科学的,社会的に重要な懸案に言及し正しくデザインされていること,公平な参加者の選択を実施している こと,適切な説明と同意の過程を経ていること,そして妥当な危険/便益比を満たしていることを明言している. 例 (a)の著者らは研究の倫理的実施に関して,基準を満たす適格な患者の登録において担当看護師が患者と研究につい て話し合い,説明と同意を求めたことについて詳細に記述している. 「医療福祉施設内の住居者で 30 日以上の生存期間が 見込めない者…または病院搬送は行わないというリビングウィルを持つ者については研究から除外した 25).これらの記述 は,医療福祉施設の中には研究に参加しないことを選択した施設もあったことを示唆している.また著者らは 89 人のナー シングホームあるいは同様の施設の居住者において「同意を最近親者から得ることができず」 ,5 名は登録への同意を断っ たと述べている 25).患者あるいは代理人による研究への参加拒否は共有された決定の過程に選択の余地があることを示し ている──つまり倫理的に適正な同意と拒否の過程が構築されていたことを意味する. 質の向上に関する倫理的基準は,活動の計画および履行の際にも言及される必要がある.なぜならば,この活動が患者に リスクをもたらしたり,組織の資源乱用につながったりする可能性があるためである.倫理ガイドラインの遵守を促進する には, 「質を向上する倫理的監視などが職業的責務のための強化された責任制度と診療における監視と管理の一翼を担う」 (p 688)ことを医療関連施設が明言すべきである 27). 「特定の状況下で医療の急速な改善をもたらすために設計された,体系 的かつ情報に基づく活動」27)についての,非研究的質改善の取り組みの例は,例 (b) において示されている 26).論文内では, 僻地の小病院での帝王切開のプロセスにおける一貫性や信頼性を向上するために,綿密に計画,履行がなされた過程が記載 されている.しかしながら,倫理的配慮の有無を含む独立した評価がなされたかどうかについては明確な記載はない.質を 向上する計画コーディネーター(著者ら)においては,活動の計画および履行において前述 27)の質の向上に関する倫理ガ イドラインを適用したと明示することが通常期待されているだろう.このことは,施設内審査委員会の評価がリサーチでは 368 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 ない質の向上に関するする活動に必須であることを意味するのではない.しかし著者らは論文内において,報告する質の向 上に関する活動が適切な倫理ガイドラインを遵守したことを示すべきである. 質の向上に関する努力において起こりうる利益相反に関する倫理的配慮のあり方は,提示された2つの例において異なっ ている.例 (a)25)では,著者らは論文発表,資金の公表,財政的支援,スポンサーの役割,謝辞への自身の寄与について詳 細な情報を開示している.論文の最後における広範な開示は投稿したジャーナルの要項であり,この開示により読み手が考 慮するいかなる利益相反についても必要な透明性を与えている.例 (b)25)ではわずかに短い謝辞が述べられているにすぎず, 現実的な利益相反の可能性や欠如について十分に述べられていない.特定の施設における質を向上する活動は出産の実践, 結果,医療の有効性や効率を求めるため,質の向上に関与する研究者は,患者個々に対する責務と施設や組織から提供され る一般的な医療との間に起こりうる相反を経験する可能性がある.そのため,質の向上に関する論文においては利益相反の 情報を開示する必要がある. 提示された 2 つの例を吟味するうえで重要な点は,論文が研究の形をとっているか否かではなく,倫理的基準が質の向 上に関する活動の計画および履行において明示されていることを確認することである.倫理的基準の遵守に関する透明性は 原稿の準備ならびに刊行するかの判断における重要な部分である──つまり倫理が質と質を向上する活動の根幹を成すとい う要点を一層強化する 29). 8. (研究対象の)状況(環境) 改善活動が行われた一つのあるいは複数の現場で,改善活動に最も影響を及ぼすのではないかと考えられた局在的なケア 環境の要素がどのようなものかが特定され,特徴づけられたかを明記する. 例 Alice Peck Day 記念病院(APD)は米国ニューハンプシャー州レバノン市に存在する 32 床の病院である.病院付属 の助産所には 6 つの LDRP ルーム(分娩 / 出産 / 回復 / 産褥を同じ部屋で行う)と,保育所が存在する.ここでは最低 2 名の看護師が詰めている.出産時は一対一看護を提供する.この計画が始まった 2001 年当初,2 つの独立した医師 グループ(4 名の医師を雇用)が産科患者を受け入れていた.小児医療は 16 名の医師が担当し 4 部署に分かれていた. 3 名の麻酔科医が常時待機していた.帝王切開は院内の主手術室において施行されている.手術チームの構成員は,産 科医,第一助手,小児科医,麻酔科医,2 部屋の手術室スタッフならびに助産所の看護師であった. 病院の発展に伴い,医師のグループは大きくなり業務の整理統合と変更が行われた.現在,3 名の産科医と 3 名の助 産師が雇用されている.もう 1 名の助産師は小規模の独立した業務を担っている.4 名の家庭医と 2 名の小児科医を擁 する病院運営のクリニックが組織内の小児医療を担っている.麻酔と手術室については変更点がない(ただし,帝王切 開時に第一助手を常に配置することはなくなっている 26). 解説 この項では,改善の努力がなされた環境の特異的または関連する因子について述べられている.背景(項目 3)と局在的 な問題(項目 4)における記載についてさらに詳しく述べる機会となる.例えば,この病院はニューハンプシャー州の僻地 に位置し,「僻地」であることは論文の表題(項目 1)にも含まれている.僻地の病院であれば患者収容能力(病床数)も 小規模となり,専門家の人数も少なくなる.さらに著者らは,限られた資源における緊急帝王切開の目標時間という問題点 やその場合の財政的,人的制限について言及している.この例での改善とは雇用を増やしたり,新たな設備を購入したりす ることではなく,現在のスタッフと利用できる資源に比重が置かれている.そして,現在の環境因子と研究期間を通してど のような変化が起きたかについて記載されている.論文内に示す改善は,スタッフや資源に恵まれた都市部の病院で行う場 合には,大きく異なってくる可能性がある. 論文ではこののちに,帝王切開反応時間と関連を有したとある重要な事象が発生し,これに対応する形で改善行動がなさ れたことを示しており,変化が生じた病院の背景文化に関する情報を提示している.小規模の病院においては重大な事象の 結果はスタッフ全員に影響を及ぼす.この事象がどのように改善に向けた支援に劇的に繋がったかが論文を読み解く鍵とな る.経営側の中層から上層部からの統率支援の程度に関する詳細な情報ならびに以前に行われた改善努力の経緯に関する情 報があれば,今回の例はさらに説得力のある記載となっていたであろう. 状況と過程の記載に関する構成は,読み手が報告の普遍性(外的妥当性)を理解するために必要となる.ケアのプロセス と構造を同定し,理解し,変化させることは,改善作業において必須である.これは,比較試験ではデザイン(例:無作為, 資料 6 369 資料 6 盲検)や分析(例:回帰分析)を通して病院の状況が一定に保たれることと対照的である.読み手のために病院背景を詳細 に記述することは,読者が置かれた環境に当てはまるかどうかを判断するために役立つ. 9 . 介入を計画する a. 介入内容とその構成について,他の人たちが再現できる程度に十分詳しく記述する. b. 特定の介入を選択するのに寄与した主要な因子(例えば,(システム)機能不全の原因についての分析,対応する他 施設での改善経験と局在的な状況との対比など)を示す. c. どのように介入を実施するかについての初期計画を略述する…例えば,何をなすべきか(最初のステップは何か,こ れらのステップで成就できる機能は何か,介入を修正するために変化についての検証をどのように用いるのか),そし て誰が行うのか(意図された役割,資格,スタッフのトレーニング)など . 例 23 のプライマリケア組織が任意にうつ病に関する改善運動に自発的に登録した.介入の調整役は慢性疾患ケア改 善団体(ICIC)のチームと米国医療の質改善研究所(Institute for Health Care Improvement:IHI)であり,後援 は Robert Wood Johnson 基金であった.6 つの民間セクター組織が 12,500 ドルずつ負担し,米国保険資源サービス庁 (HRSA)より資金提供を受けた 11 の民間セクター組織が費用を賄うため Robert Wood Johnson 基金より奨学金を得た. 個々のチーム(主に医師,ケアマネージャー,コーディネーターより構成される)は 3 部の教育セッションに参加し, 団体の教職員から「plan-do-study-act(PDSA)」サイクルとその他の急速に質を向上させるための技法について,ま た専門家から慢性疾患ケアモデルの実行について訓練を受けた.セッション間,専門の教職員と共にチームは改善を試 み,毎月相互電話会議に参加した. 医療組織の再編による慢性疾患の効果的治療の運用を想定した慢性疾患ケアモデルに基づいて,チームは各 6 領域 における改善プログラムの企画を励行された 30). 解説 計画過程の要点が適切に記載してあれば,読み手は質の向上に関する介入の意義と適応について理解しやすい.質改善の ための介入研究は「研究の意図が整然と示されており,手順が明確な」薬剤・検査・手技の介入研究などのように厳格に管 理された研究とは異なり,行動を変容させるための特定のアプローチが結果として通常のケア向上につながるかどうかを他 者が予期しやすいように計画されている.通常のケアが普段の流れから乖離してはならないので,読者は研究の文脈の中で 質を向上する介入が影響を与えたかどうか,同時にケアの流れの中で介入そのものがいかに影響を受けたかについて,理解 する必要がある.介入の計画がまさにこの過程の鍵となる. 提示した例において,背景を構成する要因としては,介入の財源や組織の数と種類である.他の背景要因,例えば規模, 学術機関に所属しているかどうか,場所が僻地なのか都市なのか,国のどの地域なのか,対象とする患者群の背景などの事 柄は,ケアの質や介入の実行に大きな影響を与えることが知られている.研究に参加した組織の特徴,特に慢性疾患ケアモ デルの要素と関連した特徴は,組織文化や組織での指導者のリーダーシップのあり方の描写と同様にこの項に含まれる. 例は最初の介入の詳細についてかなり具体的な情報を含んでいる.その情報とは,組織,チーム,教員構成,介入の理論 的背景(PDSA,改善モデル,慢性疾患ケアモデル)などである.基礎となる計画段階は 3 回にわたる教育セッションと毎 月開催される電話会議により構成される.現場の改善チームは介入計画を各々の段階において修正・変更した.初期計画段 階での構成要素を描くことで,読み手は質の向上に関する介入の結果がどのような状況に適用可能であるのかを予想するこ とができる. 介入の計画は方針の変更に主眼を置き,現場での具体的な構造変化を行わない場合もある.また,組織や,共同体や,組 織内における小グループは,過去にデザインされた一連の変更を自分たちの介入として採用する場合もある.既成の介入方 法を用いることに重点を置くならば,計画段階において評価目標,規格,方法の発展を特に強調するかもしれない.いずれ にせよ,計画段階の報告においては,質の向上に関する介入の焦点とその焦点に基づく計画決定の内容をはっきりさせた方 がよい.