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第2章後半 - 永平寺町

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第2章後半 - 永平寺町
25
図 2-17 町内から望見できる山地の典型的遠望景観
2-4 九頭竜川の河川環境と景観特性
(注)
九頭竜川 river can ホームページ
(1)九頭竜川流域の特性(注)
ア)日本の河川は欧米のそれと比較して「長さが短くて流れが急」つまり勾配が大
きい点である。このため大雨が降るとすぐ水かさが増し洪水になる。九頭竜川は一
級河川(109 水系)のうち流域面積では 20 番目、幹川流路延長では 40 番目である。
流路延長あたり流域面積が大きい。それだけ九頭竜川の恩恵をうけている地域が広
く、坂井平野に及んでいる。
イ)九頭竜川流域は地下水が豊富で地下水の湧き出る「清水」が各所に多くあり、
かつて飲み水や生活用水に活用されてきた。永平寺町内では、越前竹原弁財天の水、
浄法寺山清水小場がある。
ウ)九頭竜川は、天井川といわれ、宅地の地盤高より河川の高水位が高い位置にある。
(2)河川環境の特性
九頭竜川中流域とは、「ほぼ勝山橋あたりから福井市に入って九頭竜川最後の瀬
にあたる中角橋あたりまで」を指すといわれるが、永平寺町はその中流域にすっぽ
り入る。その中でも上流部と下流部とで河川環境の差異が大きい。その特徴を浮き
彫りにするため、便宜的に町域を上・中・下の 3 ゾーンに区分して比較した(表 2-3)。
主な特徴を記す。ア)九頭竜川の幅員は、福松大橋付近で約 460 mもあるが、上流の小舟渡
橋付近では 220 mと約半分になる。
イ)地形構造は、鳴鹿大堰の下流
表 2-3 九頭竜川の町域 3 区分毎の河川環境
では松岡市街地をのぞき五領地区
などの扇状地が広範に広がる一
方、上流部は志比地溝の谷底平野
にあたり、扇状地、自然堤防等の
複雑な地形から成っている。
ウ)流量は、平水流量(1 年を通
じて日流量を大きい方から小さい
順に並べ替えて算出し 185 日を下
回らない流量)の比率は、下ゾー
ン:100 に 対 し 中 ゾ ー ン:142、
上ゾーン:159 となっている。鳴
鹿大堰上流と同下流とでは 1.4 ~
1.6 倍の流量の開きがあり、この
差分(約 30㎥)が農業用水等に
活用されている。
3観測点における流量(豊水、
平水、低水、渇水、平均)の推移
(2000 年~ 2007 年)、月合計流量
26
注)豊水・平水・低水・渇水流量は、1年を通じて日流量を大きい方から小さい順に並び替えて算出し、それぞれ次の
ように示している。豊水流量は一年を通じて95日はこれを下回らない流量をいう。以下、平水流量は185日、低水流量
は275日、渇水は355日を下回らない流量をいう。流量データは、年平均m3/s、2000∼2007年平均を示す。
(2007 年)、月平均流量(同)、月平均推移(同)を図 2-19 ①〜⑤、図 2-20 ①〜③に
示した。
図 2-19 九頭竜川の流量の推移(2000 年〜 2007 年)(流量単位:㎥ /s、水位:m)
図 2-20 九頭竜川の流量 9 月の変動(2007 年)
(流量単位:㎥ /s、水位:m)
(出所) 国土交通省近畿地方整備局福井国道河川事務所データをもとに作成
(出所) 国土交通省近畿地方整備局福井国道河川事務所データをもとに作成
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(3)河川景観
河川景観は上流部から下流部にかけて、視点場の位置、眺めの方向(視線、視野)
により実に多様である。一般的には河川景観の眺めは以下の4タイプに整理されて
(注)篠原修編「景観用語事典」
彰国社、1988 年
いる。(注)
①流軸景(川の流れの方向に沿っての眺め)
②対岸景(川の流れの方向とはほぼ直角に対岸方向を見る眺め)