例えば,質の向上に関する介入を新たに始める場合(または過去のモデルから実質的に借用する場合) ,計画段階 の報告は PDSA サイクルのように試験的に変更を加えていくことに重点を置くべきである.質の向上に関する介入が方針 の変更のみの場合は,計画段階の記述では,後援者からのフィードバックを得るためにまたは早期の評価デザインの方向性 370 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 を決めるために何がなされたかについて重点を置くべきである. 上述した例を含む多くの場合,組織や社会はいずれも過去に行われた介入を実質上そのまま採用しようとする.計画段階 および介入段階での財政的,技術的支援の記載が重要であるのは,その支援の種類や程度が今後行う変更の範囲に影響する ためである.加えて,よくある話ではあるが,財政支援の特定の財源がある場合,それが利益目的ではないとしても,現実 的または潜在的な利益相反を生む可能性がある.このような情報の中には,倫理的問題(項目 7) ,資金(項目 19)におけ る情報と重なる部分もある.質の向上に関する介入が他の環境下ではどの程度適用されうるかどうかを予期するためにも, 読者はこの項で挙げた問題点について理解する必要がある. 10. 介入についての研究を計画する a. いかにうまく介入が実施されたかを評価するための計画について略述する(用量や曝露の強度) . b. 介入の各要素が変化を起こす仕組み(理論)と,その仕組みが実際に有効なのかどうかについて検証するための計画 を記述する. c. 該当する場合には, 主要および二次的アウトカムに対する介入の影響を測定するために選択された研究計画(例えば, 観察,擬似 ‐ 実験的,実験的など)を特定する. . d. 選択した研究計画の必須部分の実施プランについて,該当する場合には,個々の研究計画ごとに定められた投稿指針 (例えば,www.equator-network.org )に従って説明する. e. 内的妥当性(データの統合性) ,外的妥当性(一般化可能性)に関連する研究計画の個々の側面について記述する. 例 当研究の目的は, ミシガン州の集中治療室(ICU)からカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を根絶することであった. 我々は多変量時系列デザインを用いた.研究の母集団は参加を希望した全ミシガン州の ICU であった.主要評価項目 の(独立した)変数は CRBSI 発生率であった……各病院は研究期間中,米国疾病管理予防センター(CDC)の提示す る CRBSI の定義を遵守した……四半期の感染率は 3 カ月ごとの 1,000 カテーテル日あたりの感染数として計算した. 四半期の感染率は研究介入の時期に基づき 8 カテゴリー各々において算出した(ベースライン,介入時,介入後 18 カ 月にわたり 3 カ月ごとの 6 カテゴリー) . ……介入に対するコンプライアンスを評価するため,各チームは TEAM CHECK UP TOOL と呼ばれる月別評価表 を作成し,前月に行った活動,チームや上官と面会した回数,直面している問題点について確認した.全てのチームは 隔週の電話会議に参加し,研究について議論した 31). 解説 この研究の要点は質を向上する研究の立案,報告における妥協点をめぐる複数の取り引きにある.デザインは多変量時系 列であり,参加を希望した全 ICU を含んでいる.クラスター無作為化試験であればさらに強固なデザインとなったかもし れないが,今回は全チームが介入を望み,コントロール群に振り分けられることを望まなかったため実現できなかった── 効果があると判明している試験においてはよく見られる要望ではある.この事柄を明記するには及ばないが,論文の限界 を論じる際には別のデザインも考慮したが支持が得られなかったことは,言及した方がよい.カテーテル関連血流感染症 (CRBSI)を根絶するための介入が有効であることは過去の研究により明白なため 32),今回の調査では多くの施設において も本介入が有効であることを評価した.そのためには実行した規模や範囲の記載が必要となる.当例は参加施設が地理的に 広範囲にわたる大規模な介入であり,論文における記載は,研究デザイン(多変量時系列) ,効果判定基準の定義(CDC の CRBSI 定義),データの整合性がどのように確保されたか(例内には示していない)まで及ぶ.一施設における質を向上す る研究では介入研究の計画を記載する方法は大きく異なりこそすれ,厳密な記載を必要とすることに変わりはない. 科学的に正確で妥当なデータを収集するのには,しばしば苦労がつきまとう.質の向上に関する研究では資源が限られて いることが多い上,データの収集は研究関係者が随意に行うことが多い.このような背景を踏まえ,本研究では,集積され るデータの質を犠牲にするのではなく,データの収集量を減らしたとしている.主要な効果判定指標である効果判定基準と なる CRBSI の定義は明確に示してあるが(例内には示していない) ,原因微生物の種類やエビデンスに基づく推奨の遵守 など副次評価項目のデータは集積されなかった.これを実行するのに妥当かつ実行可能な方法がなかったのは,このような 指標を独立して観察するためには長期間 ICU に滞在できる観察者の設置を必要としたためである(不定期に設置されるこ とが多い中心ラインを監視するには費用を要する).当研究では,データ定義,教育,欠落データ量など,データの質の管 資料 6 371 資料 6 理についても述べている.しかし十分な資源の確保ができないため,データの二重入力や評価者間一貫性などの強固なデー タの質の管理方法については言及できなかった. 今回の例では,研究の目的(CRBSI の根絶)がどのように介入の仕方を導くかについて示した.いかなる研究をデザイ ンする場合も,チームは妥協点をさぐる取り引きに直面する.提示した例では,参加施設が地理的広範囲にわたる多施設研 究において研究の目的・デザインや手段がいかに決定・実行されたかについて記載している.改善に関するデザインは,介 入の行われる組織の要因によって限定されることがある.質の向上に関する研究をデザインするには多くの方法が存在する が,研究の目的自体がデザインおよび分析の仕方を決定する.介入研究について記載するときは,当 SQUIRE ガイドライ ンと量的疫学的研究(STROBE)4),無作為化比較試験(CONSORT)1)2)などのガイドラインとをまとめて利用する必要 がある. 11. 評価方法 a. (a) 介入の有効性, (b)介入の有効性についての介入要素と背景要因の寄与, (c)主要および二次的アウトカを評価 するために,調査手段と実施方法(質的,定量的,ミックス法など)について記述する . b. 評価手段の信頼性を保障し,検証するために行った努力について報告する. c. データの質と適切性を保障するための方法について説明する(例えば,盲検化,測定とデータ抽出の繰り返し,データ 収集に際してのトレーニング,十分な基礎測定値の収集など) . 例 指標は全て,質的改善手段に適用可能と考えられる二分変数である.一般的に,質的指標は臨床介入(ワクチンや,診 察,検査など)を組み入れるために,ADA(American Diabetes Association)ガイドラインが提唱しているよりも長期 間の測定が必要である.この寛容さは,これらの指標の有用性が ADA ガイドラインよりも優れているものであろうこと をしめす.なぜならば臨床介入の時間短縮は,指標の標準的な有効性を下げる可能性があるからである. 我々は,診療録を確認することで,対象患者が 18 カ月の間に少なくとも 1 回は,以下のような適切なケアを受けて いるかどうかを確認した.これは具体的には(1)長期の血糖コントロール測定として,少なくとも1回の glycosylated hemoglobin(hemoglobin A1c)または fructosamine を測定している, (2)血清コレステロールを測定している, (3)血 清の中性脂肪を測定している, (4)血清のクレアチニンを測定している, (5)会社での足の診察を施行している, (6)イ ンフルエンザワクチンの接種,である.指標は,項目を受けた患者数を全対象患者数で割ったものを測定することで定量 化した. 質的評価のためのデータは先に記載された方法に従って医療記録から得た.記録はコピーされ,HCFA[Healthcare finance association](http://www.hcfa.gov)によって作られた公的にアクセス可能な MedQuest を使って中央部門でま とめられた.ACQIP(Ambulatory Care Quality Improvement Program)の調査員は標準化した医療記録のプロトコー ルを作っており,パイロットテストでこのプロトコールを改良させた.プロトコールの一部として抽象化の担当者は集中 したトレーニングを受けて資格証明を得た.MedQuest の診療記録モジュールには多種の類義語や薬剤や診断や検査の標 準化リストが含まれている.記録抽出の全過程において,二重抽出目的および記録抽出の妥当性の医師による評価のため に,5%の診療記録がランダムに抜き出された.重要な指標の妥当性と信頼性は全て少なくとも 95% であった 33). 解説 評価方法の記載は,量的改善のためにどの研究を使いたか,なぜその基準を選んだか,研究者はどのようにデータを得た かを示す必要がある.選ばれた基準は,アウトカム指標なのかプロセス指標なのか,連続変数かカテゴリー変数か,生物学 的な指標なのか行動科学的な指標なのか,いずれの場合もある.その指標はプロセスとアウトカム中の意味のある変化をと らえるのに十分な感度を有するものでなくてはならない.指標は値の変化を統計学的に検証可能で,更に重要なことには, 研究対象となっている臨床的な問題にとって意味のあるものかどうかを判定するために一般的に認められたもので,なおか つ明確な定義がなければならない.基準の概要を説明する時には医療従事者,患者,医療保険支払者,社会的立場などの異 なった観点から読まれることを考慮すべきである. 例においては,改善プロジェクトは糖尿病ケアでの達成可能なベンチマークに焦点を当てている.この研究の指標は,特 定の検査と介入を受けている人の割合である.これらはプロセス指標である.もしこの研究が hemoglobin A1c の値の変化 372 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 や予防できたインフルエンザの発生数や患者の生活の質の変化に注目していた場合,基準はアウトカム指標になっていただ ろう. プロセス指標にしてもアウトカム指標にしても,指標は介入から生じうる変化の妥当な幅を反映すべきである. Hemoglobin A1c は糖尿病関連の研究では適切な血糖コントロールの指標としてアウトカム指標にしばしば利用される.し かしながら,疾患そのもの,そして変化のための取り組みのいずれも,患者とプロバイダーに負担を生じたり楽にしたりす る.したがって,生活の質や満足といった行動または機能的なファクターを評価するのが適切かもしれない.コストは改善 の取り組みにおいて重要な指標である.改善のための介入によって影響を受ける可能性の高い指標を計測するために,研究 者がプロセスおよび提案された改善計画をよくみわたして,妥当でバランスのとれたアプローチ(時々データダッシュボー ドと呼ばれる)をとることが不可欠である.専門家間での合議のもとに作成されたガイドラインおよび質的指標は,研究者 が指標を選択するのに役立つ.しかし最適な指標の選択のためには,地域的な環境と問題を考慮すべきである. 基準を選んだのちは,研究者は扱うデータの定義や,データ収集のための入力票を作成し,データの収集方法を決定する 必要がある.データ収集とデータの質的管理の方法については,他の者が同じ研究を繰り返すときのために論文の中に記載 する必要がある.例に書いたように,この研究ではデータ収集のためにカルテ要約が用いられた.著者は要約方法とデータ が十分であることを確認するために,どうやってデータを抽出し,カルテの二重要約のためにどのように無作為にサンプル を選んだのかを詳細に説明している. 論文では研究されている因子の測定が信頼に足りうることを保証しなくてはならない. 生物学的検体に対しては,実験プロセスや検体の収集方法や取り扱い手順についても含まれる.行動科学の領域では妥当 性の確立した方法で測定されるべきである.もし,変化させる取り組みのために新しい尺度を作るならば,その尺度の信頼 性と評価を記載しなければならない.正当性モデルの構築,もしくはゴールドスタンダードとの比較のなかで正当性が示さ れるべきである.これにより,査読者と読者に,当該指標が対象となっている事実や領域を正確に表現できるものであるか どうかについての情報を与える. 12 分析 a. データが意味するところを引き出すのに使った質的ないしは定量的(統計的)方法の詳細を提供する. b. 該当する場合には,分析の各単位を,介入が実施されたレベルに合致させる. c. 実施に当たって起こりうるバラツキの度合い,主要アウトカムに起こりうる変化幅(エフェクトサイズ)および採用 された研究デザイン(研究規模を含む)がこれらの効果を検出する能力を明確にする. 資料 6 373 資料 6 d. 変数としての時間の効果を示すのに用いられる分析方法を記述する(たとえば統計的プロセス制御など). 例 a) 感染から感染の間の日数をモニターすることで g-chart は,従来の二項式のアプローチに比べてまれな出来事を検出 するのに力を発揮する.CR-BSI(カテーテル関連血流感染症)の発生時には,g-chart にデータを加え,その前の感 染からの日数を計算する.g-chart は統計的プロセス制御のグラフであり, SPC の基本的な理解が必要である.プロジェ クトの始動に当たり,ベースライン (介入前) の g-chart を 2000 年 1 月 1 日∼ 2002 年 10 月 31 日の間の NNIS(National Nosocomial Infection Surveillance System)データベースを検索して作成した(図 1 観察番号 1-39 の例).我々は MICU で挿入されたカテーテルに対し,CRBSI を g-chart にプロットした.透析関連カテーテル関連の CRBSI は gchart に含めていない. 我々は感染から次の感染が起こるまでの平均期間(27 日間)を測り,Benneyan 法を用いて 介入前の平均値より 標準偏差 3 つ分を超えたところで上限(Upper Control Limit: URL=109 日)を設定した.介入前の期間中,感染から 感染の時間は常に UCL を下回った.UCL を超えるポイントがないことは,CR-BSI と CRBSI の発生の間の時間の変 化する原因が我々のケアのプロセスに内在しているといえる.そしてプロセスの再設計や CQI が CR-BSI の率を減ら す適切な方法であるといえる.我々のゴールは CR-BSI 率の減少であり,イベント間の時間を出来るだけ長くすること である.g-chart により,CR-BSI 発生までの時間が URL を超えるようであれば我々の介入は成功していると考えた. なぜならこれは CRBSI の発生率の低下を意味するからである 23). b) すべての録音されたインタビューは一語一句正確に書き起こされた.2人の研究者が……別々に原稿を見直し,アド ヒアランスの障害についてコメントを書き込んだ.専門家の見解を比べ,概念モデルに従い,医者のアドヒアランスの 障害をカテゴリー別で分類した…二人の批評家がそれぞれに主要と考えたすべての見解について討論を行い,合意が得 られるまで分類した.分類に関する意見の相異については第3の研究者に公式判断を求めた.見解の相違が合意に至ら ず最後まで残った場合,その見解は不明瞭なものとして省いた 34). 解説 分析プランは研究デザインと密接に結びついている.質的改善の特徴は,変えるための戦略(特に多局面である)が,プ ロセスとアウトカム判定に重要な違いを発生させることを示すことである.このような実証は, 介入前と介入後の 2 つのデー タポイントを比較した多くの事前・事後試験によってもたらされる.このような 2 ポイントの事前・事後解析は変化を実 証するには弱い.結果としてこれらは実験の前段階研究として扱われ,二次的な仮説形成性のものとしてとらえられ,さら なる仮説検証分析が必要である. 再現性の概念を取り入れることで改善事業の効果は強力に示され,これにより事前・事後解析の制約を克服することがで きる.反復の力は,介入が結果で見られた変化を生じさせているという自信を生む. Wall らの (a) の例では介入前(ベースラインの段階)と介入後(履行の段階)の変化を示すために statistical process control(SPC) 解析の形で反復を行った.著者らは使用した SPC(g-chart),ベースラインのデータの時間枠(2000 年 1 月 1 日から 2002 年の 10 月 31 日) ,対象者の基準(MICU でカテーテルを挿入されたもの)について記載している.これによ り研究のアウトカムの解析基準が明瞭化した.SPC は時系列解析の一種で,多くのポイントをプロットする.そしてそれ ぞれのポイントは定義づけされた時間のまとまりを示す(たとえば毎日,週ごと,月ごとの比率,イベント間の時間).私 たちは疑問に対する適切な分析を得るために,研究を始める前の段階で,時系列解析に精通している統計学者へ相談するこ とを勧める. SPC は起こってきた変動(改善)を評価するために安定したベースラインを必要とする. しかし,医療制度は介入前でも介入中の時期のいつにおいても経年変化の影響を受ける. このような事例では,他の解析方法がより適切である.例えば,時系列モデルは継時的変化からのノイズがある状況でも 介入の効果と統計的変化の有用性を推測することができる 35)36).もう一つの方法として,著者の中には縦続的研究や時間 依存性の研究といった高度な統計技術を選択するものもいるかもしれない 31).これらは質的改善の解析に有用である.し かし,これらのより高度な統計技術を使う際には,適切なデザイン・解析・解釈を得るため統計学者への相談が必要である. 再現性は複雑な社会的介入の評価の際にはもろ刃の剣になることがある.個々の介入はあるところでうまくいったとして も,他では弱いか全くうまくいかない場合がある.したがって,複雑な社会的介入を多くの異なった背景に適応した場合は, 374 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 たとえある状況では介入がうまくいっている場合でも,総計をとると結局ゼロの結果になってしまう. 最後に,すべての質的改善研究が定量的とは限らない.Schouten らの(b)の例では質的解析方法について短く述べら れている 34).質的解析は根本的原因の知識の発見や,プロセスの流れの理解や,構想分類の説明やテーマや変化の過程の メカニズムや前後関係,全体像や認識に優れている.質的研究から得られた逸話はそれだけで記憶や行動や信念に訴える力 があり,質的研究は,系統的で,厳密で,堅牢な研究手段を含む.Schouten の例はどのようにインタビューデータが書き 起こされ,抜粋され,まとめられ,判断を下されたか記載してある.その他の質的方法は民俗学や質的分析ソフトウェアな どを適用し,評価者間信頼度のエビデンスを与え,あるいは反復可能なデータ分類の手続きの詳細を規定するかもしれない. 質的研究デザインの著者は,観察研究の報告のガイドライン(STROBE)4)を参考にするべきである.このガイドライン には方法と表現が明確にされている 13 アウトカム a)(研究対象の)状況(環境)と改善のための介入の性質について a. 研究に関連した環境要素(例えば,地形,物理的資源,組織の文化,過去の改革努力など) ,および,介入の背景を 形成しているケアの組織と様式(例えば,スタッフ,指導者の職務)を明確に記載する. b. 介入の実際の筋道(例えば,各段階の順序,出来事または局面,キーポイントにおける参加者のタイプと数)を, (例 えば,介入の手順,事象,相,カギとなるポイントでの参加者のタイプと数など)について,できれば時系列表やフロー チャートを用いて説明する. c. 介入の諸要素導入における成功の度合いについて記録する. d. どのようにして,また,なぜ,最初の計画が生まれたのか,そして,それが生まれる中で学んだ最も重要な教訓,特 に,変化の試みから得られた内的フィードバックの効果(反射作用性)について記述する. 例 このプロジェクトは4つのワーキンググループの設立から始まった.それぞれのグループは,経路の構成要素を検討す るために定期的に集まった.それぞれのワーキンググループからの結果は表2にまとめたので以下で論じる 26). 解説 結果の部分では,介入の特徴についての詳細な説明が必要である.例えば,それは強度や整合性,時間の経過における介 入による変化,費用,損耗率,持続可能性についての説明である.なぜならば質的改善研究は現実社会を変えるものであり, 改善は状況による変化の過程を含み,地域の事情についての報告が必須だからである.(項目 4 の局在的な問題と項目 8 の 状況(環境)を参照)もし,地域の問題や背景について触れないならば,著者は病院の環境や,患者の母集団,以前のシス テム変更の経験について詳細に触れ,これらが研究を立ち上げた問題の理解にどのように影響してくるかについて触れるべ きである. この文献では,研究の行われた状況(項目 8 参照)の項目でこれらの特異性について述べている.理想的には,このセク ションでは意味のある変化に関連した,施設の過去の経験,関与についても論じるべきである. 介入戦略は環境からのフィードバック,および環境そのものの変化の影響を受けて,時間とともに変化していく可能性が ある.改善行動のリーダーや研究者は,この変化を予測しておくべきである.結果を報告する際,この変化は記録すべきで ある.時間をかけた変化を示す際には,例に示したように,時系列や表を用いるのが最もよい.例では,計画した改善の当 初の段階で,個別に会合を持つ独立したワーキンググループが存在したことが示されている.プロジェクトが進行するに従 い,統合されるべき作業が明確になった.表は 2003 年の春までに行われた展開を示し,すべてのワーキンググループは同 じプロセスの模擬試験に参加した. 改善プランの個々の成功と失敗は,改善そのものの内的な特徴だけでなく,改善の行われる背景因子との相互作用とに関 連している.この例では長期間の改善の取り組みの中での変化と,改善行動の変化そのものが組織の中の個人にどのように 影響したかを示している.読み手は,自分たちの属する組織が,記述されている組織と似ているのか,違っているのかにつ いて判断することができる. 13 アウトカム 資料 6 375 資料 6 b)介入したことによって生じたケアプロセスと患者アウトカムの変化 a. ケア提供プロセスで見られた変化に関するデータを提示する. b. 