③水上景(水面上の視点からの眺め)
④俯瞰景(河川空間外の高所から河川を中心とした広い範囲を一望する眺め)
町域における九頭竜川の景観特性を理解するため、先述の便宜的 3 区分を意識し
ながら、河川景観の事例をとりあげる。
1)「流れる水」の表情
「流れる水」の表情は、流れる水の量(流量)と水の流れる水路(河道)によ
り左右される。流量は、洪水期と平常時、また、平常時は、増水期と渇水期によ
り異なる。(先述の表の流量データをあげたのは、このことが確認できる。)
こうした条件は季節や気象状態等の時期により差異が大きい。以下は、景観1
次調査(2006 年 11 月~ 12 月)時でごく普通の河川景観がみられ、水の表情が楽
しむことができる。瀬では流れがあり、水の音が聞こえるようで、いきいきした
表情をみせる。一方淵では、水量も豊富で穏やかな感覚になる。こうした川の表
情をみていると生命を感じさせてくれる学習効果がある(写 2-11)。
写 2-11 流れる水の表情
栃原
吉波
飯島
北島
東古市
飯島
飯島
谷口
2)河岸景観
対岸景の特徴は、とりあげた事例が必ずしも流れに直角方向の画像ばかりでは
ないが、遠景の山地と集落、それに近景の水面、水辺や岸辺で構成されている。
山地の標高は浄法寺山を除いて 600 ~ 800 m程度あるいは、それ以下にあること
から、大きく見上げるほどの仰角ではない。平野部を流れる河川とは異なり、谷
28
部の背景となっている山地との一体感、落ち着きのある景観をみせている。視線
が低い場合の景観では、水辺の自然植生(雑草・雑木)の繁茂状況、水辺の自然
護岸、散歩道等の親水空間としての活用がみられる(写 2-12)。
写 2-12 川の対岸景
栃原・浄法寺山
飯島
光明寺
東古市
谷口・九頭竜川
光明寺
谷口・河川敷
志比堺
3)俯瞰景
写 2-13 九頭竜川鳴鹿大堰下流のデルタ(三角州)から上流にかけての一帯
五領川
北陸自動車道
九頭竜川
①福松大橋
②五松橋
③鳴鹿大堰
④鳴鹿橋
(出所)中村継夫写真集
「 空 の 散 歩、 永 平 寺 町。」
2007 年
(4)橋の景観
九頭竜川にかかる人工構築物としての橋梁は以下の 9 本でこのうち歩行可能な橋
は、北陸自動車道を除く 8 本である。これらの景観
(福松大橋を除く)を写 2-14 にみる。
ア)小舟渡橋(220 m、橋幅 3.45 m、大正 12 年、鉄橋化)
イ)市荒川大橋(284 m、橋幅 8.0 m、昭和 43 年)
ウ)北島鮎大橋(316m、橋幅 8.5m、平成 9 年)
エ)浄法寺橋(202 m、橋幅 3.5m、昭和 41 年)
オ)鳴鹿橋(163 m、昭和 39 年)
カ)鳴鹿大堰(312 m、平成 16 年)注)
注)鳴鹿大堰は、景観を配慮
して、大規模堰では、日本初
の油圧シリンダー直吊り長径
間ローラーゲートを採用(平
成 16 年完成)。
29
キ)五松橋(370 m、昭和 32 年)
ケ)日本道路公団九頭竜川橋(上流川、下流側、455 m、昭和 48 年)
コ)福松大橋(458 m、昭和 49 年)
写 2-14 九頭竜川にかかる橋の景観
小舟渡橋
市荒川大橋
鳴鹿橋
北島鮎大橋
鳴鹿大堰
浄法寺橋
五松橋
(5)橋を視点場とする景観
橋を視点場とする河川景観をみたものが図 2-21、22 である。この中には良好景観とい
えるものと、必ずしも良好とはいえない、つまり課題のある景観もとりあげている。
1)視点場(眺望点)としての卓越性
九頭竜川にかかる橋は位置的条件(天井川のため周りの市街地の地盤高より高
い)、天空の開放性(空が開いていて視界を遮るものがない)の点で、視点場と
して卓越しており、それぞれの立地からの眺望性を活用した景観を愛でる場を位
置づけて積極的に活用する。景観を享受する場、いわば「眺望スポット」として、
日常生活において景観を楽しむ文化を育くむことも大切であると考える。