患者アウトカム(例えば,死亡,偶発症,機能,患者 / スタッフの満足度,サービス活用,費用,ケアの不公平など) の測定で観察された変化についてのデータを提示する. c. 観察された変化 / 改善と介入の要素 / 背景要因の間の関連の強さについてのエビデンスを示す. d. 介入とそのアウトカムについての欠損データのまとめを含める. 例 研究の流れ ……205 人のケア提供者のうち 23 人が,同意が得られない(n = 222 例)あるいはカルテの記載で 1 種類より多くの降 圧薬を服用していたことが明らかになった(n = 264 例)という理由で,ランダム化の後に除外された.…試験終了後の時 点で,975 例(73%)の患者が少なくとも 1 回のフォローアップの血圧測定を受け,医療従事者教育群では 324 例中 255 例(78.7%),医療従事者教育とアラート群では 547 例中 362 例(66.2%) ,医療従事者教育・アラート・患者教育群群では 470 例中 358 例(76.2%)であった. アウトカム評価:収縮期および拡張期血圧目標血圧(収縮期血圧≦ 140mmHg)に達した割合は 3 群間で異なった:医 療従事者教育群,医療従事者教育とアラート群,医療従事者教育・アラート・患者教育群でそれぞれ,255 例中 107 例 (42.0%),362 例中 148 例(40.9%),358 例中 213 例(59.5%) (P = 0.003)であった.…副次的アウトカム(拡張期血圧 <90mmHg)における群間差は認められなかった(P = 0.81)… プロセス評価:降圧薬レジメンの強化と患者のアドヒアランス 降圧薬の強化は,医療従事者教育群の 32.4%,医療従事者教育とアラートの 28.5%,医療従事者教育・アラート・患者 教育群群群の 29.1% で行われた(P = 0.81) .… 服薬アドヒアランス(薬局での処方箋の繰り返し利用状況に基づく 訳者注:北米などでは同じ処方箋を限度の範囲で数 回繰り返して用いることが一般的である)も介入後に評価され,服薬アドヒアランススコアに群間差は認められなかった… (P = 0.071) . …フォローアップ中の死亡例 試験期間中に…1.1% の参加者が死亡した(医療従事者群で 8 例 [2.5%],医療従事者教育・アラート群で 3 例 [0.6%],医 療従事者教育・アラート・患者教育群で 4 例 [0.9%]; P = 0.027)17). 解説 設定,介入,そして計画の展開についての詳細情報を提供するのに加え,プロジェクトの結果として起こった患者ケアと アウトカムの変化を説明することが等しく重要である.特定のプロセスとアウトカムの評価に関連したデータは,上記の例 で示したように報告することができる.文章に研究の流れの略図(図 2)を組み合わせると,研究デザインのはっきりとし た像が一目でわかり,経時的な参加者の流れが明確になる 37).このレベルの詳細情報を―変化の展開を一緒に記述して― 与えることによって,読者はこの研究が一般化可能か,あるいは外的妥当性があるかを決めるのに役立てることができる. 研究の遂行のための外的妥当性を決定する基準が Glasgow らによって提唱されており,次のようなものが含まれてい る 38): (1)サンプルの代表性(標的とする聞き手,対象患者および除外患者の基準,参加,設定,個人) ; (2)プログラム あるいは方針の遂行と適合(整合性,スタッフの専門的知識,プログラムの修正) ;(3)意思決定のアウトカム(有意性, 意に沿わない結果,プログラムの強度,コスト,参加者 / 設定のサブグループのような介在要因のの影響) ;(4)維持と慣 行化(長期の影響,持続性,展開,人員欠落) .各々は例において明示されている.例における“研究の流れ”のセクショ ンでは,経時的な脱落率と欠落データの大きさがはっきりと述べられている.状況分析には―この例には含まれていないが ―介入の利用実態,介入実行における成功の程度,そしてどのようにそしてなぜ改善のための初期計画が展開されたか(項 目 4 局在的な問題,項目 5 目的とする改善,項目 8 状況(環境)における冒頭の記載を参照)がしばしば含まれる. そのような解析は主要所見の範囲を超えているようにときどき考えられるが,改善のための介入がなぜ特定の設定のもとで は機能し,あるいは機能しなかったのかを理解するうえで,極めて重要になりうる.最後に,計画通り完全には実行されな かった介入は,より信頼性のない所見に終わるかもしれず,それゆえこれらのこともまた,原稿には報告されるべきである. 376 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 研究デザイン次第で,結果には平均値,比率,標準偏差,リスク比,信頼区間,あるいは時系列が含まれうる.さらに, 関係の大きさ(効果量)や強さばかりでなく,予期しない所見(有害性あるいは有益性) ,組織的な影響,介入の実行困難 も報告されるべきである.例では,患者のアウトカムとの関係の示唆された大きさと強さ(アウトカム評価:収縮期および 拡張期血圧),ケアのプロセス(プロセス評価:降圧薬レジメンの強化とアドヒアランス) ,そして他の臨床アウトカム(フォ ローアップ中の死亡例)がすべて明確に述べられている. 14. まとめ a. 介入要素の遂行において最も重要な成功と困難,ケア提供と臨床アウトカムにおいて観察された主な変化についてま とめる…… b. 当該研究の特別の強みについて強調する. 例 「新たな PSMMC(patient safety morbidity and mortality conference)は研修医,フェロー,教員に,医療制度 についての懸念を述べるための建設的な意見を与えてくれる.評判のよい伝統的な MMC(morbidity and mortality conference)を変えることはそれ自体危険性を伴うが,うまく変遷が実行されると,職員や教員の全般的な経験が強化 される.そのカンファレンスは評判のよい教育的な公開討論会という形態のまま, 出席数でみると参加者が増えている. 出席数の増加は,研修医の間で関心が高くなったことと専門職間で行われるケアについてのディスカッションに参加す るために招聘された他の医療従事者の出席頻度が増えたことを表しているようだ.研修医とフェロー医師の反応をみる と,彼らは医療制度に必要な変化についてのアイデアを生み出すことに有能かつしばしば熱心であることがわかる.そ の変化に続く重要な分野で研修医やフェローの態度は改善し,医療過誤の分析とそれに続く改善行動により部門が有益 に変化するらしいということを信用するようになった 39). 解説 この例において,主な改善点とアウトカムは明確に要約されている.重要な所見の短い要約の意義と ,研究のすべての 所見の徹底的な再表示の意義のあいだのバランスが示されている.注意深い読者は,アウトカムの微妙なあやを含めた理解 のために,結果と考察の全てのセクションを咀嚼するだろう.この例は教育カンファレスに対する変化の多重サイクルを用 いた単独施設の研究の報告からの引用で,この要約は項目 6(研究課題),項目 8 状況(環境),項目 9 介入計画,項目 10 介入研究の計画,項目 13 アウトカムから論理的に導かれる.結果のセクションには,このプロジェクトの臨床的そして教 育的なアウトカムの詳細を述べるための表と文章がある.この程度の詳細情報が結果の項目に正確に配置されており,要約 で繰り返される必要はない.上記のサマリーは重要な長所と結果(出席数の増加,非医師の医療従事者による参加と,研修 医の態度の前向きな変化)に焦点を合わせており,そのため著者は,どれが共有するのに最も重要で,どれを除外する必要 があるのかを見分けるべきである. 15. 他のエビデンスとの関係 広く文献をレビューすることによって,他の関連する所見と当該研究結果を比較し,その違いを示す.これまでのエビ デンスをまとめるには表を使って要約するのが便利. 例 喘息の自己管理は発作頻度を減らすのに効果的な戦略であると認識されている.かつて,喘息の自己管理の教育プロ グラムは小学生あるいは成人に焦点を合わせていた.喘息をもつ個人を目的とした若年者のための喘息教育に関する指 針は,喘息の発作頻度に最小限のインパクトしか与えておらず,病院内で行われる教育プログラムで若年者をなかなか に引き付け難いという問題を抱えていた.我々の研究では,同級生から教育を受けた生徒は,対照群と比べて,喘息発 作の報告数と学校の欠席が少なかった.7 年生は喘息についての勉強会だけを受けて,同級生からの教育を受けなかっ たので,QOL と喘息の発作頻度の改善は 10 年生から 7 年生へとはつながっていかなかった. 同級生からの教育を用いた介入は,思春期において,他の種類の介入よりも成功する可能性が高いかもしれない.思 春期における麻薬・覚せい剤防止対策の 143 プログラムのメタ解析では,効果は,他の指導方法よりも同級生からの 資料 6 377 資料 6 指導プログラムの方が最も大きかった.若年者は同級生からのアドバイスを好むようであり,自分たちと関係のある, あるいは手本だとわかる誰かがメッセージを伝えれば,変化が起こる可能性が高い.さらに,同級生が教育者になるこ とで,良い意味で同級生にプレッシャーを与えてプログラムの効果を強める 40). 解説 論文の読者は,結果と介入の効果という観点と,介入の形式と提供という観点の両方から,報告された結果がほかの発表 された研究結果とどのように関係しているかを知りたがろうとする.以前に発表された記事と比較・対比することで,個々 の研究の所見が大いに強調される.著者は,いつも自分の研究結果を,ほかの関連のある発表された研究の適切な所見と比 較するべきである.この議論はできるだけ系統的であるべきで,現在の研究の結果を支持する研究に限るべきではない.そ 表 2 経時的に起こった変化の表示の例 実施段階別 ワーキンググループの改善の取り組みのまとめ ワーキンググループによる介入 段階 完成時期 出産センターの看護師 医療従事者 麻酔 手術室 1 2002 年 夏 ▶ 仕事の解析 ▶ 専用の帝王切開電 話回線の構築 ▶ 産科麻酔の質問票 を作成 ▶ 手術室専用の乳児 保育器の購入 ▶ 不適切な仕事の配 置転換 ▶ コンピュータへオ ンコールチーム構 成員をプログラム ▶ 出産センターに完 成した質問票を配 置 ▶ 各夕方に“STAT” 帝王切開のための 手術室の準備 ▶ 不要な仕事の削除 (例 担架への患 者の移動) ▶ 出産センターの電 話と帝王切開回線 の短縮ダイアルを プログラム ▶ 出生前麻酔のコン サルトの過程を開 発 ▶ 帝王切開器具一式 に加える必需品の 整理 ▶ 強制コールバック 要求システムのテ ストを毎晩実施 ▶ 各週で産科的ハイ リ ス ク と VBAC のリスクの振り返 り ▶ 各夕方に出産セン ターの看護師に保 育器のチェックと 手術室の準備の訓 練 ▶ 術室チェックリス トを帝王切開術用 に置き換え ▶ “STAT”かルーチ ンの帝王切開かを 示唆するコードを 指定 ▶ 全ての労働者女性 に CBC とタイプ & スクリーンを推 奨 ▶ 緊急の間に削除さ れうるルーチン過 程の手順を把握す るための模擬帝王 切開の施行 ▶ 標準化した専門用 語を開発 ▶ プロバイダーとと もに標準化した専 門用語を開発 ▶ 手術室の時計と出 産センターの時計 の同期 ▶ “STAT” 過 程 の フローチャートの 割り当て ▶ 標準化した簡易手 術記録を作成 ▶ “STAT”過程マッ プの開発の手伝い ▶ “STAT”過程マッ プの開発の手伝い ▶ “STAT” 過 程 の マップの仕上げ ▶ “STAT”過程マッ プの開発の手伝い 2 3 2003 年 春 2004 年春 ▶ 手 術 室 の skills ▶ 手 術 室 の skills day と“STAT” day と“STAT” 経路の模擬演習へ 経路の模擬演習へ の参加 の参加 ▶ 手 術 室 の skills ▶ 手 術 室 の skills day と“STAT” day と“STAT” 経路の模擬演習へ 経路の模擬演習へ の参加 の参加 ▶ 看護師と認定助産 師に緊急時に手術 室へ患者を搬送す る権限を与える ▶ 看護師の麻酔の準 備の訓練 ▶ 看護師の麻酔の準 備の訓練 (訳注 skills day:看護師のための授業.重要な理論や技術,病院の方針や手順などを確認する日) 378 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 して可能であれば,現存するシステマティックレビューについても言及すべきである.以前の研究の比較や要約の助けにな る表や図を用いるのも役に立つかもしれない. そのような情報は,研究の結果がほかの関連のある研究結果と類似しているのかどうかや,研究間の差異を個々の研究に おける介入で説明できるのかどうかを,読者が評価するのに役立つであろう.質改善研究の課題そのもの(上記例における 喘息管理のような)に加えて,質改善のための介入方法(例えば,監査,処方などに関する専門家による情報の提供,管理 方法の変化)に関する発表済みの文献に関して言及がなされるだろう.例では,現在の研究の所見と前述のメタ解析におい て要約されている可能性の高い他の研究の所見を関連付けることによって,最近の文献について簡潔で妥当な評価を行って 図 2 研究の流れの略図 単剤の降圧薬のケア提供者 292 人(4648 例) 除外 ケア提供者:87 人 (2821 例は血圧のコントロール良好) ケア提供者 205 人(1827 例) 提供者教育 +警告群 提供者:68 人 (729 例) 提供者教育群 提供者:69 人 (456 例) 除外 提供者:15 人 (132 例) 提供者教育 +警告+患者教育群 提供者:68 人 (642 例) 除外 提供者:2 人 (172 例) 除外 提供者:6 人 (182 例) 提供者教育群 提供者:54 人 (324 例) 提供者教育 +警告群 提供者:62 人 (547 例) 提供者教育 +警告+患者教育群 提供者:66 人 (470 例) 血圧の フォローアップが なかった患者 (69 例) 血圧の フォローアップが なかった患者 (185 例) 血圧の フォローアップが なかった患者 (112 例) 降圧剤の反応を評価 提供者:46 人 (255 例) 降圧剤の反応を評価 提供者:51 人 (362 例) 降圧剤の反応を評価 提供者:60 人 (358 例) 資料 6 379 資料 6 いる.これらの比較によって,現在の報告の所見をこれまでの知見と結びつけるための強固な学問的基盤を読者は手に入れ る.最後に,著者は,その新しい研究が既存のエビデンス集合体に何を加えるかについて説明するべきである.これは上記 の例では行われていないが,考慮すべき重要な点である. 16. 限界 a. デザインにおける交絡,バイアス,あるいはデザイン・測定・解析上の不完全な点などの,研究のアウトカムに影響 を与えたかもしれない要因について考慮する(内的妥当性) . b. 一般化可能性(外的妥当性)に影響を与える要因について調べる.……例えば,参加者の代表性,実施の有効性,用 量―反応効果,局在的なケア環境の特徴など. c. 観察された利点が時間とともに減退するかもしれない可能性について検討し,もしあれば,改善をモニターし,維持 するための計画について記述する.もしそのような計画がなされていなければ,そのことをはっきりと記載する. d. 研究の限界を最小にし,調整するために行った努力について要約する. e. 研究の限界が結果の解釈や適用に生じさせる影響について評価する . 例 この研究は単一のヘルスケア機構と複数地域での多数のコミュニティ機構ではなく,むしろ多施設のヘルスケア機構 と単一の大都市圏のコミュニティ機構を含んでいた. この方法は,サービスの強化によって,認知症患者の逆淘汰の可能性に関して,ある地域でのヘルスケア機構のヘル スケアの懸念を最小限にさせた.そしてコミュニティの資源使用のパターンを慢性ケアモデルによってより現実的に反 映させることができた. 私たちは参加したヘルスケア組織における医療従事者の数は調整したが,ケアマネージャーについては調整しなかった. なぜなら,2 施設のヘルスケア組織では 1 人しかケアマネージャーを雇っておらず,ケアマネージャーが組織に及ぼす影響 を組織間で比較することが不可能であったからである.そこで私達は以下の事項を考慮してケアマネージャーではなくヘル スケア組織の違いを調整することとした.具体的にはケアマネージャーは同一のトレーニングを受けており,同じ評価,治 療プロトコールを用いていたが,その一方で私たちは意図して様々な特徴を持つヘルスケア組織を募集した.なぜならば ケアマネージャーの違いよりもヘルスケア機構の違いが結果に影響するだろうと考えていたからである.介入した 2 群は, ヘルスケア組織のケアマネージャーによってサービスが必要性と評価されれば,複数のコミュニティ組織に紹介された.コ ミュニティ組織に紹介されることが,研究におけるアウトカムであった.上記のことにより,私たちはコミュニティ組織の ケアマネージャーについては調整を行わなかった. 私たちの研究対象の患者はよく教育を受けており,主に白人であり,比較的併存疾患はなく,施設入所していない人々だっ た.それゆえ,介入は,施設入所患者や,特定の医療機関への受診や医療保険のない患者に適用する場合には,修正される 必要があるかもしれない.副次的アウトカムおよび複数のケアプロセス指標は自己申告で報告されたが,用いられた多項目 評価指標は信頼性の基準を満たしたものであり,その妥当性が報告されている指標も複数あった.ほとんど全ての質的改善 介入研究と同様に,カルテの要約作成者はいずれの介入が行われているかを参照することが可能であったが,私たちは要約 作成者が介入方法についてどの程度知っていたかについては評価しなかった.カルテ文書が急性期ケアの方法を完全には反 映していない可能性はあり得るが,観察項目は,文書による違いよりもしろ,実際のケアの違いを反映していると考えてい る.なぜなら,このケアマネジメントの介入は,推奨されるケアの多くが,多職種チームにより提供・促進されるというモ デルに基づいているからである 41). 解説 この報告の著者はバイアスの原因となり研究方法に影響を及ぼすような多くの因子を報告していた.これらは,アウトカ ムとプロセスの方法,研究介入へのカルテの要約,カルテ要約作成者が介入方法について盲検化されていない点,医療従事 者については調整できたがケアマネージャーについては調整できなかったことの自己報告を含んでいる.研究デザインもし くは結果の分析によってこれらの影響を最小限にするような記述を,制限の項に含めるべきである.さらに,認識されてい た要因が,記述された介入の影響が人為的に増加する,もしくは減少するという形で,どのように研究方法に潜在的に影響 380 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 を及ぼし得るのかを制限の項に含めるべきである. この項では,なぜ今回この研究デザインが選ばれ,そして研究の枠組みが実際の臨床を反映しているのかどうかを検証 すべきである.この例の著者らは,患者の逆淘汰を減らすため,また慢性ケアモデルに基づく実践をより反映するために, 一地域の複数のヘルスケア組織を対象としたをデザインを選択していたと述べている.この研究デザインは複数のケア提 供組織を取り入れたケア計画を立てる人には役立つだろうが,今回提示されている介入方法を単一のケア提供拠点で実行 することに関心のある医療従事者にとっては役立たないかもしれない. この特定の研究は無作為化臨床試験であるが,介入群とコントロール群を同様にするために,多数の選定基準や除外基 準多数を使用した典型的なデザインだった.これは異なった研究集団(もしくはこの例では異なる臨床拠点)から交絡バ イアスや選択バイアスを減らすことにより,研究の内的妥当性を改善するかもしれないが,研究で検討された集団や診療 拠点は,実際の臨床的ケアの場に存在する様々な診療方法,医療提供者,もしくは患者とは異なっているかもしれないので, 研究の外的妥当性もしくは一般化の可能性は損なわれるかも知れない. 最後に,制限の項では,一般化の可能性に影響を及ぼすかもしれない状況(環境)と患者集団の特定の因子を明確にす るべきである.質改善のための介入が成功するかどうかは,その背景次第である.それゆえ,患者集団,プロバイダー, 地理的なセッティングのユニークな特性や特徴を同定しておくことは極めて重要である.どのような環境で介入が行われ たかを明確に理解することは,研究で記述された介入方法を自身がおかれた環境と患者集団に適用しようとする読者に とって重要である.著者らは,本研究で対象となった医療従事者と医療環境が,認知症患者のケアする多くの他の取り組 みと異なっている可能性の高いことを指摘することで,今回対象となった患者集団はこの国の他の患者集団の代表とはな りえないであろうことを指摘している.この乖離の影響は,研究結果に影響を及ぼす可能性のある医療従事者とその実践 の環境についてさらなる情報を追加することにより緩和されることができた 42). 17. 解釈 a. 予期した結果と実際の結果が食い違った理由が何かを調べる. b. 特に,介入の有効性(ないしはその欠如)と介入が最も有効となりそうな環境を決めるのに役立つ介入要因と背景 因子に注意を払いつつ,因果関係と観察された変化について,効果の大きさを上手く説明する推論を提示する. c. 将来のパフォーマンス改善のために変更すべきステップを示唆する. d. 介入の機会費用と実際の経済的コストに関する課題を概括する. 例 我々の病院で,小児 ICU 外での病院内死亡率および院内心肺蘇生コール発動率が他の小児病院と比較し低下したこ とについては,2つの理由が考えられる.第 1 に,LPCH(ルシルパッカード小児病院)は特に入院中小児の特にハ イリスクの集団の診療の役割を果たしている.その結果,LPCH は内科,外科病棟の心肺蘇生コール発動率は,リス クの低いケースが混合している病院よりも高い割合であると推測する.なぜこの研究は RRT(rapid response team) の基準を満たした患者を含む場合のみに,死亡率と心肺蘇生コール発動率にかなりの改善がみられるとわかったのか, そしてなぜ Brilli らの研究は片側検定を使用した時のみ 1000 患者あたりのコード率においてかなりの減少を見つけ たのかについては,患者層の構成の違いで説明できそうである.第 2 に,我々が改善した結果を得られたのは,我々 の介入後期間はメルボルン(12 カ月)とシンシナティ(8 カ月)両方と比較してかなり長かったことによって説明可 能である. これらの改善した結果はレジデント医師,ナースとその他のスタッフが変わっていくにもかかわらず続いており, これはキャンペーンに関連した教育よりもチームの方が,改善の原因として可能性がより高いことを示唆している. この説明は,IHI によって示唆されている有効閾値を下回っていた(1000 人退院あたり 20 ∼ 25 コール)19 カ月の 介入期間の間,RRT コールが減少していたことによって支持されている. RRT 以外の方略でも,急変の早期に患者を識別し,反応することで,RRT と同程度の効果を得ることが可能であっ た.例えば,ICU 以外での心肺蘇生コール発動を減らす 1 つの可能性のある方略として,Winters らによって提案さ れたホスピタリストの統合がある.