ただし、橋の上を視点場として成立するには、橋の幅員構成上の問題がある。
最近の橋は歩道が整備されているものの、以前の橋には、歩道がなかったり、あっ
ても狭いケースが少なくない。こうした橋では、視点場として安全性、快適性の
点で問題がある。橋の上ではなくたもと付近のオープンスペースのデザインによ
る活用が課題である。
ア)西部(福松大橋、五松橋)
五 松 橋 付 近 の 視 点 場 で は、「 日 本 海 の 美 し い 夕 陽 」、 九 頭 竜 川 で の「 釣
り 行 為 を 鑑 賞 す る 楽 し み 」( 動 き の あ る 点 景 は ス ポ ー ツ 鑑 賞 と し て の な が
め)、豊かな自然環境の中で楽しむ「釣人の点景」(絵画的味わい)など、「水
と人との関わり等の風景」が楽しむことができる(図 2-20)。
イ)東部(小舟渡橋、北島鮎大橋)
最東部では、白山連峰を眺望でき九頭竜川の水のせせらぎ、流れの変化を感じ
ることができる。
30
ウ)中部(本覚寺・永平寺中学校付近)
本覚寺付近では、独特の淵景観を有しており、この対岸を視点場とする眺望景
観が見どころである。
(6)河川環境をめぐる課題
1)河川敷公園等を親水空間として一層の活用(写 2-15)
河川敷公園で実施される各種イベント(いかだ流し、燈籠ながし)は、町民だ
けでなく県民、県外からの来訪者を迎える、交流機会の場となっているが、今後
も創意工夫により一層その活用を図る。川に近づき、川に親しむ、川面での遊び、
岸辺でのスポーツ、健康づくりを通じて、環境共生の理解、配慮する姿勢が自然と
育っていくであろう。
写 2-15 河川敷公園を利用した各種イベントのとりくみ
松岡河川公園いかだ流し(平成 19 年 6 月) 松岡河川公園ラジオ体操(平成 19 年 8 月)
中島河川公園会場全景(平成 19 年 6 月)
永平寺河川公園大燈籠ながし(平成 19 年 8 月)
2)釣り人などの来訪者と住民とのふれあい・交流(写 2-16)
大公望が来訪後、釣りの「ついで行動」がおこるものである。ちょっとした飲食、
漁具買物等でまちなかを散策する機会があったとき、街なみ魅力との出会い、人々
との接触機会を得ることにより、ふれあい、温もりを感じる。そうした人と人
とのふれあいの機会となる河川と既存市街地とを結ぶルート(歩道等)の確保を
図るのが望まれる。飲食店舗等の利用を通じて住民との交流、ふれあい機会を増
やす、結果的に商業の活性化に結びつく。
注)九頭竜川での鮎釣り客
数、年間平均5万人、漁獲高
平 均 28.5t( 放 流 稚 鮎 H19
12.04t H20 10.4t)
写 2-16 九頭竜川鮎つり
31
32
図 2-21 橋から見た景観
33
図 2-22 河川景観
3)生態系の維持・保全と河川環境
ア)河川を単なる水の流れとして理解するのではなく、河川生態系として把握す
る視点がますます大切になっている。すなわち、川が蛇行し流れのゆるい淵の部分
で各種の付着藻が生成し、この消費者としての水生昆虫・魚類等生き物が育まれて
いる。これらの生き物が水の汚れを吸収する自浄作用をなしている。
九頭竜川中流域では今のところあるべき姿の付着藻群落がみられ、良好な姿を維
持している。
ここで、九頭竜川、永平寺川の水質、水温等を確認しておく。
図 2-23 は、九頭竜川における観測地点 3 ケ所における水質を、図 2-24 は、同水
温を示した。図 2-25 は、永平寺川の水質、水温を示した。
図 2-23 九頭竜川の水質(平成 17 年 4 月〜平成 20 年 1 月)
図 2-24 九頭竜川の水温分布(平成 17 年 4 月〜平成 20 年 1 月)
(出所) 国土交通省近畿地方整備局福井国道河川事務所データをもとに作成
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図 2-25 永平寺川の水質、水温等の推移(平成 13 〜平成 29 年)
(出所) 永平寺町資料をもとに作成