我々は地方レベルでのホスピタリストの介入を評価するよい立場にある.なぜな ら我々は RRT が遵守される以前より内科,外科病棟のホスピタリストサービスを 26 カ月(2003 年 7 月)から導入 しているからである.その効果の発現までには時間がかかることはないと仮定すると,ホスピタリストサービスの導 資料 6 381 資料 6 入は,多数の理由により有益であるかもしれないが,ICU 以外での死亡率,心肺蘇生コール発動率どちらにも影響を 及ぼさなかった. 今後の研究においては,今回の検討とは異なる小児医療の環境,例えば大部分は主に成人が入院しているが同時に小 児医療も行われている医療機関,RRT を機能させるために効果的な方法を開発しつつある医療機関,この介入の費用 対効果を評価している医療機関などで,今回得られた効果が再現されるかどうかを検討すべきである. LPCH では,RRT プログラムは介入最初の 19 カ月間,コールに必要であった対応時間の割り付けに基づく決定に より,スタッフ増員のために追加の出資はしないで計画され,実行された 42). 解説 質改善の典型的なプロジェクトは,介入とアウトカム両方の関係を認識することに焦点を置く.結果の特性と程度の変化 は理論上,研究,もしくはこれまでの質改善を目指した研究によって生じているかもしれず,普通は,論文の導入部分に記 載されている(項目 5: 改善目標,項目 6 研究課題) . もし実際の結果が予期していた結果や上記の例のように結果が他の出版されている研究結果と異なっていた場合には,ど のような要因のために予想したような結果が得られなかったかについて議論し,解釈として含むべきである.質改善の研究 では説明はこれらの違いの要因となった状況因子も含むべきである. 解釈の部分では,得られた結果が実践へ何を示唆しているか記載することによって,先に結果の部分で報告された情報に ついて詳しく述べるべきである.結果の統計学的な違いを述べるだけでは説明としては不十分であり, 得られた結果が内的・ 外的に示唆することについて議論を展開すべきである.例として,本研究で展開されたホスピタリストに関しての議論のよ うな,競合する理論や,結果の他の要因について検討すべきである.様々な介入,および介入に影響を与えうる背景因子と の間の複雑な関係については,これも記載をしておくべきである. 解釈はしばしば「教訓として学んだこと」 ,観察内容,他機構で介入を実施することへの示唆も含まれる.これには以下 も含まれる. ・介入実施を試みる前に整っているべき背景,文化的要素 ・実施のためのステップの一連の流れ ・介入の適応の可能性 ・所見を補強,あるいは強調するさらなる研究 例は rapid response teams の今後取りうる方向性についての記述も含んでいる.このような記述は,読み手が今回の所 見がどこで適用可能か,あるいは適用できないかを認識するのに役立ち,結果が得られた背景を理解することに役立つ. 最後に,介入に関連した業務実務的な事柄に関する記載は,読者がこの介入を適用するかどうかの判断の際に有用である. 一つの方法は,上述の例のように報告されている研究と関連した資源と費用の情報を記述することである.著者らは深い経 済分析のために必要とされている複雑性とその詳細について認識しておくべきである.臨床試験の費用効果研究の ISPOR RCR-CEA ガイドラインは役立つかもしれない 43). 18. 結論 a. 介入の全般的実際的有用性について考察する. b. この報告が将来の改善介入についての研究に与える影響について示唆する. 例 10 施設でのパイロット研究にて DMP(Discharge Medication Program:退院時投薬プログラム)が十分に実行可 能であることと,退院時投薬のガイドラインでの高いアドヒアランスにおける成功を示した後,IHC(山間部ヘルスケ ア機構)はそのシステムの全病院 21 施設を含むプログラムに拡大した.DMP は今や心血管系投薬ガイドラインで高 いアドヒアランスを保っている統合されたプログラムである.10 施設以内での DMP の実行には追加の従業員は必要 なかった.既存の病院の情報システムに病院運営上の最低限の費用を投下するのみでアドヒアランスの観察は可能で あった.以上により我々は,潜在的に救われる命の数から考えれば必要とするコストは相対的に低いと考えており,こ れは特に薬剤溶出性ステントのような心血管系治療の最近の進歩と比較した場合に最も著明である. 382 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 診断が心血管系の場合のみ患者登録されているため DMP の包括性も実際には限界がある.例として,心血管系の患 者が大腿骨頸部骨折のような他の疾患名で病院に入院した場合,DMP は患者の退院時投薬に影響を及ぼさないであろ う.したがってこの DMP は,心血管系疾患の二次的診断で入院した患者全てを含むように範囲を拡大したとしても適 用可能と考えられる. 我々の研究では,心血管系疾患と診断された入院患者の退院時投の適正使用を強化するための比較的単純な質的改善 プロジェクトには実現性があり,多施設統合システムでの大規模なものでも維持することができることを明示した.最 も重要なのは,我々の発見が,統合された病院群での幅広いシステムを通じて長期間の救命効果があり得ることを示唆 していたことである 44). 解説 質改善論文の結論部分では,プロジェクトから得られた知見を要約し,さらなる研究のための潜在的な次の段階について 詳細に述べるべきである.どのようにしてプロジェクトの成功が維持され,広がっていくのかも述べなければならない.上 記の例で著者たちは,改善プログラムは病院システム内の他の施設に拡大されていったこと,改善の度合いは心血管系ガイ ドラインのアドヒアランス率を通して観察された,といった情報を提示している.これは同機構内での一般化の例である. 結論では,地方の事情が他の臨床地域にとってどのような意味を持つかについても述べなければならない.改善を維持す るのには何が必要か,もしくは他の臨床セッティングでの改善のための介入を試すのに何が必要か,についての考察が読者 にとって役立つ.最後に,次のステップへの可能性を示唆することも有用である.この例では著者たちは介入から恩恵を受 けうる他の患者層の存在を示唆している.結論の目標は,特定の地域においてプロジェクトが示したことを要約することば かりではなく,この介入を他の特定の臨床のセッティングで適用することを考えている読み手に何らかの見識を与えること である. この研究で答えが出ていない重症な質問は何か?」「これらの質問の答えるために最も有用である研究は何か? なぜそ うなのか?」について著者が考察することも重要である. 19. 資金 資金源があれば記述し,研究の企画,実施,解釈,出版における資金提供機関の役割についても記述する. 例 資金源の役割 この研究は米国退役軍人局(Veterans Integrates Service Network[VISN]implementation grant),臨床研究拠点セ ンター,患者健康管理センターによって資金援助されていた.研究責任者と共同研究者は全データにアクセス可能であ り,研究プロトコール,統計解析計画,研究進捗状況,分析,研究報告,論文の出版決定権があった.米国退役軍人局 の VISN9 は原稿を提出する前にコメントする機会があった 17). 解説 質改善のための出資は多くの財源からなされているかもしれない.地方の施設,共同で参加している機構グループ,政府 の資金援助機構,第 3 者組織の場合さえもある.資金源の説明は上記の例のように簡潔であってもよいが,プロジェクトで どのメンバーが財政的な出資金を有していたかについて読み手が十分理解できるように示すべきである.この例では VISN 9 内の地域の VA 指導者が論文にコメントする機会があるということも明確に示している.出資の関与の度合いと同様に, 資金源について透明性をもって示すことは,結果の解釈の助けとなる. 資金源についてどの程度明瞭・明快に示しているかは,近年の研究において産業から資金提供を受けている場合の著者ら の役割に対して疑問が投げかけられていることを考慮すると,極めて重要である 45). コメント ガイドラインは,プロジェクトの達成と,その結果の公刊の間の重要な懸け橋の役割を果たす.CONSORT 1)2) と STARD が無作為化比較試験と診断精度試験の報告のためのガイドラインを示したのと同様に,SQUIRE ガイドラインは 3) 資料 6 383 資料 6 質改善の報告のための構造を示した.ガイドライン自体が簡潔なため,この E&E ドキュメントは構造の詳細に関してさら なる特異的な情報を示している. あなた方がこれらのガイドラインと E&E ドキュメントを読み,使用するときにこのガイドライン中のそれぞれの項 目(個々の例やガイドラインもしくは E&E ドキュメント全体)ついての質問やコメントがあるかもしれない.私たちは SQUIRE ガイドラインの実行と評価に関して, この E&E を, 対話を続けていくための開始点としている.ぜひ私たちのウェ ブサイトにアクセスしていただきたい.www.squire-statement.org. ウェブサイトにはガイドラインの完全版,簡略版,ガ イドライン中と E&E ドキュメントの用語集を掲載している.ガイドラインの個々の箇所とガイドライン全体についてモデ レータ付きで,スレッド化されており,議論を容易にするようなデザインとなっている.もしあなたが SQUIRE ガイドラ インを明確に支持しないジャーナルに記事を提出しようとしているならば,編集者と査読者たちに,これらのガイドライン に精通するように言及することを奨励している. 計画,実行,分析,質改善のための報告は発展し続ける.この E & E ドキュメントは行動,研究,QI のための業績の報 告に関連した多くの重要かつ微妙な問題を描き出す助けとなるような,現存の例のスナップショットを提示している.理想 的には,SQUIRE ガイドラインが質改善コミュニティに幅広く使用されるようになる頃には,今後数カ月,数年のうちに これらの例は多くの追加例にとって代わられるだろう. SQURIRE ガイドラインと E&E ドキュメントについてのさらなる情報は www.squire-statement.org にアクセスしてい ただきたい. ・E&E ドキュメントの電子完成版 ・E&E の各節のハイパーリンク ・それぞれの節,E&E 全体のコメント,フィードバック ・さらなるリソースへのリンク ・SQUIRE ガイドラインについての最新情報 ・SQUIRE ガイドライン著者への質問,コメントのために連絡を取る 著者の所属: 1 Quality Literature Program, The Dartmouth Institute for Health Policy and Clinical Practice; Office of Research and Innovation in Medical Education, Dartmouth Medical School, Hanover, New Hampshire, and White River Junction VA Hospital, White River Junction, Vermont, USA; 2 Alice Peck Day Memorial Hospital, Lebanon, New Hampshire, USA; General Internal Medicine; VA National Quality Scholars Program, Birmingham VA Medical Center, University 3 of Alabama at Birmingham, Birmingham, Alabama, USA; 4 Dartmouth Hitchcock Leadership and Preventive Medicine Residency, Obstetrics and Gynecology and Community and Family Medicine, Dartmouth Hitchcock Medical Center, Lebanon, New Hampshire, USA; Massachusetts, USA; 6 USA; Institute for Healthcare Improvement (IHI), Harvard Medical School, Boston, University of Missouri Health Care, School of Medicine, University of Missouri-Columbia, Columbia, Missouri, USA; 8 5 7 General Internal Medicine, Vanderbilt University Medical Center, Nashville, Tennessee, Departments of Medicine and Community and Family Medicine, Dartmouth Medical School, Hanover, New Hampshire, USA; 9 VA National Center for Patient Safety Field Office, White River Junction, Vermont, and Dartmouth Medical School, Hanover, New Hampshire, USA; River Junction, Vermont, USA; 11 10 Field Office of VHA's National Center for Patient Safety, White Rural Ethics Initiatives, Dartmouth Institute for Health Policy and Clinical Practice, Dartmouth Medical School, Hanover, New Hampshire, USA; 12 Departments of Anesthesiology and Critical Care, Surgery, and Health Policy and Management, Center for Innovations in Quality Patient Care, Quality and Safety Research Group, The Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA; in Process Improvement, Austin, Texas, USA; 14 13 Associates VA Greater Los Angeles and University of California Los Angeles, VA HSRD Center of Excellence for the Study of Healthcare Provider Behavior, RAND, VA Greater Los Angeles at 384 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 Sepulveda, North Hills, California, USA; System, Nashville, Tennessee, USA; 16 15 Vanderbilt University School of Medicine, VA Tennessee Valley Healthcare VA National Quality Scholars Fellowship Program, The Dartmouth Institute for Health Policy and Clinical Practice, Dartmouth Medical School, Hanover, New Hampshire, USA; and Society Medical School, Framlington Place, Newcastle upon Tyne, UK; 18 17 Institute of Health Emergency Department, Louis Stokes Cleveland DVAMC, Case Western Reserve University SOM, Cleveland, Ohio, USA; 19 Inpatient Quality Improvement, Department of Medicine, Louis Stokes Cleveland VA Medical Center, Cleveland, Ohio, USA 謝辞: 本稿作成に多大なる援助を頂いた Leslie Walker に心から感謝します. 資金源: 本稿の作成に当たっては Robert Wood Johnson 財団からの研究費で援助されており,米国バーモント州の White River Junction にある White River Junction VA Hospital の施設と資材を用いた. 利益相反申告 : なし 引用文献 REFERENCES 1) Boutron I, Moher D, Altman D, et al. Extending the CONSORT statement to randomized trials of nonpharmacologic treatment: explanation and elaboration. Ann Intern Med 2008;148:295–309. 2) Moher D, Schulz K, Altman D, et al. The CONSORT statement: revised recommendations for improving the quality of reports of parallel-group randomized trials. Ann Intern Med 2001;134:657–62. 3) Bossuyt P, Reitsma J, Bruns D, et al. Standards for reporting of diagnostic accuracy. toward complete and accurate reporting of studies of diagnostic accuracy: the STARD initiative. Standards for reporting of diagnostic accuracy. Clin Chem 2003;49:1–6. 4) Von Elm E, Altman D, Egger M, et al. The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology (STROBE) statement: guidelines for reporting observational studies. Ann Intern Med 2007;147:573–7. 5) Moher D, Cook D, Eastwood S, et al. Improving the quality of reports of metaanalyses of randomised controlled trials: the QUOROM statement. Lancet 1999;354:1896–900. 6) Stroup D, Berlin J, Morton S, et al. Meta-analysis of observational studies in epidemiology: a proposal for reporting. Meta-analysis Of Observational Studies in Epidemiology (MOOSE) group. JAMA 2000;283:2008–12. 7) Moss F, Thompson R. A new structure for quality improvement reports. Qual Health Care 1999;8:76. 8) Thomson RG, Moss FM. QIR and SQUIRE: continuum of reporting guidelines for scholarly reports in healthcare improvement. Qual Saf Health Care 2008;17(Suppl 1):i10–i12. 9) Davidoff F, Batalden P. Toward stronger evidence on quality improvement. Draft publication guidelines: the beginning of a consensus project. Qual Saf Health Care 2005;14:319–25. 10) Auerbach A, Landefeld C, Shojania K. The Tension between Needing to Improve Care and Knowing How to Do It. N Engl J Med 2007;357:608–13. 11) Berwick D. The science of improvement. JAMA 2008;299:1182–4. 12) Davidoff F, Batalden P, Stevens D, et al. Publication guidelines for quality improvement in health care: evolution of the SQUIRE project. Qual Saf Health Care 2008;17(Suppl 1):i3–i9. 13) Williams J, Holleman D, Samsa G, et al. Randomized controlled trial of 3 vs 10 days of trimethoprim/ sulfamethoxazole for acute maxillary sinusitis. JAMA 1995;273:1015–21. 14) Rennie D. Reporting randomized controlled trials: an experiment and a call for responses from readers. JAMA 1995;273:1054–5. 15) Watts BV, Shiner B, Pomerantz A, et al. Outcomes of a quality improvement project integrating mental health into primary care. Qual Saf Health Care 2007;16:378–81. 