「永平寺川の水質検査結果
イ)永平寺川の水質は(注)、中央処理場放流口下流(永平寺川放流口 80 m付近)(注)
(平成 19 年 9 月)」
では、大腸菌群数(MPN)を除いて、
「生活環境の保全に関する環境基準値」
(環
境庁告示、昭和 46 年)の類型AAレベルであり、
図 2-26 九頭竜川にすむ魚
良好な水質状態にあるといえる。ただし、大腸菌
群数は類型Bである。
また、「農業用水基準(農水省の稲作の正常な生
育のための望ましいかんがい用水の水質の指標)」
に照らすと、9 項目のうち pH および、全窒素の 2
項目は不適合であるが、COD、SS、DO(溶存酸素量)
の適合、これ以外の指標(電気伝導度、ヒ素、亜鉛、
銅)は観測されていない。
ウ)鳴鹿大堰周辺に棲む魚の種類は、54 種類(1989
~ 99 年調査)。サケ、サクラマス、サツキマス、
ウナギ、ヤマメ、アマゴ、ニジマス、ドンコ、コイ
(出所)river can ホームページ
35
等が代表的である(図 2-26)。
図 2-27 九頭竜川鳴鹿大堰の魚道
鳴鹿大堰では、魚の習性や生態を考慮し、河川で
の移動を助けるための水路(魚道)が、両岸に設置
されている(図 2-27)。
エ)ここで、サクラマス(ヤマメ)の生息環境につい
て言及する(写 2-17)。
サクラマス(降海型)は、稚魚が川で 1 年(稀に 2 年)
の生活後、春(3 ~ 5 月)に降海する、さらに海で 1 年
の生活後の春(2 ~ 5 月)に遡河し、上流域で秋(9 ~
10 月)に成熟、産卵する。県域絶滅危惧Ⅱに指定。ヤ
マメ(河川残留型)は、水温 20℃以下にすみ、イワナ
(出所)river can ホームページ
域の下手に分布し、棲み分ける。
サクラマスの生息できる水質環境は、コイ・フナ((BOD5 以下)やアユ・
(福井県レッドデータブックデータ
ベース、福井県自然保護課)
サケ(BOD3 以下)より高い水質が求められ、BOD 値が2以下と低いとされる。
九頭竜川、永平寺川の現状の水質は概ねこの条件に適合している。ただし、
一般的な水質検査の基準は適合しているとしても、季節的にサクラマスの活動
が停滞する時(4月末から5月上旬)があると指摘されていることから、こう
した場合の要因関係の分析も課題であるといえる。
(この時期は田植えのため田
の土を堀り返すため、これに伴い土壌にまじっている農薬の流出も考えられる。)
生育環境の点で、水質以外に物的環境に問題がある。サクラマスは本来、春
に海から生まれた河川に回帰し、秋までに産卵のために河川の上流域の支流へ
遡上するものである。九頭竜川の場合、鳴鹿大堰が遡上を妨げる最初のバリア
となっている。両サイドに「魚道」が付設されているが、その配置や構造はサ
クラマスにとって最適な環境とは言い難い。夏の間は特に魚道を上ることは避
け、「呼び水」の落水部でやり過ごしている。つまり大堰の直下において、高
水温時にかろうじて酸素量が多く、生き延びることができるのはその場所しか
なく、中には夏の間に斃死するものも少なくない。10 月 11 月の増水時には魚
道を上れるものもいるが、永平寺川も遡上する。永平寺川は鳴鹿大堰の下流で
九頭竜川に合わさる支流だが、その一帯を見ると、床固め、護岸、堰、といっ
た土木構造物に加え、サクラマスの産卵には重要な川床の砂礫が土砂で埋まる
など、決して快適な産卵環境とはいえない。
水質の他に、水量と水温も大変重要である(図 2-24、図 2-25 参照)。5 月か
ら 9 月の農繁期は、鳴鹿大堰上流からの農業用水の取水により
下流は極端に減水する。それに加え、伏流水の喪失も見受けら
れ、盛夏の九頭竜川は水温 25℃以上にも達する箇所がある。こ
れはサクラマスだけではなく、アユやアラレガコも含め九頭竜
川に住むすべての生物にとって望ましい環境ではない。加えて
近年の九頭竜川は、魚たちが身を休めるために必要であった深
淵の多くが喪失してしまっている。
36