16) Mercier CE, Barry SE, Paul K, et al. Improving newborn preventive services at the birth hospitalization: a collaborative, hospital-based quality-improvement project. Pediatrics 2007;120:481–8. 17) Roumie CL, Elasy TA, Greevy R, et al. Improving blood pressure control through provider education, provider 資料 6 385 資料 6 alerts, and patient education: a cluster randomized trial. Ann Intern Med 2006;145:165–75. 18) Taitz J, Wyeth B, Lennon R, et al. Effect of the introduction of lumbar-puncture sticker and teaching manikin on junior staff documentation and performance of paedeatric lumbar punctures. Qual Saf Health Care 2006;15:325–8. 19) Offner PJ, Heit J, Roberts R. Implementation of a rapid response team decreases cardiac arrest outside of the intensive care unit. J Trauma 2007;62:1223–7; discussion 1227–8. 20) Harper D. The Online Etymology Dictionary, 2001. 21) Pawson R, Greenhalgh T, Harvey G, et al. Realist review̶a new method of systematic review designed for complex policy interventions. J Health Serv Res Policy 2005;10(suppl 1):21–34. 22) Ball JE, Osbourne J, Jowett S, et al. Quality improvement programme to achieve acceptable colonoscopy completion rates: prospective before and after study. BMJ 2004;329:665–7. 23) Wall RJ, Ely EW, Elasy TA, et al. Using real time process measurements to reduce catheter related bloodstream infections in the intensive care unit. Qual Saf Health Care 2005;14:295–302. 24) Elkhuizen SG, Das SF, Bakker PJ, et al. Using computer simulation to reduce access time for outpatient departments. Qual Saf Health Care 2007;16:382–6. 25) Loeb M, Carusone S, Goeree R. Effect of a clinical pathway to reduce hospitalizations in nursing home residents with pneumonia. JAMA 2007;295:2303–10. 26) Mooney SE, Ogrinc G, Steadman W. Improving emergency caesarean delivery response times at a rural community hospital. Qual Saf Health Care 2007;16:60–6. 27) Lynn J, Baily M, Bottrell M. The ethics of using quality improvement methods in health care. Ann Intern Med 2007;146:666–73. 28) Protection of Human Subjects, 2000. 29) Nelson W, Gardent P. Ethics and quality improvement. Quality care and ethical principles cannot be separatedwhen considering quality improvement activities. Healthc Exec 2008;23:40–1. 30) Meredith L, Mendel P, Pearson M. Implementation and maintenance of quality improvement for treating depression in primary care. Psychiatr Serv 2006;57:48–55. 31) Pronovost P, Needham D, Berenholtz S, et al. An intervention to decrease catheterrelated bloodstream infections in the ICU. N Engl J Med 2006;355:2725–32. 32) Berenholtz SM, Pronovost PJ, Lipsett PA, et al. Eliminating catheter-related bloodstream infections in the intensive care unit. Crit Care Med 2004;32:2014–20. 33) Kiefe CI, Allison JJ, Williams OD, et al. Improving quality improvement using achievable benchmarks for physician feedback: a randomized controlled trial. JAMA 2001;285:2871–9. 34) Schouten JA, Hulscher ME, Natsch S, et al. Barriers to optimal antibiotic use for community-acquired pneumonia at hospitals: a qualitative study. Qual Saf Health Care 2007;16:143–9. 35) Kurian BT, Ray WA, Arbogast PG, et al. Effect of regulatory warnings on antidepressant prescribing for children and adolescents. Arch Pediatr Adolesc Med 2007;161:690–6. 36) Taylor CR, Hepworth JT, Buerhaus PI, et al. Effect of crew resource management on diabetes care and patient outcomes in an inner-city primary care clinic. Qual Saf Health Care 2007;16:244–7. 37) Egger M, Juni P, Bartlett C, for the CONSORT Group. Value of flow diagrams in reports of randomized controlled trials. JAMA 2001;285:1996–9. 38) Glasgow RE, Emmons KM. How can we increase translation of research into practice? Types of evidence needed. Ann Rev Public Health 2007;28:413–33. 39) Bechtold M, Scott S, Nelson K, et al. Educational quality improvement report: Outcomes from a revised morbidity and mortality format that emphasized patient safety. Qual Saf Health Care 2007;16:422–7. 40) Shah S, Peat JK, Mazurski EJ, et al. Effect of peer led programme for asthma education in adolescents: cluster randomised controlled trial. BMJ 2001;322:583–5. 386 医療の質 ・ 安全学会誌 Vol.5 No.4 (2010) 資料 6 41) Vickrey BG, Mittman BS, Connor KI, et al. The effect of a disease management intervention on quality and outcomes of dementia care: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med 2006;145:713–26. 42) Sharek PJ, Parast LM, Leong K, et al. Effect of a rapid response team on hospitalwide mortality and code rates outside the ICU in a children’s hospital. JAMA 2007;298:2267–74. 43) Ramsey S, Willke R, Briggs A, et al. Good research practices for cost-effectiveness analysis alongside clinical trials: the ISPOR RCT-CEA Task Force Report. Value Health 2005;8:521–33. 44) Lappe JM, Muhlestein JB, Lappe DL, et al. Improvements in 1-year cardiovascular clinical outcomes associated with a hospital-based discharge medication program. Ann Intern Med 2004;141:446–53. 45) Ross J, Hill K, Egilman D, et al. Guest authorship and ghostwriting in publications related to rofecoxib: a case study of industry documents from rofecoxib litigation. JAMA 2008;299:1800–12. 資料 6 387