写 2-17 鳴鹿大堰付近を遡上するサクラマス
以上のように、サクラマスの生息環境は、水質、水量、水温、土木構造物が
関係しているといえる。家庭からの雑排水への対策、工場等事業所からの排水
規制を的確に講じるとともに、河川景観形成上の課題がある。生態系の保全の
観点からすると、河道の自然化、水量確保のための断面デザイン等河川環境の
再整備が課題である。景観計画は眺めに焦点をおくが、その前提として小生物
の生育・生存が可能となる環境の質の確保は、結局景観のきめ細かいデザイン
に帰することになる。
4)河川沿岸からの眺望阻害
山肌がえぐられた景観を目にすると、周りののどかな田園景観の中にあって痛々
しく、また違和感が顕著である(写 2-18)。土石採集場は、山を削るケースだけでなく、
水田の掘削で砂利採集の場合がある。こうした場合、1 年間以上におよぶことにな
るので、景観的課題としては隣接あるいは周辺の住宅地にとって、直接目にふれぬ
ような措置が望まれる。
写 2-18 河川沿岸からの眺望阻害例
美しい川と不釣り合いなコンリートプラント
土砂採取跡地
痛々しい採石場の跡地
田園の中で異様な廃プラント
5)成長する中洲の雑木景観の誘導(コントロール)
鳴鹿大堰での河川の用水調整により同以西は水量が減少、中州での砂州の顕在化、
雑木の繁茂状況が見られる。河川に生息・成育する多様な生物に対して良好な河川
環境の保全が課題といえる(写 2-19)。
河道内の樹木等については景観的には雑木林の様相を呈するが、「人工的な改変
による影響を抑える。洪水流下の阻害となる場合には、鳥類をはじめとした動物な
ど周辺の河川環境への影響を十分に考慮して、伐採・除草・保全等の維持管理を行う」
(注)福井県「九頭竜川流域委員
会資料」平成 15 年
とされている。(注)
写 2-19 中州の雑木景観
下合月
末政
椚
37
2-5 景観農業
(1)農村の景観のとらえる視点
永平寺町の景観を公道からみたとき、視野に入る大きい要素は田園景観といえる。
実際に景観調査によると、ひとつの画像における面積占有率の高い(1、2 位)のは
田園風景が常に一定割合含まれている。これは、見方を変えると、農業振興地域が
(注)農水省パンフレット
「農村の景観を見つめてみ
ませんか ?」
広がっていることを意味する。こうした田園景観は、そこでの耕作状況を反映して
四季折々の変化がみられることである。
農村は、農産物の生産、食料の供給だけでなく、国土保全
や環境・生態系の保全、伝統文化や歴史的施設の伝承、学校
写 2-20 農業景観例
レンゲ米の田(上合月)
教育、憩いや安らぎの場の提供など種々の役割を担っている。
「景観農業」としてとらえる視点は、生産機能的視点という
よりも、農を文化的、精神的(メンタル)な視点からとらえる
発想の転換にあるといえよう。つまり、農山漁村の景観は、見
方次第で以下のようなとらえ方が可能となる(注)
(写 2-20)
。
ア)生産や生活に育まれた景観
イ)自然に馴染み一体となった景観
ウ)地域全体でバランスのとれた景観
麦秋の風景(下合月)
エ)日常生活がかもし出す景観
オ)時間や季節の変化が彩る景観など
いろいろな姿をみせる。
これら景観は、地域の住民のこれまでの生産活動や生活の
積み重ねにより育まれてきたものであり、地域の財産として、
次の世代に伝えていきたい資産である。
(2)農村景観の選定
景観法によると、「景観計画区域と農業振興地域が重複している地域において、
農業生産を維持しつつ、現在の良好な景観を次世代に継承すること」を目的に景観
農業振興地域整備計画がたてられる。
既存の農業振興地域内において、景観との調和のとれた良好な営農条件の確保を
はかるべき区域を指定し、農山漁村地域に特有な景観の保全や創出を図ることがで
きるとされる。
農村景観として、何を守り育てていくかは、当事者の農業関係者、地域住民の意
向を基本に話合い(協議)を通じて対象景観の評価、対象地域の抽出を行っていく
べきものであるが、ここでは、客観的な情報として、農用地の規模と広がりの条件
に着目する。
具体的には、ⅰ)永平寺町の農業振興地域、および農用地の指定状況を把握、ⅱ)
農用地分布のうち一定規模(10ha 以上、農地の集団をエリアとしてみたとき短辺
が最小幅員 150 ~ 200 m)のまとまりのある地域は景観的価値を有すると想定して、
38
農村景観の形成の方向性を考えるときの区域選定の候補とする。
以上の考え方で農村景観の候補となる農用地の分布を示したのが、図 2-28 である。
図 2-28 農業振興地域分布図
2-6 歴史・樹木資源
(1)歴史的町並み
旧勝山街道沿いには、藩政時代の城下町の町並みを彷彿とさせる歴史的建物がみられる。
416 号線の一筋南の春日 1・2 丁目は、松岡藩を興した、松平昌勝によってつくられた城下町の本
町筋(図 2-29)に相当し、伝統的な表構えをもつ町家が点在している。いずれも 2 階の階高が大きく、
ほとんどが大正から昭和期につくられた家屋とみられる。また、416 号線の北側の神明 1 丁目の通り
にも伝統的町家が若干みられる(図 2-30)。
(2)伝統的和風住宅(古民家)
景観1次調査結果から伝統的和風住宅取り出し分布を示した(図 2-31)。
永平寺大工の手(技術)による住宅も少なくない。屋根のそりのある寺院建築風の建物、破風に漆
喰壁と軸組の美しい切妻屋根の建物、風格のある門のある家など古民家の宝庫といえる。
39
図 2-29 松岡城下の絵図〔正徳 4 年(1714 年)〕
(出所)松平宗祀蔵(福井県立図書館保管松平文庫)
図 2-30 旧勝山街道沿いの町家
田辺酒造
40
清水邸
増山邸
黒龍酒造
織物会館
図 2-31 古建築・古民家
東古市
諏訪間
光明寺
市荒川
(3)歴史・樹木景観
歴史(神社、寺院等)および民有地の樹木(林)景観資源としてとらえ、その画
像と位置分布を図 2-32 に示す。この図にとりあげられていない神社、寺院をふくめ
てその立地位置を示した(図 2-33)。同図では、特長のある景観資源から徒歩圏(半
径 300 m)の範囲を円で示した。これは、のちほど計画立案の際の散策路のネットワー
ク検討の条件とするためである。
神社と寺院は、合計 100 件を数えることができたが、そのうち神社が 2/3 の 67 件と
圧倒的に多い。神社を白山神社、八幡神社、日吉神社、その他に区分して図示した。
41
この図から読みとることができる点は、ア)白山信仰の関係から白山神社の分布
が 16 件で神社全体の 1/4 を占めかなり多く、次いで八幡神社といえる。
イ)徒歩圏の円が相互に連なっている地域としては、松岡地区の中心部のほかに東
古市一帯にみられる。一方、上志比地区では、円の連担はあまりみられないものの
各集落内に点在している。
図 2-32 歴史・樹木景観
浄めの滝
42
福島神社のエノキ
九頭竜川左岸のエノ木
図 2-33 歴史・樹木等景観資源分布図
(4)屋敷林分布
1)抽出調査方法
一般宅地における屋敷林を抽出するため、地形図(1/2,500)を使い家屋敷地ごと
に屋敷林の有無を判断した。地図の作成(撮影)年次が、平成 4 年~ 14 年である
ことから、それ以降、建替、敷地整備(駐車場等)の工事に伴い伐採による屋敷林
の滅失等の変化が考えられるが、概ねの傾向はわかる。
具体的には、地図の表示記号によりア)広葉樹、イ)針葉樹、ウ)果樹園、エ)
竹林を抽出した。(なお、公共施設、公園などは対象外とし、神社・寺院仏閣は対
象とした)
次に、その抽出作業結果図(1/2,500)を 1/15,000 の全図に集約化する作業を行った。
2)抽出結果
図 2-34 に示す。これによると、ア)五領地区の各集落では、広葉樹を主とする屋
敷林が比較的残っていること。イ)上志比地区では、広葉樹と一部針葉樹の両者が
見られること。ウ)これに対して旧永平寺町では、屋敷林の分布はやや少ない。こ
れは、敷地規模の関係があり、屋敷林の代わりに庭のある家は多いといえる。
43
図 2-34 屋敷林の分布図
(5)さくら分布
さくらの開花時期(4 月上旬)にあわせて町内
図2-35 さくら立地タイプ別件数
の名所といわれる箇所のさくらの満開の様子を撮
200
る。さくら分布の形態別には、ⅰ)線状分布(堤、
160
並木)、ⅱ)点的分布(神社、邸宅、公共施設等)、
ⅲ)面的分布(公園)、ⅳ)その他として整理した
(図 2-35)。
立地分布的には、松岡地区が町全体の 54%と
180
140
120
松岡地区
100
永平寺地区
80
上志比地区
60
40
20
0
1)
線状分布
2)
点状分布
3)
面的分布
4)
その他
合計
過半、181 箇所と多く、次いで、永平寺地区が
97 箇所、上志比地区は、51 箇所となっている(図 2-36)。
図2-36 さくら立地件数(地区別)
16%
分布形状では、松岡は、線状分布が点状分布と並び多い。永平
松岡地区
永平寺地区
上志比地区
寺地区では、点状分布が多い。上志比は、数は少ないなか、点状
と面的分布が多い(図 2-37、38)。
興行寺のしだれ桜は、枯死寸前のさくらを再生したといわれ
る。線状で長いのは、九頭竜川沿道の鮎街道にみられる。
44
29%
55%
図 2-37 桜分布図(その 1)
図 2-38 桜分布図(その 2)
45
藤巻(興行寺)
県大五領川沿い
五松橋堤防
2-7 本山永平寺に至る沿道景観
本山永平寺に至るルートは、かつては鉄道(旧京福電鉄線)の役割が大きかったが、
運行停止(2000 年)・廃線以降は、車・バス対応の国道 364 号依存となっている。
国道 364 号東古市交差点から本山(山門)までの距離は延長約 7000 m、車で約
15 分程度。景観的な変化は、市街地景観(永平寺口)~田園景觀(諏訪間)~京善(集
落景観)~市野々~荒谷の谷あいを経て標高が少しずつ昇り坂になり、本山永平寺
に至る。この沿道景観を図 2-39 に示す。
図 2-39 国道 364 号沿道景観
46
松岡公園
2-8 門前町景観
本山永平寺の門前町は、本山参拝者の参道に位置し、参拝後は通過型ではなく、
ここで「一息・やすらぎ・ふれあい・思い出(お土産、飲食等)づくり」の滞在空
間になることが期待される。このとき飲食・サービス施設のファサード(建物正面)、
建物外観の魅力性が問われる。ここでは、景観1次調査による画像データを活用し
て建物外観を抽出した。その結果を図 2-40 に示す。
図 2-40 本山永平寺 門前町景観
2-9 屋外広告物景観
屋外広告物についても景観法の対象とされているが、景観 1 次調査で屋外広告物
が画像の対象になるケースは、少ないことから、幹線道路の沿道あるいは交差点等
の結節点付近の画像を撮る。その典型を示したのが図 2-41 である。
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図 2-41 屋外広告物景観
2- 10 ランドマーク
景観上のランドマークになりうる要素をこれまでの景観調査(景観 1 次調査、2
次調査、補完調査)のほか既往資料、文献等を活用して抽出する。
ランドマークとは、巨樹・高木、建物、塔、山地(スカイライン)、歴史的文化財
などで地域において一定の景観的特質を有し、シンボル性、美しさ(美しく見える)、
存在感を有する場合にランドマークになる。
歴史的建物では、本山永平寺の山門、五代杉等、山地では、鷲ヶ岳(鮎街道、福
井から 416 号からの眺望)、松岡古墳群、(松岡・永平寺地区からみた存在感)、建
物では県立大学高層棟(北陸自動車道路からみたランドマーク)、巨樹高木として
は、エノキ(永平寺川の左岸堤防)、芦見峠の一本杉、サクラでは興行寺のしだれ桜、
鮎街道のさくら並木などがあげられる。
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